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作品集50の旅の終わりは幸せの終わりのつづきですのでご了承くださいまし
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「ここか」
美羽だった者が穴から出てきたところ、そこはマヨヒガの近辺だった。
そしてその少し先にはあの祠がある。
「こんな寂れた場所によくもまぁ封印してくれたものだな」
「あら、ごめんなさい・・・そういうのには余り気を使わないのよ」
突然響いた声、美羽だった者の目の前の空間が裂け、中から女性が歩いてくる。
「やはり貴様か」
「あらあら、その可愛らしい姿で何をするつもりなの?」
扇子を口に当てながらにやける紫。
「決まっているだろう、わざわざこの姿で私が封印されている所に来たんだ」
当然という仕草で美羽だった者は歩み始める。
「残念でした」
「何?」
歩いていた足を止め紫を睨み付ける。
「貴方の肉体に宿っていた強すぎる力が封印によって凝縮されちゃって逃げ場の無くなった力が自らの肉体を滅ぼしたの、だからもう肉体は無いわ」
ふふっと紫が微笑む、しかし。
「く・・・ふふ・・・ふははははははは!何を言うと思ったらそんなことか!」
高笑いをあげ、再び紫を睨み付ける、その表情は鬼のようであった。
「どういうことかしら?」
紫が少し不満そうな顔をする。
「肉体が無くとも魂は健在だ、私の能力を忘れたわけではないだろう?」
「まさか!?」
「そうだ!私の“万物を書き写す程度の能力”でこの身体に私の魂を上書きする!」
再び高笑いをし紫の横を通り過ぎる。
しかし紫は振り返り、
「させないわ!外力「無限の超高速飛行体」!」
紫が宣言したと同時に背後から青白い光を発する物体が目にも止まらぬ速さで飛来する。
「甘い」
しかしそれは美羽だった者の背後に現れた穴によって吸い込まれ、紫めがけて発射された。
「く!」
紫は舞い上がり回避するが後方で地面に直撃した玉が爆発し土煙を上げた。
「しまった!」
土煙で視界を遮られてしまった。
「さぁ、この穴を開ける能力で封印に穴を開ければ・・・The Endだ」
そして美羽だった者が祠に触れようとした時であった、遠くから声が響いた。
「神槍「スピア・ザ・グングニル」」
「な!?」
封印に穴を開けようと意識を集中していた時、不意に横から紅い閃光が走る。
しかし美羽だった者は軽々と後方へ避けるがその槍の衝撃波で土煙は拡散した。
「みつけたわ」
「吸血鬼のガキか」
「レミリア・・・」
槍が飛んできた方向からレミリアが舞い降りる。
遅れて咲夜も飛んでくる。
「今は相手をしている暇は無いんだ、邪魔しないでもらおうか」
「だめ、美羽にはまだ借りを返してないの、だから貴方なんかに美羽を渡すわけには行かないの」
今のレミリアには夜の王たる威圧感がただよっていた。
「そんなこと、私が知ったことか」
「それなら私も貴方の都合なんかしらないわよ」
「なら、如何すると?この身体である以上迂闊に手出しはできないだろう?」
美羽だった者は余裕をかもし出していた。
この身体で傷がつけば美羽が傷つくということになるからだ。
「黙れ」
レミリアはそう一言言うと紅い槍を美羽だった者に向けて投げ飛ばした。
「だめよ!こいつには単発の攻撃は効かないわ!」
横から紫が言う、しかし遅すぎた。
「貴様には仲間を思う気持ちが無いのか」
美羽だった者が前方に穴を展開する。
「やはり吸い込まれたか」
レミリアは予想していたようだ。
「お嬢様!後ろです!」
「何!?」
