我輩は門番隊副隊長である。名前はあるが副長と覚えてもらって構わない。
とまあ夏目漱石の我輩は猫である風に登場したわけだが、今は少々手が放せないのでこれにて自己紹介は終わらせてもらう。
そう、手が放せないのだ。
え? 誰も聞いてない?
だからそう言われるだろうと思って簡単に自己紹介は済ませただろうが。このたわけが。
おっと、折角のシャッターチャンスを逃してしまう所だったではないか。このド阿呆が。
うむ、隊長のあの笑顔はいつ見ても絵になる。
花壇で水をまきながらあらあらうふふと鼻歌混じりに戯れる様などもうホント筆舌に尽くしがたい。いやー、マジでたまりませんなこりゃ。
いかんいかん鼻血が出てきた。生憎と今はティッシュを持っていないので仕方がなしにブラッディローズを鼻に突き刺す。
うっし、これで鼻血は大丈夫。
今日の今日とて隊長の体調は問題なさそうだ。よきかなよきかな。
隊長の体調。
我ながらピリリとくる塩辛のような鋭い駄洒落だ。今日も絶好調。
ああそうだ、後で写真を焼き増しして仲間に配らなければ。
覗き? 盗撮? 犯罪だと?
違うな。これも立派な任務の一つ。万が一でも隊長の身に何かがあっては駄目なのだ。
私たち門番隊は直接的な戦闘や弾幕戦を強いられることが多いので、どうしても怪我人の数が内勤のメイドたちよりも多くなり、その分だけ残ったものに負担がかかる。
怪我をするのが私たちであるならば、互いの力の差がさほどないのである程度の代用は効くだろう。
だが美鈴隊長の代わりはいるのかとなると話は違う。
ここ紅魔館で美鈴隊長よりも実力が上の方々といえばメイド長の咲夜様や我らが主レミリアお嬢様、主の妹フランドールお嬢様、そしてレミリアお嬢様のご友人でおられるパチュリー様。この方々の名前を挙げて分かる通り、美鈴隊長の代わりを勤める人物がいない。
故に美鈴隊長にはいつでもどこでも体調を万全にしていてもらわなければいけない。
そう、これはその為に仕方が無いことであり、決して疚しい気持ちで行っているわけではないのだ。
アンダスタン?
よーしよしよし。聞き分けの良い子は好きだぞ。はっはっは。
こうしている間にも美鈴隊長は花壇の世話に余念が無い。実に楽しそうに花壇を手入れしている。
まずい、集中しなければ。シャッターチャンスを逃してしまう。
先日休暇を利用して知り合いの河童に頼み込んで改造してもらったシャッター音の消音機能に秒間16連射の撮影機能を付け加えてパワーアップした我が相棒『写しちゃうんですブラックRX』を構え少しの表情の変化も逃さずカメラに収める。だが相棒の名前は少し長い。一々写しちゃうんですブラックRXと呼んでいては舌をかんでしまいそうだ。なので最近は『天上天下一撃撮影機』と素敵でカッコいいあだ名を名付けて呼ぶことにしている。この前改造したから『天上天下一撃撮影機・改』と改名した。我ながら中々のネーミングセンスである。スーパーカメラの浪漫はダサカッコいいネーミングこそ全てなのだ。
これぞスパカメ魂。スパカメと言ってもスーパーな亀の事ではない。
だがしかしこのネーミングセンスもレミリアお嬢様の持つそれには程遠い。
私もいつかは己のネーミングセンスをお嬢様の位まで高めたいものだ。
それには日々精進せねば。目指せ全世界ナイトメア。手に入れろ不夜城レッド。
話が逸れてしまったな。
美鈴隊長も日課の花壇の手入れも終えたことだし私も退散するとしよう。
明日は携帯録音機も持って行くとするか。隊長の歌声を録音しなければ。
問題の録音機だが……。これまた知り合いの白狼天狗にでも掛け合ってみるしかない。彼女の上司にあたる烏天狗は趣味で新聞を発行しているのだと彼女から話をよく聞かせてもらっている。
新聞記者なら携帯の録音機も持っているだろう。何とか都合をつけて借りて来てもらうように頼み込むか。
成功報酬はわんわんグルメ一ヶ月分でよかろう。
