※この作品はタイトルから想像できる通りパロディものでございます。
ここは幻想郷。人間と妖怪が暮らす、小さいながらもそこそこ平和な「国」
しかし、そんな平和なこの国にも犯罪は起こる。
そんな犯罪から人々を守るのが我等がヒーローもこたん警部なのである!
「この馬鹿者が~!!」
ドバンッ!!
輝夜主任警部の怒号と、机を叩く音が部屋の中に響き渡る。
我等がもこたん警部はのっけから怒られていた。
ちなみに二人共スーツ姿である。
「妹紅警部・・・あんたはなぜ怒られているのか理解はできてる?」
「いいえ!褒められることはあっても怒られることはございません!」
「ほほぅ?」
答えを待つ輝夜の顔は仏様のようだ。こめかみの血管は荒ぶる龍のごとくだが・・・
ちなみにゲンドウさんポーズ。
「犯罪者を私はちゃんと捕まえました」
「犯罪者って小学生の万引き犯だろうが!し・か・も、小学生捕まえるのに発砲するな!しかも店内で!!」
仏様は一瞬で鬼になった。
ドピュー
血液という名の龍も血管から解き放たれる。
「あんたは何回厄介ごとを起こせば気が済むの!この前は罪無き一般妖怪を誤認逮捕したわよね」
「だってあの面はどうみても犯罪者・・・」
「見た目で妖怪を判断するな!かわいそうだろ!!だいたいお前は!うっ」
バタリ
怒りのあまり、輝夜は目の前が真っ暗になった。
「主任?まったく、あれほどストレスは溜めないほうがいいって言ったのに」
「お・ま・え・のせいだろうが!」
輝夜復活。
「たくっ、思わず拳銃を探しちゃったじゃないの」
「主任、自殺するのはまだ早いです」
「おまえを撃つためだ!・・・妹紅警部。今度、何かやらかしたらクビだから覚悟しておきなさい」
クビ!
その一言に妹紅は路上の人となった己を想像する。
雨の中、ダンボールの中で震えている姿はまるで捨て猫の様。耳としっぽをつけたら正にって、あれ?これかわいくね!これってかわいくね自分!うへへへへ。
「妹紅・・・あんたクビになるのがよっぽど嬉しいようね。なんなら、今この場でクビでも結構よ?」
「にゃ~んって、いえいえそれはご勘弁願います!お代官様!」
「次は無いぞ越後屋って、誰が悪代官だ!ったく」
そう言いながら輝夜は椅子に腰掛け、机上のアロマテラピーに火をつけようとする。
しかしライターからなかなか火が出ない。
ここで点数稼ぎしとくか。そう思った妹紅は
「主任、ここは私が」
指先に火を灯し、アロマテラピーに火をつける。
「ほほぅ、あんたにもチュパカブラ並の気遣いはできるようね」
そう減らず口叩きながらもまんざらではなさそうな輝夜。
「お褒めいただき光栄でっ、くしゅん」
これは上手くいったと思った時くしゃみをしてしまう妹紅。
ボッ
「あ」
そしてくしゃみの反動で、指先の火が机の下のカーペットに飛び火した。
(あわわ、やべぇ!いや、このまま主任が燃えちまえばってそんな場合じゃないよ妹紅!!)
なんとか足で鎮火を試みるが火の勢いは強くなるばかり。
「はぁ~、この桃のいい香りが荒んだ私の心を癒してくれるわ~」
「ハハハソウデスネ」
輝夜はアロマテラピーに夢中なのと火が出ている場所が死角なのとで火事に気が付いてない。
火の勢いは強くなるばかり。
ボオォォォォ!
(これは・・・これは無理☆)
そう判断した妹紅の判断は、逃げるがカツどん。
「それでは主任!私は失礼します」
挨拶も早々に妹紅は部屋を飛び出した。
燃~えろよ燃えろ~よ炎よ燃~えろ。
そう妹紅が口ずさみながら歩いていると、輝夜の腹心永琳が反対側からやってきた。(彼女もスーツ姿)
「あら妹紅、まだクビにはならないのね。姫に感謝しなさいよ」
永琳の憎まれ口にいつもなら言い返す妹紅だが今は逃げるのが先だ。
「ホント主任の寛大さには恐れ入ります。それとあなたは本当にタイミングがいい。それじゃね」
?マークを浮かべる永琳をその場に残し妹紅は立ち去った。
「たすけて!えーりん!!」
「姫?」
輝夜のいた部屋は見事な火事になっていた。
「姫?あれほど部屋でバーベキューはしてはいけないと」
「してない!」
自分が住むアパートの三階に着いた妹紅。
しかしドアノブに手をかけるもすぐには開けない。
中の様子を伺い、しばらくしてから
「ちょいや~!!」
奇声をあげながら部屋に飛び込んだ。
部屋に入ってからも油断なくあたりを見回す妹紅。
時々ゴミ箱とかを開けては中にケリをかますその姿は超~変質者っぽい。
しばらく奇行を続けていた妹紅だが
「ふう、今日は襲ってこないのか?」
そう呟き、あぁ~今日も疲れたとか主任焼けてねぇかな~と思いながら冷蔵庫の扉を開けようとした。
その時!
「オ、プ、ティマ~ス!!」
勝手に冷蔵庫の扉が開き、奇声をあげながら同居人の慧音が襲い掛かってきた!
