この物語は作品集53の『ママは七色人形遣い~アリスとちび美鈴~』の設定を使っていますが
特に読んでいなくても大丈夫だと思います。
それは色褪せてもなお鮮明に残る愛娘との記憶。
数千年という年月が流れ、幾度の冬を越え、幾度の春を迎えたとしても忘れる事のない愛娘との思い出。
『ゆかりさまっ!ゆかりさまっ!ゆかりさまにらんからのおねがいがありますっ!
すこしだけでいいですから、らんをだっこしてくださいっ!』
目を輝かせてお願いする愛しい娘の言葉に、母は苦笑を浮かべながらも願いを聞き届ける。
まだ生え揃わぬ二本の尻尾を挟まないように、小さな娘を優しくその腕に抱き抱え、
母親は『これでいい?』と確認するように愛娘へと微笑みかける。その笑顔に負けじと、娘も大輪の笑顔を咲かせて大きく頷いた。
そして、次の瞬間、母親は自分の頬に何かが触れるのを感じた。
やや時間を置いて、その正体に母親は気付く。何のことは無い。腕に抱いた娘が自分の頬にキスをしたのだ。
少し驚き、目を丸くする母親を気にすることもなく、彼女の腕の中で娘は爛漫に笑った。
どうして突然このような事をしたのか不思議に思う母に、娘は無邪気にその答えを告げる。
『あのですねっ。すいかさまがおしえてくれたんですっ。
だいすきなひとに『かんしゃ』のきもちや『すき』ってきもちをつたえるには、こうするのがいちばんだって』
『そういう事。全く萃香ったら…本当に困った友人だこと。
いつもいつも藍に変な事ばかり教えようとするんだから…』
成る程。ネタばらしをすれば何という事はない。
愛する娘から贈られた突然のキス。その理由は、困った悪友の差し金だったのだ。
だけど、今日ばかりは許してあげようと思う。彼女のおかげで、私は娘からこんなにも嬉しい贈り物を貰えたのだから。
えへへと笑う娘に、母親も優しく微笑みを返し、そして娘の頬に優しく口付けをする。
それは娘から貰ったキスのようにどこまでも一途なキスで。ただ、『大好き』という気持ちを乗せて。
『私も藍の事が大好きよ。だから、お返ししないとね。
藍、貴女にちゃんと私の気持ちは伝わったかしら?』
『?らんはゆかりさまがだいすきですよっ!』
見当違いの回答に苦笑しつつも、母親はただ優しく娘を抱きしめる。
それは遠い記憶の一ページ。数千年という年月が流れてもなお色褪せぬ愛娘との記憶の一欠けら――
その幸せな記憶の時間は、己の身体に舞い降りた心地よい揺さ振りと共に終わりを告げる。
「紫様。昼食が出来ましたので、いい加減に起きて下さい」
「…ふぇ?」
コタツの中に潜り込み、気持ち良く睡眠を貪っていたその母親――八雲紫を呼び起こす声に、
彼女は意識がまだ覚めやらぬままに、ゆっくりと顔をコタツ布団の外へと曝け出す。
そこには彼女の式、八雲藍が少しばかり呆れるような視線を向けて彼女の方を眺めていた。
「あれ…藍…?藍ったらいつの間にこんなに大きくなっちゃったのかしら…
さっきまではこんなに小さかったのに…」
「紫様…若さ欠乏症にかかって…」
「若さ欠乏症!?酸素欠乏症ならまだしも若さ欠乏症って何よ!?」
「どうやらしっかりお目覚めして頂けたようですね。それでは私は昼食を用意しますので少々お待ち下さい」
紫の絶叫突っ込みをいつものようにスルーして、藍はテキパキと昼食をコタツ台へと運んでゆく。
藍のおかげ(?)でようやく覚醒した思考で、紫はようやく先ほどの光景が夢であったのだと気付く。
しかし、あれはただの夢ではない。数千年も前の事ではあるが、確かに紫と藍との記憶。
自分の頬にキスしてくれた幼き娘、あれは確かに愛娘、藍であった筈なのだ。しかし…
「…どうかされましたか?私の方をじっと見て。もしかして昼食がお気に召しませんでしたか?
もしそうだとしても、今から作り直すのは絶対に嫌なので今日はこれで我慢して頂きますけど」
お盆に昼食を載せ、運んできた藍を紫はじっと凝視する。そう…しかし、しかしなのだ。
藍が成長してからというもの、紫は度々藍に対して思うようになったことがある。
――最近の藍は昔に比べて私への愛情が足りない。
それは別に藍の紫への想いや藍の優しさが消えたという訳ではない。
藍が自分の事を大切に思ってくれているのは充分に理解しているし、疑うつもりも無い。
彼女はいつだって自分の事を考えてくれた。その為には己を押し殺すことすら躊躇わない。
藍が紫の為に生き、紫の為に死ぬ事に何の疑いも持っていない事など今更考える必要すら無いのだ。
だが、紫が思っているのは勿論そういう意味の事ではない。
何というか、私生活での藍が少し自分に冷たいような気がするのだ。
その事に違和感を覚えたのはいつからだろうか。今となっては覚えていないが、それは少しずつ大きくなっていったような気がする。
藍の尻尾が二本になった時?いやいや三本になった時?五本になった時?ううん、九本になった時?
それとも藍が大きくなって自分が再び冬眠をするようになった時?それとも藍が橙を連れてきた時?
それが何時だったのかは分からないが、とにかく気付けば藍は紫に対して今の状態になっていたのだ。
小さな雪球がコロコロと雪原を転がり落ちていくように、気付けばそれはそれは手遅れな状態になっていて。
反抗期とは違う、かといって親離れとも言い難い…とにかく今の藍は少し自分に対して愛が足りないと紫は思うのだ。
「ねえ、藍。私は思うの。最近の藍は私への愛情が全然足りないって」
「何を言い出すのかと思えば、またその話ですか。
従者についてなら先日嫌と言いたくなる程に勉強させて頂いたと思うのですが」
「従者としての愛情はもういいわ。私が言っているのは貴女の『お母さんへの愛情』。
最近の藍は少し私に冷た過ぎると思うの。藍、貴女はもう少し私への愛情を前面に押し出すべきだわ」
「はあ…よく分かりませんが、今回は具体的にどのようにすれば満足頂けるのでしょうか」
また始まったとばかりに溜息をつきながら、藍はお盆をコタツにおいて紫の前に正座する。
数千年という長い年月を紫と共に過ごした彼女にとって、こういった紫の突発的な発言には慣れきっているのだ。
今回はどのような無茶難題を告げられるのだろう。出来れば夕食の準備に支障が無い程度に収めて欲しいと
考えながら、藍は紫の次の言葉を待つ。そして、紫は楽しそうに微笑み、藍に対して己の要望を伝える。
「藍、貴女は私への愛情を形に出すべきよ。という訳で今すぐ私の頬にキスをしなさいな」
「さて、と。そろそろ洗濯物を乾さないといけないので、失礼します」
「ああああ!!!待って!!お願いだから私を無視しないでーー!!!」
正座を解いてその場に立ち上がり、スタスタと歩き出そうとした藍の足に必死に縋りつく紫。
前作からくどい様ではあるが、この主従は紫が主で執事が…もとい、従者が藍である。
決して逆ではないのだ。藍に涙目で必死に懇願して今にも『むきゅー』とでも言い出しそうな紫こそが主なのだ。
「いいじゃない!昔はこんな風に頼まなくても藍の方からキスしてくれたじゃない!
お願い!一度だけでいいから!一度だけで満足するから!」
「お願いですから人が聞いたら誤解されるような発言は控えてください。
大体それは何千年前の話ですか。私がまだ橙よりも小さかった頃の話じゃないですか」
「歳は関係ないわ!可愛い藍からの愛情表現なら私はいつだって受け止められるもの!
私は可愛い藍の事なら何でも受け止めてあげるわ!たとえ藍が冷たくなってもやさぐれてもスッパしても見捨てない!
