ここに30センチの定規があるとしよう。定規とは本来物の長さを測るものであり、直線を引くのにも用いられる。やはり定規は王道な、この二通りのために使われることが多いだろう。
だがあえて道を外れ、その定規を、今回は変わった使い方をしてみるとする。
やり方は簡単、今回は色の基準としてこれを使う。対照的な色として、0を白色、30を黒色とする。
では二色の間、15センチのところは? もちろん、灰色、ねずみ色、鈍色、薄墨色、グレー。まあいろいろ言い方はある。人それぞれなのだから、特に言い方に正解というものはないかもしれないので、次の話に移る。
灰色、これもまた立派な、列記とした色のひとつだ。だが、二色の間に位置するこの色がどれほど曲者なのかは、説明するまでもない。二つの真ん中に位置する、すなわちどちらでも属し、またどちらにも属さない、要するにはっきりしない色なのだ。
白と黒に話を戻す。白と黒、この二色は対照的な色で、光と闇、陽と陰、あるいは太陽と月。これらような関係にも似ている。これらは白と黒のように対照的で、それぞれが対極になっている。
光と闇、陽と陰、太陽と月……これらは両者を混ぜることなどできないため、先程のように定規を作ることが出来ない。
だが、白と黒、これら二つは果たして本当に混ぜることが出来ないのだろうか、否。先程説明した曲者、灰色があるではないか。あれこそが極に位置する二色を混ぜた結果である。
混ぜようによっては、15センチよりも左に位置する灰色、その逆ももちろん考えられる。だが灰色という色は、どちらかの影響が強くなっても決してもう片方の色を捨てることはない。
どんなに白に近くとも、それは毛筋ほどの黒が潜んでいるかもしれない。
どんなに黒くても、1%の白が混ざっているかもしれない。混ぜても混ぜても、もう片方の色は決して消えない。
だからだろうか、昔から灰色は白や黒ほどポピュラーではなく、人々も、そして妖怪も、この世に生きるすべてのものたちは『白』か、『黒』のどちらかに決めることを好んだ。
例えば勝負。これは勝者と敗者を、『白』と『黒』をはっきりさせることを目的とすることが多い。まれに灰色の結果に終わる事もあるが、圧倒的に『白』か、『黒』かのどちらかに軍配が掲げられることのほうが多いのだ。
他にもある。例えば、裁判。これは罪を犯したものを『有罪』か『無罪』、すなわち『白』か『黒』をはっきりさせ、正しき裁きを与える儀式でもあると言えよう。よって、『白』か『黒』かを判断する裁判官は慎重に、そして確実に判決を下さなければならない。『灰色』は、認められないのだ。必ず、『白』か『黒』のどちらかだ。出来なければ、裁判長とはいえない。
『白』と『黒』、どちらかに決める判断に優れた人物が、この世界に存在する。その判断に優れた人物の体験を今から語るとしよう。
裁判官である彼女はある判決に、あえて『灰色』を下した。『白』でもなく、『黒』でもない、『灰色』という異例の判決を。
○ Gray Judgment ●
「まったくあなたという子は!」
「はい、すいません、すいません」
長身の赤毛の女性が、ひたすらに腰を折って起こして、折って起こして――の繰り返しで謝っていた。その度に彼女の手にある大きな鎌が前に倒れ、起き上がり、また倒れ、と危なっかしい。
それに気付いた赤毛の女性が鎌を地面におき、再び折る、起きる、折る、起きるの流れによる平謝りを始めた。
平謝りに謝る長身の女性のすぐ前に立つ緑の髪の女性はというと、ひたすらと説教の言葉を並べていた。話し方、長さから考えて相当の説教好きらしい。
自分より身長の高い相手にひたすら説教を投げかける、そんな様子がどのくらい見られるものかは不明であるが、このあたりでは珍しいことではない。逆にこの光景を見ないほうが珍しい、いつもの――半日毎の事なのだ。
半日ごとに行われることが果たして珍しいだろうか? 多分、珍しくは無いだろう。
叱り付けている女性はため息をつき、厳しさをさっきよりも含めた目で、長身の女性に詰問する。融通が利かなさそうな、真面目な人だけがするような顔で。
「本当に聞いてます?」
「聞いてませ――ます」
思わず本音をこぼしそうになって慌てて訂正する赤髪の女性死神――小野塚小町は危ない危ない、と冷や汗をたらして頭を下げた。
小町は頭を起こし、目の前の人物を見ながら、休日はあんなにかわいいのに何で仕事のときだけこうなのだろう、と頭を悩ませていた。普段からもっと肩の力を抜けばいいのに、そうすればかわいいですよ、とニヤけるのだが、
「何笑ってるの!」
怒られてしまった。即座に小町は鬼の上官の正面に立つ新人兵士のような真面目な顔になり、すいませんとまた頭を下げた。
しかしその表情はすぐに変わった。笑ったのだ。地面を見つめたまま忍び笑いをしている間、彼女の正面に立つ上司はずっと説教の言葉を届くはずのない彼女の心に呼びかけ、必死に訴える。
言うまでも無く、無駄であるが。もしかしたら正面の上司も彼女に自分の説教が届いていないことに気付いているかもしれない。いや、多分――絶対気付いているだろう。それでも説教をするというのは、ご苦労なことである。
「四季様、仕事はいいんですか?」
名前を呼ばれた上司――四季映姫・ヤマザナドゥは部下の言葉に小さくため息をつき、さきほどよりも威厳のある顔つきで言葉を即座に放った。映姫はこれが小町の逃げ道だと知っていたからであろう、すでに道は通行止めにしていたのだ。
「あなたとは違いますから、もう済ませてきました」
完全に詰んだ。小町は心の中で白い旗を掲げ、どうにでもなれと自暴自棄になった。
「そうですか、はははは、ゆっくり聞けますね、嬉しいなあ!」
(はあ、今日はどのくらいかな……)
棒読みの台詞と心の中は反対のことを主張していて、小町の顔は引きつっていた。嬉しい、というのはもちろん建前である。当然上司もわかっているだろう。長年の付き合いだから。
「あらそう、じゃあ今日はいつもより長めで行きますよ」
墓穴を掘った発言を悔い、小町はどこかのメイドのように、時間を操ることが出来たらいいのに、と切実に願うがそんな一人の死神の願いを誰が受け入れるだろうか。
都合のいいことなんてそうあるわけないな、休日にならこの人とのんびり、いつまでも、時間を止めてでも過ごしたいのに、可愛いし。と心の中でぼやく。
小町は映姫から目をそらし、そのあたりに咲いている花を見、どれが映姫に似合いそうかを考えていた。映姫なら、可憐な花だろうか。
チューリップか? そういえばチューリップって何語なんだ? 小町は映姫の説教を追放し、チューリップについて脳内で議論を始める、命知らずなことだ。
映姫から目をそらし、花をずっと見ていた小町は一瞬、背筋を何か冷たいものが物凄い速度で駆け抜けるのを感じた。視線に似ているが、あまりにも白く、冷たい。その白くて冷たいもののせいで、小町は小さく悲鳴を上げながら背筋を棒のように伸ばした。
恐る恐る、彼女の上司に目をあわさないように彼女の足元を見た。目を見ると動けなくなるからだ、これから起こる恐怖で金縛りになることと、彼女の可憐なかわいらしさにときめいて。
しばらく、経った。どのくらいだったかはわからない、もしかしたらほとんど経っていないのかも知れないが、映姫は決して言葉を発することはなく、自分のだんだんと荒くなる息の音しか小町の耳には入らなくなる。
追い詰めら得ている側の小町にとってはとても長い時間に感じられ、時間が経つたびに嫌な汗が体中を伝ってゆく。早く喋ってくれ、小町がそう心の中で叫んだ刹那、大きめのため息が聞こえた。
「どうせまともに聞いていないでしょうね」
ぺしぺしと棒で小町を小突く小町。やがてそれがだんだんと、しかし確実に強くなってゆき、たんこぶがひとつ、小町の頭に現れた。いつものことなので特に痛がる様子も無く、安心したように映姫と視線を交える。
その瞬間。
「きゃん!」
映姫の手が恐ろしい速さで小町の額に伸び、指が小町の額を打った。映姫特製、デコピンである。打たれた額は円状に真っ赤になっていた。
映姫はもだえる小町を見て、少し微笑んでから、声を掛けた。
「今日はもういいですから、早く仕事に戻りなさい」
「はい、わかりました!」
嬉しそうに立ち上がり、映姫に背中を向けて飛び立つ死神。今日の説教はいつもよりもかなり早めに終わった。
長くすると言っていたのに、四季様は優しいなと思ったが、口には出さず心の中にしまいこんだ。
「まったく……」
おそらく説教のために過ごした時間はお互いに無駄に終わったであろうが、満更でもない様子で見送る映姫。当然、「ちゃんとやるのですよ」という言葉を背中に投げかけて。それに対して「へいへいほー」と適当に返す死神、それがこの二人のいつもの光景、そして日課である。半日課と言うほうが正しいかもしれないが。
「あ、そうだ!」
「はい?」
小町が突然振り向き、映姫の方に笑みを浮かべて何度目になるだろうか、にやけた笑みで用件をさっさと伝える。
「明日はピクニックですからね、四季様、お弁当忘れないでくださいよ~!」
「はいはい」
こういうことだけはしっかり覚えている部下に、映姫は少し呆れたが、表情は穏やかだった。
「……忘れるはず、ないわよ」
地面に一言呟き、周りを見回す。小町が飛び立ったのを確認し、映姫はひとつ頷いた。
「ふぅ……私も戻るとしますか」
映姫はため息をひとつ付き、飛び立ってゆく。もうすでに疲れてしまった。手間を増やさないで欲しいものだ、と映姫はだらしない部下に苦笑する。
いつものように、小町を見送った映姫も職場に帰る。だが、ひとつだけ違うことがあった。彼女たちの行動の一部始終を、ずっと監視していた人物がいたのだ。
お互いのことだけを考えていた二人は、背後から監視する見知らぬ人物には気付くことは無かった。その人物は小さく唸り、『四季映姫』と書かれた名前に小さく赤い斜線を引いた。
血のように、不吉で紅い斜線を。
★
非常に暇である。貧乏ゆすりをして、ひたすら来るべきものたちを待つが、そんな都合よく来ることは無く、彼女は立ち上がった。椅子が盛大な音を立てて真後ろにひっくり返り、ちょっと驚いて椅子を戻す。
「……小町、またサボっているのですね?」
そう考えて、自らを抑える。よく考えたら、どの霊から運ぶのかに迷っているのかもしれない、そうだ、そうに違いない。
……当然、映姫は自分が動きたくないから都合のいいように解釈しているのだが、そう納得したくなるのも無理はない。
明日から黄金の一週間、先程小町と話をしていたように、彼女はその時間に小町と宿泊ピクニックに行く約束をしており、有給休暇をその一週間付近に集中させた。そのため最近は目が回るほど働き、睡眠をほとんどとっていないのだ。
要するに、非常に疲れている、そして眠たい。勤務時間にちょこちょこ休みを取っている彼女の部下と違って。だからあまり動きたくないのだ、当然であるといえる。それに、出掛けている間に霊とすれ違って待たせることになれば、かえって迷惑になる。
「はあ……早く来てください……」
元気なく、椅子に力なくもたれる。この体勢、思ったより疲れが取れる。映姫は誰も見ていないにもかかわらず手を押さえて出てきたあくびをかみ殺した。無理に止めたあくびによって涙が目尻にたまった。
四、五回瞬きをして涙を瞳に塗りつけると、視界が歪んだ。さらに瞬きをして涙を目になじませる。
