※この話は作品集52にある「厄と博~リクエスト続編~」の時間軸を辿っています。初見の方は、まずそちらをみる事をお勧めします。
私は、あいつの親友に、なってやりたかった。
きっかけや出会い以上に、最近になって、勝手に思い上がっていた自分の愚かさに気づいた。
紅の霧の異変から、博麗神社を訪れる者は、人間なら、私を含め、少数しかいない。
元々参拝客は少ない方だったかもしれないが、妖怪や吸血鬼が、神社に来るようになってから、人間がここに訪れる事は、全くないと言っていいほど、少ない。
神社の巫女である霊夢は、それに関して、落ち込む素振りなんて見せず、博麗の巫女として、神社に来る者を受け入れ続けてきた。
私はそんな中、対した考えも抱かずに、霊夢の元へと来る一人として、よく神社に足を運んだ。
別にレミリアや、萃香が神社に来る事に関して、私としては、対した感情を抱いていない。
当の本人である霊夢は、嫌がってもいなければ、困っているわけでもない。
話してみれば、それなりに面白い連中でもあり、私としては、逆にただ参拝にくる人間よりも、レミリアや萃香が来た方が楽しいかもしれないと思った程だ。
けれど、逆に、気づいてしまった事もある。
初めは、違和感があっただけだった。昔、本当に、私がまだ霧雨の本家に居た頃の記憶。
霊夢と出会った時の、記憶と。
魔法使いとなって、今まで接してきた霊夢との、記憶が。
子供の頃の無邪気な笑顔を。
霊夢の笑う顔から、感じられなくなっていた事を。
談笑する中、霊夢の顔を見ても、どうしても拭えない。
拭えないに決まっている。どうして気づいてしまったのか。
あいつは、心の底から、笑っていないんだって。
「………ん」
朝の陽光が、いつの間にか、家の外から漏れ出てきている。
床にまで物が錯乱している中、魔理沙は、まどろみから目を覚ました。
「……またか」
黒白のエプロンドレス姿のまま、昨日から続けていた魔法の研究。
結果が出たところでメモを書いていたはずだが、どうやら寝てしまったらしい。
机に突っ伏すように寝ていたが、走り書きしたメモ用紙や、実験の機材が、昨日放置されたまま置かれている。
「………はぁ」
変な体勢で寝たせいか、身体が痛い。
軽く伸びをして、身体をほぐしつつも、昨日自分で走り書きしたメモ用紙を確認しつつ、溜息を吐く。
結果は、散々だった。
「駄目だな、急いでも……」
今更急いでも、劇的な変化がないのは、わかっていた事だ。
人間としての自分の限界なんて、鬼の萃香や、吸血鬼のレミリアを見れば、下の下に等しい。
努力を重ね続けて、初めて対等に闘えるのが、魔法使いだ。
知識を蓄積し、度重なる成功と失敗をし続け、奇跡を生み出す。
それがわかっているのに、自分を急がせている理由は、唯一つ。
「……どうすれば、これ以上強くなれる?」
あいつと対等にいる方法なんて、これしかないというのに。
私は、一度たりとも、自分だけの力であいつに勝てた事がない。
夜が明けない、月の異変のあの事件の時は、アリスがいてくれたから、まだ互角の勝負にまで持ち込めた。
「いや、それも違うのかもな」
自分の考えに頭を振る。
アリスが居ても、互角なんかじゃなかった。霊夢はただ単に、ちょっかいを出してきただけだ。
弾幕勝負に持ち込んでも、闘っている間に、自分達が、事件と関連性がないと判断するや否や、あっさりと勝負を投げやがった。
最後まで勝負が続いていたら、きっと、落とされていた事だろう。
「……はぁ」
再び溜息を吐きつつも、魔理沙は、手にしていたメモ用紙を投げ捨てるように机に叩きつけると、座っていた椅子から立ち上がる。
考えれば考えるほど、先が見えない、霊夢に勝つ方法。
「……けど、私は勝たないといけないんだ」
そうしなければ、あいつの横に、立つ資格なんてない。
※
すっかり、幻想郷にも、春は到来していた。
冬の時にはない暖かさ、空を飛び交う、春を告げるリリーホワイト。
そんな暖かい空気を吹き飛ばすように、魔理沙は空を駆け抜ける。
時刻はお昼を少し過ぎたおやつ時、あの後実験の後片付けをしたり、朝食を済ませ、再び別の実験をしてみたりもしたが、効果は今一つだった。
向かっている先は、魔法使いとして、知識を増やすにはもってこいの場所だ。
紅き吸血鬼、レミリア・スカーレットが主として君臨する紅魔館。
レミリアが紅い霧を出して、幻想郷を騒がせた時に、乗り込んだ場所だが、地下に存在する大きな図書館は、私をときめかすには充分な程、魅力的な場所であった。
見たこともない魔道書、自分の考えていた魔法や知識より、何十年、何百年も考えに考え抜いた知識の群れが、あの図書館にはある。
出来れば頼りたくなかったというのが半分、あそこに行けば、もっと知識の幅を増やせるというのが半分。
箒に乗り、飛び続けて数刻、四季を無視するように、霧が立ち込める湖が見えてきた所で、魔理沙は更に速度を上げて、霧の中を突っ込んでいく。
駆け抜けた後は、線を描くように霧を吹き飛ばして、視界を開けていく。
霧を抜けた先には、変わらず君臨し続ける、紅い館。
「……よし」
魔理沙は、被っている黒いトンガリ帽子を片手で抑えながら、紅魔館の門前の状況を、目で確認する。
紅魔館の門の前、不動として立っているはずの門番。
チャイナ服姿に、長い赤い髪、帽子には龍の星マーク。
「……すぴー……すぅ……」
地面に大の字で寝ている、紅美鈴の姿が、魔理沙の目に映った。
「………」
呆れるべきか、それとも感嘆するべきなのか。
昼を少し過ぎたこの時間帯は、美鈴にとって、絶対に寝なければいけない時間のようだ。
勿論、メイド長にその許可を取っているかどうかを問われれば、絶対に否。
あの完璧主義者の十六夜咲夜が、門番が昼寝をする瞬間を与えるわけがない。
「……まぁ、私にとっては好都合なんだが」
美鈴が起きていれば、侵入者でしかない私は、強行突破という方法を取るしかない。
すやすやと眠る美鈴の上空を、速度を落として、音を立てずに無事通過して、紅魔館の入り口にあたる、大きな扉の前に降り立つ。
最早何度来たかわからない程、ここに来ただけあって、扉を開け、紅魔館の中へと入った魔理沙は、勝手知ったる我が家のごとく、石造りの廊下を、箒片手に歩いていく。
時々、図書館までの道のりで、咲夜と出会う事もしばしあるが、今回はそんな事もなく、無事に地下へと続く入り口まで辿り着けた。
よどみなく、地下へと降りていく。
日の光が、差し込まない作りになっている紅魔館だが、地下に入れば、より一層、昼とは思えない暗さが宿る。
階段を降りる間には、絶え間なく、燃え続ける蝋燭が灯っており、図書館へと続く廊下にも、それは続いていた。
不気味な空間、と言えばそれまでだが、魔法使いが住まう場所とは、こういう物なのだろう。
現に、周りから見れば、自分が住まう魔法の森も、陰湿な場所である。人を寄り付かせないという意味では、ここと同じレベルだ。
図書館の扉前まで来た魔理沙は、躊躇せず、扉のドアノブを捻る。
「よ、パチュリー」
開けると同時に、ここに必ずと言っていいほどいる、図書館の主に挨拶をする。
「………また、きたの?」
案の定、大きな机に、山のように本を積み上げた、七曜の魔法使い、パチュリー・ノーレッジの姿があった。
※
「ここ最近は、ずっと来るわね」
本に目を通していたパチュリーは、魔理沙の姿を確認すると、読んでいた本を閉じて、山のように積み上げた本の一番上に、器用に置いた。
「あぁ、ちょっとな」
魔理沙は積み上げた本のカバーに目をやりつつ、空いている椅子を手にとって、箒を床に置いて、被っていた帽子を脱いで、積み上げた本の山の上に置く。
「……今日も、盗んでいかないのかしら?」
「別に、いつも借りてるだけだぜ」
しれっと、悪びれずに魔理沙は、パチュリーの言葉に返すが、借りたと言った本を、パチュリーに返した覚えはない。
「………今日は何の用なの? 昨日は、魔法の変動についてだったけれど」
溜息を吐きつつ、パチュリーは、本題にさっさと移った。
「あぁ、今日は………その、何て言えばいいかな」
最近、ずっとこういった門答を繰り返している魔理沙だったが、それに飽きもせず、答えをパチュリーが提示してくれるから、魔理沙は度々ここに足を運ぶようになった。
逆に、冬の終わり頃から、博麗神社には足を運んでいない。気づいてしまった自分は、今の霊夢を見るのが、嫌だったから。
「……そうだな、私のマスタースパークの威力を、もっと引き上げる方法なんてないか?」
霊夢に勝つ方法とは言わず、あくまで魔理沙は、自分自身の相談を、パチュリーに度々するようになった。
自分だけでは、限界があった。
どれだけ努力を重ね続けても、埋まらない溝が、霊夢と私にはある。
埋るのは、果たしていつになるか。
気づいていない時なら、のんびりとその溝を埋めようとしたかもしれない。
けど、気づいてしまったのだ。
恥も何も、関係なかった。誰かに頼ってでも、あいつに勝つ方法を見つけるしかない。
「威力を上げるだけなら簡単よ。注ぐ魔力を増やせばいい」
「だけどそしたら、八卦炉が壊れないか?」
わかりやすい回答をパチュリーは提示するが、直ぐに疑問が出る。
魔理沙の十八番である恋符、マスタースパーク。
元の使い手が、いるにはいるが、あっちは妖怪なおかげか、八卦炉等持たずに撃てていた。
「積載量ギリギリまで、魔力を注ぐだけなら、壊れはしないでしょう? それに、壊れる覚悟で撃とうと思えば、一度は撃てるわ」
「………壊れるぐらいに、魔力を注いだ時なんて、ないんだけどな」
「それぐらい必要になるんでしょ?」
パチュリーの言葉に、しばし間を置くが。
「……他に、威力を上げる方法はないのか? 八卦炉を壊さなくていい方法で」
さらりと、流す。薄々、パチュリーは、何でこんな相談をしに来るのか、わかっているのかもしれないが、私はその事まで、パチュリーに相談する気はない。
あいつと対等に居る方法なんて、他の誰かに話す事なんて、出来るわけがない。
「………あるには、あるわよ」
「本当か?」
考える素振りをするパチュリーだったが、真剣な眼差しで、魔理沙の顔を見た。
「魔理沙、貴方、魔法使いとは何か? と自問自答した事はあるかしら?」
「? それが威力を引き上げる事と関係あるのか?」
質問を質問で返すが。パチュリーは首を横に振る。
「先に答えてくれないと、提示出来ないわよ」
「………魔法使いとは、知識を蓄積し、努力を重ね続け、奇跡を見出す者」
パチュリーの言葉に、少し間を置いて、魔理沙は、魔法使いについて、口にする。
「そうね。私達魔法使いは、探究を続けていく過程に、奇跡を垣間見る。それは一筋の閃光だったり、私のように、七曜を元に、属性を扱う魔法だったり」
「けど、それが何だって言うんだ?」
まさか、努力し続け、威力を上げろとでも言いたいのだろうか?
そんな回答だったら、急ぐ自分にとって、袋小路に近い。
「じゃあ、魔理沙、巫女とは、何かしら?」
ドクンと、心臓が跳ね上がった気がした。
「………」
顔に出たかもしれない。パチュリーの口から、巫女という単語が出ただけで、心臓が早鐘を鳴らしていた。
「わ、私は巫女じゃないからな。何かって聞かれても……わからないぜ」
声が上ずるのを必死に抑えてそれだけ言うと、パチュリーの眼差しから顔を背けるようにして、横に山のように置かれた本の山へと目を逸らす。
「……なら、巫女じゃなくてもいいわ。この際、吸血鬼でも、妖怪でもいい。彼女達にあって、私達にないものは、何かしら?」
「………それなら単純に、準備要らずって話じゃないのか? 私達は、魔法一つ撃つだけでも、色々と用意しないといけないが、レミリアやフラ
ンドールは、素でスペルカードを出してるだろ?」
フランやレミリアなら、準備等せずに、スペルカードを宣言して、その名前の通りに弾幕を張るだけで済む事だろう。
逆に、私だったら、八卦炉を通して魔力を集めて撃つという過程が必要だし、パチュリーなら、魔道書を通して、事前に組み上げて置いた魔法を発動するといった方法で弾幕を張っている。
アリスなら人形を通してとなるかもしれないが、本人からも、弾幕を張る時間差攻撃等が出来る事から、準備要らずかもしれない。
「準備が要らないという回答でも合ってはいるわ。何かしらの準備をする過程がなければ、私達は、弾幕すら張れない」
一度言葉を切って、パチュリーは少しばかり、口元に笑みを作る。
「でも、逆を言えば、準備をする過程に、色々と小細工が出来る。てっとり早くその良い例が、詠唱よ」
「詠唱って、マスタースパークに呪文なんてないぜ……?」
高鳴った鼓動をどうにか抑えながら、パチュリーの口から出た、詠唱という言葉に、首を傾げる。
「普通は、どの魔法にも呪文なんてないわ。呪文の詠唱をする理由は、自分自身に、自己暗示をかける為よ」
「……は?」
自己暗示という言葉に、魔理沙は更に首を傾げた。
「意味が、よくわからないんだが……自己暗示なんてしなくても、魔力を注げば威力は出るぜ?」
「……けど、壊れるわよね? そうしたら」
パチュリーの言葉に、魔理沙は頷く。
「私が言っているのは、量ではなく、質の問題。注ぐ量が同じでも、質が違えば、威力は増す。常に限界突破している身体で注いだ魔力と、余裕を持って注いだ魔力とでは、格段に差が出来るわ」
「……パチュリーが唱えながらスペルカードを宣言している姿なんて見た事ないが、そんなに違うのか?」
半信半疑な話すぎて、魔理沙は驚きを隠さずに、パチュリーの会話を聞いていた。
「弾幕勝負と、呼べるレベルじゃない物になるわよ。詠唱込みでスペルカードを発動すれば、勝負じゃなくて、唯の殺し合い」
だから使わなかったと、パチュリーは言った。
「………なら、私もそれは駄目だな」
パチュリーのその言葉に魔理沙は溜息を吐きつつも、威力の底上げをする一つの方法として記憶する。
「ありがとなパチュリー、少しは参考になったぜ」
心の底から礼を言って、椅子から立ち上がる。
「……魔理沙」
立ち上がった魔理沙を見上げる形で、パチュリーは声をかけるが。
「ん? なんだ?」
「………いえ、何でもないわ」
何か言いかけたが、パチュリーは、真剣な表情から微笑んでみせる。
「今日も、何も盗らずに帰ってくれるのね」
「……流石に、話を聞いてもらって、借りるのは、な」
あくまで盗っていく事を認めないが、話を聞いてもらっている上で、本を持っていく気にもなれなかった。
積み上げられた本の上に置かれた帽子を手に取り、深く被ると、床に置いた箒を手にとって、パチュリーに手を上げてみせる。
「じゃあな。もしかしたら、明日も来るかもしれないぜ」
「えぇ、またね。魔理沙」
手を上げた魔理沙に、パチュリーは弱々しく、姿が見えなくなるまで、手を振り返す。
バタンと、図書館の扉が、完全に閉じたのを確認し、パチュリーは、酷く、溜息を吐いた。
「……貴方らしくないのに、気づいてないのかしら」
いつも陽気に笑う少女の顔は、ここ最近ずっと見られていない。
追い詰められているように、魔理沙の表情は、暗く、疲れた顔をしていた。
「……はぁ」
魔理沙は、どうにかして、あの博麗の巫女に弾幕勝負で勝ちたいのは、何となくわかった。
理由はわからないが。仮に、理由を説明されても、理解出来ない事だろう。
魔理沙は、魔理沙なりに、あの巫女との勝負に固執している。魔理沙と出会ってから数年の歳月しか経っていない自分には、わかるわけがない。
「けれど……勝つのは至難よ……魔理沙」
あの巫女との弾幕勝負を思い出しただけで、身震いする。
あれに勝とうと、思えるだけ、魔理沙は立派なのかもしれない。
百年もの歳月を魔道に費やした私が、あそこまで絶望的な差を感じたのは、あの巫女だけだ。
圧倒的な霊力、こちらの行動を予測しているかのような、未来予知。
勘がいいというレベルではなかった。まるで最初から、こっちの行動がわかっているかのように動いてくるのだ。
殺し合いに持ち込んでも、こっちが殺される。
情けをかけられ、未だに生きながらえているが、屈辱よりも、安堵感の方が大きかったのも確か。
あれと、もう対峙しなくていいんだと。
本心で思ってしまった時を、今も覚えている。
※
「結構、長居しすぎたな」
箒に乗って、紅魔館から空へと再び上がった頃には、空は茜色になっていた。
途中、紅魔館の門の方をちらりと見たが、案の定と言うべきか、うつ伏せに倒れ、ナイフが刺さりまくっている美鈴の姿があった。
きっと咲夜が昼寝をしている現場を目撃してしまったのだろう。
まだ身体がピクピクと動いてるのを見ると、死んではいないようなので、そのまま無視して霧の湖の方へと飛んでいく。
このまま、家へと戻って、また実験をしないと。
時間が惜しい。
無意識に箒の速度は上がっていく。
景色が飛ぶように流れ、幻想郷の山々を越えて、広大に広がる、魔法の森へと着くのに、そうはかからなかった。
自分の家が、空から見えて来た所で、ようやく速度を下げ始める。
「……ん?」
空から地上へと降りようとした矢先、家の前に、誰か立っているのが見えた。
「………アリス?」
扉の前で、座るようにして、月の異変の時に、共に駆けた少女、アリス・マーガトロイドがいた。
空から降下してくる魔理沙に気づいたのか、立ち上がると、手を振ってみせる。
「どうしたんだ? 私の家の前で座っているように見えたんだが」
跨いでいた箒から降りて、手を振るアリスに歩み寄る。
「私が貸した魔道書、返して欲しくてきたのよ」
「あ」
つっけんどんにそう言われ、魔理沙は、そういえばアリスからも魔道書を借りて言ったなと思い出す。
「……その様子だと、忘れてたみたいね」
呆れ顔でアリスは溜息を吐くが、魔理沙は、乾いた笑みを象りながら、頭を掻いた。
「悪い、思いっきり忘れてたぜ。直ぐに返すから、ちょっと待っててくれ」
アリスの横を横切る形で、自分の家のドアを開ける。
開けた先は、出てきた時と変わらず、床にまで物が散らばっていた。
「……ちょっと、掃除ぐらいしなさいよ、これ」
扉を開けた先から、アリスはその惨状を見て、魔理沙に待っててくれと言われたにも関わらず、中へと足を運んだ。
「どうせ散らかるから、掃除しない事にしたんだ」
「……散らからないように、出来ないわけ?」
アリスが家の中に入った事に、魔理沙は対して気にしなかった。
物が散らばり、足の踏み場も僅かな合間を器用に歩いていき、アリスに貸してもらった魔道書を探す。
「確か、こっちの方に……」
山のように積もっている本やがらくたを掻き分け、不鮮明な記憶を頼りに探していく。
「………」
アリスは、そんな魔理沙を一瞥しつつ、周囲を見渡す。
「一体何をしたら、こんなに散らかるの、よ……?」
散らかっている原因となるものを、アリスは発見し、机に置かれている、走り書きされたメモを手に取る。
「………なに、これ」
「ん? ああ、ちょっとな」
呟くようにして、こぼした言葉に、魔理沙は一度振り返ったが、走り書きしたメモをアリスが見ているのを見て、再び魔道書を探す作業に戻る。
「ちょっとって……魔理沙、一体、何をしようとしたの、これ?」
「何って、ただ単に、色々と強化しようと思っただけだぜ?」
昨日行っていた実験は、魔力の変動による、強弱の付けかただったが、パチュリーの相談通りには、うまくいかなかった。
最初から最後まで、最大の状態で、魔力を固定しようと思ったのだが。
「……」
「お、あったぜ、アリス」
埋もれていた山の中からアリスに貸してもらった魔道書を抜き出して、はたいて埃を落としつつ、アリスの方へと振り返った。
振り返った先には、何故か、厳しい顔をして、魔理沙を見るアリスの顔。
「? どうしたんだよ? ほら、ちゃんと魔道書は見つかったぞ」
「………来なくなったと思ったら、何を無茶しているのよ?」
「……無茶?」
「無茶というか、無謀ね。魔力を変動させる実験か何かしてたみたいだけど……ずっと最大なんて、出来るわけがないじゃない」
「……そう、かな?」
アリスに指摘されて、悩むように腕を組んでみせるが、アリスは厳しい顔つきのまま、溜息を吐く。
「自覚もしていなかったのなら重症よ。全く、本当に、同じ魔法使いなのかしら」
「……む、そこまで言われる覚えはないぜ? 私だって、私なりに、色々と考えたんだ。それにいつも言ってるだろ? 弾幕は―――」
「パワー、でしょ?」
最後の部分をアリスは溜息混じりに呟いたが、それでも首を横に振ってみせる。
「それでもこれは無茶よ。撃つ前に壊れるわよ?」
「八卦炉なら大丈夫だろ。理論上じゃ、行けるはずだ」
「……八卦炉がじゃなくて、魔理沙がよ」
頭を抱える大げさなジェスチャーまでしてみせて、アリスは、魔理沙に真剣な眼差しを向けながら、魔理沙が手に持っていた魔道書をひったくる。
「自分の身体ぐらい、大事にしなさいよね。魔理沙が倒れたら、心配する人だっているのだから」
「なんだ、心配してくれるのか」
誰がとは言わなかったが、目の前のアリスが、私が倒れたら心配してくれると勝手に脳内変換した。
「……魔法の森に住まう同じ魔法使いのよしみとして、少しは心配してあげるわよ」
照れくさそうにそんな事を言って顔を背ける。ああ、そういう事か。
「それに」
再び真剣な顔をして、こっちに顔を向けるアリス。
「そんなに疲れた顔をされていたら、誰だって心配もするわよ」
「……え」
そう言われ、手で、自分の顔に触れる。
「………顔に、出てたか?」
「ええ、目に隈まで出来てるわよ」
「……むむ」
パチュリーと会った時は、そんな事を言われなかったのだが。
どうやら、急いでいる分、顔にまで出てきているらしい。
「……まさか、それも自覚がなかった、なんて言わないわよね?」
「………」
黙っている自分を見て、アリスはここに来て何度目かわからないぐらいの、溜息を吐いた。
「ああ、もう! 本当に急に来なくなったと思ったら、何をそんなに急いでるのよ?」
「……やっぱ、急いでる風に見えるか?」
「むしろ何かに追い詰められてるように見えるわ」
アリスのその言葉に、苦笑する。言い得て妙だが、成る程、私は、勝手に自分自身で追い詰めてるのかもしれない。
「……なぁ、アリス、一つ、聞いていいか?」
「? なによ?」
質問をしつつ、魔理沙は帽子を脱いで、机に置き、手近にあった椅子に身体を預ける。
「もしもの話だ。今から霊夢に挑んで、勝てると思うか?」
直球すぎる質問だが、どうせもう、数日もしない内に、決意を固め、もう何度目かわからないが、弾幕「決闘」を挑もうと思っていたのだ。
アリスぐらいには、聞いてもいいだろう。
「……霊夢に?」
聞かれたアリスは、立ち尽くしたまま、考える素振りをするが。
「………やるからには、勝ちにいくわ。勝ち負けの問題じゃない」
「……そうか」
アリスのその言葉にニカリと笑う。質問の答えにはなっていないが、それでいい。
あの満月の夜の中、共に駆け、共に挑んだ相方の口から、絶対に勝てないという言葉を聞くより、はるかにましだった。
「なによ、霊夢に挑む為に、こんな無茶な事をしていたの?」
アリスも空いてる椅子を掴んで、自分の立っていた場所へと持っていくと、そのまま座る。どうやら、まだ帰る気はないらしい。
「まぁ、な。アリスが人形を作るみたいに、私は、あいつに勝つ事が、目標みたいなもんだから」
「……一度も、勝てていないのよね?」
「ああ」
即答する。嘘偽りなく、あいつに勝ったと、言えた場面等ない。
「アリスだって、あの満月の夜に、対峙した時、わかってただろ? アイツは事件と関係ないと思った途端、手を抜いて、さっさと勝負を投げたのを」
「……ええ」
ぎりっと、唇を噛んでアリスは思い出すように、悔しそうな表情をした。
「何様のつもりかって、思ったわよ。けど、あのまま挑んでいたら……」
「間違いなく、私達が落とされていただろうな」
勝負を冷静に見るスタイルである分、きっと、アリスは私より、あの時の悔しさは大きいかもしれない。
「……でも、魔理沙」
「ん?」
「どうして、今更急ぐの?」
虚を突く様に、アリスは聞く。どうして、今更霊夢に勝つ為に、こんなに急ぐのか。
「ずっと、勝とうと思ってきたのよね? なら、いつものようにしていればいいじゃない。どうして、今更こんな、急ぐのよ?」
「………」
アリスのその言葉に、再び黙るが、目を閉じて、苦笑する。
「……そうだな、アリスになら、言ってもいいか」
誰かに、ぶちまけたい気持ちも、少なからずあった。
パチュリーに言おうと思った瞬間も何度もあったが、必死に、堪えていたのもある。
「アリス、私と霊夢、どういった関係に、お前から見える?」
「……? 友人、じゃないの?」
「ああ、友人だな。でも、昔と比べると、あいつ、心の底から、笑ってない気がするんだ」
「……え?」
アリスはきょとんと、魔理沙の言葉を聞いて、首を傾げる。
「何て言えばいいのかな……何処か、一歩退いてる気がするんだ。誰にって、わけじゃない。全部に対して、アイツは心を開いてない気がするんだよ」
違和感に気づいてから、それがとても許せなくて。
「色んな異変が幻想郷に起きて、あいつの周りには、誰かしらいるにはいるんだ。それが悪い事だとは、私は思っていないし、むしろ、今までの私なら、それに混ざって、面白おかしく一緒にいたと思う」
あいつが、勝手に、一人ぼっちのようにいるのが許せなくて。
「あいつはきっと、博麗の巫女として、他人面して皆に接してるんだって、本当に、馬鹿な話だけど、最近になって気づいたんだ。だから」
だから、わからせてやらないといけない。
「そんな風にしなくても大丈夫なんだって。私が、あいつに勝って、証明したいんだ。博麗の巫女だけが、幻想郷の異変を解決するんじゃない。私がいるんだって、一人じゃなくて、皆が支えてやれるんだって」
勝手な考え。勝手な思い上がり。勝手な、勝手すぎる誓い。
だが、聞いたアリスは、言葉をなくした。
霧雨魔理沙の口から、こんな言葉が出るとは思ってもいなくて。
純粋すぎる考え、友人である為に、不器用すぎる程の、友人として、無茶をし続けている白黒の魔法使い。
「……」
どうして、無茶や無謀と言ってしまったのか。
無茶や無謀と、魔理沙は自覚しているのだ。アリスが言わなくても、無理をしていると。
けれど、魔理沙は、それを無茶や無謀と思っていない。
霊夢を倒す為に、霊夢に証明する為に。
「………魔理沙」
それを応援してやるべきなのか、アリスは戸惑う。
本当に、本当に魔理沙の話が事実ならば、霊夢は博麗の巫女として、孤独のまま、居続けている事になる。
けれど、対等でいる為に、弾幕勝負でわからせるのが、正しい事なのだろうか?
