※作品集51のゆうあいシリーズ、そして『ゆーあい?』の続きです。
百合的表現がかなり含まれていますので、嫌いなかたはお戻りください。
「魔理沙。簡潔に言うわ」
「え、お、おう」
目の前には霊夢がいて。
とても真剣な顔だった。
私は思わず息をのんだ。
霊夢の顔が、とても奇麗だった。
「私も、魔理沙の事が好き」
「……え?」
嘘。冗談? 本当に?
「ほ、本気でか!?」
「もちろんじゃない」
「友情的なとか、そんなんじゃなくて!?」
「この気持ちは愛情よ」
…………なんだこれは。
幸せすぎて、なんかもうどうしようもない。
ちょっと霊夢。頬をつねってくれないか?
「はぁ? しょうがないわね。ほら」
あーこの痛みは本物だー。
あーこれは現実なんだー。
「はぁ? ったく、なに変なこと言ってるのよ。ほら、さっさと起きなさい」
「うん。そうそう起きなさ……え?」
え? ちょっと待て。今の声霊夢の声だったか?
痛い痛い痛い痛い痛い!!!
いつまでつねってんだよ!!!
「つねれ。って言ったのは魔理沙じゃない」
「限度ってもんがあんだろ!! っあー!! 案の定夢じゃないか!!!」
頬の痛みに飛び起きた私がいた場所は、博麗神社なんかじゃなくて私の家のベットの上で。
私の頬をつねっているのはエプロンをしたアリスだった。
どこまでが夢でどこまでが現実なのかー。
「とりあえず、『頬をつねってくれないか?』辺りからは現実よ」
「寝言って怖いよな」
まさかの夢オチに、私はがっくりと肩を落とした。
『優愛』
「で、今日でちょうど1ヶ月が経ったわけなのだけど」
「う…………」
肩を落とした私に、アリスはサッパリと言った。
いきなり本題をズバリと言うなよ。
「えっとですねアリスさん。とりあえず、なんで私の家でエプロンをしているのか教えてくれないでしょうか」
「だって今日は『ヘタレ魔理沙をがんばってどうにかしよう委員会』の定期会合の日じゃない」
「は、初耳だ!!!」
きっと構成員はあの3人なんだろう。
暇人ばっかだな。
「もうすぐしたらみんな来るから。魔理沙も着替えてきなさい」
「つーか、なんでアリスは私の家に入ってこれたんだ? ちゃんと施錠したよな私」
「禁則事項です☆」
あー、こいつちょっと事故んねーかなー。
◇◇◇
「はい。それじゃあ会長の萃香。あいさつを」
「えーコホン。今日はこんなヘタレの魔理沙のために集まってくれてありがとう。魔理沙を代表して、私が礼を言う」
なんで私を代表して萃香が言うんだよ。
「今日はみんなの忌憚の無い意見をバンバン出してくれると嬉しい。そうすることで、魔理沙もきっとがんばれるはずだ」
「ありがとう萃香。それじゃあチルノ。開会のあいさつを」
「うん!!」
チルノが元気いっぱいな顔で、みんなの前に一歩でた。
……『みんな』の前に。
「えっと、『へたれまりさをどうにかしようかいぎ、だい9999回!!』開催よ!!」
ウォー!!! ウォー!!!!
と、私の家が壊れんばかりの気合の入った声が響いた。耳が痛い。
つーかお前らその気合はどこから出てくるんだよ。
「ひとえに、魔理沙さんと霊夢さんへの愛です」
「チルノに向けられてる愛の一部でも本当の愛を分けてほしいぜ」
「無理です」
ブン屋はあっさりそう言うとチルノの方を見出した。すげぇ笑顔だ。
あれ、こいつ趣旨わかってんの? 私の言うのもあれだけど。
「がんばってください魔理沙さん!! 私、応援してますよ!!!」
「え、あ、うん。ありがとな」
「あら美鈴。あなたもしかして……」
「え!! ち、違いますよ! 私が愛しているのは咲夜さんだけです!」
「……ほんと?」
「はい!! もちろんじゃないですか!!!」
なぜかガッチリとハグをしだした門番とメイド長。
あのー、貴方達も趣旨、分かってますか?
