ドンドンドン、ドンドンドン
「……うるさい」
枕に顔をうずめていたアリスは気だるげにつぶやくと、ベッドから体をおろしのそのそと身支度を整えた。
窓からさしこむ光は弱く、既に夕暮れの時間であることを告げていた。
ドンドンドン、ドンドンドン
ノックの音は先ほどから絶えることなく、一定のリズムを刻んでいた。
いつもの白黒かと思ったが、魔理沙のノックはもっと適当である。
立てかけてあった姿見でアリスは軽く服装をチェックし、ノックが鳴り止まない玄関へと向かった。
ドンドンドン
ガチャ
玄関のドアを開けると、ボロボロの巫女服を着た少女が立っていた。
どこぞの紅白なら突然の訪問にもさして驚くことなどなかったろうが(なにせあの巫女は気まぐれだ)、あいにくと目の前の巫女にアリスは見覚えが無い。
いやそもそも彼女は本当に巫女なのか。少女の服は霊夢の巫女服に似ているが、いろいろと違っていた。
特に異なるのはその色使いか。霊夢のそれは紅と白が基調なのに対してこちらは青と白。
さて巫女服の色というのは決められてはいないのだろうか、それともこの娘は巫女じゃないのか、アリスはそんなことを考えなら、とりあえず少女を青白と呼ぶことにした。
「あんた誰?」
青白を胡散臭そうに見つめながら、アリスは当然の疑問を口にする。
不機嫌なのには理由がある。徹夜で行った人形の稼動実験が失敗、精根尽き果てベッドで眠り込んでいたのに、目の前の青白にたたき起こされたのだから。
「東風谷早苗っていいます」
「そう、まああんたの名前なんてどうでもいいわ。ここに何しにきたの?えらくボロボロの格好だし道にでも迷ったの?」
魔法の森は厄介な生物の住み着く辺鄙な場所だ。
日の光は厚い森の木々に遮られ昼なお薄暗く、人や妖怪を惑わす瘴気がどこからともなく湧き出し、森全体を包み込んでいる。
そんなところを住処に活動する妖怪は普通の妖怪達より大抵たちが悪い。
厄介な奴らががそこかしこにうろつくこの森は、幻想郷の中でもちょっとした異界である。
まともな神経の持ち主なら極力近づこうとはしないだろう。
実際アリスがこの森で人と出会うこと等滅多に無い。偶に好奇心だか、度胸試しでこの森に入ってくる愚か者がいるくらいである。
この少女もその類のものだろうか、服はそこらじゅうが破け、焼け焦げた後まであるし見るからに疲れ切っている。妙に決意の満ちた目をしているのが気にかかるが。
「もしそうなら一夜の宿くらいは提供してもいいわ、さっきみたいにうるさくしなければだけど」
事務的な口調でアリスは告げる。
実際アリスは何度かそういった人間を泊めてやったことがある。
別に親切でやってるわけではない。もし迷ってる人間を見捨てたとなれば、里との付き合いは当然のように悪くなる。
里はど田舎の幻想郷で唯一文明の匂いをかげる場所である。
都会派を名乗る魔法使いとして、週に一度のカフェ通いが出来なくなるのは許せない。人を泊める理由はただそれだけ。
少なくとも慧音に聞かれた時の答えはこうだった。答えを聞いた慧音は苦笑いをしたものだが。
「ご親切にどうもアリスさん、でもあいにく迷子になったわけではないので」
「ちょっと待って。そもそもなんで私の名前を知ってるの?」
どうやらアリスに用があるらしい。少し警戒しながら問いかける。
「魔理沙さんに紹介されまして」
その言葉を聞いた瞬間、アリスは風になった。
ドアのノブに手をかけると全力でドアを閉じ、一寸の遅滞も無くすばやく施錠。
全てが終わった後、後ろ手でドアにもたれかかりほっと一息をつく。
突然訪ねてきた少女。ボロボロの服装。決意に満ちた目。そして魔理沙。疑いようも無く不吉な兆候である。
特に最後の単語がまずい。今まであいつと関わってきた経験が告げていた。この少女には関わるなと。
いきなり目の前でドアを閉められビックリしたのだろう。ほんのちょっと間があった後、少女がドアを全力で叩き始めた。
「ちょっと!どうしていきなりドアを閉めるんですか、用件もいってないのに!」
「生憎あなたの用件に興味はないわ、さっさと帰ってくれないかしら」
不本意なことに厄介事に巻き込まれるのは慣れている。だからといって進んで巻き込まれようとは思わない。
夜を徹した人形実験が失敗に終わり疲れているのだ。さっさと夕飯でも作ってもう一度寝るとしよう。
扉ごしに必死に訴えかける少女の叫びを聞き流しながら、アリスはそんなことを考えていた。
「いきなり門前払いなんてあんまりです、話ぐらい聞いてください!」
(そういえばこの前魔理沙が持ち込んだきのこがあったわね、シチューでもつくってみようかしら。でもあいつの持ってきたきのこじゃねえ)
背後の呼びかけをBGM代わりに、きのこの安全性についてつらつらと考える。
そんな怪しいもの使わなければいいだけの話だが、あいにく食材がきれかかっている。
ここ数日研究に没頭しすぎたせいである。
(うまくいくと思ったのにホントついてないわ)
「神の使いを締め出すなんて、バチがあたりますよ!いい加減にこの扉をあけなさい!」
扉をドンドン叩きながら少女の抗議は尚も続いていた。やはり彼女は巫女の類らしい。
あいにくアリスはバチを恐れるような存在では無かったが。
いままでの様子からして魔理沙のように強行突破してくることも無さそうだ。放っておけば帰るだろう、そう判断したアリスは台所に向かって歩き始めた。
二、三十分もしただろうか、アリスがシチューを煮込み始める頃には、扉を叩く音も訴えかける声も消えて……いなかった。
訴えかける声は次第に小さくなり、扉を叩く音も力を失っていったが、少女はまだ引き返してはいなかった。
「お願い、お願いだから、話を、話を聞いてってば」
訴える声はもはや懇願に近くなっていた。アリスに対する怒りは消え、ただただ必死さがにじみでていた。
本人にとってはよっぽど大事な用件であるらしい。
外を見れば夜の闇が森をつつみ始めていた。これからは闇の住人の力が増す危険な時間帯だ。
しかし彼女は霊力者であるようだし、魔理沙が素人にこの家を案内するとも思えない。
心配する必要は無い、アリスはそう判断した。
「話を聞いて、お願いだから……」
……そう判断したのだが、少女のボロボロになった巫女服が脳裏に浮かぶ。
ドアめがねからのぞいて見れば、彼女の肩は小刻みにふるえ、瞳からはいつ涙があふれても不思議ではない。
なんともいえない罪悪感がアリスを苛む。
(まったくあいつときたら、毎回厄介事をもちこんでくるんだから)
心の中で悪態をつき、アリスはしぶしぶドアノブに手を伸ばした。
◆
「へー、神様の信仰を集めている、っと。それで私のところを紹介された」
「そうなんです。八坂様を信仰すれば貴方も多大な神徳を授かること請け合いです」
淹れたばかりの紅茶を飲みながら、早苗(いつまでも青白じゃかわいそうだ)はニコニコとそういった。
罪悪感に負けたアリスは結局早苗をリビングに招き入れたのだ。
席についたとたんに早速用件を切り出そうとした早苗を押しとどめ、アリスは紅茶を用意した。
どういう形にしろ客は客だし、早苗もちょっとは落ち着くだろう。
「あ、それにしてもこの紅茶おいしいですね、向こうにいたときでもこんな美味しい紅茶、飲んだことがありませんよ」
さっきまで泣きそうな表情だったのに、ほがらかに笑う早苗。
どうやらアリスが風神を信仰するとものと思い込んでいるらしい。
「でも神様を信仰するっていってもねえ、面倒くさそうじゃない」
「信仰といっても難しいことはありません。宴会で一緒に楽しんでくださるだけで十分なんです」
「結構簡単なのね」
「そうなんですよ。アリスさんがよければ、ここに分社を建ててみるのはもいかがでしょうか。神奈子様がお授け下さる神徳も大幅アップです」
まるであやしげな通販番組。ほっとけば風神ペナントだの、予備分社セットだの微妙なものがどんどん追加されそうである。
早苗にそんなことをいえば激怒するだろうが。
「んー、確かにデメリットもなさそうだし、悪くない話ね。魔理沙絡みだからといって邪険に扱ってわるかったわ」
「そんなことはもうどうでもいいんです、あなたはちゃんと話を聞いてくださいましたから。……いままでの人たちときたら」
そういって顔を下に向け深く溜息をつく。ボロボロの巫女服にはそれなりに理由があったらしい。
「じゃあ早速ここに分社を建てることにしますね、どこに建てましょう?」
と袖口からいきなり木材やら大工用具やらを取り出し、あっけにとられるアリスを尻目にリビングを見回し始める。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、いまどっからそれをとりだしたのよ」
「見てなかったんですか?」
「いやだから、そういうことじゃなくて」
「どうしたんですか?ああ、室内じゃあまずいですかね、早とちりしてすいません」
得心したように頷くと早苗は窓の外に目を向け、
「たしかに風の神を奉るには屋外のほうが最適ですね」
と玄関にむかって歩き出した。
「違う!」
アリスは大慌てで止めに入る。
どうして幻想郷の人間は人の話を聞かないのか。とりあえず四次元だか、五次元になってそうな袖の秘密は脇においておこう。このまま放っておけば勝手に社が建設されるのも時間の問題だ。
「残念だけど、私、八坂さまだっけ?信仰する気ないから」
遠まわしにいっても無駄だろう。アリスは単刀直入に切り出した。
その一言に早苗はきょとんとした顔をする。どうにもアリスのいってることを理解できない様子だ。
「だってさっきいい話だって」
「確かにそういったわね、でも信仰するなんていってないでしょ」
「……どういうことなんですか」
早苗が困惑しながら問いかける。
確かにさっきの言い方だと信仰すると思われても仕方ない。アリスはちょっと反省し説明する。
「私実は既に他の神様の信者……なのかな?まあそういったものなのよ」
「なんで疑問系なのか気になりますが、別に他の神様を信仰していてもかまいせんよ」
そういう早苗の表情はあからさまにほっとしていた。これで問題はなにもない、そう信じている顔だった。
「そうなの、日本の神様は寛容なのね。でもどっちにしても関係ないわね。
二つの神様を信仰するのってなんだか居心地が悪いの。それに人に頼るのって嫌いなのよ」
「神奈……八坂様は人じゃありません、偉大な神さまです」
気色ばむ早苗に淡々とアリスは告げる。
「言葉のあやよ。そう怒らないで。まあそういうことで今回のことは縁がなかったと諦めてくれる」
「そんなあ」
確かに早苗の話は魅力的だ。なにやら魔理沙のせいで苦労してきたみたいだし、アリスも同情はしていた。
でもそれとこれとは話は別なのだ。
黙って幻想郷に飛び出して来たことにも負い目を感じているのに、他の神を信仰するなんてできそうもない。
あからさまに落胆している早苗にはわるいが、これ以上話しても平行線をたどるだけだろう。
「なんという神様ですか」
しょんぼりと顔をうつむけていた早苗がポツリとつぶやく。
「へっ?」
「あなたの信仰している神様です、ア○テラス様、それともオオクニ○シ様ですか」
早苗はそこで言葉をきるとアリスをしげしげと見つめる。
「あっ、わかりましたよ!あなたジーザスでクライストな方ですね。
間違いありません、金髪だもん」
「いや、ちょっとまって」
なんだかひどい思い違いをしているようだ。しかし自分の世界にトリップしている早苗には届かない。
「ああひどい、現世で信仰を集められ無いからって幻想郷に落ち延びてきたきたのに、ここでも差別をうけるなんて。
そりゃどうせうちはその辺の神様と比べられれば、マイナーですよ、太陽なんて派手な存在じゃないし、七福神として広く世に受け入れらてもいない。ましてや世界三代宗教の神様と比べられたら……、ああ神も仏もいないの!」
しかもバッドトリップのようである。
体育座りでのの字を書きながら、死んだ魚の目で延々と呪詛をつぶやくその姿は辛気臭いことこの上ない。
「どうにも勘違いしているようね、私の神様はそんな名前じゃないわ。神綺っていうのよ、あなた知ってる?」
「へ?しんき?」
アリスを見上げる早苗の顔はきょとんとしていた。
聞いたことはなさそうだ。まあ当然の反応だろう。
神綺はアリスの母にして魔界の創造主、魔界人にとっては万物の創造者といえる大物なのだが、人間の世界で知っているものはごく少ない。
「聞いたこともありませんね、もしかしてここでは有名なんですか?」
「いやこっちでもあんまりね」
少なくとも自分以外の魔界人を、アリスは幻想郷では見たことが無い。
しかしその言葉は早苗にいらぬ希望を与えたようだった。
「そのかた強いんですか?」
早苗が目を輝かせて問いただしてくる。
「強……くはないかなあ」
霊夢たちの以前の襲来劇が頭をよぎる。
「神徳はいっぱい授けてくださるんですか」
「うーん、少なくとも私は受けた記憶がないわね」
少なくともここ最近、アリスは神綺から神様としてなにかしてもらった記憶は無い。
グリモワールはまあ母から娘への贈り物であって、ここでいう神徳とは別物のようだし。
「じゃあたいして有名でもなく、とくに強いというわけでもなく、さらに御利益も薄い、ということでいいんでしょうか」
「まあ、そうなるのかしら」
(身内としては認めたくないものだけれど)
「じゃあそんな役に立たない神様より神奈子様を信仰したほうがいいにきまっています」
早苗は勢い込んでそういった。
悪気はないのだろう。どうやら失敗続きだったようだし焦っていたのかもしれない。
しかし悪気はなくても人を怒らせるのは簡単なのだ。
「……ちょっと失礼じゃない、人の神様を役立たずなんて」
案の定その発言で、アリスの中でなにかが音を立てて切れた。ぷちんと。
「あ、えっとその」
アリスの指摘でようやく早苗は自分の過ちに気づいたようだ。後の祭りと言うほかない。
残念ながら既にアリスは敵対モードに移行していた。
普段は良くも悪くも冷静で、本気で怒ることなど滅多にないだけに、一度そうなるとたちが悪い。
早苗を見つめる目は据わっていて、先ほどまでのなごやかな雰囲気はどこにも見当たらない。
付き合いの長い魔理沙ならさっさと逃げたしていただろうが、出会ったばかりの早苗にそのような判断を下せるわけが無い。
「まあ確かに人気は無いかもしれないわね。でもね」
戸惑う早苗を無視してアリスは続ける。
「人間に負けちゃうような神さまなんかよりよっぽどましよ」
皮肉たっぷり、相手を小馬鹿にしたいやーな笑顔と共に先制パンチ。もちろん神綺が霊夢たちに負けたことなど棚上げである。
「ど、どうしてそのことを」
「さっき自分で話していたじゃないの」
勧誘に来てそういう話をすること自体、早苗はある意味天然といえるのかもしれない。
「だ、だからといって神を侮辱するような発言はゆるされません。あの日は運がわるかっただけです」
「そう、運が悪かっただけ、ね。で、あなた現人神だっけ、神様の代理人なのよね」
「そうです、それがなにか」
アリスは即答せずに、たじろいでる早苗を上から下までゆっくりじっくり眺める。
「なんなんですか一体」
品定めするような視線が居心地わるいのだろう。早苗がいらだたしげに尋ねる。
「いえね、あなたみたいな弱そうな娘が代理人じゃ、信仰を集めるのも大変そうね。
神様のありがたみなんて感じられないもの」
そういってクスクスと笑う。すっげえ嫌みな笑いである。お嬢様キャラの付き人Aとか似合いそう。
これを受け流せるほど早苗は人生経験がつめてはいなかった。
「いい加減馬鹿にするような発言はやめなさい!神の子孫としてこれ以上は我慢できないわ」
「あらあら、別に馬鹿になんかしてないわ。真実をいっただけ。
それにそんなこといえば私だって神の子よ、幻想郷じゃその程度、珍しくも無い。
実力もないのに肩書きだけ偉そうなんて惨めなだけよ。もっとましな娘ならその神様も信仰を集められたかもしれないわね」
早苗の顔が真っ赤にそまる。現人神として誇りを持っているようだし、ここまで侮辱されたのも初めてだろう。
両者の溝はイスラエ○とパレ○チナのそれより広がっていた。
「つまり私が足をひっぱっている。あなたはそういいたいのね」
「そうとりたければ御自由に。もしかして図星だったかしら」
いつからだろうか、室内なのにどこからとも無く風が吹き始め、棚の中に鎮座していた人形達は、ゆっくりと主の周りに集まり始めていた。
さきほどまでなごやかだった空間は一変し、静かな緊張に包まれていた。決壊の時は近い。
「こういうときの決まり文句というのがありまして。まさか私がいう羽目になるとはおもわなかったけど」
「ああそう。奇遇ね。私もちょうどいい言葉を知ってるの。あんたにはお似合いのセリフだと思うけど」
二人の声が綺麗に重なる。
