雨が降っている。しとしとと、ただ静かに。
五月を迎え、季節は確実に夏へと進んでゆく。雨音は、その他いっさいの音を消し去り、過ぎゆく時を感じさせないままに時を刻む。
竹林の奥深くに佇む永遠亭、そのまた奥深く。
館の当主たる蓬莱山輝夜が、その身に纏うけだるさを隠すことなく座っていた。
「……退屈ね…………」
この世に生を受けてから、何度口にしたかわからない言葉を漏らす。
永遠の命を得た代償が、このいかんともし難いやるせなさなのだとしたら、なるほどなかなかにこの世は等価交換で成り立っているのかもしれない。
昔ならば、この退屈をいかにして紛らわすか。それを考えるだけでも結構な時間が潰せたものだが、最近ではそうもいかない。
永夜事変からこちら、輝夜は屋敷の人間以外と関わる楽しさを知ってしまった。
月の追っ手におびえる必要のない本当の自由は、輝夜の心の枷を一部とはいえ解き放った。
永琳は、降り続く雨によって起きた土砂崩れが生み出した大量のけが人を手当てしに、人里へと向かった。おそらく今日は帰って来まい。
鈴仙と呼ばれているイナバも、共に行ったようだ。
うらやましい、と思う。出かけた原因が事故なのだから不謹慎は承知の上だが、それでも、思う。
そんな時、雨音に支配されていた世界に風が混じる。遠くから、他者の訪れを輝夜に知らせる。
自然と口の端が持ち上がる。願わずにはいられない。やってくる何者かが、自分にとっての救世主たらんことを。
「月姫の戯れ」
風がやむ。部屋の窓から、さして遠くない場所に第三者の存在を感じる。
敵意は無い、むしろそれは好奇の視線に近かった。
月の姫として月の宮殿に住んでいた頃から慣れ親しんだ類のそれ。
しかし、気配を消しているつもりでも、気づいてしまったからには居心地の悪さはぬぐえない。
「誰でもいいわ、上がりなさい」
気配に声を掛ける。目線は向けない。やがて気配は一人の少女へと姿を変え、輝夜の目前に現れた。
「いやー、気づかれてましたか。不覚です」
それほど残念そうに聞こえない声で、少女---射命丸 文がぼやく。
雨の中をやってきたにもかかわらず、まったく濡れていない頭を掻いて輝夜に頭を下げる。
「おくつろぎのところ、すみません。今日は永遠亭の当主、蓬莱山輝夜さんに取材を申し込みに来ました」
輝夜は、はてと首を傾げる。次の月都万象展は半年近く先であるし、取材されるような事件を起こした覚えもない。
心当たりが無いならば、輝夜の次に取る行動は決まっていた。
手を二度打ち鳴らし、側仕えのイナバを呼ぶ。
「客人にお茶を。持ってきたら私が呼ぶまで、この辺りに誰も近づけさせないように」
出された茶を楽しみながら、しばし無言の時が続く。
雨は勢いを増すでもなく、緩やかに降り続ける。両者の間に流れる空気も穏やかで、心地よいものになっている。
「それで……わざわざ永琳の留守を狙ってやってきた鴉天狗さんの取材内容に興味があるのだけれど?」
わざと言葉に刺を混ぜる。
これで気分を害する程度ならそれでも良い、と思ってのことだ。確かに退屈は抗いがたい敵ではあるが、意に沿わない言を弄してまで紛らわせるものではない。
「いえいえ、今日お邪魔したのは雨だったからですよ。こんな日なら確実に、こちらにいらっしゃるだろうと思いまして」
文は、冷静に輝夜の言葉をいなす。
大抵の日、輝夜は自室にいるし、気分次第では雨の日だろうと外出する。文の表情から真偽を読み取ることは出来ない。
輝夜は思う、それでいい。私の相手をするのならば、そう簡単に心を覗かれるようでは興ざめだと。
「まぁ、雨の日の方が都合がいい理由は他にもあるんですが。それは、さておき」
文は居住まいを正す。眼差しは鋭く、取材に対する熱意が伺える。
「妹紅さんと戦われなくなった理由を教えていただけますか?」
なるほど、事件を起こしたから取材されるのではなく、起こさなくなったから……とは。輝夜は、この世のおもしろさを改めて噛みしめる。
文の言う、妹紅---藤原 妹紅とは、これまで気の遠くなるような年月を、数え切れないほどの回数を殺し合った仲だ。
不老不死であるからには、決着など着くものではないのだがお互いが出会うたび、満足いくまで殺し合った。
しかし最近では、出会うことすら少なくなった。出会ったところで憎まれ口を叩き合う程度で別れている。
なぜか?
