※このSSは作品集その51にある「催眠術にご用心?」の続きとなっております。一応本作品だけでも読める仕様にはしたつもりですが、本作品を読む前に前作を読んでいただくことをオススメします。そして、前作を読んでくださった方であの作品はあのオチでいいという方は本作品をスルーすることをオススメします。
「桃源郷ってなんだろうね~」
テレテレッテレ~
「ぷっぷぷぷ?」
「頼むからもう少し静かにしてくれ我が妹達よ」
いつでも騒がしいプリズムリバー三姉妹は紅魔館へ移動していた。
今回はパチュリーからの依頼で、昨日『桃源郷の誕生祝いに一つ景気よく演奏してぱちぇ』という手紙が届いたのである。
手紙の語尾に「ぱちぇ」とつける痛々しさからよっぽど浮かれていることが判る。
「でも姉さん。パチュリーからの依頼なんて珍しいよ」
「ぷ~ぷぷぷぷ~」
とりあえずルナサは、トランペットでの会話を試みているメルランに地獄突きをかましておとなしくさせた。
「ぷふぉ!?」
「そうそう、メルランはいい子」
悶絶したメルランの様子にルナサは満足そうである。
「ごめんねリリカ、話の途中だった」
「いえいえお姉さま、まったく問題ありませぬ」
あれ?ルナ姉はこんなバイオレンスなキャラだったけ?と戦慄しながらも、それを気取らせないオスカー主演女優賞も夢ではないじゃねえの!な演技力にリリカは自ら感動していた。
「確かに、パチュリーからの依頼は珍しい。きっとろくでもないことがあったんだろうね」
「痛い!耳が痛いわよ姉さん!」
「あれかな?最近紅魔館から猫の鳴き声がするってやつと関係あるのかな?」
「こら!リリカも無視しとらんで助けんかい!」
平然を装っていたリリカであったが、メルランの両耳を引っ張って移動しながらも、普通に自分と会話するルナサに再び戦慄した。
(ごめんメル姉。今のルナ姉は修羅だよ。デンジャーだよ)
リリカはルナサの不機嫌さに心あたりがあった。
おそらくは今日、寝ているルナ姉を胡椒爆撃で叩き起こしたことが原因だろう。
しかも、去り際に「メルラン参上!」という置き手紙を残したおかげでルナ姉はメル姉が犯人だと勘違いしている。
ルナ姉はメル姉につめよっていたけど、いつもにこにこ爽やかメル姉の
「私そんなことやってないよ~。それより姉さん、お鼻真赤でピエロみたい!あっはははははは!!」
が相当頭にきたらしい。
もちろんメルランはリリカがやったと主張したが、リリカは「私メル姉が寝ぼけてルナ姉に胡椒かけてたのを見たもん、どうせメル姉は目玉焼きの夢でも見てたんでしょ」という主張に「あ~そうかも!ごめんね姉さん」と納得していた。
ルナ姉、メル姉は本当に無実なんだ。悪いのはこの私。
でも言わない。我が身がかわいいから。
三人は紅魔館に着いた。
移動中ずっと両耳をひっぱられていたメルランの耳はダンボみたく腫れていた。
その耳を見て
「メルラン、あなたの耳がまるでメフィラス星人みたい」
と微妙に解りづらい比喩をするルナサに対して
「わ~本当だ!あはは」
と返せるメルランは相当大人である。
門の前にはいつもどおり美鈴が居て、ルナサは美鈴に挨拶をしに行った。
「あれ?ルナサさん達、今日もお嬢様に呼ばれたんですか?」
「いいえ、今回はパチュリーからの依頼」
そうルナサが言った瞬間、美鈴は半笑いになった。
それはそれは、もう見事に顔半分で笑う半笑いだったそうな。
「メ、美鈴?」
「失礼しました。ですがそうなるとその依頼はもう無効ですね」
「無駄足ってことになるのか?」
「はい、残念ながら本日無効になりました」
それを聞いて三姉妹はがっかりした。
演奏できない事も残念だが、なんだかんだで桃源郷も楽しみだったのに。
「皆さんがっかりしているみたいですけど、あなた方はパチュリー様の魔の手から助かったんですよ」
そう言う美鈴の顔は、自分の手は汚したけど、幼い命を助けることができた殺し屋のような爽やかさがあった。
「あとですね、ただいま紅魔館は展示会を開いているのでどなたでも出入り自由なんです」
「出入り自由?展示会」
