※この話は「風祝と紅魔館・序章 ~風祝と白狼天狗とか⑨とか~」(作品集51)の続編に当たります。
※前作を読んでいない方にはお手数ですが、読んでいないと話が繋がらなくて意味不明になるのと、早苗に軽くショックを受ける可能性がありますので、眼を通していただけるようお願いします。
紅魔館の門の前で倒れていた人物は、今にも消え入りそうな声で私に声を掛けてきた。
「…霊夢…?…いや、霊夢は紅白だから…。…どちら様ですか…?」
あ、霊夢さんの知り合いですか。いやいやそれも今はどうでもいい。
声もどうも弱弱しい。まさに今にも死に絶えんとする、やっぱり昨日の私と同じような状態だ。
「えっと…私は最近幻想郷に移住してきた、東風谷早苗と申します。…ど、どうされたんですか…?」
手短に自己紹介をして、とにかく倒れていた事情を聞きだすことにする。いやまあ、どう見ても衰弱しきって倒れているのだが。
「…ああ、私はもうどうなってもいいです…。
…真面目に門番やってたって魔理沙にやられる毎日ですし、咲夜さんには刺されるし、お嬢様には叱られるし、みんな中国って呼ぶし…。
…もう疲れましたよ…。…そもそも紅魔館勤めにはお給料も休暇もありませんし…。
…食事と個室があるのだけが救いでしたが…この間魔理沙にやられた時に「一週間休み完全になし」って言われて…。
…幾ら妖怪でも、ご飯抜きは辛いです…色々無理です…。…私はもう駄目です…。
…ああ、咲夜さん…それでも私は咲夜さんをお慕いしていました…。…生まれ変わったら、今度は同じ人間に…。…えっ?」
…気が付けば私は、彼女の元へ猛ダッシュ。倒れたその手を両手でしっかりと握り締める。
ああ、視界が滲む。私は今泣いている。構う物か、今は泣いていい時だ。いや、泣くべき時だ!
「分かります!!」
私と彼女は同じなんだ!
「私もつい先日…いえ、今でも主に殆ど見放された状態で、何日も食事もろくに出来ずに…!
空腹のあまり殆ど眠れない、ご飯を食べられない、動く事さえ出来ない…!
分かります!その辛さ!!いえ、私より貴方の方が辛いのですね!!分かりますとも!!
ああ、私は今、どうしてあなたを見捨てる事が出来ましょうか!!否、出来ません!!」
ああ、目から涙が滝のように零れ落ちる!
見れば彼女も泣いている。私は彼女の身体を抱き起こす。
「是非お名前を聞かせてください!!」
「…紅…美鈴…。」
「美鈴さん!!まだ希望は捨てては駄目です!!例えみんなが見捨てても、私だけは見捨てませんよ!!」
「…でも、私は妖怪で…。」
「そんなの関係ありません!!万人を救うのは神に仕える者の勤め!!
大丈夫です!!私が何とかして見せます!!これでも昔は現人神と言われた者達の末裔です!!
きっと私の「奇跡を起こす程度の力」は、この時のためにあったんです!!友達を助けるために!!」
「早苗さん…!!」
「美鈴さん…!!」
ひしっと抱き合う私と美鈴さん。ああ、これが友情か!友達と言う物なのか!幻想郷で初めての友との出会いに、私は今猛烈に感動している!
思えば幻想郷に来てから、まともに交流があった人は結構少ない。二桁も人数的にはいないんじゃないだろうか?
ああ、でも、やっぱり友達って素晴らしい!私はきっと、この友情を永遠の物にして行こうと思う!!
すこーん…。
…あれ?何の音ですか?何だかとっても素っ気無い音が聞こえた気がするのですが…。
「…ああ、懐かしいこの感触…がくっ…。」
…ああっ!?美鈴さん!?こ、後頭部にナイフが…!
「美鈴さん!?しっかりしてください!!何で「がくっ」って口頭で…!って!これ八坂様と全く同じパターンじゃないですか!!」
「五月蝿いわね…。その程度じゃ死なないから安心しなさい。」
…ああ、そう言えば美鈴さんは妖怪でしたっけ…。
…って、あまりに自然すぎてうっかりスルーしたけど…。
私は顔を上げる。するとそこに立っていた人物は…予想外にも人間の存在の波動を感じる。
銀髪のメイド、手っ取り早く言えばそれだけで言葉が済む。その手にはメイドに似つかわしくないナイフが数本握られていたが。
「あら、あなたも人間?珍しいわね、紅魔館に霊夢と魔理沙以外の人間が来るなんて。」
それはこっちの台詞なんですが…。何だって妖怪が門番をしている館の中から人間のメイドが…?
まあ、その辺には深く触れないで置こう。何か深い理由でもあるのかもしれないし。
「はい、私は東風谷早苗、妖怪の山の神社で巫女をやっているものです。」
「ああ、あなたが霊夢の言ってた…。私は十六夜咲夜、この紅魔館のメイドよ。」
まあ、メイドって事は見れば分かります。室内でメイド服を着ているメイド以外の人は幾らなんでもいないでしょ。
咲夜…、美鈴さんがポロっと言ってた「咲夜さん」はこの人か…。…厳しそうな人だなぁ…。
「ああ咲夜さん…、…死ぬ前に止めを挿しに来てくれるなんて…。…もう思い残す事は…。」
…冗談ですよね、美鈴さん。
「つまらない冗談は止めなさい。そうそう死なないでしょ何時もの事なんだから。
それと、ひとまずあなたには謝るわ。流石に一週間食事抜きはやりすぎだったわね。
ほら、中に入りなさい、みんなで食事にしましょう。」
訂正、厳しい人であるかもしれないけど、根は優しい人なんだな。美鈴さんが慕うのも良く分かる。
…ただまあ、気のせいか謝罪の前にとんでもない言葉が聞こえた気が…。
と、その言葉を聞いて、少しずつ目に輝きを戻していく美鈴さん。流石に今の言葉は嬉しかっただろう。
「は、はい!ありがとうござい…。…あっ…。」
…しかし、そのまま起き上がるかと思えば、片手を地面についた姿勢で止まってしまった。
そして何か恐る恐ると言った感じで私の方を見る。…えっと、私がどうかしたんですか…?
すると咲夜さんは額に手を当て、はぁと小さくため息をついた。
「…まあ、6日間ほったらかした事は謝らないといけないし、久々の霊夢たち以外の人間だしね…。
早苗、だったわね。あなたも入りなさい。一人増えただけならたいした支障は出ないわ。」
…ああ、私は今ほど人の優しさ…いや、感情を持つ者の優しさを痛感した事はない。
美鈴さんも咲夜さんも、本当に優しい人です。感動しました。
自分の至らなさ、友情の素晴らしさ、人の優しさ、幻想郷は私に大切な事を色々と教えてくれる…。
八坂様に幻想郷移住計画を聞いた時は、本当に不安だったが…。…素晴らしいところです、幻想郷は。
…それにしても、美鈴さん6日間も頑張ってたんだ…。…心中お察しします。
…あれ?そう言えば何か忘れてる気が…。…まあいいか。
「「ああっ!食事って素晴らしい!!」」
私と美鈴さんの声が見事にダブる。まあ口調も状況もそこそこ似てますし。
紅魔館の食事に急遽招待された私は、数日振りのまともな食事、年単位ぶりの洋食に、生きているって素晴らしいと言う事を実感させられていた。
…って、美鈴さん、未だ後頭部にナイフが刺さってるけどいいんですか?死にはしないでしょうけど痛くないんですか?
「いや、もう慣れましたから。」
それはある意味恐いです。
「で、そう言えばどうしてあなたはこんな所に?」
一緒に食事を取っていた咲夜さんが私に尋ねる。
ああ、さっき忘れてたと思った事は、きっと本来の目的の事だったんだな。
…それを忘れるのもどうかと思うが…、…それに、まだ何か忘れてる気が…。
…まあいいや、忘れるくらいなんだから大した事じゃないんだろう、本来の目的は思い出せるくらいだったんだし。
…咲夜さんが言わなかったら、とは突っ込まないでください。
「はい、実は…。」
私は今までの状況をかいつまんで話す。ただし八坂様があれな事は出来るだけ誇張して。ささやかな復讐です。
そうすれば美鈴さんの目には一筋の涙が…。「分かります分かります」と言ってくれたのが心に染みた。
…後々気付いたのだが、この時私はさっき忘れてたと思った事を思い出せなかった自分を心底凄いと思った。
…いや、凄いと思っただけですけど。
「ふぅん…。要するにアルバイトを探して霊夢に相談したら、ここを紹介されたと…。」
「まあ、手っ取り早く言えばそんな感じです。」
「これ以上早く言いようもない気はするけど…。」
そう突っ込んで、咲夜さんは思案顔をする。
その間は私は黙々と食事を続ける。美鈴さんはもう食べ終わっていた。話が長すぎただろうか?
