0
日符「ロイヤルフレア」
火水木金土符「賢者の石」
月符「サイレントセレナ」
1
「日曜日……。外は、雨。誰も遊びに来ないから、退屈。みんな休んでいるのかしら。
遊びたい。弾幕ごっこ……。一人じゃあ、無理。
咲夜は忙しいから駄目。美鈴、小悪魔……物足りないわ。
パチェはあまり遊んでくれない。それに今日はお勉強の日。お勉強は、嫌いなのに。
勉強が終わったら、久しぶりにお姉さまのところへ行こう。そうしたら遊んでくれる? うん、きっと。
私の髪を撫でて、フランの髪は黄金のようだわ、と微笑んで。それからキスを。鉄錆の味がする。
黄金……聞き覚えのある言葉だわ。私の髪を指して、そう囁いた。……誰だったかしら。
ノックの音。パチェ?」
2
(薄暗い部屋。紅魔館。地下大図書館。巨大な柱時計。少女の声)
「はじめに、言葉あり。
神は始めに言葉を創られた。
言葉は全てを司り、万物を縛りつける。光あれ、と言えば、呼ばれたものはその時から光となる。
名づけることで、イメージを与える。呼ぶことで、イメージを実体化させる。複数の名を与えれば、それだけイメージは多様となる。
言葉は名を与え、呼ぶために生まれた。
万物は奔馬よ。これなる馬を括るものこそ、言葉と言い、この力を言霊という。言葉は荒縄。縄の力が強いほどに、馬はきつく、固く、抱きとめられ、逃れることはできない。イメージの固定化。
時に強く、強く抱きしめて、その果てに縄は、馬を、抱き殺す。まるで恋人を誰かに渡さないように。渡すくらいなら、いっそ殺してしまおうと。死の抱擁を交わし、ひとつへと収束していく。イメージの限定。
息絶えた馬に、朽ち果てた縄。やがては互いに腐敗して、溶け合い、交じり合って、もはやどれが縄で馬なのか。
言葉にそこまでの力があるの? ええ、あるわ。魔女の言葉ならば。
魔女の言葉に耳を傾けてはいけないわ。それは魂を括る金鎖」
3
「お茶会を始めましょう。
準備は万端かしら。時計は壊したから慌てないで。
大蒜。柊。山査子。ウイキョウ。鰯の頭。十字架。土砂降りの雨。銀のナイフ。吸血鬼の嫌いなもの、全て捨てたわ。
少女たちにはお召し物を。金属のアクセサリーをお付けなさい。土曜日は鉛。金曜日は銅。木曜日は錫。水曜日は水銀。火曜日は鉄。月曜日は銀。日曜日は金。
星が廻り廻って、射手座に太陽、雄羊座に月。獅子が太陽と月を飲み込んだ。
獅子の口内で駆ける七つの金属。神は七日で世界を創り、楽園は七日で腐って、磔にされた聖人は七日で戻りました。休まず動くのは、横たわった八、円環、蛇。働き者にも息抜きを。お休みは月曜日に。図書館は全国的に休館です。ノックの音。誰かしら?」
「こんばんは。パチェ」
「こんばんは。レミィ」
「素敵なお召し物ね。ドレスの紅い薔薇がとてもお似合い」
「ありがとう。あなたも白い薔薇と、黄金の月の髪飾りなんてつけて。随分めかしこんでるわね」
「彩りが欲しかっただけよ。気にしないでちょうだい」
「ところで、いまは暇かしら」
「そうね。時間ならあるわ」
「それじゃあ、お茶でもどうかしら」
「あなたのお誘いなら断れないわ。でも、誰が淹れるの?」
「私が、よ」
「レミィ、あなたお茶が淹れられたかしら?」
「失礼ね。それぐらいできるわよ」
「長いこと一緒にいるけど、初耳ね」
「必要が無かったからよ。でも淹れ方ぐらい知ってるわ」
「不安だわ」
「もう、仕方ないじゃない。私とあなたしかいないんだから。それで飲むの? 飲まないの?」
「頂くわ。レミィのお茶なんて滅多に飲めないもの」
「最初からそう言いなさいよ。何かリクエストは」
「特に。ああ、でも、血を入れるのはやめてね。それと、毒なんてもっての外」
「毒を盛られるような疚しいことがあるのかしら」
「いいえ。ないわ」
「本当に」
「本当よ」
「じゃあ、毒は入れないわ。ダージリン。アンブーシア。マーガレッツホープ。アールグレイ。アッサム。セイロン。エスラビー。リゼ。何でも好きなのを言ってちょうだい」
「ダージリンがいいわ。ミルクは少なめ、砂糖は多め」
「隠し味にひと匙のベラドンナ。黄金のスプーンで」
「やっぱり入れるんじゃない」
「冗談よ。待っていなさい。淹れてくるわ」
「……行っちゃったわ。どんなお茶を淹れてくれるのかしら」
4
「(独り言)お茶は一人一人の意識と結びつく、お茶はそれぞれの魂を最も正確に映し出すものである。アンリ・マリアージュの言葉だったかしら。けだし名言ね。淹れる人が違えばお茶の味は変わるわ。七人が淹れれば、七の味。味覚の万華鏡。お茶はインスピレーションの産物だわ。七人のお茶、この机にひとつひとつ並べて味わった。この目で、舌で。それから私は七つのイメージを紡いだわ。
