Coolier - 新生・東方創想話

壊れない窓

2008/04/28 08:45:55
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「はぁ…」
最近、あの窓は壊れていない。
「はぁ…」
もう白と黒の彼女が来なくなってどれくらい経つだろう、図書館に来ないようになって数日は気にならなかった。
久しぶりに静かに本を読めると。それから二日、三日、四日…、途中から数えなくなり。どうせ気まぐれだろうと、またあの窓を壊して勝手に本を持っていくのだろうと。そう思っていた。



一ヶ月が経って幻想郷でも噂になっていた。



幻想郷からいなくなった、と。



どうせまたきのこでも探しているのだろうと皆思っていた。

二ヶ月経っても帰ってこない、アリスが私の所へ居場所を聞きに来た。そんな事私が知りたい。

三ヶ月経った、次は霊夢が居場所を聞きに来た。幻想郷にいないのは貴方が一番よくわかっているんじゃないの?

四ヶ月経った、皆いない事が当たり前のようになっている。

五ヶ月経った、もうずっと窓は壊れていない。

六ヶ月経って、アリスがまた来た。
「貴方は探しにいかないの?」
「私は研究で忙しいのよ」
「…そう」
それだけ言って帰っていった。

七ヶ月経った、いつまで待てばいいの?

八ヶ月経った、研究に没頭していた。

九ヶ月経った、アリスは諦めたのか図書館に来なくなった。

十ヶ月経った、逢いたい。

十一ヶ月経った、いつになったら逢いに来てくれるのだろう。

一年が経った、まだ来ない。


探しには行かなかった、身体が弱い事もあるしもし探して見つけてしまった時どんな顔をすればいいかわからない。見つけてしまったらきっと自分を抑えきれなくなってしまうから――

「失礼します。パチュリー様、紅茶を持ってまいりました。」
「ありがとう小悪魔」
毎日決まった時間に持ってきてくれる紅茶。
「魔理沙さん本当どうしたんでしょうね」
不意に小悪魔が言った。
「えっ?」
「え、いや、あの、…いつも窓の方を見ているものですから」
「そ、そう…」
私は考えている事が読まれたのかと本気で驚いた。そんなに見ていたのかしら。

別に寂しいわけじゃない。

ただ少し逢いたいだけで。

そう少しだけ。

「窓を壊されないし、本も持っていかれないのだから来ないほうがいいでしょう」
「あははっ、修理と掃除も大変ですからね。それでは失礼します」
そういって小悪魔は図書館を出て行った。
また一人の時間、この図書館を訪れる者は限られている。毎日紅茶を持ってきてくれる小悪魔。退屈だからといって本を探しに来るレミリア。定期的に掃除にやってくる咲夜。それ以外は一人。この図書館に来た頃と何も変わらない。白と黒の彼女が来るようになって騒がしくなったけど。それもなくなってしまっている。
「静かだわ」
昔に戻っただけ。
そう、自分に言い聞かせて。

――ガシャーン!ドンッ!バサバサバサッ

「えっ…!」
窓が割れる音。
本棚に何か当たって本が落ちる音。
頭より先に身体が動いて、倒れている本棚に近づいてみる。
「魔理沙!」
「いたた…」
そこには。
白と黒の。
天狗がいた。








◇◇◇

「何やっているのよ…」
「あややや、すいません。余所見をしたら突っ込んでしまって」
とりあえずメイドに片付けを命じ、事情を聞くために天狗を椅子に座らせた。
「はぁ…なんでまたうちに突っ込むのよ」
「いや~最近スクープらしいスクープがなかったもので、色々と飛び回っていましてね。そしたら雛さんとにとりさんが何やらいちゃいちゃしていたのでこれは写真に収めて記事にしようと」
そんな熱愛スクープ誰が読むのよ…
「まぁばれて逃げていったのですが、見つかったならインタビューをしてやろうと追いかけまして、それで紅魔館のほうまで追いかけてきたら、珍しい人影が眼に入ったもので、そっちに気をとられて窓に」
「珍しい?」
「ええ、珍しい人。あ、すいません紅茶のおかわりをいただけませんか」
天狗は喋るだけ喋ってのんきに紅茶のおかわりを要求していた。
「その人影って誰なのよ」
「魔理沙さんですよ、たぶんですけど」
えっ。
「もう1年くらい経ちますか姿をみなくなって。幻想郷でまったく姿をみかけなかったのですが、ちらっとあの帽子と箒が見えたもので。」
「どこで見たの!」
「えっ、ここに来るまでの森の中ですけど…」
ガタンッと勢いよく席を立ち走る。
「ちょっと、パチュリーさーん。まだ本人とは決まっていないのですが、…遅かったですね」







