【 act.8 Tea party of two girls 】
「……まさか、こんなことをさせられるとは思わなかったわ」
レミリアは溜息と共に呟き、手に提げていた大型ポリタンクをどすんと置いた。
ここはマーガトロイド邸の玄関前である。
人形遣いに先導された吸血鬼は、井戸水を満載したポリタンクを持ちながらここまで飛んできたのだ。
彼女の膂力をもってすれば大した労働ではないが、アリスから困難な要求が突きつけられることを覚悟していたレミリアとしては、肩透かしを食らった気分だ。
「何でも言うことを聞くと言ったのは、貴女でしょ?」
いたずらっぽく微笑みながらアリスは簡易結界を解除して扉を開き、中に入るよう促した。
レミリアにとっては、これがマーガトロイド邸への初訪問だ。
ポリタンクを置き、「こっちよ」と廊下を歩くアリスの後ろに続く。
着いた先は浴室だった。
「え? なんでお風呂?」
驚く吸血鬼に、人形遣いは「当然でしょ」と言った。
「私もだけど、貴女かなり汚れてるわよ。服もぼろぼろだし」
そう言いながら、脱衣所でアリスはさっさと服を脱いでいく。
迷いはしたが、結局レミリアも彼女に倣った。
ちなみに、二人とも戦闘による怪我を負っていたが、吸血鬼は既に再生し、人形遣いも治癒魔法によって完全に回復している。
浴室に入ると、レミリアは風呂椅子に座らされた。アリスはその後ろで膝立ちしている。
「あ、あの。私、水もお湯も……ひゃっ!」
石鹸で立てた泡を浸けたタオルで、アリスがレミリアの背中に触れたのだ。
「解ってるわよ。貴女の嫌がることはしないわ」
「う、うん」
アリスは泡のタオルで丁寧にレミリアの肌を拭っていく。
自分の方は、人形にやらせているようだ。
レミリアはちらりと窺うようにアリスを見た。
青白いほど病的な自分の肌とは違い、人形遣いのそれからは雪のような白さと滑らかさを感じた。
柔らかな曲線を描く身体のラインに、何故かどきまぎしてしまう。
顔を真っ赤にしていると、
「どうしたの? もういいわよ。立って」と声を掛けられた。
言われた通りに立ち上がったレミリアの身体は、今度は柔らかなバスタオルで拭かれていく。
「はい終わり。綺麗になったわ」
微笑むアリスの顔をレミリアは直視できなかった。
浴室から上がると、下着やキャミソールと一緒に一着のドレスを渡された。淡いオレンジ色を基調として、所々に白のアクセントが配置されたものだ。
どれも着てみると、まるであつらえたように身体に合っていた。
肌触りは軽く、とても着心地が良い。
驚いてアリスを見る。
「うん。さっき急いでリサイズしたのだけど、ぴったりね。そのドレス、私が仕立てたのよ」
少し誇らしげに人形遣いが言った。
彼女が着ているのは、いつもの青いシンプルなドレスと白のケープのコンビネーション。
きっと同じ服を何着も持っているのだろう。
鏡の前で髪を整えられた後、「ここで待っていてちょうだい」と応接間に通された。
「わぁ……」
そこはよく整頓された、小奇麗な部屋だった。
部屋の中心に配置されたソファを始めとする調度品の数々は、シックな雰囲気を保って統一されている。花瓶に活けられた花々や鉢植えの観葉植物、家主の手作りと思しきいくつかの小物によって、暖かな彩りが添えられていた。
紅魔館の応接室のように豪奢なインテリアで飾られているわけではないが、全体的に調和の取れた快さで満たされた、落ち着きを感じられる空間である。
サイドボードの上に数体の人形が置かれているのが、何ともアリスらしい。
レミリアが物珍しそうに部屋のあちこちを見ていると、アリスがティーセットとお菓子を載せたトレイを持って入って来た。
「流石に、魔理沙よりはお行儀がいいわね」
「あんなのと一緒にしないでちょうだい。私は貴族なのよ」
むくれて、ぷいっと横を向く。
「これは失礼いたしました。お嬢様」
顔を見合わせ、二人は笑い合う。
ひとしきり笑った後、レミリアは真面目な表情を作ると、アリスに頭を下げた。
「アリス・マーガトロイド。戦闘の後、助けてくれたことにお礼を言わせてちょうだい。
もし湖に落ちてたら、人間でいう全身大火傷を負っていたところよ」
アリスは頷き、「気にしなくていいわ」とだけ言った。
「それよりも、ソファに掛けて。冷めないうちに紅茶とお菓子をどうぞ」
紅茶の葉はニルギリ。お菓子は昼前に作って魔法で冷蔵処置を施しておいた、アプリコットのヨーグルトババロアだ。
レミリアはババロアを匙ですくい、口に運ぶ。
甘酸っぱい美味しさがふわりと舌の上に広がった。今はやや暑い初夏の夜。ひんやりとした食感がなんとも言えない。
更に紅茶を一口飲む。と、吸血鬼の動きが止まった。
ややあって、また少し口に含んだ。
上等な酒を味わうように、舌の上で転がしてみる。
「この紅茶、美味しい……。咲夜の淹れたものよりも、ずっとコクがあって深い味。別の茶葉ではあるけど、他の要素が決定的に違うわね。それは一体何? 淹れ方かしら?」
流石は吸血鬼といえる鋭敏な味覚である。
咲夜がレミリアのために淹れる紅茶は、主人の好みに合わせて最適化されたものの筈だ。それよりも美味と感じるこの紅茶。一体いかなるものだろう?
真に味を解する者の言葉に、アリスは満足気に頷いた。
彼女も紅魔館では何度か咲夜の手による紅茶を飲んでいる。
「淹れ方というか、技術的には彼女も私も然程の違いは無いわ。美味しい紅茶を抽出する原則、所謂ゴールデンルールに則っている。違うのは、水よ」
「水?」
「といっても、水そのものは変わらない。同じ水系の地下水脈から汲み上げた井戸水ですもの」
「井戸水って、もしかして、さっき私が運んで来た?」
「そう。あの井戸の水よ」
使っている水も同じ。それでは先ほどのアリスの言葉と矛盾するではないか。
そう思ったが、レミリアは黙して、人形遣いから次の言葉が紡がれるのを待つ。
いつもの自分であれば「勿体振らずに、さっさと答えを言いなさい!」と激昂してもおかしくないのに。何故今はこんなにも落ち着いていられるのだろう?
(きっと、この場の雰囲気のせいよ)
吸血鬼はそう判断した。
この部屋の中は、とてもゆったりとした空気と時間に包まれている。
その中で、アリスは噛んで含めるように言った。
「咲夜が主である貴女や来客に出す紅茶に使う水、それは井戸水を時間をかけて丁寧に濾したものなの。でも、それでは水に元々含まれている雑味を消してしまうことになる。そして、雑味とは即ち旨味でもあるのよ。
何事にも完璧を目指す彼女らしい行為だけど、必ずしも、クリアなもの、純粋なものが正しいとは限らないわ。だから私は、一度沸騰させただけの井戸水を使うの」
アリスは自分も紅茶を飲み、唇を湿らせる。
「あの湖の周辺は水が美味しい土地柄よ。もしも人間たちがあの地に根付いたとしたら、さぞかし豊かな文明を築くことでしょう。
コクのある水は、コクのある文化を築く。人類の歴史がそれを証明しているわ」
紅茶の味の話をしていた筈が、『人間の文化』ときた。
「ふぅん。同じ知識人でも、貴女はパチェとは随分違うのね」
「私が言うのも何だけど、パチュリーは外に出なさすぎるわ。でも、だからこそパチュリー・ノーレッジ。“動かざる大図書館”なのでしょう」
内心、レミリアは目を見張っていた。
幻想郷の人妖には自分勝手な輩が多い。自分や魔理沙などはその筆頭である。
気に入らない者がいれば、能力や弾幕で捻じ伏せるか、鷹揚を決め込んで無視をする。
だが目の前の人形遣いは、他者の在り方を肯定し、受け容れる性質のようだ。ある意味異端者である。
じっと考え込むレミリア。
アリスは声を掛けることもなく、黙って紅茶とババロアの味を愉しむ。
会話が弾んでいるわけではないが、この空間には確かに心地よい時間が静かに流れている。
ややあって、レミリアが「実はね」と言った。
「私は少し前から、貴女のことが気になっていたの」
「私を? 何でまた?」
吸血鬼は自分の日傘の柄に括り付けてあった細長いケースを外し、テーブルに置いた。
開くと中には、抜き身の細い短刀のようなものが入っている。
「貴女に興味を持ったのは、博麗神社でこれを拾ったことがきっかけ」
「あら、これは――」
ブレードが反った細長い刃物をアリスは手に取って見る。
日本刀を模した人形用の太刀だった。
彼女が拵(こしら)えたものに間違いない。
「神社で拾ったの?」
こくりと頷くレミリア。
「三ヶ月くらい前の夕方、神社に遊びに行った時、境内に落ちてるのを見つけたの。
霊夢に訊いたら、『多分アリスのだと思うわ。昼間にそこで魔理沙と弾幕ごっこをしてたから』って」
そういえば、そんなこともあったかしら、とアリスは思った。
レミリアが続ける。
「その刀、最初はペーパーナイフの代わりくらいにはなるかと思って持ち帰ったのだけど、すごく使い勝手が良くてね。咲夜のナイフより切れ味がいいのには驚いたわ。
それで是非一度、これを作った貴女と話してみたかったのよ」
一体どんな方法でナイフとの切れ味比較検証をしたのか?
推察しようとしたアリスの脳裏にメイド長の泣き顔が浮かんだ。深く考えない方が良さそうだ。
「日本刀は最も美しく、優れた刃物よ。西洋の剣が『叩き割る』ことを目的にしているのに対して、刀は『斬る』ことに特化している。もっとも、使いこなすには技術が必要だけどね」
説明しながらアリスは真剣な眼目で小さな日本刀の状態を調べている。
傷みが表れ始めているようだ。レミリアがどういう使い方をしているのか見当が付く。
「後でシャープニング(刃を研ぐこと)してから、返すわ」
「返してくれるの?」
「ええ。ついでに鞘も付けてね。これはもう、貴女のものよ。
私が失くし、貴女が拾った。そういう縁なのでしょう」
「あ、ありがとう」
アリスは日本刀をテーブルに置き、空になっていた自分とレミリアのカップにティーポットから温かな紅茶を注ぐと、「あ、そうそう」と思い出したことを口にする。
「その服と下着も持っていっていいわよ」
「え? いいの?」
レミリアは嬉しそうに立ち上がると、着ている淡いオレンジ色のドレスを見ながら、くるりと一回転して見せた。
「よく似合っているわ」
アリスも満足そうだ。
「このドレス、着心地がいいし、デザインも好みなのよ」
弾んだ声で言いながら、襟や袖口に触れてみる。
本当に素晴らしいドレスだった。
洗練されたセンスを感じさせるデザインが目を引くが、素材の良さを完璧な縫製で仕立てていることも侮れない。
(人形用の刀といい、このドレスといい……)
レミリアはサイドボードに歩み寄り、アリスの方を見た。
「この人形たちも貴女が作ったの?」
「ええ、そうよ」
「手に取って見てもいいかしら?」
「どうぞ」
サイドボードの上に置かれているアンティーク・ドールの一体を抱き上げるレミリア。
目で見て、手で触れ、微に入り細に入り観察する。
髪や指を含む人形本体の造形、表情、着ているドレス、身に付けているアクセサリーや靴等。
どの点を取っても精巧精緻。それでいて、全体としてバランスの取れた完成度の高さが窺えた。服の裏地等、見えない個所にも一切手を抜かれていない。
生来備わった鋭敏な観察眼と、貴族として五百年の間、真物の芸術品に接して培われた審美眼を持つレミリア・スカーレットを唸らせる、見事な出来だった。
「God is in the details」(神は細部に宿る)という言葉がレミリアの内から浮かび上がり、吸血鬼は背筋を奮わせた。
この人形は芸術の集大成といっていいだろう。
レミリアは以前、神社の宴席で人間の魔法使いが人形遣いのことを「器用貧乏」と笑うのを聞いたことがある。その時アリスはまったく反論していなかった。
見る者が見れば、器用貧乏どころではない。複数の分野に跨る、類稀なる非凡さの顕現。
吸血鬼は我知らず、人形遣いの少女に相応しい称号を呟いた。「マエストロ……」と。
(何だか難しい顔で人形を見てるわね)
ひょっとして、あれも欲しいのかしら? と、アリスは暢気に考えていた。
レミリアは人形をサイドボードの上に置くと、戻ってソファに腰掛けた。
こほん、とひとつ咳払いをしてから切り出す。
「ねぇ、アリス。ひとつ提案があるのだけど」
「何かしら?」
(やっぱり人形のこと? でもあれは私も気に入ってるから、あげるわけにはいかないわ)
「貴女、紅魔館に住みなさい!」
何故か笑顔のレミリア。
アリスの危惧は的外れだった。
「はい!?」
意外すぎる言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「外の世界、中世では、貴族が芸術家や錬金術師の活動を援助してきたわ。つまり、パトロンね」
「……で、貴女が私を援助してくれるの?」
「そうよ」
何故か平たい胸を張るレミリア。
「具体的に、私は紅魔館で何をすればいいのかしら?」
「今と同じことをするといいわ。魔法の研究や人形作り、あとは服を仕立てたりね」
何故かうっとりとするレミリア。
(たまにでいいから、私のためにドレスや靴を作ってもらおう。フランの家庭教師をお願いするのもいいわね。
ああ、夢が膨らむわ)
「せっかくのお話だけど、お断りするわ」
あっさりと言う人形遣い。
吸血鬼にはその言葉が信じられなかった。
「なんで!?」と叫びつつソファを揺らし、がたんとテーブルに手を付いて立ち上がる。
ティーカップとソーサーが立てた、かしゃんという抗議の音にアリスが鼻白む。
テーブル上にこぼれた紅茶を上海人形が布巾で拭き取るのを確認しつつ、「落ち着きなさいな」とレミリアを宥めた。
「だって……! 一体何が不満なのよ!? 何も不自由することなく、好きなことに打ち込めるのよ!? 図書館の本だって読み放題だし!」
「別に不満は無いし、貴女の申し出は光栄に思うわ。私を認めてくれているのですもの」
「だったら、何で断るの!?」
アリスは上海人形を抱き寄せ、そっと頭を撫でた。
上海は安心し切った様子で主人に身を委ねている。
「私は今しばらくの間は、この森で人形たちと一緒に気侭に暮らしたい。ただそれだけなのよ」
穏やかな表情と口調で、だがきっぱりとアリスは断言する。
レミリアは引き退がるしかないことを悟り、「そんなぁ」と情けない声を出した。
◇◇◇
魔法の森に、空が白み始める気配が漂っている。
もうすぐ夜明けを迎えようとしているのだ。
館に帰るレミリアを見送るために、アリスは玄関前まで出て来た。
「貴女のこと、私は諦めないわよ」
不敵に笑いながら、吸血鬼は言った。
アリスは、やれやれ、と言いたげな苦笑を浮かべ、すぐに改める。
「ねぇレミリア。貴女の言った通りになったわね」
「私、何を言ったかしら?」
「弾幕ごっこを始める時に『楽しい夜になりそうだ』って。本当に楽しかったわ」
微笑とともに投げかけられた可憐な人形遣いの思わぬ言葉に、吸血鬼は詰まった。
視線を逸らしながら、「紅茶とお菓子、美味しかったわ」と口に出す。
「刀とドレスも、ありがとう。それと――」
畳んだ日傘をぎゅっと握り締める。
「私も、本当に楽しい夜だった!」
そう告げると、最後に残る宵闇に向け、蝙蝠の如き大翼を羽ばたかせて飛び去った。
◇◇◇
紅魔館への帰路、レミリアは浮き立つ心を表現するかのように、くるくると楽しげに飛び回る。
薄ぼんやりと明るみ始めた空を見て精神を落ち着けると、ふと、昼間図書館を訪れた人間の魔法使いのネガティブな表情が頭に浮かんだ。
ふふふ、と笑いながら、
「弱さに訳なんて無いけれど、強さには何らかの理由があるものよ。貴女には解るかしら? 魔理沙」
吸血鬼は最高に良い気分を抱きながら、夜明け直前の空に笑い声を響かせた。
◆◆◆
【 act.9 Alice vs. Marisa again 】
アリスの周辺に変化が起きていることに魔理沙は気付いた。
最近、彼女の自宅にレミリアや妖精たち、ルーミアや橙までもが遊びに来ているのをよく見かける。
アリスも何処かへ出掛けることが多くなった。
自分の知らないところで何かが変わっていく。そのことに、魔理沙は理由の定かでない焦りを感じる。
少し前までは、マーガトロイド邸を頻繁に訪れるのは自分だけだった。
人形遣いの淹れる紅茶、作るお菓子や料理。文句を言いながら、それらに篭められたとびきりの味を堪能できるのは、魔理沙にのみ許された特権だったのだ。
それが失われようとしている。いや、既に……。
魔理沙は、アリスが自分を置いてどこかに行ってしまうような気がした。
(一体何故? いつからこうなった?)
