Coolier - 新生・東方創想話

永風~後~

2008/05/17 04:44:30
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※ 違和感注意 この話は紅妖~前~の後半でございます。
































―――父親の手は、常に赤く染まっていた。


それが幻視だとわかっていても、そう思えてならない。

物心ついた時から、父の手は楽園という言葉に溺れ、自身を汚しながら生きてきた。


そんな父を見るのが辛くて、とても苦しかったのに、私の母だった人は、自ら自分に喰われる事を望んだ。


元々そのつもりで父と一緒になったと、私に食べられる前に、嬉しそうに言って笑った。

私には理解できなかった。どうしてそんな風に笑えるのか。どうしてこうなる事がわかって、一緒になろうと思えたのか。

純粋だった私の心は、言葉となって、零れるようにして母に全て伝わる。


けれど、それでも笑っていた。


こんな私が、あの人の為に、あの人が作る幻想郷の礎となるのなら、本望だと。

それが、最期の言葉。


原初の忘れぬ記憶。大妖怪、八雲紫となる前の、人間だった頃の記憶だ。












それから楽園とは名ばかりの、幻想郷の幕が開く。


知らぬ所で犠牲が出て。

知らぬ所で慟哭が溢れ。

知らぬ所で壊れていく。



思えば、何千年と繰り返してきた行為に疲れていたのかもしれない。

犠牲が出るのが歯痒く、死ななくていい存在が死んでいく世界。

これの何処が楽園なのだと、何度思ったかわからない。


父が理解出来ず、苦悩する日々。


ここじゃない世界に移動すれば、また違うかもしれないと思い、月面へと戦争を仕掛けにも行った。

けれど惨敗。何をしても巧くいかず。妖怪として振舞う自分は、何故妖怪となってここにいるのかと、一度自分を見失った。

それから数百年の歳月が流れ、博麗の犠牲が出るのを黙認し続け。


私は、壊したくない、自分にとっての楽園に出会ってしまった。




















「………」

「これが、私が知るあの人との記憶よ」


博麗神社の居間。

光の濁流に呑まれ、所々ボロボロになっているものの、倒壊はしておらず、話をする事ぐらいは出来た。

紫の話した内容は、ある者は考えさせられ、ある者は暗い表情をしてみせ、ある者は怒ってさえいた。


だが、誰一人言葉にする者は出来ない。紫の話した事は、既に終わった事である為に。


「……霊夢、あの人は魔理沙を使って、再び大結界の綻びを完全に戻すつもりよ」

「……ええ。それは、わかるわ」


紫に投げかけられた言葉に、霊夢は頷く。


「けど、その話だとおかしいわね。本来なら私が結界の犠牲になるはずだったんじゃない?」

「情が移ったんだよ。きっと」


テーブルを挟む形で、包帯を巻かれ、布団で横になっている萃香が口を挟む。


「ZUNは、そこまで非情になれなかったんだよ。自分の娘を、犠牲になんて出来ないと思ったんだと思う」

「……それで他の者が犠牲になっていいなんて、思えないわ」


霊夢の肩の傷に、包帯を巻いていた咲夜が口を挟んだ。


「うん。それには私も同意するよ。犠牲が出てもいいなんて、間違ってる」

「……けど、考えた事もなかったかな。大結界に、犠牲が必要だなんて」


フランドールが零した言葉に、紫は首を横に振る。


「絶対に必要、というわけでもないのよ。大結界は確かに幻想郷の維持をするのに必要なものだけれど、綻びは、常に私や藍の手によって修繕されているのだから」

「でも、紫様のお父様は……完全な楽園を欲している?」


妖夢が首を傾げながら、その疑問を口にする。


「何を指して、完全なんて言うんだ? 大結界は未だにあるし、異変だって起きはしてるが、解決してるじゃないか」


妹紅がその疑問に乗る形で口にするが、その回答を出来るものはいない。


「……本人に聞くしかないわね。尤も、何処に行ったかわからないけれど」


居間から見える星空を見上げながら、霊夢は溜息と共に零す。

あの後隙間に消えたZUNを追おうとしても、何処に行ったのかわからず、ひとまず紫の話と傷の手当てが優先だという形で、現在に至っていた。


「結界の修繕をするなら、幻想郷と外を繋ぐ場所でするのが普通よ。その点で言うなら、この博麗神社で行うのが、妥当なのだけれど……」

「けど、あいつらはここから立ち去った。……他に共通点がありそうな場所なんてあるのか?」


紫の回答を拾って妹紅が口に出してみるが、一向に皆の頭には思い浮かばない。


「神社で、外の世界の物で、幻想郷で重要な所って事だよね?」

「いや、神社じゃなくてもいいかもしれないけれど……」

「その項目に引っかかる場所があるんだが」


突如、外から聞こえてきた言葉に、一斉に皆振り返る。


「ふん、神奈子を追って来てみれば、結局振り出しに戻れって事かい」


星が出始めた夜空の境内の前に、ケロ帽を被った、一人の神様の姿があった。
























―――寒気がする程、夜の帳が落ちた妖怪の山は、静かであった。


動物達が鳴く声もなく、妖怪達が騒ぐ事もない。

川のせせらぎだけが聞こえ、バサリバサリと、また川に紅い色が注がれる。

天狗達は、今妖怪の山で何が起こっているのか、正確に理解出来ていなかった。


確認出来た事は、山に五人、正確には一人人間が抱えられ、侵入して来ている者がいるという事。

迎撃した者はことごとくが返らぬ者となり、妖怪の山に屍が積み上がっている事。


「………あやや、何で、魔理沙さんを担いでるんでしょう?」


そんな報告を受けつつも、目撃した人物達の特徴を聞いた鴉天狗である射命丸文は、上司である大天狗の命により偵察を行っていた。


「文様、どうされますか?」


文の部下である犬走椛は、山の頂上で文の目となり、滝を通過している一向の状況を報告している。


「んー……」


椛の催促に、文は首を捻る。

接触するとしても、犠牲を伴えば一刻、素通りさせてここまで来させてしまえば半刻だ。

普通ならば、更に迎撃させ、自分も出向いて叩くか何かするべきなのだろうが。


ふざけた事に、今ここに向かってくる面々は化け物揃いであった。

何が起こっているかは知らないが、紅魔館の吸血鬼や、西行寺の姫君、永遠亭の月のお姫様がいる時点で何かがおかしい。

宴会等で知る彼女らは、一人一人が手を組む等とはせず、自分の領土を広げるような連中でもなかったはずだ。


「神奈子様がここに戻ってくるのはわかるんですけどねぇ……椛、もう一度中心にいる男の特徴を言ってください」

「はい」


原因があるとすれば、その男だ。

何故、この妖怪の山に侵入してきているか。せめてそれだけでも把握しなければ。


「……ん? 文様」


何か変化があったのか。椛の顔が厳しくなる。


「はいはい。どうしましたか?」

「吸血鬼が、滝の前ではぐれました。他四名はそのまま滝を登っています」

「……はぐれた?」



椛の言葉に、何か拭えない違和感が出てくる。


「椛、レミリアさんが皆に付いていっていないんですね?」

「そうです。今、昇る面々に背中を向けて、滝の上で止まっています」

「……ふむ」


背を向けたという事は、これ以上昇ってこないのだろうか?


