Coolier - 新生・東方創想話

東方放浪記 ~こちらスネーク(嘘)、待たせたな~

2008/03/14 08:39:33
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   ※これは作品その49の『東方放浪記 ~こちらスネーク(嘘)、紅魔館に潜入した~』の続きです。
   









 十六夜咲夜は昔、この世界ではない――外の世界に居た。
両親もいたし、裕福とまでは行かないものの、それなりに幸せな家庭の中で育っていた。
ほかの家庭と変わらない、ごく普通の生活。
しかし、一つだけ普通ではないことがあった。
それは外出してはいけないということ。
幼いころから両親に言われ続け、八歳になっても一度も外に出たことは無かったという。
勿論小学校にも行ってはいなかったが、両親が先生代わりとなって教えてくれた為、同じ八歳の子と比べてもかなり賢くなっていた。
 彼女はそんな生活に不満は無かったし、外に出れなくても普通だと思い込んでいた為、疑問も抱かなかった。

そして、こんな生活がずっと続くと勘違いをしていた。

終わりが来るのは唐突である。
 彼女が九歳になる誕生日の朝。
仕事帰りに誕生日プレゼントを買うと約束してくれた父親は左右に真っ二つにされ、一緒にケーキを作ろうと約束した母親は胴から上が離れている。
彼女はただ怯えることしか出来なかった。
目の前で口論している二組の男女に。
その時、彼女は初めて自分の意思で時を止めた。
その時、彼女は初めて外に出た。
そして彼女は部屋を抜け出した。
そして彼女は世界を抜けた。





紅魔館の警戒態勢は気絶したメイドを見つけた為、レヴェル2から一気にレヴェル5まで上がった。
これは相手に敵意があるとみなされたからである。
ちなみに紅魔館の警戒態勢はレヴェル1から6まであり、レヴェル2は持ち場のメイドで何とかする、レヴェル5は多少の傷は不問、どんな手を使ってでも捕まえるというものである。
すなわち紅魔館中のメイドが本来の仕事を放棄し、侵入者探しをさせられる。
無論、メイド長である咲夜が動かないわけが無い。
「はぁ……お嬢様の夕食の準備をしなくちゃいけないのに」
 メイド長だけあって多忙なのだ。
「白黒だったらもっと派手にやるだろうし、紅白だったら堂々と真ん中を飛んでいくわよね――じゃあ一体誰かしら」
 そんなことをぼやきながら巡回していると、おかしなものを見つけた。
「あら――ダンボール箱?」
 遠くに見えたのは紛れも無く、普通の段ボール箱。
それが廊下の隅にポツリと置いてある。
 特に何の変哲の無い光景だが、紅魔館を隅から隅まで知っている咲夜にはとても不自然に見えた。
この紅魔館の廊下にダンボール箱が転がっているはずが無い、と。
 その時、後ろから同じく巡回している妖精メイドが通り過ぎた。
そのメイドはダンボール箱には見向きもせずに通り過ぎていった。
 私の勘違いかしら、咲夜がそう思い始めたとき、変化は起こった。
なんと、先ほどまで静止していたダンボール箱の底から足が生え、そのまま走っていくではないか。
「…………」
 咲夜はそれを三秒間くらい呆然と見つめてから、我に返ってダンボール箱を追いかけた。
時を止めれば早い話しで、一瞬のうちに追いついたが。
「止まりなさい。そこのダンボール」
 ダンボールは突然目の前に現れた咲夜にビックリした様子だったが、少しすると普通にダンボールから出てきた。
 鴉間与一本人である。
与一はあの後、偶然にもダンボール箱を見つけ、これ幸いとばかりにメイドの目を欺きながら進んでいったのである。
「あら、あなた。たしか――そう、神社の居候さん」
「私にもちゃんと鴉間与一って言う名前があるんですけどね」
「そう。で、その与一さんが一体紅魔館に何のよう?」
「なぁに、ちょっと図書館で本を借りようと思っただけですよ」
「…………」
「…………」
「怪しい」
「ですよね」
 一体どこに本を借りるだけのためにダンボールまで被って潜入する奴がいるだろうか。
いや、少なくともここに一人いる。
「といってもそれ以外に弁解の仕様が無いんですがね。本当にそれだけですし――ところで、このまま行くと私どうなっちゃうんでしょう」
「そうね、食料庫行なんてどう?ちょうど血が足りないところだったのよ」
「死んでも嫌ですね」
 そう言って与一は地を蹴って咲夜との間を開ける。
「侵入者のあなたに拒否権は無くてよ」
 咲夜もナイフを取り出し、戦闘状態に入った。
それを見て与一も懐からドローイングナイフを取り出す。
「あら、ナイフで私に勝とうって言うの?面白いわね、気に入ったわ」
「それはどうも。でもあんまり甘く見てると痛い目見ますよ」
「それはこっちの台詞よ」
 その言葉が開戦の合図となり、お互いがお互いの急所を狙ってナイフを投げ、交差する!





