Coolier - 新生・東方創想話

H・Rの巫女は貧乏なのか?

2008/03/19 02:43:23
最終更新
サイズ
23.23KB
ページ数
1
閲覧数
1207
評価数
27/82
POINT
4650
Rate
11.27
 そりゃ貧乏だろ。


 って答える人が7割、いえ8割ぐらいかしらね。
 おはよう?こんにちわ?それともこんばんわかしら?
 私は八雲紫。幻想郷のアイドル的存在よ。
 さて、博麗の巫女は貧乏なのかという話だけど実際のところどうなんでしょうね。
 博麗神社はわりと裕福という話もあるみたいだし、これはちょっとおもしろいかも。
 ちなみに、私が出てきた時に靴下臭という単語を思い浮かべた人達、夜道に気をつけなさい。
 そしてババァって思った奴、震えて眠れ!




 「捕ったどー!!」

 と魚を手に叫んでいるのは博麗の巫女こと博麗霊夢。
 太陽に照らされるその裸体は、水に濡れて艶やかに・・・・
 なんてことは無く、彼女は普段の紅白衣装で釣りをしていた。

 「今日は二匹か。上々ね」

 そう言う霊夢ではあったが、釣った魚の大きさは共に5センチぐらい。
 普通の人なら川に還すぐらいの雑魚であるが、

 「ごめんなさいね。私の生活がかかってるから見逃すわけにはいかないの」

 という訳で雑魚二匹の運命は霊夢のおかずとなることが決定。
 今日の霊夢の昼食。

 ・雑魚二匹

 ・そこらへんで見つけた木の実
 
 ・麦ご飯

 なんともひもじい食事の内容であるが、霊夢本人は

 「太らなくていいわ」

 と前向きであった。
 


 霊夢が神社に帰ってくると、縁側には紫が座っていた。
 紫は霊夢を見つけると

 「おかえり霊夢」

 とにこやかに挨拶をする。
 それと対象的に、霊夢は昼間からカマドウマの結婚式でも見てしまったような顔で

 「なんの用よ紫。春にはなったけど、あんたはあと100年ぐらい冬眠しててもいいわ」

 と冷たくしっしと追い払おうとする。
 こんな妖怪に構ってる暇があったら早く昼食をとらなければ。
 しかしそんな霊夢の態度にも紫は余裕の態度である。

 「あらあら、そんなこと言ってもいいのかしら?今日はせっかく外の世界からお寿司をお土産にもってきたのに~」

 とスキマからお寿司の箱を覗かせる。
 
 「ようこそいらっしゃいました紫様!こんなみみっちい神社ですがどうぞごゆるりと」

 そこには土下座をする博麗の巫女の姿があった。
 妖怪に土下座した博麗の巫女は史上初ではなかろうか。



 二人で寿司を堪能したあと霊夢は「ちょっと待っててね」と言って席を立った。
 その後、隣の寝室でなにかバタバタやっているようだ。

 (それにしても酷い有様ね・・・)

 紫は炬燵の上に顎を乗せながら部屋の中を眺めていた。
 壁や柱には削ったような跡がそこかしこに見受けられ、畳にも毟ったような痕跡がある。

 (あの子、神社を食べるぐらい困窮しているのかしら?)

 確かに博麗神社は参拝客がかなり少なく、賽銭に期待していてはミイラになること確実であろう。
 しかし、賽銭が期待できずとも、霊夢は妖怪退治で生計を立てていた筈であるが。
 そんなことを紫が考えている内に寝室の襖がスパーン!と開いた。

 「おまたせ紫!布団の用意ができたわよ」

 とニコニコ顔を輝かせた霊夢がでてきた。

 「あの、霊夢、それは?」
 「なに言ってんの紫、あなた布団も忘れるほどボケちゃったの?」

 いやいや布団を忘れたりなどしない。
 布団を敷いたってことは泊まっていけということなのだろう。
 それは解る、解るが

 「なんで布団は一枚なのに枕が二つなのかしら?」
 「だって」

 もじもじ

 「私ができるお礼ってこれくらいしかないから・・・」

 顔を赤らめないで!もじもじしないで!
 襲いたくなるから。
 しかし、大妖怪のプライドとして、こんな誘惑にホイホイとのるわけにはいかない。
 それに、今はもっと気になることがある。

 「ちょっと頭冷やそうか?」

 そう言うと、紫は頭上のスキマから墓石を落とした。
 自分の頭の上に。
 かわいい霊夢を傷つけたくないと思う、紫の愛故の行動である。
 頭がかち割れた紫を前に霊夢は冷静さを取り戻す。
 
