「まったく……アンタは何回すれば気がすむのかしら?」
「そりゃ、私の興味が尽きるまでだ。最も私の寿命が尽きるのとここへの興味が尽きるののどちらが先かは言うまでもないと思うがな」
その言葉に咲夜は呆れた、とでも言わんばかりに肩をすくめたのよ。
わかる? まぁ、わかるわね。いつも見ているんでしょうし。
で、あとは売り言葉に買い言葉。
ぽんぽんと言葉を応酬していたわ。
まったくよくも飽きずにする、って思ったわ。
「本当に魔女ってヤツはへらず口が減らないのね」
「私は普通の人間だぜ。そもそも減らず口なんだから減るわけがない」
「どこの普通の人間がここに忍びこむのよ」
「ん? ここにいるじゃないか。ほれほれ」
「私にはモノトーンのこそ泥のネズミしか見えないわね」
「そいつは随分と悪い目だな。眼鏡をかけるといい。香霖から借りてきてやる」
「あら、それは素敵な提案。強奪したものじゃなければ、だけどね」
けど私はその遣り取りには口を挟まなかったわ。
咲夜がここにいる以上、本は持っていかれないだろうし、何よりも本を読むことが重要だったからよ。
そうそう、そういうことでもういいわよ。咲夜は貴女のモノだから優秀よ。
ネコ度は低いけどね。え、眼鏡をかけた咲夜が見たい?
自分でどうにかしなさい。そこは私がどうこう言うべき所じゃないわ。
「酷いな、別に強奪なんてしちゃいない。ちょっと言って借りてくるだけだぜ」
「あら。じゃあ、なんて言って借りてきてくれるのか私が当ててあげるわ。
『よう、香霖。相変わらずシケたツラだな。よし、その眼鏡は私が有効に活用してやる。何? ダメだ? 安心しろって別にどうこうするって訳じゃない。ただ借りてくだけだ、私が死ぬまでな』
って、感じじゃないかしら」
いや、本当に咲夜がこうして魔理沙の真似をしながら言ってたのよ。
悪かったわね、似てなくて。どうせ、私はあの子のように器用じゃないわよ。
得手不得手っていうのがあるのよ。
話し、続けるからね。
「いや、そんなことないと思うぞ。前に私が眼鏡を欲しいって言った時、普通にくれたからな。まぁ、やたらかけろかけろって五月蝿いけどな」
「ふぅん。親心なのかしらねぇ」
「アイツが? そんなタマかね」
「そう? 結構、貴女のことを気にかけているみたいだけど」
「ああ、言われてみればそうかもな。霊夢と身長の話をしてたら、そのままでも私だから問題ないとか言ってきたし」
「へぇ。やっぱり親心じゃないの?」
「ん、けどやっぱり違う気がするな。私も伸びてるって話をしたら今のままでいい、とか言うし。親なら育って欲しいと思うだろ」
「そうねぇ、なんでかしら。まぁ、あの人もそれなりに奇妙だからわからないわ」
いやいやいや。本当にあの子たちは素で話していたのよ。あの場にいなかった貴女もわかるでしょ、あの子たちが本気だったって。
どう聞いても理由ははっきりしてるのにね。
無知で無垢なのか、はたまたとんでもなく危機感がないのか……。
まぁ、おそらくそのどちらでもなくその香霖とか言われてる店主が欠片も危機感なんて持たせない人物なんでしょうね。
「まぁ、別に放っておいても問題ないだろ、香霖だし」
「まぁ、あの店主なら別にいいわね」
「で、なんの用だ?」
「貴女のコソ泥を未然に防ぎに来たのよ」
「ほお、止められると?」
「この距離なら貴女の直線よりも私のナイフのほうが早いわよ?」
そう言って魔理沙の額に触れるか触れないかの所にナイフを出現させてたわ。
まったく、便利な能力ね。
あー、はいはい。分かってるわよ。冷めないうちにね。
「あー……わかった、降参だ。別にここで読んでいくだけなら構わないだろ?」
「よろしいですか、パチュリー様?」
「構わないわ。別にその程度じゃ私の読書を邪魔しないし。むしろそうやって尋ねることのほうが邪魔だわ」
「あら、申し訳ありません。けれど、あんまりお一人だけ放っておかれるというのも寂しいものですよ?」
何よ。……うん、そうよ。実はちょっと不安だったわ。
私なんてあの子たちにとって部屋の置物Aでしかないのかと思ってたんだもの。
もう、笑わないでー。
……怒ってないわよ。ほら、先を話すから。お茶が冷めてしまうわ。
「そうだぜ、一人で本を読むより二人で読んだほうが楽しいだろ」
「本を読むのに一人も二人も無いわ」
「そうか? 誰かが傍にいるだけであったかいと思うがな私は」
「そうね、たまには私も本を読もうかしら」
「ちょっと、咲夜ッ。仕事はいいの?」
「ああ、終わらせてきましたわ」
そんなことを言って私に懐中時計を見せてきたってわけよ。
ああ、だから笑わないでってば。
で、まあしばらく紙を捲る音だけしかしなかったわ。
無論、合間合間に咲夜が気を利かせてお茶を持ってきたりしてくれたけどね。
「なぁ……なんで私のだけ桑茶なんだ?」
「お客様だから、希少品を出して上げたのよ、感謝しなさい」
「いや、普通に苦いんだが」
「砂糖は持ってきてあるわよ」
「太るだろうが」
「あら? 気にするのね」
「気にしないのかよ」
「完璧ですから」
いや、私は平気よ。魔女だから。
それにしてもあの二人、まるで普通の会話しかしないのよ。
この場所で普通であることがいかに異常であるか理解してるのかしら?