…あれ?でも私が話している時は手は動いていなかったような気が…。
「…そうね、もし覚悟があったら、なんだけど…。」
そんな私のどうでもいい疑問は、その声に遮られる。自分でどうでもいいと思えるのだからまだマシだろう。
「…どうせ他のメイド達は殆ど役に立たないし、まあ人間を雇うって言うのも新しいかもしれないわね。
どう、働いてみる?短期バイトなら給金はそれなりに出すわ。それに…」
と言って、咲夜さんは私から少し目線を外す。
私も釣られて目線を移せば、そこにはまるでショーウィンドウに張り付く子供のような目つきの美鈴さんが…。
…あの、容姿がある程度大人っぽいため、少し微妙な目の輝きになってるんですが…。
「美鈴がそこまで興味を示す人も珍しいからね…。」
…本当に、持つべきは友達です。
別にアルバイトが出来るなら、基本的には何処だって関係ない。まあ周りに人間がいるかどうかの差はあるが…。
別に死ぬような環境ではないらしいし、まあちょっと和風離れしてしまうが、別にそれ位は問題じゃない。
別にどんな仕事をしたいと言う希望があったわけでもないし、お給料が出るなら何の問題もない。
このように「別に」と3回続けただけあって、これは本意と言うわけではない。
私がこの5秒後に首を縦に振る結果となった最たる理由は、やっぱり、なんと言っても…。
「美鈴さん、一緒に頑張りましょう!」
隣で期待の眼差しを向けてくれていた、親友暦一時間の親友だった。
…あれ?そう言えば「覚悟があったら」ってどういう事?普通こういう時は「やる気があるなら」ですよね?
…覚悟があったら、の意味はその数十分後に理解する事となった。
「それじゃ、お嬢様に紹介するから付いて来て」と言う咲夜さんの言葉のもと、私は広い屋敷の中を歩き出す。無論美鈴さん同伴。
それにしても、館は広かった。外から見た感じはまあ、小さいとは言わないが巨大と言うほどでもなかった。
しかし今館の中を歩いてみれば、何だか見た目と実際の距離がかみ合わない気がする。どういう事だろうか。
まあ、見てくれだけで中身が分かる訳ではない。実際に歩けば意外と長いなんて事は良くある事だ。気にする必要はないんだと思う。
「まあ、実際はちょっとしたタネがあるんですけどね。」
横を歩く美鈴さんがそう告げた。あれ、声に出してなかったんですけど…。私って顔に出やすいのかな。ナイフの事もそうだったし。
…って、まだナイフ刺さってますよ!?いい加減抜いたらどうですか!?
「さあ、着いたわ。美鈴は用はないだろうからここで待ってなさい。」
目の前に立つ一際豪奢で大きな扉。成る程、主人が住むというなら良く分かる。扉だけで分かるのだから凄い話だ。
美鈴さんは元気よく「はい!」と、何故か敬礼付きで一歩下がる。
本当なら横に居てくれれば安心するのだが、まあここまで一緒に来てもらったのだ。
ここからは私が頑張らなくてはいけない。何時だって隣に誰か居てくれるわけじゃないんだ。
…あれ、隣に誰か…?…何か引っかかる…。
「お嬢様、失礼致します。」
しかしその疑問は、咲夜さんの一言で何処かへと消え去る。
見れば扉の前で一礼し、紅く大きな扉が、咲夜さんによって開かれていく。
今一度美鈴さんを一瞥すれば、強気な笑顔で頷いてくれた。何よりの力です、美鈴さん。
そうして、私は部屋の中へと進む。館内もそうだったが、部屋の中までもとにかく紅い。
紅魔館、と言う名も納得がいく。となると、そこの主は…。
「へぇ…、珍しいじゃない、咲夜。霊夢達以外の人間を連れてくるなんて…。」
何処か幼さを含むが、それを差し引いても風格漂うと言うか、威厳のある声が響く。
声の方に目を向ければ、広い部屋の真正面の奥。ベランダ…テラスと言った方がいいだろうか?とにかくそこに佇む、日傘を差した一人の少女…。
…薄い赤の服に薄い赤の帽子、それと対極な薄い青の短髪…。
…そして、何より私が目を見張ったのは、その背に生えた巨大な黒い羽…。
「…食料、かしら…?」
…私の背筋が凍りついた。
顔半分だけ振り返った彼女のその鋭き紅い眼、それを見た瞬間に感じられた、尋常でない狂気、殺気…。
強い、私が知っている限りの者でもトップクラス…八坂様にも匹敵する…いや、それ以上でもおかしくない。
少なくとも、普通の人間…いや、私のように特別な力を使える人間だって、まともに戦っても勝てる相手じゃない。
私も自分の力には多少なりとも自信を持っていたが、そんなものはこの者の前では塵芥に等しい。本能がそう告げる。
…幻想郷には、こんな危険な者たちが他にもいるのか…?
「レミリア様、お戯れが過ぎます。人間は襲わないとの契約でしょう。」
咲夜さんがそう告げると、不意に私の身体が軽くなる。狂気が、殺気が、全て消え去った…。
レミリア…。…そうか、レミリア・スカーレット…。
霊夢さんや魔理沙さん、それ以外にも以前一度里に下りたときや布教を行った妖怪からも、その名を聞いた事がある。
湖の館に住む紅い悪魔。運命を操る吸血鬼。そうか、ここがその紅き悪魔の館だったのか。何故紅魔館の名前を聞いた時に気付かなかったんだろう。
なるほど、館に異様に窓が少なかった気がしたのも、八坂様に匹敵するほどの力を持っているのも、彼女が吸血鬼レミリアならば納得がいく。
…ちょっと、拙いかもしれない…。…って、霊夢さんはこんな危ないのまで退治していたのか…。…それは私では勝てないわけだ…。
「(恐がる事はないわ、ああ言っているけれど、幻想郷ではお嬢様は人間は襲えない事になってるから…。)」
と、小声で隣の咲夜さんが呟く。その言葉で、肩も少しだけ軽くなる。
頭の中でレミリア・スカーレットに関する記憶を掘り返してみれば、確かに危険な存在であるとは聞いているが、人を襲ったと言う事は一度も聞いていない。
…とにかく落ち着こう。動揺すれば、余計に印象を悪くする。
「今日から働く事になった人間です。ほら、とりあえず挨拶を。」
…とりあえずでいいんですか?
「えっと…守矢神社で巫女をやっている、東風谷早苗と申します。」
とりあえず程度の自己紹介をしておいた。
「ふぅん…、…巫女…、…霊夢の事は知ってるの?」
テラスから覗く青空を背に、レミリア…。
…な、なんて呼べばいいんだろう。呼び捨ては出来ればしたくないし、さん付けにするにも見た目が…。
と、とりあえず今は無視しよう…。
「はい、霊夢さんなら以前色々ありましたし、同じ巫女と言う事もありますから…。」
変な事を考えたお陰で頭は落ち着いたみたいだ。わりとスラスラと言葉が出てくる。
…ただしまあ、彼女を半ば力ずくで守矢神社に従属させようとして、返り討ちにあったとは流石に言えない。
と、彼女(レミリア)はそれを聞いて、少し考え込む顔をしながら日傘をたたむ。無論部屋に入って。
「…そうね、霊夢の知り合いなら、追い出したら文句言われそうだし…。」
いや、彼女にそんな仲間意識(?)があるとは思えないんですけど。
「メイド妖精たちもあまり働かないしね。いいわ、働いてもらいましょう。」
…とりあえず一安心だ。数日間しかいないだろうけど、とりあえずアルバイトが出来るならそれでいい。
たぶん私の顔も少しだけ緩んでいた事だろう。隣の咲夜さんも少しだけ安心したような表情をしていた。
「で、どうでもいいんだけど、何処で働かせる心算?」
と、レミリア様(この時点で一応主人だからこう呼ぶ事にする。普段「様」で呼び慣れてると楽だ)は問いただした。
…ああ、それは確かに気になる。館の掃除とかだろうか?…この広い館の掃除はちょっと嫌だな…。
「ええ、それが問題なんですよね。」
…妙な反応を起こさなかったのは、私の長年の修行の賜物だろうか。
決めてなかったんですか!て言うか要するに人手は足りてたって事ですよね!?
「いえ、単純に掃除や料理なんかは全部私一人でも事足りるからよ。私の能力は他人には影響しないしね。」
私また顔に出てたんですか!?いやいやそんな事はどうでもいい。
「この館を一人で掃除なんかできるんですか…?」
出来るだけ落ち着いた口調で、率直に疑問を述べる。
すると咲夜さんもレミリア様も、一体何が不思議なのかと言う顔をする。いえ、不思議でしょうがないんですけど。
「まあいいわ、図書館はあの子(こぁ)が適任でしょうし、フランの相手をさせるには流石にバイトじゃ拙いでしょうね。」
「そうなんですよねぇ…。他には庭の手入れとか…。…いや、無理そうですね。」
ああ、ちょっと酷い事言われた気がする…。
でもまあ、ここが洋館だと言う事を考えれば、私が巫女である事を考えれば納得いく考えではある。
私が庭の手入れなんかをやった日には、洋館の庭だけ和風と言う、わけの分からない状況になりかねない。
「…とりあえずそれは後で考える事にします。」
「そうして頂戴。私はもう寝るわ。昨日の昼間は起きてたから眠くてしょうがないの。」
欠伸を一回し、レミリア様はさっさと紅いベットへと潜り込んでしまう。
…この辺りは、やっぱり見た目相応の幼さが見える。先ほどの殺意が嘘のようだ。
「さあ、私達も行きましょう。とりあえず出来そうな仕事を探すわ。」
咲夜さんにもそう言われ、私は部屋を後にする。お互いに一礼を忘れずに。
部屋の外に出ると美鈴さんはまだそこで待っていてくれた。本当に安心した瞬間だ。
…部屋の扉が閉まると同時に、私はその場にへたり込んだ。やっぱり辛かった、色々と。
「………。(咲)」
「それでですね、八坂様ときたら私に1人で妖怪の山に行けと…。(早)」
「ううっ、苦労されてますね早苗さん…。(中)」
………。
「………。(咲)」
「美鈴さん…。ああ、やっぱり私達が出会ったのには意味があるんですね…。(早)」
「早苗さん…。…友達って、こんなにも素晴らしいんですね…。(中)」
「…あんた達…!人が色々と考えてるときにぃ…!!」
ざくっ…。
…えっ…?…何か腕が痛い…!ってぇ!!!