レミリアの背後に突然穴が開きそこから高速で飛ぶ槍が飛来する。
「く!」
間一髪で避けたレミリア。
しかし腕に掠り傷を負わされた。
「ほう、さすが吸血鬼・・・素早いな、だが・・・これならどうだ?」
さっきの槍がまた別の穴に吸い込まれ次は地面から発射される。
そしてそれがまた別の穴に吸い込まれまた別の穴から出てくる。
「つ・・・こんなことも出来るなんて思いもしなかったわ」
「レミリアも私も油断しすぎたようね」
槍が残像を残し異たる所に線、線、線・・・まるで蜘蛛の巣であった。
「いいざまだな、そのまま踊っているがいい!」
「いい加減にしなさい」
「な!?」
美羽だった者の背後に突然咲夜が現れ首にナイフを突きつける。
「今すぐ止めなさい、さもないと刺すわよ」
「ふむ、貴様・・・実に混沌だ」
「・・・?ふざけているつもりかしら?」
「貴様はあのガキに好意を抱いているだろう、それも叶わぬ事と知りながら」
「で・・・でたらめを!」
咲夜がナイフを構えた右手に力を込めようとする。
しかし、腕が動かない。
「残念だが神経に穴をあけさせてもらった」
「何ですって!?」
咲夜が左手を動かそうとするが同じように動かない。
「貴様は好意を抱きながらそれは叶わないと分かりきっている、
しかし諦めてはいない・・・貴様の心の中ではこれ等が重なり合って混沌となっている」
「そんなの!でたらめよ!」
「しかも門番にも少なからず好意を抱いてると見た、くくくっそれでいて素直になれてはいない・・・」
「それがどうしたのよ!?貴方には関係ない!」
咲夜が声を荒たげる。
「くくく・・・分かるぞ、今のお前の気持ちが・・・人間とは心を読まれることに誰もが恐怖を抱く、本能的にな」
「ぐ・・・!」
咲夜が必死で力を込めるが全く身体は言うことを聞かない・・・。
「あいつ・・・どれだけの集中力をしているのよ!」
一方紫とレミリアは延々と続けられる槍の不規則な進行によって動けずにいた。
「紫!貴方もスキマつかってアレどうにかできないの!?」
「やってるわよ、ただスキマに入り込む前に別の穴が展開されるのよ!」
実際紫がスキマを開いた瞬間に同時に重なるように穴も開いていた、
そしてその穴に吸い込まれた槍をまた別の穴から出すという通常では考えられないことを美羽だった者はやってのけていた。
「こうしている間にも咲夜が・・・この!」
レミリアが自分の頭上に開いた穴を睨み付ける。
「スペルカードを出す時間も無いなら肉弾よ!・・・たぁあ!!!!!!」
その穴から出た槍をレミリアが自らの拳で殴る、
そして物凄い轟音とともに槍は高速回転し空の彼方へと消えた。
「滅茶苦茶ね」
「あのままずっと避け続けるよりはましでしょう」
しかしレミリアの右腕は痛々しいほど不自然な角度に曲がっていた。
「おっと、あの槍が飛ばされてしまったようだ・・・不覚だったな」
やれやれといった感覚で腕を上げる。
「ふふふ、これで貴方は終わりよ。直にお嬢様が来るわ」
そこで咲夜が普段の余裕を取り戻し始める。
「何を勘違いしている?私がただただぼけっとしていただけだと思っているのか?」
しかし美羽だった者はすでに封印を解く準備が完了していたようであった。
「なんですって!?・・・ならば!」
咲夜が目を閉じる、すると突然祠が地平線の彼方まで滑っていった。
咲夜が空間を弄り距離を伸ばしたのである。
「成る程、距離で時間を稼ぐというわけか、だが詰めがあまかったな。この能力はどんな遠くに物があろうとも関係は無い」
くくく、っと笑いを飛ばす、しかし
「いいえ、私は完全なメイドよ?それぐらい予想もできないと思っていたのかしら?