「ねぇねぇもこたん。もこたんも何か言ってあげなさいよ」
「えー。輝夜が言いなよー」
「もこたんが言ってよー」
「輝夜が言えよー」
「もーこたん♪」
「かーぐや♪」
……あの、そこの蓬莱人。趣旨……。
「……阿求は、なにしてんだ」
「はい。記録係です」
「お前、そんなに暇じゃないだろ?」
「大丈夫です。これも立派な幻想郷の歴史ですから」
阿求まで引っ張り出してきやがったか、こいつら。
私はその他にもいっぱいいる集団の前でニヤニヤとしている萃香とアリスを睨んだ。
チルノはブン屋に捕まってたけど、この際仕方が無い。
「なんだよこれ」
「みんな、貴方を心配して集まってくれたのよ」
「いやいやいや。待てよ。どう見てもあいつら心配してくれてないぞ!」
「浅はかね、魔理沙。よく見てみなさい?」
アリスの諭すような表情にカチンときつつも、私は集団に目を向けた。
……阿鼻叫喚。地獄絵図。姦しい。そんな感じ?
「ちょ! お前ら人の家でなにしだしてんだよ!!」
「これが答えよ魔理沙」
「はぁ!!?」
なんだか今にも18禁というか、CEROでZ指定されそうな事をしだしそうだったので止めようとしたら、それを萃香が止めた。
ま、待て! 今から大事な話するんだろうけど、まずは止めさせろ!!
「お前に足りないのは、覚悟」
「……覚悟なら、とっくにできてる」
「足りないわ。だったあなたは霊夢を怖がってるもの」
萃香の言葉がズシリと重い。集団を止めようとしていた思考は、どこかに消えていた。
私は霊夢を怖がっている……?
「告白の答えもだけど、それ以前に、同じ人間として。お前は霊夢を怖がっている」
「……否定はできない」
「確かに霊夢はすごい。強くて、相手との距離間を熟知してて、そして博麗だ」
「……」
「でも見てみなさい。彼女たちの顔を」
……頬を赤く染めて、なんというか、ちょっとあれな顔ばっかりな気が……。
「普段は殺し合っているような仲の輝夜と妹紅。
館のメイド達に恐れられているメイド長と、軽んじられている門番。
幻想郷中のプライベートを消滅させん勢いの新聞屋と、幻想郷で一番愛されている妖精」
「…………」
「場合によっては、霊夢よりも驚異な存在な彼女たちも、普段はこんな顔なのよ?」
「わかってるよ。理解はしてるんだよ」
脳裏に霊夢の顔が浮かんだ。
異変時の、まるで相手を殺しかねない表情をした霊夢。
普段の、ダメ人間みたいな表情の霊夢。
私にとってはそのどちらもが、羨ましくて眩しくて、得たいものだった。
「あいつは私の目標で、一緒にいたい存在なんだ。普段は隠しているあの力に少しでも追いつきたくて、私ががんばってるんだ。
でも、無理なのは分かってるんだよ……。私が霊夢に追いつけることなんて、きっと無理だって。それが、きっと怖いんだ」
私はうつむき、目をつぶった。
涙が出てきそうだった。
私の霊夢への愛っていうのは、もしかしたら本当の愛情じゃないんじゃなのか。
私はただ、霊夢が。霊夢の力が欲しいだけなんじゃないか。
そんな私の頭に、萃香の手がスッと降ろされた。
慌てて顔を上げた私の目に見えたのは、涙でちょっと歪んだ、萃香の笑顔だった。
「お前にとって、霊夢ってのは絶対の存在なんだな」
「……うん」
「さっき、霊夢を『相手との距離間を熟知している』って言ったけどさ、実際そうでもないんだよね。お前は知ってるか知らないけど」
「え?」
「だって実際魔理沙との距離間を測りかねてるじゃない」
……まぁ、そりゃそうだけど。
なんというか、揚げ足とりっつーかさ。
「だから。私が言いたいのは霊夢もただの人間ってことよ」
「ただの人間は空飛ばないけどな」
バカ野郎。って萃香は笑いだした。
「ったく。とにかく、あいつもお前と同じだよ。だからもっと安心しろ」
「……輝夜と妹紅みたいにか」
「あいつらは別格だけどね。殺し愛って言うやつだろ」
そこで私ははっとなって振り返った。
さっきまで騒がしかった『ヘタレ魔理沙をがんばってどうにかしよう委員会』の面々は、私を見ていた。
……いつからだよ。
「な? 前だって言ったじゃないか。『私達は応援してる』って」
「……ありがとな、みんな」
「いいってことよ!」
チルノがえへんと胸を張って、それを両側から射命丸とアリスが頭をなで出した。
こいつら、なんつーかほんともうどうしようもねぇな。
……私も同じだろうけど。
「魔理沙。今日久し振りに宴会やるの知ってるよね?」
「あぁ。1ヶ月ぶりだな」
「……がんばってね」
突然素に戻ったアリスが私に言った。
がんばってね。ってのは、つまり。そういうことか。
「……待ってるばっかりってのは、私の性に合わないってことか?」
「霊夢のけつ、引っ叩いてやれよ」
萃香が親指をグッと突き出した。
そうだよな。いつまでも待っててもしょうがないよな。
いや、待たせてる霊夢が悪いんだよ。
あの日、私は言ったじゃないか。
恋愛もパワーだって。
◇◇◇
約1ヶ月ぶりの宴会は、まさに地獄絵図といえるものだった。
みんな、羽目外しすぎじゃない?