アリスは懸念してしまう。このまま行けば、魔理沙はきっと、壊れると。
霊夢に勝つためなら、自分の身体等関係ないように、こうも実験をしているのを見れば、それは予想出来る事だ。
きっと、これだけじゃないのだろう。勝つために、他にも手を色々と考えているはずだ。
「……………私からは、何も言えないわね」
だが結局、アリスの出した答えは、何も出来ない、であった。
止める事も、応援してやる事も出来ない。純粋すぎる誓いは、眩しく見え、それと同時に、本当に、魔理沙に壊れてほしくないというジレンマがある。
「そっか、でもまぁ、聞いてくれただけで、少しは楽になったぜ。ありがとな」
笑って魔理沙はそう返すが、アリスはいたたまれない気持ちになってしまった。もっと、いい言葉もあるだろうに。
「長居、し過ぎたわね。帰るわ、私」
「ああ。またな」
勢いよく立ち上がると、アリスは手を振る魔理沙に、軽く手を振って、足早に、散らかっている魔理沙の自宅から外へと出る。
どれだけ話していたのか。茜色の空は、すっかりと、星屑の空に、輝くように、月が出ていた。
※
博麗とは、平等に接する者。
全てに分け隔てなく接し、他者を拒まず、他者を追わず、幻想郷の守護者として存在する。
「……けれど、本来、人間が、大妖怪に立ち向かえる程の能力はない」
星屑の空の中、博麗神社の縁側にて、月を肴に、酒を飲む者が一人。
「じゃあどうして霊夢は強いのさ?」
「さぁ、何でかしら?」
相槌を打つように、もう一人、鬼が反対側で杯を勢いよく煽っている。
「私が思うに、霊夢は博麗故に、強いと思うのよ。幻想郷では、きっと彼女に勝ち目がない」
「? どういう事?」
「本来、この幻想郷は、妖怪の楽園となるべく、作られた世界だけれど、その妖怪達の手で壊れたら意味がないって事よ。バランスを保つ為に、博麗は存在し、不動の強さを保ち続ける」
八雲の大妖怪である紫は、横で既に酔って落ちてしまっている霊夢の寝顔を見つつ、溜息を零す。
「今ならあっさりと、消してしまえそうなのに」
「けど出来ないでしょ? いつからそんな紫は情が移ったのかな?」
ニャハハと笑う萃香だったが、紫にじっと見つめられ。
「それを言うなら、萃香もじゃないかしら? いつから鬼は、人間に飼われるようになったのかしら」
ニヤリと、笑い返される始末。
「飼われてる覚えはないんだけどなぁ……霊夢といると楽しいじゃん?」
「楽しいのは、否定しないわ」
白玉桜で、弾幕勝負をした時からの付き合いだが、ここまで自分を喜ばせてくれる人間は、そうはいないだろう。
「けれど、楽しい以上に、寂しい事もあるわ」
「……孤独にさせてるって話?」
「ええ」
豪雨の中、言われた言葉は、今も胸の内にある。
博麗だから出会えたというのに、博麗故に、霊夢を縛り続けている事実。
「でも、霊夢の口から寂しいなんて言葉は、一言も出てないんでしょ?」
「……ええ」
それが、とても悲しい事だ。
誰かに頼るという事が、彼女にとって、禁忌に等しいのだ。
「………時々不安になるわ。霊夢にとって、全てが苦痛でしかないんじゃないかって」
あどけない寝顔で眠る、霊夢の長い黒髪を撫でながら、紫は、無表情のまま呟く。
「考えすぎだと思うけどな、私は」
トポトポと、空になった杯に、再び手に持つ徳利から、酒を注ぐ萃香。
「孤独に思っていても、埋めれる部分はあると思うよ。本人に関係なく、他者と接していれば、自然とね」
「……」
「それに、その孤独から解放してくれそうな魔法使いがいるじゃん」
「………魔理沙ね」
霊夢の横にいつも立っている存在。
魔理沙とも、白玉桜での弾幕勝負での付き合いだが、霊夢とはまた違う、強さがそこに感じられた。
「ここ最近、顔を見ないとは思ったけれど、まさか霊夢に勝つ為にあんな事してるなんてね」
萃香はニャハハと笑いながら再び杯を煽る。
隙間を通じて、ここ最近の魔理沙の動向を、紫は知ってはいた。
萃香も見ている時にいたわけだが、紫は、萃香程楽観視出来るわけでもなかった。
「魔理沙が死んだら、霊夢は悲しむかしら」
「? 紫は勝てないと思ってるの?」
「当たり前よ。萃香も知っているでしょ? 霊夢がまだ、本気を出してさえいない事を」
確かに魔理沙は強い。人間の身で、まだ十数年しか生きていないというのに、日々努力を重ね続けた事によって、彼女の今がある。
けれど、霊夢の強さは、次元が違いすぎる。
ろくに修行すらしていないはずなのに、自分や萃香を圧倒した実力。
特に、あの未来予知じみた動きは反則に近い。まるで、何度も繰り返し戦った覚えがあるように、霊夢は初見で、私の弾幕結界を苦もなく突破してみせた。
「何も出来ずに終わるのなら、まだいいわ。けれど、魔理沙は……」
どれだけ実力の差があろうとも確実に足掻くだろう。
それが、自滅に繋がったとしても。
そういう人間だと、今までの行動からわかってしまう。自分がどうなろうと、一撃叩き込む。
そういう人間なのだ。あれは。
「魔理沙なら、もしかしたらって思うんだけどなぁ私は。十数年しか生きてないのは霊夢も同じだし、重ねた努力が、天才を上回るなんてよくある話じゃん?」
「……そう、だといいのだけど」
再び溜息が漏れる。大妖怪である自分が、こんな事で悩むのは、正直らしくない。
本当に、萃香の言う通り、情が移ってしまったのだろう。
「………そろそろ、お開きにしましょうか。霊夢を介抱しないといけないし」
「えー、まだいけるよー?」
お開きという言葉に、即座に反応して、文句を付ける萃香。
「仕方ないじゃない。霊夢は本当に、お酒を飲み始めたら、すぐに酔い潰れるのだから」
そこまで強くはないのに、ガンガンとお酒を煽って、すぐに酔い潰れてしまった霊夢の身体を起こして、お姫様抱っこの形で、持ち上げる。
「……すぅ……んん……」
「………はぁ」
溜息が漏れる。
目の前で、無防備に眠る霊夢を見て、愛しい気持ちと、悲しい気持ちが、同時に浮かび上がってくる。
どうして霊夢が、博麗として生まれてしまったのか。
思ってはならない考え……だが、思わずにはいられない考え。
勝負の後に、果たして、何か変わってくれるのだろうか?
※
「……ホントに、私もどうかしてるわね」
魔理沙から魔道書を返してもらった翌朝、アリスは、朝早くから幻想郷の空を飛んでいた。
あの後家に帰ったまではいいが、魔理沙の話が、胸に巣食っていて、人形の製作が、手をつかなくなってしまった。
向かっている先は紅魔館。もう一人の魔法使いの元に、この話をしに行こうと思い、空を駆けている。
他人にあまり興味を抱かないと思っていた自分にとって、今、行っている行動は、苛立ちと驚きが入り混じっている状態だった。
これが他の人間の話ならば、軽く受け流していたかもしれない。
「……」
昨日見た魔理沙の顔は、酷く疲れていた。
いつも余裕を持って、陽気に笑い、活発に行動している彼女から、決して見せないその顔は、アリスを不安にさせ、行動に至らすまで充分であった。
魔法の森から飛んで数刻程、目的地である館が見えてくるまで、そうはかからなかった。
霧の湖を抜けて、門前に降りようと、速度を減速していく。
門の前には、いつも通りと言うべきか、それとも、いつもと違うと言うべきか、門番である紅美鈴が、身体を動かしていた。
「あら?」
「おはよう。パチュリーに会いに来たのだけど、通っていいかしら?」
これが魔理沙なら、有無を言わさず、弾幕勝負に持ち込むのかもしれないが、アリスは紳士的に、通っていいか聞く。
「おはよう。パチュリー様は、まだご就寝しているかもしれないけれど?」
「それなら、図書館で待たせてもらうわ。話があるのよ」
話があると言われ、美鈴は考える素振りをするが。
「咲夜さんに、通っていいか聞くから、少し待ってて」
アリスの返事を待たずに、美鈴はそれだけ言うと、踵を返して、門の中へと駆け足で入っていく。
「……」
アリスは、言われた通り腕を組んで、美鈴が戻ってくるのを待った。
「………ん?」
数分程経ち、美鈴が戻って来たのを確認するが、隣に、メイド服を来た、咲夜の姿もあった。
「待たせたわね、案内するから、一緒に来なさい」
「……構わないけど、いいの? わざわざ貴方が来るなんて」
朝早く、屋敷内が忙しいかと思った分、咲夜が来たのは、アリスにとって予想外であった。
「お嬢様も地下図書館にいるから、都合がいいのよ」
「……レミリアも?」
鉄格子の門が開き、アリスは紅魔館の敷地へと足を踏み入れる。
「吸血鬼が、朝早くから目を覚ましているなんて意外ね」
咲夜の後を歩くようにしてついていくアリスは、咲夜に聞こえないように、呟くにようにして言ったが。
「博麗の巫女の元へ行くようになってから、朝早くから起きる時が増えたのよ」
相槌するようにして、咲夜から返される。
アリスは、博麗の巫女という言葉に、少しばかり顔をしかめたが、頭を振って、気にしないようにしながら、咲夜の後を黙々と歩く事にした。
アリスもここに訪れる事は、他の連中と比べれば、少なくはない。
魔理沙に誘われて、度々足を運ぶ事もあれば、人形に関連する書物を探す為に、地下図書館に足を運ぶ事だってあった。
だけど、今日は違う。自分の為でも、誘われたわけでもない。
初めて、他者の事で、ここに足を運ぶ。
日の光も差さない、石造の廊下を抜け、地下へと続く暗がりの階段を抜けて、地下図書館の扉の前まで来た。
アリスの前を歩いていた咲夜は、コンコンと二度扉にノックをする。
「お嬢様、パチュリー様、咲夜です。客人を、連れてきました」
ドア越しにそう言うと、咲夜は返事を待たずに、ドアノブを捻る。
返す言葉等、最初から期待していないのだろう。律儀に紅魔館のメイドとして、咲夜は、断りを入れただけだ。
「あら、こんな朝早くから、何の用かしら? 人形遣い」
扉を開けた先には、優雅に座る、紅い吸血鬼と、この図書館の主である魔法使いが、机に紅茶を置いて待っていた。
「……おはよう、って言うべきなのかしらね。朝が早い吸血鬼なんて、聞いた事がなかったわ」
一礼して、レミリアの横に控える咲夜の後を追うように、アリスは座る二人の前で、腕を組んで立つ。
「早寝早起きは三文の得という言葉があるわ。昔と今では、過ごし方も違うのよ」
ニヤリと、アリスに向けて笑うレミリアだったが、アリスは溜息を吐いて返して見せた。
何処の世界に、早寝早起きして得をする吸血鬼がいるのだろうか。夜を捨てる等、一番活動しやすい時間を捨てているというのに。
「……今日は、何の用で来たの? アリス」
会話に割って入る形で、パチュリーはアリスに聞く。
「………パチュリーに相談、というか話相手になって欲しくてきたのだけれど」
チラリと、レミリアの方をアリスは見る。
「……私がいては、出来ない相談?」
「ええ。出来れば聞かれたくないわね」
レミリアはその言葉に、眉を寄せるが。
「けど、公言しないって言うのなら、一緒に居てもいいわよ」
「……それは、面白い話なのかしら?」
「確実に、面白くない話よ」
「……ふぅん」
再びニヤリと、レミリアは笑ってみせる。
「いいわ、ここだけの話にしましょう。話してみなさい」
レミリアは、咲夜に手で何か合図をすると、すぐに、アリスの分の紅茶と、空椅子が設けられる。
「ありがとう」
アリスは、用意された椅子に座ると、何度か目を閉じて、深呼吸をしつつ。
「話というのは、霊夢と、魔理沙の話よ」
遠まわしにせず、さっさと本題に入った。
※
「………それは、本当の事?」
話を聞いたパチュリーとレミリアは、驚きの表情を隠せなかった。
特に、レミリアは顔面蒼白と言ってもいいかもしれない。霊夢が孤独に感じているという事実は、度々霊夢の元に行っている一人として、信じがたい事のようだ。
「魔理沙が感じた事だから、何とも言えないわ。本人にも確証を取っていないし、取れる事でもないわよ」
「……確かに、そうね」
パチュリーは紅茶を啜りながら、横に座るレミリアの表情を見るが、呆然として、顔を俯かせているのを見て、事実であって欲しくないと思った。
「………魔理沙は、いつ、霊夢とやる気なんだ」
「わからないわ、ただ、挑むとしたら、すぐでしょうね」
顔を俯かせていたレミリアの口から出た言葉に、アリスは返す。
「……あれが、本心じゃない……」
レミリアは、ぎゅっと、握りこぶしを作り、自分の震えを押さえる様に、唇を噛んだ。
「何がいけなかった? 何が悪かった? 霊夢は、文句は言うが、いつも、微笑んで見せていたのに」
日傘を差して、霊夢の元に向かっていたのが、意味が、なかったというのか。
「お嬢様、魔理沙がそう感じたという話なだけです。まだ、そうと決まったわけでは」
「わかってる、わかってるわよ……」
咲夜にそう言われ、頭をぐしゃぐしゃと掻いて、レミリアは何度か、深呼吸してみせる。
「……ほんっとうに、面白くない話だったわね」
不貞腐れたように言い放つが、顔を俯かせ、今にも泣きそうにしていた顔は、そこになかった。
「最初に言ったじゃない。面白くない話だって。特に貴方にとっては、受け入れがたい事実だと思うし」
「まだそうと決まったわけじゃないわ。それに、そうだったとしても、魔理沙は何かしようとしてる」
それなら、これ以上落ち込んで見せるのは、無様でしかない。
紅魔館の主である、レミリア・スカーレットが、客人の前でこれ以上そんな無様な所を見せる等、あってたまるものか。
「……レミィ」
と、横で何か考える素振りをしていたパチュリーに、名前を呼ばれ、そっちに顔を向ける。
「何かしらパチェ?」
「あの巫女に……勝てると思う?」
パチュリーは、不安げに聞く。
「私は、無理よ。あの巫女にもう一度対峙しろと言われても、勝てる気がしないわ」
「……パチェの口から、そんな言葉を聞くとは、思ってもみなかったのだけれど?」
レミリアは、怪訝そうにパチュリーを見るが、冗談ではなく、本心から言っていると、長年の付き合い故に、レミリアはわかってしまった。
「レミィは、勝てると思える? あの巫女に」
「当然よ。やるからには勝つ」
だが、そんな不安な表情を見せるパチュリーを一蹴するように、レミリアは即答する。
「霊夢がどれだけ強かろうと、吸血鬼である私が遅れを取るなんて、何度もあってはならないわ」
「……」
唖然とするパチュリーであったが、薄く微笑んでみせる。そうであった。盟友である彼女は、こういう存在だった。
「魔理沙も、きっとやるからには、勝とうと思うはずよ。相談に来たのは、それの件よ」
アリスは豪語するレミリアを見つつ、置かれていた紅茶を一気に飲み干す。
長話をしていたせいか、紅茶は、すっかり冷めてしまっていた。
「パチュリー、ここに、魔理沙は来なかったかしら?」
「来たわよ。魔法の相談をしてきたから、色々と教えたわ」
「なら、魔理沙が無茶をしようとしてるのも、知っているわよね?」
アリスのその言葉に、パチュリーは頷いてみせる。
「……どうにか、出来ないかしら? 魔理沙を」
「どうにかって?」
「……勝負自体を、出来れば、私は止めたいわ」
あの時言えなかった言葉を、アリスは、苦しげに言う。
「魔理沙が、どんな気持ちで、霊夢に挑もうとしてるかは、わかっているつもり。だけど、それ以上に心配なのよ。勝負が終わった後に、魔理沙が、壊れてしまっているんじゃないかって」
「……アリス」
アリスの言葉に、パチュリーは、小さく、頭を振った。
「魔理沙が選んで、しようとしている事よ。残念だけど、止める事は」
「無理、よね」
わかりきった答えに、アリスは落胆してしまう。
そう、そんな事、わかりきっている。魔理沙にもう何を言ったとしても、部外者である私達が、止める術がないという事も。
止める術があるとしたら、魔理沙を霊夢に挑む前に、再起不能にさせるぐらいだろう。
そんな事をすれば本末転倒。所詮、ここに来た理由は、誰かにこの話をして、抱えた重みを、他人に分ける作業をしているだけだ。
「アリスは、アイツが霊夢に勝てないと思っているのね」
落胆するアリスに、レミリアは冷たく言ってみせる。
「そう、じゃないわ。勝てる勝てないの問題よりも、魔理沙が勝負の合間に、どれだけ無茶をしようとするか、わからないから心配なのよ」
「……なら、アリス、本当に勝負を止めてみるか?」
「……え?」
その言葉に、アリスはレミリアの方を凝視する。
「丁度、霊夢の所に行こうとしていた所よ。貴方も一緒に来て、事実を確認すればいいじゃない」
レミリアは笑うようにそう言うと、椅子から立ち上がり、アリスの横へと立つ。
「止めたいのなら行動しなさい。探究する事が、魔法使いのするべき事じゃないかしら?」
「……レミリア」
すっと、アリスに向けて、レミリアは手を差し出す。
それを、アリスは、少しの合間考え、おずおずと、差し出された手を握ってみせた。
「そうね。まさか、貴方からそんな風に、言われるとは思ってもみなかったけれど」
アリスは、笑うレミリアに、ニコリと、笑って返す。
悩んでいても仕方がない事なら、行動するべき。
確かに、魔法使いである私が、するべき事だ。
「咲夜、神社に行くわよ。お供しなさい」
「はい」
「いってらっしゃい」
ゆっくりと、図書館から出て行く三人に、パチュリーは手を振って見送る。
バタンと、閉められる扉を見ながら、パチュリーは席を立った。
「パチュリー様~~、片付け終わりました!」
そこに、ダダダと、駆け足で姿を見せなかった、小悪魔が駆け寄ってくる。
「そう、ご苦労様」
「パチュリー様は、行かれないのですか? 神社に」
話が聞こえていたのか、首を傾げ、聞いてくる小悪魔に、パチュリーは微笑んでみせる。
「私が行っても、意味がないわ。事実がどうあれ、この勝負は止まらない」
それは、レミリアにもわかっている事だろう。あんな風にアリスに言ったが、レミリアは止める為に行ったわけじゃない。
「……レミィらしくないけれど、認めたくないのね」
小悪魔に聞こえないように呟いた台詞は、きっと真実だろう。
彼女が、霊夢の元に行くようになって、どれぐらい経っただろうか。
彼女や私にとって、それは、浅い数年の出来事として記録されるべき思い出。
けれど、レミリアにとっては、そうではない。恋焦がれる乙女のように、彼女は、霊夢に心底惚れてしまっていた。
だから真実を知りたいのだろう。本当に孤独と、霊夢が思っているならば、レミリアは、どんな行動をする事か。
「小悪魔、紅茶の後片付けだけしておいて頂戴。私は、自室に戻るわ」
「はい、わかりました」
小悪魔にそれだけ言うと、パチュリーは自室に戻るべく、図書館の入り口へと歩き、ゆっくりと開けると、自室へと続く廊下を淡々と歩いていく。
魔理沙は、今日もここに来るのだろうか?