「刺さってる!!ナイフ刺さってる!!血が!血があぁぁぁ!!」
「五月蝿いわね。そこの中国に比べればマシなんだから我慢しなさい。」
そ、そんな事言われても痛いものは痛い!私は人間なんだって…。
…えっ…?…そこに転がってるナイフの山は…。
「きゃああぁぁぁ!!め、美鈴さん!!何でそんなハリネズミみたいに!!」
「その程度じゃ死なないから安心しなさい。伊達に妖怪じゃないわ。」
そ、そんな事言っても!背中だけでも五十本以上刺さってるのに、その密度で裏面全体に…!
…あれ、そう言えば一瞬でこれだけのナイフをどうやって…?
何だかもう、本当に美鈴さんに比べたらナイフ一本がマシに思えて、痛みが少しだけ遠のいてしまった。
「ううっ…痛い…。」
痛そうではあるが、なんだか転んだ程度のようにあっさりと起き上がる美鈴さん。私は妖怪の耐久力をちょっと甘く見すぎていたのかもしれない。
美鈴さんがナイフを一本ずつ抜くたびに血が吹き出て…。…うっ、ちょっと流石に気分が…。
「あれ?早苗さんどうしたん…!さ、早苗さん血が!顔色も悪いですよ!咲夜さん!早苗さんにまでナイフ刺さなくてもいいじゃないですか!」
そしてまた、彼女の額にナイフが刺さる。
…ああ、でも私は今本当に泣きそうになった。美鈴さんが私のために、咲夜さんに突っかかって…。
美鈴さんは咲夜さんのことを尊敬しているはずなのに…。…本当に、友情とは素晴らしい…。
「早苗さん、腕を出してください。痛いかもしれませんけど、我慢してくださいね。」
そう言って、私の腕に刺さったナイフを掴んで…。っつ…!
引っこ抜く。痛かった。うっすらと視界が滲んだ気がする。それでも、彼女は真摯な眼差しのまま、私の傷口に手を添えて…。
「はっ!!」
気合いを入れたように声を上げたと思えば、まばゆい閃光が彼女の掌から放たれる。
私は目が眩んで、数秒間目を閉じていたが、その間に確かに感じていた。
暖かな光、引いていく痛みを…。
光が止んで目を開ければ、安堵の表情を浮かべる美鈴さんの顔、そして何事もなかったかのように傷が塞がっている私の腕…。
「め、美鈴さん…。」
「私の力は「気を使う程度の能力」です。気とは「気孔」の事で、主に中国で使われている拳法の一種です。
人間でも妖怪でも、身体の中には「気」が流れています。それを操る事で、傷の回復を早めたりも出来るんです。」
…凄い…!
私の「奇跡を起こす程度の能力」は、魔理沙さんの「魔法を使う程度の能力」と同じような、魔術的な能力だけど…。
それでも、相手の体に影響を及ぼす事は出来ない。自然に干渉する攻撃的な能力だ。
だけど美鈴さんの能力は、気を操ると言う事は攻撃と回復の両方…。
…本当に、幻想郷の人は凄い…。…私も、ここじゃ全然ちっぽけな存在なんだな…。
「さ、早苗さん…?ど、どうしたんですか?まだ何処か悪いところがあるんですか?」
ふと、私は顔を上げた。そこには、本当に心配そうに私の顔を覗き込む美鈴さんの顔が…。
…しまった…。折角傷を治してもらったのに、私は何を勝手に嫉妬して、勝手に落ち込んで…。
「あ、あはは、な、何でもないですよ。」
これ以上暗い展開にするのも今までの話上どうかと思うので、無理矢理誤魔化しておいた。
「さて、じゃああなたにやってもらいたい事なんだけど…。」
何とか気を取り直して、本来のアルバイトの話を進めることにする。
私達が色々と世間話(?)をしている間に、どうやら配置場所の方は決まったらしい。
「他にも候補はあるけど、とりあえずは美鈴と一緒に、門番をやってみなさい。
まあ、別に合いそうもなかったとしても他の場所は考えるから、固くならなくてもいいわよ。」
…へっ?門番…?…美鈴さんと一緒に…?
「さ、咲夜さん!ほ、本当に一緒にやっていいんですか!!」
私が何か言おうと口を開いた直後、美鈴さんが先に飛び掛かった。
…ああ、でもあの目は、本当に嬉しい。美鈴さんの表情は物凄く輝いていた。
「構わないわよ。別に一人じゃないといけないって言う規則もないし、こればっかりは大いに越した事はないわ。
…ただし、万が一話し込んでて魔理沙達の侵入を許してごらんなさい。今度こそ一週間外に放り出すからね?」
…最後の言葉にはやたら凄みがあったが、言わんとする事は分かる。門番は門を守る人なんだから、数が多ければ防衛率も上がる。
それならば、張り切ってやろう。いきなり来た美鈴さんとの共同作業(?)だ。
足りないトコを補える“友達”同士になるための、これが第一歩となるように。
「頑張りましょう!美鈴さん!!」
「はい!早苗さん!!」
美鈴さんの手をとって、私は即座に駆け出した。
新しい友達と共に、新しい世界を見るために…。
「…さて、中国1人だと門保守率数パーセントだけど、2人だとどうなるのかしらね…。
…あまり期待しないようにしておこう…。…それより…お嬢様はもうお休みになられたかしら…。」
* * * * * *
「……。」
「……。」
……。
「…退屈…ですね…。」
「…そのうち慣れますよ。そのうち…。」
この退屈さに慣れてしまっている美鈴さんが本気で不憫に思えた。
勇んで門番の仕事についたのはいいのだが、はっきり言って暇だ。やってることは門の前に座ってるだけである。
景色を眺めるにも、先ほどから何故かやたらと霧深くなってしまっていて、湖の畔が少し見える程度。
ああ、こんな事ならDSでも持ってくればよかった…。
「…門番の仕事って、普段はどうなんですか…?」
何となく答えは想像出来ていたが、話題が無いのも辛いので聞いてみた。
「…基本はずっとこんな調子ですよ。数日に一回魔理沙が襲撃に来る程度です。」
会話が終わってしまった。
さてどうしたものか。幾ら友達とは言え、話題がなくては話が弾むとか言う以前の問題だ。
幻想郷に来る前だって、私は家の都合から交友関係はあまり広くなく、こういう時どういう話をするのかを正直良く知らない。
さて困った。何か遊ぶにもトランプがあるわけではない。周りに有るのは霧と湖だけだ。
…待てよ、湖か…。
「…?どうしたんですか?早苗さん。」
美鈴さんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
ああ、ちょっと思案顔になりすぎていたかもしれない。ただ、真面目に考えたお陰で意見は纏まった。
「…釣りでもしませんか…?」
何故か美鈴さんの表情が固まった。
「…で、でもどうやって釣りなんて?道具はありませんし第一この湖に何がいるのか…。」
釣りをする事に反対しなかったのは流石だと思う。絶対そこから議論になると思ったのに。
まあいいや。時間の無駄にはならなくていい。
ただ、やっぱり道具に関しては少し頭を捻る必要がある。紅魔館中探せば釣竿を作るだけの材料はあるかもしれないが、それでは時間が掛かりすぎる。
「咲夜さんに時間止めて買ってきてもらいますか?」
「恐ろしい事を気軽に言いますね。すみませんけどそればっかりは私は参加しませんので。」
あっさり拒否された。
「紐はあっても釣り針が問題か…。…とりあえず何かないか探してみますか。」
紅魔館の周りにそんなものが落ちてるとは思えないけど、まあ何もしないよりは遥かにマシだ。暇つぶしにはなる。
それに、きっと私の「奇跡を起こす程度の能力」が何かを起こしてくれるかもしれないし。これフラグですよ。
彼女もまあ、半ば呆れたような表情はしたものの、その辺を探す程度なら仕事に支障はきたさないと、早速行動を開始した。
「あれ?このケースは…?」
と、探し始めてから数分もしないうちに、美鈴さんが何かを発見したようだ。
私が探すのを中断して彼女の元へと駆け寄れば、彼女の手には何だか黒くてやたらと、具体的には釣竿ぐらいの長さのケースが…。
「露骨過ぎますよ!!」
うん、言葉に出さずとも突っ込みを入れてくれる美鈴さんの友情に深く感謝。いい加減考えが表情に出やすいのには慣れてきた。
友情どうこう関係なくない?とは突っ込んではいけないのですよ。
「まあまあ、とにかく開けてみましょうよ。幾らなんでもいきなり爆発はしないでしょう。」
「…そういう時に限って爆発したりするから止めてください。」
美鈴さんは少しだけ眉を顰めたが、特に躊躇いなくケースを開く。
そして…。
「どかーんっ!!」
「わひゃあぁぁ!!!」
竦み上がった。それはもう見事なぐらいに。
爆発フラグを立ててしまったがために、簡単なイタズラへの警戒を怠ってしまいましたね、美鈴さん。
「わ、悪い冗談は止めてください!心臓飛び出るかと思いましたよ!!」
「妖怪でも心臓飛び出たらやっぱり死ぬんですか?」
「当たり前…!…なんですかねぇ…。…咲夜さんに心臓刺された事もあるし…。う~ん…。」
真面目に考え始めてしまった。
その間に、私は彼女が開けたケースの中を覗きこむ。
中には…。…釣り針が2本入っていた。
「これだけでかいので中身釣り針2本だけ!?どれだけ無駄遣いしてるんですかこのケース落とした人!!」
美鈴さんの鋭いツッコミが入る。
「きっとあれですよ、釣り針以外の者はもう誰かが抜き取って、これだけ放置したんじゃないですか?」
「いやこれ釣り竿のケースですよね!?針だけ要らないってどういう状況ですか!?」