 「あんた、頭大丈夫?いろいろな意味で」
 「心配・・・無いわ。脳漿出てるけどゆかりんこれくらいじゃ死なないもん」

 頭から鮮血を噴出しながらも紫は笑顔であった。

 「私の頭よりもね、あなたのほうが心配だわ」
 「なによ。私は自分の頭をかち割ったりしないわよ」
 「違うわよ!あなたがあまりにも困窮してるからいったいどうしてなのかと思ったの。妖怪退治は続けているんでしょう?それなら食べる事に困ることはないはずなんだけど」

 そう紫が聞くと霊夢は俯いてしまった。
 そしてプルプルと震え始める。

 「・・・・・・・・・・のよ」
 「霊夢?」
 「妖怪退治の依頼が無いのよ!!!!」

 霊夢は吼えた。
 その咆哮はゴジラをも上回っていたかもしれない。

 「輝夜達が活動始めてから、あいつらが竹林の妖怪退治やるもんだから依頼が激減したの!」

 それに加え、元々妖怪退治を行っていた慧音にも妹紅というパートナーが出来た為、より妖怪退治の依頼が減っているという訳である。

 「しかもしかも、それだけじゃないわ。早苗達が来てから皆向こうに行っちゃったのよ」
 「それはそうでしょうね・・・」

 紫は納得した。
 最近、幻想郷に外の世界から来た守矢神社には、腋巫女に加えカリスマ神にカワイイケロちゃんが揃っている上、神社自体も立派であり、真面目に活動している為多くの信者ができたのである。
 腋巫女しか居ない上に真面目に活動していない博麗神社に勝ち目は無い。

 「霊夢、あなたももう少し真面目に動いてみたら?」
 「いやよ、めんどくさいのは」

 これである。
  
 (まったく天才肌ってのはこれだから困るわ)

 霊夢は歴代巫女の中で最も修行不足であるが、逆に最も実力があり才能がある。
 スペルカードルールを考案したのも霊夢だ。
 そんな訳で、あまり努力をしなくても大抵のことはこなせる為めんどくさがり屋なところがあるのであった。

 「はぁ~、しょうのない子。神社の財産も全部使っちゃった訳?」
 「なに言ってんのよ。この神社に財産なんてある訳ないじゃない」
 「・・・霊夢、それ本気で言ってるのかしら?」
 「ええ、そうよ」

 なんということだ。
 霊夢は博麗神社のことをほとんど知らないらしい。
 紫は頭痛がしてくるのを堪えながら尚も質問をする。

 「あなた、神社の書物に目をとおしてないわね」
 「な、何を言ってるのかしら紫。巫女としてそんな訳無いじゃない」

 そう言いながらも目をそらす霊夢。
 その態度は百人中百人が嘘だ!というものであった。

 「嘘おっしゃい。ちゃんと書物をみてたら神社の地下倉庫の事知らない筈が無いじゃないの」
 「え!?そんなものがあったの?」
 「あるのよ。博麗神社は元々裕福な神社なんだから財産はそれなりにあるわ」

 これで霊夢の困窮ぶりも納得できた。いくら財産があっても場所を知らなければ意味がない。
 もっとも歴代の巫女で、財産に手をつけなければいけないほど困窮した巫女はいないが。
 希望の光を見つけた霊夢はそのまま昇天してしまいそうな程テンションがあがっていた。
 
 「お願い紫!地下倉庫の場所を教えて」
 「それが相手にものを頼む態度か!」

 一週間ぶりの獲物を見つけたようなライオンの目で陰陽玉をつきつける霊夢に対して、紫は突っ込まずにいられなかった。



 二人は神社の裏にあった入り口から地下倉庫に来ていた。
 目の前の扉は取っ手のついた少し重厚そうで、しかしなんの変哲のなさそうな扉である。

 「これで、これで畳を食べる生活ともおさらばできるのね」
 (やっぱり食べてたのか)

 呆れつつも同情しながら紫は静かに涙する。
 霊夢は中に眠っているであろう金銀財宝に、無いムネ躍らせながら扉を開けようとした。

 (?)

