Coolier - 新生・東方創想話

風と人形と魔法使いと

2008/05/12 00:00:58
最終更新
サイズ
31.37KB
ページ数
1
閲覧数
1070
評価数
2/22
POINT
900
Rate
8.04
特に後半部にてオリジナル要素の強い表現が含まれます。

そういった要素の嫌いな方、苦手な方は戻ることをお勧めします。


また、この作品は私が以前、プチの方に投稿した

「X'mas in 守矢神社」と「早苗のバレンタイン」の流れを含んでいます。

ですが、話自体は独立した話です。














薄暗い森の中、聞こえる音は木々のざわめきだけ、

そんないつもどおりの平和な森にコンコンッと乾いた音が響く。

森の中には不釣り合いな小奇麗な洋館、その洋館の扉をノックする音だ。

洋館の主はノックの音に気付かないのか、なかなか姿を現そうとしない。

洋館に訪れた少女、早苗は再度ノックするが、やはり反応が無い。

「留守なのかなぁ…」

早苗は残念そうにそう独りごち、神社へと引き返そうとしたが、

突然早苗の視界が真っ暗になった。

「わっ!わっ!?」

完全に油断していた早苗は、両手をばたつかせて激しく混乱しているが、

彼女の背後からは楽しそうな忍び笑いが聞こえてくる。

「ぁ、ぁぁああアリスさん!?」

その声に覚えのあった早苗は、咄嗟にアリスの名前を呼んだ。

すると、忍び笑いが止み、その代わりに凛とした、

でも楽しそうな声が早苗の耳に届く。

「あら、さすが妖怪の山の巫女さんは耳が良いのね。」

そう言ったのは、早苗の予想どおり、アリスだった。

アリスは笑顔のまま早苗に近づくと、彼女の目を隠していた人形をサッと回収した。

「アリスさん、何するんですか?ビックリしたじゃないですか。

 それに私は『妖怪の山の巫女』では無くて、守矢神社の風祝ですよ。」

「そういえば、貴女も一応神様だったわね。」

視界が元に戻った早苗はホッと一息つき、

横に立ちクスクスと笑っているアリスに抗議の声を上げるが、

まるで相手にされていないようだった。

「そんなことより、あんなに簡単に背後を取られるようじゃ

 何時、他の妖怪に襲われても文句言えないわよ?」

「ぅ…」

「神様の肉っておいしいのかしらね?」

「ぅぅ…」

それどころか、痛いところをつかれてアリスに弄られる始末。

早苗はガックリと肩を落とし落ち込んでしまい、

その様子を見てアリスはクスクスと笑っていた。

「まぁ、貴女ぐらい力があれば襲われる前に相手の敵意に気付くとは思うけどね。」

アリスは早苗には聞こえない程度の小声で呟くと、

うなだれている彼女をいつものように家の中に招き入れた。


「で、今日は何の用かしら?」

リビングに着くなり、アリスは早苗に問いかけた。

すると落ち込んでいた早苗も、アリスの問いかけに答えるべく気を取り直して視線を上げた。

「実は…」

そう言って早苗が取り出したのは薄汚れた一体の人形だった。



―――数時間前



ポカポカと暖かな日差しが降り注ぐ、一見平和そうな守矢神社から

ガシャーンッと何かをひっくり返すような音が響いた。

「かぁーなぁーこぉー!今日という今日は絶対に許さないんだから!!」

「ふーん、諏訪子ごときが私に勝てるとでも?」

「あわわわゎゎゎ、お二人とも落ち着いてくださいー!!」

朝食の途中だったのか、床には食べかけの魚やお吸い物などが無残に散乱している。

そんな惨状の中、大声を張り上げた諏訪子が仁王立ちし、

それを座ったまま見上げる神奈子は不敵な笑みを浮かべていた。

「毎朝、毎朝…、私が最後に食べようと残しておいた卵焼きをぉ!!」

「あら、いらないから残してるかと思ってたわ」


ぷちっ


何処からとも無く小気味良い音が静かに鳴った。


「あー!うー!」


仁王立ちしていた諏訪子が掛け声と共に飛び上がり宙返りを決め、

その勢いのまま悠然と座っている神奈子へと飛び掛る。

「ケロちゃんキーック!!」

「なんの、早苗バリア!!」

「ぇ?」

悠然と構えていた神奈子は、横でアタフタと慌てている早苗を引っ掴み、

諏訪子の攻撃が届く直前に自分と場所を入れ替えた。

必然的に早苗の目の前には諏訪子の足が…

「ぶっ!?」

諏訪子の蹴りが見事に決まった。

早苗は勢い良く吹き飛び、頭から襖へと突っ込んでしまう。

その様に諏訪子は大慌てで早苗の元へと駆け寄るが、

早苗はピクピクと痙攣を繰り返すだけであった。

「さ、早苗ぇー!?神奈子、よくも早苗を!!」

「諏訪子が殺ったんじゃない」

「問答無用!早苗の仇ぃ!!」

早苗を蹴り殺した諏訪子は、余裕の表情を崩さない神奈子に、

果敢にも再び攻撃を加えていく。

だが、その攻撃はことごとく紙一重で避けられてしまう…

果たして諏訪子に勝ち目はあるのd


「ぁぅー…、勝手に殺さないでくださいよー」

早苗は押入れに身体半分を突っ込んだ状態で、イタタッと頭を押さえていた。

早苗が突っ込んだこともあり、押入れの中は酷く散らかっていて

何があったのかわからないような有様であった。

そんな散らかった押入れの中で、ふと早苗の目に留まるものが

「あ…ら?」

それは薄汚れた人形

それもかなり古いものだと一目でわかるほどボロボロな人形であった。

「なんでこんなところに人形が?」

幻想郷に来る前に神社の中は一通り大掃除をしたはずで、

その大掃除の時にはこんな人形はなかったはずなのだ。

