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作品集その52のそれぞれの拠点の続き物ですのでそちらを先に読まれたほうがいいかもしれません。
また、今回も*によって視点などが変わるのでご了承ください。
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「なあ紫」
魔理沙が何か疑問を抱いたのか紫に問いかける。
「何かしら?」
少し間をおいて紫が返事を返した。
「なんであの時……香霖が居た時にアカオニを探したりしなかったんだ?
もしかしたら近くにいたかもしれない、それに拠点だのなんだの紫らしくないぜ?」
「確かにそうね、あんたなら真っ先にとっ捕まえそうなのに」
レミリアも同じように紫に問いかけた。
それを聞いた紫は軽くため息をつき、説明を始めた。
「いいかしら? たしかにどんな強力な力を持った者でも私一人で捕まえられない事はないわ、だけどあいつは違うの」
「何が違うんだ?」
「力の使い方とかがね、アカオニは自分の能力を最大限に活用して攻めるとかそういう正面突破的なことはしないの。
逆に能力を最小限にとどめ大きな被害を出させる……つまりは頭脳派といったところかしら。
下手に動けばこちらが罠にはめられるのよ。だから更にその裏を読まなくちゃいけないの。
本当は気づいているんでしょう? 貴方も」
紫はレミリアの方に視線を送った。
「そうね、半々といったところかしら」
レミリアはあっさり認めた。
「ん? どういうことだ?」
魔理沙はいまいち話の流れが掴めていないようだ。
「つまりはアカオニ達は今日の夜頃に紅魔館に攻め入る、という事」
「なんで紅魔館なんだ? ほかにも永遠亭とか白玉楼とかあるだろ?」
「確かにそうね、だけど考えて見なさい……よくわからない月の民が住む屋敷、冥界の幽霊屋敷、昔から存在する洋館。
そしてアカオニの目的は幻想郷……これで一番的にされそうなのは昔から何も変わらず存在している紅魔館しかないわ」
「成る程……でもどうするんだ? こんな所にいたらいつ紅魔館が襲われてもわからないだろ?」
「大丈夫、これがあるもの」
紫が取り出したのは黒い長方形に一本棒が突き出たような物体であった。
「何だ? それ?」
「遠隔対話装置、河童製よ。これがあれば同じ物を持った遠くにいる者と話が出来るの」
「ほー、よく見せてくれ」
「だめよ」
「ケチ」
* * * * *
「そろそろだな」
アカオニが壁に掛けてある振り子時計を見た。
その時計は五時半を指していた。
「美味くいくかしらね」
ルーミアが少し不安げに言った。
「大丈夫だろう、ここまで練りこまれた作戦だ、それにこの無線って道具があればすぐに助けを呼べる」
こーりんが手にしていた道具は紫が持っていたものと同類の物であった、だがアメリカ製である。
「こんなので声を飛ばせるとは……外の世界の技術もすごい物よ」
「だが、行き過ぎた科学は幻想を追いやってしまった」
「そう考えるといろいろと複雑ねぇ」
「人間は恐怖を取り除こうと必死になる生物だ、力のなさ故全てを滅ぼす……。
幻想の恐怖がなくなったら次は同じ人間に恐怖するとも知らずに、実に愚かだ」
「愚か……ねぇ」
そして全員が沈黙した。
だが、その沈黙は数分でアカオニによって破られた。
「……いくか」
アカオニが放ったその言葉と同時に四つの穴が展開された。
そして四人は黙って立ち上がり穴へと向かっていった。
そのまま四人は穴に吸い込まれるように消えた。
* * * * *
ザザっというノイズと共に紫が持つ機械から音声が発せられた。
「こちら……掃除5番メイド! 外と館内にアカオニらしき妖怪が突然!」
「そう、解ったわ……一人残らず図書館に避難しなさい。
……すこし予定よりも早いけど行くしかなさそうね」
「紫」
横にいた霊夢が真剣な眼差しで紫に問いかける。
「レミリア達に伝えて頂戴、作戦開始よ」
「わかったわ!」
* * * * *
「さて、作戦開始といったところか」
アカオニが正門に立ち、そう呟いた。
そして前方に向けて妖気を集中し始める。
「手始めにこの門を破壊か……くくく……ぐふ!?」
笑っていたアカオニが突然物凄い衝撃を受け、弾き飛ばされた。
「ぐ……ごほっ……誰だ!」
先ほどまで誰もいなかったはずの門前に仁王立ちする人物がいた。
「だれが勝手に通っていいといったのよ」
それはこの紅魔館の門番、紅 美鈴であった。
「誤算か……まさか貴様を見落とすとはな」
「誤算も何も多分、全面的に間違ってるわよ?」
「何?」
その時、アカオニの持つ通信機に通信が入る。
「アカオニ! どういうことよ! 魔女が2人もいるなんて!」
「こーりんだ! 裏門から魔理沙と霊夢が!」
「とんだ誤算ですな、まさかメイド長なるものが居るとは……これは少し時間が掛かる」
その通信は美鈴の方まで聞こえていた。
「どうやら他の方たちも貴方と同じ現状みたいね」
「貴様ら……この私をはめたな? そうか……紫の仕業か!」
アカオニの拳に力が入り震えだした。
「そう、紫さんの指示よ。貴方のほうが紫さんより下回っていたのよ!」
そして美鈴はアカオニの方に走り出し、その勢いのまま飛び蹴りを放つ。
「こんなもの!」
しかしその飛び蹴りはアカオニに受け止められてしまった。
「まだよ!」
そして片足をつかまれた体制のまま反対の足で素早く蹴りを繰り出す。
しかし、アカオニはその蹴りも腕で受け止める。
「なかなかやるわね、でも!」
美鈴が上体を起し、両腕をアカオニの顔面に押し付けて凝縮した気を放出した。
「何……だと!」
その衝撃でアカオニは弾き飛ばされ木に衝突した。
そして座った体制のまま俯いて動かなくなった。
「私に弾幕以外で勝とうなんて考え事態が誤算なのよ」
美鈴はそう言い残し門の中へと走っていった。
* * * * *
「くぅ……流石に魔女が二人居たら厄介ね」
図書館付近にでたルーミアはパチュリーとアリスの襲撃に遭っていた。
「まさか紫の言ったとおり本当に中にも居たなんてね……」
「そんな事はいいから攻撃の手を緩めないの、逃げられるわよ?」
現在は二人に追われる形でルーミアが館内を飛び回っている所である。
「すばしっこいわね」
「黒くてすばしっこくて金髪……何処かで見たわね」
「いつも見てるじゃないの」
一切攻撃の手を緩めずルーミアを追う二人。
二人が追いつきそうになった時、突然ルーミアが旋回した。
「無駄よ」
つかさずパチュリーがレーザーを放つ。
だが、ルーミアは方向転換し紙一重でそれをかわす。
「上海!」
そのルーミアを追う様にアリスもレーザーを放つ。
「何のつもりかしら……?」
逃げていたのが突然辺りを飛び舞うようになったのにパチュリーは疑問を覚え始めた。
しかし、周囲を見渡した瞬間にその答えが理解できた。
「アリス……攻撃をやめなさい」
「え? なんでよ」
「いいから……」
パチュリーに言われ、なんで? と疑問に思いながらもアリスはしぶしぶ攻撃をやめる。
ルーミアは攻撃が止んだのを確認すると、二人の正面に降り立った。