誰が片付けるのか分かってるの?
「まぁまぁ霊夢。そういう事は飲んで忘れようぜ?」
「……そこまで言うには、魔理沙は手伝ってくれるのよね?」
「あー、うー……お、おう」
歯切れの悪い返事に、きっと期待はできなかった。
今、私の周りには魔理沙しかいない。
多分、みんな気を利かしているのだろう。
どこまでのメンバーが『今の状況』を理解してるのか知らないけど、萃香が絡んでいる時点でその範囲が小さくはないことは予想されている。
私は魔理沙からのお酌をうけて、1杯のお酒をグイッと飲んだ。
魔理沙はそれを見てから、自分も飲みだした。
……霧雨魔理沙。
私を好きな人。私を愛する人。
あんなにはっきりと言われて、ちょっとヘタレな部分も見て、私は『答えを出すから待ってて』と言った。それが1ヶ月前。
わかっている。待たせ過ぎていることなんて、分かりすぎているくらいに分かっている。
でも、私は答えが出せないでいた。
魔理沙があの日以降も、普通の顔をして私に会いに来てくれるたびに、私の答えはうやむやになっていった。
別に魔理沙のせいにするつもりはないけれど。
私は自信が無いのだろうか。魔理沙を愛することに。
あの魔理沙と私が、そんな関係になってしまっていいのだろうか。
「なぁ霊夢。その、ちょっといいか」
「……」
私は思考を切り替えて、魔理沙を見た。
魔理沙の顔は真っ赤だった。それだけで、こいつが今から何を言いたいのかが理解できた。
魔理沙は分かりやす過ぎる。私の心臓がドクリとはねた。
「なんつーかその、そろそろ1ヶ月だろ。そろそろ……答え、とか……」
「…………そう、ね」
もっと気の利いた事を言えばいいのに、この口は。
やっぱりね。と言わなかっただけましだろうか。
……私はどうすればいいんだろうか。
魔理沙は嫌いじゃないし、好きだけど、私は魔理沙の思いを受け止めれるのだろうか。
「……おい、霊夢?」
「あ、ご、ごめん……ちょっと、もうちょっと待って」
「あ……う、うん」
待ってて。じゃなくて、待って。
これ以上先延ばしにしていい話じゃない。
私はここで、決着をつけることにした。
私にとっての霧雨魔理沙は、親友で、私にはできない事ができる人で、一種のあこがれも抱いている。
天才型の努力型なんて前は評したけど、それは弾幕に限ったことじゃないと最近思い知った。
魔理沙は、こんなに私への好意を示してくれている。
告白の時だって、チルノとのいざこざの時だって、私なんかのために。
そして、じょじょにじょじょに、私の頭を、心を魔理沙一色に染めていった。
本当に魔理沙は、すごいやつだ。
「……無理しなくて、いいんだぜ?」
「え?」
「長い間ずっと考えて、答え出ないんだろ? つまりは、そいうこと。じゃないのか?」
魔理沙の、悲しそうな。今にも泣きそうな顔が見えた。
私はどう言えばいいのだろう。
確かに私は魔理沙を好きになりつつあるだろうけど、もしかしたらそれは魔理沙の私への努力を無駄にしないために思い込んでいるのかもしれない。
だったらそんなんじゃ、魔理沙に失礼だ。
そんな答えじゃ、魔理沙は喜ばないし、私も嬉しくは無い。
「……ごめん」
「え?」
魔理沙が、走っていった。
走って、走って、だんだんとその姿は小さくなっていく。
私は、どう言えばよかったのだろうか。
結局私は。
そのまま魔理沙の姿が見えなくなるまで。
一言もしゃべる事は出来なかった。
◇◇◇
宴会の騒ぎの輪を外れ、私は賽銭箱に腰かけた。
ここからはみんなが騒いでいる姿が見えて、そして向こうからは私は見えていない。
美鈴と咲夜がじゃれあって、レミリアが嫉妬していた。
パチュリーとアリスがなにか話し合っていた。きっと魔法とかの話なんだろう。
チルノが文になでなでされていた。本当にチルノは好かれている。
妖夢が珍しく酔っぱらっていた。幽々子は逆に今日はあまり酔ってないみたいで、普段と立場が逆な2人が面白かった。
輝夜と妹紅が肩を寄せ合ってお酒を飲んでいて、その横で慧音と永琳がまるで親のような感じでお酒を飲んでいた。
てゐが手当たり次第に嘘を付いていて、鈴仙がミスティアやリグルに注意を促していた。
そしていつのまにか目の前に、萃香が立っていた。
「飲んでるかい、霊夢」
「えぇ、それなりにね」
いつものひょうたんを掲げながら、萃香はひょいひょいと近づいてくる。
いつもの千鳥足で、いつもの酒気を漂わせた呑兵衛の鬼。
そして魔理沙の、私の友人。
「何か用?」