さあ、この母に存分に愛をぶつけて頂戴!」
「式弾『アルティメットブディスト』」
「痛ーーー!!!そんな暴力的な愛情表現は嫌ーーー!!!」
超小型に、かつ家を壊さない程度に威力は最低限には抑えられているものの、
藍の発現させた卍型のレーザーをビシビシと打ち付けられる紫。ちなみに逃げたり避けたりしないのは、
そんな事をしてしまえばこの後昼食抜きの罰を下されるのが目に見えているからである。
何度も言うが、この主従の主は紫。従者は藍。現在、涙目でスペルカードを直撃されているのが主なのである。
「という訳で最近、娘が私に冷たいんです…どうすれば私に心を開いてくれるでしょうか」
「どうでもいいんだけど、白玉楼は悩み相談室でも何でもないわよ、紫」
昼下がりの白玉楼の一室。昼食を終えた紫は、親友の住んでいるその場所へと遊びに訪れていた。
先ほどの藍との遣り取りを紫は親友である西行寺幽々子にしくしくと涙交じりで語り、
それを聞きながら幽々子は妖夢の用意した茶菓子(ちなみに紫の為に用意されたもの)を口にしていた。
なお、この室内にはその二人の他に、幽々子の従者(正確には少し違うが)の妖夢も座り、二人の話をじっと聞いていたりする。
「千年来の付き合いだけど、藍は大体あんな感じじゃないかしら?
紫の言う事はちゃんと聞くし、真面目で優しいし、いつもいつも貴女が私に語ってるように、立派な自慢の娘じゃない。
紫が言うほど、そんなに深く悩むようなことでもないと私は思うけれど」
「それは当然よ。藍は私の自慢の娘だわ。ただ、何というか…最近は少し愛情が物足りないのよ。
昔は可愛かったわあ…私の後ろを小鴨のようについて回ってね、いつもいつも『ゆかりしゃま、ゆかりしゃま』って
私の名前を呼びながら笑ってたのよ。あ、勿論勘違いしないで頂戴。今でも藍は誰よりも可愛いわ。
大人になっても藍の持つ可愛さは変わらないし、この世に藍以上に愛しい娘なんて存在しないもの」
「分かった、分かったから少しは落ち着いて頂戴。
貴女がどれだけ藍を愛しているかは、もう千年も聞かされてきたから充分理解してるつもりよ」
親友の熱の篭もった演説に、幽々子は苦笑を浮かべるしかなかった。
本当、普段は冷静なくせに藍の事になったらこうなのだ。本当に親馬鹿な友人だが、それも彼女の魅力だと思える。
「何よ何よ、藍のイジワル…キスくらいしてくれてもいいじゃない」
「キキキ、キスですかっ!?」
紫の愚痴に埋もれていた言葉に、妖夢は思わず反応してしまう。
なあなあな反応の親友とは違い、自分の話に食いついてくれる妖夢に気を良くしたのか、
紫はふふんと胸を張って楽しそうに笑みを浮かべる。
「そうよ、妖夢。藍は小さい頃、『大好き』って気持ちを表す為によく私の頬にキスしてくれてたんだから」
「それが今ではしてくれなくなって不満、と」
「そう!そうなのよ幽々子!
うう…キスだけじゃないわ。最近は一緒に寝てもくれないし、お風呂だって別々だし…」
「それは当たり前だと私は思うけれど…」
幽々子の言葉が聴こえていないのか、紫は再びよよよと悲しそうな表情を浮かべて卓上に突っ伏した。
るるると流れる涙のおかげで、このままでは鼠どころか橙の似顔絵すら描けそうな始末である。
そんな情けない姿を晒す紫を見て、幽々子は仕方ないとばかりに適当に話を合わせてあげることにした。
「成長したから…という至極当たり前でそれ以外に無いと思われる理由を敢えて考えないとするなら、
好きな人でも出来たんじゃないかしら。それならキスしない理由も一緒に布団やお風呂に入らない理由も説明がつくわ。
恋は人を成長させるとも言うしね。まあ、藍は人ではないけれど」
「恋っ!!!?藍に好きな人ですって!!!!?」
――なんてね、冗談よ。そう付け加えようとした幽々子の言葉を打ち消すかのように大声を上げ、
がばっと卓上から顔を上げる紫。その姿に幽々子と妖夢は驚きの余り言葉を失してしまった。
何故ならその時の紫の表情。それは本当に真剣なモノで。そしてどうしようもなく必死なモノであったからだ。
「駄目よ!!藍に好きな人なんてまだ早過ぎるわ!!」
「早過ぎるって…藍の年齢は既に数千歳だったと私は記憶してるんだけど…」
「年齢なんか関係ないわよ!藍に好きな人ですって…!?
一体何処の誰よ、私の藍を誑かした大罪人は…私の可愛い藍を傷物にしてくれた愚か者は…」
「いや、傷物ってちょっと紫、落ち着いて…」
「――いいわ。ちょっと私、藍に訊いてくる。
ふふ、ふふふ…そうね、丁度良い機会だわ。身体も少し鈍っていたところだもの。
そいつに教えてあげなくちゃ。どうして私が他の妖怪達を差し置いて『最強』と呼ばれているのかをね…
八雲に負けは許されない。八雲に敗北は存在しない。私の藍を誑かした罪、命一つで払うには安過ぎるくらいだわ」
親友の言葉も耳に入る事も無く、紫はクククと不敵に笑い、妖力をその身に高めていく。
その力は無双。幻想郷において並ぶ者など存在しない絶対強者の威圧感。そしてどうしようもない程の存在感。
彼女の纏う強大なオーラが室内のモノを吹き飛ばしてゆく。湯飲み、皿、壷と室内に置かれたモノが次々と壁に打ち付けられていく。
だが、幽々子と妖夢はそんなことなどどうでもよかった。ただ、今は紫の表情。それだけが怖かった。めっちゃ怖かった。
高速詠唱と共に境界をこじ開け、瞬時にマヨヒガへの道を作り、紫はその中へとダイブする。
その光景を見届けた後、幽々子は小さく溜息をついて、妖夢に優しく語り掛ける。
「大変ね、妖夢。どうやら藍に貴女の想いを届ける為には、
まず最強の妖怪である紫を乗り越えないと駄目みたいよ?頑張って紫を倒して頂戴ね」
「ううう…そ、そんなの絶対無理ですよお…」
思わず泣きが入る妖夢の頭を優しく撫で、幽々子は再び小さく溜息をついた。
どうやら親友の親馬鹿ぶりは年月を重ねる事に大きくなっているらしい。
今後、紫の前では藍に関する冗談を言うのは控えようと幽々子は一人、決意するのであった。
紫が出て行って数分程たっただろうか。再び白玉楼にスキマが開かれ、中から再び紫が現れる。
ただ、その姿は出て行った時の威圧感に包まれたような姿ではなく、弱弱しく涙を堪えた姿で、だが。
「おかえり紫。首尾の方はどうだった?」
「ぐすっ…今日は晩御飯抜きになっちゃった…
藍にそういう意味での好きな人なんかいないんだって…」
断罪執行。
どうやら紫は纏ったオーラでマヨヒガに置かれていた食器類を粉砕してしまったらしい。
それだけならまだしも、洗濯を終えたばかりの衣類等を庭まで吹き飛ばしてしまったらしい。折角洗ったばかりだったのに。
それらが藍の怒りに触れ、紫に断罪の鎌が落とされたそうだ。まあ、全ては自業自得なのだが。
八雲に負けは許されない。八雲に敗北は存在しない。しかし、紫は一つ大切な事を忘れていた。
彼女が向かった先の相手もまた『八雲』であったのだ。紫ってば最強ね。
再び卓上で泣きじゃくる紫に、幽々子は苦笑しながら再び別の考えを提示する。
「それじゃ、単に藍は紫にキスしたりしたくないだけじゃないの?」
「ちょっと幽々子!?貴女その発言は何気に凄く酷い発言じゃないかしら!?」
「でも、橙にはちゃんとキスするんでしょう?藍は。
そう考えるとやっぱり紫にしないだけだとしか思えないんだけど」
「昔はしてたと思うけど…き、きっと今はしてないわよ!ていうか私だけにしないなんて何そのイジメ!?
