夏。他に形容出来ぬほどの夏。
自重を忘れて自己主張に奔った挙句、余熱の始末を放棄した太陽は増長を重ね、その慎みのない紫外線は夜と私の精神とをじりじりと削り続けていた。無論室内は快適だ。しかし壁一枚隔てて調子づく陽光は、些か吸血鬼の神経に障るのだ。
「それであの子は今どうしているの」
「自室に鍵をかけて閉じこもっていますわ」
「そう……」
泣き面に蜂とでも言うのだろうか。この鬼暑い夏の真ん中で、最近フランの聞き分けがない。
一つ一つは他愛のない我侭である。だが連日の猛暑で磨り減った心には、それが少々堪えるのだ。
「……お嬢様、あれくらいは良かったのではないですか? 妹様もお洒落をしたい年頃なのですよ」
「駄目よピアスなんて。身一つで勝負出来ないのなら洒落など諦める事ね」
「ピアスといってもパチュリー様の法具じゃないですか」
「なんであろうと駄目なものは駄目よ。人様の妹に勝手に穴を開けられて堪るもんですか」
「お嬢様……」
遡る事二時間前。頬を染め、ピアスをつけたい、と人質の美鈴におずおずと魔杖を突きつけたフランがやってきた。
『……ね、いいでしょお姉さま。紅くてちっちゃいコウモリピアス。お姉さまの羽とお揃いなの。こんなにカワイイからお姉さまも絶対気に入ってみんなもカワイイって美鈴の命はないんだから!』
ピアスを握っているらしい左手をぶんぶん振り回して、フランは一息で捲くし立てた。
『フラン。最後の方ゆっくりもう一度』
『うー……かわいいの』
『ええ』
『お姉さまもかわいいって思うの』
『ええ』
『駄目って言ったら美鈴が死んじゃうの』
『駄目よ』
『お嬢様ぁぁぁぁ!』
目尻にいっぱいの涙をためて、美鈴の尻に魔杖の柄をねじ込んで、フランはピアスを床に叩きつけるとそのまま部屋を飛び出してしまった。捨て台詞は『お姉さまのばか』。困った妹である。
「ピアスなんて自傷行為以外の何物でもないわ。そんな真似をしなくともフランは十分に魅力的よ」
「そう言ってあげれば良かったじゃないですか」
「面と向かってそんなことが言えるのは貴方くらいのものよ」
「あらお嬢様、私には言ってくださるじゃないですか」
「咲夜だからよ」
「私だってお嬢様以外には言いませんわ」
「……」
十秒に満たない静謐。湖から吹く風がカーテンを撫で、緩やかにはためく音が昼の余韻をゆっくりと冷却していくようだった。
「可愛らしいじゃありませんか」
フランの投げつけたピアスを指先で揺らして咲夜が言う。
「『お姉さまのピアスを作って』、そう頼まれたそうですよ、パチュリー様」
「……床に叩きつけられたけどね」
「ピアスをつけたい訳ではないんですよ。お嬢様に我侭を言いたいだけなんです」
「なによそれ」
「甘えたいんですよ。妹様自身、自分の気持ちが分らなくて落ち着かないんでしょう」
「それじゃまるで……」
まるで、そう──
「思春期ですね」
独白を押しのけるように背後から声がかかった。つい先ほど絶叫したとは思えぬほど軽やかな声だ。
「相変わらず空気を読めないわね美鈴。……元気ね。もう平気なのかしら」
「鍛えてますからね。私の尻でなければ危ないところでした」
今日は特にクンフーの冴えがいい、とチャイナドレスごしの尻を見せ付ける美鈴。クンフーってスゲェなあ。
「流石ね」
どれほどの鍛錬が尻に耐火性を与えるのか。素人には想像もつかない武の境地であるに違いない。
「で、思春期ですって? 馬鹿ね。フランは二次性徴には程遠い永遠の少女よ。思春期なんてまだまだ先の話だわ」
「あら、けれども既に初潮は迎えられましたわ」
「えっ!? 嘘! いつよ!?」
そう言った咲夜に食って掛かる。馬鹿な。あのかわいいフランがいつの間にかオトナの階段を上り始めているというのか。
「当然ご存知かと思っていましたが……。先々週の日曜日、ディナーは御赤飯だったじゃないですか」
「えっ? あの色血じゃないの?」
「小豆です」
「だ、だって『今日はBかしら?』って聞いたら『その通りです』って言ったじゃないの!」
「それは私のブラのカップです」
「そんなの前から知ってるのよ!」
『今日はBかしら』なんて、食卓でブラのカップを確認する奴がいるか。日々変動するんかい。
「お嫌いですか? Bカップ」
「スキだけど! ……いやそれよりも……ふ、フランがそんな、私だってまだなのに……」
「個人差がありますからね。妹様は一足先に大人になったということです」
「姉よりも先に……そんなことって……」
胸に手を当てる。フランとおそろいの膨らみかけだ。いや、おそろいだった、か。
「五つも年下なのに……あんなにミルクの匂いがするのに……」
「五桁は生きる気満々の種族に五歳は誤差ですよ。勿論モニングシャンプーの香りも関係ありません」
「うぅっ、ボディソープもおそろいなのに……」
がっくりと膝をついた。
「まあ、だからという訳ではありませんが、美鈴の言う思春期も強ち間違いではないかもしれませんね。甘えたい。けれど恥ずかしい。自立したい。けれども甘えたい。制御できない心は自分と周りを掻き乱すものです」
思春期。聞けばそれは甘酸っぱくもほろ苦い、旬を逃して変色したレモンのようなひと時らしい。聞きかじった当時は鼻で笑ったものだが……そうか、これが思春期か。フランも遂に――。
「そう……分ったわ。腐ってもシチリアの宝石という訳ね」
「何も分ってないじゃないですか」
美鈴が煩い。が、知った事ではない。今肝要なのは本質の確認だ。
「答えなさい咲夜。姉とは何かしら」
「はい、常に妹の先に立ち万難を排し、輝く香気をもって妹の理想であり続ける。人生の先達であり枯れない華である存在ですわ」
「では聞くわ、妹とは何かしら」
「妹。それもまた華に他なりません。傷つき疲れた姉をそっと抱きしめる慈愛。姉の貫いた意志を継ぐ勇気。妹とは優しさと強さを兼ね備えた者でなければ務まらないのです」
「最後よ。姉妹とは何?」
「は、姉妹を表すに言葉は不要。昧爽に咲く薔薇の如く、ただあるだけで世界に映える比翼のイデアと心得ますわ」
そう。姉妹とは黄金率に愛された完全なる円環。姉が妹を支え、妹が姉を補う。決して対称でない二人が描く世界はしかし、完全な調和をもって夜を謳歌するのだ。
「毎日二人でいると思ったらいつもそんな会話してるんですか」
「……空気の読めない門番ね。貴方に姉妹の機微を問おうとは思わないわ。ホラさっさと草むしりにでも行くがいいわ」
しっしっと追い払う。が、
「そんなに考える事ないじゃないですか。姉妹は姉妹。妹様みたいな可愛い妹がいるだけで十分でしょう」
「分ってないわね美鈴。姉妹の道は茨道。私たちの何処に出しても恥ずかしくないクォリティの姉妹度は、日々の弛まぬ研鑽により維持されているのよ。姉と妹、互いの役割を履き違えその質を落とすことは、幻想郷にとって取り返しのつかない損失となるでしょうね」
姉は姉らしく、妹は妹らしく、そうあることで姉妹と姉妹を擁する幻想郷は健全な日常を紡ぎ続けられるのだ。
「――そうね、ここは一つ、どちらがよりオトナであるか白黒はっきりつける必要があるわね」
「お嬢様とフランドール様と、ですか? 映姫でも呼びますか」
「その必要はないわ。明確な差異は互いの心に刻まれるもの。誰が判ずることもなく、あの子は姉の偉大さを胸に抱くことになる」
「そんなものでしょうか」
「それに映姫は多忙よ。魂の審判と部下の折檻、彼女の二大業務は輪廻が潰えるまで終わらないわ」
『この暑い中チンタラ漕いでいられるかい』と、バナナボートにしがみつかせた老人をジェットスキーで彼岸に運ぶ部下がいる限り、彼女に休暇は訪れない。
「それではどのようにして白黒はっきりつけるので?」
「そうね……幻想郷らしく弾幕ごっこで、と言いたいところだけれども、他ならぬフランに神槍を突きつけるわけにもいかないわ。ここは一つ知的にオトナの女を見せ付けてあげましょうか」
身体ではなく頭に覚えこませる。オトナの作法とはそういうものだ。参拝客が来ない、キノコ料理に飽きた、そんな理由で容易くスペルをブッ放す小娘どもには到底至れぬ境地である。
「知性で勝負……ふむ、リドルでもしますか、お嬢様」
「良いわね。それでいきましょう」
己が智をもって謎に応える。謎を踏破する姉を見て妹は畏敬に打ち震える。フランは知るだろう。紅茶とブランデーを舐めながら赤絨毯の上を転げまわるいつもの姉は、その実、世界を貫く智を備えた脳なき鷹であることを。
「まあ、そんなに本格的なものでなくとも良いわ。適当な御題を……そうね、咲夜考えておいて。明日の午後にでもフランと私に出題して頂戴」
「私でよろしいのですか? パチュリー様はこんな時の為の穀潰しでは?」
「パチェの御題は物騒でいけないわ」
百年来の友の性癖は熟知している。出題権なんて手渡したら、ここぞとばかりにフランに歪んだ性知識を叩き込むに決まっているのだ。
「かしこまりました。それでは手ごろなものをいくつか用意しておきましょう」
「頼んだわ、咲夜」
次いで美鈴を見る。
「それじゃ明日の昼食の後、遊戯室に来るように。フランにそう伝えなさい」
「分りました。けど良いんですか? 思春期の少女は難しいものです。オトナっぽいリドルだかでお嬢様の威厳を見せ付けるのは結構ですが、妹様がそれを肯定的に受け取るとは限らないんじゃないかと。嫌われたと勘違いしたり、鬱屈して非行に奔ったりしては意味がないのでは」
「馬鹿ね。フランはそんな子じゃないわ」
黴臭い棺桶の中でチェルノーゼムに囲まれて健やかに成長したフランが、こと姉に関してそんな思い違いをする筈がない。
「素直は吸血鬼の美徳よ。余計な気はまわさなくて良いからさっさとフランに言伝なさい」
「そういう能力なんですけどね。まあ言伝は了解しました。……けどお嬢様、ちゃんと考えておいた方が良いですよ。妹様もいつまでも子供じゃないんですから」
包拳し、胸の谷間から帽子を取り出すと大雑把に頭に乗せて、美鈴は軽やかに部屋を出て行った。
「ふん、言われるまでもないわ。咲夜、紅茶を淹れて頂戴。淹れ終えたら今日はもういいわ。部屋でリドルを考えておいて」
「はい、それでは」
ふわりとスカートを翻して咲夜は消えた。
「……刮目なさいフラン。己が姉の偉大さを」
目の前のカップに口をつけ明日を思う。感動のあまりハグを求め涙するフランのビジョンがありありと浮かぶ。
「ふふ、よして。くすぐったいわ」
頭の中で遂にブラウスに手をかけたフランに優しく声をかけながら、仄かに湯気の立ち上るニルギリを燻らせる。真夏の夜の夢はこの上なく薔薇色だった。
◇
怨嗟の如く照りつける陽を三重のカーテンで弾く遊戯室。レースとベルベットで鎧われた紅い室内は、それでも十分な採光と水気のない大気を備え、館の住人たちは最適を絵に描いた空間で変わらない日常を繰り返す。咲夜とパチェがいる限り紅魔館はエアコンなどという無粋とは無縁の場所である。
「さて、そろそろかしらね」
涼やかな部屋で円卓を挟んで向かい合う姉妹。姉に伺いも立てずにオトナの階段に足をかけたイケナイ妹は、今日をもってあるべき姿に還るのである。