先程出したにもかかわらず、またあくびが出てきた。今度は止められず、目から先程よりもたくさんの涙が目を満たす。
それをそのまま放置し、映姫は何もせず、ぐったりともたれていすに座っていた。
疲れていたことに加えて、じっとしていたせいであろうか、だんだんと彼女のまぶたが重くなってくる。一瞬まぶたが落ち、体が前かがみになるが、急に首が傾いたことに驚き、目が一気に醒める。
覚醒したかと思ったのだが、まだ眠く、再び睡魔が侵攻を開始する。とうとう、意識が半分睡眠をとりはじめる。しかし彼女の義務に対する責任の力だろうか、すぐに体が引き付けを起こして椅子が大きく揺れ、机に太ももを打ちつけて目が覚める。
「痛ッ……でもよかった、寝なくて……」
スカートを少しめくり、打ち付けた太ももを見ると、案の定赤くなっていた。ご丁寧に、ぶつけたところの型が残っている。
痛みを感じながら、条件反射のように太ももを優しくさすって、和らげようとする。半分寝ていたせいか、すぐに痛みはひいた。
彼女が太ももをさすっていると、扉のほうから開閉したときの音がなり、彼女は驚きつつも、これもまた条件反射のように厳しい顔をして「入りなさい」と声を掛けるが、誰も入ってこないし、入ってくる様子も無い。
「風かしら?」
歩いて扉のところまで行き、開いて外を確かめるが、周りには誰もいなかった。扉を閉め、周りをキョロキョロする。
視線をさまよわせ、裁判所中を見回すと、窓のところに何かが見えた。
「あら? どちらさ――」
窓の方から、誰かが覗いていたような気がしたが、映姫に見つかった瞬間、さっさとどこかへと行ってしまった。
「はあ……」
誰も来なかったことに嘆きつつも、さっきのことを思い出して赤面する。もしかして、誰かに先程の失態を見られただろうか、心配になりながら。
そんなことを考えていると、また、ため息をひとつついてしまった。
ため息のつきすぎは体によくないという。彼女は私、早死にするかなあ、と考えながらも、情けなくも勤務中に寝てしまった自分を叱責する。……という気力も無く、またひとつ、ため息が。少し鬱になった彼女であった。
目が醒めたので、まあ良かった、とポジティブに考えていたが。
結局、彼女は勤務時間まで椅子に座って貧乏ゆすりをしながら待っていたが、彼女の元の霊が来ることはなかった。
こうして、本日二回目のお説教が三途の川で昼寝をしていた部下に下るのである。
★
そして次の日の早朝。昨日の鬱だった彼女と反転した様子の映姫は張り切り、鼻歌を歌いながらお弁当を作っていた。無論、二人分のお弁当である。その時の彼女の顔が嬉しそうで、わずかに赤面しているのを見たものは誰もいなかった。
ピクニック、小町とピクニック、小町とピクニック、小町と、小町、小町、――。
彼女の考えは、徐々にピクニックから小町へと移り変わっていく。もちろん本人は気付いていないので、その点を指摘すると顔を真っ赤にして反論するだろうが。それでもさらに突っ込むと有罪判決を下されるだろう。
二人分のお弁当はかなりの時間を経て完成し、映姫にとってはこれまでの最高傑作な感じすらした。自信たっぷりに机の上に蓋を開けたまま置く。熱が残ったままお弁当を包んでしまうと、途中で腐る可能性があるからだ。
いつもは身だしなみ以外気を使わない、服に特に気を使う。自分に似合いそうなのをこの日のために購入しておいたのだ。大切に取っておきたかったので、まだ一度も試着していない。鏡を見て、変なところはないかを隅々までチェックする。
よし、と思ったところでもう一度よく考える。鏡では見ていなかった服の中、背後など……。そしてチェックしたことを自らの善行だったとほっとする。腰の辺りに、しっかりと値札が付いていた。
やれやれと思いながらはさみで値札を切る。
待ち合わせの時間までまだ少しある。その間新聞でも読もうと思っていつもおいているところを探すが、新聞は無い。彼女はその時、朝から郵便の確認をしていないことに気付く。
新聞を取りに行くという日課すら忘れるくらい今日のことで頭がいっぱいだったのかと彼女は嘲笑し、ポストへと向かった。
ポストから中身を取り出すと、新聞、宣伝チラシなどが入っていたが、それ以外に彼女の目を引くものが一つ入っていた。封筒である。手紙をあまりもらわないので、このようなものなどほとんど見たことが無く、興味本位で封筒をチェックした。
『四季映姫殿』
封筒に、それだけ書かれていた。間違えて配達したわけではないらしい。自分宛など珍しい、気になって封を開けると、一枚の折りたたまれた手紙が入っていた。
中身を見た瞬間、彼女の体が硬直した。夢であることが望ましい悲しい現実が信じられず、手がわなわなと震える。彼女はあまりのショックで足のバランスを失い、地面へと倒れこんだ。
乾いた土に、一滴、また一滴と雨でもないのに染みが付いていく。
「どうして……」
せっかくの楽しいはずの休日、邪魔するかのように無情な悪魔の手が彼女をとらえ、離そうとはしなかった。
『貴殿の免職を決定』
どうでもいい社交辞令が上部に並べられ、本題にはこのようなことが書かれていた。彼女は泣き崩れたまま、ショックで起き上がれなくなり、倒れたまま手紙の下部を読む。当然であるが、免職の理由が書かれていた。
『職務怠慢』
映姫は、おそらく核心であろう心当たりがあった。毎日毎日鬼ごっこしてるんだもの、当然よね。映姫はそんなことを考え、自らの行動を一つ一つ丁寧に思い出す。
なぜだかわからないが、自然と、小町のせいにする気にはならなかった。あれでいて、結構楽しかったのだ。失ってしまった時間の大切さが、今となってわかる。
どのくらい経っただろうか、彼女は泣き崩れていてわからなかったのだが、彼女は、すぐ前でひとつの足音が鳴り響き、その足音が徐々に近づき、早くなっていくのを聞いた。この顔を見せたくなかったので逃げようと思うが、その人物が近づくほうが速かった。
「四季様!? どうしたんです!?」
小町が四季に駆け寄り、膝を突いて四季に顔を近づけようとする。膝をついたとたん、小町の膝が濡れた。まわりは土ぼこりが舞うほど乾燥しているのに、と小町は考えたが、それが映姫の涙であることはすぐにわかり、徐々に怒りの表情になってゆく。
「誰が泣かせたんです、こうなったらあたいが!」
激情して立ち上がる小町の服を映姫を掴み、制止する。小町が何事かと映姫の方を向いたのだが、険しい表情でのその視線は睨んでいるようにも見える。
「何でもないの、ただ目にごみが――」
「ゴミが入った程度でそんなに涙が溢れるわけないでしょう! ん? なんです、それは」
映姫の、服を掴んだほうの手に手紙が握られていた。小町は映姫から手紙を取ろうとした。それに気付いた映姫が手を戻し、小町に渡すまいと女々しく抵抗する。
「あ、駄目、何でもないの!」
なんでもないはずが無いだろう、と言いたげに小町はその手紙に興味を示した。
「その手紙が原因ですか、よっと」
距離を操り、映姫の手にある手紙を吸い付ける。映姫は手紙をとろうとして、勢い余って地面にへばり付いた。
映姫が読まないで、と小町に懇願するが、小町はそんな声に耳を貸さなかった。
「……何だこれ!?」
小町が驚愕の声を上げ、手紙を力を込めて握りつぶす。小町の心が、自責の念でズキリと痛んだ。
手紙を握りつぶしたのは、その手紙を書いたものに対する怒りと、小町個人の八つ当たりだろう。
「なんだよ職務怠慢って、それはあたしだろ! 四季様は関係ない!」
映姫とは対照的に、小町は映姫に背を向け、雄雄しく吠えた。その様子を涙を浮かべ、レンズ越しで見ているような感覚を覚える映姫。
「四季様は……関係ないッ……!」
二回目の小町の声が震えている。声も弱弱しく、俯いて肩も震えている。映姫から背を向けているのだが、映姫にとっては都合がいい。震える背中の向こうにあるその顔だけはどうしても見たくなかったからだ。映姫には、何となく、と言うより嫌でもわかっているのだから。
「!?」
とてつもなくすばやい動きで小町は振り向き、映姫を胸元に引き寄せた。
「ごめんなさい……、四季様……!」
映姫の頭に、一、二滴の液体が落ちる。映姫は上を向かず、
「いいのですよ、あなたのせいじゃないです」
小町をさらに強く抱きしめた。
★
「……落ち着きました?」
いつの間にか立場は逆転し、小町は映姫に膝枕をされている形になっていた。
「四季様、これからどうするつもりです?」
「……」
映姫は答えるのに少し時間が欲しい、と言いたげに小町から目をそらして俯き、少し暗い顔になった。
「……やはり――」
いつまでこの悲しい沈黙が続くのだろうと小町が思った瞬間、映姫は口を開いた。
「――仕方ないですね、残念だけど」
小町には映姫の精一杯の笑顔が痛々しく映った。小町は体を起こし、視線を映姫の美しい瞳に合わせ、大きく深呼吸をする。
そして映姫の前に正座し、一言、深々と頭を下げて映姫に謝った。
は? と映姫が思ったのもつかの間、突然彼女の頬に熱くて、鋭い痛みが走った。大きな乾いた音が、彼女の耳に飛び込む。
突然のことに驚き、反射的に痛みがしたほうと反対のほうを向く。何が起こったのかわからず、映姫は痛みが走った頬を押さえ、呆然と小町を見上げる。
小町の顔は、険しく、見たこともないような表情だった。
「何言ってんですか! 四季様が裁判長を辞める、そんな事このあたいが許しませんよ!」
映姫は今まで聞いた事のない、いや、誰もが聞いたことのないであろう迫力の小町の叱責に驚き、口をきくことが出来ない。
敬語であるが、聞いているものの心に直接訴えるような、激しい怒り――否、想い。映姫の頬に感じられる熱さが小町の現在の心の中に燃え上がっている怒りと彼女の対する想いの熱さなのかも知れない。
「小町……?」
「四季様が裁判長、そしてその部下があたい、その仲を引き裂こうなんてたとえ四季様に命令できる立場の奴であろうと許しません! あたいたちは退職するその時まで、いや、死ぬまで一緒です!」
小町は自らのありったけの想いを映姫にぶつけ終わると、荒く呼吸をする。そして今度は優しく、落ち着いた声で、
「四季様、手紙には仕事が出来るのは一週間後まで、と書いてありました。これから一生懸命やって見返してやりましょう!」
「でも……」
「まだ言いますか、早く職場に行ってください、すぐに三十人分くらい送りますから!」
小町はそれだけ言い残すと、今まで見たことのないような速度で飛んでいってしまった。残された映姫は、小町が見えなくなるまで座り込んでいたが、やがてはっとしたように、
「私も……準備しなきゃ……」
★
その日から、彼女たちは一生懸命働き、かつてないほどの仕事をこなしていった。
もちろん彼女たちにとってははじめての仕事量であったが、映姫は絶対にやめたくはない、小町は絶対にやめさせたくない、という鉄の意志によって折れることはなかった。
やることが多い日の時間が流れるのは恐ろしく早く、すぐに映姫の仕事の最終日を迎えた。
三途の川、ここでは死神が次に運ぶ霊を選択していた。
「あんたに決めた、早く乗りな!」
小町は一人選んで舟に乗せ、かなりの速度で川を渡りだす。恐ろしく早く、到着した。
「ごめんな、いつもならゆっくり話をするんだが今日は急いでいてね――到着したよ、なあに、そんなに緊張しなくていいって!」
霊が安心したように頭を下げ、小町に背を向ける。それをいつもより短く確認すると、猛スピードで舟をこぎ始めた。