不思議に思った早苗は人形をそっと手に取り、慎重に押入れから抜け出す。

明るい場所で改めて人形を見てみると、押入れの中で見たときよりも

汚れや傷みがはっきりと見て取れた。

何故か汚れたまま放置するのも気が引けたので、

早苗は押入れから裁縫道具を取り出すと人形の修理を始めようとした。

その時…


「神奈子!覚悟ぉ!!

 ―――神具『洩矢の鉄の輪』―――」

「なんの!!

 ―――神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』―――」


ガシャーンッという激しい音を立てて諏訪子の放った鉄の輪が御柱に弾かれる。

そして、鉄の輪が弾かれたその先には…


「……」

「ぁ、ぁーぅー…」

「ぁ、ぁははは…」

二人の視線の先には顔面で鉄の輪を受け止めた早苗の姿が…


カランッと、鉄の輪が早苗の額から落ち、一瞬の静寂が途切れる。

先程までは鉄の輪で見えなかったが、早苗の表情は笑顔だ。

それも背筋が凍るほどの禍々しい笑顔だ。

((やっちまった…))

二人は心の中でそう思うと、直後に訪れるであろう衝撃に備える。

だが、彼女たちの娘はそこまで甘くは無かった。


「そんな時間を与えると思いますか?

 ―――開海『海が割れる日』×2―――」


守矢神社の二神は衝撃に備える間もなく、額に強烈な一撃を受け伸びてしまった。

早苗はふうっとため息をつくと、伸びている二人に笑顔で声をかける。

「お二人とも、私が帰ってくるまでにちゃ~んっと部屋の掃除を終わらせておいてくださいね。

 もし、終わってなかったら今晩の夕食抜きですからね。」

早苗がそういうと、先程まで伸びていた二人は、額から血を流しながらも、サッと起き上がり

「「わかりました!」」

そう口をそろえて行動を開始した。

その様子に早苗は満足そうに頷くと、人形を手に歩き出す。

「では、アリスさんのところに行ってきますね。」

「「いってらっしゃいませ!!」」

なお、早苗の取り出した裁縫道具は鉄の輪の暴投に巻き込まれて粉砕されていた。

それでも神社の外では、相変わらずポカポカと暖かな日差しが降り注いでいた。



そして、現在へ―――



「というわけなんです。」

早苗の説明にアリスは頭を抑えつつも、

人形のことは気になるので彼女の持ってきた人形を手に取る。

見たところ、特に何の変哲もないただの人形のようだが、

かすかに何か不思議な力を感じるような気もする。

「何かが込められたような不思議な人形ね。」

そうアリスが正直な感想を漏らすと、早苗はキョトンと不思議そうな顔をした。

「そうなんですか?」

自分の持ってきた人形に対して、何の警戒心も無い早苗にアリスは再び頭を押さえるが、

この人形からは悪意のような有害な気配は全く出ていなかったため、あえて指摘するのは止めた。

「まぁ、悪いものじゃ無さそうだから、修理してあげるわ。」

アリスが髪を掻き分けながらそう言うと、早苗はパッと満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!」

早苗の笑顔に一瞬アリスが気を取られたように見えたのは気のせいだろうか?


その後、すぐにアリスが作業を始めたため、

早苗はそのまま作業風景をのんびりと見学することにした。

こうして、一時間ほどおしゃべりを続けていると、あっという間に

人形はかつて見られていたであろう、美しい姿を取り戻した。

「はい、出来たわよ。」

早苗はアリスから修理の終わった人形を受け取ると、クルリと人形を一回転させてみる。

どこから見ても完璧な出来栄えだ。

「凄い…、私が直したらこんな風には出来ないです。

 まるで魔法ですね…」

早苗の口から自然とこぼれた感想に、アリスは顔を真っ赤にした。

「あ、当たり前でしょ!?私は正真正銘、魔法使いなのよ。

 それくらいのこと出来て当然よ!」

「あははっ、そうですよね。アリスさんは素敵な魔法使いでしたよね。」

早苗はアリスの過剰とも思える反応に、気付くことも無く、

ニッコリと笑いアリスの顔を見つめると

「アリスさん、ありがとうございます。」

ボンッとなにかが噴出すような音がした気がした。

その直後、アリスはサッと踵を返すとキッチンの方へと向かっていく。

「そ、そういえば、お客さんにお茶すら出して無かったわね。

 今から用意するから、ちょっと待ってなさい。」

「はい、わかりました。」


純粋な笑顔から逃れるようにキッチンに向かったアリスは、顔を真っ赤に染めながらボソリと呟く。

「なんであの子は…あんなに綺麗なんだろう…

 ホント、こっちが恥ずかしくなってくる。」

そう呟いた直後、アリスは頭を抱えて座り込む。

どうやら、自分の発言がかなり恥ずかしかったようだ…。


一方、早苗はアリスに修理してもらった人形をじっくりと観察していた。

見れば見るほど、惹きこまれるような、そんな不思議な気配と、

何か懐かしいような、違和感のある気配がごちゃ混ぜになって感じられるのだ。

「この人形…、一体なんなんだろう…。」

そして人形を頭上に持ち上げ、何気なくその瞳を覗き込んだ瞬間…



「お待たせ。ちょうど昨日焼いたスコーンが…、早苗?」

しばらくして、再起動したアリスがお茶を持って戻ってくると早苗が机に突っ伏して倒れていた。

慌てて早苗を抱き起こすが全く反応が無い。

一体何があったのか?