「聞きなさいフラン、貴方は道を誤った。今貴方の歩んでいる道は紅魔のそれとは相反する道。フラン、貴方はいつの間にかこの姉と共にある麗らかなシャンゼリゼ通りをはずれ、八王子インターチェンジに並んでしまっているわ。……考え直してフラン。その道の向こうには奥多摩しかないの。お願いだからいつもの優しい貴方に戻って、そして二人また日傘を差してカルーゼル凱旋門から沈む夕日を眺めましょう」
勝負とは即ち無情。妹といえど相対すれば加減無用である。であるからこそ最後の言葉をかけた。オトナの風格を懸けたこの勝負、敗者の心につく傷は計り知れないことだろう。海を隔てたワケの分からん説得は、健康なシスコンを自負するこの私からの、デッドラインを刻む最後通告だった。
「いやよっ、私はもっといろんなものが見たいの! 青く染まる世界の半分はもう飽きたわ。夜景もジェラートもいらない。波多野重雄(前八王子市長)の笑顔はその4倍はトレビアンよ!」
「フラン……」
唐突に現れた市長の笑顔にも吃驚だが、それ以上にフランの剣幕に驚いた。〝外に出たい〟。好奇心がちらつく事は過去にもあったが、これ程までに思いをぶつけてくる事は今だかつてなかったことだ。
「ならば勝利なさい。オトナの女とは自らの意思で道を拓くもの。貴方が私を凌ぐオトナであるならそれを証明なさい。……その時には好きにすると良いわ。八王子でも八戸でも望む場所を目指しなさい」
ゆっくりと目を閉じた。フランの意志は固い。ならば最早躊躇う事はない。姉という存在の偉大さを魂にまで刻んでやろう。
「負けないわ、お姉さま」
「結構。始めなさい咲夜」
世紀の戦場を他所に紅茶を啜っていた咲夜を促す。
「は、それでは」
観覧席となった向かいのソファに座る、呼んでも来ないくせに余計な時だけ皆勤賞のパチェと美鈴のカップに最後の紅茶を注ぎ、徹夜で考えました、と7時間強の快眠をとった者だけが見せる肌の艶を存分に振り撒いて、咲夜は円卓の横に立った。
「お嬢様……フランドール様も、よろしいのですね? 失うものがあるかもしれませんよ」
咲夜の声に無言で答える。
「……畏まりました。それでは見せ付けていただきましょう。500年を費やして積み上げてきたオトナの女の風格を」
ぐぐっとフランと睨み合う。
「ツールは簡単な設問です。私は昨晩、オトナの女性が備えて然るべき要素を寝ずに考えておりました。今からそれらの資質を問うリドルを出題しますので、お二人はそれぞれ思うままにお答えください。勝手ながら私の独断で五番勝負とさせていただきました。五つの勝敗を重ねれば格の違いは明らかかと。なお、お嬢様の提案によりジャッジは誰も下しません。どちらがよりオトナの女か、答えは互いの言動が魂に直接響かせてくれるでしょう」
私を見るフランの目はいつにも増して真っ赤だった。何がそうさせたのかは知るべくもない。この場において私が為すべきは、美的感覚の狂った妹を人の道に連れ戻す事、ただそれのみである。
「それでは早速、勝負の壱を始めさせていただきます」
姉は妹を導く存在。五つの過程を経て姉妹はあるべき姿を取り戻すのだ。
「オトナとは自らだけでなく、自らを取り巻く社会、世界をも気遣う者と、私は心得ております。お嬢様、フランドール様、それを踏まえ、今最も憂うべき問題は何か、お答えください」
ほう、一問目から大きな話できたものだが、対する本質を射抜く我が答えは明白だ。世界は舞台、社会は影絵。現状、我が紅魔館が世界の要である以上、最大の問題は今正に直面しているフランとの絆である。
「ふん、二秒ででる答えね」
「ではお答えください。フランドール様もよろしいですか?」
ん、と頷くフランと同時に答える。
「老々介護」「環境破壊」
肝要は姉妹。とはいえオトナには、時に大切な私事を捨ててでも向き合わなければならない体面があるのだ。愛する妹を差し置いてまで気遣いの要る世界になど用はない。が、そこをグッと堪えて公に向き合う度量はあるか。咲夜は暗にそこを問うてきたのだ。
「「……むむ」」
しかし流石はフラン。我が妹だ。咲夜の意図を見抜き、見事憂うべき事象を答えて見せた。しかも即座に自らの業ともいえる破壊の二語を盛り込む小技を利かせている。この勝負は引き分けか……。
「成る程、お二人とも良い回答です……それでは第一問。ただ今の自らの答えを己が弾幕で表現してください」
「えぇ!? 何それ! 第一問終わってないの!?」
「ここからが第一問です。お嬢様、絶叫は風格を損ねますよ」
「ぐむぅ……」
ぬかった。流石咲夜だ。裏を読んだと思わせて斜め向こうからホールドを取りに来るとは。
「時間、空間、気脈、龍脈、大気に五行に七曜と、因果のパスは概ね掌握済みです。お二人とも気兼ねなく弾幕を開放してください」
あそこでニヤニヤしているパチェと美鈴はその為の配置か。ちなみに円卓とソファの間には咲夜の張った障壁がある。勝負に邪魔が入らないように、ということだったが、二人が流れ弾に被弾しないようにする意味もあったのだろう。
「どうしたのレミィ、今度は随分時間がかかっているじゃない」
「煩いわね。極上が見たければ少々のお預けは我慢なさい」
ぴしゃりとパチェを撥ね付ける。
……しかし老々介護を弾幕にって、どうすりゃいいんだ。たいした予備知識もないのに余裕綽々適当な事を言うんじゃなかった。大体弾幕は攻撃手段の劇場化じゃないか。介護精神なんて正反対の異物をどうやって混入させればいいのだ。
思い切ってそのまま老婆を採用するか? 名付けて『シルバーマジック』。解き放たれた老婆が画面端で乱反射し経路上に仁丹を設置しながら駆け抜ける。一拍遅れてランダム動作を始める仁丹と共に歯を剥いて襲い来る老婆の群れ。……ダメだ、スゲェ怖い。どう考えても婆さんに介護の必要はなさそうだ。
「出来たよ咲夜っ」
「早いですね、フランドール様。お嬢様はどうですか?」
「むむ……」
マズイ。オトナは限られた時間で結果を出すものだ。出ない答えを抱えて延々悶えていられるのは十四歳の特権だ。
「え、ええ、出来ているわ。フランの完成を待っていたところよ。咲夜、早く進めなさい」
こうなったら出たとこ勝負だ。フランの方も環境破壊なんて弾幕とは相容れぬ御題。とっさの閃きで切り抜く隙はあるはずだ。
「それは失礼いたしました。ではお二人とも第一問の回答を弾幕でどうぞ」
「いくわよお姉さま!」
――禁弾 スターボウリジェネレイト
「ええいままよ!」
――神槍 介護用グングニル
幼き裂帛の気合と共に、二つの弾幕が交錯する。爆散する星虹と紅き長槍が互いを否定し弾けあう。対象のない弾幕はしばし空間を荒れ狂い、成る程確かに咲夜達に制御された空間によって、拡散するように消えていった。
「ふむ。見た目は普通の弾幕ね。レミィ、妹様。どの辺りが違うのかしら」
至極当然のパチェの問い。その目は新たな神秘を目の当たりにし、深淵に想いを馳せる魔女の目だ。……どうしよう。穂先が丸いだけ、なんて言ったら友達解消されそうな気がしてきた。
「私の禁弾はスターボウブレイクの流用よ。上空50kmで破壊された星虹弾幕が霧散することにより生じた紫外線が、成層圏中の酸素分子の光解離を促し酸素原子を発生させて、オゾンホールを修復するの。更に役目を終えた弾幕の一部はモントリオール議定書に則って、特定フロン、ハロン削減に消極的な国家主席のコメカミに向けて落下を開始。接地後は土に溶けて植物の成長を助けるの」
スゲェ。何その循環型暗殺兵器。僅か数分のシンキングタイムでどうしてそこまで地球に優しくなれるんだ。恐るべしフラン。我が妹は弱冠495歳にして破格の環境大臣であった。
「なかなかね。妹様は弾幕の才能があるわ。満点までもう一歩かしら……後で図書館にいらっしゃい。インパクトの爆風でスカートが捲れる、最高の接地角度を教えてあげるわ」
「わーい」
ああ、環境大臣が汚れていく。が、それがオトナというものかもしれない。エコロジーは戦争だ。二酸化炭素削減率を巡り血で血を洗うマスゲームだ。己が手を汚さない綺麗なだけの大臣が地球を救えると思ったら大間違いである。だが、そんなことより問題はグングニルだ。既にブッ放した介護用品を繕う口八丁が、今この場の最優先事項だ。
「次はレミィね。いつものグングニルに見えたけど、どの辺が介護用なのかしら」
早速此方に向く矛先。ヤバイどうしよう。素直に詫びを入れたほうがいい気もする。が、それは許されない。この勝負にはフランの更生が懸かっているのだ。敵わないからといって白旗を揚げていい舞台ではない。オトナには譲れない勝利があるものだ。胸を張れレミリア・スカーレット。先の丸い神槍だって十分立派な鈍器じゃないか。
「介護用グングニルはあらゆる介護ニーズに応えられる万能の神器よ。刃を削り丸みを帯びて、グングニル最大にして唯一の機能である殺傷能力をあえて除いた介護用グングニルは、縦に構えれば杖に、横にすればぶら下がり健康器に、適当な長さに切れば骨折時の添え木になるわ」
「唯一の機能を捨てるんですか」
「ぶら下がれるなら介護はいらないでしょ」
「神器ぶった切るんですか」
ものすごい勢いで突っ込まれるが無視を貫く。
「全長2メートルの長物は遠くにあるテレビのリモコンを引き寄せられるし、熱くて直接触れないお風呂のお湯をかき混ぜられる。更に内蔵されたボタンを押す事で、協力医のヤゴコロ先生が二十四時間駆けつけてくれる便利なナースコール機能付きよ」
「リモコンを辞書で引いてください」
「予め水温を調節する知恵は与えられないのですか」
「ボタン一つで死神が飛んで来るなんて便利なナースコールね。火葬場の予約は出来ないのかしら」
頑張れ、頑張れ私。
「愛する爺さんを守る為に槍を手に取る孫と嫁。突いて良し、叩いて良し。外敵だけでなく錯乱した爺さん本人を払い除けるためにも、グングニルは最高の働きを見せるわ」
「既に介護用品じゃなくて護身具じゃないですか」
護身具の何が悪い。介護は戦争だ。愛する者を全てから守る、我が身を盾とする防衛戦だ。モルヒネとバヨネットの二束草鞋で戦場を駆け抜けたナイチンゲールを思い出せ。
「何でも戦争に例えるのはお嬢様の悪いクセですよ」
「ええい静かになさい! 兎に角トネリコの木から生まれ、ルーン文字で鎧われたグングニルは様々なシーンで活躍する極上の介護弾幕なのよ! この弾幕以降、穏やかな老後が約束された人妖は数知れないわ!」
文句あるか、と語尾を結びパチェを睨み付ける。
「……素晴らしいわ。十徳ナイフばりの多機能ぶり。殆どがその辺の木切れで済みそうな機能だけど、それをわざわざ神代の遺物でやるとは畏れ入るわ」
「流石はお嬢様。ちょっと聞きかじっただけの単語からそれだけの妄想が飛んで来るなんて、思っても見ませんでしたわ」
「そ、そうかしら?」
あら、意外に好評? 自分で思うよりももしかして良い出来なのだろうか。
「ふふん、これを機に商品化も良いかもしれないわね」
商標登録を依頼された美鈴はなんとも言えない表情だった。感動しているのだろうか。まあいい。それよりも一つ目の勝負、これは私の勝ちだろう。皆の評価を見れば一目瞭然だ。ルール通りあえて口には出さないが、この場のウィナーは決まったも同然。良く見なさいフラン。これが勝者の煌き。その畏敬を胸に刻み、昔のあなたに還って頂戴。
「それじゃ次にいきましょうか」
見たところあまりこたえた様子のないフランをちらりと一瞥し、咲夜を促した。
◆