「ずいぶん早く気づかれちゃったのね……これだから魔女は嫌いなのよ」
ルーミアはウンザリした様子でため息を吐く。
「どういうこと?」
アリスは未だに理解出来ていなかった。
「よく周りを見渡しなさい」
パチュリーがそう答えるとアリスは周囲に目をやる。
「あ」
アリスは声を上げた。
「やっと理解できたのね」
アリスたちのいる部屋は大広間であった。
しかも先ほどの攻撃で部屋の照明の半分以上が破壊されていた。
もともと窓の少ない紅魔館では照明がないとたとえ昼だろうが闇に閉ざされてしまう。
「貴方は暗闇で力を発揮する類ね……」
「大正解、でも今気づいたところでもう手遅れよ。ここはもう殆ど私の世界のようなもの……さぁ、話はお仕舞……逝きなさい」
ルーミアが手を前に突き出すと同時に、暗闇から高圧な弾幕が展開された。
「ちょっと! なによこの弾の量!」
「まずいわね」
暗闇から迫り来る弾幕は到底避けきれる物ではなかった。
「さぁ、どうするのかしら?」
ルーミアは余裕の表情で二人を見ていた。
「アリス、私の盾になりなさい」
「はぁ!? あんた何言ってるのよ!」
「いいから! ……私に策があるのよ……あの妖怪の力が闇ならばそれを照らせば良い事」
「まさか……ロイヤルフレア?」
「そうよ……障壁が破れる前に早くして頂戴」
「まさか私も巻き込まれたりはしないわよね?」
「巻き込まれそうになったらすこしは加減するわ」
「やっぱりね……」
覚悟を決めたのかアリスはパチュリーの前に立ち弾幕を放つ。
「あらあら……その程度じゃ相殺できないわよ?」
ルーミアの言った通り弾幕はアリスの身体をかすめ次々とその身体に傷跡を残していく。
「パチュリー! この弾幕じゃあまり持たない!」
「もう大丈夫よ、私の後ろに隠れなさい」
そしてアリスとパチュリーが入れ替わり、パチュリーが両手を上に伸ばした。
「こんな状況で何をするつもりなのかしら?」
興味深げにルーミアがパチュリーを見る。
だがその余裕は一瞬で崩れ去る事になった。
「そうね、何もかも焼き尽くす事かしら……日符、ロイヤルフレア!」
パチュリーの両手の先に炎の玉が現た。
それは少しずつ膨張を始め、突然何かが吹っ切れたかのように爆発的な膨張を始めた。
「な……何よこれぇ!」
その爆発的な火炎に飲み込まれルーミアの姿は掻き消えた。
闇から発生した弾幕もロイヤルフレアによって一つ残らずかき消され、闇もその強力な日の光に飲み込まれた。
とどまる事をしらないその強力な魔力は壁さえも突き破り外までに達した。
そしてその魔法は弱々しくなっていき、そのまま消えた。
「やった……?」
「えぇ……まともに喰らってたみたいだし……多分……ごほっ」
突然パチュリーがアリスに倒れこみ、咳き込む。
「ちょっと? 大丈夫なの!?」
「大丈夫……少し暴れすぎていつもどおりに戻っただけよ……げほっ」
「いつも通りって……いつもより酷いじゃない」
普段のパチュリーは咳き込むことは良くあったもののここまで苦しそうにする事はなかった。
「魔力をすこし使いすぎただけよ……ごほっ……じきに落ち着くわ」
アリスはそれを聞いて軽くため息を吐いた。
「仕方ないわね……はい」
アリスがパチュリーに背を向けしゃがみ込む。
「何?」
「見て解らない? 負ぶさってあげるって、今のままじゃまともに動けないでしょう?」
「そう……悪いわね……」
「多分図書館まで行けば大丈夫でしょ」
「」
「……」
パチュリーを負ぶさったアリスは図書館を目指し飛び去った。
「うぅ……」
破壊された大広間の瓦礫の下から傷だらけのルーミアが這い出てきた。
「油断しすぎちゃったわね……く……流石にこの怪我はすぐには直らなさそうね……」
ルーミアはよろよろと起き上がり歩き始めた。
その跡には大量の血痕が残されていた……。
* * * * *
「よぅ、香霖……まさかこんなところで出会うなんてな、これが運命ってやつか?」
「はは、運命か……僕には操作された運命としか感じられないんだけど?」
場所は紅魔館の裏門、そこで魔理沙と霊夢の二人とこーりんが鉢合わせしていた。
「すごい偶然ね、ここで会うなんて」
「偶然……僕の感だと偶然じゃなくて君たちが僕を待ち伏せしていたとしか考えられないんだが?」
「おぉ、さっきのと言い見事に当てやがった」
魔理沙はふざけているのか本当に感心しているのか拍手を始めた。
「魔理沙、霊夢……僕は君たちと戦いたくない……」
「そうね……霖之助さんが引いてくれるのなら私も何もしないわ」
「私は何かするかもしれないがな」
「そうか……でも僕は引くわけにはいかないんだよ、この幻想郷の現状を理解してしまったからね」
こーりんはなにやら深刻な顔をしていた。
「現状? どういう事よ」
こーりんは一息ついて語りだした。
「幻想郷は今、間違った方向に進もうとしているらしい。アカオニはそれを正そうとしているみたいなんだ」
「へぇ、で? 具体的にどう間違ってるんだ?」
「え?そ……それは……」
「なんか怪しいわね」
魔理沙と霊夢が戦闘態勢に入った。
「ちょっと待ってくれ!人の話を最後までk……」
「「問答無用」」
凄まじい轟音と共に虹色の閃光と大量の札が飛び舞った。
そしてその弾幕の中心から眩しい光が放たれる。
C A S T O F F!!
「おいでなすったか、もう逃げたりはしないぜ!」
「やだなぁ……あんなのと戦うなんて……」
そして光が止んだ。
「あれ?」
二人は瞬時に状況を理解できなかった。
マスタースパークの爆心地には褌姿のこーりんが居る筈であったが、
そこには誰もいなかった。
「何処にいったんだ?」
「ここだよ」
「きゃ!?」
「うわ!?」
正面に居たはずのこーりんは何故か二人の後ろにいた。
二人は反射的に距離をとった。
「さっきの光で目くらましか……」
「それにしては早すぎよ」
「君たち……忘れたのかい? 僕の脚力を……あのサッカーで猛威をふるった僕の足を!」
「そういえばそうね……ならその足でも追いつかない攻撃をすればいいのよ」
そして霊夢がスペルカードを構えた。
「神霊、夢想封印……瞬!」
宣言とともに霊夢は目にも止まらぬ速さで弾幕を張りつつこーりんに接近する。
「遅い!」
そう言い放ちこーりんは腕を組み、その場から瞬時に移動した。
「流石に早いわね! でも、ただ闇雲に移動すれば逆に避け辛くなるだけよ!」
そう、霊夢は接近したのではなく高速移動しながら弾幕を放っていたのである。
「だが、所詮自機狙いじゃないか! これなら例の⑨でもよけられる!」
直立体制のままジグザグ運動を繰り返し弾幕をかわしていく。
その光景はとても気味が悪いものであった。
「そうね、自機狙いほど軌道が読みやすい弾幕はないわ、でもね……そこに別の物が混ざったらどうなるかしら?」
「別……まさか!」
こーりんの目線の先には既に魔理沙は居なかった。
「どこみてんだ? 上だぜ」
その声に反応しこーりんが空を見上げると、そこにはスペルカードを握った魔理沙の姿があった。
「このスペルはあまり使いたくないんだがな……まぁ出番潰されるよりはましだな、光撃! シュート・ザ・ムーン!」