ちなみに冷蔵庫の中の食べ物達は慧音のお尻に無残にもつぶされていた。合掌。
ほあ~きょえ~と間合いを取る二人。
そして壮絶な戦いが始まった。
しかしながら本筋には関係ないので割愛。
部屋の中のテレビが黒煙をあげたり、机がまっぷたつになりながらも戦いは続き、ついに妹紅は慧音にシーツをかぶせ視界を塞ぐことに成功した。
「ど、どこに居る~もこたん!」
「ふっ、今日は私の勝ちだな」
お化けだぞ~状態になっている慧音に止めを刺そうと近くにあった木刀を握り締めた時
ピンポ~ン
呼び鈴が鳴った。
「は~い、どちらさま?」
扉を開けるとセーラ服を着た、緑色の髪に蛇とかえるの髪飾りが似合うおとなしそうな美少女が立っていた。
「あの・・・慧音先生は?」
「ああ、慧音の教え子さんか。慧音なら」
そう妹紅が答えようとすると、目の前の美少女が突如震え始めた。
「ど、どうしたの?大丈夫?」
慧音の知り合いは変人ばかりだなと自分のことを棚に上げていると
「うわ~やっべ!ちょ~かこいい!すんません!写メ撮らせてください!」
あ~う~☆(ケータイカメラのシャッター音)
「ありがとうございます!あなたが妹紅さんですね!?先生から話は聞いてます!うわ~早苗超感激~」
ギャル語で一人キャーキャーとハイテンションな早苗だったが、妹紅の視線に気がつくと気まずそうにおとなしそうな美少女に戻った。
「あっ、取り乱してすみませんでした。ええと先生は?」
「慧音ならあそこ」
最近の女子コーセーは恐ろしいと思いながら妹紅が指さした先には
「もこた~ん、どこいったの~?もこた~ん」
女子高の教師、慧音が今だお化けだぞ~をやっていた。
「ゴッホン!すまない早苗、恥ずかしいところを見せたな」
「いえいえ、先生かわいかったです。あっこれ、頼まれてたプリント持ってきました。」
先ほどの慧音の醜態に動じないどころか、この部屋の惨状にも突っ込まないところなど、彼女はかなり変人だなと、またもや自分のことを棚にあげて妹紅は失礼な感心をしていた。
「ところでお二人はなにをやっていたんですか?聞いちゃいけないことなら深くは聞きませんけど」
むっ、そこを気にするとはこの娘は中々見る目があるな!将来は神社の支配者あたりをやっているかもしれない。
「いや大丈夫、これは訓練で、いつも油断しないように慧音に協力してもらっているんだ」
「そうなんですか。さすが警察で働いているだけあって妹紅さんかっこいいですね」
「いや~それほどでも、はっはっは」
いや~さすが慧音の教え子!いい娘だな~。どこかのアホ主任がくたばってこの娘が上司になってくれないかな~。でも無理か。あの主任、無駄に不死身だし。この前うっかりパトカーで轢いた時もしっかり生きてて拳銃で撃ってきやがった。くっそ~、あいつクモンガ(でっかい蜘蛛の怪獣♪)の餌にでもならんものか・・・
「妹紅さ~ん。大丈夫ですか?」
「はっ、あぁ平気平気」
妄想ワールドから妹紅無事帰還成功。
その様子を見ていた慧音は心配そうだ。
「まったく、妹紅はまた妄想してたな?疲れているのか?」
「大丈夫だよ慧音。ごめんね私がしっかりしてないばかりに」
「いいんだ妹紅。お前が元気でいるのが私は嬉しいんだ」
「慧音・・・」
「妹紅・・・」
そうして二人の顔が近づいて・・・
「ドキドキ」
こちらを早苗がガン見してるのに気がついて二人はバッバと距離を空けた。
「あ~ごふんげふん!そ、そういえば妹紅、怪盗三月精のほうはどうなりそうなんだ?」
「先生あれですね。明日の午後8時、紅魔館にある宝石『吸血鬼のよだれ』を頂くっていう犯行声明。妹紅さんも現場に行くんですか?」
「ああ、怪盗三月精はこの妹紅警部が捕らえてくれる!」
三人が話している怪盗三月精。今、幻想郷で話題になっている怪盗で、犯行前には必ず犯行予告を行い、そして狙った獲物は必ず盗む。
犯行の手口も見事で姿を見せず音を立てず華麗に盗む。
今や幻想郷で知らぬ人が居ないほど有名な怪盗である。
我等がもこたん警部は明日、紅魔館に赴くことになっており、犯行を阻止する使命がかせられているのだ!
がんばれもこたん警部!
「じゃあ妹紅、今晩もがんばっぶ!」
「寝言は寝て言うものだぞ慧音」
犯行予告日当日。
もこたん警部達は紅魔館に集結していた。
館の内外共に警察隊と紅魔館の警備部隊によって厳重に守られてる。
『ザザッ、こちらうどんげ、外の警察隊の配備完了しました』
『ザザッ、こちらてゐ、屋内の警察隊の配備完了しました』
所々で確認の声が上がる現場は物々しい雰囲気になっていた。
「姫、全警察隊、予定の配置に着きました」
「ええ、分かったわ」
確認を取り合う二人に紅魔館の警備隊長、紅美鈴が近づく。
「輝夜さん、紅魔館の警備隊も配置完了しました」
「ありがとう中国さん。今度こそは、今度こそは捕まえてやる!三月精」
「そうですね、私達もお嬢様の宝物を盗まれるわけには参りません。それと私の名前は紅美鈴です」
今回の作戦は警察と紅魔館の共同作戦である。
三月精には毎回苦渋を舐めさせられてる警察は今回は特に気合が入っているのだ。
「それではレミリア様方の警備お願いします美鈴さん」
「任せておいてください。それから私の名前は中国です!」
そう言い残し美鈴は警備に戻っていった。
「聞いた永琳?私の名前は中国ですって。ぷぷー!」
「そんなことより姫様、なんで妹紅を連れてきたんですか?またなにか問題を起こすのは目に見えてます。」
「そう言われても・・・一応は部下だし、それに今回問題を起こしたら間違いなくクビにするわ」
「それで姫様、その妹紅は今何をしているんですか」
「何って、そこから動くなって命令しといた筈・・・っていねぇー!」
なんてこったい!
私、輝夜は妹紅のことはアホだと思っている。
これは間違いない。
ちなみにどれくらいアホかというと、妹紅が世界に10人いたら世界が滅ぶぐらいのアホだと思うわ。
でも、犬でも出来る待てすら妹紅には出来ないなんて、輝夜予想外・・・
あぁ、神なんて信じない私なんだけどこの時ばかりは神に祈るわ!
どうかアホの妹紅がなにもしてませんように!
「主任!怪しいものを発見しました!!」
やっぱり神なんて居ねー!!
「な、なに妹紅、いったい何を見つけたの?」
「私、各部屋にて怪しい物がないか調べていたところ、とんでもないものがあったんです!」
「なにがあったの?」
「なんと、レミリア嬢の隠し撮り写真が両手で抱えきれないくら」
ドシュッ
妹紅の背後に立ち、彼女の頭にナイフを突き刺したのは紅魔館のメイド長、十六夜咲夜である。
「妹紅警部、それは事件と全く関係ないことをこの咲夜が保障します」
「しかしですよ。これはどう考えても怪し」
ザシュッ
「か・ん・け・いありません!」
妹紅の頭に二本目のナイフを刺した咲夜は、輝夜のことをキングギドラも真っ青の表情で睨みつける。
その視線には「自分の部下も管理できないのかこの万年引きこもりおじゃるまろ娘!」と言っていた。
輝夜は「お前が言えた事か!あとまろじゃない」と思いつつ非常に申し訳ない気持ちにもなった。
「主任、今の咲夜さんの行為は傷害罪だと思うのですが」
妹紅の主張はスルーされた。
その時輝夜の無線に連絡が入った。
『ザザッ、主任!怪しい奴が館に近づいてきます』
「ザザッ、何!?すぐに取り押さえてつれて来い」
間もなくして、何者かが兎警察隊に連衡されてきた。
輝夜はその人物を問い詰めようとする。
「貴様、何者だ、何の目的できた!」
「ひぃ、わ、私はミスティアと申します。鰻の出前できました」
・・・なんですと?
