どうも、こんにちわ。
私の名前は、上海人形。
大きなリボンと、ブロンドヘアが、密かな自慢です。
自己紹介は以上で終わり……です。
……ダメですか?
……ええと、私は人形です。
心を持った、人形です。
好きなものは、暖かい日なたと、アリスです。
アリスと言うのは、私を造ってくれた人の名前なんです。
アリス・マーガトロイドと言う人で、人形遣いのすごい魔法使い。
そのうえ、本人自身も、それこそ人形のように綺麗な女の子なんですよ。
短く揃えられた彼女の髪は、本当に綺麗なブロンドで、それが風になびく様はお月様の光のよう。
彼女の瞳の輝きには、瑪瑙を瞳に埋めた人形だってかないません。
あくまで白い彼女の肌は、発光してるんじゃないかって、ときどき思います。
そんな彼女の、すらりと伸びた形の良い指先から、魔法の糸が私に届けば、あら不思議。
自分一人では、まぶたも動かせないこの私が、彼女とダンスを踊ることができるのです。
私だけではありません。
彼女は両の指より多い数の人形を、いともたやすく同時に操ってみせます。
その様は、まるで私達人形が、彼女を母と慕って周りを飛び交う、ひな鳥のようにも見えるのです。
むむ。
なんだかアリスの紹介になってますね。
……ええと、私は上海人形。
アリスによって名前を与えられた、彼女のための人形です。
こういうと自慢に聞こえるかもしれませんが、私は数ある彼女の人形の中でも、それなりに気に入られた人形のうちの一体なんじゃないでしょうか。
すみません、自慢ですね。ふふふ。
でも、私の一方的な思い込みじゃないはずです。
私は、アリスと一緒に過ごした時間の長さなら、他の人形達に勝るとも劣らないって、思ってます。
私達は、ずいぶんと長い間一緒に過ごしてきました。
お出かけするときのアリスの隣は、私のための特等席。
アリスはいつだって私を友人のように、あるいはお気に入りの侍女のように、私を連れて出歩いてくれたのです。
自由に動けぬこの体ですが、私もそんなアリスのために、一生懸命がんばりました。
といっても、実際私を動かすためにがんばるのは、他ならぬアリス自身なのですが。
それでも私は、唯一私のものであるところの「心」をこめて、彼女のために働いてきたつもりです。
アリスは、私に色々な世界を見せてくれました。
魔法使いの世界、人里の世界、友人との世界。
それは同時に、アリスの様々な側面を、見ることのできる機会でもありました。
魔法使いとしてのアリス、人里の中でのアリス、友人を前にしてのアリス。
こんなにたくさんのアリスを見ることの出来た私は、とても幸運な人形だと思っています。
どのアリスも、いつだって素敵だったのですから。
でも、私が一番好きなアリスは、やはり家に一人で私達と一緒にいるときのアリス。
彼女は朝、目覚めて居間に来るとき、みんなに朝のあいさつをしてくれます。
おはよう、上海
おはよう、蓬莱
おはよう、みんな……
おやすみも、いただきますも、いってきますも、ただいまも、一人の時の彼女は、必ず私達にあいさつをしてくれるのです。
彼女は、本当に友人に声をかけるように、私達人形に声をかけてくれるのです。
でもそういえば、彼女はほとんど、一人のときしか声をかけてくれないんですよね。
別の誰かがそばにいると、あまり声をかけてきてくれません。
何故なんでしょう。
普通は人形に声なんてかけないものなんでしょうかね……って。
うーん。
またアリスの紹介みたいになってますね。
でも仕方ないです、それぐらい私はアリスが好きだ、ということなんです。
私にはアリスしかなかった、ということでもあるでしょう。
彼女に名前を呼ばれるとき、気まぐれに彼女が私に「オハヨー、アリス」などと喋らせてくれるとき。
私は本当の命を得たような気がして、とてもうれしいのです。
彼女が、みんな、と私たち人形に声をかけるとき。