「「表へ出ろ!」」
~~少女弾幕中~~
◆
「……ここ、どこ?」
早苗は目が覚めるとベッドの上にいた。
ここ最近はずっと布団で寝ていたのだから、少なくとも自分の寝室でない。それは確かだ。
何故自分は寝ていたのか。ここはいったどこなのか、全く見当がつかない。
「とにかく落ち着かないと」
そう独りごちて、体をおき上げゆっくり部屋を見回してみる。
窓から入ってくる淡い月明かりがうっすらと部屋全体を照らしていた。
広くはないけれど、綺麗に整頓された洋室。
備え付けの棚の一つにはびっしりと古い装丁の本が埋まっており、もうひとつの棚にはおびただしい数の人形が鎮座していた。
「人形、人形といえばさっき」
混乱におちいっていた脳みそが徐々に正常な機能を取り戻し、今日一日の出来事を再生し始める。
そう、今日早苗は魔理沙に紹介されたオススメの勧誘場所を訪問していったのである。
残念ながら最初の二件では信者を獲得することはできず、落ち込みながらも訪ねた三件目は、初めてまともな人と出会い、脈もありそうだったのだけれど……
「そう、何故だか弾幕ごっこになったのよ、そして」
「あら、もう目が覚めたの」
部屋の扉が開き、さっきまでの対戦相手が姿をあらわす。
その後ろには人形達が数人係でお盆を運んでいた。
アリスの姿を見ることで早苗の記憶は完全なものとなった。脳裏に弾幕ごっこの最後の瞬間が蘇る。
「また負けちゃったんだあ、わたし……」
◆
決着がつくのにそれほど時間はかからなかった。両者の間に決定的な能力差が存在した、というわけではない。
ちょっとやりあえば、アリスにも早苗の霊力が侮れないものであることなどすぐにわかった。その絶対量だけでいえば霊夢に匹敵するかもしれない。
しかし、弾幕ごっこは単純な霊力の比べ合いではない。
アリスは霊夢たちと出会ってからたびたび弾幕ごっこを経験している。
早苗の弾幕は少々変則的ではあるものの、霊夢のような理不尽な嫌らしさも無いし、魔理沙のような理屈を覆す大胆さも無い。理詰めで戦うアリスにとっては組し易い相手である。
逆に弾幕ごっこが不慣れな早苗にとって、アリスの変則的な弾幕はたいそうやりにくいものらしい。
人形と本体による時間差攻撃なんて経験したこともないのだろう、面白いように引っかかってくれる。
おまけに早苗の動きは最初から精細を欠いていた。やはりどこかで弾幕ごっこをしてきたようで、簡単な弾幕を生成するのにも時折失敗する始末。
それを見逃すほどアリスは甘くなかった。
三度目の失敗の隙をついて、アリスの人形達が早苗を拘束、狙いすました蓬莱人形の一撃が早苗をつらぬき、弾幕ごっこはあっけなく終わりを告げたのだった。
「で、どうしたものかしらね、これ」
アリスは地面にのびてる早苗を見ながら途方にくれる。
頭に血が昇って、拘束した相手に蓬莱人形を叩き込むという荒業をやってのけたが、どう考えてもやりすぎである。
弾幕ごっこは完全なる実力主義を否定し、美しさに重きを置く決闘方式である。先ほどの行動は到底美しいとはいえないだろう。
早苗の体力はもう限界まできていたのだし、決着をつけるには普通のレーザーで十分だった。それなのにスペルカードまで使って気絶させてしまったのだから。
「どうも母さんを馬鹿にされるとダメね、成長してないというか」
幼い頃を思い出して、溜息をつく。
とにかくこのまま早苗をほっとくわけにもいかないだろう。
さっきの一撃でボロボロだった巫女服は崩壊寸前。かなりきわどい姿になってるし、霊力を使い果たした早苗の意識は当分戻ることはないだろう。
「仕方ない、自分のまいた種だもんね」
あきらめたようにそういうと、人形達に家の中へと連れて行くよう指示を出したのだった。
◆
「気分はどう?弾幕ごっこにしちゃやりすぎたわね、反省してる」
人形たちと手伝いながら気絶した早苗の服を着せ替え、なんとかベッドに放り込んだ後、アリスは作りかけのシチューを完成させた。特に異常こそ見当たらなかったものの、早苗は当分意識を戻しそうに無かったからだ。
その後そろそろ大丈夫かなと寝室をのぞいてみたら、既に早苗は意識を取り戻していた。
「いえ、私のほうこそ他所様の神様を馬鹿にするようなこと言いまして。ほんとに申し訳ないです。その上介抱までしてもらって」
そういって肩を縮める早苗をみると、ますますやりすぎたなあとアリスに後悔の念が湧き起こってくる。
どうにもこういう空気は苦手だ。気絶させた相手に逆に謝られるというのは。魔理沙あたりと皮肉の言い合いでもしているほうが、よほど気楽なものである。
「気にしなくていいわよ、こっちもあんたのことさんざんにいったしお相子ってことで」
「いえ、それはいいんです。だいたい当たってましたから」
そう言って溜息をつく早苗の表情は暗かった。どうやら先ほどの敗戦が相当堪えているらしい。
「なんでそうなるの?そりゃお世辞にも弾幕ごっこの腕がよかったとはいえないけど、そんなもの信仰を集めるのにたいして役に立つとはおもえないし」
これまでの会話からして早苗は多少突っ走ってしまう傾向はあるものの、おおむね真面目で好感がもてる。
どこぞのぐうたら巫女と比べて、どちらが信仰を集めれそうかと考えれば、当然早苗の方に軍配があがる。
「そんなことはありません!実際今日だって弾幕ごっこの腕さえあれば、八坂様の信仰を集めることができたのに」
「ちょっとまちなさい。さっきから気になってたんだけど、あんた一体どこに布教しにいったのよ?」
ついさっき弾幕ごっこをやったばかりのアリスがいうのもおかしな話だが、早苗側の提案は神を信仰することで、神と信者双方得をするというものだ。
アリスのような事情があるならともかく、普通は弾幕ごっこになどなるはずもない。
「ええと、湖の上の赤いお屋敷と、竹林の中のお屋敷、この2つです」
紅魔館と永遠亭、薄々予感はしていたものの魔理沙は本当に厄介者だ。まともな神経の持ち主が布教しにいく場所ではない。
「……魔理沙がそこを紹介したの?」
「はあ、そこの主を説得できれば信仰が一気に集められるぜっていって」
たしかにそれは嘘ではない。しかしどうやってあの二人を説得するというのか。
「よければその辺り、話してくれないかしら……なんとなく想像はつくけど」
「はあ、一つ目のお屋敷では門からお邪魔したんです。門番のかたはお昼寝してたようで、仕方なくそのまま玄関先まで歩いていきますとメイドっていうんですかね、銀髪の綺麗な方がそういう服をきて玄関前を掃除してたんです」
「で、そいつに主人を紹介してもらおうとした?」
「はい、そうです。用件を告げると『お嬢様は面白い人間にしかお会いにならないの、試していい?』なんていうんですよ、なんだかよくわからないけど、とにかくその人に会わないと話にならないじゃないですか、『いいですよ』って頷いたら……」
「次の瞬間、周りをナイフに囲まれてた、っと」
「ど、どうして、わかるんですか!」
わかるもなにもあのメイドのいわゆる“手品”は弾幕少女の間では有名だ。
「私すっかり混乱して反射的にしゃがみこんじゃったんですよ。そうしたら次の瞬間ナイフが消えて『はい、不合格』とそのメイドさんがにっこり笑って一言。慌てて抗議をしたんですがいきなり目の前の光景が変わってですね、今度は最初の門の前にいたんですよ」
「それであきらめて帰った、そんなところ?」
早苗はしぶしぶと頷く。
「だってだってしょうがないじゃないですか。そりゃここは幻想の国で変なことは日常茶飯事かもしれませんが、門の前にはさっきの門番の人が、頭にナイフ刺して転がってるんですよ。あれきっと次はお前だって意味に違いないです!」
「まあこれでも飲んで落ち着きなさい、別に責めてる訳じゃないんだから」
興奮しながらまくし立てる早苗に、アリスはレモンティーをすすめる。
「ありがとうございます、こくこく、やっぱりアリスさんのお茶、おいしいですねえ」
早苗が目覚めるまで読書でもしておこうと用意してたのだが、一応カップを二つ用意しておいたのが役にたった。
「落ち着いた?」
「ええ、幾分かは。それでまあそこはあきらめてですね、次に紹介されてた竹林のお屋敷にむかったんですよ」
とすると、早苗のぼろぼろの巫女服はどうやらそこが原因であったらしい。
「道に迷ったでしょ」
「うぐ、さっきから何故わかるんですか、ええ、道に迷いましたよ思いっきり」
「まああそこは変な術がかかってるから」
「ああそうなんですか、でもでも私幸運でしてね、一時間ほど迷った末に、兎の耳をもった少女に偶然出会いまして」
「もしかして、賽銭箱をもってたりする?」
「はい、そうです」
「で、騙されたと」
「案内料の代わりにお賽銭を払っただけですよ。お陰で姫様にあえましたし。あんな可愛い子に失礼ですよ」
幻想郷の住人が皆見た目どおりの性格であったなら、さぞかし平和であろう。
「じゃあ輝夜にはあえたんだ。普通は薬師に取り次がないと駄目なんだけどね」
「ええ、どうも竹林で人待ちしてたみたいで」
「ああ、そういうことね」
「前回と違ってお屋敷の主にもあっけなく逢うことができましたしね。
希望に燃える私は早速八坂様の神徳がいかに素晴らしいものかを説明したんです。
お姫様のほうも聞き上手な人でしてね。興味深そうにこちらの話に聞き入って、時折質問をしてきたりもするものですから、これはいけるか、と手ごたえも感じていたんですが……」
楽しげに語っていた早苗が一気にトーンダウンする。
「何かあったの?」
「ええ、私が一通り話終えると姫様は信仰してもいいけど条件があるって」
「どういう条件?」
「姫様の出す難題を解くことができたら信仰するって。私はその提案に飛びつきました。
ちょっと変な条件だけど、私クイズ得意でして。クイズ研究会の主将だったんですよ」
「で、その経験は役に立ったのかしら」
少し得意げな早苗に、アリスがいたずらっぽく笑いかける。
「アリスさん、わかっていってるんでしょう」
早苗は恨みがましい目つきでアリスを見返す。こういっちゃうとなんだが、怖いというよりちょっとかわいい。
「なんなんですか、一体!
私が『お受けします』と言った瞬間、姫様にっこり笑うと一気に竹林のうえまで舞い上がったんですよ。
あっけにとられていたら、『じゃあ、はじめましょうか』の一言。その後いきなり弾幕ごっこの開幕ですよ。
七色に輝く光弾やらレーザーをそこら中にばら撒きだされて、それを避けるのに精一杯。訳もわからず逃げまくりました」
「それだけ?あんた結構気が強いし、やられっぱなしとも思えないんだけど」
「ええ。そりゃ最初は混乱しましたが、どうやらこれが難題らしいと流石に途中で気がつきましたよ。
説明もなしにあんなことするのにも腹が立ったし、やられっぱなしも癪なんでこっちも全力で対抗したんです」
「で、結果はどうだったの?」
「私だって頑張った、頑張ったんですよー」
そのときのことを思い出しながら、泣きそうな顔で力説する早苗に、アリスは心底同情した。
相手が不死人じゃ結果はわかりきっている。
「でもですねえ。こっちの弾幕はいくら当てても、姫様何故だか全然こらえた風もないし、
こっちの疲れはどんどん溜まっていく。なんだかまずいことになってきた、また失敗してしまうと焦っていたら」
「焦っていたら?」
「今度はいきなり巨大な火の玉飛んできてですね、こう私と姫様の間にちゅどーんと炸裂したわけですよ、ちゅどーんと」
しかも運命は少女をさらなる荒波に叩き込んだらしい。
「私驚いて火の玉が飛んできた方をみたんです。
そしたら、長い銀髪をゆらした紅い目の女性がいましてね、『人を呼び出しといて他の奴と遊んでるなんて、
相変わらず礼儀知らずだね。これでも喰らって反省しな』なんていいながら、こちらに向かって火の玉を放てば、
それに答えるように姫様も笑いながら弾幕で対抗しましてね。もうそれからはひどくて……。
銀髪の人は炎の羽根を生やして、そこらじゅうに炎の塊を撒き散らすし、姫様もノリノリでレーザーを四方八方に撃ちまくる。
巻き込まれた私は散々ですよ、もうそこかしで爆発はおこるし、レーザーはひっきりなしで降り注いでくる。
あたり一面火の海で生きた心地なんてしませんでしたよ、実際」
うんざりした表情で早苗はため息をつく。
そりゃ目の前でスペクタル映画もかくやと思われる弾幕ごっこを繰り広げられれば、大抵のものはそう思うだろう。
「で、逃げ出してきたわけね」
「言わないでくださいよー」
「あんたがいわせたようなもんじゃない、まあ賢明な判断だと思うけど」
「だ、だって、弾幕ごっこてあんな殺気だってやるもんですか、姫様も銀髪の人も殺る気に満ち満ちてましたよ」
「まあ、あいつらはちょっと特殊でね。話はこれで全部?」
「ええ、それからアリスさんのところに向かって。後はご存知の通りです」
アリスはほっと一息をつく。予想はしていたが、予想を越える不運ぶりだ。
これ以上不幸話を積み重ねられては、魔理沙の知り合いとして居心地悪いことこの上ない。
「わかったでしょう。わたしの能力が足りないばかりに、信仰を集めることができなかったんです」
「とてもそうとは思えないんだけど」
紅魔館の件は弾幕の腕の問題とはいえそうにないし、永遠亭のほうも同じだ。あの二人に巻き込まれた時点で、布教活動など成功するはずもない。
「アリスさんはやさしいんですね、慰めてくれるなんて」
アリスの冷静な指摘も、ネガティブ思想にどっぷり浸かった早苗には通用しない。
してもいない親切に感謝されるのはむず痒い。どうしたものかと思案していると、早苗がおもむろに立ち上った。
「お話を聞いてもらって少しはすっきりしましたし、いつまでも挫けていては八坂様に申し訳ありません。
次の目的地に向かわなければ」
そういってぺこりと頭を下げる。
騙されているのに気付いていないのか、それとも認めたくないのか、早苗はまだ布教活動を続けるつもりらしい。
アリスとしてもあまり聞きたくはないが、ここで聞かないのは人として問題がある。
「次の目的地って?」
「太陽の畑というところです。花の妖怪さんがいるんですって、なんだか素敵ですよね」
「ゴホッ、ゴホッ」
最悪である。
白玉楼やマヨイガを予想していたが、それより悪いところはアリスも想定していなかった。というより想定するのも嫌だったというのが正確なところか。太陽の畑の住人との間に、アリスは碌な思い出を持っていない。
「や、やめときなさい、そこはちょっと洒落にならないわ」
「いままでだって全然洒落になってなかったんですが」
早苗の顔がひきつるが事実なのだからしょうがない。
前の二人はなんだかんだで人間には優しいが、今度の相手は生粋のいじめっ子だ。しかも人をからかうのが大好物ときてる。
言い方は悪いが、堅物でいじりがいのありそうな早苗なんかは絶好の獲物、虎の穴の中に兎が飛び込んでいくようなものである。
「もういいかげんあきらめなさい。気付いてるんでしょうけど、あんた騙されてるのよ」
「うっ、うすうす気付いていたことを、ずばりと指摘しないでください……とにかく今日はまだ一人も布教に成功してないんです、ここでやめるわけにはいきません」
そういってぐっと拳を握り締める早苗の瞳は燃えていた、多少自棄気味ではあるものの、諦める気は毛頭無さそうである。
「わからないわ、なんでそんなになってまで続けるのよ。信仰ってそんなに大事なの?」
首を振りながら、アリスはさっきから感じていた疑問を口にした。
強がってはいるものの、早苗の体力、霊力はここまでの騒動でボロボロだ。もはやここから太陽の畑まで飛んでいけるかすら怪しい。
何故そこまで無茶をするのか。普段ぐうたら巫女を見慣れているせいか、どうにも納得できないのだ。
「そりゃそうですよ、何故私達がここに来たかはさっき説明しましたよね」
外の世界では得られなくなった信仰を集めるため。失われていく神の力を取り戻すため。早苗はさっきそう説明した。
「で、あんたを死ぬほどこき使ってるわけ?立派な神様だこと」
アリスの口調が鋭くなるのには理由がある。
早苗の話では、信仰は山の妖怪を中心に徐々に集まっているということだった。
まだまだ昔日の力は取り戻せていないのかもしれないが、焦る必要があるとも思えない。
だというのにこの生真面目で危なっかしい女の子に、ここまで無理をさせるとは。
どうにも気にくわない、アリスの風神に対する評価は悪化する一方である。
「ああ、いえ、違うんです。これは私が勝手にやっていることで。というより内緒にしてるんです」
「へ?」
「さっきも話したとおり神奈子様、えーと八坂様のことなんですが、毎晩天狗の方たちと宴会を開いてるんですよね、信仰を集めるために」
「……それはさっきも聞いたわ」
憮然としてアリスは答える。珍しく義憤にかられたのに、なにやら勘違いだったようできまりがわるいのだ。