一瞬、魔理沙が突然やってきて何かしたのかとも考えたが、

早苗が声すら上げることなくやられるわけが無い。

それに万が一、魔理沙の仕業だったとしても、魔理沙ならば堂々とこの場に残っているはずだ。

とりあえず、様子をベットに寝かせようと早苗をそっと抱き上げた。

すると、何処からとも無く早苗の声が聞こえたような気がしたが、

早苗は気を失ったままで変わった様子は無い。

「気のせい…?」

気のせいかと思い、そのまま歩き出すと

「…リスさ…、アリスさん!!」

「何!?」

今度はハッキリと、それも背後から早苗の声が聞こえ、

驚いたアリスは早苗を落としてしまう。


「あ゛ー!!アリスさん!?私の身体!!」

「!???」


確かに聞き間違いではなく早苗の声はする。

しかし、早苗はアリスの目のまで気を失ったままだ。

アリスがキョロキョロと辺りを見回していると、

机の下で何かが動いている…?

何か?いや、さっき修理した人形だ。

人形はトコトコとアリスのそばまで駆け寄ると、大声を張り上げた。

「アリスさん!!私の身体になんてことしてくれるんですか!?」

「早苗!?」

アリスの足元で両手を振り上げて抗議している人形、

その人形は確かに早苗の声でしゃべっている。

「さ、早苗なの?」

「はい、そうです」

「人形…よね…?」

「…人形ですね、…身体は」

突然の出来事に、アリスは本気で気絶してしまいたい衝動に駆られた。


アリスは自分で入れたお茶を飲みながら、

テーブルの上に腰掛けた早苗、もとい『早苗入り人形』の話を聞いていた。

「はぁ…、話をまとめると、

 私がお茶を入れに行っている間に、人形を見ていたら突然人形に取り込まれた。

 そういう事でいいかしら?」

「端的に話すとそうなります…」

端的も何も無いだろうと、アリスは大きくため息をついた。

「憑き物を払うのも巫女の仕事の一つだと聞いていたのだけど…

 貴女自身が憑き物になってしまうなんてねぇ…」

「あの、だから、私は…いえ、なんでもないです」

恐らく早苗は、巫女ではなく風祝だと言いたかったのだろうが、

現状を見る限りでは、そんなことを言ったところで、かえって惨めだった。

アリスは、これで何度目になるだろうか、大きなため息をつくと、

『早苗入り人形』を持ち上げると、家の外へに向かって歩き出した。

「ぇ?アリスさん?」

「とりあえず、霊夢のところに行ってみましょう。

 憑き物は巫女の仕事なんだし。」

早苗の身体をベットの中に残したまま、二人は博麗神社に向けて飛び立った。

早苗の不安とアリスの戸惑いをよそに、相変わらず森の上では太陽がのんびりと輝いていた。



「あー…、無理ね。」

暖かな日差しの下でのんびりとお茶を飲んでいた霊夢は即答した。

「ちょっと、霊夢!?少しは考えてから言いなさいよ!