とっくに空間の形状も変えてあるわよ」
咲夜が余裕の表情を見せるが美羽だった者は顔色一つ変えていない、むしろ先ほどよりも声が大きくなっているかのような気もする。
「残念なことに私のもう一つの能力を忘れてもらっては困るな、私の頭の中には常に現状の祠が描かれている」
現状の祠を常に頭の中に描かれている、つまりはたとえどんな形になろうともその場所が存在する限りそこに穴を展開できるのだ。
「それなら!貴方があの祠まで近づけないようにするだけよ・・・こんな遠くからじゃ封印されているものの本質までは見抜けないはずよ」
「ほほぅ、そこは褒めるべきか鋭いな、がしかし今の貴様に何が出来る?」
美羽だった者はいまだ余裕を崩さない、しかし咲夜も余裕の笑みを浮かべている。
「いいえ、チェックメイトよ」
「なんだと!?」
次の瞬間美羽だった者の真横にスキマが開き中からレミリアがバットレディスクランブルを発動しながら出てきた。
「ごぉぉ!?」
予想外で油断していた上レミリアのスピードに圧倒され美羽だった者の脇腹に直撃した。
「さっすが咲夜、心配なんていらなかったわね」
「はい・・・て、お嬢様!?その腕は!」
咲夜がレミリアの不自然に曲がった腕を見て驚く。
「大丈夫よ、直ぐに直るわ」
「しかし!」
「私の生命力は知っているでしょう?今はあいつよ!」
「は、はい!」
「二人とも終わったかしら?さて、次は貴方が攻められる番よ」
美羽だった者は俯いていてその表情は伺えない。
「降参かしら?」
咲夜がかなり低速で美羽だった者に近づこうとする・・・が、咲夜が動いた瞬間美羽だった者が瞬時に顔を上げ咲夜を睨み付ける。
「え?」
咲夜の中になんとも言えない衝撃が走りそのまま崩れるように倒れた。
そして美羽だった者も同時に倒れる。
「咲夜!」
レミリアが瞬時に咲夜に駆け寄る、そして落下する咲夜を受け止めた。
「あぶないわね、この身体だけは美羽だと言うのにねぇ」
美羽だった者は紫がスキマで受け止めていた。
「咲夜!?しっかりして!咲夜!」
レミリアの呼びかけに答えるかのように咲夜が目を開けた。
「咲夜・・・じゃない・・・貴様!」
「離せ吸血鬼のガキが」
咲夜だった者がレミリアを振りほどき距離を置く。
「貴様!咲夜に何をした!!」
今の咲夜には今まで美羽に憑いていたものが憑いていた。
「簡単なことだ、私は人間の心にスキマがあれば容易くそこに入り込めるのだよ」
にやりと口を開き笑い出す。
「咲夜を返しなさい!」
「事が終われば直ぐにでも返すさ、どうだ?取引をしようじゃないか・・・この娘の身体を引き換えに邪魔をしない事だ、どうだ?悪くは無いだろう」
くくく・・・っと笑う咲夜だった者。
「くっ!ダメだ!貴様の邪魔はする!そして咲夜も返してもらう!」
「残念だ、交渉決裂だな・・・些かこの身体は傷ついてもしらんぞ」
そして咲夜だった者は能力を解き放った。
その瞬間祠は目の前に出現し形も元に戻る。
「・・・!?まちなさい!」
「残念だがもう遅い・・・こっちが本当のチェックメイトだ!」
咲夜だった者が祠をナイフで切り刻み破壊した。
そして祠が崩壊すると同時に半透明の球体状のものが出現した。
その球体の中には魂らしき物体があり球体の天辺にはぽっかりと穴が開いていた。
「あれが貴様の魂!」
「そうだ、美しいだろう・・・あの青白い輝きを放つ穢れなき魂!あれに触れれば私は何時でも完全な復活が出来る!時よ止まれ!」
「しま・・・」
レミリアが飛びかかろうとした瞬間世界は静止した。
「ふはははははははは!!!こうも簡単に我が魂が手に入れられるとはな!さぁ!今こそ復活を!」
咲夜だった者が球体に入り込み魂を鷲づかみにし情報を読み取る。
「これで後はあの身体に移し変えるだけだ・・・これだけは時が止まっていたらどうしようもないな・・・そして時は動き出す・・・」
世界が咲夜だった者を中心に動き始める。
「・・・た!!!魂が!?」
レミリアが辺りを探す、そして後方に咲夜だった者の姿を確認した。
