Coolier - 新生・東方創想話

人形たちの心に響くレクイエム 第1話

2008/03/07 18:56:28
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 幻想郷では毎日といってもいいほど、すがすがしい朝を迎える事が出来る。魔法の森も例外ではなく、今日も木漏れ日が降り注ぐすがすがしい朝であった。木漏れ日を浴びながら、人形使いの魔法使い少女アリスは、せっせとひとつの人形を作っていた。少し、イライラしながら作っているらしく、その証拠に彼女の指には小さな赤い点が沢山あった。
(まったく……魔理沙は……)
 白黒の魔法使いのことを考え、イラッときた瞬間、またしても不注意で赤い点をひとつ増やしてしまった。「痛っ……」と小さく声を上げ、自分の不注意さに腹を立て、更にイライラする。もう何度この繰り返しだろうか。


 実は一週間ほど前、魔理沙が突然アリスの家に押しかけてきた――といっても彼女が人の家に押しかけるのはいつものことだが……押しかける時間が尋常ではないのだ。すでに妖怪が徘徊する頃になっていただろうか、突然ノックの音が聞こえた。しかもその音量ときたらただ事ではない。ほうきで扉を連打しているのかと思えば、本当にそうであった。徹夜で人形作りをしていたので非常にイライラしていたのだが、しぶしぶ扉を開けるとアリスは思いっきりほうきで額を殴られた。悪い、と謝られたが、さすがに徹夜仕事の最中、カチンと来てアリスは魔理沙を追い返した。……と思えばいつの間にか部屋に侵入していた。アリスは魔理沙が嫌いではなかったのだが、何故か魔理沙に会うとさっさと離れようとするのだ。よって、あまり長く話すことはない。
 追い返す気も失せ、アリスは何の用かと聞いた、まともに聞く気はさらさらなかったが。魔理沙は単刀直入に、かつ強引にアリスに人形を作って欲しいと言い出した。アリスは他人のために何かをする気はなかったので、はっきりと断った。魔理沙はやっぱりな、といった感じの顔をし、『古今東西人形大百科』といういかにもアリスが興味のありそうな本を差し出した。それもそのはず、アリスはこの本を探し幻想郷と人間の世界の本屋をいくつも回ったが、結局見つけることが出来なかった。そのため泣く泣く諦めたのだ。この本には人形のカタログ、魔力の込め方、人形を作るのに望ましい材料などが書かれている。もっとも魔力を信じない人間には必要のないものだろうが。なぜ魔理沙がアリスがこの本を欲しているのは知らないが、アリスは迷いに迷った。やがて、アリスの手はその本を掴んだ。アリスにとって、その瞬間の魔理沙の勝ち誇ってにやけた顔は屈辱的だった。
 そして魔理沙の用件であるが、魔理沙は魔法実験で使う、人形を欲しがっていたのだ。それは妖怪や霊といった存在の魂を人形に憑依させて、アリスの人形のように手伝いをさせるつもりらしい。そのために人形を作ってほしいということらしい。魔理沙には、霊をとりつかせやすいようにとつるつるとした2つの宝石のようなものを渡された。それを目にしてほしいらしい。魔理沙は適当に色をつけてくれといってきたので、アリスは適当な色を選んだ。


 というわけで、アリスはせっせとその人形を作っている。このまま上手くいけば、魔理沙が持ってきた本に載っていた『仏蘭西人形』というのができるはずだ。その人形はピンク色のフリルの付いたドレス、頭には黄色の大きなリボンで豪華に着飾っており、アリスにはとても美しく見えたのだ。こんな可愛らしい人形が毎日手伝いをしてくれたなら、とても穏やかな、そして楽しい気分になるだろう、そう考慮し……。
「って、なんで私はあんなどうでもいい子の事を考えているのよッ!」
 更に苛立つ要因を作ってしまった。人形を作るのはやめようと思ったが、長年の習慣か、彼女の手先は止まることはなかった。さらにスピードが上がる。
 アリスは基本、自分と人形以外の事には無関心である。そのはずなのだが、どうしても気になる二人がいた。

