「これは借りてくぜ!」
言うが早いか、魔理沙は床を蹴っった。その手には、大きく膨らんだ袋がしっかりと握られている。
「も、持ってかないで~」
と、パチュリーは縋るかのように手を伸ばす。しかしそこに掴むべきものはない。すでに魔理沙は図書館の外に浮かんでいた。
「またなー」
「もう来なくてい――けほっ」
言いかけて、魔理沙が巻き上げた粉塵に咳き込んだ。
むきゅー。
一端止まってパチュリーを一別、軽く手を振ったかと思うと、魔理沙はずいずいと高度を上げていった。程なくして白と黒の境もわからなくなり、青いキャンバスを穿つひとつの黒点となっていた。
しかしパチュリー自身、さっきは「持って行かないで~」なんて言ったものの、魔理沙が人の言葉を聞き入れるような玉ではないと言うことは理解している。だからこれは常套句に他ならない。「借りてくぜ!」ならば「持ってかないで~」。むしろ、諦めをつけるために言っているくらいのものである。
「……とんずらこくなら風の如く、だったかしら」
パチュリーは件の押し入れ強盗の言葉を思い浮かべて、はぁ……と溜息をついた。そのまま視界に入った足下は、酷く汚れていた。見回せば書架から飛び出した本も少なくないし、自分の服もよく見ると塵芥にまみれていた。
――とんずらこくことなら風の如く、嘘つき通すこと林の如く、攻め入ることは火の如く、努力せざること山の如し。
なんて豪語していただけあって、本当に風のような速さだった。呆れる程までに鮮やかで、爽やかな逃げ様。再び空を見上げたときには、もう魔理沙らしき粒も見えない。
ただ雲がゆっくりと流れいるばかり。
「小悪魔に掃除させないといけないわね」
自分の服を叩きながら言って思い直す。たまには、自分でやるのも悪くは無いかもしれないと。空が見えるのが清々しいからか、それともどうしてか。
かくしてパチュリーは紅魔館の倉庫へと向かった。風の精霊の力を借りれば簡単なのだが、流石にこれ以上埃を巻き上げても喉に悪いだけ。だから歩くことにした。
しかし、半ば諦めてはいるものの、本を奪われるのはやはり悔しいものがある。だから今度魔理沙が来たときには、盛大にもてなしてやろうと心に決めるパチュリーであった。――もちろんお茶菓子付きで。
魔理沙は豆鉄砲を食らった鬼ののように驚くのか、それとも鳩みたいに喜ぶのか。考えるまでもない。図々しく、さもそれが当然であるかのように振る舞うだろう。それでも前者の魔理沙を想像すると妙に可笑しくて、柄にもなく笑顔になってしまった。
それを運悪くも小悪魔に見られたのは、図書館の出入り口にさしかかった辺り。そして小悪魔は天狗も目を見開くであろう俊敏な動きでパチュリーの側まで寄ってきた。来るも来るなり開口一番、
「ぱ、パチュリー様! お体の調子でも悪いんですか?!」
と失礼なことを言ってのけた。
人が笑うのが悪いか。というか、そんなに速く飛べるなら本を取り返してきなさいよ。
パチュリーは、大きく溜息をついた。図書館の天井を吹き飛ばされたことよりも、魔理沙に本を奪われたことよりも、納得がいかない。
「私は、アナタが考えてる程までに日陰少女じゃないわ」
「こ、これは大変です! い、今すぐ永遠亭でお薬貰ってきますからっ!」
むすっとして言ったつもりが、どうやらまだ笑顔だったらしい。小悪魔はそれを見るなり、素っ頓狂な声を残して空へと消えてしまった。
また酷く埃が舞い上がる。
「…………、本当に、どうして小悪魔は魔理沙から本を取り返そうとしないのよ。あんなに速いのに――けほっ」
まあ、たまには騒がしいのも良いかもしれない。と思いつつ、そんな小悪魔の姿を見送った。
丸くぶち抜かれた天井の穴。ここからでは普段見えないものが、どうしてか見えた。時折吹き込んでくる風は心地く、紅魔館の地下図書館はいつになく明るかった。
ふと、風に乗ってこんな声がパチュリーにまで届いた。
「美鈴! あなたはまたサボって!」
「ギャッ! 咲夜さんっ、ナイフだけは――ギニャァァッ!」
あまり騒がしすぎるのも、考え物ではあるようだ。
言うが早いか、魔理沙は床を蹴っった。その手には、大きく膨らんだ袋がしっかりと握られている。
「も、持ってかないで~」
と、パチュリーは縋るかのように手を伸ばす。しかしそこに掴むべきものはない。すでに魔理沙は図書館の外に浮かんでいた。
「またなー」
「もう来なくてい――けほっ」
言いかけて、魔理沙が巻き上げた粉塵に咳き込んだ。
むきゅー。
一端止まってパチュリーを一別、軽く手を振ったかと思うと、魔理沙はずいずいと高度を上げていった。程なくして白と黒の境もわからなくなり、青いキャンバスを穿つひとつの黒点となっていた。