「……男の特徴も言い直します。眼鏡をかけた痩せ細った身体に、ラフなシャツにズボンを履いた男です」

「担いでいるのは、魔理沙さんで間違いないんですよね?」


文の言葉に椛は頷く。


「以前、この妖怪の山に侵入してきた魔法使いで、間違いありません」

「……そうなると、もしかしたらこれは、追われているのかもしれませんね」


何からとは指さなかったが、文は自分の憶測が、そこまで的外れではないと思った。

あれほどの顔ぶれがいながら、自分が知らない男が、魔理沙を担いで妖怪の山に向かって何かから逃げている。

そんな所だろう。レミリアは足止めと考えれば、立ち止まっている事にも納得がいく。


「椛、次に誰かはぐれたら報告ください。はぐれ次第、ここから離れますよ」

「? 素通りさせてしまうんですか?」


文の言葉に、椛は驚いたように声を上げるが。


「ええ。正直、あれに立ち向かえと言われても無理です。犬死になるだけです」


こっちの戦力とあっちの戦力を比較して、即座に決意する。


「迎撃するのなら、せめて天魔様が出向くぐらいしてほしいものなんですけどねえ」


愚痴を零しつつ、ありえない事を文はため息と共に言葉にする。

天狗の長である天魔が出向けば、もしかしたらとも思うが、それでやっと互角と言った所なのだ。

上司である大天狗に話しても、進言すらしてくれないだろう。


やるなら必勝か、完全にこちらが追い込まれた時。上の連中が闘う時とはそういうものだ。


「まあ、もう少し待ちましょう。せめて均衡する展開になるまでは」


空に浮かぶ満月を見上げながら、文は暖かな風をその身に浴びながらも、来る時を待つ。
















「……ついてくるのは、この面子でいいのね?」


霊夢は、肩に巻いた包帯の具合を確かめながら、月の光しかない博麗神社の境内で、周りを見渡す。


「ええ……萃香は無理ね。両腕とも骨折してて、まともに弾幕なんて張れないわ。あれじゃあ」

「……パチュリー様や、美鈴も呼べたらよかったのだけど、私たちを庇って、寝込んでいるわ」


紫や、咲夜が、口々に来れない面々の名前を出す。


「早苗も無理だね。神奈子の弾幕に巻き込まれちゃって、神社で寝込んでるよ」


諏訪子も、いつも共にいるはずの風祝の名前を出しながら、首を横に振る。


「永琳達に知らせられればよかったんだが……時間がそんなにないんだろ?」


妹紅の言葉に、紫は頷く。


「ええ、リミットは日付が変わる時よ。大体、約五時間後」

「……その間に、何とかして結界の修繕を止めないと、魔理沙が死んじゃうんだよね?」


フランドールは不安そうに口にするが、そんなフランドールの頭に手を置いて、妖夢は首を横に振った。


「絶対に止めて見せるのよ。何としてでも。そうでしょ? 霊夢」

「ええ」


妖夢のその言葉に、霊夢は頷く。

一度だけ、星空を見て、霊夢は目を瞑る。

犠牲にされそうになっている友人。

それを成そうとしている、自分の父親。


「行くわよ、みんな」


必ず助けると誓い、霊夢達は満月が浮かぶ、星々の大海へと飛び立つ。


目指す所は、守矢神社の裏側にそびえる湖であった。
















「……初めてここに来るけれど、こんなに静かな所なのかしら? いつも」


山々を抜け、霊夢を先頭に飛ぶ面々は、既に妖怪の山の山中に入っていた。

下には川が流れ、所々、森林地帯が広がっている。


「いいや、住んでる私から言わせてもらえば、静かすぎるよ今日は」


咲夜の漏らした言葉に、慎重に辺りを窺いながら飛ぶ諏訪子は、川の方へと視線を送る。


「迎撃もないのがおかしいわね……本来なら、侵入した時点で何かしら来るのに」

「……いや、迎撃した後みたいだ。川の方、見てみろ」


妹紅が何かを発見したように、川の方を指差す。


「……あれって」


妹紅が指した場所には、黒い塊が、何重にも重なって水面に広がっていた。


「妖怪達の死体ね」

「……」


どれだけの死体があるのか、見当がつかなかった。

だが、確実に何者かがここを通過したのは、事実であり。


「……っつ!?」


前方に見える滝が、紅い霧によって真っ赤に染まっているのを見て、全員止まった。


「レミリア……!」


滝を背に、浮かぶ紅い吸血鬼を目にして霊夢は針を手に持つ。


「……」


レミリアの表情は、変わらずぼんやりとしており、虚ろな眼差しのままだ。

紅いフリルのドレスを着た吸血鬼は、腕を組み、立ちはだかるようにして通過する者を迎撃しようと、待っていたのだ。


「霊夢、行きなさい」


レミリアを見て、咲夜とフランドールが前に出る。


「お姉さまの相手は、私たちがするよ」

「そんな、駄目よ!? もし、貴方たちが負けたら……」


脳裏に浮かぶのは、先ほど屍の山を築き上げていた死体達。

霊夢は首を横に振って、止めようとするが。


「……いいえ、霊夢。ここは彼女達に任せるべきよ」


紫に肩に手を置かれ、止められる。


「で、でも紫……! もし、咲夜やフランドールが負けでもしたら……!」

「時間がないんだよ。仮に、全員であいつをボコボコにしても、その分足止めされちまう」


横にいた妹紅は、苦虫を噛み潰したかのような表情のまま、背に生やす紅い翼を大きくはためかせる。


「……死ぬなよ。お前ら」


「誰に言っているのかしら?」

「仮にも、お姉さまの妹だよ?」



笑うように言ってみせるフランドールと咲夜は、それを合図にレミリアに向かって飛び込んだ。


「……っく!」



霊夢は弾幕勝負が展開されはじめる二人を尻目に、すり抜けるようにしてそこを突破する。

続くように他の面々も突破し、残ったのは、フランドールと咲夜のみ。














「……咲夜も怖かったら先行っていいんだよ?」

「ご冗談を。私は、お嬢様を取り戻しに来たのですから」


レーヴァテインを構えるフランドールに合わせるように、咲夜の手には、ナイフがいくつも挟まっている。


「そうだね。お姉様の目を覚ましてあげないと」

「ええ。では、行きますよ! 妹様!」


主を助ける為に、主を討つ。


虹の吸血鬼と瀟洒なメイドは、紅き吸血鬼に、戦いを挑んだ。

















「……大丈夫かしら、二人とも……」


滝を昇り切り、山の中間辺りまで飛んだ霊夢は、残してきた二人が気がかりであった。


「大丈夫よ。咲夜やフランドールだって、そこまで弱くないでしょ―――」


心配する霊夢に相槌を打つようにして言っていた妖夢の言葉が、途中で止まる。


「? 妖夢? どうしたのよ―――」


前方を見て、震えるように息を呑んで固まっていた妖夢を見て、霊夢もそちらに顔を向けると、同じように言葉を失った。

視線の先には、死蝶が何百と群れを成して空を泳ぎ、中心にいる人物を囲むようにしながら飛んでいた。


「……幽々子」


扇子を両手に持ち、踊るようにしながら、立ちはだかる幽霊。


「……ここは、私が―――」

「いえ、私が行きます」


紫が前に進み出ようとしたのを、妖夢は腰に差していた刀を抜き放って止める。

横に浮かぶ魂が、小刻みに震えながらも、共に前に進み出た。


「紫様は、お父様を止めてあげてください。幽々子様は、私が何とかしますから」


にこやかに笑ってそう言ってみせる妖夢は、前に進み出ると、もう一つの刀も抜き放ち、二刀流のまま死蝶を浮かばす幽々子を見て。


「道を開きます。駆けてください!」


最速で、幽々子へと駆け抜ける。


「断命剣―――」


冥想斬という言葉と共に、触れれば死ぬ死蝶を、ことごとく横一閃に斬ってみせた。


「……! 行くわよ! みんな!」


死蝶を斬ったのを見て、霊夢の声と共に、横を一斉に飛んで駆けていく。

幽々子は、ぼんやりとした表情のまま、駆けていく面々に死蝶を飛ばすが。


「させません!」


妖夢の刀によって再び斬られる。


「幽々子様、不肖白玉楼庭師兼、剣指南役、魂魄妖夢が参らせて頂きます!」


名乗りを上げ、妖夢は震える指先を気合でごまかし、主である幽々子へと初めて弾幕勝負を挑む。

























「で、次はお前か」


守矢の湖まで、そう遠くない所まで来た。

山の頂上付近で待ち構えていた人物を見て、妹紅は苦い顔をしながらも、背に生える紅い翼をはためかせながら、前に進み出る。


「輝夜」


長い黒髪に、変わらぬ姿で、羽衣を着た少女。

満月を背に立ちはだかる存在は、あまりにも神々しく見える。


「霊夢、悪いがここは私に任せてもらうよ」


竹林の中で泣くように助けを求めた少女。

輝夜は、私に助けを求めたのだ。


「……わかった」

「頼むよ。輝夜を泣かした奴の思い通りになるなんて、嫌だからな!」


言い終えない内に、背の翼は更に燃え上がる。

霊夢達が横を抜ける為に、輝夜を止めなくてはならない。

目の前にいるのは覇気がなく、ぼんやりとした表情で、虚ろな眼差しを向ける馬鹿姫。


そんな顔なんて、一度も見たことなく。

そんな顔なんて、見たくもなくて、妹紅は激昂するようにスペルカードを宣言する。