 しかし、いくら押しても扉はうんともすんとも言わない。
 叩いてみてもだめ。
 しまいにはありとあらゆる弾幕、スペルカードを試してみたが、扉は醜く歪むだけでついに開くことはなかった。
 歪んだ扉の形は憤怒に燃える顔のようであり「わしは絶対開けんぞ!!」と言っているかのようにも見える。

 「なにコレ?喧嘩売ってるの!?」
 「いやいや喧嘩売ったのはあなたのほうでしょう」

 紫の突っ込みも霊夢は聞こえていないようで何事かを考えている。
 そして唐突に地上へ帰り始める。

 「あら、諦めちゃうの?」
 「ちがうわ。こうなったらとことん調べて絶対開けてやるんだから!」

 そう言って霊夢は静かな怒りを燃やし倉庫から立ち去った。

 「あの子にしては珍しくがんばるじゃない。理由はどうあれいい経験になりそうね」

 紫は少し嬉しく微笑ましい気持ちになりながら、自分が居ない間、橙をかわいがっていたであろう藍にどんなイジワルをしようかと考えながらスキマに消えた。



 あれから霊夢は神社の書物を片っ端から調べた。
 しかし、倉庫の存在については書かれていたものの、開け方については見つけることができなかった。
 今の彼女の心情を現代人風に表すと

 (これなんて無理ゲー!?)

 といった感じ。

 「なんで神社のことが神社の書物で解らないのよ」

 書物の上に寝転びながら、ほかに方法は無いか考る。

 (いったいどうしたら・・・魔理沙にでも相談しようかしら、でもそんなことしたら分け前にどれだけ要求されるかわからないし・・・)

 などと心の狭い事を考えていた時、フと閃いた。
 魔理沙といえば本泥棒、その本を盗む場所といえば。

 「そうだ図書館に行こう」




 そんな訳で次の日、とある理由から日が出ている内に紅魔館の前に来た霊夢だったが、

 (あれ?美鈴、今日はちゃんと起きてる)

 と微妙に失礼なことで驚いていた。

 「あれ?霊夢、珍しいじゃない」
 「自分でも珍しいと思うわ」

 そう、紅魔館でパーティーがある時などは紅魔館に行っても、それ以外の用事で行くことは殆んど無い。
 大抵用事がある時は紅魔館当主、レミリアのほうから神社にやってくる。
 神社のことをゴキブリホイホイと馬鹿にしに来る時などに。
 家の神社はゴキブリにすら見放されるのに・・・

 「今日は図書館を利用したくて来たの。中に入れてもらえないかしら?」
 「いつもなら取次ぎをしてからなんだけど、今現在、幸か不幸かすぐに入れるわ」
 「そんな!ってことは私が昼に来たのは無駄になったてこと!?」
 「がんばってとしか言えないわ。入るのやめる?」
 「いいえ、入るわ!」

 ここで引き下がる訳にはいかない!自分の輝かしい未来のの為にも!

 「決意は固いようね。それではどうぞ」

 そう言って門を開けた美鈴は館の入り口に霊夢を案内し始める。
 そんな美鈴を霊夢は少し頼りがいがあるようになったと感じた。

 「ねえ美鈴。あなたちょっと変わった?」
 「そうね。ここのところ幻想郷もいろいろな変化があったから自分も変わらなくちゃいけないと思ったから」
 「ふ~ん」

 そうこう話している内に館の入り口に着いた。
 しかし美鈴はすぐに入り口の扉を開けない。

 「霊夢、準備はいい?」
 「ええ、いつでも」

 そう答える霊夢はクラウチングスタートの構え。

 「御武運を」

 地獄への扉は開かれた。

 「霊夢待ってたわ、ハブッ」

 扉のすぐ裏で待機していたであろうレミリアを押しつぶし、霊夢は全力で飛んだ。
 そう。霊夢が顔パスで門を通れる時はレミリアが活動している時。
 霊夢はレミリアが寝ているであろう昼間に来たつもりだったが。レミリアの驚異的第六感、あるいは運命をあやつる程度の能力の前には無駄だったようである。

 「うう・・・あいかわらずね霊夢。でもそこがすてきよ~」

 そうして巫女と吸血鬼の鬼ごっこが始まった。
 しかしレミリアのほうがスピードが速い上にここは紅魔館内である。
 ホームグランド内での追いかけっこは圧倒的にレミリアが優位であった。
 いいところまで逃げた霊夢ではあったが、ついには捕まってしまい押し倒されてしまう。