イメージとは存在の固定、魂のくびき。ひとつのお茶の味と色が、一人の魂を決める。
レミィ。あなたの紅茶は、どんな色?」
5
「あなたの為にお茶を用意しました。時間を進めて、丹念に発酵させたとっておきを。
知ってますか。お茶は時間をかけるほど美味しくなるんですよ」
「(声のみ)咲夜、お願いがあるわ」
「あなたが願うなら、委細承知、万事お任せあれ。と言いたいのですが、そのかわり、誰かの願いが叶えられなくなります。あなたが無理を言うから、道理が引っ込んだ。あちらが立てばこちらが立たず。従者の面目も立ちません。でしゃばる杭は打たれる。怒られる前に謝っといてください」
「(声のみ)咲夜、望みがあるわ」
「あなたが望むなら、用意してみせましょう。綺麗なお召し物、豪奢な洋服、貴重な陶器のカップ、清楚なクロス、贅沢な調度、机いっぱいの稀覯書。火が足りないのなら薪を焚いて、赤が足りないのなら幾兆の牡丹を搾って、香りが足りないのならギリアデの乳香を注ぎ、ペットが欲しければ大鴉を攫ってきましょう。あなたが望むなら、何でも。
あなたは大切な方の、大切な人ですから。
でもまずは、(掌に香水壜。紅色の液体)この特別な紅茶を(液体を注ぎ込む)」
「(声のみ)咲夜、毒は入れないで」
「毒ではありません。これなるは仙丹の源、不老不死の約束手形。丹砂、朱砂、赤い辰砂」
「(声のみ)ヤシ油、テレメンテーナ、マンテイカ」
「さあ、ぐいっと一杯!」
「(声のみ)咲夜、メリクリウスの娘、ヘルメスの涙。お前は静寂と浄化。静かになさい」
(カップの砕ける音! 静寂)
6
「お茶会を始めましょう。
レミィの紅茶は赤。紅い色。真紅のルビー。赤は火のイメージ。『火』は変化と動き。『火』曜日は鉄。鉄は血の味に似てるわね。血の味がする紅茶。吸血鬼のお茶は鉄分が豊富。貧血には鉄分が有効です。でも血は嫌いだわ。隠し味にベラドンナ。銀のスプーンでひと匙ばかり。お茶うけには炒ったピーナッツ」
「炒った豆は嫌いよ」
「あら、お帰りなさい。ちゃんと淹れられたのかしら」
「大丈夫よ。はい」
「ありがとう。いい香りだわ。……紅いお茶。琥珀色ではないわ」
「ミルクが入っていないもの」
「……レミィ」
「セルフサービス」
「入れておいてくれてもいいじゃない」
「私に盛られるのが嫌なんでしょ。なら自分の手でおやりなさい」
「意地悪ね。砂糖は」
「砂糖壷はここに」
「……しょっぱい」
「えっ、嘘。(砂糖壷を覗いて)やだ、これ、お塩じゃない」
「これは新しい嫌がらせかしら。それとも、歪んだ親愛の情? レミィの創作紅茶? 吸血鬼のお茶は独創的なのかしら」
「紅いお茶に塩を入れたら、血のようね。ところでパチェ」
「なあにレミィ」
「さっきの独り言は、なに」
「お茶うけには炒ったピーナッツ」
「だから炒った豆は嫌い」
「大蒜のスライス。柊の冠。山査子の杭。鰯のツミレ。通り道に撒かれた穀粒。磨かれた鏡。銀のナイフ」
「ひどいわ。全部私の嫌いなものばかり。嫌がらせかしら」
「友達にそんなことはしないわ」
「本当かしら」
「聖ジョージの名にかけて」
「やめて。聞きたくない名前だわ」
「じゃあレミィの好きなものを歌いましょう。
紅い木の実がのった砂糖菓子、ブラッドチェリーのゼリー、ラズベリーのタルト」
「ご機嫌取りのつもり? まあ、いいわ。のってあげる。
クランベリーのパイ、イチゴのムース、石榴のジュース」
「お茶会を始めましょう。
紅茶、ミルクは多め、砂糖も多め。隠し味に、ひと匙のブランデーと、B型の血液」
「お召し物にはルビーのイヤリング、紅髄玉の首飾り、珊瑚の髪飾り」
「あなたのために茶席は豪奢に整えましょう。
真紅の薔薇と、椿、牡丹の流す花血に浸して染めた、緋色のベルベット。サテンのドレスの色、夕日がナイフさながら、空を切り裂き、血を散らしたような朱。
紅い花々を敷き詰めて。広げられた花のカーペット。果ては、揺らめく火影の赤、日の茜色」
「茜色、Madder(マダー)。Mudder(マーダー)、殺人、戯れに。滴る朱の雫を掬って。渇きをいやす命の美酒、私の顎を伝って零れていく。
零れた雫は流れ流れて、やがて火色の筋となり、南欧の古都を焼き亡ぼす色となる」
「焼かれた大地には硫黄の香りがする赤い花(レミリアの薔薇を紅茶に一片)」
「白い花さえ朱に染める征服の大河(パチュリーの薔薇を紅茶に一片)」
「あなたが好きなものは、全て赤」
「赤色は好きよ」
「あなたは、赤そのものね」
「そうね。赤は私の色。いえ、私そのもの。スカーレットの名は、伊達じゃなくてよ」