「はあ、はあ……これで三十五人目!」
(四季様……)
頭に浮かんだ上司を、頭の片隅に強引に押し込める。今は彼女のことを考えている場合ではない、それが彼女の判決であった。
「おや、今日はやけに一生懸命な……詳しく聞かせてもらえませんか?」
小町の横には、いつの間にか新聞記者が付いており、舟を追いかけている。流石最速を誇るという新聞記者である。小町は嫌なやつに出会った、と顔をしかめた。
「悪い、今構ってられないんだ!」
小町はさらに速度を上げ、霊たちの待つ岸へと戻ってゆく。流石に文でも追いつくことは出来なかったのだから、かなりの速度である。
「あやややや……どうしたことでしょう?」
唖然としたその表情はすぐに不敵な笑みを浮かべ、彼女の首から提げられているカメラが不気味に光った。
「新聞記者として、やるべきことはひとつ、よね。何十年かかっても、ベストショットは逃しませんよ」
★
「はい、次の者――」
映姫は昨日の疲れも忘れ、目も回りそうな仕事を一つ一つ丁寧に、さらには公正に、されど俊敏に霊を裁く。
「はい、次の者――」
裁判所の前には霊たちの長蛇の行列が出来ていた。映姫が小町の仕事量に追いついていない、そういった信じられない状況を列の長さが言葉を使うことなく語っている。
「次の者――」
罪が重いものにも軽いものにも厳しく、されど優しく助言を与え、説教をする映姫。その姿はまさしく裁判官のものであった。いや、裁判官の鑑であった。
ここに小町がいれば、こんな立派な裁判官を辞めさせるなど許せたものではない、と間違いなく言っただろう。
映姫は小町のことを頭の片隅に置きつつも、正しく白黒をつけてゆく。彼女ほど白黒つけるに適している人物は、他にはいない。決して、曖昧な灰色の判決は下りることはないのだ。
だからこそ、霊たちは緊張しつつも安心して裁きを受けることができる。
(小町……)
頭の中に浮かんだ死神を、頭の中の片隅にしまいこむ。それが、彼女の頭の中で下された判決だった。
「次の者――」
★
「ふぅ……」
誰もいなくなった裁判所、映姫は小さくため息をついた。
流石に疲れた、総計八十七人という、かつてないほどの量を裁いた。先程から誰も来なくなったのは、先程小町が最後の霊をつれてきて、映姫の顔色を見て驚いたからである。
映姫の顔はやつれていて、小町はこれ以上仕事を続けられないと判断したのだ。映姫は嫌がったが、疲れているであろう小町の事も考慮して、仕事は終了した。
小町はというと、先に映姫の家に戻っていった。今日は映姫が大変だから、という事で小町は映姫の家で食事を作ることにしたのだ。
「帰ろう……」
疲れた体を引っ張るかのように、自分の家に向かう映姫。これで、彼女の仕事は終わった。これでどこかで監視していたであろう彼女の解任を決定したものも、取り消してくれるといいのだが。
彼女は「甘い考えよね」、と考えながらも、どうなっても後悔することがないように、最後に長い年月勤めた裁判所に向かって深々としばらく一礼した。
★
「美味しいですか?」
「ええ、とても。小町も上手ね」
「そりゃ、一人暮らししてますから。このくらいは出来ますよ!」
二人は食事を楽しみ、他愛のない話に華を咲かせていた。間違っても、明日のことは話しに出さない。
明日、映姫の家に例の人たちが来て、最終決定が出される。この一週間、一生懸命働いたのが認められれば、映姫は裁判長の資格を剥奪されずにすむかもしれない。少なくとも彼女たちはそう願っている。
映姫の判決が下るのは、明日。
いつもは裁くものが裁かれる、映姫は不思議な気持ちであり、緊張していた。知らず知らずの打ち手が震え、摘んでいたおかずをテーブルに落とす。
「四季様~またですかぁ? もうちょっと握力つけたほうがいいんじゃないですか?」
「握力って……いいのよ別に」
「まあ、ひ弱な四季様のほうが可愛いか」
すべての血を顔に集中させたかのように、映姫の顔が真っ赤になる。赤い、いや紅い顔が、限界点まで来たとき、彼女の体からは先程とは違う震えが生じた。
「な、何言ってるのあなたは!」
「きゃあ怖い怖い」
舌を出してニヤニヤする小町。映姫は箸で小町の頭を小突き、まったくもう、とそっぽを向いた。その時映姫はふと気付いた、いつの間にか手の震えが止まっていることに。
そっぽを向いた顔が一瞬喜びの表情になる。
(小町、ありがとう……)
「何笑ってるんですか……きゃはっ」
小町はかわいらしく笑う。その様子を見る映姫もまた、笑いがこみ上げ、最初は小さく、徐々に大きく笑い出す。大きくといっても高が知れているが、その笑いにこめられた喜びの気持ちは決して小さくない。
「そうだ、四季様! 今度の休暇に一緒にピクニック行きましょうよ、この一週間はいけなかったし!」
「え、でも私は……」
「行きましょうよ、ね!」
小町の口調は強く、有無を言わせない。でもその目は「お願いですから、四季様」と言っている。
「……ええ、行きましょう!」
「やった!」
小町は踊りださんばかりの勢いで喜びだした。心はすでに躍っていたが。映姫もまた喜ぶが、その喜びには少しの影が差していた。
(これで……約束を守れなかったらこの子はがっかりするかしら……)
起こらないと信じ、起こらないで欲しいその悪夢のような出来事を考え、映姫は自分を叱責する。なぜこんな時にそのようなことを考えるのか、と。
「四季様?」
「え、ああ何でもないのよ。小町、そろそろ寝るわ」
「じゃああたいも寝ます」
二人同時に大きなあくびをする。映姫は口をふさぎ、小町は口を開けたまま。ぶわーと顎が外れそうなほど、大きく開かれた口を見て、映姫は悪戯を思いついた子供のようにかわいらしくニヤける。
「……えい」
「ふごおっ!?」
映姫は口を開けたまま大きなあくびをしている小町の口に、ティッシュを丸めて放り込んだ。突然の異物進入に、そして攻撃されるはずのなかった人物からの攻撃に小町は驚き、間違えてティッシュを飲み込んでしまった。
「けほけほ、四季様、ひどいですよ~」
文句を言うが、顔は嫌そうな、怒った顔もしていない。心から、笑っている。当然映姫も、同じ顔をしている。
「やっぱ四季様はこういう顔のほうが可愛いですよ」
「なっ!? 何を言うんです、さっきから!」
何度目になるだろうか、このやり取りは。またもや彼女の血が顔に集合する。さっきまでとは違うのは映姫が箸ではなく、拳でぽかぽか殴りかかってくることだろうか。
「あ~痛い痛い、有罪有罪」
小町は殴りかかってくる映姫に好きなだけ殴らせながら、ぶつぶつと文句を言う。当然、冗談で言っているのであるが。
殴りながら映姫の口が一瞬開いた。
「小町、ありがとう……」
「え?」
「何でもないですッ、寝ますよ!」
ひときわ強く小町の頭を殴ると、映姫は寝室へと向かっていった。その表情は、とても紅い。
「待ってくださいって、どうせ同じ部屋でしょ~」
映姫はさっさと布団の準備をし、布団の中にもぐりこんでそっぽを向いてしまった。
ベッドはなぜか前から二つある。もしかしたら映姫のことだからずいぶん前から用意していたのかもしれない。
小町は右のベッドに入ろうとしたが、突然映姫に呼び止められた。
「小町……」
「はい?」
映姫が突然、まだ紅いままの顔で振り向く。その顔が、寂しそうな、しかし満足げな顔になり――。
映姫は小町の肩に手をかけた。咄嗟に小町はデコピンされるのかと思い、少し構えた。その様子を映姫は面白そうに微笑み――。
「……は?」
小町の唇に、柔らかいものが触れ、小さな音が唇から聞こえた。小町は立ったまま驚きで呆然とし、時間が止まったように動けない。映姫はというとすぐに小町から離れ、顔を合わさないように背を向ける。一瞬見えた彼女の耳は、トマトのように真っ赤になっていた。彼女は「おやすみ」、と吐き捨て、布団の中に飛び込んでしまった。
(可愛い方だよホントに……)
小町とは反対のほうを向いている映姫の頭を見て、そう思う。止まっていた時間が動き、小町の頬にも、少し遅れているが徐々に赤みが差す。
(絶対、残ってくださいよ……)
小町は目を閉じて神に祈る。彼女もまた、ある意味神であると言うのに、さらに神に祈るというのも不思議な話である。
しばらくは右を向いて映姫の方を観察していたのだが、小町のほうに後頭部を見せたままの映姫の体が、小さく上下している。小町は寝ちゃったか、と残念そうに思い、体を左に倒した。
「あだっ!」
しかし左には壁があることをすっかり忘れていた。壁に思いっきり激突し、しばし意外な痛みに悶絶する。割と大きい音がしたのだが、映姫は目を覚ますことはなかった。
(やれやれ、よっぽど疲れていたんですね)
痛い左足を摩り、小町は映姫に笑みを向ける。
(でも、一日の最後に見た四季様の顔が笑顔でよかった)
(……四季様の唇、柔らかかったなあ)
小町はもう一度微笑み、先程の出来事をもう一度思い出して眠りにつこうとしたが、興奮してなかなか寝ることが出来なかった。
★
「んごごごご……きゃん!」
突然ベッドから左足が落ち、一瞬で目が覚める小町。起き上がって左のベッドを見ると、すでに映姫はいなかった。
「あれ? あたい……」
左のベッドはというと、映姫が寝ていたというのが信じられないくらい荒れはてていた。布団は半分床に落ち、シーツはシワシワのまま、枕はどこに言ったのかはわからない。よほど慌てていたのだろうか。
「ん? あれ?」
何か違和感があったが、それに気付けない。なんだろうか、と考えるが寝ぼけた頭、何があったのかなど思い出せるはずは無かった。
それに加えて、昨日の寝る前のことがよく思い出せない。寝ぼけたような、あるいは目が覚めているにもかかわらず混乱した頭のまま窓の外を覗くと、光を送り込む太陽がほぼ頭上に位置していた。
「ヤバッ、寝過ごした!?」
最近の癖で朝は早起きであった小町、昼に起きるなどとんでもないことだと彼女は考えていたため、彼女はとにかく慌てた。
ベッドから飛び起き、すぐに居間に向かう小町。居間には、誰もいなかったのだが、代わりに机の上に朝食と思われる食事が用意されており、ラップがかけられていた。そして、その隣には――。
「手紙?」
小町はいい香りのする『小町へ』と書かれている手紙を開いた。かすかに感じた、嫌な予感を振りほどきながら。
『突然いなくなってしまってごめんなさい、朝起きたらびっくりしたでしょう?
朝食を作っておいたから食べてね。
時間がないから急ぎますけど、あなたが寝ている間に私のことをどうするかを決める人たちが来ました。
結果は……残念、私は免職されたわ。
でもしばらくすると裁判を受けさせてもらえるそうだから、その時に認められたら私は復帰できます。
だから安心して、必ずあなたの元に戻ってきますから。
今までありがとう、ここ一週間のあなたもよかったけど、今までのあなたはとってもいい死神だったわ。
ひょっとすると私は、仕事をサボっているようなあなたのほうが好きかも知れないけど、仕事はこれからも真面目にやりなさいね。
しばらくは会えないけど、あなたはあなたらしく、死神の仕事を全うしてね。
それが今のあなたに出来る善行よ。
それと小町、人のベッドに入るときはちゃんと許可を得なさい。
いきなり入られるとびっくりします。
ちょっと話がそれたけど、最後にこれだけ質問します。
小町、あなたは私のこと好きですか?
白か、黒で決めてください。
白なら好き、黒なら嫌い、間違えないでくださいよ?