白狼天狗はけづやが命と言われているほどにけづやには気を使っているらしい。そのような理由からなのか、摂取すれば何故かけづやの上がるわんわんグルメは白狼天狗たちの間では重宝されているそうな。偶に力やすばやさが上がったりするみたいだが。
午後の二時に指しかかろうとする時間に休憩を取り、昼食時のピークも過ぎ去り食事を取っているメイドたちの姿もちらほらと見られるだけの食堂。
メイド長の咲夜様は基本この時間に昼食を取られるのでメイドたちの間では何か相談事があれば皆この時間帯に休憩を取りメイド長に相談を持ちかけている。
相談事は仕事のことから個人的なものまで幅広く。とはいえ、妖精メイドたちはおきらく極楽蓮華衝な性格な者が殆どなので、相談事を持ちかけるメイドたちがいるのは稀なことだったりする。
「美鈴が新人に軽く見られてるんじゃないかって?」
「はい。つーかありゃなめられてますよ。
あの新人どもめ門番隊の、いや美鈴隊長がどれだけ凄いか知らないで無能だとかほざきおって!!」
紅魔館で働くメイドたちは簡単に分けると二つある。内勤メイドと外勤メイド。
新人メイドは主に前者である程度の適正をメイド長が見極められる。門番隊は後者。内勤と外勤では接点が少ないのは承知の上なのだが。
まあ確かに内勤の新人メイドからすればモノクロ魔女に好き勝手に突破され、メイド長の咲夜様にお仕置きをされている光景ばかり見ていては指差して笑いたくなるのかもしれないが。
想像したら怒り再燃。
やつらがメイド見習いじゃなかったら容赦なくぶちのめしてやる所なのだが。
ぶちのめすとしたら、この前資料で見た変形リバースDDT(通称・不知火)かフリッツ・フォン・エリック直伝のアイアンクローがよいだろう。
テメェラ土下座しても許さんぞコラ。
「はいはい、落ち着きなさい」
「しかーし!! メイド長!!」
「しかしもかかしもパチパチパンチもないわ。
どうせすぐにそんなこと言ってられなくなるじゃないの?
見習いメイドたちの〆の研修は外勤、詰まり門番隊勤務でしょう?」
むぅ、確かにそうなのだが。
しかしメイド長、島木ジョージは些か古すぎやしませんか?
「納得いかない。……って顔ね。
憧れの上司が悪く言われて腹立たしいのはわかるけども、当の本人はどう捉えているのかしら?」
「隊長ですか? あー、うーん……」
あー駄目だ。笑顔で全く気にしていないとしか答えなさそうだ。いや、間違いなくそう答える。
美鈴隊長はそんな人(?)だ。
そもそも私たちは隊長が怒った所を見たことが無い。
美人で人当たりが良く、いつもにこにこと笑顔を絶やさない妖怪らしからぬお方。何でも人里の豆腐屋連合略して豆屋連では今をときめくミス・豆腐屋小町に祭り上げられているのだとか。オノレ豆屋連メ。美鈴隊長は我々門番隊の憧れなのだ。アイドールなのだ。貴様らに渡すものか。
関係ないけど豆屋連って響きは春と夏の二回、興奮と感動と不祥事をお茶の間に提供する球技を思い出しますよね。
「怒ると思う?」
「……想像がつきません」
「私もよ。ま、兎も角それに関しては考えておくわ。
内勤と外勤の順番を変えてみてどうなるか様子見ね。辞めるにしても早いか遅いかの違いだけだし」
「まじですか!! 神様仏様メイド長様ありがたやありがたや」
「……ここで神様とか言われてもねぇ」
そうだった。一応も何も紅魔館は悪魔の住む館と言われ周りからは恐れられている場所だ。
もっとも恐れられているってのは眉唾ものだろう。だってそうでなきゃ豆屋連の連中どもが毎日毎日熱心に態々こんな所までやってくるわけなかろうて。連中の目的は隊長であろうことは目に見えている。
そんな連中相手にも気さくに受け答えする隊長はいつも豆腐をサービスしてもらって大喜び。サービスしてもらった豆腐を使って作る隊長自慢の麻婆豆腐は絶品の一言に尽きる。よく差し入れに来てくれるので私たちも大喜びだ。
何だ、良い事じゃん。
「さて、と。仕事が残っているから私はもう行くわよ」
「あ、はい。ありがとうございました。
