Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷の母の日にて

2008/05/19 01:54:31
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朝、東風谷早苗は紅い花を一輪、胸に抱きながら、守矢神社の境内から外を眺めていた。


いつもならこの時間は神社の掃除をしているのだが、今日は母の日、胸に抱かれているのは箒ではなく


カーネーションである。


「覚悟は…、していたんだけどなぁ…」


そう呟く声に力はない。早苗は毎年、必ず母にカーネーションを渡していた。


しかし、今、早苗がいるのは幻想郷である。渡す手段が無いのはわかってはいる。


それでもやはり、カーネーションを用意してしまった。


「お母さん…、お父さん…」


両親に思いを馳せる。やはり特別な日には、心に寂しさがにじみ出す。


「早苗」


そんな早苗に声をかけたのは、守矢神社の祭神が1柱、八坂神奈子である。


「きゃ!や、八坂様?起きておられたのですか。


 朝ご飯の用意をします…っ‘ギュッ’あ?」


寂しさを見せまいと、そそくさと去ろうとする早苗を、神奈子は無言で抱きしめた。


「八坂様?」


「早苗。すまないね。私のわがままで、おまえに寂しい目を遭わせてしまって…」


「そ、そんなことは無いです!私は…」


「今日は、母の日なんだろ?」


「…は、はい」


「無理、しなくていいの。私に今、できることは胸を貸すことぐらいだけどね…」


「…八坂様、ありがとうございます」


そう言うと、早苗は俯き、そして肩を震わした。


「馬鹿ね、この子は…。元凶の私に礼なんて…」


そう言いつつ、神奈子は優しく早苗の頭をなでる。


しんみりとした空気が、朝の守矢神社を包む。


「諏訪子キーーーーーーック!!」


「ガハァ!?」


守矢神社のもう1柱、洩矢諏訪子が神奈子に跳び蹴りをお見舞いだ!


神奈子君、吹っ飛んだー!!