魔理沙が宣言をすると地上に向けて弾幕と魔方陣が降り注ぐ。
その降り注いだ魔方陣はまるで月を撃つかのようにレーザーとなってまた上空へと上っていく。
その光景は実に神秘的でもあった、だがそのような感傷に浸っている余裕はこーりんには少しもなかった。
「これは……反則じゃないのか!?」
レーザーに動きを制限され、更には全方位から自機狙いの弾幕が迫り来るという悪夢のような状態であった。
「これで終わりよ!」
霊夢がそう叫ぶと今まで静止していた御札がいっせいに動き出した。
それはこーりんをドーム状に囲い、ゆっくりと迫っていく。
「だめだ……流石にこの密度とレーザーの嵐じゃ避けようがない……」
その言葉とは裏腹にこーりんの顔はにやけていた。
だが、弾幕の嵐で霊夢たちにはその顔は見えなかった……。
「ん?」
終わった事を確信した霊夢が何かに気づいた。
霊夢は瞬時に紅魔館の方を見る。
「この感じ……まさか! 魔理沙! いますぐ紅魔館から離れなさい!」
危険を感じた霊夢はすぐさま魔理沙に呼びかけた。
「あー? なんだってー?」
「紅魔館から離れなさいって言ってるのよ!」
一際大きい声で霊夢は叫んだ。
ちゃんと聞こえたのか魔理沙は少しずつ高度を上げ始めた。
そして、霊夢の放った御札がこーりんに直撃しようとしたとき、それは表れた。
「人鬼、未来永劫斬!」
その掛け声が聞こえた瞬間裏門は跡形もなく粉砕し弾幕という弾幕はすべて消え失せた。
「こりゃすごいな……」
上空にいる魔理沙からはスペルカードによる巨大な傷痕がはっきり見えた。
「わるい、たすかったよ」
「何を言うか、助け合ってこその仲間というものだ」
土煙が晴れ、視界が回復するとそこにはもう一人の人物がいた。
魂魄 妖忌であった。
「しかし……これは助かったといえるのかな?」
こーりんの視線の先、裏門にも人影があった。
「こんなに壊してくれちゃって……覚悟は出来ているのかしら?」
頭に青筋を浮かべ両手にナイフを構える咲夜であった。
「これは相当怒ってないか?」
「ぬう……ちと遊びすぎたかのう」
その間にも咲夜はじりじりと歩み寄ってきていた。
「命乞いをするなら今のうちよ? まぁたとえ命乞いしてもねぇ……これだけ破壊してくれたんだもの、殺すだけじゃ済まさないわよ」
薄暗いなか浮かび上がる真っ赤な瞳はもはや妖怪のそれであった。
「こ……こえぇ! どうする!? 霊夢! 今じゃ私たちでさえ巻き込まれかねないぞ!」
「多分このぐらい離れていれば大丈夫でしょ」
いつの間にか霊夢と魔理沙はその場からかなり遠ざかっていた。
「仕方ない、古来より伝わるあの戦法を取るしかないのう……現状でこれと戦うのは無意味でしかない」
「あの戦法? ……そうか、それが一番合理的だな」
「何をさっきから喋っているのかしら?」
こーりんと妖忌が話し合っている間も少しずつ咲夜は接近していた。
「よし! ここは僕が隙を作る……それと同時に一気にぬければ!」
「任せた」
「さあ! 行くわよ!」
咲夜が攻撃態勢に入ったその時、こーりんが明後日の方向を指差し叫んだ。
「あ! あそこでれみりゃが泣いているぞ!」
「え? 嘘!? 何処!? そんなのに引っかかるわけないでしょう! ……て!」
言っている事は滅茶苦茶であったが引っかかってしまった様である。
再びこーりんの方に向き返ったとき、既に誰もいなかった。
「うまく行った!」
「このまま集合場所へ急ぐぞ!」
「それは地獄の事かしら?」
裏門のあったところから館内に進入を図ったこーりんと妖忌であったが、目の前に突然咲夜が現れた。
「やはり……時を止められる限りは無理か」
「やるしか無いのう……」
咲夜から逃げる事を諦めた二人は攻撃の態勢に入る。
「もうこの時間と空間は私の物、そのなk「咲夜さ~ん」……」
館の中から現れたのは美鈴であった。
「……あの馬鹿」
呆れ顔で頭を抱える咲夜、その様子に二人は気が抜けてしまった。
「だめだ、少し気が抜けてしまった」
「これも作戦のうちかのう」
美鈴は咲夜の横まで走ると急停止し嬉しそうに咲夜に言った。
「咲夜さん! アカオニを倒しました!」
この言葉が発せられた瞬間全員の表情が一瞬にして引き締まった。
「美鈴! それは本当なの!?」
「はい! 私が気を放って飛ばしたらそのまま動かなくなりました!」
はしゃいでいる美鈴を他所にこーりんは驚きを隠せなかった。
「まさかそんなあっさりとやられてしまうなんて……」
しかしアカオニといえど身体は人間の物である、有得ない話ではなかった。
「……美鈴といったな? 御主、アカオニが本当に死んだのか確認はしたのか?」
唖然としているこーりんとは違い妖忌は冷静であった。
「確認……そういえば……してない」
美鈴がそう答えると同時に壁に穴が開いた。
「これは!? 美鈴! 下がりなさい!」
「え?」
時は既に遅く、美鈴は穴から出てきた衝撃波によって突き飛ばされた。
飛ばされた美鈴は壁に衝突したが、それでも勢いは衰えず反対側の部屋まで飛ばされてしまった。
「美鈴!」
咲夜が呼んだが反応はなかった。
「アカオニか?」
こーりんが穴のほうをみると誰かが出てきた。
「誰がいつ死んだといった、門番風情が」
穴から出てきたのはアカオニだった。
「やはり……」
妖忌はこのことを見抜いていたようだった。
「アカオニ……無事だったのか」
こーりんはすぐさまアカオニに駆け寄った。
「ルーミアから通信があった、負傷して余り動けそうにないそうだ……集合場所は西の大広間に変更だ」
アカオニは咲夜達に聞こえないよう、小声で言った。
「……そうか、わかった、なるべく急ぐよ」
「邪魔さえ入らなければ今すぐにで行くんだがのう」
二人の返事を聞いたアカオニは無言で美鈴が飛ばされた方向へと歩み寄っていく。
しかし、咲夜がナイフを突きつけて止めた。
「待ちなさい、美鈴はもう動けないのよ」
アカオニはにやけた。
「上司に信用されない門番か、悲しいな……そろそろ起き上がったらどうだ?」
その呼びかけに答えるかのように、美鈴は起き上がった。
「美鈴? あなた……」
「成る程、完全に集中して気を練っていたのか」
先ほどとは打って変わって真剣な表情をした美鈴からは、誰でも感じ取れるほどの強い気が常に放出されていた。
「表に出なさい、次は本当に動けなくしてあげるから」
「残念だがそうはいかない、私も行かなければいけない場所があるんだ」
「なら何でちょっかい出してきたのかしら?」
「気に入らない、先ほどのお礼、理由はこれだけだ」
この二人の睨み合いは他の者を圧倒した。
漂う殺気と気迫だけで弱い者は気絶するかもしれないほどであった。
現に咲夜達も言葉を失っていた。
「なら私も気に入らないから貴方をここで潰していいかしら?」
「ああ、潰してみせろ……まぁそれが出来たらの話だがな」
「随分と余裕なのね、まぁ私の本気を見てないから言えるんでしょうけど」
「何だ、門前でやったのが本気じゃなかったのか、これは失敬」
「……」
(こいつ、さっきの感覚といい……気を操れるようになってる!)