考えるまでもなく、答えはすぐに見つかった。
アリスが変わり始めたのは、彼女が弾幕ごっこで虹の翼の人形たちを使うようになってからだ。
言い換えれば、魔理沙がアリスに勝てなくなってからのこと。
ならば、どうすればいいのかは明白である。
力を得る。霧雨魔理沙は、強くあらねばならない。そうすれば以前のように、アリスは自分だけのものになる。
人間の魔法使いはそう考えた。
◇◇◇
昇り立ての太陽の下、爽やかな朝の空気が紅魔館を包み込んでいるが、昼尚暗い地下図書館は当然ながらその恩恵に預かれてはいなかった。
そして現在図書館に居る三人の人妖の中でも、際立って爽やかではない者がいる。
「はぁ……はぁ……。こ、これで最後だ、ぜ……」
息も絶え絶えながらも、魔理沙は何とか声を出した。
無理も無いだろう。彼女は昨日の夕方から徹夜で、自宅とこの図書館を何度も往復し続けていたからだ。それはもう、何度も何度も何度もである。
何故そんなことをしていたのかといえば、ここから(魔理沙曰く)借りていた膨大な数の書籍を運ぶためである。
ちなみに、一昨日の夜から昨日の夕方までは、自宅で件の書籍の捜索と分類の作業を続けていた。
これは自分の本。それはアリスに(魔理沙曰く)借りている本。あれが図書館の本……。
家中を引っ掻き回して本という本を片っ端からチェックし、図書館のもののみを集めていく。
作業を終えて集積された図書館の書籍は、予想以上に膨大な数だった。霧雨邸の部屋を一つ占領しても収まりきらないだろう。もっとも、彼女の家には空き部屋はおろか、片付いた部屋すら無いので、これはあくまでも推測である。
(よくもまぁ、こんな数の本を借りてたもんだ)
魔法使いは感慨深げにそんなことを思ったが、これは返却する意思が微塵も無いからこその結果だろう。
仮眠と軽い食事を取った後、魔理沙は図書館への書籍運搬作業に移行した。
これがまた、それまで以上に重労働だったのだ。
パチュリーから借りているごく普通の魔法の箒はパワーが無いので、スピードは出ないし、荷物の最大積載量も少ない。当然、一度に積める本の重量は軽めに限られる。
おまけに、八卦炉を持たない今の魔理沙は、妖怪や妖精との交戦を絶対に避けなければならなかった。
具体的には、他者に見つからないように低い高度を飛び、何かの気配を感じたら即地上に降りて、身を隠してやり過ごすという具合である。
湖上でチルノにでも遭遇したら一巻の終わりなので、湖を横断する際には往路も帰路も慎重に慎重を重ねる必要があった。
これには非常に神経を衰弱させられる。
普段、好戦的な態度で気紛れに弾幕ごっこを吹っ掛けている魔理沙自身の素行の悪さが原因なのだが、本人に反省の素振りは無い。ある意味大したものだとパチュリーは感心した。
魔理沙は小悪魔が持ってきたコップを引ったくると、中の水を一気に飲み干した。
「ふう、生き返ったぜ。それでパチュリー、本は全部返したんだから――」
「小悪魔、確認してちょうだい」
魔法使いの言葉を、椅子に掛けた魔女が遮る。
「はい。パチュリー様」
艶やかな紅桃色の髪の司書は頷くと、うずたかく積まれた本の山を徐々に崩しつつ、手元のリストの記載内容と照合していく。
鮮やかな手際によって僅かの間に作業を終えた使い魔は、主の前で報告した。
「魔理沙さんによって強奪されていた書籍が全て返却されたことを確認しました」
「ご苦労様」
余談だが、小悪魔は魔理沙を「さん」付けで呼ぶ。
アリスたち他の客人は「様」付けだ。
これは以前に「魔理沙様」と呼んだのを主に窘められたためである。
パチュリー曰く「貴重な古典書籍を散逸から護り、叡智の継承を役目とする神聖な図書館の財産を狙う不埒な盗人に敬称など付ける必要は無い」とのこと。
とはいっても、流石に呼び捨てにするのは気が引けたので、「魔理沙さん」としたのだ。
「強奪じゃなく、借りてただけだぜ。って、それはともかく!」
魔理沙はパチュリーをびしっと指差す。
「この通り本は全部返したんだから、約束通り箒と八卦炉を強化してもらうぜ!」
その指を鬱陶しそうに見ながら、パチュリーは答えた。
「はいはい。心配しなくても、もう出来上がってるわよ」
「出来てたのかよ!」と驚く魔法使い。
感激してるのね、と小悪魔は感じたが、魔理沙はがくりと床に膝を付いた。
「それじゃ私は、一体何のために辛い思いをして本をここまで運んだんだ。そんな必要無かったんじゃないか……」
あまりの言葉に目を丸くする小悪魔。
だが、魔理沙はすぐに復活すると、パチュリーに詰め寄った。
「で、どこにあるんだ? 私の魔道具は! 今すぐ持って来てくれ!」
顔前で捲くし立てる魔理沙に顔をしかめながら、パチュリーは言った。
「小悪魔。土星二十二番の気密収納棚から出してきてちょうだい」
主の指示を受けて飛んだ使い魔は、すぐに箒と八卦炉を手に戻って来た。
「おおお! これか!! それで、どんな風にパワーアップしたんだ!?」
小悪魔から奪うように二つの魔導具を引っ掴むと、魔理沙はパチュリーに訊ねた。
基本的には貴女の要望通りだけど、と前置きして魔女が説明する。
「簡単に言うわよ。箒の主な改造ポイントは高回転時の馬力の底上げと剛性のアップ。八卦炉の方は出力限界値を高めてあるわ」
「どっちも随分と重くなってるな」
以前とは明らかに違う重さがずしりと腕に伝わってくる。
「どちらも基本構造は変えてないけど、パーツを耐久性の高いものに交換したり新規に組み込んだりしたからね」
「ふーん。なるほどな」
へへへ、と笑う魔理沙の表情は、まるっきり新しい玩具を与えられた幼児のそれだった。
「ちょっと。試すのは外に出てからにしてちょうだい。ここでやったら出入り禁止にするわよ」
パチュリーは鼻白んで先手を打つ。
「わかったよ。じゃまた来るぜ!」
そう言い残すと、人間の魔法使いは図書館から出て行った。
残った主従が言葉を交わす。
「パチュリー様、魔理沙さんの魔導具を強化してよかったのですか?」
「どうして?」
「だって、これではアリス様が……」
「アリスは聡い子よ。きっと私の意図に気付いてくれるわ」
「意図?」
「そんなことより、お茶を淹れてちょうだい。それが終わったら、魔理沙から取り返した本を全て所定の書棚に戻して」
「はい、畏まりました。パチュリー様」
小悪魔は一礼すると、主の要望を叶えるために動き出した。
◇◇◇
朝食後の家事を終えたアリスは、書斎で人形の修繕をしていた。
自作の人形ではない。小柄で大人しい妖精がくれた、外の世界から流れ着いたと思われるビスク・ドールである。彼女は「湖の近くの雑木林で拾ったの」と言っていた。
初めて見た時にはかなり傷んでいたのだが、手を掛けた結果、今では大分直ってきている。
瞼を閉じた繊細な顔立ち。長い栗色の巻き毛とクラシック・グリーンゴールドのドレスが美しい。
かなり名のある人形師の作だろう。思わぬ掘り出し物だった。
今度妖精の子に何かお礼をしましょう、と考えていた時、アリスは魔力の波動が接近してくるのを感じた。
(この感じは魔法の箒。魔理沙ね。でも、何? この波動)
窓から外を見ると、箒に跨った魔理沙がこの家に向かって飛んでくるのが見えた。相当な速度を出している。
庭に降りようと高度を下げるがスピードを殺しきれず、足をつんのめらせた勢いのまま、ずべしゃあっと地面に突っ伏して倒れた。
(何やってるのよ、もう)
アリスが慌てて庭に出ると、「痛てて」と呟きながら魔理沙が起き上がったところだった。
ぱんぱんと服に付いた埃をはたき落としている人間の魔法使いに声を掛ける。
「ちょっと、大丈夫?」
「当たり前だろ。何ともないぜ」
格好悪いところを見られたと思ったのか、やや赤面しながら魔理沙が答えた。
「そんなことより、アリス。弾幕ごっこしようぜ!」
「またなの? よく飽きないわねぇ」
呆れ顔の人形遣いに、人間の魔法使いはニヤリと笑って見せる。
「ふっふっふ。今日は今までのようには行かないぜ! 何たって、魔導具をパワーアップしたからな!」
「パワーアップ?」
なるほど、先ほど感じた箒から発せられていた波動の違和感はそのせいか、とアリスは納得した。
人形遣いが興味を示したと見て、魔理沙は浮かれた様子で箒と八卦炉を自慢げに掲げる。
「ふむ……」
アリスは二つの魔導具には目もくれず、じっと魔理沙の身体を見ていた。
右手に八卦炉、左手に箒を掲げる彼女の骨格と筋肉の動きや、皮膚の表面に浮かぶ筋等を仔細に観察する。
(どちらの魔導具もかなり重そうだわ。箒は約41%、八卦炉は約52%、それぞれ今までよりも重量増加が見て取れる。箒の方はさっき感じた波動からすると、高回転時にパワーを発揮するセッティングが施されてるわね。推定馬力は今までの47%増。八卦炉は不明だけど、火力を強化してると見ていいでしょう)
更に人形遣いは、箒の波動から精霊魔法に特有の色を識別していた。とすると、これらの魔導具をチューンナップしたのはパチュリー・ノーレッジに間違い無い。
そしてアリスは、パチュリーの意図に気付いてげんなりとした。
身も蓋も無い言い方をすれば、「玩具をあげるから、これで遊びなさい」ということだろう。
魔女に踊らされている魔理沙に同情を覚える。
いや、彼女は無邪気に喜んでいるし、別に被害者というわけではないか。
魔理沙とパチュリーの間で何らかの取引があった可能性は高いが、それは彼女たちの問題だ。
「おい、アリス!?」
魔理沙は何やら考え込んでいる人形遣いに声を掛けた。
「え? あ、何? 魔理沙」
「何って、だから弾幕ごっこだよ!」
「ああ、弾幕。そうね、どうしようかしら」
アリスは再び思考に浸る。
魔理沙が他にマジックアイテムの類を持ち込んでいる可能性は無さそうだ。
もしそうであれば、自慢好きの彼女のこと。含み笑いを漏らしつつ「他にも秘密兵器があるんだぜ」くらいのことは言うだろう。
(箒と八卦炉の強化、か)
ある意味、それも努力の成果といえる。
人間の魔法使いの悩みに気付いてパチュリーが自発的に協力を申し出ることは有り得ないので、魔理沙の方から魔女に相談したのだろう。
(努力していることを他者に知られることを極端に嫌う、負けず嫌いの魔理沙がねぇ……)
ならば、とアリスは気持ちを切り替え、頭の中で、強化された箒と八卦炉を用いる魔理沙との戦闘をシミュレートしてみる。
両アイテムの性能を今までの50%増し。加えて、アリス側の持ち札を全部読まれていると仮定し、とりあえず144種のパターンを試行。
……………………。
予測される結果は、全て人形遣いの勝利だった。
油断したり、敢えて奇天烈な戦法を採らない限り、この弾幕勝負に彼女の敗北は無いだろう。
(でも……)
それでいいの? とアリスは自問した。
実のところ、彼女はそれほど弾幕ごっこの結果に固執していない。戦闘中に「ああ、これは負けるな」と判断したら、被害が広がらないうちにさっさと敗北を宣言する。
だが、魔理沙は違う。
どのような勝負であっても、勝利を得ることに執着心を燃やす。勝つために持てる全てを注ぎ込んでくる。
強化されたマジックアイテムを使っても自分に勝てなかったら、彼女はどうするだろう? どうなるだろう?
アリスは溜息をついた。
(やっぱり私は甘いようね)
苦笑を隠しながら、口を開く。
「ねぇ、魔理沙。たまには弾幕じゃなくて、別の勝負をしてみない?」
「別の勝負? 何をしようってんだ?」
「ちょっと待ってて」
訝しむ魔理沙を残して、アリスは玄関から屋内に入る。
一階の倉庫として使っている部屋の中を探すと、目的の物はすぐに見つかった。それを手に人間の魔法使いのところに戻る。
「お待たせ」
「何なんだよ一体……って。おまえ、それは!」
アリスが持っているものを見て驚く魔理沙。
人形遣いが手にしているのは、魔法の箒だった。
◇◇◇
「箒によるマッチレース?」
魔理沙が訊ねる。
マッチレースとは、一対一で勝敗を争う形式の競争である。
「そうよ。具体的にはね――」
アリスの説明はこのようなものだった。
スタート及びゴール地点は、今自分たちが居るここ、マーガトロイド邸の庭。
通過するチェックポイントは二箇所。
最初に博麗神社に向かい、鳥居をくぐる。
次に妖怪の山を目指し、麓にある双子杉の間を抜ける。
この二箇所を通過して、ゴールに早く辿り着いた方が勝ち。
「要するに、大きな三角形を描くコースを飛ぶわけだな。異存は無いけど、おまえはそれでいいのか? 私は幻想郷最速を謳われる魔理沙様なんだぜ?」
相手が烏天狗ならともかく、アリスでは役者不足だ。スピード勝負であれば、自分が負ける筈は無い。
魔理沙はそう考えている。
「私は勝算の無い戦いはしないわ」
アリスのごく自然な自信が、魔理沙には理解できない。人形遣いが箒に乗って飛ぶ姿など、唯の一度も見たことがいないのだ。
(そうか、箒に秘密があるのかもしれない)
魔理沙はそう考えた。
「ちょっとその箒を見せてくれないか?」
「いいわよ」
アリスはあっさりと箒を渡した。
魔理沙は注意深く隅々まで箒を調べる。非常に軽いことを除けば、どう見てもありふれた魔法の箒だった。軽さに関しても、自分の箒が重量級であるから余計にそう感じるのだろう。
「私が駆け出しの魔法使いだった頃に使ってた箒なのよ。もう随分乗ってなかったのだけど、メンテナンスはきちんとしてあるわ」
魔理沙の疑念を余所に、アリスはそう言った。
言われてみれば、なるほど、扱い易く調整された初心者用の箒という気がする。
箒を返しながら、人間の魔法使いは「ハンデやろうか?」と言った。
人形遣いは「結構よ」と答え、身を屈めて落ちていた枯れ枝を拾う。
「私が投げるこの枝が地面に着いたらスタートよ」
「解った」と魔理沙が頷く。
彼女が愛機に跨るのを確認し、横に並んだアリスも自分の箒に横乗りになる。
Ladies, start your engines!
二人が箒に魔力を篭める。徐々に、強く。
くぐもるような気配が周辺の空気を揺らめかせ、陽炎が発生する。
「Are you ready?」
「いつでもいいぜ!」
人形遣いが手首のスナップを効かせて投げ上げた枯れ枝が、くるくると回転しながら昇っていく。
やがて頂点に達し、重力に引かれて落下。こん、と堅い地面に触れた瞬間、二人の魔法使いは同時に箒の魔力を開放した。
(まずは、アリスの出鼻を挫く! ロケットスタートを決めてやるぜ!)
その気負いが不味かったのかもしれない。
一気に回転を上げすぎた魔理沙の箒は、派手に星を撒き散らしながら魔力を空転させた。
トラクションがかからず、ガクガクと激しく揺れながらスタート地点に留まっている。
時間をロスしてようやく飛び出したが、今度は膨大なパワーに対して乗り手のコントロールが追いつかず、アタマを振りながら左右に蛇行してしまう。俗に言う『スネークダッシュ』だ。
暴れる箒を捻じ伏せるようにして、何とか直進させることに成功した魔理沙が前方を見ると、アリスの姿は既にかなり遠くなっていた。
人形遣いは振り向かずとも精確に人間の魔法使いとの距離を把握している。
あの大パワーの箒では、気配や波動を感じ取るなというのが無理な相談だった。
あらあら、と苦笑する。
「ハンデは要らないと言ったのに」
アリスは回転数に合わせてとんとんとギアを上げた。
ストレスを与えないスムーズな操作に応えるように、彼女の箒はぐんと伸びるように加速する。
(オール・グリーン(全て正常)。……っと、やっと来たわね)
轟くような波動が背後から迫るのを感じた人形遣いの横に、人間の魔法使いが並んだ。
彼女の箒は直線番長だ。一旦スピードが乗れば、恐ろしいほどの速さを発揮する。
「あら魔理沙、いらっしゃい」
「へへっ。もう追いついたぜ、アリス!」
しかし、二人の魔法使い、二つの箒によるランデブー飛行は長くは続かなかった。
アリスの箒が遅れ出したからだ。
「なんだぁ? もう息切れかよ」
からかうように言う魔理沙に、アリスは前方斜め下を指差して見せた。
「んん? あっ!」
真っ直ぐに飛ぶ魔理沙と別れるように、アリスは徐々に高度を下げていく。
最初のチェックポイントである博麗神社が近づいていたのだ。
速度をほとんど落とすことなく、アリスは狙い一閃、針の穴を通すように鳥居の下をくぐり抜けた。
次いで、荷重移動を利用しつつ的確にカウンターを当てながら巧みに箒を旋回させると、そのまま妖怪の山に針路を取って加速していく。
一方、魔理沙は苦戦していた。
神社を飛び越しそうなオーバーラン気味の状態から一気に減速し、無理矢理に箒の頭を鳥居に向ける。
次の瞬間、魔理沙の視界が赤く染め上げられた。
強引な急降下によって頭上に押し上げる形のGが発生し、過剰な血液が頭部に集中。眼球内の毛細血管が充血することによって起こる『レッドアウト』と呼ばれる現象である。
元来、人間の身体は生身で空を飛べるようにはできていないのだ。
「ぐうっ!」
降下中に視界が塞がれていては、最悪地表に激突してしまう。
箒を掴んだ右手の握力を強めながら、魔理沙は左手で目を覆うと、局所的な治癒魔法を使った。
左手を箒に戻して目をしばたたかせ、回復した視力で前方を確認する。と、眼前に迫り来る石段が見えた。
「うおおおおっ!!」
箒の柄を締め上げるように脚を絡ませ、全身の力を篭めて腕を引く。
箒は掠めた石段に沿って駆け上がるように飛行する。すぐに鳥居が見えた。
石段の上限手前で魔理沙は鳥居をくぐるために水平飛行に移ろうとした。
だが、魔女が強化した箒はそこまで乗り手に従順ではなく、角度を僅かに浅くするのみ。
魔理沙は慌てた。このままでは貫(ぬき)と呼ばれる鳥居の横木にぶつかってしまう。
彼女は咄嗟に箒にべったりと寄り添うような姿勢を取り、がりりと背中に当たる木の感触に肝を冷やしながらも、どうにか鳥居をくぐることに成功した。
「やれやれ……。ちょっとスリルありすぎだぜ」
突然の魔力の鳴動に驚いたのか、社殿から境内に降りて来た巫女に目もくれず、魔理沙は次のチェックポイントである妖怪の山に箒を向けた。
人形遣いとの差は開いているが、人間の魔法使いは焦ってなどいなかった。
むしろ余裕とすら見える態度で、エプロンドレスの懐から一枚のカードを取り出す。
「スペルカードの使用は禁止だなんて、一言も言わなかったよなぁ、アリス!」
不敵な笑みとともに、スペルを宣言する。
「彗星『ブレイジングスター』!」
魔理沙と箒は輝く魔力の厚膜に包まれ、ロケットモーターに点火したかのように急激に加速した。
短時間で一気に距離を稼いだ魔理沙の視界の中で、箒に横乗りするアリスの姿が大きくなってくる。
スペルの効果が切れたところで、再びのサイド・バイ・サイド。
「よう、アリス。ごゆっくりだな」
「あんたこそ、余裕じゃない。鳥居のところでアクロバット飛行してたでしょ」
挨拶代わりの皮肉の応酬。
「ふん! じゃあ私は先に行くぜ!」
気の利いた反論を思い付かなかった魔理沙がシフトアップすると、箒は速度を上げた。
パチュリーにチューンを施された箒はとんだ暴れ馬だ。低速域のトルクの細さはともかく、高回転域で推力が乗れば圧倒的な速さを誇る。
このまま一気に引き離すぜ! と意気込んだ魔理沙は、後ろに気配を感じて振り向き、目を疑った。
彼女と変わらぬ速度で、アリスがぴったりと後ろを飛んでいたのだ。
「そんな!? くっ!」
ギアをオーバートップに入れて、更に猛然と加速する。
だが、彼我の差は変わらず、人形遣いは付かず離れずの距離を保ちながら涼しい顔で後ろに付いている。
「嘘だろ!! なんでだ!?」
魔理沙はスリップストリームかと疑ったが、それは有り得ないと思い直した。
スリップストリームとは別名ドラフティングとも呼ばれる、外の世界の自転車競技のテクニックである。
高速で走行する車の真後ろ近辺では、前方で空気を押しのけた分気圧が下がっているために後ろの物体などを吸引する効果が生まれ、空気抵抗も通常より低下した状態となっている。そこで、前を走る車の真後ろに張り付いた車は前車に引っ張られ、同じ速度をより低い出力で走ることが可能となる。
この現象をスリップストリームというのだ。
魔理沙は外の世界の書物から得た知識として、このことを知っていた。
だからこそ、不可解な現状に対する説明にならないことも解っている。
何故なら、魔法使いは進行方向に特殊な障壁を展開して飛行するからだ。
故に、基本的には空気や気圧の影響を受けないため、スリップストリームの効果は無いのだ。
では、何故アリスは魔理沙と同じ速度で飛べるのか?
スタート前に調べたアリスの箒は、確かに初心者用のものだった。フラットな吹け上がりとコントローラブルな操縦性は長所だが、パワー面で決定的に劣るため、トップスピードで魔理沙の箒に付いて来れる筈がない。
(まさか、この箒に何かトラブルが起きたのか?)
魔理沙は振り返って箒の後部を見る。
(特に異常は……ん? 何だあれは?)
柄の後ろの方、箒の尻尾を思わせる魔力を篭めた細枝を束ねた辺りに、何か妙な気配を感じる。
そこに片手を伸ばすと、見えない糸のようなものに指先が触れた。
――糸?
「あら? 見つかっちゃった?」
高速で空気を切り裂く風切り音に混じって、しれっとしたアリスの声が耳に届いた。
「なっ! おまえ、まさか!?」
魔理沙は人形遣いを睨み付ける。
「でも、もういいわ」
アリスは、魔理沙の箒に巻き付けていた人形操術用の操り糸を解いた。
タネが解ってみれば、単純なトリックである。アリスは不可視の魔法の糸で魔理沙の箒と自分の箒を繋ぎ、牽引させていたのだ。
スピードに乗ったまま、偉容を顕にしている妖怪の山の麓に向けてアリスは降下していく。
「逃がすか!」
魔理沙も人形遣いを追うように高度を下げていった。
二つ目のチェックポイントの双子杉とは、妖怪の山の麓に二本並んで立つ高い杉の樹の俗称である。
この辺りには他に目立つものが無いので、幻想郷の人妖たちからは、空を飛ぶ際のランドマークとして親しまれていた。
スピードを殺すことなく、無造作とも思える機動で双子杉に接近したアリスは、修正舵を切りながらスムーズに二本の樹が交差させる枝の下を飛び抜ける。と、息を付く間も無く、見事なアキュート・ターンを決めて駆け去った。
一見何でもないことのようだが、非常に難度の高いテクニックだ。
後ろから見ていて、燕の如き鮮やかな飛行に舌を巻いたのは魔理沙である。
(器用な奴だとは思っていたが、こんなことまで……)
今度は魔理沙の番だ。頭を振って気を取り直すと、ぐんぐん近づいてくる双子杉に向き合う。
こうして改めて見ると、二本の樹の幹の間は意外と狭い。
(アリスに出来たんだ! 私だって!)