 早苗がかなり精神的にダメージ負ってるじゃない!!」

「ぁぅー…、一生このまま…」

人形の姿なのでよくわからないが、目を潤ませガックリとうな垂れる早苗。

アリスはアリスで、霊夢のいい加減な態度に大声で抗議する。

そんな真逆の二人の態度に霊夢はウンザリしつつも一つ提案する。

「じゃぁ、試しに祓ってみる?早苗のほうが消えると思うけど。」

「…全力で遠慮しておきます。」

霊夢の提案に早苗はもう土下座状態になっていた。

霊夢でも手に負えない、プラス早苗のそんな状態に、

アリスは本日二度目の気絶したい衝動に駆られた。

「ぁぁ、一つだけ方法があったわ。」

二人が完全に諦めていたところに霊夢がボソリ呟く。

その呟きに二人はパッと光を見出した…が、

霊夢がアリスに手渡したのは一本の針

「人形自体を壊せば早苗の身体に精神が帰るかもしれないわ。

 成功率はあんまり高くないだろうけど。」

「「そんなことできるか!!」」



博麗神社で何の手がかりも手に入らなかった二人は、今度は紅魔館の図書館へとやってきた。

ちなみに、紅魔館に入る時に早苗が若干抵抗したが、

鞄に押し込まれて半ばムリヤリ連れ込まれていた。

図書館の中ではパチュリーと小悪魔が相変わらず黙々と本を読んでいたが、

アリスの登場にパチュリーは読んでいた本から視線を離した。

「あら、いらっしゃい。」

「こんにちわ、パチュリー。」

アリスは穏やかな表情でパチュリーに近寄り、パチュリーもアリスを微笑んで迎えた。

「アリス、今日は何のようで来たのかしら?」

「ちょっと、あなたに相談したいことがあって…ね。」

「相談…?」

一体何があったのだろうか、そうパチュリーが首をかしげた時、

アリスの鞄がガサゴソと蠢き、中から勢い良く人形、『早苗入り人形』が顔を出した。

「ぁぅー、いくら人形の姿とはいえ鞄の中は息苦しいです…。」

「…人形?」

パチュリーは鞄から顔を出した『早苗入り人形』を目をパチクリさせて見つめ、

早苗はその視線に戸惑うように目を泳がせたあと、アリスの方を不安そうに見上げた。

「パチュリー、紹介するわ。

 今はこんな人形の姿をしてるけど、彼女は東風谷 早苗、

 妖怪の山に越してきた人間よ。」

「は、始めまして、守矢神社の風祝の早苗です。」

「ぁぁ、貴女がうちのお嬢様たちが噂していた人間ね。」

パチュリーは何か納得したように、もう一度まじまじと『早苗入り人形』を見つめた。

「ふむ…、これは興味深い症状ね。ぁ、自己紹介がまだだったわね。

 私はパチュリー・ノーレッジ、魔女よ。」

軽く会釈をしてパチュリーは自己紹介するが、

早苗は『興味深い症状』という単語が気になって仕方が無い様子であった。

その期待に応えるかのようにパチュリーは自信たっぷりな表情でアリスの方を見つめる。

「つまり、精神が丸ごと人形の中に入ってしまって元に戻れない。

 そう言うことで良いのかしら?」

「えぇ、理解が早くて助かるわ。」

「わかったわ。面白い症状だし、調べてみましょう。」

好奇心に火がついたパチュリーは、気ままに本を読んでいた小悪魔、お茶を運んできた妖精メイド、

ついには咲夜さえ動員して図書館中の本をくまなく調べ始めた。

それはもう早苗はもちろんのこと、アリスでさえ呆気に取られるほど徹底的な人海戦術だった。


数時間後…

図書館のかなりの範囲を調べ上げたが、これといった情報は何一つ得られなかった。

さすがのパチュリーも好奇心より疲労の色が濃くなり、椅子にぐったりともたれかかり、

アリスと早苗も同様に疲れ果て、ソファーに横になっていた。

そんな中、咲夜だけが図書館のあちこちで倒れている妖精たちを医務室に運びつつ作業を続けていた。

「ねぇ、パチュリー…」

「…なにかしら?」

アリスはそんなデタラメなメイド長を横目に何気なく口を開く。

パチュリーもぐったりしつつもデタラメなメイド長が次々と運んでくる書物に目を通していく。

「これも一種の自律人形よね?」

「確かにそうね。」

「……」

「……」

アリスとパチュリー、二人の間に沈黙が走り、揃って早苗の方をじっと見つめた。

それまでぐったりとしていた早苗は何か寒気にも似た感覚に襲われる。

「なにか嫌な予感が……」

早苗がその寒気から逃れようと後ずさった。

その瞬間、それまで死んだ魚のような目だったアリスの目に光が灯る。

「早苗、私の研究のために犠牲になりなさい!!」

早苗は咄嗟に身を翻し、ソファーから飛び降り…る直前に、ガシッとアリスに捕まった。

アリスはさっきまでの疲労は何処へやら、非常に楽しそうな表情で早苗を見つめる。

「ふふふ…」

「私も参加しても良いかしら?」

楽しそうに笑うアリスの背後には、いつの間に復活したのか

パチュリーも不敵な笑みを浮かべて佇んでいる。

そして、ガタガタと震える早苗に向かって二人の手が…

「きゃぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ…」



数十分後…

「結局、外部からでは何もわからなかったわね。」

「そうね、残念だけどこれ以上は人形自体を分解しないと調べようが無いわね。」

「汚された…人形だけど汚された…」

アリスとパチュリーは何かやり遂げた感のある清々しい表情をしているが、

早苗の方は崩れた服も、乱れた髪も直すことも出来ずに、ただただ、呆然としていた。

「そういえば、無名の丘の鈴蘭畑にも自律人形がいたわね。

 彼女に聞けば何かわかるんじゃないかしら?」

そんな早苗の様子など気にすることもなく、パチュリーがアリスに提案する。

確かに噂に聞く『彼女』は自分でものを考え動くことの出来る人形らしい。

「そうね。ここまで来たのだし、行ってみましょうか」

アリスはパチュリーに礼を言うと真っ白になっている早苗を持ち上げると、

サッと服や髪を一瞬で整えた。

呆然としていた早苗もその手際の良さには驚き、気を取り戻す結果となった。

「じゃあ、行きましょうか、早苗。」

「ぁ、はい…」

ついさっき、とんでもないことをされたはずなのに、

早苗はアリスの優しげな笑顔を見ると、何故か心が落ち着いていった。

これも、魔法使いが持つ魔力なのだろうか?