きっと藍は誰にもキスしないようになっちゃったに違いないわ!私だけにしないなんて絶対にありえないっ!」
ダンダンと机を叩き、力強く力説する紫を見て、
幽々子は良いことを思いついたとばかりに掌を叩き、微笑を浮かべて紫に提案する。
「それじゃ、試してみましょうか」
「試すって、何をよ?」
紫の質問に、幽々子は本当に楽しそうに微笑みながら口を開く。
その様子を見ると、彼女達を知る誰もが思ったことだろう。やっぱり彼女は紫の親友なのだと。
悪戯染みた事を考える時の表情、その時の幽々子の笑顔は無垢な子供のように笑っていたのだから。
「勿論、藍が紫以外の人にキスをしないのかどうか、よ」
その準備は瞬く間に進められた。一同が集められたのは紫の部屋。
その場所には藍に見つからないように、今回の遊びに必要な人員がスキマ経由でこっそりと集められていた。
ちなみに藍には紫の部屋に入らないように、紫から告げられている。
その言葉に藍は首を傾げてはいたものの、『分かりました』と了承し、再び家事へと戻っている。
そして、今回集められたメンバーは幽々子と紫、妖夢の他には橙、霊夢、そして魔理沙だ。
「おかしいわね…私は魔理沙を呼んだ覚えはないんだけど…」
紫の疑問に、魔理沙はおいおいと苦笑を浮かべて口を開く。
「そんな連れないことを言うなよ。最近、アリスの奴が中国の方ばかりに構って私の相手をしてくれないんだ。
こんな面白そうな企画をするんなら、私も呼んでくれよな」
「子供が出来たばかりの母親は得てしてそういうモノよ。
さて、それじゃ面子が集ったところで説明を始めるわね」
一同を見渡し、幽々子は楽しそうに今回始めるゲームのルールを説明する。
ゲームのルールは単純明快、『藍にキスをして貰えれば勝ち』というモノである。
方法や手順は問わない。とにかく藍から頬にキスをしてもらえれば勝ちという、
果たしてゲームと呼んでいいのかどうか疑問符がつくものではあるが、とにかくそういうルールなのだ。
なお、一人がスキマ経由で藍の所に行き、残りの面子は用意された遠見式の硝子水晶に
映し出されたその光景を見てキスされたかどうかの判断を行う。そんな単純なゲームなのである。
「それってゲームって言わないんじゃないの…?」
当然のように生じた霊夢の疑問に、幽々子は『そうねえ』と否定する事無く答える。
「ゲームと言うよりは実験に近いからね。私達はただ知りたいだけだもの。
果たして藍は他の人にもキスしてくれるのか、それともしてくれないのかをね」
「変な実験だな。紅魔館でレミリアやパチュリー辺りが中国相手に楽しんでやってそうな内容だぜ」
「まあ、頑張ってくれた人にはちゃんと色々と副賞を用意したから頑張って頂戴。
ちなみに参加する人は順番に橙、妖夢、霊夢の三人だから」
「私は参加不可か」
「後でアリスにちゃんと自分で弁解してくれるのなら参加でも構わないけれど」
幽々子の言葉に、魔理沙は苦笑を浮かべて『遠慮しておくぜ』と返した。
そして、魔理沙と同様に幽々子の言葉に反応してしまう人が一名。当然、妖夢その人である。
「わ、私も参加するんですか!?」
「当たり前じゃない。何の為にこんなゲームを私が企画したと思ってるのよ。
頑張りなさい、妖夢。これなら紫の許可なんて要らずに藍とキスが出来るでしょう?」
「そ、そんなあああ…」
あわあわと震えながら妖夢は紫の方へと視線を向ける。
そこには霊夢と雑談に興じている紫の姿があり、どうやら幽々子との会話は聞こえていなかったらしい。
実はこのゲーム大会、幽々子が主催する一番の目的は妖夢と藍のキスにあったりする。
紫が藍を可愛がるように、やはり幽々子も妖夢の事が誰よりも可愛いのだ。
可愛い妖夢の一途な想いを知っているからこそ、少しでもあの鈍感狐に妖夢の想いが届くようにとアシストをするのだろう。
「それでは話も纏まったし、早速トップバッターに行って貰いましょうか。一番は橙ね」
「はいっ!藍様にキスして貰えればいいんですよね。行って来ま~すっ!」
大輪の笑顔を浮かべ、橙は臆することもなく紫の用意した隙間へと突入する。
橙が消えたのを見届け、その室内のメンバーは水晶の方へと視線を向ける。
そこには本日に二度目の洗濯を終えたばかりの藍が映し出されていた。
「橙なら簡単にキスして貰えるんじゃないの?誰かさんとは違って」
「ちょ、ちょっと霊夢!?貴女まで何よその酷い発言はっ!!
橙が簡単にキスしてもらえるなら私だって簡単にしてもらえた筈じゃない!
橙も私も藍にとっては同じ家族なのよ!?どうして橙と私で扱いを変えたりする必要があるのよ!」
「アンタが紫で、橙が橙だからでしょ。ほら、その橙が出てきたわよ」
霊夢の言葉に納得出来ないといった表情を浮かべたままの紫だが、
しぶしぶ視線を水晶の方へと移す。そこには楽しそうに藍と会話する橙の姿があった。
皆の視線が集る中、橙は藍に何の躊躇いもなくその言葉を口にした。
『藍様っ!お願いがあるんですが、私にキスしてくれませんかっ!』
「お、おいおい…橙の奴、ストレートだな。
つーか、その発言が凄くおかしいことに疑問を微塵も感じてないな、あれは」
「あら?私もさっき同じように藍に頼んだのよ?キスしてくれって」
「橙が言うと可愛らしいって感じがするけど、紫が言うと何だか危ない感じがするわね」
「な、何よそれ!?私はただ純粋な気持ちで…」
ぎゃあぎゃあと口論を始める紫達だが、水晶に映し出された光景に動きを止めざるを得なかった。
橙の発言から三秒経っただろうか。藍は何の疑問も迷いも抱く事もなく、橙を抱き抱え、橙の頬に優しくキスをしたのだ。
その光景を呆然と見つめる紫と妖夢。楽しそうに笑う魔理沙に霊夢。そして審判である幽々子のジャッジがここに下される。
「橙、見事に成功ね」
「ど、どうして橙にはキスするのよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!?」
『あんまりだあ』と冷静さを取り戻す為にでも泣き叫んでいるのかと疑いたくなるほどに号泣する紫。
どうやら橙にはあんなにも簡単にキスしてくれたのに、自分にはしてくれなかったのがそうとう堪えたらしい。
一方妖夢はというと、水晶から未だに目を放せていない。どうやら藍のキスシーンが彼女には強烈だったらしい。
無論、そのキスは恋愛感情を持った相手へのキスなどではなく、母が娘へ送るもの。
加えて言うなら唇同士などではなく、藍が橙の頬に優しく触れるように交わした軽いキスではあるのだが、
そういう事に本当に免疫のない妖夢には大変衝撃の強い映像だったようだ。この後、自分が同じ事をしなければならないのに、である。
その後、無事にスキマから帰ってきた橙に、幽々子からの副賞として
邪を払う特別製の鈴がついた可愛らしいブレスレッドを授与された。
橙は普通のアクセサリとして大喜びしていたが、実はこれ、西行寺家に伝わる家宝の一つだったりする。
その価値は相当なものなのだが、ぶっちゃけ幽々子はその物の価値を完全に忘れてしまっているらしい。
とはいえ、生前の事、加えて千年以上も前の事を覚えているということ自体が極めて酷な話なのだが。
そして幽々子の従者である妖夢はその頃生まれている筈も無く。そのブレスレッドを唯のアクセサリとしか看做していない。
ちなみにその事を唯一知っている紫は口を挟まない事にした。貰える物は貰っておこう。橙も喜んでるし。
商品を受け取って大喜びし、アクセサリをフランに見せてくると言い残して
部屋を出て行った橙を見届け、幽々子は『さて』と再び続行の口火を切る。
「次は妖夢、貴女の番よ。しっかり藍の唇を奪ってらっしゃいな」
「むむむ無理ですよおっ!!やっぱり私には無理ですっ!!」
ここにきて泣き言を言い始める妖夢に、幽々子は小さく溜息をついた。
戦場や敵前ではあれだけ勇ましいのに、どうしてこう藍への恋慕に関してはこうなってしまうのか。
最早泣きが入っている妖夢の耳元に幽々子は口を近づけ、そっと小声で諭す。
「少しは落ち着きなさい、妖夢。これは紫に貴女と藍の関係を印象付ける良い機会なのよ?
いい?今、紫に貴女と藍が少なからず良い関係であることを見せ付けておくとするでしょう?