速度をそのままに狙いを定め、思い切って突っ込む。
(目を逸らすな!)
こういう時に重要なのは視点である。
身体の細かな動きは眼に連動していることを魔理沙は経験則で知っていた。
恐怖心を捻じ伏せて睨みつける幹の間の空間を、人間の魔法使いは狙い違わず突き抜けた。
「どうだ!」
ガッツポーズで叫ぶ魔理沙。
そこからスピードを落としつつ、大きく旋回。
彼女の箒は低速域ではバイブレーションが酷い。何とか宥め賺しながら加速体勢に持っていくしかなかった。
双子杉を通過した今、あとはゴールであるマーガトロイド邸を目指すのみ。
魔理沙の計算では、双子杉とゴールとの中間地点付近でアリスに追いつける筈だ。
そうなれば、トップスピードに秀でる自分に分がある。
仮に、また魔法の糸でアリスを引っ張るはめになろうと、先にゴールすれば問題無い。
暴れ馬に鞭を入るように、魔理沙は箒を速度に乗せていく。
ハイスピードでしばらく飛び続けると、箒に横乗りで飛ぶアリスが見えた。
そういえば、もうすぐ中間地点を越えるところだ。
(お、そうだ。いいこと思いついたぜ)
無防備な人形遣いの背中を見ているうちに、人間の魔法使いに悪戯心が芽生えてきた。
魔理沙は前方の『目標』に向けて八卦炉を構える。
(箒だけじゃなく、こいつの強化具合も試しとかないとな)
ししし、と笑みを漏らしつつ、魔力の充填を開始する。
スペルと同様、弾幕攻撃も禁じられてはいないのだ。魔法の糸で牽引させられた恨みも忘れていない。
(私が悪いんじゃない。注意を怠ったアリスのミスだぜ)
ニヤリと笑い、魔理沙はスペルを宣言した。
「恋符『マスタースパーク』!」
八卦炉から一直線に撃ち出された極太の魔光弾が人形遣いの姿を掻き消す。
その威力に魔理沙は満足した。
「凄いな、これは。流石パチュリー。いい仕事してくれるぜ」
「そうね。火力自体は今までの43%増しといったところかしら。その分、魔力のチャージに時間がかかりそうだけど」
「え!?」
今聞こえたのは、確かにアリスの声だった。
「どこだ、アリス!?」
「あんたの上よ」
上空から箒をスライド降下させながら、人形遣いが現れた。
「あんなに殺気を発散させてたら、気付かないわけないでしょ。それに、その八卦炉。パワーは強化されてるけど、あんた自身が扱いきれてないわ。射撃の瞬間、反動に圧されて手がブレたんじゃない?」
「くっ! 何を偉そうに!」
「偉そうついでに、もう一つ教えてあげるわ。八卦炉に魔力を篭めたせいで、箒の方がお留守になってるわよ」
「えっ!?」
言われてみると、確かにはっきり判るほどに魔理沙の箒は速度を落としていた。
それを尻目に、アリスはするすると箒を加速させていく。
「あ、これ、さっきのお返しね」
前方に離れて行きながら、アリスは魔理沙に向かって一体の人形を放った。
咄嗟に受け取ろうとした魔理沙の手前で、人形が爆発する。
閃光と爆風に煽られ、彼女の箒はきりもみ状態となった。
箒にしがみ付きながらどうにか体勢を回復させ、水平飛行に移る頃には、アリスの姿は遥か遠くに点となって見えるのみだった。
(ああ、アリスが行ってしまう。駄目、そんなの駄目だ! アリス、私を置いていかないで……!)
アリスが使った技は魔符『アーティフルサクリファイス』ではない。その簡易版である。
スペルカードですらなく、派手に爆発はするが殺傷力は皆無に近い。
先ほどのような『猫騙し』や牽制を目的として使用するのだが、一時的に魔理沙の足を止める効果は十分にあった。
そして、低速スカスカの箒であの地点から再加速に入っては、魔理沙の敗北は確定だ。
ごくろうさま、と回収した人形の頭を撫でるアリスは、やや残念そうに「雉も鳴かずば、撃たれまいに」と呟いた。
もうすぐゴールであるマーガトロイド邸に到達する。
◇◇◇
このマッチレースを提案したのはアリスである。
魔理沙と弾幕ごっこをすれば、99%以上の確率で自分が勝利することをアリスは確信してしまった。
一切の私情を排除した無味乾燥なカルキュレーション(計算及びその結果)にすぎないが、それだけに精度は折り紙付きだ。
正直、自分の思い上がりかもしれないとも思う。
しかし、このレースであれば勝率は50%程度まで下がり、魔理沙にも十分な勝機があったのだ。だからこの形を採った。
(我ながら甘いわね)
何をやってるんだか、と呟く図書館の魔女の呆れ顔が脳裏に浮かぶ。
間もなくゴールだ。この勝負もアリスの勝ちに終わる。
だが、人形遣いの表情に歓喜の色は無い。
その時、アリスの頭の中に警戒警報が鳴り響いた。
後方から魔力の塊のようなものが超高速で接近してくるのを感知したのだ。
(この波動は、まさか!?)
強力な魔力を纏い、彼女が来る。
荒馬に跨り、空を疾駆して飛んで来る。
それは再度、彗星のスペルカード『ブレイジングスター』を発動させた霧雨魔理沙だった。
真っ直ぐに前だけを見て、驚くアリスの横をオーバーテイクして行く。
「止めなさい、魔理沙!! そのスピードじゃ着地できない!!」
人間の魔法使いの背中を掴むかのように手を伸ばしながら、人形遣いは叫んだ。
アリスが後ろで何かを言っている。
(何だよアリス。そんな小声じゃ聞こえないぜ。もっと大きな声で言ってくれ)
妙にゆっくりと視界の中で拡大されていく地面を呆として見つめながら、魔理沙は意識を手放した――。
◆◆◆
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(寒い……)
気が付くと、魔理沙の意識は暗黒の中にたゆたっていた。
身体は動かない。そもそも今の自分に身体があるのかも判らなかった。
ふわふわ、ふわふわ。ゆらゆら、ゆらゆら。
べったりとした黒に埋め尽くされた、それだけの空間。外にも内にも何も無く、ただ意識だけが茫洋としてここに在る。
まったく、ここは自分に相応しい世界だと魔理沙は思った。
何も無い。何も存在しない。
自分にも、何も無い。
自分の中に何も無いから、遮二無二ものを集めた。
大事そうなもの、価値があると感じたものを片っ端から手に入れて、家の中に放り込んだ。
しかし、蒐集したものの山がどれほど高くなっても、空っぽな心は埋まらない。
逆に虚しくなるばかりだった。
そんな時、幻想郷で彼女と再会したのだ。
以前に魔界で出会い、弾幕を交えた時よりも美しく成長した少女。
彼女は魔理沙に無いもの、魔理沙が欲するものをたくさん持っていた。
抜けるように白い肌。整った顔立ち。透明度の高い蒼い瞳。
髪だってそうだ。同じ金髪なのに、自分のくすんだ色の癖毛とは違う。
月光を溶いた繭から生成した金絹糸を思わせる、さらさらとした白金色の髪。
さりげなく上品な物腰。魔法のメッカである魔界の神の娘という出自。
更には、気難し屋の紅魔館の魔女も認める、魔法使いとしての才能……。
でも、彼女は何も求めない。
蒐集品を巡って争うことがあっても、不利と見ればあっさり手を引く。
弾幕ごっこにしても、決して無理をしない。
本気で戦うことは無く、死に物狂いで勝利を求めるところなど、ついぞ見たことが無い。
彼女に勝利を、蒐集品を譲られる度に、空っぽな心を埋めるためにしゃかりきになっている自分自身を見透かされているようで、惨めな気分になった。
なんで自分はこうなんだろう?
なんで彼女はああなんだろう?
そんなことを考えているうちに、いつの間にか彼女の存在が心の中で大きくなっていた。
気になるから、ちょっかいをかける。
構ってほしいから、困らせるようなことをする。
普段は落ち着き払っていて、その癖からかうとムキになって怒ったりもする。
そんな育ちの良さを窺わせる彼女の反応に内心で安堵するのも、いつものことだ。
以前、彼女から「幻想郷で暮らすことにした」と聞いた時、世間知らずな箱入り娘の気紛れだと鼻で笑った。どうせすぐに故郷に逃げ帰るさ、とタカをくくっていた。
しかし魔理沙の勝手な予想に反して、彼女は苦労しながらも、一から始めた魔法の森での生活を確立させていった。
自分には友達である霊夢や香霖が居た。師匠である魅魔様が居た。
でも、彼女には頼れる者は誰も居なかった筈だ。
魔界に留まっていれば何不自由無く過ごせたろうに、敢えて異郷に身を置いて独りで生活する、芯の強さ。
辛いこともある筈なのに、彼女からは愚痴も弱音も聞いたことが無い。
繊細な人形のように儚げで、触れれば砕けそうに脆く見えるくせに、他の誰よりも真っ直ぐに立っている。
自律する人形を作るという確固たる目標に向かい、時に迷いながらも決して歩みを止めようとはしない彼女。
適当にその時々で気が向いた魔法の研究をしたり、ただぶらぶらと遊んでいる自分とは大違いだ。
自分には、長期的なスパンでの目標なんて無い。
彼女は文字通りの意味で『高嶺の花』だ。
高い山の頂きに咲く一輪の可憐な花。
例え誰にも愛でられずとも、彼女は凛としてそこに咲くのだろう。
彼女が羨ましかった。
傍に居たかった。
離れたくなかった。
置いて行かれたくなかった……。
いつの間にか、暗黒の中に彼女が居た。寒さも、もう感じない。
差し込む光の中に膝を崩して座り、柔らかく抱いた人形の長い髪を櫛で梳く、白金色の髪の人形遣い。
穏やかな微笑を湛えるその姿は、まるで聖母のようだ。
(やっぱり、アリスは綺麗だ)
うっとりとそう考えた時、ふいに彼女がこちらを向いた。
「目が覚めたのね、魔理沙」
◇◇◇
(目が覚めた? 一体何のことだ?)
疑問に思いつつ、重すぎる瞼をなんとか開いて周囲を見ると、そこはもう暗黒の空間ではなかった。
何処とも知れぬ和室。
そこに敷かれた布団に、魔理沙は身体を横たえている。
傍らに座るアリスの姿を、天井の明かり窓が和らげた陽光が照らしていた。
(ここは、どこだ?)
そう訊こうとしたが、口から声は出ず、意味不明な音が洩れただけだった。
「ここは永遠亭の病室。あんた三日も眠り続けてたのよ」
訊ねたいことを察してくれたらしく、抱いていた上海人形を魔法で納めながらアリスが答える。
「待っててね。永琳を呼んでくるから」
そう言って出て行くアリスを見送ると、魔理沙は首を動かして自分の身体を見た。
和装の寝巻きから覗ける筈の肌は包帯だらけだった。
吊り下げられている左脚の包帯の盛り上がり具合からすると、ここは骨折しているのだろう。
大して待つことなく、首の後ろに纏めた長い銀髪を揺らしながら、永遠亭の薬師である八意永琳が看護士の妖怪兎を一羽伴って入ってきた。後ろにアリスが続く。
「気分はどうかしら?」
訊かれても声が出せない、と身振りで示す。
永琳は頷くと、看護士から受け取った薬湯を魔理沙に渡した。
「口に含むようにして、ゆっくりと飲みなさい」
言われたようにする。
少し甘い温めの薬湯を飲むと、ようやく声が出せるようになった。
永琳から自分の怪我についての説明を受ける。
骨折は左脚のみ。打撲や擦過傷等の細かい怪我は無数にあったが、特に問題は無いとのことだった。
「しばらくの間は安静にしていてね。それと、あと一週間ほどはこのまま入院してもらうわよ」と説明を締め括ると、お大事にね、と言い置いて薬師と看護士は出て行った。
アリスは頭を下げて一人と一羽を見送ると、私の布団の傍らの座布団に戻って正座した。
彼女は私が眠っている三日の間、昼間の面会時間にはこの部屋に居てくれていたそうだ。
「私、どうなったんだ? おまえと箒でレースをしてて、ゴールが見えたところまでは憶えてるんだけど……」
布団に横になっている魔理沙の疑問にアリスが答える。
「ブレイジングスターで地球に喧嘩を売ろうとしたのよ」
「ああ、そっか。ブースト代わりに使ったんだ。それで地面に激突して、この有様ってわけか」
納得したとばかりに魔理沙は頷く。
「ってことは、レースは私の勝ちだったんだな」
そう言って笑いながらアリスを見ると、彼女の表情は「心底呆れました」と語っていた。
「……何だよ? その顔は」
「彗星符の速度で地表にぶつかって、その程度の怪我で済むと思う?」
「え? そりゃまあ、運が良ければ」
「なら、そういうことにしておいてあげるわ」
魔理沙にもはや「可哀相な人」と語る視線が注がれる。
「何だよ、気になるだろ。教えてくれ。私はどうなったんだ?」
アリスは溜息をつくと、淡々と語り出した。
「ブレイジングスターで横を通過された時、私はあんたに魔法の糸を巻き付けたの。彗星符は後ろが無防備だからね。その後気絶してくれたのが幸いだったわ。糸を通じてスペルを強制終了させて、減速と同時に落下軌道の転換を試みて、前面に緩衝魔法を展開して……。ま、思いつく限りのことをやったわけよ。流石に無傷とはいかなかったけど、あのままなら即死だったんだから、感謝してよね」
「そ、そうか……。アリス、ありがとうな」
神妙な顔でそう言う魔理沙を、アリスはぽかんとして見つめた。次いで、くすくすと笑い出す。
「な、なんだよ! 人が真面目に礼を言ってるのに!」
「だ、だって、本当にお礼を言うなんて思わなかったから。ふふ……」
「もういいよ! ったく!」
頬を膨らませ、ぷいっとアリスとは反対側に顔を向ける魔理沙。
(あのままなら即死だった、か。死ぬかもしれないなんて、まったく考えなかったな)
今更ながら、自分の取った行動の無謀さに気付き、次第に恐ろしくなってきた。
(もしも私が死んだら、アリスは……)
魔理沙はもぞもぞと頭を動かし、人形遣いを見た。
「なあ、アリス」
「なに?」
「アリスは、私が死んだら泣いてくれるか?」
「難しいわね。人の家に勝手に上がり込んだり、無断で貴重品を持ち出す不逞の輩が居なくなって悲しいと感じるのは」
「わ、悪いとは思ってるんだ……」
魔理沙はアリスの顔を盗み見る。やはり綺麗だった。
「アリスは、私とは違うから」
「? 何のことよ?」
「え、と。その……。幻想郷で、独りで生活できてるところ、とか……」
口篭もりながら言う魔理沙に、アリスは不思議そうな目を向ける。
「そんなことなら、あんただって同じじゃない。元は里の大きな道具屋さんの一人娘なんでしょ? あ、魔法使いの家系だったかしら?」
「道具屋で合ってるぜ。でも、違う。私は、違うんだよ。アリスとは……」
「魔理沙?」
いつになく沈んだ様子の魔理沙に、戸惑うアリス。
人間の魔法使いは上半身を起こすと、誰にも話したことの無い過去をぽつぽつと語り出した。
魔理沙の実家である霧雨家は、人里でも一番大きな道具屋である。
彼女はそこの一人娘として、花よ蝶よと大切に育てられた。
欲しいと言ったものは何でも与えられたし、大抵の願いは叶えられた。
快活で頭も良く、人見知りをしない太陽のような娘は両親の自慢だった。
些か元気すぎることと、魔法に執心するきらいがあることが心配の種ではあったが、大目に見られていた。
そんなある日、事件が起こる……。
「ある日、私は近所の友達の家で遊んでたんだ。
で、その友達が『これはウチの家宝なのよ』って言って、何かを自慢されたんだ。
それが何だったのか、もう記憶に無い。ただ、キレイなものだったってことだけは憶えてる。
次の日、その友達は一家揃って出かけていった。私は前日に聞いてて、そのことを知っていた。
それで、そいつの家に忍び込んで、『家宝』を、その……盗み出したんだ。
自分の家に帰って手に入れたお宝を見て笑っているところを、親父に見つかった。
『それをどうしたんだ?』って問い質されて、正直に答えたよ。隠すなんて考えもしなかった。
別にどうってことないと思ってたからな。
事の顛末を聞いた親父は真っ青になってた。
で、夜になってから私を連れて、友達の家に行ったんだ。
その家の土間で親父は土下座して、家族に大金を渡してたよ。愛娘の将来を慮っての口止め料ってことだろう。
お陰で、このことが公になって私が後ろ指を差されることは無かった。
でも、私は居た堪れなくなって……親に勘当されたってことにして、里を出たんだ。
いや、逃げた。そう、私は逃げたんだよ……」
語り終えた魔理沙は、ほう、と息を付いた。
枕元に置かれていた急須から湯飲み茶碗に白湯を注ぎ、一口飲んで乾いた喉を潤す。ちらりとアリスを見た。
人形遣いは、きょとんとしている。何を言っていいか解らないのだろう。
ややあって、「何でその話を私に? 今まで隠してたんでしょ?」と言った。
「ああ。このことは、霊夢ですら知らない筈だ。アリスに話したのは、……ええと、おまえに知っておいてほしかったから……」
ぽそりとそう言い、また一口白湯を飲んだ。
そんな魔理沙を、アリスはじっと見ている。
外の竹林から、笹の葉擦れの音が聞こえてきた。
沈黙を破ったのは、人間の魔法使いだった。
「ごめんな、アリス」
「? どれのこと?」
疑問形による人形遣いの返答に、魔理沙は苦笑するしかなかった。
「何のこと?」ではなく、「どれのこと?」か。
確かに、自分は今まで彼女に迷惑を掛けすぎている。
「例の魔宝石のこと、さ」
ああ、とアリスは得心した。目を閉じて、考える。
確かに魔宝石は砕けたが、十二体の戦闘人形に生まれ変わって今も生き続けている。死んだわけではない。
(今度神綺様にお会いしたら、「自分の不注意で壊してしまいました」と言って謝ろう)
魔理沙に対する恨みつらみは、もはや解消している。
目を開いたアリスは微笑みを浮かべて、魔理沙に告げた。
「もう気にしなくていいわ」
「そ、そっか」
頬を染めて俯く魔理沙。
(そうだ。私がどれだけ迷惑を掛けようと、いつだってアリスは許してくれたじゃないか。なのに私は、つまらない意地を張って……)
こんな少女が存在し、しかも自分と同じ時代、同じ世界に生きていることが、魔理沙にはまるで奇跡のように感じられてならなかった。
「やっぱりアリスは優しいな。それに、何だか最近変わった気がする」
「そう? 自分じゃ解らないわ」
「いや、確かに変わったぜ。その、何て言うか……綺麗になったよ」
前から綺麗だったけどな、とは流石に言えない。恥ずかしすぎて。
アリスはぽかんとした後、くすくすと笑い出した。
「何よそれ。ひょっとして告白?」
冗談のつもりだった。
「ああ、告白だぜ」
しかし魔理沙は人形遣いが見たこともないような真剣な表情を彼女に向ける。
「好きだ、アリス。おまえを、アリス・マーガトロイドを他の誰にも渡したくない」
突然の展開に、アリスは困惑していた。
「アリスと一緒に居ると楽しいし、おまえが他の奴と笑い合ってると、胸が痛むんだ。だから、その……私と、付き合ってほしい」
人形遣いは悩んだ。思いつめたような魔理沙の様子からすると、とても自分をからかっているとは考えられなかった。
しかし、今までの魔理沙に、自分への好意を匂わせる言動があっただろうか? いや、思い付かない。
「私、私は……」
アリスは俯き、考え込んだ。
魔理沙の様子をそれとなく窺う。
淡い感情を伝えたせいか、頬を染め、視線は妙に熱っぽい。しかし……。
(恋人に? 私と魔理沙が?)
