夢を見た。
とても懐かしい、ずっとずっと昔の記憶。
だけど、決して忘れる事の出来ない、私達の大切な思い出。
百年以上も前、私は古びた洋館の中で目覚めた。
目覚めたという表現は少しおかしいかもしれない。でも、それ以前の記憶が何も無く、まるで永い眠りから覚めた感じだったので間違いではないと思う。
私の、いや私の他にも二人いたので、正確には私達の前には一人の少女が立っていた。
腰まで伸びた長い髪、透き通るような肌、綺麗なんだけどその姿はとても弱々しくて、抱きしめたら壊れてしまいそうだった。
そして彼女は私達の姿を見ると、にっこり笑ってこう言った。
おはよう、姉さんと。
彼女は、何も分からない私達に色々な事を教えてくれた。
私達は彼女にある魔法の品の力を使って創られたということ、私達は彼女の『姉』であるということ、
私と同じように虚ろな目で佇んでいた二人は『ルナサ』、『メルラン』という名前で、この二人も私の姉であるということ
そして私はプリズムリバー家の三女、『リリカ』であるということ。
最初はその言葉の意味すら分からなかった。
だけど、様々なことを彼女から教わっていくうち、私たちは言葉を覚えた、感情を覚えた。
そして、彼女は私達の為にそれぞれ三種類の楽器を創りだした。
それからの生活は本当に楽しかった。ロビーでお話しをして、庭で楽器を演奏して、食堂で談笑しながらご飯を食べて。
演奏中に音を外したり、食事中に料理をこぼしたりして、彼女に怒られたりもしたけれど、私達にとってはどれもかけがえのない思い出だ。
でも、そんな日々も長くは続かなかった。
元々ただの人間だった彼女は、私たちと違いそう長くは生きられなかったのだ。
若い頃の姿は見る影もなく、しわくちゃのおばあさんになってしまった彼女は、私達三人が見守る中、最後まで笑ってこの世から旅立っていった。
不思議と涙は出なかった。たとえ肉体は無くなっても、彼女はずっと私達と一緒にいる、そんな気がしたのだ。
私達の大切な妹……。
……レイラ。
「めるぽーっ、ダーイブッ!!!」
「ぷぎゃ!?」
……といった感傷的な夢は、突然上から飛来した無駄にハイテンションな物体によって強制的に打ち切りとなった。
「げほっ、げほっ……メ、メル姉、いきなり何を……」
「めるぽ、プレースッ!!!」
「二度目!?」
謎の落下物……メルラン姉さんのダイブにより、私の腹部に二度にわたって強烈な衝撃が与えられる。
布団を間に挟んでいるとはいえ、人一人の重圧は結構な痛みを伴う。
更に、肉体的な痛みだけでなく、メル姉が布団の上で跳んだり跳ねたりする度に、
弾力性に富んだ双丘も釣られて縦横無尽に跳ね回り、ぺたんこな私の硝子のハートをグサグサえぐってくれる。
美鈴以下うどんげ以上というリアルなデカさの決戦兵器を前に、朝っぱらから私のメンタル面はズタズタだ。
「むぅ~、まだ起きないか。ならばもう一回、めるぽインパクt……」
「起きてる! 起きてるから!」
今にも私の布団に飛びかかろうとするメル姉に、
私は掛け布団を蹴っ飛ばし、急いで体を起こして起きていることをアピールする。
「あれ? 起きてたの?」
「起きてるよ! というか、一体どこを見てまだ寝てるって判断してたのよ!」
「前にルナ姉にやったときは、何度やっても口から血を垂らしたまま起きなかったから、もしかしてあんまり効果がないのかなって思って」
「それ別の意味で眠りそうになってるから! ヒガンルトゥールしちゃってるから!」
笑顔で殺人未遂を告白する姉さん、これで悪意がないのだから恐ろしい。
公安に捕まったら、鉄格子つきの病院に収容されるのは間違いないだろう。
「残念だなぁ、次に繰り出すつもりだったハイパーめるぽゼロドライブは今回が初挑戦だったのにぃ」
「いや、そんなことしなくても普通に声をかけてくれたら起きるからさ……」
「リリカ、普通に生きる事なんて誰だって出来るわ。でも、アーティストってのは常に新しい道を模索し続けるものじゃない? 違う?」
「妹を起こす時ぐらい先人に従おうよ……」
「……二人とも、そろそろいいか?」
ふいに聞こえてきた、メル姉とは違うダウナーな声。
声のした方を振り返ると、私のもう一人の姉、ルナサ姉さんが椅子に座りこちらを見つめていた。
メル姉の奇行を黙って見ていたのだろうか。……止めてくれりゃいいのに。
「おはよう。気分はどうだ?」
「……おはようルナ姉、おかげ様でね。お腹押されて朝っぱらから気分が悪いよ」
「全く、メルランは普通に起こすことは出来ないのか」
「え~、だってぇ~」
「リリカが怪我したらどうするんだ。これならメルランに頼まず私が起こしたほうが良かったよ」
ため息をつき、不満そうなメル姉を叱り付けるルナ姉。
そうそう、今度から朝はルナ姉に起こしてもらおうかな。
「でも、ルナ姉の起こし方って私、正直あんまり好きじゃないんだけど」
「なんだと? 私の起こし方の一体どこが気に入らないんだ」
「……勝手に布団の中に入ってきて、耳元で囁かれるように起こされる所」
「あれは優しい姉の温もりで肌寒い朝の空気から守ってあげようという、私の愛だ」
「気持ち悪いんだけど……」
「私は気持ちいい」
前言撤回。このアホ二人には二度とモーニングコールは頼まねえ。
「こんな事をしている場合じゃなかったわ! リリカ、大変なのよ!」
ベッドから起き上がり、タンスからいつもの赤い衣装を取り出していると、
メル姉が思い出したかのように手足をバタバタさせて騒ぎ出した。
「大変……? って、何かあったの?」
「あったのよぉ! もう大変で大変で、むしろ変態といっても言いくらい大変なのよ! どのくらい変態かっていうとルナ姉くらい変態なのよ!」
「誰が変態だ。リリカ、メルランの言う通り、今大変な事態が起きている。私達がわざわざお前を起こしに来たのもそれを伝える為だ、落ち着いて聞いて欲しい」
ルナ姉もそれに続けて淡々と語りだす。
大変な事態? 何だろ、二人の慌てっぷりを見ると、本当にただ事じゃなさそう。
過去にあった大変な事態といえば、稗田家から貰った求聞史紀とかいう本の私達の項目に、
『リーダーの姉さんは暗いからちょっと好きじゃない』と書かれているのを発見してしまい、
ルナ姉が翌日、ライブに集まったファンに向かって「お前ら全員死ね」と言い放った事件だが、それよりも大変なのだろうか。
「着替えながらでいいから、よく聞いてくれ。本当に大変なんだ」
「うん……わかった」
言われたとおり、姉さん達の話に耳を傾けながら、パジャマのボタンを外していく。
私を見つめるルナ姉の顔は真剣そのもの。一体、これから何が語られるのだろう。
パジャマの上を脱ぎ、普段着を手に取ろうとした所で、ようやくルナ姉が口を開く。
「……リリカ、私より少しおっぱい大きくないか?」
「お前それ今私を見た感想だろっ!」
「あー、妹がいつのまにか色々と成長してて姉さんマジショックなんだけど」
「大変な話はっ!? わざわざ起こしに来るほどの事態はどうしたんだよっ!!」
「いや、それも重要なんだが、リリカの体を見て、つい思ったことが口に出てしまって……」
「あはははっ、姉さんったら長女なのに一人だけ洗濯板! あははははっ!」
「わ、笑うな! そっちこそ阿呆なグラビアアイドルの様な品の無いデカ乳のくせに!」
「品がなくったっていいも~ん。ぼい~ん、ぼい~ん、あはははは」
「むきーっ!」
「いいから早く話を進めろっ!」
姉と会話するのにここまで神経をすり減らす妹が他にいるだろうか。
鬱病の陰湿系変態の長女と、躁病の脳内春満開の次女。この二人にまともな会話を望む方が贅沢なのか。
レイラ、これが貴女の望んだ姉さんの姿なの? それとも、本当の私達もこんな感じだったの?
いや、嫌いじゃないけどね……少し、疲れるだけ、フフ。
「まあ、リリカのおっぱいの件については後で家族会議を開くとして」
「開かんでいい!」
「今は、私達の身に降りかかってる事態をなんとかしなければいけないな」
ルナ姉が一回、オホンと咳払いをする。
「ねえ、その事態って一体何が起きてるの? 私、全然状況が掴めないんだけど」
「ヤダ! リリカってばまだ知らないの? 音速が遅いわぁ、あははは」
「いや、姉さん達が無駄な話ばっかしてたから……」
「とにかく、大変な事が起きたんだ。ちょっと来てくれないか」
そう言うと、椅子から立ち上がり私に部屋から出て行くルナ姉。メル姉もそれに続き、廊下から私に向かって手を招く。
「あ、ちょっと……」
私は姉さん達を呼び止めようとしたが、それより先に二人は私に背を向け歩き出してしまった。
もう、自分勝手だなぁ。一体何だってのよ。
「ねえ、大変な事って何が起きたの?」
どんどん先に歩いていく姉さん達に、私は早足でついていきながら尋ねた。
何よ、少しぐらい説明してくれてもいいのに。
「ねえ、姉さんってばぁ」
「……」
「もー、黙ってないで……」
「……侵入者だ」
「え?」
「この家に侵入者が入った。いや、正確に言えば『入っている』だ」
姉さんはそれ以上何も答えず、階段を降りていった。
……侵入者。ルナ姉は確かにそう言った。
なんだろう、泥棒にでも入られたのかな? でも、姉さんの言い方だと、まるでまだ侵入者が家の中にいる様に聞こえた。
もしそうだとしたら確かに大変な事態だ。見知らぬ誰かが勝手に家の中に入って、更にそのまま中で寛いでるだなんて、想像するだけで寒気がする。
「……ここだ」
姉さん達が、リビングの前で足を止める。
「な、なに? 一体何なの?」
「……侵入者はこの中にいる。扉は開けるな、中の奴に気づかれるかもしれん。扉の隙間から覗き込むんだ」
「侵入者って、一体誰がいるっていうのよ……?」
「それがね~私達にもよく分からないのよ~。私達も扉の隙間から一瞬見ただけで、すぐにリリカを起こしに行っちゃったから~」
うへえ、やっぱり家の中に私達以外がいるんだ。
なんだろう、はぐれ妖怪が迷い込んだのかな。それとも、私達に悪意を持った誰かが侵入したのかな。
うう、怖いなぁ。殺し損ねて逃げたゴキブリがいる部屋の気分だよ~。
私はなるべく音を立てないように、慎重にリビングの扉に顔を近づける。
扉の隙間から見える馴染みのある光景。視界が狭くて、まるで普段とは別の世界のように思える。
板一枚で遮られたこの空間に、何者かは分からないが侵入者が潜んでいるんだ。
いつ視界に入ってくるか分からないからドキドキするなぁ。急に向こうから見つめ返してきたらどうしよう。
「ねえ、どの辺にいるの?」
「私達が見たときはテーブルに座っていた。さっきから物音一つしないからな、恐らくまだそのままだろう」
テーブルに座ってた? むむむ、侵入者の分際でリラックスとは生意気な。
私は頭を動かし、テーブルがある方向に目線をずらしていく。
ソファー、暖炉、食器棚が隙間の中を流れていき、ついにテーブルが私の目に映る。
「あっ!!」
私は思わず声を上げてしまう。
「……見えたか?」
「……うん」
私達が普段、食事やライブの打ち合わせに使うリビングのテーブル。
今見たら、そこに見知らぬ人物が腰掛けていたのだ。それも三人も。
顔は俯いていたので分からない、全く微動だにしないその姿は、まるで死体を椅子に座らせているみたいだった。
性別は……多分、全員女性だと思う。外見だけで判断すると、年は私達と同じぐらい。
肌は全員透き通るように白く、それぞれの髪は窓から差し込む光でキラキラと輝いていた。
そして、良家のお嬢様を思わせる上品なドレスを身に着けていた。
「な、何、あの人たち……?」
「わからない。私達が起きたときからずっとあそこに座りっぱなしだ」
「ねえ、もしかしてあれって噂のストーカーって奴じゃな~い?」
「ストーカー?」
ストーカーって、相手をずっとつけまわしてくる変態の事でしょ?
聞いたことあるよ、外の世界じゃそいつに殺されたりする人もいるそうじゃない。
うわぁ、嫌だなぁ。私達は霊体だから、そう簡単には殺されやしないけど、
変態に付きまとわれてるってのは、やっぱりいい気分じゃないよ。
それにしても、ついに騒霊演奏隊にもストーカーが付くようになっちゃったか。
もしかして、私のキュートな笑顔に心をかき乱されちゃったのかな? うふふ、私ってば罪作りなポルターガイスト!
「それは無いな」
「それは無いわ」
待機時間ゼロの全否定。私には妄想する権利すら無いのか。
「でも、あの人達ストーカーって風には見えないんだけど。ストーカーって普通、男の人がなるもんじゃないの?」
「それは偏見だ。見ろ、あいつらの服装を。あんなお姫様ルックで平気で外を歩ける客観性の無さからみて、恐らくはオカルト雑誌の読者ページで前世の仲間を募集するような痛い電波女だろう。最近観たマンガやアニメにすぐに影響されて珍妙な語尾を付けて喋り、休日は小汚い部屋の中で801カップリングを妄想してる様な人種に違いない。女であろうとストーカーになる才能は充分にある」
「あの手の人達って他人への迷惑をまるで考えないからねー、相手にするのが一番厄介な人種なのよねーあははは」
「そ、それも偏見なのでは……」
全国の痛い電波女の皆さん、ごめんなさい。
「で、どうするのあの人達? このまま居座らせるつもり?」
「そのつもりは毛頭ない。即刻、この家から出て行ってもらう。力づくでもな」
「そうよ、リリカを起こしたのも、私達が三人揃って始めて真の力を発揮できるからなんだから~」
「我々三人の力が集まれば、倒せない敵など何も無い。 三つの心が一つになれば、一つの性戯は百万パワーと昔から言うしな」
「……漢字違わない?」
「JASRAC対策だ」
因縁つけられなきゃいいけど。
だが、確かに相手の正体がわからない以上、中途半端な準備で接触するのは危険だ。
三人揃ってから行動に出るというのは実に正しい判断だと思う。
よーし、誰だか知らないけど、勝手に人の家でくつろぐような失礼な連中は、
私達の合体スペルで博麗大結界の外まで吹き飛ばして、お空の星にしてやるんだから!