「そうです。よかったらどうぞ見ていってください」
紅魔館が展示会とはなんと珍しい。
妹二人も興味心身なようである。
「そうね、このまま帰っても無駄足になるだけだから観て行こうか」
「そうですか。それではどうぞ」
美鈴に見送られて三姉妹は門を通った。
「姉さん・・・展示会ってこれだけ?」
そうメルランが指さす先にあるのは、壁一面が真っ黒で交番ぐらいのサイズの建物である。
入り口の上にある看板には
『怪奇!恐怖のもやし人間!!すごいよ!」
と書かれていた。
「いや、明らかにすごくなさそうだし」
ルナサのつこっみは三姉妹全員の想いである。
「まあまあルナ姉、メル姉、とりあえず入ってみようよ」
そう言いながら建物へ入っていくリリカに二人も続いた。
中は目に優しいオレンジ色の光で満たされており、入ってすぐの所に様々なものが置かれている台がある。
「なにこれ?ピコハン?」
メルランが手に取ったピコハン(ピコピコハンマー)のほかにも猫じゃらし、こんにゃく、黒板とフレディの爪(凶悪な爪がついてる手袋)玉ねぎとまな板包丁セット、練りワサビなどがあった。
台の横には『どうぞご自由にお使いください』の看板が。
さりげなくルナサが奥のほうに目を向けるとそこには何かあった。いや居た。
「パッ、パチュリー!?」
そこには自分達を呼んでいた張本人が、何故か焼き物の植木鉢から上半身だけ出して埋まっていた。
そのあまりに不可解なパチュリーの姿にリリカは駆け寄る。
「どうしたの!いったい何があったの?あなたが手紙に書いた桃源郷ってこれ!?」
リリカの呼びかけにパチュリーは一言。
「むきゅー」
・・・むきゅー?
ルナサは思った。太陽の光が届かない図書館で本を読み続けた結果、彼女はついに脳みそがカビに支配されもやしになってしまったのだと。
なんと哀れな・・・ぷぷっ!
そんな物思いにルナサが耽っていると
「姉さんこれってもしかしてさー、いろんな道具でパチュリーをいじれって事じゃないの?」
「どれどれ」
言うが早いがリリカはピコハンでパチュリーの頭をピコッと叩く。
「むきゅー」
「あっ、これ結構楽しいかも」
そう言いながら嬉々としてパチュリーを叩くリリカ。
パチュリーは叩かれるたびにむきゅーと鳴く。その表情はどこか虚ろであった。
「こら!リリカやめなさい!」
「だってルナ姉、おもしろいんだもん」
どうやらリリカは持ち前のイタズラ心に灯がついたようである。
その表情は野原を駆け回る無垢な子供の様であった。
イヤ、その表情は演奏中にしてくれよ。我が妹。
「ねえねえ、これはどうかな?」
メルランがその手に持っているのは黒板とフレディの爪。
「メルラン!やめなさい!!」
が、ルナサの静止も虚しく
ぎっぎっぎ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あの、耳から体中の神経が飛び出しそうな怪音が建物に響き渡る。
なんとか耳を塞いだルナサとリリカだったが、ダイレクトに聞いてしまったパチュリーはというと
「む、むきゅ~」
顔面蒼白になって痙攣していた。
もやしになっても一応は乙女なので、辛うじて白目にはなっていない。
我が妹ながら恐ろしい子。
そう畏敬の念を持ってルナサはメルランのほうを見る。
メルランは笑顔で痙攣していた。
こいつ耳栓忘れてやがる・・・
妹のまぬけっぷりにルナサが呆れていると
「あら、先客?」
「お~、お前らももやしいじりか?」
建物の中にアリスと魔理沙の二人が入ってきた。
「ねえ二人とも、パチュリーがかわいそうだとは思わない?」
そう二人に意見を求めるルナサであったが
「ルナサ・・・悪いことをしたらその報いは受けなければならないの」
「これくらいの罰で済んでるなんて、レミリアも寛大だぜ」
そう言う二人の顔は見事な半笑いであった。
「さて魔理沙、私達も楽しまなきゃね」
「そうだな。私達を猫にしてかわいがってくれたんだ。たっぷりお礼してやんなきゃな」
あいかわらず半笑いの二人が選んだアイテムは猫じゃらし。
そしてその凶器でパチュリーをくすぐり始めた。