「な、なにをすんのよ、諏訪子!!」


いきなりの不意打ちに、神奈子は起き上がりつつ諏訪子を睨む。


「神奈子が早苗を泣かせてるからよ!!」


「私は早苗を慰めているのよ!」


「それは私の役目よ!!」


ぎゃいぎゃい、といつものごとくケンカを始めた神2柱。


さっきまでの雰囲気はどこへ?と疑問に思いつつ、早苗はケンカの仲裁に入ろうとする。


と、その時に、胸元に持っていたはずのカーネーションが無いことに気づいた。


「あれ?どこにいったのかしら?」


周りを見渡しても、それらしき花は落ちていない。


風で飛んでいったのかもしれない、と早苗が結論を下したとき。


『早苗、いつでも、どこでも、なにをしていても、応援しているからね』


『自分の信じる道を行きなさい』


優しい声が聞こえた。


…確かに聞こえた。久しく聞いていない、けど、絶対に間違えることのない声。


「お父さん、お母さん、ありがとう」


きっとカーネーションも届いたに違いない。根拠は無いけどそう思う。早苗はそう確信した。


さっきまでの寂しさはもう無い。今は明るい神様や、新しい友、騒がしい隣人達に囲まれている。


そして、両親が応援してくれているんだ。


気持ちも新たに、早苗は一歩踏み出す。その一歩がケンカ中の祭神の仲裁とはどうかと思うが。


「八坂様、洩矢様、もうおやめください!!」


いつもの騒がしい守矢神社の一日の始まりである。







騒霊ヴァイオリニスト、ルナサ・プリズムリバー。


彼女は朝からカーネーションを人里で購入し、屋敷に戻ってきた。


「む~、ルナ姉、抜け駆けはずるいよ~」


「こういうときは姉さんの方が早いからね~」


門のところでリリカがむくれ、メルランがあやしていた。


「すまない。ほら、これがリリカの分、これがメルランの分」


リリカの文句を受け流しつつ、ルナサはカーネーションの束を二人に渡す。


「ありがと、ルナ姉」


「姉さん、ありがとう」


「さて、渡しに行こうか」


「「「私たちの寂しがり屋な妹であり、母である、レイラのところへ」」」


毎年行う、彼女たちの祭典。だだ一人の観客のために行うコンサート。


追悼ではない。だからレクイエムは似合わない。


その日のプリズムリバー邸はとびっきりの明るい曲に包まれるという。


亡き妹、亡き母へ送る曲。


【幽霊楽団 ~ Phantom Ensemble】







竹林に囲まれた、永遠亭。


今日の永遠亭は異様な雰囲気を見せていた。


「なあ、妹紅。永遠亭に連れてこられたのはいいが、これからいったい何が始まるんだ?」


「お、慧音は初めてだったな。まあ、見ていな」


慧音はいつもと違う永遠亭について、自分を連れてきた妹紅に問いかけるが、妹紅はそれをはぐらかす。


仕方が無く、あたりを観察していると、なにやらマイクを持った、因幡てゐが出てきた。


今日のためにしつらえてあったと思われるステージの上に立った。


そして、元気よくマイクに向かって、こう言った。


『選手入場!!』


その言葉を合図に、永遠亭の妖怪ウサギたちが、ステージの前に集まり始める。


その間に、慧音は妹紅に導かれるまま、ステージ脇にある【解説席】と書かれた席に座る。


ちなみに妹紅の席の前にも【解説席】とあった。


そして、【実況席】と書かれた席には


「なんでおまえもここにいるんだ?射命丸文」


「それは実況だからですよ」


答えになっていなかった。



さて、妖怪ウサギたち選手入場は、最後に鈴仙と輝夜が入ってきたところでおわりらしい。