「不死! 火の鳥―――」


鳳翼天翔と、言葉に乗せながら、羽ばたく火の鳥を輝夜へと放つ。

火の鳥が飛んだ先には、無数の火の粉が溢れ、霊夢達が抜けるのを手伝う形で、輝夜と霊夢達を断った。


「さぁ、輝夜。いつもの殺し合いを始めようじゃないか!」


妹紅は輝夜を助ける為に、殺し合いを開始する。
























「見えてきた……!」


頂上を超え、更に先に進んだ面々は、眼前に見えてきた守矢神社を見て声を上げる。


「……」


だがその中で、諏訪子は厳しい表情をしながら、目前に迫る友を見ていた。

守矢神社の境内の頭上にそびえる神が一人。

しめ縄を背負い、肩には既に、長く黒光りする御柱が装着され、腕を組みながら仁王立ちしている八坂神奈子の姿があった。


「神奈子……」


一定の距離を保って止まった面々は、虚ろな眼差しでこちらを見る神奈子と対峙する。


「全く、神様が操られるなんて、馬鹿げてるじゃないか」


諏訪子は一度溜息を吐いて、自ら前に進み出た。


「神社も壊しちゃってさ」


眼下に映る守矢神社を一瞥し、神奈子のマウンテン・オブ・フェイスによって破壊された境内の跡を、悲痛な表情をして諏訪子は見る。


「……」


神奈子の口からは、何も返ってこない。やかましく、五月蝿いいつもの声は、何処かに忘れてしまったように、開く事はなかった。


「霊夢、紫、先行きな。ここまで来ればもうすぐだ。こんな騒動を起こした奴を、懲らしめてやれ」


頭に被っていたケロ帽を手で抑えながら、諏訪子はスペルカードを取り出す。


「目を覚ましてやるよ。馬鹿蛇」


加速するように、流れる流水の如く弾幕を展開し、いつかの蛙と蛇の再戦が繰り返される。


霊夢と紫は、その弾幕の隙間に乗る形で、守矢神社を突破した。









「……もうすぐよ」

湖に行けば、恐らくいるはずであろう。


「待ってて、魔理沙……!」


霊夢と紫は、いつかの明けなき月の夜の時と同じように、此度の元凶に向かい飛んでいく。





























「……んん」


身体に痛みが走り、ぼんやりとした意識は徐々に視界を広げ、目の前の景色を認識し始める。


「目を覚ましましたか」


横から自分に声をかける、見知らぬ誰かの低い声が聞こえてそちらを見るも。


「……あ?」


理解が出来なかった。悪い意味で、自分のおかれている状況が把握できない。

男は空の上で、缶ビール片手に、満月を見上げながら飲んでおり。

私はと言えば、動かない身体に顔を引きつらせる他なかった。


「………一体、何がどうなってるんだ?」


頭を振って、ぼやけた意識を一気に覚醒させ、おかれている状況を必死に把握する。

眼下に映った景色は湖で、空には満月と散りばめられた星空が浮かぶ真夜中の景色が見える。

遠くを見渡せば、山々に囲まれている事から、山の中なのはわかった。


身体を動かそうにも、後ろ手に縄をしばられており。身体は固定される形で、柱に縛られている。

何でこんな状況になっているのか、確か私は―――


「……あ」


思い出した所で、だらだらと首筋に嫌な汗が流れるのがわかる。


「その様子だと、思い出したようですね」


表情を変えず、無表情のままそう言い放つ男だったが、私は身体を揺らして、抜け出せないものか縛られた縄を確認するも、きつく縛られており、抜け出せそうになかった。


「くそ、何が目的なんだ。霊夢はアンタの事をお父さんとか言うし、わけがわかんないぜ」

「それを、起きたら説明しようと思っていた所です。聞かなくてもいいですが、私には、説明する義務がある」


ぐいっと手に持つビールを一息に飲み干し、男、ZUNは目を逸らし、眼下に広がる湖の方に視線を移す。


「魔理沙は、この幻想郷が好きですか?」

「……は?」


いきなりの質問に、素っ頓狂な声を上げてしまう。


「い、いきなりなんでそんな質問を」

「好きですか? 嫌いですか?」

「……好きかどうかって聞かれたら、そりゃ好きだが……」


有無を言わせないその質問に、魔理沙は動揺しつつも答える。


「そうですか。私もこの幻想郷は好きです。愛しています。無くなるなんて、考えられないぐらいに」


ZUNは語りながらも、声は徐々に低くなっていくばかり。

表情は変わらず、酒を飲んでいるというのに赤くなってさえいない顔は、何処までも冷めていた。


「私は、この幻想郷をずっと維持してきました。博麗大結界を敷き、人間の守護者を作り、妖怪の統率者まで作って、楽園を維持し続けようとしたのです」


語る言葉に嘘はなく、それは、真に必要だと思ってした事なのだろう。


「しかし悲しい事に、何か一つの事を成そうとするならば、その分、犠牲が必要だったのです」


魔理沙は犠牲という言葉に、違和感を覚える。


「ちょっと待て。犠牲って言ったって、一体、何の犠牲が」

「博麗大結界」


ZUNは静かに、口にする。


「あれを維持するのに、色々な者が注意を払っています。博麗然り、紫然り、私も含め、多くの上の妖怪達が」

「……」

「しかし、綻びが生じれば、その分外側の者が、時折り入ってくるのです。魔理沙も知っている通り、最近の異変を起こしてきた者が、その例です」


最近の異変と言われ、思い出されるのは神が越してきた事件。

魔理沙はハっと、辺りをもう一度見渡す。


「ここって……」

「ええ、守矢神社の裏側にある湖です。山の神、八坂神奈子が、友人である洩矢諏訪子も一緒に連れて行く為に、無理やり持ってきた敷地の一つ」


ならば、縛られているこの柱は、神奈子の御柱か。


「外から入ってくる者は、大抵、あちら側の世界で住めなくなった者たちです。吸血鬼然り、月の姫然り、何か問題があって住めなくなったね」

「そ、それと維持と、何の関係があるんだよ?」

「わかりませんか? 綻びを通して通過するという事は、その分無理やり通っているのですよ」


ZUNは少しばかりため息を吐いて、手に持っていた缶ビールを再び口に運ぶ。


「……ふぅ。結界が、壊れるという可能性は常に異変が起こる度に付き纏います。博麗大結界が壊れるという事は、幻想郷が幻想郷じゃなくなる。楽園が、壊れてしまうのですよ」

「………それが、神奈子達が越してきて限界が来たって事なのか?」


魔理沙の言葉に、しかし、ZUNは首を横に振った。


「いえ、確かに綻びが出て、結界に傷が入りましたが、紫のおかげで未だ問題は起きていません」

「……なら、何が目的で私をこんな所に連れてきたんだ」


ZUNの言葉に魔理沙は首を傾げる。説明をすると言ったのに、ZUNは話をはぐらかしているように言うべき言葉を、後回しにしている感じがした。


「………それはですね」


ZUNは観念したかのように、初めてそこで、魔理沙に向けて笑ってみせる。


「魔理沙、私はこれ以上、霊夢が異変に巻き込まれるのを、見たくないのですよ」

「……え?」

「私はね、少し先の未来の事が見えるんです。幻想郷に限定してですが、その中で、いつも霊夢と魔理沙が飛んで異変を解決するのを、ずっと見てきました」


懐かしむように話すZUNは、けれど、それがいけない事かのように顔を俯かせる。


「霊夢は、紛れも無く私の娘です。博麗の巫女として立派に育ち、歴代最強と言ってもいい程、強く成長しました」

「……」

「しかし、それでも異変を起こす者達は強大で、この先も、確実に解決出来るとは限りません」

「……まさか、あんた」


魔理沙はここに来て、初めてZUNが、どれだけ馬鹿な事をしようとしているか気づいた。


「だから私は、これ以上霊夢が生きている内に異変が起こらないように、結界の綻びを完全に直してしまいます。その為には」


眼鏡の奥から光る瞳は、底冷えする寒さを持って、魔理沙を見つめる。


「今までの異変を、霊夢と共に生きてきた魔理沙を人柱に使えば、修繕は可能だと思ったのです」


だから、ここに連れてきたと。

ZUNは、魔理沙に伝える。


「……ふざけてるぜ」


魔理沙は、一言、そう零した。


「なんでだ」

「魔理沙なら、結界を維持するのに担えます。血の滲むような努力をし、今までの異変を生き抜いて来たのが、何よりの―――」

「違う! そんな事、どうだっていいんだ!」


魔理沙は首を振って、苦しい顔をしながら、ZUNを見る。


「何でだ。何で今まで見てきたのに、霊夢を信じてやれないんだよ……! あいつは博麗の巫女として、今までずっと異変を解決してきたんだぜ!?」

「……」

「なのに、こんな形であいつを泣かせる気なのかアンタは……! ふざけんな! 誰が犠牲になって結界を維持しようが、あいつは喜ばないんだよ!」


共に駆けてきたからわかる。あいつが、何で博麗の巫女として、居続けるか。

困っている奴をほおっておけないからだ。異変を起こしている奴が、皆にとって迷惑になるから懲らしめるんだ。

同じ人間達に奇異の目で見られようと、あいつは、誰も拒まず、誰も追わずに、ずっと、ずっと巫女として居続けたのに……!