「貴様ぁぁぁ!」
咲夜だった者に向けて腕を振りかざし高速で接近するレミリア。
そして咲夜だった者が振り返る・・・がその瞳に影は無かった。
「お!?お嬢様!?」
「え?咲夜!?」
そして衝突。
「うう・・・いったいどうなってるのよ!」
「私が聞きたいです・・・お嬢様・・・」
「まって・・・咲夜からいなくなった・・・ってことは美羽!」
「あ!待ってください!お嬢様!」
「・・・なんだこれは?」
「お目覚めかしら、貴方の行動はすでに把握済みよ」
美羽だった者が美羽に戻ったとき、すでに身体はスキマによって拘束されていた。
「どういう意味だ?」
美羽だった者が紫を睨み付ける。
「そういう意味も何も貴方は本当に相性がいい身体でしか復活は出来ない・・・ちがうかしら?転生の鬼、アカオニさん」
「貴様、思い出したのか・・・」
「全部ね、貴方の封印がずっと昔のことだったから細かいことは忘れていたの」
紫が扇子で口を隠しながら微笑む。
「この胡散臭い本質は変わらんな・・・くくくくく」
「お互い様ね、ふふふふふ」
そしてまたアカオニが俯いた。
「思い出したならこのことも思い出しただろう?私の能力は身体の疎縛など意味が無いということを」
「そうね、でもこれならどうかしら?」
紫が指を鳴らすとアカオニの両手を疎縛しているスキマが徐々に閉じていく。
「何だと!?まさか!」
「そのまさかよ」
そしてスキマが閉じた。
「ぐあぁああぁぁあああぁああああ!!!」
「もともと私は人を喰らう妖怪よ、昨日今日会った人間のことで情に流されたりはしないわ」
紫の横からスキマが開きアカオニの魂の情報の塊がでてきた、美羽の両手と友に。
「ああぁぁあああぁぁああぁああああああ・・・なんちゃって」
「!?」
紫の横にある美羽の手が指を弾き青白い球体のような物、アカオニの魂の情報を弾いた。
「なんですって!?」
そしてすぐに紫は軌道上にスキマを開いた、しかし先に穴を展開されてしまい間に合わなかった。
そしてその魂は穴を通りアカオニの目の前に出てきて・・・食われた。
「ああ、懐かしい記憶!懐かしい力!わかる!わかるぞ!徐々に戻ってゆくこの私が!!」
その時、アカオニを中心として爆発的な妖気の渦が発生した。
「相変わらずのばかげた力ね・・・」
その爆発的な妖気は木を根こそぎなぎ倒し、地面を抉り、雲を貫いた。
「なによこれ!」
「強い妖気による衝撃です!」
その間レミリアたちは上空で飛ばされまいと必死になっていた。
「妖気?ってことは間に合わなかった!?」
「恐らく、そういう意味になります・・・」
そして風が止んだ。
「くぅ・・・咲夜、大丈夫?」
「はい、なんとか・・・」
飛ばされてきた木の枝や小石で二人とも擦り傷だらけであった。
「そうだ、あいつはどうなったの!」
「お嬢様!あちらです!」
「最高だ、今の気分は・・・絶頂すら覚える!」
クレーターとなった場所にいるのは前頭に二本の紅色の仰け反った形をする角を生やしたアカオニであった。
「禍々しいわね・・・」
同じクレーターの中心からすこしずれたところに服の所々が裂けた紫がいた。
「紫!」
そこにレミリアと咲夜が加わる。
「残念だったな、貴様等の今までの苦労は悪いが無駄となった」
アカオニが腕を組んでにやけながら言った。
そして足元に穴が開き徐々に沈んでいく。
「まちなさい!まだ・・・」
前に出るレミリアの前に紫が手をかざす。
「紫!?邪魔をする気!」
「すこし落ち着きなさい、今の状態じゃ手も足も出ないわ」
「な・・・」
「流石スキマ妖怪だな、相手の力量をちゃんと見極めるか・・・それではお別れだ」
アカオニは地面に開いた穴の中へと消え、穴は閉じた。
「紫、あいつは一体何なの?」
今のレミリアの顔には悔しさという物がはっきりと映っていた。
「レミリア」
「何よ」
「幻想郷の妖怪たちを人間の里に集めるのよ、私も藍達と一緒に回るから・・・そしてある程度集めたら説明するわ、あのアカオニに関してもね」
「そう、わかったわ・・・咲夜」