一瞬自分の耳を疑いつつも輝夜は確認を取る。
「咲夜さん、紅魔館の方で誰か出前をとった方は?」
「いいえ、誰もとっていませんが」
「ミスティアさん、何かの間違えじゃないの?」
「いいえ、確かに紅魔館に出前を頼むとのことでした」
・・・こんな事をする馬鹿はただ一人。
「も・こ・う~?」
「♪~」
そっぽをむいて口笛をふいてる犯人の姿があった。
「妹紅~、あんたなにしてんのよ?」
「いや~お腹へるだろうなって思ってついつい」
「・・・ちなみにここにいる全員に出前はとってるんでしょうね?」
「まさか~自分だけですよ。あっ、ちなみに経費でお願いします」
輝夜は無言で拳銃を抜くと
パキューン!
と妹紅の頭を撃ち抜いた。
「ちょっと!主任!今のは殺人未遂ですよ!訴えますよ!!」
額から流血しながらも抗議をする妹紅であったがまたしてもスルー。
不死身体質でよかったね!もこたん警部。
「あの~鰻の出前は・・・」
おずおずと質問するミスティアに対して輝夜は
「せっかくだから私がいただくわ。お金は妹紅に請求してちょうだい」
「横暴だ~!」
叫ぶ妹紅だったが味方はいなかった。
犯行予告時間15分前。
血の様な色で水滴型、10センチ程の赤い宝石『吸血鬼のよだれ』のあるホールに、輝夜達と紅魔館当主レミリア始め各要人が集合していた。
皆、カプセルに入った宝石の周りに集まっている。
その中から1歩、咲夜が進み出る。
「では皆様、もう一度この館に仕掛けられているトラップについて説明させていただきます。この館には侵入者に対して様々なトラップが仕掛けられております。警察の方々には位置を全てお教えしましたが手動でも発動してしまうので、くれぐれも怪しいスイッチなどには手を触れない様お願いします」
「ありがとうございます咲夜さん。レミリア様。吸血鬼のよだれは警察と、この輝夜の名にかけてお守いたします」
そう言いながらも何故か、輝夜はレミリアに様付けすることにまるで、ナメクジに金を借りるために土下座するような屈辱を感じていた。
「ええ、期待してるわよ」
そんな輝夜の心中も気がつかないレミリアはとにかく宝石が心配の様だ。
「この宝石は我がスカーレット家に代々受け継がれてきた宝石。絶対に怪盗になんか渡さないわ!」
そうしてホールに居る一同を見回す。
「皆!絶対に宝石は守るわよ!フラン、咲夜、パチェ、美鈴、小悪魔。頼りにしてるわ」
激励をとばすその姿は正しくカリスマの体現であった。
(さすがね、当主なだけあるわ)
その姿に圧倒されながらも輝夜は負けじと無線で警察隊に渇をいれる。
「ザザッ、いい皆!これ以上三月精を調子ずかせるな!悪を正義の前に跪かせろ!罪人を罰し、服従させろ!」
『ザザッ、了解!!』
その姿もまた、威厳に満ちていた。
「予告時間まであと5分切りました。気を引き締めましょう!」
永琳の言葉に皆、頷く
現場の雰囲気がいい感じで盛り上がっていたその時。
妹紅が口を開いた。
「あの~レミリア様。吸血鬼の宝石って本当に吸血鬼のよだれなんですか?そうだったらえんがちょですね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ついに犯行時刻となった。
現場に緊張が走る。
宝石は無事か?
そう輝夜が確認しようとカプセルのほうを見たが
「!?無い、宝石が無い」
カプセルには異常がないのに中の宝石が消えていた。
「レミィ!あそこ!」
パチュリーが指さした先は妹紅の後ろ、宝石がふよふよと浮かんで飛んでいた。
その宝石を逃すまいと飛び掛る妹紅。
「捕まえたぁー?」
ドッサー!
宝石を捕まえたと思った瞬間、その宝石が掻き消え妹紅は床をヘディングするハメになった。
「お姉さま!カプセルが」
そうフランが叫んだときにはカプセルが外れており中には
『やっぱマリ×アリでしょう三月精』
と書かれた紙があった。
(先のは幻影・・・ダミーか!畜生、やられたわ)
宝石が盗まれたと理解した輝夜は無線に向かって叫ぶ
「ザザッ、宝石が盗まれた!総員持ち場を離れるな!そのまま出入り口の見張りを続けろ!うどんげ、念の為の狙撃を抜かりなく!」
「主任!」
「どうした妹紅!」
「パチュリーさんの様子が変です」
パチュリーはカプセルの中の紙を見ながら
「魔理沙はやっぱりアリスのことが・・・むきゅー」
と体育座りで落ち込んでいた。
そんなパチュリーを小悪魔は優しく慰める。
「パチュリー様、怪盗のいたずらなんてアテになりません。それにもしもの時はその、わ、私が」
「小悪魔・・・」
そんな二人に妹紅は一言。
「でもパチュリーさんはしつこそうだから魔理沙をあきらめなさそう」
「そ、そんな!やはり小悪魔では力不足なんですね・・・」
「ああ、小悪魔にまで見放された・・・もうだめだ・・・」
鬱は拡大していった。
ああ、こいつは我が部下ながらなんて厄病神なの。宇宙よ、なぜ、コイツを世に出した。でも輝夜、今は我慢よ!
「妹紅!そっちはいいから怪しいものがないか見張ってろ!」
「了解です主任!」
「姫!何者かが館の外にでた形跡は無いそうです」
「そうか、ならば怪盗はまだ館の中に居る!」
それならばまだ勝機が我々にはある!