「む、むきゅ、はぁはぁ、ん!」
パチュリーはくすぐったそうに身もだえながら熱い吐息を吐く。
相変わらず表情は虚ろだが、かえってそれが背徳感を倍増させ何ともいえない色っぽさが誕生していた。
くすぐる二人の鼻息も妙に荒い。
(あぁ、止めないと・・・)
そう思いながらも目の前の光景に目が釘付けになったルナサは二人を止める事ができない。
妹二人も動けないようである。
これは確かに桃源郷かも、な光景がしばらく続いていたが
「はぁはぁ、む、む、いいかげんにしろ~!!」
突然パチュリーは復活した。
わ~きゃ~と逃げ出すアリスと魔理沙を、鉢植えに埋まったままのパチュリーはどっすんどすんと追いかけて建物の外へ消えていった。
・・・病弱、喘息持ちの設定はどこいったんだよ。
そんな事を三姉妹が思っていた時、美鈴に抱えられてパチュリーが帰ってきた。
「美鈴!私はあなたの事を思って催眠術を試したのよ!それなのになんという仕打ち、お前なんかバナナの皮を踏んで転んでしまいなさい!」
「はいはい、パチュリー様は反省が足りないみたいですね~。散々いい思いをしたんですからそれ相応のしっぺ返しは覚悟しないと」
「そうよ、美鈴の言うとおりだわ」
第三者の声に三姉妹が振り向くと、そこには咲夜を従えたレミリアの姿があった。
しかし三姉妹が注目したのは咲夜の頭に乗っかっているもの。
「咲夜?頭のそれは・・・」
「猫耳です」
そう、咲夜の頭には銀色の猫耳が付いていた。
「デバスター!!」
鼻血を出して感激するメルランに対して
「駄目駄目!咲夜は犬耳じゃないと私は認めない!!」
と憤慨していた。
ちなみにルナサは猫耳派である。
にゃんにゃん!とポーズを決める咲夜について激論を始めた三姉妹を尻目に、レミリアはパチュリーに近づく。
「お願いレミィ、私が悪かったわ。今度はあなたも一緒に猫王国を再建しましょう?」
むきゅ~と潤んだ瞳でパチュリーは懺悔をするが
「その提案はかなり魅力的だけど、今はあなたに罰を与えることが先」
「どうして!?私は十分に罰を受けたでしょう!咲夜もなんだかんだで猫耳気に入ってるじゃない!!」
植木鉢に埋まったままガタガタと抗議するパチュリーの姿に、レミリアは笑いを堪えながらも言葉を続ける。
「パチェ、今の私があなたに持つ怒りを出前の蕎麦に例えると、大気圏を突破するぐらい積んでもまだ足りないぐらいなの。命があるだけでもありがたく思いなさい」
そう言いながらレミリアは糸付きの五円玉を取り出した。
「レミィ、私が同じ手に二回も引っかかると思っているの?」
「ふん、そんな事は言われなくても解ってる」
レミリアは自分の頭に、何かを取り付ける。
「何回でもあなたは引っかかるってね」
そう言うレミリアの頭にも猫耳が付いていた。
メ「ブルーティカス!!」
リ「うん、レミリアに猫耳はありだね」
ル「激しく同意」
美「紅魔館に務めてよかったです!」
咲「・・・・」
盛り上がる三姉妹と美鈴、そして無言で鼻血を出す咲夜の心は今一つになった。
猫レミリア万歳と。
今の彼女達の前にはカマドウマも敵うまい。
「くっ、罠だと解っているのに目が離せない!」
「ふふ、いい気味だにゃ。それでは始めるわ。お前はもやしだ、お前はもやしだ」
パチュリーは猫レミリアが振る五円玉から目を離すことができない。
「おのれ・・・意識が・・・最期にひとつだけ言って・・おく・・・猫レミィサイコー!」
そして意識を失ってうつむいたパチュリーが顔をあげると。
「むきゅー」
紫もやしが復活していた。
「やれやれ、お仕置きがまだまだ足りないようね」
そう言いながらレミリアが取り出したアイテムにその場に居た全員が戦慄する。
レミリアの手には練りワサビが握られていた。
「はいパチェ、たーんと召し上がれ♪」
レミリアはパチュリーの口の中ににゅるんとワサビを流し込む。
「む!!!!!!!!!!」
ワサビを食わされたパチュリーは壊れたメトロノームのようにばたんばたんくねくねと激しく動く。
「ははははは!踊れ踊れもっと踊れ!」
こいつ・・・笑ってやがる!