「はい、それでは二問目に入りましょう。まずは此方をご覧下さい」
ぱちんと咲夜が指を鳴らすと一陣の風がカーテンを揺らした。窓から吹き込む真夏の陽に灼けた緑の匂いが、室外の酷暑を鮮烈に伝える。
「ちょっと咲夜、窓を開けないで頂戴」
「失礼しました」
そう言ってぺこりと頭を下げた咲夜の足元には、いつの間にか数え切れないほどの人形が立っていた。大きさは丁度咲夜の膝くらい。デフォルメされ頭身の低い人形たちは幻想郷の住人にそっくりだった。
「ぅー」
「わ、喋った!」
小さく声を出し咲夜の影に隠れた人形の仕草にフランが飛び上がり、次いで目を輝かせて手近な一体を抱きかかえた。
「ぁーぅ!」
手足をぱたぱたと動かしてフランの手から逃れようとするが、間に合わずすっぽりと胸に収められる人形。
「カワイイ……ね、咲夜。これなに?」
「このゴーレムたちはパチュリー様が開発した自立泥人形です。姿形を模したゴーレムに本人の髪を封じた呪物で、本人に似た特性を備えるとか。フランドール様が今手にしているゴーレムにも、お嬢様本人の髪の毛が入っているのですよ」
「ちっちゃいお姉さま……うにー」
「ぅー!」
「ちょっとフラン、人形とはいえ姉の頬をつつくのは止めなさい」
手足と羽をぱたつかせてじたばたもがく人形は確かに可愛いが、それが自分の姿となるとそうも言っていられない。
「このゴーレムたちは、パチュリー様が鋭意製作中である『ぱちゅ婚!』という、いかがわしいシミュレーションゲームのユニットです。服の下まで精緻に作られたこのユニットを使い、パチュリー様がどんな桃色のゲームを作り上げるかについては、お二人のご想像にお任せしますが、自立泥人形たちはその名の通りプログラムに基づき自ら動く極めて優秀な独立ユニットです」
ふわふわ浮かびつつスカートの中に潜り込もうとしていたパチュリー人形を放り投げ、フランと私に微笑みかける咲夜。
「成る程、本人の特性ね……」
その本人は障壁をガンガン叩いて咲夜に文句を言っているが、咲夜は目を向けようともしない。純粋な迎撃戦だの黄昏に謝罪しろだのといつになく必死なパチェを完全に黙殺し、咲夜は解説を続ける。
「勝負の弐はゲームの作成です。お二人にはこれらユニットを用いて健全なゲームを作っていただきたいと思います。勿論ゲームそのものを作る時間などありませんので、実際にお嬢様とフランドール様に作っていただくのはゲームのルール、草案ですね」
「ふむ……」
「独創性とそれを纏める構成力の両立は、成長の暁に誰もが求められるもの。……同人作家を志して三日、軽トラックにしか見えない女子高生を描きあげた現実にも負けなかった鉄の初志が、平凡なメガネの主人公が猫型ロボットの提供する不思議なバットで大統領に躍りかかるあたりで砕け散る。そんな行き当たりばったりが許されるのは十四歳の春までです」
「そんな具体的な……」
思い当たる人物でもいるのだろうか。一息で喋り続け、やや苦しげな咲夜の背中を擦りながらぼんやりと⑨の検索をする。
「……兎も角、ゲームを作るのです」
ゲームといえば子供っぽいが、決して舐められるものではない。ルールの構築とは即ちそれを軸にする世界の創造だ。内に破綻なく、外に魅力的に映る世界の創造が困難であることの説明は不要だろう。
「ゲーム……この子達をユニットとして、ね」
独創性と構成力。求められたのは更に品性、そして社会性だ。複数の登場人物を内包する創作では、彼らの関係が必ず描かれる事となる。それは即ち書き手の内面だ。荒んだ心の持ち主であれば荒んだ内容に、合理的な人間の創作であれば理路整然とした物語が生まれるだろう。無論それはジャンルやキャラクターに表れるのみではない。愛憎の末に瓦解する人類の終末を描いた作品も、ただそれだけで描き手の厭世を象徴する訳ではない。群像や空、ただ残された都市に咲く花に、作者の心が宿るのだ。オトナとしてゲームの創作にあたるのならば、自らの暗部が衆目に露見する事を覚悟しなければならない。幻想郷の住人を模した人形たちを、どう動かし何を作るのか。人と人との連続をいかに捉え生きているかを、咲夜は形にしろと突きつけたのだ。
「……いいわ、やりましょう。フラン、全力でぶつかってきなさい」
「負けないわよ、お姉さま」
フランの目には余裕が見えた。しばしばパチェと図書館でいかがわしいゲームをしている日常が、フランに自信を与えているのだろう。
だが、これは群れで生きる力の勝負。そしてそれをセンスと企画力でゲームの形に昇華する技の勝負。総合力が問われるのだ。単純な経験の差で勝敗が分かれる程、浅薄なものでは断じてない。姉妹の絆を取り戻すこの舞台において、ここまで地金を晒せとは……咲夜も心得たものだ。
「先に申し上げたとおり、プログラミングは結構です。お二人にはゲームのルール、構想を語っていただきたいと思います。ゲームは……そうですね、何でも良いのですが、弾幕と幼女、そしてエモーショナル脱衣システムと一夫多妻制を破綻なく取り込んだ『ぱちゅ婚!』に敬意を表して、シミュレーションゲームに限定する事といたしましょう。この子達の暮らす街の完成を目的とする経営、運営シミュレーションにするも良し、二陣営に分れひたすらに戦略を競うウォー・シミュレーションを作るも良し。それぞれが考えるオトナのゲームを語ってください」
説明しつつ、傍らの人形の髪をくしゃりと撫でる咲夜。先ほどから咲夜のスカートを握り締めて、ちらちらと此方を見ていたあの人形はフランの姿だろうか。
「ぅー」
目が合った途端、咲夜の後ろに隠れてしまうフラン人形。ゴーレムたちは、その身が模す姿形の主の特性に倣うという。ならば咲夜の足元で頬を染めて俯く人形の仕草は、そのままフランのありのままだということ。思春期などという一時の迷いに流されようと、実の姉と目が合うだけで紅くなる無垢こそがフランの本性なのだ。
「負けられないわね」
勝利する。そしてありのままのフランを取り戻すのだ。
「ふふん、無理よ。お姉さまはゲームなんてしたことないでしょ」
フランは未だ分っていない。これがゲームの形をとった人生の縮図ということに。
「さあ、どうかしら」
確かに私にこの手のゲームの経験はない。運営シミュレーションと言われてもピンとこないし、寧ろパチェの倫理協会に背を向けた創作活動には、極力巻き込まれないよう努力してきた。言ってしまえば素人だ。
しかし人間力が問われるこの勝負において、そんな卑猥な下地など邪魔にしかならない。紅魔の王はただそれだけで至高の存在。既存を知らずとも、思いつくままが即ち最高のゲームとなるのだ。逆に私の目を盗んでパチェと饗宴に耽っていたフランは、ピンク色のフィルターに眩まされて、真実が見えなくなっている。可哀想なフラン。私と同じ輝きを持っているにもかかわらず、本質を見失い自らを霞ませてしまっているのだ。
「私を気遣う余裕はないわよフラン。究極のシナリオ、至高の演出。シミュレーションの頂点は既に私の胸に描かれているわ」
創作は人生。なれば紅魔の主が口を衝いて出るままに語れば、それは世界が羨む珠玉の詩篇となるだろう。
「流石はお嬢様。説明を受けつつ既に作品は仕上がっていましたか。如何しましょうフランドール様、よろしければお一人で思索できる場を設けますが……」
「い、いらないわよ。わ、私だってもう考え終わってるんだから」
質だけでなく仕上げる速度をも問われるのがオトナの世界。フランもそう考えたのだろう。それは全く正しい。が、……この勝負私の勝ちである。質が伴ってこその速度。拙速をもって王者の人生に挑むなど愚の骨頂だ。苦し紛れの即興で太刀打ちできるほど、このレミリア・スカーレットの500余年は甘くはない。
「頼もしい限りです。それでは早速勝負の弐、その回答を披露していただきましょうか」
「今度は私から始めるわ。良いわねフラン」
「ん……」
小さく縦に揺れたフランの頭では、今めまぐるしく情報が飛び交い、ゲームの骨格が組み立てられているのだろう。親指の爪を噛んで、むーむー思考するフランはそれだけで愛らしい。
「ダメよフラン」
白く痕が残るほどに噛み締められた指をフランの口から引き抜き、薄く滲んだ紅を舐めとってやる。舌に残る甘い痺れは、咲夜が仕入れる最高級をなお凌駕してこの身を震わせた。
「……爪が痛むわ」
「ぁ……うん……」
恥ずかしそうに目を逸らして指を隠すフラン。それを見て確信した。思春期などという殻を纏えどやはりフランはフラン。薄皮一枚剥いたその向こうには、柔らかな果肉が頬を染めて待っている。やっぱりピアスなどダメだ。フランのナチュラルボディに傷をつけるなど世界の喪失に他ならない。
「それじゃ始めようかしら。商標化するわよ。メモを用意なさい美鈴」
薄皮一枚隔てた向こう、いつものフランがすぐそこにいる。その実感が安堵となり口の回りとランビエ絞輪の跳躍を滑らかにする。
「脳ないでしょう、お嬢様」
「煩いわね。早くメモの用意をなさい」
いちいち煩い門番を一睨みして構想を語りだす。
「集団の中で生きる個が最も輝く瞬間、それは自分以外の何かを守る時。歯車でしかなかった凡百な一が、守るものを得、それを自覚した時、彼は自他共に認める英雄となる……。守るべきものはなんでも良い。守る手段も何だって良い。だが最も美しく強靭な英雄譚とは何か……それは理不尽な世界の暴力から愛するものを守る物語。血と汗を流して愛を守る英雄は、我が身を磨り潰しながらも前に進む抜身の刃。美しき刃文は折れず曲がらず、しかしそんな彼にも未熟な時期は当然あった。……当社はこの度、そんな力強い英雄達を育て上げるリアルシミュレーションゲームの製作を企画いたしました」
スーツを着こなしたビジネスマンの気概で、思いつきの単語をブチ撒ける。予想以上に売れ筋な企画に、メモをとる美鈴が算盤を持ち出した。イケる。メディアの反応に確かな手ごたえを感じたインスタント敏腕営業マンは、畳み掛けるように言葉を繋ぐ。
「真っ白なゼロから始まり、艱難辛苦の極みを重ね、その果てに目指す理想の姿。それは何か」
架空のメガネを指で押し上げ、幼い頃に誰もが夢見たヒーローを告げる。
「……そう、屯田兵です」
子供たちの夢は稲刈鎌に宿り、美鈴が算盤をへし折った。床に散らばる大量の算盤珠が、ソファから滑り落ちたパチェをゆっくりと遠くに運んでいく。まったく、落ち着きのないギャラリーだ。
「舞台は石狩。主役は屯田兵を演じる可愛らしい幼女たちとプレイヤーの皆さんです。名付けて『ぱちゅ墾!』。明治初期のテクノクラート、トンデンアーミーの魅力を十二分に再現する傑作です。……屯田兵こそジャパンの誉れ。厳寒のフロンティアスピリットそのものと言える彼らに向けられる全国の憧憬は、今やとどまる所を知りません。……屯田兵になりたい、白い米を毎日食べたい、そんな夢見るストリートチルドレンの渇望を満たす『ぱちゅ墾!』は、弾幕と幼女、カルティベイティング脱衣システムと無農薬野菜をふんだんに使用した、やりこみ要素満点のリアル開墾シミュレーションゲーム。プレイヤーは屯田兵司令となり、明るく楽しい寒空の下、刑務所の労働と何ら変わりのないポップな農作業を屯田兵達に強制します」