休憩中なのに時間を割いていただいて」
「気にしないの。
こうやって相談事を持ちかけてくるメイドの方が少ないのだから内容はどうあれ結構嬉しいものよ?」
オーウ、瀟洒な笑顔が眩しすぎますメイド長。
その素敵な仕草に惚れてしまいそうです。惚れませんが。
と思ったらもういない。きっと時間を止めて戻ったのだろう。
「……中途半端に時間が余るなぁ」
今日は夜勤なので交代まで些か時間を持て余してしまう。どうしたものか。
「写真のネガは後で渡すとして……。
そうだ、調べたいことがあったんだ」
調べ物と言えば向かう場所は一つしかない。紅魔館のだだっ広い図書館だ。
いっつもいつもモノクロ魔女にやられてばかりでは癪なので、少しでも美鈴隊長の力になればと思い一ヶ月ほど前から暇な時間ができれば図書 館に通っていたのだが、参考になる本が中々見つからないままだった。
今日こそは何かしら参考になるような本を探しだしたいものだ。
図書館の馬鹿でかい扉を開けると本特有の匂いが鼻をつく。
入り口付近に山のように積み上げた本に囲まれて熱心に本を読んでいるパチュリー様に挨拶をし、傍らでは忙しそうに飛び回っている小悪魔に使用許可を貰ってから中へと歩を進める。
参考になる本を探すとは言うものの、美鈴隊長も本が好きで図書館をよく利用しており、参考になる本自体探すのも一苦労だったりする。ちなみに隊長は本を読むときは眼鏡を掛けている。普段と違った雰囲気の隊長に我々門番隊はメロメロですよ。あ、やべ。想像したらまた鼻血が。ブラッディローズ再セット完了。
鼻に薔薇の花を突き刺しふんふんと息巻いて歩く姿は端から見れば滑稽だろう。滑稽どころか変態だと思われても仕方が無い。だが生憎ここは紅魔館の図書館。元々利用する者たちは限られている。閑古鳥が鳴いているような場所に加えて広さも半端無い。以上の理由からこの姿を他人に見られる心配はないのだ。
以前小悪魔に見られてしまい盛大に吹かれてしまったが。
そういえば人気がないのをよい事に内勤のメイドたちがここでは書けないR18指定のあんなことやこんなことをやらかそうとしていたっけ。事に及ぶ前にパチュリー様に見つかり、ロイヤルフレアでぶっ飛ばされ、見事としか言いようがないほどの綺麗なアフロヘアーにされたメイドの二人。その後、アフロメイドは何故かダンサーを目指してハリウッドで修行してきますと書置きを残して辞めてしまった。アフロとダンサーがどう結びつくのか皆目検討がつかないが彼女たちなりに考えた結果なのだろう。つかハリウッドって何のこっちゃ。
しかし、だ。問題の場面に出くわした時のパチュリー様の表情と言ったら。あの人は超が付くほどの純情な方だからなぁ。顔は勿論のこと、耳朶まで真っ赤にしてロイヤルフレアを連発していたっけ。小悪魔はあっけらかんと事の成り行きを見守っていたのだが。そちらの知識は小悪魔のほうが進んでいると言うことなのか。
「むぅ……。中々無いものだ」
参考になる本を探し始めて半刻ほど経つが見つかる気配がない。
無いことは無いのだが、既に隊長が読み終えた後の本ばかりなので意味が無い。
「これもこの前隊長が読んでいた本……。これも、これもだ……」
参った。この棚は一通り目を通したが参考になるものは見当たらず。
「まだ時間はあるし……、別の棚でも探してみるかな」
先ほどから活字の本ばかり読んでいたので少々目が痛い。
ここの所暇があれば図書館に通っていたので眼に疲労が溜まっているのかもしれない。後で医務室に行って目薬を貰おう。
当ても無く本棚を見渡しながらふらふらと歩き、気になったタイトルの本があれば取り出して流し読みをする。
こんなあてずっぽうなやり方で大丈夫なのかと思うのだが、今はこれしか方法が無い。下手な鉄砲数うちゃ当たる。
「赤輪土龍に龍門ねぇ……」
隊長は気を扱うのが得意なはず。これなら少しは参考になるものが載っているかも知れない。
……ん? 気の力で身体操術? これは使えるかも。いや、これはいける!!