そうすれば紫の考えでは『ああ、藍と妖夢は私が知っている以上に、本当に仲が良いんだな』となる筈。
貴女を小さい頃から見てきて、一途な性格を知っている紫は、貴女に対して悪い印象は少しも抱いていないわ。
ううん、それどころか紫は現在の貴女に対しては良い印象を抱いている筈よ。ここまではいい?」
幽々子の話に、妖夢はコクコクと小さく首を縦に振る。
それを確認し、幽々子はよろしいとばかりに再び妖夢の耳元で説明を続ける。
「紫をそんな心象にさせておけば、もしこれから先に藍を狙うライバルが現れた時、きっと紫は貴女の力になる筈よ。
どこの馬の骨とも分からない輩に可愛い藍を奪われるくらいなら、幼い頃からずっと見てきた貴女を
藍とくっつけようとする筈。貴女と藍がくっつけば、藍と紫は離れる必要も、今の関係から変わる必要も無いからね。
いい、妖夢。今から貴女が頑張れば、後の三順どころか後の親公認の交際を得られるかもしれないのよ?」
幽々子の説得に、妖夢は確かにと納得する。
今の自分に必要なのは、何よりもアピールする事だ。眺めているだけでは何時まで経っても藍さんに想いを届けられない。
ならば今は絶好の機会ではないのか。幽々子様が説明して下さったように、この場で勇気を出す事にはそれだけの価値がある。
そして何より、これはチャンスなのだ。幽々子様が与えて下さった臆病な自分と決別する最高の好機。
きっと今のままではジリ貧だ。きっとこのままじゃ憧れたあの人に何時まで経っても届かない。
ならば、今の私がすべき事は何か。答えは既に出ている。ただ、行動する事だ。
幼い頃より恋焦がれ、憧れ続けたあの人に少しでも近づく為に。心を近づける為に。逃げる事無く、ただ我武者羅に前へ。
覚悟を決めた妖夢の表情を見て、幽々子は喜びを込めて優しく微笑む。それでこそ妖夢だと。
「幽々子~?話は纏まったの?このままだと妖夢は失格って事でいいのかしら?」
「ふふっ、ごめんなさい。少し待たせたわね、紫。…妖夢、行けるのね?」
「…はいっ!魂魄妖夢、この試合に参加させて頂きますっ!!」
「試合ってお前…まあ、私は楽しめれば別に何でもいいけどな」
魔理沙の茶々を気にする事もなく、妖夢は真っ直ぐにスキマへと駆けてゆく。
妖夢の姿がスキマに消えるのを確認し、その場の全員が水晶の方へと視線を向け直した。
ただ、紫だけは不思議そうに首を傾げながら、幽々子に疑問の声を上げる。
「幽々子、流石に妖夢じゃ無理だと私は思うわよ。
確かに妖夢は藍と仲が良いかもしれないけれど、それは私達が友達だからでしょう?」
紫の言葉に驚き、あんぐりと口を開いたまま呆れるように紫を見つめる霊夢と魔理沙。
ちなみにこの中で妖夢の藍に対する気持ちを知らないのは、紫だけだったりする。
そんな二人とは対照的に、幽々子は楽しそうに微笑みながら紫に口を開く。
「ふふっ、勝負は天狗が下駄を脱ぐまで分からないものよ?」
「あら、大した自信ね。それなら賭ける?妖夢が藍にキスして貰えるかどうか。
勿論私はNOに賭けるわ。橙はまだしも、妖夢にまでキスをされては私は一体どうなるのよ」
「乗ったわ。勿論私はYES一択ね。さて、肝心の勝者へのご褒美だけど」
「そりゃ勿論、敗者は勝者の命令に一つだけ絶対服従だろ。
ちなみに私もYESに賭けるぜ。部の悪い賭けは嫌いじゃないしな」
「私もYESね。個人的にそっちの方が面白い紫の姿が見れそうだし」
幽々子の言葉に合わせるように、魔理沙と霊夢も妖夢の勝ちにベットする。
その事が少しばかり気に食わなかったのか、紫は不満そうな表情を浮かべて二人に抗議し始める。
「ど、どうしてみんな幽々子の方につくのよっ!?
私が一人勝ちしても知らないわよ?私が勝ったら貴女達にとんでもない命令するかもしれないわよ?」
「「どうぞどうぞ」」
「い、言ったわね!?その言葉、絶対に覚えておきなさいよ!」
会話を切り、紫はフンと二人から顔を背けて水晶を凝視する。
その視線にはあたかも念が篭もっているのではないかと言う程に真剣で。言うなれば『妖夢失敗しろ』である。
そんな大人気ない親友に苦笑を浮かべつつも、幽々子は心の中で妖夢に強く応援の声を上げていた。
あれだけ妖夢が真っ直ぐに想い続けているのだ。これで結果が出なければ嘘だと強く思いながら。
『ら、藍さんっ!そそそ、そのっ!すすっ少しばかりおおおお話があるのですが、よよよよよろしいでしょうか!?』
『どうしたんだ妖夢、そんなに顔を上気させて。
とりあえず、少し落ち着こうか。そんなに慌てなくても私は何処にも逃げないからな』
「…おいおい。妖夢の奴、いきなり声を上ずらせてるぜ。これはひょっとしなくても駄目なんじゃないか?」
「静かに…今大事なところなんだから」
幽々子の声に制止され、魔理沙は仕方なく口を噤んで再び二人の光景を見守る事にする。
現在、藍は洗濯物を乾す手を止め、妖夢に向き合っていた。妖夢の話とやらを聞く為だ。無論、今の藍はいつも通りの藍だ。
そんな藍とは正反対に妖夢は普段からは考えられないぐらいにガチガチに身体を固まらせている。
緊張の余り視点が定まらない。動悸が激しい。先ほどなんか自分が藍さんに対して何と言ったのかすらよく憶えていない。
だけど、逃げない。逃げたくない。大事な言葉を伝えないと。その為に今、自分はこの場所に立っているんだから。
『妖夢、大丈夫か?何だか調子が悪そうに見えるが…』
『藍さんっっっ!!!!』
『は、はいっ!!?』
想いを胸に。気持ちを翼に。後はただ、真っ直ぐに自分の全てをぶつけるだけだ。
大丈夫だ。藍さんの事が好きだというその想いだけは絶対に誰にも負けたりしない。自信を持て。
この身この心は決して折れぬ一振りの刃。自分の気持ちをただ、藍さんに――
『藍さんのことが大好きです!!!!ずっとずっと貴女の事が大好きでした!!!!』
――言えた。ずっと胸の奥にしまい続け、いつまでも怖がるばかりで伝える事が出来なかった本当の気持ち。
長年の一途な想いによって打ち据えられた一振りの名刀は鞘を走り、その美しき刀身を青空へと掲げられた。
あとはこの刀が届くか否か。言葉も忘れ、ただ水晶の光景を息を呑んで見つめる他の人々。
突然の言葉に、藍は驚き目を丸くしたものの、やがて表情を緩め、柔らかく微笑んでみせる。
その藍の微笑みに妖夢は目を奪われた。それはどこまでも優しい笑顔で。誰よりも憧れ恋焦がれた微笑で。
立ち尽くす妖夢を優しく抱き寄せ、藍は妖夢にそっと告げる。それは妖夢が夢にまで見た光景。
『――私も妖夢の事が大好きだよ。勿論、ずっとずっと大好きだった』
『――っ!!!!?』
そして、妖夢の頬に触れる柔らかい感覚。
それが何かを理解した時、妖夢の思考回路はそこでブレーカーを強制的に落とされることとなる。
大好きだった藍が妖夢にしてくれた、初めてのキス。それはとても優しくて、とても温かくて。
嬉しさと恥ずかしさと緊張の限界といった、様々な感情の奔流に妖夢は耐えられず、そこで意識を失った。
しかし、それは逆に幸せなことだったのかもしれない。
大好きな藍の腕の中という事もあるが、何よりその後に藍の口から放たれた台詞――
『――妖夢も橙と同じく、私の娘だと思っているよ。娘の事が嫌いな母親などいるものか。
…あれ?妖夢?お、おいっ!?しっかりしろ妖夢!?一体何が!?』
藍の鈍感どころではない殺人級の言葉を受けずに済んだのだから。
その光景を全て水晶を通じて見ていた魔理沙と霊夢は顔を真っ赤にして互いに口を開く。
「あの馬鹿狐…本当、鈍感とかそういうレベルじゃないわね。最早あれは人を殺せるレベルだわ」
「いやあ…まさか中国以外にここまで鈍い奴がいたとは思わなかったぜ。
こりゃレミリア辺りに藍を紅魔館にスカウトするように言っておいた方がいいのか?」
好き勝手言う二人を他所に、幽々子は小さく溜息をつきつつも、この結果を良しとした。
あの狐が鈍感なのは承知の上だし、逆に妖夢の想いを今の時点で悟られたところで、振られるのは目に見えている。
ならば、今回は妖夢自身に度胸と自信をつけさせるには良い機会だった。そして、それは上手く成功した。
これを乗り越えた妖夢なら、これから先は藍にどんどんアタック出来るようになるだろう。全ては計画通り。
嬉しそうに微笑み、幽々子は高らかに判定を宣言する。
「妖夢、見事に成功~。しかも妖夢は自分からおねだりした訳じゃないから2ポイントプラスね」
「おいおい、このゲームはいつからポイント制になったんだ?」
「堅い事言いっこ無しよ。ここでは私がルールだもの」
「OK。それは分かったから、紫をどうにかしてくれ。正直鬱陶しい」
楽しそうに笑う幽々子とは対照的な人物がこの場に一人。それは勿論、紫である。
藍が妖夢にキスをした瞬間から、紫は一人部屋の隅に体育座りしてメソメソと泣き続けていたりする。
ちなみに泣き声に混じって『藍の馬鹿藍の馬鹿藍の馬鹿藍の馬鹿藍の馬鹿』と呪詛のようなモノを連呼している。
どうやら橙はおろか、家族ですらなかった妖夢に負けたことが致命的なまでに堪えたらしい。
そんな親友の姿に、幽々子は『あらあら』と他人事のように微笑み(実際問題他人事なのだが)、
泣きじゃくる紫に優しく話しかける。
「もう、紫ったら。大丈夫よ、さっきの藍の台詞を聞いたでしょう?