3億円を投資したオープニングムービーは本場ハリウッドと専業農家の夢の合作だ。純白のスーツを着こなし、世界一エレガントな腰つきで畑を耕すエドワード・ノートンは、4分15秒で前近代農業の常識をブチ壊し、全てのファンと社会的信用を失う代わり、健康的な良い汗をかいた。その汗とトマトが彼の報酬であり、3億円の使途は主に脱穀機のCG作成に充てられていた。脱穀機の素晴らしい出来栄えに関係者は息を呑み、ノートンの迫真の演技は割りとぞんざいな扱いとなった。
「たった10万円の資金からスタートするこのゲームの目的は、最強のトンデンアーミーを作り上げ、樺太や北海道、ひいては幻想郷を含む日本全土を守り抜くことです。まずはチルノ牧場などで資金を増やし、鋤や鍬を購入するところから始めるといいでしょう」
斬新な企画に声の出ないギャラリーを前に、敏腕営業家レミリア・スカーレットは、その類稀な企画力を思う様ブチ撒ける。
「朝昼晩の行動フェイズ。選べるアクションは開墾、座学、戦闘鍛錬、個人レッスンなど27種類。選択した行動により、幻想郷の幼女たちを模ったゴーレムは様々に成長し、また、部隊全体の能力も向上していきます。四人一組の小隊単位で行動させるも良し、一人一人個別のスケジュールを組むも良し。それぞれに性格を持つ幼女たちは、共にいる相手に様々な感情を抱き、反応を示します。時にぶつかり合い、時に求め合い、10種類の感情のうち何れかが規定値を超えるとフラグ達成。以降、選択する行動に影響されながらプライベートイベントが進行します。誰と誰を同じ隊にするか、また誰と誰を相部屋にするか。色々組み合わせて、7000を超えるイベント全てを発見してください。あちこちで発生するイベントはリアルタイムで同時進行していきますが、兵舎に設置されたカメラが全てを録画しているのでご安心を。魔女三人のお誕生日イベントを追いかけていても、同時刻に発生した天狗二人の入浴シーンを見逃す事はございません」
300超のカメラは射命丸氏とJA会長の私物を好意でお借りした。この場を借りて感謝の意を伝えたい。
「月一の模擬戦に備えた戦闘パートも充実しております。竹槍とニューナンブで武装した幼女たちは、座学で得た知識を基にセミオートで戦闘を開始。それぞれの能力や地形を駆使した戦闘シーンは圧巻の一言。指示を与えるも良し、幼女たちに全て任せるも良し。指示を与えるとステータスが、放任主義なら幼女たちの感情値が大きく上下しますが、どちらを優先するかはプレイヤー次第です。国を守り、大地を耕し、仲間と愛を育む。どうか、そんな素晴らしいトンデンアーミーを作り上げてください」
二周目以降はアイテムの引継ぎが可能だ。終盤で敵から鹵獲したカラシニコフや、永遠亭住人たちの互いの好奇心と羞恥心が7を超えると発生する実験イベントで手に入れた媚薬などが、最初から使用可能となる。これにより一周目では発生し得ないイベントが起こせるようになるので、やりこみ派も期待してほしい。ちなみにレイセンが師匠に完全被甲弾をブッ放すイベントは二周目以降限定。師弟ファンは必見だ。
「……以上が当社の処女作『ぱちゅ墾!』の概要でございます。これより質問を受け付けたいと思いますが……記者の皆様、何かおありでしたら挙手をお願いします」
○総プレイ時間は? …… 一周およそ400時間。ある程度の練兵を終え、最初の実戦となるソビエトの襲撃が250時間あたりとなり、その後は次々と襲い来る列強から国土を守っていきます。二回目以降の襲撃国はランダムで選出。白兵部隊の空輸から宣戦布告4秒前のニュークリアボムまで、様々な国家、戦術が屯田兵を襲います。
○ネットワーク対応は? …… 育て上げたトンデンアーミー同士をネットワーク対戦させる事が可能です。一対一から小隊同士の模擬戦、団体戦、ハンディキャップマッチに果ては全軍総力戦まで、幅広い対戦方式を備えております。舞台も豊富。ホームグラウンドである石狩平野から月面基地まで様々な環境での対戦が可能です。ちなみに月面基地は、とあるキャラクターのクリアボーナスアイテムがないと選択できないので要注意。月に所縁のある幼女のイベントを追いかけてみてください。
○男女比は? …… 古物商などの出入り業者を除けば、完全な0:1。特殊な性癖のアナタにも是非お勧めしたい作品に仕上がっております。
「素晴らしいわレミィ!」
算盤珠の上を滑っていったパチェが返り咲き、障壁の向こうから握手を求めて駆け寄ってきた。
「そうでしょう、そうでしょうとも」
気を利かせた咲夜が障壁を消し、パチェと私はガッチリ手と手を握り合う。
「これぞシミュレーションよ! ああ、ゴーレムたちに生殖機能を持たせておいて本当に良かったわ!」
そんなゲームではないのだが、パチェの感動に水を差すのも悪いので黙っておく。これがオトナの対応である。
「ねえレミィ、私の『ぱちゅ婚!』と合作にしない? 部隊内結婚を前面解禁して兵舎の一部に教会を作るの。タイトルは『ぱちゅ混!』。密やかな恋愛とオープンな結婚のどちらも選べるとなれば、シミュレーションの幅と格が飛躍的に向上する事間違いなしよ」
「悪くはないけど、待って頂戴パチェ。まだフランの構想を聞いていないわ」
握られた右手をそっと放し、パチェの興奮を抑える。話に乗ってくれるのはありがたいが、あまりはしゃがれるとフランが気落ちしてしまう。負けるわけにはいかない勝負だが、フランがしょんぼりしてしまうのも望むところではないのだ。
「美鈴、メモは取ったわね? ……結構。咲夜、進めて頂戴」
「はい……お嬢様の『ぱちゅ墾!』、いぶし銀の舞台設定と倒錯した煩悩が見え隠れする、正にオトナの一品でしたが、対するフランドール様はどんなゲームを語ってくれるのでしょうか」
ベタ褒めから振られたフランはしかし、消沈する様子は一切見せない。不適に微笑み薄い胸を反らした。
「ゲーム初心者にしてはやるわねお姉さま。けれどもその手のゲームなら巷にごまんと溢れているのよ」
フランには明らかに余裕があった。此方の説明中に良いアイディアが閃いたか。興が乗るに任せて『ぱちゅ墾!』の解説を少々引っ張り過ぎたかもしれない。
「個と群を育て敵を討つ。シンプルで万人に受ける良い着想よ。けれどもお姉さま、少々ゲームに入れ込んだ人たちは、ありふれた育成シミュレーションなんて飽き飽きしているの。……これからゲームを作るなら視点を変える必要があるのよ。例えば極大に、例えば極小に」
確かに私は既存のゲームを知らない。娯楽に飽食したインペリシャブルニーツが抱く、デカダンの域にすらある色褪せた退屈しのぎなど想像もつかない。創作にあたり、過去を踏み台にし、惜しみなく切り捨てられるフランは、その点において私よりも有利と言えるだろう。
「とりあえず視野を広げて俯瞰を並べたの。ゲームタイトルは『ぱちゅ魂!』。生命が何の為にあるかを問う、世界一壮大な物語よ」
「強気ですね、妹様」
「美鈴のお尻程じゃないけど」
「私の尻は特別ですからね」
グッとポージングを決め尻を強調する美鈴。
生命の存在意義を凌駕する尻とはいかなるものか。そっちの方が面白いゲームになりそうな気がしてきた。
「──生命とは義務の履行期間。現役楽園の最高裁判長でもある獄立大学教授、四季映姫氏はその著書「網タイツと人間性の考察」においてそう結んでいるわ。氏によれば、個体には二つの義務があるという。一つは種に課せられた義務。これは種のレゾンデートルそのものであり、人間を脅かす妖怪、妖怪を打倒する人間といった、種族単位の命題よ。もう一つは個に課せられた義務。こちらは個人により千差万別。国家の統一であったり芸術の先駆者たることであったり、個々それぞれが抱く人生の目的がこれにあたるわ。生命はその寿命のうちに、これら二つの達成という義務を課せられている。そして種の義務は個の義務よりも優先されるというわ」
姉とおそろいの架空のメガネを指でクィッと押し上げ、学者然と語るフラン。どうやら家庭教師に招いた映姫は十二分に役目を果たしていたらしい。
「なるほど。それならば我が尻にも依存はない」
唐突に始まった学会発表にしかし、煙を上げて美鈴が早速リタイアする。無理もない。人生の大半を尻の耐火性に注いできた美鈴にとって、生命の義務などという形而上学は完全に埒の外なのだから。
「いいのよ美鈴。今はゆっくりおやすみなさい」
「折ってない。ボク桜の枝なんて折ってないよ」
ショックのあまり幼児退行を起こした美鈴の瞼を、手のひらでそっと覆う咲夜。彼女の優しさと美鈴のスピーディな熱暴走に、知らず目頭が熱くなる。
「そしてもう一つ、氏は特異例である能力者にも触れているわ」
ソファで丸くなり、咲夜の膝枕を濡らし続ける美鈴を尻目に、フランの講義は止まらない。
「冷気を操る程度の能力者、時間を操る程度の能力者。彼ら能力者は先の二つの義務に先行し、能力の発展が最優先で課せられる。冷気を操るものならば冷気の理解、支配、融合と能力の位階を高めることが、生命最大の義務とされるわ」
滔滔と紡ぐフラン。無論眉唾である。が、学説など並べてそうしたものだ。自壊せぬ程度に解釈の一形態として秀逸ならば、十分にその役を果たしたと言える。
「……以上の四季映姫氏の理論を基に企画されたのが本作『ぱちゅ魂!』よ。……能力者たるキャラクターたちは、三つの義務を履行しつつ輪廻の輪をめぐる。己が業と向き合い、種の定めを理解し、背負う能力を成長させる。数え切れぬキャラクターが繰り返す数え切れぬ一生の連続が、個の意味を、種の意味を、そして円環を成す生命の意味を解き明かしていくの。そして全ての行き着く果てに待つものは何か……。プレイヤーは命の観測者。進化と磨耗が混在する猫の箱を開ける者よ」
いつまでたっても演技の上達しない元宇宙飛行士のように語るフラン。いいのよフラン。彼はそれが持ち味なのだから。
「けれどもゲームとしてはどうかしら? 誰もが学の求道者ではないわ。そんな堅苦しいゲームが果たして受け入れられるのかしら」
「何がけれどもなのかよくわからないけど、心配ご無用よ。生命の意味を見つめる一生も、その連続も、すべては弾幕と幼女、メタモルサイコシス脱衣システムとビーチバレーで構成されているわ。ダライラマをはじめとするチベット仏教が総力を挙げて実現した、ヌーディストビーチで己を見つめなおす、まったく新しい出家システムを採用しているの」
煩悩捨てる気あんのかそれは。
「ヴィチヴァリ!?」
露出度の高い単語に自慢の尻が反応したのか、流暢な英語で跳ね起きる美鈴。母子像のイデアの如き膝枕は、チベットが誇る卑猥な解脱テクニックによって崩壊した。
「YEAAAAAH!」
そして歓喜の声で美鈴とハイタッチを決めるパチェ。しまった。パチェは煩悩から真理を導く日陰の子だ。全裸で解脱なんて刺激的な提案に惹かれない訳がない。
「くっ、やるわねフラン。この短時間で場の嗜好を踏まえたシステムを考案するなんて……」
偉大な最高指導者の登場によりそれまでの堅苦しい空気が一掃されてしまっていた。
「煩悩は満たす。解脱も目指す。両方やらなくっちゃいけないのが現世の辛いところね。覚悟はいい? パチェは出来てる」
「くぅ……」
すでにパチェは電卓を弾き、プライベートビーチ購入の費用を紅魔館の予算に計上しようとしている。この居候、さっきまであんなに石狩平野にご執心だったのに!