「糸だけで釣りをしようと思ってた物好きとか…。」
「どれだけ物好き!?そんな人聞いたこともありませんよ!!そもそも根本的な問題として、何でこんな物が此処に!?」
「そうですね…。…ああ、ひょっとしたら私の「奇跡を起こす程度の能力」かもしれませんね。これも一種の奇跡でしょうし。」
「なんて如何でもいい奇跡!!」
「いやはや、ひょっとしたらもっと凄い奇跡も起きるかもしれません。能力は使いようって事ですね。」
「明らかに使い方間違ってますよ!!もっと役に立つ事に使いましょうよ。」
「宝くじにとかですか?」
「駄目です!!使っちゃ駄目です!!早まっちゃ駄目です!!」
「○次元ポケットが落ちてるとか…。」
「虚しい奇跡ですね!!夢はあっていいですけど!!」
「ネス湖でネッシーを見つけられるとか…。」
「見つけたいんですか!?探しに行くなら是非私も連れてってください!!」
「富士山が噴火して、溶岩に呑まれても生きてられるとか…。」
「奇跡ってレベルじゃねぇぞ!!」
「て言うか全部知ってるんですね美鈴さん。幻想郷に来る前は何やってたんですか?」
そんな他愛もない会話をしつつ、結局数分後には2人で釣りを開始する事になった。
「……。」
「……。」
所謂体育座りで竿を握りながら、私は空を見上げていた。なんとご都合主義か、さっきまであれだけ立ち込めていた霧はもう晴れている。
雲が穏やかに流れている。今日は本当に清々しい。
雲一つない晴天が清々しいと思う人が大多数だろうが、私は少しばかり雲があった方が清々しく思える。
風に流されてゆっくりと流れていく雲を見ていると、何だかとても気分が落ち着く。これは風祝としての特性なのかな。
「…平和ですねぇ…。」
ふとそんな言葉が漏れる。無意識のうちに横で同じ体勢を取っている美鈴さんに問い掛けたのだろう。
「…そうですねぇ…。…竿の方も平和ですけどねぇ…。」
…そんな言葉が返ってくる。何だか嫌味を言われたみたいだ。
因みに竿は木の棒で、糸はその辺に落ちてた蔦を使っている。どうしてこれで湖に沈むのかが不思議だ。
まあ、釣れないのは仕方がないかもしれない。何せさっき言ったとおり、今日はかなり天気がいい。
基本的に釣りと言うのは魚に警戒されては意味がない。つまり魚の視界が良いと、それだけ連れる確率も下がってくる。
だから釣りをするには、曇っている日が一番最適らしい。って誰かが言ってた。
「…まあ、こう言うのは静かにじっと待つものですよ。そのうち当たりますって。」
「…そうですね。このまま静かに終わってくれればいいんですけどね…。」
何処か遠い目で、美鈴さんはそう呟いた。
何かあるのかと聞きたかったが、思い直せば今はあくまで門番の仕事中だ。
要するに何時誰が訪問(強襲)してくるのか分からない。このまま何事もなく、という彼女の願いなのだろう、今の言葉は。
それを察した私は、それ以上は声を出さずに、また目線を空へと戻した。
変わらず、そこには青い空とぽつりぽつりと浮かぶ白い雲がある。そんな数分で変わってもらっても困るが。
…平和だ。やっぱりそう感じる。秋も深まる今の季節、あまり鳥の鳴き声は聞こえないが、それがかえって冬の静けさを演出している。
のんびりと、のんびりと…。…ちょっと寒いなぁ…。
…やっぱり幻想郷は静かだ。
幻想郷は妖怪が沢山すむ世界だと聞いていたから、正直もっと騒がしいところだと思っていた。いやまあ、妖怪の山も深いところはそこそこ五月蝿いが。
しかし、今のこの場は、私が想像していたものとは全く違う世界。外の世界の喧騒も、飛行機が飛ぶ音なんかも、車が走る音もない。静かな所だ。
…少しだけ、寂しくはある。外の世界にそこまで執着があった訳でもないが、今でも少しだけ、あの騒々しさが懐かしくもなる。
でもやっぱり、私は幻想郷が好きになれる気がする。元々静かに暮らしていた人間だ。こう言う環境の方が適しているのかもしれない。
そうだ。どちらにしたって、私は幻想郷で生きていかなければならないのだ。幻想の人間として。
もっと頑張って、人間だけでなく妖怪とも、妖精とも、全ての幻想郷に住む者と、私は暮らしていこう。
私にもそれが出来る事を、横にいる美鈴さんという、妖怪の友達が教えてくれたから。
「…おっ、おおっ?」
私が美鈴さんに目を向けた瞬間、そんな小さな声が上がった。
見れば彼女の竿の先がぴくぴくと動いている。
「当たりですね!落ち着いて竿を引いてください!」
落ち着いて、と言ってる割に、どうも私のほうが落ち着いてないみたいだ。
しかしまあ、やっぱりこの瞬間は緊張する。釣れるか否か、それは大げさに言えば天国か地獄かだ。
それは美鈴さんも同じらしく、その顔は緊張して固まっているようでは有るが、それと同時にいい笑顔を浮かべている。
「…せいっ!!」
美鈴さんの掛け声と共に、竿が一気に引き上げられる。
釣り上げたオレンジと白の鮮やかな色をした魚は、ばたばたと活き良く地面を跳ね回った。
「おっ、クマノミですね。湖の底にイソギンチャクでもいるんでしょうか。」
「食べられますかね?」
「駄目ですよ美鈴さん、釣りはキャッチアンドリリースが基本…おっと、私の竿も…。」
美鈴さんがクマノミをリリースするのを横目で見ながら、私もぴくぴく動く竿を引き上げる。
私の竿に食いついていたのは、鰭が羽のように広がった鮮やかな色の魚だ。
「ミノカサゴですね。結構美味しいらしいですけど、毒をもっているので気をつけてください。」
「早苗さんよく見ただけで分かりますね。魚が好きなんですか?」
「いえ、まあ結構特徴的な魚なので図鑑か何かで見たのを覚えて…あ、美鈴さんまた引いてますよ。」
「えっ…?ああっと!!」
急いで竿を引き上げる美鈴さん。その先にはまるまるとした、傍目では結構可愛い魚が。
「おお、フグですね。美鈴さん釣りの才能ありますよ。」
「そ、そうですか?…あ、ほら早苗さんも。」
「あっと、…お、ヒラメですね。底の方まで針が落ちてたんでしょうか。」
「早苗さんも凄いじゃないですか。…あっ、また掛かって…せいっ!!」
「おっと、今度はアンコウですか。小さめですから一般的なクツアンコウでしょうか。」
「…早苗さん。」
「なんでしょうか?」
「そろそろ突っ込んでいいですか?」
「駄目です。」
「これ全部海で釣れる魚のような気がするんですが!?」
むぅ、駄目って言ったのに…。
一応海で釣れる魚だと言う事は知ってるんですね、美鈴さん。
「そうですね、川や湖で釣れる魚ではありません。クマノミ以外は海の幸として有名ですから。」
「いやここバリバリ湖ですから!!幻想郷には海ありませんから!!」
「いいんじゃないですか?魚さんたちも、たまには湖に来たくなるでしょう。」
「なりません!!それ死活問題ですから!!そもそも海がないのにどうやってここに来るって言うんですか!!」
「う~ん…。…ほら、竜巻か何かで水ごと巻き上げられて、ここに降ってきたとか…。」
「クマノミくらいならそれで許しますけどヒラメとかアンコウとかどうやったってその影響受けませんよね!!」
「そうですね、その辺はやっぱり私の「奇跡を起こす程度の能力」でしょうか?」
「早苗さん『奇跡』って言葉使えばなんでも許されると思ってません!?」
「だってそれ以外に説明のしようがありますか?」
「ありませんけど…。…ありませんけどぉ!!」
「だったらいいじゃありませんか。きっと迷い魚たちもここで新しい生活を手に入れますって。私みたいに。」
「…もうなんだかそんな『奇跡』を信じるしかなくなってきましたよ…。」
因みにここの魚たちは、数日後暇つぶしに釣りに来た亡霊の姫に一匹残らず食べられたと言う。
そしてその従者はフグの毒に当たって半月寝込んだらしい。
とまあ、そんな問答(?)を一通り終えて、私達はまた釣りにいそしむ事にした。
それにしても、美鈴さんは私の言葉に一々突っ込みを入れてくれるのが嬉しい。
きっとこういうやり取りと言うのが、さらに深い友情へと発展していくものなのだろう。
外の世界ではあまり社交的ではなかったからよく分からないけど、これからもこんなやり取りで人と絆を深めていこう。
「絶対止めた方がいいと思います…。」
そんな思いに耽っていた私は、美鈴さんのそんな言葉をうっかり聞き逃していた。
「おっ、今度は私がヒットみたいですね。」
10分ほどのんびりしていた私の竿に、ようやく何かが引っかかる。
引きは…そんなに強くない、少し重いけど、これくらいなら1人でも何とかなりそうだ。
「また謎の物が掛かりましたか。重くないですか?」
私を気遣ってくれたのか、そんな優しい言葉を掛けてくれる。
もう一々何が釣れるかと言う事に対して突っ込まなくなってしまっていた。
「ええ、大丈夫です。ちょっと重いですが抵抗はあまりありませんから。」
「抵抗がないって…。…どのぐらいの重さですか?」
抵抗がない事を不審に思ったのか、美鈴さんは少し訝しい表情を浮かべる。
確かに私もあまりに少ない抵抗感を不審に思ったので、出来るだけ具体的に述べた。
「そうですね、大体20~30キロで身長は比較的小さめで横で髪を纏めた帽子を被った少女ぐらいの重さです。」
「具体的過ぎです!!何でそんな事重さだけで分かるんですか!!早苗さんひょっとして変な趣味ありませんか!?