「……」
(まさか、な……この私が相手の出方を見る羽目になるとは……口だけではないな)
二人とも沈黙した、だが二人の表情は次第に真剣な物となっていった。
(多分あいつの気は今かなり蓄積されているはず……まともに喰らったら一溜りも無いわ)
(肉眼で見えるほどの気を練っている……これは流石に喰らったらまずいかも知れんな……)
二人とも少しずつ間合いを詰める。
(でも逆に私が最初に一撃入れれば……勝率は一気に高くなるわ)
(最初の一撃……拳で来るか、脚で来るか……何はともあれ勝負は一瞬だな)
物凄く重たい空気の中、アカオニと美鈴は額に汗を浮かべていた。
それを見守る三人は息を呑んだ。
(隙を……一瞬でも隙を見せれば……一撃で……)
(焦りが出てきてるな……私も、あいつも……ちょっとでも目を離せばいけるんだがな……)
かなり緊迫した状況下の中、物音を立てる者は誰もいなかった。
だが、常に放たれている気のせいか天井の一部が崩れ落ちた。
そしてその落下した破片がアカオニと美鈴の間に割り込んだ瞬間……沈黙は破られた。
「「破!!!」」
アカオニと美鈴の最大の気を乗せた拳が衝突した。
二つの莫大な気の衝突は一気に弾け、衝撃波となって当たりを一帯を襲う。
「う……これが美鈴の底力なの!?」
「……すごい衝撃だ!」
「あの二人……なかなかやるのう……さて、ゆくぞ、こうりん殿」
「あぁ、今のうちならいけるはずだ」
咲夜が美鈴とアカオニの戦いに気を取られている隙に、こーりんと妖忌はその場から走り去っていった。
一方アカオニと美鈴は衝撃でそれぞれ反対方向に弾かれていたが、最初に体制を立て直したのは美鈴だった。
美鈴は素早くアカオニ方へ駆けていき、その勢いで飛び蹴りをかます。
「またそれか」
美鈴の飛び蹴りに気付いたアカオニはすぐさま後ろに下がる。
「同じ蹴りだとおもったら大間違いよ」
飛び蹴りの体制から突然静止する美鈴、だが静止した瞬間今までの勢いで大量の弾幕が発射された。
「その程度!」
アカオニは右へ移動し難なく避けた。
「そう来るとおもったわ」
行動を読まれていたのか、右側にはすでに美鈴の姿があった。
美鈴はアカオニとの間合いを即座に詰め回し蹴りを繰り出した、その蹴りはアカオニの腋腹に直撃する。
だがアカオニはその脚を腕で挟み拘束した。
その直後、アカオニの肩の付け根に美鈴の拳が入り、拘束は解かれてしまった。
アカオニは苦し紛れにローキックをかますが、ガードされてしまった。
そして美鈴は右手を突き出した。アカオニはすぐに何か察したのか両腕を前に出し、ガードの体制をとる。
美鈴の右手がアカオニに触れたとき、そこから凄まじい衝撃が発生した。
その衝撃によりアカオニのガードが崩れ、そこに美鈴の振り子突きが襲い掛かる。
だが、アカオニは後ろに飛びのけそれをかわした。
「成る程、気を使ってガードを崩す事も出来るのか」
「あれはたまたまよ、私が狙ったのは貴方の身体の内部への直接攻撃よ」
「ふむ、実にこの気というのは面白い……攻撃や防御……ましてや医術などにも……くくく」
「確かにそうね、でも貴方はそこまで使いこなせるかしら?」
「使いこなすも何も……身体の一部と思えば良いのだ……そうすれば自然に使い方がわかる」
「底が知れないわね!」
そして、美鈴がまた飛び掛った。
* * * * *
「まんまと逃げられたわね」
咲夜は今、紅魔館の中を駆け回っていた。
「不覚ね……他人の戦いに見とれているなんて……ん?」
咲夜の視線の先、廊下の奥には誰かが二人居た。
「たくっ咲夜達はどこいったんだ?」
「案外もう終わってたりして」
「終わってないわよ」
「うわぁ!?」
霊夢と魔理沙の間に突然、咲夜が現れた。
「なんだ、咲夜じゃない、霖之助さんともう一人のお爺さんはどうなったのかしら?」
「逃げられたわ」
「逃げられたって……能力使えばどうにかなるんじゃないのか?」
「居場所が分かればそうしているわよ、何の手がかりもなしに探し回るのは体力の無駄遣いでしかないわ」
「そうね、メイドは皆図書館に避難させてるんだし」
「だな、少し黙れば足音も聞こえそうだな……まぁちょっと黙ってみるか」
そう言い魔理沙が黙ると二人もそれに習って黙り込む。
するとさっきまで聞こえていた音がより大きく聞こえた。
「……轟音でかき消されちゃってるわね」
アカオニと美鈴が暴れまわっている音であった。
咲夜がその場から離れてからもずっと乱闘は続いているようだ。
「何の手がかりもなしね……」
「霊夢の便利レーダーに反応は無いのか?」
「便利レーダーって……あんた人のことなんだと思っているのよ……ん? 咲夜何してるのよ」
「だまって……」
咲夜の言うとおり二人は黙った。
そして二人の表情は一瞬にして変わった。
「伏せなさい!」
「うわ!?」
咲夜たちが伏せた瞬間廊下の壁を突き破り何かが飛んできた。
その何かは反対の壁を粉砕し動きを止めた。
「危なかったわね」
「てて……なんだったんだ?」
「今の……美鈴!」
「美鈴だって?」
飛んで来た者の正体に逸早く気付いたのは咲夜だった。
倒れている美鈴に咲夜が駆け寄ると美鈴はよろよろと起き上がりまた構える。
「何やっているの美鈴! あなたもう!」
「うわ、血まみれじゃないか!」
咲夜達に止められるが美鈴は構えを解かずに少しかすれた声で話し出した。
「咲夜さん……心配は要らないです……それは向こうも同じ……ですから……」
美鈴が見つめる方向、その先には美鈴と同じように血まみれのアカオニが居た。
「貴様……私と死ぬまで戦うつもりか……無駄だぞ……?」
アカオニは口では強がっていたがもはやボロ雑巾の様な状態であった。
「咲夜さん達は……早くあの二人を……私はアカオニ……と決着をつけてから行き……ます」
「でもお前!……な、咲夜!」
咲夜は美鈴を止めようとする魔理沙の腕をつかみ強引に連れて行く。
「ありがとうございます……咲夜さん」
その一言を残し、美鈴は再びアカオニの方へと突っ込んでゆく。
「咲夜! おい! お前あいつがどうなってもいいのかよ!」
「黙りなさい、美鈴は一度言い出したら聞かないのよ……だからね……」
「咲夜……」
魔理沙に言い聞かせる咲夜の表情はとても暗いものであった。
「咲夜! あれ!」
霊夢が見たもの、それはすぐ目の前の廊下を横切るこーりんと妖忌だった。
それも霊夢達に気付いてはいない様子だった。
「追いかけるわよ!」
「ああ!」「ええ!」
霊夢の指示通り咲夜と魔理沙はこーりんたちの後を追いかける。
* * * * *
「妖忌! まだか!?」
「そろそろじゃ!」
廊下を駆ける二人、その先には半壊した扉が見え始めていた。
「あれか!」
「半壊しておるの……ならば、斬るまで!」
妖忌が扉の目の前に差し掛かると目にも止まらぬ速さで刀を振り、扉を木端微塵に斬り裂いた。
切り裂かれた扉を潜ると、そこは崩壊した大広間であった。
その大広間の隅っこには蹲る様にして横たわるルーミアが居た。
すぐさま二人はルーミアの元へと駆け寄っていった。
「ルーミア! 大丈夫か!?」
「なかなか派手にやったみたいだのう」
「う……とりあえずは……大丈夫よ……ただすぐには……動けそうに無い……わ」
ルーミアは苦しそうに呟いた。
「そうか……なら後は時間の問題だな」
「いや、そうでもなさそうですぞ……そこの、隠れとらんで出てきてはどうだ?」
妖忌がそう言うと柱の影から3人現れた。
「もう追いつかれたのか」
「ふむ、3人に増えておったのか」
「そこにもう一人居たのね……まぁ状態から察して追い詰めたという事になるのかしら?」
「観念するなら今のうちだぜ、香霖」
「おじいさんも余り暴れすぎると腰痛めるわよ?」
5人が戦闘態勢をとり沈黙する。
「……む!?」
「……ん!?」
沈黙を破ったのは妖忌と霊夢だった。
「どうしたんだ? ……うお!?」
香霖が妖忌に話しかけた途端、紅魔館全体が物凄い揺れに襲われた。
「これは!?」
「うぉぉぉぉ、すっげぇ揺れてるぜぇ!」
「まさか!? もうそんな時間なの!?」
その中で一人だけ霊夢は天井を見上げていた。
天井はパチュリーのロイヤルフレアで一部が崩れ、穴が開いていた。
そこからは綺麗な星と月が見えていた。
「よりによって紅い満月ねぇ……これは面倒な事になりそうね……」
* * * * *
その頃、マヨヒガでは……。
「ねぇレミリア、貴方は行かなくて良かったのかしら?」
「大丈夫よ、咲夜なら何とかしてくれるわ……それに、あいつも居る事だし」
「アレねぇ……大変な事になるわよ? こんな禍々しい月だと」
「そのために魔理沙を行かせたんじゃない……気に食わないけど」
「そう」
「……今頃アカオニはどんな顔しているのかしら」
「さぁ? 流石にそこまでは分からないわよ……まぁ何にせよ、ここからはもう引けないわ」
「そうね、たとえどんな事があろうとも……確実に潰さなきゃね……」
そして、二人の笑い声がマヨヒガに庭に響いた。
続く。
作品集その52のそれぞれの拠点の続き物ですのでそちらを先に読まれたほうがいいかもしれません。
また、今回も*によって視点などが変わるのでご了承ください。
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「なあ紫」
魔理沙が何か疑問を抱いたのか紫に問いかける。
「何かしら?」
少し間をおいて紫が返事を返した。
「なんであの時……香霖が居た時にアカオニを探したりしなかったんだ?