「お待ちくださいフランドール様。全裸は流石にいただけません」
「えっ?」
ヌーディストビーチで既に皆の心をワシ掴んだと思い込んでいたフランが驚愕に声を上げた。
振り向けばそこに毅然とした咲夜の姿が。ああ、信じていたわ咲夜。紅魔館の理性はあなたしかいないと。
「これが俺だと言わんばかりに太陽の下を闊歩する肌に、一体何の価値がありましょう。露出とは思いがけぬアクシデントであるからこそ美しい。不意の風に捲れるスカートに、汗ばんだドレスの下から控えめに自己主張する桜色の突起。そんなはしたない自分に気づいたときの恥らいの表情にこそ、人生を懸けて求める価値がある。不肖この十六夜咲夜、それだけを唯一の信念にお嬢様にお仕えしております」
「うぅ……」
まっすぐな咲夜の瞳に射抜かれ言葉を失うフラン。ピンク色の正論にぐうの音も出ない。ちなみにそんな信念で仕えられていたこの私も言葉が出ない。
いいのよフラン。あなたはまだ成長途上。その無垢な心から生み出された精一杯の背伸びが、本物の変態にまるで通用しないとしても、それは仕方のないこと。むしろ末期の友を複数持つ姉としては、妹の未熟が喜ばしくもあるわ。
「……そうね、妹様の性徴が嬉しくて、私としたことがつい舞い上がってしまったわ」
年甲斐もなくストレートな誘惑にホイホイ乗ってしまった己を恥じるパチェ。彼女も淫靡な自己啓発にかけては並ぶ者のないパイオニアだ。浮ついた心を鎮め、改めて自らを姿見に映せば、稚拙な露出に惑わされることなどありはしない。……どうでもいいけど字が違うだろ。
「うぅっ……」
ハイレベルな変態たちにたじろぐフラン。ああ、そんな顔をしないでフラン。こんなワケのわからんベクトルで膝を折ったからといって、失うものは何一つないのよ。
「……けど妹様、その着眼点はいいんじゃないですかね。清濁併せ呑むというように、命とは美しいだけじゃありません。ありふれた欲動に振り回されながらも高みを目指す、それが生命ってやつです。その現実を慈しみ、繰り返すその果てに何があるのか、それをシミュレートできるなら、十分に意味のあるゲームだと思いますよ」
「……そう?」
「ええ。後はモザイクの薄さをどこまで追及できるか、それだけですよ」
頑張りましょう、と優しくフランの髪を撫でる美鈴。正直そんな薄汚れた提案をしながら妹の髪に触れられるのは御免なのだが……仕方あるまい。対戦者であるこの私がフランを抱きしめてあげられない以上、もとより多くは望めない。屋根と肉まんがあれば生きていける美鈴にしては、思慮ある行動だったといえよう。
「清濁併せ呑む、言うは容易く、しかしバランスの取れた実現は凡人にはとても為せない高みでしょう。確かにオトナのゲームといえますね」
「うんっ」
咲夜の言葉にフランの顔が綻びる。その仕草は確かにいつもの妹のそれであり、自己主張をピアスに仮託しようと尖った空気は感じられない。万華鏡のように感情がくるくると変わる。思春期とは難しいものだ。
「──さて、お嬢様もフランドール様も、勝負の弐はこのくらいでよろしいでしょうか」
無論こちらは構わない。フランもこれ以上続ける様子はないし、勝負の弐は決着でいいだろう。そして勝負の自己評価だが……初戦に続きこれも私の勝ちだろう。生命の意義という誰も解き明かしたことのない命題を無法地帯で突き詰めるフランの着想も見事だが、如何せん黒さが足りていない。人はオトナになるにつれ無垢を代償に狡猾になっていくものだ。やるのであれば、少なくとも我が家に巣食う手練の変態どもを満足させるだけの赤黒さは欲しいところ。そうだ、例えばヌードバレーの勝者は敗者に好きな着衣を強制できるというのはどうだろう。汚れを知らない素肌にニーソックスだけをはかされたり、下着なしのスパッツを強要されたフランの羞恥に染まる表情ならば初見で涅槃も近づくに違いない。幼女たちがスカートをはためかせてスパイクを打つ姿は五体投地に等しき巡礼様式。……あとでパチェにこっそり相談しよう。
「ええ、万事滞りなくね」
死ぬほど話がそれたが、勝負の弐も私の勝利。これは揺ぎないだろう。雄飛する屯田兵に敵はないのである。
「それでは参に移るとしましょうか」
保母さんに連れられた遠足中の幼稚園児のように、小悪魔の誘導で図書館に帰っていくゴーレムたちに、ばいばい、と手を振ると、咲夜はくるりと笑って勝負の参を切り出した。
◆
「人も妖も、齢を重ねると自然好みも変わるものです。……幼い日々夢中になった御伽噺に興味を失うと同時に、かつてはホームランボールで叩き割る対象でしかなかった盆栽に退職後の活路を見出す。時の流れは残酷ですが、その連綿と変化し続ける心の有様こそが成長の証ともいえます。オトナとは、何かを失いながら新しい何かを見つけた者なのです」
時の流れに喧嘩を売る世界で唯一のアウトローに言われるのも何だが、概ねそのとおりである。人は僅か40年でバニラシェイクを捨て、バリウムを愛飲するようになる。
「ならばオトナの嗜好には、その者が歩んできた人生の欠片が混じるはず。重ねた日々に望んで、あるいはやむを得ず取捨した選択肢が、オトナの心を形作るのですから」
日に灼けた卒業写真が、破れた初恋が、少女を内側からオトナにする。それはタロットの死神だ。ぽっかりと空いた心の虚を新しい世界が埋めていく。少女は喪失を嘆かずとも良い。儚さを振り切った明日の自分は、職務放棄に美学を見出す、強く逞しい彼岸小町なのだから。
「前置きが長くなりましたが、三問目はいたってシンプル。お二人は今現在の自分が最も〝興味のあること〟〝お気に入りの音楽〟〝食べたいもの〟を、それぞれ一つずつ挙げてください。素直な回答に滲み出るオトナっぽさが勝負の分かれ目となるでしょう。ちなみにお気に入りの音楽は、ご自身の楽曲以外でお願いします。セプテットやオーエンには純粋な好み以外に特別な愛着が混じるかと思いますので」
「ふむ……」
確かにシンプルである。が、それだけに勝敗ははっきりと分かれる。単純明快とは即ち仮借のない数学的回答なのだ。
「興味……音楽……食べ物……」
そして真に仮借ないのは咲夜である。オトナの度合いを測る勝負において、好みを述べよとは恐ろしい。オトナっぽさとは個人が持つ理想像に等しい。どれだけオトナになっても、心にはなお今を嗤うオトナっぽい自分が存在する。至れば至るほど遠のく理想郷、それがオトナの極みである。であるならば、オトナっぽい好みの自己申告とは、心に抱く理想のオトナ像を騙る業と、ありのままの自分を曝け出す潔さとが鬩ぎ合う二律背反に他ならない。
誰かとオトナを競うのならば、少々の誇張があろうとも、思い描く理想のオトナの嗜好を語るが最適であることは間違いない。この瞬間のディアレストではないにしろ己の内からでた理想像だ。一足飛びに披露することがまったくの嘘とは言い切れまい。だが逆に、現在の自分を受け入れてあるがままを申告する潔癖もまた、理性あるオトナの姿である。鏡に映る己を直視できてこそ理想のオトナ。その清廉な心性は確固たる自信となって、自らを理想に近づけてくれるに違いない。
「むー……」
計三つ挙げろ、というのもいやらしい。斯様なアンチノミーを内包する問いに、奇数の回答を求めるということは、自らの立ち位置を明確にせよと突きつけることに他ならない。答えが二つならば良い。対立する二つの主張を両立させることが出来る。興味があるのは孫の成長、食べたいものはミルクプリン。心に熾った葛藤は消え失せ、なんらの後ろめたさも感じることなく勝負に臨めるだろう。だが答えが三つとなれば、両端等しく持ち上げることは出来なくなる。必ずどちらかに偏った回答を提示しなければならなくなる。そして傾いた天秤の皿こそが己の器となるのだ。
「むむー……」
勝ちを求めるならば、心の中より最適を掬い取れば良い。真にオトナたらんとするならば、ありのままを答えればよい。……フランの前だ。後者でありたいと願う自分が間違っているとは思わない。が、これはその他ならぬフランのために負けられぬ戦いだ。フランを思い、勝利のために十全を尽くすのならば、前者を採ることもまた間違ってはいないだろう。模範となり得る潔癖を貫くもオトナ、誰かのために形振り構わず勝利を目指すもオトナの姿だ。三つの問いに潜む悪魔の二択。だがそれによる葛藤すらもオトナへのステップとして咲夜が用意した、勝負の参のパーツなのだろう。
「……いいわ。たかが好み。いつでも答えてあげるわよ」
しかしそんな目眩しに惑わされる私ではない。
これは試行錯誤の末に真理を掴む問いではない。如何に己を信じられるかを試される問いだ。甘いプリンだろうと愛嬌のない孫だろうと同じこと。語るも騙るも、その瞬間に出くわした自分に託せば良いのである。
「早いですね、お嬢様」
「わ、私もいつだっていいわ」
またしても対抗心から勝負に逸るフランが微笑ましい。
「フランドール様も流石ですね。それでは一つずつ答えていただきましょうか」
最善とは心が向くままの即興だ。運命を識る悪魔が言うのだから間違いない。
「お嬢様、フランドール様、今最も〝興味のあること〟は何でしょう」
「華道」「茶道」
口をついて出た単語は華道。これは6割本音の4割虚勢だろうか。薔薇咲き誇る我が庭と対極を為すように、ここ日本には華道なる極小のフラワーガーデンが存在するという。華の道という世界を花器に凝縮するその発想は、良くも悪くも外ばかり見ていた古き欧州にはなかったものだ。今や世界規模で音に聞く華道なるものが一体どんなものか、試してみたい気は予てよりあった。……それが一番か、と問われれば、若干の見栄は混じるのだが。
対するフランの回答は茶道。導き出した心境は私と似たようなものだろうか。愛い奴である。
「お気に入りの音楽は何でしょう」
「東の国の眠らない夜」「東の国の眠らない夜」
ハモる愛しきヴァンピリッシュナイトライフ。選曲の理由はセプテットに次ぐ第二のテーマ曲ということだけではない。彼の名曲は、極東にて再誕した我ら姉妹を言祝ぐ賛美歌だ。重厚なドラムで切り出した紅黒いメロディは、美しく疾走するメインリフと絡み合い、月冴え渡る冬の夜を謳い上げる。鍵盤は月の光を帯びて四弦が紡ぐ朔を裂き、零れた旋律は銀色に弾けて紅と黒に溶け混じる。吸血鬼の跋扈する夜とはそうした幻想の不夜城だ。彼の曲は東の果ての幼き楽園を、世界に告げる鬨なのである。それはフランも了解しているようで、血を吸う姉としては喜ばしい限りだった。
「食べたいものは何でしょう」
「アオジル」「キャッサバ」
成長につれ味覚は鈍磨していく。かつては耐え切れなかった苦味を、旨味の一つとして嗜めるようになるのはその為だ。つまりオトナの味とは苦味のこと。ここでは苦味の王様アオジルをチョイスさせていただいた。正直愛飲どころか飲んだことすらない一品だが、淀みなく出た答えである以上は、つまり最適なのだろう。勝つ為には時として手段を選ばぬ無慈悲も必要。ここは勝ちにいけと、運命がそう言っているのだ。
フランのキャッサバも本音ではあるまい。バイオ燃料としての有用性とインディーズベジタブル特有の味気なさで名を馳せた、ブラジル国民熱狂の根菜キャッサバが、紅魔館の食卓に上がったことはただの一度もない。おそらくは図書館で仕入れた知識を答えとしたのだろう。だが残念なことに、日頃ミルフイユ・ロンや一口サイズの果実にオレンジソースとブラッドソースをかけて食事としているフランが、甘味以外の味付けどころか大して味のない天然の芋を喜ぶとはとても思えず、オトナびた食品を目指すあまり、むしろ日常と乖離した幼稚な答えを選択してしまった感が拭えない。素材の旨味を解する、違いの分かるオトナの女を印象付けようとしたのだろうが、普段ケーキばかり食べているお子様が選ぶには、キャッサバは少々上級者向けのマテリアルである。まあ、そんな大味な過ちを発動させるところもカワイイのだが。
「……なるほど。それがお二人の素直な気持ちですか」
生活の一切を預けた咲夜に嘘は通じない。答えに混じる若干の虚飾も彼女には全てお見通しだろう。だがそれで良い。咲夜ならば答えに至る思考までにも理解が及ぶ。健康なシスコンたるこの私の姉心も、フランの背伸びに逸る幼さも、彼女は全て理解した上でそつなく時を動かすのだ。
「それではお互いに、ご自分の答えと相手の答えをよく噛み締めてください」
だが彼女の二つ名である瀟洒とは、それだけの者に与えられる言葉ではない。そつなく美しく、そして更に一味加えられるからこそ、彼女は瀟洒で完璧と謳われるのだ。この勝負の参も、おそらくこれだけでは終わらない。一問目のように『ここからが本番です』と続くのだろう。
「……十分に吟味できたでしょうか」
ちらりとこちらを見る咲夜。あの薄目はやはり……。
「ただ今の回答を踏まえてステージ2です」
ホラきた! また弾幕化か? いいだろう。『青色の幻想汁』で世界を粘り気のある緑に染め上げてくれる。
「オトナとは他者を尊重できる者を指す単語。お二人には互いに相手の回答を味わい、理解していただきたいと思います」
く、そうきたかっ。
「まずはお嬢様。フランドール様が愛好するように『茶道』を『東の国の眠らない夜』のリズムにあわせて嗜みつつ『キャッサバ』を頬張ってください」
ぎゃー!