て言うか釣り上げちゃ駄目です!!にとりファンクラブ(あるのか?)の皆様に怒られます!!そんな河童の川流れなんてベタベタ過ぎるネタ……!!」
さぱん、と言う音と共に私が引き上げたのは、説明どおりの金髪を横で纏めた、カラフルな結晶の付いた不思議な羽根が生えた少女。
因みに釣り針は洋服の首筋辺りに引っ掛かっていた。
「妹様あああぁぁぁぁ!!!!
なんで!?ここ普通にとりさんが流れてくる場面ですよ!?何で妹様が流れてくるんですか!?確かに特徴だけなら似てますけど!!」
「カバンを背負った重さとは言いませんでしたからね。」
「それまで分かるんですか!?最早わけが分かりません。」
「因みににとりさんは容姿はあれですが体重は結構…。」
「ストップ!!それ以上は言っちゃいけません!!いやもうそんな事どうだっていいです!!妹様!!フランドール様!!」
大分取り乱してますね美鈴さん。て言うか知り合いなんですね。そう言えば何処となくレミリア様に似てる気が…。
「当たり前です!この人はお嬢様の妹様のフランドール様ですよ!!」
様を三回も使うとは大変ですね。もう気持ちが顔に出るのにも慣れてきた。
それにしてもレミリア様の妹か、どうりて似てるはずだ。よく見れば帽子が同じだと言う共通点もあるし。
「ああもう!!吸血鬼は流水に弱いのに!!そもそもなんだって妹様が湖に落ちてるんですか!!」
「ううっ…。」
と、フランドール様(ここは倣ってこう呼ぼう)が僅かに声を上げる。どうやら気が付いたらしい。
「あっ…。…ちゅうごくだぁ…。何してるのこんな所で…。」
「それはこっちの台詞です!!それと中国じゃないって何時も言ってるじゃないですか!!」
「だから「ちゅうごく」って言ったじゃん…。」
「そんなの文章じゃないと分かりませんよ!!口頭だったら意味ありません!!」
おお美鈴さんも見事なギリギリ発言。
「そんなことより!なんだって妹様は湖で溺れてたんですか!!」
「えっと…。…魔理沙のとこに遊びに行こうと思って…。」
「だからって何で水の中に!?」
「魔理沙がいるかな~って…。」
「いるわけないじゃないですか!!あの人の行動範囲はどれだけですか!?」
「いやいや美鈴さん、魔理沙さんなら有り得るかもしれませんよ。」
「あの亡霊嬢みたいな言い方は出来れば止めてください!!幾ら魔理沙でも水の中になんか…!!」
「いるぜ。」
「わひゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ざぱん、と言う音と共に湖の中から現れる、箒を手にした妖怪(妖怪ではないけど何だか妖怪と言った方がしっくり来てしまう)、もとい白黒魔法使いの霧雨魔理沙。
美鈴さんが驚きひっくり返ってる傍らで「あーあー、服がびしょ濡れだぜ」とか言っている。
本来なら私も驚くべきところなのだろうが、くだらない事を美鈴さんに言ったお陰で全然驚けなかった。勘が鋭くなったのだろうか。
「お、なんだなんだ、珍しい顔があるじゃないか。お前も霊夢みたく強盗でもしようってのか?」
魔理沙さんは私の顔を見てそう言う。…霊夢さんはそんな事やってたのか…?
「お久しぶりですね、恋愛相談屋の霧雨魔理沙さん。私は今アルバイトで門番をやってますので。本日のご用件は?」
なるたけ皮肉を込めて返しておいた。以前の相談事の件はそれはそれ。
それに対して魔理沙さんは「気味が悪いぜ」と一度だけ呟き、そして一瞬だけ身を震わせたような気がした。
本当に一瞬だったので、定かではないが。
「おお、それは感心だな。霊夢なんかどれだけ貧乏になったって絶対にバイトなんかしないぜ?せいぜい手伝いだな。」
…だから貧乏なんだ、霊夢さん…。働かざる者喰うべからず、ってトコですかね。
お金がない境遇が一緒だから、行動を起こそうか起こさないかと言う違いでは私のほうが上…。
…よし、弾幕合戦では負けたけど、とりあえず勝ってる物は一つ見つけた…。
「お褒めに預かり光栄です。それで、何ゆえ湖の中からいらしたんですか?烏の行水の心算でしょうか?」
もう一度皮肉を込めて言う。そしてまた気味悪がられた気がした。
「あー、その、なんだ、普通に此処に向かってたはずなんだが、湖に来たら急に見覚えがある弾幕が飛んできてだな…。」
そこまで言って口篭る。要するに誰かに打ち落とされたと言う事か。
…それにしても、こんな悪魔の館の近辺の湖で、一体誰が弾幕合戦なんか…。しかも魔理沙さんを打ち落とすほどの…。
…いい加減気付け、私。
「それは災難でしたね、ですが要件が御座いませんならお引き取りください。門番である以上、要件のない方はお通しできません。」
ずぶ濡れなのだからタオルぐらい貸して上げてもいいとは思うのだが、それは弾幕合戦の時のささやかな復讐と言う事で。
予想通りというかなんと言うか、露骨に嫌な顔をされたが。
「あー、要件ならあるぜ、今日も図書館の本を借りに来たんだ。」
図書館?図書館って何ですか?いや図書館は知ってますけど、この館に図書館なんてあったんですか?
しかしまあ、要件があるならば通しても構わないのだろうか。通す人通さない人の区別を付けるのも門番だろうし。
「そうですか、ではタオルもお出ししま…」
「駄目です!!騙されちゃ駄目ですよ早苗さん!!」
と、今までフランドール様の介抱をしていた美鈴さんが急に声を荒げた。
フランドール様はというと、いつの間にか塀の影の内で横になっていた。別に大事と言うほどではなさそうだ。
「と、それより、どういう事ですか美鈴さん。」
とりあえずそれは聞いておかなくてはならない。
美鈴さんが声を上げた時から、魔理沙さんがやたらと慌てているような気もするし。
「魔理沙はいつもいっつも門を無理やり通って、挙句無理やり図書館の本を盗んでいくんですよ!
パチュリー様も咲夜さんもお嬢様もご立腹なんです!今日という今日こそは絶対に通しちゃいけません!!」
自分でも分かるぐらいに、私の魔理沙さんへの目つきは変化する。
成る程、それはうろたえますね。要するに強盗は霊夢さんじゃなくて貴方と…。…自分の罪を他人に着せた訳ですか。
「ご、誤解だぜ早苗。私はただ本を借りてるだけだぜ。私が死ぬまでな。」
ああ、認めましたね今。最後の余計な一言付け加えましたね。確信犯ですね。
「そうですか、ではお引き取りください。アルバイトと言う都合上、死んでもお通しする事は出来ません。本気で死活問題ですしね。」
そう、私が門番をしているのは、本当に生きるか死ぬかの問題を抱えているからだ。
とりあえず幾分か食事を頂いたとは言え、暫くしたらまた同じ事の繰り返しになる。
今のうちになんとしてもお金なり何なり稼いでおかないと、先に待つのは三途川だけだ。流石にまだ渡りたくはない。
因みに日本には三途川は4つあります。群馬と千葉と宮城と青森に。青森の三途川には賽の河原まであるそうです。
どうでもいい話を失礼しました。
「早苗、誤解するな、私はちゃんと借りたものは返す気でいるぜ?どうせここに住んでるのは私より長生きするような連中なんだから…。」
「それを強盗って言うんでしょう?」
と、聞き覚えのある第三者…いや、フランドール様を含めて五人目だから、第五者と言うべきか…?