「用が無いと会っちゃいけないのか?」
「そんなわけないじゃない」
「まぁ、用はあるんだけどな」
萃香の表情はいつものヘラヘラしたものだったけど、どこかいつもと違っていた。
……なんとなく、理解はできる。
きっと萃香は、魔理沙の事で話があるんだ。
「魔理沙の事だけどなぁ」
やっぱり。とは、口に出さなかった。
「……えぇ」
「1ヶ月経っただろ? だから、そろそろ結果は出たもんだと思ったんだよ。霊夢の事だしな」
「…………」
「だから、私らが魔理沙にけしかけちゃったわけだ……まだ、早かったみたいだったけどな」
なんの言葉もでなかった。
表面上は普通の言葉だけど、私にはこれが『私を非難している言葉』だと理解できた。
「…………」
「……だんまり。ってか? いい御身分だよな。魔理沙は四六時中お前の事思ってるのに、当の本人は何食わぬ顔で日々を暮らしてるなんてなぁ」
次の言葉は、『私を非難している言葉』そのままだった。
この言葉に私は怒る権利はあったのだろう。
いくら萃香でも、言っていい事と悪い事がある。
実際、私だって四六時中じゃないにせよ長い間魔理沙の事を考えていて。だからその言葉は否定できるものだった。
でも、私はそんな言葉を言われても当然の権利もあった。
いくら私でも、言わなくていい事と、悪い事もあるんだ。
「なぁ霊夢。お前はどうしたいんだよ。魔理沙に期待させるようなこと言っておいて、それを眺めて、楽しいか?」
「楽しいはずないじゃない……」
「そうかねぇ。博麗霊夢って人間は、もっと冷酷なやつだって思ってたけどな」
萃香の言葉にはいちいち棘があって、さらにそれが私の傷にうまいこと組み合うものだった。
反論できないわけじゃないけど、できなかった。今の私にはしていいことじゃなかった。
「なぁ霊夢。そろそろ素直になれよ」
「……どういう意味よ」
「そのままの意味だよ。魔理沙も面倒だけど、お前もそうとう面倒なやつだよ。
本当は分かってるんだろ? でも、お前はその一歩が踏み出せる勇気が無いから、分かってないふりしてるんだろ?」
「……」
私の無意識のうちに服の裾を強く握っていた。
なにかを我慢するように。
「なぁれい「そんなに心配なら」
「……あぁ?」
「そんなに魔理沙が心配なら、萃香が恋人になってあげればいいじゃない!!」
私の怒声と同時に、萃香の手は私の胸倉をつかんでいた。
至近距離で見る萃香の顔は、今までに見たこと無い真剣な顔で、いままでに無いくらいに怒っていた。
「おい。いい加減にしろよ人間」
「……」
萃香からの強い視線に、思わず私は目をそらしてしまった。
それでも萃香は言葉を続ける。
「たかが数十年生きた程度のお前たちが、この程度の問題をまるで世界の大問題みたいな顔してやってるのを見ると我慢できないんだよ」
「輝夜と妹紅を見てみろ。咲夜と美鈴とレミリアを見てみろ。妖夢と幽々子を見てみろ。映姫と小町を見てみろ」
「あいつらを見てみろ。なん障害もないみたいに、堂々と愛し合ってるじゃないか。この程度の問題でグダグダしてるのは人間。お前たちだけだ」
萃香の淡々と紡ぎだされる声は、いつもの萃香のようではなくて、鬼のそれだった。
私の中で小さな恐怖が生まれた。
それは今の萃香の迫力になのか。
または、萃香が私を『人間』と。ただ種族でそう呼ぶからか。
私よりも小さな体のくせに、今は『人間』がどれだけ束になってもかなわないような迫力を出している。
いままで忘れていたのだろうか、私は。萃香が『鬼』だという事を。
「なにが問題なんだ人間。お前だって魔理沙を愛しているのだろ? 魔理沙だってお前を愛している。それだけだ」
「…………」
「お前は何がしたいんだ人間。魔理沙の心を弄んで、傷つけて、引き伸ばして」
「…………」
「人間。お前は、魔理沙がお前のために動く姿を見てただそれを滑稽だと、愚かだと笑いたかっただけじゃないのか?」
「!! ちがっ……」
「おい人間。お前は今言ったな、『そんなに魔理沙が心配なら、萃香が恋人になってあげればいいじゃない』と」
私がやっと絞り出すように出した声は、萃香の力強い言葉にかき消された。
萃香の顔が、怖い。
「霊夢。博麗霊夢。その言葉を待っていた。これで心おきなく、私は自分の好きな事ができる」
「……え?」
「博麗霊夢。お前にこれだけは言っておいてやる。
『魔理沙は貴様には渡さない』」
真っ白だった。
最近の中で一番、真っ白だった。
今、萃香はなんと言った?