もしかしたら近くにいたかもしれない、それに拠点だのなんだの紫らしくないぜ?」
「確かにそうね、あんたなら真っ先にとっ捕まえそうなのに」
レミリアも同じように紫に問いかけた。
それを聞いた紫は軽くため息をつき、説明を始めた。
「いいかしら? たしかにどんな強力な力を持った者でも私一人で捕まえられない事はないわ、だけどあいつは違うの」
「何が違うんだ?」
「力の使い方とかがね、アカオニは自分の能力を最大限に活用して攻めるとかそういう正面突破的なことはしないの。
逆に能力を最小限にとどめ大きな被害を出させる……つまりは頭脳派といったところかしら。
下手に動けばこちらが罠にはめられるのよ。だから更にその裏を読まなくちゃいけないの。
本当は気づいているんでしょう? 貴方も」
紫はレミリアの方に視線を送った。
「そうね、半々といったところかしら」
レミリアはあっさり認めた。
「ん? どういうことだ?」
魔理沙はいまいち話の流れが掴めていないようだ。
「つまりはアカオニ達は今日の夜頃に紅魔館に攻め入る、という事」
「なんで紅魔館なんだ? ほかにも永遠亭とか白玉楼とかあるだろ?」
「確かにそうね、だけど考えて見なさい……よくわからない月の民が住む屋敷、冥界の幽霊屋敷、昔から存在する洋館。
そしてアカオニの目的は幻想郷……これで一番的にされそうなのは昔から何も変わらず存在している紅魔館しかないわ」
「成る程……でもどうするんだ? こんな所にいたらいつ紅魔館が襲われてもわからないだろ?」
「大丈夫、これがあるもの」
紫が取り出したのは黒い長方形に一本棒が突き出たような物体であった。
「何だ? それ?」
「遠隔対話装置、河童製よ。これがあれば同じ物を持った遠くにいる者と話が出来るの」
「ほー、よく見せてくれ」
「だめよ」
「ケチ」
* * * * *
「そろそろだな」
アカオニが壁に掛けてある振り子時計を見た。
その時計は五時半を指していた。
「美味くいくかしらね」
ルーミアが少し不安げに言った。
「大丈夫だろう、ここまで練りこまれた作戦だ、それにこの無線って道具があればすぐに助けを呼べる」
こーりんが手にしていた道具は紫が持っていたものと同類の物であった、だがアメリカ製である。
「こんなので声を飛ばせるとは……外の世界の技術もすごい物よ」
「だが、行き過ぎた科学は幻想を追いやってしまった」
「そう考えるといろいろと複雑ねぇ」
「人間は恐怖を取り除こうと必死になる生物だ、力のなさ故全てを滅ぼす……。
幻想の恐怖がなくなったら次は同じ人間に恐怖するとも知らずに、実に愚かだ」
「愚か……ねぇ」
そして全員が沈黙した。
だが、その沈黙は数分でアカオニによって破られた。
「……いくか」
アカオニが放ったその言葉と同時に四つの穴が展開された。
そして四人は黙って立ち上がり穴へと向かっていった。
そのまま四人は穴に吸い込まれるように消えた。
* * * * *
ザザっというノイズと共に紫が持つ機械から音声が発せられた。
「こちら……掃除5番メイド! 外と館内にアカオニらしき妖怪が突然!」
「そう、解ったわ……一人残らず図書館に避難しなさい。
……すこし予定よりも早いけど行くしかなさそうね」
「紫」
横にいた霊夢が真剣な眼差しで紫に問いかける。
「レミリア達に伝えて頂戴、作戦開始よ」
「わかったわ!」
* * * * *
「さて、作戦開始といったところか」
アカオニが正門に立ち、そう呟いた。
そして前方に向けて妖気を集中し始める。
「手始めにこの門を破壊か……くくく……ぐふ!?」
笑っていたアカオニが突然物凄い衝撃を受け、弾き飛ばされた。
「ぐ……ごほっ……誰だ!」
先ほどまで誰もいなかったはずの門前に仁王立ちする人物がいた。
「だれが勝手に通っていいといったのよ」
それはこの紅魔館の門番、紅 美鈴であった。
「誤算か……まさか貴様を見落とすとはな」
「誤算も何も多分、全面的に間違ってるわよ?」
「何?」
その時、アカオニの持つ通信機に通信が入る。
「アカオニ! どういうことよ! 魔女が2人もいるなんて!」
「こーりんだ! 裏門から魔理沙と霊夢が!」
「とんだ誤算ですな、まさかメイド長なるものが居るとは……これは少し時間が掛かる」
その通信は美鈴の方まで聞こえていた。
「どうやら他の方たちも貴方と同じ現状みたいね」
「貴様ら……この私をはめたな? そうか……紫の仕業か!」
アカオニの拳に力が入り震えだした。
「そう、紫さんの指示よ。貴方のほうが紫さんより下回っていたのよ!」
そして美鈴はアカオニの方に走り出し、その勢いのまま飛び蹴りを放つ。
「こんなもの!」
しかしその飛び蹴りはアカオニに受け止められてしまった。
「まだよ!」
そして片足をつかまれた体制のまま反対の足で素早く蹴りを繰り出す。
しかし、アカオニはその蹴りも腕で受け止める。
「なかなかやるわね、でも!」
美鈴が上体を起し、両腕をアカオニの顔面に押し付けて凝縮した気を放出した。
「何……だと!」
その衝撃でアカオニは弾き飛ばされ木に衝突した。
そして座った体制のまま俯いて動かなくなった。
「私に弾幕以外で勝とうなんて考え事態が誤算なのよ」
美鈴はそう言い残し門の中へと走っていった。
* * * * *
「くぅ……流石に魔女が二人居たら厄介ね」
図書館付近にでたルーミアはパチュリーとアリスの襲撃に遭っていた。
「まさか紫の言ったとおり本当に中にも居たなんてね……」
「そんな事はいいから攻撃の手を緩めないの、逃げられるわよ?」
現在は二人に追われる形でルーミアが館内を飛び回っている所である。
「すばしっこいわね」
「黒くてすばしっこくて金髪……何処かで見たわね」
「いつも見てるじゃないの」
一切攻撃の手を緩めずルーミアを追う二人。
二人が追いつきそうになった時、突然ルーミアが旋回した。
「無駄よ」
つかさずパチュリーがレーザーを放つ。
だが、ルーミアは方向転換し紙一重でそれをかわす。
「上海!」
そのルーミアを追う様にアリスもレーザーを放つ。
「何のつもりかしら……?」
逃げていたのが突然辺りを飛び舞うようになったのにパチュリーは疑問を覚え始めた。
しかし、周囲を見渡した瞬間にその答えが理解できた。
「アリス……攻撃をやめなさい」
「え? なんでよ」
「いいから……」
パチュリーに言われ、なんで? と疑問に思いながらもアリスはしぶしぶ攻撃をやめる。
ルーミアは攻撃が止んだのを確認すると、二人の正面に降り立った。
「ずいぶん早く気づかれちゃったのね……これだから魔女は嫌いなのよ」
ルーミアはウンザリした様子でため息を吐く。
「どういうこと?」
アリスは未だに理解出来ていなかった。
「よく周りを見渡しなさい」
パチュリーがそう答えるとアリスは周囲に目をやる。
「あ」
アリスは声を上げた。
「やっと理解できたのね」
アリスたちのいる部屋は大広間であった。
しかも先ほどの攻撃で部屋の照明の半分以上が破壊されていた。
もともと窓の少ない紅魔館では照明がないとたとえ昼だろうが闇に閉ざされてしまう。
「貴方は暗闇で力を発揮する類ね……」
「大正解、でも今気づいたところでもう手遅れよ。ここはもう殆ど私の世界のようなもの……さぁ、話はお仕舞……逝きなさい」
ルーミアが手を前に突き出すと同時に、暗闇から高圧な弾幕が展開された。
「ちょっと! なによこの弾の量!」
「まずいわね」
暗闇から迫り来る弾幕は到底避けきれる物ではなかった。
「さぁ、どうするのかしら?」
ルーミアは余裕の表情で二人を見ていた。
「アリス、私の盾になりなさい」
「はぁ!? あんた何言ってるのよ!」
「いいから! ……私に策があるのよ……あの妖怪の力が闇ならばそれを照らせば良い事」
「まさか……ロイヤルフレア?」
「そうよ……障壁が破れる前に早くして頂戴」