そんな事は果てしなくどうでもいいが、第五者がとても無重力な声を上げる。
そちらを見やれば、とても見覚えのある…て言うか2時間ほど前に逢った紅白が浮かんでいた。
「誰が紅白よ。」
「霊夢さん、私ってそんなに顔に出やすいんですか?」
魔理沙さんがいた時点で彼女がいる事も想定しておくべきだったかもしれない。何となくだが仲良さそうだし、一緒に行動する事も多そうだし。
本日二度目の会合となる霊夢さん。
湖の上をふよふよと無重力に漂っていた彼女は、程無くして魔理沙さんの横に降り立った。
「全くあなたは…。たまにはこっちからお茶でもしようと思ったから誘ったのに、どうして話をややこしくするような事を…。」
私の問いは華麗にスルーして、ほとほと呆れた表情で魔理沙さんを嗜める。
魔理沙さんの方も思うところが(少しは)あるのか、気まずそうな表情を浮かべて押し黙った。
流石は霊夢さん、無重力だ。無重力関係ないじゃんと言う突っ込みはご遠慮願います。
「それよりどうします?美鈴さん。どうやらただ単純に遊びに来ただけのようですけど?」
大分話も纏まりつつある事に感謝。誰にって霊夢さんに。
美鈴さんも、ちょっと不満があるようにも見えたが、しぶしぶと言った感じで…。
「そうですね、じゃあ今日は通っても…」
「いいですよ」と続けたかったのだろうが…。
「駄目だぜ中国!門は無理やり通る!!」
「「「はぁ!?!?」」」
急に訳の分からない事を言い始めた魔理沙さんの発言によって、それは叶わぬ事となった。
私、美鈴さん、そして霊夢さんもそれには仰天。揃って素っ頓狂な声を出してしまった。
「ちょっと魔理沙!あんたは門を破る事に快感でも覚えてるの!?」
「ああそうだぜ霊夢!!」
「お願いだから否定してよ!!」
「通すって言ってるんだからいいじゃない!!」
「門番は倒されるためにいるんだぜ中国!!」
「そんな理不尽な!!」
「本当に話をややこしくするのが好きですね、神社に押し入ってきた時と言い…。」
「おお早苗にそんな事言われるとは心外だぜ。まだ出会ってから半年も経ってないじゃないか。」
「経ってませんけど今までの言動からそのくらい判断できます。」
「とにかく門は破らせてもらうぜ!!」
手に持っていた箒にまたがり、魔理沙さんは臨戦態勢に入る。どうでもいいが順番に突っ込んだ私たちには何か繋がる物でもあるのだろうか。
なに?上手く話は纏まりそうだったじゃないですか。何だってこうややこしくなるんですか。厄日だ。此処一週間ほど全てが厄日だ。
色々文句を言いたくはあるけど、とにかく魔理沙さんが攻撃してきたら対処しなくてはいけない。私も身構える。
「はぁ…。…一人で勝手にやってて。私は見学してるから。」
いや止めてください霊夢さん。
「ううっ…、毎度毎度やられて大変だから今日ぐらいは無事に終わって欲しかった…。」
心中お察しします、美鈴さん。私も無事に終わって欲しかったです。
「早苗、そう言えばお前には私のスペルカードは見せた事なかったな。だから今日はたっぷりとサービスしてやるぜ!」
「いりません!!」
とりあえず突っ込み入れて、そう言えば守矢神社に殴りこみに来た時、確かに魔理沙さんは(霊夢さんも)スペルカードを使っていなかった事を思い出す。
それでも霊撃とか言う、よく分からないけど弾幕を掻き消す上に妙に威力の高い技は使ってきてたけど…。
「じゃあまずはこれから行くぜ!!」
そう言って魔理沙さんはスカートのポケットから…何だろうあれ、小さな金色の火鉢のような…。
…そもそも普通スカートにポケットがついてるか?
「さ、早苗さん!!危ない!!」
「恋符『マスタースパーク』!!!!」
…後コンマ一秒でも防壁を張るのが遅かったら、私は黒焦げになっていただろう。
金色の火鉢(後で聞いたらあれは「ミニ八卦炉」と呼ばれているらしい)に光の粒子が集まったかと思ったら、それを何の躊躇いもなく極太のレーザーにして発射してきた。
なんとも大雑把で魔理沙さんらしいと言えば魔理沙さんらしいが、大雑把故に恐ろしいほど威力のあるスペルカードだ。
「な、何なんですか今のスペルはぁ!!」
思わず叫んでしまった。だけどあれは反則だ。少なくとも人間に面と向かってぶち込んでいいスペルじゃない。
「おお初見でよく防いだな。大抵の奴は一発で吹っ飛んじまうんだが…。」
何故か感心された。大抵の奴ってたぶんそれ妖怪基準ですよね。人間だったら死ねますよ今の。
「あれが魔理沙の専売特許というかなんと言うか…。とにかくああいうスペルが好きなんですよ。」
美鈴さんが丁寧に解説してくれた。だけど出来れば解説して欲しくなかった。何ですかその迷惑千万な性質は。
て言うか美鈴さんは毎度毎度あんなのを相手にしてるのか!?恐るべし!!
「じゃあ次行くぜ!!」
と、魔理沙さんは天高くへと急上昇し…。
「魔符『スターダストレヴァリエ(in萃夢想)』!!」
星を撒き散らしながら、思いっきり突っ込んできた。
「えっ!?あれもスペルカード!?」
「格ゲー使用ですけどね!!」
よく分からない解説を美鈴さんが入れてくれた。
と、彼女も懐からスペルカードを取り出し…。
「彩符『彩雨』!!」
なんとも綺麗な七色の弾幕を展開した。その姿が少しカッコいい。
スペルカードには元来「美しく戦う」と言う項目(?)が含まれているらしいが、このスペルはそれを完璧にクリアしている気がする。
虹のように輝く無数の弾幕。それを美鈴さんは突っ込んでくる魔理沙さん目掛けて解き放つ。
これだけの数の弾幕に突っ込むような真似は流石に出来ないだろう。
突っ込む軌道からこの弾幕を避けるには、左右どちらかしかない。ならば私が追撃を…。
「もぎゃあぁーーーーーっ!!!」
…しようとして、固まった。
なにせ魔理沙さんの方へもう一度振り向いた瞬間に、傍に爆弾が落ちたようなありえない音と共に、美鈴さんの断末魔が聞こえたから。
…。…勿論、私の目線の先に魔理沙さんはいない。ただそのまま固まっていると、視界の端からだんだんと土煙が漂ってくる。
…まさか、突っ込んだのか?彩雨の中に突っ込んだのか?
て言うか彩雨はスターダストレヴァリエにあっさり吹っ飛ばされたと言う事か?
なんだろう、美鈴さんのさっきの姿が凄くカッコいいなぁと思った矢先に…。
「さて早苗、次はお前の番だぜ?」
爆心地(?)から何事もなかったように箒に乗って飛び出てくる魔理沙さん。目がマジです。あれは人殺しの目です。実際見たことはありませんけど。
あー、すみません、白旗振っていいですか?防ぐ手段がないわけではないけどやりたくないです。と言うより失敗して死にたくないです。
そんな具合に、幾つもの負の思いが私の中を駆け巡る。美鈴さんには悪いけど、本気で降伏したい。
…だけど、そんな友達を裏切るような真似をしていいのだろうか。このまま死ぬ気で戦うか、それとも大人しく諦めるか…。
一瞬の間だけど、それこそ数十分に渡って悩んだ気がした。
…そして、悩んで正解だったと思った。
「ま、待て…。…まだ…終わってない…!!」
魔理沙さんはその声に驚いて振り向いた。だけど、その時にはもう遅い。私はそう既に確信していた。
「なっ…!!」
「華符『破山砲』!!」
どごんっ、とこれまた殺人的な音が響く。
魔理沙さんの背後から一気に間合いを詰めた美鈴さんの拳が、振り向いた魔理沙の腹部にクリーンヒットする。
その拳で魔理沙さんは天高く舞い上がったが、流石は魔理沙さんと言うべきか、空中で箒に掴まり、宙ぶらりん状態で静止した。
「げほっ…。い、今のは効いたぜ中国…。何時もだったらさっきの一撃で終わってるんだけどな…。」
口からちょっとだけ血が垂れた。少し男らしいと思ったのは場違いだろうか。そもそも性別違いだが。
「きょ、今日は…負けるわけには…いかない…。…早苗さんがいるから…。」
美鈴さんはゆっくりと私のほうへと振り向き、そして笑顔をくれた。
「早苗さんは…私に「一緒に頑張りましょう」と言ってくれた…。私にとって…早苗さんは門番の後輩…。
先輩としても…そして何より、友達としても…、…私は、早苗さんの前で倒れる訳には行かない!!」
…涙が、溢れそうになった。いっそこのまま泣いてしまいたかった。
諦めて白旗振ろうかと考えた自分が情けなくて、そしてなにより、美鈴さんの言葉が嬉しくて…。
…本当に、此処に来てよかった…。…美鈴さんに逢えて良かった…。
「おお、泣かせる台詞だぜ中国。そうだな、今日はその言葉に免じて…。」
魔理沙さんもはにかんだ様な笑みを浮かべる。こうしてみると口調と顔が全く合わない気もする。
しかし、美鈴さんの心は魔理沙さんにしっかりと届いたようだ。やっぱり彼女も黒いが悪魔じゃない。人間だ。
最初から通す心算だったんだし、これで事が済むならそれでいい。流石に咲夜さんに怒られる事もないだろう。
近くに腰を下ろしていた霊夢さんも、少し微笑みながら立ち上がった。よし、それじゃ門を…。
「…その言葉に免じて、最大級のスペルを使って倒してやるぜ!!」
「「「何でそうなる!!!!」」」
私、美鈴さん、霊夢さんのツッコミが見事に重なる。
やっぱり何か通じるものでもあるのだろうか。いや、此処で突っ込まない方が間違いか。
「ちょっと魔理沙!!あんたも大概にしなさいよ!!」
「霊夢!中国に一発入れられたまま引き下がるなんて私がすると思うのか!?」
「するとは思わないけど既にスターダストレヴァリエぶち込んだだろうがぁ!!」
「レヴァリエはまだ低級スペルな方だぜ!!ブレイジングスタークラスじゃないと気が済まん!!」
「いつも理不尽なまでにスペル叩き込んでるだろうがぁ!!しかもそれあんたのラストワードだろぉ!!」
凄い、霊夢さんってあんな口調で喋るんだ。いや怒り心頭で我を忘れてるだけか?