『魔理沙はお前には渡さない』。
いままでそんな気配すらみせなかったのに。
いや、見せてなかっただけなのか。それほどまでに、萃香の思いというのは強固なものなのか。
そしてそれがこうやって私に向かって宣言するということは、萃香にとって私は『それ』になる素質が無いと。
『その座』を争うライバルたる資格が無いと。そういう意味なのか。
萃香は私の服から手を離すと、グイッと1杯ひょうたんを煽った。
私はまた、何も言えないでいた。
「ふぅ。正直、私だってそろそろ限界だったんだ。まるで魔理沙のただの友人みたいな顔して一緒にいることはな。
だけど、今のお前の一言で決心がついたよ。ありがとうな」
「……」
「今の魔理沙にそういうのを言うのは、隙をついてるみたいで卑怯かもしれないけど、まぁ仕方ない」
「……」
「お前にも中途半端に高まってる好意があるだろうけど、私のいままでのものよりはましだろうし、すぐ消える」
だから、安心しろよ。
そう言うと、萃香の体は夜の闇に溶けていった。
……自分の力を使って、体を分散させたんだろう。
向かう先は決まっている。
「…………」
私はただ立ち尽くしていた。
萃香の強い魔理沙への思い。
……私の、魔理沙への思い。
私なんかより、萃香の方が魔理沙のことを大事にしてくれるのかもしれない。
魔理沙の事は好きだけど、それ以上に私にとっては大切な人で。
私は魔理沙の幸せを望んでいるのだから。
だったら、私はここでまた宴会に戻って、適当にみんなと笑い合って、戻ってきた2人を笑顔で迎えて、私の中途半端に高まった好意が消えるのを待てばいい。
それで、全てが丸く収まるんだ。
『わ、私は霊夢が好きだ!!!』
ふいに、1ヶ月前の魔理沙の声が脳裏に響いた。
魔理沙が顔を真っ赤にして私に向けて言った、愛の告白。
私が魔理沙をただの親友から、それ以上に感じるようになった一言。
……もし、萃香が魔理沙と付き合ったら、毎週の『手合せ』はどうなる?
毎週の楽しみにしている、その前のお茶タイムと、その後の小さなお泊り会はどうなる?
それで十分だった。
今の私が動く理由には、それで十分だった。
理由が必要な私にとっては、それで十分だった。
「……魔理沙ッ!!!」
◇◇◇
暗いけもの道の途中で、私は腰を下ろした。
バカなことをしたな。って思った。
告白の事だって、さっきの事だって。
あんな急に意見を求めても答えに困るだけなんてわかるはずなのに。私ってば。
私はひどい被害妄想というか、ネガティブな思考の持ち主なんだなと、改めて思った。
なんでもかんでも、自分で自分の首を絞めてるんだからお笑いだ。
告白の事だって、さっきの事だって。だ。
「……魔理沙」
「え……」
顔をあげると、そこには萃香がいた。
……萃香か。
「……何か用かよ」
「……ねぇ魔理沙。私、ちょっと大事な話があるんだけど」
「はぁ?」
◇◇◇
「ハァハァハァハァ!!!」
私は走っていた。あの時みたいに、走っていた。
飛べばいいのに、バカみたいに走っていた。
魔理沙の居場所は分からないし、萃香がもうそこにいて……取り返しがつかなくなってるかもしれない。
でも。
それでも私は走るしかなかった。
私には萃香みたいな力は無いから。この足で探すしかなかった。
「ハァハァハァ……ッ!!」
魔理沙は居た。
暗いけもの道の木の下に座り込んでいた。
萃香の姿は、無い。
「ハァハァハァ……」
「ん……って、れ、霊夢!!?」
魔理沙は私の存在に気づいたみたいで、慌てて立ちあがってあたふたしだした。
それを見てちょっとだけ和んだ私は、息を整えて魔理沙に近づいて行った。
「魔理沙、萃香見なかった?」
「え? 萃香? ……見なかったぜ?」
え? 見なかった?