答えは解っている。ただ、それはあまりに未分化で、他人に説明出来るほど整理された感情ではない。
で、あるから輝夜は目の前の新聞記者を相手に、自分の気持ちを計ってみようと考える。
「そうね……あなたが新聞を書くのは、何のため?」
「種族としての誇りと、わたし自身の欲求のために、です」
文は間髪入れずに答える。いままで何度となく問われてきたのだろう。その言葉に迷いはない。
「いい答えね」
「ありがとうございます」
「私が妹紅と殺し合っていたのは」
故意か、無意識か、輝夜は文が避けたであろう『殺す』という表現を使う。
「他にやることが、無かったからよ」
輝夜の言葉に文は口を丸くする。この答えは彼女にとって、予想外だったようだ。
「それは……冗談ですよね?」
文はようやく、それだけを口にする。メモに書き付ける手も止まっている。
「冗談なんかじゃないわ。私も妹紅も『生き甲斐』の為に『死にあう』の」
輝夜の表情は変わらない。
「理解できないって顔ね。当然だけど」
「……ええ、言い方は悪くなりますが、それだとまるで殺人狂かマゾヒストの言葉ですよ。いや、両方ですかね」
ここまで輝夜にはっきりと物を言う存在も、永琳を除けば珍しかったので、あえて文の言葉を追求しない。
「では、その『生き甲斐』の代わりに、あなたは何を見つけたんですか?」
さすがは歴戦の記者、といったところか。即座に精神を建て直し、質問に移る。
「私たち蓬莱人は、いつか壊れるものに執着するべきではないの」
真っ直ぐ答えるようなことはしない。迂遠に婉曲に、会話を楽しむ月の姫。
「だって、そうでしょう? 最終的には世界が終わろうとも、私と永琳、そして妹紅はこの世に残り続けるんだから。必ず過去になる存在に、いちいち目を奪われていては、いつか精神が破綻してしまう」
「…………」
文は沈黙を守り、先を促す。今は輝夜に話をさせるべきだと考える。自分は輝夜と議論をしに来た訳ではない、と。
輝夜は文の対応に、満足げに目を細めると再び口を開く。
「だから、持てる力の全てを出し合える妹紅との殺し合いは、お互いを磨き高め合う、とても素晴らしいものだったわ」
「『だった』……過去形ですか」
「そう、過去形。とは言っても、別に殺し合うことに飽きたとか、冷めたという事でもないの」
輝夜は、目を伏せ首を振る。その様子は過去を懐かしんでいるようにも、振り払うようにも見えた。
「興味も、数が集まれば執着を越える、そんな所かしら。妹紅は里の半獣と出会い、興味を抱いた。いつかは訪れる別れを知りながら……ね」
輝夜の笑みに残酷なものが混じる。自らの言葉に加虐心が刺激されたのだろうか。
「はじめは、あの半獣を殺してみようかとも考えたわ。そうすれば、妹紅はかつて無いほど怒り狂うに違いない、そう思って」
重みなく語られる計画。口調も滑らかで淀みない。
「でも、しなかったし、これからも多分しない。妹紅に一過性の感情を植え付けたところで意味がないもの」
「輝夜さん」
ここで、文が輝夜の話を止める。その目には批難の感情が見え隠れしている。
「わたしは『あなたの』話を訊きに来たんです。まだ、質問に答えてもらってませんよ?」
「私が、殺し合いの代わりに何を見つけたか、だったかしら」
「はい、妹紅さんの話は分かりましたが、それはあなたが妹紅さんと戦うことをやめる理由にはなりません」
ここで、うやむやにされたまま引き下がるわけにはいかない。長く続いた戦いを止めるには、少なくとも両者の合意が不可欠なはずだ。
それが、執着することの出来る数少ない存在であるなら、なおさらのことだ。
文は、ペンを持つ手に力を込める。
「随分とせっかちね。もうちょっと会話を楽しんでくれてもいいじゃない」
「生憎、わたしはあなた程の寿命を持ち得てはいませんので」
輝夜の韜晦を皮肉で返す文。
ひとつ、ため息をついて文の目を見る輝夜。この部屋で取材が行われてから初めてのことだ。
「ひ・み・つ♪」
「はぁ?」
「これ以上はプライバシーの侵害よ。黙秘権を行使するわ」
あっけらかんと言う。これだけ喋っておいて、いまさらプライバシーもないものだが。
「一番肝心な部分じゃないですか! そこで黙秘なんてひどいですよ!?」
張っておいた精神防壁を一瞬で突破され、たじろぐ文。口調にも余裕がない。
