Coolier - 新生・東方創想話

その日が来るまで...

2008/04/28 18:34:14
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幻想郷の秋が終わりを告げようとしていた。既に木枯らしが吹いたのか、妖怪の山や魔法の森を覆っていた紅葉の葉はとっくに飛ばされ、樹肌が露出した殺風景な情景が広がっていた。紅魔館周辺の樹々も紅葉が吹き飛ばされ、骨組みである樹と枝だけが、秋の終わりの物寂しい景色を語るようにたたずんでいた。紅魔館の湖の上では、一人の妖精――チルノが蛙と戯れていた。

「おーい!チルノちゃーん!」

空からもう一人の妖精がチルノのほうへやって来た。灰色の風景にひときわ目立つ緑の髪に、自分の身体幅の倍近くはある巨大な羽根をパタパタとせわしく動かす。チルノの友人の一人、大妖精だ。

「何ー?」

蛙を片手に大妖精のほうへ振り向く。

「明日、来るよ!!」

誰が来るかは大妖精は言っていない。だが、チルノは分かっている。誰が来るということを、まだ幼い思考のチルノでも十分分かっていた。









――――レティ・ホワイトロックが来ることを










----------------
 その日が来るまで… チルノ編
----------------



チルノにとって、レティのいない冬は嫌。そう思っている。




「わぁ、ゆきだぁ!」

気がつけばいつの間にか雪が降っていた。霜月の終わりに入り、いよいよ今年最後の月、師走に入ろうとしていたときのことだった。雪が降ってくるということはチルノにとっては非常に喜ばしい日であることを言うようなものだった。チルノはあまりのうれしさに感極まり、すぅ、と大きく息を吸った。そして、

「レティーーーーーー!!!」

それだけだったが、うれしい気持ちが他人が聞いてもひしひしと伝わるような叫びだった。すると、湖の奥から人影がすぅっと浮かび上がった。チルノは全速力で人影のほうへ行き、そしてだいぶ近づいたところで、思いっきり飛びついた。そして思いっきり抱きついた。

「レティ!久しぶりだね!!まっていたんだよ!ずっと!!」

レティの服を強く握りしめるチルノは、声が少しうわずっている。嬉し泣きをしているのだろう。よほど嬉しいらしい。

「チルノ。嬉しいのに泣くなんて貴女らしくないわ。……ほら、泣かないの。ね?」
「うん!でも……うれしくて、レティはあんまりここにこれないから、つい……」
「……分かったわ。だから、もう泣かないの。ね?チルノは強い子なんでしょ?」

チルノはその言葉を聞いてとっさに涙を拭った。

「あ、レティさん!久しぶりです」
「あら、大妖精。貴女も元気そうで何よりだわ」

レティは本当に嬉しそうな笑顔だった。レティは大妖精に目をやった。

「大妖精、ちょっといい?」

大妖精はいきなり呼ばれてちょっとドキッとした。レティの様子から察すると、何か重大な事を言おうとしているようだった。そんな様子からチルノの前では言ってはいけないような気が、大妖精は感じた。そして大妖精はチルノに言った。

「チルノちゃん。ちょっとレティさんと話があるから少しいいかな?」
「えー」
「でもちょっと大事なお話だからどうしても……」
「うー…。わかったよぉ」

チルノは渋々レティから離れ、どこかへ行った。レティはチルノが自分達の話していることが聞こえないくらいの距離に行ったことを確認した。そして、大妖精にそっと何かを話した。その話す顔は、どこか寂しげに満ちた顔のように見えた。







*   *   *









チルノが目覚めた頃は、大妖精しかいなかった。チルノは気になって大妖精に尋ねた。

「あれー?レティはー?」
「え?レティさん?えっ…と、多分まだ寝ていると思うけど……」
「なぁんだ。まだ寝てるんだぁ」

チルノはふと空を見上げた。空に浮く雲がゆったりと流れている。快晴、とまではいかないが、雪が降った昨日よりは明らかに空が明るく、陽も大きな雲の間から指し込んでいる。今日は暖かい日になるようだ。