アリスはどうにも妙な気分だった。
腑に落ちない、という表現を今の自分の心情に当てはめるのは間違いだろうか。
要するに、『魔理沙に寄り添って幸福そうに笑うアリス』という光景が、どうしても頭に浮かばないのだ。
現在の魔理沙の動向は大体解っているつもりだ。
まともな収入は無きに等しい、その日暮らしの魔法使い。
香霖堂で商品を入手し、代金は踏み倒す。私は今後、そのお金を支払うのだろうか?
紅魔館地下図書館で、「死んだら返すぜ」という捨て台詞と共に書籍を強奪する。私は今後、その尻拭いをするのだろうか?
その他諸々、魔理沙に関する苦情受け付け係を務めるはめになるのだろうか?
魔理沙の自宅の有様と生活習慣を思い起こしながら、彼女と自分が一緒に暮らす様を想像してみる。
……………………。
気が重くなった。
(これじゃ私、まるっきり住み込みの家政婦じゃない)
もしくは、夢の世界に生きる者と、そんな恋人に尽くし支えるダメ女というところだろうか。
時折、魔法の研究等でひたむきに研鑽を積む姿には好感が持てるが、その間恋人が省みられることは無いだろう。精々都合の良い助手扱いされるのが関の山だ。
アリスは頭を抱えたくなった。
別に、メリット、デメリットで恋愛を計るつもりは無いが、それにしても限度がある。
思うに、アリスと魔理沙はそれぞれ異なる意味で『女』なのだ。
魔理沙は『夢見る乙女』
アリスは『リアリスト』
平行線を辿っている二人のラインが交わるとは考え難い。
少なくとも、どちらかが変わらなければ。
しかし――。
(どうにも無理よね、これは)
アリスの思索はそう帰着した。
そして彼女は、己の内に生じた疑問の答えを目の前の少女の口から聞かなければならない……。
アリスは顔を上げ、魔理沙の目を見つめた。
彼女はびくっと身を震わせたが、視線を逸らすことなく受け止める。
アリスは心を落ち着かせてから、切り出した。
「随分と急な話だけど、どうして突然そんなことを?」
「確かに突然だよな。自分でもそう思う。
さっきも言った通り、アリスが綺麗だってことに気付いてさ。その上優しくて、料理とかも上手だし。
で、レミリアたちと最近よく会ってるって知った時、自分の気持ちが解ったんだ。おまえを誰にも渡したくない! って」
「そう……」
「で、さ……。アリスはどうなんだ? 私を、こ、恋人として」
人形遣いの少女、溜息をひとつ。
「魔理沙、あんたきっと勘違いしてるのよ」
「……勘違い?」
「今のあんたにとって、私は稀少なアイテムと同じなの。それがレミリアたちに取られそうだから、執着してるだけ。
アイテムなら、手に入れた後は部屋の隅に放置して埃を被らせようと文句は言わないわよね。
でも、私には自分の意志があるのよ?」
「解ってるさ! だからこうやって告白を――」
「本当に解ってる? これまで霧雨魔理沙はアリス・マーガトロイドに意思があることを理解した上で、それを尊重してきましたって、胸を張って言えるの?」
「そ、そりゃあ――」
魔理沙は言葉に詰まった。
今までのアリスに対する自分の言葉や態度が鮮明に脳裏に浮かび上がる。
魔理沙は彼女の存在をどう捉え、どう接し、どう扱ってきた?
茶菓子や食事を供してくれる者。貴重なマジックアイテムや魔導書の保管者。魔法の研究や日常の雑事で助けてくれる者。
総括すれば、『便利な隣人』だ。
「それは……だって……私は……」
唇を噛み、眉根を寄せて俯く魔理沙。
「いや、私だってな――」と、いつものように屁理屈で返すこともできたが、そのような場当たり的な軽い言葉に意味など無いことは解っている。
己の情けなさに目が滲み、とうとう魔理沙はしゃくりあげて涙を零し始めた。
抱き締めてあげるべきだろうか? と手を伸ばしかけて、アリスは思い止まる。
深く澄んだ極北の湖を思わせる彼女の蒼い瞳は、どこか達観した様を窺わせた。
やがて、魔理沙は涙を拭うと口を開いた。
「あ、あの、さ……」
「なにかしら?」
「それでも……。私も、その……アリスの傍に居させてくれないか?
もう、嫌がるようなこと、なるべくしないようにするから……」
アリスは微笑を浮かべ、頷いた。
彼女のこの表情はきっと、レミリアや妖精たちに向けているものと変わらない。
魔理沙はそう感じた。
今はまだ、それでいい。
でも――。
(でも、いつかきっと私がアリスの『特別』になるんだ!)
アリスが魔法使いとして上の階位に進むなら、自分もそこに昇る。
どれほど時間がかかろうと、修行でも何でもして『高嶺の花』を手にすることを、魔理沙は決意した。
想い、想われる、二人の魔法使い。
その姿を、天窓から差し込む光が優しく照らしていた。
【 The End 】
「……まさか、こんなことをさせられるとは思わなかったわ」
レミリアは溜息と共に呟き、手に提げていた大型ポリタンクをどすんと置いた。
ここはマーガトロイド邸の玄関前である。
人形遣いに先導された吸血鬼は、井戸水を満載したポリタンクを持ちながらここまで飛んできたのだ。
彼女の膂力をもってすれば大した労働ではないが、アリスから困難な要求が突きつけられることを覚悟していたレミリアとしては、肩透かしを食らった気分だ。
「何でも言うことを聞くと言ったのは、貴女でしょ?」
いたずらっぽく微笑みながらアリスは簡易結界を解除して扉を開き、中に入るよう促した。
レミリアにとっては、これがマーガトロイド邸への初訪問だ。
ポリタンクを置き、「こっちよ」と廊下を歩くアリスの後ろに続く。
着いた先は浴室だった。
「え? なんでお風呂?」
驚く吸血鬼に、人形遣いは「当然でしょ」と言った。
「私もだけど、貴女かなり汚れてるわよ。服もぼろぼろだし」
そう言いながら、脱衣所でアリスはさっさと服を脱いでいく。
迷いはしたが、結局レミリアも彼女に倣った。
ちなみに、二人とも戦闘による怪我を負っていたが、吸血鬼は既に再生し、人形遣いも治癒魔法によって完全に回復している。
浴室に入ると、レミリアは風呂椅子に座らされた。アリスはその後ろで膝立ちしている。
「あ、あの。私、水もお湯も……ひゃっ!」
石鹸で立てた泡を浸けたタオルで、アリスがレミリアの背中に触れたのだ。
「解ってるわよ。貴女の嫌がることはしないわ」
「う、うん」
アリスは泡のタオルで丁寧にレミリアの肌を拭っていく。
自分の方は、人形にやらせているようだ。
レミリアはちらりと窺うようにアリスを見た。
青白いほど病的な自分の肌とは違い、人形遣いのそれからは雪のような白さと滑らかさを感じた。
柔らかな曲線を描く身体のラインに、何故かどきまぎしてしまう。
顔を真っ赤にしていると、
「どうしたの? もういいわよ。立って」と声を掛けられた。
言われた通りに立ち上がったレミリアの身体は、今度は柔らかなバスタオルで拭かれていく。
「はい終わり。綺麗になったわ」
微笑むアリスの顔をレミリアは直視できなかった。
浴室から上がると、下着やキャミソールと一緒に一着のドレスを渡された。淡いオレンジ色を基調として、所々に白のアクセントが配置されたものだ。
どれも着てみると、まるであつらえたように身体に合っていた。
肌触りは軽く、とても着心地が良い。
驚いてアリスを見る。
「うん。さっき急いでリサイズしたのだけど、ぴったりね。そのドレス、私が仕立てたのよ」
少し誇らしげに人形遣いが言った。
彼女が着ているのは、いつもの青いシンプルなドレスと白のケープのコンビネーション。
きっと同じ服を何着も持っているのだろう。
鏡の前で髪を整えられた後、「ここで待っていてちょうだい」と応接間に通された。
「わぁ……」
そこはよく整頓された、小奇麗な部屋だった。
部屋の中心に配置されたソファを始めとする調度品の数々は、シックな雰囲気を保って統一されている。花瓶に活けられた花々や鉢植えの観葉植物、家主の手作りと思しきいくつかの小物によって、暖かな彩りが添えられていた。
紅魔館の応接室のように豪奢なインテリアで飾られているわけではないが、全体的に調和の取れた快さで満たされた、落ち着きを感じられる空間である。
サイドボードの上に数体の人形が置かれているのが、何ともアリスらしい。
レミリアが物珍しそうに部屋のあちこちを見ていると、アリスがティーセットとお菓子を載せたトレイを持って入って来た。
「流石に、魔理沙よりはお行儀がいいわね」
「あんなのと一緒にしないでちょうだい。私は貴族なのよ」
むくれて、ぷいっと横を向く。
「これは失礼いたしました。お嬢様」
顔を見合わせ、二人は笑い合う。
ひとしきり笑った後、レミリアは真面目な表情を作ると、アリスに頭を下げた。
「アリス・マーガトロイド。戦闘の後、助けてくれたことにお礼を言わせてちょうだい。
もし湖に落ちてたら、人間でいう全身大火傷を負っていたところよ」
アリスは頷き、「気にしなくていいわ」とだけ言った。
「それよりも、ソファに掛けて。冷めないうちに紅茶とお菓子をどうぞ」
紅茶の葉はニルギリ。お菓子は昼前に作って魔法で冷蔵処置を施しておいた、アプリコットのヨーグルトババロアだ。
レミリアはババロアを匙ですくい、口に運ぶ。
甘酸っぱい美味しさがふわりと舌の上に広がった。今はやや暑い初夏の夜。ひんやりとした食感がなんとも言えない。
更に紅茶を一口飲む。と、吸血鬼の動きが止まった。
ややあって、また少し口に含んだ。
上等な酒を味わうように、舌の上で転がしてみる。
「この紅茶、美味しい……。咲夜の淹れたものよりも、ずっとコクがあって深い味。別の茶葉ではあるけど、他の要素が決定的に違うわね。それは一体何? 淹れ方かしら?」
流石は吸血鬼といえる鋭敏な味覚である。
咲夜がレミリアのために淹れる紅茶は、主人の好みに合わせて最適化されたものの筈だ。それよりも美味と感じるこの紅茶。一体いかなるものだろう?
真に味を解する者の言葉に、アリスは満足気に頷いた。
彼女も紅魔館では何度か咲夜の手による紅茶を飲んでいる。
「淹れ方というか、技術的には彼女も私も然程の違いは無いわ。美味しい紅茶を抽出する原則、所謂ゴールデンルールに則っている。違うのは、水よ」
「水?」
「といっても、水そのものは変わらない。同じ水系の地下水脈から汲み上げた井戸水ですもの」
「井戸水って、もしかして、さっき私が運んで来た?」
「そう。あの井戸の水よ」
使っている水も同じ。それでは先ほどのアリスの言葉と矛盾するではないか。
そう思ったが、レミリアは黙して、人形遣いから次の言葉が紡がれるのを待つ。
いつもの自分であれば「勿体振らずに、さっさと答えを言いなさい!」と激昂してもおかしくないのに。何故今はこんなにも落ち着いていられるのだろう?
(きっと、この場の雰囲気のせいよ)
吸血鬼はそう判断した。
この部屋の中は、とてもゆったりとした空気と時間に包まれている。
その中で、アリスは噛んで含めるように言った。
「咲夜が主である貴女や来客に出す紅茶に使う水、それは井戸水を時間をかけて丁寧に濾したものなの。でも、それでは水に元々含まれている雑味を消してしまうことになる。そして、雑味とは即ち旨味でもあるのよ。
何事にも完璧を目指す彼女らしい行為だけど、必ずしも、クリアなもの、純粋なものが正しいとは限らないわ。だから私は、一度沸騰させただけの井戸水を使うの」
アリスは自分も紅茶を飲み、唇を湿らせる。
「あの湖の周辺は水が美味しい土地柄よ。もしも人間たちがあの地に根付いたとしたら、さぞかし豊かな文明を築くことでしょう。
コクのある水は、コクのある文化を築く。人類の歴史がそれを証明しているわ」
紅茶の味の話をしていた筈が、『人間の文化』ときた。
「ふぅん。同じ知識人でも、貴女はパチェとは随分違うのね」
「私が言うのも何だけど、パチュリーは外に出なさすぎるわ。でも、だからこそパチュリー・ノーレッジ。“動かざる大図書館”なのでしょう」
内心、レミリアは目を見張っていた。
幻想郷の人妖には自分勝手な輩が多い。自分や魔理沙などはその筆頭である。
気に入らない者がいれば、能力や弾幕で捻じ伏せるか、鷹揚を決め込んで無視をする。
だが目の前の人形遣いは、他者の在り方を肯定し、受け容れる性質のようだ。ある意味異端者である。
じっと考え込むレミリア。
アリスは声を掛けることもなく、黙って紅茶とババロアの味を愉しむ。
会話が弾んでいるわけではないが、この空間には確かに心地よい時間が静かに流れている。
ややあって、レミリアが「実はね」と言った。
「私は少し前から、貴女のことが気になっていたの」
「私を? 何でまた?」
吸血鬼は自分の日傘の柄に括り付けてあった細長いケースを外し、テーブルに置いた。
開くと中には、抜き身の細い短刀のようなものが入っている。
「貴女に興味を持ったのは、博麗神社でこれを拾ったことがきっかけ」
「あら、これは――」
ブレードが反った細長い刃物をアリスは手に取って見る。
日本刀を模した人形用の太刀だった。
彼女が拵(こしら)えたものに間違いない。
「神社で拾ったの?」
こくりと頷くレミリア。
「三ヶ月くらい前の夕方、神社に遊びに行った時、境内に落ちてるのを見つけたの。
霊夢に訊いたら、『多分アリスのだと思うわ。昼間にそこで魔理沙と弾幕ごっこをしてたから』って」
そういえば、そんなこともあったかしら、とアリスは思った。
レミリアが続ける。
「その刀、最初はペーパーナイフの代わりくらいにはなるかと思って持ち帰ったのだけど、すごく使い勝手が良くてね。咲夜のナイフより切れ味がいいのには驚いたわ。
それで是非一度、これを作った貴女と話してみたかったのよ」
一体どんな方法でナイフとの切れ味比較検証をしたのか?
推察しようとしたアリスの脳裏にメイド長の泣き顔が浮かんだ。深く考えない方が良さそうだ。
「日本刀は最も美しく、優れた刃物よ。西洋の剣が『叩き割る』ことを目的にしているのに対して、刀は『斬る』ことに特化している。もっとも、使いこなすには技術が必要だけどね」
説明しながらアリスは真剣な眼目で小さな日本刀の状態を調べている。
傷みが表れ始めているようだ。レミリアがどういう使い方をしているのか見当が付く。
「後でシャープニング(刃を研ぐこと)してから、返すわ」
「返してくれるの?」
「ええ。ついでに鞘も付けてね。これはもう、貴女のものよ。
私が失くし、貴女が拾った。そういう縁なのでしょう」
「あ、ありがとう」
アリスは日本刀をテーブルに置き、空になっていた自分とレミリアのカップにティーポットから温かな紅茶を注ぐと、「あ、そうそう」と思い出したことを口にする。
「その服と下着も持っていっていいわよ」
「え? いいの?」
レミリアは嬉しそうに立ち上がると、着ている淡いオレンジ色のドレスを見ながら、くるりと一回転して見せた。
「よく似合っているわ」
アリスも満足そうだ。
「このドレス、着心地がいいし、デザインも好みなのよ」
弾んだ声で言いながら、襟や袖口に触れてみる。
本当に素晴らしいドレスだった。
洗練されたセンスを感じさせるデザインが目を引くが、素材の良さを完璧な縫製で仕立てていることも侮れない。
(人形用の刀といい、このドレスといい……)
レミリアはサイドボードに歩み寄り、アリスの方を見た。
「この人形たちも貴女が作ったの?」
「ええ、そうよ」
「手に取って見てもいいかしら?」
「どうぞ」
サイドボードの上に置かれているアンティーク・ドールの一体を抱き上げるレミリア。
目で見て、手で触れ、微に入り細に入り観察する。
髪や指を含む人形本体の造形、表情、着ているドレス、身に付けているアクセサリーや靴等。
どの点を取っても精巧精緻。それでいて、全体としてバランスの取れた完成度の高さが窺えた。服の裏地等、見えない個所にも一切手を抜かれていない。
生来備わった鋭敏な観察眼と、貴族として五百年の間、真物の芸術品に接して培われた審美眼を持つレミリア・スカーレットを唸らせる、見事な出来だった。
「God is in the details」(神は細部に宿る)という言葉がレミリアの内から浮かび上がり、吸血鬼は背筋を奮わせた。
この人形は芸術の集大成といっていいだろう。
レミリアは以前、神社の宴席で人間の魔法使いが人形遣いのことを「器用貧乏」と笑うのを聞いたことがある。その時アリスはまったく反論していなかった。
見る者が見れば、器用貧乏どころではない。複数の分野に跨る、類稀なる非凡さの顕現。
吸血鬼は我知らず、人形遣いの少女に相応しい称号を呟いた。「マエストロ……」と。
(何だか難しい顔で人形を見てるわね)
ひょっとして、あれも欲しいのかしら? と、アリスは暢気に考えていた。
レミリアは人形をサイドボードの上に置くと、戻ってソファに腰掛けた。
こほん、とひとつ咳払いをしてから切り出す。
「ねぇ、アリス。ひとつ提案があるのだけど」
「何かしら?」
(やっぱり人形のこと? でもあれは私も気に入ってるから、あげるわけにはいかないわ)
「貴女、紅魔館に住みなさい!」
何故か笑顔のレミリア。
アリスの危惧は的外れだった。
「はい!?」
意外すぎる言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「外の世界、中世では、貴族が芸術家や錬金術師の活動を援助してきたわ。つまり、パトロンね」
「……で、貴女が私を援助してくれるの?」
「そうよ」
何故か平たい胸を張るレミリア。
「具体的に、私は紅魔館で何をすればいいのかしら?」
「今と同じことをするといいわ。魔法の研究や人形作り、あとは服を仕立てたりね」
何故かうっとりとするレミリア。
(たまにでいいから、私のためにドレスや靴を作ってもらおう。フランの家庭教師をお願いするのもいいわね。
ああ、夢が膨らむわ)
「せっかくのお話だけど、お断りするわ」
あっさりと言う人形遣い。
吸血鬼にはその言葉が信じられなかった。
「なんで!?」と叫びつつソファを揺らし、がたんとテーブルに手を付いて立ち上がる。
ティーカップとソーサーが立てた、かしゃんという抗議の音にアリスが鼻白む。
テーブル上にこぼれた紅茶を上海人形が布巾で拭き取るのを確認しつつ、「落ち着きなさいな」とレミリアを宥めた。
「だって……! 一体何が不満なのよ!? 何も不自由することなく、好きなことに打ち込めるのよ!? 図書館の本だって読み放題だし!」
「別に不満は無いし、貴女の申し出は光栄に思うわ。私を認めてくれているのですもの」
「だったら、何で断るの!?」
アリスは上海人形を抱き寄せ、そっと頭を撫でた。
上海は安心し切った様子で主人に身を委ねている。
「私は今しばらくの間は、この森で人形たちと一緒に気侭に暮らしたい。ただそれだけなのよ」
穏やかな表情と口調で、だがきっぱりとアリスは断言する。
レミリアは引き退がるしかないことを悟り、「そんなぁ」と情けない声を出した。
◇◇◇
魔法の森に、空が白み始める気配が漂っている。
もうすぐ夜明けを迎えようとしているのだ。
館に帰るレミリアを見送るために、アリスは玄関前まで出て来た。
「貴女のこと、私は諦めないわよ」
不敵に笑いながら、吸血鬼は言った。
アリスは、やれやれ、と言いたげな苦笑を浮かべ、すぐに改める。
「ねぇレミリア。貴女の言った通りになったわね」
「私、何を言ったかしら?」
「弾幕ごっこを始める時に『楽しい夜になりそうだ』って。本当に楽しかったわ」
微笑とともに投げかけられた可憐な人形遣いの思わぬ言葉に、吸血鬼は詰まった。
視線を逸らしながら、「紅茶とお菓子、美味しかったわ」と口に出す。
「刀とドレスも、ありがとう。それと――」
畳んだ日傘をぎゅっと握り締める。
「私も、本当に楽しい夜だった!」
そう告げると、最後に残る宵闇に向け、蝙蝠の如き大翼を羽ばたかせて飛び去った。
◇◇◇
紅魔館への帰路、レミリアは浮き立つ心を表現するかのように、くるくると楽しげに飛び回る。
薄ぼんやりと明るみ始めた空を見て精神を落ち着けると、ふと、昼間図書館を訪れた人間の魔法使いのネガティブな表情が頭に浮かんだ。
ふふふ、と笑いながら、
「弱さに訳なんて無いけれど、強さには何らかの理由があるものよ。貴女には解るかしら? 魔理沙」
吸血鬼は最高に良い気分を抱きながら、夜明け直前の空に笑い声を響かせた。
◆◆◆
【 act.9 Alice vs. Marisa again 】
アリスの周辺に変化が起きていることに魔理沙は気付いた。
最近、彼女の自宅にレミリアや妖精たち、ルーミアや橙までもが遊びに来ているのをよく見かける。
アリスも何処かへ出掛けることが多くなった。
自分の知らないところで何かが変わっていく。そのことに、魔理沙は理由の定かでない焦りを感じる。
少し前までは、マーガトロイド邸を頻繁に訪れるのは自分だけだった。
人形遣いの淹れる紅茶、作るお菓子や料理。文句を言いながら、それらに篭められたとびきりの味を堪能できるのは、魔理沙にのみ許された特権だったのだ。
それが失われようとしている。いや、既に……。
魔理沙は、アリスが自分を置いてどこかに行ってしまうような気がした。
(一体何故? いつからこうなった?)