「レミリア様、まだ犯人は館内に居るようです。諦めないでください」
「ええ、分かってる。フラン、咲夜、美鈴、パチェはもやし化してるわね・・・とにかく引き続き警備を!」
『はっ!』
「お姉さま、宝石は帰ってくるわよね?」
「大丈夫よフラン。きっとね」
再びいい感じで盛り上がっている面々。
一方蚊帳の外の妹紅は、壁に存在するいかにもな赤いスイッチを見ていた。
「はっは~ん、これはあれだ。ポチッと押すとトラップが作動するわけだ。こんな見え見えのボタン、押すわけない」
そう自信満々の妹紅の周りをぷ~んと小さい虫がとんでいた。
「・・・ていっ」
ぱちっ
すかっ
むしを叩こうとするが寸でのところでよけられる。
「おのれ、虫の分際でこの妹紅警部の攻撃を避けるとは生意気な!」
ムキになった妹紅は虫を叩きつぶさんと試みるが、そのことごとくが避けられる。
「てりゃ~!!」
そのうち一発がおやくそくで、いかにもな赤いボタンにヒットした。
「ゲッ!」
あぁ、やっちまった。もう慧音のお嫁さんになるか。
そう妹紅が思っていると。
ドガッシャーン!!
というトラップのシャンデリアが落ちた轟音と
「ひぎぃー!!」
そのシャンデリアの下敷きになった輝夜の悲鳴が館内に響きわたった。
あまりの惨状に一同が絶句していると、落ちたシャンデリアの上で何者かが動いていた。
「いたたたた、まさかばれるとは思わなかったわねルナ」
「ええ、まさか一番アホそうな奴に見破られるとはねスター」
「警察が減るまで様子見の予定だったのにねサニー」
動いていたのは妖精で三人居る。
妹紅は妖精のうちの一人が吸血鬼のよだれを持っていることに気がつく。
「それは吸血鬼のよだれ!っということはお前達が怪盗三月精か!」
「そういうこと名警部さん。私はサニーミルク。こっちのドリルがルナチャイルドで髪型が下でのびてるのとかぶってるのがスターサファイヤよ」
なんというひどい紹介!このサニーという奴からは天然ドSのオーラがぷんぷんする。
どことなくルナとスターも、宿題が間に合わなくて徹夜したけどやっぱり間に合わくて諦めた学生のような表情をしていた。
苦労してんのね。あんたらも・・・
「とにかく怪盗三月精、お前達を窃盗罪、器物破損、殺人未遂の容疑で逮捕する!」
「器物破損と殺人未遂は警部さんじゃない。まあ今回は見つかっちゃったから宝石は返してあげる。でも捕まってはあげないわ。それじゃあね警部さん。それと皆様方ごきげんよう」
スカートの端を持ち上げ三人が挨拶するとその姿が音もなく消えた。その場に残ったのは吸血鬼のよだれとシャンデリアの下敷きになった輝夜のみ。
「姿を消しただけだ!総員出入り口を封鎖!」
三人の逃亡を防ごうと永琳が支持を出すが、
咲夜が壁をみて驚愕する。
「壁に穴が一瞬にして空いた!?」
そう、紅魔館の壁に小さな穴が一瞬にして空いたのだ。
その穴から逃げた三人を追おうとした一同だったがレミリアが静止をかけた。
「無駄よ。してやられたわね。あらかじめ壁に穴を空けといてそれを錯覚で隠してたのか・・・やってくれたわね三月精」
そうつぶやくレミリアに、吸血鬼のよだれを持った妹紅が歩み寄る。
「申し訳ありません。宝石は守りきりましたが、三月精は取り逃がしてしまいました」
「違うでしょ妹紅警部」
そう言うレミリアの顔は微笑んでいた。
「宝石を無事守りきれました。っでいいの。ありがとう妹紅警部。あなたの活躍に最高の感謝を」
そしてレミリアは拍手を送った。それにつられて周りの皆も拍手をする。それは屋敷の中にも外にも広がっていき、いつしか盛大な拍手が巻き起こっていた。
もーこーう、もーこーうと妹紅コールもあがる。
今まで落ちこぼれだった自分がこんなにも賛同を受けている。
正直警察を辞めようと思ってた時もあったけど、続けてよかった。
そしてなによりもここに居る皆の笑顔を守れたことが嬉しかった。
「皆・・・ありがとう!!」
こうして我等がもこたん警部は怪盗三月精から吸血鬼のよだれを無事守りきったのである。
やったぜもこたん!!さすが我等がヒーローだ!!
皆が盛り上がっている中、輝夜は一人シャンデリアの下でふてくされていた。
「なんか納得いかねーっていうか誰か助けろ!!」
あくる日の朝、妹紅はコーヒーを飲んでいた。すると
「妹紅!すごいじゃないか。新聞一面お前の記事だぞ」
新聞を持った慧音が興奮しながら妹紅の背後から抱きついてきた。
「うわとっと、危ないじゃないか慧音」
「ああ、すまない。だがすごいじゃないか。今やお前は幻想郷のヒーローじゃないか」
慧音の持つ新聞の見出しには
『文々゜新聞 お手柄妹紅警部!怪盗三月精に勝利!見事吸血鬼のよだれを守り抜く!!』
とあった。
写真一面には妹紅の照れくさそうな笑顔が写っている。
「いや~妹紅!私は妻として嬉しいぞ!」
「誰が妻か!」
妹紅は慧音に軽~く突っ込みを入れた。そう、軽~くである。
しかし慧音がふざけてよろめいた足元にはなぜがビー玉があった。それを踏んづけた慧音は更によろけ、運の悪いことにここは窓辺の部屋だった。
ボーゼンとする妹紅の目の前でガッシャ~ンと窓を突き破り、外へ転落する慧音。
慌てて妹紅は下をみると慧音は運よくトラックの荷台に落ちたようで、すぐ起き上がったことから大したケガもしてないようである。しかし
「も~こ~ぉ~」
と叫び声が遠ざっていき慧音はどこかへ運ばれていってしまった。
これがホントのドナドナ。我等がヒーローもこたん警部は思ったとさ。
ありがとう、もこたん警部!君の活躍で幻想郷の平和は守られた。
しかし、いつまた犯罪が起こるか判らない!
その時はまた頼むぞもこたん警部!!
あと、あまり輝夜主任警部を痛めつけると後が恐いぞもこたん警部!気をつけろ!!
ここは幻想郷。人間と妖怪が暮らす、小さいながらもそこそこ平和な「国」
しかし、そんな平和なこの国にも犯罪は起こる。
そんな犯罪から人々を守るのが我等がヒーローもこたん警部なのである!
「この馬鹿者が~!!」
ドバンッ!!