「はい」
「いったん紅魔館にもどって美鈴と一緒に幻想郷中の妖怪たちに人間の里に来るように言ってもらえないかしら」
「は!」
そして咲夜は時を止めたのか既に居なくなっていた。
「あの半獣は私が説得しておくわ」
「わかった、人間の里に皆集めたら包み隠さず全て喋ってもらうわよ」
「いわれなくても」
紫が口元に扇子を当てる。
「それじゃ私もいくわ」
レミリアは素早く舞い上がり飛び去っていった。
「藍、もう出てきていいわよ」
「はい」
藍が紫の開いたスキマから出てきた。
「藍、貴方は幽々子達に永遠亭に行って人間の里に輝夜達を呼ぶように伝えて頂戴、そして貴方はそのまま霊夢たちにも人間の里に来るように伝えて」
「はい!」
そして藍も飛び去った。
「さて、私は半獣の説得ね・・・」
そして紫はスキマに消えた。
続く。
作品集50の旅の終わりは幸せの終わりのつづきですのでご了承くださいまし
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「ここか」
美羽だった者が穴から出てきたところ、そこはマヨヒガの近辺だった。
そしてその少し先にはあの祠がある。
「こんな寂れた場所によくもまぁ封印してくれたものだな」
「あら、ごめんなさい・・・そういうのには余り気を使わないのよ」
突然響いた声、美羽だった者の目の前の空間が裂け、中から女性が歩いてくる。
「やはり貴様か」
「あらあら、その可愛らしい姿で何をするつもりなの?」
扇子を口に当てながらにやける紫。
「決まっているだろう、わざわざこの姿で私が封印されている所に来たんだ」
当然という仕草で美羽だった者は歩み始める。
「残念でした」
「何?」
歩いていた足を止め紫を睨み付ける。
「貴方の肉体に宿っていた強すぎる力が封印によって凝縮されちゃって逃げ場の無くなった力が自らの肉体を滅ぼしたの、だからもう肉体は無いわ」
ふふっと紫が微笑む、しかし。
「く・・・ふふ・・・ふははははははは!何を言うと思ったらそんなことか!」
高笑いをあげ、再び紫を睨み付ける、その表情は鬼のようであった。
「どういうことかしら?」
紫が少し不満そうな顔をする。
「肉体が無くとも魂は健在だ、私の能力を忘れたわけではないだろう?」
「まさか!?」
「そうだ!私の“万物を書き写す程度の能力”でこの身体に私の魂を上書きする!」
再び高笑いをし紫の横を通り過ぎる。
しかし紫は振り返り、
「させないわ!外力「無限の超高速飛行体」!」
紫が宣言したと同時に背後から青白い光を発する物体が目にも止まらぬ速さで飛来する。
「甘い」
しかしそれは美羽だった者の背後に現れた穴によって吸い込まれ、紫めがけて発射された。
「く!」
紫は舞い上がり回避するが後方で地面に直撃した玉が爆発し土煙を上げた。
「しまった!」
土煙で視界を遮られてしまった。
「さぁ、この穴を開ける能力で封印に穴を開ければ・・・The Endだ」
そして美羽だった者が祠に触れようとした時であった、遠くから声が響いた。
「神槍「スピア・ザ・グングニル」」
「な!?」
封印に穴を開けようと意識を集中していた時、不意に横から紅い閃光が走る。
しかし美羽だった者は軽々と後方へ避けるがその槍の衝撃波で土煙は拡散した。
「みつけたわ」
「吸血鬼のガキか」
「レミリア・・・」
槍が飛んできた方向からレミリアが舞い降りる。
遅れて咲夜も飛んでくる。
「今は相手をしている暇は無いんだ、邪魔しないでもらおうか」
「だめ、美羽にはまだ借りを返してないの、だから貴方なんかに美羽を渡すわけには行かないの」
今のレミリアには夜の王たる威圧感がただよっていた。
「そんなこと、私が知ったことか」
「それなら私も貴方の都合なんかしらないわよ」
「なら、如何すると?この身体である以上迂闊に手出しはできないだろう?」
美羽だった者は余裕をかもし出していた。
この身体で傷がつけば美羽が傷つくということになるからだ。
「黙れ」
