Coolier - 新生・東方創想話

八雲藍ド

2008/05/08 03:26:36
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天気良く、気持ちも良く起きれた朝。こんな日はとても気分がいい。

結界の見回りを放り出して、少し里を巡ってくるか。

怠惰な巫女が無神経に毎日を送って、私があくせくと見回りをするのもおかしな話だ。

たまにはサボタージュもいいだろう。



一人での一汁一菜の簡単な朝食をすませた私は、少しの洗濯と軽い掃除をして、

一応変化の術を施し、まだ新鮮なものの多い午前に人里へと向かった。

日も高くなり始め、村は活気付いて往来は絶えなかった。行きかう人々と川沿いに生えた柳を見つつ

私は商店の集まるほうへ歩を進めた。こんなときはよくわかるのだ、私は紫様にお仕えしていて、

少し変わった生活を送っているが、何のことは無い、彼らと一緒なのだと。

結局のところ、その大勢の一人一人の一員であることには変わりないのだ。

しばらく歩くと、いつもの馴染みの店が少し様子を変えていたことがわかった。


「あら、豆腐が安いのね?」

「えぇ、最近は型も人手も増やしたんでね、この通り」

「じゃあ一丁くださいな」

「毎度、へへ……油揚げ、おまけだよ」

「あ、どうもありがとう」


「まてえええええええええ!!」


静かな朝の豆腐及び大豆製品専門店に、似つかわしくない叫び声が響いた。


「正体を現せこの化生めが!」

「ありゃ、見つかっちゃったか」

「当たり前だ!外来の商人以外、この村に見知らぬ顔など居ないわ!

 第一なんだその尻尾は……毎度毎度、人を馬鹿にしているのか貴様は」


そういわれて尻を見ると、尻尾が一本消えていなかったようで、裾からはみ出ていた。

紫様にまさか変化の術を習うわけもなし、そして昔は割かし堂々と戦っていたので

さしたる必要もなかったから、いまだにどうも変化は苦手だ。私は煙と共に元の姿に戻った。

山の狸さんに聞いたところによると、葉っぱと煙は欠かせないらしいのだ。

妖力は節約したいのだが……


「貴様、何度言ったらわかるんだ、勝手に人里に入ってくるんじゃない!」

「まあ、そうカリカリするもんじゃない。私はそう、毎度のことだが、

 少し買い物に来ているだけなんだ。豆腐とか野菜とか、煎餅とかな」

「そういう問題ではない!無断でふらふら妖怪どもが来るのに村のものが慣れるのがまずいんだ!」

「警戒が薄れると……か、でも、そこまで責任はもてないね」

「こら待て!とっちめて狐汁にしてやる!!」

「じゃあ、またいらしてください、らんちゃん」

「お前も一目でヤツだとわかるだろう、これからは追っ払えよ!」

「わかりました、慧音様、いってらっしゃい」



ふふふ、侮ってもらっては困る、狐は賢いのだ。私は狐ではないが。

村は狭く隠れるには大変だが、私の頭脳をもってすれば逃げるなどたやすい。

素早く角の漬物屋の空き樽に隠れた。どうやらやり過ごせたようだ。


「何してんのよあんた……」


間の悪いことに漬物屋には霊夢が居たようだ。

樽に潜んで頭をきょろきょろしているところで目が合った。

我ながら中々に、第三者視点で見ると滑稽な光景だった。

まあいい、樽を抜け出してまた私は路地へ戻った。

紫様に漏らさないでくれるといいが。



結局、豆腐と野菜を少し買って私は帰路についた。そうだ、途中で橙のところに寄るか。

――緑はいいな、あれがそれぞれ何の木かは、近づいてよく見ればわかるのかもしれないが、

それぞれが何かわからないままでも、十分その沢山の色と形を合わせた緑で

私の気分をすがすがしくしてくれる。お、あそこには花が沢山生えているじゃないか。

去年まではあんなところに花が沢山咲いていたりしただろうか?