「こんなの間違ってる……! アンタだってそんな事して、苦しいはずだろ!? 霊夢を助けるにしても他に方法があるだろうが!」

「………魔理沙」


ZUNは、激昂する魔理沙に驚いた表情をしてみせるが、表情を戻し、首を横に振る。


「他に、これ以上の方法なんて考えられなかったのです。それに、恨まれようと、憎まれようと……私は、成すべき事をする。もう引き下がれない」


話は終わりと言わんばかりに、ZUNはビール缶を、手のひらで握りつぶし、開いた「隙間」にほおり投げる。




「魔理沙ーーー!!」

聞こえてくる声に、魔理沙は顔をそちらに振り向かせる。


そこには、湖の上を飛ぶ、紅白の巫女が飛来していた。




















「魔理沙ーーー!!」


湖の上を高速で飛びながら、霊夢は眼前に見えた、柱に縛られている魔理沙の姿を目視した。


「……まさか、リミットに間に合うとは」


ZUNはすぐさま懐から札と針を取り出し、周辺にいくつもの「隙間」を展開させる。


「……いい友人達を持ったようですね。霊夢」

「……! お父さん」


霊夢も懐から同じように針やスペルカードを取り出し、対峙する。


「魔理沙を放して」


霊夢のその言葉に、ZUNはあくまで、首を横に振ってみせた。


「完全な楽園の為に、しなければならないのですよ」


ZUNはあくまで、霊夢に真実を話はしない。

何を指して完全と言うのか。決して言う事はなく。


「……そんな楽園なんていらない」

スペルカードを、高らかに空に向かって宣言する。


「私は、犠牲が必要な楽園なんていらない! 霊符!」


どうして手を汚そうとしているのか、知らずに霊夢はZUNに弾幕勝負を挑む。


「夢想封印!」


放たれるのは七つの宝玉。

霊夢の十八番と言うべきそれは、ZUNに向かって一斉に放たれる。


「……それは一度、かわしたはずですが」



だが、ZUNは動じる事はせず、よく見て最小の動作でかわそうとし。


「っつ!?」


宝玉と共に、上下から放たれるレーザーに、大きく回避させられるはめになる。


「お父様……いえ、ZUN。魔理沙を返してもらうわ」


遥か上空から聞こえた声に、ZUNは顔を上げる。

上空には、月を背に日傘を差す。派手な紫と白のドレスを着た大妖が隙間から姿を見せる。

その顔は、厳しいままであった。


「……西行寺の姫君に、貴方は行くと思っていたんですがね」


姿を見せなかった奇襲は、空振りに終わる。

驚きはしたが、ZUNは夢想封印をかわし、隙間から放たれたレーザーを瞬時に回避していた。

霊夢や紫は、その状況に、驚きはしなかった。


相手をしている者が、どれだけ化け物か。

両者はどちらとも知っており、その上で勝負を挑んでいる為に。


「結界、光と闇の網目」

「宝具、陰陽鬼神玉!」


放たれる赤く燃える陰陽玉に、合間を縫うようにして、光球がZUNの周辺へと展開される。

放たれるレーザーの雨。眼前に迫る巨大な陰陽玉に、ZUNは―――


「……この程度」


全て見た上で、宣言もせずに回避行動を取る。

迫るレーザーをギリギリまでひきつけかわし、眼前から来る陰陽玉の横を飛ぶ形で霊夢へと疾走する。


「まだよ! 神技、八方龍殺陣!」


かわしたのを見た所で、霊夢はあくまで動じない。ありえない状況下あろうと、ZUNならばきっとかわしてくる。

脳裏にそれが確実にあり、霊夢は躊躇なくスペルカードを発動させる。

放たれる三重の結界陣。針と札と陰陽玉が群れを成してZUNへと襲いかかる。


「夢符、封魔陣」


流石にかわせないと判断したのか。ZUNは空中で結界を展開させる。

一陣しか敷かれないそれは、しかし、傷一つつける事なく防がれる。


「境符、四重結界」


防がれるのを見るや、隙間の中を移動しながら、紫は頭上から押し潰す形で結界を敷く。


「ぬぐ……!」


四重結界に押し潰される形でぶつかった封魔陣は、そこで初めて、ヒビがはいった。


「ハッ!」


霊夢はその隙を見逃さない。ヒビが入った場所へと針を即座に飛ばし、結界を粉砕する。


「……境符」


ZUNは、スペルカードを取り出す。くしくも、紫と同じ宣言を以て。


「四重結界!」


向かってくる針と結界に耐えた。


「結界、夢と現の呪」


更に再びスペルカードを宣言し。


「霊符、博麗幻影」


消えるように、ZUNは四重の結界から消えうせる。


「……な、何処!?」


完全に視界から消え、霊夢は姿を探すも、いつもは働く勘が働かず、辺り一帯を見回す。


「落ち着きなさい! あの人は今、二つのスペルカードを同時行使したのよ? どちらとも、その名を辿れば……」


四重結界を消し、紫も霊夢の横に立つも、気配を辿ろうと辺り一帯に気を配り続け。


―――ズンッ


「……え?」


斬られるように、胸元から鮮血が舞った。


「!? 紫!」


霊夢は紫を見るも、残像のように消えた姿を捉え損ねはしなかった。


「夢境! 二重大結界!」


宣言されたスペルカードにより、周辺を囲むように二重の結界が敷かれる。


「……流石と言うべきですか」


ZUNは結界の外に出る直前で捕まった。幻のように消えていた姿が先ほどと同じように、対峙する。


「紫、大丈夫?」

「え、ええ。大丈夫よ」


胸元を抑えながらも、紫は妖気をその身に滾らせ、ZUNを睨みつける。


「わかってはいたけれど、強いわ……」


紫は歯痒い表情をする。一瞬の攻防で、力の差が徐々に開くように見せられる状況に。


「……霊夢、結界を解きなさい。アレを使うわよ」


打倒するならば、それしかないと、紫は決意する。


「……」


霊夢は何も言わず、手を振るって張っていた結界を解き、懐からスペルカードを取り出す。

「………我が娘達よ」


結界が解かれる中、霊夢と紫が何をしようとしているか、ZUNはまるでわかっているように。


「来なさい、全力で」

「大結界!」

「紫奥義!」



                  博  麗  弾  幕  結   界

                   深  弾   幕  結   界

                           ――夢幻泡影――  




周囲に浮かぶ、いくえもの弾幕結界に、ZUNは動く。













客観的に見ていた魔理沙は、息を呑んだ。

紫と霊夢の全力。

大気を震わせ、おびただしい程の霊力と妖気が空間を支配する。


星空を隠すように埋められていく弾幕。

湖を隠すように広がる弾幕。

結界内に入った者は確実に沈めんと、光速で走る弾幕の雨の群れ。


それは不可避の弾幕のはずであり。

放てば、確実に倒せる切り札の、はずであった。


「………嘘だろ……?」


漏れ出た言葉は、眼前を駆け走る化け物を見た為にあった言葉。

上下左右から来る光速の弾をギリギリの所でかわし、覆い尽くされようものならば、陰陽玉や札で相殺して突き進み。

止まれば死ぬと判断して、ただただ、弾幕結界の中を飛ぶ化け物。


防戦一方と見るにはあまりにも異常な行動、まぐれと言うにはあまりにも精密な動き。

私は、こんな行動を出来る奴を、一人知っている。


「霊夢、駄目だ。逃げろ……」


敵わない。この男には、決して敵わない。

当たらなければ決して落ちない。撃ち続けようと、当たる気配すらみせない。


「逃げろ! 霊夢!!」


数秒後に来る、霊夢の敗北という姿を見たくなく、魔理沙は叫ぶ。

次いで、響く爆発音と共に。


最強が、堕ちる瞬間であった。





















「が、は……!」


逆流する血液は、逆らう事無く口元から溢れ出る。

ふわりと、重力に沿って堕ちていく身体。

何が起きたのか身体が先に理解し、頭は鈍足のごとく、あまりにも理解が遅い。


弾幕結界の中を素通りしてきた化け物に、躊躇なく陰陽玉を叩き込まれたのだと理解出来たのは、湖に叩きつけられた後であった。


「ご……ぼ……」


叩きつけられた水圧と軋む身体に、力を入れようとしても入らない。

意識が霞がかかったようになるも、続く形で湖に叩きつけられた音を聞いて、動く目だけで、そちらを一瞥する。

見れば同じように、赤い鮮血を湖に染めながら、紫が叩きつけられていた。


「……ご」


倒すはずだった弾幕結界を突破され、意識を投げ出しそうになってしまう。


「…………ごぼ」


一人ならば、そのまま意識を投げ出してもよかった。


「ご、ぼ……!!」


痛む身体に舌打ちしながらも、霊夢は力無く開く手を、何度も握り直す。

軋む身体を無理やり動かしながら、霊夢は意識を失い沈もうとしている紫に向かって、水を掻く様にして捕まえる。


「……」


抱きしめるように捕まえ、霊夢はもう一度、空へと昇る為に水面から顔を出した。


「ブハッ! ゲホッ…! ゲホッ、ゲホッ!」


水に濡れ、顔にくっつく自分の髪を払いながら、胸いっぱいに空気を吸いこもうとしてむせる。


「ケホッ……く、紫! 起きて!」


顔に平手で何回か叩く。傷は確実に紫の方が深そうだが、まだ、倒れてもらうわけにはいかない。


「……う……霊、夢?」


ぼんやりと、力なく目を開ける紫であったが。


「……あ」

「まだ、勝負を続ける気ですか?」


頭上の空に立つ、ZUNを見て身体を震わせた。


「……当たり前よ。まだ、私達は負けてない!」


湖に浸かりながらも睨む霊夢に、ZUNは悲しい表情をしたままだったが、「隙間」を空に開いていく。


「他の所は、既に終局に向かっているようですが」

「……なん、ですって?」

「見てみますか? 友人達が争っている姿を」


霊夢は開かれていく「隙間」を凝視し、息を呑んだ。


そこには、自分達を先に行かせた者達の、弾幕勝負の風景が見えた―――





























振るわれる剣戟は、まるで御伽噺の騎士の剣。

振るわれる槍撃は、騎馬を駆る突撃槍。


だが、どちらとも振るわれる物は、禍々しき紅き装具だった。


一合打ち合う度に大気が震える。

一合打ち合う度に両者は傷つく。

一合打ち合う度に、世界が歪む。


「………」


人間が付け入る場所等決してなく。


「アハハハハハハ! お姉様、もっと! もっとだよ! まだ楽しくないよ! そんなんじゃ、壊れないよ!」


笑う悪魔に、余裕もなかった。


理性が邪魔をするなら狂気を受け入れる。

狂気の内に、勝負に望む事がフランドールにとって最大の力を乗せられる瞬間であり、フランドールはそれを理解しない上で常に弾幕勝負に臨んでいた。

目の前で魔槍を持つレミリアを叩きのめすのなら、フランドールに負けは決してない。


しかし、フランドールは“助けようとして〟弾幕勝負に現在臨んでおり。


不覚にも、徐々に窮地へと追い込まれている。

満月の夜に打ち合う両者は、傷ついた所からすぐに再生を繰り返し再び斬り合うという、およそ弾幕とは呼べない決闘をしている。


「……お嬢様」


咲夜は打ち合う二人の姿を注意深く見ながらも、時を止め、ギリギリの所でフランドールが致命傷を負わない為にナイフを振るっていた。

だが、それはあくまで致命傷を負わない為の行為。

自身が振るうナイフでは、今のレミリアを止められない。


「ハァァァアアアア!!」

魔剣は大上段にレミリアの頭蓋に向けて振るわれる。


「……」


表情は未だ変わらず、血に濡れながらもレミリアはそれに合わせるように魔槍を薙ぎ払い。


「………紅符」


とうとう、仕留めにかかった。


「……! 幻世」


咲夜の狙いは最初から一つ、魔槍から弾幕へと切り替える瞬間。


「ザ・ワールド!」


時を止め、動かぬ二人の吸血鬼の間に入り、スペルカードを構える腕にナイフを添える。


更に喉にナイフを添え、そこから離れる。

動き始める時間。

加速するナイフは、重爆音と共にレミリアの腕と喉を突き刺し。


「―――」


宣言を無理やり止めてみせた。

その隙をフランドールが見逃すはずもなく。


「禁忌! レーヴァテイ―――」


言い直おされた魔剣と共に、横に薙ぐ―――はずであった。


「……え?」


戸惑いの言葉は、どちらから漏れでた言葉か。

満月を背に、交差する吸血鬼。

紅き吸血鬼の腕は、躊躇いもせず虹の吸血鬼の胸元に突き刺さり。フランドールの口元からは逆流するように血が溢れ出す。


「……ごほ」

「……不夜城」


再生した喉から発せられた言葉と共に、フランドールは焼き尽くされようとする。


「! 奇術!」


咲夜は再び時を止める。

不夜城レッドの直撃を食らってしまえば、いくらフランドールとはいえ致命傷になってしまう。

ならばどうするか。考えられる手段として、自分が出来る事を咲夜は躊躇いもせず実行するべく、再びレミリアとフランドールの間に入る。


残りのナイフは突き刺した腕へ、更に上空へナイフを一つ飛ばし、回るようにその場で旋回する。


時は動きだす。


「ミスディレクション!」


発言と共に、レミリアの腕を断つべくナイフは何十と突き刺さる。

引き千切られるように腕は寸断され、紅い鮮血が舞うも、レミリアの瞳は虚ろなまま。

時間が動き出したというのに、スローモーションのように、遅く動く自分の世界に、咲夜は次に起こる事を覚悟しながらも。


「あああ!!」


短いスカートをふわりと浮かばせながら、レミリアの胸元に回し蹴りを放ち、蹴り飛ばした。


「レッド」


発動は止まらない。自分が放った蹴り等、所詮フランドールとレミリアの間の空間を少し開いただけ。


時間を止める暇もなく、咲夜はフランドールを庇う形で抱きしめ、紅い波動をその身に受けた。








「咲、夜?」


胸元を貫かれ、意識が少し飛んでいたのか。フランドールは自分を抱きしめる咲夜を見るも、抱き返そうとして、唖然とする。


「………え?」


ぬるりと、抱き返した手に触れる暖かな物。


「……い、妹様。申し訳、ありません………」


抱きしめられていた腕は徐々に力をなくし、自分に寄りかかるようにして、重くなっていく。


「……」


真っ赤に染まる、自分の手を見て、フランドールは息を呑んだ。


「…………あ」


身体が震える。


「ああ………」


動悸が激しい、喉はカラカラ、目がチリチリ。


「あああ!!」


慟哭なのか、歓喜なのか、狂気なのか。

色んな気持ちが自分をぐちゃぐちゃに混ぜる。

分かっている事は、二つ。


咲夜が傷つき、死にかけている。

それをしたのは―――


「何で……」


不動となって、対峙するお姉様。


魔剣を捨てる。いらない。もう、いらない。


―――フォーオブアカインド


分裂する身体、咲夜を他の自分に渡し、理性がまだあるうちに、遠くへと持って行かせる。

目の前が全て紅く染まる。紅いカーテンがかかったように、私が私じゃなくなる。


「まだ、まだ駄目。まだ“壊しちゃ〟駄目」


ギリギリと歯を食いしばる。理性が狂気に染まろうとするのをまだ止める。

せめて咲夜が視界から消えるまでは、狂気に染まるわけにはいかない。

お姉様を助けるとかは、もうどうでもいい。操られていようと、してはいけない事がある。

それを、お姉様はしただけの事。


「……紅符」


レミリアはフランドールの変化を感じ取ったのか。完全に再生した身体と共に、再びフランドールに向け。


「スカーレットシュート」


紅い魔弾が放たれる。


「……アハ」


咲夜が視界から見えなくなるのを確認し、分身した私達共々。


「アハハハハ!」


甲高い笑いと共に、理性を捨てた。

魔弾の雨の中を、回避も取らず、直撃しようと、宝石のように輝く虹の翼をはためかせ加速する。


―――カタディオプトリック


宣言もせずに放たれる青い燃えるような弾丸は、レミリアに殺到していく。

黒い翼をはためかせるようにして、それをかわすレミリアだったが。


「お返しだよ。お姉様!」


弾幕と弾幕の雨の中、腕の刺突が胸元を抉った。


「……」

別方向からも同じように突き刺すフランドールの分身。


「………符の、参」


だが、止まらない。口元から血が溢れようと、レミリアの虚ろな眼差しは変わらず、フランドールに向けてスペルカードを宣言せんと再び構えられる。


「ヘル、カタストロフィ」


蠢く紅い血液。


それは生きているかのように分身したフランドール達の首を刎ね、霧へと戻す。

本体であるフランドールにも、紅き斬撃は接近する。


―――そして、誰もいなくなるか?