「で、まあそこで天狗の皆さんを楽しませるのが風祝たる私の役目なんですが、私下戸の上この通りの性格でして。
頼みの綱の風の奇跡も天狗さん相手だと効果が薄くて」
「まあそりゃそうでしょ」
早苗の力はなかなかのものだが、なにせ相手は風の眷属といってもいい妖怪だ。ちょっとした手品にしかならないだろう。
「で、結局のところ私はお料理を用意するくらいで、信仰を集めているのは神奈子、じゃなかった、八坂様ご本人に任せ切りになっちゃうんですよ」
「いいにくいなら神奈子様でいいわよ」
「……なんでわかったんですか?」
「さっきからなんども言い換えてるじゃない」
早苗はアリスの提案をちょっと考え、照れくさそうに笑った。
「そうですね、アリスさん相手なら別にいいかな。
まあそんなわけで私、山では信仰を集めるのに役に立ってないんです。
それに博麗神社の乗っ取りも失敗してますし、正直なところこちらに来てから神奈子様のお荷物にしかなってなくて」
「つまりええと、風祝だったけ。そういう役目の者として情けなくなって、そういうこと?」
「それもあります、でもそれだけじゃなくって」
そういって早苗は恥ずかしそうにうつむくと、ぽつぽつと語りだした。
「ええとですねえ、確かに神奈子様は神様です、でも私にとってはそれと同時にね、なんていうのかな、家族みたいな存在でもあるんですよ」
「家族?」
意外な、そしてアリスにとってちょっと懐かしい単語が飛び出してきた。
「そう、家族。母であり、姉でもありました。
だってあの方は、産まれた時からずっと一緒にいてくださいましたから。
楽しい記憶も、悲しい記憶も全てあの方と共にあります。初めて雲のアーチを渡り大はしゃぎした時、大好きな親友が引っ越して馬鹿みたいに泣いた時、どんなときでも神奈子様は私のそばで笑っていました」
「思ってたより随分やさしい神様なのね」
アリスにとっては驚きだ。早苗を顎で使う傲慢な神を想像していたのだから。
「いえ、やさしいなんてとんでもない」
早苗は慌てて否定した後、早口で語り始めた。
「そりゃ楽しいときはいいですよ、一緒に笑ってくれる人がいればもっと楽しくなりますし。
でもね、あの方こっちが泣いてるときでも笑うんですよ。
綾香ちゃん、ええと私の親友ですけど、その娘が引越しって、さっきもいったように私大泣きしてたんですよ。部屋にこもってね。もうこの世の終わりみたいな気分になって。で、悲しみにくれる私の横で神奈子様が何してたかわかりますか」
「ええと、慰めようと笑いかけてくれた、とか?」
その返事を予測していたのか、早苗は大きく首を振る。
「残念ながら違います。あの方はですねー、確かに笑ってましたよ。ただし慰めるつもりなんて、これっぽっちもありません。
横で一升瓶をあおりながら、やれ『泣いてる早苗は可愛いねー、ついつい酒がすすんじまう』とか『今生の別れでもあるまいし、人間ってのは可笑しいねえ』なんてけらけら笑ってるんですよ」
「それはまた、なんというか」
感動の逸話かと思いきや、なんだか話が変な方向にずれてきた。
「もう腹が立って、腹が立ってね。
だってそうでしょ。こっちは落ち込んでるのに、それをネタにするなんてね。馬鹿にしてるとしか思えない。
私はそんなときいつも神奈子様を追い出そうとしましたよ。
でもあの方なんといっても神様ですからね。実体にも幽体にもなれるから、こっちが何を投げつけたところでかすりもしない。こっちから離れようとしてもどこにいたって付きまとってくる。大体いつもこっちが先に力尽きちゃうんですよね」
「よくそんなことされて家族なんていえるわね」
すくなくともアリスは母にそこまで干渉というか、おもちゃにされたことはない。
「そんなことをするから家族なんですよ」
力強く肯定する早苗にそんなものかなと考える。家族といったっていろんな型があるのだろう。
「なんだかもう疲れ果ててどうでもよくなっちゃいましてね。おかしいですよね。結局最後には私も一緒に笑ってるんですよ。
そうすると神奈子様も調子に乗って『いや泣いた早苗も可愛いが、笑った早苗も可愛いね、こりゃ』とかなんとかいってまた笑い出す。
人の不幸をネタに楽しむなんて、本当にひどい神様です」
「そういう割には楽しそうだけど」
実際早苗はニコニコと笑っていた。
風神のことを進める時、早苗の態度はどこか堅苦しいところがあったものだが、彼女にとっての「神奈子様」を語る早苗は活き活きとして、そんなぎこちなさはまったく感じさせない。
「まあですね、やり方はまずかったんですが、どんなことがあっても私はいつも笑っていられました。神奈子様のおかげでね。
で、今神奈子さまは信仰心を取り戻すために苦労してます……毎日酔っ払ってるだけのようにもみえますが」
後半の部分に関しては少々自信がなさそうだ。しかし、
「今度は私が恩返しをする番でしょう」
穏やかにそういった早苗の眼には、なんの迷いも見当たらなかった。
(家族みたいな神様のために幻想郷入りね)
とっておきの魔道書を手に取り、幻想郷を訪れた幼き日の興奮を思い出す。
(あの時の私は、こんな落ち着いた眼はしていなかったろうけど)
「これもなにかのめぐり合わせかしら」
「なんのことです?」
「あんたを放っておくわけにはいかなくなったってこと、とりあえず今晩はここに泊まっていきなさい」
「いえ、ですから私は」
バンッ!
アリスは片手で机をたたきつけ、冷たい視線で早苗を睨みつけた。対魔理沙用の切り札は目論見どおり早苗の反論を封殺した。
「な、なんですか」
「一つ質問があるわ、あんた今私とやりあって勝てると思う」
じっと早苗の瞳を覗き込む。
「……勝負はやってみないとわかりません」
どうにも発言に力がない。自分の疲弊ぶりは良くわかっているようだ。それでいながら瞳を逸らさないのだからほんとに頑固だ。
「あいにく私は負ける気がしないわ。そしてあんたが今から会いにいく相手は化け物よ、認めたくは無いけど」
「でも弾幕ごっこになるとは限らないじゃないですか」
早苗の抵抗をアリスは鼻で笑って受け流す。
「なるわよ、間違いなく。あいつの趣味を知らないのね。弱いものいじめ。
まともな状態でも危ないのに、今のあんたをみたらあいつは喜んでボコボコにするわよ。
それで捕まったら最後ね。一週間だか一ヶ月だか、あいつが飽きるまで嬲り者にされるのがオチよ」
「な、嬲り者って、冗談ですよね」
流石の早苗もアリスの物言いに流石に不穏なものを感じたらしい。
「いいえ、真実よ」
冗談だったらどれだけよかったか。そう思わずにはいられない。
だが、恐ろしいことにこれはアリスの実体験に基づいている。幻想郷に殴り込みをかけたアリスは、最初の突撃先であえなく敗北した後、究極の魔法を狙われつきまとわれたのである。
朝も夜も関係なく、唐突に現われれる恐怖の暴君。そのプレッシャーはアリスをノイローゼに落とし入れるほどであった。トラウマ以外の何者でもない。
「そ、それでも私は引くわけにはいかないんです。たとえ私の純潔を危険に晒すことになっても」
「……一体なにを想像したのよ。あんた本当に頑固ねえ」
顔を赤くしたり、青くしたりするのに忙しい早苗をみながら、ため息をつく。
「他にあてが無い以上あたって砕けてみるべきなんです!」
「まあそういうかなっと思ってね、実は代案があるの」
「代案ですか?」
唐突なアリスの提案に早苗の勢いが少し弱まる。
「明日、私は里に行く用があってね。それに付いてきなさい。少なくとも太陽の畑よりは収穫があるはずよ」
「里、ですか?でも私泊まって行くなんて神奈子様に言ってませんし」
「今から太陽の畑にいけば一泊どころじゃ済まなくなるわよ。それに明日はいろいろと都合がいいのよ。
それとも私の提案は魔理沙のそれより信用がないっていうの?ちょっと傷つくわ」
首を振りながらわざとらしく嘆くアリス、もちろん芝居なのだが早苗はあっさり引っかかった。
「いやそんなことはありません、アリスさんはいい人です」
顔の前で両手を振りながら早苗は必死で否定する。
「じゃあ決まりね」
「うう」
罠にかかった獲物に、アリスはにっこり笑ってそういった。
言質を取られた早苗としては頷くしかない。
「さっき作ったシチューを持ってくるから、それを食べたらさっさと寝なさい。きっと明日は忙しくなるから」
早苗にそう告げ、アリスは人形を従え扉へむかって歩き出した。早苗は慌てて呼び止める。
「まってください、どうしてそんなに親切にしてくれるんですか?」
「別に親切のつもりはないけど」
「とてもそうとは思えません」
(そういわれてもねえ)
実際の所、幽香のところに突撃するという自殺行為を止めて、勧誘場所を紹介しただけである。
ただ、確かに魔女には似合わぬお節介だ。
ちょっと考えた後、アリスは早苗のほうに振り向いた。
「ただの気まぐれよ」
いろいろと理由は思いついたが、結局のところこれが一番しっくりきたのだ。
あっけにとられる早苗を尻目に、アリスはドアの向こうの食卓へと歩みだした。
◆
里、といえば普通名詞だが、幻想郷におけるそれは一つしかない。人間の里である。
幻想郷最大の人口を抱えるその場所は、人と妖怪が交流する聖地であり、各地に散らばる村からの収穫物や工芸品が集まる商業の中心地でもある。
目抜き通りには様々な人妖が行きかい、客をよぶ物売りの声も活気に満ちている。幻想郷で一番にぎやかな場所といえるだろう。
「アリスさん人形劇をやるんでしょう?ここでやらないんですか」
さっさと前を歩くアリスに早苗は声を掛ける。
人形劇にどれほどの需要があるかは知らないが、そういった大道芸の類は人通りの多い場所で行わなければ客がつかない。
少し天然が入ってるとはいえ早苗にもそれくらいの判断はつく。
場所を探しているのかとも考えたが、人並みを綺麗にすり抜けていくアリスは立ち止まる気配すらみせない。
「今日はもっといい場所があるのよ」
そういってひょいひょいと先にいってしまう。
「いい加減にちょっとは説明して下さいよー」
アリスは昨晩いい案があるといったものの、朝食からこちらにつくまで具体的なことは何一つ教えてくれなかった。
いや何一つというのは言い過ぎか。人形劇をする、そのことだけは教えてくれたのだから。
「教えてほしい?」
そういって振り返るアリスの浮かべる笑顔は早苗がごくごく見慣れた種類のものであった。
親のような、姉のような風の神がこちらをからかう時に浮かべるそれである。
からかわれているのに何故か妙な安心感を抱く自分に戸惑いつつ、早苗はアリスに抗議の声をあげる。
「当たり前です!」
「そんなに怒らないでよ、怖いじゃない」
絶対嘘である。口元に残る笑みがなによりの証拠だ。とはいえ早苗もそのことに突っ込む愚は起こさなかった。
こういう相手に抗議しても大抵相手が喜ぶことになるのだ、何故か。
「それじゃそろそろ種明かしをしましょうか、ほらあそこ」
アリスの指差した先には紅葉に覆われた小高い丘があった。里の中心からは少し外れている。歩いて10分ぐらいだろうか。
「あんな所が?」
早苗が戸惑うのも無理はない。あんな辺鄙なところでは客を見つけるだけでも一苦労だ。
「今日だけは特別なのよ、ほら、周りを見て何か気づかない?」
「そういえば……いつにも増して活気がありますねえ」
早苗は買出しで数回里に来たことがあるのだが、確かにそのときとは様子が違う。
行き交う人々は妙に楽しげで、そわそわしている。まだ真昼間だというのに働き盛りの若衆が徒党を組んで闊歩しているし、親の手伝いで忙しいはずの子供達がそこらじゅうで遊びまわっている。
「今日は祭りがあるのよ」
「お祭りですか」
「収穫祭って奴ね。豊穣の神に感謝を捧げるんだそうよ」
「あの丘の頂上、樹に囲まれてここからだとわかりにくいけど、大きな広場になってってね。こういう時にはよく使われているってわけ」
早苗はアリスの指差すほうを目を凝らして睨んでみたものの、やはりその広場を確認することはできなかった。
「で、私はそのお祭りによばれたパフォーマーってわけ。
まあ自分でいうのもなんだけど、そこらの人形師に負ける気はしないわ」
「ええとそれと布教の間に何の関係があるのでしょうか」
早苗の疑問にアリスはため息をつく。
「つまり私の劇にはそれなりの客がつくって事よ。場所は確保できてるんだし、そのついでに布教すればいいんじゃない」
アリスは何を寝ぼけたことを聞いてくるのか、といった表情でさばさばと答える。
「……えーと、そのつまり他所の神様のお祭りで布教をしろ、そういうことですか?」
対する早苗は冷や汗たらたらである。そりゃそうだろう。外の世界でそんなことをすれば、袋叩きにされても文句はいえない失礼な行為である。
「何、豊穣の神さまに遠慮してるの?あなたの神様は山の神さまになったんでしょ、上司のすることには文句をつけやしないでしょ」
「そうはいってもやはり」
「大丈夫、大丈夫、文句いってきたら追い払えばいいじゃない。魔理沙のいってた話じゃそんなに強い神さまじゃないみたいだし」
「誰が追い払うんです?」
「もちろんあなたよ、私には関係ないし」
無茶苦茶である。
もし祭神である豊穣の神をたたき出そうものなら、そこに集まった民衆から信仰を得るなど一生できないであろう。
そのくらいのことは早苗にも容易に想像できた。
とはいえアリスの言うようにこれ信仰を大量に獲得する千載一遇のチャンスでもある。
早苗はアリスの前で数分頭をうならせた後決断した。
「アリスさん、ありがとうございます!今度こそ名誉挽回してみせます」
そういってアリスの手を握り、思いっきり上下に振り回すと、決戦の地に向き直りメラメラと闘志を燃やす。
昨日の失敗など既に早苗の頭からは消えさっている。
なんだかんだで楽天的なのは弾幕少女に共通の素養なのかもしれない。
「見ててください、神奈子様早苗は今度こそやり遂げて見せます!」
「まっ、そんなに気合いれなくても大丈夫だと思うけどね」
アリスの呆れたようなつぶやきは、人ごみのど真ん中で一人ポーズを決める早苗には当然届くこともなかった。
◆
「ねっうまくいったでしょ」
広場に繋がる階段に腰掛けたアリスは、獲得した信者の数に呆然としている早苗に向かって声をかける。
「信じられません……だって私ちょっと子供を風で浮かしたり、雲を呼び寄せたりしただけなんですよ」
「そもそもなんのデメリットもないような契約なんだから、当然じゃない。あんたの奇跡はそれを裏づけするのに十分だったってことよ」
博麗神社のグータラ巫女のせいで、以前に比べ信仰心は薄くなってはいるものの、幻想郷では神と人の関係は緊密である。
外の世界ではなかなか信じてもらえない信仰と神徳の関係も、説明すればすんなり受け入れてもらえるし、早苗がちょっとした奇跡をおこせば、信仰を約束してくれる人だって結構いるのである。
今回の祭りで早苗が獲得した信者は数十人を軽くこえていた。
「それに神さまも抗議にすらこなかったし」
「まあ、たぶんそうなるとはおもってたけどねえ」
早苗としては抗議されたらさっさと謝って逃げ出すつもりだったが(流石に一戦構える覚悟はなかった)、結局神様どころかその信者でさえ抗議にくることはなかった。
「いろいろといい加減なのよ、ここはね」
「そうはいってもですねえ、ここに来てから私いろいろ努力したのにこれじゃあ……」
「無駄な努力だったってことね」
「……アリスさんってときどきひどいですよね」
「そうかしら?だいたいなんで最初から里で布教しなかったのよ」
早苗の非難もどこ吹く風でアリスは当然の疑問を口にする。
「それはその、霊夢たちとの一件以来毎日宴会の準備で忙しくて……それに」
「それに?」
「幻想郷の一大勢力に果敢にも布教に挑み、見事大量の信者を獲得!かっこいいと思いません?」
「そういうのを身の程知らずっていうのよ、あんた結構自信過剰よね」
「そりゃ向こうじゃ私、特別でしたから。ここにきてから、その自信も大いに揺れていますけどね」
アリスの言葉にムキになることもなく、早苗は苦笑する。
ちなみに今の早苗の格好はぼろぼろになった巫女服ではなく、アリスから借りた小奇麗な白のワンピースと鮮やかな青のカーディガンだ。もちろんたっぷりフリルつき。アリスにいわせると幻想郷の少女としてのたしなみだそうだ。
配色こそ似ているけれど、これで風の神を勧誘するのは無理がある、早苗は猛烈に反対したのだがその結果がこれである。
里の住人の適応力というか、いい加減さも並大抵のものではない。
「でも、それなら何故博麗神社は信仰心が得られないのでしょうか。悔しいですが霊夢の力ならこれくらい簡単でしょうし」
「不思議でもなんでもないわよ」