「うわ!」

雲がゆっくりと流れる様子を見つめていたチルノの視界が突如暗くなった。

「うわー!前が見えないよー!誰?誰なのー!!」

目を押さえられじたばたとチルノはもがいている。

「誰なのー!大ちゃんなの?レティなの?どっちー!?」
「うふふ。誰だろうね?」
「あっ!分かった!レティね!レティなのね!!」

ぱっと視界が開けた。辺りが突然明るくなり、チルノは眩しそうに目を細めた。ゴシゴシと目をかきながら振り向くと、そこには何時もの穏やかな顔のレティがいた。チルノは目をぱっと輝かせ始めた。その顔は嬉しさに満ちていた。

「レティ!やっと起きたんだね?」
「あら?貴女と同じくらいに起きたけど……」
「へ?そうだったっけ?」
「ええ。そうよ」
「ふぅーん。レティもお寝坊さんだね!」

何気ない会話から穏やかさが見えたのはチルノだけだろう。『お寝坊さん』という言葉に、陰から見ていた大妖精が暗い顔でその会話を見つめていた。

「あ、レティに昨日渡そうとしたんだけど忘れてたよ!」

チルノはポンと手を打って思い出す仕草をすると、そそくさと水辺へ飛んでいった。チルノが完全に聞こえない距離まで行くと、大妖精がレティのところへ向かった。とても心配した様子で。

「レティさん、大丈夫ですか?」
「……実は、ちょっと……」
「やっぱり無理しないほうが……」

レティは首を横に振った。レティの目は、心配しなくてもいい、あんまり心配するとチルノにも伝わっちゃうから、と言っているような目だった。
そうですか…、と大妖精は心配そうにレティを見つめながらその場を去った。

「レティー!これだよ!これを渡したかったのー!」

チルノは無邪気な笑顔をしながら完全凍結された蛙を手に持ちレティの元へ飛んできた。
チルノのこの顔が見れるのも数えるほどなのね……。レティの心は少し寂寥の感に満ちていた。









*   *   *








今日も昨日と同じで雪が降っていない日だった。

「うわぁぁぁぁぁ。何するんだよぉ!!!」
「だーってあんた蚊じゃん!?だぁからキンチョー○ぶっかけてやんの!あたし蚊嫌いだからさ!!」
「そーなのかー」
「だから蚊じゃなくて蛍だってばぁー!!うぎゃぁぁぁ!!やめてくれぇー!!」

チルノが何時ものメンバー(橙、リグル、ルーミア、てゐ)で遊んでいる場所へ来た。

「あれ?チルノちゃん今日はいつもよりちょっと遅いね」
「え?あ、うん。あ、ねぇねぇ橙」
「何?」
「レティ知らない?」

橙は首を傾げた。レティは冬限定で幻想郷にやってきて、年中会えるような妖精ではない。ましてやレティの行動範囲は狭いため、紅魔館の湖より遠い場所で遊んでいる橙たちとはなかなか顔を合わすことは無い。当然橙が知るはずが無い。

「えーっと…。あたいが探している人は、う~んと……」
「レティなら神社のちかくに行ったよー」

大きな真紅の瞳を開け、口から可愛く八重歯を見せながら答えたのはルーミアだった。

「神社って、はくれいの?」
「そー。はくれいの。それにしてもどーしたの?チルn……」

そして誰かがいなくなった。リグルの悲鳴とキンチョー○のスプレー発射音が響いていた。








「レティー!どこ行ったのー!?返事してよー!」

空を飛びながらレティを呼ぶ。博麗神社には近づいてきたものの、やはりなかなかレティらしき姿は見当たらない。チルノはますます不安と焦りが募ってきた。幾らか飛び続けて、ようやく博麗神社に着いた。よっと、と鳥居を飛び越して神社の境内に着陸した。