まあ、幾らなんでも怒らない方がおかしい。私もギリギリで正気を保っているぐらいだ。何時神経がプツンといくか分からない。
あの人はどれだけ話をややこしくするのが好きなんだ?
と、言い争っていた魔理沙さんと霊夢さんの喧騒が急に止んだ。
と言うのも一瞬で魔理沙さんの姿が霊夢さんの横から消えたからだ。
「中国!2P巫女!私の三大スペル(作者主観)のその一!いくぜ!!」
プツッ…。
2、2P巫女…。誰が霊夢さんのパチモンだと…。
い、いや、落ち着け私、今は魔理沙さんのスペルに集中しろ。
空を見上げれば、魔理沙さんは私たち目掛けてミニ八卦炉を構えて…。
「星符『ドラゴンメテオ』!!!!」
マスタースパークよりも極太のレーザーを打ち下ろしてきた。
名前の通りと言うか…。まさに隕石の如く。これは喰らったら一発KOだと思う。
…だが、私はもう逃げようとは思わない。美鈴さんのあんな姿を見せられておいて、逃げられるはずがない。
「秘術『グレイソーマタージ』!!!!」
私は弾幕を星型に、自分の身体の周りを囲うように展開する。縦向きに。
ドラゴンメテオをまるまる掻き消すような、パワー型のスペルカードはあいにく持ち合わせていない。
だが、上手く命中させれば逸らす事ぐらいは出来よう。いや、この場合は光線に隙間を作るといったほうがいいかな、形の上では。
グレイソーマタージは弾幕の形から分かると思うが、攻撃向きのスペルと言うよりは防壁に近い。
守りに関しては、私の中ではこれ以上のスペルはない…かもしれない。て言うか忘却の祭儀と一子相伝の弾幕がある。今は放っておこう。
予想通り、降り注ぐ光線はグレイソーマタージに阻まれ、私の周囲の大地を抉り取るだけで、私に命中する事は無かった。
「なっ…!初見でかわされるなんて予想外だぜ…!」
悔しそうに歯噛みする魔理沙さん。どうとでもお思いください。今の私は巫女ではありません。門番です。
「さ、早苗さん凄いですよ!私も初めて見た時は防げなかったのに…。」
何かやや興奮気味に美鈴さんが褒めてくれた。それで私の気分はさらに高揚する。
今の私なら、魔理沙さんにだって勝てる気がする。この間の借りは、今此処できっちりと返させてもらおう。
「さあ、お次は何ですか魔理沙さん。先に言っておきますが、スターダストレヴァリエでしたらもう防御手段は思いついてますよ?」
虚を突かれたのか、一瞬魔理沙さんの方が跳ねたような気がした。
しかし、嘘ではない。先ほど見たスターダストレヴァリエの軌道ならもう頭に入っている。
スターダストレヴァリエ又はそれに類するスペルならば、防ぐ手段は何通りか思いつく。
「…なんだか悪者みたいじゃないか、私。」
魔理沙さんは1人でぼやいていた。城門破りが悪者でなくてなんだと言うんだ。
と、ゆっくりと魔理沙さんは私たちから距離を取っていく。無論だが此処で引くとは思ってない。
距離を取って勢いをつける必要があるスペル…。…どうやら私の挑発に乗ってくれたようだ。
「それじゃあ早苗。お前の自信の程を見せてもらうぜ!!」
魔理沙さんと箒を、青白い光が包み込む。
この時点で何となく分かる。次のスペルは、スターダストレヴァリエの上位版…。
「彗星『ブレイジングスター』!!!!」
青白い光を纏い、まさに人間マスタースパークとなって突っ込んでくる魔理沙さん。
スターダストレヴァリエの上位スペルとは言っているが、どちらかと言うとマスタースパークの一種と思ったほうがいいかもしれない。
…しかし、あの中に魔理沙さんがいるのであれば、防ぎ方はある。
そう思って、私はスペルカードを一枚とる。使うは「開海『モーゼの奇跡』」
モーゼの奇跡は、元も子もない言い方をすればゲーム中では画面端にうねうねする壁を作るスペルカード。
それはつまり、画面端に防壁を作ることに他ならない。
このスペルを90度横向きに使えば、2枚の巨大な防壁を作ることが出来る。
いかに魔理沙さんのラストワードと言えど、この2枚の防壁を破る事は不可能…。
「さあ裏手巫女!!私のラストワード!防げるもんなら防いでみな!!」
ぷっつ~ん…。
…ワタシノ、リセイノイトハ、ニホンマデデス…。
「大奇跡『八坂の神風』!!!!」
誰が…誰が目立たない巫女だあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
「えっ…?おわああぁぁぁぁぁぁ!!!!。(魔)」
どっぱ~ん…。
私の起こした神風に完全に力負けし、吹き飛ばされて湖に落ちた魔理沙さん。
湖が大きな水飛沫を上げたところを見たのを最後に、私の視界は真っ白になった。
「さ、早苗さん!!凄いで…!!(中)」
「ひゃは…。(早)」
「…えっ?(中)」
「ひゃあぁははははははははははははははははぁぁぁぁぁッ!!!!!!!(理性が崩壊した早苗)」
「ちょ、早苗、どうしたの!?(霊)」
「あなたなんかに分かりますか!!分かってたまりますか!!目立たない巫女がどれだけ精神的に辛いかがぁ!!!!
八坂様がガンキャノンだとかキャノ子だとか!!洩矢様がケロちゃんだとかロリ神だとか言われて愛されてる中でぇ!!!!
私だけ何時までも「早苗さん」呼ばわりで!!特に目立った特徴もない人間の気持ちが分かってたまるかああぁぁぁぁ!!!!(早)」
「お、おいおい早苗、どうしたんだ!?何時もとキャラが全然違うぜ!?(湖から上がってきた魔理沙)」
「五月蝿い五月蝿い!!プレイヤーキャラのくせにぃ!!人気投票で1位と2位のくせにぃ!!!!(早)」
「私も憎しみの対象なの!?あんたも風神録組では(文を除いて)1位じゃない!!(霊)」
「早苗さん落ち着いてください!!私は19位ですから!!早苗さんのほうが上ですから!!(中)」
「ああ美鈴さん…。やっぱりあなたは友達です…!!
とにかくっ!!もう誰にも2P巫女だの裏手巫女だの日陰巫女だの影薄巫女だの普通巫女だの腐女子巫女だの言わせない!!
腋巫女の称号は私のものだあああぁぁぁぁぁ!!!!(早)」
「んな称号喜んであげるわよ!!とりあえず落ち着いて!!(初代腋巫女霊夢)」
「そ、そうだぜ早苗!!こんなのネタキャラにすらならないぜ!!ただのイタいキャラだ!!(魔)」
「喧しい!!反論を許した覚えはない!!!!
今この場で2人とも葬り去って私がプレイヤーキャラになってやる!!!!
美鈴さんも!!日ごろ本名で呼ばれてない恨みを存分に晴らしましょう!!!!(早)」
「え…、…えっと…。(中)」
「だ、駄目だ中国!!それは孔明の罠だ!!乗せられたら帰って来れないぜ!!(魔)」
「そ、そうよ美鈴!!仇名がついてるって事は愛されてる証よ!!(霊)」
「…と、とりあえず…。(中)」
「「「とりあえずっ!?(早&霊&魔)」」」
「傍観しますっ!!(無難に安全策をとる良識人)」
「「逃げた!!!!(霊&魔)」」
「大丈夫です美鈴さん!!いまやスーパーサナエ人となった私に、勝てぬ者など少ししかいない!!!!(早)」
「スーパーサナエ人!?『サ』しかあってないぜ!!(魔)」
「しかも何でちょっと妖夢が入ってるの!?(霊)」
* * * (早苗の理性が壊れたため、以下美鈴視点) * * *
えっと…。…まさか早苗さんにあんな一面があるとはなんとも予想外な…。
今まで聞いた話と総合して考えると、どうも自分の崇める神が特徴的過ぎて、自分が目立たない事への不満が爆発したみたいです。
…魔理沙、あんたが余計な事を言わなければ…。かわいそうな早苗さん…。
「源符『厭い川の翡翠』!!!!」
「うおっ!!諏訪子のスペル使い始めたぜ!!」
「流石に血が繋がってるだけの事はあるわ!!」
…本気で霊夢と魔理沙相手に一人でも押している早苗さんの力が物凄いと思う。
恐るべきスーパーサナエ人!!