斬撃は躊躇なくフランドールの首を刎ねた。

霧のように消える身体。

星空の中で、霞がかかったように。


―――アハハハ


笑い声だけが木霊する。

周囲に浮かぶ蒼い弾。

ゆっくりとそれはレミリアを囲み、ぶれるように、大量の弾幕の雨となり。


―――つぶれちゃえ


木霊する声と共に、殺到する。

レミリアは動かない。いや、動きようがなかった。

逃げ場もなく埋め尽くされる弾幕は、逃走路を既に無くしている。


「紅蝙蝠、ヴァンピリッシュナイト」


防ぐのであれば弾幕を張るしかなく、レミリアは宣言する。

クルリと、その場で回る度に虚空から出現する禍々しき紅きナイフ。

蒼と紅の弾幕は眩く黒い世界に色を添えるようにぶつかり合う。


―――カゴメカゴメ


だが終わらない。蒼が消えれば今度は緑色の弾丸がレミリアを囲む。


「……神槍」


二度も囲まれ、レミリアは弾幕の一点に向かい、背負うように紅き魔槍を構える。


「スピア・ザ・グングニル」


上半身のバネを引き絞り、一つの投降機となって、オーバースローに放たれる魔槍。

囲む弾幕を突き崩し、霧から実体化しているフランドール目掛けて放たれた。


「駄目だよ。お姉様。そんなんじゃ止められない」


クスクスと笑うフランドールに魔槍は突き刺さる。

肩を抉り、鮮血を空にこぼし、重力に逆らう事なく血液は下へと向かう。

だが、笑みは止まらない。フランドールは既に“狂っている〟


「夜符、デーモンキング―――」


その笑みに、戦慄したのか。それとも最初からそうする気だったのか。

クルリとフランドールに向かって旋回しながら飛ぼうとする身体。


「止まるのはお姉様。だって」


気づかない。咲夜が残した必勝に。


「そのために、咲夜にあの時託したのでしょう?」


キラリと、満月を背に。


―――ザクッ


「―――」

背中から心臓へと突き刺さる、銀のナイフ。

動きが止まる。デーモンキングクレイドルを宣言しようとしたレミリアはじっと、自分の胸から突き出たナイフをぼうっと見て。


―――495年の波紋


前方から輝く、蒼い波動に吹き飛ばされる。


「アハハハハハハ!!」


それが決着。虹の吸血鬼は、滝へと叩きつけられるレミリアを見ながら。


「アハハ………」


徐々に、正気を取り戻していく。


「……あ」


首をブンブンと横に振り、フランドールは今更になって泣き出しそうな顔をしながら。


「お姉様!」


滝に叩きつけられたレミリアを救助するべく、同じように滝の中へと入っていった。
























「……ハァ、ハァ……」


息を小さく吐きながら、妖夢は両手で桜観剣を手に持ち、未だに、傷一つつけられない幽々子を厳しい目つきで見ていた。

浮かぶ死蝶は際限なく溢れ、背に添えられるは巨大な桜の扇。

両手に扇子を持ちながら、ぼんやりとした表情は妖夢を捉え。


「……亡舞」


―――生者必滅の理 ―死蝶―


再び牙を向く。


「……っつ!」


剣を構え直す。触れればそれだけで致命傷になる蝶は斬撃と弾幕を持って落とすしかない。

一斉に自分へと羽ばたいてくる死蝶を見ながら、妖夢は疾走を開始する。

振るう刃は音を置き去りにし、返す斬撃は確実に、迫る死蝶を落とす。


一日もかかさず、振るってきた剣は、最早人ならざる領域を超えている。


「……幽々子様」


死蝶に溢れた中心。


この剣は、何の為に振るわれてきたのか。


「っつ!?」


死蝶を薙ぎ払う形でレーザーが飛んできたのを、咄嗟にかわす。

白い透けるような肌に紅い線が浮かぶ。

焦げるような匂い。服を焦がされ、火傷を負い、身体は一瞬鈍くなる。


「華霊、バタフライディルージョン」


間髪入れず、再び死蝶とレーザーの群れが一斉に襲い来る。


「しまっ……!」


覆うように死蝶は夜空を隠し、自分を仕留めとんと―――



「風神、木の葉隠れ!」


後ろから聞こえた声と共に、窮地に追われる前に緑色の弾丸が死蝶とぶつかり合う。


「全く、油断しすぎですよ? 妖夢さん」


後ろを振り返れば、黒い翼をはためかせ、団扇を持つ鴉天狗が一人。


「文……! どうして貴方がここに?」

「どうしてって、ここは妖怪の山です。天狗の縄張りですよ?」


笑うようにして文は妖夢の腕を引っ張ると。


「一度離れますよ。この距離じゃやられっぱなしです」


死蝶を一瞥し、翼をはためかせて一気に後ろに下がった。


「何が起こってるか知りませんが、ここが一番荷が重いと思いまして、助太刀に来ました」


かなり離れ、景色が飛ぶように流れているのが止まると、文は妖夢から手を放す。


「……事情を説明してあげれる余裕もないわよ?」


文を見つつ、妖夢は幽々子の方を一瞥する。

木の葉隠れにより、数を減らしたかに見えた死蝶は、再び幽々子の手によって溢れかえっている。

いつ、再び攻撃が始まるかわからない。


「事情は後で聞きますよ。取材という形になりますが」

「……なら、あの死蝶の群れをどうにか出来る?」


先ほどから攻めあぐねているのは、溢れ返るようにいる死蝶のせいだ。

あれさえなければ、妖夢は幽々子に攻撃が出来る瞬間が生まれる。


「蹴散らせばいいんですよね? それぐらいなら、してみせますよ」


団扇を片手に、文はスペルカードを手に持ち構える。


「……符の壱、二重の苦輪」


構えた文に合わせるように、妖夢は静かに宣言し、白楼剣を鞘から抜き放つ。

宣言と共に、横に浮いていた半分の魂が、妖夢と同じ姿となって幽々子に対峙した。


白楼剣を半身に手渡し、いつでも疾走できるように文を挟む形で、妖夢は刀を構えた。









―――幻想風靡


妖夢の斬撃が音速と指すのであれば。

文の疾走は光速であった。

一陣の突風が巻き起こる度に、幽々子の周辺を飛ぶ死蝶を薙ぎ払っていく。


「桜符」


―――完全なる墨染の桜 ―開花―


しかし、幽々子は薙ぎ払われる死蝶を見ても、表情は変わりさえせず。


「あ、あややや……!」


追えない標的に、無差別の死蝶と弾丸をばら撒いていく。


文は一度大きく距離を取った。


光速であろうと、これではいずれ被弾してしまう。

更に後方で道が開くのを待ち続ける妖夢に、今更助けを求めるのも無理だ。


「さ、流石西行寺のお姫様って言うべきですかね?」


こんな化け物を懲らしめた霊夢は、どれだけの実力者と言うべきなのだろうか。

霊夢だけではない。後二人、この弾幕を突破し、捻じ伏せた者達がいるのだ。


「……はぁ」


以前、弾幕の風景を撮るために、色々な者達の弾幕を写真に収めた覚えがある。


「まぁ、本気を出さないと無理ですね。これは」


撮るのにどれだけの生命を賭けたか。あの時の感覚を思い出し。


「行きますよ……!」


―――無双風神


先ほどより更に加速する。


光速で被弾するのならば神速で。


駆け抜けるように弾丸をばら撒き。

駆け抜ける度に、突風が死蝶を潰していく。


何十と、神速は幽々子の真横を駆け抜け。


「「………人、鬼」」


本命の攻撃が、雷撃となって幽々子へと駆け走る。


「「未来、永劫斬!」」


邪魔をする死蝶もいなく、幽々子から放たれる弾丸は、駆け走る明後日の方向へ。

幽々子のぼんやりとした表情を妖夢と半身は視界に納め。


「「ああああ!!!」」


主を取り戻すべく、主を捻じ伏せる。


一人の半霊の少女が、決着を迎える為に、斬撃を下ろした。






















「―――ぐ」


激痛は一瞬、吹き飛ばされた頭蓋は、巻き戻されるように炎を灯して、再び自分を再生する。


「くそったれ……いつもより強いじゃないか……」


岩盤へと叩きつけられた身体を起こし、妹紅は再び背に炎の翼を生やしながら空へと飛ぶ。

都合六度、既に殺された。

眼前の夜空に佇む輝く姫。


絶世の美女と言うのは、こういう存在を言うのだろうなと思う。

満月の中、星空に浮かぶその様は、見るものを魅了させるには充分な程神々しく。

静かに佇むその様は、いつかのあの日を思い出される。


「ああ、ちくしょう……」


原初の記憶、屋敷で見た、偽りの仮面を被った輝夜の姿。


「なんだって、今そんな事思い出すんだろうな」


返ってくる言葉はない。幻想郷に来て、笑うように明るく返されていた言葉が、今になって思えば、自分と輝夜を近づけるきっかけだったのかもしれない。

藤原を追いやった憎き敵が、いつの間にか友人みたいになっていたなんて、おかしな話だ。


「いや、友人みたいなじゃなくて、友人か」


ふっと小さく笑って、妹紅は翼の炎を燃え上がらせる。

虚人のスペルカードまで繰り出したはいいが、全てきっちり返され殺されている状況からして、このまま普通にスペルカードを出しても輝夜を打倒出来る事等、無理な話だ。

殺さなくてもいい。


せめて気絶させられれば、先を行った霊夢達がどうにかしてくれるはずだ。


「不滅! フェニックスの尾!」


羽ばたく度に火の粉が翼から溢れ、燃え広がるように周りを侵食していく。

旋回するようにその場で周り、勢いよく炎は輝夜目掛け、蹂躙せんと差し迫る。


「……神宝」


対して輝夜は、再び“七度目〟のスペルカードを発動する。


「ブリリアントドラゴンバレッタ」


輝く極光。

相殺等決してさせない。光の弾幕は炎を呑み込まんと、炎の弾幕を押し戻す。


「蓬莱、凱風快晴……!」


だが、既に七度目だ。

宣言しながら妹紅は輝く極光をすり抜け、グレイズしながらも。


「フジヤマヴォルケイノ!」


遮るわずかな極光を、紅蓮の炎によって爆塵する。


「かぐやあああ!!」


白煙を上げる中、振り払うように妹紅はとうとう、輝夜の懐に侵入し。


「……神宝」


―――蓬莱の玉の枝―夢色の郷―


更なる極光に、全身を焼かれる。


「―――」


眩い輝きに視界は焼かれ、突如崩れ落ちるような漆黒が埋めていく。

焼かれる。

何もかも。

考える思考も、全て―――



「――――――か」

それでも。


「――――ぐ、やああああああああああああ!!」

なお、鳳凰は蘇った。


―――フェニックス再誕


極光を呑み込むように、火の鳥は産声を上げ。

焼き払うように、辺り一帯を炎で包みこむ。





