「そしてフランドール様には、お嬢様が望まれるように『東の国の眠らない夜』に乗せて『華道』を実践し、かつ『アオジル』を堪能していただきます」
あちらもかなりの死亡遊戯。まさか、いつも満面の笑みでケーキを頬張る可愛いフランが、アオジルの苦味にその顔を歪ませる羽目になるなんて。
「幸いにして音楽の好みは同じ。互いの耳を邪魔することなく、二人同時に行えますね」
正気か。茶道も華道も添水の響く和の空間で嫋やかに嗜む『静』の美学だ。苛烈な夜を疾走する『東の国の眠らない夜』にあわせるなど、焼き芋屋がマニクールサーキットに躍り出す蛮勇に等しい。リヤカーに手をかけ「甘くてオイシイお芋だよ!」の掛け声とともにアスファルトを蹴る老店主の不敵な笑みは天晴れだが、第一コーナーを迎えることなく天国にピットインしていく店主の末路は奇跡をもってしても覆しがたい。
「無理よ! 半人半霊の孫とゆっくり余生を過ごせばいいじゃないの!」
「いけませんお嬢様。茶道もキャッサバも、もはやフランドール様の一部なのです。それを無理と断じることは、即ちフランドール様を否定することになります」
「うぅ……何も屋台で最速に挑まなくても……」
一体何を悟ればそこに至るのか。サムライの心はいつになっても不可解だった。
「……怖気づいたの、お姉さま?」
「フラン!? あなたはアオジルの恐ろしさが分かっていないわ!」
「必要なのは理解じゃなくて覚悟よ、お姉さま。オトナとは覚悟ある者を指す言葉なのよ」
「フラン……」
フランの瞳に決意が灯る。……そうか、姉がフランスの片田舎でワケの分からん護身完成を進めていた頃、既に妹は戦仕度を済ませていたか。
「……いいのね? 過酷な道よ」
頷くフランに迷いはない。なるほど。確かにフランは成長していたらしい。ピアスをつけたいなどという上辺の背伸びだけでなく、精神の成長も伴っていたとは私にとって良いニュースだ。
いいだろう。ならば妹の成長を正面から受け止めるが姉の務めだ。勝負の形式に若干の疑問は残るが、この私とて眷属の頂点に立つ夜の王。サーキットの露と消えた老剣士の轍は踏まない。正々堂々、完膚なきまでの勝利で応えてやるとしよう。
「始めなさい、咲夜。本物のオトナを見せ付けてあげるわ」
「お二人ともやる気十分のようですね。では勝負にあたり、僭越ながら茶道の手解きは私が担当させていただきましょう。華道については美鈴に一任しております」
「いいわ。早く教えなさい」
「それでは早速」
咲夜のレクチャーによって概ね理解した茶道は、思ったよりも堅苦しくはなかった。が、どうやら伝えられた茶道は咲夜によって相当に簡素化されたものらしく、正式な手順となると指先一つとっても様式に則って運ばねばならないらしい。
「本格的に始めようというわけではありませんからね。ある程度の流れに沿って楽しめれば良いのです。ちなみに今の様式は壷月遠州流禪茶道。辿る祖に比べればそれでも簡易と評される武家の茶道なのですよ」
「これ以上手間をかけさせるの? ……呆れた。そもそも茶なんてメイドが淹れれば済むことでしょうに。日本人は従者の腕も信じられないのかしら」
「大切な客人ならば自らの手で持て成したいということでしょう。複雑な手順も洗練された様式も、底を流れる思想は皆同じです」
「御付のメイドは主の作品よ。作法、品格を始めとするメイドの所作は、全て主の器次第。手ずから育てたメイドが二流なら即ち主の無能は明らかね。けれどもそれが傑作ならば、メイドの瀟洒は主の手腕を証明するの。茶の湯の様式なんて小手先の技は必要ない。主はメイドの一挙手一投足で自ら客を持て成しているのよ」
「ではお嬢様。私はお嬢様のメイドとしてこれからもお茶をお出ししてよろしいのでしょうか」
「……ふん。そろそろ調教しなおしかしらね」
「それは楽しみです」
不穏な単語にも咲夜は笑顔を見せる。が、その発言が完膚なきまでの本心であることを館の住人は知っている。
「ま、非合理な様式も偶のことなら風流だわ。そろそろ始めましょうか」
「はい。こちらが茶請けのキャッサバです」
上品な漆器に一本、蒸した芋がゴロリと転がされる。その剥き出しの亜熱帯に、微笑みかけた風流が気まずげに席を立った。
「……無理に茶請けを用意しなくてもいいのよ」
「何を仰います。茶請けはお茶の喜びを何倍にもしてくれるアクセントです。茶請けのないティータイムなど、トトロのいない『となりのトトロ』のようなものでしょう」
「……怖っ」
それは隣に何がいるんだ。
ジブリ初のサイコホラーに背筋が凍る。そこへ、美鈴より華道の手解きを受けたフランがやってきた。
「準備はいい、お姉さま?」
「え、ええ。そちらも整ったようね」
「完璧よ。お姉さまには絶対負けないんだから」
薄い胸をそらすフラン。美鈴直伝の華道はフランにかなりの自信を与えたようだ。だがあちらの真の敵はアオジルである。その認識を誤ると一歩先には緑黄色地獄(グリーンヘル)が待ち構えている。
「それでは始めましょう。お二人とも、それぞれが誇るオトナを見せ付けてください」
芋と茶の湯とシンフォニックメタルから相手の気持ちを慮る。正直匙を投げたくなる奇行であるが、生憎この身は医者要らずの吸血ボディ。愛する妹のためだ、正面から立ち向かって見せよう。
しかし忘れてならないのは、これがやはりオトナらしさの勝負であるということだ。卦体なプレイから相手の嗜好を理解することも大切だが、三つ巴のワケの分からん作法を如何にクールにキメるかも、オトナらしさを競う上で大きなウェイトを占めることになるだろう。オトナの作法は瀟洒に、完璧にだ。
「……ふん、己が従者の専売特許よ。主に出来ないはずがないでしょう」
尤も、瀟洒にキャッサバを頬張るテクニックなんてものがあるならば、是非ご教授いただきたいものだが。
「お姉さまが憧れたカドーは極めたわ。もう私の方がお姉さんなんだから」
そう、そしてこの勝負、相手の奇行は己がチョイスによるものなのだ。オトナとは自らの発言に責任を持つ者。相手の満足度も評価対象となり得るだろう。
知ったことかと開き直る潔さも非常に好ましいのだが、そこはグッと堪える。ここは既にオトナの社交場。ただ素顔を晒せば良いという訳ではない。未来の淑女たるフランの規範となるような振る舞いこそが、この場でとり得る最善のオトナらしさだろう。
「パチュリー様、楽曲のご用意を。リクエストは『東の国の眠らない夜』。……今宵もおそらく紅き月。キーはそのまま、テンポは気持ち早めに、キックバスとベースの厚みは増し増しでお願いします」
「分かっているわ。180BPMの不夜城を見せてあげる」
いつの間にかソファの向こうに控えていた奏者にタクトを振り上げるパチェ。普段はバイオリンを握る奏者の手にはチェリーサンバーストのフェルナンデスが光っている。幻想郷広しと言えどメタルを支配するマエストロはパチェ以外にないだろう。
「だからなんでわざわざ早くするのよ! 鹿威しに合わせなさいよ!」
「心配無用よレミィ。大は小を兼ねる。添水の響きなんて怒涛のドラムでかき消してあげるわ」
「かき消すなって言ってんの!」
「レミィ、そこまでにして頂戴。アーティストはプレイで語るものよ。レッツダンス、敬愛するウラジミール・クリチコに倣い、この夜を奏で尽くしてあげるわ」
「……もう好きになさいな」
パチェの台詞からは不退転しか伝わってこない。もう何を言っても穏やかな演奏は望めまい。クリチコはスティールハンマーの異名をとるヘビー級チャンピオンである。
「追いかけてね、レミィ」
───BGM〝東の国の眠らない夜 _ Vampirish Nightlife〟
聞く耳持たないパチェに導かれて夜の賛美歌が迸る。色々とギリギリな指揮者に引っ張られている癖に、流石我が家の楽団は激しく美しく音を操る。思わず聴き惚れる演奏にしかし、我が耳を傾けるのは茶の心。
「さあお嬢様。始まりましたよ。まずは繰り返すメインリフに合わせて茶を点ててください」
「うぅっ……秒間何シェイクさせるのよ……」
突然空間を割って現れた茶室に押し込まれ、差し向かいの咲夜に茶器を示される。フランも美鈴の対面で、あわあわと華道の準備に入った。
「急いでくださいお嬢様!」
「分かってるわよ!」
「ほら、ワンツー! ワンツー!」
即席の畳の上、激しくかき鳴らされるギターにあわせ、ヘッドバンギングもかくやの勢いで一礼して建水を進める。袱紗をさばき茶巾を取り出し、鉄瓶を引っ掴んで正座のまま90度の回転移動。当然の如くすっぽ抜けた鉄瓶の蓋が適量の熱湯と共に美鈴の尻に直撃するが、速度とリズムを保つのに精一杯で気にする余裕は一切ない。
「ぉあっちゃぁ!」
「ワンツー! ワンツー!」
ベースのうねりと美鈴の絶叫を頼りに茶筅と茶碗を湯に通し、見せ場とばかりに加速するキーボードにあわせて利き手の茶碗を湯で回す。
「ワンツー! ワンツー!」
「だからアツいって!」
べしゃあ、という派手な音と共に、遠心力に負けた湯がリズム良く美鈴の尻に襲い掛かる。無視。180BPMにあわせて狂ったように回され、水分の一切を振り切られた茶碗は茶巾で拭くまでもなくドライな状態。ここぞとばかりに工程を一つ飛ばすと抹茶を茶碗に叩き込み、私は畳み掛けるように茶を点てる。人の指の限界を超えた打鍵は刻み込むようにフレーズを繰り返し、その疾駆する音色に乗せて一心不乱に茶筅を掻き回す我が姿はまさに茶人の立振舞。イメージ的には壊れた洗車機が近いだろうか。
「フオォッ!」
限界を超えた回転運動により泡どころか風雅も消し飛んだ茶碗を掲げ、モロに前歯にぶつけながら残った香りを傾ける。
「結構なお点前で!」
曲の合いの手に殺し文句を高らかに告げた。ここまでがワンセットだ。すぐさまフレーム単位で笑顔を切り替え、忘却の海に沈んだ『しまいつけ』の作法に蓋をして、抹茶の無駄遣いを初手からリズミカルに繰り返す。再び訪れる湯の洗礼。180BPMで駆け抜ける侘びと寂びは熱量すら帯びて、ひた向きな愛をもって美鈴の尻に馳せ参じる。
「ぉぁああ!」
許して頂戴美鈴。貴方の尻を見込んでの役どころなの。
「お嬢様、そろそろ茶請けをどうぞ」
「うぅ……」
差し出されたキャッサバに怯む洗車機。だが止まる訳にはいかない。作法は守る。リズムも保つ。両方やらなくてはならないのが茶道の辛いところだ。覚悟を決めてリフの切れ目にキャッサバをねじ込む。
「うぅっ、無駄に粘り気が……」
「妹様の好意をそんな風に言うものではありませんよ」
「むほォ、旨い!」
「些か強引かと」
どうしろっちゅーねん。
「……しかし、あっちはあっちで凄いわね」