いまだ疑問が解けぬ慧音をよそに、てゐはこれから始まるイベントの名前を高々と宣言する。


「これより、【母の日杯・永琳様のハグ争奪ビーチフラッグ大会】の開催を宣言します」


こけた。慧音が。


「いやあ、毎年楽しみにしてるんだよね、これ。ねえ、射命丸」


「そうですね、毎回毎回楽しみですよ。妹紅さん」


どうやらこの二人は常連らしかった。


「ちょ、ちょっとまて!?なんだ【母の日杯・永琳様のハグ争奪ビーチフラッグ大会】ていうのは!?」


慧音のもっともな疑問に、文が答える。


「説明しましょう。【母の日杯・永琳様のハグ争奪ビーチフラッグ大会】というのは、


 まず、通常のビーチフラッグを行い、それの優勝者に八意永琳さんがハグをする、というものです」


妹紅が文の説明を補足する。


「ただし、妨害、能力使用なんでもありありの参加者全員で行われるバトルロワイヤル。


 少しの油断が死を招くのさ」


「もともとは母の日は普通に永琳さんに感謝する日だったらしいのですが、どこで間違ったのか、


 このようなイベントになったそうです。まあ、永琳さんも毎年楽しみにしているらしいです」


「私は何年か前に、輝夜に襲撃したとき、たまたまこの日だったんで、見物したんだ。


 それ以来、毎年見物に来てる。いやあ、最高の娯楽だね」


「私も取材で竹林に迷ったときにたまたま…、それから毎年ですね」


大丈夫か永遠亭。てか、昔は隠れていたんだろうが。


そう思いながらも、慧音は、そうか、と頷くしかなかった。


なお、この説明中にステージ上の特等席から永琳が挨拶をしていた。



「今年こそ!今年こそ、永琳のハグを奪回するわ!!」


「今年も師匠のハグは私の物です!!」


「「「「「「ウササササササササ!!」」」」」」


参加者の皆さんはボルテージMAX。どうやら最近は鈴仙が優勝しているらしい。


『それでは皆さん、レディ!? …ゴー!!!』


ついに始まった、バトルロワイヤル。まずは輝夜が鈴仙を潰そうとせまる。


「今回は負けないわよ、イナバ」


「ふふふ、兎角同盟をなめてはいけませんよ、姫様」


「なに!?」


「いけ!ウサギたち!!」


「「「「「「ウササササササササ!!!!」」」」」」


「わーーーー!?ウサギの津波がー!?」


「ちょ!ちょっと、なんで私にも襲いかかってくるのよー!?」


どうやら雑魚ウサギたちは、実力者二人に飽和攻撃を仕掛るつもりらしい。


しかし、二人ともウサギの海におぼれつつも、漁夫の利を得ようとするウサギや、


お互いを旗に近づけさせないよう、無駄にハイレベルの争いをしている。争いは膠着状態へ。


その光景を見ながら、慧音は逆に感心していた。そんなにハグしてもらいたいのか。


他の連中も実況とか解説とか司会を忘れて、声援を送っている。


「行けー、輝夜!!生活費がかかっているんだぞーーーーーっ!!」


「鈴仙さん、そこです!!ああ、いいところだったのに!頑張ってください!!主に取材費のために!!」


「ウサギたち、漁夫の利ウサよ!!作戦通りに!!そしてわたしに人参代を!!」


「おまえら賭けとんのかーーーーーっ!!!???」


あまりのことに慧音は叫んだ。


「「「あたりまえじゃないか」」」


そうですか。


がっくりと力の抜けた慧音は、フラッグの方に目を向けた。


どうやら闘争の中心はフラッグから徐々に離れているみたいだ。


と、そこに近づく影を見つけた。


「おや、あれは」


「コンパロ~、コンパロ~。やったね、スーさん。旗、取ったよ!