おかしい。私よりだいぶ前に消えた萃香が、魔理沙を探せなかったのだろうか。
まさかそんなはずは無い。あの萃香だ。ものの数秒で見つけ出せるだろうに。
まぁいい。とにかく、今は自分のことで精一杯だから。
どういう形であれ、私の中のふんぎりをつけてくれた萃香に心で礼を言いつつ、
「……魔理沙ッ!!」
「え、あ、ちょ、う、うぇぇ!!!」
私は、魔理沙を思い切り抱きしめた。
私の腕の中にいる魔理沙は、両腕をあたふたと宙で動かしながら、おもしろいくらいに動揺していた。
「れ、れ、れい、れい、れいむさんん!?」
「……ごめんね」
「え?」
私は魔理沙を抱きしめる力を強めながら、謝罪の言葉を告げた。
「ごめん。長い間苦しめてて、ごめん。なにも言ってあげれなくて、ごめん。すぐに追ってあげれなくて、ごめん」
「れ、霊夢?」
「ごめん。ごめんなさい」
気がつくと私は泣いていて。
魔理沙の宙を舞っていた両腕は、私を優しく抱きしめてくれていた。
「……なんだ、萃香になにか言われたのか?」
「そう……だけど、なん、で?」
「私も朝言われた。あいついい奴だよ。いい奴すぎるくらいに」
……やっぱり萃香のおかげ。ということなのか。
ということは、さっきの萃香の魔理沙好き発言は嘘なのだろうか。
でも、あの迫力は、あの思いはきっと嘘じゃない。
「……大丈夫だって、私我慢強いからさ」
「そういう問題じゃないでしょ……だって、私ずっと魔理沙を」
「ストップストップ」
魔理沙は慌てて私をひきはがした。
ちょっとだけ名残惜しい気がしたけど、魔理沙の笑顔をみたら少し安心した。
「本当に、私は大丈夫だよ。ちょっと私自体がネガティブっていうか、自分で首しめちゃう系のやつだからあれだけど、お前は悪くないよ」
「……うそ」
「本当」
「うそよ」
「本当だって」
うそだ。
と言おうとした私の口を、一瞬だけなにかがふさいだ。
その柔らかさから、それが魔理沙の唇だと気付くのにかなりの時間がかかった。
そしてそれは、どうも『それ』をした本人も同じだったみたいで。
「…………あぁぁぁぁあああああああ!!!!! ご、ごめんごめんごめんごめんごめん霊夢ごめん!!!!」
「お、落ち着いて魔理沙」
「うわぁぁぁぁぁあああああああ!!!! 恥ずかしい!!! 恥ずかしい!!! バカ!!! 私のバカ!!!」
自分の顔をばんばん平手打ちする魔理沙の腕を掴んで、無理やりこっちに顔をむかせた。
無意識のうちに『それ』をした恥ずかしさか、平手うちのせいか顔が真っ赤だった。
「……本当にごめん。ほんと無意識で、いつのまにか……」
「気にしてないわよ」
「嘘だ。だって、こんな、突然そんなことされて……」
「気にしてないって。それとも、ここで私からしてあげたら信じてくれる?」
「う……え、え?」
真っ赤な顔の魔理沙が、さらに真っ赤になった。
やっぱりあの赤さは平手うちのものか。と思いながらも自分の体温上昇も確認。
恥ずかしいのなら言うなよ私。
「それはどういう……」
「魔理沙。簡潔に言うわ」
「え、お、おう」
……嫌な気はしなかった。
むしろ、かなり嬉しかった。
あぁ、つまりこれは、私はもうとっくの昔にやられていた。ってことなんだろう。
なにが友達とさえ思って無かっただ、博麗霊夢。
お前はしっかりと恋色魔法使いに心を奪われていたんじゃないか。
「私も、魔理沙の事が好き」
魔理沙の顔が、間抜けなくらいに歪んだ。
分かってる。いまさらこれを言ったところで信じてくれないなんて、分かっている。
「……え?