レミリアはそう一言言うと紅い槍を美羽だった者に向けて投げ飛ばした。
「だめよ!こいつには単発の攻撃は効かないわ!」
横から紫が言う、しかし遅すぎた。
「貴様には仲間を思う気持ちが無いのか」
美羽だった者が前方に穴を展開する。
「やはり吸い込まれたか」
レミリアは予想していたようだ。
「お嬢様!後ろです!」
「何!?」
レミリアの背後に突然穴が開きそこから高速で飛ぶ槍が飛来する。
「く!」
間一髪で避けたレミリア。
しかし腕に掠り傷を負わされた。
「ほう、さすが吸血鬼・・・素早いな、だが・・・これならどうだ?」
さっきの槍がまた別の穴に吸い込まれ次は地面から発射される。
そしてそれがまた別の穴に吸い込まれまた別の穴から出てくる。
「つ・・・こんなことも出来るなんて思いもしなかったわ」
「レミリアも私も油断しすぎたようね」
槍が残像を残し異たる所に線、線、線・・・まるで蜘蛛の巣であった。
「いいざまだな、そのまま踊っているがいい!」
「いい加減にしなさい」
「な!?」
美羽だった者の背後に突然咲夜が現れ首にナイフを突きつける。
「今すぐ止めなさい、さもないと刺すわよ」
「ふむ、貴様・・・実に混沌だ」
「・・・?ふざけているつもりかしら?」
「貴様はあのガキに好意を抱いているだろう、それも叶わぬ事と知りながら」
「で・・・でたらめを!」
咲夜がナイフを構えた右手に力を込めようとする。
しかし、腕が動かない。
「残念だが神経に穴をあけさせてもらった」
「何ですって!?」
咲夜が左手を動かそうとするが同じように動かない。
「貴様は好意を抱きながらそれは叶わないと分かりきっている、
しかし諦めてはいない・・・貴様の心の中ではこれ等が重なり合って混沌となっている」
「そんなの!でたらめよ!」
「しかも門番にも少なからず好意を抱いてると見た、くくくっそれでいて素直になれてはいない・・・」
「それがどうしたのよ!?貴方には関係ない!」
咲夜が声を荒たげる。
「くくく・・・分かるぞ、今のお前の気持ちが・・・人間とは心を読まれることに誰もが恐怖を抱く、本能的にな」
「ぐ・・・!」
咲夜が必死で力を込めるが全く身体は言うことを聞かない・・・。
「あいつ・・・どれだけの集中力をしているのよ!」
一方紫とレミリアは延々と続けられる槍の不規則な進行によって動けずにいた。
「紫!貴方もスキマつかってアレどうにかできないの!?」
「やってるわよ、ただスキマに入り込む前に別の穴が展開されるのよ!」
実際紫がスキマを開いた瞬間に同時に重なるように穴も開いていた、
そしてその穴に吸い込まれた槍をまた別の穴から出すという通常では考えられないことを美羽だった者はやってのけていた。
「こうしている間にも咲夜が・・・この!」
レミリアが自分の頭上に開いた穴を睨み付ける。
「スペルカードを出す時間も無いなら肉弾よ!・・・たぁあ!!!!!!」
その穴から出た槍をレミリアが自らの拳で殴る、
そして物凄い轟音とともに槍は高速回転し空の彼方へと消えた。
「滅茶苦茶ね」
「あのままずっと避け続けるよりはましでしょう」
しかしレミリアの右腕は痛々しいほど不自然な角度に曲がっていた。
「おっと、あの槍が飛ばされてしまったようだ・・・不覚だったな」
やれやれといった感覚で腕を上げる。
「ふふふ、これで貴方は終わりよ。直にお嬢様が来るわ」
そこで咲夜が普段の余裕を取り戻し始める。
「何を勘違いしている?私がただただぼけっとしていただけだと思っているのか?」
しかし美羽だった者はすでに封印を解く準備が完了していたようであった。
「なんですって!?・・・ならば!」
咲夜が目を閉じる、すると突然祠が地平線の彼方まで滑っていった。
咲夜が空間を弄り距離を伸ばしたのである。
「成る程、距離で時間を稼ぐというわけか、だが詰めがあまかったな。この能力はどんな遠くに物があろうとも関係は無い」
くくく、っと笑いを飛ばす、しかし
「いいえ、私は完全なメイドよ?それぐらい予想もできないと思っていたのかしら?