あの巫女は普段、信仰が足りないだの、お賽銭を入れろだのとうるさいが、自分から信仰を集めるという発想がない。里に降りるのも日用品を買いにくる為であり、布教活動なんて考えもしてないのだから。
「そうですか?とにかくアリスさんのお陰で、こちらに来て初めて神奈子様の役に立つことができました。本当になんといえばいいか」
「別にこっちもあんた目当てで客が増えたから気にしないで」
アリスの人形劇はもともと里で評判がよかった。
そこでアリス目当ての客に早苗を紹介し、信者を獲得していたのだが、途中からはその関係も逆になってしまった。
新しい神さまの到来はそれだけでニュースになるし、早苗の愛らしい姿は客を集めるのには十分だった。お陰でアリスも過去最大のおひねりを手にすることができたし、お互い様というやつだ。
「そういうわけにもいきません、必ず恩返しはさせていただきます」
「あんたって本当に強情ね」
「それだけが取り柄ですから」
胸を張ってそういう早苗がなんとなく可笑しくて、アリスはくすくすと笑った。
「ぷっ…く、ふふ」
「なんで笑うんですか」
「だってあんまり自信満々にいうもんだから」
「取り柄がないより、取り柄があるほうがいいにきまってるじゃないですか」
あんまりといえば、あんまりな答えにアリスは再び笑い出した。
早苗の持つ馬鹿正直な力強さにあてられたのかもしれない。
しかめっ面で抗議する早苗の頑張りも空しく、アリスの笑い声はなかなかやむことはなかった。
◆
日も落ちて夜の闇があたりを包むころ、広場の中央に設置された祭壇を囲む松明に順に火が灯されてゆく。ひとつ火がつくたびに漆黒の衣が切りひらかれ、祭りが最後の舞台に移行することを告げていた。
「綺麗ですねえ、これから何が始まるんですか?」
「ここをどこだと思ってるの、宴会に決まってるじゃない」
揺らめく炎を見つめながらアリスが答える。
先ほどのアリスの所業に大きくへそをまげたも早苗だったが、アリスの謝罪とりんご飴という献上品の前にはなすすべもなかった。
機嫌を直した早苗の「どうせなら祭りのフィナーレも見てみたい」という提案にアリスが反対する理由もない。
今は二人して広場の片隅に座り込み、宴の始まりをのんびりとまっていた。
すでに祭壇の周りには数百人にも及ぶ人々が好き勝手に座り込んでいる。まだ宴は始まってもいないのに、酔っ払っている人までちらほら見かけられる。
「えらくお気楽なところなんですねえ、幻想郷というのは」
「いまさら気づいたの」
「ええ、ようやく」
今までの肩の荷が少しは降りたせいか、早苗の笑顔はやわらかだった。
「でもいいんですか、宴会に参加して」
「別にここから見てる分には参加してることにはならないでしょうよ、それにあんたは飲めないみたいだし」
「そうですね、ちょっと寂しいですけど」
ちょっとした会話の後には数分の沈黙。さっきからずっとこの調子だ。けれどアリスはその沈黙が心地よかった。
酔っ払い達の喧騒、松明の爆ぜる音、秋の虫たちの競演、そんなものに静かに耳を傾ける。
「今日は楽しかった?」
「ええ、本当に。大変だったけど、こんなに充実感があったのは初めてです」
春のたんぽぽみたいなその笑顔がアリスにはちょっとまぶしく、ちょっと嬉しかった。
「なら紹介した甲斐があったというものね」
「ええ、それに」
早苗はアリスのほうに向き直り、もじもじと口ごもる。
「なに?」
不思議そうに見つめるアリス。早苗は踏ん切りがついたのか照れくさそうにこういった。
「友達もできましたし」
「へぇーそうなの、誰と?」
場の空気が凍りついた。というか、早苗が凍りついた。⑨も顔負けの瞬間冷凍であった。
アリスの言葉を聞いたと同時に彫像のように固まってしまった。
「ねえ、ちょっとどうしたの」
不審に思ったアリスの問いかけと同時に、早苗の時計も動き始めたようだ。真っ青になってた顔が一瞬でゆでだこみたいに変化し、意味不明に手足をわたわたさせながら、早苗は大慌てでしゃべり始めた。
「いえ、あの、その、ですね、なんというか友達というのはえーと言葉のあやでして、すいません。本当にすいません。忘れてください。アリスさんのやさしさに、ちょっと心がエクスパンデットしてですね。とにかくそういことなんですよ」
なにがそういうことなのか、アリスはさっぱりわからなかった。たぶん誰にもわからないだろう。
「落ち着きなさいな」
「お、落ち着いてますよ」
「もしかして友達って私のこと?」
が、前後の文脈から判断して早苗のいう「友達」がアリスであることには思い当たった。
今日は一日中アリスと一緒にいたのだし最初から気づきそうなものだが、アリスの周りにいる連中で、「友達」という枠でくくれる奴が一人もいなかったのだから仕方がない。
「い、いや、だからそれは勘違いで」
そういってアリスの視線を避けるが、声はうわずり目は泳ぎまくっている。
この程度の嘘を見抜けないようでは魔女失格だとアリスは思う。
「あら、それは残念」
「へっ」
「早苗とならいい友人になれるかと思ったのに」
すくなくとも早苗は勝手に人のベットで寝ていることもないだろうし、魔法書を無断で借りていくことも無いだろう。
「えっあの、その、本当にいいんですか」
「なにが?」
「……わかってていってますよね」
それにこの小動物みたいなところとか、どことなく頼りないところとか、なんだか妹みたいで放っておけない。
「まあそう拗ねないの」
むくれる早苗にそういってアリスは微笑むとゆっくりと自分の右手を差し出した。
「これからもよろしく、早苗」
「えっと、その、こちらこそよろしくおねがいします!」
あたふたと返事をした後、深呼吸を一つ。
何故かお辞儀をしながら、早苗は勢いよくその手を差し出した。
◆
「ヒューヒュー、お熱いね、おふたりさん」
二人の手が触れ合う寸前、唐突な闖入者に早苗は慌てて差し出した手を引っ込めた。
「なにいってんのよ、あんたは」
「いやいや、仲のいいカップルにはこうやって声をかけるのが、外の世界の礼儀だそうだ」
「カ、カップ……」
「相変わらず変な知識ばかり仕入れてくるのね」
狐のお面を引っ掛け、りんご飴右手に近づいてくるお祭りモード全開の黒白にアリスが呆れながら声をかける。当たり前の話だが魔理沙はお祭りが大好物である。
「それより魔理沙、早苗にあんまり変な情報吹き込まないでくれる、この子馬鹿正直で騙され易いんだから」
「……」
「変な情報とは心外だな、紅魔館に永遠亭、どちらもうまくやれば大量の信仰が手に入る。嘘はいってないぜ」
「あんなところ勧誘できる人間なんていやしないわよ」
「そうか、霊夢ならできそうだが」
「ありえない話をしても仕方ないでしょ、わたしは普通の人間の話をしてるのよ」
「……」
「あーなんだか、しらんがえらく早苗が落ち込んでるぞ」
馬鹿正直だの、普通の人間だの、現人神としてのプライドはずたずただろう。
「あら、どうしたのかしら?」
「さあなあ、いろいろあるんじゃないか」
残念ながらこの程度は二人とも悪口とも思っていないので、気づきようもないのだけれど。
「まあ、紅魔館と永遠亭の話は大事にいたらなかったからいいとして、太陽の畑はどう言い訳するつもりなのかしら」
問い詰めるアリスの口調は普段よりもきついものになっていた。
幽香は太陽の畑の住人の一人に過ぎないし、大量の信者なんて獲得できるはずもない。
相手は魔理沙だ、アリスだって嘘をついたという事実は大して気にしていない。
ただ早苗みたいな危なっかしい娘に、幽香という危険な相手を紹介したことに腹を立てていたのだ。
「ちゃんと保険は掛けておいたじゃないか」
「保険?」
悪びれずにそういう魔理沙にアリスは疑わしそうに聞き返す。
「お前だよ、お前。まさか保護者役になるとは思わなかったがなあ」
「っっっ!」
反論しようにも実際アリスが今やっている行為は保護者そのものである。ニヤニヤ笑う魔理沙に気の利いた反撃も思いつかない。
一方の魔理沙はといえば、悔しそうににらみつけてくるアリスに満足したようで、さっさと祭壇のほうに向かって歩き出した。
「あっそうそう」
背中を見つめるアリスに、魔理沙は唐突に振り返る。
「肝心の用件を忘れてた。明日は神奈子達の歓迎会が神社であるんだ、当然お前も参加するよな」
「あ、アリスさんは出られないそうで」
突然の提案に返事をしたのは早苗である。
神の宴に参加することは、信仰することに繋がる。本人の前で断るのはアリスとしてもやりにくいはず。そう判断したのだろう。
「そうなのか?」
不思議そうに魔理沙はアリスに問いかける。
理屈では納得していても、断る返事は聞きたくないのだろう。早苗は気まずげに二人の方から眼を逸らした。
「まさか、参加するわよ、とっておきのケーキを作ってくるから、楽しみにしてらっしゃい」
一瞬の躊躇いもなく、アリスはにこやかに即答した。
「そうかい。そいつはたのしみだ」
笑いながらトレードマークの帽子を頭の横で振り、こんどこそ魔理沙は祭りの中心へと消えていった。
アリスを呆然と見つめる早苗を残して。
◆
「あいかわらず騒々しい奴だったわね、今回はうまくいいくるめれちゃったけど」
「はあ」
「あと友人ならアリスさんはやめて欲しいわね、アリスでいいわ」
「はあ」
「ちゃんと話聞いてる?」
「はあ」
早苗は生返事しか返さない。どうやらさっきの返答が気に入らないらしい。
ものといたげな表情でこちらをちらちら伺っている。
アリスとしても反応の無い相手と会話するのはつまらない。からかいの混じった笑顔で早苗に向き直る。
「なにが不満なのかしら」
「……どうして断らなかったんですか」
「断ったほうがよかったかしら」
「いえ、そりゃアリスさん……アリスが来てくれたほうがうれしいに決まってます」
アリスの咎めるような視線の意味を感じ取ったのか、慌てて言い直す。
「じゃあどうして?」
「神の宴に参加するってことは、その神様を信仰することに繋がります。
魔法の森ではあんなに頑なに拒んだのに、どうして今回はあっさり受け入れたんですか」
「それは簡単よ」
「まさかまた気まぐれですか?」
眉をひそめて早苗が詰問する。どうやらちょっと怒っているらしい。
「いいえ、今回は違うわ。私は何?」
「ええと、魔法使い……ですか」
唐突な質問に目を白黒させながら早苗が答える。
「残念不正解、『都会派』の魔法使いが正解よ」
「なにが違うんですか?」
「あら、大違いよ」
楽しそうに笑いながら早苗の前で指を振る。
「友人の歓迎会に顔を出さないほど無作法じゃない、そういうことよ」
片目を器用にウィンクして、アリスはもう一度ゆっくりとその手を差し出す。
「さっきは邪魔が入ったし、やりなおし」
「なんだか、納得いきません」
不満そうにそういいながらも、早苗は素直に右手を前に出す。
小さいけれど綺麗な手だ、まるで美しい人形のように。
けれどアリスは知っていた。目の前の少女が人形とはほど遠い存在であることを。
手が触れた瞬間、お互いのの視線がぶつかり、早苗がはにかんだ笑みを浮かべた。
新緑の色をたたえた瞳は澄んだ湖のように美しく、真っ直ぐな彼女の性格を体現しているように思えた。
邪魔するものはもういない。先ほど届かなかったその手をアリスはしっかりと握り締める。
(魔理沙もたまにはましなことをするものね)
初めての友人にして、幻想郷への来訪者。言うべき言葉は決まっていた。
満面の笑みを浮かべてアリスは告げる。
「ようこそ、幻想郷へ!」
「……うるさい」
枕に顔をうずめていたアリスは気だるげにつぶやくと、ベッドから体をおろしのそのそと身支度を整えた。
窓からさしこむ光は弱く、既に夕暮れの時間であることを告げていた。
ドンドンドン、ドンドンドン
ノックの音は先ほどから絶えることなく、一定のリズムを刻んでいた。
いつもの白黒かと思ったが、魔理沙のノックはもっと適当である。
立てかけてあった姿見でアリスは軽く服装をチェックし、ノックが鳴り止まない玄関へと向かった。
ドンドンドン
ガチャ
玄関のドアを開けると、ボロボロの巫女服を着た少女が立っていた。
どこぞの紅白なら突然の訪問にもさして驚くことなどなかったろうが(なにせあの巫女は気まぐれだ)、あいにくと目の前の巫女にアリスは見覚えが無い。
いやそもそも彼女は本当に巫女なのか。少女の服は霊夢の巫女服に似ているが、いろいろと違っていた。
特に異なるのはその色使いか。霊夢のそれは紅と白が基調なのに対してこちらは青と白。
さて巫女服の色というのは決められてはいないのだろうか、それともこの娘は巫女じゃないのか、アリスはそんなことを考えなら、とりあえず少女を青白と呼ぶことにした。
「あんた誰?」
青白を胡散臭そうに見つめながら、アリスは当然の疑問を口にする。
不機嫌なのには理由がある。徹夜で行った人形の稼動実験が失敗、精根尽き果てベッドで眠り込んでいたのに、目の前の青白にたたき起こされたのだから。
「東風谷早苗っていいます」
「そう、まああんたの名前なんてどうでもいいわ。ここに何しにきたの?えらくボロボロの格好だし道にでも迷ったの?」
魔法の森は厄介な生物の住み着く辺鄙な場所だ。
日の光は厚い森の木々に遮られ昼なお薄暗く、人や妖怪を惑わす瘴気がどこからともなく湧き出し、森全体を包み込んでいる。
そんなところを住処に活動する妖怪は普通の妖怪達より大抵たちが悪い。
厄介な奴らががそこかしこにうろつくこの森は、幻想郷の中でもちょっとした異界である。
まともな神経の持ち主なら極力近づこうとはしないだろう。
実際アリスがこの森で人と出会うこと等滅多に無い。偶に好奇心だか、度胸試しでこの森に入ってくる愚か者がいるくらいである。
この少女もその類のものだろうか、服はそこらじゅうが破け、焼け焦げた後まであるし見るからに疲れ切っている。妙に決意の満ちた目をしているのが気にかかるが。
「もしそうなら一夜の宿くらいは提供してもいいわ、さっきみたいにうるさくしなければだけど」
事務的な口調でアリスは告げる。
実際アリスは何度かそういった人間を泊めてやったことがある。
別に親切でやってるわけではない。もし迷ってる人間を見捨てたとなれば、里との付き合いは当然のように悪くなる。
里はど田舎の幻想郷で唯一文明の匂いをかげる場所である。
都会派を名乗る魔法使いとして、週に一度のカフェ通いが出来なくなるのは許せない。人を泊める理由はただそれだけ。
少なくとも慧音に聞かれた時の答えはこうだった。答えを聞いた慧音は苦笑いをしたものだが。
「ご親切にどうもアリスさん、でもあいにく迷子になったわけではないので」
「ちょっと待って。そもそもなんで私の名前を知ってるの?」
どうやらアリスに用があるらしい。少し警戒しながら問いかける。
「魔理沙さんに紹介されまして」
その言葉を聞いた瞬間、アリスは風になった。
ドアのノブに手をかけると全力でドアを閉じ、一寸の遅滞も無くすばやく施錠。
全てが終わった後、後ろ手でドアにもたれかかりほっと一息をつく。
突然訪ねてきた少女。ボロボロの服装。決意に満ちた目。そして魔理沙。疑いようも無く不吉な兆候である。
特に最後の単語がまずい。今まであいつと関わってきた経験が告げていた。この少女には関わるなと。
いきなり目の前でドアを閉められビックリしたのだろう。ほんのちょっと間があった後、少女がドアを全力で叩き始めた。
「ちょっと!どうしていきなりドアを閉めるんですか、用件もいってないのに!」
「生憎あなたの用件に興味はないわ、さっさと帰ってくれないかしら」
不本意なことに厄介事に巻き込まれるのは慣れている。だからといって進んで巻き込まれようとは思わない。
夜を徹した人形実験が失敗に終わり疲れているのだ。さっさと夕飯でも作ってもう一度寝るとしよう。
扉ごしに必死に訴えかける少女の叫びを聞き流しながら、アリスはそんなことを考えていた。
「いきなり門前払いなんてあんまりです、話ぐらい聞いてください!」
(そういえばこの前魔理沙が持ち込んだきのこがあったわね、シチューでもつくってみようかしら。でもあいつの持ってきたきのこじゃねえ)
背後の呼びかけをBGM代わりに、きのこの安全性についてつらつらと考える。
そんな怪しいもの使わなければいいだけの話だが、あいにく食材がきれかかっている。
ここ数日研究に没頭しすぎたせいである。
(うまくいくと思ったのにホントついてないわ)
「神の使いを締め出すなんて、バチがあたりますよ!いい加減にこの扉をあけなさい!」
扉をドンドン叩きながら少女の抗議は尚も続いていた。やはり彼女は巫女の類らしい。
あいにくアリスはバチを恐れるような存在では無かったが。
いままでの様子からして魔理沙のように強行突破してくることも無さそうだ。放っておけば帰るだろう、そう判断したアリスは台所に向かって歩き始めた。