私たち人形は、皆家族であるような気がして、とてもうれしいのです。
いつもぽかぽかと暖かい、窓辺の棚は私の指定席。
そこから、ずっとアリスのことを見ていました。
ずっと、アリスと、他の人形たちと一緒に過ごしていけたらいいな、と思っていました。
まあ、ここにいる以上、それも叶わぬ願いとなってしまったわけですけれど。
それでも、私は後悔していません。
私の最期は、彼女と、私の家族―――人形達を守ってのものだったのですから。
致命的な弾幕に囲まれて、逃げ場を失った彼女の切り札、人形爆弾。
強大な破壊力と引き換えに、私は爆散し、体を失うことになったのは覚えています。
きっとまた、新しい人形がアリスの手により造られると思います。
でもそれは、あくまで別の人形であり、私ではありません。
もう私が、アリスから上海人形と呼ばれることもないのでしょう。
でももし生まれ変わることが許されるのならば、私はまたアリスの人形になりたい。
そうして、上海でなくてもいいから、アリスから名前を呼ばれたいです。
いや、せめて一度だけでも呼んでくれたら、でいいのです。
それだけで、もう思い残すことはありません。
私が私であったと、あなたのことが大好きな一体の人形であったと、アリスに知ってもらえたら、それだけで私は―――
「もう結構です」
閻魔の良く通る声が響いた。
彼女は、眼下のみすぼらしい魂を、感情の伺えない瞳で見据えている。
閻魔の一声に一瞬動きを止める様子を見せたその魂が、再び何かを閻魔に訴えようとしていたが、その声は閻魔以外の者の耳には届かない。
傍目には、この瞬間はどこまでも静寂であるかのように思えたことだろう。
ややあって、再び閻魔が口を開いた。
「もう結構だと言ったのです。あなたの話をこれ以上聞いていても意味が無い。
あなたはそもそも、私の前で嘘をつくということが、どれほどの罪か分かっているのですか」
その声はどこまでも重く、辺りに有無を言わさぬ緊張感が立ち込めたが、それでもかの魂は何かしらを閻魔に訴えることをやめない。
「ふむ、何も嘘などついていないと。ならば言い方を変えましょう。
あなたは間違った事実を口にしている。真実を見ていない。
……不完全な魂ゆえか、記憶と願望が入り混じってしまっているようですね。
あなた自らそれに気がつけないのであれば、私から言いましょう」
かの魂を見据える閻魔の瞳は揺ぎ無い。
魂が怯えたように見えたのは、その眼光のせいだけなのだろうか。
「……あなたの名前は上海人形ではない。
そもそも、あなたに名前などない。
爆弾用に造られた、名無しの人形。それが生前のあなたです」
かの魂は動かない。
「あなたのような道具に対し、生前という言葉が適切かどうか。
それはともかく、あなたが上海人形であったというのは、明らかな間違いです。
情が移ることを嫌ってか、あの人形遣いは爆弾人形に名前はつけない。
他の人形のように、擬人化して接するようなこともしない。
あなたがあの人形遣いと行動を共に出来るのは、弾幕勝負を前提に、彼女が行動するときだけ。
……あなたは、家の中の彼女と、戦闘しているときの彼女しか、知らないはずです。
具体的に、例えば人里での彼女がどのように振舞うか。
思い出せないはずです、あなたは彼女のカバンの奥底に入れられっぱなしだったのですから」
かの魂は微動だにしない。
仮に何事か反駁していたとしても、閻魔以外の者にその声は聞こえない。
「そんなあなたが、上海人形をどのように見ていたのかは、だいたい想像がつきます。
何故、あなたがそのような嘘を、己自身につかなければいけなかったか、その理由も、想像がつきます。
しかし、たとえ無意識の自己欺瞞であるとはいえ、私の前で真実以外を述べることは許されませんし、またその意味もありません」
閻魔は一旦口を止めた。
かの魂は―――僅かに身を震わせていた。