「スカーレット、燃え盛る炎の赤。炎に包まれた屋敷から去った女もまた、スカーレット。
人影は絶え、音は止み、全ては風と共に去りぬ。何もかもが無くなった館に唯一残されたのは、火影のもえざし。その赤が凝って生まれたのが、きっとあなた」
「赤、スカーレット、炎。宿命的な繋がりを感じるわ。やっぱり、私に相応しいわ」
「ところで、ねえ。銀色はいかがかしら?」
「銀は嫌い」
「ひどいわ。咲夜の髪だって銀色なのに」
「咲夜は好き。けれど銀は嫌い。咲夜の髪の匂いは好き。でも髪の色は大嫌い」
「我侭なお嬢様。咲夜も大変だわ」
「ふん。我侭は貴族の嗜みよ。それに咲夜も咲夜よ。あの子、ときどき私の紅茶に毒を盛るのよ。大変なのはお互い様。まあ、それでもあの子の紅茶は美味しかったし、危険な悪戯を私も楽しんだわ」
「レミィのも美味しかったわよ」
「当然でしょ。私が淹れたのよ」
「ええ、とても独創的。砂糖の代わりに塩を入れるあたりが」
「ああ、もう! 毒でも入れてやればよかった。
やっぱり慣れないことはするものじゃない。お茶は咲夜のに限るわ。
飲みたいわ、あの子の紅茶が。喋っていたら欲しくなったわ。それに赤い木の実がのったお手製の焼き菓子も。
ふふ。紅茶にお菓子ときたら、当然お茶会ね。
フランに、咲夜に、メイドたちに、美鈴に、小悪魔に、あなたを加えて。気が向いたら霊夢も呼ぼうかしら。お茶会は休日の前の日に。夜通し騒いで雄鶏の鳴き声とともに眠りにつくの」
「今は二人きりだけど」
「そう。昔みたいに」
「紅魔館も賑やかになったものね。昔の日々が嘘のようだわ」
「私はいまの暮らしも気に入っているわ。この時が永遠に続けばいいと思うほどに」
「永遠に、ね。そう、永遠……。悪い言葉じゃないわ」
「あら、あなたもそう思うの。……なんか不気味だわ」
「お黙りなさい。あなたたちに感化されただけよ」
「今夜は珍しいことばかり。パチェがめかしこんで、私が紅茶を淹れて、そして二人っきりでお茶会をするなんて。この珍しくも呪わしい日を、さて、なんて呼ぼうかしら」
「どうでもいいこと。魔女と吸血鬼のお茶会」
「そのまんまでつまらないわ」
「哲学者のお茶会」
「なにそれ。私ならそう、クイーンとチェシャ猫のお茶会」
「マッドハッターと三月兎がいないわ」
「いらない。狂人の帽子屋に狂気の兎ももう結構。気が触れたやつは妹だけで十分」
「キング。ジャック。ジョーカー」
「従順なジャックも最高のジョーカーもいるわ。キングなんてお飾り。優れたクイーンがいれば事足りるわ」
「アリスは?」
「七色の人形遣いなんてお呼びでない」
「ハンプティ・ダンプティは……世界の卵」
「何よ、急に」
「いいえ、なんでもないわ。ねえ、どうして私がチェシャ猫なのかしら」
「胡散臭いところ。何を考えてるかわからないところ。紫色なのも、そうだわ」
「ひどい言いようね」
「ならあまり変なことを企まないでほしいわ」
「知識と好奇心の赴くままに行動してるだけよ」
「自重してほしいわね」
「善処しましょう」
「あなたの言葉って信用できないわ」
「レミィ、魔女の言葉は信じるものではないわ。信じさせるものよ。そうだと思い込まさせる、誘惑の魔法。魔女との会話は危険な遊戯。
言葉遊び。火遊び。知らず知らず、遊びでなくなっているかもしれないわ」
7
「(独り言。誰にも聞こえないほど小さく早口)ハンプティ・ダンプティ。お前は世界の卵。哲学の卵。殻が割れぬ限り、お前は閉ざされた世界でもある。紅魔館は、レミィと私しかいない閉ざされた世界。今宵ばかり、紅魔館はお前であり、この館は哲学の卵となる。
火を絶やしてはならない、大作業には不死の火が必要。大丈夫。火は、私の目の前に」
8
(妖精のメイドが二人、現れる)
「ねえ、聞いた?」
「何が?」
「あのね、メイド長が、(ひそひそと)」
「聞いた聞いた。まさか、(ひそひそと)」
「お嬢様、意気消沈」
「火が絶えたかのようよ」
「大丈夫かしら、メイド長」
「わからないわ。仕方がないけど、私たちが頑張りましょう」
「そうね。それしかないわね」
「メイド長に比べれば私たちなんて」
「銀と錫。月とスッポン」
「でも磨けばそれらしくなるって」
「色合いだけは似てるらしいわね」
「誰がそう言ったんだっけ?」
「忘れちゃったわ。そんなことより……」
(笑い合いながら、退出)
9
(くすくすと笑う声。残響。時計が刻む音。チクタク、チクタク、チクタク。……)
「錫のスプーン」
「えっ?」
「落ちたわ。ちりーん、て音を立てて。よく響いたわ」
「本当ね。こんなにも音が響くのね、この屋敷は」