 で、この旗をとったらどーなるの?」


「「「「「「ああ~~~~!!!???」」」」」」


決着。勝者、メディスン=メランコリー。



「えーりん。旗、取ったよ」


「ご苦労様、よくやったわね、メディスン」


慧音以外、みんな白い灰になった中で、メディスンは、永琳に旗を見せる。


永琳はメディスンの頭をなでながら、ねぎらいの言葉をかける。


「さて、優勝者にご褒美ね」


「え?‘ギュッ’あ…」


永琳は優しくメディスンを抱く。突然の事に、一瞬、身を堅くしたメディスンだったが、すぐに力を抜く。


そして、おそるおそる永琳に手を回し、ゆっくり、しかし、しっかりと抱きついた。


「えーりん…」


「ふふ、どうしたの?」


「えーりん、暖かい…。ふわふわ…。安心する…」


おそらく、初めて母親というものを感じたのだろう。メディスンは永琳の胸に顔を押しつけている。


その心温まる姿を、敗北者どもの灰にかこまれながら、慧音はほほえましく見守っていた。


まあ、こんな母の日もいいか、慧音は妹紅だった灰を集めながら、そう思った。


…そう言えば、賭金はどうなるのだろう?頭に引っかかった疑問。


再び永琳とメディスンに目をやると、永琳と目があった。


永琳がニコリと微笑む。


それを見た瞬間、慧音は理解した。月の頭脳恐るべし。







紅魔館の門の前にて、紅美鈴はいつもの通り門番をしていた。


「ふむ、今日は異常なし、ですね」


図書館に襲来する黒白魔法使いは、どうやら今日は来ない気配だ。他にも来客はない。


背伸びをしながら、平和っていいなぁ、と思っていると、咲夜がやってきた。


「美鈴、今日はもう仕事はいいから、ついてきて」


「あれ?今日って何かありましたっけ?」


「ええ。お嬢様の思いつきで、内輪だけでパーティーをすることになったのよ」


「わかりました」


お嬢様のわがままなら仕方がない。美鈴は素早く後始末をすると、咲夜について行った。



パーティー会場の大広間。すでに宴の準備は万端である。


そこに美鈴が足を踏み入れたとき、‘パーン!’‘パパーン!!’とクラッカーが鳴り響いた。


「「「「「美鈴、いつもありがとーーー!!!」」」」


「え?ええっ!?」


突然のことに混乱する美鈴。そこでレミリアが今回のパーティーについて説明する。


「今日は母の日だからね。紅魔館の母に感謝を、といわけでパーティーを開いたのよ」


はい、と渡されるカーネーション。


「あ、ありがとうございます!」


美鈴は、カーネーションを受け取りながら、思わず涙ぐむ。


「めーーーーりーーーーん!!いつもありがとう!!」


「わっ!フランドール様!?」


フランドールが、美鈴に飛びついた。


「ああ、フラン!ずるいわよ!わたしもーー!!」


「お、お嬢様も…」


「じゃあ、私は背中に~~」


「小悪魔ちゃんまで…」


「みんな!美鈴たいちょーに突撃~~!」


「「「「「「おおーーー!!」」」」」」


「わわわ、み、みんな!?」


フランドールに続き、レミリア、小悪魔、そして妖精メイド隊も美鈴に飛びつき、


あっという間に美鈴は妖精ダンゴ(一部悪魔)に。


「パチュリー様」


「なに?咲夜」


「うらやましいですね」


「そ、そんなこと、ないわ」


「そうですか?」


「…」


「…」


「……」


「……」


「……むぎゅー」


「うらやましいんですね」


「(コクリ)」


「私たちは、あとでたっぷり抱きつきましょう。


 はいはい、みんな美鈴から離れて!パーティーが始められませんから!