藍は妖夢の事を自分の娘のように思っているの。だから、キスをしても何ら不自然でもおかしくもないわ。
貴女さっき言ってたじゃない。藍は『大好き』って気持ちを表す為にキスをしてくれたって。
さっきのキスは橙の時と一緒よ。貴女が藍にキスをしたように、藍も妖夢にキスをした。ただそれだけよ」
「そ、そうよね…娘だったら仕方ないわよね…
別に私が嫌われてる訳でも、私にだけキスしない訳でもないわよね?」
泣くのを止め、元気を取り戻した親友に幽々子は優しく微笑みかける。
ああ、そうだ。紫に涙は似合わない。紫にはいつだって笑っていて欲しいのだ。
「そうそう。だから紫、元気を出して。さあ、残る一人、霊夢を見届けましょう?
…ああ、それと紫。妖夢はキス出来たから賭けは私の勝ちよね。
私の命令は今度また外の世界の美味しいものを何か持ってきてくれること。それで構わないわ」
「じゃあ私は外の世界の珍しい本でいいぜ。魔道書だと更にありがたいんだが」
「慰め終わってすぐ要求~狂気の西行寺~!?
酷い!酷すぎるわ!何よ、こういう時は賭けの事なんて忘れてあげるのが優しさじゃないのっ!?」
紫の言葉に、幽々子も魔理沙も聞く耳持たずと言わんばかりに微笑を浮かべるだけだった。
そう、人間痛い目をみたくなければ、簡単に賭け事など持ち込んではいけないのだ。
ギャンブルとは生と死が常に表裏一体。情け無用の残虐ファイト、悪魔超人もびっくりの恐ろしい世界なのである。
うう、と泣き濡れる紫の肩をポンポンと優しく叩く一人の少女。
その少女――博麗霊夢の優しい微笑を見て、紫は希望を見出した。そうだ、まだこの娘が――霊夢がいた。
「紫、私の要求はただ一つよ。これから先、一番風呂の座を私に譲りなさい。
アンタが入った後の二番風呂だともう一度沸かしなおさないといけないから面倒なのよ」
「何その地味に嫌な要求!?私の中で何気に嫌な命令ベスト50くらいに入るんだけど!?」
「いいじゃない、それくらい。別にアンタにちょっと舌でも噛み切りなさいよ、なんて命令してる訳でもあるまいし」
「ほぼ死ぬわよ!?そんな命令されると!!」
紫と霊夢が口論している間に、気絶していた妖夢は藍が布団を用意し、別室に寝かしつかされていた。
そして藍が妖夢の元を離れ、家事に戻ったタイミングを見計らって、幽々子は再びゲーム再開の声を上げる。
ちなみに見事藍からのキスをゲットした妖夢にも幽々子から副賞として賞品が送られるらしい。
何でも西行寺家に伝わる家宝の一つで多くの妖怪を滅してきたという妖刀らしいのだが、
既に二振りの刀を持っている妖夢に使用される訳もなく、この家宝もきっと使われる事も価値を理解されることもなく
その役目を武器倉庫辺りにて終えるのだろう。本当、西行寺家の家宝のバーゲンセールである。
「それじゃ次が最後ね。霊夢、私としては当初の目的も果たしたし、別にリタイアでも構わないのだけど」
「何言ってるのよ。私だけ賞品を貰わないなんて博麗の名に賭けて許されないわ。
藍にキスして貰うだけで豪華な賞品が貰えるのよ?絶対にリタイアなんてするもんですか」
「おいおい、やけに自信満々じゃないか。
橙や妖夢はともかく、お前が藍からキスしてもらうのは酷くハードルが高いと私は思うぜ?」
魔理沙の言葉を、霊夢はふふんと自信に満ち溢れた様子を変える事無く、一笑に付す。
どうやら博麗の巫女は今回、本当に自信があるらしい。
その無意味なまでに溢れる自信の理由を尋ねる魔理沙に、霊夢はよくぞ聞いたと言わんばかりに胸を張って語り始める。
「ここ数日、神社に誰も来なくて暇な時間に、紫から借りていた外界の本を読み耽ってたのよ。
そこには如何に女が男を落とすかの物語が鮮明に書き綴られていたの。
きっと私がそのテキスト通りに行動すれば藍なんてイチコロの筈よ!」
目を輝かせる霊夢を他所に、魔理沙と幽々子は互いに顔を見合わせて溜息をついた。『これは無理だな』と。
霊夢がマヨヒガに居候して数週間。どうやら彼女の生活循環はどこぞのニート姫に近づきつつあるらしい。
本当、人間とは駄目なほうに染まるのは早いものなのだ。
「それじゃ、紫。悪いけど藍のキスは貰ったわよ」
「ありがとう、霊夢。
前の二人はショックが大きかったけど、今回ばかりは安心して水晶を眺めている事が出来そうだわ」
「ぐ…何よそのムカつく笑顔は。ふん!見てなさいよ!私の華麗な落としのテクニックをねっ!!」
悔しそうに表情を顰め、霊夢は苛立ち混じりにズカズカとスキマの中へと消えていった。
それを楽しそうに微笑みながら見つめる紫。もしかしたら、紫が今日こんな風に精神的優位に立ったのは初めてかもしれない。
それを考えると、幽々子と魔理沙は今の紫が不憫で仕方が無かった。だから今回ばかりは何も口を挟まなかった。
武士の情けならぬ、亡霊と魔法使いの情けが彼女達をそうさせたのである。
三人は霊夢が消えた後、視線を水晶の方へと向ける。そこには夕食の下ごしらえを始めようとしていた藍の姿が映し出されていた。
しかし、こうしてみると藍は本当にこの家の家事を全部一人で行っているんだなと魔理沙は感心する。
ここまで真面目に働いているのは、他には紅魔館のメイド長ぐらいだろうか。
そんなどうでも良いことを魔理沙が思っていた瞬間、台所に霊夢の姿が現れる。
期待はしていないものの、魔理沙は水晶を凝視する。さてさて、霊夢は果たしてどんな一手を見せてくれるのか――
『?何だ、霊夢じゃないか。橙、妖夢と来て今度はおm『遅いっ!!!!!!』へ?』
藍の言葉の途中に無理矢理ねじ込むように言葉を発する霊夢に、魔理沙達は思いっきり目を丸くする。
果たしてこの暴走巫女は一体何をやらかそうとしているのか。嫌な予感が走りに走っている三人を他所に、
藍と霊夢の会話は続けられていく。
『いや、いきなり遅いなどと言われても、私には何の事だか…』
『遅い!遅すぎるわ!巫女を待たせるなんてどういうつもり!?罰金よ罰金!!
具体的には私にキスをすること!!それが嫌なら死刑よ死刑!!』
魔理沙は思った。『これは終わったな』と。
幽々子は思った。『何やってるのかしら』と。
紫は思いっきり腹を抱えて笑っていた。『あの娘本当にアホの娘だ』と。
自分の台詞に改心の手応えを感じていたのか、自慢げにふんぞりかえる霊夢に、
藍は大きく溜息をついて、呆れるように言葉を投げかける。
『…とりあえず、その訳の分からん話は夕食の準備が終わってからで構わないか?』
『あれ…?おかしいわね、こんな筈は…予定のリアクションと全然違うじゃない。ええい、だったら!!』
こほんと小さく咳払いをし、霊夢は再び藍に視線を投げつけて口を開く。
それはどこまでも尊大に。それは何処までも傲慢に。仕草は完璧、あとは言葉を紡ぐだけ――!
