Coolier - 新生・東方創想話

永遠に隣で

2008/05/13 22:40:17
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ココハドコ?

マックラデナニモミエナイノ。

ネェ、アナタハイマドコニイルノ?

ワタシノトナリニハ、ダレモイナイ。

イタズラズキノシロウサギモ、マジメデシッカリモノノツキウサギモ、

ニクタラシイホウライニンギョウモ。

ソシテ……イツモトナリニイテクレタアナタモ――



「イナバ……?妹紅……?永琳……?
 か、隠れてないで出てきなさいよ!
 姫を放っておいていいと思ってるの!?」

何も見えない、ただただ続く暗闇。
私がいくら声を上げても、何も答えは返ってこない。
私の声は響きもしないし、すぐに消えてしまった。
だから何度も何度も叫んだ。
私の声がこの果てしなく続く暗闇に消えないように。
それよりも、私がここに存在している証明のために。

「な、何よ!そっちから来てくれないのなら、こっちから行くわよ!」

怖くなって、一歩足を踏み出した。
果てなく、永遠に続いている闇。
ゴールなんてあるか分からないし、光が存在するかも分からない。
でも、歩いていけば何とかなるだろう。
自分に言い聞かせて、また一歩踏み出して、ずっと歩いていく。
足音なんて聞こえなかった。
聞こえるのは自分の存在を示すための叫びだけ。

「あーもう、どこまで歩けばいいのよ!さっさと誰か出てきなさい!」

一度立ち止まって、叫んだ。
私の叫びだけじゃなくて、荒い息遣いも聞こえた。
あぁ、私は存在しているのだと思った。

「輝夜様、やっぱり変なの……
 やっぱりこんなに生きてるとおかしくなるのね、蓬莱の月の民って」

「誰ッ!?って何だ、てゐか……」

私の目の前にいたのは、あのイタズラうさぎ。
この空間に、私以外の者が存在していた安心感と同時に、
イナバの言ったことに違和感を覚えた。
バカとかアホとか、レベルの低い言葉は使うけども、
イナバは、てゐはこんなことを言う奴ではない。
よほど怪しい奴じゃない限り、てゐは
存在を否定するとも取れる様な言葉を言うことは無い。
ましてや主であるこの私に。

「変ってあんた……自分の主人に対しての
 口の聞き方も忘れたのかしら?」

「知らないもん、アンタみたいな化け物。
 永遠の罪を背負った、愚か者」

信じられなかった。
てゐがこんなことを言うなんて。
私の知る限り、こいつはこんなことは言わない。
でも、間違ったことを言っているわけじゃない。
重罪を犯し、永遠の命を手に入れてしまった。
輪廻の輪に加わることは二度と許されない。
永久の罪。

「じゃあね、さよなら。
 永久に出会うことがありませんように」

「待ちなさい!てゐ!てゐー!?」

てゐはいつもと同じよう名軽い足取りで歩いていった。
私が走って追いかけても、てゐは離れるばかり。
私がいくら走っても、走っても、追いつけない。
手を伸ばしても、名前を呼んでも。
そして、てゐは闇の奥に消えた。

「一体何なの……」

私は立ち止まって、俯いた。
私だけしか存在しないような気がして、寂しい。
この暗い闇の中には、私だけじゃなくててゐがいた。
きっと、レイセンも妹紅もいるはず。
もしもレイセンに会えたら、てゐをみっちり叱ってもらわないと。
あれでも一応は永遠亭の兎を束ねているのだから。
私はまた歩き出す。
今度はレイセンを探して。

「イナバー?いるんでしょー?」

再び私は暗闇に声を放つ。
返事が返ってこないのは、なんとも寂しいものだ。
それと同時に、虚しさも溢れ出る。
まったく、調子が狂う。

「あ、姫様。どうしてこんなところに?」

「イナバ!さっきてゐが……!」

「またそれですか?その程度のことぐらい自分でやって下さい。
 私は姫様ほど暇をもてあましてはいないのです」

おかしい。
てゐもレイセンも、全然違う。
レイセンだったら、誰であろうと話なら聞いてくれる。
ましてや私は顔も名前も知っている、レイセンの主だ。
長い髪に包まれて見えない背中を見つめて考える。
そして、一瞬だけ見えたレイセンの冷たい目。
軽蔑、差別、謙遜の念が込められていたのは、間違いないだろう。
昔、私が月の都で浴びせられた汚れた視線。

