Coolier - 新生・東方創想話

過ぎ行くとき

2008/03/12 20:42:35
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※この小説には数人のオリキャラが出てきます。
 それでも構わないという方はどうぞ。







 寒くもなく、だからといって暑くもない、ただ少しずつ気温が上がっているのが実感できるそんな晴れの日。もうすぐこの幻想郷にも雨が降り、紫や赤に染まった紫陽花が咲き乱れ、その後には向日葵が太陽に顔を向けることになるだろう。
晩春ともいえ初夏ともいうそんな時期、霧雨魔理沙は博霊神社の縁側に座っていた。なんてことは無い、霊夢に話があると呼ばれたのだ、もっとも本人はお茶と茶請けを取りにいったきり帰ってこないのだが。
魔理沙はぼんやりと外を見ている。その目は桜木を見つめていた。桜は花も美しいが、散った後の葉桜も青々として、この季節の太陽に照らされ美しく輝いている。今年の桜は例年に無く咲いた。霊夢が掃くのをうんざりするくらいに大量に、そういえば前に同じこともあった、そうあれは確か……。
「何ぼんやりしてるのよ」
そういって、霊夢が盆を持ちながら戻ってきた。盆の上には湯飲みが二つに茶請けのおはぎと桜餅が一つずつ。
「いや、桜は花だけじゃなくて葉桜も綺麗なものだと思ったんだ」
「あんたにしては珍しく風流なこと言うじゃない」
盆を置いた霊夢はそっと魔理沙の横に座る。
「あんたにしては、は余計だぜ。私たちもう幾つになると思ってるんだ?」
「そう……ね」
 あの騒がしくも楽しかった日々はもう既に昔のもの、最近では全く異変も起きなければ皆で揃って宴会をすることも少なくなっている。時間という残酷なものは確実に彼女たちを変えてきた。妖怪や吸血鬼と違って彼女たちは人間、一年で容姿が変わり、一年で考えが変わり、そして一年で大人になる。
幼かった記憶を解けば楽しいことはまるで山のようにある、しかし彼女たちはもう楽しいだけでは生きてはいけないことに気がついた、楽しいことだけでは楽しくないことに気がついてしまった。二人の年齢はもう二十六、もう子どもに戻ることは出来ない。
「昔はあんたも色々やってたわよね。魔法使いもどきとか」
「おいおい、もどきは止めてくれよ。私はれっきとした魔法使いだぜ」
お茶を啜りながら魔理沙は反論する。もっとも今、彼女が魔法を使うことは殆ど無い、稀に襲ってきた妖怪を追い払うために使うぐらいだ。
「あと、盗人とか」
「おいおい、そんな昔話は止めてくれよ。借りた本はちゃんとパチュリーには全部返したぜ」
魔理沙は恥ずかしいのか、昔話を拒否するかの様に首を横に振る。後ろで縛った彼女の金髪が太陽に跳ね返って美しく映える。彼女のトレードマークだった三角帽子はそこには無かった。


 「お母さ~ん、こんなの見つけた~」
 神社の境内を走ってくる少女が一人、腰まで伸びた長い金髪に、頭には白と黒の三角帽子、服は薄い青色で纏められているがその姿は昔の魔理沙そのものだった。
「おお、沙理菜。何を見つけたんだ?」
自分に駆けつけた少女の頭を撫でながら、魔理沙は笑みを浮かべる。その柔らかい笑みは昔のような少女の笑顔では無く、母親の微笑だった。途中で話を切らされた霊夢は黙ってその姿を見ながらふと思い浮かべる。
 それはさっきまでの話よりは新しく、今よりは昔のこと。