『うるさいわねっ!この馬鹿犬!!ご主人様に逆らうなんて許されないわ!!早く私にキスしなさいよ!!』
魔理沙は思った。『何で私あれと親友なんだろ』と。
幽々子は思った。『妖夢はそろそろ目が覚めた頃かしらね』と。
紫は全身を床に投げ出して爆笑していた。『イイィヤッホー!!霊夢最高ーッ!!』と。
再び自信満々に腕を組んで仁王立ちしている霊夢に、藍は心底疲れたような溜息をついて、再び言葉を紡ぐ。
『確かに私はイヌ科だが、正確には狐だぞ。そして私の主はお前ではなく紫様だ。
…というかお前はさっきから一体何がしたいんだ?正直見てるこっちが恥ずかしいぞ』
『な…!?は、恥ずかしいですって!?この私が恥ずかしいですって!?』
『ああ…何ていうか、橙に英雄物の御伽噺を聞かせていた頃を思い出した。
橙の奴、面白い話を聞いてはすぐにその本に影響されてな。おかげで私は何度も悪役を演じさせられたものだ。
…で?今、霊夢がやってるのは一体何の御伽噺の物真似だ?私は悪役でも演じればいいのか?』
霊夢の心に 霊夢の心に 霊夢の心に ごっすんごっすん五寸釘ー。
藍の辛辣な突っ込みへの怒りと己の羞恥心とで霊夢の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
その染まり方は先程の妖夢を指差して笑えないレベルだ。むしろ下手をすれば霊夢に軍配が上がりかねない程だ。
まさに今の状態を表現するならば『霊夢涙目』以外の何物でもない。普通ならここで白旗を上げてすごすごと退散する場面である。
だが、霊夢は退く事をしなかった。博麗の巫女は幻想郷という名の楽園の巫女。こんな事で引き下がったりしないのだ。
どんなに今の自分が恥ずかしい事をしてると理解していても、分かっていても、巫女に後退の二文字は存在しない。
退かぬ、媚びぬ、省みぬ。どんな状況であっても、博麗の巫女は恐れを知らない戦士のように振舞うしかないのだ。
『う、うるさいうるさいうるさいっ!!いいからさっさと私にもキスしなさいよ!!
この馬鹿犬!馬鹿藍!鈍感狐!赤い狐!緑の狸!まるきゅー!』
「…霊夢の奴、絶対今自分が何を口走ってるのか分かってないぜ。
混乱と恥ずかしさの余り、思いついたことを端から口にしてるだけだろ、あれ」
「そうねえ…霊夢の尊厳を守るためにも、ここは私達で強制的に撤収してあげた方がいいのかしらねえ」
魔理沙と幽々子は水晶を眺めながら、二人揃って嘆息をついた。
なんというか、これ以上霊夢が醜態を晒す姿が見ていられなかった。余りに可哀想過ぎて。
ちなみに紫は笑い過ぎた余り、現在ピクピクと小刻みに痙攣してる始末である。あとなんかひゅーひゅー言ってる。
子供のように地団駄を踏み、訳の分からないことを喚きたてる霊夢を回収しようと、
魔理沙と幽々子が重い腰を上げたその瞬間であった。
その光景に、その場の誰もが己が目を疑った。
魔理沙も幽々子も、その場で笑い転げていた紫ですらも己の瞳に映る光景を信じる事が出来なかった。
そして誰よりも張本人である筈の霊夢自身が、現在の状況を信じる事が出来ず、上手く理解する事が出来なかった。
それも当然の事だ。一体どこの誰がこのような状況を想定する事が出来ただろうか。
ワーワーと喚きたてていた霊夢を、藍は優しく抱き寄せ、その霊夢の頬に優しくキスをしたのだ。
自分が何をされたのか全く把握出来ず、呆然とする霊夢に、藍は小さく溜息をついて、優しく言葉を紡ぐ。
「これで良かったのか?これで満足してくれたか?」
「――え…あ、うん…」
未だに状況を把握できずに、おぼつかない返事を返す霊夢に、藍は『そうか』と微笑み、優しく頭を撫でる。
そして、夕食の準備があるからと言い残し、藍は再び料理をする為に台所へと戻った。
その光景を見ていたメンバーの中で、一番早く気を取り戻したのは魔理沙だった。
ハッと意識を覚醒させ、慌てて幽々子へと驚きの言葉を投げかける。
「お、おいおい…霊夢の奴、見事にやり遂げたぞ?
これはちょっと予想外の展開なんだが…」
「え、ええ…ごめんなさい、私も正直面食らってるわ…まさか霊夢まで成功するなんて思ってなかったから」
驚きの余り互いに顔を見合わせる二人を他所に、室内に設置されたスキマから霊夢が戻ってくる。
その表情は先ほどと変わる事無く呆然としたままで、夢遊病者のような足取りで部屋の隅まで歩いていき、
その場に腰を下ろして先程の紫のように体育座りをして、己の膝に顔を埋める。
「お、おい…霊夢…?だ、大丈夫か…?色々とテンパってて大変だったとは思うが…」
そんな霊夢の様子に不安になったのか、魔理沙が恐る恐る霊夢に声をかける。
その魔理沙の声に呼応するように、霊夢はゆっくりと己の膝から顔を上げる。その瞬間、魔理沙は思わず息を呑んだ。
霊夢の顔が真っ赤に染まり、それこそ耳まで真っ赤になっていたからだ。
だが、それは先ほどのような羞恥心や怒りで染まった顔色とは明らかに異なる種類のものだ。
目は潤み、心はここにあらずといった表情。それがどのような状況なのか、魔理沙は嫌な程理解してしまった。
また、『それ』を専門分野とする魔法使いである彼女だからこそ、分かってしまうのだ。
女の子なら誰もが一度は掛かる特別な魔法。霊夢が掛かっているのは、きっとそんな魔法なのだ。
釣り橋効果。もしかしたら、それが追い討ちをかけるように霊夢の心を直撃してしまったのかもしれない。
「…魔理沙?…何?」
「あ…い、いや…す、すまん。何でもない…」
だが、それを今の霊夢に突きつける事も出来ず、魔理沙は笑みを引きつらせてスゴスゴと幽々子の元へと退散する。
ちなみに霊夢は魔理沙を追求する事もなく、再び膝に己の額を埋めた。
そして時折『藍』と小さく呟く声が聞こえるのは魔理沙の気のせいだと信じたかった。
泰然自若、唯我独尊、貧乏巫女。数々の悪名をこの幻想郷に轟かせたあの腋巫女がまさかまさか。
「お…恐ろしいッ!私は恐ろしいッ!何が恐ろしいかって幽々子!
あの鈍感狐は大変なモノを盗んでしまったんだ!霊夢の心だぜーーーッ!!」
「う、うろたえるんじゃないわッ!!華胥の亡霊はうろたえないッ!!
で、でも本当に恐ろしい娘…まさか妖夢だけではなく、霊夢の心すら奪ってしまうなんて…」
「なんという天然ジゴロ…中国といい藍といい、もしかして何かやばいフェロモンでも全身から出てるんじゃないのか?
あんな必殺の弾幕だと誰も避けられないだろ…喰らいボムすら不可能、抱え落ちは必至じゃないか…」
混乱しながらも、二人は現状をしっかりと把握していく。
ちょっとしたゲームのつもりが、どこぞの鈍感狐のせいでとんでもない惨状を生み出してしまった。
参加者三人のうち、二人もダウンさせてしまったのだ。しかも内容が恋のTKO、ドクターストップである。
こうして、ゲームは二人の女の子に致命的なまでの痕を残して終了した。これで終わり…なら良かったのだが。
背後から誰かが立ち上がる気配を感じ、魔理沙と幽々子はびくりと反応してしまい、恐る恐る己の背後を振り返る。
そこに立ち尽くしていたのは、先ほどまで水晶に映る霊夢の姿を見て大笑いしていた紫その人だった。
彼女の纏う空気に、幽々子は『ヤバイ』と直感した。これは彼女が長年の付き合いだからこそ感じ取れる特殊な感覚であった。
「ちょ、ちょっと紫、落ち着いて…」
「…っぱり…」
幽々子の制止の声は紫には届かなかった。
時既に遅し。状況は最早手の尽くしようが無い状況にまで陥っていたのだ。
そう、他の皆はキスをしてもらえた。そして紫はして貰えていない。最早その状況を先に理解しておくべきだったのだ。
全てを諦めた幽々子は瞳を閉じ、両耳を手で覆った。その幽々子の様子に『え?え?』と戸惑った分、
魔理沙は反応が若干遅れてしまう。それが彼女にとって命取りだった。
その刹那、紫はキッと表情を上げ、堪えていた涙を両眼に溢れさせ、部屋中…否、マヨヒガ中に響き渡る大声量で絶叫した。
「やっぱり私は藍に嫌われてたんだああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!