「まさか私も巻き込まれたりはしないわよね?」
「巻き込まれそうになったらすこしは加減するわ」
「やっぱりね……」
覚悟を決めたのかアリスはパチュリーの前に立ち弾幕を放つ。
「あらあら……その程度じゃ相殺できないわよ?」
ルーミアの言った通り弾幕はアリスの身体をかすめ次々とその身体に傷跡を残していく。
「パチュリー! この弾幕じゃあまり持たない!」
「もう大丈夫よ、私の後ろに隠れなさい」
そしてアリスとパチュリーが入れ替わり、パチュリーが両手を上に伸ばした。
「こんな状況で何をするつもりなのかしら?」
興味深げにルーミアがパチュリーを見る。
だがその余裕は一瞬で崩れ去る事になった。
「そうね、何もかも焼き尽くす事かしら……日符、ロイヤルフレア!」
パチュリーの両手の先に炎の玉が現た。
それは少しずつ膨張を始め、突然何かが吹っ切れたかのように爆発的な膨張を始めた。
「な……何よこれぇ!」
その爆発的な火炎に飲み込まれルーミアの姿は掻き消えた。
闇から発生した弾幕もロイヤルフレアによって一つ残らずかき消され、闇もその強力な日の光に飲み込まれた。
とどまる事をしらないその強力な魔力は壁さえも突き破り外までに達した。
そしてその魔法は弱々しくなっていき、そのまま消えた。
「やった……?」
「えぇ……まともに喰らってたみたいだし……多分……ごほっ」
突然パチュリーがアリスに倒れこみ、咳き込む。
「ちょっと? 大丈夫なの!?」
「大丈夫……少し暴れすぎていつもどおりに戻っただけよ……げほっ」
「いつも通りって……いつもより酷いじゃない」
普段のパチュリーは咳き込むことは良くあったもののここまで苦しそうにする事はなかった。
「魔力をすこし使いすぎただけよ……ごほっ……じきに落ち着くわ」
アリスはそれを聞いて軽くため息を吐いた。
「仕方ないわね……はい」
アリスがパチュリーに背を向けしゃがみ込む。
「何?」
「見て解らない? 負ぶさってあげるって、今のままじゃまともに動けないでしょう?」
「そう……悪いわね……」
「多分図書館まで行けば大丈夫でしょ」
「」
「……」
パチュリーを負ぶさったアリスは図書館を目指し飛び去った。
「うぅ……」
破壊された大広間の瓦礫の下から傷だらけのルーミアが這い出てきた。
「油断しすぎちゃったわね……く……流石にこの怪我はすぐには直らなさそうね……」
ルーミアはよろよろと起き上がり歩き始めた。
その跡には大量の血痕が残されていた……。
* * * * *
「よぅ、香霖……まさかこんなところで出会うなんてな、これが運命ってやつか?」
「はは、運命か……僕には操作された運命としか感じられないんだけど?」
場所は紅魔館の裏門、そこで魔理沙と霊夢の二人とこーりんが鉢合わせしていた。
「すごい偶然ね、ここで会うなんて」
「偶然……僕の感だと偶然じゃなくて君たちが僕を待ち伏せしていたとしか考えられないんだが?」
「おぉ、さっきのと言い見事に当てやがった」
魔理沙はふざけているのか本当に感心しているのか拍手を始めた。
「魔理沙、霊夢……僕は君たちと戦いたくない……」
「そうね……霖之助さんが引いてくれるのなら私も何もしないわ」
「私は何かするかもしれないがな」
「そうか……でも僕は引くわけにはいかないんだよ、この幻想郷の現状を理解してしまったからね」
こーりんはなにやら深刻な顔をしていた。
「現状? どういう事よ」
こーりんは一息ついて語りだした。
「幻想郷は今、間違った方向に進もうとしているらしい。アカオニはそれを正そうとしているみたいなんだ」
「へぇ、で? 具体的にどう間違ってるんだ?」
「え?そ……それは……」
「なんか怪しいわね」
魔理沙と霊夢が戦闘態勢に入った。
「ちょっと待ってくれ!人の話を最後までk……」
「「問答無用」」
凄まじい轟音と共に虹色の閃光と大量の札が飛び舞った。
そしてその弾幕の中心から眩しい光が放たれる。
C A S T O F F!!
「おいでなすったか、もう逃げたりはしないぜ!」
「やだなぁ……あんなのと戦うなんて……」
そして光が止んだ。
「あれ?」
二人は瞬時に状況を理解できなかった。
マスタースパークの爆心地には褌姿のこーりんが居る筈であったが、
そこには誰もいなかった。
「何処にいったんだ?」
「ここだよ」
「きゃ!?」
「うわ!?」
正面に居たはずのこーりんは何故か二人の後ろにいた。
二人は反射的に距離をとった。
「さっきの光で目くらましか……」
「それにしては早すぎよ」
「君たち……忘れたのかい? 僕の脚力を……あのサッカーで猛威をふるった僕の足を!」
「そういえばそうね……ならその足でも追いつかない攻撃をすればいいのよ」
そして霊夢がスペルカードを構えた。
「神霊、夢想封印……瞬!」
宣言とともに霊夢は目にも止まらぬ速さで弾幕を張りつつこーりんに接近する。
「遅い!」
そう言い放ちこーりんは腕を組み、その場から瞬時に移動した。
「流石に早いわね! でも、ただ闇雲に移動すれば逆に避け辛くなるだけよ!」
そう、霊夢は接近したのではなく高速移動しながら弾幕を放っていたのである。
「だが、所詮自機狙いじゃないか! これなら例の⑨でもよけられる!」
直立体制のままジグザグ運動を繰り返し弾幕をかわしていく。
その光景はとても気味が悪いものであった。
「そうね、自機狙いほど軌道が読みやすい弾幕はないわ、でもね……そこに別の物が混ざったらどうなるかしら?」
「別……まさか!」
こーりんの目線の先には既に魔理沙は居なかった。
「どこみてんだ? 上だぜ」
その声に反応しこーりんが空を見上げると、そこにはスペルカードを握った魔理沙の姿があった。
「このスペルはあまり使いたくないんだがな……まぁ出番潰されるよりはましだな、光撃! シュート・ザ・ムーン!」
魔理沙が宣言をすると地上に向けて弾幕と魔方陣が降り注ぐ。
その降り注いだ魔方陣はまるで月を撃つかのようにレーザーとなってまた上空へと上っていく。
その光景は実に神秘的でもあった、だがそのような感傷に浸っている余裕はこーりんには少しもなかった。
「これは……反則じゃないのか!?」
レーザーに動きを制限され、更には全方位から自機狙いの弾幕が迫り来るという悪夢のような状態であった。
「これで終わりよ!」
霊夢がそう叫ぶと今まで静止していた御札がいっせいに動き出した。
それはこーりんをドーム状に囲い、ゆっくりと迫っていく。
「だめだ……流石にこの密度とレーザーの嵐じゃ避けようがない……」
その言葉とは裏腹にこーりんの顔はにやけていた。
だが、弾幕の嵐で霊夢たちにはその顔は見えなかった……。
「ん?」
終わった事を確信した霊夢が何かに気づいた。
霊夢は瞬時に紅魔館の方を見る。
「この感じ……まさか! 魔理沙! いますぐ紅魔館から離れなさい!」
危険を感じた霊夢はすぐさま魔理沙に呼びかけた。
「あー? なんだってー?」
「紅魔館から離れなさいって言ってるのよ!」
一際大きい声で霊夢は叫んだ。
ちゃんと聞こえたのか魔理沙は少しずつ高度を上げ始めた。
そして、霊夢の放った御札がこーりんに直撃しようとしたとき、それは表れた。
「人鬼、未来永劫斬!」
その掛け声が聞こえた瞬間裏門は跡形もなく粉砕し弾幕という弾幕はすべて消え失せた。
「こりゃすごいな……」
上空にいる魔理沙からはスペルカードによる巨大な傷痕がはっきり見えた。
「わるい、たすかったよ」
「何を言うか、助け合ってこその仲間というものだ」
土煙が晴れ、視界が回復するとそこにはもう一人の人物がいた。
魂魄 妖忌であった。
「しかし……これは助かったといえるのかな?」
こーりんの視線の先、裏門にも人影があった。
「こんなに壊してくれちゃって……覚悟は出来ているのかしら?」