「話くらい聞いてくれたっていいじゃない!」

「何故私があなた如きの言葉を聴かねばならないのです?
 主である資格の無い主に従うほど、私は落ちぶれてはいません。
 償うべき罪から目を逸らした臆病者」

「何ですって!?」

「さようなら、永遠の罪人。
 永久にあなたに会うことがありませんように」

そのまま、レイセンは音も立てずに歩いてゆく。
一度も振り返ることも無く、声を聞かせてくれることも無く。
そして、闇の中に溶けるように消えてしまった。
胸の奥に突き刺さる、レイセンの言葉。
甦る過去に犯した私の罪。
血で汚れて手に入れた偽りの自由。
犯した罪と汚れた自分の存在が釘となり、私の影に突き刺さる。
一歩も動けない。
体に力が入らなくなって、膝をついた。
どこまでも、深く堕ちていきそうな漆黒に。

「う……うぅっ…ック…!」

少しだけ暖かい雫が、頬を伝った。
雫の通った跡は、少し冷たい。
まるで今の私のようね。
涙は同じ場所を流れない。
私はいつの間にか、自らの犯した罪から目を逸らしていた。
二度と戻れない過去の、消せない重罪。
そして今、私は新たに、ずっと犯し続けていた罪に気付いた。

それは自分自身に嘘をつき続け、
向き合うべき事実から目を逸らしたこと。

泣きたくても、声が出なくなっていた。
もう、私自身の存在など意味の無いもののように思えた。

永遠に変わらぬ姿を持ち、永遠に流れ行く世界を見つめ、
永遠に償えぬ罪を背負い、永遠に孤独である。

何度、私は永遠という言葉を心に浮かべただろうか。

きっと、私の手では数え切れないのだろう。
きっと、この暗闇の出口と同じで、分からないだろう。

一つ、また一つと、涙が零れ落ちるのが分かった。
私の涙が零れるたび、この漆黒が揺れるのだから。
風になでられた湖のように、波紋が広がって消える。
グッと、力の入らない手のひらにありったけの力を込めて、
揺れる漆黒に触れた。

「グァ……ッ!」

触れた瞬間、私の頭に流れる過去の記憶。
鮮明に、色鮮やかに再び甦る過ち。
いつかの日に黒く墨で塗りつぶした記憶の墨が乾いて、剥がれて――




『月の姫がなんてことを……!』

『殺せ!殺してしまうのだ!』

『ウッ、ぐあぁ!』

紅の血の滴る刀で切り裂かれ、殴られ、何度も殺された。
そのたびに私は甦り、同じ痛みで苦しみ続けた。
言葉では表せないほどの激痛、非難と軽蔑の目。
重罪を犯した私には、助けを呼ぶことすら許されず、
声を出すことも、歌を歌うことも許されなかった。
罪人の歌なんて、汚らわしい呪いの旋律でしか無いのだろう。
だから、痛みも感じれなくなったくらいになった頃、
死に行く寸前に、何度も心の中で歌い続けた。

(かーごーめー、かーごーめ
 かーごのなーかのとーりいはー
 いーつーいーつーでーやーるー
 後ろの正面、だぁれ?)

いつかの日、優しかった両親や友達と遊んだ、かごめかごめ。
後ろを向く力も残されていない私に、後ろを向くことは出来ない。
後ろを向いても、いるのは軽蔑の目で私を見る月の民だけだろう。
ゆっくりと心が壊れていく気がした。
望むのは遠い思い出の中で見た貴女の笑顔。
記憶の中の貴女が、私を励ましてくれていたから……
きっと私は感情と意思を失わずに済んだのだろう。

いつかの日、私は籠から落とされた。
痛みと苦しみから解放された瞬間でもあった。
しかし、翼の折れた鳥は籠から落とされれば死んでしまうだけ。
世界が暗くなって、私は再び、死んだ。



目が覚めると、そこにはお爺さんとお婆さんがいた。
苦しみも痛みもない優しい世界に、私はとてつもない幸福を感じた。
もうこれ以上の幸福はないのではないのだろうか。
そう思うほどに満ち足りた日々。
村の子供も町の大人も、みんなと遊んだ。