「そうね。全然気がつかなかったわ」
「これまで音が絶えたことがなかったからよ」
「外でコインが落ちる音さえ聞こえそう」
「あなたなら本当に聞こえるかも」
「神社の方向だわ」
「空耳ね」
「空耳が聞こえるくらい静か」
「静かと関係ないわ」
「静かだわ」
「何度も言わなくてもわかるわよ」
「音がないって、退屈。ねえ、あなたも退屈でしょ?」
「とんでもない。普段が騒がしすぎるくらいだから。読書にはこのくらいの静かさがちょうどいいの」
「私は、嫌。静かすぎて死じゃいそう。衰弱死ならぬ、静寂死だわ」
「素晴らしいことね。あるべきものがあるべき姿になることはいいことよ」
「なにがあるべき姿なのかしら」
「吸血鬼は本来死者よ、生ける屍なのよ。死人に口なしという言葉があるくらい、死者は語らないもの。死者は、静寂そのものなのよ。なのにあなたときたら、少し騒がしすぎ。あなたも吸血鬼ならそれに倣いなさいな」
「騒がしい幽霊と、やたらと陽気な亡霊がいますけど」
「レミィ、あなた、静寂は美徳よ。沈黙は銀というわ」
「雄弁は金ともういわね。金は銀に勝るんじゃなくて」
「吸血鬼を静かにさせるには銀に限るわ」
「静か、」
「な湖畔の森の影から、」
「もう起きてはいかがと、」
「かっこうが鳴く」
「なんでかっこうなのかしら。別に夜鷹でもいいじゃない」
「夜じゃないわ、朝よ」
「吸血鬼は朝に寝るから、いいの」
「やめてよ。私は夜に寝るのよ。夢見が悪くなりそう」
「悪夢を見させるのも悪くないわね。全世界ナイトメア。手始めに、あなたから」
「悪夢が見たくなったら薬を飲むわ。そんなことはないでしょうけど」
「その夜男爵は凶夢あまた結びけり」
「男爵? 私は魔女よ」
「いいの。こういうのは、雰囲気の問題なんだから。やり直し。……その夜男爵は凶夢あまた結びけり」
「賓客の武士らことごとく」
「あるいは鬼女、羅刹、さては大いなる蛆虫と化し」
「長く夢をば脅かしぬ。魔女が悪夢を見るって、一体どうなのかしら。別の鳥にしてちょうだい」
「大鴉は?」
「またとなけめ」
「ネバーモア。決して、ない。なにが決してないのかしら。ねえ、なんだと思う?」
「そんなの興味ないわ」
「それは、朝よ。苦悩と絶望の暗幕を切り裂く慈悲の陽光よ。
けれど大鴉が鳴けば、もう朝は来ないわ。世界は永劫に夜のまま。夜は、夜の王たる私のもの。永遠に世界が夜なら、それはつまり私のものとなる。
決めた。三千世界の雄鶏を殺し、幻想郷を夜の帳で閉ざしてみせるわ。
親愛なる魔女よ、陰鬱な預言者よ、パチュリー・ノーレッジ。教えなさい。それはどうすれば出来るのかしら」
「またとなけめ」
「またとなけめ。鸚鵡返し。愚かな九官鳥みたいよ、パチェ。九官鳥じゃないわ。欲っしてるのは、大鴉。朝をもたらさない凶鳥よ。答えないなら、いいわ。知らないなら、用はないわ。咲夜に任せるから。
咲夜、咲夜。いますぐ私の下に連れてきなさい」
「咲夜はもう、いない」
「三千世界の雄鶏を殺し、幻想郷を大鴉で満たしてみせるわ。咲夜、永劫に閉ざされた夜の帳で、あなたとともに」
「咲夜はもう、いない」
「咲夜。主が呼んだのだから、すぐに来なくちゃ駄目じゃない。従者失格よ」
「咲夜はもう、いない」
「咲夜、私は何度あなたの名前を呼べばいいの。暖炉の炎。揺らめく影はあなたの幻のよう、
もえざしの火影ちろりと 怪の物影を床上に描きぬ」
「黎明のせちに遲たれつ――逝んぬ黎梛亞を哀しびて」
「リノア? 誰? 私が呼んでるのは咲夜よ。私の憂いを晴らせるのは、あの子だけ、
その胸憂を排さばやと黄巻にむかへどあだなれや」
「嬋娟しの稀世のをとめ 天人は黎梛亞とよべど」
「咲夜……何度も呼んでるわ」
「とことはに 我世の名むなし」
「またとなけめ。あなたは、答えない。私は、幾度も呼ぶわ」
「大鴉は朝をもたらさないのではない。同じことを繰り返すだけ。鸚鵡返し。まるで愚かな九官鳥ね。忠告したわ。まともな鳥を選べって」
「幾度も名前を呼ぶわ。けれども返事は、決して、ない。同じことを繰り返すのは、時間の進まない時計? それとも傷のついたレコード? いいえ、愚かな九官鳥。(俯く)……馬鹿みたい。その九官鳥は、私だわ」
「繰り返されるだけの日々。時間はもう、進まない。
(レミリアの髪に指を絡め囁く)レミィ。あなたは捕らわれつつある。大鴉の影に。その影に囚われたものは、どこにも進めない、ウロボロスの贄。
かの蛇は生と死の円環。閉ざされた円環の中で、あらゆるものは、腐敗していく。永遠は、腐乱の同意語。けれど、腐敗は再生への契機となる。腐敗は死体と、骸骨と、鴉に象徴されるわ。あなたは、知らないでしょうけど。