輝夜主任警部の怒号と、机を叩く音が部屋の中に響き渡る。
我等がもこたん警部はのっけから怒られていた。
ちなみに二人共スーツ姿である。
「妹紅警部・・・あんたはなぜ怒られているのか理解はできてる?」
「いいえ!褒められることはあっても怒られることはございません!」
「ほほぅ?」
答えを待つ輝夜の顔は仏様のようだ。こめかみの血管は荒ぶる龍のごとくだが・・・
ちなみにゲンドウさんポーズ。
「犯罪者を私はちゃんと捕まえました」
「犯罪者って小学生の万引き犯だろうが!し・か・も、小学生捕まえるのに発砲するな!しかも店内で!!」
仏様は一瞬で鬼になった。
ドピュー
血液という名の龍も血管から解き放たれる。
「あんたは何回厄介ごとを起こせば気が済むの!この前は罪無き一般妖怪を誤認逮捕したわよね」
「だってあの面はどうみても犯罪者・・・」
「見た目で妖怪を判断するな!かわいそうだろ!!だいたいお前は!うっ」
バタリ
怒りのあまり、輝夜は目の前が真っ暗になった。
「主任?まったく、あれほどストレスは溜めないほうがいいって言ったのに」
「お・ま・え・のせいだろうが!」
輝夜復活。
「たくっ、思わず拳銃を探しちゃったじゃないの」
「主任、自殺するのはまだ早いです」
「おまえを撃つためだ!・・・妹紅警部。今度、何かやらかしたらクビだから覚悟しておきなさい」
クビ!
その一言に妹紅は路上の人となった己を想像する。
雨の中、ダンボールの中で震えている姿はまるで捨て猫の様。耳としっぽをつけたら正にって、あれ?これかわいくね!これってかわいくね自分!うへへへへ。
「妹紅・・・あんたクビになるのがよっぽど嬉しいようね。なんなら、今この場でクビでも結構よ?」
「にゃ~んって、いえいえそれはご勘弁願います!お代官様!」
「次は無いぞ越後屋って、誰が悪代官だ!ったく」
そう言いながら輝夜は椅子に腰掛け、机上のアロマテラピーに火をつけようとする。
しかしライターからなかなか火が出ない。
ここで点数稼ぎしとくか。そう思った妹紅は
「主任、ここは私が」
指先に火を灯し、アロマテラピーに火をつける。
「ほほぅ、あんたにもチュパカブラ並の気遣いはできるようね」
そう減らず口叩きながらもまんざらではなさそうな輝夜。
「お褒めいただき光栄でっ、くしゅん」
これは上手くいったと思った時くしゃみをしてしまう妹紅。
ボッ
「あ」
そしてくしゃみの反動で、指先の火が机の下のカーペットに飛び火した。
(あわわ、やべぇ!いや、このまま主任が燃えちまえばってそんな場合じゃないよ妹紅!!)
なんとか足で鎮火を試みるが火の勢いは強くなるばかり。
「はぁ~、この桃のいい香りが荒んだ私の心を癒してくれるわ~」
「ハハハソウデスネ」
輝夜はアロマテラピーに夢中なのと火が出ている場所が死角なのとで火事に気が付いてない。
火の勢いは強くなるばかり。
ボオォォォォ!
(これは・・・これは無理☆)
そう判断した妹紅の判断は、逃げるがカツどん。
「それでは主任!私は失礼します」
挨拶も早々に妹紅は部屋を飛び出した。
燃~えろよ燃えろ~よ炎よ燃~えろ。
そう妹紅が口ずさみながら歩いていると、輝夜の腹心永琳が反対側からやってきた。(彼女もスーツ姿)
「あら妹紅、まだクビにはならないのね。姫に感謝しなさいよ」
永琳の憎まれ口にいつもなら言い返す妹紅だが今は逃げるのが先だ。
「ホント主任の寛大さには恐れ入ります。それとあなたは本当にタイミングがいい。それじゃね」
?マークを浮かべる永琳をその場に残し妹紅は立ち去った。
「たすけて!えーりん!!」
「姫?」
輝夜のいた部屋は見事な火事になっていた。
「姫?あれほど部屋でバーベキューはしてはいけないと」
「してない!」
自分が住むアパートの三階に着いた妹紅。
しかしドアノブに手をかけるもすぐには開けない。
中の様子を伺い、しばらくしてから
「ちょいや~!!」
奇声をあげながら部屋に飛び込んだ。
部屋に入ってからも油断なくあたりを見回す妹紅。
時々ゴミ箱とかを開けては中にケリをかますその姿は超~変質者っぽい。
しばらく奇行を続けていた妹紅だが
「ふう、今日は襲ってこないのか?」
そう呟き、あぁ~今日も疲れたとか主任焼けてねぇかな~と思いながら冷蔵庫の扉を開けようとした。
その時!
「オ、プ、ティマ~ス!!」
勝手に冷蔵庫の扉が開き、奇声をあげながら同居人の慧音が襲い掛かってきた!