「ああして、こうして……。あの洋服を着てもらえれば……。
斜め45度からの覗き込みで……」
うわっ、やっべぇ。想像しただけで鼻血が止まらん。
これは破壊力がありすぎる。早速隊長に教えなければ。対白黒の、いや紅魔館のリーサルウェポンになりうる。
そうと決まれば話は早い。
先ほどと変わらず忙しそうに図書館内を飛び回る小悪魔に本の貸し出し許可を貰い、足早に門番隊の詰め所へと向かう。
中庭に差し掛かろうとした所で二つの人影を見つけた。
一つは隊長のものだ。
もう一つは、隊長と比べると随分と低い背丈で、外見もレミリアお嬢様よりも幼く見える。
確か最近紅魔館に流れ着き新たに雇ったメイドだったか。彼女は他の妖精メイドと比べると頭の回転もよく、また剣の心得もあるようで夕方のこの時間帯にはいつも隊長と組み手をし隊長に稽古をつけている。稽古をつける立場であるが故に実力も相応にあり、弾幕戦に限らず肉弾戦が得意な隊長よりも力量は上だ。
幼い体型に似合わない太刀と脇差のアンバランスな二刀流。それが彼女のスタイル。アンバランスながらもそれを全く感じさせない無駄の無い動きと長年の間欠かすことの無い鍛錬により熟練された技の数々。
しっかし鬼然りレミリアお嬢様然りフランドールお嬢様然り。幻想郷では幼女の方が強いと言うのが定石になりつつあるな。
だからこそこれから隊長に教える気を使った身体操作には持って来いなのだが。
「ふむ、今日はこれ位にしておくか」
「はっ、はぁっ……。ありがとう、ございましたっ」
隊長が息を切らしているのに対し、呼吸の乱れも無く疲れた様子が見受けられないメイド。
本当に何者だこのメイドは? 話し方からして実年齢は相当高いとは思うのだが。
妖精特有の羽が無いからそれではないのだろうが、ならば妖怪なのだろうか。妖怪にしても腑に落ちない。
そもそも彼女の周りをふよふよと浮いているわたあめみたいなものは何なのだろうか。
あ、人魂の形が変わって羽になった。なーるへそ。それを背中に引っ付けておけば妖精メイドと何ら代わりが無い。器用なことが出来るものだなあ。
「美鈴隊長とええと……」
しまった名前をど忘れしてしまった。
「妖妃。儂の名前は妖妃じゃよ。副長殿」
「申し訳ない……。この副長一生の不覚」
「はっはっは。なに儂もここに来て日も浅いでのう。
気にしてはおらぬよ」
「そう言って頂けると……」
「副長、もう忘れちゃ駄目よ?」
朗らか満開の笑顔を見せる美鈴隊長。にぱーって擬音が聞こえてきそうである。
あー、くっそう。正面からこの笑顔を写真に収めてぇ。
「美鈴殿、儂も仕事が残っているのでこれにて失礼させてもらうよ」
「あ、はいっ。また明日よろしくお願いしますっ」
二振りの刀を鞘に収め、館に戻る妖妃殿。ううむ、刀を納める仕草も様になっており渋いの一言。
渋いのだが、外見が幼女そのものなのでどうにもしまりがない。
そういえば美鈴隊長は彼女が何者かを知っているのだろうか?
「知っているわよ」
「あの人何者なのですか?」
「元々とある所で庭師兼剣術指南役をしていたみたいなの。
お孫さんにその役目を譲ってからは当ても無く放浪してここに辿りついたってわけ」
とある所と言われても、庭師兼剣術指南役って冥界の白玉楼しか思い浮かばないのですが。
あそこの庭師・魂魄妖夢さんのことなら私も知っている。
彼女は何度か紅魔館に客人としてやって来ており、私もその度に彼女と話をしていた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「いえね。庭師云々って白玉楼の事ですよね?」
「そうね。彼女自身もそう言っていたわ」
「美鈴隊長は魂魄妖夢さんを知っていますよね?」
「当然。何度か手合わせもしたからねぇ」
「妖夢さんと話をする機会もありますよね?」
「そりゃあね」
「妖夢さんのお師匠様のことも聞いたりしたこともありますよね?」
「聞いたことあるわよ? それがどうかした――――。あっ」
隊長も気がついたようだ。
「妖夢さん自身が言っていましたよね。お爺様って……」
「あーあー。そういうことねー」
私が言いたい事がわかったのか手をぽんと叩いて納得したように頷く隊長。
「そういえばそのことについて副長は何も知らないのよねー」
「知っていればこのようなことは聞きませんよ」
「そうねぇ……。さっき彼女が半霊を妖精の羽に変えていたでしょ?