二、三十分もしただろうか、アリスがシチューを煮込み始める頃には、扉を叩く音も訴えかける声も消えて……いなかった。
訴えかける声は次第に小さくなり、扉を叩く音も力を失っていったが、少女はまだ引き返してはいなかった。
「お願い、お願いだから、話を、話を聞いてってば」
訴える声はもはや懇願に近くなっていた。アリスに対する怒りは消え、ただただ必死さがにじみでていた。
本人にとってはよっぽど大事な用件であるらしい。
外を見れば夜の闇が森をつつみ始めていた。これからは闇の住人の力が増す危険な時間帯だ。
しかし彼女は霊力者であるようだし、魔理沙が素人にこの家を案内するとも思えない。
心配する必要は無い、アリスはそう判断した。
「話を聞いて、お願いだから……」
……そう判断したのだが、少女のボロボロになった巫女服が脳裏に浮かぶ。
ドアめがねからのぞいて見れば、彼女の肩は小刻みにふるえ、瞳からはいつ涙があふれても不思議ではない。
なんともいえない罪悪感がアリスを苛む。
(まったくあいつときたら、毎回厄介事をもちこんでくるんだから)
心の中で悪態をつき、アリスはしぶしぶドアノブに手を伸ばした。
◆
「へー、神様の信仰を集めている、っと。それで私のところを紹介された」
「そうなんです。八坂様を信仰すれば貴方も多大な神徳を授かること請け合いです」
淹れたばかりの紅茶を飲みながら、早苗(いつまでも青白じゃかわいそうだ)はニコニコとそういった。
罪悪感に負けたアリスは結局早苗をリビングに招き入れたのだ。
席についたとたんに早速用件を切り出そうとした早苗を押しとどめ、アリスは紅茶を用意した。
どういう形にしろ客は客だし、早苗もちょっとは落ち着くだろう。
「あ、それにしてもこの紅茶おいしいですね、向こうにいたときでもこんな美味しい紅茶、飲んだことがありませんよ」
さっきまで泣きそうな表情だったのに、ほがらかに笑う早苗。
どうやらアリスが風神を信仰するとものと思い込んでいるらしい。
「でも神様を信仰するっていってもねえ、面倒くさそうじゃない」
「信仰といっても難しいことはありません。宴会で一緒に楽しんでくださるだけで十分なんです」
「結構簡単なのね」
「そうなんですよ。アリスさんがよければ、ここに分社を建ててみるのはもいかがでしょうか。神奈子様がお授け下さる神徳も大幅アップです」
まるであやしげな通販番組。ほっとけば風神ペナントだの、予備分社セットだの微妙なものがどんどん追加されそうである。
早苗にそんなことをいえば激怒するだろうが。
「んー、確かにデメリットもなさそうだし、悪くない話ね。魔理沙絡みだからといって邪険に扱ってわるかったわ」
「そんなことはもうどうでもいいんです、あなたはちゃんと話を聞いてくださいましたから。……いままでの人たちときたら」
そういって顔を下に向け深く溜息をつく。ボロボロの巫女服にはそれなりに理由があったらしい。
「じゃあ早速ここに分社を建てることにしますね、どこに建てましょう?」
と袖口からいきなり木材やら大工用具やらを取り出し、あっけにとられるアリスを尻目にリビングを見回し始める。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、いまどっからそれをとりだしたのよ」
「見てなかったんですか?」
「いやだから、そういうことじゃなくて」
「どうしたんですか?ああ、室内じゃあまずいですかね、早とちりしてすいません」
得心したように頷くと早苗は窓の外に目を向け、
「たしかに風の神を奉るには屋外のほうが最適ですね」
と玄関にむかって歩き出した。
「違う!」
アリスは大慌てで止めに入る。
どうして幻想郷の人間は人の話を聞かないのか。とりあえず四次元だか、五次元になってそうな袖の秘密は脇においておこう。このまま放っておけば勝手に社が建設されるのも時間の問題だ。
「残念だけど、私、八坂さまだっけ?信仰する気ないから」
遠まわしにいっても無駄だろう。アリスは単刀直入に切り出した。
その一言に早苗はきょとんとした顔をする。どうにもアリスのいってることを理解できない様子だ。
「だってさっきいい話だって」
「確かにそういったわね、でも信仰するなんていってないでしょ」
「……どういうことなんですか」
早苗が困惑しながら問いかける。
確かにさっきの言い方だと信仰すると思われても仕方ない。アリスはちょっと反省し説明する。
「私実は既に他の神様の信者……なのかな?まあそういったものなのよ」
「なんで疑問系なのか気になりますが、別に他の神様を信仰していてもかまいせんよ」
そういう早苗の表情はあからさまにほっとしていた。これで問題はなにもない、そう信じている顔だった。
「そうなの、日本の神様は寛容なのね。でもどっちにしても関係ないわね。
二つの神様を信仰するのってなんだか居心地が悪いの。それに人に頼るのって嫌いなのよ」
「神奈……八坂様は人じゃありません、偉大な神さまです」
気色ばむ早苗に淡々とアリスは告げる。
「言葉のあやよ。そう怒らないで。まあそういうことで今回のことは縁がなかったと諦めてくれる」
「そんなあ」
確かに早苗の話は魅力的だ。なにやら魔理沙のせいで苦労してきたみたいだし、アリスも同情はしていた。
でもそれとこれとは話は別なのだ。
黙って幻想郷に飛び出して来たことにも負い目を感じているのに、他の神を信仰するなんてできそうもない。
あからさまに落胆している早苗にはわるいが、これ以上話しても平行線をたどるだけだろう。
「なんという神様ですか」
しょんぼりと顔をうつむけていた早苗がポツリとつぶやく。
「へっ?」
「あなたの信仰している神様です、ア○テラス様、それともオオクニ○シ様ですか」
早苗はそこで言葉をきるとアリスをしげしげと見つめる。
「あっ、わかりましたよ!あなたジーザスでクライストな方ですね。
間違いありません、金髪だもん」
「いや、ちょっとまって」
なんだかひどい思い違いをしているようだ。しかし自分の世界にトリップしている早苗には届かない。
「ああひどい、現世で信仰を集められ無いからって幻想郷に落ち延びてきたきたのに、ここでも差別をうけるなんて。
そりゃどうせうちはその辺の神様と比べられれば、マイナーですよ、太陽なんて派手な存在じゃないし、七福神として広く世に受け入れらてもいない。ましてや世界三代宗教の神様と比べられたら……、ああ神も仏もいないの!」
しかもバッドトリップのようである。
体育座りでのの字を書きながら、死んだ魚の目で延々と呪詛をつぶやくその姿は辛気臭いことこの上ない。
「どうにも勘違いしているようね、私の神様はそんな名前じゃないわ。神綺っていうのよ、あなた知ってる?」
「へ?しんき?」
アリスを見上げる早苗の顔はきょとんとしていた。
聞いたことはなさそうだ。まあ当然の反応だろう。
神綺はアリスの母にして魔界の創造主、魔界人にとっては万物の創造者といえる大物なのだが、人間の世界で知っているものはごく少ない。
「聞いたこともありませんね、もしかしてここでは有名なんですか?」
「いやこっちでもあんまりね」
少なくとも自分以外の魔界人を、アリスは幻想郷では見たことが無い。
しかしその言葉は早苗にいらぬ希望を与えたようだった。
「そのかた強いんですか?」
早苗が目を輝かせて問いただしてくる。
「強……くはないかなあ」
霊夢たちの以前の襲来劇が頭をよぎる。
「神徳はいっぱい授けてくださるんですか」
「うーん、少なくとも私は受けた記憶がないわね」
少なくともここ最近、アリスは神綺から神様としてなにかしてもらった記憶は無い。
グリモワールはまあ母から娘への贈り物であって、ここでいう神徳とは別物のようだし。
「じゃあたいして有名でもなく、とくに強いというわけでもなく、さらに御利益も薄い、ということでいいんでしょうか」
「まあ、そうなるのかしら」
(身内としては認めたくないものだけれど)
「じゃあそんな役に立たない神様より神奈子様を信仰したほうがいいにきまっています」
早苗は勢い込んでそういった。
悪気はないのだろう。どうやら失敗続きだったようだし焦っていたのかもしれない。
しかし悪気はなくても人を怒らせるのは簡単なのだ。
「……ちょっと失礼じゃない、人の神様を役立たずなんて」
案の定その発言で、アリスの中でなにかが音を立てて切れた。ぷちんと。
「あ、えっとその」
アリスの指摘でようやく早苗は自分の過ちに気づいたようだ。後の祭りと言うほかない。
残念ながら既にアリスは敵対モードに移行していた。
普段は良くも悪くも冷静で、本気で怒ることなど滅多にないだけに、一度そうなるとたちが悪い。
早苗を見つめる目は据わっていて、先ほどまでのなごやかな雰囲気はどこにも見当たらない。
付き合いの長い魔理沙ならさっさと逃げたしていただろうが、出会ったばかりの早苗にそのような判断を下せるわけが無い。
「まあ確かに人気は無いかもしれないわね。でもね」
戸惑う早苗を無視してアリスは続ける。
「人間に負けちゃうような神さまなんかよりよっぽどましよ」
皮肉たっぷり、相手を小馬鹿にしたいやーな笑顔と共に先制パンチ。もちろん神綺が霊夢たちに負けたことなど棚上げである。
「ど、どうしてそのことを」
「さっき自分で話していたじゃないの」
勧誘に来てそういう話をすること自体、早苗はある意味天然といえるのかもしれない。
「だ、だからといって神を侮辱するような発言はゆるされません。あの日は運がわるかっただけです」
「そう、運が悪かっただけ、ね。で、あなた現人神だっけ、神様の代理人なのよね」
「そうです、それがなにか」
アリスは即答せずに、たじろいでる早苗を上から下までゆっくりじっくり眺める。
「なんなんですか一体」
品定めするような視線が居心地わるいのだろう。早苗がいらだたしげに尋ねる。
「いえね、あなたみたいな弱そうな娘が代理人じゃ、信仰を集めるのも大変そうね。
神様のありがたみなんて感じられないもの」
そういってクスクスと笑う。すっげえ嫌みな笑いである。お嬢様キャラの付き人Aとか似合いそう。
これを受け流せるほど早苗は人生経験がつめてはいなかった。
「いい加減馬鹿にするような発言はやめなさい!神の子孫としてこれ以上は我慢できないわ」
「あらあら、別に馬鹿になんかしてないわ。真実をいっただけ。
それにそんなこといえば私だって神の子よ、幻想郷じゃその程度、珍しくも無い。
実力もないのに肩書きだけ偉そうなんて惨めなだけよ。もっとましな娘ならその神様も信仰を集められたかもしれないわね」
早苗の顔が真っ赤にそまる。現人神として誇りを持っているようだし、ここまで侮辱されたのも初めてだろう。
両者の溝はイスラエ○とパレ○チナのそれより広がっていた。
「つまり私が足をひっぱっている。あなたはそういいたいのね」
「そうとりたければ御自由に。もしかして図星だったかしら」
いつからだろうか、室内なのにどこからとも無く風が吹き始め、棚の中に鎮座していた人形達は、ゆっくりと主の周りに集まり始めていた。
さきほどまでなごやかだった空間は一変し、静かな緊張に包まれていた。決壊の時は近い。
「こういうときの決まり文句というのがありまして。まさか私がいう羽目になるとはおもわなかったけど」
「ああそう。奇遇ね。私もちょうどいい言葉を知ってるの。あんたにはお似合いのセリフだと思うけど」
二人の声が綺麗に重なる。
「「表へ出ろ!」」
~~少女弾幕中~~
◆
「……ここ、どこ?」
早苗は目が覚めるとベッドの上にいた。
ここ最近はずっと布団で寝ていたのだから、少なくとも自分の寝室でない。それは確かだ。
何故自分は寝ていたのか。ここはいったどこなのか、全く見当がつかない。
「とにかく落ち着かないと」
そう独りごちて、体をおき上げゆっくり部屋を見回してみる。
窓から入ってくる淡い月明かりがうっすらと部屋全体を照らしていた。
広くはないけれど、綺麗に整頓された洋室。
備え付けの棚の一つにはびっしりと古い装丁の本が埋まっており、もうひとつの棚にはおびただしい数の人形が鎮座していた。
「人形、人形といえばさっき」
混乱におちいっていた脳みそが徐々に正常な機能を取り戻し、今日一日の出来事を再生し始める。
そう、今日早苗は魔理沙に紹介されたオススメの勧誘場所を訪問していったのである。
残念ながら最初の二件では信者を獲得することはできず、落ち込みながらも訪ねた三件目は、初めてまともな人と出会い、脈もありそうだったのだけれど……
「そう、何故だか弾幕ごっこになったのよ、そして」
「あら、もう目が覚めたの」
部屋の扉が開き、さっきまでの対戦相手が姿をあらわす。
その後ろには人形達が数人係でお盆を運んでいた。
アリスの姿を見ることで早苗の記憶は完全なものとなった。脳裏に弾幕ごっこの最後の瞬間が蘇る。
「また負けちゃったんだあ、わたし……」
◆
決着がつくのにそれほど時間はかからなかった。両者の間に決定的な能力差が存在した、というわけではない。
ちょっとやりあえば、アリスにも早苗の霊力が侮れないものであることなどすぐにわかった。その絶対量だけでいえば霊夢に匹敵するかもしれない。
しかし、弾幕ごっこは単純な霊力の比べ合いではない。
アリスは霊夢たちと出会ってからたびたび弾幕ごっこを経験している。
早苗の弾幕は少々変則的ではあるものの、霊夢のような理不尽な嫌らしさも無いし、魔理沙のような理屈を覆す大胆さも無い。理詰めで戦うアリスにとっては組し易い相手である。
逆に弾幕ごっこが不慣れな早苗にとって、アリスの変則的な弾幕はたいそうやりにくいものらしい。
人形と本体による時間差攻撃なんて経験したこともないのだろう、面白いように引っかかってくれる。
おまけに早苗の動きは最初から精細を欠いていた。やはりどこかで弾幕ごっこをしてきたようで、簡単な弾幕を生成するのにも時折失敗する始末。
それを見逃すほどアリスは甘くなかった。
三度目の失敗の隙をついて、アリスの人形達が早苗を拘束、狙いすました蓬莱人形の一撃が早苗をつらぬき、弾幕ごっこはあっけなく終わりを告げたのだった。
「で、どうしたものかしらね、これ」
アリスは地面にのびてる早苗を見ながら途方にくれる。
頭に血が昇って、拘束した相手に蓬莱人形を叩き込むという荒業をやってのけたが、どう考えてもやりすぎである。
弾幕ごっこは完全なる実力主義を否定し、美しさに重きを置く決闘方式である。先ほどの行動は到底美しいとはいえないだろう。
早苗の体力はもう限界まできていたのだし、決着をつけるには普通のレーザーで十分だった。それなのにスペルカードまで使って気絶させてしまったのだから。
「どうも母さんを馬鹿にされるとダメね、成長してないというか」
幼い頃を思い出して、溜息をつく。
とにかくこのまま早苗をほっとくわけにもいかないだろう。
さっきの一撃でボロボロだった巫女服は崩壊寸前。かなりきわどい姿になってるし、霊力を使い果たした早苗の意識は当分戻ることはないだろう。
「仕方ない、自分のまいた種だもんね」
あきらめたようにそういうと、人形達に家の中へと連れて行くよう指示を出したのだった。
◆
「気分はどう?弾幕ごっこにしちゃやりすぎたわね、反省してる」
人形たちと手伝いながら気絶した早苗の服を着せ替え、なんとかベッドに放り込んだ後、アリスは作りかけのシチューを完成させた。特に異常こそ見当たらなかったものの、早苗は当分意識を戻しそうに無かったからだ。
その後そろそろ大丈夫かなと寝室をのぞいてみたら、既に早苗は意識を取り戻していた。
「いえ、私のほうこそ他所様の神様を馬鹿にするようなこと言いまして。ほんとに申し訳ないです。その上介抱までしてもらって」
そういって肩を縮める早苗をみると、ますますやりすぎたなあとアリスに後悔の念が湧き起こってくる。
どうにもこういう空気は苦手だ。気絶させた相手に逆に謝られるというのは。魔理沙あたりと皮肉の言い合いでもしているほうが、よほど気楽なものである。
「気にしなくていいわよ、こっちもあんたのことさんざんにいったしお相子ってことで」
「いえ、それはいいんです。だいたい当たってましたから」
そう言って溜息をつく早苗の表情は暗かった。どうやら先ほどの敗戦が相当堪えているらしい。
「なんでそうなるの?そりゃお世辞にも弾幕ごっこの腕がよかったとはいえないけど、そんなもの信仰を集めるのにたいして役に立つとはおもえないし」
これまでの会話からして早苗は多少突っ走ってしまう傾向はあるものの、おおむね真面目で好感がもてる。
どこぞのぐうたら巫女と比べて、どちらが信仰を集めれそうかと考えれば、当然早苗の方に軍配があがる。
「そんなことはありません!実際今日だって弾幕ごっこの腕さえあれば、八坂様の信仰を集めることができたのに」