とっくに空間の形状も変えてあるわよ」
咲夜が余裕の表情を見せるが美羽だった者は顔色一つ変えていない、むしろ先ほどよりも声が大きくなっているかのような気もする。
「残念なことに私のもう一つの能力を忘れてもらっては困るな、私の頭の中には常に現状の祠が描かれている」
現状の祠を常に頭の中に描かれている、つまりはたとえどんな形になろうともその場所が存在する限りそこに穴を展開できるのだ。
「それなら!貴方があの祠まで近づけないようにするだけよ・・・こんな遠くからじゃ封印されているものの本質までは見抜けないはずよ」
「ほほぅ、そこは褒めるべきか鋭いな、がしかし今の貴様に何が出来る?」
美羽だった者はいまだ余裕を崩さない、しかし咲夜も余裕の笑みを浮かべている。
「いいえ、チェックメイトよ」
「なんだと!?」
次の瞬間美羽だった者の真横にスキマが開き中からレミリアがバットレディスクランブルを発動しながら出てきた。
「ごぉぉ!?」
予想外で油断していた上レミリアのスピードに圧倒され美羽だった者の脇腹に直撃した。
「さっすが咲夜、心配なんていらなかったわね」
「はい・・・て、お嬢様!?その腕は!」
咲夜がレミリアの不自然に曲がった腕を見て驚く。
「大丈夫よ、直ぐに直るわ」
「しかし!」
「私の生命力は知っているでしょう?今はあいつよ!」
「は、はい!」
「二人とも終わったかしら?さて、次は貴方が攻められる番よ」
美羽だった者は俯いていてその表情は伺えない。
「降参かしら?」
咲夜がかなり低速で美羽だった者に近づこうとする・・・が、咲夜が動いた瞬間美羽だった者が瞬時に顔を上げ咲夜を睨み付ける。
「え?」
咲夜の中になんとも言えない衝撃が走りそのまま崩れるように倒れた。
そして美羽だった者も同時に倒れる。
「咲夜!」
レミリアが瞬時に咲夜に駆け寄る、そして落下する咲夜を受け止めた。
「あぶないわね、この身体だけは美羽だと言うのにねぇ」
美羽だった者は紫がスキマで受け止めていた。
「咲夜!?しっかりして!咲夜!」
レミリアの呼びかけに答えるかのように咲夜が目を開けた。
「咲夜・・・じゃない・・・貴様!」
「離せ吸血鬼のガキが」
咲夜だった者がレミリアを振りほどき距離を置く。
「貴様!咲夜に何をした!!」
今の咲夜には今まで美羽に憑いていたものが憑いていた。
「簡単なことだ、私は人間の心にスキマがあれば容易くそこに入り込めるのだよ」
にやりと口を開き笑い出す。
「咲夜を返しなさい!」
「事が終われば直ぐにでも返すさ、どうだ?取引をしようじゃないか・・・この娘の身体を引き換えに邪魔をしない事だ、どうだ?悪くは無いだろう」
くくく・・・っと笑う咲夜だった者。
「くっ!ダメだ!貴様の邪魔はする!そして咲夜も返してもらう!」
「残念だ、交渉決裂だな・・・些かこの身体は傷ついてもしらんぞ」
そして咲夜だった者は能力を解き放った。
その瞬間祠は目の前に出現し形も元に戻る。
「・・・!?まちなさい!」
「残念だがもう遅い・・・こっちが本当のチェックメイトだ!」
咲夜だった者が祠をナイフで切り刻み破壊した。
そして祠が崩壊すると同時に半透明の球体状のものが出現した。
その球体の中には魂らしき物体があり球体の天辺にはぽっかりと穴が開いていた。
「あれが貴様の魂!」
「そうだ、美しいだろう・・・あの青白い輝きを放つ穢れなき魂!あれに触れれば私は何時でも完全な復活が出来る!時よ止まれ!」
「しま・・・」
レミリアが飛びかかろうとした瞬間世界は静止した。
「ふはははははははは!!!こうも簡単に我が魂が手に入れられるとはな!さぁ!今こそ復活を!」
咲夜だった者が球体に入り込み魂を鷲づかみにし情報を読み取る。
「これで後はあの身体に移し変えるだけだ・・・これだけは時が止まっていたらどうしようもないな・・・そして時は動き出す・・・」
世界が咲夜だった者を中心に動き始める。
「・・・た!!!魂が!?」
レミリアが辺りを探す、そして後方に咲夜だった者の姿を確認した。
「貴様ぁぁぁ!」
咲夜だった者に向けて腕を振りかざし高速で接近するレミリア。
そして咲夜だった者が振り返る・・・がその瞳に影は無かった。
「お!?お嬢様!?」
「え?咲夜!?」
そして衝突。
「うう・・・いったいどうなってるのよ!」
「私が聞きたいです・・・お嬢様・・・」
「まって・・・咲夜からいなくなった・・・ってことは美羽!」
「あ!待ってください!お嬢様!」