「三秒数えてからリビングに乗り込む。それと同時に、問答無用でコンチェルトグロッソを叩き込むんだ」
「おっけー、任せといて」
「分かったわ、姉さん」
扉の前で円陣を組み、互いに頷きあう。
そして、ルナ姉がゆっくりとカウントダウンを始める。
「3……」
それぞれが得意な楽器を呼び出し、いつでも使えるように付近に浮かべる。
「2……」
精神を集中させ、楽器に魔力を吹き込んでいく。
「1……」
一番リビングに近かった私がドアノブを握り、すぐにでも突撃できるよう身構える。
呼吸を合わせ、姉さん達との間に三角形の魔力の流れを構築する。
これで準備はオッケー、あとはルナ姉の合図と共に一気に雪崩れ込むだけ。
「……ゼロっ!」
その声と同時に、私は勢い良くリビングのドアを開け、スペルカードを手に部屋の中に飛び込んだ。
「そこまでよ! 私達の究極スペルを受けて見るがいいわ、大合葬「霊車コンチェルトグロッソ」!!」
静まりかえったリビングで、私は高らかにスペルカード宣言を行う。
その叫びは、元々貴族の屋敷だっただけある広めの部屋に反響する。
「……」
再び、リビングに静寂が訪れる。
手に持ったスペルカードは、何の反応も示さない。
……私は何か違和感を覚え、入ってきたドアの方を振り返る。
「……あー」
「えっと……」
二人の姉さんは、リビング突入前と全く同じ位置で、気まずそうな顔で私を見つめていた。
「……リリカ、よく聞いてくれ」
「な、何?」
「……私達は、ゼロまでちゃんと数える派だから」
何その派閥。
「リリカったらゼロって言った途端に飛び出すんだもの、私ビックリしちゃったわ~、あははは」
「え、何? 私が悪いワケ!?」
「ちゃんと最後まで数えないとタイミングが合わないだろ、ダメじゃないかリリカ」
「ゼロまでカウントしたら合計四秒になるじゃん! 最初に三秒だって言ったじゃん!」
「サンダーバードもゼロまで数えてから発進するだろ」
「知らないよそんなの! 一人だけ大声出して、私馬鹿みたいじゃない!」
「そこまでよ(笑)」
「私達の究極スペルを受けて見るがいいわ(爆笑)」
「うがぁぁぁ! このクソ姉どもがぁ!!!」
「い、痛っ、や、やめろリリカ! キーボードを鈍器に使うんじゃない!」
「あはははは~、めるぽっ、ガッ!」
もうグダグダだ。合体スペルの為の魔力はすっかり霧散してしまった。
最初から無理があったのだ、この二人と呼吸を合わせようなんて。
姉妹が息ぴったりだなんて、所詮は幻想の産物に過ぎないのだ。メーガスさん家は凄いなあ。
『誰? そこで騒いでいるのは?』
ふいに、背後から声が聞こえる。とても澄んだ、だけどどこか悲しげな声。
声のした方に振り返ると、テーブルに座っていた三人、
つまり、ストーカーさん達が、顔を俯かせたままこちらに体を向けていた。
その声を聞いたとき、私達は揃って思わず身を竦ませた。身の毛もよだつような寒気が全身を駆け巡る。
音に敏感な騒霊だからこそ、直感的に違和感に気づけたのかもしれない。
こんな不気味な声、普通の人間や妖怪では出せない。こいつらはただの泥棒やストーカーの類じゃない。
……この三人は幽霊だ。それも、かなり強力な。
「だ、だ、誰だとは何だ! 人の家に勝手にあがりこんでおいて、お前達こそ誰だ!」
ルナ姉が先陣をきって相手に問う。
姉さんも彼女らから発せられる霊力に押されているのだろう、少し声が上ずっている。
『貴方達の家……?』
『違うわ、ここは私達の家』
『ずっとずっと前から探し続けていた、思い出の家』
相手は遠くにいるのに、まるで耳のすぐ傍で聞こえてくるような不気味な声。
普通の人間なら聞いているだけで気が狂ってもおかしくないだろう。
「何言ってんのよ、ここは私達の家よ!」
「そうだ、この家は百年以上も前から私達プリズムリバー家のものだ!」
姉さん達の抗議を受け、テーブルに座っていた三人がゆっくりと立ち上がる。
『そう……ここは貴族、プリズムリバー伯爵の屋敷』
「分かってるなら、さっさと出て行け! 今なら警察を呼んで即効で有罪判決下して雄臭ぇガチムチ野郎と一緒の牢屋に投獄される程度で勘弁してやる!」
「この世の地獄ね~」
『何故? ここは、私達の家なのに……』
「ここは私達の家って言ってるでしょ! さっきからワケわかんないこと言って、一体あんた達何者なのよ!」
私がそう言うと、三人は伏せていた顔を静かに上げる。
前髪で隠れていた顔が、部屋の照明と窓からの日の光で明らかになっていく。
「……!!!」
「きゃあ!!」
「えっ!?」
三人の顔を見たとき、私達はほぼ同時に小さな悲鳴を上げた。
別に鬼のような形相をしていたわけではない、ゾンビみたいに崩れていたわけでもない。
彼女らの顔は、歳相応のごく普通の少女のそれであった。
……ただ一点を除いては。
「わ、私達と……同じ顔?」
まるで巨大な鏡を前にしたかのような錯覚に襲われる。
そう、謎の三人の侵入者は、私達三姉妹と瓜二つの顔だったのだ。
先頭にいる金髪の少女はルナ姉、その左にいる青髪はメル姉。
そして、その反対側にいる茶髪の少女は、私と全く同じ顔をしていた。
言葉を失う私達に向けて、ルナ姉そっくりの少女が静かに口を開く。
『私達は、かつて海の向こうの大陸で栄えた貴族、プリズムリバー家の一族。名はルナサ・プリズムリバー。こっちの二人は妹のメルラン、そしてリリカよ』
◆◇◆
私達は、しばらくその言葉の意味を理解できなかった。
彼女は自分をルナサ・プリズムリバーだと名乗った。だとしたら、こっち側にいるルナ姉は一体?
それに、メル姉や私までいるの? え、どういうこと?
私は脳みそをフル回転させて、目の前の異常事態を理解しようとする。
そして、彼女らの話から私の中で一つの仮説が導き出された。
「つまりそれって……貴女達は本物の私達ってこと?」
「えー、ウソー! そんなことってあるのー?」
本物の私達。つまり、私達のモデルになったレイラの本当の姉達。
今では古い文献にその名が残るだけという悲劇の家系、プリズムリバー家。
ある事件を境に没落し一族は各地に散っていき、その殆どの消息は不明。
そのプリズムリバー家の中で、貴族として生まれた最後の娘達。それが目の前にいる三人だというのか。
まさか、今更幽霊となってやってくるとは。
確かに、顔つきは私達とそっくりだが、どこか上品な印象を受ける。
ドレスを身に着けているのも、元々貴族だという事を考えれば納得がいく。
悲しいが、私達ちんどん屋と比べると、まず第一印象で大きな差がついてしまっているだろう。
「……本物の私達か、いつかはこんな日が来るんじゃないかと思ってたよ」
「ルナ姉!?」
その場に立ち竦む私達の中で、ルナ姉が一人、本物の私達に向けて歩き出す。
「あ、危ないよ姉さん! 分かってるでしょ、そいつらかなりヤバいよ!」
「承知の上だ。だがな、私は奴らに言わなきゃいけない事があるんだ」
「で、でも……!」
「リリカ、黙って行かせてあげて」
「メル姉……」
「きっと、ルナ姉はこの日を見越していたのよ……」
メル姉が悲しそうな瞳で私を見つめる。
そんな、姉さん達はこの日が来るのが分かっていたの?
もしそうなら、姉さんは本物の私達を前にして、一体何をするつもりなの?
……悪い予感が頭の中を過ぎる。
お願いだから、馬鹿な真似は止めてよね。
たとえ若干メンヘラ気味とはいえ、私にとっては大切な姉さんなんだから。
ルナ姉は三人の前に立つと、一回大きく深呼吸をする。
そして、一気に相手側に駆け出し叫んだ。
「お前達を倒して、私はオリジナルを越えるっ!!!」
「ああっ、それはバトル漫画のクローン系敵キャラによくある台詞っ!」
単にそれが言いたかっただけなのね! 違う意味で馬鹿だったよコイツ!
『……邪魔』
「あじゃぱー!」
そして、アッパー一発で見事に返り討ちにされる姉さん。
顎にクリーンヒットを受け、綺麗な曲線を描いてルナ姉は私達の元に戻ってきた。
「いたたた……」
「だ、大丈夫? 姉さん」
「……顎、割られたっぽい」
「それだけなら十分もすれば完治するわね、あははは」
本当に、体の頑丈な騒霊に生まれて良かったと思う。
軽症とはいえ、あっさりカウンターを喰らったのが悔しいらしく、ルナ姉はキッ、と三人を睨みつける。
「おのれぇ、半分オリキャラみたいな存在の癖して本家東方キャラを容赦なくぶん殴るとは、二次創作最大の禁忌、メアリ・スーを知らないのか! それともあれか? 本物のプリズムリバー家は親戚に赤髪コクシムソウの超勇者サマでもいるのか!? 何のことだかわからないけど」
「あははは、あれだけ張っていた大量の伏線を殆どほったらかしての打ち切りエンドには驚いたわねぇ。本スレが叩きを通り越して葬式ムード一色だったのが印象深いわぁ。何のことだかわからないけど」
「ちょっとやめときなって、あそこのファンは怒らすと怖いんだよ。……何のことだかわからないけど」
何のことだかさっぱりわかりません。
『……何故、私達と戦おうとするの? 別に、貴女達に危害を加えに来たわけじゃないのに』
ルナ姉にアッパーをかました、本物のルナ姉が呟く様に語りかける。
ああ、いちいち「本物の」とか付けるの面倒だな。
これからは、本物の三人は勝手に私の中で月子、陽子、星子と呼ばせてもらおう。
もちろん、私達の帽子に付いてるシンボルが由来だ。
ちなみに星子は「せいこ」って読むから。変な読み方したら承知しないよ。
「何故もくそもあるか! たとえ、本物のプリズムリバー家の人間だろうと、今はこの家は私達のものだ!」
「そうよ、私達、ここから追い出されたら困るのよ~。私と姉さんは白玉楼でお世話になるからいいけど、リリカだけ極貧の博麗神社で可哀想じゃない~」
「な、何故私一人だけ神社に……?」
「なんか、赤いから気が合うかと思って」
「赤いから!? 理不尽なっ!」
『私達は、貴女から家を奪うつもりは無いわ。ただ、探し物をしたいだけ……』
本物のルナ姉、つまり月子さんは私達を見回し呟く。
「……探し物?」
『ええ、それさえ見つかれば、すぐにでもここを出て行くわ』
陽子さんがそう言ってにっこりと微笑む。
探し物? なんだろう、この家に残してきたものだろうか。
あの人達がこの家を離れてもう百年以上経ってるし、今更探したところでみつかるものなんだろうか。
「探し物? なんだろうね~」
「……もしかしたら」
「ルナ姉、何か思い当たるものがあるの?」
「昨日、冷蔵庫に入っていたペプシか……? 参ったな、誰のか分からないから風呂あがりに飲んでしまったぞ」
「んなわけあるかっ! ていうかルナ姉それ私の! 無くなってると思ったらやっぱりお前か!」
「ああ、リリカのだったのか、すまない。お詫びに私のチェリオとサスケとドクターペッパーの中から好きなのを飲んでいいから」
「いらんわっ! なんだその嫌がらせのようなラインナップは!」
コイツ、マジでどうにかならんか。
後頭部とか殴って黙らせた方がいいだろうか。いや、それとも手刀で喉元を。
「なんだかよくわからないけど、その探し物が見つかれば貴女達は出て行くのね~?」
『……私達がこの世にいるのは、その探しものの未練に縛られているから』
『私達は百年以上もそれを探し世界各地を彷徨ってきた』
『それさえ見つかれば、私達はこの苦しみから解放されるの』
ルナ姉へのうまい制裁を考えているうちに、メル姉が三人と話を進めていたみたいだ。
つまり、この三人はその探し物を求めて私達の家にやってきた。彼女らが成仏できないのはその探し物の未練に捕らわれているから。
ははあ、大体の流れがつかめて来た。
「その、探し物とやらがこの家にあるのは間違いないのか?」
『……間違いない。この家、私達の屋敷から感じる』
「感じる? マジックアイテムの類かしら?」
「ねえ、その探し物、私達も探すの手伝ってあげるよ!」
メル姉が身を乗り出して三人に提案する。
私達も異論は無い。このまま居座られても困るし、屋敷に住んでる期間なら私達の方が長い。
屋敷の構造に詳しい私達の方が効率よく探せるだろう。
そして何より、この人達は本物の私達なのだ。彼女らを苦しみから解放させてあげたいと思うのは当然のことであろう。
「それで、探し物って一体なんなの? 元からこの家にあったものは、大抵倉庫に入れてあるから探せば出てくると思うよ」
私が訪ねると、三人は少し顔を見合わせる。
そして、星子さんが一歩前に出て、ゆっくりと私達の顔を見て口を開いた。
『……レイラ。レイラ・プリズムリバー。私達の大切な妹よ』
空気が凍りつく、というのは今の状態のことを指すのだろう。
星子さんが口にした名前を聞いたとたん、私達の体は麻痺でもしたかのように固まった。
レイラ。彼女は確かにそう言った。私達の創造主であり、彼女らの実の妹であるその名を。
『私達は、肉体が滅んで霊体になった後、すぐに離れ離れになった他の姉妹を探し始めた』
『三人はすぐに出会うこと出来たわ。だけど、レイラだけがいくら探しても見つからないの』
『故郷の国にも行ってみたけど、既にお屋敷もレイラもそこには無かった』
『山を越え海を渡り、私達は百年以上も様々な国を渡りレイラを探し続けた』
『そしてついに、この幻想郷という地でかつて私達が住んでいたお屋敷を見つけたの。感じるわ、この家からレイラを感じる……。間違いないわ、レイラはここにいるのよ……』
『ああ、レイラ。やっと見つけたわ。早く会いたい、レイラ……』
私の顔からどっ、と脂汗が吹き出る。
……ど、どうすればいいんだ。
確かに、この屋敷にはレイラがいた。そう、「いた」なのだ。
今はもういないのだ。ただの人間であるレイラはもうとっくの昔に死んでしまっている。
事故でも病気でもない、誰が見ても納得するであろう見事な大往生だった。
その後もレイラは、亡霊になって屋敷に留まるような事もなく、そのまま三途の川を渡り閻魔様の裁きを受け、輪廻転生の流れに消えていった。
つまり、レイラ・プリズムリバーはもうこの世のどこにも存在しない。無い者をどうやって探せばいいんだ。
あの三人は、この家から探し物、つまりレイラを感じると言っていた。
多分、レイラの残留思念か何かを感じてるのだとは思うが、そのせいであいつらはここにレイラがいると確信してしまったようだ。