一方の輝夜は、悪戯に成功した子供のような顔で文に諭す。
「あなたが、まだ生まれてもいない頃から言われている言葉があるわ」
「女は、秘密を持って美しくなるものだ……どう? 至言でしょ?」
文が去り際に残した「いつか絶対、喋らせてみせますからね!」という台詞を思い出し、くすくすと笑う。
その、いつかが訪れる時、自分はいったいどう変わっているのか。
永琳は。妹紅は。幻想郷に住む人間は。妖怪は。
少なくとも今日の一件で、輝夜が興味を示す存在が、またひとつ増えたことになる。
いつの間にか、雨はあがっていた。
夜が明けて、永琳が鈴仙を伴って帰ってくる。
二人とも、とても疲れた様子で輝夜の部屋へとやってきた。その姿から、人里の被害のほどがわかろうというものだ。
「姫、ただいま戻りました」
永琳が挨拶をする。後ろで慌てて頭を下げるイナバが微笑ましい。
「ご苦労様、大変だったみたいね。しばらくは、ゆっくりと休みなさい」
「ありがとうございます」
その礼から、昨日の文との会話を思い出したのか、輝夜は再びくすくすと笑い出す。
「? 姫、私がいない間に何かございましたか?」
相変わらず、頭の回転が速い。永琳は即座に浮かんだ疑問を口にする。
輝夜はひとしきり笑った後、答える。
「いいえ何も、平和な一日だったわ。それより永琳」
「はい」
「ありがとう、愛しているわ」
五月を迎え、季節は確実に夏へと進んでゆく。雨音は、その他いっさいの音を消し去り、過ぎゆく時を感じさせないままに時を刻む。
竹林の奥深くに佇む永遠亭、そのまた奥深く。
館の当主たる蓬莱山輝夜が、その身に纏うけだるさを隠すことなく座っていた。
「……退屈ね…………」
この世に生を受けてから、何度口にしたかわからない言葉を漏らす。
永遠の命を得た代償が、このいかんともし難いやるせなさなのだとしたら、なるほどなかなかにこの世は等価交換で成り立っているのかもしれない。
昔ならば、この退屈をいかにして紛らわすか。それを考えるだけでも結構な時間が潰せたものだが、最近ではそうもいかない。
永夜事変からこちら、輝夜は屋敷の人間以外と関わる楽しさを知ってしまった。
月の追っ手におびえる必要のない本当の自由は、輝夜の心の枷を一部とはいえ解き放った。
永琳は、降り続く雨によって起きた土砂崩れが生み出した大量のけが人を手当てしに、人里へと向かった。おそらく今日は帰って来まい。
鈴仙と呼ばれているイナバも、共に行ったようだ。
うらやましい、と思う。出かけた原因が事故なのだから不謹慎は承知の上だが、それでも、思う。
そんな時、雨音に支配されていた世界に風が混じる。遠くから、他者の訪れを輝夜に知らせる。
自然と口の端が持ち上がる。願わずにはいられない。やってくる何者かが、自分にとっての救世主たらんことを。
「月姫の戯れ」
風がやむ。部屋の窓から、さして遠くない場所に第三者の存在を感じる。
敵意は無い、むしろそれは好奇の視線に近かった。
月の姫として月の宮殿に住んでいた頃から慣れ親しんだ類のそれ。
しかし、気配を消しているつもりでも、気づいてしまったからには居心地の悪さはぬぐえない。
「誰でもいいわ、上がりなさい」
気配に声を掛ける。目線は向けない。やがて気配は一人の少女へと姿を変え、輝夜の目前に現れた。
「いやー、気づかれてましたか。不覚です」
それほど残念そうに聞こえない声で、少女---射命丸 文がぼやく。
雨の中をやってきたにもかかわらず、まったく濡れていない頭を掻いて輝夜に頭を下げる。
「おくつろぎのところ、すみません。今日は永遠亭の当主、蓬莱山輝夜さんに取材を申し込みに来ました」
輝夜は、はてと首を傾げる。次の月都万象展は半年近く先であるし、取材されるような事件を起こした覚えもない。
心当たりが無いならば、輝夜の次に取る行動は決まっていた。
手を二度打ち鳴らし、側仕えのイナバを呼ぶ。
「客人にお茶を。持ってきたら私が呼ぶまで、この辺りに誰も近づけさせないように」
出された茶を楽しみながら、しばし無言の時が続く。
雨は勢いを増すでもなく、緩やかに降り続ける。両者の間に流れる空気も穏やかで、心地よいものになっている。
「それで……わざわざ永琳の留守を狙ってやってきた鴉天狗さんの取材内容に興味があるのだけれど?」