「……ハァ……ハァ……」


口元に付いた血を手で拭いながら、守矢神社の空の上で。

諏訪子は息を荒くしながらも、神奈子を睨む。

弾幕勝負はいつかの戦いの、繰り返しだった。


ぼんやりとした表情で佇む神奈子は傷一つなく飛んでおり、余裕を持って、息を吐く自分を見据えていた。


「ハァ……ん……」


大きく息を吐いて飲み込み、諏訪子はスペルカードを取り出す。

身体は、傷がない所などないほど、ボロボロであった。

お気に入りの帽子は弾幕に巻き込まれ何処かに飛び、着ていた物は所々焦げて荒んでいる。


腕を上げるだけでも最早辛い。意識を投げ出してしまいたい。


「祟符……!」


それでも、意識を投げるわけにはいかない。


「ミジャクジさま!」


自分を中心に展開される雨のような弾幕。

ゆっくりと動くそれは、流水の如く。


「いけっ!」


神奈子に向かい放たれる。


「……」


対する神奈子は動かない。

代わりに、肩に装着された御柱が、輝き始め。


「マウンテン・オブ・フェイス」


極光の弾幕となって、迎え撃つ。


「ぐ……!」


弾幕の数も質も神奈子が上。

展開された雨のような弾幕は、勝てはしない。

これ以上はないぐらいの、決定的な力の差。


「……神奈子」


ぎゅっと目を瞑る。自分では、もう力が足りない。

後数秒もすれば、押し負けた自分の弾幕は突破され、神奈子の弾幕はこの身を焼く。


「ごめん……私じゃ、もう……」


神奈子に託された言葉を思い出しながらも、意識は闇に落ちかけ。





―――奇跡、神の風


一陣の突風が、顔を撫でる。


「諏訪子様、まだです」


聞こえてくる声は、寝込んでいるはずの風祝の声。

諏訪子はバッと目を開ける。そこには、自分を守るようにして立つ、早苗の姿があった。


「まだ、諦めちゃいけません」


ミジャクジに合わせる様に放たれた弾幕は、ギリギリで、マウンテン・オブ・フェイスの弾幕を相殺していく。


「さ、早苗! 身体は……!」

「大丈夫です。少し、痛いだけですから」


ニコリと、青ざめた顔をしながら笑う早苗の表情は、やせ我慢の何者でもない。


神奈子の弾幕が直撃してボロボロのはずなのだ。

早苗の腋から見える、身体に巻かれた包帯からは、じんわりと赤い斑が映っている。


「それに、外で音がして、神奈子様と諏訪子様が争ってるのを見たら、身体が動いちゃったんです」


会話をしながらも、弾幕の波は絶えなく降り続いている。


「や、やめな早苗……! そんな身体で弾幕を張り続けたら……!」

「………なら、諏訪子様」


ニコリと笑っていた顔は、真剣な表情に変わり。


「神奈子様を、助けてあげてください」


諦めた心に、再び火を点けるのには、充分であった。



「……わかった」


「お願いします………あはは、出てきたのはいいですが、ちょっとやっぱり、痛いです、ね―――」


ふらりと、仰け反るように早苗は身体を後ろに傾ける。

諏訪子は、意識を無くし、落ちかけた早苗の身体を抱きしめた。


「……早苗」


弾幕の雨は続いている。だが、抱きとめた早苗の顔は安らかで。


「……ごめん、私がしっかりしないといけなかったね」


無理をさせた風祝に、一度謝り。


「祟符!!」


再び、宣言。


「ミジャクジさま!」


スペルカードは同じ、自身の最強にして切り札。

雨の弾幕は、先ほどと同じように流水のように流れ。


「神奈子、勝たせてもらうよ!」


倍の量となって、マウンテン・オブ・フェイスの弾幕を退ける。

豪雨の濁流の如く、ミジャクジの弾幕は神奈子を包みこまんと殺到する。


「………」


神奈子は、それをぼうっと、見ているだけであった。

まるで、マウンテン・オブ・フェイスが破られれば後がないように。


濁流は、躊躇なく神奈子を呑み込む。

























「……みんな」

隙間から覗かれた弾幕勝負の終結に、霊夢は紫を抱きながら、軋む身体を再び空へと昇らせる。


「そろそろ、日付が変わるまで時間がありません。真夜中の満月のこの時を逃せば、結界の修繕は効果を発揮しないでしょう」

「………」


霊夢はZUNを睨みつけながらも、今の状況を冷静に分析する。

二つの弾幕結界さえ効かない化け物。接近された時にスペルカードを発動して落とされていたならば、確実に意識はなかった。

叩きつけられた後、紫も同じように堕ちてきたが、傷の具合からして、紫の方がダメージは大きい。


「……お父さん、何で」


宣言をしなかったのか。声に出し、言葉にしようとした疑問は。


「……紫、まだ動ける?」


心に押し戻す。聞いた所でどうしようもない。

魔理沙を犠牲にされる訳にもいかず、今、自分は負けるわけにはいかない。

意識があるのならば好都合。目の前の化け物を懲らしめる瞬間は、まだある。


「……正直、きついわ。弾幕を張れるとしても、せいぜい一回か二回よ」


よろめくように抱かれる腕をどけて、自分の身体のみで飛ぶ紫は、弱々しくも答えてみせる。


「……なら、隙を突いて魔理沙を柱から解放して。私が、お父さんを何とかするから」

「何とかするって……貴方一人でどうする気?」


紫は驚きつつも、怪訝な表情をしながら聞き返す。

弾幕結界以外に、あれを打倒出来る方法などないと思っていた紫は、切り札を打ち砕かれて本当に後がないと思っていた。


「……あるわ、一つだけ」

霊夢は前に進み出る。


「ええ、一つだけ。博麗の切り札はあります」


ZUNも霊夢と紫の話を聞いていたのか。

応えるように前に進み出た。


「しかし、それを破られれば後がありません。霊夢、その時は」

「その時なんてないわ。これは」


手に持つスペルカード。自分の、とっておき。


「“敵〟を、消滅させる為にあるのだから」


強力すぎて使えなかったスペルカード。

紫の深弾幕結界と同じ列に存在する、ラストワード。


「……使いたくはなかったわよ」


でも、そうしないと勝てない。もしかしたら殺してしまうかもしれない。

殺したくなんてなかった。霊夢はいつだって、皆を許してきたのに。


「でも、そうしないと勝てないなら」


例え肉親であろうと、躊躇等しない。








                  ――――夢想   天生――――








人としての霊夢は終わりを告げる。






















そこにいるのは、正真正銘の博麗の化身であった。

回るように陰陽玉が何十と周りを旋回し、札は際限なく溢れ出す。

軋むように痛む身体はそこに無く、霊力は目に見える速度で上昇していく。


スペルカードによる人体の限界突破。


ZUNはここに来て初めて、息を呑む。


「……行くわよ」


ぶれるように霊夢の姿は消え。


「っつ!」


横薙ぎに振るわれる札の雨にZUNは身体を捻って回避する。

紙一重とは言えない、完全に反応が遅れている。

グレイズしながらの回避はバランスを失わせるのには充分であり。


「っつ、ぐ!?」


上下から来る光速の針に反応が出来たのは奇跡であった。

しかし、そんなものは奇跡に入らない。

何故ならば、それは序の口であり。


「―――夢符」


誘導するように、いつの間にか逃げ場をなくされた札の雨は、容赦なくZUNに降りかかろうとしていた為に。


「封魔陣!」


たまらずスペルカードを発動する。

結界で札の雨を防ごうとし、数回の札の弾幕により軋み上げる結界に舌打ちしながらも、次のスペルカードを切る。


「夢と現の呪」

「隙間」による瞬間回避。

決壊する結界から、間一発抜け出し、姿を消してみせる。


つかの間の静寂。

だが、今の霊夢は、それでは止まらない。


「……そんなもの」


夢想封印―瞬―

放たれるは七つの宝玉。

変わらぬ夢想封印だったが、違う所があるとすれば。


「っつ!?」


瞬時に、「隙間」から出てきたZUNへと光速で向かう事であった。

だが、霊夢が対する相手は、あくまで化け物。

必殺になるはずのものを、ギリギリで身体を動かし回避する。


未来予知じみた勘同士の探り合い。


一つは、人口的に作られた最強の勘であり。

もう一つは、今までの経験から算出する天性の勘。


ZUNは夢想天生さえも、既に知っているスペルカードであり。

それが、長く続かない事も熟知していた。


「くっ……! この!」


再び放たれる札の雨。

今度は霊夢の周りを旋回していた陰陽玉も囲むようにZUNへと飛ばされる。


「………」


ZUNはあくまで回避し続ける。

甘い自分の心に心底吐き気がしながらも、霊夢を沈めるスペルカードを発動するわけにはいかなかった。

万が一、自分の手で霊夢を殺めてしまってしまったらと思うとゾッとしてならない。


霊夢が全力を出してくるのは計算の内、あくまで予定の範囲内。

予定の内ならば耐え切って見せると、ZUNは自分に誓って回避し続ける。


だから気づかない、いや、気づいていたとしても、回避に専念し続けている思考は数秒の間、他の者を視界に捉えられなかった。




















「……霊夢」


見た事がないスペルカードに、魔理沙は息を呑みながらも、それでも泣き出しそうな表情は変わらない。

霊夢を愛してやまない親馬鹿が、霊夢と弾幕勝負をしている事に苛立ちを覚え。

どれだけ霊夢が全力を出そうと、ぎりぎりの所で、あの男は避けている為に。


「くそ……! くそ!! 私は、見てる事しか出来ないのかよ!」


縄を解こうとやたらめたらに身体を捻るも、固い縄は解ける気配はない。

せめて、ポケットに入っている八卦炉が掴めれば―――


「―――魔理沙」


後ろからの声に、魔理沙はバッと振り返る。


「紫!」


振り返った先には、息を荒くしながらも、「隙間」から出てくる紫の姿があった。

派手な紫のドレスは紅い斑を作り、胸元から見える肌から流れる血は、未だ止まっていない。


「……い、今、解くわ。じっとしてて、頂戴」


扇を片手に、魔理沙を縛る縄に向けて一閃させる。

スパリとびくともしなかった縄は寸断され、一瞬の浮遊感と共に、腕を捕まれる。


「……持ってきて、正解だったわね」


空間に「隙間」を開き、予め回収しておいたのだろう。