え? 他? そうね……。
「しっかし、お前肌綺麗だよな。メイドって水仕事とか多いんじゃないのか?」
「まぁ、皿洗いぐらいなら妖精でも一応出来るからそうでもないわ」
「ふむ……だが、それにしても白いな。吸われすぎで血が足りないんじゃないのか?」
「アナタだって十分白いと思うけど。引篭もりすぎでモヤシ化?」
「「うふふふふふふふ……」」
いや、怖かったのよ、実際。アレはどこか鬼気迫ってたわ。一食触発よ。
で、そうこうしていたら意外な事があったのよ。
貴女でも珍しいと思うんじゃない?
希少品が好きな貴女に悔しいと思わせる体験をしたわよ。
「すー」
「お? おい、パチュリー、コイツどうする?」
「何よ、私は読書中よ。邪魔をしないで」
「と、言われてもだな。コイツ、寝ちまってるんだが」
どう? レミィ、貴女でも見たことないでしょ?
咲夜が無防備に私と魔理沙の間で腕を枕にして寝ちゃってたのよ。
そう、あの咲夜がね。
ふふっ、どう。羨ましいかしら?
目をそらして頬を膨らませるだなんて分かりやすい事をするのね。
ああ、なんて可愛いの。
あぅ。ご、ごめんなさい、ちょっと調子に乗り過ぎたわね。
え、えーっと……話の続きをするから許してください。
「放っておけばいいんじゃない?」
「とは、言ってもだな。流石にこのままは風邪をひいたりするんじゃないのか?」
「平気でしょ。ここは本に快適な温度に保ってあるわ」
「ワインかよ」
「熟成された知識は甘露ね」
「流石だな。私じゃそこまでには思えない」
「魔術書に変えれば?」
「甘露だな。ああ、実に旨い」
「ああ、そうそう、甘露で思い出した。魔理沙」
「何だ?」
「最近、咲夜とよく話すわね。何があったの?」
「んー。別になんでもない。ただ、会ったから話す。それだけだ」
甘露でどうしてこんな話になるかって?
そりゃあ決まってるわ。何で、他人と話すだけでそんなに楽しいのか聞いたのよ。
ちょっと、悲しい目でこっちを見ないでよ。まだ話は続いてるんだから。
「どういうことよ」
「お前はレミリアと話してて楽しいか?」
「当たり前じゃない」
「おっ? 意外だな。即答か。まぁ、お前にもそんな風なヤツがいてよかった」
「何よ、その上から見るような言い方」
「いや、お前って根暗だからなぁ」
ちょっ、ちょっと! 爆笑はないでしょ! 爆笑は!!
真実!? ちょっと、その私と話してる貴女は何なのよ!?
物好き!? あーもうっ! 言いたい放題言うわね!!
なに? 落ち着け? これが落ち着いていられるものですか!?
ゴホッ……わかった、わかったわよ。落ち着くわよ。
見えていた、じゃないの。意地悪……。
「そんな根暗に構うなんて随分とお節介なのね、貴女たちは」
「当然」
「あら、随分と言うじゃない」
「自分らだけが楽しいんじゃ申し訳ないだろ?」
「当然ですわ」
「……どうやら眠り姫が起きたようよ。キスは必要なかったようね」
「……って、どうしてそういう発想になるんだよ」
「けど、それはいいですね。魔理沙、少しは気を利かせなさいよ」
「へぇ、お前でもそういうのに憧れるんだ」
「女の子はいつだってお姫様に憧れるのよ」
ちょっと、机を叩かないの。はしたないわよ。
まぁ気持ちは分からないでもないけどね。
けど、まさか咲夜にそんな一面があるとは思わなかったわね。
知ってた? 本当に?