「じゃあ。また何時かここに来るわね」
「そう。じゃあ気をつけてね、ってあれは……」

社から紅白に腋を露出した独特の巫女服を着た博麗霊夢と、チルノが必死で探していたレティが現れた。

「レティ!」

真っ先にチルノはレティの懐に抱きついた。チルノは離れないように強く、強くレティの服を握りしめた。

「チルノ……」

どうしてここへ来たと言わんばかりの顔のレティ。

「レティ。どうして、どうしてどこかへ行っちゃうの?あたい、あたいレティが居なくてすごく心配したし、すごく不安になった。レティが居ない冬を考えると、
 あたい、すごく寂しいよ……」

声がうわずっている。そうとう心配し、不安になっただろう。レティはバツが悪そうな顔をして自分の服にすがって泣くチルノを見つめた。

「ねぇ。チルノ」

レティはチルノの心を推し量るように慎重に口を開いた。

「チルノ、せっかく私を探してくれて、私のことを本気で心配してくれるのにとても嫌な事言うようだけど……」
「え?」

涙と鼻水を流しながら顔を上げた。

「チルノ、私、実は…………明日、ここを離れなくちゃいけないの……」
「え……」

チルノは目を丸くした。レティが、明日いなくなる。そう考え出すと自然と孤独感がチルノの心に現れた。

「なんで?」
「実はね。私、一度春まで大雪を降らせたことあるよね……。実はそれが原因で、雪を降らせる魔力が切れたの。あと一日降らせるところまでは回復したけど、 やっぱり長くはここに留まれない。来年の冬のためにもここから離れないと、四季に大きな影響を与えてしまう。チルノ、貴女にはかわいそうだけど、これは 幻想郷に住むみんなにとって大事なことなの。だから……」
「なんで!!」

チルノが強く声を張り上げた。頬から透明な雫が流れている。

「なんで、なんであたいにもっと早く教えてくれなかったの!!どうして!あたい、分かんないよ!どうしてレティはあたいに隠し事をするの!」
「でも、チルノ。私は貴女が悲しむようなことにさせたくないから……」
「もういいよ!レティの言い訳なんて聞きたくない!!レティのバカ!!もう知らない!」

チルノは全速力で神社から離れていった。涙を腕で拭いながら、チルノは湖へ飛んだ。レティが明日ここを離れる現実から離れたくなるように。
それを見つめていたレティは深くため息をついた。隣に居た霊夢はレティの肩をポンと優しく叩いた。仕方ない、と言うような目で。古びれた博麗神社の境内にはただただ、
葉の無い樹肌をむき出しにした樹々たちが寂しく立っていただけだった。






*   *   *







「……きて……チル……起きて…………」

途切れ途切れの声にチルノはまどろみながらゆっくりと起き上がる。チルノの瞼が赤く腫れている。泣いたのだろう、昨日。何時もより起きる時間が早い。まだまだチルノは眠っている時間に起こされたようだ。不機嫌そうに身体を伸ばし、全身の筋肉をほぐしていると、辺りはいつの間にか雪が降っていた。しかも辺りが霞むほどの。そして目の前には、レティが何時もの優しい顔があった。

「ごめんね、チルノ。こんな早くから貴女を起こして」
「……」

うつむいたままチルノは何も答えない。

「チルノ。昨日は急にあんなこと言ってごめんなさい。チルノには隠し事はしたくなかったのだけど、あんなことをはじめのほうに言われると貴女が悲しむと思って。 だからあえて隠したの。でも、昨日考え直したわ。そんなことをするぐらいなら言っておいたほうがいいと。騙されたり、自分だけ知らない目に遭うのは、誰でも嫌な 事だからね」
「レティ」
「ん?」

うつむきながらチルノはレティの名を言う。

「昨日は、あんなこと言ってごめん。あたいも、レティを探しているに必死だったから……つい」

途端にチルノは目から涙をこぼし始めた。すると、レティはチルノと同じ視線になってかがみこみ、服でそっと涙を拭いた。そしてレティは優しい顔で口を開いた。

「いいのよ、チルノ。元々は私の責任。貴女を悲しませたりしたのは私のせいだから」
「そ、そんな。レティのせいじゃないよ!あたいが、あたいがもっとレティに優しかったら、こんなことに……」