不思議な思いを感じつつ、アリスに連れられ紅魔館の外へ出ると、

来たときには、まだ高い位置にあった太陽も西の空へと沈み始めていた。

ここから無名の丘へはそれなりの距離がある。

今から向かえば確実に日没を迎えてしまうだろう。

しかしアリスは、よしっ気合を入れて飛び立った。

「早苗も早く元に戻りたいでしょ?あと少しだけ頑張りましょ。」

「は、はい!」

早苗にとってアリスの笑顔はとても心強いものだった。



アリスたちが図書館を出てしばらく経った後、

咲夜がパチュリーの元に一冊の本を持ってきた。

「咲夜…、貴女まだ探してたのね…」

「ええ、止めろとの指示は受けませんでしたので。」

このメイド長はどこまでタフなんだと思いつつ、

パチュリーは本を受け取ると、そのまま咲夜を下がらせた。

そして、何気なく咲夜の持ってきた本に目を通したのだが、

読み進めていくうちにパチュリーの顔色が徐々に変わっていく。

「まさか…、確かにそれならば、納得できる。でも、証拠が…」

ぶつぶつと思考を張り巡らしながらも、パチュリーは外出の準備を始めた。

と、そこへ先程下がらせたばかりの咲夜が再びやってきた。

パチュリーはちょうど良かったと咲夜に出かける旨を伝えようとしたが、

咲夜の背後には霊夢の姿が、さらにその霊夢の後ろには…

「…なるほどね。」

「パチュリー様?お客さまですよ?」

「ええ、わかってるわ。後ろの三人の用件もね。」

咲夜は何のことだろうと、首を捻るが、その背後に控える三人には

その一言だけで十分だったようだ。

「アリスは無名の丘に向かったわ。急いで追いかけましょう。」



西日が沈み辺りに夜の静寂が広がり始めた頃、

アリスと『早苗入り人形』は鈴蘭畑へと到着した。

噂どうりならばココに毒で動いているという人形の妖怪がいるはずだ。

アリスはゆっくりと、そして慎重に鈴蘭畑へと降り立った。

「さて、だいぶ暗くなってしまったけど、噂の『彼女』はどこにいるのかしらね。」

アリスが辺りをキョロキョロと覗っていると、

鞄の中に納まっていた『早苗入り人形』がヒョイッと顔を出した。

「早苗は何か感じる?」

「いいえ、特にこれといった気配は…」

辺り一面はまさに鈴蘭一色。

ここまで鈴蘭ばかりだと、かえって気味が悪いくらいだ。

そうしてしばらく辺り覗っていると、ヒュウッと一陣の風が通り過ぎ、

『早苗入り人形』が何気なく空を見上げる。

「…アリスさん上から何か来ます!!」

「ぇ!?」

アリスは『早苗入り人形』の忠告で、咄嗟に身を翻しその場を離れた。

すると、次の瞬間にはアリスのいた場所に無数の弾幕が突き刺さり地面を抉っていた。

「あれ?避けられちゃった?」

そして、フワフワと抉れた地面に降り立ったのは、

小さなスイートポイズン、メディスン・メランコリーだ。

「こんな所に人間がいたら襲ってくれって言ってるようなものだよ。

 それにしても、よくかわせたね。完全に不意をついたと思ったのに。」

メディスンは残念そうに、でも楽しそうに、アリスに話しかける。

一方アリスは、流れるでる冷や汗を落ち着かせ、メディスンと向かい合った。

「貴女が噂のメディスン・メランコリーかしら?」

「噂かどうか知らないけどメディスンは私よ。」

「今日は貴女にぃ!?」

アリスはそのまま話を続けようとするが、メディスンは話をする気など更々無く、

問答無用でアリスに向けて弾幕を展開する。

その弾幕は隙間だらけで避けることなど簡単であったが、

アリスはあえてシールドを展開しその弾幕を全て受けきった。

「あれれ?」

その様子にメディスンが驚きの声を上げる。

アリスの思惑通りだ。

「一つ訂正させてもらうわね。

 私は人間ではないわ。魔法使いよ。」

「魔法使い?」

アリスが人間ではないとわかると、メディスンは途端につまらなさそうな表情になった。

彼女にとって敵とは人間で、人間に攻撃するのが楽しみになっていたのであろう。

「で、話を戻すけれど、今日は貴女に聞きたいことがあって来たのよ。」

「一体なによー。もう、つまんないなぁ…」

「この子の症状について貴女の意見が聞きたいの。」

そう言って、アリスは鞄から顔だけを出していた『早苗入り人形』をすっと取り出す。

「は、始めまして。東風谷 早苗といいます。」

「しゃべった!?」

『早苗入り人形』がメディスンに向けて会釈をすると、

途端にメディスンは表情を変えて二人のそばに駆け寄ってくる。

「ねぇ、今あなたがしゃべったのよね?」

「ぇ、ぇぇ、そうです…」

「やった!やったよ、スーさん!私以外にも仲間がいたんだ!!」