頭に青筋を浮かべ両手にナイフを構える咲夜であった。
「これは相当怒ってないか?」
「ぬう……ちと遊びすぎたかのう」
その間にも咲夜はじりじりと歩み寄ってきていた。
「命乞いをするなら今のうちよ? まぁたとえ命乞いしてもねぇ……これだけ破壊してくれたんだもの、殺すだけじゃ済まさないわよ」
薄暗いなか浮かび上がる真っ赤な瞳はもはや妖怪のそれであった。
「こ……こえぇ! どうする!? 霊夢! 今じゃ私たちでさえ巻き込まれかねないぞ!」
「多分このぐらい離れていれば大丈夫でしょ」
いつの間にか霊夢と魔理沙はその場からかなり遠ざかっていた。
「仕方ない、古来より伝わるあの戦法を取るしかないのう……現状でこれと戦うのは無意味でしかない」
「あの戦法? ……そうか、それが一番合理的だな」
「何をさっきから喋っているのかしら?」
こーりんと妖忌が話し合っている間も少しずつ咲夜は接近していた。
「よし! ここは僕が隙を作る……それと同時に一気にぬければ!」
「任せた」
「さあ! 行くわよ!」
咲夜が攻撃態勢に入ったその時、こーりんが明後日の方向を指差し叫んだ。
「あ! あそこでれみりゃが泣いているぞ!」
「え? 嘘!? 何処!? そんなのに引っかかるわけないでしょう! ……て!」
言っている事は滅茶苦茶であったが引っかかってしまった様である。
再びこーりんの方に向き返ったとき、既に誰もいなかった。
「うまく行った!」
「このまま集合場所へ急ぐぞ!」
「それは地獄の事かしら?」
裏門のあったところから館内に進入を図ったこーりんと妖忌であったが、目の前に突然咲夜が現れた。
「やはり……時を止められる限りは無理か」
「やるしか無いのう……」
咲夜から逃げる事を諦めた二人は攻撃の態勢に入る。
「もうこの時間と空間は私の物、そのなk「咲夜さ~ん」……」
館の中から現れたのは美鈴であった。
「……あの馬鹿」
呆れ顔で頭を抱える咲夜、その様子に二人は気が抜けてしまった。
「だめだ、少し気が抜けてしまった」
「これも作戦のうちかのう」
美鈴は咲夜の横まで走ると急停止し嬉しそうに咲夜に言った。
「咲夜さん! アカオニを倒しました!」
この言葉が発せられた瞬間全員の表情が一瞬にして引き締まった。
「美鈴! それは本当なの!?」
「はい! 私が気を放って飛ばしたらそのまま動かなくなりました!」
はしゃいでいる美鈴を他所にこーりんは驚きを隠せなかった。
「まさかそんなあっさりとやられてしまうなんて……」
しかしアカオニといえど身体は人間の物である、有得ない話ではなかった。
「……美鈴といったな? 御主、アカオニが本当に死んだのか確認はしたのか?」
唖然としているこーりんとは違い妖忌は冷静であった。
「確認……そういえば……してない」
美鈴がそう答えると同時に壁に穴が開いた。
「これは!? 美鈴! 下がりなさい!」
「え?」
時は既に遅く、美鈴は穴から出てきた衝撃波によって突き飛ばされた。
飛ばされた美鈴は壁に衝突したが、それでも勢いは衰えず反対側の部屋まで飛ばされてしまった。
「美鈴!」
咲夜が呼んだが反応はなかった。
「アカオニか?」
こーりんが穴のほうをみると誰かが出てきた。
「誰がいつ死んだといった、門番風情が」
穴から出てきたのはアカオニだった。
「やはり……」
妖忌はこのことを見抜いていたようだった。
「アカオニ……無事だったのか」
こーりんはすぐさまアカオニに駆け寄った。
「ルーミアから通信があった、負傷して余り動けそうにないそうだ……集合場所は西の大広間に変更だ」
アカオニは咲夜達に聞こえないよう、小声で言った。
「……そうか、わかった、なるべく急ぐよ」
「邪魔さえ入らなければ今すぐにで行くんだがのう」
二人の返事を聞いたアカオニは無言で美鈴が飛ばされた方向へと歩み寄っていく。
しかし、咲夜がナイフを突きつけて止めた。
「待ちなさい、美鈴はもう動けないのよ」
アカオニはにやけた。
「上司に信用されない門番か、悲しいな……そろそろ起き上がったらどうだ?」
その呼びかけに答えるかのように、美鈴は起き上がった。
「美鈴? あなた……」
「成る程、完全に集中して気を練っていたのか」
先ほどとは打って変わって真剣な表情をした美鈴からは、誰でも感じ取れるほどの強い気が常に放出されていた。
「表に出なさい、次は本当に動けなくしてあげるから」
「残念だがそうはいかない、私も行かなければいけない場所があるんだ」
「なら何でちょっかい出してきたのかしら?」
「気に入らない、先ほどのお礼、理由はこれだけだ」
この二人の睨み合いは他の者を圧倒した。
漂う殺気と気迫だけで弱い者は気絶するかもしれないほどであった。
現に咲夜達も言葉を失っていた。
「なら私も気に入らないから貴方をここで潰していいかしら?」
「ああ、潰してみせろ……まぁそれが出来たらの話だがな」
「随分と余裕なのね、まぁ私の本気を見てないから言えるんでしょうけど」
「何だ、門前でやったのが本気じゃなかったのか、これは失敬」
「……」
(こいつ、さっきの感覚といい……気を操れるようになってる!)
「……」
(まさか、な……この私が相手の出方を見る羽目になるとは……口だけではないな)
二人とも沈黙した、だが二人の表情は次第に真剣な物となっていった。
(多分あいつの気は今かなり蓄積されているはず……まともに喰らったら一溜りも無いわ)
(肉眼で見えるほどの気を練っている……これは流石に喰らったらまずいかも知れんな……)
二人とも少しずつ間合いを詰める。
(でも逆に私が最初に一撃入れれば……勝率は一気に高くなるわ)
(最初の一撃……拳で来るか、脚で来るか……何はともあれ勝負は一瞬だな)
物凄く重たい空気の中、アカオニと美鈴は額に汗を浮かべていた。
それを見守る三人は息を呑んだ。
(隙を……一瞬でも隙を見せれば……一撃で……)
(焦りが出てきてるな……私も、あいつも……ちょっとでも目を離せばいけるんだがな……)
かなり緊迫した状況下の中、物音を立てる者は誰もいなかった。
だが、常に放たれている気のせいか天井の一部が崩れ落ちた。
そしてその落下した破片がアカオニと美鈴の間に割り込んだ瞬間……沈黙は破られた。
「「破!!!」」
アカオニと美鈴の最大の気を乗せた拳が衝突した。
二つの莫大な気の衝突は一気に弾け、衝撃波となって当たりを一帯を襲う。
「う……これが美鈴の底力なの!?」
「……すごい衝撃だ!」
「あの二人……なかなかやるのう……さて、ゆくぞ、こうりん殿」
「あぁ、今のうちならいけるはずだ」
咲夜が美鈴とアカオニの戦いに気を取られている隙に、こーりんと妖忌はその場から走り去っていった。
一方アカオニと美鈴は衝撃でそれぞれ反対方向に弾かれていたが、最初に体制を立て直したのは美鈴だった。
美鈴は素早くアカオニ方へ駆けていき、その勢いで飛び蹴りをかます。
「またそれか」
美鈴の飛び蹴りに気付いたアカオニはすぐさま後ろに下がる。
「同じ蹴りだとおもったら大間違いよ」
飛び蹴りの体制から突然静止する美鈴、だが静止した瞬間今までの勢いで大量の弾幕が発射された。
「その程度!」
アカオニは右へ移動し難なく避けた。
「そう来るとおもったわ」
行動を読まれていたのか、右側にはすでに美鈴の姿があった。
美鈴はアカオニとの間合いを即座に詰め回し蹴りを繰り出した、その蹴りはアカオニの腋腹に直撃する。
だがアカオニはその脚を腕で挟み拘束した。
その直後、アカオニの肩の付け根に美鈴の拳が入り、拘束は解かれてしまった。
アカオニは苦し紛れにローキックをかますが、ガードされてしまった。
そして美鈴は右手を突き出した。アカオニはすぐに何か察したのか両腕を前に出し、ガードの体制をとる。
美鈴の右手がアカオニに触れたとき、そこから凄まじい衝撃が発生した。