「ひゃあははははははっ!!!!世界を白く染めてやるあぁぁぁぁぁ!!!!」
「早苗が危ない光に憑依された!!」
「一応ネタ繋がってるけど!!分かる人にしか分からないわよ!!」
手からレーザーを発射し始める早苗さん。最早あれは人間じゃありません。破滅そのものです。
こんな妖怪以上に恐ろしい存在がいるとは…。
「…早苗さん、凄いです!!」
「「なんか間違った発言してるよ!!!!(魔&霊)」」
なんとも、人間でありながら人間離れした咲夜さんを髣髴させる姿の早苗さん。
ああ、ああいう逞しい(?)人は大好きです。さすが早苗さん、私が見込んだとおりです。
「早苗さん!!頑張ってください!!」
「ありえない!!この状況でまだ早苗を応援してるよ!!」
「行き過ぎた友情とはかくも恐ろしいものなのか!?」
「粉砕☆玉砕☆大喝采!!秘術『一子相伝の弾幕』!!!!」
巨大な星型の弾幕を展開する早苗さん。
一騎当千とはまさにこの事か。まさに今の早苗さんは生きる核兵器にも匹敵する。
…うん、これは一介の妖怪が手を出すべきではないなぁ。
うん、やっぱり傍観者を決め込んだのは正解だった。あははははは。
「終わらせてやりますよぉ!!奇跡『神の風』!!!!」
「おわっ!!またウォーターハザードは勘弁だぜ!!」
「くっ…!!強いわね…早苗…!!」
吹き飛ばされそうになるのを必死に耐える霊夢と魔理沙。
先ほどブレイジングスターを跳ね返した『八坂の神風』よりは、若干風の力が落ちているが、それでも充分な突風が2人を襲っている。
よしっ!!勝てますよ早苗さん!!私一人では魔理沙だけでも撃退できなかったのに!!
ああもう正規の門番に就職してくれませんか?私と一緒に門を守って…。
ぽちゃん、と、何かが湖に落ちる音が聞こえた気がした…。
「…あっ…。…あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
* * * (早苗が正気に戻るため、以下早苗視点) * * *
…はっ!!わ、私は今まで何を!?魔理沙さんが湖に落ちてからの記憶が一切…。
と、とりあえず落ち着こう私。落ち着いて状況判断だ。
えっと、頭の片隅に残っているのは、霊夢さんがなにやらこの世のものとは思えない悲鳴を上げて…。
美鈴さんは…。…眼を見開いたまま固まっている。
魔理沙さんは…。…眼を見開いたまま固まっている。
霊夢さんは…。…眼を見開いたまま固まっている。
私は全員が見つめるある一点、湖の上に視線を移動させる。
…私の眼に入ったのは、ぷかぷかと浮かぶ少し大きめの巾着袋のようなもの。
…ま、まさか霊夢さん財布を湖に落として…!?…い、いや、あれはそんな大きさじゃない。小銭入れに使うには少し大きすぎる。
そう、強いて言うなら、私が外の世界にいたころ、お弁当を入れるのに使っていた袋くらい…。
「…わ、私の…。…私の…羊羹がぁ…。」
…はい?霊夢さん今なんて?
「なけなしのお賽銭を使って、久々に手に入った高級栗羊羹があぁぁぁ…!!」
…えっと、説明ありがとうございます。
そう言えば霊夢さんは、今日「久々にこっちからお茶に誘おうと思った」とここに来た時言ってたっけ点。
それはつまり、高級なお菓子が手に入ったから、魔理沙さんとレミリア様あたりにもおすそ分け、の心算で紅魔館に来た、と言う事か。
要するに、今湖に浮いている巾着袋の中身は、霊夢さんが持ってきた高級栗羊羹が入っていたのだろう。
それが何かの要因で池ポチャしたため、今こんな状況になっていると。
つまりまあ、美鈴さんと魔理沙さんが固まっているのは、この後の霊夢さんの行動が何となく分かっているからだろう。
そうですね、付き合いが一番短い私ですら、この後霊夢さんが怒り狂うのが目に見えますとも。
あはははははは!!……はは…あははは………は………。
「…あはは…あはははは…。…なるほどねぇ…。アルバイト先を斡旋してあげた恩を、こんな形で返すんだねぇ…。」
…ゆっくりと私の方を振り向く霊夢さん。…えっと、これは霊夢さんなんですか?表情も口調も何もかもが何時もと別物ですよ?
なんだがドス黒いオーラのようなものを纏った、まるであの氷精と相対した時の洩矢様のような…。
…あっ!!そう言えば洩矢様の事をすっかり…!!
「死ねええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
…洩矢様の事を思い出したとたん、私の思考は顔面に直撃した陰陽玉によってそぎ落とされる。
いっそ殺して欲しかったのだが、悲しい事に私の意識は持ちこたえてしまった。は、鼻の骨逝ったかも…。
「さ、早苗さん大丈夫で…!!「宝具『陰陽鬼神玉』」ごぱぁ!!!」
美鈴さんの横っ腹に直撃する巨大陰陽玉。吹っ飛んだ美鈴さんはそのまま閉まっていた門に直撃。
「返せ!!返せぇ!!私のお賽銭を!!私の羊羹をぉ!!
『天覇風神脚』!!『魔浄結界』!!『夢想封印 瞬』!!『八方竜殺陣』!!『夢想天生』!!『空を飛ぶ不思議な巫女』おおおぉぉぉぉ!!!!!」
「お、おい!!落ち着け霊夢!!中国はともかく早苗が死ぬ!!て言うか中国も死ぬ!!」
「五月蝿い!!殺す殺す殺してやるううぅぅぅぅ!!!!」
「ああもう!!止めろ霊夢!!高級菓子なら紅魔館のを使えば大丈夫だって!!」
「離して魔理沙!!HA☆NA☆SE!!お金の恨みは恐ろしいのよ!!あははははははは!!!!」
「だからそれも!!紅魔館に損害賠償とでも言ってせしめればいいんだってば!!
それに中国と早苗を殺したら、紅魔館と守矢神社の両方に賠償金請求されるぜ!?」
「…はーっ…、…はーっ…、…そ、そうね…、良い所に気がついてくれたわ魔理沙…。
これ以上出費がかさまないように、私が先に賠償金を請求しないと…。」
「そ、そうだぜ、だから落ち着こうぜ。ほら、早くレミリアにでも相談しに行くぞ。」
* * * * * *
…あ、ああ…、…後で魔理沙さんにお礼を言わないといけないかなぁ…。
それとも意識が吹っ飛ぶ寸前で止められた事に文句を言うべきかなぁ…。
ああ体中が痛い…。なんとも生と死の境界的な状況にいるんだろう…。
…そ、そうだ、美鈴さんは…。
「め、美鈴さん…。…大丈夫ですかぁ…。」
自分でも今にも死にそうな声だな、と思いつつ、なんとかそれだけを口にする。
「…ふっ…だが、まだ生きている…。」
「…あれ…?…声は確かに美鈴さんなのに…何で某暗殺拳使いの4兄弟の次男の名台詞が…。」
「…ほぅ、生きてるならちゃんと罰を与えないとねぇ…。死んでたら埋葬するだけだったんだけどねぇ…!!!」
…針のような目線。心臓を抉る鋭い声。
その声に身体が無意識に反応し、倒れていた姿勢から瞬時に、何故か正座する私と美鈴さん。
「「さ、咲夜さん…!!」」
「紅魔館の塀の損害、霊夢への慰謝料、オマケに何時も通りの魔理沙による本の強奪…!!
2人で門番をしておきながらなんてザマなのかしらねぇ…!!何時もより罰を厳しくしないといけないかしら…!?」
…ああ、咲夜さんも人間の眼じゃありませんよこれは。
もう眼からレーザー発射してそうじゃないですか。私と美鈴さんの心臓を容赦なく抉ってくる。
と、とにかく謝らないと!!少しでも悪く思われないように!!
美鈴さんも同じ事を思っていたのか、合図もしていないのに同時に頭を下げて…。
「「サーセンッ!!!!」」
「ざっくざくにしてやんよおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
早苗さんのキャラもぶっこわしまくり。
やりたい放題も作者の特権ですから仕方ないですね。
壊れた早苗さんは大好きですが。
HA・NA・SE!
前作品とか見てるから言えるんですが、たぶん酢烏賊楓さんはそんのに頼らなくても良い作品が作れる気がします。
ああ、でも自分は結構楽しめましたよ!
誤字らしきモノ
「光明」→「孔明」
「夢想天正」→「夢想天生」では無かったかなと。ネタでしたらごめんなさい。
そして、実は目立っていない中国…
もはや、カオス通り越してスペクタクルですなw
全体的に皆様似たようなコメントだったので、ある程度まとめて返信させていただきます。
>やりすぎた感
…かもしれません。ポジション的には「一番早苗がヒートアップする話」だったので、少々過剰になり過ぎたかもしれません。
>メタ語
これについてはもう申し開きのしようがありません。そんな気が自分でも薄々していました。
メタとネタの境界って難しいですね…。それこそ紫にでもいじくって欲しい物です。
>19:50:31の名無しさん
>さしたる理由もなく早苗さんの腕を刺す咲夜さん……。
すみません「咲夜がバイトの事に付いて色々考えているのに、横でガタガタ五月蝿い」という理由があります。単純に抜けてました。
その点については修正しておきました。
>☆月柳☆さん
>たぶん酢烏賊楓さんはそんのに頼らなくても良い作品が作れる気がします。
お褒めの言葉ありがとうございます。とりあえずは以後は出来る限り控えて頑張ってみようかと…。
>08:45:35の名無しさん
>美鈴は早苗さんの嫁と言う事ですね。
早苗×美鈴はいいコンビになるのではないかと信じているものの一人です。
>誤字
ネタでも何でもありません、私がアホなだけです。報告ありがとうございます。
>#15さん
>そして、実は目立っていない中国…
…言われてみれば大して目立ってませんね。
そこはやっぱり中国は中国と言うことd(崩山彩極砲
確かに、最近腐女子属性付いてきてるからなぁ、早苗さん。
>三文字さん
>確かに、最近腐女子属性付いてきてるからなぁ、早苗さん。
早苗の腐女子属性は何処でくっ付いた物なんでしょうね?
…諏訪子がいるんだからロリコンなr(八坂の神風