メル姉に視線を送ると、困ったような顔をして首を振る。
そうだよなあ、こんなの一体どうすりゃいいってのよ。無茶言わないでよ。
試しにルナ姉にも視線を送ってみると、姉さんは棚の上のサボテンと楽しそうに会話していた。
おい、現実逃避かよ。本格的に使えない奴だなお前は。
そんな私達に気づいてないのか、三人は懐かしそうに過去の思い出を語りだす。
『レイラは本当に可愛い妹だったわ。どこへ行くのも私達の後をちょこちょこ付いて来て……』
『何着ても似合うから、色んな服を着せてあげたわね。ピンクのフリフリドレスや、動物のキグルミとか。その姿のままパーティに出席させたこともあったわ……』
『勝手にレイラのオヤツを食べちゃっても、レイラは優しいから許してくれたわ』
『御父様からのお小遣いを毎月代わりに預かってあげたら、嬉しさのあまりしばらく泣き止まなかったわねぇ』
……なんて最低な姉達なんだ。ウチのドレッドノート級バカの二人がマシに見えてくる。
弟や妹をパシリに使ったりドラクエのレベル上げさせてた奴は、自分が思ってる以上に嫌われてるから、
将来、毒を盛られないよう精々気をつけた方がいいよ。
しかし、本当にどうしよう。正直に話せば諦めて帰ってくれるだろうか。
未練としている者が既に無いと分かれば、大人しく成仏してくれるかもしれない。
「あ、あの……」
『……何かしら?』
私の問いかけに月子さんが応える。
うわ、怖えー。普通に会話するだけで、霊力っていうか黒いオーラがビンビンに伝わってくる。
こりゃ奇襲に失敗して良かったよ。こんなのと戦って無事に済むわけないもん。
「その、レイラの事なんだけど……」
『レイラがどうかしたの?』
「そ、その……」
震える体を押さえ込み、ごくりと唾を飲み込んで、意を決して言葉を続ける。
「もう、ここにはいないんだ、レイラ……」
『いない? いないとはどういう意味かしら?』
「そ、その、もう死んじゃって……」
『あら、そんなの当然じゃない。私達が離れ離れになったのは百年以上前、普通の人間じゃまず生きてないわ』
「い、いや、そうじゃなくて……」
思わず口ごもってしまう。
幽霊になってまでレイラに会いに来た程だ。レイラが死んでるのなんて予想の範囲内なのだろう。
だが、本当の問題はその後だ。
「……転生しちゃたの、レイラ」
今度は向こうの三人の空気が凍りつく番。
私の言葉を聞いたとたん、三人の動きがピタリと止まる。
嗚呼、やっぱ言わない方が良かったかなぁ。でも、嘘ついた所でどうなるワケでもないし。
『……そを……な』
「え? な、何?」
月子さんの口から何か声が漏れる。
あまりに声が小さく内容が聞こえなかったので、少しだけ耳を近づける。
だが次の瞬間、そんな必要はなかった事を思い知らされることになる。
『……ウソを、つくなあぁぁぁぁぁーーー!!!!!』
それは大声と呼ぶにはあまりに規格外のものだった。
衝撃、と喩えた方がしっくりくるだろうか。その音の圧力で窓ガラスはビリビリと震え、更に本棚から何冊かが落っこちた。
勢いに押されて私達はその場に尻餅を付いてしまった。
「ひ、ひぃ……」
『レイラが転生しただと! 下らない嘘をほざくなっ! あの甘えん坊のレイラが私達を置いて転生なぞするものかっ!』
穏やかだった月子さん達の顔が一気に変貌する。
目は吊り上がり口は耳まで裂け、その顔はまさに怨霊と呼ぶに相応しかった。
その顔のまま、腰の抜けた私達の元へ三人がゆっくりと近づく。
「リリカの言ってる通りなのよぉ~、本当にレイラは転生しちゃったんだから~」
『まだ言うかっ! その口、引き裂いてやろうかっ!』
「う、嘘じゃないぞ! 私が嘘を言うときは白玉楼でのライブの後、妖夢を部屋に誘うときだけだ!」
「あはは。それ、何回いけた~?」
「五回は斬られたっ!」
「お前それ嫌われてんだよ!」
そうこうしている内に、三人は徐々に私達に近づいてくる。
一歩近づくごとに、彼女らの放つ邪気によって心臓が圧迫されそうになる。
『そうか……お前達がレイラを隠したんだな』
「んなっ!?」
『きっとそうね、こんなにも近くにレイラを感じるのに、一向に姿が見えないもの。きっとこいつらに閉じ込められてるのよ! ああ、レイラってば可哀想。すぐにお姉ちゃんが助けてあげるからね!』
「な、なんだその論理の飛躍は!」
『出せっ! 今すぐレイラを出せえぇっ!』
まずいまずい、このままだと私達はただじゃ済まない。
弾幕ごっこなら服が破けていや~んで終わるけど、相手はついさっき幻想郷に来たばかり。
スペルカードルールを知ってるとは思えない。良くてフルボッコ、悪くて消滅か。
ああ、嫌だよこんな所で消滅だなんて! まだ私にはやらなきゃいけない事が沢山あるんだから!
「わ、わかったわ! レイラを連れてくるからちょっと待って頂戴!」
「リリカ!?」
月子さんが私達に攻撃を加えようとしたその直前、私の口からとっさに言葉が出た。
『……本当?』
その言葉を聞いた三人が、攻撃体勢を解く
「え、ええ、本当よ。でも、今レイラは外出にしてるの」
『……信じていいのね?』
「も、勿論よ、呼べばすぐにでも戻ってくるわ!」
「(おい、リリカ! 一体何を言ってるんだ!)」
三人に聞こえないような声でルナ姉が耳打ちしてくる。
「(どうせこのままじゃやられるだけよ。だったら、少しでも時間を稼いだ方がいいじゃない!)」
「(そうは言うがなリリカ)」
「(肝心のレイラがいないのにどうするのよ~)」
「(そこん所はこれから考えるのよ!)」
あいにくこの私に潔く死ぬという考えは無い。日本に住んでるが心は欧米、ブシドーハラキリなんてまっぴら御免だ。
一分一秒最後の最後まで悪あがきをしてみせる。諦めたらそこで終わり、何事も生きてこそ、だ。騒霊が生きてるのかどうかは疑問だが。
とにかく、時間いっぱい限界まで粘れば活路を見出せるかもしれない。
問題は、その時間稼ぎを三人が認めてくれるかどうかだが……。
見ると彼女らは、私達と同じ様に小声で話し合っている。
そして結論が出たのか、月子さんが私達を見下ろしながら口を開いた。
『……わかったわ、すぐにレイラを連れてきて頂戴』
……活路が開いた!
『レイラを連れてくるまで、私達はずっとここで待ち続けるわ』
『ええ、幽霊に時間の概念は無いもの』
『でも、そのまま逃げたら承知しないわよ』
「分かったわ、必ず連れてくるから安心して待っててね」
「久しぶりの姉妹の再会を楽しみに待っててね~あははは」
「うーむ……」
制限時間などが設けられなかったのがありがたい。
この三人の元から離れられれば、後はどうとでもなる。時間は無限に使えるからね。
私達は、気の済むまでこいつらを家から追い出す方法を考えることができる。
でも、本当にどうしたらいいんだろう。姉さん達の言う通り、レイラはもういないし。
屋敷を捨てて新しい場所で暮らそうか。……うーん、それは嫌だなぁ。
やっぱり住み慣れた家で暮らしたいし、レイラとの思い出もあるあの家を簡単に捨てる訳にもいかない。
あー、今の時点じゃ完全にお手上げだ、解決策が何も思いつかない。
まあいいや、一度心を落ち着けてから、それからゆっくり考えるとしよう。
三人をリビングに残し、私達は急ぎ着替え屋敷を飛び出した。
文字通り、あてのない旅ってヤツだなあ。と、春の空の中でそんな事を考えた。
◆◇◆
突如現れた、本物のプリズムリバー達に家を乗っ取られた私達は、
彼女らを追っ払う為、三人の望む妹レイラ・プリズムリバーを探しに出発した。
……といっても、真面目に探すつもりなど毛頭無い。
レイラはもういないのだ。いないものを探すなんて馬鹿な真似、出来るわけ無い。
やれやれ、やってない宿題を家に忘れたと嘘を付いたら、「じゃあ家まで取って来い」と言われた気分だよ。
「あー、ホント酷い目にあった。あと少しで殺される所だったわ。本物の私達って、あんなに凶暴なの? やんなるわよ全く」
「容赦の無い殺意だったわね~。う~ん、多分あまりに長い間もレイラを探し続けて、その執念でいつの間にか怨霊になっちゃったって所かしらね? 恐ろしい話ね~あははは」
「正直、私達が適う相手ではないな。……メルラン、私の顎は大丈夫か? 元に戻ってるかな?」
「大丈夫よ姉さん。ちゃんと綺麗に傷が癒えてるわ~、あはは」
「それを聞いて安心したよ。あのまま顎が変形したままだったら、コミックバンドからシャクレ芸人への転向を余儀なくされるところだった」
「誰がコミックバンドだっつーの」
行き場を失った私達は、とりあえず魔法の森近くにある小さな広場に集まった。
ここは、普段から私達がよく来る場所で、音がよく響くので主にライブの練習に使っている。
それに、丁度いい切り株もあるので座って休憩もできる、いわば私達の溜まり場と言ってもいい所だ。
「で、どうするの? これからレイラを探しにいく?」
「……いない者を探してもしょうがないだろう」
三人同時にため息をつく。
どうしたもんだろうか。ああは言ったものの、レイラを連れてくることなんて出来ないし、
だからといって私達の実力じゃあいつらを追い返すこともできない。
手詰まりかなぁ、こりゃ白玉楼にでも居候させて貰うしかないかも。
「……そうだ」
ここで、私の頭に一つの考えが浮かぶ。
「私達の代わりにあいつらを払って貰おうよ。ほら、霊夢あたりなら余裕であいつらに勝てそうじゃない?」
そうだ、何もわざわざ私達が戦う必要は無いんだ。
幻想郷には中学生の妄想がそのまま具現化したような最強キャラがごろごろいる。
全員、一筋縄では説得に応じないだろうが、霊夢なら夕飯にでも招待すれば喜んで動くだろう。
「ねっ、どうかな? 霊夢なら絶対に負けないよ!」
「霊夢? ……うーん、霊夢か」
「なに、なんか問題あるの?」
「ああ、大アリだ。霊夢の力を借りることはできない」
私のアイデアは即、ルナ姉に否定されてしまった。
「えっ、なんでよ!」
「博麗神社は今、営業停止中だ。誰からのどんな依頼も受け付けてない」
営業停止? 何それ、始めて聞いたんだけど。
空腹のあまり神社の大黒柱でも齧って、倒壊でもしたのだろうか。
「この前の宴会で、料理の鍋に毒キノコを入れていたのが分かってな。霊夢は今、殺人未遂の疑いでワーハクタクに取り調べを受けている所だ」
「あっ、それ新聞に載ってたから知ってる~。確か、料理を手伝っていた人形遣いが味見をしたら、その場で泡を吹いて倒れたから発覚したんだよね。味見をしてなきゃ、危うく大惨事になるところだったんだって。人形遣いはそのまま永遠亭に緊急入院したそうだけど、大丈夫なのかなぁ?」
「な、何故霊夢がそんな真似を……、無差別テロ?」
「いや、調べによれば、霊夢はそれが毒キノコだって知らなかったらしい。普段から食べてたが、特に問題は無かったと供述している」
普段なにを食べて生活すれば、そんな奇天烈な免疫力が付くのだろう。想像するだに恐ろしい。
もう、宴会に行っても霊夢の料理は食べないことにしよう、タガメとか入ってても困るし。
「霊夢はダメかぁ、じゃあ妖夢はどうかな? ほら、妖夢の刀って幽霊を成仏させる力を持ってるんでしょ?」
「うーむ、確かに実力だけで考えれば、あの三人にも互角に戦えるだろうが……」
「また何か問題があるの?」
「妖夢はホラー物が苦手と聞いている。あの恐ろしい形相を目にしたら、きっと腰を抜かしてしまうぞ」
「あー、そっか。対峙した瞬間、チビッちゃったら戦うどころの話じゃないもんね」
「ふむ、それはそれで見てみたいな」
お前はプリズムリバー家の恥だ。
「二人とも、ちょっといいかしら?」
姉の残念な性癖カミングアウトに肩を落としていると、
メル姉が私達の間に入って、少し悲しそうな顔をして口を開く。
「聞いて二人とも。私ね、やっぱり無理矢理成仏させるのは良くないと思うの」
「へ? どういうこと?」
「……あの人たちは確かに既に怨霊と化してるわ。だけど、それも妹の事を想い続けた結果じゃない。それに、あの人たちは本物の私達なのよ。レイラもきっと彼女たちをイメージして私達を創ったんだと思うわ。レイラが愛した姉さん達を、そんな簡単に成仏させるなんて私にはできないわ」
「メルラン……」
……確かに、メル姉の言うことにも一理ある。
ただの迷惑な妖怪ならまだしも、相手は本物の私達だ。
私だって出来ることなら、彼女達のレイラに会いたいという望みを叶えてあげたい。
「で、でも、他に方法が無いじゃない、レイラはもういないのよ」
「う~ん、問題はそこなのよねぇ」
三人で大きく溜息をつく。
やっぱ、奇麗事なんて言わずに強い妖怪に倒してもらった方がいいのかなぁ。
「……要は、レイラに会えさえすれば成仏するって事か」
ルナ姉が呟く。
「ルナ姉? 今更何言ってるの?」
「レイラは既に転生している。だが、レイラという存在は消えても、その魂は新たな生を受けどこかで暮らしているはずなんだ。だから、それに会わせれば三人も成仏するんじゃないか?」
レイラは転生してもレイラってことか。そう上手くいくかな。
でも、あいつらは幽霊なんだから五感に頼る人間よりも本質を見抜く能力に長けてるかも。
見ただけで前世がレイラだった事を一発で分かったりして。
「でもさ、その転生したレイラをどうやって探すのさ。どこの誰に転生したか分からないんだよ」
いくら姉妹とはいえ、レイラの来世まで熟知してるほど絆は強くない。
ルナ姉の案は確かにいい考えかもしれないが、手がかりも無しじゃどうしようもない。
まさか虱潰しに一人一人尋問するわけにもいくまい、外界の人間に転生してる可能性もあるのに。
「ねえルナ姉、その辺とかはどうすんのさ」
「……二人とも、人間は普通死んだらどうなる?」
「ご香典ががっぽりで嬉しいわ~」
「メル姉! 不謹慎、不謹慎!」
こいつは絶対葬式に参列させられないな。仏さんの鼻に線香を刺すぐらい平気でやりそうだ。
「強い未練を持たない普通の人間なら、死んだ後は冥界に送られる」
「西行寺さんの所ねー」
「きっとレイラも同じ道を辿ったはず。そして、時が来れば他の霊と一緒に次の場所に移動する」
「次の場所……?」
冥界の次? なんだっけ、幽々子さんの胃袋の中?