その衝撃によりアカオニのガードが崩れ、そこに美鈴の振り子突きが襲い掛かる。
だが、アカオニは後ろに飛びのけそれをかわした。
「成る程、気を使ってガードを崩す事も出来るのか」
「あれはたまたまよ、私が狙ったのは貴方の身体の内部への直接攻撃よ」
「ふむ、実にこの気というのは面白い……攻撃や防御……ましてや医術などにも……くくく」
「確かにそうね、でも貴方はそこまで使いこなせるかしら?」
「使いこなすも何も……身体の一部と思えば良いのだ……そうすれば自然に使い方がわかる」
「底が知れないわね!」
そして、美鈴がまた飛び掛った。
* * * * *
「まんまと逃げられたわね」
咲夜は今、紅魔館の中を駆け回っていた。
「不覚ね……他人の戦いに見とれているなんて……ん?」
咲夜の視線の先、廊下の奥には誰かが二人居た。
「たくっ咲夜達はどこいったんだ?」
「案外もう終わってたりして」
「終わってないわよ」
「うわぁ!?」
霊夢と魔理沙の間に突然、咲夜が現れた。
「なんだ、咲夜じゃない、霖之助さんともう一人のお爺さんはどうなったのかしら?」
「逃げられたわ」
「逃げられたって……能力使えばどうにかなるんじゃないのか?」
「居場所が分かればそうしているわよ、何の手がかりもなしに探し回るのは体力の無駄遣いでしかないわ」
「そうね、メイドは皆図書館に避難させてるんだし」
「だな、少し黙れば足音も聞こえそうだな……まぁちょっと黙ってみるか」
そう言い魔理沙が黙ると二人もそれに習って黙り込む。
するとさっきまで聞こえていた音がより大きく聞こえた。
「……轟音でかき消されちゃってるわね」
アカオニと美鈴が暴れまわっている音であった。
咲夜がその場から離れてからもずっと乱闘は続いているようだ。
「何の手がかりもなしね……」
「霊夢の便利レーダーに反応は無いのか?」
「便利レーダーって……あんた人のことなんだと思っているのよ……ん? 咲夜何してるのよ」
「だまって……」
咲夜の言うとおり二人は黙った。
そして二人の表情は一瞬にして変わった。
「伏せなさい!」
「うわ!?」
咲夜たちが伏せた瞬間廊下の壁を突き破り何かが飛んできた。
その何かは反対の壁を粉砕し動きを止めた。
「危なかったわね」
「てて……なんだったんだ?」
「今の……美鈴!」
「美鈴だって?」
飛んで来た者の正体に逸早く気付いたのは咲夜だった。
倒れている美鈴に咲夜が駆け寄ると美鈴はよろよろと起き上がりまた構える。
「何やっているの美鈴! あなたもう!」
「うわ、血まみれじゃないか!」
咲夜達に止められるが美鈴は構えを解かずに少しかすれた声で話し出した。
「咲夜さん……心配は要らないです……それは向こうも同じ……ですから……」
美鈴が見つめる方向、その先には美鈴と同じように血まみれのアカオニが居た。
「貴様……私と死ぬまで戦うつもりか……無駄だぞ……?」
アカオニは口では強がっていたがもはやボロ雑巾の様な状態であった。
「咲夜さん達は……早くあの二人を……私はアカオニ……と決着をつけてから行き……ます」
「でもお前!……な、咲夜!」
咲夜は美鈴を止めようとする魔理沙の腕をつかみ強引に連れて行く。
「ありがとうございます……咲夜さん」
その一言を残し、美鈴は再びアカオニの方へと突っ込んでゆく。
「咲夜! おい! お前あいつがどうなってもいいのかよ!」
「黙りなさい、美鈴は一度言い出したら聞かないのよ……だからね……」
「咲夜……」
魔理沙に言い聞かせる咲夜の表情はとても暗いものであった。
「咲夜! あれ!」
霊夢が見たもの、それはすぐ目の前の廊下を横切るこーりんと妖忌だった。
それも霊夢達に気付いてはいない様子だった。
「追いかけるわよ!」
「ああ!」「ええ!」
霊夢の指示通り咲夜と魔理沙はこーりんたちの後を追いかける。
* * * * *
「妖忌! まだか!?」
「そろそろじゃ!」
廊下を駆ける二人、その先には半壊した扉が見え始めていた。
「あれか!」
「半壊しておるの……ならば、斬るまで!」
妖忌が扉の目の前に差し掛かると目にも止まらぬ速さで刀を振り、扉を木端微塵に斬り裂いた。
切り裂かれた扉を潜ると、そこは崩壊した大広間であった。
その大広間の隅っこには蹲る様にして横たわるルーミアが居た。
すぐさま二人はルーミアの元へと駆け寄っていった。
「ルーミア! 大丈夫か!?」
「なかなか派手にやったみたいだのう」
「う……とりあえずは……大丈夫よ……ただすぐには……動けそうに無い……わ」
ルーミアは苦しそうに呟いた。
「そうか……なら後は時間の問題だな」
「いや、そうでもなさそうですぞ……そこの、隠れとらんで出てきてはどうだ?」
妖忌がそう言うと柱の影から3人現れた。
「もう追いつかれたのか」
「ふむ、3人に増えておったのか」
「そこにもう一人居たのね……まぁ状態から察して追い詰めたという事になるのかしら?」
「観念するなら今のうちだぜ、香霖」
「おじいさんも余り暴れすぎると腰痛めるわよ?」
5人が戦闘態勢をとり沈黙する。
「……む!?」
「……ん!?」
沈黙を破ったのは妖忌と霊夢だった。
「どうしたんだ? ……うお!?」
香霖が妖忌に話しかけた途端、紅魔館全体が物凄い揺れに襲われた。
「これは!?」
「うぉぉぉぉ、すっげぇ揺れてるぜぇ!」
「まさか!? もうそんな時間なの!?」
その中で一人だけ霊夢は天井を見上げていた。
天井はパチュリーのロイヤルフレアで一部が崩れ、穴が開いていた。
そこからは綺麗な星と月が見えていた。
「よりによって紅い満月ねぇ……これは面倒な事になりそうね……」
* * * * *
その頃、マヨヒガでは……。
「ねぇレミリア、貴方は行かなくて良かったのかしら?」
「大丈夫よ、咲夜なら何とかしてくれるわ……それに、あいつも居る事だし」
「アレねぇ……大変な事になるわよ? こんな禍々しい月だと」
「そのために魔理沙を行かせたんじゃない……気に食わないけど」
「そう」
「……今頃アカオニはどんな顔しているのかしら」
「さぁ? 流石にそこまでは分からないわよ……まぁ何にせよ、ここからはもう引けないわ」
「そうね、たとえどんな事があろうとも……確実に潰さなきゃね……」
そして、二人の笑い声がマヨヒガに庭に響いた。
続く。
原作のキャラを脇に押し寄せてまでメインを張るほどの理由が無いように見える。
何と言うか、このままだとラストもアカオニだののオリジナルが中心になりそうで怖いね。
今後もこの調子なら飴的コメントが来る前に誰にも相手されなくなるのが先かと。
一度基本に戻ってオリジナル色の薄いSSを書くことをオススメします。
連載物は創りながら一話ずつ話の方向性から見直してたらまとまらないよ。
一先ずはこのまま最後まで書ききってしまう事をお勧め。
でも飴的コメントを期待するのはこの作品では、完結までいってもちょっと厳しいかもしれない。
確かにこれだけやってオリジナル要素がないラストもないだろうし、かといってそうしたらしたで反感もあるだろうし。
俺は嫌いじゃないけど、大半の人の鼻にはつくだろうね。
でも別のSSに手をつけるのはまずはこれを書き終えてからでいいんじゃないかな。
最後まで物語としてまとめた、ていうのは大事な経験になるだろうし。
その後で全部を見返してみて今後のことを考えればいいかと。
鞭打たれても投げない素質と、とりあえず最後まで書くことを期待して前回と同じ点数で。
それ以上に何よりも、つまらないとは思わなかった人も一人はここにいるということで。
面白いかどうかはそれこそ最後まで読まないと言い辛いけど。
最後までこのまま書ききる方がいいと思います。
当初のプロットとかもあるだろうし、途中で変にかえちゃうと逆におかしくなると思うので。
個人的には、こーりんが半裸で出てきた以外は結構高評価です。