 「さあ霊夢、おとなしく血を吸わせなさい。大丈夫、最初は怖いかもしれないけど気持ちいいから」

 少女とは思えぬ妖艶なしぐさで迫って来るレミリア。
 しかし霊夢には勝算があった。

 「まだまだ甘いわねレミリア!!」

 そう言うと霊夢はレミリアの服を肩が出るくらいまではだけさせる。

 「あぁ、霊夢ったら大胆!よ~しレミィはりきっちゃうぞ」
 「レミリア、今回のあんたの敗因は飼い犬の躾不足よ」

 そう霊夢が言った時レミリアは何者かによって抱きかかえられていた。

 「お嬢様、この咲夜はお嬢様の艶姿に0・1秒も我慢できました。これは相応の褒美をいただかないと」
 「な、ちょ、咲夜!?どんな駄目犬だってもう少しは待てができるわよ!!」

 じたばたと抵抗を試みるレミリアであったが、その抵抗も今の状況では咲夜を興奮させるだけである。

 「ああ、もう辛抱たまらん!お嬢様、添い寝を希望します」
 「いや、なんか添い寝だけで済む気が微塵もしない」

 レミリアを拉致ろうと立ち去る咲夜に、霊夢は親指を立てて一言。

 「グッドラック」

 それに対して咲夜も親指をビッと立ててきた。
 その姿は正しく瀟洒であった。
 
 「霊夢~私はあきらめないからな~」
 
 という捨て台詞を最期に、咲夜に抱きかかえられたレミリアは寝室へと消えていった。
 合掌。



 
 激闘を終えた霊夢は図書館に着いた。
 中に入ると相変わらず膨大な本が存在しており、その光景はある種の神々しさすら感じる。

 「あら?魔理沙じゃなくてあなたが来るなんて珍しいわね」

 そう声をかけてきたのは図書館に住む魔女パチュリーである。

 「まったく自分でも驚きよ。ねえ博麗神社に関する本はある?」
 「ええ、あるけど一体どうしたの?今さら神社を調べて」
 「なんとなくよ、なんとなく」
 「そう」

 それで納得したらしいパチュリーは小悪魔に目的の本を持ってくるように指示した。
 少しして小悪魔が持ってきた本はたいした厚さもない薄めの本であった。
 少し拍子ぬけしたものの、調べるのが楽そうねと思い直し本を読み始める。

 「霊夢、紅茶はいかが?」
 「ありがとう。でも、今はいいわ」
 「そう、それにしても最近のあなたは余裕がないのね」
 「それは・・・食うものにいつも困ってるぐらいだし」
 「そうじゃなくて、精神に余裕が無いわね。身体的なものとは別に。焦っているのかしら?」

 本を見ていた霊夢はその一言に少し頷ける気がして顔を上げた。

 「そう・・・かしらね」
 「ええ、昔のあなたはもっとふわふわしていたもの」

 ふわふわ・・・か。
 確かにそうかもしれない。最近の自分はのんびりしていたことに変わりはないけど、何かに焦っている気がする。
 パチュリーが黙ってしまったので霊夢も本に戻った。
 しかし、何かもやもやしたものがむねに残りいまいち集中することができない。
 結局日が暮れるまで本を読んだが、倉庫の開け方は解らなかった。

 「帰るわ」
 「調べものはもういいの?」
 「ええ、今日はありがとう」
  
 そう言って立ち去ろうとするが、レミリアとの追いかけっこを又するのかと軽く鬱になった。

 「レミィのことでしょ。大丈夫、今は疲れてるからしばらくおとなしくしてるわ」
 「何で分かるの?」
 「あなたが無事図書館に来たって事は、レミィに咲夜でもけしかけたんでしょ。それならしばらくは大丈夫。安心して」
 
 それを聞いてホッとできた。

 「それじゃ、またいつか」
 「ええ、・・・あんまりレミィのこと嫌わないであげてね。あれでも結構いいところ・・・」

 そういって考え込んだパチュリーだったが

 「とにかくかわいいところもあるのよ」

 そう切り上げた。
 その様子をみて霊夢はちょっと優しい気持ちになる。

 「大丈夫、あいつムチャクチャで我侭だけど結構好き」
 「それをレミィに言ったら喜ぶわ」
 「つけあがるがら言わない」
  
 そう言って霊夢は図書館を後にした。
 


 美鈴に挨拶して紅魔館を後にした霊夢は、美鈴、パチュリーのことを思い出していた。
 美鈴もそうだったがパチュリーも変わったように感じる。
 パチュリーはもっと無愛想なイメージだったと思っていたけど、今日会った彼女は静かながらも、レミリアや自分の事を心配してくれているようだった。
 今日会っていない皆も変わっているのだろうか。
 パチュリーはあなたも変わったと言っていたけど、あまりいい変化とはいえない気がした。
 そんなこんなを考えながら飛んでいたらいつの間にかミスティアの屋台に着いていた。
 どうやら知らず知らずのうちに鰻の匂いにつられていたようだ。
 