……紅茶が冷めてしまったわ。冷えた紅いお茶は、まるで凝固した血液のよう。血は嫌いだって、言ったのに」
(無言。しらけた静寂。時計は刻む)
10
「(独り言)静かになったわ。死者は静寂であるべし。沈黙は銀という。吸血鬼を静かにさせるには銀に限るわ。あとひと息、かしら?」
11
(暗闇。横たわった女=赤髪、が起き上がる。もう一人の女=蝙蝠、赤髪の女に背を向けながら本を片付ける)
「ひと息いれただけです。さぼってなんて、いません。本当なんです、信じてください」
「誰に言っているんですか。そこには誰もいませんよ。図書館で騒いではいけません。静かにしてください」
「怒っているんですか。呆れているんですか。嫌いになってしまったんですか。
帰ってきてください、お願いです。声を聞かせてください。あの鈴のような声を」
「当図書館の三大規則。騒がない、喋らない、盗まない。静かにしてください」
「(呼びかけを無視する)姿を見せてください。あなたの姿を。銀細工のようなあなた。水晶みたいな瞳、刃物のように鋭く。それから、輝く銀の髪。赤銅の私の髪とは違う」
「静か、に、してください」
「名前を呼んでください。美鈴。美鈴。あなたのその唇で。その舌で。あなたに呼ばれない名前なんて、きっと、意味がないんです」
「呼ばれない名前に意味はない? それでも名前があることには変わりないわ。名前があるだけいいじゃない。贅沢な悩みよ。私には呼ばれる名前さえないのに。愛しいあの人は私を呼んでくれる。けれども名前で呼ばれることは、決して、ない。
呼ばれない名前に意味が無いのなら、名前さえない私は、なに?」
「美鈴って、呼んでください」
「そんなに呼んでほしいなら、私が呼んであげるわ。その代わり、私に名前をちょうだい。美鈴。美鈴……」
「まるで鉛を叩いたような声。違う。私が欲しいのは銀の囀り」
「あなた贅沢よ。それだけ恵まれているのに、これ以上なにを望むの」
「呼んでください……」
「憎いわ。妬ましいわ。悔しいわ。そんなに銀が欲しいのなら、くれてやるわ(懐から銀のナイフを取り出す)」
「あっ、やめて!」
(もつれあう二人。赤髪=美鈴にナイフを突きつける。触れた途端、ナイフが鉛のようになる)
(美鈴、蝙蝠=小悪魔を突き飛ばして駆け出す。小悪魔、鉛のナイフを手に、よろめきながら去っていく)
(漆黒。誰もいなくなる)
12
(無言。パチュリー、鉛のスプーンで紅茶をかき混ぜる)
(無言。レミリア、銅のスプーンを弄ぶ)
「……パチェ。今日は何曜日だっけ」
「いまはまだ、火曜日よ」
「いまは、まだ。けれどじきに日は変わるのね。火曜日の次は、水曜日」
「ほんの一刻ばかりで、終わるわ」
「ねえ。咲夜がいなくなってからもうじき一週間になるわ」
「いなくなったのは咲夜だけかしら」
「みんないなくなってしまった」
「あの子が消えたのは、いつ」
「忘れもしないわ。その日は、水曜日。外から帰ってきたら、あの子は影も形もなくなっていた」
「水曜日は、水銀。
水銀は丹の元、辰砂の材料、不老不死への約束手形。けれど古来では毒殺にも用いられた。ほんの一滴、皇帝のお茶に滴らせて。後に残るは死者。死人にくちなし。
『水』は静寂と浄化を象徴する。それから?」
「メイドたちが消えたのは、木曜日のことだわ。騒がしいあの子たちがいない屋敷は、眠りについたかのように、静かだわ」
「木曜日は、錫。
卑属な金属。けれども欠かせないもの。研磨の果てに錫は金となる。
『木』は生命と目覚め。妖精の彼女たちには相応しいかしら?」
「(問いかけに答えず)金……。金曜日。錫……鈴? ああ、美鈴も消えてしまった。あの役立たず門番。けれども愛しい妖怪娘」
「金曜日は、銅。
銅を見くびってはいけないわ。古の時代、かの金属は神聖さの象徴。これをもつ者は富を約束されたわ。役立たず? いいえ。適度な銅は体によく、多量にとれば致死の猛毒と化す。
『金』は実りと豊かさ。気脈、龍脈に通じれば、豊饒はもたらされる?」
「(問いかけに答えず)翌日、また消えたわ。土曜日。小悪魔、あなたもどこかへいってしまった」
「土曜日は、鉛。
錫と並ぶ卑金属。卑しく、価値のない金属だとお思い? まさか、あなたは必要だわ。銀の純化には鉛が求められるから。
『土』は基礎と不動。確固たる足場がなければ、いかなるものも容易く瓦解するわ。小悪魔。あなたという礎があるから、私は立っていられる」
「最後よ。日曜日。大切な私の妹……フランドール・スカーレット。最初からいなかったかのように、消えた。しばらく遊んでやれなかったから、あなたは拗ねて隠れたの?