『かーごーめーかーごーめー
 かーごのなーかのとーりいーはー
 いーつーいーつーでーやーるー
 後ろの正面だぁれ?』

ときに当たり、ときにはずれ。
泣いて笑って、正直に私という存在の感情を表すことが許された。
この世界は、あまりにも自由だった。
そして、この世界はあまりにも幸せだった。
満ちた月を見るたびに心に浮かぶ、血に塗れた日々。
いくらこの身の傷が癒えようとも、心の傷は深く傷痕を残していた。
胸が軋み、鋭い刃に切り裂かれるかと思うほどの記憶。

どんなに、この世界でこの身の自由を手に入れ、
どんなに、この世界でこの私の感情を映し出し、
どんなに、この世界で願おうとも……

黒い紅色の血のこびりつく、錆付いた鎖は私の心を縛り付けた。
ただ、大地に涙を捧げ、この幸せな日々が終わらないことを願った。
終わらないこと、即ち「永遠」。
永遠とは、不可能であり、どんな時間よりも遠いものである。
百年、千年、万年、億年、兆年。
その刻の流れに逆らうことは、龍でも、不死鳥でも不可能。
龍はその時の中で空を舞い、いつかどこかでその身を寝かせる。
不死鳥は数千の年に一度、自ら灰と化し、転生する。
ましてや人など、永遠を生きることなど到底不可能だ。
永遠の中に、時の流れとは存在する。
流れる時こそが永遠であり、その流れの中に生きるものは流される。

そして、その幸せな日々は終焉を迎えた。
それは私の紡がれ続ける運命の一部であり、
この地上に住まう人間達の運命の一部である。
運命とは、変えることなど出来ない。
たとえ変わったとしても、それさえも運命の一部なのだから。

空を翔る牛車、月の使者。
抗うことの出来ない流れに、私は身を任せた。
牛が大地を蹴り、満天の星へと駆け出したその時のこと。
私の心に、一つの希望の焔が灯った。
その月の使者の一人であり、ずっと私の隣にいてくれた人……
そう、八意永琳。
彼女は私と一番と言っていいほどに一緒にいてくれた。
悩んだとき、悲しかったとき、嬉しかったとき。
ずっと傍にいてくれた。
きっと、きっと永琳なら私の……私の最後の我が儘を聞いてくれる。
私の取り返しのつかない重罪にまで付き合ってくれた貴女なら。

『永琳……大事な話があるの』

『姫……?』

その時、私は本当にこの我が儘を永琳が聞いてくれるのか、と
自分自身に問いかけた。
もしも聞いてくれなかったら?
こんな罪人の言葉に、耳を傾けてくれるのか?
でも、その答えは永琳だけが知っている。
そして私は言った、二度目の大きな我が儘を。

『私は……この地球にいたいの。本当に、そこは幸せな世界だったの。
 自分の気持ちも感情も、ありのままに伝えることが出来たの。
 本当に……本当に……』

『……姫様』

『お願い、永琳……!私の最後の我が儘……
 どうか聞いて……お願い……』

このとき、本当に涙が止まらなかった。
また私は取り返しのつかないことをしたのだと。
また私は過ちを犯してしまうのかと。
涙はいくら拭っても溢れてきて、永琳が見えなくなったくらいだった。
それでも、私は永琳の瞳を見続けた。
たとえ涙で見えなくっても。

『姫様……私は姫様の家庭教師ですよ。
 主を正しき道へ導くための存在』

あぁ、やっぱり。
こんな我が儘、聞いてくれる訳が無かった。
希望の焔は消えたのだ、あっけなく。
そうだ、私の月の罪人で、重罪を犯した。
死ぬことの無いこの体で、ずっと罪を償い続けなければならないのだ。
この穢れた身で。
当たり前と言われれば、当たり前かもしれない。
きっと……まともな生活なんて出来ないのだろう。
ごめんなさい、お爺さん、お婆さん。
月で幸せに暮らすのは、無理なようです。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

『……その我が儘が、姫様の道を切り開くためのものならば、
 私はいくらでも姫様の隣で、この身が朽ち果てるまで戦いましょう』

『うそ……永琳……ありが、とう……っほんと……に……』

焔は再び灯された。
消えたはずの希望は更に強く輝いた。
私は、最高の家庭教師の傍にいたんだ。
思わず、私は永琳に抱きついて、泣いた。
今まで耐えてきた分を、全部。
遠い昔、血塗られた刃で殺された時に流せなかった分。
そして、私を信じてくれる人がいた喜びの分。