◇◇◇

また頭より先に身体が動いてしまった。
私は図書館を飛び出し、無駄に長い廊下を走りそのまま外へ抜け、唯一外に繋がる門を叩く。
「美鈴!」
「あれ? パチュリー様、珍しく外出ですか?」
「いいから早く門を開けて!」
「えっ、あ、はい!」
美鈴に門を開けさせる。
「どうしたんですかそんなに慌てて…って、行っちゃった」
何か言っている美鈴を無視して森へ向かって走る。
「はぁ…はぁ…」
屋敷が見えない所まで来てしまった。
なんで私は走っているのかしら。
空を飛べるのに。
久しぶりに自分の足で走った気がする。
そういえば彼女が図書館に来ていた時はこんな所で研究ばっかりしていないで外に行こうと無理やり連れ出されて、箒の後ろに乗せてもらっていたわね…
「もうだめ…」
屋敷からほんの少しだけ離れた場所に座り込む。
まったく体力ないわね…
「はぁ…」
何をやっているんだろう。
ごろんとその場に寝転んでみる。
木に覆われて空は見えない、薄暗い森の中を光が差し込んでいて、普段外にでないものだからものすごく新鮮で、神秘的に見えて。さらさらと吹く風に髪をなびかせて、なんだか悲しくなってきた。
「あ…れ…」
涙が止まらない。
拭っても拭っても止まらない。
「どうして何も言わずにいなくなってしまったの!?なんで逢いに来てくれないの!?」
我慢が出来なかった。


いなくなる前にもっと声を聞いていたかった。

いなくなる前にもっと触れていたかった。

いなくなる前に抱き締めたかった。

いなくなる前にキスをしたかった。

いなくなる前にもっと名前を呼んでほしかった。


いなくなった時すぐに探しに行かなかった自分が情けない。すぐに探しにいけば見つかったかもしれないのに。アリスと霊夢が来た時に一緒に探せばよかった。自分の感情に素直になればよかった。後悔ばかり残る。
「…こんなに泣いたのもいつぶりかしらね」
きっと目は赤く腫れているんだろうな。
ガサガサッ
誰か、いる?
「…っ! 魔理沙!」
人影は森の奥へ動いている。
「ちょっと! 魔理沙ってば!」
何度か声をかけても人影は止まってくれない。
「ちょっと…待って、待ちなさいと言ってるでしょっ!」
「月符!サイレントセレナ!」
周りの木々も巻き込みながら人影はいい感じに吹っ飛んでいった。






◇◇◇

「なんで…」
そこに倒れていたのは氷の妖精チルノだった。
「なんで貴方がその帽子と箒を持っているの?」
「いたたた…、いきなり吹っ飛ばしておいてなんなのさ!」
「貴方が紛らわしい格好をしているからでしょう」
「これはもう古くて使わないからって魔理沙から貰ったの!」

どうしてチルノに。

「いつ貰ったの?」
「えーっと、魔理沙がいなくなるちょっと前だったから1年くらい前?」
「そう…貰ったとき何かいってなかった?」
「んー、また探し物を探しにいくって。すぐには帰ってこれないけど絶対に戻ってくるって」

私には何も言わずに行ったのに。

これは嫉妬なのだろうか。

「帰る」
「ちょっと!吹っ飛ばしておいて謝りもしないの!?」
グチグチと文句を言っているチルノを無視して紅魔館に帰ることにした。






◇◇◇

図書館に戻り特にやることがないから本を読むことにした。
「今日は無駄に疲れたわね…」
昼間走ったせいか身体が重い。ページをめくるのも億劫になってきた。
瞼も重くなってきてうとうとしながら本を読み進める。