その場に居た一同はレミリアには逆らうまいと硬く心に誓ったのであった。
「あぁ、ドSなお嬢様も素敵」
いや、一人ちがう事を考えていたメイドが居た。
「咲夜!あんたもなにかやってやりなさい!」
「かしこまりました」
そしてその従者もドS。
手には玉ねぎとまな板包丁セット。
「駄目だ咲夜!!それは人の道に反する!」
なんとか制止を試みるルナサであったが
「私はどこまでもお嬢様に従うと誓ったのです。その時点で私は人の道を外れることは覚悟しています」
「咲夜・・・」
そうだ、この人間は吸血鬼に仕えている時点で、人の道から外れる覚悟ができていたのだった。
っていうか、聞くまでもないな。いろんな意味で。
「お許しくださいませパチュリー様!」
鎮痛な面持ちで、咲夜はパチュリーの前で猛烈に玉ねぎを微塵切りにし始めた。
「むきゅ~、むきゅ~」
目の前でそんなことされたパチュリーはたまったもんではない。
先ほどのワサビも残っていて、すさまじい涙と乙女にあるまじき鼻水の洪水に見舞われている。
咲夜は己の行為の残虐さに涙していた。
決して玉ねぎが目に染みている訳ではない。たぶん。
「うわ~恐いな~」
「本当にね~」
あまりの光景に顔面蒼白になるメルランとリリカ。
ルナサだって恐ろしいと思った。
ここは早々に立ち去るべきだと、ルナサは美鈴に声をかけて帰ろうとしたその時。
「いや~私の胡椒爆撃なんてまだまだ生ぬるかったんだ」
そうリリカが口走りやがった。
素早くメルランがリリカを羽交い絞めにする。
「あれ、メル姉?ムネがあたってるんですけど」
「あててんのよ」
メルランのファインプレーに賞賛の眼差しを送りながらルナサは美鈴にお願いする。
「申し訳ないが、植木鉢をもう一つ用意してもらえるか?」
ここは紅魔館のとある一室。
部屋の中はおびただしい鮮血と妖精メイド達の亡骸で満たされている。
その部屋の中にはフランドールが居た。
「みんなどうしてすぐ寝ちゃうんだろう?」
そうフランが呟いたとき
「お~いフラン、遊びにきたぜ~」
もやしいじりを終えた魔理沙とアリスが部屋の中に入ってきた。
「こっこれは!」
魔理沙とアリスは戦慄する。
しかし魔理沙とアリスが戦慄したのは部屋の惨状にでは無かった。
「フ、フランその猫耳は」
「あっ、これ?かわいいでしょ」
フランの頭に金色の猫耳が付いている。しかも黒の尻尾付き。
魔理沙とアリスはパチュリーの催眠術によって猫化していた時にも猫フランのことは見ていたのだが、本人達には猫化時の記憶が無いのだ。
とにかく猫フランのカワイサは異常であった。
今の彼女が宇宙の支配者になったなら宇宙は一つになるだろう。
魔理沙がアリスの方を見ると凄まじい勢いで、いつの間にか用意していたスケチブックに猫フランを描いていた。しかし
「なんで?なんで描けないのよー!!」
と泣いていた。
描けないのはアリスの鼻血でスケッチブックが血に塗れているからなのだが、冷静さを失ってるアリスは気がつかない。
そんなアリスに心の中で合掌しながら、魔理沙は部屋の惨状がこの猫フランのかわいさによるものだと理解した。
ここの亡骸達は戦士だったと魔理沙は妖精メイド達に敬意をはらう。
「ねえねえ、遊ぼう魔理沙」
「ああいいぜ。弾幕ゴッコか?」
「今日は猫ゴッコがいい!」
魔理沙は自分が敗北することを悟った。
いずれは自分もこの妖精メイド達のようになるだろう。
だが悔いはない。
今の自分にできる事は一秒でも長くこの猫フランの姿を堪能することである。
アリスが出血多量により失神していたがどうでもよかった。
「それじゃあ、かわいらしい猫さん、猫じゃらしだぞ」
「にゃん!」
魔理沙はよく戦った。
しかし猫フランが抱きついたきたことにより、魔理沙の意識は宇宙へと旅立ったのである。
こうして新たな亡骸が部屋に二つ増えた。
「あれ?魔理沙も寝ちゃった。そうだお姉さま達に遊んでもらおう」
最強の魔物が今まさに、館から解き放たれようとしている・・・END
「桃源郷ってなんだろうね~」
テレテレッテレ~
「ぷっぷぷぷ?」
「頼むからもう少し静かにしてくれ我が妹達よ」
いつでも騒がしいプリズムリバー三姉妹は紅魔館へ移動していた。
今回はパチュリーからの依頼で、昨日『桃源郷の誕生祝いに一つ景気よく演奏してぱちぇ』という手紙が届いたのである。
手紙の語尾に「ぱちぇ」とつける痛々しさからよっぽど浮かれていることが判る。
「でも姉さん。パチュリーからの依頼なんて珍しいよ」
「ぷ~ぷぷぷぷ~」
とりあえずルナサは、トランペットでの会話を試みているメルランに地獄突きをかましておとなしくさせた。
「ぷふぉ!?」
「そうそう、メルランはいい子」
