Coolier - 新生・東方創想話

東方放浪記 ~迷いと不安~

2008/04/14 08:36:52
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     ※これは作品集その51『東方放浪記 ~こちらスネーク(嘘)、待たせたな~』の続きです。

     ※最初は作品集その46『東方放浪記 ~序章~』です。

     ※いまさらながらオリキャラが出てきます。苦手な方はご遠慮ください。












 よく分からないけど暗い顔をしていた。
「よく分かりませんが暗い顔ですね」
 と言ってみた。
益々暗い顔になった。
少し面白かった。
 とある森の中、二人の人間が歩いていた。
正確に言う1.5人と0.5匹、とでも言うのだろうか。
しかし、ここで正確に言っても、これといって意味は無いのでやはり二人としておく。
とにかく二人、肩を並べて歩いていた。
 一人は秋の中頃にしては暑そうな上下長袖で、靴は無骨なブーツにも見える安全靴、両手には手袋を嵌めていた。
色は統一して真っ黒で、唯一服の胸の辺りにある三日月模様が赤く染まっている。
年間を通してこの格好を通し続けるという偉業をやってのける長身の男――鴉間与一。
 一人は緑を基調とした服に身を包んで、その背には二振りの刀が背負われている。
髪は銀色のボブカットという、一見合いそうにも無いが実は結構いける組み合わせで、その周りには常に白い幽霊が付きまとっている。
与一に暗い顔と言われ益々暗い顔になった小柄な彼女――魂魄妖夢。
肩を並べて森の中を二人きりで歩くような仲でもない二人がなぜこんな状況になったのか。
話は数時間前に遡る。





「やぁやぁ、妖夢じゃないですか」
 里へと続く道で与一と妖夢は出会った。
肩を並べて歩くような関係ではないにしても、宴会で知り合った、お互い知己の存在である為、こうして声をかけるのも不思議ではない。
「あっ、与一さん。お久しぶりです」
「ええ、この前の宴会振りです――ところでどこに行く予定ですか?」
「ちょっと人里まで食材を買いに……」
「こんな時間にですか?――って、幽霊にしてはこれからですね」
 時計の針はすでに九時を回っていた。
「幽々子様がいきなりたこ焼きが食べたいとおっしゃられるものですから。あの方には一日三食という概念は無いんです」
「あー、なんとなく分かる気もしますよ」
 博麗神社で宴会を行うとき、私はいつもおつまみ製作の担当に回されるのだが、幽々子のブラックホール胃袋のおかげで調理がついていかないのだ。
恐るべし、西行寺幽々子。
「ところで与一さんはどちらに?」
「貴方と同じく里に。春や秋は山菜が多く取れましてね、過分を売ってお金にしてるんですよ。それに最近は漢方が流行ってるみたいですから、薬草なんて結構高く売れるんです。少しでもお金を稼がないと神社から叩き出されそうで怖くて怖くて」
「大変なんですね」
「ええ、お互いに」
 そのとき、私はふっとひらめいた。
「そうだ。目的地も一緒ですし、一緒に行きませんか?一人で黙々と歩いていくのも飽きましたし」
「ええ、いいですよ。一人より二人のほうが話せるし、安全ですからね」
「というわけで裏ルートを使いましょう」
「裏ルート?」
「はい。方角的に言うとですね、あの森を越えた方向に里があるんです。回り道するよりこっちのほうが早いですよ」
「……迷ったりしませんかね」
「大丈夫です。私は一度通った道は迷いません」