 一人は先程話に出てきた霧雨魔理沙。彼女は同じ魔法の森に住むためか、たまに顔を合わすことが会った。しかもいつの間にか家の場所を知られるようになったらしく、3日に一度は顔を見せる。アリスにとってはなぜ他人に無関心な自分に魔理沙がしつこく執着するのかわからなかったが、アリスは鬱陶しい、と思った。会えば無視、家に着たら追い返す、そんな事を繰り返していたのだが、魔理沙は懲りずに何度も家に来た。アリスはついにどうでも良くなって、魔理沙と普通に話をする関係にまでなったのだ。鬱陶しい事には代わりがないが。

 二人目は紅白の巫女こと博麗霊夢。霊夢は魔理沙の友達であったので、そのつながりでいつの間にか普通に話をする関係になっていた。魔理沙はいつの間にか普通に話をしているアリスに向かって、『おいおい、私には無関心だったのに何で霊夢とはこんなに早く仲良くなるんだよ~』と不満を漏らしていた。どうでもよかったので、アリスはその台詞を無視した。しかしこの霊夢とは一度大喧嘩になった事がある。アリスが人形作りに熱中していたので、家からいつものように追い返そうとしたときだ。『せっかく来たのに』という事を言われたのに対し、アリスは『帰って』とだけ告げた。霊夢はカチンと来たらしく、アリスと本格的に口げんかになった。それだけでは飽き足らず、弾幕ごっこにまでなる事態となった。偶然駆けつけた魔理沙によって止められたからよかったものの、もしあのまま止まらなかったら魔法の森が滅びていたかもしれなかった。その点では魔理沙に感謝するべきなのかもしれないが、アリスは悪態をついてさっさと自分の家に閉じこもってしまった。数日後、アリスにしては珍しく自分から博麗神社に謝りに行った。その時の霊夢はにっこり笑ってアリスを許し、霊夢もまたアリスに謝っていた。後日アリスと霊夢は魔理沙に冷やかされたが、アリスは無視、霊夢は怒ることでその場は収まった。

「……これでいいかな」
 そんな事を考えていると、すぐに人形が完成した。実際はかなり時間がかかっていたのだが、アリスにとっては短い時間だった。その証拠に、彼女は窓の外を見て仰天した。なんと、すでに太陽が真上にあった。さっきまで浴びていた朝の木漏れ日はいったいどこにいってしまったのか。
「まあ、いっか……後は魔理沙が取りに来たら渡せばいい」
 アリスは念のため、最後のチェックにかかった。服、髪、手足……どこにも異常がないはずだったのだが、何かおかしい。
「あれ?」
 人形の目には七色に輝く魔法をかけた。それなのにその目には光が宿っておらず、墨を塗ったように黒い。それだけで妙に不気味だ。なぜか、体がゾクッとした。部屋の気温が急に下がる。
「気のせい?」
 瞬きをすると目は元に戻っていて、七色に光っていた。目をごしごしとこするが、なんら変化はない。でもアリスは念のため魔理沙には言っておこうと思った。
「そういえば、魔理沙がこないわ……」

 十分待った。……二十分待った。…………三十分待った。だが魔理沙が現れる気配は一向にない。それもそのはず、そもそも魔理沙は人形を作ってくれるように頼んだだけで、いつとりに来るという連絡はしていないのだから。
「……どうせ暇だし、渡しに行こう」
 朝の木漏れ日を浴びながら散歩をするというひそかな楽しみはもう味わうことは出来ないが、それでも人形作りで疲れた体の気分転換にはいいと思った。そう考えるとアリスは昼食も食べず、さっさと家を出た。