 『あのな、その……結婚することになったんだ』
今まで見せたことが無いような嬉しそうな、恥ずかしそうな顔で魔理沙はそう言った。
季節は確か、秋から冬へと移り変わるそんな季節だった。紅葉は終わり、役目を終えた葉が次々にはらりはらりと舞っていく。散るとは言い難く、落ちるとは言いづらいそんな舞い方で。
『そう、よかったじゃない』
その葉を掃きながら、私はぶっきらぼうにそう言った。
正直なところ、魔理沙が男性と同衾の関係にあるということは私の耳にも入っていた。魔理沙が魔法の森にあった家を引き払ったとアリスから聞いていたし、それに伴ってパチュリーの図書館から盗んでいた本も纏めて返しにきたと咲夜は言っていた。あと慧音から魔理沙と男性が仲睦まじそうに里を歩いていたとも聞いていた。
だから、結婚も時間の問題だとそう思っていた。実際に慧音から話を聞いた数日後に魔理沙はやってきた、だから私も心の準備は整えていたはずなのだ。でも、魔理沙本人からその言葉を聞くと胸が塞がるような、息苦しくなる気持ちが体を駆け抜けた。
『今度、式をあげるんだが霊夢も来てくれるよな?』
『ええ、勿論よ。一世一代の晴れ姿見せてもらうわよ』
私がまともに覚えているのはここまで、あと式の日程や来るメンバーを聞いたはずなのだがあまり記憶に無い。気がつくと私は一人布団の中で泣いていた。誰もいない部屋でぐずぐずとそれこそ夜が明けるまで。
 不安だった。心の準備をしていたとはいえ古い付き合いだった魔理沙が結婚をする事実が、この年で一人身の私を置いて先に進もうとしている魔理沙に、そして魔理沙が私のことを忘れるのではないかという恐怖に。
それは深々と雪が降り続ける結婚式当日に頂点に達した。
皆の前に現れた魔理沙の姿、白粉に着物を身に纏ったその姿に式場は息を呑んだ。それほどまでに魔理沙が美しかったのだ。
『あんたも綺麗になればなれるものなのね』
『勿論だぜ。私は綺麗だからな』
慧音や咲夜に促されて、魔理沙にお酒を注ぎにいったときの会話、口調は変わらなかったけれど、魔理沙の笑みは「女」の笑みだった。
その後、席に戻った私は皆の制止も聞かずに延々と飲み続けた。記憶があやふやになり、結婚式がどうなったかなんて覚えていない。気がつくと底冷えのする自分の部屋で、魔理沙の膝の上で寝ていた。
『おお、ようやく起きたのか』
魔理沙のその言葉は酷い二日酔いだったにも関わらずよく覚えている。
あとで聞いた話だと私が泥酔した後、魔理沙は愛する人との結婚初夜を捨ててまで私を神社まで送ってくれたそうだ。そして、私が目を覚ますまで付きっきりでいてくれたらしい。
『霊夢、お前は私の大切な親友だからな』
全てが変わったと思っていた魔理沙はそう言って微笑んでくれた。その微笑みは以前とは変わらないもので……。
泣きついた。魔理沙の胸に抱きつきながら嗚咽を零しながら、慟哭し続けた。魔理沙はそんな私を抱きしめて頭を撫でてくれた。私が泣き止むまで……。

 それから私はいつも通りの生活を送れるようになった。魔理沙が私の所に来る回数は減ったけれど、それ以外は何も変わらない。
人は必ず変わるのだ、ただ根本的なものはそう簡単に変わらない、いや変われない。それが分かったから……。

 魔理沙に子供が出来たと文から聞いたのは結婚式があって一年ぐらい経った頃だったろうか、少し大きくなったお腹で私の所へやってきたのはそれから半月後。
『この子の名付け親になって欲しいんだ』
『いいわよ』
その言葉に私は即答した。それから私はほとんど無い仕事まで放り出して魔理沙の子どもの名前を考え続けた。私を信頼して名付け親になって欲しいといった魔理沙に応えるために。
『貴女がそんなに真剣に物事を考えてるところ。初めて見たわ』
咲夜はそう言って笑ったけど、それは事実だった。私がこれほどまでに悩んだのは初めてだった。
季節は移ろい、夏を迎える頃から魔理沙が私の所へやってくることが多くなってきた。
何でも身重で家事をさせるのが忍びないからと旦那がやってくれるのだとか、本当に良い人と魔理沙は結婚したのだと思う。
夏の暑いときにも関わらず、お腹を冷やさないように子どものことを考えて厚着をしてやってくる魔理沙に私はいつも暖かいお茶と冷たいお茶を出していた。
魔理沙は冷たいお茶をゆっくり、ちびりちびりと飲んだ後、暖かいお茶を飲んでいた。それはお腹の子どもに対する気遣い、そこに「母親」の霧雨魔理沙がいた。

 夏の日差しは和らぎ、秋の風が舞い込んでくる頃、魔理沙のお腹は本当に大きくなっていた。この中に本当に子どもがいるのかとようやく実感できるくらいに。
『この子、よくお腹を蹴るんだ。聞いてみるか?』
そう言われて魔理沙のお腹に耳を当ててみた。しばらくすると音がする。
『ほら蹴っただろ?』
そう言って笑う魔理沙は優しくお腹を撫でる。
『もう少しで出てくるんだろ。私に似て可愛いんだろうな。楽しみだぜ』
すっかり母親になった魔理沙の笑み。確かにそこには大きな命の息吹が芽吹いていた。

 それからしばらく魔理沙がやってくることは無かった。
次に会ったのは、魔理沙が子どもを生んだその日。アリスが生まれそうだから来て欲しいと珍しく慌てた様子でやってきた。そのアリスの慌て方に驚きながら急いで里の外れにある魔理沙の家に向かった。
魔理沙の部屋の扉を開けると中には魔理沙と旦那、そして魔理沙の横で平和そうに眠っている赤ん坊。
憔悴しきった魔理沙の顔から出産の大変さが理解できた。旦那が言うには前々日から酷い陣痛でほとんど寝ていないのだという。
それにも関わらず魔理沙はニカッと笑いながら。
『どうだ?可愛いだろう。私の子どもなんだぞ』
と自慢してくるのだ。私は呆れながらも魔理沙の赤ん坊を覗き込んだ。確かに可愛い、目や口元は魔理沙にそっくりで数年後には魔理沙と瓜二つになるのだろうなと思った。
それを言うと魔理沙はうんうんと頷きながら子どもの頭を撫でていた。
『それで霊夢、名前考えてくれたのか?』
『勿論よ』
しばらく話をした後の魔理沙の言葉に私は頷く。
そして私が言った名前は――。