わざと言葉に刺を混ぜる。
これで気分を害する程度ならそれでも良い、と思ってのことだ。確かに退屈は抗いがたい敵ではあるが、意に沿わない言を弄してまで紛らわせるものではない。
「いえいえ、今日お邪魔したのは雨だったからですよ。こんな日なら確実に、こちらにいらっしゃるだろうと思いまして」
文は、冷静に輝夜の言葉をいなす。
大抵の日、輝夜は自室にいるし、気分次第では雨の日だろうと外出する。文の表情から真偽を読み取ることは出来ない。
輝夜は思う、それでいい。私の相手をするのならば、そう簡単に心を覗かれるようでは興ざめだと。
「まぁ、雨の日の方が都合がいい理由は他にもあるんですが。それは、さておき」
文は居住まいを正す。眼差しは鋭く、取材に対する熱意が伺える。
「妹紅さんと戦われなくなった理由を教えていただけますか?」
なるほど、事件を起こしたから取材されるのではなく、起こさなくなったから……とは。輝夜は、この世のおもしろさを改めて噛みしめる。
文の言う、妹紅---藤原 妹紅とは、これまで気の遠くなるような年月を、数え切れないほどの回数を殺し合った仲だ。
不老不死であるからには、決着など着くものではないのだがお互いが出会うたび、満足いくまで殺し合った。
しかし最近では、出会うことすら少なくなった。出会ったところで憎まれ口を叩き合う程度で別れている。
なぜか?
答えは解っている。ただ、それはあまりに未分化で、他人に説明出来るほど整理された感情ではない。
で、あるから輝夜は目の前の新聞記者を相手に、自分の気持ちを計ってみようと考える。
「そうね……あなたが新聞を書くのは、何のため?」
「種族としての誇りと、わたし自身の欲求のために、です」
文は間髪入れずに答える。いままで何度となく問われてきたのだろう。その言葉に迷いはない。
「いい答えね」
「ありがとうございます」
「私が妹紅と殺し合っていたのは」
故意か、無意識か、輝夜は文が避けたであろう『殺す』という表現を使う。
「他にやることが、無かったからよ」
輝夜の言葉に文は口を丸くする。この答えは彼女にとって、予想外だったようだ。
「それは……冗談ですよね?」
文はようやく、それだけを口にする。メモに書き付ける手も止まっている。
「冗談なんかじゃないわ。私も妹紅も『生き甲斐』の為に『死にあう』の」
輝夜の表情は変わらない。
「理解できないって顔ね。当然だけど」
「……ええ、言い方は悪くなりますが、それだとまるで殺人狂かマゾヒストの言葉ですよ。いや、両方ですかね」
ここまで輝夜にはっきりと物を言う存在も、永琳を除けば珍しかったので、あえて文の言葉を追求しない。
「では、その『生き甲斐』の代わりに、あなたは何を見つけたんですか?」
さすがは歴戦の記者、といったところか。即座に精神を建て直し、質問に移る。
「私たち蓬莱人は、いつか壊れるものに執着するべきではないの」
真っ直ぐ答えるようなことはしない。迂遠に婉曲に、会話を楽しむ月の姫。
「だって、そうでしょう? 最終的には世界が終わろうとも、私と永琳、そして妹紅はこの世に残り続けるんだから。必ず過去になる存在に、いちいち目を奪われていては、いつか精神が破綻してしまう」
「…………」
文は沈黙を守り、先を促す。今は輝夜に話をさせるべきだと考える。自分は輝夜と議論をしに来た訳ではない、と。
輝夜は文の対応に、満足げに目を細めると再び口を開く。
「だから、持てる力の全てを出し合える妹紅との殺し合いは、お互いを磨き高め合う、とても素晴らしいものだったわ」
「『だった』……過去形ですか」
「そう、過去形。とは言っても、別に殺し合うことに飽きたとか、冷めたという事でもないの」
輝夜は、目を伏せ首を振る。その様子は過去を懐かしんでいるようにも、振り払うようにも見えた。
「興味も、数が集まれば執着を越える、そんな所かしら。妹紅は里の半獣と出会い、興味を抱いた。いつかは訪れる別れを知りながら……ね」
輝夜の笑みに残酷なものが混じる。自らの言葉に加虐心が刺激されたのだろうか。
「はじめは、あの半獣を殺してみようかとも考えたわ。そうすれば、妹紅はかつて無いほど怒り狂うに違いない、そう思って」
