Coolier - 新生・東方創想話

殯の森

2008/03/08 00:03:20
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※オリキャラ出ます。嫌いな人は要注意。
 妖夢がネガティブ思考なのは作者のイメージに依る物です。





1.
――自分では、お嬢様を救う事は出来ない。

そう呟いて「魂魄 妖忌」――私の師匠は、何処かへ旅立った。
幼かった私は、訳も判らずそれを見送った。

私に何かを託したらしいが、それが何であるか、今も、知らない。





・・・あれから、長い年月が過ぎた。だというのに、私は未だ半人前である。

――私は幽々子様をお守りする為に居る筈なのに、それが僅かでも成せているのか?

――博麗の巫女と白黒の魔法使いが攻めてきた時だって、禄に防げやしなかった。

――自分は未だ、師匠の足元にも及ばない。お前は何故、そんなにも弱く、頼りないのか。

――もしこの先も役立たずなら、私は捨てられてしまうかもしれない。強く、ならなければ。

そんな事を思うせいか、近頃は、成長したとすら感じられない。鍛錬を欠かした訳では無いのだが・・・。



「妖夢~。貴女、この頃元気が無いわよ~?」
「そうですか?別におかしな所はありませんが。」
「そうじゃなくって~。・・・まぁ良いわ、後で一寸散歩でもしてきなさい。」
「はぁ・・・。」


2.
午後、幽々子様に言われた通り散歩に出掛けた。特に変わった事も無く、景色を眺めただけだった。



しかし、帰り道で岐路に遭遇した。気にせずいつもの道を行こうとして、ふと思った。



――私は、もう片方の道を歩いた事が有るだろうか?



考えてみると、普段・・・というか、いつも片方の道しか通らない。
もう片方も一応辿り着けるが大幅に遠回りだし、特にめぼしい何かが有る訳では無いからだ。

にも関わらず、今の私の関心は、どうやらこの「いつもは使わない道」に有るらしかった。

単なる気の迷い、と切り捨てるのも有りだが、些か勿体無い。





・・・そういえば、以前紫様に諭されたな。





――そうねえ・・・。貴女に足りないものは、遊びかしら?切れ味が良くなる為の――





・・・遊び、か。確かに、偶には別の道を辿るのも悪く無い。うん、そうしよう。少し遊んでみるか。





――あぁ、何という事だ。矢張り、寄り道等すべきではなかった。道に迷ってしまった。

頭上を見上げると、鬱蒼と生い茂る木々の間から、抜ける様な青空がキラキラと輝いている。

此処は何処なのだろう・・・。参った、本当に参ったぞ。

足が棒の様だから、成る可くなら歩きたく無い物だが・・・。
とは言え、じっとしていて状況が変わる訳も無いのだから、只歩き続けるしか無い訳で・・・。

――やれやれ、とため息をつきながら、私は一息入れていた切り株の辺りを出発した。



そんなこんなで歩いていると、一軒の古い家があった。

・・・そういえば喉が渇いた所だ、水を一杯頂戴しよう。私は戸を開けた。



「御免下さ・・・――!」



――最初、此処には人が居ないのかと思った。其程、生き物の気配が無かったからだ。



だが暗闇に慣れてくるに連れ、朧気ながら住人の姿が見えてきた。誰も居ない訳では無かったのだ。



・・・その正体は、女の子だった。ぼんやりとした目でこちらを見る、その表情に敵意は伺えない。



それにしても、白磁の様な美しさだ。薄暗い家とは対照的に、暗闇の中に浮かび上がっている。



暫し見とれるが、自分は水を貰いに来たのだ、という事を思い出す。



「――済みません、水を一杯戴けませんか?」



そう言うと彼女は外へ出て行き、器に水を湛えて戻って来た。

それにしても、喋らない。といって、怒っている訳でも無い。それに加え、目はあちこちを彷徨っている。
この不思議な振る舞いを尋ねると、目が見えない上に話せない、と身振り手振りで示してくれた。

礼を言って水を飲み干し、此処から白玉楼へはどう行けば良いか尋ねた。
彼女は、この道を行けば着くでしょう、とでも言う様に方角を指さした。

そうと判れば行こう、とも思ったが、彼女の生活を考えると直ぐにお暇するのは躊躇われた。
こんな場所に住んでいては、妖怪すら訪れないだろう。水の事もあるし、話し相手位にはなるべきか。