「ちょっとまちなさい。さっきから気になってたんだけど、あんた一体どこに布教しにいったのよ?」
ついさっき弾幕ごっこをやったばかりのアリスがいうのもおかしな話だが、早苗側の提案は神を信仰することで、神と信者双方得をするというものだ。
アリスのような事情があるならともかく、普通は弾幕ごっこになどなるはずもない。
「ええと、湖の上の赤いお屋敷と、竹林の中のお屋敷、この2つです」
紅魔館と永遠亭、薄々予感はしていたものの魔理沙は本当に厄介者だ。まともな神経の持ち主が布教しにいく場所ではない。
「……魔理沙がそこを紹介したの?」
「はあ、そこの主を説得できれば信仰が一気に集められるぜっていって」
たしかにそれは嘘ではない。しかしどうやってあの二人を説得するというのか。
「よければその辺り、話してくれないかしら……なんとなく想像はつくけど」
「はあ、一つ目のお屋敷では門からお邪魔したんです。門番のかたはお昼寝してたようで、仕方なくそのまま玄関先まで歩いていきますとメイドっていうんですかね、銀髪の綺麗な方がそういう服をきて玄関前を掃除してたんです」
「で、そいつに主人を紹介してもらおうとした?」
「はい、そうです。用件を告げると『お嬢様は面白い人間にしかお会いにならないの、試していい?』なんていうんですよ、なんだかよくわからないけど、とにかくその人に会わないと話にならないじゃないですか、『いいですよ』って頷いたら……」
「次の瞬間、周りをナイフに囲まれてた、っと」
「ど、どうして、わかるんですか!」
わかるもなにもあのメイドのいわゆる“手品”は弾幕少女の間では有名だ。
「私すっかり混乱して反射的にしゃがみこんじゃったんですよ。そうしたら次の瞬間ナイフが消えて『はい、不合格』とそのメイドさんがにっこり笑って一言。慌てて抗議をしたんですがいきなり目の前の光景が変わってですね、今度は最初の門の前にいたんですよ」
「それであきらめて帰った、そんなところ?」
早苗はしぶしぶと頷く。
「だってだってしょうがないじゃないですか。そりゃここは幻想の国で変なことは日常茶飯事かもしれませんが、門の前にはさっきの門番の人が、頭にナイフ刺して転がってるんですよ。あれきっと次はお前だって意味に違いないです!」
「まあこれでも飲んで落ち着きなさい、別に責めてる訳じゃないんだから」
興奮しながらまくし立てる早苗に、アリスはレモンティーをすすめる。
「ありがとうございます、こくこく、やっぱりアリスさんのお茶、おいしいですねえ」
早苗が目覚めるまで読書でもしておこうと用意してたのだが、一応カップを二つ用意しておいたのが役にたった。
「落ち着いた?」
「ええ、幾分かは。それでまあそこはあきらめてですね、次に紹介されてた竹林のお屋敷にむかったんですよ」
とすると、早苗のぼろぼろの巫女服はどうやらそこが原因であったらしい。
「道に迷ったでしょ」
「うぐ、さっきから何故わかるんですか、ええ、道に迷いましたよ思いっきり」
「まああそこは変な術がかかってるから」
「ああそうなんですか、でもでも私幸運でしてね、一時間ほど迷った末に、兎の耳をもった少女に偶然出会いまして」
「もしかして、賽銭箱をもってたりする?」
「はい、そうです」
「で、騙されたと」
「案内料の代わりにお賽銭を払っただけですよ。お陰で姫様にあえましたし。あんな可愛い子に失礼ですよ」
幻想郷の住人が皆見た目どおりの性格であったなら、さぞかし平和であろう。
「じゃあ輝夜にはあえたんだ。普通は薬師に取り次がないと駄目なんだけどね」
「ええ、どうも竹林で人待ちしてたみたいで」
「ああ、そういうことね」
「前回と違ってお屋敷の主にもあっけなく逢うことができましたしね。
希望に燃える私は早速八坂様の神徳がいかに素晴らしいものかを説明したんです。
お姫様のほうも聞き上手な人でしてね。興味深そうにこちらの話に聞き入って、時折質問をしてきたりもするものですから、これはいけるか、と手ごたえも感じていたんですが……」
楽しげに語っていた早苗が一気にトーンダウンする。
「何かあったの?」
「ええ、私が一通り話終えると姫様は信仰してもいいけど条件があるって」
「どういう条件?」
「姫様の出す難題を解くことができたら信仰するって。私はその提案に飛びつきました。
ちょっと変な条件だけど、私クイズ得意でして。クイズ研究会の主将だったんですよ」
「で、その経験は役に立ったのかしら」
少し得意げな早苗に、アリスがいたずらっぽく笑いかける。
「アリスさん、わかっていってるんでしょう」
早苗は恨みがましい目つきでアリスを見返す。こういっちゃうとなんだが、怖いというよりちょっとかわいい。
「なんなんですか、一体!
私が『お受けします』と言った瞬間、姫様にっこり笑うと一気に竹林のうえまで舞い上がったんですよ。
あっけにとられていたら、『じゃあ、はじめましょうか』の一言。その後いきなり弾幕ごっこの開幕ですよ。
七色に輝く光弾やらレーザーをそこら中にばら撒きだされて、それを避けるのに精一杯。訳もわからず逃げまくりました」
「それだけ?あんた結構気が強いし、やられっぱなしとも思えないんだけど」
「ええ。そりゃ最初は混乱しましたが、どうやらこれが難題らしいと流石に途中で気がつきましたよ。
説明もなしにあんなことするのにも腹が立ったし、やられっぱなしも癪なんでこっちも全力で対抗したんです」
「で、結果はどうだったの?」
「私だって頑張った、頑張ったんですよー」
そのときのことを思い出しながら、泣きそうな顔で力説する早苗に、アリスは心底同情した。
相手が不死人じゃ結果はわかりきっている。
「でもですねえ。こっちの弾幕はいくら当てても、姫様何故だか全然こらえた風もないし、
こっちの疲れはどんどん溜まっていく。なんだかまずいことになってきた、また失敗してしまうと焦っていたら」
「焦っていたら?」
「今度はいきなり巨大な火の玉飛んできてですね、こう私と姫様の間にちゅどーんと炸裂したわけですよ、ちゅどーんと」
しかも運命は少女をさらなる荒波に叩き込んだらしい。
「私驚いて火の玉が飛んできた方をみたんです。
そしたら、長い銀髪をゆらした紅い目の女性がいましてね、『人を呼び出しといて他の奴と遊んでるなんて、
相変わらず礼儀知らずだね。これでも喰らって反省しな』なんていいながら、こちらに向かって火の玉を放てば、
それに答えるように姫様も笑いながら弾幕で対抗しましてね。もうそれからはひどくて……。
銀髪の人は炎の羽根を生やして、そこらじゅうに炎の塊を撒き散らすし、姫様もノリノリでレーザーを四方八方に撃ちまくる。
巻き込まれた私は散々ですよ、もうそこかしで爆発はおこるし、レーザーはひっきりなしで降り注いでくる。
あたり一面火の海で生きた心地なんてしませんでしたよ、実際」
うんざりした表情で早苗はため息をつく。
そりゃ目の前でスペクタル映画もかくやと思われる弾幕ごっこを繰り広げられれば、大抵のものはそう思うだろう。
「で、逃げ出してきたわけね」
「言わないでくださいよー」
「あんたがいわせたようなもんじゃない、まあ賢明な判断だと思うけど」
「だ、だって、弾幕ごっこてあんな殺気だってやるもんですか、姫様も銀髪の人も殺る気に満ち満ちてましたよ」
「まあ、あいつらはちょっと特殊でね。話はこれで全部?」
「ええ、それからアリスさんのところに向かって。後はご存知の通りです」
アリスはほっと一息をつく。予想はしていたが、予想を越える不運ぶりだ。
これ以上不幸話を積み重ねられては、魔理沙の知り合いとして居心地悪いことこの上ない。
「わかったでしょう。わたしの能力が足りないばかりに、信仰を集めることができなかったんです」
「とてもそうとは思えないんだけど」
紅魔館の件は弾幕の腕の問題とはいえそうにないし、永遠亭のほうも同じだ。あの二人に巻き込まれた時点で、布教活動など成功するはずもない。
「アリスさんはやさしいんですね、慰めてくれるなんて」
アリスの冷静な指摘も、ネガティブ思想にどっぷり浸かった早苗には通用しない。
してもいない親切に感謝されるのはむず痒い。どうしたものかと思案していると、早苗がおもむろに立ち上った。
「お話を聞いてもらって少しはすっきりしましたし、いつまでも挫けていては八坂様に申し訳ありません。
次の目的地に向かわなければ」
そういってぺこりと頭を下げる。
騙されているのに気付いていないのか、それとも認めたくないのか、早苗はまだ布教活動を続けるつもりらしい。
アリスとしてもあまり聞きたくはないが、ここで聞かないのは人として問題がある。
「次の目的地って?」
「太陽の畑というところです。花の妖怪さんがいるんですって、なんだか素敵ですよね」
「ゴホッ、ゴホッ」
最悪である。
白玉楼やマヨイガを予想していたが、それより悪いところはアリスも想定していなかった。というより想定するのも嫌だったというのが正確なところか。太陽の畑の住人との間に、アリスは碌な思い出を持っていない。
「や、やめときなさい、そこはちょっと洒落にならないわ」
「いままでだって全然洒落になってなかったんですが」
早苗の顔がひきつるが事実なのだからしょうがない。
前の二人はなんだかんだで人間には優しいが、今度の相手は生粋のいじめっ子だ。しかも人をからかうのが大好物ときてる。
言い方は悪いが、堅物でいじりがいのありそうな早苗なんかは絶好の獲物、虎の穴の中に兎が飛び込んでいくようなものである。
「もういいかげんあきらめなさい。気付いてるんでしょうけど、あんた騙されてるのよ」
「うっ、うすうす気付いていたことを、ずばりと指摘しないでください……とにかく今日はまだ一人も布教に成功してないんです、ここでやめるわけにはいきません」
そういってぐっと拳を握り締める早苗の瞳は燃えていた、多少自棄気味ではあるものの、諦める気は毛頭無さそうである。
「わからないわ、なんでそんなになってまで続けるのよ。信仰ってそんなに大事なの?」
首を振りながら、アリスはさっきから感じていた疑問を口にした。
強がってはいるものの、早苗の体力、霊力はここまでの騒動でボロボロだ。もはやここから太陽の畑まで飛んでいけるかすら怪しい。
何故そこまで無茶をするのか。普段ぐうたら巫女を見慣れているせいか、どうにも納得できないのだ。
「そりゃそうですよ、何故私達がここに来たかはさっき説明しましたよね」
外の世界では得られなくなった信仰を集めるため。失われていく神の力を取り戻すため。早苗はさっきそう説明した。
「で、あんたを死ぬほどこき使ってるわけ?立派な神様だこと」
アリスの口調が鋭くなるのには理由がある。
早苗の話では、信仰は山の妖怪を中心に徐々に集まっているということだった。
まだまだ昔日の力は取り戻せていないのかもしれないが、焦る必要があるとも思えない。
だというのにこの生真面目で危なっかしい女の子に、ここまで無理をさせるとは。
どうにも気にくわない、アリスの風神に対する評価は悪化する一方である。
「ああ、いえ、違うんです。これは私が勝手にやっていることで。というより内緒にしてるんです」
「へ?」
「さっきも話したとおり神奈子様、えーと八坂様のことなんですが、毎晩天狗の方たちと宴会を開いてるんですよね、信仰を集めるために」
「……それはさっきも聞いたわ」
憮然としてアリスは答える。珍しく義憤にかられたのに、なにやら勘違いだったようできまりがわるいのだ。
「で、まあそこで天狗の皆さんを楽しませるのが風祝たる私の役目なんですが、私下戸の上この通りの性格でして。
頼みの綱の風の奇跡も天狗さん相手だと効果が薄くて」
「まあそりゃそうでしょ」
早苗の力はなかなかのものだが、なにせ相手は風の眷属といってもいい妖怪だ。ちょっとした手品にしかならないだろう。
「で、結局のところ私はお料理を用意するくらいで、信仰を集めているのは神奈子、じゃなかった、八坂様ご本人に任せ切りになっちゃうんですよ」
「いいにくいなら神奈子様でいいわよ」
「……なんでわかったんですか?」
「さっきからなんども言い換えてるじゃない」
早苗はアリスの提案をちょっと考え、照れくさそうに笑った。
「そうですね、アリスさん相手なら別にいいかな。
まあそんなわけで私、山では信仰を集めるのに役に立ってないんです。
それに博麗神社の乗っ取りも失敗してますし、正直なところこちらに来てから神奈子様のお荷物にしかなってなくて」
「つまりええと、風祝だったけ。そういう役目の者として情けなくなって、そういうこと?」
「それもあります、でもそれだけじゃなくって」
そういって早苗は恥ずかしそうにうつむくと、ぽつぽつと語りだした。
「ええとですねえ、確かに神奈子様は神様です、でも私にとってはそれと同時にね、なんていうのかな、家族みたいな存在でもあるんですよ」
「家族?」
意外な、そしてアリスにとってちょっと懐かしい単語が飛び出してきた。
「そう、家族。母であり、姉でもありました。
だってあの方は、産まれた時からずっと一緒にいてくださいましたから。
楽しい記憶も、悲しい記憶も全てあの方と共にあります。初めて雲のアーチを渡り大はしゃぎした時、大好きな親友が引っ越して馬鹿みたいに泣いた時、どんなときでも神奈子様は私のそばで笑っていました」
「思ってたより随分やさしい神様なのね」
アリスにとっては驚きだ。早苗を顎で使う傲慢な神を想像していたのだから。
「いえ、やさしいなんてとんでもない」
早苗は慌てて否定した後、早口で語り始めた。
「そりゃ楽しいときはいいですよ、一緒に笑ってくれる人がいればもっと楽しくなりますし。
でもね、あの方こっちが泣いてるときでも笑うんですよ。
綾香ちゃん、ええと私の親友ですけど、その娘が引越しって、さっきもいったように私大泣きしてたんですよ。部屋にこもってね。もうこの世の終わりみたいな気分になって。で、悲しみにくれる私の横で神奈子様が何してたかわかりますか」
「ええと、慰めようと笑いかけてくれた、とか?」
その返事を予測していたのか、早苗は大きく首を振る。
「残念ながら違います。あの方はですねー、確かに笑ってましたよ。ただし慰めるつもりなんて、これっぽっちもありません。
横で一升瓶をあおりながら、やれ『泣いてる早苗は可愛いねー、ついつい酒がすすんじまう』とか『今生の別れでもあるまいし、人間ってのは可笑しいねえ』なんてけらけら笑ってるんですよ」
「それはまた、なんというか」
感動の逸話かと思いきや、なんだか話が変な方向にずれてきた。
「もう腹が立って、腹が立ってね。
だってそうでしょ。こっちは落ち込んでるのに、それをネタにするなんてね。馬鹿にしてるとしか思えない。
私はそんなときいつも神奈子様を追い出そうとしましたよ。
でもあの方なんといっても神様ですからね。実体にも幽体にもなれるから、こっちが何を投げつけたところでかすりもしない。こっちから離れようとしてもどこにいたって付きまとってくる。大体いつもこっちが先に力尽きちゃうんですよね」
「よくそんなことされて家族なんていえるわね」
すくなくともアリスは母にそこまで干渉というか、おもちゃにされたことはない。
「そんなことをするから家族なんですよ」
力強く肯定する早苗にそんなものかなと考える。家族といったっていろんな型があるのだろう。
「なんだかもう疲れ果ててどうでもよくなっちゃいましてね。おかしいですよね。結局最後には私も一緒に笑ってるんですよ。
そうすると神奈子様も調子に乗って『いや泣いた早苗も可愛いが、笑った早苗も可愛いね、こりゃ』とかなんとかいってまた笑い出す。
人の不幸をネタに楽しむなんて、本当にひどい神様です」
「そういう割には楽しそうだけど」
実際早苗はニコニコと笑っていた。
風神のことを進める時、早苗の態度はどこか堅苦しいところがあったものだが、彼女にとっての「神奈子様」を語る早苗は活き活きとして、そんなぎこちなさはまったく感じさせない。
「まあですね、やり方はまずかったんですが、どんなことがあっても私はいつも笑っていられました。神奈子様のおかげでね。
で、今神奈子さまは信仰心を取り戻すために苦労してます……毎日酔っ払ってるだけのようにもみえますが」
後半の部分に関しては少々自信がなさそうだ。しかし、
「今度は私が恩返しをする番でしょう」
穏やかにそういった早苗の眼には、なんの迷いも見当たらなかった。
(家族みたいな神様のために幻想郷入りね)
とっておきの魔道書を手に取り、幻想郷を訪れた幼き日の興奮を思い出す。
(あの時の私は、こんな落ち着いた眼はしていなかったろうけど)
「これもなにかのめぐり合わせかしら」
「なんのことです?」
「あんたを放っておくわけにはいかなくなったってこと、とりあえず今晩はここに泊まっていきなさい」
「いえ、ですから私は」
バンッ!