次に会うときまでに、決めておいてください。
ちなみに私は……次に会うときまで内緒です。
小町、本当に今までありがとう。
しばらくは、さようなら。
四季映姫』
「四季様……」
小町はその手紙を読み、なんともいえない気持ちが心を満たしていくのを感じた。
「そんなの……白に決まってるじゃないですかッ……!」
本人がいない今、涙声であるが、はっきり質問に答えることが出来る。小町は我慢できずに頬を伝った涙を拭き、映姫のことをもう一度思い出す。
自分のことを怒鳴りつける映姫、可愛いといったときに真っ赤になる映姫、一緒に出掛けたときの嬉しそうな映姫、昨日初めて見た、泣いている映姫。最後に見た映姫の笑顔、そして、昨日自分に唇を捧げたときの映姫。
どれも、どれも映姫との大切な思い出だ。ひとつとして、忘れることが出来ない。彼女は今、とてつもなく遠い場所にいる。しかし――。
「きっと、帰ってくる……!」
小町は悲しみで握りつぶしたくなった手紙を折り目どおり丁寧にたたみ、ポケットにしまった。
「あたい、待ってますから!」
小町は、映姫の残した最後の親切に、そっと手をかけた。
「やっぱり、あの人は上手だな……」
冷めているが、味は悪くない。むしろ、自分の料理は冷めている映姫の料理にすらかなわないような感じを小町は覚えた。まさか、これほどのものだとは。
「四季様、これからも食事を作ってくださいよ」
そう呟きながら、空っぽの茶碗を持ってご飯を掬おうとしたときに彼女は気付いた。何かが茶碗を転がっていることに。不思議に思って彼女はそれを指でつまみ出す。
「……ははっ」
茶碗のそこに転がっていたのは、わずかに灰色がかかった、綺麗な真珠だった。完全な白ではないところが映姫らしい。
「素直になりなさいって……」
小町はここにいない映姫に小さくお節介にも思える助言をし、真珠を手紙と同じポケットにしまいこんだ。
「今日も、仕事頑張るか! ちょっとサボりつつ!」
★
「次のお客さん! 乗った乗った!」
手を招いていた小町は、霊が戸惑ってなかなか乗ってこないことに軽く苛立ち、霊を引っ張って船に引きずり込んだ。そのまま有無を言わせず全速力で川を渡る。途中霊が振り落とされそうになったが、何とか霊は落とされずに対岸まで到着した。
「ほら、緊張しなさんな! 頑張っておいで!」
微笑んだ霊を見送り、小町はもう一度引き返す。今日の彼女が定めたノルマはあと二人、ずいぶんはかどっている。
映姫が裁判官を免職してから、十年は経った。小町は、五年までは数えていたのだが、だんだんと馬鹿らしくなってやめた。だから正確な年数はわからないが、彼女は今日もまた、忙しい一日を送っている。
新しい裁判官は、映姫よりもウマの合う人だった、十数年前の小町と、だが。多少おちゃらけた感じも、時々裁判をサボったりする様子も、まるで十数年前の自分を見ているようだ、と小町はたまに考えて苦笑いする。
映姫は今頃どうしているのか、と小町はいつも考えているが、すぐにその考えを仕事に切り替える。あまり考えすぎると会えないのが辛くなるからだ。
「……おっとっと、次! 乗った乗った!」
完全に切り替えたつもりだったのだが、そうではなかったらしい。ボーっとしていて岸に舟をぶつけてしまい、小町の体がよろけた。反射的に片方の足が岸を踏みしめ、事なきを得たが小町は自らを嘲笑する。まだ、四季様に執着しているのかあたいは、と。
その思いを振り払うため、さっきより強めに霊を呼びつける。今度の霊はすぐに舟に乗って来た。しかも、かなり明るい。そして……小町に性格が似ているような気がする。
「お客さん、そんなに嬉しいかい?」
他愛のない話に華を咲かせ、映姫の事を忘れようとする。どうせこの人を含めても残りは二人、焦ることはない。小町はさっきの人までは急いでいたにもかかわらず、ゆっくりと舟を進めだした。
しばらくはおあずけにしていた、幽霊との雑談を楽しむ。波瀾万丈の彼の人生は実に興味深いものだった。小町は久しぶりに、仕事をしつつ霊と雑談するという楽しみを思い出し、ついつい船の速度を落としてゆき、なかなか岸に到着しなかった。
「やっと着いた、悪かったねお客さん、時間かかっちまって」
反省の色を見せない笑ったままの表情で、霊に謝罪する小町。霊のほうもまんざらではない様子だ。それどころか別れを惜しんでいるかのように見える。
「頑張っといで!」
「またサボっていたのですか、小町」
「はい、あの霊との雑談が楽しくて…………あれ?」
首が千切れそうな勢いでさっきの霊を見送った角度の右90度の方向を向く小町。その際首が嫌な音を立てる。
まず最初に小町の目に入ったのが、春の草原のような緑の髪、次に目に入ったのが、かわいらしい大きめの瞳。それだけで、小町は確信した。さらに、とどめとして数年前から変わらない、服装と帽子。
時間が止まったような感覚に小町は陥り、固まったまま身動きが出来なかった。小町の前に立つ彼女が、そっと手を伸ばし、小町の額に狙いを定める。
「きゃん!」
いきなりデコピンをかまされ、彼女の性格とは裏腹の可愛らしい悲鳴を上げる小町。その悲鳴も変わらないわね、と微笑むデコピンをかました人物。
デコピンをされたほうはというと微笑む彼女と対照的に、額を押さえて痛みに悶えている。
「痛たた……この痛さ、間違いない……」
「……ただいま、小町」
「……お帰りなさい、『映姫』様」
お互いの名を呼び終わった瞬間、映姫は帽子が逆風で飛ばされるのも構わずに、小町の胸に飛び込んだ。みぞおちに飛び込まれて苦しさと体当たりの勢いで倒れそうになるものの、片足を後退させて転倒を防ぐ小町。
「あははっ、お帰りなさい、映姫様!」
「ただいま、小町!」
先ほどの挨拶をもう一度交わす。今度は、先程とは違いはっきりと。
映姫は裁判の結果、幻想郷担当の閻魔に復帰した。その話を聞いた小町は、現在の閻魔には悪いが、これ以上上のない喜びに満たされた。誰よりも素晴らしい上司が帰ってきたのだから。
二人が密着すると、小町の胸の辺りがちょうど映姫の頭の高さになる。映姫は小町の表情を見ることもなく、小町の肌の温もりを味わう。
何の前触れも無く――もしかしたら、小町がぴたりと黙り込んだのが前触れだったのかもしれない――映姫は頭に冷たいものを感じた。小町に抱きついたまま小町の顔を見上げる。
「……小町!」
小町は、泣いていた。揺れる瞳からまた一滴、映姫の頬に落ちる。落ちた涙は映姫の頬を伝い、大地に吸い込まれた。また、一滴。また、一滴涙が頬に伝う。しかしそれは小町の目から流れたものではなく、映姫の瞳からこぼれたものだった。
「もう、もう絶対離しませんから……! 離さないから!」
小町が先程よりも力を入れ、映姫をさらにひきつけて強く抱きしめる。その気持ちが伝わったのか、映姫もより強く小町を抱きしめる。映姫は胸に顔が埋もれて多少苦しいのだが、そんなことは二人にとってどうでもよかった。
映姫は頭が濡れるのを感じながら、小町は胸元が濡れるのを感じながら、お互いの気が済むまで手を離そうとしなかった。十数年ぶりのお互いを抱きしめた感覚を十分に満喫したかったから。
どのくらい、経っただろうか。永遠に続きそうな抱き合う二人は、突然水を差された。
乾いた音が二人より少し離れた場所から聞こえ、それと同時にまぶしい光が一瞬二人に注がれた――というより浴びさせられた。
「うん、いいですね、その表情! 小町さん、もっと引っ付いてください、そうそう、はい、もう一枚! うわー、いいです、ベストショットです! はい、さらにもう一回!」
もう一度、シャッター音とフラッシュが。
「……小町」
「……映姫様」
「「有罪」」
★
「はい、次の人~! え、この人? この人は裁判長だよ、あんたを裁く人じゃないけどな。まあ乗った乗った、両手に華じゃないか、ほらほら、赤くならない!」
最後の一人を舟に乗せ、舟を進める小町。映姫は舟に乗ったまま、にこにこしている。
舟はゆっくりと、進んでゆく。流石小町である、内気に見えたこの幽霊と少しの間過ごしただけで仲良くなっていた。さっきまでは小町が一方的に話しかけていたのだが、霊が突然小町に質問を始めた。
「どうした? え、川にカメラと人が浮いている? ああ、気にしなくていいよ、ただの雰囲気盛り上げるためのオプションさ」
霊にそう話す小町の顔は、「他のやつには言うな」と言っている。霊は黙って頷くしかなかった。映姫の方を向くと、映姫もまた、同じ顔をしていた。
彼らは再び三人で雑談を始めた。幽霊は、遠ざかってゆく、川に浮いている哀れな誰かに黙祷しながら。
ゆっくり進んでいたのだが、やはり来るべき時は来る。岸が見え、すぐに目の前に到着し、小町は舟を止めた。
「……着いたよ、頑張ってきな!」
小町は最後の客人に手を振り、見送った。霊は名残惜しそうに、しかししっかりと頭を下げて背を向けて立ち去った。
「さて映姫様、帰りましょうか」
「ええ」
舟をこぎながら、小町は映姫に話しかける。話したいことは沢山あるのだが、まずは手短に、長年の謎であった質問をしてみる。
「そういえば映姫様の手紙の最後に書いてあった質問、答えを教えてくださいよ。白か、黒で決めてください。白なら好き、黒なら嫌い、間違えないでくださいよ?」
紅潮した顔で映姫を見つめ、気体に満ちた瞳で小町は尋ねる。映姫はというと、紅潮する様子も無く小町のほうを面白そうに見ている。
「え? ――ああ、あれね。小町はどうだったのかしら?」
「もちろん白に決まっているじゃないですか~白じゃない人に初めての唇なんて捧げませんって! はい、ちゃんと言いましたから、映姫様もどうぞ」
ニヤニヤ笑いながら映姫に掌を差し出す小町。
「私は……灰色ね」
「な!? 酷いですよ、映姫様~! っていうかあたい、自爆ですか!?」
真っ赤になり、ガクッと舟の上でうな垂れる小町。
「恥ずかしいじゃないですか~!」
小町は顔をさらに紅潮させ、恨めしげに映姫を睨みつける。
映姫は勝ち誇ったような表情で、でもね、と付け足した。
「これからのあなたの頑張り次第で白になれるわよ」
「マジで!? よし、頑張りますよ~! 映姫様の仕事は明日からですよね? 明日は百人送ります!」
「そう? 期待してるわよ、ふふふ……」
映姫は、この子なら出来るかも、と優しい微笑みを小町に向けた。小町はその表情に、心臓が大きく跳ね、うっかり三途の川に転落した。
★
「小町! サボらない! 待ちなさい!」
「きゃん! ごめんなさい~!」
十数年前に繰り広げられた光景が、またこの場に繰り広げられる。お互いに必死に見えるが、それがどんなに楽しいことかと言うのは今の彼らには言う必要すらない、当然自覚しているのだから。
いつもの十数年前まで毎日――半日ごとにやっていたやり取りがこんなに楽しいなんて、と小町がにやけた瞬間、油断したのだろうか、映姫に服をつかまれてしまった。
「映姫様」
映姫に捕まって少し青くなった小町が一言呟く。遺言だろうか、映姫はもう片方の手でデコピンの構えを作りつつ、聞いてあげることにした。
「大好きですよ」
「なっ!?」
「きゃはっ、手が離れました、じゃあさようなら~!」
「ああ、こらっ! 待ちなさい、小町~!」
十数年前と変わらない鬼ごっこ、しかしその鬼ごっこの唯一の違いは、二人とも、笑っているということだ。
灰色の判決、それが白になるのは、いったいいつだろうか?
映姫が下したのは、
Gray Judgment
But, the color is almost white limitlessly.