「ぇ?ぇ??えっと、アリスさん……」

メディスンは鈴蘭の妖精と共に小躍りをはじめ、『早苗入り人形』は戸惑いアリスを見つめる。

今日だけで何度目になるだろうか、アリスは頭を抑え、メディスンを諭すように口を開いた。

「ちょっと貴女…、落ち着いて話を聞いてくれないかしら?この子は…」

「あれ?そういえば…」

アリスが口を開いたことで、メディスンの視線がアリスへと向いた。

メディスンは何かを思い出すようにアリスの顔をじっと見つめ、

そして、段々と表情を曇らせていく。

「ねぇ、あなたの名前は?」

「私?私はアリスよ。」

アリスが自分の名を名乗ると同時に、メディスンは身を翻して二人から距離をとった。

彼女の目には、明らかに敵意が宿っている。

警戒しつつもアリスは、メディスンに声をかけようとするが、

それを遮るようにメディスンは再び弾幕を展開した。

「アリス…、兎から聞いたことがある。アリスって名前の極悪な魔法使いがいるって…

 お前は、人形遣いのお前は私の敵だ!!」

「くっ!?」

メディスンは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

その攻撃は先程のようにシールドで受けきることが出来る程度の威力がほとんどであったが、

メディスンの攻撃は弾幕だけではない。

アリスは弾幕を避けつつ、常に移動していくと、

その移動したあとをなぞるように、暗くてわかりにくいが、

メディスンの操る毒の霧が動いていく。

「ちょっと待ちなさい!私は貴女に敵対する意思は無いわ!!」

「メ、メディスンさん止めてください!」

防御に徹しつつ、なんとかメディスンを説得しようと

二人が声を上げるが、メディスンは全く聞く耳を持たない。

「待っててね。今、その人形遣いから解放してあげるから!!」

メディスンの頭の中には、アリスの腕の中にいるしゃべる人形、

『早苗入り人形』を助け出す、そのことしかなかった。

「こうなったら、仕方が無いわね…」

このまま逃げ回っていては埒が明かない、そう踏んだアリスは、

鞄の中から愛用の人形たちを周囲に展開する。

「悪く思わないでね。」

アリスが指示すると、人形たちが一斉にメディスンめがけて襲い掛かった。

しかし、その行為が仇となった。

「アリスさん、危ない!!」

『早苗入り人形』が咄嗟に声を上げるが、既に手遅れ、

アリスは気付かない間に毒の霧に完全に包囲されていた。

「しまった!?」

毒の霧に飲み込まれたアリスは力を失い、そのまま鈴蘭畑へと落下していく。

それと同時に、魔力の供給の絶たれた人形たちもメディスンに届くことなく、

次々と鈴蘭畑へと沈んでいく。

「アリスさん!?アリスさん!!」

「ぐっ…ぅぅ……」

苦しそうに喉を押さえるアリス、

必死にアリスにすがりつく『早苗入り人形』、

そして、メディスンが捕らえた獲物にとどめを刺そうとゆっくりと歩み寄ってくる。

「死んじゃえ!人形遣い!!」

メディスンは鋭利な刃物を想像させる手刀を、アリスめがけて振り下ろす。


「「アリスさん!!」」


アリスには早苗が自分を呼ぶ声がぶれて聞こえた。

もうそこまで毒が進行しているのかと諦めにも似た心境で、

メディスンの手刀が自分の身に迫ってくるのを眺めていた。


「―――奇跡『神の風』―――」


メディスンの手刀がアリスの身に届く前に突風が吹きぬけ、

毒の霧もろともメディスンを吹き飛ばした。

一体何が起きたのかと戸惑うアリスの前に降り立ったのは、東風谷 早苗。

人形の姿ではない、本来の人間の姿をした早苗だった。

「アリスさん、大丈夫ですか?」

「さ、早苗?」

「ぇ?ぇ!?」

驚いているのはアリスだけではない。

アリスの傍らには、ちゃんと人形の姿のままの早苗もいるのだ。

アリスよりも彼女の混乱の方が大きいだろう。

「もーう!!なんで邪魔するのよ!!」

しかし、二人に混乱しているヒマなどない。

吹き飛びはしたものの、メディスンはまだ戦闘可能なのだ。

「お前も一緒に死んじゃえ!!」

メディスンは再び、弾幕と毒の霧を展開する。

早苗は防戦の構えを取るが、直後、ガクリッと膝を折り、その場に倒れかける。

早苗は既に疲労困憊の状態、これ以上の戦闘を行うだけの余力がないのだ。

突然現れた助っ人に一瞬怯みはしたものの、メディスンは助っ人の様子に

自分の勝利を確信が、助っ人は何も一人とは限らない。

倒れかけた早苗の前に降り立ったのは紅白の巫女、霊夢。

さらに霊夢に続くようにパチュリーもアリスの元へと降り立つ。

「全く、面倒かけさせるわね!