ふと、昨日の魔理沙の言葉を思い出したが、パチュリーは心の中で、否定する。
きっと、魔理沙は来ない。アリスにまで話したのだ。
もうこれ以上、自分に相談する余裕もないだろう。今日か明日か、それぐらいには、勝負が始まる。
「そうね……勝負の行く末ぐらいは、知りたいものだわ」
自分の体調を考えつつ、あの巫女に魔理沙がどんな闘い方をするか、見たいパチュリーであった。
※
「……すっかり、春ね」
「そうだねぇー」
博麗神社の縁側にて、霊夢と萃香は、のんびりとお茶を飲んでいた。
境内には、植えられた桜が所々咲き誇り、鮮やかなピンク色の幻想がここにあった。
「これだけ桜も散れば、もう春だって認識するよねぇ」
「掃除をするのが、大変だけど」
ハァと、溜息を吐いて、霊夢は境内に散る桜の花びらを見る。
霊夢にとって、春夏秋冬の風習は、それほど興味を惹きたてるものではなくなっていた。
掃除がしやすいか、しにくいか。お茶が飲みやすいか、飲みにくいか。
それぐらいの些細な変動。
そう言った意味では、季節が春へと変わり、お茶も飲みやすい季節になり、雪かきもしなくなった今は、とてもいい時期なのかもしれないが。
「これだけあったかくなったんだから、そろそろ宴会の時期だよねぇ?」
「萃香はいつだって宴会したがるでしょうに」
横でキラキラと、こっちに期待の眼差しを向ける萃香に、霊夢はめんどくさそうに視線を返す。
「いいじゃんやろうよぉ~皆でわいわいすれば、何だって楽しいよ? 最近ここに来る厄神とか、妖怪の山の連中も誘ってさ」
「……そうねぇ」
雛の事や、早苗達の話を持ち出され、霊夢は少しばかり考える。
確かに、知り合ってからあの辺りの連中とは、こっちで宴会を開いた覚えはない。
信仰の為という話で、守矢の神社の宴会には、誘われて参加した覚えはあるが。
「してもいいけれど、季節が変わっても、顔を出さない奴もいるし……」
歯切れ悪く、霊夢が口にする顔を出さない奴。
いつもなら、何もなくても勝手に来る友人が。
どうしてか、冬の終わり頃から、姿を見せなくしていた。
「……魔理沙?」
「ええ。別に構わないのだけど、ああも入り浸って来てたのが、急に来なくなるとね」
「気になるなら、会いにいけばいいじゃん」
萃香の尤もな発言に、霊夢は苦笑する。
「そこまで気にはしてないから、別にいいの。魔理沙にも、魔理沙の事情があるでしょうし」
「むぅー、それで宴会を開いてくれないのも嫌なんだけど」
「萃香はお酒を飲みたいだけでしょうが」
食い下がる萃香に、霊夢は溜息を吐く。
「違うよー、みんなとお酒を飲むから楽しいんだよ? 一人でお酒を飲んでたって、ちっとも楽しくないよ」
「それなら紫と一緒に飲めばいいじゃない」
ここに今はいない人物の名前を挙げる。紫は、目を覚ました頃には、いなくなってしまっていた。
萃香の話だと、用事がある為、帰ってしまったらしいが。
年中暇そうにしている紫の用事というのも、少しばかり興味はあったが。萃香もその用事が何なのかまでは、知らないようだった。
「それじゃいつもと一緒じゃん!」
「……いつもと一緒でいいじゃない」
ダダをこねる萃香を見つつ、霊夢は手に持っている湯飲みに口をつける。
「………あら?」
湯飲みに口をつけて、青空の方へと視線を移した際、久方ぶりに見る人物の姿があった。
黒白のエプロンドレス、黒白の帽子、風にそよがれ、流れる白金の髪。
箒に跨り、冬の終わりに見た姿と変わりなく、彼女は、空にいた。
「……お? 噂をすれば、魔理沙だ」
空の方へと視線を送っていた霊夢に合わせるように、萃香も空を見て、彼女の名前を口にする。
ゆっくりと、魔理沙は空から降りてきた。
境内の真ん中に降りた彼女の姿を見て、霊夢は立ち上がる。
「よ、霊夢」
変わらない挨拶、変わりようがない、挨拶。
「……魔理沙?」
だが、久方ぶりに見る友人の顔に笑みはなく、真剣な表情をして、立っていた。
※
―――挑もう。
そう決意したのは、アリスに話してから、日がすっかり上がってしまった、翌朝であった。
決意したら、今度は不安と緊張が胸の内に広がっていった。
あいつに本当に勝てるのか。まだ早いんじゃないのか?
今までの勝負とは違う、真剣すぎる程の、遊びじゃない決闘に、魔理沙は心底おびえていた。
もし負けたらどうしよう。もし勝てなかったら、どうすればいいのか。
おびえた心は、身体に伝染し、震えが止まらなくなってしまった。
それを必死に抑え、飛び出すように家から出て、箒に乗って、空へと飛び立ったのが数分ぐらい前。
博麗神社が見えてきて、霊夢の姿を見た途端、何を、私は震えているんだと、心にもう一度、強く言い聞かせる。
変わらずいた友人、そして、今も、博麗として居続ける友人。
私は、冬の終わりに誓ったはずだ。
必ず勝つと。
霊夢の前に立ったとき、震えは消え去っていた。
※
「久しぶりだな」
「……ええ。久しぶりね」
いつも陽気に笑っている魔理沙の顔ではなく、真剣な眼差しで、霊夢を見る魔理沙の表情を見て、霊夢は、心の内で、何があったのか考える。
「何か、あったの?」
「? どうしてだ?」
「いつもと、何か違うから」
「それを言ったら、霊夢はいつもと同じだな」
ニカリと、笑ってそう言われ、少しばかりむっとする。
「まぁ、でも、霊夢らしいか」
「? 何の話よ」
「霊夢がいつも、そうやって博麗としている話だよ」
魔理沙はスカートのポッケから八卦炉を取り出すと、一度、空を仰ぎ見る。
もう、引き下がれない。この話をすれば、勝負するしかない。
「気づくのが、遅れに遅れてさ、親友だと思ってた自分としては、正直情けないと思ったぜ。私は」
「……何の、話よ」
魔理沙の言葉に、霊夢は動揺する。魔理沙は、一体、何の話をしているのか。
それは、気づかれるはずがない、話のはずだ。
「昔の霊夢はさ、もう少し、ちゃんと笑ってたと思ったんだ」
魔理沙の言葉に、心に亀裂が入っていく。
「最初は違和感があっただけなんだ。けど、今じゃ、その違和感も、結構大きくなっちまってな」
空を仰ぎ見てた視線を、再び霊夢の方へと戻す。
「霊夢さ、いつからか、心の底から笑ってないだろ?」
「………」
魔理沙の言葉に、霊夢は何も言えなかった。
それが、事実であった為に。
「私はさ、長年の付き合いだってのに、最近になって気づいたんだ。本当に、気づくのが遅れちまったぜ」
乾いた笑みを作って、魔理沙は、押し黙る霊夢を見続ける。
「………………魔理沙は」
間を置いて、言葉を忘れてしまったかのように、霊夢はゆっくりと、言葉を紡いでいく。
「それを知って、どうしようと思ったの?」
「そりゃ、決まってるだろ」
八卦炉を前に突き出し、宣言するように、魔理沙は霊夢に言う。
「私が隣にいる事をわからせる。勝手に自分が一人ぼっちだって思ってる親友に分からせる為に、私は今、ここにいるんだ」
「……魔理沙」
その言葉に、霊夢は驚きと、動揺が顔に出たが。
「それは、弾幕勝負を挑むって事よね?」
「ああ、それ以外に、わからせる方法なんてないだろ?」
すぐに、冷徹な眼差しで、魔理沙を見つめ返す、博麗の巫女の姿があった。
「全く、久しぶりに会ったと思えばこれだもの」
「悪かったな、これぐらいしか思い浮かばなくて」
軽口を叩きあいつつ、空へと上がる両者。
「……やるからには、手加減なんてしないわよ?」
「ああ。本気じゃないと、意味ないぜ……!」
瞬時に放たれたマジックミサイルと、お札がぶつかり合い、炸裂した。
※
前方に見えてきた博麗神社で、既に弾幕勝負が行われているのを見て、アリスは唇を噛んだ。
「遅かったみたいね」
横で日傘を差しながら飛ぶレミリアの言葉に、何か返そうかと思ったが。
「……そうね」
何を言っても、泥のように、醜い言葉が、心の中で膨らみ、それを言うまいと、軽く返して、弾幕勝負が行われている上空から離れる形で、三人は神社の境内の方へと、降りていく。
「お? 珍しい組み合わせが来たね」
境内の方には、既に先客が一人いた。
「鬼がいながら、止めなかったのね」
「止める理由がなかったからね」
忌々しく、レミリアの口から吐き出された言葉に、萃香は軽く受け流した。
「なんだ、魔理沙があんな事を言うって事は、アリス達も気づいた口なの?」
「……気づいたって、まさか萃香、貴方も知ってたの?」
「私は紫から聞いて知ったよ。霊夢が孤独に感じてる話をね。未だに信じられないけど」
萃香は話しつつも、視線は上空で行われている弾幕勝負に釘付けとなっていた。
「よくやるね魔理沙も。あれじゃあ数分ともたないだろうに」
萃香のその言葉に、アリス達も上空へと目を映した。
高速で飛び交う、紅白と、黒白の弾丸。
「あの馬鹿……」
アリスは、魔理沙の行動を目で追い、舌打ちする。
無茶だと、あれだけ忠告したというのに、魔理沙のしている事は、案の定、最大出力で、全て放出している戦法だった。
弾幕と弾幕がぶつかり合う中、魔理沙のマジックミサイルが、相殺すらさせずに、何度も霊夢に迫るのが、ここからでも見える。
「……魔理沙らしいが、相手が悪い」
上空を見る、レミリアの口から零れる言葉。
「あれじゃ、当たらないね」
萃香の言葉通り、迫るミサイルは、何度も霊夢に向かうも、かわされてしまっている。
「……咲夜、貴方だったら、どう当てる?」
横で日傘を差して、律儀に控えたままの咲夜に、レミリアは聞いてみる。
あの巫女に、どうすれば一撃を与えられるか。
「……私なら、時間を止めますが」
上空の弾幕勝負を見ながら、咲夜は霊夢の動きを目で追い続ける。
別段、追えない速度でもない。かわせないように弾幕を張れば、スペルカードを発動して、霊夢の行動を縛って行けばいい。
「……でも、前回はそれで負けました」
紅い霧の異変の時、咲夜はあの巫女を止められなかった。
時間を止めても、霊夢は迫るナイフをかわしてみせたのだ。まるで、初めから何が来るか、わかっていたかのように。
それなのに、今の魔理沙の戦法で、どれだけあがいても、当たるはずが、あるわけがない。
「魔理沙も、当たらない事は承知の上で、撃ってると思うけどね。アレは」
萃香は、ニヤニヤと、笑みを作りつつ、魔理沙の行動を、目で追っている。
「……承知の上でも、あんな風に撃ちつづけたら、壊れるわよ」
対して、同じように魔理沙の方を目で追っていたアリスは、必死に握り拳を作って、今すぐに空へと上がろうとする自分の身体を、必死に自制していた。
止めたい気持ちは、今もあるに決まっている。
だが、アリスの身体は動かない。
ここからでも、魔理沙の顔は見える。
真剣に挑んでいる弾幕勝負だというのに、あんな戦い方をして、自分の身を削りながら戦っているというのに。
魔理沙の顔は、真剣であったが、何処か、喜びに満ちた表情。
勝負そのものを楽しんでいるその顔は、いつもと変わらない、魔理沙の素顔。
―――あんな顔をされて、止められるわけがない
固唾を飲んで見守るアリスは、一挙一動、目で追いながら、無事に勝負が終わる事を願う。
「……そろそろかな」
「ええ、そろそろね」
レミリアと萃香が、口にした途端。高速で動いていた両者の動きが止まった。
※
「魔空!」
先に動いたのは、魔理沙だった。
「アステロイドベルト!」
宣言と共に、魔理沙の周囲を回るように、星の弾幕が張られていく。
「……」
霊夢は、空へと張られていく星の海を、スペルカードを発動せずに、避けようと動いた。
魔理沙のスペルカードは、何度も戦っているおかげで、全て把握している。
頭の中に浮かぶルートをなぞるようにして、星の海を掻き分けるように、身体を滑らせていき。
「……違う」
直感と共に、横に大きく回避行動を取る。
流れていく大きな星の弾丸。
だが、霊夢が先ほど抜けようとした場所に、隠れるようにして、小型の星の弾幕が殺到していた。
「……成る程」
いつもと違う。
先ほどから、札の弾幕が押し負けていたが、文字通り、弾幕にパワーを乗せて、自分を圧倒する気のようだ。
「けど、まだ甘いわね」
ニヤリと笑って、霊夢は懐からスペルカードを取り出し。
「夢符、封魔陣」
宣言して、空に埋め尽くされた星々を吹き飛ばす形で、結界を発動させる。
「くっ……!」
魔理沙は結界に巻き込まれないように、後方に飛んで回避してみせる。
「甘いわよ」
だが、霊夢は躊躇せずに、必ずそこにいると直感を走らせ、封魔陣を瞬時に消し、陰陽玉を前方に飛ばした。
陰陽玉は、後方に回避した魔理沙の元へと、光速に迫り。
「! 光符! アースライトレイ!」
二つ目の宣言によって迎撃される。
魔理沙の周囲に浮かんだ光の弾は、瞬時に陰陽玉に狙いを定め、レーザーによって消滅された。
「いっけぇぇ!!」
そのまま魔理沙の周囲を囲うようにして、光の弾から、何重ものレーザーが、霊夢へと殺到した。
「……霊符」
霊夢は、冷徹な眼差しを向けながら、レーザーをかすめる形で避け。
「夢想封印!」
七色に輝く光弾を魔理沙に放つ。
放たれた光弾は、一つ一つが生きているかのように、魔理沙の元から放たれるレーザーをかわしていき。
「くっそ……!」
光弾へと、ぶち当たっていった。
魔理沙は、潰せないと判断して、白煙が広がる中、再び後方に回避行動を取るが。
「二度も同じ動きは、流石にまずいわよ? 魔理沙」
横から聞こえてきた言葉に、咄嗟に振り向く。
振り向いた先には、魔理沙へと殺到する針の群れが。
「……!」
結界を張るが、間に合わない。
迫っていた針が、八卦炉を持つ腕へといくつか刺さり、激痛を伴って、衝撃を与えてきた。
「ぐ……!」
歯を食いしばって痛みに耐えつつ、未だに向かってくる針を、結界で防ぐ。
「星符! スターダストレヴァリエ!」
防ぎながら、針が刺さったままの腕で、なぎ払う形で、再び星の弾幕を展開する。
近くにいた霊夢は、その星々を一瞥し。
「……な」
あろうことか、突っ込んできた。
「……! 恋符……!」
スターダストだけでは止められない。
身体に走る激痛に顔をしかめながら、魔理沙は十八番を使う為に、八卦炉に再び魔力を集中させ。
「マスタースパーク!」
星の弾幕もろとも、霊夢に向けて、一筋の閃光が発射される。
「神技」
マスタースパークの宣言を見た霊夢は、流石にかわせないと判断したのか。
「八方龍殺陣!」
魔理沙に見せた事のない、スペルカードを発動した。
霊夢を守るように、幾重にも札が展開され、更に、隙間を塞いでいくかのように、針が幾重にも展開されていく。
轟音と共に、マスタースパークは、霊夢の弾幕にぶち当たった。
「……おいおい」
魔理沙は、白煙を上げた結界を見て、後方に、飛ぶようにして逃げる。
これが、霊夢の本気なのか。
確かに、直撃したはずのマスタースパークは。
「マスタースパークも出したって事は、後がないんじゃないかしら? 魔理沙」
完全に、霊夢に張られた結界によって、止められていた。
「生憎と、まだ手の内はあるんだぜ」
顔に無理やり笑みを作って、空に張られていく結界を見ながら、二の腕に突き刺さったままの針を抜いていく。
抜いた先から、血が流れるが、見た目と比べ、そこまで重症というわけでもない。
霊夢の持っている物は、妖怪や吸血鬼に対して、効き目があるものなのだろう。
人間の私にとっては、あくまで、針が刺さったという意味合いしか持たないようだ。
「……でも、あれを喰らったら、まずいよな」
目の前に張られていく、幾重もの結界の群れに、魔理沙はどうするべきか、考える。
全力で魔力を注いだマスタースパークでも、あの結界はびくともしなかった。
マスタースパーク以上のスペルカードは、あるにはある。
だが、あれは切り札だ。連続で撃てるものでもない。
(……おまけにさっきから、身体の激痛が、酷くなってるぜ)
内心舌打ちしながら、今の自分の容態を確認する。
手抜きをさっきから出来ない分、アリスに言われた通り、私の身体は、徐々に崩壊への道を辿っているようであった。
身体を動かすだけで、先ほどから、激痛が広がってしまっている。
マスタースパークも、強化を加えて撃ったせいか、拍車となってしまったようだ。
対して、霊夢はノーダメージ。
(ホントに、どうするか)
今にも、魔理沙に殺到しかねない結界の群れは、層を重ねているだけで、まだ動く気配はない。
あの結界群を、無理やり突破するか、それとも回避に徹して、やり過ごすか。
「……」
箒を握っていた片方の手を、風に飛ばされないように、帽子をしっかりと押さえ、魔理沙はニヤリと、笑ってみせる。
「―――彗星」
勝機等、元からないのは百も承知。
今自分に出来る全開を選択し、あがいて、必死にあがいて。
「ブレイジングスター!」
友にわからせてやるのに、これ以上退けれるものか!