だがあえて道を外れ、その定規を、今回は変わった使い方をしてみるとする。
やり方は簡単、今回は色の基準としてこれを使う。対照的な色として、0を白色、30を黒色とする。
では二色の間、15センチのところは? もちろん、灰色、ねずみ色、鈍色、薄墨色、グレー。まあいろいろ言い方はある。人それぞれなのだから、特に言い方に正解というものはないかもしれないので、次の話に移る。
灰色、これもまた立派な、列記とした色のひとつだ。だが、二色の間に位置するこの色がどれほど曲者なのかは、説明するまでもない。二つの真ん中に位置する、すなわちどちらでも属し、またどちらにも属さない、要するにはっきりしない色なのだ。
白と黒に話を戻す。白と黒、この二色は対照的な色で、光と闇、陽と陰、あるいは太陽と月。これらような関係にも似ている。これらは白と黒のように対照的で、それぞれが対極になっている。
光と闇、陽と陰、太陽と月……これらは両者を混ぜることなどできないため、先程のように定規を作ることが出来ない。
だが、白と黒、これら二つは果たして本当に混ぜることが出来ないのだろうか、否。先程説明した曲者、灰色があるではないか。あれこそが極に位置する二色を混ぜた結果である。
混ぜようによっては、15センチよりも左に位置する灰色、その逆ももちろん考えられる。だが灰色という色は、どちらかの影響が強くなっても決してもう片方の色を捨てることはない。
どんなに白に近くとも、それは毛筋ほどの黒が潜んでいるかもしれない。
どんなに黒くても、1%の白が混ざっているかもしれない。混ぜても混ぜても、もう片方の色は決して消えない。
だからだろうか、昔から灰色は白や黒ほどポピュラーではなく、人々も、そして妖怪も、この世に生きるすべてのものたちは『白』か、『黒』のどちらかに決めることを好んだ。
例えば勝負。これは勝者と敗者を、『白』と『黒』をはっきりさせることを目的とすることが多い。まれに灰色の結果に終わる事もあるが、圧倒的に『白』か、『黒』かのどちらかに軍配が掲げられることのほうが多いのだ。
他にもある。例えば、裁判。これは罪を犯したものを『有罪』か『無罪』、すなわち『白』か『黒』をはっきりさせ、正しき裁きを与える儀式でもあると言えよう。よって、『白』か『黒』かを判断する裁判官は慎重に、そして確実に判決を下さなければならない。『灰色』は、認められないのだ。必ず、『白』か『黒』のどちらかだ。出来なければ、裁判長とはいえない。
『白』と『黒』、どちらかに決める判断に優れた人物が、この世界に存在する。その判断に優れた人物の体験を今から語るとしよう。
裁判官である彼女はある判決に、あえて『灰色』を下した。『白』でもなく、『黒』でもない、『灰色』という異例の判決を。
○ Gray Judgment ●
「まったくあなたという子は!」
「はい、すいません、すいません」
長身の赤毛の女性が、ひたすらに腰を折って起こして、折って起こして――の繰り返しで謝っていた。その度に彼女の手にある大きな鎌が前に倒れ、起き上がり、また倒れ、と危なっかしい。
それに気付いた赤毛の女性が鎌を地面におき、再び折る、起きる、折る、起きるの流れによる平謝りを始めた。
平謝りに謝る長身の女性のすぐ前に立つ緑の髪の女性はというと、ひたすらと説教の言葉を並べていた。話し方、長さから考えて相当の説教好きらしい。
自分より身長の高い相手にひたすら説教を投げかける、そんな様子がどのくらい見られるものかは不明であるが、このあたりでは珍しいことではない。逆にこの光景を見ないほうが珍しい、いつもの――半日毎の事なのだ。
半日ごとに行われることが果たして珍しいだろうか? 多分、珍しくは無いだろう。
叱り付けている女性はため息をつき、厳しさをさっきよりも含めた目で、長身の女性に詰問する。融通が利かなさそうな、真面目な人だけがするような顔で。
「本当に聞いてます?」
「聞いてませ――ます」
思わず本音をこぼしそうになって慌てて訂正する赤髪の女性死神――小野塚小町は危ない危ない、と冷や汗をたらして頭を下げた。
小町は頭を起こし、目の前の人物を見ながら、休日はあんなにかわいいのに何で仕事のときだけこうなのだろう、と頭を悩ませていた。普段からもっと肩の力を抜けばいいのに、そうすればかわいいですよ、とニヤけるのだが、
「何笑ってるの!」
怒られてしまった。即座に小町は鬼の上官の正面に立つ新人兵士のような真面目な顔になり、すいませんとまた頭を下げた。
しかしその表情はすぐに変わった。笑ったのだ。地面を見つめたまま忍び笑いをしている間、彼女の正面に立つ上司はずっと説教の言葉を届くはずのない彼女の心に呼びかけ、必死に訴える。
言うまでも無く、無駄であるが。もしかしたら正面の上司も彼女に自分の説教が届いていないことに気付いているかもしれない。いや、多分――絶対気付いているだろう。それでも説教をするというのは、ご苦労なことである。
「四季様、仕事はいいんですか?」
名前を呼ばれた上司――四季映姫・ヤマザナドゥは部下の言葉に小さくため息をつき、さきほどよりも威厳のある顔つきで言葉を即座に放った。映姫はこれが小町の逃げ道だと知っていたからであろう、すでに道は通行止めにしていたのだ。
「あなたとは違いますから、もう済ませてきました」
完全に詰んだ。小町は心の中で白い旗を掲げ、どうにでもなれと自暴自棄になった。
「そうですか、はははは、ゆっくり聞けますね、嬉しいなあ!」
(はあ、今日はどのくらいかな……)
棒読みの台詞と心の中は反対のことを主張していて、小町の顔は引きつっていた。嬉しい、というのはもちろん建前である。当然上司もわかっているだろう。長年の付き合いだから。
「あらそう、じゃあ今日はいつもより長めで行きますよ」
墓穴を掘った発言を悔い、小町はどこかのメイドのように、時間を操ることが出来たらいいのに、と切実に願うがそんな一人の死神の願いを誰が受け入れるだろうか。
都合のいいことなんてそうあるわけないな、休日にならこの人とのんびり、いつまでも、時間を止めてでも過ごしたいのに、可愛いし。と心の中でぼやく。
小町は映姫から目をそらし、そのあたりに咲いている花を見、どれが映姫に似合いそうかを考えていた。映姫なら、可憐な花だろうか。
チューリップか? そういえばチューリップって何語なんだ? 小町は映姫の説教を追放し、チューリップについて脳内で議論を始める、命知らずなことだ。
映姫から目をそらし、花をずっと見ていた小町は一瞬、背筋を何か冷たいものが物凄い速度で駆け抜けるのを感じた。視線に似ているが、あまりにも白く、冷たい。その白くて冷たいもののせいで、小町は小さく悲鳴を上げながら背筋を棒のように伸ばした。
恐る恐る、彼女の上司に目をあわさないように彼女の足元を見た。目を見ると動けなくなるからだ、これから起こる恐怖で金縛りになることと、彼女の可憐なかわいらしさにときめいて。
しばらく、経った。どのくらいだったかはわからない、もしかしたらほとんど経っていないのかも知れないが、映姫は決して言葉を発することはなく、自分のだんだんと荒くなる息の音しか小町の耳には入らなくなる。
追い詰めら得ている側の小町にとってはとても長い時間に感じられ、時間が経つたびに嫌な汗が体中を伝ってゆく。早く喋ってくれ、小町がそう心の中で叫んだ刹那、大きめのため息が聞こえた。
「どうせまともに聞いていないでしょうね」
ぺしぺしと棒で小町を小突く小町。やがてそれがだんだんと、しかし確実に強くなってゆき、たんこぶがひとつ、小町の頭に現れた。いつものことなので特に痛がる様子も無く、安心したように映姫と視線を交える。
その瞬間。
「きゃん!」
映姫の手が恐ろしい速さで小町の額に伸び、指が小町の額を打った。映姫特製、デコピンである。打たれた額は円状に真っ赤になっていた。
映姫はもだえる小町を見て、少し微笑んでから、声を掛けた。
「今日はもういいですから、早く仕事に戻りなさい」
「はい、わかりました!」
嬉しそうに立ち上がり、映姫に背中を向けて飛び立つ死神。今日の説教はいつもよりもかなり早めに終わった。
長くすると言っていたのに、四季様は優しいなと思ったが、口には出さず心の中にしまいこんだ。
「まったく……」
おそらく説教のために過ごした時間はお互いに無駄に終わったであろうが、満更でもない様子で見送る映姫。当然、「ちゃんとやるのですよ」という言葉を背中に投げかけて。それに対して「へいへいほー」と適当に返す死神、それがこの二人のいつもの光景、そして日課である。半日課と言うほうが正しいかもしれないが。
「あ、そうだ!」
「はい?」
小町が突然振り向き、映姫の方に笑みを浮かべて何度目になるだろうか、にやけた笑みで用件をさっさと伝える。
「明日はピクニックですからね、四季様、お弁当忘れないでくださいよ~!」
「はいはい」
こういうことだけはしっかり覚えている部下に、映姫は少し呆れたが、表情は穏やかだった。
「……忘れるはず、ないわよ」
地面に一言呟き、周りを見回す。小町が飛び立ったのを確認し、映姫はひとつ頷いた。
「ふぅ……私も戻るとしますか」
映姫はため息をひとつ付き、飛び立ってゆく。もうすでに疲れてしまった。手間を増やさないで欲しいものだ、と映姫はだらしない部下に苦笑する。
いつものように、小町を見送った映姫も職場に帰る。だが、ひとつだけ違うことがあった。彼女たちの行動の一部始終を、ずっと監視していた人物がいたのだ。
お互いのことだけを考えていた二人は、背後から監視する見知らぬ人物には気付くことは無かった。その人物は小さく唸り、『四季映姫』と書かれた名前に小さく赤い斜線を引いた。
血のように、不吉で紅い斜線を。
★
非常に暇である。貧乏ゆすりをして、ひたすら来るべきものたちを待つが、そんな都合よく来ることは無く、彼女は立ち上がった。椅子が盛大な音を立てて真後ろにひっくり返り、ちょっと驚いて椅子を戻す。
「……小町、またサボっているのですね?」
そう考えて、自らを抑える。よく考えたら、どの霊から運ぶのかに迷っているのかもしれない、そうだ、そうに違いない。
……当然、映姫は自分が動きたくないから都合のいいように解釈しているのだが、そう納得したくなるのも無理はない。
明日から黄金の一週間、先程小町と話をしていたように、彼女はその時間に小町と宿泊ピクニックに行く約束をしており、有給休暇をその一週間付近に集中させた。そのため最近は目が回るほど働き、睡眠をほとんどとっていないのだ。
要するに、非常に疲れている、そして眠たい。勤務時間にちょこちょこ休みを取っている彼女の部下と違って。だからあまり動きたくないのだ、当然であるといえる。それに、出掛けている間に霊とすれ違って待たせることになれば、かえって迷惑になる。
「はあ……早く来てください……」
元気なく、椅子に力なくもたれる。この体勢、思ったより疲れが取れる。映姫は誰も見ていないにもかかわらず手を押さえて出てきたあくびをかみ殺した。無理に止めたあくびによって涙が目尻にたまった。
四、五回瞬きをして涙を瞳に塗りつけると、視界が歪んだ。さらに瞬きをして涙を目になじませる。
先程出したにもかかわらず、またあくびが出てきた。今度は止められず、目から先程よりもたくさんの涙が目を満たす。