 紅魔館近くにある湖。
そこは霧の湖と呼ばれ、その名のとおり昼間は深い霧に包まれている。
普通なら絶好の釣りポイントなのだが、妖怪側もまたそういった人間の釣りポイントのため命知らずかよほど腕に覚えのあるものしかここには来ない。
そんなところに暮らす人間など言語道断、妖怪の餌になるのが落ちである。
だがそこには確かに居た。
岸辺にテントを張り、焚き木をつけ、丸太に寝転がって本を読んでいる人間が。
「暇だなぁ……なんか起きねぇかなぁ」
 退屈で死んじまいそうだ、天裁貴臣はだるそうに言った。
里から追い出された後、家無し(里に居たところで家は無かった)になってしまった彼は苦心の思いでテントを獲得し湖近くのこの場所に陣を敷いて、今に至る。
 ちなみに読んでいる本はファッション雑誌。
しかし、一世代前のものである為、参考にもならないだろう。
 焚き木の上に乗っかっている鍋がぐつぐつという音以外はいたって静かな岸辺だった。
そんな中でいきなり寝転んでいた体を起こすと、今まで流し読みをしていた雑誌を焚き木の中へ放り込んだ。
「あーあ、早くできねぇかな。ハヤシライス」
 カレーをハヤシライスと呼ぶ以外は何の変哲も無かった天裁の晩飯前だった。
これが昨日も一昨日も繰り返されてきた日常である。
だが今日は少し違った。
ほんの少し、違った。
「ん――」
 不意に天裁が活動を止め、動かなくなった。
まるで何も聞き落とさぬように耳を澄ましているかのような。
まるでわずかな気配も逃さないというような。
そんな表情だった。
「人が二人、か。かなり近いな。足取りから見て――絶対に慣れてない歩き方だな。アスファルトを歩きなれた感じの歩き方だ。ってことは外来人てやつか。なるほどなるほど」
 天裁は一人で勝手に納得すると再び丸太の上に寝転がった。
「面倒だな。どーせ来たばっかだから全部説明しなくちゃいけねーし。何より理由が無い。俺がこんなことして得することは――あるか」
 にやっ、と不適に笑うと、腹筋の力だけで起き上がる。
「そーいや鴉間がよく言ってたな、親切心には裏があるって。よしっ、その親切心とやらを存分に使わせてもらおうじゃないか」
 善は急げだ、そう言って二つの気配のある方向へ走り去っていった。





 鴉間与一は焦っていた。
咲夜と戦闘を始めてから一時間はたっただろうか、未だに一撃も相手に攻撃を入れることが出来ていない状況に焦り始めていた。
初めの数十分はナイフの投げあいでお互いに引けを取らなかったのだが、三十分を過ぎたあたりであろうか、与一のナイフが尽きたのである。
今は何とか拾い上げた二振りのナイフで迫りくるナイフの弾幕を弾くのが精一杯だった。
「なんで、貴女の、ナイフは、尽きない、んですか!?」
 途切れ途切れに訊いてみる。
「あら、気づかないの?」
 咲夜は何でもない、といった口調で答えた。
「『時を止める程度の能力』のおかげよ。投げたナイフを回収してまた投げる――無限回収ってやつね」
「時を止める――そんなのありかよ……」

 だめだ!未来が変わってしまった!タイムパラドックスだ!