魔理沙の宣言と共に、箒は青白く輝き、今までの速度が嘘のように、更なる光速を作り上げる。
方向は真正面、霊夢の結界群に向け、魔理沙は加速する。
「そう来ると思ったわ」
霊夢は、魔理沙の動きを待っていたかのように、自分の周囲に張っていた結界を、加速しながら迫る魔理沙へと、放った。
札の群れ、針の群れ、陰陽玉の群れ。
三つの層が、歪むように、一つ一つ、生きているように動き、魔理沙を潰さんと迫る。
「……ここ、だ!」
ブレイジングスターによって、今まで以上に荒ぶる箒を、片手で必死に押さえながらも、魔理沙は、迫る結界群から、目を離さなかった。
箒の向きを、無理やり上へと持ち上げ、飛ぶ角度を変えてみせる。
魔理沙は、ぎりぎりの所で、札の群れをかわして見せ、急上昇していく。
「まだよ!」
だが、霊夢の表情は変わらない。
塞ぐように、急上昇する魔理沙の頭上に、陰陽玉が展開される。
「甘いぜ……! 霊夢!」
霊夢はこのまま魔理沙が、上へと逃げると思ったのだろう。
しかし、退かない選択をした魔理沙が取った行動は。
「な!?」
そのまま、霊夢に突撃するという行動だった。
「血迷ったの!? 魔理沙!」
まだ霊夢の前には、針の結界群が残っている。
それがあるというのに、魔理沙の突撃は止まらない。
「く……!」
霊夢は怪訝な表情をしつつも、回避行動を取る。
自分を守るように展開されている針の結界。
だが、先ほどの攻撃が仇となったか。
針では落ちないと、確信している魔理沙の速度は変わらず、針の結界に突っ込む形で、霊夢が居たところを駆け抜けた。
「この……!」
かわしたままの体勢で札を放つ霊夢。
だが、ブレイジングスターによって、距離を取った魔理沙に当たりはしない。
「……行くぜ霊夢!」
叫ぶように、霊夢の真横を駆け抜けた魔理沙は、反転して止まると、そのまま帽子を押さえていた手と、八卦炉を持つ手も霊夢に向ける。
「恋心!」
身体に広がる激痛、抜ける際に突破した、針が身体中に刺さっているが、歯を食いしばりながら、魔理沙は再び宣言。
勝機は、今しかないと信じて。
「……っつ!?」
宣言を聞き、霊夢はかわすべく、動こうとする、が。
「……え」
かわそうとして、気づく。
周囲からの冷気によって、退路を阻まれている事に。
「私に向かってきたのは、これの為ね……!」
設置型属性魔法、コールドインフェルノ。
妖怪の山に向かう際、一度は見ていたはずの魔法を、霊夢はこの瞬間、魔理沙の強行突破によって、見落としていた。
「ダブル、スパーーーーク!!」
魔理沙は、動けない霊夢に向かって、叫ぶように、両手から閃光を放つ。
閃光は、光り輝きながら、霊夢の元へと、すべるように迫り。
「………大、結界」
コールドインフェルノもろとも、爆散した。
※
「嘘……」
その言葉は、誰から呟かれた言葉だろうか。
境内で霊夢と魔理沙の勝負を見ていた者達は、魔理沙が放った、ダブルスパークの閃光を、呆然と見つめていた。
「……やった?」
アリスは、魔理沙が放ったダブルスパークが、霊夢に当たる所まで、しっかりと見ていた。
周囲を囲うコールドインフェルノによって、霊夢には、逃げれる場所もなかったはずだ。
加えて、渾身のダブルスパーク。完璧に、決まったはずだ。
だと言うのに、アリスは不安な表情を、拭えなかった。
本当に、これで終わりなのか?
白煙が広がり、霊夢の姿は見えず、ダブルスパークを放った魔理沙の姿が見えるだけだ。
魔理沙は、肩で息をするように、荒い呼吸を、何度もしながら、眼前を見据えていた。
「あれを、使うのね。霊夢」
「あ、紫」
縁側の方から、ここにはいないはずの声がして、アリスはそちらに顔を向ける。
そこには、憂いを帯びた顔をして、上空を見つめる紫の姿があった。
「用事は終わったの?」
「まだ終わってはいないのだけれど。藍に任せてきちゃったわ」
苦笑して萃香に話をする紫であったが、アリスは、先ほど聞いた言葉が耳に離れない。
「……隙間妖怪、あれって、何だ?」
同じように、聞いていたレミリアの口から、紫に疑問の言葉が投げかけられた。
「私の真似事よ。威力は折り紙付だけれど」
レミリアの言葉に、クスリと笑って、紫は縁側の方へと歩いていくと、萃香の横に座る。
「……霊夢は、倒れていないの?」
白煙は今もなお、広がっている。
アリスは、懇願するように、紫に聞くが。
「あれで、沈むようなら、博麗なんて、名乗っていないわ」
紫は、楽しむように、絶望の言葉を口にするが、表情は、悲しげに象られていた。
※
「ハァ、ハァ……!」
肩で息をしながら、魔理沙は身体中に広がる激痛に、顔をしかめながら、前方に広がる白煙から、目を離さないでいた。
手ごたえはあった。賭けに近かったが、霊夢のかわす癖を突いた一撃は、確実に、ダメージを与えたはずだ。
「……ハァ……」
なのに、どうしてだろうか。
落とせたと、思えない。
「……ハァ、くそっ……!」
身体に走る痛みを無視しながら、未だに刺さっている針を引き抜いていく。
太腿や、肩にまで刺さっていたが、喰らった衝撃が酷かっただけで、針自体は、大したダメージはない。
問題は、いつ壊れてもおかしくない身体の内にある。
立て続けの大技に、魔力強化をしたせいで、余分な負荷が、全身にかかってしまっている。
痛みで震える自分の手に、顔をしかめながら、身体に刺さる針を引き抜く。
白煙は、やっと広がるのが止まったのか。霊夢を隠すようにあり続け。
「……まさか、これを使う事になるとは、思わなかったわよ」
煙の先から聞こえてきた言葉に、ビクリと、身体が震える。
ゆっくりと、白煙は消えていった。
「……冗、談じゃないぜ………」
声がした方向を見続け、白煙から出てきた霊夢に対して、魔理沙は呆然と呟いてしまう。
霊夢は、先ほどと変わらない姿で、そこにいた。
周囲を囲うように結界が張られ、マスタースパークを止められた時の、巻き戻しを見せられているようだった。
「どんなでたらめだよ。それ」
霊夢を囲う結界。
「私の奥の手の一つよ。大結界―――」
博 麗 弾 幕 結 界
静かに、魔理沙を見据えながら、霊夢は呟くように宣言した。
途端、結界は、爆発的に広がる。
「……くっそ」
魔理沙は、その結界を見つつも、動く事は出来なかった。
動く体力も、もう残っていないのだ。
「さっきので本当に、手の内が全部なくなったみたいね」
逃げようともしない魔理沙を見ながら、霊夢は冷めた目で、言い捨てる。
「魔理沙にしては、よくやったわ。久しぶりに本気を出せたし、気持ちは伝わった」
「………」
「負けを、認めてくれないかしら? このままこれを喰らえば、怪我じゃ済まないわよ」
「……嫌だって、言ったらどうする?」
霊夢の冷たい眼差しを見ながら、魔理沙は肩で息をしつつ、口元に笑みを作ってみせる。
「認めるわけにはいかないんだよ。気持ちが伝わった? 本気を出せた? そんなの、どうだっていいんだよ」
こっちは満身創痍だというのに、何処にも傷を負っておらず、疲れてさえいない霊夢の姿を見て、唇を噛み締める。
「私は、お前の横に立つ為に、お前を孤独にさせない為に、勝負を挑んでるんだ……! それなのに、負ける事なんて、認められるかよ!」
圧倒的すぎる実力の差。
霊夢が腕を振るえば、自分をも囲んだこの大結界は、躊躇なく、私を落とす為に、降り注ぐ事だろう。
だが、負けを認めるわけにはいかない。勝機が残っているのなら、最後まで、あがいてみせる。
「……魔理沙、例え貴方が勝ったとしても、この孤独は変わらない」
負けを認めない魔理沙を、冷徹に見ていた霊夢だったが、ゆるぎない言葉に、嘆くように、呟いた。
「私は博麗の巫女よ。死ぬまで私は、巫女であり続ける。それなのに、そんな事を、言わないで頂戴」
「……嫌だ」
「魔理沙がこっちの世界に足を踏み込んで、アンタがいつも、笑って私の横に居てくれた事には、心から感謝してるわよ。アンタだけじゃない。こんな私に、皆が構ってくれる」
霊夢は、結界の中、言葉を紡いでいく。嘘偽りのない本音を。
「だから、負けを認めなさいよ。本当に、アンタが、私を救ってくれようとしている事に、感謝しているのだから」
「……嫌だ!」
魔理沙は首を横に振る。
「それでも、私はお前と、一緒に笑って生きていきたいんだよ! 博麗としてじゃなくて、霊夢と一緒に! それが、それが心の底から笑ってないなんて、耐えられるかよ!」
「……魔理沙」
「みんながいるのに、博麗だからって、そんな考えを持っているなんて間違ってる! 私は、私は……」
八卦炉を掴んでいた手に、再び魔力を集めていく。
チャンスも何もない。撃てば終わる、最後の魔法。
「霊夢の、親友だ……! その親友が、支えてやらないで、何が親友だ!」
―――詠唱込みなら、殺し合いになるわよ
脳裏によぎったのは、パチュリーに相談した、最後の日。
わかってる。私は、私の力で、あいつを倒す。
詠唱なんていらない。
「魔、砲……!」
この魔法に、詠唱なんているものか!
「……」
「ファイナルマスタースパーク!!」
放つ極光は、ダブルスパークより更に上。
輝く、極光の光は、大結界の中、駆け抜けるように霊夢へと向かい。
「ん……!」
それを、かわすでもなく、潰すわけでもなく、霊夢は、大結界で受け止めた。
爆発するように、ぶつかりあう両者の切り札。
それは、初めて拮抗するように、激しいぶつかり合いを見せ続け。
―――パキン
「……ああ、くそ」
急速に、消えていく極光によって、終わりを告げた。
「………届かないのかよ」
ゴホリと、喉から血液が逆流してくるのがわかる。
ためらわず吐き出し、エプロンドレスが、紅い血で濡れていく。
(ああ、まずい)
吐き出した途端、視界がぐにゃりと、歪み始める。
箒に跨っていた身体は、ゆっくりと、後ろに仰け反り始め。
(やっぱ、霊夢は強いぜ……)
超えられない親友に、賞賛と尊敬を、心の中で言いながら、ゆっくりと、目を閉じた。
※
「魔理沙!」
空から落ち始めた魔理沙に、一早く反応したのは、アリスであった。
仰向けに、空から地面へと落下していく所を、境内から飛び上がり、抱きしめる形で受け止める。
抱きしめた際、ふわりと、魔理沙が被っていた帽子がすべり落ちていく。
「魔理沙……」
アリスは、目を閉じて、意識を失ったままの魔理沙の顔を見て、息を呑んだ。
「……なんで」
顔は、後悔するようでも、悲しんでいるようでもない。
「なんで、笑ってるのよ……」
無意識なのか、それとも、満足したとでもいうのか。
意識を失ったままの魔理沙の顔は、全てをやり遂げたかのように、笑っていた。
口元には、零した血の跡が残り、身体の至る所に、針が刺さった為か、血が流れている跡が残っていた。
「……馬鹿」
アリスは目尻に溜まる涙を必死に抑え、魔理沙を抱きしめながら、地上へと降りていく。
揺れるように、落ちていく黒白の帽子。
それを、咲夜は、地面へと落ちる前にキャッチした。
「咲夜、魔理沙の手当てを、手伝ってやれ」
「はい」
レミリアの傍で、日傘を差していた咲夜であったが、日傘をレミリアに渡すと、ゆっくりと降りてくるアリスと魔理沙の元に、急ぎ駆けて行く。
「……」
レミリアは、それを最後まで見る事なく、もう一人、ゆっくりと境内へ降りてくる霊夢の方へと、歩み寄っていく。
「……レミリアも、来てたのね」
降りてきた霊夢は、変わりない姿ではなかった。
右腕が、焼け爛れたように、赤い火傷の跡を残している。
「最後の、防ぎきれなかったのね」
魔理沙が放った、最後の魔法。
「ええ、防ぎきれなかったわ」
霊夢は、喜ぶように、防げなかった事をレミリアに言う。
「……」
日傘を握る手に、自然と力が入る。
―――孤独は変わらない
上空で話していた言葉は、レミリアの耳に、聞こえていた。
紫や、萃香にも聞こえていた事だろう。
「……霊夢」
こんな時、何て声をかければいいか、わからない。
500年も生きてきたというのに、良い言葉なんて、見つかりはしない。
好きで、たまらなく愛しい人間が、孤独であり続けるというのに。
吸血鬼の私から、霊夢に言える言葉等、ありはしない。
「化膿する前に、貴方の腕も、治すわよ」
レミリアは、火傷をしていない方の、霊夢の手を握る。
「そうね」
霊夢は、レミリアの手を握り返す。
握り返された、手から、霊夢の暖かさが、伝わってくる。
「……レミリア」
「なに?」
「ごめん……ね」
「……」
何に対しての「ごめん」なのか。
「謝られる、覚えはないわ。それは、魔理沙に言うはずだった、台詞のはずよ」
顔を背け、霊夢の手を引っ張る形で、レミリアは神社の境内へと歩いていく。
既に、縁側では魔理沙の服を脱がして、怪我をしている所を治そうと、咲夜とアリスが、神社の奥を行ったり来たりしている。
「ありゃ、やっぱ最後の、防ぎきれてなかったんだね」
縁側で、その光景を見ていた萃香と紫だったが、レミリアに連れられる形で来た霊夢の腕を見て、驚いた表情をする。
「ええ、防ぎきれなかったわ」
「……永遠亭に、あのヤブ医者を呼んでくるわ」
紫はさっと、霊夢の傷を見て、隙間に飛び込もうとするが。
「紫、そこまで重症じゃないって。あの医者呼ぶ必要はないよー?」
むんずと、隙間に飛び込もうとする所を、萃香に襟首を掴まれる。
「霊夢が怪我してるのよ? 火傷だなんて……重症じゃない!」
息巻いて、襟首を掴まれながらも、慌てるように飛び込もうとする紫であったが、萃香の怪力によってビクともしない。
「どんだけ過保護になっちゃてるの……大丈夫だって、氷水作って、冷やして包帯巻けば、2、3日には元通りだって」
「……お前に昔に負けた事が、悔やまれるよホントに」
レミリアは、慌てる紫を見て溜息を零す。さっきまで泣きそうになってしまっていた感情の渦は、目の前の紫を見て消えてしまった。
「……プ、ア、アハハハ」
ふと、後ろから、笑い声がした。
振り返ってみると、紫の慌てる様を見て噴出したのか、霊夢は、笑っていた。
「……霊夢?」
「ご、ごめん。あ、あまりにも、可笑しくて」
涙目になりながら、笑う霊夢の顔に、レミリアは唖然とする。
「ゆ、紫、私は大丈夫よ。そんな慌て、ないで、頂戴」
所々、何処かまだ笑うのを抑えられないのか。片言にそれだけ話すと、顔を背けるようにして、身体を震わせる。
「……」
これは、意味が、あったのだろうか?