 で、案の定迷っていた。
この人を信用した私が愚かだった、と素直に思っている。
「日光浴には最適の場所ですね。ここは」
 私を迷わせた当の本人――与一さんはさっきからのんきに喋りっぱなしだ。
「今は夜です」
「じゃあ月光浴に変更です」
 何だそれは、と突っ込みたくなったが我慢する。
いちいちこんなことで突っ込んでいたらそれこそ体力が持たない。
「与一さん、一度通った道は迷わないんじゃなかったんですか?」
「ええ、迷いませんよ」
「じゃあなんで現に今迷ってるんですか」
「初めてだからですよ」
「へっ?」
「私は一度通った道は迷わない、とは言いましたがここを通ったことがあるとは一度も口にしてませんよ」
「…………」
 詐欺だった。
完全なる詐欺だった。
「まぁ頭の切れる鴉に誑かされたとでも思ってください」
「…………」
……今はこの森から出ることが先決で――
「それにしても暑いですね~。やっぱり幻想郷も温暖化してるんですかね」
 ……この人ときたら、まだのんきにそんなことを話しかけてくる。
「与一さん」
 そう言って私は与一さんの方を向く。
黒い上下に黒い靴、おまけに手袋まで黒い。
見てるこっちが暑くなりそうだ。
「与一さんが暑いのは自然のせいじゃなくて、むしろ貴方の格好にあると思うんです。上下の長さはまだ許せますが、手袋はないでしょう。手袋は」
「おやおや、同じ武器を持って戦うもの同士、この手袋の意味が分かってくれると思ったんですがね。いいでしょう。この手袋に関わるエピソードをお話しましょう。たしか、あれは三年前くらいでしたね――」
 訊くんじゃなかった、と素直に後悔した。
「暇で暇でしょうがなかったから鎌で素振りをしていたんですよ。住宅街で」
「何やってるんですか、あなた!?」
「あっ、もちろん空き地でですよ」
「当たり前です!」
「そのときにですね、手が滑ってしまって鎌を飛ばしちゃったんです。危うく民家に入っちゃって」
「はぁ――って、入っちゃったんですか!」
「いやぁ、ちょうど食事時でしてね。ハンバーグにトマトケチャップよりも赤いソースをぶちまけちゃいましたよ」
「ブラックユーモアですらないですよ!」
「まぁ無論加害者側ですし、言っておかないといけないと思ってこういったんですよ」
「謝るだけで許してもらえるのかな……」
「このたびはご愁傷様でした、ってね」
「それは第三者の台詞だ!」
「そしたらその家族が激怒しちゃいまして――」
「当たり前です。何でそんな何でだろう見たいな顔で言うんですか」
「あとは国家権力に任せてもみ消してもらいました」
「最悪だな!あんた!」
 やることも酷ければ終わり方も酷い。
この人は一体向こうの世界で何をやっていたんだ……。
「妖夢、キャラ崩れてますよ」
「別にキャラでこの性格をしているわけでもありませんし、そんな話を聞かされたら誰だって言うと思いますよ」
「んー、そうですか」
 そう言って与一さんはやっと口を閉じてくれた。
こんなに連続で突っ込みをしたのは初めてだろう……。
精神的な意味で疲れた。
滑り止め、と一言で言えば済むものを、わざわざ過去のエピソードまで付けて――与一さんってこんなにおしゃべりだっけ?
「妖夢、妖夢―」
 さすがにそろそろ鬱陶しくなってきた。
いくら温厚な私にだって本気で怒ることくらいある。
よし、ここで怒鳴ってしばらく黙らせよう。
「与一さん!いい加減に――」
 すべてを言い終わる前に手で口を塞がれた。
「むー!!むーー!!」
 それでも怒鳴ろうとする私だったが、指で舌を押さえられてあえなく封じられた。

「妖夢、静かに聞いてください」

 先ほどののんきな声とは違い、いたって冷静な声だった。
酷く、冷め切った声だった。
「敵が近づいています。前方から二匹。恐らく低級妖怪の類かと思われますが、油断しないでください。確かな殺意があります」
 そう言われて気配を探ってみると、確かに二つの気配がこちらに向かっていた。
しかし、ひどく微弱な気配で、神経を尖らせておかなければ感じることは出来ないくらいの薄い気配だった。
「む……」
「私がまず一匹潰しますので、後の一匹をお願いします」
 そう言ってやっと手を離してくれた。
そのまま与一さんは背負っていた鎌を上段に構えて、後ろに重心を置くような姿勢をとった。
それにあわせて私も刀を抜いて構える。
「与一さん、そんな上段に構えて一体何を――」
 最後まで言い終わることなく与一さんは次の行動に出た。
鎌を投げたのだ。
あの鉄の塊で出来ている、しかも重心が一方に偏っているという鎌を、軽々と投げた。
そのまま鎌は綺麗な弧を描きながら、視界のぎりぎりのところで闇に刺さった。
闇に刺さる?
そんなことがあるのか――