うわああああああああああん!!!!!!藍に嫌われちゃったあああああ!!!!!!!!!!!!」
「があああああああ!!!耳が!!!耳があああああああああ!?」
大号泣をしてスキマの中へと消えていった紫を他所に、魔理沙は己の耳を押さえて地面を転げまわっていた。
ちなみに幽々子は耳を押さえていたのでセーフ。霊夢は少しも堪えておらず、未だに小声で藍の名前を呟いている。いやあ、恋の力って偉大だなあ。
こうして今回のゲームは参加者三人、成功者三人、被害者三人(恋の病二名、耳の痛み一名)という
凄惨な結果を残して終了した。小さく溜息をついて、幽々子は思う。
『次に何かするとしても、今回同様、絶対に白玉楼では開催しないようにしよう』と。
その日の夜。時刻としては十時を過ぎた程度だろうか。
妖怪の山の麓、開かれた草原に一人の鬼はいた。空に浮かぶ月を肴に、一人楽しく酒を愉しむ。
正確には先ほどまで友人と酒を愉しんでいたのだが、その友人は現在、既にダウンしてしまっている。
だからこそ、今は楽しい話で盛り上がる二人酒から月見酒へと切り替え、夜空の風情を楽しんでいたのだ。
そして、その鬼は来客の訪れを感じ取り、その方向に手に持っていた瓢箪を投げつける。
その投擲された瓢箪を、来客者はしっかりとその手で受け止め、鬼へと深く一礼をする。
「今日はアンタのご主人様の愚痴を聞く相手をして疲れたよ。その分はちゃんと付き合ってくれるんでしょ?」
「萃香様のお誘いの言葉は大変嬉しいのですが、まだやり残している家事があります故」
「ふ~ん。相変わらず藍は優等生だね。ま、そんなところも紫にとっては可愛いんだろうけど」
かんらかんらと楽しそうに笑いながら、鬼――伊吹萃香は来客者である藍の手元から瓢箪を取り戻し、再び喉を酒で潤した。
そして、苦笑を浮かべて、藍に言葉を紡ぐ。その内容は酔いつぶれた友人、紫から聞いた話に関する事だ。
「紫が嘆いてたよ。最近の藍は冷たいって。私への愛情が足りないって」
「そうですか…それは紫様がご迷惑をおかけしまして」
「馬鹿。謝らなきゃいけないのは私にじゃないでしょーが。
昔言ったでしょ?感謝の気持ちや好きって気持ちは態度に表さないと伝わらないものだってね。
その歳で自分の気持ちを紫にぶつけるのは少し勇気がいるかもしれないけど、今のままじゃ全然駄目さね」
萃香の言葉に、藍は押し黙ったままで何一つ言い返す事が出来なかった。
そんな藍の内心を読み取ったのか、萃香は楽しそうにクククと笑いを零していた。
「家族ってのも大変だね。
長過ぎる付き合いが、傍に居る事が当たり前になってしまった錯覚が本当に大切なモノを見失わせる。
そして失った時になって初めてその輝きを知る事になる。終わった後では全てが遅いと分かっていても、人はそれを繰り返す。
どう?今からでも私の娘になってみる気はない?私は放任主義だから紫ほど優しくも愛情に満ち溢れてもないけどね」
「お戯れを。私の母は紫様をおいて後にも先にも他に存在しません」
「にゃはは、振られちゃった。まあ、その気持ちをしっかり紫に伝える事だよ。
見えないっていうことは存外不安になるモノだよ、特に人の気持ちはね。
…大切にしてやってよ、藍。それは私の数少ない大切な飲み友達なんだ。あんまり泣かせてやらないでよね」
萃香の言葉に、藍は深く頷き、紫の傍にしゃがみ、そっと紫の上半身を抱き抱える。
どれだけ酒を飲んだのか分からないくらい、紫は顔を真っ赤に染め上げているが、その美貌は少しも失われていない。
ただ、うわ言のように藍の名前を繰り返し呟いていた。それは愛しさを込めて。それは娘への愛を込めて。
そんな紫を、藍は優しく抱きしめる。紫が起きている時には素直になれない自分自身を嫌悪しつつ、母の温もりを確かめるように。
その光景から目を離し、萃香をそっと空に輝く月を見上げながら、再び瓢箪に口を付ける。
そして、軽く喉を潤し、楽しそうな声で藍に言葉を紡ぐ。それは鬼から狐へのささやかな助言。
「今の私は月を見るのに夢中だから。
ちょっと月の美しさに見惚れすぎて、あんた達の方には目が回らないかもしれないね」
それだけを言い終え、萃香は空を見上げながら再び酒を謳歌する。
だが、その一言で藍は萃香の意図するところを汲み取った。彼女は気を利かせてくれたのだと。
腕の中で眠る紫を引き寄せ、藍はそっと口付けを交わした。
それは頬などではなく、紫の唇へ。それはまるで騎士が永遠の忠誠を誓うように。花嫁が永遠の愛を誓うように。
その口付けは数千年の時を越えて果たされた誓い。幼き少女が母へ約束した無垢なる想い。
『藍、大好きな人にキスするのは構わないけれど、それは頬だけに止めておきなさい』
『?どーしてですか?すいかさまはほんとうにいちばんすきなひとにはくちにちゅーするって…
だかららんはゆかりさまにしたいですっ』
『ふふ、それは凄く嬉しい事なのだけど…でもね、藍。貴女にもいつか私以外の大切な人が出来る。
私が貴女に救われたように、貴女にもきっと、いつの日かそんな人と出会う日がやってくる。
だから藍、唇へのキスは大きくなるまで我慢なさい。そして、藍が大きくなった時…
本当に好きな人が出来た時に、貴女の『一番大好き』を込めたキスを贈ってあげなさい』
『うー…らんはゆかりさまいがいのひとはだめですっ!らんはゆかりさまがいいですっ!
らんはしょうらい、ゆかりさまとけっこんするから、ゆかりさまじゃないといやですっ!いやですっ…うえええん!!』
『ああ、藍…泣かないで頂戴。本当に困った娘ね…
…本当、困った娘だけど、誰よりも愛しい娘。私の誰よりも大切な可愛い藍。
それじゃ、こうしましょう?もし藍が大きくなっても藍の一番が私だったら、
その時はお母さん、ちゃんと藍の気持ちを受け止めるからね?お母さん、藍に幸せにしてもらうから…そう、良い娘ね』
その無垢なる誓いは年月の流れと共に少女を大人へと変えていった。
尾が増える度に、大人の階段を登っていく度に、少女は自分の気持ちを素直に曝け出せなくなってしまった。
しかし、それは仕方の無い事。何故ならそれが大人になるという事なのだから。
いつまでも自分の気持ちに素直になれた日々は遥か遠く。大人になるにつれ器用になり、そして不器用に人を傷つける。
上手く生きる方法を知り、上手く想いを伝える術を失った。多くを愛する事を知り、唯一を愛する事を忘れてしまった。
それでも少女の想いは変わらない。どれだけの年月が流れても、彼女の『一番大好き』は変わらなかった。
だから、今だけは。せめて月の魔力に心を魅了されている今くらいは、少しだけ子供に戻っても構わないだろう。
大人になり、本当に大切な人に素直に好きと言えなくなってしまった自分。
大人になり、本当に大切な言葉を大好きな人に伝えられなくなってしまった自分。
そんな自分に今は少しだけ別れを告げて。愛する母に想いを伝える為に、この夜だけは少しだけ子供に戻ろう。
「――貴女の事が誰より一番大好きですよ、紫様」
鬼が月を眺め続けている今、藍と紫の二人の絆を、夜空に輝く美しい月だけが静かに見つめていた。
ということは永遠亭勢の永琳を足してハーレムトライアングルが形成されることを期待
予想外の霊夢に一番萌えた
霊夢と紫に萌えました。
変態ぞろいの紅魔館、ほのぼの八雲一家、世話焼き白玉楼と出てきたので、
そろそろにゃお様の書く永遠亭も見てみたいものです。
霊夢が今度藍と話すときの反応が楽しみだw
いつもながら締め方が私好みで最高でした。
次回作も楽しみです。
ダメっぷりを発揮するゆかりんも良いですが、見事に落とされた霊夢がツボです。
なんといい響きか。関係ないけど
SS読んで上の言葉が頭に浮かびました
とりあえず個人的には霊夢がツボでしたね~・・・
みょんと霊夢の行く先が気になって仕方が無い・・・ww
話も面白かった。いい仕事!