私達は普通の霊と違うから、そこらへんの所には疎いなあ。
「転生をする前に、必ず行く場所がある。そこに行けばレイラの転生先も分かるだろう」
「え? どこどこ?」
「行けば分かる。そこの責任者は私達も会った事がある人だ、なんとか上手く説得できればいいが……」
「ああ、あそこね~。じゃあ早速出発しましょう、早くしないと日が暮れちゃうわ~」
「ちょっと待ってよ姉さん! そこって何処なのさ!?」
姉さん達が空に飛び立つ、私も慌てて後を追う。
うーん、どこに行くんだろう。それに、私達に会ったことがある人?
なんだか嫌な予感がするのは気のせいかなぁ……。
日はすでに空の半分以上を過ぎ、西へと傾き始めていた。
「……それで、私の所に来たワケですか」
デスクに向かって何やら書類を眺めていた、砦みたいな帽子を被った少女、
四季映姫・ヤマザナドゥは、私達を見るなり真底迷惑そうな顔でそう言った。
「……ご迷惑でしたか?」
「迷惑です!」
流石は閻魔。言葉に迷いが無い。
返事は常にYesかNo、名前は日本人風なのにメリケンみたいな思考の人だ。
それじゃあご近所付き合いとか大変だろうに。
「いいですか? 今は業務時間なんです、仕事中なんです! あなた達のお願いに付き合ってる暇は無いんですよ!」
閻魔様はわざとらしく口調を強め、私達を威圧する。
彼女の視線は既に机上の書類に戻っている。
これ以上、私達の話を聞くつもりはない、というアピールだろうか。何さ、感じ悪いなぁ。
「……暇は無かったのか。暇そうに見えたが」
ルナ姉の一言に反応し、閻魔様がキッと私達を睨みつける。
ああ、またコイツは言わなくて良い事を。……まあ、私の目にも暇そうに見えたんだけど。
「貴女には私が暇に見えますか!? ええ、暇ですよっ! 小町が全然霊を運んできてくれませんしね! 朝から何もせずにここに座りっぱなし、いい加減お尻が痛くなってきましたよ!!」
「あ、実際に暇なんだ……」
「暇ですとも! 見てくださいよコレ、要らなくなった書類で暇つぶしに折り紙をやってたら、いつの間にか千羽鶴が出来てしまいましたよ! この鶴の力でもっと小町が働くようになればいいんですけどね!」
千羽鶴に商売繁盛の効果はあるのか。
「大体、貴女達はどうやってここまで来たんですか? この裁判所までは三途の川を渡ってこないと辿り着けない筈ですが?」
「え? 普通に死神さんに送ってもらったんだけど?」
「なっ!? 死者の魂でなく、騒霊を船に乗せるなんて、小町は一体何を考えてるのですかっ!」
「私が即興で作った『死神おっぱい団のテーマ』を聞かせたら腹抱えて笑ってくれて、快く船に乗せてくれたが」
「姉さん、あれライブでやらないでね」
「こぉまぁちぃぃぃっ! 本当に貴女って人はぁぁぁぁ!!!」
おお、幻想郷じゃ滅多に聞けないストレスに苦しむ人の叫びだ。
コレはレアな音だ、キーボードに録音して今度のライブで使おっと。
みんな、胃に穴が空くなんて経験したこと無いだろうから、きっと大好評ね!
「ねえ、暇なら私達のお願いを聞いてくれてもいいんじゃない?」
机上の書類をぐしゃぐしゃに握り潰していた閻魔様が、私の声に顔をあげる。
「お願い? ああ、貴女達の妹さんの転生先を教えろってヤツですか?」
「うん、閻魔様なら知ってるでしょ?」
「……確かに、死者の転生先は全て記録に取ってあります」
「やっぱり! ねえ、レイラの転生先を教えてくれないかな!」
「お断りします」
あっさりと断られた。悩む様子も一切無し。あれ? もしかして私達、閻魔様に嫌われてる?
「死者の転生先はウチの機密事項扱いです。ただでさえ最近は個人情報の取り扱いに煩いのですから、教えるわけにはいきません」
「えー、いいじゃない、少しぐらい」
「ダメです。そういう決まりなのです」
「何さ、ケチ!」
「カタブツ!」
「ちんちくりん!」
「どう言われ様とも、ダメなものはダメです」
きっぱりと言い放たれる。
むぅ、まさか、規則で転生先を教えるのが禁じられていたとは。
閻魔様の真面目そうだもんなぁ、まさか規則を破るような真似はしないだろうし。
でも、私達もこのまま大人しく帰るわけにもいかないんだよねぇ。
「分かったら、早く帰ってくれませんかね? 私にはこの後、行く場所があるんですから」
丸めた書類をゴミ箱に投げ、席を立ちその場から立ち去ろうとする閻魔様。
やや、これはマズい。ここで閻魔様がいなくなったら私達は非常に困る。
なんとしてでも、レイラの転生先を聞き出さねば。
「ちょ、ちょっと待ってよ閻魔様。行くってどこに行くのよ? 行くのなら私達も一緒に!」
「……昼食です。社員食堂だから貴女達は入れませんよ」
ふと、壁にかけてある時計を見ると、既に正午をまわっている。
そっか、もう昼時か。そういや、朝から何も食べてないなぁ。
って、このまま閻魔様に行かれるわけにはいかない、私は駆け足で閻魔様の前に立ちふさがる。
「そこを退きなさい。火曜日はデザートにプリンが出る日なのです。あれを食べないと、私は土曜日まで元気に過ごすことが出来ないのです」
「え、閻魔様、もうちょっとだけ話を聞いて!」
「いい加減にしなさい。プリンが他の人に全部取られたら、貴女達が責任を取ってくれるんですか?」
「プ、プリンが責任問題にまで発展するのか!?」
「もし、今日私がプリンを食べ損なったら、貴方達の裁判の際はその辺も考慮しますからね」
私達の人生はプリンと天秤に掛けられる程度のものなんかい。
「もう本当に行きますよ。これ以上時間を食っていたら、プリンどころか昼休憩の時間すら無くなります」
「ちょ、ちょっと! 行くのならせめてレイラの転生先を……!」
「だから、それは教えられないって言ってるじゃないですか」
「そんなぁ、ほら姉さんも何か言ってよ!」
「では、閻魔様には特別に私の持ちネタ、『UFOを目撃したアメリカ人農夫』を披露しよう」
「姉さん、それ前のライブでスベりまくった奴じゃない! やめてよ恥ずかしい!」
「そうさ、あれは俺がジョージと一緒にトウモロコシ畑にいた時の話さ(吹き替え風の口調で)」
「すんなっつっとるだろうが!」
「何をやっても無駄です。私には賄賂も手回しも通用しません」
「むむむ、この頭デッカチ!」
「頑固者!」
「貧乳!」
「……誰ですか? さっきから私の身体的特徴に絞って罵声を飛ばしているのは」
「リリカ」
「てめーだろうが、このクソ姉!」
閻魔様の顔がますます厳しくなる。既に彼女の私達への信頼度は殆どゼロに等しい。
困ったなぁ、このまま「レイラはいませんでした」とノコノコ帰ったら、あの三人に何をされるか。
今度こそ本気で殺されてしまうかもしれない。なんとしてでも閻魔様の協力を得なければ、でもどうすれば?
「……むむむ~」
「ん? メルラン、どうした?」
ここに来てから殆ど言葉を発さず、存在すら忘れかけていたメル姉が何やら唸り声をあげる。
あのメル姉が大人しいなんて珍しいな、なんて思いながら姉さんに目をやると、
姉さんは何やら、一枚の紙を真剣な面持ちで眺めていた。
「メル姉、その紙なに?」
「……むむ~」
「……姉さん?」
「え? なにリリカ? ああ、これ?」
私の声が聞こえてないみたい。
そこまで熱中するような事が書かれているのだろうか?
「これねえ、さっき死神さんに「四季様に渡してくれ」って言われて預かったものなの~あははは」
「!! ちょっと姉さんダメじゃない、そんなの勝手に見ちゃあ!」
「え~そうなの~?」
なんてことを、ただでさえ閻魔様には不信感を持たれているのに、
勝手に他人宛の手紙を読むなんて失礼な行為をするだなんて。
ああもう、メル姉ももう少し考えて行動してよ! マジで直感と思いつきだけで生きてるでしょ、アンタ!
「メルラン! すぐに閻魔様に返すんだ!」
「そうよ姉さん、いくらなんでも失礼よ! 閻魔様に嫌われたら、あの三人の事はどうするのよ!」
「せっかく私のギャグで閻魔様の心が開きかけていたのに、その苦労が無駄になるじゃないか!」
「いや、開いてないよ! むしろ鍵かけられたよ!?」
「……」
閻魔様にヘソを曲げられては堪らない。私達は必死にメル姉に社会の常識を説く。
あーもう、家さえ乗っ取られてなきゃ、こんな場にメル姉みたいなラリパッパ絶対に連れてこないのに!
「……」
ところが、そんな私達の訴えにメル姉は全く反応を示さない。
まるで耳が聞こえてないみたいに、目は虚ろで口は半開き、魂が体から抜けてしまったようにその場で立ち尽くす。
「メルラン?」
「……姉さーん? どしたの?」
異様な光景だった。私は意識を確かめるように、ゆっくりと姉さんに話しかける。
……どうしたんだろう、さっきまでいつもみたくニコニコ笑ってたのに。
「……うぇ、うぇぇぇ~ん……」
「!?」
と突然、無表情だった姉さんが顔を歪めて泣き出してしまった。
え? 何? どうなってんの? 全然流れが読めないんだけど。
「ば、馬鹿な、メルランが泣いているだとっ!? タンスの角に小指をぶつけても、観鈴ちんがゴールしても涙一つ流さずにヘラヘラ笑っていたあのメルランがっ!?」
「ひっく、ひっく、うえぇぇん……」
「ね、姉さん、どうしたの!? 何がそんなに悲しいの!?」
「それ……それが……」
メル姉は鼻をすすりながら、手に持った紙を指差す。
「これ? この紙がどうかしたの!?」
「うえぇぇぇ~ん……」
泣いてばかりでまるで説明にならない。
この紙の内容を読んで泣いてしまったという事だろうか。
他人の手紙を勝手に読んで泣くなんて、一体どんな脳をしてるんだ。
……でも、この紙ホントになんなんだろ。
ちょっとだけ興味を持った私は、姉さんの持つ紙を裏から覗いてみる。
薄いから反対側でも透けて中身は見える。文字が逆になって読みにくいけど。えーと、どれどれ。
『四季 映姫 四月度 給与明細』
「……!! これ、閻魔様のお給料の明細じゃない! やばいよ、こんなの勝手に見ちゃ!」
「こ、コラッ! 何、人の物を勝手に読んでるんです! 返しなさいっ!」
騒ぎに気づいた閻魔様は、デスクを飛び越え鬼のような形相でこちらに走ってくる。
ああ、もう最悪! これじゃ絶対に協力なんてしてもらえないよ!
閻魔様は明細を奪い返さんとして、跳躍しメル姉に飛び掛る。
閻魔様の手がメル姉の持つ明細に届こうとしたその瞬間、
「もらったあぁぁぁぁっ!!!」
明細は、横から割り込んできたルナ姉に奪い取られた。勢い余って豪快に床に転がるルナ姉。
「ちょ、何をするのですかルナサ・プリズムリバー! 大人しくそれを渡しなさい!」
「……それは出来ない相談だ」
明細片手に不敵に笑うルナ姉。ちょっと、本当に何やってんのよ!
「こ、この、返しなさい、返しなさい!」
「断る。これを閻魔様に返すわけにはいかない」
ルナ姉は明細を手に持ち高く掲げる。
閻魔様がそれを取り返そうとジャンプを繰り返すが、低身長の閻魔様は明細まで手が届かない。
その光景は、まるで玩具をいじめっ子に取り上げられた子供のようだった。
「……メルランは、この給与明細を見て涙を流した。つまり、ここに書かれているのは思わず涙してしまう程の悲惨な内容ということだ」
「なっ!? し、失礼ですね貴女は! 人の給料についてあれこれ言うんじゃありません!」
「え……? もしかして、閻魔様って給料低いの……?」
「ひ、低くありません! 何を言ってるんです貴女達は!」
「低いよぉ~、あんなお給金で生活してる人がいるなんて、悲しくて涙が止まらないよぉ~……ぐすっ」
「黙りなさい! なんですか、自分が売れっ子アイドルだからって下流層をバカにして! おーおー、涙が出ますかそうですか、セレブ層には私の手取り額がショックでしたか? え? これが格差社会って奴なんですよ、どうだ思い知ったか!」
「……やっぱ低いんだ」
自身も涙目になりながらメル姉を煽る閻魔様。
よく分からないが、これが小泉内閣の失策のツケである。
「大体、なんで貴女達にお給料で同情されなきゃいけないんですか! 仕方が無いでしょう、小町がサボるせいで、私に仕事が回ってこないんだから! この前のボーナスの査定なんてもう壊滅的だったんですよ! 貴女達に、私の苦労が分かりますか!?」
「分からないし分かりたくもないな」
「ふん、貴女達も一度部下に小町を持って御覧なさい、そうすれば私の心と胃の痛みも分かりますから! 小町は寮住まいだから、私と同程度の給料でもゆとりのある生活が出来ますが、それのとばっちりを受ける私はどうなるんですか! 今朝だって、大家に頭下げて家賃を待ってもらって来てるんですよ!」
「あ、閻魔様アパート住まいなんだ……」
「可哀想、閻魔様……ひっく」
「うるさい! 私はこれでもちゃんと一ヶ月生活できてるんですっ! 夕飯は閉店間際の半額惣菜を狙い、月末は小町の家にお泊りすれば十分足りるんですから!」
「部下にたかってる時点で生活できてないのでは……」
「ぐすっ、ぐすっ……だって、こんなのってないよぉ、一ヶ月のお給料がたったの……」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁーーっ! それ以上言うなあぁぁぁぁぁーーっ!!!」
危うく公開されそうになった一ヶ月の手取りは、直後の閻魔様の咆哮にかき消された。
その狂わんばかりの必死さ加減は、見てるこっちが悲しくなってくる。やばい、少し泣きそうになった。
「このっ、いい加減にしなさい!」
「うわっ、痛っ! え、閻魔様、顔面は、顔面は勘弁! 今後の音楽活動に支障が出る!!」
ルナ姉と閻魔様はまだ、明細の取り合いを続けている。
ジャンプで明細を取るのを諦めた閻魔様は、体当たりでルナ姉を押し倒し、その上に馬乗りになった。
「さあ、大人しくそれを渡しなさい」
「……くっ」
「素直に渡せば、この件は不問にしてあげます。貴女も地獄には行きたくないでしょう?」
「……」
ルナ姉は、観念した表情で手に持った明細を握り潰す。
そして、その拳を閻魔様の方へ持って行き……。
「受け取れ、リリカっ!」
「なんで!?」
私の方へ投げてきた。飛んできた明細を思わずキャッチしてしまう。
「ちょ、ちょっと姉さん、一体何考えて……」
その時、閻魔様に圧し掛かれ首を絞められてるルナ姉と目が合う。
ルナ姉は真っ直ぐ私を見つめていた。その瞳は澄み渡り、輝いてさえいそうだった。
少しだけ青くなっていたが、ルナ姉の表情は真剣そのもの。
閻魔様との明細の取り合いが、決しておふざけの思いつきでは無いことを語っている。
……でも、一体どしろってのよ?