ちなみに冷蔵庫の中の食べ物達は慧音のお尻に無残にもつぶされていた。合掌。
ほあ~きょえ~と間合いを取る二人。
そして壮絶な戦いが始まった。
しかしながら本筋には関係ないので割愛。
部屋の中のテレビが黒煙をあげたり、机がまっぷたつになりながらも戦いは続き、ついに妹紅は慧音にシーツをかぶせ視界を塞ぐことに成功した。
「ど、どこに居る~もこたん!」
「ふっ、今日は私の勝ちだな」
お化けだぞ~状態になっている慧音に止めを刺そうと近くにあった木刀を握り締めた時
ピンポ~ン
呼び鈴が鳴った。
「は~い、どちらさま?」
扉を開けるとセーラ服を着た、緑色の髪に蛇とかえるの髪飾りが似合うおとなしそうな美少女が立っていた。
「あの・・・慧音先生は?」
「ああ、慧音の教え子さんか。慧音なら」
そう妹紅が答えようとすると、目の前の美少女が突如震え始めた。
「ど、どうしたの?大丈夫?」
慧音の知り合いは変人ばかりだなと自分のことを棚に上げていると
「うわ~やっべ!ちょ~かこいい!すんません!写メ撮らせてください!」
あ~う~☆(ケータイカメラのシャッター音)
「ありがとうございます!あなたが妹紅さんですね!?先生から話は聞いてます!うわ~早苗超感激~」
ギャル語で一人キャーキャーとハイテンションな早苗だったが、妹紅の視線に気がつくと気まずそうにおとなしそうな美少女に戻った。
「あっ、取り乱してすみませんでした。ええと先生は?」
「慧音ならあそこ」
最近の女子コーセーは恐ろしいと思いながら妹紅が指さした先には
「もこた~ん、どこいったの~?もこた~ん」
女子高の教師、慧音が今だお化けだぞ~をやっていた。
「ゴッホン!すまない早苗、恥ずかしいところを見せたな」
「いえいえ、先生かわいかったです。あっこれ、頼まれてたプリント持ってきました。」
先ほどの慧音の醜態に動じないどころか、この部屋の惨状にも突っ込まないところなど、彼女はかなり変人だなと、またもや自分のことを棚にあげて妹紅は失礼な感心をしていた。
「ところでお二人はなにをやっていたんですか?聞いちゃいけないことなら深くは聞きませんけど」
むっ、そこを気にするとはこの娘は中々見る目があるな!将来は神社の支配者あたりをやっているかもしれない。
「いや大丈夫、これは訓練で、いつも油断しないように慧音に協力してもらっているんだ」
「そうなんですか。さすが警察で働いているだけあって妹紅さんかっこいいですね」
「いや~それほどでも、はっはっは」
いや~さすが慧音の教え子!いい娘だな~。どこかのアホ主任がくたばってこの娘が上司になってくれないかな~。でも無理か。あの主任、無駄に不死身だし。この前うっかりパトカーで轢いた時もしっかり生きてて拳銃で撃ってきやがった。くっそ~、あいつクモンガ(でっかい蜘蛛の怪獣♪)の餌にでもならんものか・・・
「妹紅さ~ん。大丈夫ですか?」
「はっ、あぁ平気平気」
妄想ワールドから妹紅無事帰還成功。
その様子を見ていた慧音は心配そうだ。
「まったく、妹紅はまた妄想してたな?疲れているのか?」
「大丈夫だよ慧音。ごめんね私がしっかりしてないばかりに」
「いいんだ妹紅。お前が元気でいるのが私は嬉しいんだ」
「慧音・・・」
「妹紅・・・」
そうして二人の顔が近づいて・・・
「ドキドキ」
こちらを早苗がガン見してるのに気がついて二人はバッバと距離を空けた。
「あ~ごふんげふん!そ、そういえば妹紅、怪盗三月精のほうはどうなりそうなんだ?」
「先生あれですね。明日の午後8時、紅魔館にある宝石『吸血鬼のよだれ』を頂くっていう犯行声明。妹紅さんも現場に行くんですか?」
「ああ、怪盗三月精はこの妹紅警部が捕らえてくれる!」
三人が話している怪盗三月精。今、幻想郷で話題になっている怪盗で、犯行前には必ず犯行予告を行い、そして狙った獲物は必ず盗む。
犯行の手口も見事で姿を見せず音を立てず華麗に盗む。
今や幻想郷で知らぬ人が居ないほど有名な怪盗である。
我等がもこたん警部は明日、紅魔館に赴くことになっており、犯行を阻止する使命がかせられているのだ!
がんばれもこたん警部!
「じゃあ妹紅、今晩もがんばっぶ!」
「寝言は寝て言うものだぞ慧音」
犯行予告日当日。
もこたん警部達は紅魔館に集結していた。
館の内外共に警察隊と紅魔館の警備部隊によって厳重に守られてる。
『ザザッ、こちらうどんげ、外の警察隊の配備完了しました』
『ザザッ、こちらてゐ、屋内の警察隊の配備完了しました』
所々で確認の声が上がる現場は物々しい雰囲気になっていた。
「姫、全警察隊、予定の配置に着きました」
「ええ、分かったわ」
確認を取り合う二人に紅魔館の警備隊長、紅美鈴が近づく。
「輝夜さん、紅魔館の警備隊も配置完了しました」
「ありがとう中国さん。今度こそは、今度こそは捕まえてやる!三月精」
「そうですね、私達もお嬢様の宝物を盗まれるわけには参りません。それと私の名前は紅美鈴です」
今回の作戦は警察と紅魔館の共同作戦である。
三月精には毎回苦渋を舐めさせられてる警察は今回は特に気合が入っているのだ。
「それではレミリア様方の警備お願いします美鈴さん」
「任せておいてください。それから私の名前は中国です!」
そう言い残し美鈴は警備に戻っていった。
「聞いた永琳?私の名前は中国ですって。ぷぷー!」
「そんなことより姫様、なんで妹紅を連れてきたんですか?またなにか問題を起こすのは目に見えてます。」
「そう言われても・・・一応は部下だし、それに今回問題を起こしたら間違いなくクビにするわ」
「それで姫様、その妹紅は今何をしているんですか」
「何って、そこから動くなって命令しといた筈・・・っていねぇー!」
なんてこったい!
私、輝夜は妹紅のことはアホだと思っている。
これは間違いない。
ちなみにどれくらいアホかというと、妹紅が世界に10人いたら世界が滅ぶぐらいのアホだと思うわ。
でも、犬でも出来る待てすら妹紅には出来ないなんて、輝夜予想外・・・
あぁ、神なんて信じない私なんだけどこの時ばかりは神に祈るわ!
どうかアホの妹紅がなにもしてませんように!
「主任!怪しいものを発見しました!!」
やっぱり神なんて居ねー!!
「な、なに妹紅、いったい何を見つけたの?」
「私、各部屋にて怪しい物がないか調べていたところ、とんでもないものがあったんです!」
「なにがあったの?」
「なんと、レミリア嬢の隠し撮り写真が両手で抱えきれないくら」
ドシュッ
妹紅の背後に立ち、彼女の頭にナイフを突き刺したのは紅魔館のメイド長、十六夜咲夜である。
「妹紅警部、それは事件と全く関係ないことをこの咲夜が保障します」
「しかしですよ。これはどう考えても怪し」
ザシュッ
「か・ん・け・いありません!」
妹紅の頭に二本目のナイフを刺した咲夜は、輝夜のことをキングギドラも真っ青の表情で睨みつける。
その視線には「自分の部下も管理できないのかこの万年引きこもりおじゃるまろ娘!」と言っていた。
輝夜は「お前が言えた事か!あとまろじゃない」と思いつつ非常に申し訳ない気持ちにもなった。
「主任、今の咲夜さんの行為は傷害罪だと思うのですが」
妹紅の主張はスルーされた。
その時輝夜の無線に連絡が入った。
『ザザッ、主任!怪しい奴が館に近づいてきます』
「ザザッ、何!?すぐに取り押さえてつれて来い」
間もなくして、何者かが兎警察隊に連衡されてきた。
輝夜はその人物を問い詰めようとする。
「貴様、何者だ、何の目的できた!」
「ひぃ、わ、私はミスティアと申します。鰻の出前できました」
・・・なんですと?