 大佐、頼むから黙ってくれ。
「ん?待てよ、時を止められるんなら仕留めるのも簡単なんじゃないんですか?」
「そんなことしたらつまらないじゃない。時間はそれこそ無限にあるんだから、楽しまなくっちゃ」
 ……なんか遊ばれてると気づくと急に腹立たしくなってきた。
何とかして一発当てたいもんだが――

 コントローラーを変えてみてはどうかね。

「そうか!二コンに持ち替えて――って出来るかぁ!」
 その場の勢いでナイフを地面に叩きつけてしまった。
「……大丈夫?いろんな意味で」
「ええ、多分大丈夫です」
「そう、ならこのナイフは回収させてもらうわね」
 突如、目の前にあったナイフが消えた。
「あっ……」
「さて、貴方の手持ちのナイフはもう無いことだし、そろそろ詰ませてもらうわ」
「ふっ、この鴉間与一!ただでお縄にかかるとでも――って、あら?」
 誇示のために広げていた両手はいつの間にか一つにくくられていていた。
「あらららららら」
「はい、チェックメイト」
 とん、とナイフで首筋を軽く叩かれる。
 こうなってしまってはもう終わり。
後は食料庫に行って屋敷で働く妖怪さんたちの糧となるのだ。
あぁ、食物連鎖ってすばらしい!
 私が人生を半ばあきらめている最中、咲夜はじっくりと、吟味するかのように私を見ていた。
「貴方、血液型は?」
「はい?ええっと……たしか、B型ですけど」
「よし、合格ね」
「あの、聞きたくは無いんですけど、一応。何が合格なんですか?」
恐る恐る訊いてみた。
「お嬢様の食料判定」
「そうっすか……」
 訊くんじゃなかった、そんな後悔が私の中で満たされた。

「そう、B型なのね」

 あたかもさっきからここに居ました、みたいな感じで紅魔館の主――レミリア・スカーレットは話しかけてきた。
「お嬢様、ちょうどいいところに。今晩の夜食ですわ」
「生きたまま吸うのは久しぶりなのよ。楽しみだわ」
「生け捕りにした甲斐があります」
 あれ?なんか勝手に話が進められてるような……。
「はい、じゃあここに座って」
「?こうですか?」
 とりあえず言われるがままに座る。
今の私に拒否権はないからね。
 そのままレミリアは私に近づくと、私の頭を傾かせ、さらに接近してきた。
 今気づいた、このままだと吸われる。
「ちょっと!まっ――っ!」
 言い終わる前にレミリアの犬歯は私の首に深く突き刺さり血を吸い上げていった。
痛い、というよりも何かが抜けていく感じだった。
十数秒そんな行為が行われ、意識が朦朧としてきたころ、ようやく牙のような歯を抜いてくれた。
 レミリアは唇を舌で舐め、妖艶な笑みを浮かべた。
「ご馳走様。やっぱり生きたままが一番ね。それに、あなたの血自体もなかなか美味しかったわよ。ワインはしっかりと熟さないと美味しくないんだけど――あなたは早熟ってところかしらね」
 頭に血が回らない。
うまく考えられない。
なんて返せばいいのか分からない。
「しっかりしなさい」
 レミリアがぺちぺちと頬を叩いてくれたおかげでようやく我に返ることが出来た。
「貧弱ね。そんなのでよく霊夢の下で働いていけたわね」
「血を抜かれれば誰だってこんな感じですよ。多分」
「あら、そう。ところで神社の居候さんがここに何の用かしら?」
 紅魔館での私の通り名は『神社の居候さん』らしい。
「図書館に本を借りに――後、私の名前は鴉間与一です」
「図書館なら一階の奥にあるわ。もし分からなかったらその辺のメイドにでも聞いて。あ、あと地下室には入らないように。まぁ死にたいっていうのなら無理には言わないけど」
 名前のほうはスルーされた――ってあれ?
「……なんでそんなことを教えてくれるんですか?」
「客人に対して案内もしないほど紅魔館は不親切なところじゃないわ」
「侵入者なのに?」
「素性が知れたら似たようなものよ」
 なんだろう、今までの苦労はすべて無駄だったような気が……。
「いや、でもほら――ねぇ咲夜」
「なんで私に振るのよ」
 咲夜は心底呆れた様子だった。
「貴方は私になんていって欲しいわけ?」
「そりゃもう、頬を少し赤らめながら上目遣いで『べ、別に貴方のために案内するんじゃないんだからね。お嬢様の命令だから仕方が無くやってるんだから』と言いながら案内してくれて――」
「無理ね。アリスにでも頼んでくれるかしら。あと私の声真似でしゃべらないで」
「ふっふっふ。この声は完全にマスターした!」
「誇らないで」
「すみません」
 なんだろう、今日はやけにテンションが高いな、自分が。
何か悪いものでも食べたかなぁ。
ああ、あれだ、宴会用のおつまみに出した水増し用の雑草だ。
あれくらいしか考えられない。
「まぁ、だいぶ話が逸れましたが、私がこの館をうろつき回ってもいいんですよね」
「主からの許可が出てるんだから当然でしょ」
「本当にうろつきますよ、徘徊しますよ、放浪しますよ」
「叩き出されたい?」
「すみません」
「ま、今度からはちゃんと正面から入ってきてよね。じゃないとまた侵入者騒ぎに発展しちゃうから」
「正面から入ってきましたよ」
「えっ……じゃあ門番は?」
「寝てたんで素通りしました」
「そぉ、情報ありがとうね、与一さん」
 咲夜はこれでもかというくらいの黒い笑顔を浮かべ、その直後に外から断末魔の悲鳴が聞こえた。
 教訓、この人に逆らっちゃあいけない。
「じ、じゃあ図書館の方行ってきます」
 とりあえずここを抜け出したかった。
一言でもNGワード出しちゃったら即アウトだもんね。
「あ、そうだわ。大事なことを聞き忘れてたわ」
 レミリアがいやなタイミングで何かを思い出してしまった。