真っ当な魂とはとても言いがたい、矮小で歪なその魂が、身を震わせて何を申し立てようとしているのか。
閻魔以外には、わからない。
「あなたは魂を持つべき存在ではなかったのかも知れません。
例え魂を持ったとしても、ここに来れるような存在ではなかった。
しかし、あの人形遣いの卓越した技量が、あなたに魂をもたらさざるを得なかったというのであれば、なんとも皮肉としか言いようが無い。
果たして魂を得たことが、あなたにとって幸福であったかどうか。
同情の余地はあるかもしれません。
だが、現にあなたが魂となってここにいる以上、私は判決を下さねばならない」
閻魔の判決が、下りようとしていた。
かの魂は、もう震えることをやめていた。
本物の静寂が、一瞬辺りを包んだ。
なぜかこのような、オリキャラオリ設定オリ解釈の三重苦SSとなってしまいました。
前書きで一言注意を添えるのがマナーであったと思うのですが、構成の小細工を優先してしまいました。
気分を害した方がいましたら、申し訳ありません。(謝ってばかりだな)
オリキャラオリ設定オリ解釈で違和感出て-30つける方も出るでしょうし、
読み物として普通に面白くて100点つける方も出るでしょうね。
と言う訳でこの(100-30)点数で(意味不
魂を持っているというのは別にオリ設定でもない気がしますし。
何が言いたいかというと謝らずにどんどんやれということです。偉そうですいません。でも、爆弾用の人形に魂があったら痛ましいですね。是非閻魔さまにアリスを説教してもらうしかないです。
ただ、本文だけ読み終わった時点で、ちょっと救いがない話かなと思ってしまいました。作者からのメッセージを読んで納得しましたけど、本文だけで完結した方がすっきりすると思うのですが、ここの流儀はそういうものなんでしょうね。
ただオリ設定がきつかったのでこの点数で
それと内容以上に気になったのが、『作者からのメッセージ 』に本編の続きを長々と書いて、感想投稿欄に後書き的文章を入れていること。
正直意味不明なんですけど、演出のつもりですか?
それを思うと、爆弾用であるがゆえに敢えて名を付けず感情を注ぐまいとしたアリスの配慮は、最後の最後に「娘を失う」という防ぎようのない悲しみ(自分を騙して気付かないふりをしている可能性大)によって意味を成さなかったのでしょう。
悲しみたくないから感情を注がないように努めるというアリスのスタンスは、対人間に於いてもそれを感じます。ぜひ閻魔様には説教して頂きたいですね。
あそこで切りたいのは分かりますけど、それなら後書きも書かないくらいバッサリといかないと中途半端な印象を受けてしまいます。
ミスリードを誘うために最初の注意書きを省いたんですかね?
それはそれでいいんですが、それを嫌う人も多いことがいますから~
ご馳走様でした
前半と後半のほんわかから現実に戻る落差がいい。文体すら変わってがらりと変わって、どきりとした。
後書きが気になるといえば気になるけれど本文自体の評価にはしたくないのでこの点で。
魔符「アーティフルサクリファイス」の中の一体なのか。
小町の江戸っ子気質な気風のよさも良かったです。
>オリキャラオリ設定オリ解釈
えー。オリキャラ出てないし、オリ設定オリ解釈ってほどじゃない。
この程度の創作(悪い意味ではなく)で謝る必要ないと思いますが。
「作者からのメッセージ」にエピローグ的なものを入れるのは多数の著者様も今までしてきましたし、いいんじゃないかと。
ただ後書きは空白部分を入れて、容れて下さると嬉しいです。
前半と後半の落差といい、ミスリードといい……
自爆人形に魂が宿っていたことをアリスが知ったら悲しみそうだ。
それと、後書きは別に問題無いかと、過去作にも同じようなものがありますし。
なにせアリスの人形ですしね
ただ後書きの話が空白が無くて読みにくかったかな?
何はともあれいい話ありがとうございました!