「妖夢!前!」

 与一さんが叫ぶ。
私の前――そこにはすでに獰猛そうな犬が今にも噛み付こうとしているではないか。
気配を探ることを怠っていたわけではない。
でも、与一さんに叫ばれるまで気づけなかった。
私もまだまだ未熟なのだろう。
だが、未熟者のまま果てるつもりなど無い。
 私は咄嗟に白楼剣を犬の口にもっていき噛み付かせる。
「――っ!!」
 犬が勢いよく噛み付いてきた反動で後ろに倒れそうになるが、片足を後ろに出しなんとか踏みとどまる。
そのまま犬の無防備な腹に楼観剣を突き立てる。
犬は声を上げることも無く絶命した。
 私が犬の口を開いて白楼剣を抜いていると、パチパチパチと拍手の音が聞こえた。
誰という必要も無いだろう、与一さんだ。
「お見事です。私、初めて見ましたよ、二刀流ってのを。凄いですね。防御と攻撃の両方を同時にやっちゃうんですから」
「凄いと言うのなら与一さんだって。あんな微弱な気配によく気づきましたね。しかも、しゃべりながらでしょう。外の人間とは思えません」
「ああ、あれですか。あれは癖なんですよ」
「癖?」
「そう。いつ、どこで、何をしていても無意識に気配を探ってしまうっていう。悪い癖です。まあ、臆病ですからね、私。それで『案内人』(スケアクロウ)なんて仇名まで付けられたんですよ」
「『案内人』ですか……」
「スケアクロウという単語はスケアとクロウで分かれます。恐怖と鴉ですね。つまり恐怖する鴉――臆病者の鴉間与一になったんです」
「えっ……」
「どうかしましたか?」
「い、いえ。何でもありません」
「そうですか。じゃあちゃっちゃと鎌の回収に行きますか。あっ、妖夢はここで待ってくださいね」
 そう言って与一さんは鎌を取りに奥のほうに歩いていった。
「…………」
 さっき与一さんは自分の仇名の理由を臆病者だからだと自虐したが、前に聞いた話とは真逆の意味取りだった。
前――だいぶ前での宴会の話だ。





「あいつが『案内人』って呼ばれてる理由?」
 私は以前から思っていた疑問を与一さんと同じ外来人である天裁さんに尋ねていた。
「そりゃああいつが『案内人』って呼ばれてるからだ」
「……いえ、そんな当たり前のことを訊いたんじゃなくてですね、呼ばれたきっかけを知りたいんですよ」
「ああ、そっちか」
 普通はそっちだと思うのだが……。
「スケアクロウってのはな、スケアとクロウに分かれるんだよ。恐怖と鴉。んで恐怖の鴉――恐怖の鴉間与一ってわけだ」
「恐怖の――鴉」
「そ、あいつはただそこにいるだけで本能的な恐怖を感じさせる。迷惑な話だよな、まったく」





 そう言って愚痴の一つ二つとこぼしていたが、天裁さんはその本能的な恐怖を感じないのだろうか……。
 そう言えば与一さん遅いな。
あの距離ならもう戻ってきてもおかしくないはずなのに……。
あれ?こんな話、前にどこかで聞いたような……。
そうだ、ずっと前に紫様の気まぐれで開いた怪談の集まりだ。
あの時は怖くて耳を塞いでいたけど、最後の紫様の怪談は境界を操られて無理やり聞かされたんだ。
たしか山で迷った男女が野営の準備をしているとき、男のほうが川に水を汲みに行ってくると行ったっきり帰ってこなくなり、それを不審に思った女が川に行ってみると、そこには食いちぎられた男の姿があり、急いで逃げようと振り返るとそこにはお化けがおり、彼女も食い殺してしまうという話だった。
状況は少し違うが、今の私にとてもそっくりじゃないか?