悶絶したメルランの様子にルナサは満足そうである。
「ごめんねリリカ、話の途中だった」
「いえいえお姉さま、まったく問題ありませぬ」
あれ?ルナ姉はこんなバイオレンスなキャラだったけ?と戦慄しながらも、それを気取らせないオスカー主演女優賞も夢ではないじゃねえの!な演技力にリリカは自ら感動していた。
「確かに、パチュリーからの依頼は珍しい。きっとろくでもないことがあったんだろうね」
「痛い!耳が痛いわよ姉さん!」
「あれかな?最近紅魔館から猫の鳴き声がするってやつと関係あるのかな?」
「こら!リリカも無視しとらんで助けんかい!」
平然を装っていたリリカであったが、メルランの両耳を引っ張って移動しながらも、普通に自分と会話するルナサに再び戦慄した。
(ごめんメル姉。今のルナ姉は修羅だよ。デンジャーだよ)
リリカはルナサの不機嫌さに心あたりがあった。
おそらくは今日、寝ているルナ姉を胡椒爆撃で叩き起こしたことが原因だろう。
しかも、去り際に「メルラン参上!」という置き手紙を残したおかげでルナ姉はメル姉が犯人だと勘違いしている。
ルナ姉はメル姉につめよっていたけど、いつもにこにこ爽やかメル姉の
「私そんなことやってないよ~。それより姉さん、お鼻真赤でピエロみたい!あっはははははは!!」
が相当頭にきたらしい。
もちろんメルランはリリカがやったと主張したが、リリカは「私メル姉が寝ぼけてルナ姉に胡椒かけてたのを見たもん、どうせメル姉は目玉焼きの夢でも見てたんでしょ」という主張に「あ~そうかも!ごめんね姉さん」と納得していた。
ルナ姉、メル姉は本当に無実なんだ。悪いのはこの私。
でも言わない。我が身がかわいいから。
三人は紅魔館に着いた。
移動中ずっと両耳をひっぱられていたメルランの耳はダンボみたく腫れていた。
その耳を見て
「メルラン、あなたの耳がまるでメフィラス星人みたい」
と微妙に解りづらい比喩をするルナサに対して
「わ~本当だ!あはは」
と返せるメルランは相当大人である。
門の前にはいつもどおり美鈴が居て、ルナサは美鈴に挨拶をしに行った。
「あれ?ルナサさん達、今日もお嬢様に呼ばれたんですか?」
「いいえ、今回はパチュリーからの依頼」
そうルナサが言った瞬間、美鈴は半笑いになった。
それはそれは、もう見事に顔半分で笑う半笑いだったそうな。
「メ、美鈴?」
「失礼しました。ですがそうなるとその依頼はもう無効ですね」
「無駄足ってことになるのか?」
「はい、残念ながら本日無効になりました」
それを聞いて三姉妹はがっかりした。
演奏できない事も残念だが、なんだかんだで桃源郷も楽しみだったのに。
「皆さんがっかりしているみたいですけど、あなた方はパチュリー様の魔の手から助かったんですよ」
そう言う美鈴の顔は、自分の手は汚したけど、幼い命を助けることができた殺し屋のような爽やかさがあった。
「あとですね、ただいま紅魔館は展示会を開いているのでどなたでも出入り自由なんです」
「出入り自由?展示会」
「そうです。よかったらどうぞ見ていってください」
紅魔館が展示会とはなんと珍しい。
妹二人も興味心身なようである。
「そうね、このまま帰っても無駄足になるだけだから観て行こうか」
「そうですか。それではどうぞ」
美鈴に見送られて三姉妹は門を通った。
「姉さん・・・展示会ってこれだけ?」
そうメルランが指さす先にあるのは、壁一面が真っ黒で交番ぐらいのサイズの建物である。
入り口の上にある看板には
『怪奇!恐怖のもやし人間!!すごいよ!」
と書かれていた。
「いや、明らかにすごくなさそうだし」
ルナサのつこっみは三姉妹全員の想いである。
「まあまあルナ姉、メル姉、とりあえず入ってみようよ」
そう言いながら建物へ入っていくリリカに二人も続いた。
中は目に優しいオレンジ色の光で満たされており、入ってすぐの所に様々なものが置かれている台がある。
「なにこれ?ピコハン?」
メルランが手に取ったピコハン(ピコピコハンマー)のほかにも猫じゃらし、こんにゃく、黒板とフレディの爪(凶悪な爪がついてる手袋)玉ねぎとまな板包丁セット、練りワサビなどがあった。
台の横には『どうぞご自由にお使いください』の看板が。
さりげなくルナサが奥のほうに目を向けるとそこには何かあった。いや居た。
「パッ、パチュリー!?」
そこには自分達を呼んでいた張本人が、何故か焼き物の植木鉢から上半身だけ出して埋まっていた。
そのあまりに不可解なパチュリーの姿にリリカは駆け寄る。
「どうしたの!いったい何があったの?あなたが手紙に書いた桃源郷ってこれ!?」
リリカの呼びかけにパチュリーは一言。
「むきゅー」
・・・むきゅー?