しかしパチュリー自身、さっきは「持って行かないで~」なんて言ったものの、魔理沙が人の言葉を聞き入れるような玉ではないと言うことは理解している。だからこれは常套句に他ならない。「借りてくぜ!」ならば「持ってかないで~」。むしろ、諦めをつけるために言っているくらいのものである。
「……とんずらこくなら風の如く、だったかしら」
パチュリーは件の押し入れ強盗の言葉を思い浮かべて、はぁ……と溜息をついた。そのまま視界に入った足下は、酷く汚れていた。見回せば書架から飛び出した本も少なくないし、自分の服もよく見ると塵芥にまみれていた。
――とんずらこくことなら風の如く、嘘つき通すこと林の如く、攻め入ることは火の如く、努力せざること山の如し。
なんて豪語していただけあって、本当に風のような速さだった。呆れる程までに鮮やかで、爽やかな逃げ様。再び空を見上げたときには、もう魔理沙らしき粒も見えない。
ただ雲がゆっくりと流れいるばかり。
「小悪魔に掃除させないといけないわね」
自分の服を叩きながら言って思い直す。たまには、自分でやるのも悪くは無いかもしれないと。空が見えるのが清々しいからか、それともどうしてか。
かくしてパチュリーは紅魔館の倉庫へと向かった。風の精霊の力を借りれば簡単なのだが、流石にこれ以上埃を巻き上げても喉に悪いだけ。だから歩くことにした。
しかし、半ば諦めてはいるものの、本を奪われるのはやはり悔しいものがある。だから今度魔理沙が来たときには、盛大にもてなしてやろうと心に決めるパチュリーであった。――もちろんお茶菓子付きで。
魔理沙は豆鉄砲を食らった鬼ののように驚くのか、それとも鳩みたいに喜ぶのか。考えるまでもない。図々しく、さもそれが当然であるかのように振る舞うだろう。それでも前者の魔理沙を想像すると妙に可笑しくて、柄にもなく笑顔になってしまった。
それを運悪くも小悪魔に見られたのは、図書館の出入り口にさしかかった辺り。そして小悪魔は天狗も目を見開くであろう俊敏な動きでパチュリーの側まで寄ってきた。来るも来るなり開口一番、
「ぱ、パチュリー様! お体の調子でも悪いんですか?!」
と失礼なことを言ってのけた。
人が笑うのが悪いか。というか、そんなに速く飛べるなら本を取り返してきなさいよ。
パチュリーは、大きく溜息をついた。図書館の天井を吹き飛ばされたことよりも、魔理沙に本を奪われたことよりも、納得がいかない。
「私は、アナタが考えてる程までに日陰少女じゃないわ」
「こ、これは大変です! い、今すぐ永遠亭でお薬貰ってきますからっ!」
むすっとして言ったつもりが、どうやらまだ笑顔だったらしい。小悪魔はそれを見るなり、素っ頓狂な声を残して空へと消えてしまった。
また酷く埃が舞い上がる。
「…………、本当に、どうして小悪魔は魔理沙から本を取り返そうとしないのよ。あんなに速いのに――けほっ」
まあ、たまには騒がしいのも良いかもしれない。と思いつつ、そんな小悪魔の姿を見送った。
丸くぶち抜かれた天井の穴。ここからでは普段見えないものが、どうしてか見えた。時折吹き込んでくる風は心地く、紅魔館の地下図書館はいつになく明るかった。
ふと、風に乗ってこんな声がパチュリーにまで届いた。
「美鈴! あなたはまたサボって!」
「ギャッ! 咲夜さんっ、ナイフだけは――ギニャァァッ!」
あまり騒がしすぎるのも、考え物ではあるようだ。
短すぎる上に物語性が薄く、色々と物足りなかったです。
いや、でも魔理沙は努力っこだったはずなのです!
なので、恥じ入らざること山の如し!とかだとしっくりくるようなw
しかし起承転結云々以前に、このSSはダメだということはわかりました。
何かメッセージをこめて書いたはずなのに、それがてんで伝わっていない。
本来あんまり長さは重要ではなかったのです、この話。
しかし、パチュリーが話の中心となっているのに、魔理沙への愛が発動してしまったのがよくなかった……と言えば綺麗なお話にして醜悪な言い訳。
結局のところ自分の実力不足なのですね。
……お後がよろしくないようで。
書き手さん自身わかってらっしゃるようですが何が書きたいのか、等さっぱり。完全な「やおい」ですな。
魔理沙への愛とかいう言い訳以前の問題です。
むしろ、けっこうよかった
それだけに物足りない
小悪魔w
内容は良かった気がしますが、他の方も書いてるように、これの続きがどうしても欲しくなる。
それが良さでもあり悪さでもあると感じました。
後につながる作品を期待してもいいのかしら?