ごめんなさい、フラン。もう一人にはしないわ。お願いだから出てきてちょうだい」
「日曜日は、金。
金すなわち黄金は、錬金術の始まりにして終わり。黄金……完璧なるもの、不死のシンボル。金は太陽にも象徴されるわ。太陽はまた、賢者の石を生み出すために不可欠な存在。
太陽のなる木。大錬金法の象徴。禁忌「レーヴァテイン」……災いの枝にして炎の剣。燃え盛る炎の枝々、宿命的だわ。
『日』は能動と攻撃。妹様。あなたは宿命的なまでに、黄金よ」
「そして誰もいなくなってしまった? ここに残ったのは私と、あなただけ。他には、誰も、いないわ。
どうすればみんなは帰ってきてくれるの。過去に遡ればいいのかしら? それとも時計の針を逆しまにすればいいのかしら?
時計……。そういえば、ねえ、パチェ。あの時計はいつ、誰が直したの?」
「どの時計のことかしら」
「ここの、大図書館の、大時計よ。あれは壊れていたはずよ」
「あの時計は直ってなんかいないわ」
「あなたのその耳は飾りなのかしら。ほら、あんなにも針の音が聞こえるわ」
「時計の針が動いているからといって、それは本当に直っているのかしら。時を刻んでいるけれど、もしかしたら時間は進んでいないのかもしれない。同じことを繰り返しているだけなのかもしれない。まるで傷がついたレコードのように」
「何を、言っているの」
「お聞きなさい。
あの時計は、過去を刻む時計。あるいは逆しまの世界の時計。鏡の国の時計。時間は進まず、一週間が逆戻り。日曜を基点に、土曜、金曜と遡り、月曜がお休み。逆しまの日曜日。形ばかりだけど。
時が進むごとに、失せものが増えるのなら、時が戻れば、失せものは帰ってくるでしょう。全てが消えた日が今日だとしたら、逆に回せば、今日が全て帰ってくる日になるわ。
あの時計は壊れていたわ。けれど、私が命を吹き込んだ。この口と、言葉で。今日という日を基点に、七曜が逆転するように。
はじめに、言葉あり。言葉は万物を縛り付ける荒縄。魔女の言葉は魂を括る金鎖」
「あなたが?」
「ええ、私が。時計よ、時計よ。お前は過去を刻む時計、七曜を逆転させる車輪、と。そう括ってやった。直ってなんかいない。あれは壊れたまま、仮初の命で廻っているだけ。
レミィ、安心して。もうじきみんなに会えるわ」
13
(パチュリー、席から立ち上がり、レミリアの背後に立つ)
「その夜男爵は凶夢あまた結びけり――
魔女じゃないわ。吸血鬼なら男爵より、伯爵でしょうけど」
「賓客の武士らことごとく――
あの子たちは、どうなったの」
「あるいは鬼女、羅刹、さては大いなる蛆虫と化し――
鬼となった? 蟲となった? いいえ。そんな卑しくて、おぞましいものでなく、そのかわり、綺麗な金属の輪になった」
「(唱和して)長く夢をば脅かしぬ――
悪夢を見せていたのは、あなた?」
「長く夢をば脅かしぬ……。
けれども、それもお仕舞い」
「いったい、何をやったのよ」
「(レミリアの耳に唇を寄せる。囁く)レミィ。あなたの目は紅玉のよう。あなたの頬は薔薇のよう。あなたの髪はもえざしの香りがする。あなたの唇は鉄錆の味がする。あなたの魂は燃え盛る炎」
「パチェ」
「黙ってお聞きなさい。というよりも、もう、喋ることしかできないでしょうけど。
身動き、できないでしょう。
毒を盛ったですって? まさか。第一、あなたには無駄でしょうに。私はただ、あなたを縛っただけ。たったひとつのものに。あなたに相応しいイメージに」
「パチェ」
「このお茶会が始まったその時から。
思い出して御覧なさい。私があなたに幾度も語りかけた言葉を。幾度も呼びかけた言葉を。
……赤。
私が、あなたは赤そのものね、と問えば、あなたは私そのもの、と答えた。魔女の問いかけに、返事をしたのよ。こういう言い伝えをご存知? 魔女と言葉を交わしてはならない。さもなくば魂を奪われる。
同じ方法でみんなを括ったてきたわ。
妹様、咲夜、メイドたち、美鈴、小悪魔……。ひとりひとり順番に。この順番も大事なのよ……まあ、それは置いとくわ。連想されるひとつのイメージで括り、それから一端ご退場願ったわ。