 「こんばんわミスティア。今日はツケでお願い」

 と、いつもの食い逃げ作戦にでた。
 ミスティアは鳥頭なので次には忘れている事が多い。
 時々この方法でただ食いしていた霊夢だった。
 しかし

 「霊夢はこの前のツケが残ってるね。払ったら食べさせてあげる」

 ミスティアが覚えていた事に驚きながらも霊夢は更なる抵抗を試みる。

 「そんなこと無いって!ツケは今回が初めてよ」

 そう言う霊夢に向かってミスティアは無言で屋台の柱に貼ってある紙を指した。

 「うぐっ!」

 そこにはしっかり霊夢をはじめとするツケ払い表が書かれていた。ちなみに魔理沙の名前も書いてある。

 「な、なんと!学習してる・・・」

 これは幻想郷崩壊の兆しか!?
 霊夢は半ば本気でそう考えた。

 「なんか失礼なこと考えてるみたいだけど、払わないなら帰った帰った!」

 とミスティアにしっしと犬でも追い払うかのようにあしらわれ、霊夢は何かいろいろなものに負けた気がしてその場につっぷした。
 燃え尽きたわ。真っ白にね・・・

 「ちょっとー、屋台の前で燃え尽きないでよ!営業妨害だ!・・・まったくもう」

 ミスティアは燃え尽きた物体と化した霊夢にむかって鰻の蒲焼を一本差し出した。

 「いいの?」
 「もう、霊夢がそんなしょんぼりしてたらこっちも張り合いなくなっちゃうよ。コレはサービス。だから元気だして」
 「うう・・・ありがとう」

 今の霊夢にはどんな宝石よりも輝いて見える鰻は、とてもおいしかった。

 「あんたも変わってるのね」
 「?」

 ミスティアはよく分からなそうな表情をしていたが、その顔はたしかに成長し、変わったように見えた。




 その夜、霊夢はふたたび倉庫の前に居た。
 扉は相変わらず歪んでいる。
 しかし、今の霊夢には歪みが自分をあざ笑っているかのように思えた。
 今日会った皆、変わっているように思えた。それもいい方向に。
 レミリアだって、今日の追いかけっこは、自分に合わせて手加減してくれていた。会ったばかりのレミリアだったら問答無用に組み伏せていただろう。
 咲夜だって自分が図書館へ行きたがってるのを知ってて、ちょうどいいところで助けにきてくれたのだ。
 昔の咲夜だったらレミリアに危険が及ばない限りは無関心だっただろう。
 皆、成長して変化している。
 それに比べて自分は・・・
  
 「焦っている・・・か」

 確かに焦っていた。
 妖怪退治を始めた輝夜達。
 輝夜達はこの幻想郷に馴染むために妖怪退治のほかにも月都万象展などを開催していた。
 妹紅も以前は姿も見せなかったのに、少しずつ私達に会う様になっている。
 早苗達もだ。
 一刻も早く新しい世界に認めてもらうために、人里によく出かけて人々に語りかけているではないか。
 そんな彼女達を、自分はただ見つめて勝手に焦って貧乏になって。

 「なんだ、自業自得じゃないの」

 そう独り言を言ったその時

 「そう、そのとおりね」

 独り言への返事があった。

 「紫・・・」
 「こんばんわ霊夢。その様子だと扉の開け方は解らなかったようね」
 「・・・」

 そう言われたが今の霊夢にとって扉の開け方などあまり興味が無かった。

 「しょうがないから答えを教えてあげましょう」

 紫は意地悪そうな笑みをうかべ霊夢に語りかける。

 「・・・知ってたの?」
 「ええ、そうよ。あんまり簡単に開けられたら面白くなかったから」

 そう言われても特に怒る気にはならなかった。なんとなく分かっていたから。

 「扉の開け方なんて書物に書いてあるはずが無いわ」
 「・・・」
 「だって記録に残す必要が無いもの。博麗の巫女なら問題ないはずだったから」

 その不穏な言葉にイヤな予感がする。

 「どういうこと?」
 「この倉庫の扉を開ける資格があるのは博麗の巫女だけよ」
 「!!!!」

 つまり

 「私が博麗の巫女じゃなくなったっていうの!」
 「この扉が開けられないって事はそういう事になるわね」
 
 霊夢は腹の底がひっくり返るような錯覚に襲われた。
 体の震えが、冷や汗が止まらない。

 「でも!それが本当って証拠はないでしょ」

 どこか祈るような気持ちで紫に聞くが、

 「・・・」

 紫は無言でスキマに手を入れた。しかし

 バヂッ!