考えるまでもなく、答えはすぐに見つかった。
アリスが変わり始めたのは、彼女が弾幕ごっこで虹の翼の人形たちを使うようになってからだ。
言い換えれば、魔理沙がアリスに勝てなくなってからのこと。
ならば、どうすればいいのかは明白である。
力を得る。霧雨魔理沙は、強くあらねばならない。そうすれば以前のように、アリスは自分だけのものになる。
人間の魔法使いはそう考えた。
◇◇◇
昇り立ての太陽の下、爽やかな朝の空気が紅魔館を包み込んでいるが、昼尚暗い地下図書館は当然ながらその恩恵に預かれてはいなかった。
そして現在図書館に居る三人の人妖の中でも、際立って爽やかではない者がいる。
「はぁ……はぁ……。こ、これで最後だ、ぜ……」
息も絶え絶えながらも、魔理沙は何とか声を出した。
無理も無いだろう。彼女は昨日の夕方から徹夜で、自宅とこの図書館を何度も往復し続けていたからだ。それはもう、何度も何度も何度もである。
何故そんなことをしていたのかといえば、ここから(魔理沙曰く)借りていた膨大な数の書籍を運ぶためである。
ちなみに、一昨日の夜から昨日の夕方までは、自宅で件の書籍の捜索と分類の作業を続けていた。
これは自分の本。それはアリスに(魔理沙曰く)借りている本。あれが図書館の本……。
家中を引っ掻き回して本という本を片っ端からチェックし、図書館のもののみを集めていく。
作業を終えて集積された図書館の書籍は、予想以上に膨大な数だった。霧雨邸の部屋を一つ占領しても収まりきらないだろう。もっとも、彼女の家には空き部屋はおろか、片付いた部屋すら無いので、これはあくまでも推測である。
(よくもまぁ、こんな数の本を借りてたもんだ)
魔法使いは感慨深げにそんなことを思ったが、これは返却する意思が微塵も無いからこその結果だろう。
仮眠と軽い食事を取った後、魔理沙は図書館への書籍運搬作業に移行した。
これがまた、それまで以上に重労働だったのだ。
パチュリーから借りているごく普通の魔法の箒はパワーが無いので、スピードは出ないし、荷物の最大積載量も少ない。当然、一度に積める本の重量は軽めに限られる。
おまけに、八卦炉を持たない今の魔理沙は、妖怪や妖精との交戦を絶対に避けなければならなかった。
具体的には、他者に見つからないように低い高度を飛び、何かの気配を感じたら即地上に降りて、身を隠してやり過ごすという具合である。
湖上でチルノにでも遭遇したら一巻の終わりなので、湖を横断する際には往路も帰路も慎重に慎重を重ねる必要があった。
これには非常に神経を衰弱させられる。
普段、好戦的な態度で気紛れに弾幕ごっこを吹っ掛けている魔理沙自身の素行の悪さが原因なのだが、本人に反省の素振りは無い。ある意味大したものだとパチュリーは感心した。
魔理沙は小悪魔が持ってきたコップを引ったくると、中の水を一気に飲み干した。
「ふう、生き返ったぜ。それでパチュリー、本は全部返したんだから――」
「小悪魔、確認してちょうだい」
魔法使いの言葉を、椅子に掛けた魔女が遮る。
「はい。パチュリー様」
艶やかな紅桃色の髪の司書は頷くと、うずたかく積まれた本の山を徐々に崩しつつ、手元のリストの記載内容と照合していく。
鮮やかな手際によって僅かの間に作業を終えた使い魔は、主の前で報告した。
「魔理沙さんによって強奪されていた書籍が全て返却されたことを確認しました」
「ご苦労様」
余談だが、小悪魔は魔理沙を「さん」付けで呼ぶ。
アリスたち他の客人は「様」付けだ。
これは以前に「魔理沙様」と呼んだのを主に窘められたためである。
パチュリー曰く「貴重な古典書籍を散逸から護り、叡智の継承を役目とする神聖な図書館の財産を狙う不埒な盗人に敬称など付ける必要は無い」とのこと。
とはいっても、流石に呼び捨てにするのは気が引けたので、「魔理沙さん」としたのだ。
「強奪じゃなく、借りてただけだぜ。って、それはともかく!」
魔理沙はパチュリーをびしっと指差す。
「この通り本は全部返したんだから、約束通り箒と八卦炉を強化してもらうぜ!」
その指を鬱陶しそうに見ながら、パチュリーは答えた。
「はいはい。心配しなくても、もう出来上がってるわよ」
「出来てたのかよ!」と驚く魔法使い。
感激してるのね、と小悪魔は感じたが、魔理沙はがくりと床に膝を付いた。
「それじゃ私は、一体何のために辛い思いをして本をここまで運んだんだ。そんな必要無かったんじゃないか……」
あまりの言葉に目を丸くする小悪魔。
だが、魔理沙はすぐに復活すると、パチュリーに詰め寄った。
「で、どこにあるんだ? 私の魔道具は! 今すぐ持って来てくれ!」
顔前で捲くし立てる魔理沙に顔をしかめながら、パチュリーは言った。
「小悪魔。土星二十二番の気密収納棚から出してきてちょうだい」
主の指示を受けて飛んだ使い魔は、すぐに箒と八卦炉を手に戻って来た。
「おおお! これか!! それで、どんな風にパワーアップしたんだ!?」
小悪魔から奪うように二つの魔導具を引っ掴むと、魔理沙はパチュリーに訊ねた。
基本的には貴女の要望通りだけど、と前置きして魔女が説明する。
「簡単に言うわよ。箒の主な改造ポイントは高回転時の馬力の底上げと剛性のアップ。八卦炉の方は出力限界値を高めてあるわ」
「どっちも随分と重くなってるな」
以前とは明らかに違う重さがずしりと腕に伝わってくる。
「どちらも基本構造は変えてないけど、パーツを耐久性の高いものに交換したり新規に組み込んだりしたからね」
「ふーん。なるほどな」
へへへ、と笑う魔理沙の表情は、まるっきり新しい玩具を与えられた幼児のそれだった。
「ちょっと。試すのは外に出てからにしてちょうだい。ここでやったら出入り禁止にするわよ」
パチュリーは鼻白んで先手を打つ。
「わかったよ。じゃまた来るぜ!」
そう言い残すと、人間の魔法使いは図書館から出て行った。
残った主従が言葉を交わす。
「パチュリー様、魔理沙さんの魔導具を強化してよかったのですか?」
「どうして?」
「だって、これではアリス様が……」
「アリスは聡い子よ。きっと私の意図に気付いてくれるわ」
「意図?」
「そんなことより、お茶を淹れてちょうだい。それが終わったら、魔理沙から取り返した本を全て所定の書棚に戻して」
「はい、畏まりました。パチュリー様」
小悪魔は一礼すると、主の要望を叶えるために動き出した。
◇◇◇
朝食後の家事を終えたアリスは、書斎で人形の修繕をしていた。
自作の人形ではない。小柄で大人しい妖精がくれた、外の世界から流れ着いたと思われるビスク・ドールである。彼女は「湖の近くの雑木林で拾ったの」と言っていた。
初めて見た時にはかなり傷んでいたのだが、手を掛けた結果、今では大分直ってきている。
瞼を閉じた繊細な顔立ち。長い栗色の巻き毛とクラシック・グリーンゴールドのドレスが美しい。
かなり名のある人形師の作だろう。思わぬ掘り出し物だった。
今度妖精の子に何かお礼をしましょう、と考えていた時、アリスは魔力の波動が接近してくるのを感じた。
(この感じは魔法の箒。魔理沙ね。でも、何? この波動)
窓から外を見ると、箒に跨った魔理沙がこの家に向かって飛んでくるのが見えた。相当な速度を出している。
庭に降りようと高度を下げるがスピードを殺しきれず、足をつんのめらせた勢いのまま、ずべしゃあっと地面に突っ伏して倒れた。
(何やってるのよ、もう)
アリスが慌てて庭に出ると、「痛てて」と呟きながら魔理沙が起き上がったところだった。
ぱんぱんと服に付いた埃をはたき落としている人間の魔法使いに声を掛ける。
「ちょっと、大丈夫?」
「当たり前だろ。何ともないぜ」
格好悪いところを見られたと思ったのか、やや赤面しながら魔理沙が答えた。
「そんなことより、アリス。弾幕ごっこしようぜ!」
「またなの? よく飽きないわねぇ」
呆れ顔の人形遣いに、人間の魔法使いはニヤリと笑って見せる。
「ふっふっふ。今日は今までのようには行かないぜ! 何たって、魔導具をパワーアップしたからな!」
「パワーアップ?」
なるほど、先ほど感じた箒から発せられていた波動の違和感はそのせいか、とアリスは納得した。
人形遣いが興味を示したと見て、魔理沙は浮かれた様子で箒と八卦炉を自慢げに掲げる。
「ふむ……」
アリスは二つの魔導具には目もくれず、じっと魔理沙の身体を見ていた。
右手に八卦炉、左手に箒を掲げる彼女の骨格と筋肉の動きや、皮膚の表面に浮かぶ筋等を仔細に観察する。
(どちらの魔導具もかなり重そうだわ。箒は約41%、八卦炉は約52%、それぞれ今までよりも重量増加が見て取れる。箒の方はさっき感じた波動からすると、高回転時にパワーを発揮するセッティングが施されてるわね。推定馬力は今までの47%増。八卦炉は不明だけど、火力を強化してると見ていいでしょう)
更に人形遣いは、箒の波動から精霊魔法に特有の色を識別していた。とすると、これらの魔導具をチューンナップしたのはパチュリー・ノーレッジに間違い無い。
そしてアリスは、パチュリーの意図に気付いてげんなりとした。
身も蓋も無い言い方をすれば、「玩具をあげるから、これで遊びなさい」ということだろう。
魔女に踊らされている魔理沙に同情を覚える。
いや、彼女は無邪気に喜んでいるし、別に被害者というわけではないか。
魔理沙とパチュリーの間で何らかの取引があった可能性は高いが、それは彼女たちの問題だ。
「おい、アリス!?」
魔理沙は何やら考え込んでいる人形遣いに声を掛けた。
「え? あ、何? 魔理沙」
「何って、だから弾幕ごっこだよ!」
「ああ、弾幕。そうね、どうしようかしら」
アリスは再び思考に浸る。
魔理沙が他にマジックアイテムの類を持ち込んでいる可能性は無さそうだ。
もしそうであれば、自慢好きの彼女のこと。含み笑いを漏らしつつ「他にも秘密兵器があるんだぜ」くらいのことは言うだろう。
(箒と八卦炉の強化、か)
ある意味、それも努力の成果といえる。
人間の魔法使いの悩みに気付いてパチュリーが自発的に協力を申し出ることは有り得ないので、魔理沙の方から魔女に相談したのだろう。
(努力していることを他者に知られることを極端に嫌う、負けず嫌いの魔理沙がねぇ……)
ならば、とアリスは気持ちを切り替え、頭の中で、強化された箒と八卦炉を用いる魔理沙との戦闘をシミュレートしてみる。
両アイテムの性能を今までの50%増し。加えて、アリス側の持ち札を全部読まれていると仮定し、とりあえず144種のパターンを試行。
……………………。
予測される結果は、全て人形遣いの勝利だった。
油断したり、敢えて奇天烈な戦法を採らない限り、この弾幕勝負に彼女の敗北は無いだろう。
(でも……)
それでいいの? とアリスは自問した。
実のところ、彼女はそれほど弾幕ごっこの結果に固執していない。戦闘中に「ああ、これは負けるな」と判断したら、被害が広がらないうちにさっさと敗北を宣言する。
だが、魔理沙は違う。
どのような勝負であっても、勝利を得ることに執着心を燃やす。勝つために持てる全てを注ぎ込んでくる。
強化されたマジックアイテムを使っても自分に勝てなかったら、彼女はどうするだろう? どうなるだろう?
アリスは溜息をついた。
(やっぱり私は甘いようね)
苦笑を隠しながら、口を開く。
「ねぇ、魔理沙。たまには弾幕じゃなくて、別の勝負をしてみない?」
「別の勝負? 何をしようってんだ?」
「ちょっと待ってて」
訝しむ魔理沙を残して、アリスは玄関から屋内に入る。
一階の倉庫として使っている部屋の中を探すと、目的の物はすぐに見つかった。それを手に人間の魔法使いのところに戻る。
「お待たせ」
「何なんだよ一体……って。おまえ、それは!」
アリスが持っているものを見て驚く魔理沙。
人形遣いが手にしているのは、魔法の箒だった。
◇◇◇
「箒によるマッチレース?」
魔理沙が訊ねる。
マッチレースとは、一対一で勝敗を争う形式の競争である。
「そうよ。具体的にはね――」
アリスの説明はこのようなものだった。
スタート及びゴール地点は、今自分たちが居るここ、マーガトロイド邸の庭。
通過するチェックポイントは二箇所。
最初に博麗神社に向かい、鳥居をくぐる。
次に妖怪の山を目指し、麓にある双子杉の間を抜ける。
この二箇所を通過して、ゴールに早く辿り着いた方が勝ち。
「要するに、大きな三角形を描くコースを飛ぶわけだな。異存は無いけど、おまえはそれでいいのか? 私は幻想郷最速を謳われる魔理沙様なんだぜ?」
相手が烏天狗ならともかく、アリスでは役者不足だ。スピード勝負であれば、自分が負ける筈は無い。
魔理沙はそう考えている。
「私は勝算の無い戦いはしないわ」
アリスのごく自然な自信が、魔理沙には理解できない。人形遣いが箒に乗って飛ぶ姿など、唯の一度も見たことがいないのだ。
(そうか、箒に秘密があるのかもしれない)
魔理沙はそう考えた。
「ちょっとその箒を見せてくれないか?」
「いいわよ」
アリスはあっさりと箒を渡した。
魔理沙は注意深く隅々まで箒を調べる。非常に軽いことを除けば、どう見てもありふれた魔法の箒だった。軽さに関しても、自分の箒が重量級であるから余計にそう感じるのだろう。
「私が駆け出しの魔法使いだった頃に使ってた箒なのよ。もう随分乗ってなかったのだけど、メンテナンスはきちんとしてあるわ」
魔理沙の疑念を余所に、アリスはそう言った。
言われてみれば、なるほど、扱い易く調整された初心者用の箒という気がする。
箒を返しながら、人間の魔法使いは「ハンデやろうか?」と言った。
人形遣いは「結構よ」と答え、身を屈めて落ちていた枯れ枝を拾う。
「私が投げるこの枝が地面に着いたらスタートよ」
「解った」と魔理沙が頷く。
彼女が愛機に跨るのを確認し、横に並んだアリスも自分の箒に横乗りになる。
Ladies, start your engines!
二人が箒に魔力を篭める。徐々に、強く。
くぐもるような気配が周辺の空気を揺らめかせ、陽炎が発生する。
「Are you ready?」
「いつでもいいぜ!」
人形遣いが手首のスナップを効かせて投げ上げた枯れ枝が、くるくると回転しながら昇っていく。
やがて頂点に達し、重力に引かれて落下。こん、と堅い地面に触れた瞬間、二人の魔法使いは同時に箒の魔力を開放した。
(まずは、アリスの出鼻を挫く! ロケットスタートを決めてやるぜ!)
その気負いが不味かったのかもしれない。
一気に回転を上げすぎた魔理沙の箒は、派手に星を撒き散らしながら魔力を空転させた。
トラクションがかからず、ガクガクと激しく揺れながらスタート地点に留まっている。
時間をロスしてようやく飛び出したが、今度は膨大なパワーに対して乗り手のコントロールが追いつかず、アタマを振りながら左右に蛇行してしまう。俗に言う『スネークダッシュ』だ。
暴れる箒を捻じ伏せるようにして、何とか直進させることに成功した魔理沙が前方を見ると、アリスの姿は既にかなり遠くなっていた。
人形遣いは振り向かずとも精確に人間の魔法使いとの距離を把握している。
あの大パワーの箒では、気配や波動を感じ取るなというのが無理な相談だった。
あらあら、と苦笑する。
「ハンデは要らないと言ったのに」
アリスは回転数に合わせてとんとんとギアを上げた。
ストレスを与えないスムーズな操作に応えるように、彼女の箒はぐんと伸びるように加速する。
(オール・グリーン(全て正常)。……っと、やっと来たわね)
轟くような波動が背後から迫るのを感じた人形遣いの横に、人間の魔法使いが並んだ。
彼女の箒は直線番長だ。一旦スピードが乗れば、恐ろしいほどの速さを発揮する。
「あら魔理沙、いらっしゃい」
「へへっ。もう追いついたぜ、アリス!」
しかし、二人の魔法使い、二つの箒によるランデブー飛行は長くは続かなかった。
アリスの箒が遅れ出したからだ。
「なんだぁ? もう息切れかよ」
からかうように言う魔理沙に、アリスは前方斜め下を指差して見せた。
「んん? あっ!」
真っ直ぐに飛ぶ魔理沙と別れるように、アリスは徐々に高度を下げていく。
最初のチェックポイントである博麗神社が近づいていたのだ。
速度をほとんど落とすことなく、アリスは狙い一閃、針の穴を通すように鳥居の下をくぐり抜けた。
次いで、荷重移動を利用しつつ的確にカウンターを当てながら巧みに箒を旋回させると、そのまま妖怪の山に針路を取って加速していく。
一方、魔理沙は苦戦していた。
神社を飛び越しそうなオーバーラン気味の状態から一気に減速し、無理矢理に箒の頭を鳥居に向ける。
次の瞬間、魔理沙の視界が赤く染め上げられた。
強引な急降下によって頭上に押し上げる形のGが発生し、過剰な血液が頭部に集中。眼球内の毛細血管が充血することによって起こる『レッドアウト』と呼ばれる現象である。
元来、人間の身体は生身で空を飛べるようにはできていないのだ。
「ぐうっ!」
降下中に視界が塞がれていては、最悪地表に激突してしまう。
箒を掴んだ右手の握力を強めながら、魔理沙は左手で目を覆うと、局所的な治癒魔法を使った。
左手を箒に戻して目をしばたたかせ、回復した視力で前方を確認する。と、眼前に迫り来る石段が見えた。
「うおおおおっ!!」
箒の柄を締め上げるように脚を絡ませ、全身の力を篭めて腕を引く。
箒は掠めた石段に沿って駆け上がるように飛行する。すぐに鳥居が見えた。
石段の上限手前で魔理沙は鳥居をくぐるために水平飛行に移ろうとした。
だが、魔女が強化した箒はそこまで乗り手に従順ではなく、角度を僅かに浅くするのみ。
魔理沙は慌てた。このままでは貫(ぬき)と呼ばれる鳥居の横木にぶつかってしまう。
彼女は咄嗟に箒にべったりと寄り添うような姿勢を取り、がりりと背中に当たる木の感触に肝を冷やしながらも、どうにか鳥居をくぐることに成功した。
「やれやれ……。ちょっとスリルありすぎだぜ」
突然の魔力の鳴動に驚いたのか、社殿から境内に降りて来た巫女に目もくれず、魔理沙は次のチェックポイントである妖怪の山に箒を向けた。
人形遣いとの差は開いているが、人間の魔法使いは焦ってなどいなかった。
むしろ余裕とすら見える態度で、エプロンドレスの懐から一枚のカードを取り出す。
「スペルカードの使用は禁止だなんて、一言も言わなかったよなぁ、アリス!」
不敵な笑みとともに、スペルを宣言する。
「彗星『ブレイジングスター』!」
魔理沙と箒は輝く魔力の厚膜に包まれ、ロケットモーターに点火したかのように急激に加速した。
短時間で一気に距離を稼いだ魔理沙の視界の中で、箒に横乗りするアリスの姿が大きくなってくる。
スペルの効果が切れたところで、再びのサイド・バイ・サイド。
「よう、アリス。ごゆっくりだな」
「あんたこそ、余裕じゃない。鳥居のところでアクロバット飛行してたでしょ」
挨拶代わりの皮肉の応酬。
「ふん! じゃあ私は先に行くぜ!」
気の利いた反論を思い付かなかった魔理沙がシフトアップすると、箒は速度を上げた。
パチュリーにチューンを施された箒はとんだ暴れ馬だ。低速域のトルクの細さはともかく、高回転域で推力が乗れば圧倒的な速さを誇る。
このまま一気に引き離すぜ! と意気込んだ魔理沙は、後ろに気配を感じて振り向き、目を疑った。
彼女と変わらぬ速度で、アリスがぴったりと後ろを飛んでいたのだ。
「そんな!? くっ!」
ギアをオーバートップに入れて、更に猛然と加速する。
だが、彼我の差は変わらず、人形遣いは付かず離れずの距離を保ちながら涼しい顔で後ろに付いている。
「嘘だろ!! なんでだ!?」
魔理沙はスリップストリームかと疑ったが、それは有り得ないと思い直した。
スリップストリームとは別名ドラフティングとも呼ばれる、外の世界の自転車競技のテクニックである。
高速で走行する車の真後ろ近辺では、前方で空気を押しのけた分気圧が下がっているために後ろの物体などを吸引する効果が生まれ、空気抵抗も通常より低下した状態となっている。そこで、前を走る車の真後ろに張り付いた車は前車に引っ張られ、同じ速度をより低い出力で走ることが可能となる。
この現象をスリップストリームというのだ。
魔理沙は外の世界の書物から得た知識として、このことを知っていた。
だからこそ、不可解な現状に対する説明にならないことも解っている。
何故なら、魔法使いは進行方向に特殊な障壁を展開して飛行するからだ。
故に、基本的には空気や気圧の影響を受けないため、スリップストリームの効果は無いのだ。
では、何故アリスは魔理沙と同じ速度で飛べるのか?