「リリカ・プリズムリバー、貴女なら大人しく返してくれますよね!? 私に逆らうと、今後ろくな目に合いませんよ!?」
ルナ姉の上から退き、私の元に歩いてくる閻魔様。
小学生と見間違えるほどのロリフェイスである閻魔様の顔は、
今やまさに鬼気迫る、といった言葉がよく似合うの恐ろしい形相へ変化していた。
「ルナ姉! これどうするのよ!」
「どうもしなくていい! 早く返しなさい!」
「リリカ! お前ならその明細一枚で私達に勝利に導くことが出来る! 自分の力を信じるんだ!」
「はぁ? 何言ってんのよ!?」
「あとは……たのんだぞ……ぐふっ」
「おい、死んだふりして逃げようとすんな! 何が『ぐふっ』だ!」
そうこうしてるうちにも、閻魔様は一歩一歩私との距離を詰めてくる。
この明細で勝利を導く? 何よ勝利って、閻魔様に勝てるって事?
わざわざこんな所まで閻魔様に会いに来たのは、レイラの転生先が知りたいから。だから、それを聞き出せれば私達の勝ち?
それに、自分の力を信じろ? 私の力ってなんなのよ、閻魔様に勝てるような力なんて持ってないよ?
「さあ、何をしているのです、貴女も地獄に落とされたいのですか!?」
……でも、ここで明細を渡して大人しく帰ったら、ここに来た意味が無くなってしまう。
当然、家に居座るあの三人に出て行ってもらう事もできない。
ああ、もう! 自分を信じるってことは、思ったとおりにしていいって事でしょ?
いいわね、後で文句言われても知らないからね!
「閻魔様ストップ! そこで止まって、これ以上近寄らないで!」
近付いてくる閻魔様に、大声で静止をかける。
突然のことに驚いたのか、閻魔様の足が止まる。
「……この明細は、ただじゃ返せないわ!」
その言葉に、閻魔様の眉間に皺がよる。
「何のつもりです」
「言葉の通りよ、明細を返して欲しければ、私の要求を飲みなさい!」
「全く、貴女達姉妹は本当に……」
「交換条件よ! レイラの転生先を教えなさい! それを教えてくれれば返してあげるわ!」
閻魔様は嫌味ったらしく溜息をつく。
「何度言えば分かるんです! それはできないと言ってるでしょう!」
「無理でもやってもらわなきゃ困るのよ! 明細がどうなってもいいの!?」
「ちっ……貴女、よく性格悪いって言われるでしょう」
「残念ね、永遠亭に私の上位互換がいるからあんまり言われないわ!」
認めたくは無いけど。あと、三人組の妖精の青い奴も危険ね。今のうちに潰しておこうかしら。
明細を人質に取られた閻魔様は、一定の距離を保ち私と目を合わせる。
しばらくその膠着状態が続いていたが、やがて閻魔様は肩をあげ諦め気味な声で言った。
「……ふぅ、貴女がそれをどうするのか知りませんけど、もう別にいいですよ。給料を見られるのは嫌ですが、明細を取られた所で給料が振り込まれなくなるわけでもないし。ほら、それはあげますから早く帰りなさい」
閻魔様の中で、恥をかくより規律を守る方を優先したみたい。
むむむ、本当にカタブツだなこの人は。確かに、通帳や印鑑を奪われてるのならまだしも、明細程度じゃあまり効果は無いだろう。諦めようと思えば諦められるものだしね。
だが、虹川家の頭脳(三人の中で唯一脳を使ってる、という意味)、リリカ・プリズムリバーを舐めてもらっては困る。この程度、予想済みの事態だ。
「そっか、残念。これなら上手くいくと思ったんだけどなぁ」
「閻魔に脅しが通用すると思ったのですか? 甘い、あまりに甘い。嘘吐きの罪人ですら、もう少しマシなことを言いますよ」
「あーはいはい、負けましたよ、降参こーさん。そんじゃ、私達は帰りますんで」
「この一件は、貴女達の裁判を行うときに考慮させて貰いますからね」
閻魔様に背を向け、私は法廷の出口へ歩き、扉に手をかけ部屋から出ようとする。
ノブを回し扉を開くその前に、閻魔様に聞こえるようにわざとらしく声を張る。
「じゃあこの明細はどうしようかな、もう必要なくなったし、小遣い稼ぎに天狗にでも売ろうかなぁっと!」
言い終えた直後、背後でガタンと椅子が倒れる音がした。
振り返ると、拳をワナワナと震わせた閻魔様が、倒してしまった椅子を気にも留めず私を睨みつけていた。
……かかった。私は心の中でほくそえんだ。
「……今、なんて言いました?」
「あ、閻魔様。私達はもう帰りますんで、お仕事頑張ってくださーい」
「今なんて言ったのかと聞いてるんですっ!」
閻魔様の顔に、明らかな焦りの表情が浮かぶ。
この幻想郷において、天狗に弱みを握られるという事は、それすなわちその者の社会的な死を意味する。
天狗の新聞はとにかく誇張が激しい、1の事実を100に伝えるなんて日常茶飯事。
記者によっては0から新たな記事を作りだす奴もいる。質量保存の法則を無視した邪悪な錬金術師どもだ。
そして、数いる天狗の仲で最も危険なのがご存知、文々。新聞の記者、射命丸 文である。
姿こそ可憐な現役女子中学生だが、その腹黒さは笑点の紫色にも匹敵するという曲者。
たとえ、些細な事でネタにされたとしても、彼女の脳内フィルターを通せば全ては大事件へと早変わり。
この世に起こる森羅万象、全ての事象を人類滅亡へと結びつける天樹征丸(本名:樹林 伸)のごとく、
捏造と電波を交えた狂気の新聞を、その日のうちに幻想郷全土へお届けしてしまうのだ。
「天狗に売る……そう言いましたね。よりにもよって天狗なんかに!」
「徹底解剖、気になるあの人のお給料大特集! ってね。うん、なかなか良い記事なんじゃないの?」
新聞と言うより女性週刊誌のほうが似合ってる気もするが。
「でも、閻魔様のお給料があまりに少なかったら、きっと天狗も驚いちゃうわよねぇ。その理由を勝手に想像して記事書いたりして。閻魔様は給料以外に大量の賄賂を受け取ってるとか、生活費まで全部経費で落とせるとか」
「そんなことありません! 賄賂どころか飲み代を死神達に奢る立場なんですよ私は!」
「うーん、そんなの天狗達は知ったこっちゃないしねえ」
「あああ! いつだってマスコミはそうです! 現場の苦労を知らずに、偏見と読者ウケだけで情報を発信する!」
「あはは、暇を持て余す主婦という名のニートがその新聞を読んだりしたら、きっと地獄は一日中苦情の電話が鳴りっぱなしだねー。閻魔様の責任問題に発展するかもよー」
「そ、そんな! 責任問題って、もしかして減給とかですか!? これ以上減らされたら私はどうしたらいいんです!」
「減給だけで済めばいいね。最悪解雇とか……」
「ひいぃぃ、クビ!? この再就職難の時代にクビ!? 閻魔の資格しか持ってない私は、一体どこで働けばいいんですかぁ!」
閻魔様の顔がみるみる青ざめる。
恐ろしい、日本を覆う不景気の魔の手はこの幻想郷に伸びていたのだ。
一度社会からドロップアウトしたらもう再復帰は不可能に近い。
ニート・フリーターかジャンプの回収騒ぎが起こる職業ぐらいしか選択肢は残されていない。
閻魔様もそれはよく分かっているはずだ。
「……リリカ・プリズムリバー」
押し殺すような声で閻魔様が呟く。
「……資料室の鍵です。持っていきなさい」
閻魔様は机の引き出しから小さな鍵を取り出し、私に手渡す。
自分の行為を恥じているのか、顔を俯かせて目を合わせてくれない。
「資料室には今までに裁いた死者の情報が全て纏められてあります。貴女の妹もそこで調べれば分かるでしょう」
「あら、ありがと閻魔様っ!」
「いいですか、この事は他言無用ですよ! この事がバレてクビになったら本末転倒ですからねっ!」
「サンキュー。大丈夫大丈夫、これでも私は三姉妹の中で一番話の分かる奴で通ってるんだから」
「……比較対象がおかしいんですよ、くそっ」
受け取った鍵をポケットの中にしまう。
私が勝ったのを聞いていたのか、今まで泣きじゃくってたメル姉と死んだふりをしていたルナ姉が駆け寄ってくる。
「……こんな感じでいいの姉さん?」
「よくやったリリカ! たった一言で私の言いたい事を理解してくれて嬉しいよ。相手の弱みを握って脅しをかける、実にリリカらしい作戦だった!」
「本当ね~。あの閻魔様を責めてるときのイヤラシイ目つき、すっごく格好良かったわ~あははは」
「……なんか、褒められてる気がしないんだけど」
「そんなこと無いわよ~。狡猾、卑怯者、腐れ外道。どれもリリカにとっては最高の褒め言葉なのよ~」
……なんだか釈然としないなあ。
まあいいか、とにかくこれでレイラの居場所を調べることができる。
私達は床に膝をつきくずおれる閻魔様の前に明細を置き、軽く頭を下げて法廷を後にした。
あとは、あの三人にレイラの転生場所を教えて家から出て行って貰うだけだ。
上手くいけばいいんだけど。
「あー食った食った。あれ? 四季様、まだお昼行ってなかったんですか?」
「小町……今から行くところです」
「? どうしたんです、目が赤いですよ?」
「……なんでもありません」
「あ、さては四季様ったらうっかり昼寝をしちゃたんですね! いやー、ダメだと分かっていても我慢できませんよね、仕事中の居眠りってヤツは」
「貴女と一緒にしない! それと小町、関係無い者達を簡単に三途の川を渡らせるんじゃありませんっ!」
「あはは、やっぱダメでした? いんや、すいません、今後は気をつけますよ」
「ふん、小町は後でお説教です。私は今からお昼に行ってきますから、帰るまでにちゃんとノルマの分の死者を運ぶんですよ。……全く、やっとこれでプリンが食べられる」
「あ、食堂のプリンはあたいが食べたので最後でした」
「はあぁん!!」
◆◇◆
私達が家に戻れたのは、もう日が西に沈みかけようとしている夕方になったからだった。
「約束通り、レイラを連れてきた。今度はそちらが約束を守る番だ」
出たときと同じように、リビングのテーブルに座っていた三人に、ルナ姉が逆さまにした自分の帽子を差し出す。
三人のうちの一人、月子さんがそれを受け取り不思議そうに中を覗き込む。
『何、これ?』
「だから、レイラだ。姿形こそ変わっているが、元はレイラであったことに違いは無い」
裁判所の資料室でレイラの転生先を調べた私達は、それを見て驚いた。
なんと、レイラは幾度の転生の果てに、再びこの幻想郷に生まれていたのだ。
まさに運命のめぐり合わせ。本当なら、三人には転生先を教えてそこでハイさようなら、の予定だったが、
これも何かの縁、私達は幻想郷にいるはずの元レイラを探し、三人の下に連れてくることにしたのだ。
『レイラ? ……これが?』
「間違いないわ。わざわざ閻魔様の所まで行って調べたんだもの~あははは」
『……沢山いるわ』
「私達じゃあどれがレイラか正確には分からなかったからな、とりあえずその辺にいたのをまとめて採ってきた。本当の姉妹であるお前達なら分かるんじゃないか?」
『……』
月子さんの目が冷たく光る。
そして、小さいながらもはっきりと聞き取れる声で言った。
『……これ、ダンゴムシじゃない』
そう、今のレイラは幻想郷の霧の湖近くに住む一匹のダンゴムシなのだ。
閻魔様の元から持ち帰った選った資料によれば、レイラは私達の妹として死んだ後、人や動物やに転生を繰り返しそれなりに幸せな人生を送っていたという。
ある時、レイラは一人の日本人に転生した。様々な情報が溢れかえる日本社会で元レイラはヲタク文化に興味を持ち、すくすくとそちら方面に成長していき、アイヌの血を引く個性豊かな少女達が、薄汚い露助どもから故郷の島々を取り戻す様を描いた大人気同人STG”北方project”の二次創作を行うサークルを立ち上げた。
元レイラのサークルはブームに乗っかった事もありそこそこの人気を博したが、しばらくして、公開した作品が実は他人の絵をトレスしたものである事がバレてしまい掲示板は炎上。素直に謝れば良かったものの、事も有ろうに元レイラはファンに向かって、
「これはトレスじゃねえ、インスパイアだ」、「そんな細かい事ばっか気にしてるから童貞なんだよキモヲタども」と厨丸出しの暴言を連発。反発したファン達によりサークルは活動停止に追いやられた。
一気に世間の信頼を失った元レイラは、不貞腐れロクに就職もせずに親の金でパチンコに行くだけの人生を送り、死後、閻魔様の裁きにより順調に畜生道を歩んでいるという。
……何やってんだか。
「私達で日が暮れるまで集めたんだ。多分、その中にレイラもいるだろう」
「そうよ~、大変だったんだから~。リリカはあんまり働かなかったけど」
「だって、虫触るの気持ち悪いじゃない……」
「んも~、リリカったら変に臆病なんだから~」
「ミミズを両手に持って楽しそうに振り回すメルランもどうかと思うけどな」
『……』
資料に書かれている事の真偽はともかく、今重要なのは、帽子の中のダンゴムシをレイラだと認めさせ、とっとと三人にお帰りしてもらうことだ。
月子さんは黙ってダンゴムシの入った帽子を見つめている。
それにしても、ルナ姉も自分の帽子にあんなに虫をいれて気持ち悪くならないのかな。
月子さんはしばらくそのまま沈黙を保っていたが、
しばらくすると、小さく溜息をつき、帽子を握る指に少しだけ力を入れる。そして……。
『ふんっ!』
「ぎゃあぁぁ! レイラがぁぁぁ!!!」
「私の帽子ィィィ!」
雑巾を絞るように、ルナ姉の帽子を捻りあげた。
ダンゴムシが砕ける音が響き、それらの体液が黒い生地に見えにくい染みを作っていく。
月子さんはボロクズと化した帽子をゴミのようにこちらに投げ捨てる。
『……その虫けらがレイラ? 馬鹿にするのもいい加減にしなさい!』
「ほ、本当なのよ~、閻魔様にちゃんと聞いてきたんだからぁ~」
「ああ、私の帽子が虫汁まみれに……」
『丸一日、そんな下らない嘘を考えていたの? だとしたら、舐められたものね』
「リリカ、今日からイメージカラーを黒に変えてみないか?」
「変えないよっ! その帽子はお前が一生かぶってろ!」
後方に座っていた陽子さん、星子さんがゆらりと立ち上がる。
二人とも、一目見ただけで分かるほど顔に怒りを露にし、私達を睨みつけていた。
なによー、せっかく半日潰してまで色々回ったのに、まるで効果が無いじゃない!