こんなに可愛い霊夢を見たのは久しぶりだww
藍様、ゆかりんが起きてからも少しはやさしくしてあげてね^^;
てか妖夢も霊夢もゆかりんも可愛すぎるじゃねぇかw
藍の心情がなんとなくわかる話でした
で
>天狗が下駄を脱ぐまでわからない
どういう意味www
つか萃香のかっこよさに惚れたw
今回は短いお話で、ぷちで失敗してしまった経験を噛み締め、同じ轍を踏まないように頑張ったつもりですが、
結果につながったようで本当に良かったです。このお話を読んで頂き、少しでも楽しんで頂けたなら、感無量、本当に嬉しく思います。
>4様 美鈴と藍の共通点~
藍様と美鈴は、実は何気に結構気が合うのではないかと密かに妄想してたりします。
本当なら立場上藍≒咲夜なのでしょうが、何故か美鈴の方が≒のような気がするんですよね…やっぱりオッパイが(違
>5様 藍×紫は幻想郷~
貴方の事を同志と書いて『とも』と呼ばせてください。藍×紫は良いものです…
>名前を忘れさせる程度の能力様 霊夢と紫に~
ゆかりんはともかく、霊夢は最初はこんな展開になる予定じゃなかったんですが…霊夢はダルデレ。
>12様 そろそろにゃお様の書く永遠亭も~
実は、永遠亭は書くのを躊躇してます。その理由は永遠亭組の設定の難しさです。
自分の理解力不足の為、実は儚月抄を読んでも少しも何の事だか理解出来ないのです…
永遠亭組は設定が固まり過ぎてる感がある為、独自設定が出来ず…ギャグなら頑張れそうな気はするのですが…
>16様 可哀想な子~
霊夢と慧音は本当にSS中で動いてくれるから大好きです。汚れ役?違います、これは愛ゆえなのです。
>22様 見事に落とされた霊夢が~
個人的に霊夢はツンデレではなく、ダルデレだと思っています。
恋愛する霊夢なんて全然想像出来ないんですが、妄想してたらなんかこんな風になっちゃいました…
>25様 くんずほぐれつ~
それはきっと美鈴の方がぴったりな言葉かもしれません。
レミィにフランに咲夜さん、予備軍にアリス、慧音、パチェと本当に地獄(パラダイス)です。
>26様 エシデ○シ様~
そのうち恋愛について孫子の兵法書を持ち出すかもしれません。ネコミミもーどならぬ怪焔王もーどっ
>てるる様 みょんと霊夢の行く先が~
初めての恋に目覚めてしまった霊夢。恋などしたことのない霊夢は戸惑い、どうしていいのか分からずに困ってしまう。
そんな霊夢の状態に気付き、相談に乗る妖夢。けれど、妖夢は霊夢の好きな人が実は自分の想い人だとは気付かずに…
次回『お狐様がみてる』第十七話、『交錯する想い、好きな人と友人と』。次回もゆっくり見ていってね!!…すいません、嘘です。
>31様 美味しい所は~
霊夢はボケも突っ込みも出来るから最高です。慧音と並んで本当によく動いてくれます。
>#15 様 す、萃香が~
萃香のイメージはなんかこんな感じです。紫の昔からの友人らしいですし、何より鬼ですし(関係ねえ
>38様 シュトロハイムは~
余談なんですが、私はジョジョの中で一番第二部が好きです。ジョセフが一番格好良いです。
そして何よりシュトロハイム。彼の台詞回しには芸術すら感じます。
>39様 こんなに可愛い霊夢を~
ありがとうございます。しかし相変わらずのキャラ崩壊で本当に好き勝手し過ぎですよね。
多分原作中のキャラを留めてないランキングでは一位レミリア二位咲夜三位霊夢くらいではないでしょうか。
平然と覗きをするパチェも大分酷いんですが。
>44様 霊夢は副賞に~
…………………あ。(ええええええ
霊夢はとても大切なモノを貰ったんですよ。女の子なら誰もが手に入れる、初恋という名のプレゼントを。(最低なオチ
>52様 あなたの書く藍と紫は~
ありがとうございます。このようなキャラ設定を受け入れて下さり本当にありがとうございます。
藍様はゆかりんに対してはツンデレなので、きっと素直になれないだけなんですよ。あれはきっと愛なんです。
>zaze様 妖夢も霊夢もゆかりんも~
藍×みょん、藍×紫はもともと作者が好きだったのですが、藍×霊は自分でも初めてです。
でも、何気に藍と霊夢もカップリングとしてはありではないかと思います。結局藍が振り回される役だとは思うのですが。
>63様 天狗が下駄を脱ぐまでわからない ~
『勝負は下駄を脱ぐまで分からない』+『下駄といえば天狗のあの娘』=『射命丸はむこうでテニスをしています』という理論です。
なんというか、自分でも間違いなく意味不明な文章です。思いついた文章を何も考えずに打ち込んでるんだなあ、本当…
>70様 妖夢も霊夢も後の三順は
今回の場合はアカギのように偶の力を利用するのではなく、無理矢理にこじ開けないと鈍感な藍は気付いてくれそうもないですね。
ここはやはり、私達をお嫁にしなさいって伝えるしか。そして全身全霊で夢想封印(以下略
>天狗が下駄を脱ぐまでわからない
てっきり作品集53の作品のことかと
ただひとつ気になるのは、魔理沙が参加していた場合はアリスに何されるんだろう。
さ、流石に他作者様の作品をネタにするような真似は出来ませんです、はい…
>回転魔様 霊夢がくぎゅ~
霊夢はきっと少しだけ疲れていただけなんだと思います。ていうかまさか、ここまでキャラをブレイクさせてしまうとは思わず…(マテ
ちなみに私は女性声優と言えば林原めぐみ、氷上恭子、宮村優子等の世代です。もう立派なオッサンですね…
>774様 魔理沙が参加していた場合は~
アリス激怒→美鈴の父親なのに浮気→レミリア激怒→咲夜も激怒→紅魔館にふるぼっこ→慧音同情のコースだと思います。
個人的にマリアリがジャスティスなので、多分魔理沙が浮気するようなことは無いと思います。慧音はしましたけど(誤解
これは藍に恋する二人の娘の思いはいまだ藍に届いていない、もしくは母に対する愛情に劣るものであるという事になってしまう。
でもそんなのかんけーね。いいぞ、もっと母娘でラブラブしろ!
面白かったです。
!魔理沙と幽々子は重い腰を下ろしたその瞬間であった。
?魔理沙と幽々子が重い腰を上げたその瞬間であった。
吊橋効果ってのは凄いもんですなw
鈍感狐に想いを届けるには二人はまだまだ努力が必要みたいです。みーんなみーんな大好きさー らーりるれー藍さまー
>96様 大笑いさせていただきました~
ありがとうございます。このような壊れ設定ばかりですが、少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。
それと誤字のご指摘ありがとうございました!というか、普通にずっと気付かなかった…下ろしてどうするんだ、助けに行くのに…
>100様 吊橋効果ってのは~
乙女が恋に落ちる時に最も効果を発揮すると『吊橋渡れ』という国語の教材で(古
妖夢のライバルになる予感。
起きてる時に口づけされた紫様の反応も見てみたいなぁ……ゆかりんなら少女臭漂う反応をしてくれるに違いない!!
紫藍はある意味王道といえば王道ですがこれはなかなか味のあるお話ですね。
霊夢の反応は予想GUYです。
藍が一体何角関係まで形成するのか大いに期待(殴
紫様はとんでもない「式神」を育てましたねwww
さてさて、コレから如何なる事やら。
そして素晴らしいらんゆかですね!
最後の方で思わず泣きそうになってしまいました
それにしても霊夢可愛いw
こんな八雲一家は鉄板でしょう!