3.
「――それで私は、その様なお戯れはお止め下さい、と申し上げたのですが・・・。」

私は、お礼に自分の事を語った。といっても有り触れた日常話だが、それでも面白いのか笑ってくれた。



私の話の様な物でも、笑ってくれる。それが嬉しくて、もっと聞いて貰いたい、と話し続けた。



そうこうする内に、少し日が傾いてきた。名残惜しいが、そろそろ行かねばならない。
散々話したが、まだまだ語り尽くせてはいなかった。もっと話したい、と思った。
彼女は、こういう所に居るせいで会話に飢えているかもしれない。だとすると・・・。

「実は、この様な話で良ければ、まだ沢山有ります。しかし、全部話すには時間が足りません。
 それで、伺いたいのですが――又こちらに来ても、宜しいでしょうか?」

そう言うと、彼女はとても嬉しそうに頷いた。矢張り、思い切って言って良かった。



それからという物、暇を見つけては、彼女に会いに行った。
彼女は、どんな話でも熱心に聞いてくれる。それが嬉しくて、こちらも真剣に話してしまう。

彼女が外を歩いている時は、帰ってくるまで縁側に腰掛け、ぼんやりと春の日差しを味わった。
久し振りに、良い心持ちだ。雑事にかまける日常からすれば、此処は別世界その物と言える。

――そんな具合にして、新たな日常を加えた日々が過ぎていった。


4.
或る日、久し振りに紫様が白玉楼を尋ねてきた。

「久し振り、幽々子。妖夢も、相変わら――・・・あら?」

「?」

「・・・ん~。」

紫様は、私の顔をまじまじと見つめている。・・・何か、付いているのだろうか?

「そうね、偶には稽古でもつけようかしら。」

・・・稽古?何故いきなり?

「ついて来なさい妖夢、少し貴女を鍛えてあげるわ。」

仕方が無い。ああ言うからには、何か意味が有るのだろう。私は後に従った。



「くっ・・・。」
流石は幻想郷最強クラスの妖怪。攻撃も防御も半端無い。幾ら突っ込んでも、結界は一向に破れない。

「――甘いわね。剣だけで無く、心も。」

「――?」

「・・・妖忌は、私を出来る限り重要な場所に近づけさせまい、とした。何故だか、判る?」

「・・・。」

「私を恐れていたからよ。何をしでかすか解らない妖怪には、何もさせないに限る。
 ――その判断は、正しかったと言えるわね。

 けれど、貴女はそうしない。さりとて、私を倒す腕も持っていない。甘いったら無いわね。



 ・・・そんな半人前の腕で、幽々子を守る事なんて出来るのかしら?」



「――――ッ!!」



一番、痛い所を突かれた。・・・それだけは、考えまい、と思っていたのに。



「あ・・・あぁ・・・。」



駄目だ、これ以上聞いてはいけない――私は、脱兎の如く駆け出した。





・・・迂闊だ。勢いで飛び出したものだから、何処へ行くかも決めて無かった。





人里には、降りたく無かった。・・・そういう気分では無い。

白玉楼には、戻りたく無かった。・・・どんな顔で戻れば良い。

博麗神社、魔法の森、紅魔館、マヨヒガ・・・思い付く場所は数あれど、何処に行く気も起きはしない。

となると、矢張り彼女の家か。彼処なら静かだし、気兼ね無く過ごせる。私を拒む事も無いだろう。



そういう訳で、彼女の家に御邪魔した。彼女は嫌な顔をするでも無く、寧ろ喜んで迎えてくれた。



だが、落ち着くと一気に疑問が噴き出した。

――今、幽々子様、紫様はどうなさっているのだろうか?

――お二人は、私の事をどうお考えなのだろうか?

――私は、幽々子様のお側に居て良いのか?

――庭師として、居座れるだけの能が有るのか?

――そもそも、私が居る事がどれ程役に立っていると言える?

――私以上に、もっと相応しい者が居るのでは無いか?



私は、頭を抱えた。だがそれ以上に、もっと大きな問題が私を苦しめた。



それは根本的な疑問。即ち「幽々子様を守れるのか?」という事。単純ながら、私にとって最大の疑問。
紫様に指摘された通り、半人前の私では「NO」。だがそれは、私の存在意義の否定を意味する。



私は打ちのめされた。何十年も西行家の庭師として生きた事が、無意味だと言われた様な気がした。
もう殆ど、思考が形を成していなかった。生きている意味が無い――その言葉ばかりが、脳を駆け巡った。