それが答え」
「……?」
半霊を羽に変える事が答え? いまいち話が見えてこない。
「うーん……。それじゃあねぇ。幽明求聞持聡明の法って知ってる?」
「名前だけなら。確か妖夢さんの使うスペルカード、でしたよね?」
「そ。簡単に説明すると半霊に自分の魂の一部を憑依させてもう一人の自分を作り出すスペルカードね。
妖夢さんのそれはあくまで初歩的なものであって、熟練すれば自分の魂だけではなく他人のそれを半霊に憑依させ操ることが出来るみたいなの」
「他人の……。ああ、成る程」
「もうわかったわね? 詰まりあの幼い子供の姿が本来の彼女なの。
妖夢さんの話の中に出てくる老人――――詰まり魂魄妖忌は彼女が師の姿を借りていた、と聞いているわ」
「随分と回りくどいことをしているのですね……」
別にあのままでも構わないと思うのだが何か不都合でもあるのだろうか。
紅魔館にしろ冥界にしろ常識など通用しない。なので見た目幼女で中身は剣豪だとしても何らおかしなことではない。
レミリアお嬢様やフランドールお嬢様がよい例である。可愛らしい外見に騙されること無かれ。
「孫には厳しくもやさしいお師匠様でありたいと言った所かしら?
うーん……何か違うなぁ。
教える方も教わる方も幼い少女よりは威厳溢れる老人の姿の方が身が引き締まるとか?
……これも違う気がするわね」
隊長、頬に手を当てて考え込んでいる仕草や表情もたまりません。
我が相棒・天上天下以下略にそのお姿を収められないことを心底悔やみますぞ。コンチキショウ。
「ま、そのことはまたの機会に本人にでも聞けばいいんじゃない?」
「そうですね。そうします」
「所で副長。私に何か用事があったんじゃないの?
こんな時間に此処に来るならそれしかないと思ったんだけど」
おっと、本来の目的を忘れる所だった。危ない危ない。
だが隊長は聞き入れてくれるだろうか。この人随分と恥ずかしがり屋さんだからなぁ。
当たって砕けろ。ともあれ話だけでも聞いてもらうか。
「突然ですが、隊長は気の操作が得意です」
「うん、そうね」
「達人にもなれば気の力を利用しての身体操作が可能だとか。
ですから――――」
「……え?」
「そこで――――」
「えぇぇっ?」
「最後に斜め45度からの――――」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
「どうです? これなら例え白黒でも開幕スペルカードで易々と突破など出来ないと思うのですが」
正直これは賭けに近い。しかもかなり分の悪い賭けだ。
あの白黒に良心と言う名のブラックボックスが一欠片でも残っているならば必ず成功する……はずだ。
「あのー、副長? 流石にそれはどうかと思うのだけど……?」
「隊長、何を仰いますか。傍若無人の白黒は一回ギャフンと言わせんと懲りやせんのですよ」
「ギャフンってまた古い言葉を使うのね」
いやいや隊長。突っ込む所はそこじゃあないでしょうに。
クソッ。笑い顔も素敵過ぎる。耐えろ、耐えるんだ私。ムヒョゥ!!
「襲撃のたびに破壊される門の修繕費に門番隊への被害を考えるならば一侵入者としてではなく、きちんとした客人として訪ねてもらわなければならないのです。
そりゃあ白黒がパチュリー様やフランドールお嬢様によい影響を与え、大切な方であるのは重々承知の上です。
だからこそ我々としても彼女を客人としてきちんと招き入れたいのですよ。
隊長も毎回毎回ごんぶとレーザーで身を焼かれているじゃないですか。
幾ら身体が丈夫で気を使い回復を早めているとしても、いつか本当に身体を壊してしまいますよ?
そうなってしまっては遅いのです。それに先に申し上げた身体操術は無駄に浪費してしまう気の節約にも適しています。
いざという時の為にも是が非とも試してもらいたいと思っているのですが」
少し大袈裟に御託を並べてみるが、さてどうだろうか。
これで駄目なら諦めて別の手を探すしかない。が、矢張りこの案は捨てがたい。捨てがたいのである!!
「うーん……。副長がそこまで言うのなら、一度試してみましょうか」
いよっしゃぁっ!! 食いついてくれた!!