 ほら、お嬢様も、妹様も、小悪魔ちゃんも離れて、離れて」


紅魔館での家族パーティーの始まり、始まり~~。






魔法の森、アリス=マーガトロイド邸。今年は母に自分で作ったクッキーとメッセージを送った。


自分の目標を達成するまでは、魔界の土は踏まないと決めているアリスである。


だが、魔界の主である母は、ことあるごとにやってきて、世話を焼いてくれる。


うれしいが、一回の滞在が1週間、ひどいときは1ヶ月以上になると、さすがにどうかと思う。


それに、母がこちらに来るたびに仕事を押しつけられている姉たちを思うと、もう少し自重して欲しい。


そんなことで、今年の母の日は、確実に自分のもとへ来るであろう母に対しての、魔界住人たちによる


捕獲作戦に協力をした。正直、寂しいが、今年は姉たちを優先して欲しいと思ったからだ。


「今頃、魔界でもパーティーをしているのかしら…」


人形達の手入れをしながら、母を、故郷を思う。


「シャンハーイ?」


「ホラーイ?」


アリスの郷愁を感じたのか、上海人形と蓬莱人形が、手元へやってきた。


「ありがとう、上海、蓬莱」


感謝の気持ちを込めて二体をなでると、上海人形と蓬莱人形は踊り出した。


続いて、他の人形達も踊りに加わる。


そして、踊りもクライマックスを迎えたとき、人形達はどこからか紅い花を取り出し、アリスに向かって差し出した。


「アリース イツモ アリガト!!」


「アリース ダイスキ!!」


「「「「「アリガトー オカーサン!!」」」」」


不意打ちだった。まさか、人形達が祝ってくれるなんて。


カーネーションを受け取り、アリスは人形達を、強く、それでいて優しく抱きしめた。


微かに感じる、母に感謝しながら。



魔界某所

「ふふ、アリスちゃん、喜んでくれたかしら?」







白黒の魔法使い、霧雨魔理沙は、珍しく魔法の森の中を、家に向かって歩いていた。


「母の日かぁ。ちぇっ、香霖も余計な事を…」


魔理沙は不機嫌だった。いつものとおり香霖堂に寄ってみると、霖之助に、今日が母の日である事を教えられた。


そして、母になにか贈り物をしたらどうだ、進められたのだ。


結局、意地を張り、断ったが、心の中にもやもやが残ってしまった。


たぶん、実家には霖之助が何かするだろう。そう思ってみても、このもやもやは晴れない。


空を飛べば、すっきりするもしれないが、なぜかそんな気分にもなれない。


いらいらしながら歩いていると、周りから不穏な気配がしてきた。


「「「「グルルルルルル」」」」


「「「「ガルルルルルル」」」」


どうやら知性の低い妖怪達に囲まれたみたいだ。その数およそ数十、といったところか。


「へっ、私は今、ものすごく機嫌が悪いんだ。怪我をしたくなかったらどっかに行きな!!」


もとよりこんな言葉が通じるとは思っていない。魔理沙は臨戦態勢に入る。


一瞬の静けさ。妖怪達が襲いかかってくる。あるものはかわし、あるのもは撃墜する。


誤算だ。


戦いながら、魔理沙は思う。妖怪達が妙に統制が取れているのだ。


しかし、リーダー的な存在は感じない。おそらく集団で獲物を襲うことを本能で覚えただけなのだろう。


広範囲の魔法を準備しても、必ず邪魔が入る。かといって一匹ずつ倒すには、数が多すぎる。


空を飛ぼうにも、木をうまく使われて、上を押さえられる。


「こりゃ、じり貧かも」


さすがに、疲れてきた。後何回、相手の攻撃を避けられることができるか。


「こうなったら…」


一か八か。ミニ八卦炉を構える。


「待ちな!」


「えっ?」


「ここでマスタースパークは賢くないね!」


「なに!?」


突然の声に魔理沙は構えを解く。


「ここは私にまかせな」


その声と同時に、光が妖怪達を貫いていく。


「あの魔法は!」


その光に何かを感じたのか、声の主を見る。


「あああ…!!まさか、魅魔様!?」


そう、声の主は博麗神社の祟り神であり、魔理沙の師匠の魅魔であった!