スタート前に調べたアリスの箒は、確かに初心者用のものだった。フラットな吹け上がりとコントローラブルな操縦性は長所だが、パワー面で決定的に劣るため、トップスピードで魔理沙の箒に付いて来れる筈がない。
(まさか、この箒に何かトラブルが起きたのか?)
魔理沙は振り返って箒の後部を見る。
(特に異常は……ん? 何だあれは?)
柄の後ろの方、箒の尻尾を思わせる魔力を篭めた細枝を束ねた辺りに、何か妙な気配を感じる。
そこに片手を伸ばすと、見えない糸のようなものに指先が触れた。
――糸?
「あら? 見つかっちゃった?」
高速で空気を切り裂く風切り音に混じって、しれっとしたアリスの声が耳に届いた。
「なっ! おまえ、まさか!?」
魔理沙は人形遣いを睨み付ける。
「でも、もういいわ」
アリスは、魔理沙の箒に巻き付けていた人形操術用の操り糸を解いた。
タネが解ってみれば、単純なトリックである。アリスは不可視の魔法の糸で魔理沙の箒と自分の箒を繋ぎ、牽引させていたのだ。
スピードに乗ったまま、偉容を顕にしている妖怪の山の麓に向けてアリスは降下していく。
「逃がすか!」
魔理沙も人形遣いを追うように高度を下げていった。
二つ目のチェックポイントの双子杉とは、妖怪の山の麓に二本並んで立つ高い杉の樹の俗称である。
この辺りには他に目立つものが無いので、幻想郷の人妖たちからは、空を飛ぶ際のランドマークとして親しまれていた。
スピードを殺すことなく、無造作とも思える機動で双子杉に接近したアリスは、修正舵を切りながらスムーズに二本の樹が交差させる枝の下を飛び抜ける。と、息を付く間も無く、見事なアキュート・ターンを決めて駆け去った。
一見何でもないことのようだが、非常に難度の高いテクニックだ。
後ろから見ていて、燕の如き鮮やかな飛行に舌を巻いたのは魔理沙である。
(器用な奴だとは思っていたが、こんなことまで……)
今度は魔理沙の番だ。頭を振って気を取り直すと、ぐんぐん近づいてくる双子杉に向き合う。
こうして改めて見ると、二本の樹の幹の間は意外と狭い。
(アリスに出来たんだ! 私だって!)
速度をそのままに狙いを定め、思い切って突っ込む。
(目を逸らすな!)
こういう時に重要なのは視点である。
身体の細かな動きは眼に連動していることを魔理沙は経験則で知っていた。
恐怖心を捻じ伏せて睨みつける幹の間の空間を、人間の魔法使いは狙い違わず突き抜けた。
「どうだ!」
ガッツポーズで叫ぶ魔理沙。
そこからスピードを落としつつ、大きく旋回。
彼女の箒は低速域ではバイブレーションが酷い。何とか宥め賺しながら加速体勢に持っていくしかなかった。
双子杉を通過した今、あとはゴールであるマーガトロイド邸を目指すのみ。
魔理沙の計算では、双子杉とゴールとの中間地点付近でアリスに追いつける筈だ。
そうなれば、トップスピードに秀でる自分に分がある。
仮に、また魔法の糸でアリスを引っ張るはめになろうと、先にゴールすれば問題無い。
暴れ馬に鞭を入るように、魔理沙は箒を速度に乗せていく。
ハイスピードでしばらく飛び続けると、箒に横乗りで飛ぶアリスが見えた。
そういえば、もうすぐ中間地点を越えるところだ。
(お、そうだ。いいこと思いついたぜ)
無防備な人形遣いの背中を見ているうちに、人間の魔法使いに悪戯心が芽生えてきた。
魔理沙は前方の『目標』に向けて八卦炉を構える。
(箒だけじゃなく、こいつの強化具合も試しとかないとな)
ししし、と笑みを漏らしつつ、魔力の充填を開始する。
スペルと同様、弾幕攻撃も禁じられてはいないのだ。魔法の糸で牽引させられた恨みも忘れていない。
(私が悪いんじゃない。注意を怠ったアリスのミスだぜ)
ニヤリと笑い、魔理沙はスペルを宣言した。
「恋符『マスタースパーク』!」
八卦炉から一直線に撃ち出された極太の魔光弾が人形遣いの姿を掻き消す。
その威力に魔理沙は満足した。
「凄いな、これは。流石パチュリー。いい仕事してくれるぜ」
「そうね。火力自体は今までの43%増しといったところかしら。その分、魔力のチャージに時間がかかりそうだけど」
「え!?」
今聞こえたのは、確かにアリスの声だった。
「どこだ、アリス!?」
「あんたの上よ」
上空から箒をスライド降下させながら、人形遣いが現れた。
「あんなに殺気を発散させてたら、気付かないわけないでしょ。それに、その八卦炉。パワーは強化されてるけど、あんた自身が扱いきれてないわ。射撃の瞬間、反動に圧されて手がブレたんじゃない?」
「くっ! 何を偉そうに!」
「偉そうついでに、もう一つ教えてあげるわ。八卦炉に魔力を篭めたせいで、箒の方がお留守になってるわよ」
「えっ!?」
言われてみると、確かにはっきり判るほどに魔理沙の箒は速度を落としていた。
それを尻目に、アリスはするすると箒を加速させていく。
「あ、これ、さっきのお返しね」
前方に離れて行きながら、アリスは魔理沙に向かって一体の人形を放った。
咄嗟に受け取ろうとした魔理沙の手前で、人形が爆発する。
閃光と爆風に煽られ、彼女の箒はきりもみ状態となった。
箒にしがみ付きながらどうにか体勢を回復させ、水平飛行に移る頃には、アリスの姿は遥か遠くに点となって見えるのみだった。
(ああ、アリスが行ってしまう。駄目、そんなの駄目だ! アリス、私を置いていかないで……!)
アリスが使った技は魔符『アーティフルサクリファイス』ではない。その簡易版である。
スペルカードですらなく、派手に爆発はするが殺傷力は皆無に近い。
先ほどのような『猫騙し』や牽制を目的として使用するのだが、一時的に魔理沙の足を止める効果は十分にあった。
そして、低速スカスカの箒であの地点から再加速に入っては、魔理沙の敗北は確定だ。
ごくろうさま、と回収した人形の頭を撫でるアリスは、やや残念そうに「雉も鳴かずば、撃たれまいに」と呟いた。
もうすぐゴールであるマーガトロイド邸に到達する。
◇◇◇
このマッチレースを提案したのはアリスである。
魔理沙と弾幕ごっこをすれば、99%以上の確率で自分が勝利することをアリスは確信してしまった。
一切の私情を排除した無味乾燥なカルキュレーション(計算及びその結果)にすぎないが、それだけに精度は折り紙付きだ。
正直、自分の思い上がりかもしれないとも思う。
しかし、このレースであれば勝率は50%程度まで下がり、魔理沙にも十分な勝機があったのだ。だからこの形を採った。
(我ながら甘いわね)
何をやってるんだか、と呟く図書館の魔女の呆れ顔が脳裏に浮かぶ。
間もなくゴールだ。この勝負もアリスの勝ちに終わる。
だが、人形遣いの表情に歓喜の色は無い。
その時、アリスの頭の中に警戒警報が鳴り響いた。
後方から魔力の塊のようなものが超高速で接近してくるのを感知したのだ。
(この波動は、まさか!?)
強力な魔力を纏い、彼女が来る。
荒馬に跨り、空を疾駆して飛んで来る。
それは再度、彗星のスペルカード『ブレイジングスター』を発動させた霧雨魔理沙だった。
真っ直ぐに前だけを見て、驚くアリスの横をオーバーテイクして行く。
「止めなさい、魔理沙!! そのスピードじゃ着地できない!!」
人間の魔法使いの背中を掴むかのように手を伸ばしながら、人形遣いは叫んだ。
アリスが後ろで何かを言っている。
(何だよアリス。そんな小声じゃ聞こえないぜ。もっと大きな声で言ってくれ)
妙にゆっくりと視界の中で拡大されていく地面を呆として見つめながら、魔理沙は意識を手放した――。
◆◆◆
【 Last Episode Starting from here 】
(寒い……)
気が付くと、魔理沙の意識は暗黒の中にたゆたっていた。
身体は動かない。そもそも今の自分に身体があるのかも判らなかった。
ふわふわ、ふわふわ。ゆらゆら、ゆらゆら。
べったりとした黒に埋め尽くされた、それだけの空間。外にも内にも何も無く、ただ意識だけが茫洋としてここに在る。
まったく、ここは自分に相応しい世界だと魔理沙は思った。
何も無い。何も存在しない。
自分にも、何も無い。
自分の中に何も無いから、遮二無二ものを集めた。
大事そうなもの、価値があると感じたものを片っ端から手に入れて、家の中に放り込んだ。
しかし、蒐集したものの山がどれほど高くなっても、空っぽな心は埋まらない。
逆に虚しくなるばかりだった。
そんな時、幻想郷で彼女と再会したのだ。
以前に魔界で出会い、弾幕を交えた時よりも美しく成長した少女。
彼女は魔理沙に無いもの、魔理沙が欲するものをたくさん持っていた。
抜けるように白い肌。整った顔立ち。透明度の高い蒼い瞳。
髪だってそうだ。同じ金髪なのに、自分のくすんだ色の癖毛とは違う。
月光を溶いた繭から生成した金絹糸を思わせる、さらさらとした白金色の髪。
さりげなく上品な物腰。魔法のメッカである魔界の神の娘という出自。
更には、気難し屋の紅魔館の魔女も認める、魔法使いとしての才能……。
でも、彼女は何も求めない。
蒐集品を巡って争うことがあっても、不利と見ればあっさり手を引く。
弾幕ごっこにしても、決して無理をしない。
本気で戦うことは無く、死に物狂いで勝利を求めるところなど、ついぞ見たことが無い。
彼女に勝利を、蒐集品を譲られる度に、空っぽな心を埋めるためにしゃかりきになっている自分自身を見透かされているようで、惨めな気分になった。
なんで自分はこうなんだろう?
なんで彼女はああなんだろう?
そんなことを考えているうちに、いつの間にか彼女の存在が心の中で大きくなっていた。
気になるから、ちょっかいをかける。
構ってほしいから、困らせるようなことをする。
普段は落ち着き払っていて、その癖からかうとムキになって怒ったりもする。
そんな育ちの良さを窺わせる彼女の反応に内心で安堵するのも、いつものことだ。
以前、彼女から「幻想郷で暮らすことにした」と聞いた時、世間知らずな箱入り娘の気紛れだと鼻で笑った。どうせすぐに故郷に逃げ帰るさ、とタカをくくっていた。
しかし魔理沙の勝手な予想に反して、彼女は苦労しながらも、一から始めた魔法の森での生活を確立させていった。
自分には友達である霊夢や香霖が居た。師匠である魅魔様が居た。
でも、彼女には頼れる者は誰も居なかった筈だ。
魔界に留まっていれば何不自由無く過ごせたろうに、敢えて異郷に身を置いて独りで生活する、芯の強さ。
辛いこともある筈なのに、彼女からは愚痴も弱音も聞いたことが無い。
繊細な人形のように儚げで、触れれば砕けそうに脆く見えるくせに、他の誰よりも真っ直ぐに立っている。
自律する人形を作るという確固たる目標に向かい、時に迷いながらも決して歩みを止めようとはしない彼女。
適当にその時々で気が向いた魔法の研究をしたり、ただぶらぶらと遊んでいる自分とは大違いだ。
自分には、長期的なスパンでの目標なんて無い。
彼女は文字通りの意味で『高嶺の花』だ。
高い山の頂きに咲く一輪の可憐な花。
例え誰にも愛でられずとも、彼女は凛としてそこに咲くのだろう。
彼女が羨ましかった。
傍に居たかった。
離れたくなかった。
置いて行かれたくなかった……。
いつの間にか、暗黒の中に彼女が居た。寒さも、もう感じない。
差し込む光の中に膝を崩して座り、柔らかく抱いた人形の長い髪を櫛で梳く、白金色の髪の人形遣い。
穏やかな微笑を湛えるその姿は、まるで聖母のようだ。
(やっぱり、アリスは綺麗だ)
うっとりとそう考えた時、ふいに彼女がこちらを向いた。
「目が覚めたのね、魔理沙」
◇◇◇
(目が覚めた? 一体何のことだ?)
疑問に思いつつ、重すぎる瞼をなんとか開いて周囲を見ると、そこはもう暗黒の空間ではなかった。
何処とも知れぬ和室。
そこに敷かれた布団に、魔理沙は身体を横たえている。
傍らに座るアリスの姿を、天井の明かり窓が和らげた陽光が照らしていた。
(ここは、どこだ?)