自分の愛用している箒を手渡され、支えられていた身体を箒に乗せて自分で飛んでみせる。


「……ハァ、逃げなさい。そうしないと、皆が悲しむ事になるわ」

「け、けど霊夢が!」

「霊夢は殺されないわ。何故かはわからないけれど、あの人は霊夢に対して、さっきからスペルカードを発動していない」


紫の言葉に、魔理沙はもう一度ZUNと霊夢の弾幕勝負の風景を見る。

確かに、言われてみれば回避に徹しているだけだ。防げない弾幕だけスペルカードを持って防いでいるのを見る限り、ZUNは霊夢を落とす事はしようとしないのだろう。


「……いいから、逃げて。あの人を打倒出来る手段はないの。あの人にとって、“未知〟を繰り出さない限り、きっと当たりはしない」

「……未知?」


紫の言葉に、魔理沙はハッとする。


「それって、私が今まで撃った事がない弾幕なら、届くって事か?」

「……貴方の魔砲以上の弾幕で撃てば、もしかたら当たるかもしれないけれど。そんな都合良く―――」

「………いや、あるぜ」


魔理沙の言葉に、紫は痛む身体に苦しみながらも、驚いた表情を見せた。


「紫、悪いが力を貸してくれないか?」

「……何を、する気なの?」

「逃げるより、ここで懲らしめれば誰も悲しまずに済むんだ。霊夢の親父も、きっと堕ちればわかってくれる」


それは予感ではなく、確信。

箒に乗る今の自分の今の状況が何よりの証拠。

犠牲にすると言いながら、試すように霊夢と弾幕勝負をし、自分に目をくれない今の現状があるから言える。


あの男は、何処かで自分が止められる事を望んでいる。



「もしかしたらかわされるかもしれない。けど、威力は折り紙付きだ。何たって、私の“師匠〟だった人の十八番だぜ」


しかし、撃った事がなく、自分一人では撃てない魔法。


「……師匠って、まさか」


紫はその言葉に、何か思い至ったのだろう。


「妖力を、八卦炉に注いでくれ」


言葉と共に、投げられた八卦炉を紫は受け取り。


「………外したら、絶対に逃げなさい。いいわね?」



歯を食いしばりながらも、ニコリと邪悪な笑みをしながら、残っている妖力を八卦炉に注いでいった。



























「……ハァ……ハァ!」


研ぎ澄まされた集中、放つ札は常人の目では追えない速度。

際限なく溢れる暴力の嵐に。

それでも、目の前の化け物は未だかすり傷を残すだけで直撃を与えられていない。

息が保てない。限界まで上がる自分の身体は、徐々に、限界突破した分の蓄積が、身体に溜まっていく。


「……ハァ!」


それでも、振るう腕は止まらない。弾幕の雨は止まらない。

止めてしまえば、それが自分の敗北であり。

止めてしまえば、かけがえのない友を失う恐怖を味わうはめになる。


「……ハァ………ハァ………ハァ」


息遣いは止まらない。


「ハァ……ハァ……!」


限界なんて最初から超えている。


「ハァ―――」


ごふっと。

とうとう、身体の内側から壊れた。


「ごほっ……ごほっ……!」


手で抑えながらも、ためらわず逆流する血液は、自身を紅く染めていく。


「……霊夢、わかりましたか?」


止まった私は的だろうに。同じように、律儀に止まった化け物は、心底、悲しむ声で終わりを告げた。


「私には勝てません。諦めなさい。それが、霊夢にとってきっといい事になるはずだから」

「……ぐ」


手に残る鮮やかな血を見るも、まだ身体は動くと、必死に、顔を上げる。


「どうして……?」


繰り返される門答。


「………」


繰り返される沈黙。


ZUNは答えない。何の為に汚れようとするのか。


答えないまま。


「……え?」




決着を迎える、黄昏の閃光が来る。


















ZUNにとって、それは予想外の何物でもなかった。


湖に巨大な影を作る閃光。


禍々しき閃光は、逃げ場等与えず、「隙間」に入らせる余裕もなく。


「……これは」


ZUNは閃光を見ながら、自分の勘を最大限に算出し。


「………馬鹿な、何故、これを撃てる?」


避けられず、防げないと判断した。


一度たりとも直撃を受けなかったZUNの身体を蹂躙するように、閃光が直撃する。


蒼い魔法使いの十八番。


昔、先代の博麗の巫女とやりあった弾幕の一つ。


―――トワイライトスパーク




懐かしき、黄昏の閃光であった。





























「……! お父さん!!」


堕ちるZUNを、霊夢は痛む身体に鞭打ちながらも飛ばす。

落下するZUNの身体を、湖に叩きつけられるギリギリかどうかという所で捕まえた。


「……う、れい、む?」

「喋らないで」


直撃を受けたZUNは、ボロボロであった。


「……何故、私を助けるのですか?」


しかし、苦しみながらもZUNは聞く。

何故、自分を助けるのか。


「………私は、博麗の巫女だから」


ポタリと、ZUNの頬に水滴が落ちる。


「どうして、こんな事をしたの? 私、ずっと、お父さんに言われた通り、博麗の巫女をし続けてきたよ?」

「……霊、夢」


それは、博麗の巫女としての言葉ではない。

霊夢としての、言葉だった。


「私じゃ、任せられない? お母さんみたいに、立派に、なれないかな?」

「―――」


酷い話だ。

結局自分は、娘を泣かせてしまった。

信じて、やれなかった為に。

本当に、甘い自分の心に吐き気がする。


「……すまない」


色々な意味を込めて、一言、ZUNは謝った。


「………謝るのは、私じゃないよ?」


片方の手で、霊夢は泣いている自分の顔を拭う。


「みんなに、謝ってよ。じゃないと、絶対許さない」

「――ああ、そうだね」


ニコリと花のように、笑う霊夢に。




ようやく、父親らしい顔をして、ZUNは笑うのだった。
































桜が散って、早一月と中頃。


「……阿求様、阿求様!」


タタタっと、忙しなく歩いてくる仲居の足音が聞こえる。


「どうしましたか?」


太陽が輝く中、直射日光を浴びるのを嫌い、少し影が差す和室の中の方で書き物をしていた阿求は、慌てて入ってくる仲居を見て、首を傾げる。


「お、お客様です。ZUNと言えばわかると」

「―――そうですか」


その言葉に、ピクリと穏やかな表情は変わる。


「ど、どうされましょうか? 覚えがなければ……」

「いえ、通してください。大事な私の客人です」


いつかの門答を繰り返すようで気持ち悪かったが、仕方あるまい。あの時とは違う仲居だ。

仲居は慌てるように屋敷の戸口へと急ぐ。

阿求は、前と同じように書き物を隅に追いやり、座布団を自分の方に一枚、向かい側に一枚と置いてみせる。


置いた座布団へと正座し、暖かかな風を浴びながらも、来るのを行儀よく待った。


「やあ、こんにちは、阿求殿」


聞こえてくる声に顔を向ける。


「こんにちは、ZUN様…………相変わらず、お酒を飲んでいるようで」


クスリと、阿求はZUNが持参している缶ビールを指摘しながら笑う。


「いやはや、これだけが生きがいでして」


ZUNも指摘されて、薄く笑って見せた。


「お、お茶を用意しますので、ごくつろぎ下さいませ」


仲居は、そんな二人のやり取りを見ながら、退出する。


「……」

「……」


ZUNは前と同じく、置かれている座布団へとあぐらを掻いて、ぐっと手に持っていたビールを一息飲んだ。


「おしかけたみたいで申し訳ない。帰る前に一言、挨拶をと思いまして」

「いえ、私は再び会えて嬉しいです」


ニコリと笑う阿求。


「……そう言っていただけると、ありがたい」


ZUNも苦笑しながらも、ポケットから缶ビールをもう一つ取り出し、ブルタブを引っ張った。


「帰ると言っても、夜中になるまでいるので、どうだろうか?」


開けたビールを阿求の方にスススと置いてみせる。


「……白昼から飲むのは、些か悪いかと思いますが」


阿求はそう言いつつも、缶ビールを受け取る。


「ZUN様の勧めなら、仕方ありませんね」


少女である阿求は、しかし腰に手を当て、ぐいっと缶ビールに口を付けた。


「……ん、ん」


喉を潤すようにビールを飲むその姿は、短命な少女とは思えない飲みっぷり。


「プハァ!」


景気よく、ビール缶から口を離した。


「いい飲みっぷりですね。本当に」


以前の話で、お酒がよく飲めるようになったと聞いていたZUNは、阿求の飲み方に対して驚きはしなかった。

代わりに、同じように酒を再び飲む。


「いつかZUN様とこうやってお酒を飲んで話せるのが、ある意味一つの目標でしたから」


阿求は、顔を少し赤くしながらも、まだ酔ってはいないはっきりとした口調で喋る。


「そうですか……ならば、その目標が叶った事に」


すっとZUNは飲んでいた缶ビールを阿求の方へと差し出す。


「ええ……乾杯」


アルミ缶の音がぶつかり合う音と共に、再びぐいっと、二人して飲んだ。







それから、夜中までお酒に、仲居が持ってきた色々な肴に手を付けながら話をする。

気分が良いのか、それとも元々話したかったのか。

ZUNの方から色々な話を聞かされた。


ある揉め事で幻想郷の皆に迷惑をかけた事。

博麗の巫女が立派に成長していた事。

巫女に多くの友達が出来た事や、大結界の話等。



童心に返ったように、ZUNはいつもの希薄な表情を捨てて、色々な事を話した。














「……ああ、もう、こんな時間ですか」


チリンと、いつかの時のように縁側の風鈴が鳴る。


「楽しい時は、早く過ぎ去っていくものですね」

「ええ、全くそのとおりで」


座っていた座布団からZUNは立ち上がる。


「……ZUN様。また、会えますでしょうか?」


それは、少しの期待だった。

また会いましょうと返してもらえれば、きっと、この生命が終わる前に、またこうやって楽しい一時が過ごせるかもしれないと。


「…………」


流れる沈黙、間を開けるような静寂は、一瞬のようであり、長い、長い空白のような感じもした。


「残念ながら、必ず会えるとは言えません」

「そ、そうですか」


返ってきた言葉に、落胆が出てしまう。


それを感じ取ったのか、ZUNは首を横に振る。


「だから、約束しましょう。阿求殿」