ふと見ると、美鈴の指導の下、まな板のチューリップを幅広の中華包丁でリズミカルに裁断するフランが笑っていた。その姿は繁忙期の断頭台を連想させる。……華道ってあんなんだったろうか。
「ロベスピエールに見せてやりたいわね」
「はい。妹様も立派になられました」
「えへへ。お姉さまも様になっているわ」
死力を尽くす相手を互いに認め合う姉と妹。それはオトナの精神の萌芽である。尤も、リズムにあわせて茎や抹茶を撒き散らす姿が、理性あるオトナのそれと言えるかどうかについては、意見の分かれるところであろう。
「温まってきたわね。さあ、そろそろ本気でいくわよ」
尻上がりのパチェが更にテンポを上げてくる。加速する侘び寂びは遂に炎を伴い、絶えず装填されるキャッサバがコマ送りで口にねじ込まれる。
「甘くてクリーミィ!」
どうにでもなれ、と、惜しみない賞賛が芋に捧げられていった。
×
×
×
「……こんなところにしておきましょうか」
パチェが数回のカーテンコールに応えた頃、摩擦により発火した茶筅と、キャッサバへのリップサービスが限界まで積み上げられたあたりで、咲夜がやっとそう言った。
「……そうね。これ以上は無意味でしょうね」
これ以上のキャッサバの摂取は命取りになるし、何より美鈴の尻が限界だろう。
「ここからがいいところなのに」
「たっぷり5周はプレイしたでしょ」
まだまだ演り足りないパチェが口を尖らせるが、こればかりは譲れない。
「……ところでフラン、貴方アオジルはどうしたの。見たところ飲み干した様子はないけれど……」
先ほどからジョッキごと見当たらなかったのだ。
「あ、あれは……」
フランの視線が泳ぐ。その瞳が確かに卓の陰を意識していることを、この私は見逃さない。
「はぁん……」
「あら、いけませんよフランドール様。そのアオジルはお嬢様の心尽くし。さ、グッといって下さい」
「あぅ……」
たじろぐフラン。
「……お口にあいませんでしたか?」
「だ、だってニガいんだもん……」
幾度も挑み、膝を折ってきたのだろう。潤むフランの瞳からは、一度ならず打ちのめされた少女の傷が窺えた。
「ですがそれはお嬢様の選んだオトナの味。……お嬢様のオトナは感じられませんでしたか?」
こっそりと隠されたジョッキを卓に戻す咲夜。
「うぅ……」
無理だ。フランにあの液体はまだ早い。
体に良い、その単一効能を盾に、味や香りの一切を切り捨てた孤高の粘液がアオジルだ。永遠亭の素兎のような健康証明主義者(ヘルシープルーフ)以外には試飲すら許さぬその液体は、フランの子供舌にとって劇物に等しかろう。そしてそれは、咲夜もよく理解しているのだ。
「お嬢様は、妹様のキャッサバを美味しいとお召し上がりになりましたよ」
それでも咲夜はフランにアオジルを勧める。これがオトナの勝負だから。ここがオトナと幼女とを白黒つける、淑女の決戦場だから。咲夜は単なる進行役ではない。クイズの司会などというマギー司郎で事足りる些事ならば、わざわざ咲夜が務めたりはしない。彼女はクエスチョンマスター兼ナビゲーター。勝敗の自覚と心の成長を促す支配人なのだ。
「だって、だって……」
そんな咲夜に、フランは同じ言葉を繰り返すばかり。やはりアオジルの壁は高い。かの攻勢粘液は辛口だ。二次性徴を迎えたからといって易々と攻略を許すほど生優しい味わいではないのだ。
「……」
消沈するフランの姿に胸が痛む。私の目的は姉妹をあるべき姿に戻すことだ。フランに傷を負わせ打ち負かしたい訳ではない。……こんなことなら好物はショコラとでも言っておけばよかったか。今更ながら知識でオトナを騙った浅はかさが悔やまれた。
……仕方ない、か。
「──いらないのなら飲んでしまうわよ」
「……え?」
そう、仕方がない。フランの曇った顔も、咲夜の演じる損な役回りも、見ていて楽しいものじゃない。粘液を召喚したのは私だ。後始末くらいしておくべきだろう。
「お姉さま!?」
アオジルが並々と注がれた大ジョッキを持ち上げる。右手にかかるただ事ではない重圧を撥ね退け、左手を腰にあてポーズを決める。……くそ、誰だジョッキに注いだのは。エールじゃないんだ。もう少し謙虚な器を選ぶのがオトナだろう──!
「Amen!」
柄にもなく天に祈り、心の洗濯バサミで鼻を抓んで一息にジョッキを呷る。悪意の無いことが不思議なくらいの生臭さが喉を下っていく。新鮮な感覚だった。飲めば飲むほど水が欲しくなるのだ。
「──!」
キツイ。摩り下ろした青い苦味に臓腑の粘膜が灼き尽くされる。鼻に抜ける風味が眩暈を誘い、ちかちかと明滅する世界に緑色のノイズが走る。……とろみの原因は生臭さに違いない。限界を超えた異臭が真水をゲル化させたのだ。発熱した頭が酷く痛む。ジョッキを飲み干して喉が渇いたのは初めてだった。
「お姉さま!」
「……」
駆け寄ろうとするフランに右手を突き出す。左手で心臓を叩き、焼きついた臓腑に血を送る。精一杯の強がりだけが、今の私を支えていた。
「結構なお点前で……」
「お姉さま……錯乱して……」
「……してないわよ。オトナの味だったって言ったの」
嚥下の一瞬、義務のように仕事を放棄する小町の寝ぼけ面が見えた。彼岸が近い。我ながら愚かな選択をしたものだ。
「でも顔色が真っ白だし……」
「結構じゃないの。吸血鬼はアルビノの成れの果てよ」
「でも……」
「でもじゃないわ。いらないんでしょう? 返せと言うなら過去に言いなさい」
咲夜にジョッキを押し付け、懐中時計を顎で指す。
「はい。お嬢様、水です」
「……ん」
突然後ろから掻き抱くように肩を掴まれ、冷たいグラスを握らされた。耳元で囁く声は咲夜のものだ。どうやら緑色の視覚情報は私に見当違いの行動をとらせていたらしい。微かに血の香る氷水で味蕾と視界を洗浄すると、目の前にはジョッキを手にした美鈴がいた。……なるほど。ということは私は美鈴の胸の谷間にジョッキを押し付け、彼女が手に持つキャッサバを顎でしゃくって過去がどうとか言ったのだろう。錯乱を払拭するには程遠い奇行である。
「この刺激はお子様には分からないわね」
それでもフランに向かって胸を反らす。毅然と、誇らしく。彼岸に片足突っ込んだなんて悟られてはいけない。
「お姉さま……」
「なんて顔してるの。いらなかったのでしょう」
「ぅ……ん……」
「そんな顔はよしなさい。用の無いものまで欲しがるなんてレディのすることじゃないわ。貴方はそうならなかったのだから、何を恥じるというの」
言いながら運命に干渉する。胃の腑に重く溜まるアオジルの成分一つ一つの核を思い、自己に沿って因果を断ち切り望まぬ結果を否定する。途端、眩暈や頭痛がすっと引いた。運命に祝福を。連続性の改竄か構成要素の再結合か、何が起きたのかは知らないが結果すこぶる気分が良い。朝焼けに芳醇なO型をたっぷりと楽しんだかの感覚が、腹の奥でじんわりと疼いていた。
「……うん」
フランの顔は晴れない。当然だ。弄った運命は体内のみ。結果を限定した能力の施行は決まって興が冷める。無意識の発露こそ否定しないが、他者に向ける力は少ないほうが人生は楽しい。
「まったく……。ほら咲夜、次にいくわよ。三問目はお終いでしょう」
「はい。お二人ともご自分の中で今の勝負を整理してくださいね。……それでは次にいきましょう」
勝敗は言うまでもなかろう。フランが口にした『オトナとは覚悟ある者を指す言葉』。それに依るならば此度の勝者は明確だ。己が言葉の重み、理解し糧として欲しい。
◆
「勝負の肆もシンプルなものです。既に相手を尊重する意味についてはご理解いただいていると思いますが、肆はそれを形にするだけ。お嬢様、フランドール様。互いに相手を思いやり、たった一つ、贈り物をしてください。なんでも結構です。物質でも行為でも。遠方にあるものでしたら私に言ってください。可能な限りご用意いたします」
ふむ。参に続く問いとしては順当か。不意打ちによる相互理解の次は、最初から相手を想定した親愛の表現。やはり咲夜は問いそのものを、成長のステップとしているのだろう。
「レミィのパンツが欲しい!」「咲夜さんのパンツが欲しい!」
咲夜の台詞が終わるやいなや、まっすぐに手を伸ばして身を乗り出すパチェと美鈴。活き活きとした変態は見ていていっそ清々しい。
「相手の喜ぶプレゼントを、と申し上げたのです、パチュリー様。美鈴も。人間失格を申告しろとは申しておりません」
変態は相容れぬものだ。やれやれと首を振る咲夜はすげなくNOを突きつけた。
「何よ。それは私の下着が欲しいということかしら」
「何だ、早く言ってくださいよ! そんなのいつだって──ッ!?」
脱ぎたてを進呈しようとチャイナドレスのスリットに指を差し入れた美鈴が、驚愕に声を詰まらせる。
「な……そんな、これは……朝はいたものとは別のショーツ!?」
「ああ、さっきお嬢様のお湯で随分と濡れてしまったでしょう。換えておいてあげたわ」
炸裂する桃色の気配り。瀟洒過ぎる。
「さ、咲夜さん……ありがとうございます! 嬉しいです!」
そこまで曇りない感謝もどうだろうか。まあ、紅魔館は薄紅色のイベントの宝庫だ。セクシャルな能力活用はむしろ武勇伝に含まれる。かく言う私も咲夜の絶対領域を攻略するため、幾度か運命とバナナの皮のお世話になった。網膜に焼き付けたこの世の春は、今もこの胸を暖かにする優しい記憶の一つである。
「そのへんにしなさい。フランもいるのよ」
だが時と場所は選ぶべきだ。幼子の前で、オトナとダメ人間を同義にしてはいけない。
「……プレゼント……お姉さまに……」
幸い当のフランは小さく呟きながら上の空だった。良かった。不穏な会話は耳に入ってないようだ。
「お互いに相手をよく想えば、答えはすぐに出るかと」
フランの喜ぶプレゼント。表層を一義的に捉えれば、それは蝙蝠を模ったピアスなのだろう。おそらく咲夜によってピアス自体はフランの手に返ったはず。この場でフランの笑顔が見たいのならば、ただ頷いて耳朶を甘噛みし、小さな穴を穿ってやればいい。だがそれでは本末転倒。己が身への誇りを代償とした華飾になど何の意味もないことを、フランに分からせることがこの場の目的だ。安易な追従(ついしょう)を選択すれば、後悔は生涯続くだろう。
ならば何を贈るか。先の言葉を信じるならば、キャッサバこそがフランの心を射止めるハートの根菜ということになるのだが……あれはダメだ。乱心した利休に散々食わされた私には分かる。あれは甘味と粘り気をトレードしたサツマイモだ。……正直鮫られている。とてもではないが、幼女の心をかき立てる品ではない。……キャッサバはやはり、フランの背伸びの産物なのだろう。
「──ふむん……ん?」
いや、思い出せレミリア・スカーレット。これは咲夜の整えたオトナの階段教室だ。問いの肆ともなれば応用問題。ヒントはこれまでの問答にあるのではないか。