そう訊こうとしたが、口から声は出ず、意味不明な音が洩れただけだった。
「ここは永遠亭の病室。あんた三日も眠り続けてたのよ」
訊ねたいことを察してくれたらしく、抱いていた上海人形を魔法で納めながらアリスが答える。
「待っててね。永琳を呼んでくるから」
そう言って出て行くアリスを見送ると、魔理沙は首を動かして自分の身体を見た。
和装の寝巻きから覗ける筈の肌は包帯だらけだった。
吊り下げられている左脚の包帯の盛り上がり具合からすると、ここは骨折しているのだろう。
大して待つことなく、首の後ろに纏めた長い銀髪を揺らしながら、永遠亭の薬師である八意永琳が看護士の妖怪兎を一羽伴って入ってきた。後ろにアリスが続く。
「気分はどうかしら?」
訊かれても声が出せない、と身振りで示す。
永琳は頷くと、看護士から受け取った薬湯を魔理沙に渡した。
「口に含むようにして、ゆっくりと飲みなさい」
言われたようにする。
少し甘い温めの薬湯を飲むと、ようやく声が出せるようになった。
永琳から自分の怪我についての説明を受ける。
骨折は左脚のみ。打撲や擦過傷等の細かい怪我は無数にあったが、特に問題は無いとのことだった。
「しばらくの間は安静にしていてね。それと、あと一週間ほどはこのまま入院してもらうわよ」と説明を締め括ると、お大事にね、と言い置いて薬師と看護士は出て行った。
アリスは頭を下げて一人と一羽を見送ると、私の布団の傍らの座布団に戻って正座した。
彼女は私が眠っている三日の間、昼間の面会時間にはこの部屋に居てくれていたそうだ。
「私、どうなったんだ? おまえと箒でレースをしてて、ゴールが見えたところまでは憶えてるんだけど……」
布団に横になっている魔理沙の疑問にアリスが答える。
「ブレイジングスターで地球に喧嘩を売ろうとしたのよ」
「ああ、そっか。ブースト代わりに使ったんだ。それで地面に激突して、この有様ってわけか」
納得したとばかりに魔理沙は頷く。
「ってことは、レースは私の勝ちだったんだな」
そう言って笑いながらアリスを見ると、彼女の表情は「心底呆れました」と語っていた。
「……何だよ? その顔は」
「彗星符の速度で地表にぶつかって、その程度の怪我で済むと思う?」
「え? そりゃまあ、運が良ければ」
「なら、そういうことにしておいてあげるわ」
魔理沙にもはや「可哀相な人」と語る視線が注がれる。
「何だよ、気になるだろ。教えてくれ。私はどうなったんだ?」
アリスは溜息をつくと、淡々と語り出した。
「ブレイジングスターで横を通過された時、私はあんたに魔法の糸を巻き付けたの。彗星符は後ろが無防備だからね。その後気絶してくれたのが幸いだったわ。糸を通じてスペルを強制終了させて、減速と同時に落下軌道の転換を試みて、前面に緩衝魔法を展開して……。ま、思いつく限りのことをやったわけよ。流石に無傷とはいかなかったけど、あのままなら即死だったんだから、感謝してよね」
「そ、そうか……。アリス、ありがとうな」
神妙な顔でそう言う魔理沙を、アリスはぽかんとして見つめた。次いで、くすくすと笑い出す。
「な、なんだよ! 人が真面目に礼を言ってるのに!」
「だ、だって、本当にお礼を言うなんて思わなかったから。ふふ……」
「もういいよ! ったく!」
頬を膨らませ、ぷいっとアリスとは反対側に顔を向ける魔理沙。
(あのままなら即死だった、か。死ぬかもしれないなんて、まったく考えなかったな)
今更ながら、自分の取った行動の無謀さに気付き、次第に恐ろしくなってきた。
(もしも私が死んだら、アリスは……)
魔理沙はもぞもぞと頭を動かし、人形遣いを見た。
「なあ、アリス」
「なに?」
「アリスは、私が死んだら泣いてくれるか?」
「難しいわね。人の家に勝手に上がり込んだり、無断で貴重品を持ち出す不逞の輩が居なくなって悲しいと感じるのは」
「わ、悪いとは思ってるんだ……」
魔理沙はアリスの顔を盗み見る。やはり綺麗だった。
「アリスは、私とは違うから」
「? 何のことよ?」
「え、と。その……。幻想郷で、独りで生活できてるところ、とか……」
口篭もりながら言う魔理沙に、アリスは不思議そうな目を向ける。
「そんなことなら、あんただって同じじゃない。元は里の大きな道具屋さんの一人娘なんでしょ? あ、魔法使いの家系だったかしら?」
「道具屋で合ってるぜ。でも、違う。私は、違うんだよ。アリスとは……」
「魔理沙?」
いつになく沈んだ様子の魔理沙に、戸惑うアリス。
人間の魔法使いは上半身を起こすと、誰にも話したことの無い過去をぽつぽつと語り出した。
魔理沙の実家である霧雨家は、人里でも一番大きな道具屋である。
彼女はそこの一人娘として、花よ蝶よと大切に育てられた。
欲しいと言ったものは何でも与えられたし、大抵の願いは叶えられた。
快活で頭も良く、人見知りをしない太陽のような娘は両親の自慢だった。
些か元気すぎることと、魔法に執心するきらいがあることが心配の種ではあったが、大目に見られていた。
そんなある日、事件が起こる……。
「ある日、私は近所の友達の家で遊んでたんだ。
で、その友達が『これはウチの家宝なのよ』って言って、何かを自慢されたんだ。
それが何だったのか、もう記憶に無い。ただ、キレイなものだったってことだけは憶えてる。
次の日、その友達は一家揃って出かけていった。私は前日に聞いてて、そのことを知っていた。
それで、そいつの家に忍び込んで、『家宝』を、その……盗み出したんだ。
自分の家に帰って手に入れたお宝を見て笑っているところを、親父に見つかった。
『それをどうしたんだ?』って問い質されて、正直に答えたよ。隠すなんて考えもしなかった。
別にどうってことないと思ってたからな。
事の顛末を聞いた親父は真っ青になってた。
で、夜になってから私を連れて、友達の家に行ったんだ。
その家の土間で親父は土下座して、家族に大金を渡してたよ。愛娘の将来を慮っての口止め料ってことだろう。
お陰で、このことが公になって私が後ろ指を差されることは無かった。
でも、私は居た堪れなくなって……親に勘当されたってことにして、里を出たんだ。
いや、逃げた。そう、私は逃げたんだよ……」
語り終えた魔理沙は、ほう、と息を付いた。
枕元に置かれていた急須から湯飲み茶碗に白湯を注ぎ、一口飲んで乾いた喉を潤す。ちらりとアリスを見た。
人形遣いは、きょとんとしている。何を言っていいか解らないのだろう。
ややあって、「何でその話を私に? 今まで隠してたんでしょ?」と言った。
「ああ。このことは、霊夢ですら知らない筈だ。アリスに話したのは、……ええと、おまえに知っておいてほしかったから……」
ぽそりとそう言い、また一口白湯を飲んだ。
そんな魔理沙を、アリスはじっと見ている。
外の竹林から、笹の葉擦れの音が聞こえてきた。
沈黙を破ったのは、人間の魔法使いだった。
「ごめんな、アリス」
「? どれのこと?」
疑問形による人形遣いの返答に、魔理沙は苦笑するしかなかった。
「何のこと?」ではなく、「どれのこと?」か。
確かに、自分は今まで彼女に迷惑を掛けすぎている。
「例の魔宝石のこと、さ」
ああ、とアリスは得心した。目を閉じて、考える。
確かに魔宝石は砕けたが、十二体の戦闘人形に生まれ変わって今も生き続けている。死んだわけではない。
(今度神綺様にお会いしたら、「自分の不注意で壊してしまいました」と言って謝ろう)
魔理沙に対する恨みつらみは、もはや解消している。
目を開いたアリスは微笑みを浮かべて、魔理沙に告げた。
「もう気にしなくていいわ」
「そ、そっか」
頬を染めて俯く魔理沙。
(そうだ。私がどれだけ迷惑を掛けようと、いつだってアリスは許してくれたじゃないか。なのに私は、つまらない意地を張って……)
こんな少女が存在し、しかも自分と同じ時代、同じ世界に生きていることが、魔理沙にはまるで奇跡のように感じられてならなかった。
「やっぱりアリスは優しいな。それに、何だか最近変わった気がする」
「そう? 自分じゃ解らないわ」
「いや、確かに変わったぜ。その、何て言うか……綺麗になったよ」
前から綺麗だったけどな、とは流石に言えない。恥ずかしすぎて。
アリスはぽかんとした後、くすくすと笑い出した。
「何よそれ。ひょっとして告白?」
冗談のつもりだった。
「ああ、告白だぜ」
しかし魔理沙は人形遣いが見たこともないような真剣な表情を彼女に向ける。
「好きだ、アリス。おまえを、アリス・マーガトロイドを他の誰にも渡したくない」
突然の展開に、アリスは困惑していた。
「アリスと一緒に居ると楽しいし、おまえが他の奴と笑い合ってると、胸が痛むんだ。だから、その……私と、付き合ってほしい」
人形遣いは悩んだ。思いつめたような魔理沙の様子からすると、とても自分をからかっているとは考えられなかった。
しかし、今までの魔理沙に、自分への好意を匂わせる言動があっただろうか? いや、思い付かない。
「私、私は……」
アリスは俯き、考え込んだ。
魔理沙の様子をそれとなく窺う。
淡い感情を伝えたせいか、頬を染め、視線は妙に熱っぽい。しかし……。
(恋人に? 私と魔理沙が?)
アリスはどうにも妙な気分だった。
腑に落ちない、という表現を今の自分の心情に当てはめるのは間違いだろうか。
要するに、『魔理沙に寄り添って幸福そうに笑うアリス』という光景が、どうしても頭に浮かばないのだ。
現在の魔理沙の動向は大体解っているつもりだ。
まともな収入は無きに等しい、その日暮らしの魔法使い。
香霖堂で商品を入手し、代金は踏み倒す。私は今後、そのお金を支払うのだろうか?
紅魔館地下図書館で、「死んだら返すぜ」という捨て台詞と共に書籍を強奪する。私は今後、その尻拭いをするのだろうか?
その他諸々、魔理沙に関する苦情受け付け係を務めるはめになるのだろうか?
魔理沙の自宅の有様と生活習慣を思い起こしながら、彼女と自分が一緒に暮らす様を想像してみる。
……………………。
気が重くなった。
(これじゃ私、まるっきり住み込みの家政婦じゃない)
もしくは、夢の世界に生きる者と、そんな恋人に尽くし支えるダメ女というところだろうか。
時折、魔法の研究等でひたむきに研鑽を積む姿には好感が持てるが、その間恋人が省みられることは無いだろう。精々都合の良い助手扱いされるのが関の山だ。
アリスは頭を抱えたくなった。
別に、メリット、デメリットで恋愛を計るつもりは無いが、それにしても限度がある。
思うに、アリスと魔理沙はそれぞれ異なる意味で『女』なのだ。
魔理沙は『夢見る乙女』
アリスは『リアリスト』
平行線を辿っている二人のラインが交わるとは考え難い。
少なくとも、どちらかが変わらなければ。
しかし――。
(どうにも無理よね、これは)
アリスの思索はそう帰着した。
そして彼女は、己の内に生じた疑問の答えを目の前の少女の口から聞かなければならない……。
アリスは顔を上げ、魔理沙の目を見つめた。
彼女はびくっと身を震わせたが、視線を逸らすことなく受け止める。
アリスは心を落ち着かせてから、切り出した。
「随分と急な話だけど、どうして突然そんなことを?」
「確かに突然だよな。自分でもそう思う。
さっきも言った通り、アリスが綺麗だってことに気付いてさ。その上優しくて、料理とかも上手だし。
で、レミリアたちと最近よく会ってるって知った時、自分の気持ちが解ったんだ。おまえを誰にも渡したくない! って」
「そう……」
「で、さ……。アリスはどうなんだ? 私を、こ、恋人として」
人形遣いの少女、溜息をひとつ。
「魔理沙、あんたきっと勘違いしてるのよ」
「……勘違い?」
「今のあんたにとって、私は稀少なアイテムと同じなの。それがレミリアたちに取られそうだから、執着してるだけ。
アイテムなら、手に入れた後は部屋の隅に放置して埃を被らせようと文句は言わないわよね。
でも、私には自分の意志があるのよ?」
「解ってるさ! だからこうやって告白を――」
「本当に解ってる? これまで霧雨魔理沙はアリス・マーガトロイドに意思があることを理解した上で、それを尊重してきましたって、胸を張って言えるの?」
「そ、そりゃあ――」
魔理沙は言葉に詰まった。
今までのアリスに対する自分の言葉や態度が鮮明に脳裏に浮かび上がる。
魔理沙は彼女の存在をどう捉え、どう接し、どう扱ってきた?
茶菓子や食事を供してくれる者。貴重なマジックアイテムや魔導書の保管者。魔法の研究や日常の雑事で助けてくれる者。
総括すれば、『便利な隣人』だ。
「それは……だって……私は……」
唇を噛み、眉根を寄せて俯く魔理沙。
「いや、私だってな――」と、いつものように屁理屈で返すこともできたが、そのような場当たり的な軽い言葉に意味など無いことは解っている。
己の情けなさに目が滲み、とうとう魔理沙はしゃくりあげて涙を零し始めた。
抱き締めてあげるべきだろうか? と手を伸ばしかけて、アリスは思い止まる。
深く澄んだ極北の湖を思わせる彼女の蒼い瞳は、どこか達観した様を窺わせた。
やがて、魔理沙は涙を拭うと口を開いた。
「あ、あの、さ……」
「なにかしら?」
「それでも……。私も、その……アリスの傍に居させてくれないか?
もう、嫌がるようなこと、なるべくしないようにするから……」
アリスは微笑を浮かべ、頷いた。
彼女のこの表情はきっと、レミリアや妖精たちに向けているものと変わらない。
魔理沙はそう感じた。
今はまだ、それでいい。
でも――。
(でも、いつかきっと私がアリスの『特別』になるんだ!)
アリスが魔法使いとして上の階位に進むなら、自分もそこに昇る。
どれほど時間がかかろうと、修行でも何でもして『高嶺の花』を手にすることを、魔理沙は決意した。
想い、想われる、二人の魔法使い。
その姿を、天窓から差し込む光が優しく照らしていた。
【 The End 】
このアリス好きだ。
gj
ただその分魔理沙の悪い部分が目立った気がしますね。自分勝手で唯我独尊、普通のツンデレアリスとはお似合いですがこの作品のアリスとは格が違いすぎます。
願わくば彼女も成長した上で進化したマリアリを見たいです
楽しませていただきました。
確かにアリスには実力がありそうですよね。
人形を同時に複数操るのだった難しいことのはずですし
それを補う魔力、技巧、知識、判断力、どれをとっても強者の部類に入りますからね。
魅力的に書き表した氏に『お見事』と言わせていただきます。
初投降でこれだけの作品を作れるとは凄いですね。
とても面白かったですよ。
次回もあるなら楽しみにしています。
「アリス」というキャラクターがとても魅力的に描かれていて、終始楽しませて頂きました。
いろんなものに対するスタンスの取り方が実にスマートでアリスっぽいなと思えました
あと、特定のカップリングにならんかったところをめちゃくちゃ評価させていただきたい
こういうスマートなアリスは更に素晴らしいです。
怪3面の人形を使うリフレクターを強化・スペル化する発想も良かったです。
アリスも本当は強いんだよね。きっと。
アリス好きにはたまらん作品ですw 次回にwkkt
とは言え、他のSSには無い魅力をこの作品から感じるのも事実。
他のキャラとのバランスが取れて、アリス以外の魅力も見せてくれると尚良かった。
まったく、アリス好きにはたまらん作品を生み出しおって……。
いいぞ! もっとやれ!
アリス「らしい」ながらも「強い」アリス、最強っぽいんだけど最強臭はしないのは見事。
魔理沙の変わりにアリスがジゴロ化しそうな作品ってのはあんまし見ないので続きを期待したいカンジ
私がアリスに言いたいことを全部言われちゃいましたよ。
作者様の名前同様、とても甘く美味しい話でした。
次作あるようでしたら、楽しみに待ちたいと思います。
久々にカプ無し展開で続編が見たいと思える良き話で御座い。
その反面、魔理沙の成長を強く強く願ってしまうSSでも有りますが。
霧雨嬢の健闘を祈っております。
このアリスの強さには惚れるしかない!
サブで出てるキャラたちも全然欠くことなく個性が出てて・・・
とにかく、目が覚めるような至高の作品でした。
アリスすごいよ、アリス。
ぼくの考えたさいきょうってのとは異なる
やっぱりアリスはこのくらいのクールさと人間臭いのが似合ってるな
クールで、颯爽としていて、それで一人を選択するところが彼女の魅力だと思うのです。
考えてもみれば、魔理沙は八卦炉と箒をパチェは精霊を使役してるんだよね
純粋な自分の力だけで戦ってる魔法使いはアリスだけじゃないか
人形は自律してないから他力とはいえないし
それにしても最強臭が全くしない最強キャラってのは珍しいもんですねぇ
スキマとかなんて公式設定の時点で最強臭がしまくるというのに
しかも、アリスが「こうなる」というのがとても自然だ
アリスが一気に人気者に・・・一瞬レミアリかと思ってしまった
この力関係すごい好きです
最初から最後まで作品に格好よさが溢れてました。
それに加えて「自然な」キャラの立ち振る舞いに脱帽です。
今後の活躍にも期待したいです。
万能に器用な所もポイント高し
アリスを引き立てる為だけに
存在しているように
見えてしまいました。
超人というのは魅力的な反面
人間的な面が薄れてしまい、
感情移入しにくくなる弊害がある気がします
序盤の黙々と人形制作に打ち込むアリスが、アリスらしさが最も出ていて魅力的でした
しかしアリスの完璧超人化が進む中盤、妖精と友達になったあたりから少々胡散臭さを感じてしまいました
レミリアと魔理沙、特に魔理沙がアリスと比べて弱い部分が強調されすぎたため
噛ませ犬としての効果とキャラの魅力を打ち消してしまった気がします
一方、展開を納得させる理由や細かい部分の独自解釈は面白かったと思います
これからも頑張ってください
アリスの性格の描写。アリスと魔理沙の関係。ともに見事でした。
強さの説明も筋が通ってたし、魔理沙と安易にくっつかないエンディングもグッド!
あと、魔理沙がんばれ超がんばれ、君の成長に期待している。
次回作は魔理沙成長ものなんていかがでしょうか?
また、ストーリーもうまく練れてて読みやすかったです。
魔理沙とでもレミリアでもパチェリーとでもいいので続編希望です。
これこそが真のアリス像である、と感じさせられた久々の作品でした。
物語そのものは単純明快で目を見張るような伏線の設置や展開は見られないものの、
その進行や細かい描写、設定に至るまで非常によく書き上げられていてとても魅せられました。
個人的にレミリアとの絡みがとても嬉しく有り難かったです。
初投稿でこのクオリティ…これからがとてもとても楽しみです!
ごっすんごっすんごすんくぎ~♪なネタにはちょっともう食傷気味なので…
難を言えば、レミィ墜ちるのはええな。これが『フラグを乱立する程度の能力』…え、違う?
他のキャラを低く扱い、悩ませることでアリスを上に、という表現が多いですし。
アリスが主役なら、アリスにも心中の動きがあって欲しかった、と思います。
ただvsレミリア戦は少し練りが足らなかったかなぁ。
萃夢想のキャラ設定などを考えると、肉弾戦・魔法力・再生能力は強い。
相手に行動予想されても、なお相手が認識→行動するタイムラグの間にそれ上回るスピードで動ける可能性もあるし、蝙蝠1匹分残れば再生可能でもあるので、そこらへんを戦術で潰して追い詰めていくプロットがあれば更にハラハラして面白かったかもしれません。
あと、魔理沙に関しては恋心でオチをつけるより、アリスのお菓子を食べて「誉める」などで、ほんの少し成長した程度で良かった。
アリスに告白を否定させることで逆にフォローしてましたけど、フォローになってない気がしました。
「特別になりたい」だと、結局魔理沙は少しも反省成長はしないキャラで〆られたちゃったので、少し不憫かなぁと感じました。
…ついくせでsageを入れてしまって書き直した
ただアリス以外のキャラが弱すぎかと・・・
こういうテクニカルな強さってすっげー好みでした
後日談として紅魔館に訪れたりする話も読んでみたいと思いました
斬新な視点ながら違和感なく読めました。
ここまでだと私は抵抗がありましたね。
ストーリーは見事です。安易なカップリングに進まなかったのは新鮮で良いものでした。
あと超個人的ですが、ダメな子過ぎる魔理沙が痛々しいので救いが欲しかったかな…
とはいえ楽しませてもらいました。次回作も楽しみに待ってます。
ストーリーは見事ですし、キャラの描き方も違和感なく読めました。
指摘するなら、レミリア戦での薄さでしょうか。
弾幕を文章で表現するのは難しいですが、上手く出来ればより素晴らしい物になるでしょう。
正直ごっすんツンデレアリスには飽きていたのでこういうクールで知的なのは嬉しいですw
そのアリスの窮地を魔理沙が救うことで二人の仲は修復、めでたしめでたし・・・
みたいな流れになるかと勝手に予想していましたが、全然違いました。
とにかく、魔理沙がラストに至るまで、全くといっていいほど成長していないのが残念でした。
アリスに三連敗した後の魔理沙が何をしたかといえば、八卦炉と箒の強化のみ、
しかもそれすらもパチュリーに丸投げ状態。
他人に頼ること自体が魔理沙の努力の結果、みたいに劇中では一応説明されていますが、
「魔理沙は口では強くなりたいと言っているくせに、自分自身は何もしない」という
マイナスの印象だけしか持てませんでした。
2/3の後書きを読むと、
>「弱さに訳なんて無いけれど、強さには何らかの理由があるものよ。」
↑メインテーマはこれになるそうですが、じゃあ魔理沙がその「強さの理由」を理解したか?といえば、
していないですよね。
アリスの強さの理由は詳細に描写されているのでよく分かったのですが、
この話のもう一人の主人公である魔理沙にも、
そのテーマに触れるぐらいまでのところにいってほしかったです。
正直、レミリアパートを全部なくしてでも、魔理沙の修行・努力・成長具合に当ててほしかったです。
アリスとレミリアの対戦は、魔理沙にはほんとに何の影響もしていないですし。
ラストの箒レースでも魔理沙は特にいいところなし。
負けるにしても、「勝負には負けたけど、試合内容では勝っていた」ぐらいの、成長ぶりが見たかったです。
この話の中のアリスは、十二体の人形は今のところ弱点らしい弱点はない、
アリス自身は元々の素養に加えて、相手の行動の先読みに近いことができる、
さらにはスペル2つの同時打ちも可能・・・と、隙がなく完璧すぎる気もしますが、
ここまでの強さを得てなお、変に驕り高ぶったりせず、常に一歩引いた姿勢を貫き通している、
しかもあくまで相手を思いやる気持ちを忘れないので、好感が持てました。
上の文章でレミリアパートを全部なくしてでも・・・と書いていますが、
アリスとレミリアの交流そのものはすごく良かったです。
弾幕勝負もすごく練られていて、次はどうなるんだろう?と思いながら読んでいましたし、
その後のアリス邸でのほのぼのしたやりとりも良かったです。
あと妖精達に慕われて人形劇をしているも、アリスの本来の姿の一部を見た気がして、お気に入りのシーンです。
あとテイク・オフ、ランディング、リンク、チューニング、トライ&エラー、スリップストーム等、
横文字の専門用語が多いのが印象的で、いい感じに物語にスパイスを与えていたと思います。
アリスをはじめ、レミリアやその他のキャラの描写には不満はありません、
不満に思うところはやはり、メインキャラの一人である魔理沙にほとんど成長が見られなかったところですね。
とはいえ、少し長めの話ながら一気に最後まで読んでしまうほど、素晴らしく良い内容でした!
次回作、楽しみにしています。
終始変わらぬアリスのスタンスの取り方がステキです
アンタは最高だ!
苦境から逆に一皮むけて精神的にも大きく成長したアリス。
良い物です。
全編を通してクールなアリスに惚れ直しました。
「アリスはみんなの人気者」
これは俺のジャスティス。
総じてダメ女に描かれている魔理沙も、彼女らしい欠点や弱さが感じられてよかったです。
(私の抱いている魔理沙像にドンピシャでした。)
確かにこんなダメ女に告白されても、アリスも困っちゃいますよね。
コレが今のありのままの魔理沙なんだと、強く納得させられる作者様の筆力には脱帽です。
今はダメダメだけど、今後の魔理沙が成長出来るかどうか、気になるところです。
最後にアリスがピンチになって魔理沙が(覚醒して)それを助けて仲直り、
なんていうありきたりのエンディングではないところにこの話の魅力を感じました。
ご馳走様でした。
あと、魔法使い(魔女)三人のスタンスの違いをきちんと書き分けてる
点もいいと思う。
次回作品が楽しみです。
がっでむ、アリスで萌えてしまうとは…
次回作も期待してるぜ!