レミリアは少しばかり驚いていたが、いつものように、ニヤリと、笑顔を作ってみせる。
きっと、意味はあったのだ。この勝負に。
例え勝とうと、負けようと。魔理沙は、霊夢に気持ちを伝えたのだ。
友として。魔法使いとして、出来ることを。
(今度は、私の番かしら)
吸血鬼として、私に出来ること。
そうではないのだ。根本を忘れている。
霊夢の“友〟として、私は、彼女に伝えたい言葉が、あるはずなのだ。
チラリと、眠る魔理沙の方を見る。
気を失ったまま、笑顔で眠る魔法使い。
魔法使いとは、努力と知識を重ね、奇跡を見出す者。
パチュリーが、朝に、私に語った言葉通り、魔理沙は奇跡を見出した。
霊夢の方を、再び見る。
そこには、心の底から笑う、巫女の姿があるように、レミリアは見えた。
※
目が覚めたのは、すっかり、茜色の空になった頃だった。
「……いたたた」
身体中に包帯を巻かれ、傍らには、寝息を立てる、アリスの姿がある。
布団に寝ていた私の手を握るようにして、一緒に横になって、寝ていた。
「……ありがとな」
眠るアリスに感謝を言いながら、握られた手を、起こさないようにしてほどいていく。
本当に、心配させてしまったらしい。後で、ちゃんと謝ってやらないと。
服も脱がされたのか、着ていた服は、宴会等で使われるような、浴衣が着せられている。
「……」
魔理沙は、茜色の空の中、寝ていた部屋から出ると、縁側の方へと歩いていく。
そこには、変わらず、あいつがいた。
「あら、魔理沙、もう起きて大丈夫なの?」
相変わらず湯飲みを手にしながら、お茶を啜っているその姿は、変わっていない。変わり様がない。
「……ああ、まだ、ちょっと痛いけどな」
苦笑しながら、返事を返しながら、霊夢の横へと座る。
ふと、そこで気づいた。
「……あれ。その腕、どうしたんだ?」
霊夢の右腕に巻かれている包帯に。
「………最後の、防ぎきれなかったのよ」
「え」
呟くように言われた台詞。
「……そう、か」
「全く、時間が経つ毎に痛くなってきてて、嫌になるわ」
「……ごめんな」
霊夢の言葉に謝る。
「お互い様よ。全力でやったのだから、謝る必要はないわよ」
「……うん」
静寂が流れるように、ぼんやりと、二人で茜色の空を見上げ続ける。
「……魔理沙」
「なんだ?」
破るようにして、霊夢の方から声が上がった。
「明日なんだけれど、萃香が宴会をしたい、宴会をしたいってうるさくってね。神社で宴会をする事になったのよ」
「おお? そうなのか?」
「ええ。妖怪の山の連中も呼ぶから、結構、大きな宴会になると思うわ」
「それは、楽しみだな」
宴会の話をされ、魔理沙は、喜ぶようにしながら、声を上げる。
「ええ、今紫とかレミリアとか、萃香が宴会をするって、皆に言ってるから、魔理沙も明日参加しなさいよね」
「勿論だぜ。そんな楽しそうな事に、私が首を突っ込まないはずがないだろ?」
ニカリと笑ってそう返す魔理沙に。
「……ええ、そうね。魔理沙はいつだって、私の傍で、笑っていたものね」
この手で、取り戻したかった笑顔が、そこにあった。
「………霊夢?」
茜色に染まる空の中。昔と、昔と変わりなく、笑う霊夢の姿。
「おまえ……」
「明日は、そうね、“霊夢〟として、初めての宴会だから、派手に祝って欲しいわ」
「……あ、ああ」
零れそうになる涙を抑えて、顔を背けるようにして、霊夢から目を逸らす。
起きた時、変わってなかったら、どうしようと、さっきまで不安になっていた自分がとても恥ずかしい。
けれど、それ以上に。
「ちょっと、魔理沙? 何で泣いてるのよ?」
「な、泣いてない! 泣いてなんかないぜ!?」
嬉しくて、自分のした事が、間違っていなかった事に、純粋に嬉しくて、目から涙が零れ落ちた。
私は、あいつの親友に、なってやりたかった。
きっかけや出会い以上に、最近になって、勝手に思い上がっていた自分の愚かさに気づいた。
紅の霧の異変から、博麗神社を訪れる者は、人間なら、私を含め、少数しかいない。
元々参拝客は少ない方だったかもしれないが、妖怪や吸血鬼が、神社に来るようになってから、人間がここに訪れる事は、全くないと言っていいほど、少ない。
神社の巫女である霊夢は、それに関して、落ち込む素振りなんて見せず、博麗の巫女として、神社に来る者を受け入れ続けてきた。
私はそんな中、対した考えも抱かずに、霊夢の元へと来る一人として、よく神社に足を運んだ。
別にレミリアや、萃香が神社に来る事に関して、私としては、対した感情を抱いていない。
当の本人である霊夢は、嫌がってもいなければ、困っているわけでもない。
話してみれば、それなりに面白い連中でもあり、私としては、逆にただ参拝にくる人間よりも、レミリアや萃香が来た方が楽しいかもしれないと思った程だ。
けれど、逆に、気づいてしまった事もある。
初めは、違和感があっただけだった。昔、本当に、私がまだ霧雨の本家に居た頃の記憶。
霊夢と出会った時の、記憶と。
魔法使いとなって、今まで接してきた霊夢との、記憶が。
子供の頃の無邪気な笑顔を。
霊夢の笑う顔から、感じられなくなっていた事を。
談笑する中、霊夢の顔を見ても、どうしても拭えない。
拭えないに決まっている。どうして気づいてしまったのか。
あいつは、心の底から、笑っていないんだって。
「………ん」
朝の陽光が、いつの間にか、家の外から漏れ出てきている。
床にまで物が錯乱している中、魔理沙は、まどろみから目を覚ました。
「……またか」
黒白のエプロンドレス姿のまま、昨日から続けていた魔法の研究。
結果が出たところでメモを書いていたはずだが、どうやら寝てしまったらしい。
机に突っ伏すように寝ていたが、走り書きしたメモ用紙や、実験の機材が、昨日放置されたまま置かれている。
「………はぁ」
変な体勢で寝たせいか、身体が痛い。
軽く伸びをして、身体をほぐしつつも、昨日自分で走り書きしたメモ用紙を確認しつつ、溜息を吐く。
結果は、散々だった。
「駄目だな、急いでも……」
今更急いでも、劇的な変化がないのは、わかっていた事だ。
人間としての自分の限界なんて、鬼の萃香や、吸血鬼のレミリアを見れば、下の下に等しい。
努力を重ね続けて、初めて対等に闘えるのが、魔法使いだ。
知識を蓄積し、度重なる成功と失敗をし続け、奇跡を生み出す。
それがわかっているのに、自分を急がせている理由は、唯一つ。
「……どうすれば、これ以上強くなれる?」
あいつと対等にいる方法なんて、これしかないというのに。
私は、一度たりとも、自分だけの力であいつに勝てた事がない。
夜が明けない、月の異変のあの事件の時は、アリスがいてくれたから、まだ互角の勝負にまで持ち込めた。
「いや、それも違うのかもな」
自分の考えに頭を振る。
アリスが居ても、互角なんかじゃなかった。霊夢はただ単に、ちょっかいを出してきただけだ。
弾幕勝負に持ち込んでも、闘っている間に、自分達が、事件と関連性がないと判断するや否や、あっさりと勝負を投げやがった。
最後まで勝負が続いていたら、きっと、落とされていた事だろう。
「……はぁ」
再び溜息を吐きつつも、魔理沙は、手にしていたメモ用紙を投げ捨てるように机に叩きつけると、座っていた椅子から立ち上がる。
考えれば考えるほど、先が見えない、霊夢に勝つ方法。
「……けど、私は勝たないといけないんだ」
そうしなければ、あいつの横に、立つ資格なんてない。
※
すっかり、幻想郷にも、春は到来していた。
冬の時にはない暖かさ、空を飛び交う、春を告げるリリーホワイト。
そんな暖かい空気を吹き飛ばすように、魔理沙は空を駆け抜ける。
時刻はお昼を少し過ぎたおやつ時、あの後実験の後片付けをしたり、朝食を済ませ、再び別の実験をしてみたりもしたが、効果は今一つだった。
向かっている先は、魔法使いとして、知識を増やすにはもってこいの場所だ。
紅き吸血鬼、レミリア・スカーレットが主として君臨する紅魔館。
レミリアが紅い霧を出して、幻想郷を騒がせた時に、乗り込んだ場所だが、地下に存在する大きな図書館は、私をときめかすには充分な程、魅力的な場所であった。
見たこともない魔道書、自分の考えていた魔法や知識より、何十年、何百年も考えに考え抜いた知識の群れが、あの図書館にはある。
出来れば頼りたくなかったというのが半分、あそこに行けば、もっと知識の幅を増やせるというのが半分。
箒に乗り、飛び続けて数刻、四季を無視するように、霧が立ち込める湖が見えてきた所で、魔理沙は更に速度を上げて、霧の中を突っ込んでいく。
駆け抜けた後は、線を描くように霧を吹き飛ばして、視界を開けていく。
霧を抜けた先には、変わらず君臨し続ける、紅い館。
「……よし」
魔理沙は、被っている黒いトンガリ帽子を片手で抑えながら、紅魔館の門前の状況を、目で確認する。
紅魔館の門の前、不動として立っているはずの門番。
チャイナ服姿に、長い赤い髪、帽子には龍の星マーク。
「……すぴー……すぅ……」
地面に大の字で寝ている、紅美鈴の姿が、魔理沙の目に映った。
「………」
呆れるべきか、それとも感嘆するべきなのか。
昼を少し過ぎたこの時間帯は、美鈴にとって、絶対に寝なければいけない時間のようだ。
勿論、メイド長にその許可を取っているかどうかを問われれば、絶対に否。
あの完璧主義者の十六夜咲夜が、門番が昼寝をする瞬間を与えるわけがない。
「……まぁ、私にとっては好都合なんだが」
美鈴が起きていれば、侵入者でしかない私は、強行突破という方法を取るしかない。
すやすやと眠る美鈴の上空を、速度を落として、音を立てずに無事通過して、紅魔館の入り口にあたる、大きな扉の前に降り立つ。
最早何度来たかわからない程、ここに来ただけあって、扉を開け、紅魔館の中へと入った魔理沙は、勝手知ったる我が家のごとく、石造りの廊下を、箒片手に歩いていく。
時々、図書館までの道のりで、咲夜と出会う事もしばしあるが、今回はそんな事もなく、無事に地下へと続く入り口まで辿り着けた。
よどみなく、地下へと降りていく。
日の光が、差し込まない作りになっている紅魔館だが、地下に入れば、より一層、昼とは思えない暗さが宿る。
階段を降りる間には、絶え間なく、燃え続ける蝋燭が灯っており、図書館へと続く廊下にも、それは続いていた。
不気味な空間、と言えばそれまでだが、魔法使いが住まう場所とは、こういう物なのだろう。
現に、周りから見れば、自分が住まう魔法の森も、陰湿な場所である。人を寄り付かせないという意味では、ここと同じレベルだ。
図書館の扉前まで来た魔理沙は、躊躇せず、扉のドアノブを捻る。
「よ、パチュリー」
開けると同時に、ここに必ずと言っていいほどいる、図書館の主に挨拶をする。
「………また、きたの?」
案の定、大きな机に、山のように本を積み上げた、七曜の魔法使い、パチュリー・ノーレッジの姿があった。
※
「ここ最近は、ずっと来るわね」
本に目を通していたパチュリーは、魔理沙の姿を確認すると、読んでいた本を閉じて、山のように積み上げた本の一番上に、器用に置いた。
「あぁ、ちょっとな」
魔理沙は積み上げた本のカバーに目をやりつつ、空いている椅子を手にとって、箒を床に置いて、被っていた帽子を脱いで、積み上げた本の山の上に置く。
「……今日も、盗んでいかないのかしら?」
「別に、いつも借りてるだけだぜ」
しれっと、悪びれずに魔理沙は、パチュリーの言葉に返すが、借りたと言った本を、パチュリーに返した覚えはない。
「………今日は何の用なの? 昨日は、魔法の変動についてだったけれど」
溜息を吐きつつ、パチュリーは、本題にさっさと移った。
「あぁ、今日は………その、何て言えばいいかな」
最近、ずっとこういった門答を繰り返している魔理沙だったが、それに飽きもせず、答えをパチュリーが提示してくれるから、魔理沙は度々ここに足を運ぶようになった。
逆に、冬の終わり頃から、博麗神社には足を運んでいない。気づいてしまった自分は、今の霊夢を見るのが、嫌だったから。
「……そうだな、私のマスタースパークの威力を、もっと引き上げる方法なんてないか?」
霊夢に勝つ方法とは言わず、あくまで魔理沙は、自分自身の相談を、パチュリーに度々するようになった。
自分だけでは、限界があった。
どれだけ努力を重ね続けても、埋まらない溝が、霊夢と私にはある。
埋るのは、果たしていつになるか。
気づいていない時なら、のんびりとその溝を埋めようとしたかもしれない。
けど、気づいてしまったのだ。
恥も何も、関係なかった。誰かに頼ってでも、あいつに勝つ方法を見つけるしかない。
「威力を上げるだけなら簡単よ。注ぐ魔力を増やせばいい」
「だけどそしたら、八卦炉が壊れないか?」
わかりやすい回答をパチュリーは提示するが、直ぐに疑問が出る。
魔理沙の十八番である恋符、マスタースパーク。
元の使い手が、いるにはいるが、あっちは妖怪なおかげか、八卦炉等持たずに撃てていた。
「積載量ギリギリまで、魔力を注ぐだけなら、壊れはしないでしょう? それに、壊れる覚悟で撃とうと思えば、一度は撃てるわ」
「………壊れるぐらいに、魔力を注いだ時なんて、ないんだけどな」
「それぐらい必要になるんでしょ?」
パチュリーの言葉に、しばし間を置くが。
「……他に、威力を上げる方法はないのか? 八卦炉を壊さなくていい方法で」
さらりと、流す。薄々、パチュリーは、何でこんな相談をしに来るのか、わかっているのかもしれないが、私はその事まで、パチュリーに相談する気はない。
あいつと対等に居る方法なんて、他の誰かに話す事なんて、出来るわけがない。
「………あるには、あるわよ」
「本当か?」
考える素振りをするパチュリーだったが、真剣な眼差しで、魔理沙の顔を見た。
「魔理沙、貴方、魔法使いとは何か? と自問自答した事はあるかしら?」
「? それが威力を引き上げる事と関係あるのか?」
質問を質問で返すが。パチュリーは首を横に振る。
「先に答えてくれないと、提示出来ないわよ」
「………魔法使いとは、知識を蓄積し、努力を重ね続け、奇跡を見出す者」
パチュリーの言葉に、少し間を置いて、魔理沙は、魔法使いについて、口にする。
「そうね。私達魔法使いは、探究を続けていく過程に、奇跡を垣間見る。それは一筋の閃光だったり、私のように、七曜を元に、属性を扱う魔法だったり」
「けど、それが何だって言うんだ?」
まさか、努力し続け、威力を上げろとでも言いたいのだろうか?
そんな回答だったら、急ぐ自分にとって、袋小路に近い。
「じゃあ、魔理沙、巫女とは、何かしら?」
ドクンと、心臓が跳ね上がった気がした。
「………」
顔に出たかもしれない。パチュリーの口から、巫女という単語が出ただけで、心臓が早鐘を鳴らしていた。
「わ、私は巫女じゃないからな。何かって聞かれても……わからないぜ」
声が上ずるのを必死に抑えてそれだけ言うと、パチュリーの眼差しから顔を背けるようにして、横に山のように置かれた本の山へと目を逸らす。
「……なら、巫女じゃなくてもいいわ。この際、吸血鬼でも、妖怪でもいい。彼女達にあって、私達にないものは、何かしら?」
「………それなら単純に、準備要らずって話じゃないのか? 私達は、魔法一つ撃つだけでも、色々と用意しないといけないが、レミリアやフラ
ンドールは、素でスペルカードを出してるだろ?」
フランやレミリアなら、準備等せずに、スペルカードを宣言して、その名前の通りに弾幕を張るだけで済む事だろう。
逆に、私だったら、八卦炉を通して魔力を集めて撃つという過程が必要だし、パチュリーなら、魔道書を通して、事前に組み上げて置いた魔法を発動するといった方法で弾幕を張っている。
アリスなら人形を通してとなるかもしれないが、本人からも、弾幕を張る時間差攻撃等が出来る事から、準備要らずかもしれない。
「準備が要らないという回答でも合ってはいるわ。何かしらの準備をする過程がなければ、私達は、弾幕すら張れない」
一度言葉を切って、パチュリーは少しばかり、口元に笑みを作る。
「でも、逆を言えば、準備をする過程に、色々と小細工が出来る。てっとり早くその良い例が、詠唱よ」
「詠唱って、マスタースパークに呪文なんてないぜ……?」
高鳴った鼓動をどうにか抑えながら、パチュリーの口から出た、詠唱という言葉に、首を傾げる。
「普通は、どの魔法にも呪文なんてないわ。呪文の詠唱をする理由は、自分自身に、自己暗示をかける為よ」
「……は?」
自己暗示という言葉に、魔理沙は更に首を傾げた。
「意味が、よくわからないんだが……自己暗示なんてしなくても、魔力を注げば威力は出るぜ?」
「……けど、壊れるわよね? そうしたら」
パチュリーの言葉に、魔理沙は頷く。
「私が言っているのは、量ではなく、質の問題。注ぐ量が同じでも、質が違えば、威力は増す。常に限界突破している身体で注いだ魔力と、余裕を持って注いだ魔力とでは、格段に差が出来るわ」
「……パチュリーが唱えながらスペルカードを宣言している姿なんて見た事ないが、そんなに違うのか?」
半信半疑な話すぎて、魔理沙は驚きを隠さずに、パチュリーの会話を聞いていた。
「弾幕勝負と、呼べるレベルじゃない物になるわよ。詠唱込みでスペルカードを発動すれば、勝負じゃなくて、唯の殺し合い」
だから使わなかったと、パチュリーは言った。
「………なら、私もそれは駄目だな」
パチュリーのその言葉に魔理沙は溜息を吐きつつも、威力の底上げをする一つの方法として記憶する。
「ありがとなパチュリー、少しは参考になったぜ」
心の底から礼を言って、椅子から立ち上がる。
「……魔理沙」
立ち上がった魔理沙を見上げる形で、パチュリーは声をかけるが。
「ん? なんだ?」
「………いえ、何でもないわ」
何か言いかけたが、パチュリーは、真剣な表情から微笑んでみせる。
「今日も、何も盗らずに帰ってくれるのね」
「……流石に、話を聞いてもらって、借りるのは、な」
あくまで盗っていく事を認めないが、話を聞いてもらっている上で、本を持っていく気にもなれなかった。
積み上げられた本の上に置かれた帽子を手に取り、深く被ると、床に置いた箒を手にとって、パチュリーに手を上げてみせる。
「じゃあな。もしかしたら、明日も来るかもしれないぜ」
「えぇ、またね。魔理沙」
手を上げた魔理沙に、パチュリーは弱々しく、姿が見えなくなるまで、手を振り返す。
バタンと、図書館の扉が、完全に閉じたのを確認し、パチュリーは、酷く、溜息を吐いた。
「……貴方らしくないのに、気づいてないのかしら」
いつも陽気に笑う少女の顔は、ここ最近ずっと見られていない。
追い詰められているように、魔理沙の表情は、暗く、疲れた顔をしていた。
「……はぁ」
魔理沙は、どうにかして、あの博麗の巫女に弾幕勝負で勝ちたいのは、何となくわかった。
理由はわからないが。仮に、理由を説明されても、理解出来ない事だろう。
魔理沙は、魔理沙なりに、あの巫女との勝負に固執している。魔理沙と出会ってから数年の歳月しか経っていない自分には、わかるわけがない。
「けれど……勝つのは至難よ……魔理沙」
あの巫女との弾幕勝負を思い出しただけで、身震いする。
あれに勝とうと、思えるだけ、魔理沙は立派なのかもしれない。
百年もの歳月を魔道に費やした私が、あそこまで絶望的な差を感じたのは、あの巫女だけだ。
圧倒的な霊力、こちらの行動を予測しているかのような、未来予知。
勘がいいというレベルではなかった。まるで最初から、こっちの行動がわかっているかのように動いてくるのだ。
殺し合いに持ち込んでも、こっちが殺される。
情けをかけられ、未だに生きながらえているが、屈辱よりも、安堵感の方が大きかったのも確か。
あれと、もう対峙しなくていいんだと。
本心で思ってしまった時を、今も覚えている。
※
「結構、長居しすぎたな」
箒に乗って、紅魔館から空へと再び上がった頃には、空は茜色になっていた。
途中、紅魔館の門の方をちらりと見たが、案の定と言うべきか、うつ伏せに倒れ、ナイフが刺さりまくっている美鈴の姿があった。
きっと咲夜が昼寝をしている現場を目撃してしまったのだろう。
まだ身体がピクピクと動いてるのを見ると、死んではいないようなので、そのまま無視して霧の湖の方へと飛んでいく。
このまま、家へと戻って、また実験をしないと。
時間が惜しい。
無意識に箒の速度は上がっていく。
景色が飛ぶように流れ、幻想郷の山々を越えて、広大に広がる、魔法の森へと着くのに、そうはかからなかった。
自分の家が、空から見えて来た所で、ようやく速度を下げ始める。
「……ん?」
空から地上へと降りようとした矢先、家の前に、誰か立っているのが見えた。
「………アリス?」
扉の前で、座るようにして、月の異変の時に、共に駆けた少女、アリス・マーガトロイドがいた。
空から降下してくる魔理沙に気づいたのか、立ち上がると、手を振ってみせる。
「どうしたんだ? 私の家の前で座っているように見えたんだが」
跨いでいた箒から降りて、手を振るアリスに歩み寄る。
「私が貸した魔道書、返して欲しくてきたのよ」
「あ」
つっけんどんにそう言われ、魔理沙は、そういえばアリスからも魔道書を借りて言ったなと思い出す。
「……その様子だと、忘れてたみたいね」
呆れ顔でアリスは溜息を吐くが、魔理沙は、乾いた笑みを象りながら、頭を掻いた。
「悪い、思いっきり忘れてたぜ。直ぐに返すから、ちょっと待っててくれ」
アリスの横を横切る形で、自分の家のドアを開ける。
開けた先は、出てきた時と変わらず、床にまで物が散らばっていた。
「……ちょっと、掃除ぐらいしなさいよ、これ」
扉を開けた先から、アリスはその惨状を見て、魔理沙に待っててくれと言われたにも関わらず、中へと足を運んだ。
「どうせ散らかるから、掃除しない事にしたんだ」
「……散らからないように、出来ないわけ?」
アリスが家の中に入った事に、魔理沙は対して気にしなかった。
物が散らばり、足の踏み場も僅かな合間を器用に歩いていき、アリスに貸してもらった魔道書を探す。
「確か、こっちの方に……」
山のように積もっている本やがらくたを掻き分け、不鮮明な記憶を頼りに探していく。
「………」
アリスは、そんな魔理沙を一瞥しつつ、周囲を見渡す。
「一体何をしたら、こんなに散らかるの、よ……?」
散らかっている原因となるものを、アリスは発見し、机に置かれている、走り書きされたメモを手に取る。
「………なに、これ」
「ん? ああ、ちょっとな」
呟くようにして、こぼした言葉に、魔理沙は一度振り返ったが、走り書きしたメモをアリスが見ているのを見て、再び魔道書を探す作業に戻る。
「ちょっとって……魔理沙、一体、何をしようとしたの、これ?」
「何って、ただ単に、色々と強化しようと思っただけだぜ?」
昨日行っていた実験は、魔力の変動による、強弱の付けかただったが、パチュリーの相談通りには、うまくいかなかった。
最初から最後まで、最大の状態で、魔力を固定しようと思ったのだが。
「……」
「お、あったぜ、アリス」
埋もれていた山の中からアリスに貸してもらった魔道書を抜き出して、はたいて埃を落としつつ、アリスの方へと振り返った。
振り返った先には、何故か、厳しい顔をして、魔理沙を見るアリスの顔。
「? どうしたんだよ? ほら、ちゃんと魔道書は見つかったぞ」
「………来なくなったと思ったら、何を無茶しているのよ?」
「……無茶?」
「無茶というか、無謀ね。魔力を変動させる実験か何かしてたみたいだけど……ずっと最大なんて、出来るわけがないじゃない」
「……そう、かな?」
アリスに指摘されて、悩むように腕を組んでみせるが、アリスは厳しい顔つきのまま、溜息を吐く。
「自覚もしていなかったのなら重症よ。全く、本当に、同じ魔法使いなのかしら」
「……む、そこまで言われる覚えはないぜ? 私だって、私なりに、色々と考えたんだ。それにいつも言ってるだろ? 弾幕は―――」
「パワー、でしょ?」
最後の部分をアリスは溜息混じりに呟いたが、それでも首を横に振ってみせる。
「それでもこれは無茶よ。撃つ前に壊れるわよ?」
「八卦炉なら大丈夫だろ。理論上じゃ、行けるはずだ」
「……八卦炉がじゃなくて、魔理沙がよ」
頭を抱える大げさなジェスチャーまでしてみせて、アリスは、魔理沙に真剣な眼差しを向けながら、魔理沙が手に持っていた魔道書をひったくる。
「自分の身体ぐらい、大事にしなさいよね。魔理沙が倒れたら、心配する人だっているのだから」
「なんだ、心配してくれるのか」
誰がとは言わなかったが、目の前のアリスが、私が倒れたら心配してくれると勝手に脳内変換した。
「……魔法の森に住まう同じ魔法使いのよしみとして、少しは心配してあげるわよ」
照れくさそうにそんな事を言って顔を背ける。ああ、そういう事か。
「それに」
再び真剣な顔をして、こっちに顔を向けるアリス。
「そんなに疲れた顔をされていたら、誰だって心配もするわよ」
「……え」
そう言われ、手で、自分の顔に触れる。
「………顔に、出てたか?」
「ええ、目に隈まで出来てるわよ」
「……むむ」
パチュリーと会った時は、そんな事を言われなかったのだが。
どうやら、急いでいる分、顔にまで出てきているらしい。
「……まさか、それも自覚がなかった、なんて言わないわよね?」
「………」
黙っている自分を見て、アリスはここに来て何度目かわからないぐらいの、溜息を吐いた。
「ああ、もう! 本当に急に来なくなったと思ったら、何をそんなに急いでるのよ?」
「……やっぱ、急いでる風に見えるか?」
「むしろ何かに追い詰められてるように見えるわ」
アリスのその言葉に、苦笑する。言い得て妙だが、成る程、私は、勝手に自分自身で追い詰めてるのかもしれない。
「……なぁ、アリス、一つ、聞いていいか?」
「? なによ?」
質問をしつつ、魔理沙は帽子を脱いで、机に置き、手近にあった椅子に身体を預ける。
「もしもの話だ。今から霊夢に挑んで、勝てると思うか?」
直球すぎる質問だが、どうせもう、数日もしない内に、決意を固め、もう何度目かわからないが、弾幕「決闘」を挑もうと思っていたのだ。
アリスぐらいには、聞いてもいいだろう。
「……霊夢に?」
聞かれたアリスは、立ち尽くしたまま、考える素振りをするが。
「………やるからには、勝ちにいくわ。勝ち負けの問題じゃない」
「……そうか」
アリスのその言葉にニカリと笑う。質問の答えにはなっていないが、それでいい。
あの満月の夜の中、共に駆け、共に挑んだ相方の口から、絶対に勝てないという言葉を聞くより、はるかにましだった。
「なによ、霊夢に挑む為に、こんな無茶な事をしていたの?」
アリスも空いてる椅子を掴んで、自分の立っていた場所へと持っていくと、そのまま座る。どうやら、まだ帰る気はないらしい。
「まぁ、な。アリスが人形を作るみたいに、私は、あいつに勝つ事が、目標みたいなもんだから」
「……一度も、勝てていないのよね?」
「ああ」
即答する。嘘偽りなく、あいつに勝ったと、言えた場面等ない。
「アリスだって、あの満月の夜に、対峙した時、わかってただろ? アイツは事件と関係ないと思った途端、手を抜いて、さっさと勝負を投げたのを」
「……ええ」
ぎりっと、唇を噛んでアリスは思い出すように、悔しそうな表情をした。
「何様のつもりかって、思ったわよ。けど、あのまま挑んでいたら……」
「間違いなく、私達が落とされていただろうな」
勝負を冷静に見るスタイルである分、きっと、アリスは私より、あの時の悔しさは大きいかもしれない。
「……でも、魔理沙」
「ん?」
「どうして、今更急ぐの?」
虚を突く様に、アリスは聞く。どうして、今更霊夢に勝つ為に、こんなに急ぐのか。
「ずっと、勝とうと思ってきたのよね? なら、いつものようにしていればいいじゃない。どうして、今更こんな、急ぐのよ?」
「………」
アリスのその言葉に、再び黙るが、目を閉じて、苦笑する。
「……そうだな、アリスになら、言ってもいいか」
誰かに、ぶちまけたい気持ちも、少なからずあった。
パチュリーに言おうと思った瞬間も何度もあったが、必死に、堪えていたのもある。
「アリス、私と霊夢、どういった関係に、お前から見える?」
「……? 友人、じゃないの?」
「ああ、友人だな。でも、昔と比べると、あいつ、心の底から、笑ってない気がするんだ」
「……え?」
アリスはきょとんと、魔理沙の言葉を聞いて、首を傾げる。
「何て言えばいいのかな……何処か、一歩退いてる気がするんだ。誰にって、わけじゃない。全部に対して、アイツは心を開いてない気がするんだよ」
違和感に気づいてから、それがとても許せなくて。
「色んな異変が幻想郷に起きて、あいつの周りには、誰かしらいるにはいるんだ。それが悪い事だとは、私は思っていないし、むしろ、今までの私なら、それに混ざって、面白おかしく一緒にいたと思う」
あいつが、勝手に、一人ぼっちのようにいるのが許せなくて。
「あいつはきっと、博麗の巫女として、他人面して皆に接してるんだって、本当に、馬鹿な話だけど、最近になって気づいたんだ。だから」
だから、わからせてやらないといけない。
「そんな風にしなくても大丈夫なんだって。私が、あいつに勝って、証明したいんだ。博麗の巫女だけが、幻想郷の異変を解決するんじゃない。私がいるんだって、一人じゃなくて、皆が支えてやれるんだって」
勝手な考え。勝手な思い上がり。勝手な、勝手すぎる誓い。
だが、聞いたアリスは、言葉をなくした。
霧雨魔理沙の口から、こんな言葉が出るとは思ってもいなくて。
純粋すぎる考え、友人である為に、不器用すぎる程の、友人として、無茶をし続けている白黒の魔法使い。
「……」
どうして、無茶や無謀と言ってしまったのか。
無茶や無謀と、魔理沙は自覚しているのだ。アリスが言わなくても、無理をしていると。
けれど、魔理沙は、それを無茶や無謀と思っていない。
霊夢を倒す為に、霊夢に証明する為に。
「………魔理沙」
それを応援してやるべきなのか、アリスは戸惑う。
本当に、本当に魔理沙の話が事実ならば、霊夢は博麗の巫女として、孤独のまま、居続けている事になる。
けれど、対等でいる為に、弾幕勝負でわからせるのが、正しい事なのだろうか?