 そうスキマから音がすると紫は顔をしかめて手を引く。
 その指先は焼け爛れていた。

 「ほらね。今、扉の向こう側にスキマを通じて手をいれようとしたけどこの結果。私ですらこうなるの。だから」

 だから

 「博麗の巫女以外、この扉を開けることができないのは九割九分本当だと思うわ」

 そんな・・・

 「ちなみにね、歴代の巫女達はこの扉を開けていたわ。皆、中の財産が必要になった訳ではなく、ただの確認程度だったけど」

 そんな、そんな・・・私は

 「開けられない子なんて今まで見たことがない」
 
 それ以上は、それ以上は言わないで!

 「紫!」
 「大変ね。博麗の巫女がいなくなちゃった」

 ドサッ!

 霊夢は、体の力が抜けて膝を突くことをどうすることもできなかった。
 しかし、そんな霊夢にはおかまいなしに紫は喋り続ける。

 「あ~あ、幻想郷はどうなっちゃうのかしら。私一人でもしばらくはどうにかなりそうだけど、時間の問題かしらね。あっ、大丈夫よ霊夢。あなたが巫女の資格を失ったことは黙っておいてあげる。いきなり居なくなられたら幻想郷全体に不安が広がって問題が大きくなるから。それに多分どうにかなるわ。皆のあなたが巫女じゃなくなたって冷たくはしないかもしれないし、むしろ慰めてくれるかもね」

 ポタッ、ポタッ

 「霊夢?」
 「うっう、グスッ、うぅぅぅぅぅ・・・」

 霊夢は泣いていた。
 涙はとめどもなく溢れてくる。
 紫の言葉が悔しいわけではない。
 霊夢は自分が不甲斐なかった。
 自分は歴代巫女の中で最強だと思っていた。
 しかし現実では今まで巫女達が開けられていた扉を開けることができず、ついには巫女としての資格を失ってしまう始末。
 霊夢は自分の存在価値が無くなってしまったのだと理解した。

 地面に泣き崩れる霊夢を無表情に見下ろしていた紫だったが。

 「まだ間に合うわ」

 ふと優しく笑い、霊夢のそばにしゃがみこんで頭をぽんぽんと優しくたたく。

 「ごめんなさい。ちょっと言いすぎたわ。でも深刻な事態なのは解って」

 そう語りかける紫に泣きながらも頷く霊夢。

 (やっぱり霊夢は強い子ね)

 少し紫は安心しながら尚も語りかける。

 「博麗の巫女がいなくなっては、いずれ幻想郷が崩壊してしまう。でもねあなたの代わりに巫女はいない。あなたが巫女の資格を取り戻すしかないの」
 「・・・そん・・なこと、グスッ、できるの?」
 「ええあなたなら出来るわ。絶対に。だって、まだ若いんだもん」

 そう言うと、紫は自分のもとに霊夢を抱き寄せた

 「ねえ霊夢、博麗の巫女が受け継ぐ空を飛ぶ能力の意味は理解してる?」
 「・・・そのままの・・・ヅヅーッ、意味じゃない、の」
 「それも正解だけど、この能力にはいろいろな解釈があるのよ。私が大切に思う解釈はね、重力に縛られない、つまり何事にも縛られない心のことだと思うの。巫女だったころのあなたはふわふわしていたわ」
 「あっ・・・」

 パチュリーも同じこと言ってた。

 「今のあなたは焦りと嫉妬という重力に縛られすぎなの。もっと軽く心を持って。でもね勘違いしないで欲しいの。あなたは巫女に選ばれたといっても人間であることには変わりない。焦りや嫉妬、そのほかの負の心は心のバランスをとるのには必要な重力。私が言いたいのはね霊夢、能力は上手にコントロールすることが大切ってこと。重力に縛られすぎず、忘れすぎず、上手に空を飛ぶことが巫女であることの条件よ」