こんなことなら、無理に成仏に拘らずに、初めから誰か強い人に任せれば良かった!
「いい加減にするのはそっちよ! レイラはもう転生しちゃったって、何度言えば理解するのよ!」
『まだそんな戯言を……!』
『レイラはいつまででも私達を待っていてくれる! 思い出の詰まったこの家で、あの時と同じ姿で、あの時と同じ笑顔を浮かべながらっ!』
血走った目を見開いて、狂ったように叫ぶ三人。
薄々感づいてはいたが、それはここで確信に変わった。
こいつらはもう何も見えてないんだ。
レイラに会いたい。その強すぎる想いが、いつの間にか精神を歪めてしまった。
あいつらが求めているのは自分達と同じ時間を過ごしたレイラ。記憶に残るまだ十代の少女だった妹だけなんだ。
仮に、今レイラが生きていたとしても、お婆さんの姿ではレイラだと認識しないだろう。
完全に過去の呪縛に捕われている。あいつらの時間はレイラと別れたその時から止まったままだ。
これでは殆ど永遠に苦しみ続けるのと同じじゃないか。
『レイラ、姉さん達は帰ってきたわよ、姿を見せて頂戴……』
「目を覚ませ! レイラはもういないんだ!」
『そんなことないわ。だって、私達は今レイラを感じてるもの』
「だから、それはレイラの残留思念とかで……!」
『いいえ、違うわ』
星子さんが私の言葉を遮る。
『最初は私達もそうだと思っていた、でも違うの。私達が感じていたレイラの気は、貴方達が出て行った途端に全く感じられなくなったわ』
「……?」
『やっと理解したわ。レイラの気は、貴方達から発せられてるのね』
私達からレイラを感じる? 何を言ってるんだ?
『貴方達とレイラはとても近い位置にいる。それは間違いないわ』
『なのに、貴方達はレイラはここにはいないと言ったり、虫をレイラだと言い張ったり』
『私達にレイラの事を教えたくないのね、レイラを独り占めする気なのね』
「ち、ちょっと、一体何を言って……」
次の瞬間、三人の顔が元の整った表情に戻る。
だが、そこから発せられた言葉は、今まで見せたどんな恐ろしい顔よりも、私達を震え上がらせるものだった。
『喋りたくないならそれで構わないわ。貴方達の魂を取り込んで、直接記憶を覗かせて貰うから』
背中に氷を突っ込まれたかのような感覚が走る。
その言葉を最後まで聞く前に、私は回れ右をしてリビングから飛び出していた。
「リリカ! あいつらヤバイぞ!」
「マズいよ~、アレ本気で殺しにかかってる目だったわ~」
姉さん達もその気配を察知していたらしく、私と同じように反射的に三人から逃げ出していた。
「ヤダ~! 後ろから追ってくるわ~!」
メル姉が悲鳴を上げる。
振り返りはしない。そんなことしなくても、さっきから背中に痛いほどの殺気を感じているのだ。
すぐ後ろまで追って来ていることは容易に想像できる。
「二人とも! ここは私が食い止めるから、その間に逃げろ!」
「そう言いながらなんで一緒に逃げてるんだよ!」
「ちょっと言ってみたかっただけだ!」
とにかく私達は走った。三人から離れるために。廊下を走り、階段を駆け上り、そして転がり降り。
最終的に私達が逃げ込んだのは、倉庫代わりに利用している地下室だった。
「すぐドアを閉めて! その辺にあるもので扉を塞ぐの!」
ルナ姉がドアを閉めた途端、反対側から凄まじい衝撃が響いた。
私達は慌てて、机や椅子、それに棚といったものをドアの前に積み上げる。
三人が扉を破ろうとしているのだろう、一定の間隔で体全体を叩きつけるような音が聞こえてくる。
「はあっ、はあっ……、なんなのよアイツラ、いきなり襲い掛かってきて……」
「なんだか私達がレイラを隠してると思ってるみたいね~。酷いわ~、冤罪よ~」
全く持って理不尽だ。こっちはあんたらを成仏させる為に、あっちこっち飛び回っていたというのに、
感謝されるどころか、ワケの分からない理由で殺されそうになるなんて。
大体、私達からレイラを感じるってどういうことよ。
「私達は元々、レイラの想いがマジックアイテムを媒体に具現化させた存在だ。レイラと同じ感じがしても不思議じゃないんだろう」
なるほど。考えて見れば、プリズムリバー家の離散と、私達が作られたのは数年程のズレしかない。
その当時のレイラのエネルギーは、あいつらが知っているそれと殆ど違わない。
そして、そのエネルギーで創られた私達もまた、同じ感じがするのだろう。
『出て来なさい、もう逃げ場は無いのよ』
『最初から正直に言えば助かったのに……でも、もう手遅れよ』
バリケードの向こうから月子さんと陽子さんの殺意のこもった声が聞こえる。
だから、最初から知らんっつーに。話を聞けっての。
もうどうすりゃいいのよ、この世にないものを要求されて、用意できなきゃ殺されるなんて。
ニート姫の難題よりタチが悪いじゃない。
「どうしよ~ルナ姉ぇ~」
「メルラン、何でも私を頼ろうとするな。優しい姉がいつも傍にいるとは限らないんだぞ」
「いや、ルナ姉を頼りに思った事なんて一度も無いんだけど」
「そ、そうか……」
どうすりゃこの危機から脱出できるんだろう。
地下だから逃げることもできないし、戦っても勝てないだろうし。
本物のレイラと姿も気配も同じ人が入れば、あいつらを誤魔化す事もできるだろうけど。
……。
……そうか、閃いた。
「私達もここで終わりかぁ~、案外短い一生だったね~」
「ちょっと姉さん達、聞いて! あいつらを追い返す方法を思いついたよ!」
「死ぬ前にもっとハッピーなライブやりたかったなぁ……」
「妖夢にお姉様って呼ばれて慕われたかったなぁ……」
「聞けっつってんだろ、バカ姉ども!」
姉さん達の肩を掴み、大声で語りかける。
「どうしたリリカ、死ぬのが怖いか? それじゃあ、姉さんが優しく抱いててあげるからな、よしよし」
「ちょっと、そんなことしてる場合じゃ……うわ臭っ! ルナ姉の帽子ダンゴムシ臭っ!」
「ねえ、今あいつらを追い返す方法があるって言ったけど……」
「あ、そうそう、二人ともよく聞いて!」
引っ付いてくるルナ姉を蹴飛ばして引き剥がす。
あいつらが扉を破ろうとする度に、即席で作ったバリケードが崩れていく。もうあまり時間は無い。
私は姉さん達を引き寄せ、口早に作戦を伝える。
「いい? あいつらが私達がレイラを隠してると思っているのは、私達からレイラと同じ気が発せられてるからなの」
「うん、それはさっきルナ姉から聞いた~」
「逆に考えれば、あいつらにとってレイラと私達の違いは姿形だけなの。もし、私がレイラそっくりな外見だったら、間違いなく本物のレイラだと勘違いするだろうね」
「じゃあ、レイラに変装してあいつらをやり過ごすって事?」
「最初ならそれも通じたかも知れないけどね、流石に今となっちゃバレバレよ。もっと確実な方法を使うの」
扉から衝撃音と一緒にメリメリと板が割れる音が混じる。
バリケードはもう限界に近い。焦りを深呼吸で整え、説明を続ける。
「創るのよ。レイラを」
「? どういうこと?」
「言葉の通りよ。レイラが私達を創ったように、今度は私達でレイラを創るの。元になったエネルギーは一緒だからね、極めて本物に近いレイラが創れるはずよ」
ここまでいうと姉さん達も理解したのか、諦めムードだった表情に笑顔が戻る。
「なるほど、それで創ったレイラをあいつらに本物だと言って会わせるってことね~!」
「頭いいぞリリカ、流石は私の妹だ! こっちに来い、ハグしてやる!」
「んなもん後にして! 今はレイラを創る準備が先決よ! メル姉と私はマジックアイテムを探すから、ルナ姉は精神を集中させて魔力を高めておいて。恐らく、霊一体創るのにも膨大な量の魔力を使う筈だから!」
「わ、わかった!」
人工的に霊を創るのに必要なのは二つ。強い想いと、プリズムリバー家に残された魔法の品。
レイラはそのマジックアイテムを媒体に使って私達を創りだした。
一家離散の原因となった品を使い、偽者の家族を創りだすとはなんとも皮肉な話だ。
それを思ってか、レイラがアイテムを使ったのは後にも先にもそれっきり一度だけ。
無用の品となった今は、この地下倉庫に保管されているはずだ。
三人から逃げて、この部屋にたどり着いたのは偶然か、それとも必然だろうか。
「あれ~、リリカ。マジックアイテムってどこにしまったっけ~?」
「ちょっと! 年末の大掃除、地下倉庫の担当はメル姉でしょ! 何で知らないのよ!」
「だって~、地下の掃除なんて面倒でサボっちゃったも~ん!」
「あーもーっ! ……確か、一昨年はここの箱に入ってたわね」
「リリカ、その箱は私が秋に拾ったドングリよ」
「なんでそんなもん溜めこんでんだよ! げっ歯類かお前はっ!」
「なんかハマっちゃって……あ、元々そこにあった箱なら向こうの棚に移した記憶があるわ~」
「本当だなっ!?」
メル姉の曖昧な記憶を頼りに隣の棚へと移動し、片っ端から乗っけてある箱を開ける。
昔の玩具やら、メル姉の溜めたドングリ(二箱目)をばかりが出てくる中、
丁度、他の箱の影になっている場所から、なにやら見覚えのある木製の古臭い箱が見つかった。
「ねえリリカ、これじゃない!? 私、見た記憶があるわ!」
メル姉が箱の一つを指差す。確かにこの箱だけ、なにやら雰囲気が違う。
棚の置くから落とさないように慎重に引っ張り出し、片手でしっかりと支えながら、もう片方の手で蓋を取る。
「……!」
「……っ!」
「……これだわっ!」
中から出てきたのは、間違いなく私達が探していたマジックアイテムであった。
なんとも形容しがたい形状ではあるが、記憶の中にあるそれとピタリと一致する。
これこそが、レイラと共に私達を生み出した魔法の品。レイラが私達の母親だとするなら、コレは父親と言ってもいい代物かもしれない。
急いで箱からアイテムを取り出し、ルナ姉の下に走る。
「ルナ姉っ! 魔力は溜まった!?」
「満タンだ。今の私なら、ファイナルスパークの直撃を受けても残機が一つ減るだけで済む」
「十分ねっ! それじゃあ行くわよ!」
ルナ姉を頂点にして正三角形の形で陣を作り、そしてその中央にマジックアイテムを置く。
「リリカ、あとは?」
「後はレイラへの想いをアイテムに送り込むの。レイラの姿形、声、性格、思い出、私達の中に刻まれているレイラの全てを」
「年代は、あいつらに合わせた方がいいな」
「そうね、あいつらがレイラと別れた時期。つまり、私達が最初に見たレイラの姿を思い浮かべるの!」
そこまで言うと、私達は目を閉じ瞑想状態に移る。
頭の中でレイラの姿を思い浮かべ、マジックアイテムに想いを注いでいく。
正確な使い方かは分からないが、正しい用法を調べている時間は無い。
『ほらほら、もうすぐ扉が開きそうよ。いい加減観念した方がいいんじゃない?』
扉の向こうから、月子さんの余裕に満ちた声が聞こえる。
バリケードは今にも崩れ落ちそうだ。何としてでも一回で成功させなくては。
「レイラ、レイラ……。私達のレイラ……」
「私達の声に答えて……」
「お願い、姿を見せて頂戴」
眉間にしわを寄せ、額から汗を流し、レイラで頭を一杯にする。
マジックアイテムに変化は無い。方法が間違っているのか、それとも既に力が失われているのか。
それでも私達は祈り続けた。残された道はもうこれしかないから。
「……何の変化も無いな」
「やっぱり、私達でレイラを創るのは無理なの……?」
「あきらめないで! ギリギリまで続けるの!」
「私……ここから生きて戻れたら、毎晩リリカと一緒にお風呂に入ろう思うんだ」
「気色悪い死亡フラグ立ててんじゃねえ! 風呂ぐらいなら入ってやるから真面目にやれ!」
とその時、足元でコトリと物音がした。
「!? 何の音?」
見ると、私達の中央に置いたマジックアイテムが横向きに倒れていた。
私も姉さん達も誰も触ってない。地下室だから、スキマ風という事もありえない。
ひとりでに倒れたんだろうか。だとしたら何が原因で。
私が考えてると、アイテムに変化が現れた。
最初は目の錯覚かと思った。だが、そうではない。
アイテムが勝手に震えだし、内側から仄かに光が溢れてきたのだ。
「ねえリリカ、これって……」
「うん……」
アイテムから溢れる光が、一気に地下室全体に広がるのと、
轟音とともにバリケードが崩れて扉が突き破られてのはほぼ同時だった。
『さあ開いたわ! 散々手こずらせてくれたわね! 楽には死なせないからそのつもりで……!』
『うわっ、何この光!?』
地下室に三人がなだれ込んで来る。
だが、部屋全体に広がる光に目がくらんだらしく、三人は入り口付近で足を止める。
やがて光が収まる。
光にやられた目を擦り辺りを見回すと、マジックアイテムの上に人影が立っているのに気づく。
背丈は私よりも小さい、髪は腰まで伸びて、肌は透き通るように白く、抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な体。
だけど、その顔は幼いながらも芯が通り、瞳はまっすぐと入り口付近に佇む三人を見つめていた。
私達の遠い記憶に残るあの姿。間違いない、彼女こそ……。
『レ、レイラ……』
『やっと……会えた……』
先に声を出したのは本物の三人。
『探したんだから、心配したんだから……今まで何やってたのよぉ』
三人の顔にうっすらと涙が浮かぶ。
私達を追っているときの鬼気迫る表情からはとても想像できない、大切な妹を想う、姉の優しさに満ちた表情だった。
私の思惑は成功した。レイラを創り出すことに成功したのだ。
『……』
レイラは三人を見つめたまま動かない。
そんなレイラに三人は涙を拭いながらゆっくりと近付いていく。
『レイラ、覚えているか? 姉さんだ、お前のルナサ姉さんだよ……』
最初にレイラにたどり着いたのは月子さん。
長年探し続けた妹にやっと会えたのがよほど嬉しいのだろう。
鼻声混じりで語りかけ、震える手を静かにレイラに伸ばしていく。
「……うまくいったみたいね」
「ああ、完璧に本物のレイラだと信じ込んでいる」
続けて、陽子さんと星子さんもレイラの元に立つ。二人とも涙で顔が歪んでいる。
妹に会えた感動もあるが、何より自分達を苦しめていた未練が晴れる時が来たのだ。
幽霊として、これほど喜ばしいことも無いだろう。
「あの人たち、やっと楽になれるんだね」