アリスは懸念してしまう。このまま行けば、魔理沙はきっと、壊れると。
霊夢に勝つためなら、自分の身体等関係ないように、こうも実験をしているのを見れば、それは予想出来る事だ。
きっと、これだけじゃないのだろう。勝つために、他にも手を色々と考えているはずだ。
「……………私からは、何も言えないわね」
だが結局、アリスの出した答えは、何も出来ない、であった。
止める事も、応援してやる事も出来ない。純粋すぎる誓いは、眩しく見え、それと同時に、本当に、魔理沙に壊れてほしくないというジレンマがある。
「そっか、でもまぁ、聞いてくれただけで、少しは楽になったぜ。ありがとな」
笑って魔理沙はそう返すが、アリスはいたたまれない気持ちになってしまった。もっと、いい言葉もあるだろうに。
「長居、し過ぎたわね。帰るわ、私」
「ああ。またな」
勢いよく立ち上がると、アリスは手を振る魔理沙に、軽く手を振って、足早に、散らかっている魔理沙の自宅から外へと出る。
どれだけ話していたのか。茜色の空は、すっかりと、星屑の空に、輝くように、月が出ていた。
※
博麗とは、平等に接する者。
全てに分け隔てなく接し、他者を拒まず、他者を追わず、幻想郷の守護者として存在する。
「……けれど、本来、人間が、大妖怪に立ち向かえる程の能力はない」
星屑の空の中、博麗神社の縁側にて、月を肴に、酒を飲む者が一人。
「じゃあどうして霊夢は強いのさ?」
「さぁ、何でかしら?」
相槌を打つように、もう一人、鬼が反対側で杯を勢いよく煽っている。
「私が思うに、霊夢は博麗故に、強いと思うのよ。幻想郷では、きっと彼女に勝ち目がない」
「? どういう事?」
「本来、この幻想郷は、妖怪の楽園となるべく、作られた世界だけれど、その妖怪達の手で壊れたら意味がないって事よ。バランスを保つ為に、博麗は存在し、不動の強さを保ち続ける」
八雲の大妖怪である紫は、横で既に酔って落ちてしまっている霊夢の寝顔を見つつ、溜息を零す。
「今ならあっさりと、消してしまえそうなのに」
「けど出来ないでしょ? いつからそんな紫は情が移ったのかな?」
ニャハハと笑う萃香だったが、紫にじっと見つめられ。
「それを言うなら、萃香もじゃないかしら? いつから鬼は、人間に飼われるようになったのかしら」
ニヤリと、笑い返される始末。
「飼われてる覚えはないんだけどなぁ……霊夢といると楽しいじゃん?」
「楽しいのは、否定しないわ」
白玉桜で、弾幕勝負をした時からの付き合いだが、ここまで自分を喜ばせてくれる人間は、そうはいないだろう。
「けれど、楽しい以上に、寂しい事もあるわ」
「……孤独にさせてるって話?」
「ええ」
豪雨の中、言われた言葉は、今も胸の内にある。
博麗だから出会えたというのに、博麗故に、霊夢を縛り続けている事実。
「でも、霊夢の口から寂しいなんて言葉は、一言も出てないんでしょ?」
「……ええ」
それが、とても悲しい事だ。
誰かに頼るという事が、彼女にとって、禁忌に等しいのだ。
「………時々不安になるわ。霊夢にとって、全てが苦痛でしかないんじゃないかって」
あどけない寝顔で眠る、霊夢の長い黒髪を撫でながら、紫は、無表情のまま呟く。
「考えすぎだと思うけどな、私は」
トポトポと、空になった杯に、再び手に持つ徳利から、酒を注ぐ萃香。
「孤独に思っていても、埋めれる部分はあると思うよ。本人に関係なく、他者と接していれば、自然とね」
「……」
「それに、その孤独から解放してくれそうな魔法使いがいるじゃん」
「………魔理沙ね」
霊夢の横にいつも立っている存在。
魔理沙とも、白玉桜での弾幕勝負での付き合いだが、霊夢とはまた違う、強さがそこに感じられた。
「ここ最近、顔を見ないとは思ったけれど、まさか霊夢に勝つ為にあんな事してるなんてね」
萃香はニャハハと笑いながら再び杯を煽る。
隙間を通じて、ここ最近の魔理沙の動向を、紫は知ってはいた。
萃香も見ている時にいたわけだが、紫は、萃香程楽観視出来るわけでもなかった。
「魔理沙が死んだら、霊夢は悲しむかしら」
「? 紫は勝てないと思ってるの?」
「当たり前よ。萃香も知っているでしょ? 霊夢がまだ、本気を出してさえいない事を」
確かに魔理沙は強い。人間の身で、まだ十数年しか生きていないというのに、日々努力を重ね続けた事によって、彼女の今がある。
けれど、霊夢の強さは、次元が違いすぎる。
ろくに修行すらしていないはずなのに、自分や萃香を圧倒した実力。
特に、あの未来予知じみた動きは反則に近い。まるで、何度も繰り返し戦った覚えがあるように、霊夢は初見で、私の弾幕結界を苦もなく突破してみせた。
「何も出来ずに終わるのなら、まだいいわ。けれど、魔理沙は……」
どれだけ実力の差があろうとも確実に足掻くだろう。
それが、自滅に繋がったとしても。
そういう人間だと、今までの行動からわかってしまう。自分がどうなろうと、一撃叩き込む。
そういう人間なのだ。あれは。
「魔理沙なら、もしかしたらって思うんだけどなぁ私は。十数年しか生きてないのは霊夢も同じだし、重ねた努力が、天才を上回るなんてよくある話じゃん?」
「……そう、だといいのだけど」
再び溜息が漏れる。大妖怪である自分が、こんな事で悩むのは、正直らしくない。
本当に、萃香の言う通り、情が移ってしまったのだろう。
「………そろそろ、お開きにしましょうか。霊夢を介抱しないといけないし」
「えー、まだいけるよー?」
お開きという言葉に、即座に反応して、文句を付ける萃香。
「仕方ないじゃない。霊夢は本当に、お酒を飲み始めたら、すぐに酔い潰れるのだから」
そこまで強くはないのに、ガンガンとお酒を煽って、すぐに酔い潰れてしまった霊夢の身体を起こして、お姫様抱っこの形で、持ち上げる。
「……すぅ……んん……」
「………はぁ」
溜息が漏れる。
目の前で、無防備に眠る霊夢を見て、愛しい気持ちと、悲しい気持ちが、同時に浮かび上がってくる。
どうして霊夢が、博麗として生まれてしまったのか。
思ってはならない考え……だが、思わずにはいられない考え。
勝負の後に、果たして、何か変わってくれるのだろうか?
※
「……ホントに、私もどうかしてるわね」
魔理沙から魔道書を返してもらった翌朝、アリスは、朝早くから幻想郷の空を飛んでいた。
あの後家に帰ったまではいいが、魔理沙の話が、胸に巣食っていて、人形の製作が、手をつかなくなってしまった。
向かっている先は紅魔館。もう一人の魔法使いの元に、この話をしに行こうと思い、空を駆けている。
他人にあまり興味を抱かないと思っていた自分にとって、今、行っている行動は、苛立ちと驚きが入り混じっている状態だった。
これが他の人間の話ならば、軽く受け流していたかもしれない。
「……」
昨日見た魔理沙の顔は、酷く疲れていた。
いつも余裕を持って、陽気に笑い、活発に行動している彼女から、決して見せないその顔は、アリスを不安にさせ、行動に至らすまで充分であった。
魔法の森から飛んで数刻程、目的地である館が見えてくるまで、そうはかからなかった。
霧の湖を抜けて、門前に降りようと、速度を減速していく。
門の前には、いつも通りと言うべきか、それとも、いつもと違うと言うべきか、門番である紅美鈴が、身体を動かしていた。
「あら?」
「おはよう。パチュリーに会いに来たのだけど、通っていいかしら?」
これが魔理沙なら、有無を言わさず、弾幕勝負に持ち込むのかもしれないが、アリスは紳士的に、通っていいか聞く。
「おはよう。パチュリー様は、まだご就寝しているかもしれないけれど?」
「それなら、図書館で待たせてもらうわ。話があるのよ」
話があると言われ、美鈴は考える素振りをするが。
「咲夜さんに、通っていいか聞くから、少し待ってて」
アリスの返事を待たずに、美鈴はそれだけ言うと、踵を返して、門の中へと駆け足で入っていく。
「……」
アリスは、言われた通り腕を組んで、美鈴が戻ってくるのを待った。
「………ん?」
数分程経ち、美鈴が戻って来たのを確認するが、隣に、メイド服を来た、咲夜の姿もあった。
「待たせたわね、案内するから、一緒に来なさい」
「……構わないけど、いいの? わざわざ貴方が来るなんて」
朝早く、屋敷内が忙しいかと思った分、咲夜が来たのは、アリスにとって予想外であった。
「お嬢様も地下図書館にいるから、都合がいいのよ」
「……レミリアも?」
鉄格子の門が開き、アリスは紅魔館の敷地へと足を踏み入れる。
「吸血鬼が、朝早くから目を覚ましているなんて意外ね」
咲夜の後を歩くようにしてついていくアリスは、咲夜に聞こえないように、呟くにようにして言ったが。
「博麗の巫女の元へ行くようになってから、朝早くから起きる時が増えたのよ」
相槌するようにして、咲夜から返される。
アリスは、博麗の巫女という言葉に、少しばかり顔をしかめたが、頭を振って、気にしないようにしながら、咲夜の後を黙々と歩く事にした。
アリスもここに訪れる事は、他の連中と比べれば、少なくはない。
魔理沙に誘われて、度々足を運ぶ事もあれば、人形に関連する書物を探す為に、地下図書館に足を運ぶ事だってあった。
だけど、今日は違う。自分の為でも、誘われたわけでもない。
初めて、他者の事で、ここに足を運ぶ。
日の光も差さない、石造の廊下を抜け、地下へと続く暗がりの階段を抜けて、地下図書館の扉の前まで来た。
アリスの前を歩いていた咲夜は、コンコンと二度扉にノックをする。
「お嬢様、パチュリー様、咲夜です。客人を、連れてきました」
ドア越しにそう言うと、咲夜は返事を待たずに、ドアノブを捻る。
返す言葉等、最初から期待していないのだろう。律儀に紅魔館のメイドとして、咲夜は、断りを入れただけだ。
「あら、こんな朝早くから、何の用かしら? 人形遣い」
扉を開けた先には、優雅に座る、紅い吸血鬼と、この図書館の主である魔法使いが、机に紅茶を置いて待っていた。
「……おはよう、って言うべきなのかしらね。朝が早い吸血鬼なんて、聞いた事がなかったわ」
一礼して、レミリアの横に控える咲夜の後を追うように、アリスは座る二人の前で、腕を組んで立つ。
「早寝早起きは三文の得という言葉があるわ。昔と今では、過ごし方も違うのよ」
ニヤリと、アリスに向けて笑うレミリアだったが、アリスは溜息を吐いて返して見せた。
何処の世界に、早寝早起きして得をする吸血鬼がいるのだろうか。夜を捨てる等、一番活動しやすい時間を捨てているというのに。
「……今日は、何の用で来たの? アリス」
会話に割って入る形で、パチュリーはアリスに聞く。
「………パチュリーに相談、というか話相手になって欲しくてきたのだけれど」
チラリと、レミリアの方をアリスは見る。
「……私がいては、出来ない相談?」
「ええ。出来れば聞かれたくないわね」
レミリアはその言葉に、眉を寄せるが。
「けど、公言しないって言うのなら、一緒に居てもいいわよ」
「……それは、面白い話なのかしら?」
「確実に、面白くない話よ」
「……ふぅん」
再びニヤリと、レミリアは笑ってみせる。
「いいわ、ここだけの話にしましょう。話してみなさい」
レミリアは、咲夜に手で何か合図をすると、すぐに、アリスの分の紅茶と、空椅子が設けられる。
「ありがとう」
アリスは、用意された椅子に座ると、何度か目を閉じて、深呼吸をしつつ。
「話というのは、霊夢と、魔理沙の話よ」
遠まわしにせず、さっさと本題に入った。
※
「………それは、本当の事?」
話を聞いたパチュリーとレミリアは、驚きの表情を隠せなかった。
特に、レミリアは顔面蒼白と言ってもいいかもしれない。霊夢が孤独に感じているという事実は、度々霊夢の元に行っている一人として、信じがたい事のようだ。
「魔理沙が感じた事だから、何とも言えないわ。本人にも確証を取っていないし、取れる事でもないわよ」
「……確かに、そうね」
パチュリーは紅茶を啜りながら、横に座るレミリアの表情を見るが、呆然として、顔を俯かせているのを見て、事実であって欲しくないと思った。
「………魔理沙は、いつ、霊夢とやる気なんだ」
「わからないわ、ただ、挑むとしたら、すぐでしょうね」
顔を俯かせていたレミリアの口から出た言葉に、アリスは返す。
「……あれが、本心じゃない……」
レミリアは、ぎゅっと、握りこぶしを作り、自分の震えを押さえる様に、唇を噛んだ。
「何がいけなかった? 何が悪かった? 霊夢は、文句は言うが、いつも、微笑んで見せていたのに」
日傘を差して、霊夢の元に向かっていたのが、意味が、なかったというのか。
「お嬢様、魔理沙がそう感じたという話なだけです。まだ、そうと決まったわけでは」
「わかってる、わかってるわよ……」
咲夜にそう言われ、頭をぐしゃぐしゃと掻いて、レミリアは何度か、深呼吸してみせる。
「……ほんっとうに、面白くない話だったわね」
不貞腐れたように言い放つが、顔を俯かせ、今にも泣きそうにしていた顔は、そこになかった。
「最初に言ったじゃない。面白くない話だって。特に貴方にとっては、受け入れがたい事実だと思うし」
「まだそうと決まったわけじゃないわ。それに、そうだったとしても、魔理沙は何かしようとしてる」
それなら、これ以上落ち込んで見せるのは、無様でしかない。
紅魔館の主である、レミリア・スカーレットが、客人の前でこれ以上そんな無様な所を見せる等、あってたまるものか。
「……レミィ」
と、横で何か考える素振りをしていたパチュリーに、名前を呼ばれ、そっちに顔を向ける。
「何かしらパチェ?」
「あの巫女に……勝てると思う?」
パチュリーは、不安げに聞く。
「私は、無理よ。あの巫女にもう一度対峙しろと言われても、勝てる気がしないわ」
「……パチェの口から、そんな言葉を聞くとは、思ってもみなかったのだけれど?」
レミリアは、怪訝そうにパチュリーを見るが、冗談ではなく、本心から言っていると、長年の付き合い故に、レミリアはわかってしまった。
「レミィは、勝てると思える? あの巫女に」
「当然よ。やるからには勝つ」
だが、そんな不安な表情を見せるパチュリーを一蹴するように、レミリアは即答する。
「霊夢がどれだけ強かろうと、吸血鬼である私が遅れを取るなんて、何度もあってはならないわ」
「……」
唖然とするパチュリーであったが、薄く微笑んでみせる。そうであった。盟友である彼女は、こういう存在だった。
「魔理沙も、きっとやるからには、勝とうと思うはずよ。相談に来たのは、それの件よ」
アリスは豪語するレミリアを見つつ、置かれていた紅茶を一気に飲み干す。
長話をしていたせいか、紅茶は、すっかり冷めてしまっていた。
「パチュリー、ここに、魔理沙は来なかったかしら?」
「来たわよ。魔法の相談をしてきたから、色々と教えたわ」
「なら、魔理沙が無茶をしようとしてるのも、知っているわよね?」
アリスのその言葉に、パチュリーは頷いてみせる。
「……どうにか、出来ないかしら? 魔理沙を」
「どうにかって?」
「……勝負自体を、出来れば、私は止めたいわ」
あの時言えなかった言葉を、アリスは、苦しげに言う。
「魔理沙が、どんな気持ちで、霊夢に挑もうとしてるかは、わかっているつもり。だけど、それ以上に心配なのよ。勝負が終わった後に、魔理沙が、壊れてしまっているんじゃないかって」
「……アリス」
アリスの言葉に、パチュリーは、小さく、頭を振った。
「魔理沙が選んで、しようとしている事よ。残念だけど、止める事は」
「無理、よね」
わかりきった答えに、アリスは落胆してしまう。
そう、そんな事、わかりきっている。魔理沙にもう何を言ったとしても、部外者である私達が、止める術がないという事も。
止める術があるとしたら、魔理沙を霊夢に挑む前に、再起不能にさせるぐらいだろう。
そんな事をすれば本末転倒。所詮、ここに来た理由は、誰かにこの話をして、抱えた重みを、他人に分ける作業をしているだけだ。
「アリスは、アイツが霊夢に勝てないと思っているのね」
落胆するアリスに、レミリアは冷たく言ってみせる。
「そう、じゃないわ。勝てる勝てないの問題よりも、魔理沙が勝負の合間に、どれだけ無茶をしようとするか、わからないから心配なのよ」
「……なら、アリス、本当に勝負を止めてみるか?」
「……え?」
その言葉に、アリスはレミリアの方を凝視する。
「丁度、霊夢の所に行こうとしていた所よ。貴方も一緒に来て、事実を確認すればいいじゃない」
レミリアは笑うようにそう言うと、椅子から立ち上がり、アリスの横へと立つ。
「止めたいのなら行動しなさい。探究する事が、魔法使いのするべき事じゃないかしら?」
「……レミリア」
すっと、アリスに向けて、レミリアは手を差し出す。
それを、アリスは、少しの合間考え、おずおずと、差し出された手を握ってみせた。
「そうね。まさか、貴方からそんな風に、言われるとは思ってもみなかったけれど」
アリスは、笑うレミリアに、ニコリと、笑って返す。
悩んでいても仕方がない事なら、行動するべき。
確かに、魔法使いである私が、するべき事だ。
「咲夜、神社に行くわよ。お供しなさい」
「はい」
「いってらっしゃい」
ゆっくりと、図書館から出て行く三人に、パチュリーは手を振って見送る。
バタンと、閉められる扉を見ながら、パチュリーは席を立った。
「パチュリー様~~、片付け終わりました!」
そこに、ダダダと、駆け足で姿を見せなかった、小悪魔が駆け寄ってくる。
「そう、ご苦労様」
「パチュリー様は、行かれないのですか? 神社に」
話が聞こえていたのか、首を傾げ、聞いてくる小悪魔に、パチュリーは微笑んでみせる。
「私が行っても、意味がないわ。事実がどうあれ、この勝負は止まらない」
それは、レミリアにもわかっている事だろう。あんな風にアリスに言ったが、レミリアは止める為に行ったわけじゃない。
「……レミィらしくないけれど、認めたくないのね」
小悪魔に聞こえないように呟いた台詞は、きっと真実だろう。
彼女が、霊夢の元に行くようになって、どれぐらい経っただろうか。
彼女や私にとって、それは、浅い数年の出来事として記録されるべき思い出。
けれど、レミリアにとっては、そうではない。恋焦がれる乙女のように、彼女は、霊夢に心底惚れてしまっていた。
だから真実を知りたいのだろう。本当に孤独と、霊夢が思っているならば、レミリアは、どんな行動をする事か。
「小悪魔、紅茶の後片付けだけしておいて頂戴。私は、自室に戻るわ」
「はい、わかりました」
小悪魔にそれだけ言うと、パチュリーは自室に戻るべく、図書館の入り口へと歩き、ゆっくりと開けると、自室へと続く廊下を淡々と歩いていく。
魔理沙は、今日もここに来るのだろうか?