にっこりとレティは微笑み、チルノの頭を撫でた。辺りの雪は大粒でありながら静かに降り注いでいる。

「もう、泣かないのよ。ね?私はまた、来年来るから……。だから、もう自分を責めたりしないで……」
「レティ……」

そう言い残すと、レティは立ち上がり、その場を離れようとした。ぎゅっとチルノに手を握られた。離れないように、強く。

「約束だよ……」
「ええ。約束するわ……」

そう言い残し、レティは雪の降る中へと消えていった。

「絶対、だからね……」

チルノは一人でそう呟く。
その日の幻想郷は、今年最初で最後の大雪となった。まるで、チルノに少しでも寂しい気持ちを紛らわすかのようにだった……。










――――――それからまた次の冬の始まりの日。






















「レティ、ちゃんと約束守ってくれたね」

チルノは空を仰ぎながらこの湖へやって来るレティに言った。

今年の幻想郷の冬は、雪がまた厳しいものになりそうだ。













終わり
じうです。こういう系の小説初めてで、ちょっと話を作るのに困惑したりしました。
⑨は2回目ですけど、白岩さんは初めてで、キャラを熟知しているかどうか不安です。変なところがあったらご指摘お願いします。<(_ _)>
チルノ編とか書いていますが、おそらく次回作を作る予定です。果たして作れるのだろうか?(´ω`;)ゞ
じう
http://ziurarutaru.blog96.fc2.com/
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コメント



0.420簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
貴方の成長力には十分目を見張るモノがありますね。これは良い作品だと素直に言えます。
あえて難癖をつけるとするならば、リグル達の下りの部分。てゐはリグル達との絡みは殆どないし、キンチョールをぶっかけるような直接的な虐めはてゐの行動としてはやや違和感があります。

後、作品には関係ないことになってしまいますが、やはり貴方は他の作者様へのコメントにもう少し気を使うべきかと思います。
いくら貴方の作品が優秀なものであっても、そういったことで反感を買ってしまって正当な評価をされない。そういうことは十分ありえますし、すでに前回の作品もそのような評価が入っていたのを覚えています。

長文になってしまい、また少し上からの目線になってしまいましたがこのようなところでしょうか。これからも楽しみにしています。
7.無評価名前が無い程度の能力削除
変な文章が多すぎる。国語力が足りてない。
10.60野狐削除
はい、一回一回進歩しているのは目に見えてますので大丈夫ですよ。
今回はちょっとしたこととしまして、「!」や「?」のあとの一文はスペースを一個開けたほうがいいということを言います。言葉は中に一つだけ記号が入ると、とても詰まってしまっているように感じます。それなので、文中で先ほどの記号を使い、さらに言葉をつなげる場合はスペースを開けたほうが読みやすくなります。これは単純なことでも忘れやすいので、覚えておいてください。
キャラの設定に関しましては、まぁ難癖をつけるほどではない、といったところです。充分許せる範囲なので大丈夫ですよ。

ここからは↓の方も言ってるちょっとした礼儀のことです。堅苦しいのは苦手なのですが、とりあえずこれから先に無用なトラブルを巻き起こして作品を不当に貶められるのを見るのも嫌なので。
ここは『作品を投稿させてもらう場所』であり、『評価をしてもらう場所』であり、『作品を読ませてもらう場所』であり、『評価をさせてもらう場所』です。例えば貴方が私に『貴方には才能がある! 自信を持っていい!』なんていったところで信用が置けないですよね? むしろ『何をうぬぼれたことを言ってるんだ』とお思いになるかもしれません。匿名というのはそういうことなのです。
長く書き続け、自他共に認められた作者になればそのような言葉も許されるかもしれませんが、あまりいい感情は他の読み手にも与えられないでしょう。
単純に『ここがよかった』、というだけでも評価ですので、そこのところは気をつけて欲しいと切に思う次第です。ずうずうしい意見で長文を書いてしまい、誠にすいませんでした・
11.70朝夜削除
チルノとレティの喧嘩、ですか……素晴らしい発想です。
最後も私後のみの終わり方でよかったです。

短文になりますが、私からはこのくらいで。