ほ、本気でか!?」
「もちろんじゃない」
だから、信じてくれるように私は自信満々に答えてあげよう。
「友情的なとか、そんなんじゃなくて!?」
「この気持ちは愛情よ」
私は霧雨魔理沙が大好きなのだと。愛しているのだと。
そこで私はもう一度、魔理沙を抱き寄せた。
魔理沙は力無く私にもたれ掛かってきて、肩に顔を乗せた。
「……ま、正夢……」
「は? なんて言ったのいま?」
「な、なんでもない! こっちの話だぜ!」
?? 変な魔理沙。
「……信じてくれないかもしれない。それだけの事を私はあなたにしたわ。でも、信じてほしいの」
「……うん」
「私は、霧雨魔理沙を愛しているって」
「…………」
魔理沙の体が小さく震えていた。
好意的に解釈するなら、感動で震えているんだろう。
魔理沙は肩に乗せていた顔をあげると、ちょっと紅潮した顔で私を見つめた。
涙目もあいまって、その…………か、わいい。
「霊夢、その……」
「……なに、やっぱり信じてくれなかったの?」
「え、えぇ!? いや、信じてるって、信じてる!!」
私の『意図』に気づいてないみたいな魔理沙の顔は、あっさりと泣きそうなものになった。
面白い。可愛い。魔理沙って、ほんと可愛いな。
「そう……信じてくれないなら、やっぱり私からしてあげないといけないのね」
「え……どういうい」
魔理沙の言葉は無視して、私は顔を近づけていく。
ある程度まで近づいたところで、やっと魔理沙は私の意図を理解したようで、静かに目を閉じた。
そうして、私達は―――
◇◇◇
神社まで戻ると、戻った瞬間。一瞬だけ場はピタリと止まったけど、またすぐに元の騒がしいものに戻った。
たぶん、みんないろいろと気づいてるんだろうな。恥ずかしい。
隣に立っている魔理沙は、なにやらアリスの方に連れていかれていった。
……まぁいいわ。今はアリスに貸してあげる。
それよりも、今は……。
居た。
さっきまで私がいた賽銭箱の前に座って、『そいつ』はお酒をあおるように飲んでいた。
私は早足で近づいていき、『そいつ』の手からひょうたんを奪った。
「……なにするんだよ」
「こっちのセリフよ」
萃香は、不機嫌そうな顔で私からひょうたんを奪うとまた飲みだした。
しょうがないので私は萃香の横に腰を下ろした。
「……ねぇ、萃香。さっきの事だけど」
「本気だったよ。私は」
萃香の、冷めたような、諦めたような、寂しげな声が聞こえた。
「本気で霊夢から魔理沙を奪いたくて、私は必至で魔理沙を探した。どうかしてたんだろうね。
柄にもなく霊夢に熱く語っちゃったのせいないのか、私は本気の本気だったんだよ。
魔理沙は、あっさりと見付かった。霊夢はどうせ来るだろうから、私はその前に終わらせてやろうと思ったんだ」
だけど。
そこまで言うと萃香はやけ酒みたいに、ひょうたんを傾けた。
「……うつむいてた魔理沙が顔上げた瞬間、一瞬だけ嬉しそうな顔して、次の瞬間にはがっかりしたものになったんだよ。露骨にな」
「…………」
「それ見たら、もうダメだった。
あの時の言葉、わりと本心でさ。今の状態の魔理沙なら霊夢の事は嫌いになってると思ってた。でも、そうじゃなかったんだよね」
萃香はそのまま両足の上に顔をうずめた。
「……本当にさ。霊夢ってズルいね」
「ごめんね」
「そうやって、簡単に謝っちゃうところとかさ」
「うん、ごめん……」
「……ズズッ」
萃香の鼻をすする音が聞こえたと思ったら、一度萃香はその体を小さく分散させた。
そしてすぐに同じ場所に現れると、すっきりしたような顔になっていて、私を見ていた。
「うん。私らしくない。止めようこういうの」
「……でも」
「『私達はお前を応援している』」
「え?」
「魔理沙に言った言葉。これは、嘘じゃないから。確かに魔理沙も好きだけどさ、霊夢だって私にとっては大事な友人だ」
そう言って萃香は、どこから取り出したのか大きめの杯を私に渡して、ひょうたんからお酒を注いだ。
「霊夢。おめでとう」
「……萃香ご」
「めんねは無し。もう平気だから。私のことは心配しないで」