アリスは片手で机をたたきつけ、冷たい視線で早苗を睨みつけた。対魔理沙用の切り札は目論見どおり早苗の反論を封殺した。
「な、なんですか」
「一つ質問があるわ、あんた今私とやりあって勝てると思う」
じっと早苗の瞳を覗き込む。
「……勝負はやってみないとわかりません」
どうにも発言に力がない。自分の疲弊ぶりは良くわかっているようだ。それでいながら瞳を逸らさないのだからほんとに頑固だ。
「あいにく私は負ける気がしないわ。そしてあんたが今から会いにいく相手は化け物よ、認めたくは無いけど」
「でも弾幕ごっこになるとは限らないじゃないですか」
早苗の抵抗をアリスは鼻で笑って受け流す。
「なるわよ、間違いなく。あいつの趣味を知らないのね。弱いものいじめ。
まともな状態でも危ないのに、今のあんたをみたらあいつは喜んでボコボコにするわよ。
それで捕まったら最後ね。一週間だか一ヶ月だか、あいつが飽きるまで嬲り者にされるのがオチよ」
「な、嬲り者って、冗談ですよね」
流石の早苗もアリスの物言いに流石に不穏なものを感じたらしい。
「いいえ、真実よ」
冗談だったらどれだけよかったか。そう思わずにはいられない。
だが、恐ろしいことにこれはアリスの実体験に基づいている。幻想郷に殴り込みをかけたアリスは、最初の突撃先であえなく敗北した後、究極の魔法を狙われつきまとわれたのである。
朝も夜も関係なく、唐突に現われれる恐怖の暴君。そのプレッシャーはアリスをノイローゼに落とし入れるほどであった。トラウマ以外の何者でもない。
「そ、それでも私は引くわけにはいかないんです。たとえ私の純潔を危険に晒すことになっても」
「……一体なにを想像したのよ。あんた本当に頑固ねえ」
顔を赤くしたり、青くしたりするのに忙しい早苗をみながら、ため息をつく。
「他にあてが無い以上あたって砕けてみるべきなんです!」
「まあそういうかなっと思ってね、実は代案があるの」
「代案ですか?」
唐突なアリスの提案に早苗の勢いが少し弱まる。
「明日、私は里に行く用があってね。それに付いてきなさい。少なくとも太陽の畑よりは収穫があるはずよ」
「里、ですか?でも私泊まって行くなんて神奈子様に言ってませんし」
「今から太陽の畑にいけば一泊どころじゃ済まなくなるわよ。それに明日はいろいろと都合がいいのよ。
それとも私の提案は魔理沙のそれより信用がないっていうの?ちょっと傷つくわ」
首を振りながらわざとらしく嘆くアリス、もちろん芝居なのだが早苗はあっさり引っかかった。
「いやそんなことはありません、アリスさんはいい人です」
顔の前で両手を振りながら早苗は必死で否定する。
「じゃあ決まりね」
「うう」
罠にかかった獲物に、アリスはにっこり笑ってそういった。
言質を取られた早苗としては頷くしかない。
「さっき作ったシチューを持ってくるから、それを食べたらさっさと寝なさい。きっと明日は忙しくなるから」
早苗にそう告げ、アリスは人形を従え扉へむかって歩き出した。早苗は慌てて呼び止める。
「まってください、どうしてそんなに親切にしてくれるんですか?」
「別に親切のつもりはないけど」
「とてもそうとは思えません」
(そういわれてもねえ)
実際の所、幽香のところに突撃するという自殺行為を止めて、勧誘場所を紹介しただけである。
ただ、確かに魔女には似合わぬお節介だ。
ちょっと考えた後、アリスは早苗のほうに振り向いた。
「ただの気まぐれよ」
いろいろと理由は思いついたが、結局のところこれが一番しっくりきたのだ。
あっけにとられる早苗を尻目に、アリスはドアの向こうの食卓へと歩みだした。
◆
里、といえば普通名詞だが、幻想郷におけるそれは一つしかない。人間の里である。
幻想郷最大の人口を抱えるその場所は、人と妖怪が交流する聖地であり、各地に散らばる村からの収穫物や工芸品が集まる商業の中心地でもある。
目抜き通りには様々な人妖が行きかい、客をよぶ物売りの声も活気に満ちている。幻想郷で一番にぎやかな場所といえるだろう。
「アリスさん人形劇をやるんでしょう?ここでやらないんですか」
さっさと前を歩くアリスに早苗は声を掛ける。
人形劇にどれほどの需要があるかは知らないが、そういった大道芸の類は人通りの多い場所で行わなければ客がつかない。
少し天然が入ってるとはいえ早苗にもそれくらいの判断はつく。
場所を探しているのかとも考えたが、人並みを綺麗にすり抜けていくアリスは立ち止まる気配すらみせない。
「今日はもっといい場所があるのよ」
そういってひょいひょいと先にいってしまう。
「いい加減にちょっとは説明して下さいよー」
アリスは昨晩いい案があるといったものの、朝食からこちらにつくまで具体的なことは何一つ教えてくれなかった。
いや何一つというのは言い過ぎか。人形劇をする、そのことだけは教えてくれたのだから。
「教えてほしい?」
そういって振り返るアリスの浮かべる笑顔は早苗がごくごく見慣れた種類のものであった。
親のような、姉のような風の神がこちらをからかう時に浮かべるそれである。
からかわれているのに何故か妙な安心感を抱く自分に戸惑いつつ、早苗はアリスに抗議の声をあげる。
「当たり前です!」
「そんなに怒らないでよ、怖いじゃない」
絶対嘘である。口元に残る笑みがなによりの証拠だ。とはいえ早苗もそのことに突っ込む愚は起こさなかった。
こういう相手に抗議しても大抵相手が喜ぶことになるのだ、何故か。
「それじゃそろそろ種明かしをしましょうか、ほらあそこ」
アリスの指差した先には紅葉に覆われた小高い丘があった。里の中心からは少し外れている。歩いて10分ぐらいだろうか。
「あんな所が?」
早苗が戸惑うのも無理はない。あんな辺鄙なところでは客を見つけるだけでも一苦労だ。
「今日だけは特別なのよ、ほら、周りを見て何か気づかない?」
「そういえば……いつにも増して活気がありますねえ」
早苗は買出しで数回里に来たことがあるのだが、確かにそのときとは様子が違う。
行き交う人々は妙に楽しげで、そわそわしている。まだ真昼間だというのに働き盛りの若衆が徒党を組んで闊歩しているし、親の手伝いで忙しいはずの子供達がそこらじゅうで遊びまわっている。
「今日は祭りがあるのよ」
「お祭りですか」
「収穫祭って奴ね。豊穣の神に感謝を捧げるんだそうよ」
「あの丘の頂上、樹に囲まれてここからだとわかりにくいけど、大きな広場になってってね。こういう時にはよく使われているってわけ」
早苗はアリスの指差すほうを目を凝らして睨んでみたものの、やはりその広場を確認することはできなかった。
「で、私はそのお祭りによばれたパフォーマーってわけ。
まあ自分でいうのもなんだけど、そこらの人形師に負ける気はしないわ」
「ええとそれと布教の間に何の関係があるのでしょうか」
早苗の疑問にアリスはため息をつく。
「つまり私の劇にはそれなりの客がつくって事よ。場所は確保できてるんだし、そのついでに布教すればいいんじゃない」
アリスは何を寝ぼけたことを聞いてくるのか、といった表情でさばさばと答える。
「……えーと、そのつまり他所の神様のお祭りで布教をしろ、そういうことですか?」
対する早苗は冷や汗たらたらである。そりゃそうだろう。外の世界でそんなことをすれば、袋叩きにされても文句はいえない失礼な行為である。
「何、豊穣の神さまに遠慮してるの?あなたの神様は山の神さまになったんでしょ、上司のすることには文句をつけやしないでしょ」
「そうはいってもやはり」
「大丈夫、大丈夫、文句いってきたら追い払えばいいじゃない。魔理沙のいってた話じゃそんなに強い神さまじゃないみたいだし」
「誰が追い払うんです?」
「もちろんあなたよ、私には関係ないし」
無茶苦茶である。
もし祭神である豊穣の神をたたき出そうものなら、そこに集まった民衆から信仰を得るなど一生できないであろう。
そのくらいのことは早苗にも容易に想像できた。
とはいえアリスの言うようにこれ信仰を大量に獲得する千載一遇のチャンスでもある。
早苗はアリスの前で数分頭をうならせた後決断した。
「アリスさん、ありがとうございます!今度こそ名誉挽回してみせます」
そういってアリスの手を握り、思いっきり上下に振り回すと、決戦の地に向き直りメラメラと闘志を燃やす。
昨日の失敗など既に早苗の頭からは消えさっている。
なんだかんだで楽天的なのは弾幕少女に共通の素養なのかもしれない。
「見ててください、神奈子様早苗は今度こそやり遂げて見せます!」
「まっ、そんなに気合いれなくても大丈夫だと思うけどね」
アリスの呆れたようなつぶやきは、人ごみのど真ん中で一人ポーズを決める早苗には当然届くこともなかった。
◆
「ねっうまくいったでしょ」
広場に繋がる階段に腰掛けたアリスは、獲得した信者の数に呆然としている早苗に向かって声をかける。
「信じられません……だって私ちょっと子供を風で浮かしたり、雲を呼び寄せたりしただけなんですよ」
「そもそもなんのデメリットもないような契約なんだから、当然じゃない。あんたの奇跡はそれを裏づけするのに十分だったってことよ」
博麗神社のグータラ巫女のせいで、以前に比べ信仰心は薄くなってはいるものの、幻想郷では神と人の関係は緊密である。
外の世界ではなかなか信じてもらえない信仰と神徳の関係も、説明すればすんなり受け入れてもらえるし、早苗がちょっとした奇跡をおこせば、信仰を約束してくれる人だって結構いるのである。
今回の祭りで早苗が獲得した信者は数十人を軽くこえていた。
「それに神さまも抗議にすらこなかったし」
「まあ、たぶんそうなるとはおもってたけどねえ」
早苗としては抗議されたらさっさと謝って逃げ出すつもりだったが(流石に一戦構える覚悟はなかった)、結局神様どころかその信者でさえ抗議にくることはなかった。
「いろいろといい加減なのよ、ここはね」
「そうはいってもですねえ、ここに来てから私いろいろ努力したのにこれじゃあ……」
「無駄な努力だったってことね」
「……アリスさんってときどきひどいですよね」
「そうかしら?だいたいなんで最初から里で布教しなかったのよ」
早苗の非難もどこ吹く風でアリスは当然の疑問を口にする。
「それはその、霊夢たちとの一件以来毎日宴会の準備で忙しくて……それに」
「それに?」
「幻想郷の一大勢力に果敢にも布教に挑み、見事大量の信者を獲得!かっこいいと思いません?」
「そういうのを身の程知らずっていうのよ、あんた結構自信過剰よね」
「そりゃ向こうじゃ私、特別でしたから。ここにきてから、その自信も大いに揺れていますけどね」
アリスの言葉にムキになることもなく、早苗は苦笑する。
ちなみに今の早苗の格好はぼろぼろになった巫女服ではなく、アリスから借りた小奇麗な白のワンピースと鮮やかな青のカーディガンだ。もちろんたっぷりフリルつき。アリスにいわせると幻想郷の少女としてのたしなみだそうだ。
配色こそ似ているけれど、これで風の神を勧誘するのは無理がある、早苗は猛烈に反対したのだがその結果がこれである。
里の住人の適応力というか、いい加減さも並大抵のものではない。
「でも、それなら何故博麗神社は信仰心が得られないのでしょうか。悔しいですが霊夢の力ならこれくらい簡単でしょうし」
「不思議でもなんでもないわよ」
あの巫女は普段、信仰が足りないだの、お賽銭を入れろだのとうるさいが、自分から信仰を集めるという発想がない。里に降りるのも日用品を買いにくる為であり、布教活動なんて考えもしてないのだから。
「そうですか?とにかくアリスさんのお陰で、こちらに来て初めて神奈子様の役に立つことができました。本当になんといえばいいか」
「別にこっちもあんた目当てで客が増えたから気にしないで」
アリスの人形劇はもともと里で評判がよかった。
そこでアリス目当ての客に早苗を紹介し、信者を獲得していたのだが、途中からはその関係も逆になってしまった。
新しい神さまの到来はそれだけでニュースになるし、早苗の愛らしい姿は客を集めるのには十分だった。お陰でアリスも過去最大のおひねりを手にすることができたし、お互い様というやつだ。
「そういうわけにもいきません、必ず恩返しはさせていただきます」
「あんたって本当に強情ね」
「それだけが取り柄ですから」
胸を張ってそういう早苗がなんとなく可笑しくて、アリスはくすくすと笑った。
「ぷっ…く、ふふ」
「なんで笑うんですか」
「だってあんまり自信満々にいうもんだから」
「取り柄がないより、取り柄があるほうがいいにきまってるじゃないですか」
あんまりといえば、あんまりな答えにアリスは再び笑い出した。
早苗の持つ馬鹿正直な力強さにあてられたのかもしれない。
しかめっ面で抗議する早苗の頑張りも空しく、アリスの笑い声はなかなかやむことはなかった。
◆
日も落ちて夜の闇があたりを包むころ、広場の中央に設置された祭壇を囲む松明に順に火が灯されてゆく。ひとつ火がつくたびに漆黒の衣が切りひらかれ、祭りが最後の舞台に移行することを告げていた。
「綺麗ですねえ、これから何が始まるんですか?」
「ここをどこだと思ってるの、宴会に決まってるじゃない」
揺らめく炎を見つめながらアリスが答える。
先ほどのアリスの所業に大きくへそをまげたも早苗だったが、アリスの謝罪とりんご飴という献上品の前にはなすすべもなかった。
機嫌を直した早苗の「どうせなら祭りのフィナーレも見てみたい」という提案にアリスが反対する理由もない。
今は二人して広場の片隅に座り込み、宴の始まりをのんびりとまっていた。
すでに祭壇の周りには数百人にも及ぶ人々が好き勝手に座り込んでいる。まだ宴は始まってもいないのに、酔っ払っている人までちらほら見かけられる。
「えらくお気楽なところなんですねえ、幻想郷というのは」
「いまさら気づいたの」
「ええ、ようやく」
今までの肩の荷が少しは降りたせいか、早苗の笑顔はやわらかだった。
「でもいいんですか、宴会に参加して」
「別にここから見てる分には参加してることにはならないでしょうよ、それにあんたは飲めないみたいだし」
「そうですね、ちょっと寂しいですけど」
ちょっとした会話の後には数分の沈黙。さっきからずっとこの調子だ。けれどアリスはその沈黙が心地よかった。
酔っ払い達の喧騒、松明の爆ぜる音、秋の虫たちの競演、そんなものに静かに耳を傾ける。
「今日は楽しかった?」
「ええ、本当に。大変だったけど、こんなに充実感があったのは初めてです」
春のたんぽぽみたいなその笑顔がアリスにはちょっとまぶしく、ちょっと嬉しかった。
「なら紹介した甲斐があったというものね」
「ええ、それに」
早苗はアリスのほうに向き直り、もじもじと口ごもる。
「なに?」
不思議そうに見つめるアリス。早苗は踏ん切りがついたのか照れくさそうにこういった。
「友達もできましたし」
「へぇーそうなの、誰と?」
場の空気が凍りついた。というか、早苗が凍りついた。⑨も顔負けの瞬間冷凍であった。
アリスの言葉を聞いたと同時に彫像のように固まってしまった。
「ねえ、ちょっとどうしたの」
不審に思ったアリスの問いかけと同時に、早苗の時計も動き始めたようだ。真っ青になってた顔が一瞬でゆでだこみたいに変化し、意味不明に手足をわたわたさせながら、早苗は大慌てでしゃべり始めた。