涙が枯れるかと思うほどに泣いた頃、
私は永琳に、その大きな我が儘を言った。
それはあまりにも酷いことだった。
また私の罪は深いものになる。
しかも、今度は私を信じてくれた永琳まで罪を犯すこととなる。
それでも、永琳は私のために、戦ってくれた。
私も、永琳よりずっとずっと弱いけど、精一杯戦った。
飛び交う光弾、飛び散る血、聞こえるのは苦しみに満ちた叫び。
これが、人を殺すということなのだということを、
鮮血に満たされ、静粛に包まれた牛車の中で思った。
私も永琳も傷ついて、血が流れてた。
死なないからいくら傷ついても大丈夫、そう思っていた私に、
永琳は牛車の隅から出してきた箱から傷薬を取り出して塗ってくれた。
優しく軽く、私が痛いと思わない様に気遣ってくれているのが分かって、
結構傷口に染みたけど、我慢できた。
辛かったけど、もう大丈夫なんだと、永琳の手の温もりを感じながら
静かに心に浮かべた。




「はぁ……はぁ……っ」

一気に過去のことを思い出して、少し疲れた。
それと同時に、再び暗闇の中に一人私がぽつんと座っていた。
ゆっくり目を閉じて、今まで私の犯した罪を浮かべた。

私は蓬莱の薬を作り、月から追放された。
そして、私を迎えに来た月の使者を皆殺しにした。
その重罪から、私は目を逸らし、自分に嘘をつき続けていた。
最後にもう一つだけ、言わなければならない言葉もある。
そうだ、今までずっと罪を犯し続けてきた私に出来ることは一つ。
生きてその罪を償うこと。
伝えるべき言葉を、伝えること。
そのためにも、私は光を探さなくてはならない。
この暗闇の中で、希望の光を。

気づけば私は走り出していた。
ただ真っ直ぐに、我武者羅に希望を探して。
相変わらず、足音は無く、私の荒い息遣いだけが聞こえる。
胸が苦しくなって、足も痛くなった。
それでも私は走り続けた。
ずっと、ずっと、足が絡まって転ぶまで。
転んだとき、痛みは無くて、体の熱さと苦しさと痛みだけが伝わった。
グッと、拳に力を込める。
立ち上がろうと思っているけど、体は言うことを聞かない。
絶対、絶対に光を見つけないと。
軋むような痛みの走る腕を伸ばした。
その時、眩しい光が私の手の中に現れた。
それは炎の鳥の形となり、渦を巻いて、火の粉を撒き散らして消える。
その中からは見慣れた人間の姿。

「妹紅……?」

「輝夜、珍しく必死だな」

赤と白のリボン、純白の髪。
そして札の貼られた大きなズボン。
私の殺し合いの相手、藤原妹紅。
何故妹紅がここにいるかは分からない。
でも、殺し合いをしているときのような殺気は感じない。
膝を折って、今の私と近い目線になる妹紅。

「輝夜……お前が認めるべきものは二つある。
 自分自身の犯した罪と、もう一つ、自分の感情だ」

「感情……?」

「寂しさ、悲しさ、孤独感。
 それはすべてお前自身の心の表情なんだ。
 永遠の命に纏わりつく孤独なら、私だって分かる。
 どんなに罪が深くとも、涙を流してはならないなんてことはない。
 だから……泣きたければ泣けばいい、苦しければ縋りつけばいい。
 寂しいなら、寄り添えばいい」

そう言って、妹紅は倒れていた私を抱き上げた。
見た目は私と同じぐらいに見えるのに、
力は私よりあるんだなと、改めて実感した。
そうだ、妹紅はずっと一人で旅を続けてきたんだっけ。
私は永琳と二人、妹紅はただ一人だけ。
私のせいで不老不死の体になってしまったのに、不平等だ。
今まで、考えたことも無かった。
平穏な日々の中で、こんな大事なことを見落としてたなんて。
妹紅の暖かさが、私の胸を締め付ける。
私のせいで、どれだけ罪の無い彼女を苦しませていたのだろうか。
その時、妹紅は強く私を抱きしめてきた。
妹紅の強い鼓動が、私にはっきりと伝わってくる。

「輝夜……お前は苦しまなくていい。生きている限り、罪は償えるんだ。
 ただ、その過ちを認め、向き合い、償おうと思うことこそが、
 その罪の償いなんだ……
 
 帰ろう、輝夜。
 目を覚ませば、もっと優しく抱きしめてくれる人がいるから……」

そう言葉を呟いた妹紅は、無数の光になって、私を包んだ。
無限に続く闇が、すべて光へと変わったとき、私の意識は途切れた。
その時感じたのは、優しい暖かさと、
今まで私の心に絡み付いていた鎖が千切れたことだけ――