ルナサは思った。太陽の光が届かない図書館で本を読み続けた結果、彼女はついに脳みそがカビに支配されもやしになってしまったのだと。
なんと哀れな・・・ぷぷっ!
そんな物思いにルナサが耽っていると
「姉さんこれってもしかしてさー、いろんな道具でパチュリーをいじれって事じゃないの?」
「どれどれ」
言うが早いがリリカはピコハンでパチュリーの頭をピコッと叩く。
「むきゅー」
「あっ、これ結構楽しいかも」
そう言いながら嬉々としてパチュリーを叩くリリカ。
パチュリーは叩かれるたびにむきゅーと鳴く。その表情はどこか虚ろであった。
「こら!リリカやめなさい!」
「だってルナ姉、おもしろいんだもん」
どうやらリリカは持ち前のイタズラ心に灯がついたようである。
その表情は野原を駆け回る無垢な子供の様であった。
イヤ、その表情は演奏中にしてくれよ。我が妹。
「ねえねえ、これはどうかな?」
メルランがその手に持っているのは黒板とフレディの爪。
「メルラン!やめなさい!!」
が、ルナサの静止も虚しく
ぎっぎっぎ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あの、耳から体中の神経が飛び出しそうな怪音が建物に響き渡る。
なんとか耳を塞いだルナサとリリカだったが、ダイレクトに聞いてしまったパチュリーはというと
「む、むきゅ~」
顔面蒼白になって痙攣していた。
もやしになっても一応は乙女なので、辛うじて白目にはなっていない。
我が妹ながら恐ろしい子。
そう畏敬の念を持ってルナサはメルランのほうを見る。
メルランは笑顔で痙攣していた。
こいつ耳栓忘れてやがる・・・
妹のまぬけっぷりにルナサが呆れていると
「あら、先客?」
「お~、お前らももやしいじりか?」
建物の中にアリスと魔理沙の二人が入ってきた。
「ねえ二人とも、パチュリーがかわいそうだとは思わない?」
そう二人に意見を求めるルナサであったが
「ルナサ・・・悪いことをしたらその報いは受けなければならないの」
「これくらいの罰で済んでるなんて、レミリアも寛大だぜ」
そう言う二人の顔は見事な半笑いであった。
「さて魔理沙、私達も楽しまなきゃね」
「そうだな。私達を猫にしてかわいがってくれたんだ。たっぷりお礼してやんなきゃな」
あいかわらず半笑いの二人が選んだアイテムは猫じゃらし。
そしてその凶器でパチュリーをくすぐり始めた。
「む、むきゅ、はぁはぁ、ん!」
パチュリーはくすぐったそうに身もだえながら熱い吐息を吐く。
相変わらず表情は虚ろだが、かえってそれが背徳感を倍増させ何ともいえない色っぽさが誕生していた。
くすぐる二人の鼻息も妙に荒い。
(あぁ、止めないと・・・)
そう思いながらも目の前の光景に目が釘付けになったルナサは二人を止める事ができない。
妹二人も動けないようである。
これは確かに桃源郷かも、な光景がしばらく続いていたが
「はぁはぁ、む、む、いいかげんにしろ~!!」
突然パチュリーは復活した。
わ~きゃ~と逃げ出すアリスと魔理沙を、鉢植えに埋まったままのパチュリーはどっすんどすんと追いかけて建物の外へ消えていった。
・・・病弱、喘息持ちの設定はどこいったんだよ。
そんな事を三姉妹が思っていた時、美鈴に抱えられてパチュリーが帰ってきた。
「美鈴!私はあなたの事を思って催眠術を試したのよ!それなのになんという仕打ち、お前なんかバナナの皮を踏んで転んでしまいなさい!」
「はいはい、パチュリー様は反省が足りないみたいですね~。散々いい思いをしたんですからそれ相応のしっぺ返しは覚悟しないと」
「そうよ、美鈴の言うとおりだわ」
第三者の声に三姉妹が振り向くと、そこには咲夜を従えたレミリアの姿があった。
しかし三姉妹が注目したのは咲夜の頭に乗っかっているもの。
「咲夜?頭のそれは・・・」
「猫耳です」
そう、咲夜の頭には銀色の猫耳が付いていた。
「デバスター!!」
鼻血を出して感激するメルランに対して
「駄目駄目!咲夜は犬耳じゃないと私は認めない!!」