ふと、昨日の魔理沙の言葉を思い出したが、パチュリーは心の中で、否定する。
きっと、魔理沙は来ない。アリスにまで話したのだ。
もうこれ以上、自分に相談する余裕もないだろう。今日か明日か、それぐらいには、勝負が始まる。
「そうね……勝負の行く末ぐらいは、知りたいものだわ」
自分の体調を考えつつ、あの巫女に魔理沙がどんな闘い方をするか、見たいパチュリーであった。
※
「……すっかり、春ね」
「そうだねぇー」
博麗神社の縁側にて、霊夢と萃香は、のんびりとお茶を飲んでいた。
境内には、植えられた桜が所々咲き誇り、鮮やかなピンク色の幻想がここにあった。
「これだけ桜も散れば、もう春だって認識するよねぇ」
「掃除をするのが、大変だけど」
ハァと、溜息を吐いて、霊夢は境内に散る桜の花びらを見る。
霊夢にとって、春夏秋冬の風習は、それほど興味を惹きたてるものではなくなっていた。
掃除がしやすいか、しにくいか。お茶が飲みやすいか、飲みにくいか。
それぐらいの些細な変動。
そう言った意味では、季節が春へと変わり、お茶も飲みやすい季節になり、雪かきもしなくなった今は、とてもいい時期なのかもしれないが。
「これだけあったかくなったんだから、そろそろ宴会の時期だよねぇ?」
「萃香はいつだって宴会したがるでしょうに」
横でキラキラと、こっちに期待の眼差しを向ける萃香に、霊夢はめんどくさそうに視線を返す。
「いいじゃんやろうよぉ~皆でわいわいすれば、何だって楽しいよ? 最近ここに来る厄神とか、妖怪の山の連中も誘ってさ」
「……そうねぇ」
雛の事や、早苗達の話を持ち出され、霊夢は少しばかり考える。
確かに、知り合ってからあの辺りの連中とは、こっちで宴会を開いた覚えはない。
信仰の為という話で、守矢の神社の宴会には、誘われて参加した覚えはあるが。
「してもいいけれど、季節が変わっても、顔を出さない奴もいるし……」
歯切れ悪く、霊夢が口にする顔を出さない奴。
いつもなら、何もなくても勝手に来る友人が。
どうしてか、冬の終わり頃から、姿を見せなくしていた。
「……魔理沙?」
「ええ。別に構わないのだけど、ああも入り浸って来てたのが、急に来なくなるとね」
「気になるなら、会いにいけばいいじゃん」
萃香の尤もな発言に、霊夢は苦笑する。
「そこまで気にはしてないから、別にいいの。魔理沙にも、魔理沙の事情があるでしょうし」
「むぅー、それで宴会を開いてくれないのも嫌なんだけど」
「萃香はお酒を飲みたいだけでしょうが」
食い下がる萃香に、霊夢は溜息を吐く。
「違うよー、みんなとお酒を飲むから楽しいんだよ? 一人でお酒を飲んでたって、ちっとも楽しくないよ」
「それなら紫と一緒に飲めばいいじゃない」
ここに今はいない人物の名前を挙げる。紫は、目を覚ました頃には、いなくなってしまっていた。
萃香の話だと、用事がある為、帰ってしまったらしいが。
年中暇そうにしている紫の用事というのも、少しばかり興味はあったが。萃香もその用事が何なのかまでは、知らないようだった。
「それじゃいつもと一緒じゃん!」
「……いつもと一緒でいいじゃない」
ダダをこねる萃香を見つつ、霊夢は手に持っている湯飲みに口をつける。
「………あら?」
湯飲みに口をつけて、青空の方へと視線を移した際、久方ぶりに見る人物の姿があった。
黒白のエプロンドレス、黒白の帽子、風にそよがれ、流れる白金の髪。
箒に跨り、冬の終わりに見た姿と変わりなく、彼女は、空にいた。
「……お? 噂をすれば、魔理沙だ」
空の方へと視線を送っていた霊夢に合わせるように、萃香も空を見て、彼女の名前を口にする。
ゆっくりと、魔理沙は空から降りてきた。
境内の真ん中に降りた彼女の姿を見て、霊夢は立ち上がる。
「よ、霊夢」
変わらない挨拶、変わりようがない、挨拶。
「……魔理沙?」
だが、久方ぶりに見る友人の顔に笑みはなく、真剣な表情をして、立っていた。
※
―――挑もう。
そう決意したのは、アリスに話してから、日がすっかり上がってしまった、翌朝であった。
決意したら、今度は不安と緊張が胸の内に広がっていった。
あいつに本当に勝てるのか。まだ早いんじゃないのか?
今までの勝負とは違う、真剣すぎる程の、遊びじゃない決闘に、魔理沙は心底おびえていた。
もし負けたらどうしよう。もし勝てなかったら、どうすればいいのか。
おびえた心は、身体に伝染し、震えが止まらなくなってしまった。
それを必死に抑え、飛び出すように家から出て、箒に乗って、空へと飛び立ったのが数分ぐらい前。
博麗神社が見えてきて、霊夢の姿を見た途端、何を、私は震えているんだと、心にもう一度、強く言い聞かせる。
変わらずいた友人、そして、今も、博麗として居続ける友人。
私は、冬の終わりに誓ったはずだ。
必ず勝つと。
霊夢の前に立ったとき、震えは消え去っていた。
※
「久しぶりだな」
「……ええ。久しぶりね」
いつも陽気に笑っている魔理沙の顔ではなく、真剣な眼差しで、霊夢を見る魔理沙の表情を見て、霊夢は、心の内で、何があったのか考える。
「何か、あったの?」
「? どうしてだ?」
「いつもと、何か違うから」
「それを言ったら、霊夢はいつもと同じだな」
ニカリと、笑ってそう言われ、少しばかりむっとする。
「まぁ、でも、霊夢らしいか」
「? 何の話よ」
「霊夢がいつも、そうやって博麗としている話だよ」
魔理沙はスカートのポッケから八卦炉を取り出すと、一度、空を仰ぎ見る。
もう、引き下がれない。この話をすれば、勝負するしかない。
「気づくのが、遅れに遅れてさ、親友だと思ってた自分としては、正直情けないと思ったぜ。私は」
「……何の、話よ」
魔理沙の言葉に、霊夢は動揺する。魔理沙は、一体、何の話をしているのか。
それは、気づかれるはずがない、話のはずだ。
「昔の霊夢はさ、もう少し、ちゃんと笑ってたと思ったんだ」
魔理沙の言葉に、心に亀裂が入っていく。
「最初は違和感があっただけなんだ。けど、今じゃ、その違和感も、結構大きくなっちまってな」
空を仰ぎ見てた視線を、再び霊夢の方へと戻す。
「霊夢さ、いつからか、心の底から笑ってないだろ?」
「………」
魔理沙の言葉に、霊夢は何も言えなかった。
それが、事実であった為に。
「私はさ、長年の付き合いだってのに、最近になって気づいたんだ。本当に、気づくのが遅れちまったぜ」
乾いた笑みを作って、魔理沙は、押し黙る霊夢を見続ける。
「………………魔理沙は」
間を置いて、言葉を忘れてしまったかのように、霊夢はゆっくりと、言葉を紡いでいく。
「それを知って、どうしようと思ったの?」
「そりゃ、決まってるだろ」
八卦炉を前に突き出し、宣言するように、魔理沙は霊夢に言う。
「私が隣にいる事をわからせる。勝手に自分が一人ぼっちだって思ってる親友に分からせる為に、私は今、ここにいるんだ」
「……魔理沙」
その言葉に、霊夢は驚きと、動揺が顔に出たが。
「それは、弾幕勝負を挑むって事よね?」
「ああ、それ以外に、わからせる方法なんてないだろ?」
すぐに、冷徹な眼差しで、魔理沙を見つめ返す、博麗の巫女の姿があった。
「全く、久しぶりに会ったと思えばこれだもの」
「悪かったな、これぐらいしか思い浮かばなくて」
軽口を叩きあいつつ、空へと上がる両者。
「……やるからには、手加減なんてしないわよ?」
「ああ。本気じゃないと、意味ないぜ……!」
瞬時に放たれたマジックミサイルと、お札がぶつかり合い、炸裂した。
※
前方に見えてきた博麗神社で、既に弾幕勝負が行われているのを見て、アリスは唇を噛んだ。
「遅かったみたいね」
横で日傘を差しながら飛ぶレミリアの言葉に、何か返そうかと思ったが。
「……そうね」
何を言っても、泥のように、醜い言葉が、心の中で膨らみ、それを言うまいと、軽く返して、弾幕勝負が行われている上空から離れる形で、三人は神社の境内の方へと、降りていく。
「お? 珍しい組み合わせが来たね」
境内の方には、既に先客が一人いた。
「鬼がいながら、止めなかったのね」
「止める理由がなかったからね」
忌々しく、レミリアの口から吐き出された言葉に、萃香は軽く受け流した。
「なんだ、魔理沙があんな事を言うって事は、アリス達も気づいた口なの?」
「……気づいたって、まさか萃香、貴方も知ってたの?」
「私は紫から聞いて知ったよ。霊夢が孤独に感じてる話をね。未だに信じられないけど」
萃香は話しつつも、視線は上空で行われている弾幕勝負に釘付けとなっていた。
「よくやるね魔理沙も。あれじゃあ数分ともたないだろうに」
萃香のその言葉に、アリス達も上空へと目を映した。
高速で飛び交う、紅白と、黒白の弾丸。
「あの馬鹿……」
アリスは、魔理沙の行動を目で追い、舌打ちする。
無茶だと、あれだけ忠告したというのに、魔理沙のしている事は、案の定、最大出力で、全て放出している戦法だった。
弾幕と弾幕がぶつかり合う中、魔理沙のマジックミサイルが、相殺すらさせずに、何度も霊夢に迫るのが、ここからでも見える。
「……魔理沙らしいが、相手が悪い」
上空を見る、レミリアの口から零れる言葉。
「あれじゃ、当たらないね」
萃香の言葉通り、迫るミサイルは、何度も霊夢に向かうも、かわされてしまっている。
「……咲夜、貴方だったら、どう当てる?」
横で日傘を差して、律儀に控えたままの咲夜に、レミリアは聞いてみる。
あの巫女に、どうすれば一撃を与えられるか。
「……私なら、時間を止めますが」
上空の弾幕勝負を見ながら、咲夜は霊夢の動きを目で追い続ける。
別段、追えない速度でもない。かわせないように弾幕を張れば、スペルカードを発動して、霊夢の行動を縛って行けばいい。
「……でも、前回はそれで負けました」
紅い霧の異変の時、咲夜はあの巫女を止められなかった。
時間を止めても、霊夢は迫るナイフをかわしてみせたのだ。まるで、初めから何が来るか、わかっていたかのように。
それなのに、今の魔理沙の戦法で、どれだけあがいても、当たるはずが、あるわけがない。
「魔理沙も、当たらない事は承知の上で、撃ってると思うけどね。アレは」
萃香は、ニヤニヤと、笑みを作りつつ、魔理沙の行動を、目で追っている。
「……承知の上でも、あんな風に撃ちつづけたら、壊れるわよ」
対して、同じように魔理沙の方を目で追っていたアリスは、必死に握り拳を作って、今すぐに空へと上がろうとする自分の身体を、必死に自制していた。
止めたい気持ちは、今もあるに決まっている。
だが、アリスの身体は動かない。
ここからでも、魔理沙の顔は見える。
真剣に挑んでいる弾幕勝負だというのに、あんな戦い方をして、自分の身を削りながら戦っているというのに。
魔理沙の顔は、真剣であったが、何処か、喜びに満ちた表情。
勝負そのものを楽しんでいるその顔は、いつもと変わらない、魔理沙の素顔。
―――あんな顔をされて、止められるわけがない
固唾を飲んで見守るアリスは、一挙一動、目で追いながら、無事に勝負が終わる事を願う。
「……そろそろかな」
「ええ、そろそろね」
レミリアと萃香が、口にした途端。高速で動いていた両者の動きが止まった。
※
「魔空!」
先に動いたのは、魔理沙だった。
「アステロイドベルト!」
宣言と共に、魔理沙の周囲を回るように、星の弾幕が張られていく。
「……」
霊夢は、空へと張られていく星の海を、スペルカードを発動せずに、避けようと動いた。
魔理沙のスペルカードは、何度も戦っているおかげで、全て把握している。
頭の中に浮かぶルートをなぞるようにして、星の海を掻き分けるように、身体を滑らせていき。
「……違う」
直感と共に、横に大きく回避行動を取る。
流れていく大きな星の弾丸。
だが、霊夢が先ほど抜けようとした場所に、隠れるようにして、小型の星の弾幕が殺到していた。
「……成る程」
いつもと違う。
先ほどから、札の弾幕が押し負けていたが、文字通り、弾幕にパワーを乗せて、自分を圧倒する気のようだ。
「けど、まだ甘いわね」
ニヤリと笑って、霊夢は懐からスペルカードを取り出し。
「夢符、封魔陣」
宣言して、空に埋め尽くされた星々を吹き飛ばす形で、結界を発動させる。
「くっ……!」
魔理沙は結界に巻き込まれないように、後方に飛んで回避してみせる。
「甘いわよ」
だが、霊夢は躊躇せずに、必ずそこにいると直感を走らせ、封魔陣を瞬時に消し、陰陽玉を前方に飛ばした。
陰陽玉は、後方に回避した魔理沙の元へと、光速に迫り。
「! 光符! アースライトレイ!」
二つ目の宣言によって迎撃される。
魔理沙の周囲に浮かんだ光の弾は、瞬時に陰陽玉に狙いを定め、レーザーによって消滅された。
「いっけぇぇ!!」
そのまま魔理沙の周囲を囲うようにして、光の弾から、何重ものレーザーが、霊夢へと殺到した。
「……霊符」
霊夢は、冷徹な眼差しを向けながら、レーザーをかすめる形で避け。
「夢想封印!」
七色に輝く光弾を魔理沙に放つ。
放たれた光弾は、一つ一つが生きているかのように、魔理沙の元から放たれるレーザーをかわしていき。
「くっそ……!」
光弾へと、ぶち当たっていった。
魔理沙は、潰せないと判断して、白煙が広がる中、再び後方に回避行動を取るが。
「二度も同じ動きは、流石にまずいわよ? 魔理沙」
横から聞こえてきた言葉に、咄嗟に振り向く。
振り向いた先には、魔理沙へと殺到する針の群れが。
「……!」
結界を張るが、間に合わない。
迫っていた針が、八卦炉を持つ腕へといくつか刺さり、激痛を伴って、衝撃を与えてきた。
「ぐ……!」
歯を食いしばって痛みに耐えつつ、未だに向かってくる針を、結界で防ぐ。
「星符! スターダストレヴァリエ!」
防ぎながら、針が刺さったままの腕で、なぎ払う形で、再び星の弾幕を展開する。
近くにいた霊夢は、その星々を一瞥し。
「……な」
あろうことか、突っ込んできた。
「……! 恋符……!」
スターダストだけでは止められない。
身体に走る激痛に顔をしかめながら、魔理沙は十八番を使う為に、八卦炉に再び魔力を集中させ。
「マスタースパーク!」
星の弾幕もろとも、霊夢に向けて、一筋の閃光が発射される。
「神技」
マスタースパークの宣言を見た霊夢は、流石にかわせないと判断したのか。
「八方龍殺陣!」
魔理沙に見せた事のない、スペルカードを発動した。
霊夢を守るように、幾重にも札が展開され、更に、隙間を塞いでいくかのように、針が幾重にも展開されていく。
轟音と共に、マスタースパークは、霊夢の弾幕にぶち当たった。
「……おいおい」
魔理沙は、白煙を上げた結界を見て、後方に、飛ぶようにして逃げる。
これが、霊夢の本気なのか。
確かに、直撃したはずのマスタースパークは。
「マスタースパークも出したって事は、後がないんじゃないかしら? 魔理沙」
完全に、霊夢に張られた結界によって、止められていた。
「生憎と、まだ手の内はあるんだぜ」
顔に無理やり笑みを作って、空に張られていく結界を見ながら、二の腕に突き刺さったままの針を抜いていく。
抜いた先から、血が流れるが、見た目と比べ、そこまで重症というわけでもない。
霊夢の持っている物は、妖怪や吸血鬼に対して、効き目があるものなのだろう。
人間の私にとっては、あくまで、針が刺さったという意味合いしか持たないようだ。
「……でも、あれを喰らったら、まずいよな」
目の前に張られていく、幾重もの結界の群れに、魔理沙はどうするべきか、考える。
全力で魔力を注いだマスタースパークでも、あの結界はびくともしなかった。
マスタースパーク以上のスペルカードは、あるにはある。
だが、あれは切り札だ。連続で撃てるものでもない。
(……おまけにさっきから、身体の激痛が、酷くなってるぜ)
内心舌打ちしながら、今の自分の容態を確認する。
手抜きをさっきから出来ない分、アリスに言われた通り、私の身体は、徐々に崩壊への道を辿っているようであった。
身体を動かすだけで、先ほどから、激痛が広がってしまっている。
マスタースパークも、強化を加えて撃ったせいか、拍車となってしまったようだ。
対して、霊夢はノーダメージ。
(ホントに、どうするか)
今にも、魔理沙に殺到しかねない結界の群れは、層を重ねているだけで、まだ動く気配はない。
あの結界群を、無理やり突破するか、それとも回避に徹して、やり過ごすか。
「……」
箒を握っていた片方の手を、風に飛ばされないように、帽子をしっかりと押さえ、魔理沙はニヤリと、笑ってみせる。
「―――彗星」
勝機等、元からないのは百も承知。
今自分に出来る全開を選択し、あがいて、必死にあがいて。
「ブレイジングスター!」
友にわからせてやるのに、これ以上退けれるものか!