男=与一さん
女=私

 じゃ、じゃあこれから私は与一さんの死体を発見して、私自身もお化けに食い殺されるのではないか?
だ、だ、大丈夫。与一さんの死体さえ発見しなければ話は進まないことだし、ここで待って朝を迎えればきっと――

 ポン、と何気ない仕草で後ろから妖夢の肩は叩かれた。

「き、きゃーーーーっ!!」
「うわっ!」
 妖夢の肩を叩いたのは恐ろしい人食いのお化け――などではなく、鎌の回収を済ませた与一だった。
「な、なんだ与一さんか――驚かせないでくださいよ」
「それはこっちの台詞ですよ。何なんですか、まるで肝試しにきた怖がり見たいな声を出して」
「生憎ですが、私は幽霊を怖く思いませんし、むしろ怖がる感覚がわかりません」
「やだなぁ、あなたがお化けを怖がる感覚と一緒ですよ、妖夢」
 ……情報の発信源はどこだろうか。
どうせ幽々子様か紫様なんだろうな……。
「わっ、私は別にお化けは怖くありません」
「ふぅん。そうですか。ふんふん」
 明らかに信じてない。
むしろ私の反応を見て楽しんでる。
どこまでも嫌味だな、この人は……。
「ずいぶんと遅かったですね。他に何か探してたんですか?」
 無理やり話題を逸らしてみた。
また元に戻されそうだが――
「ええ、ちょっとこの犬のことをね」
 与一さんは犬を指差してそう言った。
どうやらあの話題はあれで終わりらしい。
少し安心。
「それで、何か分かったんですか?」
「この犬、私の推測だと『影なしドッグ』です」
「……影なしドッグ?」
「はい、名前のとおり影がないんです。ほら」
 そう言って与一さんはペンライトを取り出し、光を当てた。
いろいろな角度から犬を照らしているが、影はどこにもできない。
「この犬は普段は綺麗な銀色の毛並みをしていますが、夜になると漆黒の色となって闇に混じり、人を襲うと言われています。影がないゆえに存在も薄い。たいていの人なら牙が刺さるまで気づきもしないでしょう」
「そうだったんですか。全然知らなかったです」
「知らなくて当然です。この犬の話は随分最近になってイギリスでできた話。幻想入りするには早すぎます」
「でも、現にここにいるじゃないですか」
「誰かが故意に呼び出した、という線も考えられます」
「あっ……」
「まぁここで推理をめぐらしていても机上の空論、答えにたどり着いても何にもならないでしょう。今、私たちが必要としているのはこの森を出る方法です」
「……そうですね」
「と、言うわけで。さっき廃れた建物を見つけたので今日はここまでにして明日またがんばりましょう」
 あれ?さっきまでがんばって森を抜け出そうって話題じゃなかったっけ?
「急がば回れ、ですよ」
 ……この人の考えてることはさっぱり分からない。





 廃れた建物、というよりも廃村といったほうがあっていた。
木製の家はところどころ壊れていて、長い間人の手がかかっていないことを示していた。
そんな廃村の前に私と与一さんはたたずんでいた。
「いやぁ、見事な廃れようですねぇ」
「見事な廃れようって……ここは廃れてるより滅びてるんじゃないんですか?」
 人の気配どころか生き物の気配すら感じ取れない。
「うまいこと言いますねぇ、でも決していいことじゃないんですよね」
「……ええ」
 滅びた土地に食べ物があるのか、いや、ないだろう。
 あったとしてもそれはもう人の食べ物ではなくなっている。
「私の持っている山菜と水を切り詰めてやっていっても、もって二日です。それまでに何か探さなければいけませんね」
「とりあえず、中に入りましょうか。ここにいても始まりませんし」
「そうですね。じゃあとりあえずまっすぐに進みますか。下手に動き回って迷ったりしたらそれこそ二重遭難ですし」
「そうですね。これ以上迷いたくはないですからね」
 そのまま私と与一さんはまっすぐ歩いていく。
突き当たりもなく、大きく開けた道なので迷うこともないだろう。
「しっかしひどい有様ですね。ほとんどが瓦礫の山じゃないですか。よくて半壊ってところですね」
「いったい何時から誰もいなくなったんでしょうかね」
「少なくとも一年や二年じゃあこんな風にははならないですよ。二桁――いや、最悪三桁までは覚悟しなくちゃいけませんね」
「大丈夫なのかなぁ、ここ」
「だから今、こうやって確認してるんじゃないですか――ん?」
 与一さんが急に足を止めた。
「どうかしましたか?」
「あれ……」
 与一さんの指差した方向を見てみると、そこは土が少し盛られており、その頂点に棒のようなものが刺さっていた。
おそらく簡単な墓のようなものだろう。
「あれがどうかしましたか?」
 今、この状況で特に大切なことではないはずだが――
「……おかしいな。どこかで見たような――」
 そのまま与一さんはふらふらと墓に近づいていく。
その足取りはぎこちなく、その目は光を失っていた。
まるで何かに操られている――否、引き寄せられていくような姿だった。
「与一さん?」
 心配になって私も後についていく。
 与一さんは墓の前に立ち、何の躊躇も無く棒を引き抜いた。
「……槍?」
 そう、あれは棒ではなく槍だった。
黒い槍が月明かりの下で鈍く、獰猛に光っていた。
 私は与一さんの表情を盗み見てみた。