それをそのまま放置し、映姫は何もせず、ぐったりともたれていすに座っていた。
疲れていたことに加えて、じっとしていたせいであろうか、だんだんと彼女のまぶたが重くなってくる。一瞬まぶたが落ち、体が前かがみになるが、急に首が傾いたことに驚き、目が一気に醒める。
覚醒したかと思ったのだが、まだ眠く、再び睡魔が侵攻を開始する。とうとう、意識が半分睡眠をとりはじめる。しかし彼女の義務に対する責任の力だろうか、すぐに体が引き付けを起こして椅子が大きく揺れ、机に太ももを打ちつけて目が覚める。
「痛ッ……でもよかった、寝なくて……」
スカートを少しめくり、打ち付けた太ももを見ると、案の定赤くなっていた。ご丁寧に、ぶつけたところの型が残っている。
痛みを感じながら、条件反射のように太ももを優しくさすって、和らげようとする。半分寝ていたせいか、すぐに痛みはひいた。
彼女が太ももをさすっていると、扉のほうから開閉したときの音がなり、彼女は驚きつつも、これもまた条件反射のように厳しい顔をして「入りなさい」と声を掛けるが、誰も入ってこないし、入ってくる様子も無い。
「風かしら?」
歩いて扉のところまで行き、開いて外を確かめるが、周りには誰もいなかった。扉を閉め、周りをキョロキョロする。
視線をさまよわせ、裁判所中を見回すと、窓のところに何かが見えた。
「あら? どちらさ――」
窓の方から、誰かが覗いていたような気がしたが、映姫に見つかった瞬間、さっさとどこかへと行ってしまった。
「はあ……」
誰も来なかったことに嘆きつつも、さっきのことを思い出して赤面する。もしかして、誰かに先程の失態を見られただろうか、心配になりながら。
そんなことを考えていると、また、ため息をひとつついてしまった。
ため息のつきすぎは体によくないという。彼女は私、早死にするかなあ、と考えながらも、情けなくも勤務中に寝てしまった自分を叱責する。……という気力も無く、またひとつ、ため息が。少し鬱になった彼女であった。
目が醒めたので、まあ良かった、とポジティブに考えていたが。
結局、彼女は勤務時間まで椅子に座って貧乏ゆすりをしながら待っていたが、彼女の元の霊が来ることはなかった。
こうして、本日二回目のお説教が三途の川で昼寝をしていた部下に下るのである。
★
そして次の日の早朝。昨日の鬱だった彼女と反転した様子の映姫は張り切り、鼻歌を歌いながらお弁当を作っていた。無論、二人分のお弁当である。その時の彼女の顔が嬉しそうで、わずかに赤面しているのを見たものは誰もいなかった。
ピクニック、小町とピクニック、小町とピクニック、小町と、小町、小町、――。
彼女の考えは、徐々にピクニックから小町へと移り変わっていく。もちろん本人は気付いていないので、その点を指摘すると顔を真っ赤にして反論するだろうが。それでもさらに突っ込むと有罪判決を下されるだろう。
二人分のお弁当はかなりの時間を経て完成し、映姫にとってはこれまでの最高傑作な感じすらした。自信たっぷりに机の上に蓋を開けたまま置く。熱が残ったままお弁当を包んでしまうと、途中で腐る可能性があるからだ。
いつもは身だしなみ以外気を使わない、服に特に気を使う。自分に似合いそうなのをこの日のために購入しておいたのだ。大切に取っておきたかったので、まだ一度も試着していない。鏡を見て、変なところはないかを隅々までチェックする。
よし、と思ったところでもう一度よく考える。鏡では見ていなかった服の中、背後など……。そしてチェックしたことを自らの善行だったとほっとする。腰の辺りに、しっかりと値札が付いていた。
やれやれと思いながらはさみで値札を切る。
待ち合わせの時間までまだ少しある。その間新聞でも読もうと思っていつもおいているところを探すが、新聞は無い。彼女はその時、朝から郵便の確認をしていないことに気付く。
新聞を取りに行くという日課すら忘れるくらい今日のことで頭がいっぱいだったのかと彼女は嘲笑し、ポストへと向かった。
ポストから中身を取り出すと、新聞、宣伝チラシなどが入っていたが、それ以外に彼女の目を引くものが一つ入っていた。封筒である。手紙をあまりもらわないので、このようなものなどほとんど見たことが無く、興味本位で封筒をチェックした。
『四季映姫殿』
封筒に、それだけ書かれていた。間違えて配達したわけではないらしい。自分宛など珍しい、気になって封を開けると、一枚の折りたたまれた手紙が入っていた。
中身を見た瞬間、彼女の体が硬直した。夢であることが望ましい悲しい現実が信じられず、手がわなわなと震える。彼女はあまりのショックで足のバランスを失い、地面へと倒れこんだ。
乾いた土に、一滴、また一滴と雨でもないのに染みが付いていく。
「どうして……」
せっかくの楽しいはずの休日、邪魔するかのように無情な悪魔の手が彼女をとらえ、離そうとはしなかった。
『貴殿の免職を決定』
どうでもいい社交辞令が上部に並べられ、本題にはこのようなことが書かれていた。彼女は泣き崩れたまま、ショックで起き上がれなくなり、倒れたまま手紙の下部を読む。当然であるが、免職の理由が書かれていた。
『職務怠慢』
映姫は、おそらく核心であろう心当たりがあった。毎日毎日鬼ごっこしてるんだもの、当然よね。映姫はそんなことを考え、自らの行動を一つ一つ丁寧に思い出す。
なぜだかわからないが、自然と、小町のせいにする気にはならなかった。あれでいて、結構楽しかったのだ。失ってしまった時間の大切さが、今となってわかる。
どのくらい経っただろうか、彼女は泣き崩れていてわからなかったのだが、彼女は、すぐ前でひとつの足音が鳴り響き、その足音が徐々に近づき、早くなっていくのを聞いた。この顔を見せたくなかったので逃げようと思うが、その人物が近づくほうが速かった。
「四季様!? どうしたんです!?」
小町が四季に駆け寄り、膝を突いて四季に顔を近づけようとする。膝をついたとたん、小町の膝が濡れた。まわりは土ぼこりが舞うほど乾燥しているのに、と小町は考えたが、それが映姫の涙であることはすぐにわかり、徐々に怒りの表情になってゆく。
「誰が泣かせたんです、こうなったらあたいが!」
激情して立ち上がる小町の服を映姫を掴み、制止する。小町が何事かと映姫の方を向いたのだが、険しい表情でのその視線は睨んでいるようにも見える。
「何でもないの、ただ目にごみが――」
「ゴミが入った程度でそんなに涙が溢れるわけないでしょう! ん? なんです、それは」
映姫の、服を掴んだほうの手に手紙が握られていた。小町は映姫から手紙を取ろうとした。それに気付いた映姫が手を戻し、小町に渡すまいと女々しく抵抗する。
「あ、駄目、何でもないの!」
なんでもないはずが無いだろう、と言いたげに小町はその手紙に興味を示した。
「その手紙が原因ですか、よっと」
距離を操り、映姫の手にある手紙を吸い付ける。映姫は手紙をとろうとして、勢い余って地面にへばり付いた。
映姫が読まないで、と小町に懇願するが、小町はそんな声に耳を貸さなかった。
「……何だこれ!?」
小町が驚愕の声を上げ、手紙を力を込めて握りつぶす。小町の心が、自責の念でズキリと痛んだ。
手紙を握りつぶしたのは、その手紙を書いたものに対する怒りと、小町個人の八つ当たりだろう。
「なんだよ職務怠慢って、それはあたしだろ! 四季様は関係ない!」
映姫とは対照的に、小町は映姫に背を向け、雄雄しく吠えた。その様子を涙を浮かべ、レンズ越しで見ているような感覚を覚える映姫。
「四季様は……関係ないッ……!」
二回目の小町の声が震えている。声も弱弱しく、俯いて肩も震えている。映姫から背を向けているのだが、映姫にとっては都合がいい。震える背中の向こうにあるその顔だけはどうしても見たくなかったからだ。映姫には、何となく、と言うより嫌でもわかっているのだから。
「!?」
とてつもなくすばやい動きで小町は振り向き、映姫を胸元に引き寄せた。
「ごめんなさい……、四季様……!」
映姫の頭に、一、二滴の液体が落ちる。映姫は上を向かず、
「いいのですよ、あなたのせいじゃないです」
小町をさらに強く抱きしめた。
★
「……落ち着きました?」
いつの間にか立場は逆転し、小町は映姫に膝枕をされている形になっていた。
「四季様、これからどうするつもりです?」
「……」
映姫は答えるのに少し時間が欲しい、と言いたげに小町から目をそらして俯き、少し暗い顔になった。
「……やはり――」
いつまでこの悲しい沈黙が続くのだろうと小町が思った瞬間、映姫は口を開いた。
「――仕方ないですね、残念だけど」
小町には映姫の精一杯の笑顔が痛々しく映った。小町は体を起こし、視線を映姫の美しい瞳に合わせ、大きく深呼吸をする。
そして映姫の前に正座し、一言、深々と頭を下げて映姫に謝った。
は? と映姫が思ったのもつかの間、突然彼女の頬に熱くて、鋭い痛みが走った。大きな乾いた音が、彼女の耳に飛び込む。
突然のことに驚き、反射的に痛みがしたほうと反対のほうを向く。何が起こったのかわからず、映姫は痛みが走った頬を押さえ、呆然と小町を見上げる。
小町の顔は、険しく、見たこともないような表情だった。
「何言ってんですか! 四季様が裁判長を辞める、そんな事このあたいが許しませんよ!」
映姫は今まで聞いた事のない、いや、誰もが聞いたことのないであろう迫力の小町の叱責に驚き、口をきくことが出来ない。
敬語であるが、聞いているものの心に直接訴えるような、激しい怒り――否、想い。映姫の頬に感じられる熱さが小町の現在の心の中に燃え上がっている怒りと彼女の対する想いの熱さなのかも知れない。
「小町……?」
「四季様が裁判長、そしてその部下があたい、その仲を引き裂こうなんてたとえ四季様に命令できる立場の奴であろうと許しません! あたいたちは退職するその時まで、いや、死ぬまで一緒です!」
小町は自らのありったけの想いを映姫にぶつけ終わると、荒く呼吸をする。そして今度は優しく、落ち着いた声で、
「四季様、手紙には仕事が出来るのは一週間後まで、と書いてありました。これから一生懸命やって見返してやりましょう!」
「でも……」
「まだ言いますか、早く職場に行ってください、すぐに三十人分くらい送りますから!」
小町はそれだけ言い残すと、今まで見たことのないような速度で飛んでいってしまった。残された映姫は、小町が見えなくなるまで座り込んでいたが、やがてはっとしたように、
「私も……準備しなきゃ……」
★
その日から、彼女たちは一生懸命働き、かつてないほどの仕事をこなしていった。
もちろん彼女たちにとってははじめての仕事量であったが、映姫は絶対にやめたくはない、小町は絶対にやめさせたくない、という鉄の意志によって折れることはなかった。
やることが多い日の時間が流れるのは恐ろしく早く、すぐに映姫の仕事の最終日を迎えた。
三途の川、ここでは死神が次に運ぶ霊を選択していた。
「あんたに決めた、早く乗りな!」
小町は一人選んで舟に乗せ、かなりの速度で川を渡りだす。恐ろしく早く、到着した。
「ごめんな、いつもならゆっくり話をするんだが今日は急いでいてね――到着したよ、なあに、そんなに緊張しなくていいって!」
霊が安心したように頭を下げ、小町に背を向ける。それをいつもより短く確認すると、猛スピードで舟をこぎ始めた。
「はあ、はあ……これで三十五人目!」
(四季様……)