「おい、霊夢。起きろよ」
「霊夢お姉ちゃん、起きてよ」
その言葉で霊夢は閉じていた目を開ける。懐かしいことを思い出していたのが寝ていたと思われたらしい。目の前には魔理沙と沙理菜の顔がある。親子というよりも姉妹に見れるほど良く似ている。
「寝てないわよ。ちょっと昔のことを思い出していただけ」
霊夢は脇においていたお茶を啜る。熱い、どうやら思い出す時間はそんなに長くなかったようだった。
「昔?」
「そうよ、あんたの結婚式やあんたが沙理菜を生んだときのこととかをちょっとね」
魔理沙はそれを聞くと意地の悪い笑顔を見せた。この笑顔は昔となんら変わることは無かった。
「ああ、霊夢が私の晴れ着を見て、自棄酒をした挙句、私の結婚初夜を奪ったことだな」
それを聞いた霊夢の顔は真っ赤に染まる。さすがに思い出すのはいいがそれを口に出されるのは恥ずかしかったのだろう。
「ええ!霊夢お姉ちゃんそんなことしたの!?」
沙理菜は驚いたように霊夢を見る。いつもは冷静沈着な霊夢がそんなことをしたとは思わなかったのだろう。
「魔理沙!あれは自分から……!」
「それでも私の初夜を奪ったことには変わりないぜ。……それにあのまま、霊夢をほっておけるわけないじゃないか」
その言葉で霊夢は何も言わなくなった。心なしか顔が赤い感じがする。
魔理沙も何も言わない。沙理菜は二人の顔をきょろきょろと交互に見つめるだけだ。
 風が流れる、葉桜が細波を起こす。雲が我先にと彼方へと流れていく。この早さだと明日は雨かもしれない。
ふと、子どもの泣き声が聞こえてきた。目の前の沙理菜ではなく赤ん坊の泣き声。
「はいはい、絵理沙ちょっと待ってね」
その声を聞いていた魔理沙は一瞬で母親の顔に戻ると襖を開けて部屋に入る。中には薄い布団が敷いてあってそこに赤ん坊が元気に泣いていた。
魔理沙は赤ん坊を抱き上げると、よしよしと泣き止ませる。別におむつでも、お乳でも無かったみたいで、赤ん坊の泣き声はすぐに収まっていった。
 その母親を見ていた霊夢は本来の目的を思い出した。何故魔理沙を呼んだのか、その理由を。
なんてことはない、自分の縁談がまとまったのだ。博霊の巫女が婚期を逃がしそうになっているという事態に慧音が縁談を持ち込んだのが去年。そして昨日、ようやく纏まり一週間後に結納ということになっていた。
 これはまだ慧音以外は誰も知らない、慧音には誰にも言わないで、と言ってある。つまり魔理沙が最初に私の結婚を知ることになる。それが私から親友への愛情表現だ。
 さて、これをどうやって魔理沙に言おうか、普通に言うのも構わないが、昔話のお返しにちょっとくらい驚かせようか。
 霊夢は顎に手を当て、少し考えて口を開いた。
「ねぇ―――」
あとがき 訂正版

皆さん、どうも初めまして。初投稿になります主といいます。
東方を始めたばっかりの初心者で正直言うとキャラがいまいち掴めていません。それぞれの呼び方なんてほとんど勘になっています(汗)
それでもこの二人の数年後というものを書いてみたくなり書いてみました。
拙い文章ではありますが、ご意見ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。

三月十三日:誤字の修正行いました。
あと推敲、加筆したものがあるのですがそちらの方がいいのでしょうか?
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コメント



0.330簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
巫女が結婚とな?
4.60☆月柳☆削除
陣痛が2日、のところで突っ込みかけたけど、そういうときもあるみたいですね。
基本的なことしか習ってないと、どうしても先入観が……。
ほのぼのした感じはよかったけど、もう少し話しを広げてくれたほうが盛り上がったかも?
6.60三文字削除
ほのぼのですなぁ
この二人じゃなくて、もっと他のキャラとの絡みも見たかったかも。
7.50名前が無い程度の能力削除
岳葉楼のところの絵が浮かびました。
8.無評価削除
〉陣痛
先入観というよりも2日続くということ自体が珍しいですから仕方ないと思います。

〉話を広げる
それは私の技術不足です(汗)すみません。これから精進していきます。

〉他のキャラとの絡み
あとがきにもあるように私は東方初心者でして、他のキャラを必要以上に出せるほどキャラがつかめていません。次書くときまでにはある程度つかんでおきますので……