役に立たないなら、いっその事――そう考えて、私は白楼剣をゆっくりと喉に突き立てた。



そこに、彼女が慌てて割り込んだ。私は白楼剣を取り落とし、白楼剣はトスッ、と地面に刺さった。



それを見た瞬間我に返り、自分のしでかそうとした事が判って、恐ろしくなった。



その時、私は彼女に抱き留められた。

トクン、トクン――規則正しい鼓動が、私に落ち着きをもたらす。





彼女の、温もりを感じる。優しさがそのまま現れた様な、じんわりと伝わる暖かみ。



それが、私の心に、ゆっくりと染み込む。堪えていた涙が、一粒、又一粒と零れ落ちていく。



「うっ、うえっ、えくっ、ひくっ、うぅ・・・。」



何時しか、私は泣いていた。不安に、押し潰されそうになって。受け止めてくれる優しさに、気が付いて。

そのまま子供の様に暫く啜り続けた後、微睡みの中へ落ちていった・・・。



「や、久し振り。元気でやって――ん?この子は、白玉楼の・・・?」
「久方振りですね。その後どうで――おや、何故此処に・・・。知り合いなのですか?」

「そうか、そんな事が・・・。――どうします?映姫様。」
「そうですね、このまま立ち去る方が良いのでしょうが・・・気になります。」
「何が、ですか?」
「何故それ程思い詰めていたのか、という点です。普段、そんな真似はしないでしょう?」
「まぁ、確かにそうですが・・・。」
「危なっかしい者を導くのも閻魔の仕事。原因だけ、探ってみましょう。」



「――どうです、読めましたか?」
「えぇ。しかし、かなり深い様です。これは、私達でどうにか出来る物では有りません。」
「というと?」
「当事者を呼びましょう。小町、彼女を見ていて下さい。私は、西行寺 幽々子を連れてきます。」


5.
「あ、う・・・?」
何処かで聞いた様な声がする。此処は・・・?
「・・・目が覚めましたか。気分はどうです、魂魄 妖夢。」

「な、何故、此処に閻魔様と死神が・・・?」
「この辺りに用事が有ったのです。その時此処を見つけまして、中を覗いたら貴女が寝ていたのですよ。」

という事は、私は泣きながら眠ってしまったのか。余りの幼稚さに、思わず赤面する。

「貴女の主を呼んでおきました。これから、たっぷり説教して貰います。・・・頼みますよ。」
「はい、厳しく叱っておきます。申し訳有りません。」
「・・・では、私達はこれでお暇しましょう。小町、行きますよ。」



「あんな程度で良いんですか?」
「良いのです。浄玻璃鏡を通して見た限りでは、当人達の問題の様ですから。」
「はぁ、そうなんですか・・・。」

「そうそう『彼女』ですが、上手くやっている様です。こちらに来る日も、遠く無いかもしれません。」
「そうですか、やっぱり様子を見に来て良かったですねぇ。」

「・・・小町。」
「はい?」
「我々は、今日『偶々』此処に来ましたね。」
「えぇ。」
「・・・実は、あの子に呼ばれたのかもしれない、としたら?」
「・・・はい?」

「仰る意味が、良く解らないんですが。」
「友人に危険を感じた彼女が、私達を取りなし役として呼んだ――というのは、考え過ぎでしょうか?」
「・・・そんな事って、有り得るんですか?」
「正直な話『偶々』此処に来たとも思い難いのです。『彼女』は、問題を呼び込む体質の様ですから。」

「何れにしても、あたいが言いだしたからなんですけどね?」
「貴女は只サボりたかっただけで、こうなると予測していた訳では無いでしょう?」
「ま、まさかぁ・・・。サボりたいだなんて、そんな訳無いですよ。」
「小町。私相手に嘘が吐けると思いますか?」
「・・・はい。済みません。」
「後でお仕置きです。」
「きゃん!」



「それで・・・、何をしていたのかしら?」
何時ものおっとりした調子は無く、声は怒りに満ちている。
「・・・。」
「貴女が白玉楼を飛び出した後、何処に行ったのか――主として知っておく必要が有るわ。」

答えたくない。此処に駆け込んで泣いていた、なんて。そんな弱い所を、見せてはならない。
――そのせいか、それとも幽々子様の手を煩わせたという自己嫌悪のせいか、突っ慳貪に返す。

「・・・必要無いですよ。」
「何ですって?」
「主を守れない従者の挙動なんか、知る必要は有りません。」
「――妖夢、もう一遍言ってみなさい!何を知る必要が無いって言うの!」
「役立たずな従者なんか必要無いと言ったんです!私1人程度、居なくとも――」
問題無いでしょう、と言うその言葉は、しかし。



・・・私の頬に飛んだ火花に、遮られた。



最初は何が起きたか解らなかったが、数秒後に叩かれた事を理解した。



「思い上がらないで、妖夢!従者が役立たずかどうか決めるのは従者じゃないわ、主なのよ!