飽きのこない面白い文章ですが、、他の方が指摘されている通りの、
「ぼくのかんg(ry」と「他のキャラの低い扱い」は抵抗あるところですね。
特にダメ過ぎ魔理沙は人によって紙一重でしょうね。それはマイナス
他での扱いがどうも腑に落ちなかったので今作でのアリスの扱いは非常に好感もてました、が
仮にも主人公の一角である魔理沙を落としたままにしすぎる上に
努力を完全否定にしちゃったらキャラというか世界観が成り立たなくなるような心配と
レミリアの油断を突いて崩せた、程度のバランスならまだしも完全防御+一撃粉砕を
ほぼノーリスクというのは規格外中の規格外である妹様すら大きく凌駕してるような…w
レミリアがアリスの才に惚れるくだり等、微笑ましい場面が多かっただけに
アリスが全編通してちょっと隙がなさ過ぎの完璧キャラで終始してしまったのが残念です。
良かっただけに残念な気持ちも大きいのであえてこの得点で!
もう少し魔理沙が真剣に必死になるところがあればと思います。
隙だらけの自爆屋相手に勝ったところでアリスだってきっと楽しくないでしょう
ぼくがかんがえたさいきょーアリスな描写は面白く読ませてもらいました。
ちなみに私はアリスは魔界土産に頼らずとももっとデタラメに化けるんじゃないかと思ってます。
総じて面白い作品だと思いました。10000点超えてほしいなと勝手に応援しております。
私の基準は面白かったかどうかだけです。
ただ、魔理沙が絶対にやりそうもない終始他人頼りをしている点がどうしても違和感になってしまっているのが
最後まで付きまとってしまったのが、残念です
魔理沙が輝いて見えるのは間違いないが、‘現実’に照らし合わせると、
パチェのようなスタンスでもない限りアリスのような感想になるのも…
最初はvsレミで強すぎない?と思いましたが、わざわざレミリア自身が
アリスに対して攻撃を向けない。という縛りを作った以上、神の娘with神の贈り物
ではこんな物かな?と納得。
幻想成分とリアル成分の比率が人によっては受け入れられないかも知れませんが、
この路線は好きですよ。次回作(魔理沙努力記等)あれば言うことなしかな?と煽ってみる90点
もう少しクールだった方が違和感なかった気がする、ベタベタしないお付き合い。
魔理沙は見方によってはそういうキャラにもなりうるかもしれないなぁ、とは思いました。
勝率1%の魔理沙に対しては
たとえその場では計算どおり魔理沙の一方的敗北に終わったとしても
最後まで弾幕勝負で面倒を見てやるべきではなかったかと。
箒でアリスに勝てたとしても、弾幕で及ばないのであれば
魔理沙はいつまでも敗者として周囲から軽んじられていくだけです。
アリスが魔理沙を慮るのであれば
「いつでもつきあってあげるから練習して越えられるようになってみなさい」と
魔理沙が立場を維持するための努力を明確に促しても良かったように思います。
しかし作者さん自身が&上の方々が何度も言ってることではありますが、少し最強ぎみではないかと。
お嬢様の攻撃をかわして、ならまだしも二発目のグングニルに直撃してしまっているのに逆転してしまうのには
少し理不尽かなあと思いました。ただ戦闘描写はだらだらとしたところも無く、緊迫感のあるいいものだったと思います。
魔理沙とのレースも新鮮でした。アリスが糸を使って魔理沙にひっついていたところは思わずニヤニヤしてしまいました。
しかし魔理沙の成長も見たかったと思います。今後のアリスとの関係も気になります。
りんご飴さんの書くほかのキャラとのアリスの絡みも見たいところ。
つまり何が言いたいのかというと、続編を書いてほs(ry
その実誰かと一緒にいるとお姉さん振り的な存在だと思ってます。
強さに関して言えば……有りですね。
神綺の秘蔵のアイテムの上乗せをした元・Exボス……そりゃ強いでしょう。
久々に読み応えのある作品でした。
アリス×レミリア、実は好きですよ。
一体最後はどういう終わり方をするんだろうと考えながら読んでたんですけど、
色々な意味で予想を裏切られましたw
確かに魔理沙と結ばれるということは、彼女の悪いところも全て受け入れると
いうことですから、アリスみたいにきちんとした人には耐えられないでしょうね。
これ、りんご飴さんはマリアリのあり方に重要な一石を投げてしまったのではw
次回作も期待してます。
いや、百合の花が咲き乱れるようなヤツじゃなくて、今回のお茶会みたいなのを
どれをとっても理屈の上では納得出来ますが、どう見てもぼくの(ryです。
一人を持ち上げる為に他者を貶める事は、人によっては嫌悪されるでしょう。
私はあまりいい気はしませんでした。
ただし、筆力・描写力・雰囲気、総じて作者様のセンスに並々ならぬものを感じました。
生きたキャラクターが描かれていると思います。
バランスタイプのアリスが一回り強くなると万能型になるわけですね。
楽しませていただきました。
圧倒的に身体能力で有利なレミリアに勝ったり、一月半で思考を主人格の他に12分割できるのも才能と今までの技術の蓄積だけでは無理な気が…
そこを除けば全体的に面白く、良い作品だと思います
単に可愛らしいんじゃなく、「100年生きてる魔女でござい」って胡散臭さがぷんぷんするぜ!
お嬢様との会話も独特の「お友達感」が出ててとても良かった!
GJ!
魔理沙の成長物語の序章に感じたのは俺だけか
そして魔界神様の宝石が気になって仕方がない私がいる・・・
でも面白かったし、十分ありだと思う。
咲夜や永琳が完璧なのはいいけどアリスがそうなのは駄目、なんてことはない。
確かに作品としてバランスに問題があるかもしれないが、ちんまりと枠の中に
納まった作品が読みたけりゃ他にいくらでもあるんだから、作者氏には次回からも
この調子で突っ走ってほしい。
100点進呈! 持ってけ!w
パトロンを申し出るレミリアに一番萌えたのは内緒です。
すいむそーで実際勝てるし。弾幕ごっこってそういうもんでしょ?
とゆーわけで、大変美味しくいただきました。ごちそうさま。
そんな作品すら馬鹿の観点だと「ぼくのかんがえたさいきょうのありす」の一言で片付けられるのだな
切なくなった
いやもうなんというか本当にいい話でした。ごちそうさまです。
ただ、アリスを際立て過ぎたお陰で他のキャラの魅力が半減している。
それを踏まえた上で一言
面白かったよ!
しかし、それを引いてもアリスの素敵(むしろ瀟酒)さと文章で150点。
各キャラの専門用語が入った思考、筋道の立った文章が素敵です。初投稿とは思えません。
素人に優しい解説付きでありながらスピード感が失われず、長い作品なのにスクロールバーを見て「まだ終わらないのかなあ」という感じがしませんでした。
ぼくのかんがえた「超強」のありす という感じはしましたが、それでも素敵です。
そしてレミリア萌え。
私は全くレミリアファンではありませんが、「そんなのズルイー」の可愛らしさはそれこそずるいです。
楽しかったです。ありがとうございました。
解説も入っていて分かりやすく読めました。
三部作一気に読んでしまった・・・でも、満足です。(こんな深夜に・・・
作者の思惟がしっかりと伝わりました。
独自設定もありましたがそれほど突飛でもなく受け入れ易かったと思います。
そして最後に アリスかわいいよ!!
読み始めたら止まらなくて眠かったけど一気に読んじゃいました。
そして睡眠時間を削る意味が十分過ぎるほどあったと思える読後感。
作者のりんご飴さんに感謝の意を表します。
他作品でのアリスは大概どんどん病んでいくorヤンデレorツンデレなので、こういう非常にクールなアリスというアプローチは新しいのではないでしょうか。
逆にこの作品を成立させる上での弊害として原作の設定と違うんじゃないかというところもいくつか見受けられましたが、新たな書き方を試す上では重要だと思います。
(でもスペカの同時複数展開はルールで禁止されてるはずなので、れみりゃの「ズルいー」にはちょっと涙しました。れみりゃかわいいよれみりゃ)
応援してますので、ぜひ今後も執筆活動を頑張ってほしいと思います。
読み終わってからなんとなく違和感があって、それが何なのか考えた時に「あぁ、この作品少年漫画として雑誌に載せても問題ないノリ&内容だからかー」と勝手に納得してましたw
ただ、「ぼくのかんがえたさいきょうのありす」すぎると思ったので、その分を差し引いて80点付けさせていただきます。
>スペカの同時複数展開
気になったので調べてみました。「文花帖」「求聞史紀」「Wikipediaの該当項目」を見る限り、スペルカードルールに関する公式的な説明は「求聞史紀」の博麗霊夢の項にしか無いようです。
そしてその中には、複数のスペカを同時に使用することを禁止するという記述は元より、立て続けに使った場合、状態が上書きされるか同時展開されるかの明文化もありませんでした。
なので、SSとしては作者氏の解釈で問題無いのでは?
ただ、それだけに魔理沙の情けなさや自己中心っぷりが鼻につき、特に最後に至ってもそれが改善された様子が見られないため読後感は最悪でした。既にコメントにも書かれていることですが、もう少し成長してほしかったな、と思います。
あと、『シャープニング(刃を研ぐこと)』などのカッコ書きでの言葉の意味の説明は文章のテンポが悪くなるだけでなく、見た目も良くありません。説明が必要な言葉は使わないか、自然に説明できる語彙力を身に着けたほうが良いのではないかと思います。
アリスの描写もお見事ですが、魔理沙をここまで赤裸々に描ききった作品を
私は他に知りません。これこそ『霧雨魔理沙』です。
魔理沙の行動は周囲に迷惑をかけることで成立している面が大きいですけど、
それに関して本人がどう考えているのかという心理描写には感服いたしました
(特にact.3とLast Episode)。
ただ贅沢を言えば、魔理沙が犯したアリス邸への侵入、魔宝石の窃盗と損壊の
罪に対してアリスが一切罰を与えていないのが不満です。
せっかくここまで質の高い作品を練り上げられたのですから、もっと徹底的に
魔理沙を墜として欲しかったですね。
次回作も期待しています。
主人公(アリス)の見目麗しさをあそこまで繰り返し表現する必要もなかったように感じます。
あとラストの告白のくだりも。
魔理沙が男性ならともかく、女性が女性にあそこまで簡単に告白する、というのは考えにくいかと。
とはいえそれを差し引いても読み物としての完成度は高いかと思います。
こんな活き活きとしたアリスは私にとってかなり目新しいもので求めていたモノでもありました
その強さのバランスもきわどいラインを見極めてあったと感じます
抜群な器用さを持つであろうアリスのことを考えれば、紅茶を淹れることも刀剣の鋭さも一流であることは自然でしょう
レミリアというあまりの強敵に関しても、レミリアの想像していた以上の力を発揮できたまでで
純粋にアリスがレミリアより強い。というわけではない。レミリア自信本気で殺しに来たわけでもないでしょうし、事変では魔理沙だってレミリアに勝っているわけでアリスが強すぎてオカシイということもないと思います
そしてレミリアが可愛すぎる・・・はんそく・・・
レースでの勝負も珍しく又エキサイティングでした。しかし魔理沙は弾幕で勝ちたいのでは?という疑問は浮かんでしまいました。そこをスペルカードや魔法を使用するなどした演出は見事だったと思います。
ほかの方も仰られていますが、とても続きが読みたいですね。そしてすこしだけ大人になった魔理沙をw
もっともっとこんないいアリスを読ませて頂きたいです。ありがとうございました!
んー、自分こういう自己中心的な魔理沙はうけつけられないみたいです
魔理沙に相応の罰を与えて、きちんと反省してからのこういう落ちならすっきりできたと思います
で す が!!自分の趣味は置いといて、
こう、雰囲気がいいですね!
母から貰った宝物が形変わって新しいものになるってのはいいもんですな
魔女二人の聡明さとか、アリスの成長とか、アリスの周りの環境とかにいちいち魅力があって素敵でした
作者さんGJ!
この作品で魔理沙だけはどうしても好きになれませんでした。
しかし、この作品を読み終えて、この後魔理沙はどう変わって行くのだろうか・・・・・・
などと思いをめぐらせると、こんな魔理沙も良いんじゃないかななんて思いました。
でも躓いても前向きでいるあたりが彼女らしい
これからアリスの周囲はどのように変化していくんだろう
文章はとても良かったのですが、如何せんアリスが強すぎというように感じました。
アリスの独壇場なので最初から結末がわかってしまい、どちらが勝つかなどというハラハラ感がないように思われます。
強すぎなのはいいのですが、そこに至るまでの過程をもう少し描いてほしかったです。あとはアリスの葛藤とか。
魔理沙が最後簡単にアリスに告白してしまうのもよくある「最強主人公ハーレム化」が見え隠れしてどこかいただけなかったです。
またアリスも完璧ではないのだから、少しは動揺くらいしてくれてもよかったんじゃないでしょうか。
この作品の魔理沙では無理なのも頷けますが。
僕は良作となれば何度も読み返すんだけど、これは魔理沙のせいで読む気がなくなった。
僕の魔理沙のイメージが、この最悪の魔理沙で固定されてしまったよ。
アリスがちょっと簡単に人、特に妖精辺りの厚意を受け入れすぎかな、という気もしましたが。
自分より立場が上の人物に対しては打算が働きそうですけど、その他の人間に真っ当に交流が取れるなら友達がいない、とかそういう展開にはなってなかったんじゃないかと。もう少し葛藤が欲しかった。
魔理沙は魔女組に焦点をあてるとこんな人物になるかもなぁと納得しつつ。
手癖の悪さは寂しさの裏返しといいますけどね。はた迷惑な人間には違いありません。
霊夢を対比に使えればもう少し違ったような気がします。まぁ流れ的に難しかったですけど。
また、どなたか指摘されているように魔理沙の努力の手段が道具の強化だけ、というのは終盤のカタルシスに大きくマイナスだったように思います。手に入れたオモチャをすぐに試しに行く辺り救いがありません。
魔理沙の告白に対するアリスの回答は最もですね。
男女のモラルに対しての意識が薄いのは敢えてでしょうか。
その辺りはやはり違和感を覚えました。
これで終わりにするにはちょっと不満が残る、でもこの先があるならとても気になる。
そんな作品でした。
続編かはともかく、またりんご飴さんの東方が見たいな、と思いました。
おかしいと思ってたので共感できました
まぁ弾幕ごっこで勝率が分かるってのはどうかと思いますけど……
魔理沙は今後に期待って感じですね。堪能させていただきました。
みたいな扱いをされることが多いなかで
しっかりと「悪いこと」だとして処理出来た作品は珍しいですね
魔理沙もその上でこの先大きく成長していく期待がもてて良い展開だと思います
地霊殿で魔理沙は好かれてないって設定もできたんですよねぇ
マリアリは無理矢理アリスが魔理沙のことを好きなことにしてる話ばかりだったので
こういう話が読めてとてもよかったです
ところどころに出てくる専門用語が格好いいなぁ
数百年を生きてきた妖怪達との対比で、より人間らしい魅力を感じさせてくれました。
妖怪に比べれば短い時間の中で、泥臭くとも必死に食らいつこうと足掻くのが魔理沙の
魅力だと個人的に思っているので、すごくツボをつかれました。ありがとう!
既に他の方が何度も述べていますが、やはり魔理沙の成長が見られなかったのが残念でなりません。
私の中で「魔理沙は影で努力する子」というイメージが強かったせいか、道具の強化だけして終了、とうのは白けてしまいました。
しかもそれすらパチュリーに丸投げで、その上アリスが魔理沙の得意分野、要するにスピード勝負を提案したくだりなどは
完全に手心を加えられているというか、アリスに「もう弾幕じゃ勝負にならない」と暗に言われているようで
惨めさが際だっており、尚且つそれに対しても能天気な魔理沙を見てると救いようがないな、と。
最終的にも魔理沙の成長が見られない、告白で終了、というのが非常に残念でなりません。
この魔理沙は駄目っぷりが最後まで鼻につきました。
ぼくのかんがえた(ryに見えるのはやはり、アリスが強さ、人柄、佇まい等に隙が無さ過ぎるせいでしょうか。
勿論レミリアとの勝負は、レミリア自身が「王者の戦い」に拘った故の結果として納得はできます。
ただ、妖精たちの輪に簡単に馴染んでしまうとこに違和感があったのは私の個人的なイメージにそぐわなかっただけですが、
それでも周りがアリスに関心を寄せているくだりなどには些か違和感を感じました。
ぶっちゃけるとアリスは一番好きなキャラなんですが、それでも「アリス愛されすぎじゃね?」と思ってしまったのも事実。
まあ、容姿端麗で世話焼きで芸術的な人形繰りに定評のあるアリスなら、普通に考えて愛されるのは当然なんですが・・・。
「友達いない、ヤンデレorツンデレのアリス」には食傷気味だっただけに、こういうアリスは嬉しいですが、妙な違和感がありました。
他人に興味なさそうなキャラでの描写が多かったからかもしれませんね。
いきなり不満ばかり述べてしまいましたが、全作を通してまったく飽きがこない作品でした。
特に十二体の「虹の翼」が、美しく颯爽と駆け廻る様などはまるで目に浮かぶようで、夢中になってしまいました。
アリスが篭って研究をする場面などでは動きが少なくなり、どうしても助長な文章になってしまいガチなものですが
スラスラと読めてしまい、非常に楽しめました。
ここまで「まだ読みたい」と思える作品に久しぶりに出会えたことに深く感謝します。
願わくば、最後までこの作品で惨めに思える描かれ方をした魔理沙が
我らが主人公の一翼として羽ばたけるような、そんな作品が読んでみたいです。
読み進んでも苦にならないので、最後まで読んでしまいました。
素敵な作品をありがとうございます。
昔取った杵柄とはいえ、強い。そしてかっこいい。
強いアリス、いいですね~。
魔理沙は残念な人になってしまってますがw
でも、スペカルールを飲まされた妖怪側から見れば
こんなもんかも知れないですね
私が感心したのは、その部分の裏付けがきちんと書かれていたことです。
いかにアリスが強いか、読者の立場から読んで、強い説得力があった。
氏の作品がこの一作しか無いことに、大変残念に思います。
また氏の作品を読めることを願いつつ、文句なしの満点を差し上げたいと思います。
大雑把な所感はこんな感じでした。
・アリス強すぎ、でもカッコイイ
・魔理沙、冷静に考えたらこういう言動だよな
・これはレミリアではない! れみりゃだ!
文章にほとんど誤字がなく (または気づかせず) とても読みやすかったです。
カタカナの補足の説明も適度に簡潔で、良いと思います。ただ、この点については、他の方からの指摘を鑑みるに、用語説明に日々苦心する技術屋だからこそ自然に感じたのかも知れません。
なぜ今までこんな名作を見逃していたのだろう。
それを体現してくれたこの作品を、自分は何度でも読み返すだろうと思います。
ずいぶん遅くなりましたが、世に送り出してくれたことに感謝します。
しかし魔理沙に焦点をあてたところは、あくまで一読者としていまいちでした。というのも魔理沙に魅力が全然なくて、言いすぎかもしれないですが自己中で嫌な奴だと思ってしまいました。「成長した魔理沙を見たい」というコメントが多いですが逆にいえば作中で魔理沙は成長してくれませんでした。
そのせいで魔理沙にはまったく共感できず。なんだか努力しなかったり反省を次にいかさなかったりという人物には共感できないんですよね。なので魔理沙の苦悩に焦点を当てた3や最後の結末などは話にのめりこむことはできず残念でした。
私にとってこの作中の魔理沙は中途半端な感じです、決して善人でなくむしろ悪人。悪人でも悪人なりに実力の強さ、心の強さ、何らかの信念を持っていると見方・魅力も変わってきます。ですが魔理沙は悪人のくせに実力も心も信念も何もないから違和感ばかり。もっと一本筋を通しているのが私のイメージでした。
この作品としての魔理沙はこうなんだ、と思えばいいだけのことかと思いますし。
自分にとっては細かい描写も含めて楽しめました。ええ、とても。
良い作品を読めて幸せでした。
魔理沙の魅力をもっと表現できていたら文句なしです。
そのことを考慮しても面白かったです。