微かだったが、笑っていた。

いつもの軽薄な笑いではなく、ことが思い通りに進んだときに見せる笑いだった。
「さて」
 短くそういうと、与一さんは槍を先ほどと同じ位置に刺した。
「今夜の寝床でも探しますか」
「へっ……?」
「どうかしましたか?」
「あの槍、何かあったんじゃないんですか?」
「別に何もありませんでしたよ。ただの槍でした。お墓に刺してあったから取りはしませんでしたが――」
「じゃ、じゃあさっきの笑いは、いったい――」
「笑い?私、さっき笑ってましたか?」
 どういうことだ?まったく話がかみ合わない。
あの笑いは無意識のうちだったのか、それとも私の目の錯覚だったのか?
「――変な妖夢」
 そう言って与一さんは肩をすくめた。
それはこっちの台詞だし、私のほうが肩をすくめたいくらいだ。
いったいこの人はなんなんだ……。
「ん」
「こんどはなんですか……」
「いい家発見」
 私も与一さんの見ている方向を向いてみると、少しぼろだが、ほかの家と比べると格段にましな家が建っていた。
「今日は疲れましたし、もう寝ましょう。明日、日が昇ったら活動開始です」
「そうですね」
 そうだ、疲れているのだ。
肉体的にも、精神的にも、疲れているのだ。
だからあんな幻覚が見えてしまうのだろう。
今日はしっかりと寝て、明日こそはこの森を抜け出してしまおう。





「与一さん、ひとつ聞いてもいいですか?」
 あの後、私たちは家の中に入り、与一さんの持っていた山菜で軽い食事を済ませた。
そして、後は寝るだけという時、私は与一さんに尋ねた。
「なんでしょう?」
「外の世界ってどんな感じですか?」
 前々から思っていたことだ。
この幻想郷から隔離された外の世界(いや、幻想郷が隔離されているのかもしれない)では、どのような発展を遂げ、どのように人々が暮らしているのか。
決して好奇心の範囲からは出なかったが、ここにこうやって答えを知っている人がいる以上聞かずにいられなかった。
「そうですね……ここに比べたら便利な世界ですよ。科学が発達して、機械が社会の中に取り込まれて、余計な労力が省かれて。後、平和ですね。妖怪なんていないから食べられる心配も無い。たまに悲惨な事件が起きる程度で、後は笑顔で暮らせるような、そんな世界です――表の世界は、ね」
「表の世界ってことは、裏もあるんですか」
「無論です。表裏一体。表があっての裏、裏があっての表です。裏の世界はですね――非情で、残酷で、暴力的で、冷徹です。転んだって誰も手を差し伸べてはくれない。自分で起き上がるしかない。起き上がらなければ――死んでしまう」
「…………」
「どれだけがんばっても報われない。どれだけ行っても辿り着けない。一か零の世界です。そして私は――零だった。行き詰ってしまった。辿り着けないまま、行き止まりに当たってしまった。――全部、あいつに会ってからだ。あの殺人鬼に会ってから、私の時計は零時で止まってしまったんだ。あいつのせいで――!」
 最後のほうはすでに独白になっていた。
よっぽど腹立たしい思い出だったのだろう、いつもの丁寧口調も忘れている。
 私もいつか、行き詰ってしまうのだろうか。