「ああ、もう、いもしない妹を探して彷徨う必要もない。プリズムリバー家の呪われた運命は、今ここでやっと終わりを迎えたんだ」
月子さんが両手を広げてレイラを抱きしめようとする。
レイラもそれに答えるように、ゆっくりと右手を挙げて……。
『うぉりゃあ!!!』
『ブギャッ!?』
月子さんの顔面にストレートパンチを叩き込んだ。
鼻血を噴きながら、月子さんは綺麗な弧を描いて後方に吹っ飛んでいく。
『会いたかったわ、姉さん達……』
無表情だったレイラの口元が、歯を見せてニヤリと歪む。
陽子さんと星子さんは、信じられない物をみるかの様な表情のまま固まっている。
『レ、レイラ? 一体何を……』
そこまで言うと、陽子さんの体は勢いよく真横に吹き飛ばされた。
レイラの放った回し蹴りが顔に直撃したのだ。
陽子さんは壁に叩きつけられ、その振動で倒れた棚の下敷きになってしまった。
『ひ、ひいぃぃ……』
ようやく状況を理解したのか、星子さんがその場から逃げ出そうとする。
だが、星子さんは今の光景を見て腰が抜けたらしく、四つんばいの姿勢でしか動けないようだった。
そんな星子さんをみすみす見逃すはずもなく、レイラは後ろから手を回し星子さんに覆いかぶさる。
『バックドロップは……』
『や、やだ、やめてレイラ! どうしちゃったの!?』
『ヘソで投げるっ!!』
星子さんの体が持ち上がり、そのまま逆さまに床に叩きつけられる。
その衝撃で脳震盪を起こしてしまったのか、星子さんの体からは力が抜け動かなくなった。
一瞬のうちに、三体の屍が地下室にできあがる。
一体目は顔面を血で真っ赤に染めて、部屋の入り口付近に仰向けに倒れ、
二体目は体の大半が瓦礫に埋もれ、片足だけが寂しそうに外に露出して、
そして三体目は、比較的私達の近くで、頭を打って痙攣しながら目を回している。
あれだけ強く恐ろしかった三人が、一人の幼い少女に一方的に蹂躙されてしまった。
「……リリカ、なんだか昔のことを思い出すな」
「そうね、あの頃の私達もこんな感じだったよね」
普通の人ならば、目の前で繰り広げられた異常な事態に恐怖を覚えるだろう。
だが、この血なまぐさい光景に、私と姉さん達は揃って懐かしさを感じていた。
『レ、レイラ……一体なんの真似なの?』
意識を取り戻したのか、月子さんが鼻を押さえながら立ち上がる。
それに続き、陽子さんが瓦礫の中から這い出て、星子さんもフラつきながら体を起こす。
『姉さんに手を上げるなんて、貴方はそんなことをする子じゃないでしょ……?』
『き、きっと久しぶりに会ったから恥ずかしいのよね!』
『そうよ、恥ずかしがらなくても大丈夫よレイラ。ほら、昔みたいに一緒に遊びましょう』
色んな所から血を流しながら、三人がレイラに近付く。
レイラも、それに答えるように口を歪ませ月子さんに滑るように近付く。
『……ルナサ姉さん、久しぶりね』
『レイラ、私のことを覚えていてくれたのね! そうよ、貴女の姉のルナサよ!』
『当然じゃない、よく覚えているわ。姉さんのことも、姉さんにされた仕打ちのことも』
『っ!?』
『ルナサ姉さん、私に色んな服着せてくれたよね。そのままの格好でみんなの前に連れ出されたし、忘れられるわけないじゃない』
その言葉を聞いた途端、月子さんの顔がみるみる血の気が引いていく。
『あらあら姉さん、服をそんなに血で汚しちゃって……ダメじゃない、衣服は着る者の魅力を引き立てるのよ。それを教えてくれたのは姉さんじゃない』
『レ、レイラ、なんだか目が怖いんだけど? や、やだ、止めて、お願いだからあぁぁぁぁぁあああっ!?』
言い終わる前に、月子さんはレイラに背負い投げで床に叩きつけられていた。
柔道のお手本のような綺麗なフォーム。月子さんは再び気を失ったらしく、そのまま起き上がることは無かった。
陽子さんと星子さんは顔を青ざめさせ、私達の方へ後ずさりする。そして、大粒の汗を流しながら私達に詰め寄る。
『ど、どういうことよ! どうなってんのよっ!?』
「? 何が?」
『何が、じゃないわよ! 貴女達、レイラに一体何したのよ!』
その抗議を受け、私達は顔を見合わせ首を傾げる。
「いや、別に何もしてないけど……」
『嘘よ、あんなのレイラじゃないわ! いいえ、レイラだけど違うわ!』
一瞬、あのレイラが創りものである事がバレたのかと思ったが、そうではないらしい。
私達三人の想いを集めて創り出したレイラの再現度は、我ながら完璧だ。
”気”も私達=レイラのものを使ってるし、見破られるわけはないと思うのだが。
『あの虫も殺せないほど優しかったレイラが暴力を振るうなんて! 私達が居ない間に、貴女達がレイラに変な事を教えたからに決まってるわ! 返してよ、私のレイラを返してよっ!』
私達はますます首を傾げる。
何かが違う。どうにも話が噛み合ってない気がする。陽子さんの言い分に違和感を感じるのだ。
姉さん達も同じ事を感じているようで、困ったような顔で眉をひそめている。
とりあえず私は、最も違和感を感じた一部分について話してみることにした。
「……レイラって、元々あんな性格じゃないの?」
『なっ!? 何を言ってるの! そんなわけないじゃない!』
「あんな感じだったよね~。演奏の途中で間違えたりしたら、チェロやシンバルでよく殴られてたもんね」
「血の気の多い子だったよ。私なんか骨を折られたのも一回や二回じゃ済まないぞ」
『ちょ、ちょっと、貴女達、一体何を言って……!?』
その時、陽子さんの肩に手がかかる。
『さあ姉さん、いい声で鳴いて頂戴』
陽子さんの後ろには、昔と全く変わらない笑顔のレイラが立っていた。
私達の背筋に寒気が走る。あの台詞は、私達を特に強く怒るときに出る言葉だ。
レイラのこの言葉を聞くだけで、当時の私達は戦慄したものだが、やはり今聞いても体が縮みあがる想いだ。完全にトラウマだわ、こりゃ。
『や、やめてレイラ! どうしちゃったの、私達が嫌いなの!?』
『嫌いなんてとんでもない、私は姉さん達が大好きよ。ほら、メルラン姉さんが私のオヤツを勝手に食べちゃった時も、私は文句一つ言わなかったじゃない』
『ひいぃぃ! ご、ごめんなさい! あの時は悪かったから、だから許してぇ!』
『許す? 何を言ってるのメルラン姉さん。私は姉さん達が大好きなのよ。……そういえば姉さん、私の分も食べたせいか、ちょっと太ったんじゃない? 特にお腹周りが。大好きな姉さんの為、私がそのお腹、凹ませてあげるね。それっ!』
『んぎゃっ!』
陽子さんの腹に拳が叩き込まれ、どさりと床に崩れ落ちる。
おー、懐かしい。私も食事のマナーが悪いとかでよくやられたっけなぁ。
本当に、あの頃はレイラに殴られない日の方が少なかったよ。
「レイラが一番怒ったのっていつだっけ?」
「んー、確かアレじゃない? ルナ姉がレイラお気に入りの食器割っちゃった時」
「……アレはリリカが自分が割ったにも関わらず、全ての罪を私に押し付けたんだろう」
「そうだっけ?」
「あの時のレイラは凄かったね~、もう気絶してる姉さんに尚も殴る蹴るを繰り返して、辺りが返り血で真っ赤になって、あははは。確か全治一週間だっけ?」
「一ヶ月だな。最も、そのうち三週間は意識が無かったが」
思えばレイラには色んな事で怒られたなぁ。
レイラってば、まるで親の仇でも相手にしてるかの様に怒るんだもん。怖かったなぁ。
最初にやられた時は、理不尽な暴力に対しレイラを憎んだりしたけど、
今思えばアレは、生まれたてで何も知らない私達に、短期間で世間の常識を教え込ませようっていうレイラなりの愛だったんだろうな。
『んなワケあるか! あんた達どっかおかしいんじゃないの!?』
一人残された星子さんが叫ぶ。
おかしいかなぁ? 私達はこれが普通だと思ってたんだけど。
家族以外との付き合いが殆ど無かったから、他の家庭環境とか知らないしなぁ。
『こんなのレイラじゃない! レイラはもっとか弱くて、内気で……』
「レイラがか弱い? あははは、冗談でしょ~」
『私達の後をいつも付いてまわって……』
「私達がレイラに追い回されて、の間違いだな」
『なんでも私達の言う事を聞く従順な子だったもの!』
「逆、逆。レイラが私達を手足のように使ってたよ。炊事洗濯から、自販機までのパシリまでね」
そうこうしている内に、星子さんの下にも再びレイラが近付く。
狼狽し声にならない声を出す星子さん。足がすくんでその場から動けないらしい。
当然、レイラはそんなことお構いなし。ゆっくりと両手を伸ばし、星子さんの体を掴んでいく。
『リリカ姉さん。姉さんにはよく、お小遣いを預かって貰ってたっけ。私が無駄遣いしない為に、わざわざありがとう』
『レ、レイラ! ごめんね、貴女に意地悪していたのは謝るから、だから、だから許して!』
『……私は何も姉さん達が憎い訳じゃないのよ。ただ、姉さん達に伝えたい事があるの』
あのレイラの生き生きとした表情。本当に懐かしい。
私達を殴りつける時も、いつも衣服がどーしたオヤツがどーしたと口走ってたっけ。
ははーん、アレはこの事だったんだな。あの頃はレイラが怖くて聞けなかったからなぁ。
『一家が離散し、一人屋敷に残された時、私は心の中が清々しい気持ちで一杯になったわ。だって意地悪をしてくる姉はもういないんだもの。それを考えると楽しくて仕方なかった。……でも、不思議ね。一年も経たないうちに、私は姉さん達が恋しくなっていた。あれだけ意地悪されたのに、姉さんに会いたくてしょうがなくなったの』
『やめてレイラっ! 放して、お願い!』
『だから私は姉さん達を作り出した、離散の原因となった魔法の品を使って。意地悪をしてこない、優しくて従順な姉さん達を。今度の姉さんは私の我が侭を何でも聞いてくれた、たとえ殴っても反抗すらしてこなかった、あれだけ私を苦しめた姉さん達が今や全て私の思うまま、こんな愉快なことはなかったわ』
「(それ、私達のことかしら?)」
「(……だろうな)」
『そんな生活を続けたある日、何をされても逆らわない姉さん達が、ふと過去の自分と重なったの。私はあれだけ意地悪をされたのに姉さんには逆らわなかった。その姿は、いくら殴られても私を妹として可愛がってくれる、新しい姉さんと一緒だと気づいた。……そう、私は姉さん達が好きだったのよ、だから逆らえなかった。姉妹だから、家族だから、そんなんじゃない。純粋に、ただ姉さん達が好きだった』
そこまで言うと、レイラは一旦言葉を止める。
『だからリリカ姉さん。私は貴女達に伝えたい。生きてるうちに伝えることが出来なかった、妹としての精一杯の愛を!』
『や、やだ、下ろして、止めて、レイラーっ!』
星子さんの体がレイラに持ち上げられる。
手足をバタつかせて星子さんが抵抗するが、もはや何の意味も成さない。
『受け取って姉さん! これが貴女達の妹、レイラ・プリズムリバーの愛よぉ!!!』
『い、いやあぁぁぁぁぁーーっ!!!』
天井の低い地下室で行うブレーンバスターは、少しだけ窮屈そうだった。
◆◇◆
三人が再び動けるようになったのは、それから一時間後のことだった。
彼女らが気絶している間に、レイラは光に包まれその姿を消した。
魔力が足りなかったのか、それとも自分の役目を終えたと判断し自ら消えたのか。
ただ、消える直前のレイラの顔は、何故だかとても嬉しそうだった。
『……』
『……』
『……』
三人は私達の前に俯いたまま無言で立っている。
レイラによって体の作られた傷はすっかり消えている。私達と同じで、霊体だから回復が早いみたいだ。
自分達の望んだ結末では無かったとはいえ、レイラに会いたいという未練が晴れたからだろうか。
さっきまであった強い邪気は無くなっている。今の三人はその辺にいる幽霊となんら変わりない。
『レイラは、もういないのね……』
月子さんが寂しそうに呟く。
『私達の知ってる、あの優しいレイラはもうどこにも……』
『あの子は変わってしまった』
『長年探し続けて、やっと見つけたと思ったのに。こんな結末だなんて……』
場に湿っぽい空気が流れる。
三人が沈むのも分かる。話の流れから察するに、私達が知っているレイラと三人が知っているレイラは、同一人物ながら殆ど別人と言っていいほど違っているのだろう。
「……だけど、お前達はレイラに会えたじゃないか」
ルナ姉の言葉に、三人が顔をあげる。
「少しくらい性格が変わってたっていいじゃないか、レイラがお前達の妹だという点には、何も変わりがないんだから」
『……』
「それとも、お前達はレイラが成長するのが嫌だったのか? ずっと、自分の思う通りの姿が良かったのか? お前達の妹への愛は、そんな人形みたいな扱いをすることだったのか?」
『そ、そんなこと……!』
「そうだろう。ならいいじゃないか。妹なんて、少しぐらい姉に反抗するぐらいが可愛いんだよ。私なんて、毎日リリカから変態だの社会不適合者だの罵られているんだぞ」
余計な事を。
『でも……私達を責めてる時のレイラ、凄く楽しそうだった』
『もしかして、私達の事、嫌いだったのかな……?』
再び、三人の顔が曇る。
「……そんなこと、ないと思うな」
『えっ?』
「そりゃさ、レイラも少しぐらいは不満はあったと思うよ。でも、やっぱりレイラは姉の事が好きだったと思うんだ」
『何故、そう思うの?』
「だって……」
『……』
「本当にレイラが姉達を嫌ってて、どうでもいいと思ってるなら、私達は創られなかったと思うから……」
確かにレイラは少し暴力的な妹だった。
少しでも気に食わない事があれば容赦なく拳が飛んでくるし、家具が壊れるなんて日常茶飯事だった。
だけど、私達はそんなレイラが大好きだった。レイラと過ごした時間は、最高の思い出として私達の胸に残っている。
本当に嫌いな相手なら、そんな気持ちにはならなかったと思う。レイラは、私達の生みの親であり大切な妹なんだ。
しばらく場に沈黙が流れた後、悲しそうだった三人の顔が少しだけ緩む。
そして、私達に目を合わせると、穏やかに微笑んで言った。
『……そう。その言葉の意味は分からないけど、なんだか少し安心したわ』
『そうね、私達は同じ家に生まれた、たった四人だけの姉妹だものね。たとえ死んだとしても、たとえ転生したとしても……』
言い終えると同時に、三人の体が白く輝きだす。
『……時間みたいね』