ゆっくりとそこへ近づいていくと――


「――あら」

「ん?」

「……(やっばい幽香だうかつだったどうしようっていうか逃げる隙を探さないと)」

「あらあら(えーと、紫の使いだっけ、良く覚えてない……どう対応したらいいんだろ)」

「ご、ごきげんよう(はっ!何挨拶しているんだ私!無言で飛び去ればよかったのにっ!!)」

「ふふ、ええ、今日は機嫌がいいのよ(いやとりあえずいつも通りいじめにかかるか)」

「それはよかった、私も今日はお日様が気持ちよくて(まずいなあスペルカードとかないよ今)」

「たった今貴女が来てくれたから二百度傾いたけどね(めんどくさいなあ、紫が出てきたりしたら)」

「この野菜で手を打たないか?(なんて世の中そうそう上手くはいかないのよね)」

「いいわよ(ああーめんどくさい、何か水が入って別れられないかしら)」

「本当か!?(うわー隙がないよどうしたらいいんだろ霊夢助けてよ妖怪退治が仕事でしょ)」

「なわけないでしょ畜生が(もー結局やるハメに、後で報復とか来ないでしょうねー)」



そして現在、頭を踏まれて私は地面と接吻している。ロックな光景が広がっていることだろう。


「どうしたの、なにもできない?(いじめ甲斐もない。これで復讐しに来たら釣り合わないわよ)」

「ふふっ、舐めて貰っては困る。私はその辺の妖怪とは色々と違くってよ(どうしよう……)」

「へぇ……(スペルカードも持たずに何言ってんだこいつ……ぐりぐりしちゃる)」


そのとき、慣れ親しんだ声が私の耳に響いた。


「藍さまっ!」

「橙!こっちにくるんじゃない!(やばいこれ大ピンチじゃないか)」

「(やったー!これでこいつを追っ払えるわ!)」

「お花のおねーちゃん!藍さまをいじめないで!」

「頼むどうか橙には手を出さないでくれ(橙、橙だけは守ってみせる!!)」

「……今日はその子に免じて許してあげる。行きなさい

 言っとくけど紫が怖いんじゃないわよ。うざったいから嫌いなの(やれやれ)」

「???……藍さま大丈夫?」

「ああ、あれ、もう居なくなってる。ありがとう、橙のおかげで助かったよ」



橙のおかげで九死に一生を得た。今日は橙も一緒に三人(?)で夕飯を食べるか。

しかし格好悪いところだけ見られてしまったな。見せ場っぽくなってきたら幽香がどっかいったし。

一体どうしたんだろう、とりあえずは橙が無事でよかった。

もし襲ってきても橙の為なら空手でも勝つ自信があるけどな!!


さて、そうとなると少し貧相な買い物だったなあ。まあ、紫様になんとかしてもらおう。

お、なんだかぞろぞろ出てきた。


「橙ちゃん、どうしたの?」

「あ、みんな!藍様が大変だったんだよ」

「藍様?あー妖怪・八雲ユーカリの子分の人ね」

「うーん、まあそうだけど、でも私のご主人様なんだよ」

「藍さんはいいひとだよー」

「いっつもお菓子くれるよね」

「八雲紫ってあの神社の宴会にたまに居るいつも半笑いの人?」

「あー、なんかやたら派手な服着てるよね、橙のご主人様なんだー」

「濁った目で霊夢とかに萃香ちゃんに絡んでるわね」

「トランプで巫女と激しいイカサマバトルしてた」

「変な穴から下半身だけ出して“カサカサ”とか言いながら神社走り回ってた……」

「お酒を吹いて火炎放射!とかやってた」

「偉そうなちっちゃい女の子をからかってねちっこくいじめてた」

「あの人なんかぶきみだよねー」

「みんなそんなこと言わないでよっ!」






「そうだぞ、そんなことを言っているのがもし耳に入れば改造手術されてしまう」

「「え゛っ!!」」

「に゛ゃっ!?」

「私も一回おもいっきり紫様を罵倒したら体中改造されてしまった」

「「ひぃぃぃぃ!」」

「この体もカラクリでできているんだ。あ、ゼンマイ切れた」


カクカクッピタッ


「あ……あぁ……(藍様……なんて大人気ないことを……)」

「「改造手術怖いー!!」」

「(皆信じちゃってるし……)」






橙はまだ遊ぶようだったので、昼を作りに家に戻った。

紫様も起きていらっしゃたから、朝より一品二品多いような食事を作って一緒に食べた。


「藍、今日私の陰口を叩いたでしょ」

「何をおっしゃいますか、私がそのようなことをすると思っておいでで?」

「いえ、それならいいわ、なんだか貴女が微妙に視線をずらしていたような気がして」

「ふふ、紫様の美貌が眩し過ぎるからですよ。そうそう、今日は橙に助けてもらいました。

 いつの間にかとっても強くなっていたんですね。臆せず立ち向かうのは大変なことですから」

「あら、すごいわね、それじゃあ今日は何か橙のために何か用意しましょう。

 それと藍は危険を回避する為に、いつも注意を払うことを忘れないようにするべきね」

「心得ました」

「ところでさっき心にもないことを喋らなかった?」

「めっそうもない」


そして、どうでもいい会話をして昼をだらだらと過ごした。

掃除をしていたら三ヶ月しか書かなかった日記とか、懐かしい料理の本が見つかった。

毎日少しだけど、違ったことが起きるものだ。

そんな小さなことを楽しめると、それは非常に豊かに時間を過ごせたのではないかと思う。




夕刻、橙と手を繋いで紫様の家に向かう。今日はご馳走だ。

橙の友達に対して、紫様への好印象をさりげなく植えようとしたが、惨敗だった。

いや、カサカサがなければ何とかなったんじゃないかと思うのだが。

あの人あれでもいいところあるし。しかし、あの兎のことだし、

あれは嘘なんじゃないか?いくら紫様でもそんなことはしないだろう。

火を吹いたりはしてたかもしれないが。まあ過ぎたことは仕方ない。

橙の好きな山菜と、紫様に頼んでいつかの海の魚を用意してもらった。

後は夕飯を作って、橙とお風呂に入って、橙とお風呂に入って、橙と寝て今日も終わる。


「ねえ、貴女からとても邪な気が感じられるのだけれども」

「気のせいでしょう、さあ、そろそろできますよ」

「そう、それならいいわ、なんだか貴女が微妙に視線をずらしていたような気がして」





はじめまして、よろしくお願いします
継電器
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コメント



0.880簡易評価
3.70煉獄削除
とある部分で使われたネタはワイルドハーフですね。



まあ、それは置いておき、初めてにしては悪くないです。

結構楽しめましたよ。

これからも精進して良い作品を作ってください。
14.80名前が無い程度の能力削除
>後は夕飯を作って、「橙とお風呂に入って、橙とお風呂に入って、」橙と寝て今日も終わる。



誤字ですね、わかります
16.80名前が無い程度の能力削除
初投稿としてはなかなかでした。

テンポもいいし、ストーリーも普通に面白かったです。



>↑の方

大事なことだから2回言ったんだよ、きっと(笑)
25.100名前が無い程度の能力削除
らんしゃま~ひどすx
28.無評価名前が無い程度の能力削除
烏丸と銀星ネタがw