「・・・なんだこれは?」
「お目覚めかしら、貴方の行動はすでに把握済みよ」
美羽だった者が美羽に戻ったとき、すでに身体はスキマによって拘束されていた。
「どういう意味だ?」
美羽だった者が紫を睨み付ける。
「そういう意味も何も貴方は本当に相性がいい身体でしか復活は出来ない・・・ちがうかしら?転生の鬼、アカオニさん」
「貴様、思い出したのか・・・」
「全部ね、貴方の封印がずっと昔のことだったから細かいことは忘れていたの」
紫が扇子で口を隠しながら微笑む。
「この胡散臭い本質は変わらんな・・・くくくくく」
「お互い様ね、ふふふふふ」
そしてまたアカオニが俯いた。
「思い出したならこのことも思い出しただろう?私の能力は身体の疎縛など意味が無いということを」
「そうね、でもこれならどうかしら?」
紫が指を鳴らすとアカオニの両手を疎縛しているスキマが徐々に閉じていく。
「何だと!?まさか!」
「そのまさかよ」
そしてスキマが閉じた。
「ぐあぁああぁぁあああぁああああ!!!」
「もともと私は人を喰らう妖怪よ、昨日今日会った人間のことで情に流されたりはしないわ」
紫の横からスキマが開きアカオニの魂の情報の塊がでてきた、美羽の両手と友に。
「ああぁぁあああぁぁああぁああああああ・・・なんちゃって」
「!?」
紫の横にある美羽の手が指を弾き青白い球体のような物、アカオニの魂の情報を弾いた。
「なんですって!?」
そしてすぐに紫は軌道上にスキマを開いた、しかし先に穴を展開されてしまい間に合わなかった。
そしてその魂は穴を通りアカオニの目の前に出てきて・・・食われた。
「ああ、懐かしい記憶!懐かしい力!わかる!わかるぞ!徐々に戻ってゆくこの私が!!」
その時、アカオニを中心として爆発的な妖気の渦が発生した。
「相変わらずのばかげた力ね・・・」
その爆発的な妖気は木を根こそぎなぎ倒し、地面を抉り、雲を貫いた。
「なによこれ!」
「強い妖気による衝撃です!」
その間レミリアたちは上空で飛ばされまいと必死になっていた。
「妖気?ってことは間に合わなかった!?」
「恐らく、そういう意味になります・・・」
そして風が止んだ。
「くぅ・・・咲夜、大丈夫?」
「はい、なんとか・・・」
飛ばされてきた木の枝や小石で二人とも擦り傷だらけであった。
「そうだ、あいつはどうなったの!」
「お嬢様!あちらです!」
「最高だ、今の気分は・・・絶頂すら覚える!」
クレーターとなった場所にいるのは前頭に二本の紅色の仰け反った形をする角を生やしたアカオニであった。
「禍々しいわね・・・」
同じクレーターの中心からすこしずれたところに服の所々が裂けた紫がいた。
「紫!」
そこにレミリアと咲夜が加わる。
「残念だったな、貴様等の今までの苦労は悪いが無駄となった」
アカオニが腕を組んでにやけながら言った。
そして足元に穴が開き徐々に沈んでいく。
「まちなさい!まだ・・・」
前に出るレミリアの前に紫が手をかざす。
「紫!?邪魔をする気!」
「すこし落ち着きなさい、今の状態じゃ手も足も出ないわ」
「な・・・」
「流石スキマ妖怪だな、相手の力量をちゃんと見極めるか・・・それではお別れだ」
アカオニは地面に開いた穴の中へと消え、穴は閉じた。
「紫、あいつは一体何なの?」
今のレミリアの顔には悔しさという物がはっきりと映っていた。
「レミリア」
「何よ」
「幻想郷の妖怪たちを人間の里に集めるのよ、私も藍達と一緒に回るから・・・そしてある程度集めたら説明するわ、あのアカオニに関してもね」
「そう、わかったわ・・・咲夜」
「はい」
「いったん紅魔館にもどって美鈴と一緒に幻想郷中の妖怪たちに人間の里に来るように言ってもらえないかしら」
「は!」
そして咲夜は時を止めたのか既に居なくなっていた。
「あの半獣は私が説得しておくわ」
「わかった、人間の里に皆集めたら包み隠さず全て喋ってもらうわよ」
「いわれなくても」
紫が口元に扇子を当てる。
「それじゃ私もいくわ」
レミリアは素早く舞い上がり飛び去っていった。
「藍、もう出てきていいわよ」
「はい」
藍が紫の開いたスキマから出てきた。
「藍、貴方は幽々子達に永遠亭に行って人間の里に輝夜達を呼ぶように伝えて頂戴、そして貴方はそのまま霊夢たちにも人間の里に来るように伝えて」
「はい!」
そして藍も飛び去った。
「さて、私は半獣の説得ね・・・」
そして紫はスキマに消えた。
続く。