 ―――夢符『二重結界』―――」

文句を言いつつも展開した霊夢の結界によって、弾幕はもちろん、

毒の霧さえも結界内にいる5人の元には届かない。

「次から次へと!一体なんなのよ!!」

メディスンは次々と現れる邪魔者に、焦りと怒りを込めて吼えた。

そのメディスンの背後に更に一つの人影が現れる。

静かな、でも圧倒的な存在感を持つその気配に、メディスンは恐る恐る振り返る。

そこにいたのは、土着神の頂点、洩矢 諏訪子だ。

諏訪子がこの場にいる、ただそれだけで、鈴蘭がざわざわと揺らめき、大気が震えた。

メディスンは自分でも気付かないうちにガタガタと身を震わせていた。

「人形さん、うちの早苗のお友達がお世話になったみたいで…

 覚悟しなさい!!―――土着神『ケロち 」


「待ってください!!」


諏訪子が右手を天高く構えた時、制止の声がかかった。

制止の声を上げたのは『早苗入り人形』だった。

彼女は、諏訪子たちが何故ココにいるのか、

そしてなにより、何故人間の姿をした早苗がいるのか、激しく混乱した状態だ。

それにも関わらず、必死に気を保ち声を上げている。

「諏訪子様、メディスンさんに攻撃する必要はありません!!」

「ぇ?あら?あーうー?」

突然の申し出に、諏訪子の右手が所在なさげにピクピクと動き、

メディスンはその声にガタガタと震えながらも『早苗入り人形』の方を見た。

『早苗入り人形』の方を見るということは自然とアリスとも目が合うことになる。

アリスと目が合ったメディスンはビクッと震え視線をそらした。

アリスがしっかりとメディスンを見つめていたのだ。

「私からも彼女には害を与えないでと、お願いす…ゲホッ」

「アリス、まだ解毒中だからしゃべらないで。」

「…もう大丈夫よ。ありがとう、パチュリー。」

アリスはパチュリーに手伝ってもらいながらゆっくりと立ち上がり、

諏訪子とメディスンの間にくると、もう一度言った。

「私は彼女と争いに来たわけじゃない。

 私たちが彼女の住み家にきただけで、彼女に罪は無いわ。

 だよね、早苗。」

アリスがスッと『早苗入り人形』の方を見ると、彼女も力強く頷き

「はいっ。」

と、そう答えた。

さすがの諏訪子もそこまで言われてはどうすることも出来ず、

相変わらず右手を所在無さげに上げたまま、引き下がった。

そして、アリスはメディスンの方に向き直ると、スッと手を伸ばした。

「ごめんなさいね。貴女の住処を荒らしてしまって。」

アリスの優しげ笑顔に、恐る恐るだがメディスンは差し出された手を握った。

握った手は優しい暖かさが篭っていて、不思議と心地よかった。

メディスンはそのまま立ち上がると、複雑な気持ちのまま俯いていた。

アリスは、そんなメディスンを責めることなく微笑むと、

魔力の供給が途切れていた人形たちを一つ一つ大切そうに回収していく。

そして、最後に『早苗入り人形』をスッと持ち上げると、

助けに現れた四人を見回した。

「さぁ、どういうことか説明してもらえるかしら?」

「私もどういうことなのか詳しく知りたいです。

 どうして、私が動いているのか…」

アリスと『早苗入り人形』、二人が鋭い眼つきで問いかけると、

諏訪子が口を開いた。


「どこから話そうか…、まずはわかりやすく結論からにしようか。

 ココにいる人の姿をした早苗も、そっちの人形の姿をした早苗も、

 どちらも早苗本人であることは間違いないよ。」

「私も早苗本人?」

「そう、人形の早苗は…早苗は…」

説明を始めたのはいいが、諏訪子はすぐに頭を抱えて悩み始めてしまた。

どうやら、言葉が浮かばないらしい。

そこで、ハァ、とため息をついたパチュリーが助け舟を出した。

「簡単に言うと、その人形は神を降ろすための道具なのよ。」

「神を降ろすための…って!?」

パチュリーの言葉に『早苗入り人形』がビクリと反応した。

「気付いたみたいね。つまり、その人形の能力は精神を写し取る能力。

 写し取った精神を元に自己を形成し行動できる。一種の式神みたいなものね。

 そういうことで良いかしら、諏訪子さん?」

「うん?そうそう!!」

フォローしてもらったことで油断していた諏訪子は慌てて話を繋げる。

「あと、付け足すと、精神を写し取った際に普通は術者が霊力を込めて

 霊力の分だけ活動できるようにするんだけど、今回は早苗のミス…というより事故だね。

 事故のせいで、早苗が持ってる霊力のほぼ全てが人形に吸い取られてしまったのよ。」


事の顛末はこうだ。

早苗はアリス宅で人形を見ているときに誤って人形の能力を起動してしまった。

その能力を制御することの出来ない早苗は精神を写し取られ、

霊力もほぼ全て注ぎ込んでしまい、霊力が尽きた反動で疲れ果て眠ってしまった。

そして、目覚めた人形は眠っている自分を見て人形に取り込まれしまった錯覚する。


「つまり…私は早苗の精神をコピーしただけの、ただの人形ということですね。」

「精神は早苗そのものだよ。身体は…そのとおり人形だけど。」

話を聞き、落ち込んでしまった『早苗入り人形』に対して、

少し戸惑いながらも諏訪子が答えた。

「それで諏訪子様、私は霊力が尽きるまでずっとこのままなんですか?」

「術者が望めば、人形内に残っている霊力を全て解放して止めることは出来るよ…」

「術者が望めば・・・ですか。」

術者といわれて、自然と全員の視線が霊夢の肩を借りて立っている早苗に向く。

しばらく休んだことで多少は息が整ってきた早苗は『早苗入り人形』を持つアリスの元へと歩み寄る。

「なんて言えばいいのかな?どうしたいかな、もう一人の私…」

「…答えは一つしかないよ。私ならわかってるでしょ。」

「そっか…。アリスさん、彼女を私に。」

アリスは二人のやり取りから、沈んだ表情をしていた。

「本当に良いの?」

アリスは早苗、そして『早苗入り人形』を交互に見つめた。

すると、二人は同時にコクリと頷いた。

それなら仕方が無いと、アリスは早苗に『早苗入り人形』を手渡そうとする。