……萃香がそこまで言うのなら、私はもう何も言えない。
私はゆっくりと杯の中のお酒を飲むと、萃香を見つめた。
「ありがとう、萃香」
「……本当に、おめでとう」
優しそうにほほ笑んだ萃香の顔を見て、私は萃香の思いも継いだ事を理解した。
萃香の分まで、私は魔理沙を愛してあげようと思った。
「おーいお前らー! やっとこの2人付き合うんだってさー!!」
「ッ!!! す、萃香!!!」
そんな決心をした直後に、萃香はまるで悪がきみたいな顔で笑いながら、宴会を楽しむみんなに声をはり上げた。
それを聞いてみんなはヒューヒューだの、おめでとう! だの、好き勝手な事を言い出した。
慌てて萃香を睨みつけたけど、もう遅い。得意気な顔の萃香が見えた。
「……萃香ぁ」
「これくらいいいじゃん。どうせみんな知ってる事だし」
「そういう事じゃないでしょ! みんなの前でわざわざ……ったく」
「そうこう言ってるうちに、あっちで魔理沙がめちゃくちゃに」
「え? う、うわぁ魔理沙ぁ!!!!」
萃香の指さす方を見ると、魔理沙が酔っぱらい連中に囲まれてなにやら洗礼をうけていた。
慌てて私はかけ出していた。
「……柄じゃねぇよなぁ」
「だいじょうぶ」
魔理沙と霊夢を中心に騒いでいる連中を見ながら、小さく鼻をすする私の隣にいつのまにかチルノが立っていた。
チルノはいつもと違う大人びた表情で、私を見ずに霊夢たちを見ていた。
「萃香はいいやつだから、みんな大好きだよ。だから心細くないでしょ?」
「……あぁ、そうだよな」
「あたいだって、萃香の事は大好きだよ!」
「……本当にさぁ、チルノってやつは、あれだよなぁ」
「な、なによぉ!! なにか文句あるわけ!?」
やっとこっちを向いたチルノの顔は、いつもの子供の顔だった。
私は笑って、ひょうたんを突き出した。
「それじゃ、今日は私のやけ酒に付き合ってもらうぞ?」
「まかせときな! アリスも呼んで盛大にやろう!!」
本当に、幻想郷はバカかめんどくさいやつしかいないねぇ。
◇◇◇
トントントントン、と心地いい音がまず耳に入った。
そして次に、ほのかに漂う味噌汁の匂いと、小鳥のさえずりが聞こえた。
目を開けてみると、見覚えのある天井だった。
ん……っと、いつ寝たのか、覚えてないな。
とりあえず体を起こしてみて、のばしてみる。
するとそこにエプロン姿の霊夢が顔を出した。
「あら魔理沙。やっと起きたの? もうすぐ朝ごはんだから顔洗って来なさいよ」
いつものエプロンに三角巾。いいねぇいいねぇ。
「なぁ霊夢。似合ってるぜその格好」
「そう、ありがと」
あっさりとそれだけ言うと、テクテクと部屋に入ってきて私に近づいてくる。
そして短い、触れるだけのキスをしてまた離れていった。
「……」
「おはようのキス。目が覚めた?」
次の言葉が出なかったので、私は首を激しく縦に振った。
首が痛いくらいに。
あぁ、なんか、本当に昨日の事は夢じゃなかったんだ。
霊夢と相思相愛になって、その後みんなでいじられて、またすごくお酒飲んだからあんまり記憶無いけど、昨日の出来事は夢じゃなかったんだ。
そう思うと、顔がにやけてくる。
1ヶ月前じゃないけど、まるで本当に知らない間に私達が結婚しちゃったみたいなそんな……
「早く起きなさいよ。もうみんな準備して待ってるのよ」
……え? み、『みんな』?
今まで、全編読ませていただきましたが、魔理沙のこと好きとか全然気づかなかった。せつなすぎ・・・・。そして可愛すぎ・・・。
続編で、今までの萃香サイドを希望します!
無駄にきもちわるい・・・正直ひいた
60点引きするほどに
同じ設定で書くなら是非てるもこと咲美を、というかもうこの際
個別に全カップル分希望とかしてみるてst
周りからの干渉が邪魔すぎてもうどうでもいいやという印象
動かない二人より動きすぎる周りにイライラしました
なんていうか話が読めすぎるというか……でも乙でした!
しかし、これなんていう永久ループwww
夢じゃないことを祈ります。
魔理沙かわいいよ魔理沙