レミィ、あなたひとつだけ勘違いしてるわ。一番最初にいなくなったのは、日曜日の妹様。あなた、しばらく妹様のところに行ってなかったから気が付かなかった。ただそれだけ、よ。
吸血鬼を縛るのは本当に大変なことなのよ。あなたはとても強いから。普段のあなたなら問題はなかった。けれどもいまのあなたは弱っている。
吸血鬼を静かにさせるには銀が有効。銀は銀でも水銀だったけど。
レミィ。レミリア・スカーレット。あなたをイメージする言葉は無数にあるわ。それと同じだけのあなたがいるわ。吸血鬼。夜の王。紅い悪魔。永遠の子供。運命。宿命。……。
挙げれば、きりがない。だけど、いまのあなたは、赤。そう括ってやった。そう括られた。あなたのイメージは、そのひとつに集約されたわ。イメージの限定よ。
赤になったあなたは、吸血鬼でも、運命でもなんでもない。だから吸血鬼の力も、運命を操る力も、ないわ」
「(黙って耳を傾ける)」
「赤……。赤色は何を連想させる? 薔薇? 血? 太陽? 心臓? いいえ、もっと相応しいものがあるでしょう。抽象的でもあり、具象的なものが。
それは火よ、炎よ。赤は、燃え盛る火の色。赤は、火をイメージさせる。赤は火。火は赤。
あなたが赤であるなら、同時に火でもあるわ。
『火』は変化と動き。死者の癖に騒々しくて、落ち着きがなくて、だけどこの館が動くには不可欠なあなたは、まさに変化と動きの象徴。
火曜日は、鉄。血は鉄錆の味。命の朱の美酒で、唇を濡らし、服を幾度も汚したあなたにはきっと鉄がお似合いでしょうね。
あなたは、赤。あなたは、火。あなたは、鉄。あなたは、火曜日。
ようやく、つかまえた」
「パチェ。……パチェ」
「万物は、奔馬であり、これなる馬を括る縄を、言葉と言い、この力を言霊という。力が強ければ、縄はきつく、固く、馬を抱きしめる。
見よ、あの赤き馬を。これに跨る者を運命といひ、劫火これに随ふ。
もう逃れられない。夜が変わる前に終わりにしましょう。火曜日が月曜日になる前に。大丈夫、恐がることはないわ。またみんなに会えるから。そうしてお茶会を始めましょう。永遠に、ずっと。
(ティーカップを手に取る)
(指を噛み、血の雫をカップに垂らす)
レミィの紅茶は赤。紅い色。鉄錆……血の味に似た。隠し味はベラドンナ、お塩、血液。七つのスプーンで、ひと匙ずつ。
吸血鬼のお茶は鉄分が豊富。貧血には鉄分が有効です。でも、血は、嫌い。
だから、あなたが、お飲みなさい」
「パチェ。
なぜこんなことをするの。みんなを消して、私を苦しませて、こんな手の込んだ魔法を用意して。
私が憎いの。咲夜にばっかりかまっていた私を。それともこれは、なにかの魔法の実験なの。何が欲しいの。何を望んでいるの。
ねえ、パチェ。教えてちょうだい」
「望みを叶えようとしただけ。
あなたを、愛しているわ。いいえ、あなたたちを。
この日々が永遠に続けばいいと思った。あなたと同じように。だから、こうして閉じ込めて、みんなでお茶会だけを楽しむ世界にしようとね。
一日毎にみんなを隠したのは、あなたの心を弱らせるため。咲夜がいない日々は寂しかったでしょう。今度からはもう少しあの子を労わりなさい。ああ、そう。七曜を逆転させようとしたのは、ただのお遊び。あなたと同じ、戯れよ。
(手にしたカップに目を落とす)赤色、紅色、朱色、茜色……Madder(マダー)。Mudder(マーダー)、殺人、神隠し、戯れに。
滴る朱の雫を掬って。渇きをいやす命の美酒、あなたの顎を伝って零れていく。(レミリアの顎を持ち上げる)
零れた雫は流れ流れて、やがて火色の筋、炎の舌、あなたを焼き尽くし、征服する、色」
(火のように赤く、血のように凝った紅茶を注ぎ込む)
14
(ちろちろと燃える暖炉の炎。二人の影が重なっている。魔女の立ち姿。蝙蝠の羽。影が一つになる)
さればこそ大鴉 いかで翔らず恬然とその座を占めつ、
儂が房室の扉の真上なる巴刺斯神像にぞ棲りたる。
その瞳こそげにげに魔神の夢みたるにも似たるかな。
灯影は禽の姿を映し出で、床の上に黒影投げつ。
さればこそ儂が心 その床の上にただよへるかの黒影を
得免れむ便だも、あなあはれ
――またとなけめ。
(鐘に鳴る音。鴉の鳴き声!)