と憤慨していた。
ちなみにルナサは猫耳派である。
にゃんにゃん!とポーズを決める咲夜について激論を始めた三姉妹を尻目に、レミリアはパチュリーに近づく。
「お願いレミィ、私が悪かったわ。今度はあなたも一緒に猫王国を再建しましょう?」
むきゅ~と潤んだ瞳でパチュリーは懺悔をするが
「その提案はかなり魅力的だけど、今はあなたに罰を与えることが先」
「どうして!?私は十分に罰を受けたでしょう!咲夜もなんだかんだで猫耳気に入ってるじゃない!!」
植木鉢に埋まったままガタガタと抗議するパチュリーの姿に、レミリアは笑いを堪えながらも言葉を続ける。
「パチェ、今の私があなたに持つ怒りを出前の蕎麦に例えると、大気圏を突破するぐらい積んでもまだ足りないぐらいなの。命があるだけでもありがたく思いなさい」
そう言いながらレミリアは糸付きの五円玉を取り出した。
「レミィ、私が同じ手に二回も引っかかると思っているの?」
「ふん、そんな事は言われなくても解ってる」
レミリアは自分の頭に、何かを取り付ける。
「何回でもあなたは引っかかるってね」
そう言うレミリアの頭にも猫耳が付いていた。
メ「ブルーティカス!!」
リ「うん、レミリアに猫耳はありだね」
ル「激しく同意」
美「紅魔館に務めてよかったです!」
咲「・・・・」
盛り上がる三姉妹と美鈴、そして無言で鼻血を出す咲夜の心は今一つになった。
猫レミリア万歳と。
今の彼女達の前にはカマドウマも敵うまい。
「くっ、罠だと解っているのに目が離せない!」
「ふふ、いい気味だにゃ。それでは始めるわ。お前はもやしだ、お前はもやしだ」
パチュリーは猫レミリアが振る五円玉から目を離すことができない。
「おのれ・・・意識が・・・最期にひとつだけ言って・・おく・・・猫レミィサイコー!」
そして意識を失ってうつむいたパチュリーが顔をあげると。
「むきゅー」
紫もやしが復活していた。
「やれやれ、お仕置きがまだまだ足りないようね」
そう言いながらレミリアが取り出したアイテムにその場に居た全員が戦慄する。
レミリアの手には練りワサビが握られていた。
「はいパチェ、たーんと召し上がれ♪」
レミリアはパチュリーの口の中ににゅるんとワサビを流し込む。
「む!!!!!!!!!!」
ワサビを食わされたパチュリーは壊れたメトロノームのようにばたんばたんくねくねと激しく動く。
「ははははは!踊れ踊れもっと踊れ!」
こいつ・・・笑ってやがる!
その場に居た一同はレミリアには逆らうまいと硬く心に誓ったのであった。
「あぁ、ドSなお嬢様も素敵」
いや、一人ちがう事を考えていたメイドが居た。
「咲夜!あんたもなにかやってやりなさい!」
「かしこまりました」
そしてその従者もドS。
手には玉ねぎとまな板包丁セット。
「駄目だ咲夜!!それは人の道に反する!」
なんとか制止を試みるルナサであったが
「私はどこまでもお嬢様に従うと誓ったのです。その時点で私は人の道を外れることは覚悟しています」
「咲夜・・・」
そうだ、この人間は吸血鬼に仕えている時点で、人の道から外れる覚悟ができていたのだった。
っていうか、聞くまでもないな。いろんな意味で。
「お許しくださいませパチュリー様!」
鎮痛な面持ちで、咲夜はパチュリーの前で猛烈に玉ねぎを微塵切りにし始めた。
「むきゅ~、むきゅ~」
目の前でそんなことされたパチュリーはたまったもんではない。
先ほどのワサビも残っていて、すさまじい涙と乙女にあるまじき鼻水の洪水に見舞われている。
咲夜は己の行為の残虐さに涙していた。
決して玉ねぎが目に染みている訳ではない。たぶん。
「うわ~恐いな~」
「本当にね~」
あまりの光景に顔面蒼白になるメルランとリリカ。
ルナサだって恐ろしいと思った。
ここは早々に立ち去るべきだと、ルナサは美鈴に声をかけて帰ろうとしたその時。
「いや~私の胡椒爆撃なんてまだまだ生ぬるかったんだ」
そうリリカが口走りやがった。
素早くメルランがリリカを羽交い絞めにする。