まぁ、いいわ。
「ふむ……。だがその役目は渡せないな。なぜならそれはここに私がいるからだ」
「そんな口調でよく言うわね」
「私は恋に恋する乙女だぜ。魔砲に飛ばされたくなければ大人しくゆずるといい」
「ふーん、なら私が王子になろうかしら? で、パチュリー様がお姫様を眠りに落とす悪い魔女」
だーかーらー……あーもう、いいわ。悪い魔女でもなんでも。
いいわ、明日の天気を占って上げる。
紅魔館近辺のみにおいて豪雨になるでしょう。
何よ? 私は悪い魔女だもの。自分がやりたいように天気だってするわ。
……よろしい。なら、明日の天気はきっと晴れるわね。
「なっ……」
「まあ、冗談よ」
「お前なあ、冗談にも言っていいものと悪いものがあるぞ」
「そうね、パチュリー様が悪い魔女なんて悪い冗談ね。良い魔女のパチュリー様は悪い魔法使いの魔理沙を寝かせてくれるんだもの」
「ま、待て! 本気か、お前!」
「もちろん冗談、よ」
「―――っなああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「油断大敵ってね。まぁ、頬で許してあげる。額じゃ足りないし唇はもったいないわ」
まったくキザな台詞でしょ?
額は友情、頬は厚意、唇は愛情、貴女もこのぐらいは知ってるでしょ?
ま、そういうことね。
それを今まで欠片も見せていなかったんだから大したものね。
今日の話はこれでお終いよ。紅茶も飲みきったところだから丁度良いわね。
「やっぱりティータイムには一欠片の砂糖菓子が最高ね」
午後のなんでもない、優雅なティータイム。
心地のよい空間。
まぁ、レミィはあんまり静かなのが好きじゃないみたいだけどね。
それゆえに私に話をさせるのだ。
今日は何があった?とかそんなことを。
そして話の中心であった咲夜も今は席を外している。
本当に色々な意味でよく出来た子だ。
「まったく、レミィはよく食べるのね」
「少食よ」
無論、レミィは私の皮肉なんて無視してさらに続けた。
「あら? パチェはあの量で満足できてなかったの?」
とまで言う。それに対して私はまた皮肉で返す。
「まぁ、貴女ほど少食ってほどじゃないしね、私も」
「不思議だわ。なんでそんなに食べているのに貴女はそんなにも体が弱いのかしら」
「病弱っこに言われたくなんてないわよ」
と、そこまで言ってお互いにしばらくにらみ合った後に軽く吹き出す。
まったく、さっきから吸血鬼と魔女が話すようなことじゃないしすることでもないわ。
これじゃあまるで―――
「―――人間じゃない、かしら?」
「趣味が悪いわ、レミィ。私が思い浮かべて言葉にしなかったことを言葉にするなんて」
「いいじゃない。楽しければ。私たちは長きを歩む者なんだから」
「そういう問題じゃ……そういう問題なのね」
「そういうことなの」
「まったくお節介なのね」
「そう、私は吸血鬼。人の血を吸う鬼。人の血を吸うのだから―――」
私はわざと言葉を切ったレミィの意図をさして口をレミィに揃えて動かした。
「「人と同じようなことを考え、やってみることがあってもいいじゃない」」
そして私たちはまた顔を見合わせて笑い合う。
だが、別にこんな日があっても悪くない。
私は魔女。人と近く、そして遠い存在。
レミィは吸血鬼。人と遠く、そして近い存在。
どっちも人のソレとほぼ同じものを有しているのだ。
まぁ、それは他のヒトガタ達もそうなのかもしれない。
けど、私が知るのは書物からの知識。
故にそうなのかもしれない、けどそれはそうなのだ。
「私たちは妖怪」
「自分の考えは」
「常に」
「正しい」
「わかってるじゃない、パチェ」
「貴女こそどこまでも傲慢で我侭なのね」
「そうよ、だって私は吸血鬼だもの」
ああ、まったくもって悪くない。
精神は見た目に引っ張られるもの吸血鬼だって魔女だって女の子なんだから。
お茶請けには甘い砂糖菓子が一欠片。これが最高ね。
まぁ、食べすぎは体に悪いのだけれど。
私が飲んでたのでは緑茶ですけど!
ちなみに私はウーロン茶とワッフルという変わった組み合わせをしていましたww
砂糖をどばどば入れてなあ!!
王子様咲夜さんもお姫魔理沙もかわいいよー
大和紅茶おいしゅうございました
それはともかく、リズミカルにテンポいい会話が心地いいですね。やっぱりこの面々はマイペースでないと。
それにしても気の利いた会話。いいセンス。
お茶請けを食べながら飲ませて頂きました。
ちなみに自分はコーヒー派。
このノリはいいですねw
咲マリは聖域です!
(SSを)見つけたのはかなり遅かったけど見れてよかったですw