頭に浮かんだ上司を、頭の片隅に強引に押し込める。今は彼女のことを考えている場合ではない、それが彼女の判決であった。
「おや、今日はやけに一生懸命な……詳しく聞かせてもらえませんか?」
小町の横には、いつの間にか新聞記者が付いており、舟を追いかけている。流石最速を誇るという新聞記者である。小町は嫌なやつに出会った、と顔をしかめた。
「悪い、今構ってられないんだ!」
小町はさらに速度を上げ、霊たちの待つ岸へと戻ってゆく。流石に文でも追いつくことは出来なかったのだから、かなりの速度である。
「あやややや……どうしたことでしょう?」
唖然としたその表情はすぐに不敵な笑みを浮かべ、彼女の首から提げられているカメラが不気味に光った。
「新聞記者として、やるべきことはひとつ、よね。何十年かかっても、ベストショットは逃しませんよ」
★
「はい、次の者――」
映姫は昨日の疲れも忘れ、目も回りそうな仕事を一つ一つ丁寧に、さらには公正に、されど俊敏に霊を裁く。
「はい、次の者――」
裁判所の前には霊たちの長蛇の行列が出来ていた。映姫が小町の仕事量に追いついていない、そういった信じられない状況を列の長さが言葉を使うことなく語っている。
「次の者――」
罪が重いものにも軽いものにも厳しく、されど優しく助言を与え、説教をする映姫。その姿はまさしく裁判官のものであった。いや、裁判官の鑑であった。
ここに小町がいれば、こんな立派な裁判官を辞めさせるなど許せたものではない、と間違いなく言っただろう。
映姫は小町のことを頭の片隅に置きつつも、正しく白黒をつけてゆく。彼女ほど白黒つけるに適している人物は、他にはいない。決して、曖昧な灰色の判決は下りることはないのだ。
だからこそ、霊たちは緊張しつつも安心して裁きを受けることができる。
(小町……)
頭の中に浮かんだ死神を、頭の中の片隅にしまいこむ。それが、彼女の頭の中で下された判決だった。
「次の者――」
★
「ふぅ……」
誰もいなくなった裁判所、映姫は小さくため息をついた。
流石に疲れた、総計八十七人という、かつてないほどの量を裁いた。先程から誰も来なくなったのは、先程小町が最後の霊をつれてきて、映姫の顔色を見て驚いたからである。
映姫の顔はやつれていて、小町はこれ以上仕事を続けられないと判断したのだ。映姫は嫌がったが、疲れているであろう小町の事も考慮して、仕事は終了した。
小町はというと、先に映姫の家に戻っていった。今日は映姫が大変だから、という事で小町は映姫の家で食事を作ることにしたのだ。
「帰ろう……」
疲れた体を引っ張るかのように、自分の家に向かう映姫。これで、彼女の仕事は終わった。これでどこかで監視していたであろう彼女の解任を決定したものも、取り消してくれるといいのだが。
彼女は「甘い考えよね」、と考えながらも、どうなっても後悔することがないように、最後に長い年月勤めた裁判所に向かって深々としばらく一礼した。
★
「美味しいですか?」
「ええ、とても。小町も上手ね」
「そりゃ、一人暮らししてますから。このくらいは出来ますよ!」
二人は食事を楽しみ、他愛のない話に華を咲かせていた。間違っても、明日のことは話しに出さない。
明日、映姫の家に例の人たちが来て、最終決定が出される。この一週間、一生懸命働いたのが認められれば、映姫は裁判長の資格を剥奪されずにすむかもしれない。少なくとも彼女たちはそう願っている。
映姫の判決が下るのは、明日。
いつもは裁くものが裁かれる、映姫は不思議な気持ちであり、緊張していた。知らず知らずの打ち手が震え、摘んでいたおかずをテーブルに落とす。
「四季様~またですかぁ? もうちょっと握力つけたほうがいいんじゃないですか?」
「握力って……いいのよ別に」
「まあ、ひ弱な四季様のほうが可愛いか」
すべての血を顔に集中させたかのように、映姫の顔が真っ赤になる。赤い、いや紅い顔が、限界点まで来たとき、彼女の体からは先程とは違う震えが生じた。
「な、何言ってるのあなたは!」
「きゃあ怖い怖い」
舌を出してニヤニヤする小町。映姫は箸で小町の頭を小突き、まったくもう、とそっぽを向いた。その時映姫はふと気付いた、いつの間にか手の震えが止まっていることに。
そっぽを向いた顔が一瞬喜びの表情になる。
(小町、ありがとう……)
「何笑ってるんですか……きゃはっ」
小町はかわいらしく笑う。その様子を見る映姫もまた、笑いがこみ上げ、最初は小さく、徐々に大きく笑い出す。大きくといっても高が知れているが、その笑いにこめられた喜びの気持ちは決して小さくない。
「そうだ、四季様! 今度の休暇に一緒にピクニック行きましょうよ、この一週間はいけなかったし!」
「え、でも私は……」
「行きましょうよ、ね!」
小町の口調は強く、有無を言わせない。でもその目は「お願いですから、四季様」と言っている。
「……ええ、行きましょう!」
「やった!」
小町は踊りださんばかりの勢いで喜びだした。心はすでに躍っていたが。映姫もまた喜ぶが、その喜びには少しの影が差していた。
(これで……約束を守れなかったらこの子はがっかりするかしら……)
起こらないと信じ、起こらないで欲しいその悪夢のような出来事を考え、映姫は自分を叱責する。なぜこんな時にそのようなことを考えるのか、と。
「四季様?」
「え、ああ何でもないのよ。小町、そろそろ寝るわ」
「じゃああたいも寝ます」
二人同時に大きなあくびをする。映姫は口をふさぎ、小町は口を開けたまま。ぶわーと顎が外れそうなほど、大きく開かれた口を見て、映姫は悪戯を思いついた子供のようにかわいらしくニヤける。
「……えい」
「ふごおっ!?」
映姫は口を開けたまま大きなあくびをしている小町の口に、ティッシュを丸めて放り込んだ。突然の異物進入に、そして攻撃されるはずのなかった人物からの攻撃に小町は驚き、間違えてティッシュを飲み込んでしまった。
「けほけほ、四季様、ひどいですよ~」
文句を言うが、顔は嫌そうな、怒った顔もしていない。心から、笑っている。当然映姫も、同じ顔をしている。
「やっぱ四季様はこういう顔のほうが可愛いですよ」
「なっ!? 何を言うんです、さっきから!」
何度目になるだろうか、このやり取りは。またもや彼女の血が顔に集合する。さっきまでとは違うのは映姫が箸ではなく、拳でぽかぽか殴りかかってくることだろうか。
「あ~痛い痛い、有罪有罪」
小町は殴りかかってくる映姫に好きなだけ殴らせながら、ぶつぶつと文句を言う。当然、冗談で言っているのであるが。
殴りながら映姫の口が一瞬開いた。
「小町、ありがとう……」
「え?」
「何でもないですッ、寝ますよ!」
ひときわ強く小町の頭を殴ると、映姫は寝室へと向かっていった。その表情は、とても紅い。
「待ってくださいって、どうせ同じ部屋でしょ~」
映姫はさっさと布団の準備をし、布団の中にもぐりこんでそっぽを向いてしまった。
ベッドはなぜか前から二つある。もしかしたら映姫のことだからずいぶん前から用意していたのかもしれない。
小町は右のベッドに入ろうとしたが、突然映姫に呼び止められた。
「小町……」
「はい?」
映姫が突然、まだ紅いままの顔で振り向く。その顔が、寂しそうな、しかし満足げな顔になり――。
映姫は小町の肩に手をかけた。咄嗟に小町はデコピンされるのかと思い、少し構えた。その様子を映姫は面白そうに微笑み――。
「……は?」
小町の唇に、柔らかいものが触れ、小さな音が唇から聞こえた。小町は立ったまま驚きで呆然とし、時間が止まったように動けない。映姫はというとすぐに小町から離れ、顔を合わさないように背を向ける。一瞬見えた彼女の耳は、トマトのように真っ赤になっていた。彼女は「おやすみ」、と吐き捨て、布団の中に飛び込んでしまった。
(可愛い方だよホントに……)
小町とは反対のほうを向いている映姫の頭を見て、そう思う。止まっていた時間が動き、小町の頬にも、少し遅れているが徐々に赤みが差す。
(絶対、残ってくださいよ……)
小町は目を閉じて神に祈る。彼女もまた、ある意味神であると言うのに、さらに神に祈るというのも不思議な話である。
しばらくは右を向いて映姫の方を観察していたのだが、小町のほうに後頭部を見せたままの映姫の体が、小さく上下している。小町は寝ちゃったか、と残念そうに思い、体を左に倒した。
「あだっ!」
しかし左には壁があることをすっかり忘れていた。壁に思いっきり激突し、しばし意外な痛みに悶絶する。割と大きい音がしたのだが、映姫は目を覚ますことはなかった。
(やれやれ、よっぽど疲れていたんですね)
痛い左足を摩り、小町は映姫に笑みを向ける。
(でも、一日の最後に見た四季様の顔が笑顔でよかった)
(……四季様の唇、柔らかかったなあ)
小町はもう一度微笑み、先程の出来事をもう一度思い出して眠りにつこうとしたが、興奮してなかなか寝ることが出来なかった。
★
「んごごごご……きゃん!」
突然ベッドから左足が落ち、一瞬で目が覚める小町。起き上がって左のベッドを見ると、すでに映姫はいなかった。
「あれ? あたい……」
左のベッドはというと、映姫が寝ていたというのが信じられないくらい荒れはてていた。布団は半分床に落ち、シーツはシワシワのまま、枕はどこに言ったのかはわからない。よほど慌てていたのだろうか。
「ん? あれ?」
何か違和感があったが、それに気付けない。なんだろうか、と考えるが寝ぼけた頭、何があったのかなど思い出せるはずは無かった。
それに加えて、昨日の寝る前のことがよく思い出せない。寝ぼけたような、あるいは目が覚めているにもかかわらず混乱した頭のまま窓の外を覗くと、光を送り込む太陽がほぼ頭上に位置していた。
「ヤバッ、寝過ごした!?」
最近の癖で朝は早起きであった小町、昼に起きるなどとんでもないことだと彼女は考えていたため、彼女はとにかく慌てた。
ベッドから飛び起き、すぐに居間に向かう小町。居間には、誰もいなかったのだが、代わりに机の上に朝食と思われる食事が用意されており、ラップがかけられていた。そして、その隣には――。
「手紙?」
小町はいい香りのする『小町へ』と書かれている手紙を開いた。かすかに感じた、嫌な予感を振りほどきながら。
『突然いなくなってしまってごめんなさい、朝起きたらびっくりしたでしょう?
朝食を作っておいたから食べてね。
時間がないから急ぎますけど、あなたが寝ている間に私のことをどうするかを決める人たちが来ました。
結果は……残念、私は免職されたわ。
でもしばらくすると裁判を受けさせてもらえるそうだから、その時に認められたら私は復帰できます。
だから安心して、必ずあなたの元に戻ってきますから。
今までありがとう、ここ一週間のあなたもよかったけど、今までのあなたはとってもいい死神だったわ。
ひょっとすると私は、仕事をサボっているようなあなたのほうが好きかも知れないけど、仕事はこれからも真面目にやりなさいね。
しばらくは会えないけど、あなたはあなたらしく、死神の仕事を全うしてね。
それが今のあなたに出来る善行よ。
それと小町、人のベッドに入るときはちゃんと許可を得なさい。
いきなり入られるとびっくりします。
ちょっと話がそれたけど、最後にこれだけ質問します。
小町、あなたは私のこと好きですか?
白か、黒で決めてください。
白なら好き、黒なら嫌い、間違えないでくださいよ?