「でも、どうしてこんな所に…」


そう呟いている間に、魅魔は妖怪達をなぎ払っていく。


そして、妖怪達を全滅させると魔理沙の方へ顔を向けた。


「久しぶりだね、魔理沙」


「魅魔様ーーーーーーー!!」


思わぬ再会に、魔理沙は魅魔に抱きついた。不意に涙もこぼれる。


「馬鹿だね、泣くことがあるかい」


「でも!でも!!魅魔様に会えて…。ふぇぇぇぇん」


「全く、この子は」


魅魔は、未だ泣き続ける魔理沙を優しくなで続けた。



「で、少しは成長したのかい?」


あの後、落ち着いた魔理沙は、是非に、と魅魔を家に誘った。


もともと魔理沙に会おうとしていたらしく、魅魔も誘いに応じた。


そして、今は魔理沙の家でお茶をしながら、談笑をしている。


「あの頃に比べたら少しは…、と思ってるけど、さっきので自信がなくなったぜ…」


「はは、あれは状況が悪かったねぇ。安心しな。おまえは成長しているさ」


「魅魔様…」


「寂しがり屋なところは変わってないけどね」


「むぅ」


確かに魅魔の言うとおり、魔理沙は自分がいらいらしていたのは、寂しさのせいだと自覚した。


「でも、魅魔様。今までどこに?」


「ちょっと野暮用でね。まあ、おまえの元気な顔を見たから、戻らないとね」


「そんな!」


「まあ、今晩一晩くらいはお邪魔するよ」


くるくる変わる魔理沙の表情を見て、変わらないね、と魅魔は苦笑する。


そんな魅魔に、魔理沙は意を決し、お願いする。


「じゃ、じゃあ、魅魔様。今晩、い、一緒に寝てくれませんか?」


その、かわいらしいお願い事。答えはもちろん決まっていた。


「この甘えん坊め。いいよ。一緒に寝よう」


この日、魔理沙は懐かしい温かさに包まれながらゆっくりと眠りにつくことができた。







マヨイガ。八雲紫の家にて、夜もほどよく更けた頃、ちゃぶ台を囲んで二人の女性が談笑していた。


「母の日にここに来るなんてね、霊夢。寂しかったの?」


「うん、寂しかったの。って言ったら信じる?紫?」


八雲紫と博麗霊夢である。


「あー、ごめん。私の発言並みに信じられない」


「自覚してるのだったら治しなさいよ」


「ふふふ。それは無理ね」


「はぁ。全く。まあ、私の目的は達成されたけどね。やはり今日はごちそうだったわ!」


「あんたはそれが目的だったのね…」


そう。霊夢は母の日という記念日には、ここ、マヨイガではごちそうが出ると予測し、お邪魔していたのである。


二人がなんでもない会話を交わしていると、紫の式、八雲藍が戻ってきた。


「あら、藍。橙はもう寝たの?」


「ええ、紫様。今日はものすごくはしゃいでましたからね。疲れたのか、布団に入ったら、すぐにぐっすりでした」


「そう。あなたも隣で寝てくればよかったんじゃない?」


「いや、まだ私は紫様にこれを渡していませんから」


そう言って藍がしっぽの中から取りだしたのは、カーネーション。


「はい、紫様。いつも感謝しています」


「…ふふふ、ありがとう、藍」


花束を渡す、式と、受け取る、主。


しかし、この二人はそんな関係ではなく、本物の親子のように思えた。


「紫、照れてる?」


「うるさいわね、霊夢」


若干、顔を紅くしながら霊夢をあしらう。


「あ、そうだ、私からも」


「え?霊夢が、私に?」


「そ。まあ、なんだかんだって世話になっているしね。藍から花束の一本をもらったんだけど」


その言葉に、強奪たっだじゃないか、と藍はぼやいていたが。


「…まあ、ありがたくいただいておくわ。


 でも、霊夢が私に贈り物を…。藍、異変が起こらないか注意をするのよ!!」


「こらっ!異変認定するな!」


「まあ、まあ。二人とも…」


八雲藍。苦労人です。



「ところで紫様。朝はどちらに行っておられたんですか?」


「ええっ!?紫が朝、起きてどこかに行ったぁぁぁ!?


 藍、それ本当なの!?」


「驚いたことに、本当なんだ。私も5回ぐらい、自分の頬をつねったからな」


「ちょ、ちょっと!私が朝、起きてどこかへ行くことは、そんなに驚かれるようなことなの!?」


「「当たり前じゃない(です)」」


即答だった。


「くすん、くすん…。いいもん、いいもん…」


「ああ、ほら紫様、すねないで」


紫の頭をなでる、藍。どっちが主かわからないわね、とは霊夢の感想である。


藍に頭をなでてもらって、少し機嫌を直したのか、紫が答える。


「ちょっと気になってね。ほら、新しく幻想郷に引っ越してきた子がいるでしょ?」


「早苗のこと?」


霊夢が答える。


「そう。今日は母の日。外の世界に残してきた物を、強く想うんじゃないかってね。


 案の定、少し寂しそうだったから、ちょっとばかり、お節介を…」


そう、早苗に両親の声を届けたのは、紫であった。もちろんカーネーションも届けてある。


しかし、この紫の行動が、あまりに予想外だったのか、霊夢と藍は驚愕に満ちた顔をしていた。


「ゆ、紫様が人のために早起きを!?あ、ありえないぞ!?


 霊夢、異変だ!!異変が起こった!!」


「く、藍!今、手持ちの針と札が少ないのよ!神社に帰る暇なんてないから、力を貸して!!」


「ちょ、ちょっと!異変認定しないでよ!!」


「しかし、紫様が他人のために…。これが異変じゃなかったら、奇跡としか…」


「はっ!!