「貴方、運命って信じる?」

 運命。
理論上では決められた道筋、と一言で終わってしまいそうだが、そこにはとてつもなく深い意味が込められている。
ああ、運命。
きっと答えにくい質問ベストテンに入る。
ん?もしや――
「先に釘をさしておくけど、べつに私と貴方が前世で恋人同士だったなんていってるわけじゃないわよ」
 ……先に封じられた。
ちょとショック。
「もし貴方がここで私に血を吸われるということが定められていたとしたら、貴方はどう思う?」
「別に、どうにも思いませんよ」
 私はさらりと答えてみせる。
「何も思いませんし、何も感じません。運命を曲げてみせるという情熱も沸かなければ、定められたことを悲観することもありません。たとえ、運命が実在して、それが見えたとしても、私の行動には一変の揺るぎもありません」
「たとえ死が待ち受ける運命だったとしても?」
「ええ、もしそこで死ぬようであれば、そこまでの人間。それに、死の無い運命なんてあるんですか?もちろん妹紅や輝夜、永琳は除いてですよ。あれはもう生きてすらいないんだから」
「そうね。分かったわ。もう行っていいわよ」
「では、失礼します。お嬢様」
 私は紳士のように礼をすると、さっさと一階に降りてしまった。
急がなくては。
私の時間は止まってくれないのだから。





「いいのですか?お嬢様。与一さんを自由にしてしまって」
 与一が見えなくなってから、咲夜はレミリアに訊いた。
「なにかいけないことでもあるのかしら?」
「彼は、その――危険な感じがするんです」
「危険?」
「はい、彼が近くにいるだけで、何か得体の知れない恐怖感に襲われるんです」
「恐怖感、ね。私もよ、咲夜」
 そう言ってレミリアは窓の外を見た。
外は新月で月は出ていない。
「ねぇ、私たちが始めて与一に会ったときのこと、覚えてる?」
「え?ええ、確か神社であった宴会で雑用をしていましたね」

「彼を始めてみたときから、運命が見えなくなった」

「えっ……」
「正確には年が明けてからの三日間。その三日間の運命だけはどうしても見えないの。まるで何者かが拒んでいるかのような……」
「誰かが運命に介入したってことですか?でも、そんなことできるなんて――」
「いるじゃない。貴女も知ってるはずよ」
「八雲紫、ですか」
「そう、もしくは彼女に匹敵する力の持ち主ね」
「……一体何のためにそんなことを」
「分からないわ。だからこそ、こうやって確かめてるんじゃない。運命ですら見れない空白の三日間に何が起こるのかって」
 そう言ってレミリアは再び空を見上げた。
何度見上げても、そこに月は無かった。
「その日は満月だといいわね……」
 彼女のこの願いは歪められた形で叶ってしまう。
どうも、鏡面世界です。
前編からかなり間が空いてしまいました。サーセン。
ともあれ紅魔館編完結です。
本当は図書館からの物語も書こうとはしたのですが、気力がついていかずにやむなくカットさせていただきました。また今度書きます。
次は妖夢との冒険とあと天裁と運悪く出会った二人組みについて書いていこうと思います。
……あくまで予定ですよ。
鏡面世界
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コメント



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5.100名前が無い程度の能力削除
おお新作来た
続編期待してます