 貴女が居なくなったって聞いて、凄く心配したのよ!?役立たずなら、心配なんかしないわ!

 妖忌が去って、貴女にまで置いてかれたら、私は、どうすれば良いのよ・・・!

 だから、お願いだから、黙って、居なくならないでよぉ・・・!」





ああ





わたしは おろかだ





きづいて いなかった





ゆゆこさまは





こんなに





わたしを おもって くれていたんだ・・・





「――ゆゆこさまっ・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・!

 紫様に言われて・・・私自身も、弱くて頼り無いと思ってっ・・・!

 私は、さぶらう資格が無いと思って、それで、それでっ・・・!」

「妖夢ぅ・・・!私に黙って、何処かへ行かないでよぉ・・・!」

「済みません、幽々子様・・・!私は、何処へも行きませんから・・・!」

お互いに理性は崩壊していた。私達は止めども無く、泣いて、泣いて、泣き続けた・・・。


7.
その晩は、幽々子様と共に眠った。久方振りに、心地良く目覚める事が出来た。

お昼頃に、藍殿を伴って紫様がやってきた。この間の事のお詫びだという。

「この間は御免なさいねぇ。そんなに思い詰めてるとは思わなかったの。
 (――何とかしちゃったわね。『彼女』なら、何か出来ると思ってはいたけど。)」

と言っていたので、もう気にしてませんよ、と解決した事にした。

幽々子様と共に赴いたものの彼女の姿は無かった。有るのは、古びた家一件だけだった。

「わ、私が赴いた時は確かに居たのですが・・・。」
「良いわよ妖夢、判ってるわ~。貴女は嘘なんか吐かないもの。」

「そろそろ帰りましょうか、妖夢。」
「あ、そうですね。・・・それにしても、残念だなぁ。」
「まぁ、何時か又会えるわよ、きっと。」
「・・・そう、ですね。何時か又会えますよ、きっと。」

(――有り難う、亡霊さん。妖夢はもう大丈夫。次の時まで、ゆっくり休んでて頂戴な。)

「幽々子様、何か仰いましたか?」
「いいえ、何にも。こっちの話よ。」
「はぁ、そうですか・・・。」

私は結局、受けた恩を幾ばくも返せずに別れてしまった事になる。何時か又、何処かで会えるだろうか。
その時まで、私は修行しよう。再開した時に、少しは誇れる位、強くなる為に。

私達が其処を立ち去った後は、只春の日差しが家屋を照らすばかりだった・・・。

END
前作以上に無理が有りそうです、この3作目。妖夢が悲観的過ぎ。
先代に対するコンプレックスとかは有りそうですが、だからと言って自殺はおかしい。

正直に言いますと、ゆゆ様の台詞「従者が~」が書きたかっただけです、すいません。
しかもグダグダで、纏め切れてません。・・・1ヶ月近く費やしてこれか。

紫が少女の事を知っていたのは、藍が結界をチェックした時に報告し、それで調べて・・・位の話です。

それでは、此処まで読んで下さって、本当に有り難う御座いました。
seirei
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コメント



0.90簡易評価
1.60桶屋削除
面白かったです。この後どうなったのかが気になりますね♪

ただ、途中の改行が「間」となる場合と時間の流れを表している場合でごちゃごちゃになってしまう部分があるように思えました。
あと、「!」や「?」の後にはスペースが空いていると読みやすいかとも思いました。
2.70名前が無い程度の能力削除
確かに自害しようとするのは少し悲観的すぎな気がしましたが、内容は面白かったです。

あと、『彼女』の設定がもうちょっと知りたいと思いました。
5.50名前が無い程度の能力削除
『彼女』が??
何の関わりも無い幽霊・・・というわけでもなさそうだし
6.60三文字削除
むう、彼女がただの亡霊じゃなくて、もう少し設定があれば面白かったかなぁ?
あと、自害するのは悲観しすぎかなぁと……
7.無評価seirei削除
作者です。読んで下さって有り難う御座います。

一応「彼女」に関する話を過去に書いているので、
もし興味がありましたらそちらも読んでみて下さい。

タイトルは「アリスが人形を作る理由(作品集その49)」と「Rad des Schicksals (作品集その50)」です。