 藍、それよ!!」


「それ、とは?霊夢?」


「早苗の能力は『奇跡を起こす程度の能力』よ。まさか、ここまで強力だとは!」


「なるほど。守矢神社の神通力は本物、ということか!」


「二人とも、いい加減にしなさい!!」


涙目で怒られました。



「全く、二人とも調子に乗って…」


「すみません、紫様」


「普段のあんたの態度が態度だからね」


「ところで紫様。橙から私と紫様へ、ということで手紙を預かっています」


そう言って、藍は紫に手紙を渡す。


なにかしら、そう呟きながら、紫は手紙を読む。


そして、読み終わると手紙を藍に渡しながら、言った。


「藍、悪いけど、譲ってね」


「心得ています」


そして、紫は部屋を出て行った。残ったのは、藍と霊夢である。


「ねえ、藍。紫はどこへ?」


「橙の寝床だ。今日は紫様に、橙の横を取られてしまったな」


「すっごく照れてたみたいだけど…」


「ああ、紫様は、真っ直ぐで、素直な謝意には弱いからな」


「わかる気がするわ。その手紙ね」


「読んでみるか?」


「いいの?」


霊夢は、手紙を読み始めた。


そこには、つたない字で、短いが、それでも一生懸命気持ちを伝えようとする橙の想いがつまっていた。


『らん様、ゆかり様


 いつもありがとうございます。


 わたしは、らん様のように、つよくて、かしこく、


 ゆかり様のように、やさしくて、あったかい、ようかいになりたいです。


 わたしは、幸せです。


 だって、らん様とゆかり様、ふたりもお母さんがいるからです


                                ちぇん』
いつもプチでお世話になっています。



一番はじめに思いついたフレーズが、最後の橙の手紙。これに持って行くのに時間が…。

つくづく自分の文才のNASAに涙が止まらないです。



母の日からも一週間以上経っていますが、来年まで取っておくことは悲しいので、晒します。



お読みいただき、ありがとうございました。



※指摘ありがとうございます。修正しました。
ぺ天使B
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コメント



0.1010簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
橙の手紙に全俺が泣いた
6.90名前が無い程度の能力削除
ちぇんかわいいよ、ちぇん!
8.90名前が無い程度の能力削除
ちぇぇぇん…いい娘過ぎるぜ……( つ∀`)
10.90名前が無い程度の能力削除
橙ヤバい

何がヤバいって二人のお母さんがヤバい

感動して涙腺決壊した



「ふふ、アリスちゃん、喜んでくたかしら?」
12.100名前が無い程度の能力削除
フレンドリーな紅魔館に乾杯!
14.90名前が無い程度の能力削除
早苗さんの奇跡の力すげえええええ。
神き様の粋な計らいも良かった。
17.100名前が無い程度の能力削除
ちぇんの健気さに幻想郷がないた。

てか、皆いい話だよう。

18.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです。

特に紫の早起きを異変や奇跡扱いする霊夢と藍あたりがw

それと

>永琳がニコリと微笑む。

それを見た瞬間、慧音は理解した。月の頭脳恐るべし。

ここの意味がいまいちよくわからなかったです。←ゆとり

掛け金関係のことのようだが・・・





19.無評価ぺ天使B削除
おおお!意外な高評価に、うれし涙が止まりません!



>4様、6様、8様

橙はいい子です。かわいいです。母の日というフレーズで子役は真っ先に橙が浮かびました。



>10様

最後に書いたときに、私も不覚にも泣きそうに…。自分でなにやってんだろう…

脱字指摘、ありがとうございます。これほどの長文、書いたことがない物で…



>12様

乾杯!!



>14様

『奇跡』ですからw



>17様

途中までギャグに走ろうか迷ってしまいましたが、できるだけいい話できたと思います。



>18様

霊夢と藍のコンビは書いていて楽しかったです。てか、そのために早苗の話を(マテ

永琳は賭けの胴元で、メディスンが勝ったために全員ハズレ。永琳の総取り、という設定です。

これを文中に入れると生々しくなりそうだったので、遠回しな表現になりました。

わかりにくくてすみません。ニコリ→ニヤリにしようか、小一時間悩みました…
28.100名前が無い程度の能力削除