「ん…………」

「やっと起きたか、輝夜」

ほんの少しかすんで見えた視界が、はっきりと世界を映したとき、
私の目が映し出したのは妹紅だった。
そうだ、私は妹紅といつものように殺し合いをして、倒れてしまったんだ。
……どうやら、今まで私は悪い夢を見ていたらしい。
少しだるくて重い体を起こす。

「ずいぶんうなされていたが、
 夢の中でも私と殺し合いをしていたのか?」

「…………」

フッ、と笑いを含めながら妹紅は言う。
普段の冷たい感じは無く、穏やかな雰囲気を漂わせている。
ふと、夢の中でのことを思い出した。
私は妹紅に、本当に酷いことをしたんだ。
なのに、今彼女はただ穏やかに笑みを浮かべている。

「お、おい。どうかしたのか……?」

「……っ、もこおおおぉっ!」

「きゃぁっ!?」

妹紅の胸に飛び込んで、私は泣いた。
今まで泣けなかった分も全部、声も出して思いっきり泣いた。
何故私が泣いてるのか分からなくなるほどに。
止めようと思っても止まらない、夢じゃない本物の涙。
本当なら、泣くべきじゃない私を、妹紅は黙って抱きしめてくれた。

一体、どれほど泣いたのだろうか。
もう疲れてきて、少し眠くなってきた。
涙はもう枯れてきて、喉が痛い。
それに息も苦しくなってきた。
感じるのは、涙の跡に伝わる冷たさと、妹紅の暖かさ。
このまま目を閉じてしまおうか……
そう思ったとき、障子が開く音が耳に届いた。
そっと、月光の差す方へと目を向ける。

「大丈夫ですか、姫様?」

「永琳……!」

永琳は静かに私の傍に歩いてきて、妹紅のすぐ隣に座る。
そして私を、小さな赤ちゃんを抱きかかえるように、静かに抱き上げる。
私の上半身は、完全に永琳の胸の中。
伝わるのは永琳の鼓動と暖かさ。
何か、心が軽くなった気がして、安心できた。
遠い遠い、遥か昔の記憶。
優しかったお母様の胸に抱かれて眠った、懐かしい日々。
ふわりと意識が夢の世界に消えかける。
しかし、あと一歩のところで踏みとどまる。
伝えなくちゃいけない言葉があるから……

「ねぇ、永琳……」

「何ですか、姫……?」

子供をあやすように、軽く背中をぽん、ぽんと叩く永琳。
それが、お母様にそっくりで、懐かしい。

「ずっと……ありがとう」

「どういたしまして……それじゃぁ、おやすみなさい……輝夜」

永琳の顔を見上げた時、優しく微笑むお母様の姿が重なって見えた。
それは、とても懐かしい、色褪せた思い出……

ありがとう、永琳。
本当に、本当に。
貴女の笑顔と言葉が、いつも私を励ましてくれる。
だから、私は今まで生きて、ここにいれた。

これからも、ずっと……
出来ることなら、永遠に隣にいてくれるかしら?


はい、今回はギャグ一切無しの作品です。
ちょっと前に書いていたものを、ちょこちょこ修正したものなので、かなり粗が多いと思います……
話も短く、展開が急すぎるかな……とも。

ともかく、ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

※作者はてゐも優曇華も大好きです。
 今回は損な役回りでしたが、大好きです。
 ホントに好きですからねウサギ万歳
B級不良品ねじ
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コメント



0.580簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
妹紅かっこいいよ妹紅。

そうですよね。輝夜にはえーりんという理解者がいましたが、妹紅はたった一人でいたんですから。

話自体は面白かったですが、展開がさすがに急すぎたので今回はこの点数で。
2.無評価名前が無い程度の能力削除


すいません、点数入れ間違いました。

そこから30引いたのが本来入れたかった点数です。
4.60名前が無い程度の能力削除
確かに展開が急すぎるかな?話の着地点が中途半端な気もしますし…



私は毒舌なてゐとウドンゲも大好きですよ?w
5.60近森削除
うーん、多分蓬莱の薬を作ったのは永琳だと思うんですが…

結構新鮮なお話でした。