 ★


 魔理沙の家にはすぐに着いた。アリスは軽く緊張し、2回ノックする。
「誰だ~?」
「私よ」
「おう、来てくれたのか! ちょっと待ってくれ」
 魔理沙が扉を開けるのと、アリスが人形を突き出すのはほぼ同時だった。魔理沙はその人形がアリスの顔よりも先に目に入り、仰天する。ピンク色のフリルの付いたドレス、そして黄色のリボン、ちょうど魔理沙ほどの長さの少し癖のついた金髪、そして光の角度によって七色の色に変わる美しい瞳。
「!! サンキュー、アリス! これは人形をほとんど集めない私にとっても凄い人形だとわかるぜ!」
 どうやら魔理沙は喜んでくれたらしい。アリスは何故か軽くほっとした。
「アリス、どうせならうちで飯食っていかね? ちょうどおおめに作ってしまったんだ」
 「いい」と、いつものアリスならいっただろう。しかしアリスは何故か今回は断る気にはならなかった。
「……そうする」
 魔理沙はそーか、そーかと嬉しそうに言いながら家にアリスを招きいれた。相変わらずマジックアイテムが片づけられずに山になっているが、何度も見た風景なのでアリスも気にしない。魔理沙とアリスは山をさっとよけて、リビングに入った。
 魔理沙は紅茶を差し出し、料理も持ってきた。どうやらパスタらしい。アリスはパスタを普通多めに作るかと思ったが、特に気にする事はなかった。魔理沙はパスタを食べながら、さっきの人形の話をする。
「ところでよ、さっきの人形でひとつ気になったんだがあの瞳はどうやったんだ?」
 魔理沙はさっきの虹の七色に輝く瞳がよほど気に入ったらしい、詳細をたずねる。
「……ちょっと魔法をかけただけよ。そのくらいできないと『七色の人形使い』の名が泣くわ」
「確かにそうだな。食べ終わったらもう一度見せてくれよ」
「どうせあんたのものになるから別にいいけど」
 そっけなく、アリスは返す。魔理沙はパスタを慌てて食べているために、白黒のエプロンにソースがかなり飛び散っている。もう少し落ち着いて食べればいいのに、とアリスは思ったが特に注意する事もなく、アリスもまたパスタを食べ終えた。
 

 ☆


 食事が終わってからの魔理沙は何か変だ。私の持ってきた人形をなめまわすように観察している。普段はそんなに人形に興味がある子じゃないのに。こういうときに、とりつかれたという表現が正しいのだろうか?なめまわすように見えたけど、さっきから魔理沙はその七色の瞳にばかり気をとられているような気がする。
「魔理沙、その人形は特に霊や妖怪がとりつき易いようにしてあるから扱いには気をつけたほうがいいわよ」
 魔理沙なんてどうでもいいけど、一応忠告しておく。
「え? お、おう……。そうだな、うん」
 本当に聞いていたのだろうか?念のためもう一度繰り返しておいた。
「魔理沙、さっきね、目が一瞬黒くなったんだけどあんたが渡したあの宝石みたいなやつ、もしかしてマジックアイテム?」
 そういうと、さっきと同じような返事が返ってきたので、もう一度聞いた。しかし、やはり上の空だ。さすがに私も危険というものを感じてきた。何かが、おかしい。
 魔理沙は確かにそっけないところもあるが、人の話は聞く、私よりもよっぽど律儀な人だ。認めたくはないけど。そんな魔理沙が人の言葉を適当に返すなんて考えられない。魔理沙は催眠術にかかったように、人形を抱きしめた。その瞬間、人形の顔がチラッと見えた。……その時だった、その人形の口元が月の様に一瞬つりあがったように見えた。その人形には魂は与えていない。おかしい、おかしすぎる。正直なところ、ちょっと不気味だ。この場合、もう一度作ったものの手に戻す必要がある。もう一度一から作り直そう……。魔理沙には悪いけど。
「やっぱりそれ返して。ちょっと危ないわ……」
「うるさいな!!」
 ………………え? いま……何て?
「魔理沙……どうしたの? 冗談だよね?」
 私の偏見かもしれないが、魔理沙は言葉遣いはよろしくない。だからうるさい、といった言葉は良くつかう。でも今回のうるさいは今までとは違う、なんと言うか……イライラしていたときに八つ当たりで言うような……いや、それ以上。私を敵とみなし、威嚇しているような感じだ。
「帰れ!!」
 魔理沙はさっき食べたパスタの皿を私に向かって投げてきた。とっさに冷や汗がどっと溢れ、反射的に転んだ事によって運良くかわせた。背後で皿が砕け、耳が壊れそうなほどの皿の断末魔が聞こえる。冷静になれ、私も魔理沙も……!いったい何が起こっている!?何で、何で!?どうして、魔理沙!
「ま、まり……」
「死ね!!!!」
「!!」
 あろうことか、魔理沙は包丁を手に取った。先程転んだ状態のままであったので、私の動ける範囲は限られている。必死に立ち上がろうとするが、腰が抜けて、足も震えているため立ち上がることが出来ない。私は必死に後ずさりを続ける。でもやがて背中に壁がぶつかった。そんな間に無情にも魔理沙は私に向かって包丁を投げる。…………避けられ……ない……。
 絶叫したのかもしれないし、そうでないかもしれない。だが私は最後に、魔理沙と過ごした日々を閉じた目の中に思い浮かべていた。……魔理沙、どうして?どうしてあなたは狂ってしまったの?私があげた人形がいけなかったの?教えてよ、魔理沙……!