この人のように、狂ってしまうのだろうか。

「……少し感情的になってしまいましたね。もう寝ましょう。明日は早い」
 そう言って与一さんは床に寝転び、目を閉じてしまった。
私も床に寝て、目を閉じる。
最悪な状況、最悪な気分なので、せめて夢の中くらいはいいことがあって欲しい。





 いやな夢を見た。
幽々子様が帰りが遅くなった私をたこ焼きにして食べてしまう夢だった。
そんな悪夢で私は目覚めてしまった。
手足を確認、よしちゃんと付いてる。
隣を確認、与一さんが床に直接寝ていた。
こればっかりは夢であってほしかった。
 まだ日は昇っていないようだ。
しっかりと疲れを取るためにもう一眠りしようとしたときだった。

外から音が聞こえた。

廃村にしては少し騒々しい、よく言えばにぎやかな音だった。
聞きようによっては声にも聞こえる。
だが、ここに人がいないことは確認済みであるため、どうせ虫の音か何かだろう。
虫はちょっと食べる気がしないな。
あっ、でも与一さんなら喜んで食べるかも。
あの人雑食っぽいし。
などと考えながら玄関まで行き、を開けてみる。
「……みょん?」

 そこには驚愕の世界が広がっていた。

私は戸を閉めることも忘れて与一さんを起こしに行く。
「与一さん!大変です!起きてください!」
 揺さぶっても起きないんで蹴ってみたら、案の定ダルそうに起きてくれた。
「……妖夢、朝日はまだですよ。今疲れを取っておかないと後々大変なことに――」
「とりあえず、玄関まで来てください。外がすごいことになってるんです」
「……眠い」
「いいから来る」
 私は墓石のように動かない与一さんを引っ張りながら玄関まで行く。
そのまま与一さんの首根っこを掴んで無理やり外を見せる。
「なんだ、ただの村の風景じゃないですか。驚かせないでくださいよ。普通に人が往来してるだけでなにも――人?」
 やっとこの事実に気づいたようだ。
変なところで鈍感な人だ。
「人がたくさんいる――建物も直ってる――なんで?」
「こっちが聞きたいくらいです」
 そう今、この村は活気に満ち溢れていた。
店が立ち並び、歩いている人々は楽しそうにしゃべっている。
まるでこの村の最盛期を映し出しているかのごとく。
「……いったん家に入りましょうよ。とりあえず一つ一つ確認していかなければ」
「……そう、ですね」
私たちは先ほど寝ていた場所へと戻ることにした
整理していかないと混乱してしまいそうなほど事が進むのが早い。

ここまでの出来事で私の思考は停滞し、そしてこれから起こる混沌に私は考えることを放棄せざるおえなかった。
どうも鏡面世界です。
またしても大分遅くなりました。春は忙しいですもんね!?(←言い訳)
それはさておき、今回は鬼神ストーリーを進めようとしたために東方分が少なめになってしまいました。「東方でやらなくてもよくね?」って叩かれそう……。
反省します。これからはオリキャラ主演でもキャラの個性を前面に生かせるような書き方を目指していきます。
あっ、それと天裁は鬼神ストーリーが終わった後に番外ででもやろうかな、とか思ってます。
ありがとうございました。
鏡面世界
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コメント



0.130簡易評価
1.40煉獄削除
ごめん・・・。何をクロス?させていて何が鬼神ストーリーなのか解らないです。
ただ私にはちょっと解らないものでした。
叩くことはしませんがクロスするものによっては難しいと思いますよ。
そのキャラを生かすも殺すも書き手の使い方によりますからね。
評価は・・・私はマズくはなかったかなと思うのでこの評価を。
6.70名前が無い程度の能力削除
前回の話しあんまり覚えてないのですが・・・・
これは、次回へのプロローグみたいなものですね。期待してます
8.60オワタ削除
最初から見ないと分からんよこれは。
いや、俺は最初から見てるよ?
9.90名前が無い程度の能力削除
ktkr!!新作ですね
まさかみょんがでてくるとは・・・
これからもがんばってください