重みなく語られる計画。口調も滑らかで淀みない。
「でも、しなかったし、これからも多分しない。妹紅に一過性の感情を植え付けたところで意味がないもの」
「輝夜さん」
ここで、文が輝夜の話を止める。その目には批難の感情が見え隠れしている。
「わたしは『あなたの』話を訊きに来たんです。まだ、質問に答えてもらってませんよ?」
「私が、殺し合いの代わりに何を見つけたか、だったかしら」
「はい、妹紅さんの話は分かりましたが、それはあなたが妹紅さんと戦うことをやめる理由にはなりません」
ここで、うやむやにされたまま引き下がるわけにはいかない。長く続いた戦いを止めるには、少なくとも両者の合意が不可欠なはずだ。
それが、執着することの出来る数少ない存在であるなら、なおさらのことだ。
文は、ペンを持つ手に力を込める。
「随分とせっかちね。もうちょっと会話を楽しんでくれてもいいじゃない」
「生憎、わたしはあなた程の寿命を持ち得てはいませんので」
輝夜の韜晦を皮肉で返す文。
ひとつ、ため息をついて文の目を見る輝夜。この部屋で取材が行われてから初めてのことだ。
「ひ・み・つ♪」
「はぁ?」
「これ以上はプライバシーの侵害よ。黙秘権を行使するわ」
あっけらかんと言う。これだけ喋っておいて、いまさらプライバシーもないものだが。
「一番肝心な部分じゃないですか! そこで黙秘なんてひどいですよ!?」
張っておいた精神防壁を一瞬で突破され、たじろぐ文。口調にも余裕がない。
一方の輝夜は、悪戯に成功した子供のような顔で文に諭す。
「あなたが、まだ生まれてもいない頃から言われている言葉があるわ」
「女は、秘密を持って美しくなるものだ……どう? 至言でしょ?」
文が去り際に残した「いつか絶対、喋らせてみせますからね!」という台詞を思い出し、くすくすと笑う。
その、いつかが訪れる時、自分はいったいどう変わっているのか。
永琳は。妹紅は。幻想郷に住む人間は。妖怪は。
少なくとも今日の一件で、輝夜が興味を示す存在が、またひとつ増えたことになる。
いつの間にか、雨はあがっていた。
夜が明けて、永琳が鈴仙を伴って帰ってくる。
二人とも、とても疲れた様子で輝夜の部屋へとやってきた。その姿から、人里の被害のほどがわかろうというものだ。
「姫、ただいま戻りました」
永琳が挨拶をする。後ろで慌てて頭を下げるイナバが微笑ましい。
「ご苦労様、大変だったみたいね。しばらくは、ゆっくりと休みなさい」
「ありがとうございます」
その礼から、昨日の文との会話を思い出したのか、輝夜は再びくすくすと笑い出す。
「? 姫、私がいない間に何かございましたか?」
相変わらず、頭の回転が速い。永琳は即座に浮かんだ疑問を口にする。
輝夜はひとしきり笑った後、答える。
「いいえ何も、平和な一日だったわ。それより永琳」
「はい」
「ありがとう、愛しているわ」
さぁ次の全力を出す準備にとりかかるんだ。
このお話だと射命丸は輝夜達が不死だと知っているみたいですけど実際はどうなんでしょうね?
文花帖での会話だと輝夜達がまともな人間ではないと思ってはいそうだけど殺し合いしていることや不死ということまでは知らなさそうですけど
姫様の雰囲気も素敵ですし文とのやりとりも面白かったです。
短いですがきちんとまとめられてていい作品です。
全てを語ることなく、ただ意味深にまとめる、ここのところは非常に姫らしくて良かったと思いますよ。そこに意味があるのか、ただのお戯れなのかを想像するのもまたオツですなぁ。
もうちょっと長く読んでみたかった、なんてお決まりな台詞を残して閉めさせてもらいますー。
やはり姫にはカリスマが似合いますな、情景も好みの雰囲気でよかったです。
ただこれは短編なので次はぜひ、あなたの物語を読んでみたい。
輝夜と文がやりとりをしている様が、はっきりと脳裏に浮かんできました。
「ひ・み・つ♪」
で全部吹っ飛んだw
上の一文だけで2回タイプミスしてますよw
本当にありがとうございます!!
こういった場は初心者ですので、まだコメントいただいた方一人一人にレスする器用さはありませんが、これからも精進していきたいと思います。
もう一度。
ありがとうございました!
やっぱり姫はこうでなくては!
ああ、でも姫の秘密が気になるなぁ。