「あれ、メル姉?ムネがあたってるんですけど」
「あててんのよ」
メルランのファインプレーに賞賛の眼差しを送りながらルナサは美鈴にお願いする。
「申し訳ないが、植木鉢をもう一つ用意してもらえるか?」
ここは紅魔館のとある一室。
部屋の中はおびただしい鮮血と妖精メイド達の亡骸で満たされている。
その部屋の中にはフランドールが居た。
「みんなどうしてすぐ寝ちゃうんだろう?」
そうフランが呟いたとき
「お~いフラン、遊びにきたぜ~」
もやしいじりを終えた魔理沙とアリスが部屋の中に入ってきた。
「こっこれは!」
魔理沙とアリスは戦慄する。
しかし魔理沙とアリスが戦慄したのは部屋の惨状にでは無かった。
「フ、フランその猫耳は」
「あっ、これ?かわいいでしょ」
フランの頭に金色の猫耳が付いている。しかも黒の尻尾付き。
魔理沙とアリスはパチュリーの催眠術によって猫化していた時にも猫フランのことは見ていたのだが、本人達には猫化時の記憶が無いのだ。
とにかく猫フランのカワイサは異常であった。
今の彼女が宇宙の支配者になったなら宇宙は一つになるだろう。
魔理沙がアリスの方を見ると凄まじい勢いで、いつの間にか用意していたスケチブックに猫フランを描いていた。しかし
「なんで?なんで描けないのよー!!」
と泣いていた。
描けないのはアリスの鼻血でスケッチブックが血に塗れているからなのだが、冷静さを失ってるアリスは気がつかない。
そんなアリスに心の中で合掌しながら、魔理沙は部屋の惨状がこの猫フランのかわいさによるものだと理解した。
ここの亡骸達は戦士だったと魔理沙は妖精メイド達に敬意をはらう。
「ねえねえ、遊ぼう魔理沙」
「ああいいぜ。弾幕ゴッコか?」
「今日は猫ゴッコがいい!」
魔理沙は自分が敗北することを悟った。
いずれは自分もこの妖精メイド達のようになるだろう。
だが悔いはない。
今の自分にできる事は一秒でも長くこの猫フランの姿を堪能することである。
アリスが出血多量により失神していたがどうでもよかった。
「それじゃあ、かわいらしい猫さん、猫じゃらしだぞ」
「にゃん!」
魔理沙はよく戦った。
しかし猫フランが抱きついたきたことにより、魔理沙の意識は宇宙へと旅立ったのである。
こうして新たな亡骸が部屋に二つ増えた。
「あれ?魔理沙も寝ちゃった。そうだお姉さま達に遊んでもらおう」
最強の魔物が今まさに、館から解き放たれようとしている・・・END
皆さん・・・後は・・・任せました・・・・・
・・・・・・・・猫フラン・・・・反則で・・・(バタン)
こうしてひとつ、亡骸が増えたとさ。
・・・・・・・・続き・・・期待してますよぉぉ!!!!!
しかしにゃんにゃんフランちゃんの登場により再びオワタ\(^o^)/
なんという桃源郷か!
ところで猫じゃらしで弄られるパチュさんを見て・・・ふふ、その下品なんですが(ry
生き残るのは一体誰か・・・
てか、全滅の危機ありですねwww
ちょっとパチュリーが可哀想だと思いつつも、猫フランにごっそりと魂を持っていかれたました。
「にゃん」
もうだめだwww
いかん、想像しただけでメナゾール!!
(死体一名追加)
これは幻想郷の危機だ!
幻想郷が桃源郷に変わってしまう!?
すごい! めくるめく変態の饗宴ですね。笑った笑った。
前作でいい感じにオチた後にどう続けるのか、少し不安でしたが、全然杞憂でした。
jpgでクレ!!!!!!
他の猫も見てええええええええええええええええ
レミリアとかアリスとか、かわいいだろうなぁ・・・
皆様方、感想ありがとうございます!
前作で終わりにしてもよかったんですけど、もやもやと続きが思い浮かんできたために書いちまいましたw
とりあえず催眠術シリーズ(?)はこれで完結にしようかと思います。
最後に、解り難いTFネタが通じて嬉しかったスペリオン!
そしてjpgってなんぞな?
とにかくこれからも精進していこうと思いますので皆様どうかよろしくお願いします。
100%クリアできないじゃないか!