私は猛烈に感激であります。
「隊長、ありがとうございます。
それでは早速ですが――――」
「え? 今すぐやるの? ちょっと待ってくれない? 心の準備とか……。
そうっ、そうよっ。服がないわ服が」
「フフフフフ……。フが一杯。
ご安心ください隊長。こんなこともあろうかと服は既に用意済みです」
ぱちんと指を鳴らすと、姿を現したのは茂みに隠れ、様子を伺っていた黒子姿のメイド。
しまったなあ。黒子メイドに写真を撮ってもらっておけばよかったと今更ながらに後悔してしまう。
「さあ、隊長。これをどうぞ」
隊長に手渡した服は黒を基調に所々白が混じるモノトーン調のドレスで細部はフリルやレースが施され、ヘッドドレスも洋服に合わされている。所謂ゴシックアンドロリータ、通称ゴスロリだ。ヘッドドレスに『メイリン』と刺繍が編みこまれ、スカートにも英語で『Hong Meirin』とサテンステッチで編みこまれるほどの気合の入れようだ。尤もサテンステッチが文字の刺繍に向いているかどうかは不明だが、流石は美鈴隊長親衛隊呉服08小隊だ。与えられた任務は寸分の狂い無く仕上げる職人気質には頭が上がらない。
「うー……。それじゃあ詰め所で試してくるわね……」
「私も同行させて頂きます。もうすぐ引継ぎの時間ですし」
隊長が詰め所に入ったのを見計らい、紅魔館の壁に張り付いている黒子メイドに写真の撮り逃がしが無いようにとジェスチャーで伝え、詰め所に入る。
身体操術は問題ないだろう。
問題はその後だ。今日はつきっきりで指導するしかない。まあ隊長は物覚えがよいからすぐにマスターするだろう。
色んな意味で私がもたないかも知れないが耐えてみせるとも。
念のためにブラッディローズを大量に持っていくとするか。今宵は長くなりそうだ。ウシャシャシャ。
「めめめめめ!! めいめいめいめい!!」
「どうしたの? ネコバスでも欲しくなったの?」
いらんわ、んな得体の知れないバイオニックキャット。私は猫派じゃねぇ。犬派なんだ。
落ち着け私。落ち着くんだブロークンマイハート。
深呼吸深呼吸。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
「で、どうかしたの? そんなに慌てて」
「たたたた!! たいたいたいたい!!」
「タイが曲がっていてよ?」
「そうそう、こうやって曲がったタイを直してもらって。ずんたったーらずんたったーら」
「あら、リリアンじゃなくてコントに走るのね。懐かしい」
生憎私は百合に興味がありませんので……って違うわい。ぜんっぜん違うわい。何故に此処で外人の客と喋らない店員のコントをやらないかんのだ。私は金髪だがあんな品のない服装に眼鏡をかける勇気はこれっぽっちもありません。疑問があるとすればメイド長がそれを知っているのかなのだが。
「たい、隊長が……」
「隊長? 美鈴がどうかしたの?」
「隊長がゴスロリ45度で斜め操術で身体白黒によって皿割れが隠し撮りで」
「落ち着いて話なさい。何が言いたいのかさっぱりよ」
もう一度大きく深呼吸して間を取る。
「隊長が……、隊長が白黒に攫われました!!」
「……はぁ?」
眉をハの字にし今一つ事態が飲み込めないといったような表情のメイド長。
「隊長が白黒に攫われました!!」
大事なことなのでもう一度言いました。
「……魔法の実験体にでもするつもりなのかしら?」
「違います。断じて違います。天地がひっくり返っても違います」
「あら、言い切るのね?」
「そりゃあもう。
幼女+ゴスロリ+斜め45度から目を潤ませての『お姉ちゃんお願い』攻撃に耐えられる者はいません!!」
「…………」
「ややっ、何故にだんまりですか?」
頭を抱えて溜め息をつくメイド長。何だろう、この微妙な間は。
「…………副長」
「はい?」
「貴女に新しい任務を与えるわ――――」
我輩は元副長である。
この度メイド長の命により新しい任務を請け負った。
内容は白黒の屋敷に潜入。速やかに隊長を保護し帰還。これが今回の任務になる。
白黒の屋敷は危険極まりない。だが新しく相棒となった『ダンボ・オル』がいれば見つかる恐れもない、はずだ。
今日も薄暗い魔法の森で茸や珍しい生き物を捕獲する生活が始まろうとしている。
結構面白かったけど、最後のほうとオチが……。
幼女+ゴスロリ+斜め45度から目を潤ませての『お姉ちゃんお願い』攻撃をする美鈴……
おっ持ち帰りいいいいいいい!
……ところで持ってかれた美鈴は、一体今どうなって居るんでしょうか?
とりあえず美鈴が攫われてどうなってるかが気になるのと副長がいいキャラしてるので是非続きをww
パチェが清純派なんて当たり前じゃないですか!美鈴が幼女………………イイですね!
ていうか萃のCPU、超反応は自重してほしいよorz
故郷?