15
(誰もいない大図書館。魔女が、一人、たたずんでいる)
「一週間、七日。進めど戻れど、結局は繰り返し。
七、八。七曜の流れにない数字……。流れそのもの。横たわって。無限……夢幻。ウロボロス、蛇、円環、永劫回帰、永続性。
メビウスの環の上では始まりも、終わりも同じ。月曜が日曜、日曜が月曜、太陽と月が同一な時に。
大鴉……。影に囚われれば、逃げ出すことあたわず。永遠に、永遠にない。鴉は黒、腐敗。永遠は腐敗と同義語。けれど恐れる必要は無いわ。腐敗は再生への契機だから。
唯一者の奇跡の成就に当たりては、下なるものは上なるものの如く、上なるものは下なるものの如く。
万物が一者より来り存するが如く、万物はこの唯一者より変容によりて生ぜしなり。
全て当てはめ終わったわ。後は、私だけ。
赤い薔薇は硫黄、白い薔薇は水銀。塩を司祭に、哲学的に結び合って……。この紅茶は哲学の卵。
月曜……。月曜日は、銀。
月……。月は咲夜じゃない。月は、私。(髪飾りに手をやる)
『月』は受動と防御。動かない私にはお似合いだわ。
七曜を逆転させてみたのは、ほんのお遊び。月曜をお休みにしたかったから。
なぜ? それは私の二つ名のせい。言葉は、名前は、鎖。私も例外ではない。
私は『動かない大図書館』。
月曜日は、図書館が全国的に休館です。
だから、月曜を休日にしたかったの。
夜通しのお茶会、今夜はひとまずお仕舞い。また日が廻れば、出会えるわ。すべてを忘れて思う存分騒ぎましょう。
さあ、もう寝るわ。
お休みなさい、みんな」
(紅茶を、一口)
(魔女の姿が消える)
(そして誰もいなくなる)
16
「お茶会を始めましょう。
「日曜日は金。『日』は能動と攻撃。目覚めの時間よ。逆しまの日曜は、全てが逆さ。誰もいなくならない。
おはよう、妹様。さあ、眠っているみんなを起こしましょう。
「土曜日は鉛。『土』は基礎と不動。まずは図書館の片づけから始めるわ。
小悪魔、あなたの名前を呼ぶわ。手伝いなさい。
「金曜日は銅。『金』は実りと豊かさ。茶席に彩りが欲しいわ。赤い花に、紅い果物。実り豊かに、色彩鮮やかに染めるのよ。
美鈴。たまには番人以外で役立って見せなさい。
「木曜日は錫。『木』は生命と目覚め。ようやくお目覚めね、寝ぼすけたち。あまり役に立たないけど、いれば館が賑やかになる。
さあ、メイドたち。きりきりと働きなさい。
「水曜日は水銀。『水』は静寂と浄化。だいぶ汚れているから掃除は念入りにね。騒ぎすぎのメイドは黙らせなさい。
明日はいよいよお茶会よ。
咲夜。とっておきの紅茶を。
「火曜日は鉄。『火』は変化と動き。
あなたがいなければ紅魔館は動かない。あなたの我侭がこの館を動かす。
あなたの望みどおりにしたわ。永遠に続く日々、夜通し騒ぎ続ける夜会、紅白の鶏が鳴くまで。
赤い王衣をまとって、紅い王冠を被った、永遠の赤ん坊。さあ、お待ちかね。
レミィ。
お茶会の時間よ」
密室の館、時間は円環となり閉ざされて、発端と終末、忘却と再生、消失と顕現を幾度も繰り返し、廻り廻って、やがては混ざり合い区別が付かなくなれば、全てが等しく溶け合う。
逆しまの錬金工程に、賢者の石の抽出を繰り返し。その果てに、古い魔女は永遠の日々を望む。
閉ざされた卵の中で、紅白の鶏が鳴くその日まで、少女たちは秘かに腐敗していく。
(――幕――)
言葉のリズムが心地よく、どんどん流れるように読んでいきました。
素敵な雰囲気です。最高です。
単語のひとつひとつに漂うロマン主義っぽい香り。
美しさと退廃が漂う空気が個人的にはよかったです。
七曜の言葉のトリック(と言っていいのだろうか)も面白いと思いました。
次に読むときは、ディンブラでも用意します。
ごちそうさまでした。
雰囲気が素晴らしい
こういう紅魔館も良いものですね・・・。
メイド全員を一日でとは頑張ったな、パチュリーw
お見事です。
「名前を(で)呼んで下さい!」
「この贅沢者!!」
美鈴と小悪魔、パチュリーが企まんでも消えそうw
そう感じました。
七曜に紅魔館メンバーをあてはめた点には圧倒されました。
良かったです。
しっとりと甘く、何時までも口の中に残るような、腐敗を連想させる、そんな感想を得られた。
久方ぶりに気持ちの良い不安定さを噛み締めることが出来ました。
ありがとう。
読み直してみて納得。
はてさて紅白の鶏はいかなる目覚めをもたらしてくれるのでしょうか・・・
独特の雰囲気とトリックにぐいぐい引き込まれていきました。
一度読んだだけでは分からなかった部分も、二回目以降はああそうか、と納得がいきますから面白いです。
彼女たちの茶会がどうか続きますように。
言葉のリズムや、独特の雰囲気、演劇の様な表現。
どれもこれも素晴らしい!
ところどころの引用も大好きです。
リズムといい雰囲気といい心に来ました
言葉遣いのセンスにも隙が無くて、お見事。
元ネタがわからないところはいろいろありますが、七曜をこう使うアイデアが良いですね。
よくもこうそれぞれに対応するイメージが出てくるものだと感心しました。
引き込まれるリズム。すごい。
役者の動きまで想像できる、良い作品でした。