厳密にはオリキャラではないし、精々がオリ設定or解釈。
オリ設定or解釈の入っていないSSなんて数えるほどだし、
それを前もって注意書きしているのもかなり描写の激しい
オリジナルが入っている場合くらいかと。
あ、作品の方はとても面白かったです。
小町のキャラはやっぱりこうでないと…個人的にはですけどw
後半の展開にはやっぱり意表を突かれてしまいました。
前半でこの人形の語ったことが事実に反しているにしても、彼女にとっては
それが真実だったわけですし、映姫様には寛大な裁きを期待したいなあ。
>上海でなくてもいいから、アリスから名前を呼ばれたいです。
>いや、せめて一度だけでも呼んでくれたら、でいいのです。
来世では呼んでもらえるといいですね。
元々道具には魂が宿る『九十九神』という概念がありますし、『人形供養』という概念もあります。アリスの人形ですからコレぐらいのことがあったとしても微塵も疑いを持つことはありません。
あとがき枠の使い方に対しては、まぁ氏の自由にしたらいいと思いますし、本編ののりであれをいれるのは蛇足になりかねませんし、という解釈で行かせてもらいます。本編は本編で終わってますしね。
しかし面白いは面白かったのですが、こうなるとアリスは無意識的に凄まじい大罪人になっちゃうような気が……(汗
確かにこの後書ならバッサリ削るか、いっそ本文に入れるかしたほうがよかったかもですね。
オリジナル的な話なら嫌悪感なく読めました。私はですけど…
だから自分はメッセージはおまけの後書きかな、という程度で受け取って軽く読みました。
しかし、このミスリードにはしてやられた。
閻魔様に真実聞かされたアリスはショックだろうなーとか、
想像すると楽しい部分が色々ありました。
設定やストーリー自体少ない東方のSSではオリ解釈や二次設定を
使ってない作品のほうが少ないかと。
何処で線引きするかは微妙だと思いますが、これくらいは全然問題ないと思います。
ただ、あとがきに本文の続き、感想欄にあとがきっていうのはちょっとどうかと。
本文だけじゃぶつ切りですっきりしない終わり方ですし、ひとつに纏めてもよかったのではと思いました。
ともあれ、とても好みな作品でした。面白かったです。
個人的には、本文にアレが入ったら却って蛇足に感じただろう、と。
個人的にまがい物の銭が胸に来ました。
切り替えでどきりときた
辛いって言うか可哀想って言うか、なんなんだろう
メアリー・スーを嫌悪するのは理解出来るけれど、この話にその汚点があるようには思わない
本文、作者コメントの使い方にしても同様に作者の自由で良いと思います
僕はこのお話に引き込まれたし、強い感銘を受けた
こんな良いものを書ける作者さん、あなたは胸を張っていい
ちなみに、僕も他の読者コメントをした人を貶める目的で書いているのではないので悪しからず
普通の銭を一枚持っていたあたりにアリスの複雑な葛藤が見られて切ない気分です。
作者からのメッセージに本編の続きを入れるなら、短文のオチ程度にした方が良いかと。
評価欄にあとがきってのも変ですし。
作者コメントは、普通に本文でよかったと思います。
話自体が良いので、非常にもったいないです。
話事態は100点でしたよ。(’’
まあ元がおいしくなかったらお代わりなんか欲しくないわけで、つまりGJ
本編に含めても良かったのではないかと思いますが、
あの魂が主役になれるお話としてはいまの形のほうがまとまりよいのでしょう。
「仕事が増える」=「渡したら輪廻して戻ってくるようになる」
小町から事情徴収するまでもなく結局輪廻の輪に載せちゃった四季様にニヤニヤ。
心に染み渡るいいお話でした。
あとがきの使い方としましては駄目なのでしょうが気にする必要は無いと思います。
これはこれで批判が出ておりますし、本文の後に書き込んでも、
『なかったほうがよかった』『もっと長くして別話でやれ』とは言われるでしょうし。
私は完全に切り替えるポイントを作るということでうまいなぁと思いましたが。
あるいは2、3行の中書きを作ってみてもよかったかもしれませんね。
何とも言えない切なさが漂いますね
それについてもいつか読ませていただきたいです