その時、それまで黙っていたメディスンが、訳もわからず口を開いた。

「ちょっと待って…。もしかして、その子を止めちゃうつもり?」

「……」

メディスンの問いかけに誰も答えない。

「止めちゃうの…。」

「メディスン、この子は元々」

早苗に歩み寄るメディスンにアリスが声をかけるが、

メディスンはそれを振り切り早苗に向かっていく。

「そんなこと絶対に認めない!絶対にやらせないから!!」

「……」

その剣幕に早苗は押され気味になるが、『早苗入り人形』はそうではなかった。

「メディスンさん、ありがとうございます。

 でも、これは私が望んでることなんです。だから…」

「望んでるって!?……そんなの卑怯だよ。

 あなたは捨てれた訳でもないのに…

 こんなにたくさん友達がいるのに!!」

メディスンの叫びが夜の空に響き渡るが、すぐに静寂が戻ってくる。

嫌な静寂だった。

誰もが動くことも話すことも出来ないような嫌な…


「わかりました。」


その静寂を破ったのは早苗だった。

俯いていたメディスンはその声に顔を上げる。

顔を上げた先には優しく微笑む早苗の姿があった。

「この子を…もう一人の私を止めるのは止めにします。」

「ホントに!?」

メディスンの表情は一気に晴れるが、他の四人、

そして何より、『早苗入り人形』が驚愕の表情をする。

「但し、一つだけ条件があります。」

「条件?」

「メディスンさん、この子と、そして私たちと友達になりましょう。」

「ぇ?」

その条件に、今度はメディスンが驚愕の表情を浮かべる。

「皆さん、良いですよね?」

早苗の突然の提案に呆気に取られていた四人はハッとして次々と口を開いていく。

「まぁ、私は遊び相手が増える分には大歓迎だけどね。」

「そうね、ココに来れば実験の材料が集まりやすそうね…」

「ぁー…私は仕事柄、友達とかはー…。まぁ、別に気にしないから良いけど。」

「私は是非とも仲良くなりたいわね。貴女が私の研究の最終目標でもあるのだし。」

四人に口から出たのは肯定の言葉。

そして、アリスが腕の中に納まっている『早苗入り人形』に声をかける。

「貴女はどうなのかしら?」

「私は……

 私は…お役に立てるのなら是非!」

最後に残ったのはメディスンのみ…

彼女は早苗を、諏訪子を、パチュリーを、霊夢を、アリスを…

最後に『早苗入り人形』を見つめる。


「よろしくお願いします。」


笑顔という名の素敵な花が咲いた。








翌日 守矢神社にて



「えーっと、名前どうしましょうか?」

「名前?」

「だって、早苗が二人いては困るでしょう?」

「確かにそうね。」

「というか、そんなことのために私を呼んだの?」

「そうですけど…」

「…帰るわ。」

「ぁー、霊夢待ってくださいー」

「早苗、霊夢は放っておきなさい。」

「ぅぅー、パチュリーさんも興味ないって来ないし…」

「まぁ、私たちだけで考えましょう。」

「そうですね。ぁ、神奈子様に諏訪子様は参加していただかなくて結構です。」

「「なに!?」」

「だって、とんでもない名前付けそうですもの。」

「……まぁ、ありえなくないね。」

「ぁーぅー」

「では、考えましょうか。」

  ・

  ・

  ・

「で、結局どれにするの?」

「そうですね。最後は本人に決めてもらいましょう。」

「私が決めるんですか!?

 …ぅー、そうですね。では、貴女の考えた……」


アリサナな感じの話にするはずが、いつの間にか全く違うところへと向かっていました。



一体何処で道を間違えたのだろう…





5/12 19時 文頭の補足追加



05/12 11:06の名無しさん

まず、ありがとうございます と、お礼を

話の展開が急すぎるということでしたが、「今回は短く楽な話に」という考えが頭にあったので、

短くしよう短くしようと、努力してしまい展開が急になってしまったかもしれません…

あと、最初の方のドタバタが一番書きたかった所だったりするので

やっぱり後半に進むつれて「何処で間違えたんだろう」と…



05/12 13:14の名無しさん

何故アリスなのか?と、突っ込まれるとは予想外でした…

私は以前、二つほどアリスと早苗をメインにしたSSを投稿しています。

なので、私の中で二人の友人関係というのが独自に出来上がってしまっており、

完全にその流れで作ってしまいました。

また、話の展開が閃いた感じがするとのことですが、そのとおり、閃きで書いてます。

一応、閃いたネタをプロットの形式にしていますが、制作の途中で変更や付け足しはかなり行っています。

それに、二人の話は自分も楽しく作りたいと思ってやっているので、

閃きとかその辺りは大目に見ていただけると助かります…
緋色
http://hiiro1127.jugem.jp/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.800簡易評価
12.80名前が無い程度の能力削除
おぉ、緋色さんの新作が来てる!と朝から嬉しい思いで拝読させていただきましたw

そうですね、今回はとても展開を急ぎすぎた感じがします。

何部かに分けて、もっと一つ一つのシーンを長くしたり、もっと伏線を張り巡らした方が良かったのではないでしょうか。

最後の方に進むにつれて何かと唐突な感じがしました。

でも最初の方の神社風景はかなり面白かったですw 顔面キャッチに定評のある早苗w

そしてアリサナの姉妹のようなやりとりがとてもイイ!この二人が好きな私としてはとても有り難かったです。次回作もきたいしてますんで!
13.20名前が無い程度の能力削除
回想シーンからアリスの所へ行った深い理由がよくわかりません。人形=アリスなのは

わかりますが、ドタバタコメディに意味はあったのでしょうか。

話全体に言える事ですが、理由が所々抜けていると思います。展開が全て閃いた感がし、

急ぎすぎという印象を受けました。

折角早苗精神が人形に入ったのだからもっといろいろさせてもいいと思います。