一瞬自分の耳を疑いつつも輝夜は確認を取る。
「咲夜さん、紅魔館の方で誰か出前をとった方は?」
「いいえ、誰もとっていませんが」
「ミスティアさん、何かの間違えじゃないの?」
「いいえ、確かに紅魔館に出前を頼むとのことでした」
・・・こんな事をする馬鹿はただ一人。
「も・こ・う~?」
「♪~」
そっぽをむいて口笛をふいてる犯人の姿があった。
「妹紅~、あんたなにしてんのよ?」
「いや~お腹へるだろうなって思ってついつい」
「・・・ちなみにここにいる全員に出前はとってるんでしょうね?」
「まさか~自分だけですよ。あっ、ちなみに経費でお願いします」
輝夜は無言で拳銃を抜くと
パキューン!
と妹紅の頭を撃ち抜いた。
「ちょっと!主任!今のは殺人未遂ですよ!訴えますよ!!」
額から流血しながらも抗議をする妹紅であったがまたしてもスルー。
不死身体質でよかったね!もこたん警部。
「あの~鰻の出前は・・・」
おずおずと質問するミスティアに対して輝夜は
「せっかくだから私がいただくわ。お金は妹紅に請求してちょうだい」
「横暴だ~!」
叫ぶ妹紅だったが味方はいなかった。
犯行予告時間15分前。
血の様な色で水滴型、10センチ程の赤い宝石『吸血鬼のよだれ』のあるホールに、輝夜達と紅魔館当主レミリア始め各要人が集合していた。
皆、カプセルに入った宝石の周りに集まっている。
その中から1歩、咲夜が進み出る。
「では皆様、もう一度この館に仕掛けられているトラップについて説明させていただきます。この館には侵入者に対して様々なトラップが仕掛けられております。警察の方々には位置を全てお教えしましたが手動でも発動してしまうので、くれぐれも怪しいスイッチなどには手を触れない様お願いします」
「ありがとうございます咲夜さん。レミリア様。吸血鬼のよだれは警察と、この輝夜の名にかけてお守いたします」
そう言いながらも何故か、輝夜はレミリアに様付けすることにまるで、ナメクジに金を借りるために土下座するような屈辱を感じていた。
「ええ、期待してるわよ」
そんな輝夜の心中も気がつかないレミリアはとにかく宝石が心配の様だ。
「この宝石は我がスカーレット家に代々受け継がれてきた宝石。絶対に怪盗になんか渡さないわ!」
そうしてホールに居る一同を見回す。
「皆!絶対に宝石は守るわよ!フラン、咲夜、パチェ、美鈴、小悪魔。頼りにしてるわ」
激励をとばすその姿は正しくカリスマの体現であった。
(さすがね、当主なだけあるわ)
その姿に圧倒されながらも輝夜は負けじと無線で警察隊に渇をいれる。
「ザザッ、いい皆!これ以上三月精を調子ずかせるな!悪を正義の前に跪かせろ!罪人を罰し、服従させろ!」
『ザザッ、了解!!』
その姿もまた、威厳に満ちていた。
「予告時間まであと5分切りました。気を引き締めましょう!」
永琳の言葉に皆、頷く
現場の雰囲気がいい感じで盛り上がっていたその時。
妹紅が口を開いた。
「あの~レミリア様。吸血鬼の宝石って本当に吸血鬼のよだれなんですか?そうだったらえんがちょですね」
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ついに犯行時刻となった。
現場に緊張が走る。
宝石は無事か?
そう輝夜が確認しようとカプセルのほうを見たが
「!?無い、宝石が無い」
カプセルには異常がないのに中の宝石が消えていた。
「レミィ!あそこ!」
パチュリーが指さした先は妹紅の後ろ、宝石がふよふよと浮かんで飛んでいた。
その宝石を逃すまいと飛び掛る妹紅。
「捕まえたぁー?」
ドッサー!
宝石を捕まえたと思った瞬間、その宝石が掻き消え妹紅は床をヘディングするハメになった。
「お姉さま!カプセルが」
そうフランが叫んだときにはカプセルが外れており中には
『やっぱマリ×アリでしょう三月精』
と書かれた紙があった。
(先のは幻影・・・ダミーか!畜生、やられたわ)
宝石が盗まれたと理解した輝夜は無線に向かって叫ぶ
「ザザッ、宝石が盗まれた!総員持ち場を離れるな!そのまま出入り口の見張りを続けろ!うどんげ、念の為の狙撃を抜かりなく!」
「主任!」
「どうした妹紅!」
「パチュリーさんの様子が変です」
パチュリーはカプセルの中の紙を見ながら
「魔理沙はやっぱりアリスのことが・・・むきゅー」
と体育座りで落ち込んでいた。
そんなパチュリーを小悪魔は優しく慰める。
「パチュリー様、怪盗のいたずらなんてアテになりません。それにもしもの時はその、わ、私が」
「小悪魔・・・」
そんな二人に妹紅は一言。
「でもパチュリーさんはしつこそうだから魔理沙をあきらめなさそう」
「そ、そんな!やはり小悪魔では力不足なんですね・・・」
「ああ、小悪魔にまで見放された・・・もうだめだ・・・」
鬱は拡大していった。
ああ、こいつは我が部下ながらなんて厄病神なの。宇宙よ、なぜ、コイツを世に出した。でも輝夜、今は我慢よ!
「妹紅!そっちはいいから怪しいものがないか見張ってろ!」
「了解です主任!」
「姫!何者かが館の外にでた形跡は無いそうです」
「そうか、ならば怪盗はまだ館の中に居る!」
それならばまだ勝機が我々にはある!
「レミリア様、まだ犯人は館内に居るようです。諦めないでください」
「ええ、分かってる。フラン、咲夜、美鈴、パチェはもやし化してるわね・・・とにかく引き続き警備を!」
『はっ!』
「お姉さま、宝石は帰ってくるわよね?」
「大丈夫よフラン。きっとね」
再びいい感じで盛り上がっている面々。
一方蚊帳の外の妹紅は、壁に存在するいかにもな赤いスイッチを見ていた。
「はっは~ん、これはあれだ。ポチッと押すとトラップが作動するわけだ。こんな見え見えのボタン、押すわけない」
そう自信満々の妹紅の周りをぷ~んと小さい虫がとんでいた。
「・・・ていっ」
ぱちっ
すかっ
むしを叩こうとするが寸でのところでよけられる。
「おのれ、虫の分際でこの妹紅警部の攻撃を避けるとは生意気な!」
ムキになった妹紅は虫を叩きつぶさんと試みるが、そのことごとくが避けられる。
「てりゃ~!!」
そのうち一発がおやくそくで、いかにもな赤いボタンにヒットした。
「ゲッ!」
あぁ、やっちまった。もう慧音のお嫁さんになるか。
そう妹紅が思っていると。
ドガッシャーン!!