 ………………………………!?
 突然、真横から轟音が聞こえ……何かが目の前を横切った?そしてもうひとつ、なぜいつまで待っても包丁が飛んでこない?何で私に刺さらない?
「魔理沙、いったい何があったのよ?」
 第三者の声が聞こえ、そっと目を開く。目を開くと、血とは違う赤い色と、白い色の服を着た黒髪の少女が立っていた。霊……夢…………?どこかで、金属が床に落ちる音が聞こえた。
「ちっ……」
 魔理沙の舌打ちが聞こえる。霊夢をにらみつけた魔理沙の瞳には光が見えず――まるで、さっき人形を作っているときに一瞬だけ見えたあの深く黒い瞳に酷似している。
「アリス、たてる?」
 霊夢にそう聞かれ、そっと立ち上がる。もう、足の震えも止まっていた。霊夢がきてくれたこと、それが何よりも安心できた。霊夢は横目で私が立ち上がったのを確認すると、そっと、札を取り出して私に渡してきた。これを使えという事?そう思ったけど、その札は戦うためにあるものではなかった。

『アリス、黙って読みなさい。私が今から魔理沙の動きを止める技を使うから発動の瞬間に目をつぶってじっとしていて! 絶対よ!』

 霊夢のほうに視線を送りたくなる気持ちを抑え、キッと魔理沙をにらみつける。魔理沙の光が宿っていない目は霊夢が入ってきた事に明らかに不機嫌な気持ちを表したように見える。
 私と魔理沙の目が合った瞬間、つまり魔理沙が霊夢と目をそらした一瞬の間に霊夢は技を発動した。魔理沙は焦ったような顔をしたが、もう遅い。私の視界もホワイトアウトしそうになったけど、さっきの札の通りとっさにぎゅっと目をつぶった。
 目をつぶった瞬間、手を霊夢につかまれたような気がする。その感覚を感じた瞬間、私は意識を手放した。


何気に仏蘭西人形って美しさと怖さを秘めてないですか?
始めてみたときあの目が非常に怖かったのを覚えています。
シリアス&少しホラーを目指しましたが、正直微妙です。
しかし魔理沙を今回は操られ役としてみました。
アリスが操られる、狂うといった話は良く見ましたが、魔理沙が操られる、狂うのはそうないかと思います。
よって、批判も覚悟しなくてはなりません。
では、第二話のあとがきでお会いしましょう、読んでいただきありがとうございました。
朝夜
[email protected]
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コメント



0.220簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
続きが気になる~!
魔理沙が豹変する瞬間がとても怖く感じました。そしてヒーロー霊夢がカッコいい!
続きを楽しみにしてます。
5.70名前が無い程度の能力削除
内容は面白かったです。

文章に「~~~~した。~~~~~した。」が多かった気がしました。
他の人の作品と比べてやや読みづらい気がします。

最後の霊夢のお札に書いてある文はその場で書いたとしたら超速記ですねw
6.90名前が無い程度の能力削除
普通に続きが気になります。
続きを早く早く!
7.無評価朝夜削除
相変わらずコメントが早い皆様に感動しつつ返信したいと思います。

>続きが気になる~!
魔理沙が豹変する瞬間がとても怖く感じました。そしてヒーロー霊夢がカッコいい!
続きを楽しみにしてます。

ありがとうございます、続きを投稿したのでそちらのほうもよろしくお願いします。

>文章に「~~~~した。~~~~~した。」が多かった気がしました。
他の人の作品と比べてやや読みづらい気がします。

確かに!よく読んでくださっているのですね、ありがとうございます。
これから気をつけます。

>最後の霊夢のお札に書いてある文はその場で書いたとしたら超速記ですねw

これには実は詳細設定があったのですが、やはり割愛することにしました。
最終話でもこの詳細設定は書くことはありませんので、各自で想像願いますw

>普通に続きが気になります。
続きを早く早く!

続きを投稿しました。
続きをどうぞどうぞ!


コメントありがとうございました!
8.80☆月柳☆削除
完結していたので、読みにきました。
完結するの待っててよかった。
これは続き気になるわ。
9.無評価朝夜削除
>完結していたので、読みにきました。
完結するの待っててよかった。
これは続き気になるわ。

ありがとうございます、少し急いで完結させたのが残念でした。