「…」











「…んぅ」

冷たい風が頬に当たる。いつの間にか日も沈みテーブルの蝋燭が静かに明かりを灯していた。

「お、起きたか」

誰…

「結構派手に窓吹き飛ばしたのに全然起きなかったな」

この声は――

「ん? まだ寝ぼけてるのか?」

目をこすってよく顔を見る。

胸が熱くなる。

「…魔理沙!」
「ちょ、なんだいきなり」
自分から抱きつくなんて絶対にしないと思っていたのに。
「どこ行ってたのよ!ずっと心配してたんだから!」
自分を抑える必要なんてなかった。最初からこうしていればよかったんだ。
「ずっと…待ってたんだから…」
「あー、何も言わなかったのは悪かったよ。でもどうしてもやりたいことがあって」
「やりたいこと?」
魔理沙も魔法使いだから追い求めたい事があるならとことん追及したい気持ちは私にもわかる。
「でも何か言ってくれても…」
「いや…まぁ、な…幻想郷じゃできない事なんだよ、だから外でやらないといけなかった。」
それをやり遂げるには時間がかかる、だからいつ帰ってこれるかわからないから言わなかったと魔理沙は言った。
「でも…」
「悪かったよ。悪いと思ってた…だから戻って来たら一番にパチュリーに逢おうと思って、今ここにいるんだ」
それを聞いてそれまでの話はどうでもよくなった。霊夢でもアリスでもなく私を選んでくれたことが嬉しくて、涙が止まらない。
「ばか…ばかぁぁ…」
「おいおい、泣くなよ…」
「だって…そんな事言われたら怒れないじゃない…」
ごめんな、と言って私を強く抱き締めてくれた。
「でさ、また…またちょっと外にいかないといけないんだ」
「えっ」
それ以上声にできなかった。
魔理沙が言うにはそれはまだ終わらないらしい、詳しい事は教えてはくれなかったけどまた当分逢えないだろうと。
「だからもう少し待ってくれないか」
「…」



私は…



私は――



「じゃあ今夜くらいはゆっくりお茶でも飲んでいってよ」
「あぁ、そうする」
声を上げて泣いた。







◇◇◇

落ち着くまで魔理沙はずっと抱き締めていてくれた。
「…もう大丈夫」
「ん」
魔理沙が離れる。
「顔洗って来るから座って待っていて」
腫れている目を隠しながら図書館を後にする。
落ち着いてきて子悪魔を呼んで紅茶を入れてもらおうと子悪魔を呼ぶ。
小悪魔も魔理沙が帰ってきた事にびっくりして。
「よかったですねパチュリー様」
なんて自分の事のように喜んで。
「では、すぐにお持ちしますね」
「えぇ、ありがとう」
そういって早足で図書館に戻る。
少し目を離した隙にまたいなくなってしまうんじゃないかと心配だった。
「魔理沙…!」
「ん、おかえり」
椅子に座って本を読んでいた。
「…また勝手に読んで」
「本は読まれる為にあるものだろ、そしてここは図書館だ読まないと本達が可哀想だろ。」
私の気持ちも知らないで。
「まったく」
ため息をつきながら魔理沙の隣の椅子に座る。
しばらく魔理沙が本を読んでいるのを眺めていると子悪魔が紅茶を持ってきてくれた。
「だめですよ魔理沙さん、パチュリー様を泣かしては」
「ちょっと子悪魔!」
「あはは、失礼しますね」
そそくさと図書館を出て行く子悪魔、余計な事を。
「そんなに泣いていたのか?」
「べ、別に…」
意地悪な事を言う、そんな笑顔で言わないでほしい。
「それじゃ紅茶を頂くぜ」
そういってカップに口をつける。
「相変わらずここの紅茶はおいしいな」
1年ぶりに一緒に紅茶を飲む。
楽しい。
この幸せがずっと続けばいいと。
胸が苦しい。
この幸せを逃がしたくないと。
紅茶を飲みながら魔理沙がいない間幻想郷で何があったとか、外の世界は何があるとか。
そんな話で夜は更けていく。