魔理沙の宣言と共に、箒は青白く輝き、今までの速度が嘘のように、更なる光速を作り上げる。
方向は真正面、霊夢の結界群に向け、魔理沙は加速する。
「そう来ると思ったわ」
霊夢は、魔理沙の動きを待っていたかのように、自分の周囲に張っていた結界を、加速しながら迫る魔理沙へと、放った。
札の群れ、針の群れ、陰陽玉の群れ。
三つの層が、歪むように、一つ一つ、生きているように動き、魔理沙を潰さんと迫る。
「……ここ、だ!」
ブレイジングスターによって、今まで以上に荒ぶる箒を、片手で必死に押さえながらも、魔理沙は、迫る結界群から、目を離さなかった。
箒の向きを、無理やり上へと持ち上げ、飛ぶ角度を変えてみせる。
魔理沙は、ぎりぎりの所で、札の群れをかわして見せ、急上昇していく。
「まだよ!」
だが、霊夢の表情は変わらない。
塞ぐように、急上昇する魔理沙の頭上に、陰陽玉が展開される。
「甘いぜ……! 霊夢!」
霊夢はこのまま魔理沙が、上へと逃げると思ったのだろう。
しかし、退かない選択をした魔理沙が取った行動は。
「な!?」
そのまま、霊夢に突撃するという行動だった。
「血迷ったの!? 魔理沙!」
まだ霊夢の前には、針の結界群が残っている。
それがあるというのに、魔理沙の突撃は止まらない。
「く……!」
霊夢は怪訝な表情をしつつも、回避行動を取る。
自分を守るように展開されている針の結界。
だが、先ほどの攻撃が仇となったか。
針では落ちないと、確信している魔理沙の速度は変わらず、針の結界に突っ込む形で、霊夢が居たところを駆け抜けた。
「この……!」
かわしたままの体勢で札を放つ霊夢。
だが、ブレイジングスターによって、距離を取った魔理沙に当たりはしない。
「……行くぜ霊夢!」
叫ぶように、霊夢の真横を駆け抜けた魔理沙は、反転して止まると、そのまま帽子を押さえていた手と、八卦炉を持つ手も霊夢に向ける。
「恋心!」
身体に広がる激痛、抜ける際に突破した、針が身体中に刺さっているが、歯を食いしばりながら、魔理沙は再び宣言。
勝機は、今しかないと信じて。
「……っつ!?」
宣言を聞き、霊夢はかわすべく、動こうとする、が。
「……え」
かわそうとして、気づく。
周囲からの冷気によって、退路を阻まれている事に。
「私に向かってきたのは、これの為ね……!」
設置型属性魔法、コールドインフェルノ。
妖怪の山に向かう際、一度は見ていたはずの魔法を、霊夢はこの瞬間、魔理沙の強行突破によって、見落としていた。
「ダブル、スパーーーーク!!」
魔理沙は、動けない霊夢に向かって、叫ぶように、両手から閃光を放つ。
閃光は、光り輝きながら、霊夢の元へと、すべるように迫り。
「………大、結界」
コールドインフェルノもろとも、爆散した。
※
「嘘……」
その言葉は、誰から呟かれた言葉だろうか。
境内で霊夢と魔理沙の勝負を見ていた者達は、魔理沙が放った、ダブルスパークの閃光を、呆然と見つめていた。
「……やった?」
アリスは、魔理沙が放ったダブルスパークが、霊夢に当たる所まで、しっかりと見ていた。
周囲を囲うコールドインフェルノによって、霊夢には、逃げれる場所もなかったはずだ。
加えて、渾身のダブルスパーク。完璧に、決まったはずだ。
だと言うのに、アリスは不安な表情を、拭えなかった。
本当に、これで終わりなのか?
白煙が広がり、霊夢の姿は見えず、ダブルスパークを放った魔理沙の姿が見えるだけだ。
魔理沙は、肩で息をするように、荒い呼吸を、何度もしながら、眼前を見据えていた。
「あれを、使うのね。霊夢」
「あ、紫」
縁側の方から、ここにはいないはずの声がして、アリスはそちらに顔を向ける。
そこには、憂いを帯びた顔をして、上空を見つめる紫の姿があった。
「用事は終わったの?」
「まだ終わってはいないのだけれど。藍に任せてきちゃったわ」
苦笑して萃香に話をする紫であったが、アリスは、先ほど聞いた言葉が耳に離れない。
「……隙間妖怪、あれって、何だ?」
同じように、聞いていたレミリアの口から、紫に疑問の言葉が投げかけられた。
「私の真似事よ。威力は折り紙付だけれど」
レミリアの言葉に、クスリと笑って、紫は縁側の方へと歩いていくと、萃香の横に座る。
「……霊夢は、倒れていないの?」
白煙は今もなお、広がっている。
アリスは、懇願するように、紫に聞くが。
「あれで、沈むようなら、博麗なんて、名乗っていないわ」
紫は、楽しむように、絶望の言葉を口にするが、表情は、悲しげに象られていた。
※
「ハァ、ハァ……!」
肩で息をしながら、魔理沙は身体中に広がる激痛に、顔をしかめながら、前方に広がる白煙から、目を離さないでいた。
手ごたえはあった。賭けに近かったが、霊夢のかわす癖を突いた一撃は、確実に、ダメージを与えたはずだ。
「……ハァ……」
なのに、どうしてだろうか。
落とせたと、思えない。
「……ハァ、くそっ……!」
身体に走る痛みを無視しながら、未だに刺さっている針を引き抜いていく。
太腿や、肩にまで刺さっていたが、喰らった衝撃が酷かっただけで、針自体は、大したダメージはない。
問題は、いつ壊れてもおかしくない身体の内にある。
立て続けの大技に、魔力強化をしたせいで、余分な負荷が、全身にかかってしまっている。
痛みで震える自分の手に、顔をしかめながら、身体に刺さる針を引き抜く。
白煙は、やっと広がるのが止まったのか。霊夢を隠すようにあり続け。
「……まさか、これを使う事になるとは、思わなかったわよ」
煙の先から聞こえてきた言葉に、ビクリと、身体が震える。
ゆっくりと、白煙は消えていった。
「……冗、談じゃないぜ………」
声がした方向を見続け、白煙から出てきた霊夢に対して、魔理沙は呆然と呟いてしまう。
霊夢は、先ほどと変わらない姿で、そこにいた。
周囲を囲うように結界が張られ、マスタースパークを止められた時の、巻き戻しを見せられているようだった。
「どんなでたらめだよ。それ」
霊夢を囲う結界。
「私の奥の手の一つよ。大結界―――」
博 麗 弾 幕 結 界
静かに、魔理沙を見据えながら、霊夢は呟くように宣言した。
途端、結界は、爆発的に広がる。
「……くっそ」
魔理沙は、その結界を見つつも、動く事は出来なかった。
動く体力も、もう残っていないのだ。
「さっきので本当に、手の内が全部なくなったみたいね」
逃げようともしない魔理沙を見ながら、霊夢は冷めた目で、言い捨てる。
「魔理沙にしては、よくやったわ。久しぶりに本気を出せたし、気持ちは伝わった」
「………」
「負けを、認めてくれないかしら? このままこれを喰らえば、怪我じゃ済まないわよ」
「……嫌だって、言ったらどうする?」
霊夢の冷たい眼差しを見ながら、魔理沙は肩で息をしつつ、口元に笑みを作ってみせる。
「認めるわけにはいかないんだよ。気持ちが伝わった? 本気を出せた? そんなの、どうだっていいんだよ」
こっちは満身創痍だというのに、何処にも傷を負っておらず、疲れてさえいない霊夢の姿を見て、唇を噛み締める。
「私は、お前の横に立つ為に、お前を孤独にさせない為に、勝負を挑んでるんだ……! それなのに、負ける事なんて、認められるかよ!」
圧倒的すぎる実力の差。
霊夢が腕を振るえば、自分をも囲んだこの大結界は、躊躇なく、私を落とす為に、降り注ぐ事だろう。
だが、負けを認めるわけにはいかない。勝機が残っているのなら、最後まで、あがいてみせる。
「……魔理沙、例え貴方が勝ったとしても、この孤独は変わらない」
負けを認めない魔理沙を、冷徹に見ていた霊夢だったが、ゆるぎない言葉に、嘆くように、呟いた。
「私は博麗の巫女よ。死ぬまで私は、巫女であり続ける。それなのに、そんな事を、言わないで頂戴」
「……嫌だ」
「魔理沙がこっちの世界に足を踏み込んで、アンタがいつも、笑って私の横に居てくれた事には、心から感謝してるわよ。アンタだけじゃない。こんな私に、皆が構ってくれる」
霊夢は、結界の中、言葉を紡いでいく。嘘偽りのない本音を。
「だから、負けを認めなさいよ。本当に、アンタが、私を救ってくれようとしている事に、感謝しているのだから」
「……嫌だ!」
魔理沙は首を横に振る。
「それでも、私はお前と、一緒に笑って生きていきたいんだよ! 博麗としてじゃなくて、霊夢と一緒に! それが、それが心の底から笑ってないなんて、耐えられるかよ!」
「……魔理沙」
「みんながいるのに、博麗だからって、そんな考えを持っているなんて間違ってる! 私は、私は……」
八卦炉を掴んでいた手に、再び魔力を集めていく。
チャンスも何もない。撃てば終わる、最後の魔法。
「霊夢の、親友だ……! その親友が、支えてやらないで、何が親友だ!」
―――詠唱込みなら、殺し合いになるわよ
脳裏によぎったのは、パチュリーに相談した、最後の日。
わかってる。私は、私の力で、あいつを倒す。
詠唱なんていらない。
「魔、砲……!」
この魔法に、詠唱なんているものか!
「……」
「ファイナルマスタースパーク!!」
放つ極光は、ダブルスパークより更に上。
輝く、極光の光は、大結界の中、駆け抜けるように霊夢へと向かい。
「ん……!」
それを、かわすでもなく、潰すわけでもなく、霊夢は、大結界で受け止めた。
爆発するように、ぶつかりあう両者の切り札。
それは、初めて拮抗するように、激しいぶつかり合いを見せ続け。
―――パキン
「……ああ、くそ」
急速に、消えていく極光によって、終わりを告げた。
「………届かないのかよ」
ゴホリと、喉から血液が逆流してくるのがわかる。
ためらわず吐き出し、エプロンドレスが、紅い血で濡れていく。
(ああ、まずい)
吐き出した途端、視界がぐにゃりと、歪み始める。
箒に跨っていた身体は、ゆっくりと、後ろに仰け反り始め。
(やっぱ、霊夢は強いぜ……)
超えられない親友に、賞賛と尊敬を、心の中で言いながら、ゆっくりと、目を閉じた。
※
「魔理沙!」
空から落ち始めた魔理沙に、一早く反応したのは、アリスであった。
仰向けに、空から地面へと落下していく所を、境内から飛び上がり、抱きしめる形で受け止める。
抱きしめた際、ふわりと、魔理沙が被っていた帽子がすべり落ちていく。
「魔理沙……」
アリスは、目を閉じて、意識を失ったままの魔理沙の顔を見て、息を呑んだ。
「……なんで」
顔は、後悔するようでも、悲しんでいるようでもない。
「なんで、笑ってるのよ……」
無意識なのか、それとも、満足したとでもいうのか。
意識を失ったままの魔理沙の顔は、全てをやり遂げたかのように、笑っていた。
口元には、零した血の跡が残り、身体の至る所に、針が刺さった為か、血が流れている跡が残っていた。
「……馬鹿」
アリスは目尻に溜まる涙を必死に抑え、魔理沙を抱きしめながら、地上へと降りていく。
揺れるように、落ちていく黒白の帽子。
それを、咲夜は、地面へと落ちる前にキャッチした。
「咲夜、魔理沙の手当てを、手伝ってやれ」
「はい」
レミリアの傍で、日傘を差していた咲夜であったが、日傘をレミリアに渡すと、ゆっくりと降りてくるアリスと魔理沙の元に、急ぎ駆けて行く。
「……」
レミリアは、それを最後まで見る事なく、もう一人、ゆっくりと境内へ降りてくる霊夢の方へと、歩み寄っていく。
「……レミリアも、来てたのね」
降りてきた霊夢は、変わりない姿ではなかった。
右腕が、焼け爛れたように、赤い火傷の跡を残している。
「最後の、防ぎきれなかったのね」
魔理沙が放った、最後の魔法。
「ええ、防ぎきれなかったわ」
霊夢は、喜ぶように、防げなかった事をレミリアに言う。
「……」
日傘を握る手に、自然と力が入る。
―――孤独は変わらない
上空で話していた言葉は、レミリアの耳に、聞こえていた。
紫や、萃香にも聞こえていた事だろう。
「……霊夢」
こんな時、何て声をかければいいか、わからない。
500年も生きてきたというのに、良い言葉なんて、見つかりはしない。
好きで、たまらなく愛しい人間が、孤独であり続けるというのに。
吸血鬼の私から、霊夢に言える言葉等、ありはしない。
「化膿する前に、貴方の腕も、治すわよ」
レミリアは、火傷をしていない方の、霊夢の手を握る。
「そうね」
霊夢は、レミリアの手を握り返す。
握り返された、手から、霊夢の暖かさが、伝わってくる。
「……レミリア」
「なに?」
「ごめん……ね」
「……」
何に対しての「ごめん」なのか。
「謝られる、覚えはないわ。それは、魔理沙に言うはずだった、台詞のはずよ」
顔を背け、霊夢の手を引っ張る形で、レミリアは神社の境内へと歩いていく。
既に、縁側では魔理沙の服を脱がして、怪我をしている所を治そうと、咲夜とアリスが、神社の奥を行ったり来たりしている。
「ありゃ、やっぱ最後の、防ぎきれてなかったんだね」
縁側で、その光景を見ていた萃香と紫だったが、レミリアに連れられる形で来た霊夢の腕を見て、驚いた表情をする。
「ええ、防ぎきれなかったわ」
「……永遠亭に、あのヤブ医者を呼んでくるわ」
紫はさっと、霊夢の傷を見て、隙間に飛び込もうとするが。
「紫、そこまで重症じゃないって。あの医者呼ぶ必要はないよー?」
むんずと、隙間に飛び込もうとする所を、萃香に襟首を掴まれる。
「霊夢が怪我してるのよ? 火傷だなんて……重症じゃない!」
息巻いて、襟首を掴まれながらも、慌てるように飛び込もうとする紫であったが、萃香の怪力によってビクともしない。
「どんだけ過保護になっちゃてるの……大丈夫だって、氷水作って、冷やして包帯巻けば、2、3日には元通りだって」
「……お前に昔に負けた事が、悔やまれるよホントに」
レミリアは、慌てる紫を見て溜息を零す。さっきまで泣きそうになってしまっていた感情の渦は、目の前の紫を見て消えてしまった。
「……プ、ア、アハハハ」
ふと、後ろから、笑い声がした。
振り返ってみると、紫の慌てる様を見て噴出したのか、霊夢は、笑っていた。
「……霊夢?」
「ご、ごめん。あ、あまりにも、可笑しくて」
涙目になりながら、笑う霊夢の顔に、レミリアは唖然とする。
「ゆ、紫、私は大丈夫よ。そんな慌て、ないで、頂戴」
所々、何処かまだ笑うのを抑えられないのか。片言にそれだけ話すと、顔を背けるようにして、身体を震わせる。
「……」
これは、意味が、あったのだろうか?
レミリアは少しばかり驚いていたが、いつものように、ニヤリと、笑顔を作ってみせる。
きっと、意味はあったのだ。この勝負に。
例え勝とうと、負けようと。魔理沙は、霊夢に気持ちを伝えたのだ。
友として。魔法使いとして、出来ることを。
(今度は、私の番かしら)
吸血鬼として、私に出来ること。
そうではないのだ。根本を忘れている。
霊夢の“友〟として、私は、彼女に伝えたい言葉が、あるはずなのだ。
チラリと、眠る魔理沙の方を見る。
気を失ったまま、笑顔で眠る魔法使い。
魔法使いとは、努力と知識を重ね、奇跡を見出す者。
パチュリーが、朝に、私に語った言葉通り、魔理沙は奇跡を見出した。
霊夢の方を、再び見る。
そこには、心の底から笑う、巫女の姿があるように、レミリアは見えた。
※
目が覚めたのは、すっかり、茜色の空になった頃だった。
「……いたたた」
身体中に包帯を巻かれ、傍らには、寝息を立てる、アリスの姿がある。
布団に寝ていた私の手を握るようにして、一緒に横になって、寝ていた。
「……ありがとな」
眠るアリスに感謝を言いながら、握られた手を、起こさないようにしてほどいていく。
本当に、心配させてしまったらしい。後で、ちゃんと謝ってやらないと。
服も脱がされたのか、着ていた服は、宴会等で使われるような、浴衣が着せられている。
「……」
魔理沙は、茜色の空の中、寝ていた部屋から出ると、縁側の方へと歩いていく。
そこには、変わらず、あいつがいた。
「あら、魔理沙、もう起きて大丈夫なの?」
相変わらず湯飲みを手にしながら、お茶を啜っているその姿は、変わっていない。変わり様がない。
「……ああ、まだ、ちょっと痛いけどな」
苦笑しながら、返事を返しながら、霊夢の横へと座る。
ふと、そこで気づいた。
「……あれ。その腕、どうしたんだ?」
霊夢の右腕に巻かれている包帯に。
「………最後の、防ぎきれなかったのよ」
「え」
呟くように言われた台詞。
「……そう、か」
「全く、時間が経つ毎に痛くなってきてて、嫌になるわ」
「……ごめんな」
霊夢の言葉に謝る。
「お互い様よ。全力でやったのだから、謝る必要はないわよ」
「……うん」
静寂が流れるように、ぼんやりと、二人で茜色の空を見上げ続ける。
「……魔理沙」
「なんだ?」
破るようにして、霊夢の方から声が上がった。
「明日なんだけれど、萃香が宴会をしたい、宴会をしたいってうるさくってね。神社で宴会をする事になったのよ」
「おお? そうなのか?」
「ええ。妖怪の山の連中も呼ぶから、結構、大きな宴会になると思うわ」
「それは、楽しみだな」
宴会の話をされ、魔理沙は、喜ぶようにしながら、声を上げる。
「ええ、今紫とかレミリアとか、萃香が宴会をするって、皆に言ってるから、魔理沙も明日参加しなさいよね」
「勿論だぜ。そんな楽しそうな事に、私が首を突っ込まないはずがないだろ?」
ニカリと笑ってそう返す魔理沙に。
「……ええ、そうね。魔理沙はいつだって、私の傍で、笑っていたものね」
この手で、取り戻したかった笑顔が、そこにあった。
「………霊夢?」
茜色に染まる空の中。昔と、昔と変わりなく、笑う霊夢の姿。
「おまえ……」
「明日は、そうね、“霊夢〟として、初めての宴会だから、派手に祝って欲しいわ」
「……あ、ああ」
零れそうになる涙を抑えて、顔を背けるようにして、霊夢から目を逸らす。
起きた時、変わってなかったら、どうしようと、さっきまで不安になっていた自分がとても恥ずかしい。
けれど、それ以上に。
「ちょっと、魔理沙? 何で泣いてるのよ?」
「な、泣いてない! 泣いてなんかないぜ!?」
嬉しくて、自分のした事が、間違っていなかった事に、純粋に嬉しくて、目から涙が零れ落ちた。
あと、
>>人間の身で、数十年しか生きていない
は、十数年の間違いでしょう。魔理沙が数十歳になっちゃいやん。
その少し下にも同じ間違いが。
修正しておきました。ありがとうごさいます。
第三者の視点から書いてると思えば魔理沙の視点にうつり、そして他のキャラの視点に移る。段落分けも無くそうされている部分もあるのでちょっと読みにくかったです。
もうちょっと視点を固定できたら凄まじい作品になっていたんじゃないか、と思えるだけにもったいなさ過ぎます。あと↓の方も言ってましたが読点が多いですね。区切りを明確にできる、というのは好感が持てますが、弾幕ごっこはスピード感が欲しいと思いますのでちょっと鈍重に感じてしまいました。戦闘中も半分以上が会話分だったのもあって、なおさらそう感じてしまいました。
本当に些細なことですけど、それだけに目に付いてしまったのでこの点数をば。面白くなかったわけではないんですけどねー。
ただ霊夢がゲーム上で自機である事を踏まえた表現が何ヶ所かありましたが、「魔理沙も同じだけ自機だったよなぁ」とちょっと引っ掛かってしまいました
魔理沙にも焦点が当たっているこの話においては、そういった表現は避けた方が良かったんじゃないかと
心から笑った霊夢とその笑顔を見せることができた魔理沙。
二人の友情はこれからも続いていくでしょうね。
素敵なお話でした。
でも、もう少し霊夢と魔理沙の二人に焦点を絞った方が良かったかなぁ。
次はレミリアお嬢様のターンですよね?期待して待ってます。
次回作も期待です^^
読んだ後の余韻がすさまじいです。
厄と博のときからそうですが、何故もこう何とも言えない誤読感が残るのか。
良い作品でした。
ただ、上記は、作品単体としての感想で、「厄と博」と時間軸を同じくするお話として考えるならば、もう少し、雛との事が行動や内面に反映されていたらよかったのにと思ってしまいました。今回は萃香との会話でしか触れられておらず、そこだけが少しもったいなかったと思います。
>読点が多い~視点のブレ
読点に関しましては、今回、多めに入れてあったのが、裏目に出たかもしれません。重みや鈍重に、作品を軽くしない為に、ブレス部分をこちらで誘導する形を取りましたから。視点のブレに関しましては、永遠の課題ですね。。精進します。
>霊夢がゲーム上で自機である事を踏まえた表現
これもそうですね。言われるとは予想はしてたのですが、他に良い霊夢の圧倒的な強さの表現が、見つからなかったというのがあった為、このような表現を取らせて頂きました。
>霊夢と魔理沙の二人に焦点を絞った方が
色々な派生、他の者達がこの勝負を見てどう感じたか。それを強調したかった部分もあった為、少し思惑とずれてしまったかもしれません。
>雛との事が行動や内面に反映されていたらよかったのにと。
厄と博でもお話している通り霊夢は、自分自身の事は諦めていたと。思ってくださると、書き手としては嬉しいです。霊夢は知った上で孤独を味わっており、雛は知らない上で孤独を味わっていた。今回はその部分を強くしたいが為に、雛自体からは、スパッと切らせて頂きました。時間軸を一緒にした理由は、これからの作品の派生として、繋がらせて頂きます。
面白かった、ええ話、いい作品、声もでないと、お言葉を頂き、ありがとうございます。また、批評に関しましても、自分では気づけない部分、こうすればよかったのではないか? と、度々頂き、それに関しましても、お礼を申し上げます。
感想コメにもありましたが、レミリアのターンというだけではなく、ここからこの勝負を見たもの達の後のお話、風録組が混ざった宴会話等も書けたらいいなと、考えております。
少しばかり長くなりましたが、これにて。長文失礼しました
綺麗なお話でした
次回も期待してます。
にしても、アリスがとても可愛かったw
とてもよい話でした。
魔理沙かっこよかぉつたです!