陽子さんが呟く。見ると、三人は足元から徐々に体が崩れていっていた。
始めはつま先、そして膝、腰が、どんどんと光の粒になって消えていく。
「! 貴女達、体がっ!」
『私達をこの世に縛る未練はもう何も無い。後は、他の幽霊と同じ道を辿るだけ』
三人は、悲しげながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべる。
『色々と……迷惑をかけたわね』
「え? あ、ああ、うん……」
「気にしないでよ~、私達、会ったのは今日が初めてだけど、知らない仲じゃないのよ~」
『……まだ、名前を聞いてなかったわね。転生したらすぐに忘れてしまうだろうけど、聞かせて。私達が最期に会った人のこと、レイラと同じ感じがする貴女達のこと、知っておきたいの』
そう言われ、私は口ごもる。
ああ、三人は私達が何者か知らないんだ。私達が名乗らなかったてのもあるけど、その辺は本物を相手に素性を語るのはちょっと抵抗があったし。
そんな私の気持ちを察してか、ルナ姉が一歩前に出て胸を張って答えた。
「私達はこの幻想郷で騒霊の演奏隊をやっている、プリズムリバー三姉妹だ。名はルナサ・プリズムリバー。こっちの二人は妹のメルラン、そしてリリカだ」
ルナ姉は堂々と、一切包み隠しをせずに、私達の素性を三人に明かす。
それを聞くと、三人は少しだけ驚いたような顔をしたが、またすぐに穏やかな顔に戻り、満足げな声で私達に語りかけた。
『またいつか……レイラに会える日が来るかしら?』
「ああ、会えるさ。お前達は自分の力と想いだけで、この思い出の家に戻ってこれたじゃないか」
「血の繋がった姉妹だもの。きっと、輪廻の果てに巡り合うこともあるわ~、閻魔様だってそのくらいのサービスはしてくれるわよ~」
『……そう。ありがとう、私達によく似た少女達。また、いつか……』
言い終わらないうちに、三人の体は無数の光の粒へと分解され消えていった。
三人の姿が消えた後の地下室は、光源となるものが無くなり完全な暗闇に包まれた。
その闇の中で、私達はしばらく何も言えずに立ちすくんでいた。
そんな空気を打ち消すように、ルナ姉が口を開く。
「……終わった」
私達の今の気持ちを表現するのは、その一言だけで十分だった。
そう、終わったのだ。怨霊と化したプリズムリバー三姉妹は、未練を断ち切りこの世から消えていった。
今朝、突然始まったこの騒動は、今この瞬間に終わりを告げたのだ。
張り詰めていた糸が切れたかのように、私達の体から一気に力が抜ける。
緊張が解けたせいか、メル姉のお腹がグーグーと鳴り出した。
「……お腹すいたね」
「そういや、朝から何も食べてないもんねー」
私とメル姉は、顔を見合わせて笑った。心置きなく笑ったのは今日はこれが初めてだった。
「よし、じゃあこれから夕食にしよう。何が食べたい?」
「あー、もうお腹ペコペコだから、ボリュームあるもの食べたいな。唐揚げとか、ステーキとか」
「私はねー、ぐるぐるしたものがいい! ソフトクリームとかバームクーヘンとか!」
「メル姉、夕食にそれはきついって」
「よし、じゃあ作るの面倒だし出前で蕎麦でも取るか!」
「おい、少しはリクエストを考慮しろ」
私達は地下室を出て、リビングに移動する。
外はいつの間にか日が暮れ、空には星が瞬いていた。
夜空を見上げると、満点の星の海を三つの流れ星が流れたのが見えたような気がした。
私は目を瞑り、心の中で流れ星に祈りを捧げた。
あの悲しくも強い絆で結ばれた姉妹が、いつの日か再び巡り合えるように、と。
◆◇◆
「やあ、待ってたよ。あんた達が今日最後のお客さんだね。あたいは小町、死神の小野塚 小町ってんだ、短い間だけど宜しく頼むよ」
私達の前に現れた長身の少女は、自らをそう名乗った。
「おや、あんた達姉妹なのか。ふむ、それも随分と仲のいい姉妹みたいだね。……よし、特別だ。三人一緒に船に乗って構わないよ。なあに、良いって事よ、この方があたいも楽……おっと、この事は四季様には秘密にしといてくれな」
促されるままに船に乗り込む。
霊魂のみとなり、言葉を発することはできないが、
死神と名乗る少女の言動、それに大きな川が流れる周りの風景から、大体の状況は理解できた。
私達はこれから転生するのだろう。この船の着いた先が、私達の新たな人生の始まりなのだ。
「お客さん、最近死んだんじゃないね。あたいの勘じゃ、少なくとも百年は現世を彷徨ってたようだね。……まあでも、ここにいるって事は、残してきた未練も消えたってことか。 良いことじゃないか」
四人を乗せ、船はゆっくりと川を渡っていく。
その間、死神の少女は一方的に私達に話したてる。死者の今後についてから仕事の愚痴まで、死の専門家とは思えぬ程の陽気な喋りだった。
死んだことへの絶望、未来への不安、そういったものをかき消すためのビジネストークなのだろうか。
まあ、未練が無くなり、肩の重荷が消えたような清清しい気分でいる私達にはあまり意味がないが。
やがて、船は向こう岸に到着する。
そこには、周りの寂しい風景からは明らかに浮いている、立派な造りの大きな建造物があった。
「あれがあんた達を担当する閻魔、四季 映姫様がいる裁判所だよ。死んだ魂は皆あそこで裁判を受け、今後の行き先を決めるってワケさ。閻魔様には嘘は通用しない、全て正直に話すんだ、いいかい?」
船上での会話で、閻魔というのがどういうものかは理解できた。
私達が地獄行きか、極楽行きか、それとも転生か、全てこの人の判断で決まる。
恐れは感じない。私達の人生は全てをやり遂げたのだ。これから何が起ころうとも、悔いなどある筈もない。
いよいよだ、いよいよ私達はプリズムリバーの名を捨て、文字通り生まれ変わる。
「じゃあ頑張りな、あんた達の来世に光あれってね!」
死神の船が戻っていったのを確認すると、私達は裁判所の前に移動し、両手でゆっくりと重い扉を開く。
さあ、私達の全てはここで終わり、そしてここに始まる。いつかまた、姉妹四人が巡り会う日を夢見て……。
「ルナサ・プリズムリバー、以下二名。汝ら、私が個人的に腹立たしいので、幻想郷のダンゴムシへの転生を命じます」
まじっすか。
数々のネタもそうですが、長い話を最後まで飽きさせずに読ませる展開や台詞回しのうまさもさすがでした。
後半はルナ姉に全く違和感を感じなくなってしまったという不思議w
非常に楽しめました。次回作も期待しています!
えーき分を補充するに値しまくる作品でした。
GJ!
コレは難しい問題だ。
後アリスが相変わらず悲惨すぎるw
あとアナタの作品では映姫様とアリスに不幸が似合い過ぎます。
いいぞ、もっとやれ
所々でネタのせいか読むスピードが遅くなりましたがw
そして、ちょっと出てきたやいなや、やっぱりアリスは不幸w
あとカスピ様吹いたw
それはそうとして、感動巨編の流れの筈が各地で持ち上げたかと思ったら叩き落とす展開が待ち受けていて凄い事になってました。これはたまらんわw
あと、アリスだけが被害者なら殺「人」未遂じゃないんじゃないかなとかどうでもいいことを考えましたが、地下室のブレーンバスターがまとめて吹っ飛ばしてくれましたので、これにて。
四姉妹に救いが無さ過ぎ
レイラは姉に潰されたし、三姉妹は閻魔の奴あたりで判決だし
まあ、三姉妹はこの後判決は言い直されたと考えることも・・・まあ、なんとかできるが・・・
けど、元レイラはダンゴムシに転生の上、元姉に潰され死亡・・・
シリアスとギャグのバランスが絶妙。
肉体言語とダンゴムシ吹いたw
高評価をしている方々は、大暴れしたのは騒霊三姉妹が創ったレイラであり、かつてレイラだったものはルナサに潰されて殺され、その後全員から存在忘れられてること分ってるのかな
ダンゴムシでも姉妹仲良く?暮らせればいいんじゃないでしょうか。
それから映姫様の八つ当たりなどもどうかと私は思います。
ボケ役とかヨゴレ役とかそういうのではないんじゃないでしょうか?
少しギャグとは方向性が違っている部分もあるかと。
これが本当にそこまで扱いが悪くなければもっと良かったのでしょうけど。
普段はコメントで返事はしないのですが、
今回の話で不快感を感じてしまった方が多々いらっしゃるようですので、
ここで作者の言い訳をさせてください。
●元レイラ(ダンゴムシ)殺しについて
私の中ではこの話のオチは、23:11:14さんのようなつもりでした
ルナサが持ってきた中にレイラはいない、転生した本物の三人は幻想郷でダンゴムシとしてレイラと暮らす。
こんな展開をイメージして書いたのですが、言葉が足りませんでした。
それにレイラがいないとしても、無意味に生物を殺すのは良くないですね。
●映姫の八つ当たり
二次設定というか俺設定が過ぎました。
閻魔がそんな子供じみた行動を取るはずがないですね。
いつのまにか、映姫を自作キャラのように扱っていた様です(映姫に限ったことではないですが)。
少し二次創作というものを考え直したいと思います。
投稿したあとにこんなことを書いても、本当に醜い言い訳でしかないのですが、
今回指摘された部分をよく反省し、次に活かしたいと思います。
この度は皆様に不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。
しかし、作品全体の雰囲気が雰囲気なせいか違和感を感じることもなく、むしろその元のイメージとのギャップが爽快でした。
なお、私は人気投票で2ポイント入れたルナサファンですが、今作の扱いに特に不快感はありませんでした。これはこれで何か幸せそうですし。
>閻魔がそんな子供じみた行動を取るはずがないですね
言うだけならしても違和感は無いですが、そのとおりに判決を下す(判決を執行する)のは違和感あり
ところで
ルナサが持ってきた中にレイラはいない
とは言うものの、それを騒霊の三姉妹は知らないはずなのに、やけに潰されたことに対して反応薄いね(そのことにたいして発言があったのは一人だけで、かつ、その後はふれず(忘れられたか気持ち悪かったから触れるの止めたか))
嘘だっ!
ロリサ姉さんの恋の行方はどうなると言うんだw
なんというかもう『台無しだwww』としか言いようが無いですねw
しかしまぁ、若干やりすぎでは? と思うシーンもなきにしもあらず。
作品全体の総合点(90)から、そこのところを考査して-10でこの点数をば。
作品としてみるならば非常に言い出来ですよ。
わらかせていただきましたw
大変ご迷惑をおかけしました
色々な解釈があってこその創想話だし。文章の構成も悪くなかった。
えっきーとダンゴムシの時点でオチは読めたけどそれでも笑えた。
こういうレイラもあっていいと思う。
せっかくの力作なのに、もったいないなぁ。
自分は、「現実世界に置いていかれた本物の姉三人は、けっこう不幸じゃね?」なんて薄々思っていただけに、この話は面白く読めましたよ。主に悲劇的な女性として書かれることの多いレイラですが、視点を変えてこういうキャラにしてみせるのも、私的には新鮮かつ説得力があって、刺激的でした。
ダンゴムシのくだりも、ギャグにかこつけつつ、怨霊の怖さも感じさせて、うまいなと思ったものです。
削除云々のレスについては、「ら」さんも熟慮の上書き込んだことだとは思うのですが、それでもこの作品を面白く思った者の一人としては、削除しないで欲しいな、と思います。
(既に評価は入れたので、フリーレスとさせて頂きます)
な自分から言わせて貰えば削除はしてもらいたくないです・・・・・・・。
とても楽しく読ませてもらったので・・・・・・。orz
らさんが消すなら自分も消してもいいですかね、作品(笑)
実に面白かった。 やはり消す必要はないと思います。誰もが満足できる作品はありません。誰かが満足している時は誰かが不満に思っている。そういうものですよ。
解釈は自分と異なるから面白い。
いやいや面白かったです。
あの勢いなら来世のレイラは今度は北の最終兵器として、
総合格闘技とかで世界制覇しそうですねw
あと絵描きとして練習目的以外でのトレスは結構最低だと思うw
そいつぁ一番やっちゃいけないっすよレイラさん!
ギャグならもっとひどい目にあってそうな人いくらでもいますしw
当初は読者様を不快にさせるSSを投稿してしまったということで
一刻も早く消したくて、削除宣言などをしてしまいましたが、
皆様からのコメントを読み、削除は読んでくださった方々に対して失礼にあたると思い直しました。
はっきり言って削除宣言で読者様を釣った、と思われても仕方のない行為ですが、
削除はせずこのまま残すという形を取らせて頂きます。
大変読み苦しい内容の話ですが、どうかご容赦ください。
この度はお騒がせをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
ぶっちゃけブラックジョー●が多い。
一つのネタを笑う人もいれば、その同じネタで不愉快になる人もいる。
私としてはこのまま頑張ってほしいところですがね
話自体はとても面白いです。ギャグの中にいい話が混じっているという感じですし。
らさんのお話はかなりのブラックジョークが含まれていて、笑いと怒りのぎりっぎりの線を漂ってますが、そういうところも大好きです。
ところで
>観鈴ちんがゴールしても涙一つ流さずにヘラヘラ笑っていた
のあたりに、個人的に許せないものを感じましたが、評価が満点じゃないのはそのせいというわけではありません。……ほんとですよ?
そしたらギャグが来た。
最後はシリアスだろうと思った。
そしたらギャグだった。
完敗だ…予想の斜め上なんてモンじゃねぇ……
今日この作品が読めた事に感謝します
これ、やっぱりギャグなんだろうなあ。作者さんもギャグだと思い、読者もギャグだと感じながら読むと言うのが、とても不自然に感じてしまう。そんな程度には苦味が迸っていた。
正直、これは何重にも軽さとコメディを塗りたくった倒錯物語なのだよ、と言われたら信じざるを得ません。何と言う不安定さ。所々に見え隠れするダークな要素。
このコメントの文面も、実は随分悩んでいます。作者さんの意図から外れた所で評価しても良いものだろうかと。
非常に、興味深い作品でした。