次に会うときまでに、決めておいてください。
ちなみに私は……次に会うときまで内緒です。
小町、本当に今までありがとう。
しばらくは、さようなら。
四季映姫』
「四季様……」
小町はその手紙を読み、なんともいえない気持ちが心を満たしていくのを感じた。
「そんなの……白に決まってるじゃないですかッ……!」
本人がいない今、涙声であるが、はっきり質問に答えることが出来る。小町は我慢できずに頬を伝った涙を拭き、映姫のことをもう一度思い出す。
自分のことを怒鳴りつける映姫、可愛いといったときに真っ赤になる映姫、一緒に出掛けたときの嬉しそうな映姫、昨日初めて見た、泣いている映姫。最後に見た映姫の笑顔、そして、昨日自分に唇を捧げたときの映姫。
どれも、どれも映姫との大切な思い出だ。ひとつとして、忘れることが出来ない。彼女は今、とてつもなく遠い場所にいる。しかし――。
「きっと、帰ってくる……!」
小町は悲しみで握りつぶしたくなった手紙を折り目どおり丁寧にたたみ、ポケットにしまった。
「あたい、待ってますから!」
小町は、映姫の残した最後の親切に、そっと手をかけた。
「やっぱり、あの人は上手だな……」
冷めているが、味は悪くない。むしろ、自分の料理は冷めている映姫の料理にすらかなわないような感じを小町は覚えた。まさか、これほどのものだとは。
「四季様、これからも食事を作ってくださいよ」
そう呟きながら、空っぽの茶碗を持ってご飯を掬おうとしたときに彼女は気付いた。何かが茶碗を転がっていることに。不思議に思って彼女はそれを指でつまみ出す。
「……ははっ」
茶碗のそこに転がっていたのは、わずかに灰色がかかった、綺麗な真珠だった。完全な白ではないところが映姫らしい。
「素直になりなさいって……」
小町はここにいない映姫に小さくお節介にも思える助言をし、真珠を手紙と同じポケットにしまいこんだ。
「今日も、仕事頑張るか! ちょっとサボりつつ!」
★
「次のお客さん! 乗った乗った!」
手を招いていた小町は、霊が戸惑ってなかなか乗ってこないことに軽く苛立ち、霊を引っ張って船に引きずり込んだ。そのまま有無を言わせず全速力で川を渡る。途中霊が振り落とされそうになったが、何とか霊は落とされずに対岸まで到着した。
「ほら、緊張しなさんな! 頑張っておいで!」
微笑んだ霊を見送り、小町はもう一度引き返す。今日の彼女が定めたノルマはあと二人、ずいぶんはかどっている。
映姫が裁判官を免職してから、十年は経った。小町は、五年までは数えていたのだが、だんだんと馬鹿らしくなってやめた。だから正確な年数はわからないが、彼女は今日もまた、忙しい一日を送っている。
新しい裁判官は、映姫よりもウマの合う人だった、十数年前の小町と、だが。多少おちゃらけた感じも、時々裁判をサボったりする様子も、まるで十数年前の自分を見ているようだ、と小町はたまに考えて苦笑いする。
映姫は今頃どうしているのか、と小町はいつも考えているが、すぐにその考えを仕事に切り替える。あまり考えすぎると会えないのが辛くなるからだ。
「……おっとっと、次! 乗った乗った!」
完全に切り替えたつもりだったのだが、そうではなかったらしい。ボーっとしていて岸に舟をぶつけてしまい、小町の体がよろけた。反射的に片方の足が岸を踏みしめ、事なきを得たが小町は自らを嘲笑する。まだ、四季様に執着しているのかあたいは、と。
その思いを振り払うため、さっきより強めに霊を呼びつける。今度の霊はすぐに舟に乗って来た。しかも、かなり明るい。そして……小町に性格が似ているような気がする。
「お客さん、そんなに嬉しいかい?」
他愛のない話に華を咲かせ、映姫の事を忘れようとする。どうせこの人を含めても残りは二人、焦ることはない。小町はさっきの人までは急いでいたにもかかわらず、ゆっくりと舟を進めだした。
しばらくはおあずけにしていた、幽霊との雑談を楽しむ。波瀾万丈の彼の人生は実に興味深いものだった。小町は久しぶりに、仕事をしつつ霊と雑談するという楽しみを思い出し、ついつい船の速度を落としてゆき、なかなか岸に到着しなかった。
「やっと着いた、悪かったねお客さん、時間かかっちまって」
反省の色を見せない笑ったままの表情で、霊に謝罪する小町。霊のほうもまんざらではない様子だ。それどころか別れを惜しんでいるかのように見える。
「頑張っといで!」
「またサボっていたのですか、小町」
「はい、あの霊との雑談が楽しくて…………あれ?」
首が千切れそうな勢いでさっきの霊を見送った角度の右90度の方向を向く小町。その際首が嫌な音を立てる。
まず最初に小町の目に入ったのが、春の草原のような緑の髪、次に目に入ったのが、かわいらしい大きめの瞳。それだけで、小町は確信した。さらに、とどめとして数年前から変わらない、服装と帽子。
時間が止まったような感覚に小町は陥り、固まったまま身動きが出来なかった。小町の前に立つ彼女が、そっと手を伸ばし、小町の額に狙いを定める。
「きゃん!」
いきなりデコピンをかまされ、彼女の性格とは裏腹の可愛らしい悲鳴を上げる小町。その悲鳴も変わらないわね、と微笑むデコピンをかました人物。
デコピンをされたほうはというと微笑む彼女と対照的に、額を押さえて痛みに悶えている。
「痛たた……この痛さ、間違いない……」
「……ただいま、小町」
「……お帰りなさい、『映姫』様」
お互いの名を呼び終わった瞬間、映姫は帽子が逆風で飛ばされるのも構わずに、小町の胸に飛び込んだ。みぞおちに飛び込まれて苦しさと体当たりの勢いで倒れそうになるものの、片足を後退させて転倒を防ぐ小町。
「あははっ、お帰りなさい、映姫様!」
「ただいま、小町!」
先ほどの挨拶をもう一度交わす。今度は、先程とは違いはっきりと。
映姫は裁判の結果、幻想郷担当の閻魔に復帰した。その話を聞いた小町は、現在の閻魔には悪いが、これ以上上のない喜びに満たされた。誰よりも素晴らしい上司が帰ってきたのだから。
二人が密着すると、小町の胸の辺りがちょうど映姫の頭の高さになる。映姫は小町の表情を見ることもなく、小町の肌の温もりを味わう。
何の前触れも無く――もしかしたら、小町がぴたりと黙り込んだのが前触れだったのかもしれない――映姫は頭に冷たいものを感じた。小町に抱きついたまま小町の顔を見上げる。
「……小町!」
小町は、泣いていた。揺れる瞳からまた一滴、映姫の頬に落ちる。落ちた涙は映姫の頬を伝い、大地に吸い込まれた。また、一滴。また、一滴涙が頬に伝う。しかしそれは小町の目から流れたものではなく、映姫の瞳からこぼれたものだった。
「もう、もう絶対離しませんから……! 離さないから!」
小町が先程よりも力を入れ、映姫をさらにひきつけて強く抱きしめる。その気持ちが伝わったのか、映姫もより強く小町を抱きしめる。映姫は胸に顔が埋もれて多少苦しいのだが、そんなことは二人にとってどうでもよかった。
映姫は頭が濡れるのを感じながら、小町は胸元が濡れるのを感じながら、お互いの気が済むまで手を離そうとしなかった。十数年ぶりのお互いを抱きしめた感覚を十分に満喫したかったから。
どのくらい、経っただろうか。永遠に続きそうな抱き合う二人は、突然水を差された。
乾いた音が二人より少し離れた場所から聞こえ、それと同時にまぶしい光が一瞬二人に注がれた――というより浴びさせられた。
「うん、いいですね、その表情! 小町さん、もっと引っ付いてください、そうそう、はい、もう一枚! うわー、いいです、ベストショットです! はい、さらにもう一回!」
もう一度、シャッター音とフラッシュが。
「……小町」
「……映姫様」
「「有罪」」
★
「はい、次の人~! え、この人? この人は裁判長だよ、あんたを裁く人じゃないけどな。まあ乗った乗った、両手に華じゃないか、ほらほら、赤くならない!」
最後の一人を舟に乗せ、舟を進める小町。映姫は舟に乗ったまま、にこにこしている。
舟はゆっくりと、進んでゆく。流石小町である、内気に見えたこの幽霊と少しの間過ごしただけで仲良くなっていた。さっきまでは小町が一方的に話しかけていたのだが、霊が突然小町に質問を始めた。
「どうした? え、川にカメラと人が浮いている? ああ、気にしなくていいよ、ただの雰囲気盛り上げるためのオプションさ」
霊にそう話す小町の顔は、「他のやつには言うな」と言っている。霊は黙って頷くしかなかった。映姫の方を向くと、映姫もまた、同じ顔をしていた。
彼らは再び三人で雑談を始めた。幽霊は、遠ざかってゆく、川に浮いている哀れな誰かに黙祷しながら。
ゆっくり進んでいたのだが、やはり来るべき時は来る。岸が見え、すぐに目の前に到着し、小町は舟を止めた。
「……着いたよ、頑張ってきな!」
小町は最後の客人に手を振り、見送った。霊は名残惜しそうに、しかししっかりと頭を下げて背を向けて立ち去った。
「さて映姫様、帰りましょうか」
「ええ」
舟をこぎながら、小町は映姫に話しかける。話したいことは沢山あるのだが、まずは手短に、長年の謎であった質問をしてみる。
「そういえば映姫様の手紙の最後に書いてあった質問、答えを教えてくださいよ。白か、黒で決めてください。白なら好き、黒なら嫌い、間違えないでくださいよ?」
紅潮した顔で映姫を見つめ、気体に満ちた瞳で小町は尋ねる。映姫はというと、紅潮する様子も無く小町のほうを面白そうに見ている。
「え? ――ああ、あれね。小町はどうだったのかしら?」
「もちろん白に決まっているじゃないですか~白じゃない人に初めての唇なんて捧げませんって! はい、ちゃんと言いましたから、映姫様もどうぞ」
ニヤニヤ笑いながら映姫に掌を差し出す小町。
「私は……灰色ね」
「な!? 酷いですよ、映姫様~! っていうかあたい、自爆ですか!?」
真っ赤になり、ガクッと舟の上でうな垂れる小町。
「恥ずかしいじゃないですか~!」
小町は顔をさらに紅潮させ、恨めしげに映姫を睨みつける。
映姫は勝ち誇ったような表情で、でもね、と付け足した。
「これからのあなたの頑張り次第で白になれるわよ」
「マジで!? よし、頑張りますよ~! 映姫様の仕事は明日からですよね? 明日は百人送ります!」
「そう? 期待してるわよ、ふふふ……」
映姫は、この子なら出来るかも、と優しい微笑みを小町に向けた。小町はその表情に、心臓が大きく跳ね、うっかり三途の川に転落した。
★
「小町! サボらない! 待ちなさい!」
「きゃん! ごめんなさい~!」
十数年前に繰り広げられた光景が、またこの場に繰り広げられる。お互いに必死に見えるが、それがどんなに楽しいことかと言うのは今の彼らには言う必要すらない、当然自覚しているのだから。
いつもの十数年前まで毎日――半日ごとにやっていたやり取りがこんなに楽しいなんて、と小町がにやけた瞬間、油断したのだろうか、映姫に服をつかまれてしまった。
「映姫様」
映姫に捕まって少し青くなった小町が一言呟く。遺言だろうか、映姫はもう片方の手でデコピンの構えを作りつつ、聞いてあげることにした。
「大好きですよ」
「なっ!?」
「きゃはっ、手が離れました、じゃあさようなら~!」
「ああ、こらっ! 待ちなさい、小町~!」
十数年前と変わらない鬼ごっこ、しかしその鬼ごっこの唯一の違いは、二人とも、笑っているということだ。
灰色の判決、それが白になるのは、いったいいつだろうか?
映姫が下したのは、
Gray Judgment
But, the color is almost white limitlessly.
あと、小町の「きゃん!」が結構ツボになりました。
しかし、ピクニックって一体どこにいくんだろう、とか思わずには居られない。
>じう様
確かにあの死神からあの悲鳴は耳を疑いました(実際に聞いたわけではありませんが)。
>■2008-04-29 19:53:53様
さっさと結婚してしまえばいいですのにね。
さっさと小野塚映姫に変えてもらいたいものです……もしかしたら四季小町?
>☆月柳☆様
ジャンルはほのぼので間違いないですか、よかったです。
確かにピクニックのことは書いてませんでしたね、適当に魔法の森とでもしておきましょうか。