見下ろす眼光は、眼鏡の奥からでもわかるほど、とても暖かで。


「また会うと。約束すれば、きっと、また会えますよ」

「……は」


私は約束する。


「はい!」


再び、この人に会うと。



















「……わざわざ、見送りに来てくれたのですか」


人里の外れ。

幻想郷から遠ざかり、あちらの世界に再び戻ろうと。

誰もいない真夜中の野道に、いつかの子鬼とのやりとりを連想させる場所にいた。


「……お父様」


こんな自分を、未だ父と呼んでくれる大妖怪。


「……紫、またお願いする事になりますが、この楽園を頼みます」


ZUNの言葉に、紫は苦笑する。


「……お父様の為ではないですわ、私は、“私の楽園〟を守る為に頑張るのよ」

「紫の?」

「ええ、誰もが、笑っていられる楽園」


紫は、微笑むようにして、クルリと回りながら、月を見上げる。


「犠牲も、敗者もいない世界。せめて、霊夢が生きている間だけでも、それをしようと思ったの」

「……そうですか」


その言葉に、ZUNは同じように微笑んだ。

見ている楽園は、今はきっと同じだと。

そう、強く思えたから。


「それと、一つだけ、言わないといけない事があると思って」

「?」


紫は微笑む顔を止め、真剣な表情のまま答えた。


「私は、お父様を憎んでいないわ。母も、きっとそう。あの人は、最後の最後まで、笑っていた」

「―――」


いつかの記憶。

紫を妖怪に仕立てあげる為に娶った、一人の女性。


「だから、悲しまないで。一人で背負わないで。私が、霊夢が、幻想郷の皆がいるから」


紫の言葉に、今まで背負ってきた物が、少しだけ軽くなったと思う。


「……ああ」


ZUNは強く頷く。


「……困ったら、皆に助けてもらうよ」


幻想郷という楽園は。

皆がいるから、楽園なのだと。


「また、会おう。我が娘よ」


泣きそうになる顔を必死に堪え、ZUNは紫を横切り、自分の戦場へと再び舞い戻る。


自分が出来ること、自分が成すべきことをする為に。




自分の愛する、娘達を信じて




ここまで読んで頂きありがとうございます。

まず始めに、この話はフィクションです。実在するZUN、神主様とは違いますのであしからず。

正直、思う所は読み手の方はたくさんあると思われます。

なので、突っ込みたい方は感想へ、お願いします。

お願いします。

5/18 追記: 数々の意見、評価ありがとうございます。

肖像権に引っかかる云々は、あくまで「フィクション」として考えてくださるといいかと。(吐き気がするほど便利な言葉ですが)

しかし、まぁ、予想通りと言うべきか。やっぱりこういう系統を書いてはいけないというのがほぼ意見でわかった分、糧とさせて頂きます。テスト、という言葉はいささか言い過ぎな部分もあったと思いますが他に良い言葉が見当たらなかったもので。不快にさせてしまったのなら申し訳ありません。

これでも良い! と思われてる方には残念な気もしますが、“クーリエのサイトを使って投稿している〟というのが心中にあるので出来る限り、全員が納得するような話を書きたいなと思うのです。(そういう意味を含めてのテストとも捉えてくださると嬉しい限りなのですが)

では、これにて。長文失礼しました。







七氏
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コメント



0.550簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
わきまえろ
4.70煉獄削除
う~む・・・・面白かったんですが、ZUN氏を出してしまったことに

叩かれたりしても仕方ないのかなぁ・・・と思ったりします。



あとですね、他の皆が戦っていたその後の話ってないですか?

そこが気になりましたね。



あ、私はZUN氏を出したことに「え?」って感じでした。(苦笑)

悪い意味での疑問ではありませんが・・・・ちょっと行き過ぎてる気もしないでもないですね。

私がそこまで気になりませんでしたが。
6.無評価七氏削除
感想、ありがとうございます。

>叩かれたりしても仕方ない~

こういう話の展開を作り、恐らく無理、と思う方は多数いるかと思われます。

今回はそういう意味ではテストに近いですので。罵倒でもいいので反応が欲しかった所なのです。

これが許されるならば、色々な作品がありになるので。

なので、まぁ管理氏の解除に引っかからない程度の感想をくださいませ。

反応が一番無いのが正直一番困るので。

長文失礼。
9.30通りすがり削除
ゲームや物語上の人物の名前なら未だしも、

実在の人物で有り、幻想郷の礎を築いた方の名前をそのまま出すのは頂けないと思うのですが?

せめて、創造主とか別の名前にするべきだったと思うんですよね...

話のストリーとか流れとかが良かった分、その変が残念です。



くれぐれも道中背中から引導渡されぬ要にご用心を

11.60名前が無い程度の能力削除
面白い。面白いのですが、境界を突破しすぎていると思います。

その名前を出すのはどうかと……。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
ごめん私には無理
13.50名前が無い程度の能力削除
正直面白いと思ったのだが、やっぱり、その、あれですよ?

名前を出してしまっては・・・。
14.80名前が無い程度の能力削除
>長く黒光りする御柱

>ズンッ

この2つで吹いた。ZUNにズンッって斬られたのか、と。シリアスなシーンだったんだがなぁ。

名前云々は私は気にしないが気にする人もいるんだろうなあというところ
16.100名前が無い程度の能力削除
作者様の過去作品は全部読ませていただいていたので、今回も読ませていただきました~



私は「有り」かな、と思います。

ZUN氏が実際に幻想郷に入ってきたり、幻想郷の面々と面識があったり、

結界組の能力をそのまま使えたり、という設定にはたしかに最初は違和感を感じましたが、

「ああ、なんだかZUN氏ならそのぐらいやれるかも」と、徐々に納得できるようになりました。



例えばZUN氏が「褌一丁で変態行為を繰り広げる」とか、

本人のイメージを大きくねじ曲げるようなものであれば叩かれるかもしれないですが、

作中のZUN氏は「幻想郷と、そこに住む住民を愛している、そして極度の酒呑み」という、

私が個人的に持っている神主のイメージとぴったり重なるものだったので、

その点では違和感はなかったです。



たしかに他の方がおっしゃっているように、実在の人物の名前をそのまま出したことは問題あるかもですが、

私としては「よくぞこのような斬新な手法で書いてくれた!」と賛辞を送りたいです。





話の内容そのものは、紅魔郷から風神録、萃夢想、最新の地霊殿も少し含ませ、

文花帖や求聞史紀等、番外編的な内容も取り入れ、

それらの主要キャラ総登場、幻想郷の存亡の行方、

立ち塞がるのは精神を操られた歴代のボス、立ち向かうはそれらボス達の身内、友人、部下達、と

王道かつ燃える内容で、戦闘シーンも丁寧かつ凝った内容で、非常に良かったです。



しかし作中のZUN氏は本当に暇があれば缶ビール呑んでますね、

後編で呑み終わった缶をちゃんとスキマに捨てているシーンが、なんだかマナーいいなと思いました。



あと、他の方もおっしゃっていますが、操られていたレミリア達の、事件解決後のシーンが無いのは寂しいところ。

フランや妖夢や妹紅や諏訪子達の、自分達の大切な人を倒さなければいけないという心の葛藤が

きちんと描写されていただけに、その後のフォローが無いと、心にもやもやしたものだけが残ってしまいます。





これからも今回のような実験的な作品を書かれるのか、

それとも「宴会の果て」までのような同じ時間軸の中での話になるのかは分かりませんが、

次作も楽しみにしています。
17.無評価名前が無い程度の能力削除
テストて・・・
18.70名前が無い程度の能力削除
とりあえず、相手を殺せるレベルの攻撃は弾幕じゃ……

相手を殺すつもりなら弾幕じゃなくて本気の一撃を展開するのかなぁとか。



外から妖怪その他が入ってくるようにしたのはそもそも紫だったような。
20.90名前が無い程度の能力削除
ZUNじゃなくて神主だったら違和感が小さくなるのではと思います。



丁度この手の話を読みたいと思っていましたので、補正点入ります。
22.無評価名前が無い程度の能力削除
肖像権に引っかかりますよ?
25.無評価名前が無い程度の能力削除
実在の人物を好き勝手に描写するってどうなのでしょう?

しかもテストって叩かれないように逃れる為に書いたのでしょうが

なおさら失礼では?
26.90名前が無い程度の能力削除
う~ん、やはり様々な意見があるようですね。

こういう作品を書いて、世(まぁネット限定に近いけど)に問うことは誰かがいずれやる(もしくはやらなきゃならない)ことなんでしょうが…難しいものです。

とりあえず、今回のこの件で議論が起こり、各作者の中でガイドライン的なものの検討がなされること自体は、長期的に視れば善いことなのではないかと。

…ぜひ神主様のご意見も伺ってみたいところではありますが。



私個人としては、こういうの全く「有り」なんですがねぇ。

ある「創作されたテクスト」に描かれた人物は、あまねく「テクスト世界のキャラクター」として現実から独立している、というのが個人的立場なので。

だから、例えば(次元が違うと言われるかもしれないけど)現実世界の「諏訪大社」と、東方世界の「守矢の神社」は、それぞれ違うモノとして問題なく見ることが出来るわけですから。



閑話休題。

作品としては非常に面白く読めました。こういうメタ的なお話、割と好きです。

ただ、既に指摘があるように各ラスボスキャラたちの行く末も、ほんの少しでいいから書いて欲しかったです。

上の問題もあるから、外伝or後日談は難しいかもしれませんが…
27.50雨四光削除
せめて『神主』にしとこーよ
28.80名前が無い程度の能力削除
うーん自分的にはこれあり!って思えるんですが、やっぱりみんな感じ方が違うんですよね
35.70名前が無い程度の能力削除
相変わらずここのサイトは自治厨が多いですね