「いえ、あの、その、ですね、なんというか友達というのはえーと言葉のあやでして、すいません。本当にすいません。忘れてください。アリスさんのやさしさに、ちょっと心がエクスパンデットしてですね。とにかくそういことなんですよ」
なにがそういうことなのか、アリスはさっぱりわからなかった。たぶん誰にもわからないだろう。
「落ち着きなさいな」
「お、落ち着いてますよ」
「もしかして友達って私のこと?」
が、前後の文脈から判断して早苗のいう「友達」がアリスであることには思い当たった。
今日は一日中アリスと一緒にいたのだし最初から気づきそうなものだが、アリスの周りにいる連中で、「友達」という枠でくくれる奴が一人もいなかったのだから仕方がない。
「い、いや、だからそれは勘違いで」
そういってアリスの視線を避けるが、声はうわずり目は泳ぎまくっている。
この程度の嘘を見抜けないようでは魔女失格だとアリスは思う。
「あら、それは残念」
「へっ」
「早苗とならいい友人になれるかと思ったのに」
すくなくとも早苗は勝手に人のベットで寝ていることもないだろうし、魔法書を無断で借りていくことも無いだろう。
「えっあの、その、本当にいいんですか」
「なにが?」
「……わかってていってますよね」
それにこの小動物みたいなところとか、どことなく頼りないところとか、なんだか妹みたいで放っておけない。
「まあそう拗ねないの」
むくれる早苗にそういってアリスは微笑むとゆっくりと自分の右手を差し出した。
「これからもよろしく、早苗」
「えっと、その、こちらこそよろしくおねがいします!」
あたふたと返事をした後、深呼吸を一つ。
何故かお辞儀をしながら、早苗は勢いよくその手を差し出した。
◆
「ヒューヒュー、お熱いね、おふたりさん」
二人の手が触れ合う寸前、唐突な闖入者に早苗は慌てて差し出した手を引っ込めた。
「なにいってんのよ、あんたは」
「いやいや、仲のいいカップルにはこうやって声をかけるのが、外の世界の礼儀だそうだ」
「カ、カップ……」
「相変わらず変な知識ばかり仕入れてくるのね」
狐のお面を引っ掛け、りんご飴右手に近づいてくるお祭りモード全開の黒白にアリスが呆れながら声をかける。当たり前の話だが魔理沙はお祭りが大好物である。
「それより魔理沙、早苗にあんまり変な情報吹き込まないでくれる、この子馬鹿正直で騙され易いんだから」
「……」
「変な情報とは心外だな、紅魔館に永遠亭、どちらもうまくやれば大量の信仰が手に入る。嘘はいってないぜ」
「あんなところ勧誘できる人間なんていやしないわよ」
「そうか、霊夢ならできそうだが」
「ありえない話をしても仕方ないでしょ、わたしは普通の人間の話をしてるのよ」
「……」
「あーなんだか、しらんがえらく早苗が落ち込んでるぞ」
馬鹿正直だの、普通の人間だの、現人神としてのプライドはずたずただろう。
「あら、どうしたのかしら?」
「さあなあ、いろいろあるんじゃないか」
残念ながらこの程度は二人とも悪口とも思っていないので、気づきようもないのだけれど。
「まあ、紅魔館と永遠亭の話は大事にいたらなかったからいいとして、太陽の畑はどう言い訳するつもりなのかしら」
問い詰めるアリスの口調は普段よりもきついものになっていた。
幽香は太陽の畑の住人の一人に過ぎないし、大量の信者なんて獲得できるはずもない。
相手は魔理沙だ、アリスだって嘘をついたという事実は大して気にしていない。
ただ早苗みたいな危なっかしい娘に、幽香という危険な相手を紹介したことに腹を立てていたのだ。
「ちゃんと保険は掛けておいたじゃないか」
「保険?」
悪びれずにそういう魔理沙にアリスは疑わしそうに聞き返す。
「お前だよ、お前。まさか保護者役になるとは思わなかったがなあ」
「っっっ!」
反論しようにも実際アリスが今やっている行為は保護者そのものである。ニヤニヤ笑う魔理沙に気の利いた反撃も思いつかない。
一方の魔理沙はといえば、悔しそうににらみつけてくるアリスに満足したようで、さっさと祭壇のほうに向かって歩き出した。
「あっそうそう」
背中を見つめるアリスに、魔理沙は唐突に振り返る。
「肝心の用件を忘れてた。明日は神奈子達の歓迎会が神社であるんだ、当然お前も参加するよな」
「あ、アリスさんは出られないそうで」
突然の提案に返事をしたのは早苗である。
神の宴に参加することは、信仰することに繋がる。本人の前で断るのはアリスとしてもやりにくいはず。そう判断したのだろう。
「そうなのか?」
不思議そうに魔理沙はアリスに問いかける。
理屈では納得していても、断る返事は聞きたくないのだろう。早苗は気まずげに二人の方から眼を逸らした。
「まさか、参加するわよ、とっておきのケーキを作ってくるから、楽しみにしてらっしゃい」
一瞬の躊躇いもなく、アリスはにこやかに即答した。
「そうかい。そいつはたのしみだ」
笑いながらトレードマークの帽子を頭の横で振り、こんどこそ魔理沙は祭りの中心へと消えていった。
アリスを呆然と見つめる早苗を残して。
◆
「あいかわらず騒々しい奴だったわね、今回はうまくいいくるめれちゃったけど」
「はあ」
「あと友人ならアリスさんはやめて欲しいわね、アリスでいいわ」
「はあ」
「ちゃんと話聞いてる?」
「はあ」
早苗は生返事しか返さない。どうやらさっきの返答が気に入らないらしい。
ものといたげな表情でこちらをちらちら伺っている。
アリスとしても反応の無い相手と会話するのはつまらない。からかいの混じった笑顔で早苗に向き直る。
「なにが不満なのかしら」
「……どうして断らなかったんですか」
「断ったほうがよかったかしら」
「いえ、そりゃアリスさん……アリスが来てくれたほうがうれしいに決まってます」
アリスの咎めるような視線の意味を感じ取ったのか、慌てて言い直す。
「じゃあどうして?」
「神の宴に参加するってことは、その神様を信仰することに繋がります。
魔法の森ではあんなに頑なに拒んだのに、どうして今回はあっさり受け入れたんですか」
「それは簡単よ」
「まさかまた気まぐれですか?」
眉をひそめて早苗が詰問する。どうやらちょっと怒っているらしい。
「いいえ、今回は違うわ。私は何?」
「ええと、魔法使い……ですか」
唐突な質問に目を白黒させながら早苗が答える。
「残念不正解、『都会派』の魔法使いが正解よ」
「なにが違うんですか?」
「あら、大違いよ」
楽しそうに笑いながら早苗の前で指を振る。
「友人の歓迎会に顔を出さないほど無作法じゃない、そういうことよ」
片目を器用にウィンクして、アリスはもう一度ゆっくりとその手を差し出す。
「さっきは邪魔が入ったし、やりなおし」
「なんだか、納得いきません」
不満そうにそういいながらも、早苗は素直に右手を前に出す。
小さいけれど綺麗な手だ、まるで美しい人形のように。
けれどアリスは知っていた。目の前の少女が人形とはほど遠い存在であることを。
手が触れた瞬間、お互いのの視線がぶつかり、早苗がはにかんだ笑みを浮かべた。
新緑の色をたたえた瞳は澄んだ湖のように美しく、真っ直ぐな彼女の性格を体現しているように思えた。
邪魔するものはもういない。先ほど届かなかったその手をアリスはしっかりと握り締める。
(魔理沙もたまにはましなことをするものね)
初めての友人にして、幻想郷への来訪者。言うべき言葉は決まっていた。
満面の笑みを浮かべてアリスは告げる。
「ようこそ、幻想郷へ!」
惜しい、キ○スト(大工の息子)は神様ではないです
そういえば、原作中では早苗は諏訪子がご先祖様だと知らないんでしたね
早苗さんは良い子
小ネタも効いていて最後まで一気に楽しく読ませていただきました。
個人的には、『次はお前だ』と解釈されるナイフ刺さり中国に吹きましたw
>アリスにいわせると幻想郷の少女としてのたしなみだそうだ。
ZUN帽を忘れてますよアリスさん。
気が付いた脱字を一つ、
もっとまし娘なら→もっとましな娘なら
私もそう考えています。共通点が多くてどちらも常識人のイメージ。
ただ、若干アリスがお姉さんの様な。仲の良い姉妹っぽいカップルですよね。
この組み合わせはかなり好きなので、楽しく読ませていただきました。ありがとうございます。
次も期待していますので頑張ってください。
あらゆる面で最悪のssでした。
この話大好きです。早苗さんの不器用な真っ直ぐさと、アリスの不器用な優しさが丁寧に描かれていて実に読みやすかったです。
次回作期待しています。
>「東風屋早苗っていいます」
『東風谷』ですね
もう少し膨らませられそうです。
ところで、複数レスで点数入れてる方がいる気がするのですが
気のせいなら別にいいです
ちょっと魔理沙が嫌なやつに見えた意外は普通に読めました。お姉さんアリス可愛いよアリス
点数荒らし?っぽいのがいる気が・・・
しかし、これにより、また新たなるカップリングが刻まれるであろうw
早苗の話を聞いた後で「家族みたいな神様」と過去を思い出したりと、常に無い反応が引き出されていて凄く良かったです。早苗についても、外界から来て初めて色々なものを体験すると言う部分が上手く生かされていて、紅魔館に永遠亭、人里の祭りなどが彼女の視点、感想を伴っており、幻想郷の姿が普段とは一風違った様子で見え、楽しめました。
今後の作品にも大いに期待させていただきます。
神の子コンビ最高!
お人好しアリスと純粋な早苗の組み合わせはやはり見ていてホっとしますね。
何となくほのぼの連続物の感じがするのですが、続きはあるのでしょうか?
楽しんで読めました。
次も期待しています!
そっかぁ、アリスには神綺様、早苗には神奈子&諏訪子が家族にいたんだっけ。凄い共通点だなぁ・・・そして、よく気付きましたね、と着眼点の良さも含めてこの点数にさせていただきます。(コメント長くなり過ぎですね・・・すいません)
たくさんのコメントありがとうございます。指摘された点は修正しました。
遅筆な上に推敲しすぎて自分でも面白いんだか、面白くないんだかわからなくなっていただけに、これほどコメントいただけたことに驚いています。早苗とアリスの組み合わせは本編にないけど、こういうのを妄想するのは二次創作ならではの楽しみだよなあ、とほくそえんでいたら意外に共感者が多くてまたびっくり。
次に期待とかかれるとうれしいやら緊張するやら、また一年後になるかもしれませんがw
>>そういえば、原作中では早苗は諏訪子がご先祖様だと知らないんでしたね
ここらへんどういう関係なのか気になりますよね。存在自体は知ってるみたいなんですけど。
>>題名から惹かれてやって来ました。最初は迷惑がっていたり「表出ろ」言ってたりしていたのが、段々と仲良くなっていく様が説得力持っていて且つ想像しやすくてすんなり話に入っていけました。また、紅魔館や永遠亭なども・・・あぁ、こいつらならするなぁ、と微笑ましく想像していました。(どこぞの風見さんは、流石に・・・いや見てみたいかも)
>>幽香さんルートも見てみたい気がします。早苗さんに深いトラウマを刻み付けそうで。
風見さんはどうするんでしょうね。アリスはボロカスにいってますが粘着質ではなさそうですし、案外一度自信喪失させたら興味失うかもしれませんw
>>小ネタも効いていて最後まで一気に楽しく読ませていただきました。
これだけ長い(私にとっては)作品書いたのは初めてだったのでテンポには気をつけました。
とりあえず最後まで読んで欲しかったので。
>>最後のほうは駆け足だったような気がします。特に信仰を集めるくだり、
もう少し膨らませられそうです
書くことも考えたんですが
①ラストのエピソードが大して長くなく冗長になるかも
②面白いエピソードが思いつかなかった
の2点からあきらめました。①は悔しいです、表現力さえあればもラストエピソードを膨らまし、バランスをとることもできたのに。
>>いやはや本当に面白かった。なんと素晴らしい幻想郷体験記。そして早苗さんは本当にいい子。
>>早苗についても、外界から来て初めて色々なものを体験すると言う部分が上手く生かされていて、紅魔館に永遠亭、人里の祭りなどが彼女の視点、感想を伴っており、幻想郷の姿が普段とは一風違った様子で見え、楽しめました。
「早苗からみた幻想郷」なんて書いてる本人はまったく意識してなかったりしまして。
でも確かにそういう風にも読めるよなあなんて妙に納得したり。読者視点と作者視点の違いでしょうか。面白いですね。
>>早苗さんは弄られっぱなし、話は単純、表現力はない、
あらゆる面で最悪のssでした。
>>アリスが良い子すぎる。違和感どころじゃない。
表現力不足は今の自分の限界がそこまでだったということなので仕方ないですが、早苗をいじりすぎたかなあと反省してます。自分の趣味に走りすぎたかな。
アリスに関しては動機付けがあれば動いてくれるんじゃないかなあーと思ってます。萃夢想の会話的に。
>>何となくほのぼの連続物の感じがするのですが、続きはあるのでしょうか?
一応構想はあるのですが、今の実力で表現しきれるかというとなかなか。
かっこいい早苗が書きたいですね。ほのぼの+ちょっとシリアスになるのかな。
只、それを差し引いても面白かったので次も楽しみにしてます。
早苗さんかわいいよ早苗さん
あれです、ジョークです。
コメントの右側の点数が本物です。
むしろ弄り歓迎です!
あんまりつながりが無い二人かと思っていたら、実は結構大きな部分が似てるんですよね。
アリスも早苗も魔理紗も僕の思う通りのキャラで楽しく読めました。ありがとうございます。機会があれば、また同じ幻想郷でお話を書いてくださるとうれしいです。
確かに、アリスも早苗さんも共通点多いなぁ、神の子だし、常識人だし、微妙に自信過剰だし。
面白かったです。
修正したと思い込んでいたらしてなかったみたいでorzご指摘ありがとうございます。
>話の筋もキャラの立て方も良かったけど、出来れば紅魔館のエピソードや永遠亭のエピソードをもっと掘り下げて欲しかった気がする。それなら早苗さんがただ弄り回されている印象を拭えて、なおかつ幻想郷の人々の破天荒振りを表わせてぐっと良くなる気がする、と言ってみるテスト。
実は永遠亭はもうちょっと今より長かったんですよ。紅魔館のほうと釣り合いが取れず、結局短くしたんですが、逆にしたほうがよかったかも知れませんね。
>「あらゆる面で最悪の~」というコメントを書いたものですが、
あれです、ジョークです。
ジョークでしたかw点数のほうが間違ってると思いましたよ。
>確かに、アリスも早苗さんも共通点多いなぁ、神の子だし、常識人だし、微妙に自信過剰だし。
> 優しいアリスと純粋な早苗さんのコンビが素敵でした。
あんまりつながりが無い二人かと思っていたら、実は結構大きな部分が似てるんですよね。
結構共感してくれる人がいてほっとしてます。自信過剰は幻想郷ではデフォのような気もしますがw
早苗の健気さが出てる
苦労している早苗さんを想像して、幽香のところには是非いってもらいたいと思った自分はSなのか、それとも自分と早苗さんを重ねて嬲って貰いたいと思ったMなのか……。
違和感なく、すらすらと最後まで楽しく読めた作品でした。
原作で接点はないですけどこの二人なら仲良くなれそうですね
内容だけでなく、構想と推敲に対してもこの点数を入れていきます。
お見事!
……これ、アリスじゃないなー。
楽しんで読めました。