 ぽんっと優しく霊夢の背をたたく。

 「あなたはスペルカードルールを作って幻想郷を楽しくしてくれた」

 ぽんっ

 「あなたは霧の異変を解決した」
 
 ぽんっ

 「あなたは春を取り戻した」

 ぽんっ

 「あなたは萃香を幻想郷に迎えてくれた」

 ぽんっ

 「あなたは本当の満月を取り戻してくれた」

 ぽんっ

 「あなたは花の異変を解決した」

 ぽんっ

 「あなたは新しく来た神に幻想郷に馴染むキッカケを作った」

 ぽんぽんっ

 「これだけのことをやり遂げたあなたなのよ。歴代最高の巫女になることはこの大妖怪、八雲紫の名にかけて保障するわ。時間の問題って言っても私から見てのこと。あなたにはまだまだ時間があるのよ。人はね、若いうちは何度でもやり直せると思うの。一度二度失敗したからって簡単にあきらめちゃだめよ?」

 コクッ

 紫の胸の中で霊夢はしっかり頷いた。

 「それとねもう一つアドバイスするなら、世の中のことはあらゆる方向から見てみることが大切。人間関係なら相手の立場になって考えることで見えるものが違うはずだわ。がんばって素敵な巫女さんになるのよ。霊夢」
 「・・・紫、ありがとう」
 「いいえ、どういたしまして」

 どうやら霊夢は大丈夫そうだ。
 これからは今まで以上に逞しく健やかに成長してくれるだろう。
 いつも儚く死んでしまうけど、強く逞しく成長する人間を紫は愛しいと思った。

 「・・・紫」
 「なぁに、霊夢?」
 「あんた、いったいいくつなのよ」
 「もうあいかわらずの減らず口ね」

 ぽんっと霊夢の頭を紫は優しくたたいた。




 その後の博麗の巫女さんは、少し真面目に活動するようになった。
 前より頻繁に人里に訪れては、なにか異変がなかったかを訊ね、妖怪退治の仕事もがんばっているという。
 また、人々が博麗神社までの獣道が怖いという意見を聞いて、最近は道を通りやすくしているとか。
 そして仲間達とは宴会、馬鹿騒ぎと楽しくやっているようである。
 その姿はどこかふわふわしていて、けれど親しみやすさがあった。




 八雲紫は倉庫の前に一人立っている。
 あの後歪みは紫によって修復されていた。

 「しかし霊夢も抜けてるところがあるのね。嘘にひっかかるなんてまだまだカワイげがあるわ」

 そう言うと紫は扉の取っ手を取り「引いた」
 すると扉はすんなりと開いた。
 そう、この扉は引き扉なのである。いくら霊夢が押しても開かなかったのはそのためだ。

 「この扉、防御の結界は施してあっても開けない術なんてかかってないわ。霊夢は焦っていたせいで気がつかなかったのね」

 そう、紫はこのことを利用して霊夢にお灸をすえようと画策し見事成功したというわけであった。
 ちなみに焼け爛れた手は紫の演技。
 霊夢は元々博麗の巫女の資格を失っていないのである。

 「あの子が成長して、騙されたと気がついた時にはこの財宝は必要ないんでしょうね」

 倉庫の中には確かに金銀財宝がある。しかし、紫が目にしているのは歴代の博麗の巫女達が人々からもらった感謝の手紙、絵がしまわれている箱だった。

 「霊夢の場合は人だけじゃなくて、妖怪からも貰いそうね」

 その光景を想像して紫は微笑んだ。




 博麗の巫女は貧乏なのか?
 答えは今現在貧乏。でもこの先は判らないわ。
 でも将来あの子はがめつくなくなっちゃうんでしょうね。
 ゆかりんなんだか淋しい~
 でもそれが成長するってこと。
 最期に加齢臭が!って思った奴
 今日は気分がいいから見逃してあげるわ。




 


 

 








 
どうもゴウテンです。
SSはこれで第三段目となります。
最初は前作みたくギャグにするつもりだったんですが、オチがあんまりなことになったので今回の内容へと修正しました。
しかし、今回のは感動系なのだろうか?
まだまだ精進しないと!
次はパロディ系がギャグものを書いてみたいな~と思っております。
それでは皆さんノシ
ゴウテン
[email protected]
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.2330簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
この紫様は加齢臭でも少女臭でもねぇ、華麗臭がする紫様だ!!