というトラップのシャンデリアが落ちた轟音と
「ひぎぃー!!」
そのシャンデリアの下敷きになった輝夜の悲鳴が館内に響きわたった。
あまりの惨状に一同が絶句していると、落ちたシャンデリアの上で何者かが動いていた。
「いたたたた、まさかばれるとは思わなかったわねルナ」
「ええ、まさか一番アホそうな奴に見破られるとはねスター」
「警察が減るまで様子見の予定だったのにねサニー」
動いていたのは妖精で三人居る。
妹紅は妖精のうちの一人が吸血鬼のよだれを持っていることに気がつく。
「それは吸血鬼のよだれ!っということはお前達が怪盗三月精か!」
「そういうこと名警部さん。私はサニーミルク。こっちのドリルがルナチャイルドで髪型が下でのびてるのとかぶってるのがスターサファイヤよ」
なんというひどい紹介!このサニーという奴からは天然ドSのオーラがぷんぷんする。
どことなくルナとスターも、宿題が間に合わなくて徹夜したけどやっぱり間に合わくて諦めた学生のような表情をしていた。
苦労してんのね。あんたらも・・・
「とにかく怪盗三月精、お前達を窃盗罪、器物破損、殺人未遂の容疑で逮捕する!」
「器物破損と殺人未遂は警部さんじゃない。まあ今回は見つかっちゃったから宝石は返してあげる。でも捕まってはあげないわ。それじゃあね警部さん。それと皆様方ごきげんよう」
スカートの端を持ち上げ三人が挨拶するとその姿が音もなく消えた。その場に残ったのは吸血鬼のよだれとシャンデリアの下敷きになった輝夜のみ。
「姿を消しただけだ!総員出入り口を封鎖!」
三人の逃亡を防ごうと永琳が支持を出すが、
咲夜が壁をみて驚愕する。
「壁に穴が一瞬にして空いた!?」
そう、紅魔館の壁に小さな穴が一瞬にして空いたのだ。
その穴から逃げた三人を追おうとした一同だったがレミリアが静止をかけた。
「無駄よ。してやられたわね。あらかじめ壁に穴を空けといてそれを錯覚で隠してたのか・・・やってくれたわね三月精」
そうつぶやくレミリアに、吸血鬼のよだれを持った妹紅が歩み寄る。
「申し訳ありません。宝石は守りきりましたが、三月精は取り逃がしてしまいました」
「違うでしょ妹紅警部」
そう言うレミリアの顔は微笑んでいた。
「宝石を無事守りきれました。っでいいの。ありがとう妹紅警部。あなたの活躍に最高の感謝を」
そしてレミリアは拍手を送った。それにつられて周りの皆も拍手をする。それは屋敷の中にも外にも広がっていき、いつしか盛大な拍手が巻き起こっていた。
もーこーう、もーこーうと妹紅コールもあがる。
今まで落ちこぼれだった自分がこんなにも賛同を受けている。
正直警察を辞めようと思ってた時もあったけど、続けてよかった。
そしてなによりもここに居る皆の笑顔を守れたことが嬉しかった。
「皆・・・ありがとう!!」
こうして我等がもこたん警部は怪盗三月精から吸血鬼のよだれを無事守りきったのである。
やったぜもこたん!!さすが我等がヒーローだ!!
皆が盛り上がっている中、輝夜は一人シャンデリアの下でふてくされていた。
「なんか納得いかねーっていうか誰か助けろ!!」
あくる日の朝、妹紅はコーヒーを飲んでいた。すると
「妹紅!すごいじゃないか。新聞一面お前の記事だぞ」
新聞を持った慧音が興奮しながら妹紅の背後から抱きついてきた。
「うわとっと、危ないじゃないか慧音」
「ああ、すまない。だがすごいじゃないか。今やお前は幻想郷のヒーローじゃないか」
慧音の持つ新聞の見出しには
『文々゜新聞 お手柄妹紅警部!怪盗三月精に勝利!見事吸血鬼のよだれを守り抜く!!』
とあった。
写真一面には妹紅の照れくさそうな笑顔が写っている。
「いや~妹紅!私は妻として嬉しいぞ!」
「誰が妻か!」
妹紅は慧音に軽~く突っ込みを入れた。そう、軽~くである。
しかし慧音がふざけてよろめいた足元にはなぜがビー玉があった。それを踏んづけた慧音は更によろけ、運の悪いことにここは窓辺の部屋だった。
ボーゼンとする妹紅の目の前でガッシャ~ンと窓を突き破り、外へ転落する慧音。
慌てて妹紅は下をみると慧音は運よくトラックの荷台に落ちたようで、すぐ起き上がったことから大したケガもしてないようである。しかし
「も~こ~ぉ~」
と叫び声が遠ざっていき慧音はどこかへ運ばれていってしまった。
これがホントのドナドナ。我等がヒーローもこたん警部は思ったとさ。
ありがとう、もこたん警部!君の活躍で幻想郷の平和は守られた。
しかし、いつまた犯罪が起こるか判らない!
その時はまた頼むぞもこたん警部!!
あと、あまり輝夜主任警部を痛めつけると後が恐いぞもこたん警部!気をつけろ!!
>「そ、そんな!やはり小悪魔では役不足なんですね・・・」
自分のことを役不足とは…。小悪魔め。
誤字らしきモノ
「だいだいお前は!」→「だいたい」
「そう、軽る~く」→「軽~く」かと。
ものすごくテンポ良く読めました。凄く面白かったです。
ゴウテンさんの小説を2度ほど読ませていただきましたけど、どちらも傑作でした!こういうもこたんも乙ですねwwww。笑いをありがとうございました!
誤:これがホントのドナドナ。っ我等がヒーローもこたん警部は思ったとさ、の我等がの前の「っ」が不自然だったので修正を表示します。
正:これがホントのドナドナ。我等がヒーローもこたん警部は思ったとさ。
誤字修正がてらにレス返信を。
>「役不足」
「力不足」の間違いですね。素で間違えましたw
>早苗さんがビックリ
誤字の指摘ありがとうございます
そして早苗さんをギャルにしてサーセンした!
>じうさん
高得点に誤字指摘ありがとうございます。
自分のSSを傑作といってくれるとは感激すぎ!!
今回は何を血迷ったか、もこたんに警部をしてもらいました。
SSの道は険しいですがこれからも精進していきたいです。