「そろそろ」

ドキッとした。

「そろそろいくぜ」

「…」

「今度はちょくちょく戻ってくるから」
「どうしても行くの?」
「もう少しなんだ。」
わかってくれないかと、私を易しく抱き締めてくれる。
「じゃあキスして」
魔理沙は少し驚いた顔をしている。
「またしばらく逢えないのなら別れのキスくらい…」
「わかったよ」
照れながら真っ直ぐ私を見つめてくる。
私は目を閉じ。
そして唇が触れ合う。
魔理沙の柔らかい唇。
「ん…」
唇が離れる。
「これでいいか」
顔を真っ赤にして後ろを向く魔理沙。



「ごめんなさい」



「え?何をい…って…」
――ドサッ
魔理沙の身体が崩れ落ちる。
「ごめんなさい」
しゃがんで魔理沙の顔を両手に収める。
「私もう我慢できないの、また逢えなくなるなんて考えられない」
唇にキスをする。
「もし、もうどこにも行かないと言ってくれたらこの薬は使わなかったわ」


それは――


小悪魔に頼んで入れてもらった薬。

薬だけでは働かない。

私の体液と混じった時に薬がまわる。

どんどん冷たくなっていく魔理沙の身体。

血の気が引いていくのがわかる。





「大丈夫。貴方の身体はずっと綺麗なまま」





その為の研究だったんだから――






あの窓はもう二度と壊れない。






そして私は満たされる。






「これでずっと一緒ね、魔理沙…」
初投稿です。
言葉が足りず表現に苦しみました。
最初は普通にラブラブな最後にしようと思っていたのに結果こんな感じに。
次書くとすれば雛×にとりあたりでしょうか。
itoma
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コメント



0.380簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
後半まで切ない系のラブストーリーだと思ったら、最後の最後にどんでん返しがきました。魔理沙、ある意味自業自得
2.60名前が無い程度の能力削除
なるほど、創想話でゆりぃのは敬遠されがちだけれど、納得のストーリー。
ギャグではないはずなのに、白と黒の天狗でワロタ。

>わかってくれないかと、私を易しく抱き締めてくれる。
さあ添削だ!
3.60大天使削除
パチュリーの純愛なのでしょうか。
最後の最後ああやってくるとは少し驚きました。でももう少し詳しく書くといいかも?パチュリーの心理描写とか(1ヶ月経っていく頃に)さらに幻想郷は幻想で出来ていて、外では魔法使えないんじゃないかな・・・?なんて思っちゃったり。きっと違いますよね。
5.60野狐削除
オチは予想外でその分衝撃を受けました。正直苦手なエンドなのですが、お話の落としどころとしては問題は無く、ちゃんとまとまっていたと思います。

気になった点として、何故魔理沙はチルノに箒と帽子を与えたのか。
パチュリーの愛情が何の説明もなしにメチャクチャ魔理沙を愛しているのもうぅーん、と思ってしまいました。

個人的な感想なのですが、事態を性急に動かしすぎたのではないかな、と思います。作品中では長い時間が過ぎているのですが、その分の描写が少なく、またエピソードそのものも少ないので、急ぎ足で駆け抜けてしまったように感じます。具体的にはお嬢様や咲夜など、ワンクッションおいたらどうかな、と思いました。
6.50名前が無い程度の能力削除
色々と疑問が尽きませんでした

それにしても予想外のオチでしたね
10.50500削除
う~ん……あのような終わり方をするのならばそのための伏線をもっとしておくとより最後がひきたつと思います。時間が経つにつれてパチューが病んでいくような描写など。正直、急な展開すぎて違和感がありました。
12.40名前が無い程度の能力削除
やはり展開が急すぎるかと…

誤字
子悪魔>小悪魔
13.80名前が無い程度の能力削除
展開が急過ぎますが、それを差し引いても面白かったです。
まあ、私がダークな話好きってのもありますが………。
次も楽しみにしてます。
20.無評価名前が無い程度の能力削除
ヤンデレ