面白かったです|д・)ノ
5.80名前が無い程度の能力削除
>殆んど、おえなかった、アドアイス、クラッチングスタート、巫女じゃなくなったて

ゆかりんがお母さん属性発揮してるよww良いですねぇw
6.無評価ゴウテン削除
素早い感想と誤字の指摘ありがとうございました!!
7.80幻想入りまで一万歩削除
紫が霊夢のお母さんでいい気がしてきた。
8.90名前が無い程度の能力削除
後半の展開に、ジーンときました。

ゆかれいむ万歳!
9.90てるる削除
はじめっからゆかりんがなんか裏でやってるなぁ・・・・とは思ってはいましたが・・・・
まさかここまで古典的かつ基本なやつを引き合いに出すとは・・・;

たまにはこういう、母親的なゆかりんもいいですよね~
11.90じう削除
イイハナシダ…(;∀;)
誤字がありましたので、表示しときます。
合唱
14.80飛び入り魚削除
これはいい。ギャグ一辺倒かと思いきやガラリと雰囲気変えてくるとは。
うまく言葉にできないけれど「いい」お話に思えた
15.80☆月柳☆削除
なんというか、まさかのシリアス展開?!
でもシリアス部分より印象に残ったのが、最初と最後の紫と中盤の咲夜だった自分は、どこかずれているのだろうか。
楽しませていただきました。
16.90名前が無い程度の能力削除
こういうギャグとシリアスが上手い具合に混じった話は大好きです
ゆかりんがいい味だしてますな
17.70名前が無い程度の能力削除
神社としては、引き戸が普通じゃないかと

さて、特上寿司でも持ってきますか
21.100時空や空間を翔る程度の能力削除
言葉が出ない・・・
あまりにも素晴らしい作品です。

何代にも渡って博麗の巫女を
紫さんは暖かい眼差しで見守っていたのですね。
優しき母性愛です。「改めて惚れ直しました」紫さん。
22.90名前が無い程度の能力削除
ゆかりんがお母さんっぽくていいなぁ
23.80ななーし削除
シリアスに持ってくるとはおもわなんだwでもいい話でした

誤字発見
スペルカードルールーを作って
24.無評価ゴウテン削除
はわわ!いつのまにか千点越えてる!!
こんな未熟な作品を最後まで読んでくださる皆様には心からの感謝を。
誤字の指摘は本当に助かりますw
投稿する前にチェックはしてるんですけど、誤字が多い!そして気がつかない自分!!(⑨だからか?)
なにはともあれ精進しないと。
ちなみに自分がゆかりんを書くとかっこよくなって、咲夜さんは変態っぽくなる傾向が強いみたいです。
28.無評価名前が無い程度の能力削除
あれ、霊夢がスペルカードルール考案したんでしたっけ??
30.90名前が無い程度の能力削除
語り部の紫すごくいい。
31.80三文字削除
加齢臭良いよ加齢臭。そして漂う華麗臭。
お母さんなゆかりんは良いモノだ。
32.90名前が無い程度の能力削除
前半のコミカルな流れから後半のシリアスな流れへの切り替えがすばらしい。いやいや、面白かったです。次回作、楽しみにしております。
33.100名前が無い程度の能力削除
これはステキな話ですね。(’’
これからも幻想郷はにぎやかですね。
34.90名前が無い程度の能力削除
読んで爽やかな気持ちになれました
こういう暖かい話はいいですねー
35.70削除
こういうお話好きですわ~

>博麗の巫女意外…
以外では?
36.無評価ゴウテン削除
なんてこった~
二千点越えとか嬉しすぎる!
皆さんありがとうございます!
一応誤字の指摘があった場合はちょくちょく直しているんですが、本当に多いorz
自分の作品で読んでくださった皆様の心が少しでも癒されたのなら幸いです。
スペルカードに関してですが、ルールの導入をしたのは霊夢説がほぼ確実だと思います。でも考案したのが霊夢かは解らないです。
この作品ではこの設定ということでご理解していただけると助かります。
それではでは!ノシ
41.80名前が無い程度の能力削除
いい話だな~。
引き戸に気付かないとは抜けてるなぁw
それだけ必死だったってことかな。
45.80名前が無い程度の能力削除
これはいい!
48.90削除
押してダメなら轢いてみろ。じゃなかった引いてみろ。昔の人はいいことを言ったもんだ。

>「ちょっと頭冷やそうか?」
ゆかり繋がりか!
50.70名前が削除
オチは読めてたけどなかなか。
ちと二次ネタがもったいなかったのでこの点で。
51.100名前が無い程度の能力削除
霖「1次設定でお金があるならとっととツケ払ってくれないかな。」
56.100名前が無い程度の能力削除
これはいいゆかりん
73.90名前が無い程度の能力削除
ゆかりつながりに納得
75.90名前が無い程度の能力削除
紫よりも先に霊夢に寿司を届けていれば…!