私もフランも、オトナを競いながらもその答えには本音と虚飾を混在させてきた。虚飾とはオトナたらんと願う自分。介護用グングニルやアオジルがそれだ。成長にあたり自分を見詰めなおさねばならなかったこれまでの問答から、それら虚飾を全て引き剥がした時、そこにはフランが真に望むものがあるのではないか。
「そう──そういうことね」
様式美を好む咲夜の考えそうなことだ。故にこの着想にはかなりの自信があった。では今までの遣り取りに篭められたフランの真実とは何か。〝旬を逃したレモン〟〝モントリオール議定書〟〝環境大臣〟〝網タイツと人間性の考察〟〝ヌーディストビーチ〟〝ダライラマ〟〝キャッサバ〟〝東の国の眠らない夜〟。さまざまな単語が現れては消えていった。それらに潜むフランが真に望むものとは。……並ぶ単語から、碌な道程を辿ってこなかったことが再確認されるが、それはこの際目を瞑ろう。
「──」
言の葉にそっと手を触れる。ペルソナを搔き分けイドの発露を摘み上げる。過ちの許されない一手だ。だからこそ運命に依らず自らの手で掴むのだ。
「──そう、これ……よ」
フランに贈る真実。そう、フランは既に教えてくれていた。思春期と呼ばれる殻の中で、本当の自分を叫び続けていたのだ。
「フランへの贈り物。ええ、決まったわ咲夜」
掴み取った真実は二つ。〝環境大臣〟と〝東の国の眠らない夜〟。即ちフランの持つ地球的規模の慈愛と、吸血鬼の血が騒ぐ夜への憧憬。これだ。網タイツや全裸で解脱を目指すファナティック大僧正たちに塗れてなお、これら二つには燦然と輝く光があった。これこそがフランが求め叫ぶカタチなのだ。だがプレゼントは一つきり。これら二つを混ぜ合わせる必要がある。
混ぜるといっても睡眠不足の大臣を引っ張ってくれば良いという訳ではない。〝東の国の眠らない夜〟。これは紅き月の下で猛る血の象徴である。高ぶる本能、動悸に重なる闘争心が音の連続となって零れ落ちるのだ。つまり〝環境大臣〟は慈愛を、〝東の国の眠らない夜〟は激しさを表す。──個人の持つ優しさと種としての獰猛、その綱渡りのバランスを、幼いフランは訴えかけていたのだろう。
「……フランドール様もよろしいですか?」
混ぜるな危険。危ういバランスならば不用意な配合はそれこそ破滅に結びつく。が、それを止揚してこそ運命の悪魔だ。
優しさと激しさを併せ持つ環境大臣。それこそが運命のベストチョイスだ。──電撃的な任命、初登庁の朝。いってきます、と妻と二人の息子に微笑みかけて家を出た大臣は、野党質問に拳で応えたという。在任期間奇跡の六秒。『もあああ!』という奇声を唯一の国会発言とした伝説の環境大臣は、失われつつある自然に先駆けて、綺麗サッパリ永田町から姿を消した。……お分かりいただけるだろうか。そんな気骨ある浪花節こそが思春期には必要なのだ。
「……かしこまりました。……プレゼントの用意はどういたしましょう。必要なら私の方で取り寄せますが」
「……いい。ここにあるもの。ねえ、今度は私から始めるわ」
「はい。ではそうしてくださいませ。……お嬢様はどういたしますか」
フランに用意は必要ないらしい。一体何を選んだのだろうか。……いや、そもそも何かを選んだのだろうか。終えた勝負は三つ。既に我が胸には三つの勝利が輝いている。敗北を悟ったフランが消沈し、あるいは自棄になって四問目を放棄する可能性もゼロではない。
「……私も結構よ。さっさと始めて頂戴」
いや、そんな筈はない。自分から始める、とフランは言ったではないか。ポジティブな発言だ。場を破壊しようとする者の言葉ではない。そして何よりフランがそんなことを思う筈がないのだ。
……まずはフランの出方を見よう。大臣の準備はその後でいいだろう。そもそもそんな刺激的な紳士がいるか、という疑問もあるが、なに、ここは幻想郷。全てを受け入れる夢路の果てだ。
「そうですか。ではフランドール様、お願いします」
「ん……」
おず、とフランがこちらに体を向けた。
「お姉さま……」
「な、何かしら」
先ほどから目に見えて大人しいフランの上目遣いに、とくんと胸が高鳴った。両手を後ろに隠してちらちらとこちらを窺う仕草は、愛らしくも危うげで、その手の中身が何であるのか、皆目見当もつかなかった。
「ぁ……」
フランが一歩前に出た。触れたら壊れてしまいそうで、思わず後しざる足を既のところで押し留めると、間近にあるフランの髪がふわりと鼻をくすぐった。うっすらと上気した肌から立ち上る甘いミルクの香り。シャンプーよりも強いフラン自身の匂いだ。……そういえば外は夏。神経に障る太陽をここしばらく忘れていたのは、室内の快適のせいか、それとも別の理由からだろうか。
「あの、ね……」
小さく首を傾げて見つめられる。ひと房だけ束ねた金色の髪が、するりと肩から滑り落ちた。
「……これ」
フランはきゅっと俯くと、握り締めた両手をを私の胸に押し付けた。声もなく、その手に手のひらを重ねる私を見ると、フランは少しだけ笑い、両手を引いた。金属の冷たさを握る私の手だけが、胸の中に残された。
「……」
手のひらを広げ、閉じる。
「……そう、いいのね」
手の中には蝙蝠を模った小さなピアス。フランがパチェにせがんだという、ほの赤く染まった一揃いの耳飾。それはオトナに逸るフランドールそのものだ。
「……うん」
その意味を暈すほど軽剽ではない。頷き、一度だけフランの頭を撫でた。
「レミィが持っていても意味はないんだけどね」
「んん……?」
パチェの言葉に、まじまじとピアスを見る。一辺五ミリ程の紅蝙蝠は、ただ紅く染めただけではない。よく見れば透けた薄膜の中に鮮血色の液体が揺れている。
「水銀? ……だけじゃないわね。何よこれ」
そういえば法具と言っていたか。その割りにたいした力は感じないが。
「惜しいわね。硫化水銀に麻の花弁を溶かしたのよ」
「……」
水銀は〝不死〟を、麻の花は〝運命〟を表す。なるほど、確かに私が持つ意味はない。
「莫迦な子ね」
言って、小指の爪先のほんの少しを蝙蝠に変えた。まだ子供の小さな蝙蝠。その足にピアスの片方をくくりつける。
「私の番がまだだったわね。勝負の続きよ、フランドール。貴方にはこれをあげるわ」
生まれたばかりの蝙蝠が、パタパタとフランの周りを飛び回る。
「……わっ、わっ」
足の重みからか、覚束ない飛び方の蝙蝠をわたわたと手で追うフラン。ようやく指先ですくい取ると、柔らかく頬にすり寄せた。
「……お姉さま」
しばらくそうした後、フランは蝙蝠を胸にもっていった。フランの手で優しく心臓に押し当てられた蝙蝠は、手を放したときにはもうそこにいなかった。
「……ぁ……と」
フランの顔は硫化水銀の血色よりも紅かった。
「ええ」
か細い声。レディの謝辞にしては随分とつたないが……こんなものだろう。ゆっくりオトナになれば良い。
「良かったですね、フランドール様」
「……えへへ」
きゅっと胸を押さえるフランに咲夜が笑いかける。その宗教画の如き光景にしかし、私の背中を冷汗が落ちる。
──危なかった。後出しで本当によかった。はにかむフランを見た今なら分かる。C級大臣の探索を咲夜に依頼していたら、全てが終わっていたところだった。捕獲され、白目を剥いた沸点の低いオッサンに、あれほどの幸せを贈る魅力がある筈もない。何が気骨ある浪花節だ。国会答弁中に奇声を上げる時点で、既に国家の恥部である。
「さ、次は勝負の伍ですね」
フランの肩に手を置いたまま咲夜が言った。
「……五問目はいらないでしょう」
ピアスの交換は事の結末だ。これ以上の問答に意味はない。
「いいえ、お嬢様。必要です」
「フランの顔を見なさい。これ以上何を求めると?」
「継続ですよ。五問目は実践です。お二人には今日学んだことを日々心がけていただきたく思います」
……学んだこと。真のオトナたる心構え。やはり咲夜は容赦ない。
「……そう」
思い描いたオトナの実践。口をついた虚飾の反省。フランと私のそれは微妙に異なるだろう。それで良い。それぞれが抱く理想に近づく努力こそが、レディに課せられた義務なのだ。
「それじゃまずは自分に正直になりましょうか」
すい、と足を運び、頬を染めたままのフランを後ろから抱き抱える。
「わあ──!」
そのまま椅子まで運び腰掛ける。硬直したフランを膝に乗せて、肩越しに囁いた。
「私はこうしていたいわ。フランはどう? ──嫌かしら」
「……」
オトナらしく見せようと心を飾ることは、必ずしも最善には繋がらない。──アオジルの教訓である。
「……ううん。……イヤじゃない」
真っ赤な顔を隠すように俯いたフランは、それでも廻された私の腕をぎゅっと握り返した。
「ふふ、今紅茶を用意しますわ。パチュリー様も、今日はこちらでお召し上がりになっては如何です」
「そうね……良いつまみもあるしね」
ニヤリとこちらを見るパチェ。
「お茶のついでに図書館から本を持ってきてもらえるかしら。文机の一番上にある本よ。……ええ。そう、これよ」
語尾まで聞き届けた上でなお、言葉の途切れぬうちに用向きを叶えた咲夜は、そのままの表情で卓に茶器を配膳する。
「そういう類の本は自室でひっそりと楽しまれるものですわ」
「カタいこと言わないで。イマジネーションは本物の模倣から始まるのよ」
ショッキングピンクの装丁には『姉妹の契り~独占愛』。
「フラン、しばらくパチェと目を合わせちゃダメよ」
「……ぎゅー」
フランのおなかに廻した手に力を入れて、膝に乗せた妹をより深く座らせる。小さなお尻から肩甲骨までぴったりと密着させると、フランは微かに苦しげな声を上げた。少々強く抱きしめすぎたろうか。
「……独占されちゃうの?」
「ええ。独り占めよ」
白いうなじに軽いキスをした。ぴくん、と跳ねたフランの動悸が、重なる心臓に直接響いてくる。ああ、妹の体温を感じるこの至福。夏だというのに不快なところは一つもない。それは例えるなら月の光。今も燦々と自己主張を続ける太陽も、少しはフランを見習うと良いのだ。
「美鈴も一杯くらい付き合えるでしょう」
「そうですね。咲夜さんが淹れてくれるなら、一杯と言わずいくらでもお付き合いしますよ」
常在戦場が彼女の仕事だ。だがこの館の仕事は全て、主を喜ばせるためにある。自分が華の一つに数えられているのであれば、共に紅茶を楽しむことが、今この時の最善となる。
「ダメよ。一杯」
「ちぇー」
華と紅茶の旬に咲夜は敏感だ。だから、厳しい。
「ウィスキーボンボンは持っていっていいから」
「わお」
自分が拡張した空間で成る館内ならば、侵入者があれば咲夜は瞬時に把握できる。だからこそ咲夜は知覚の及ばない館外警護を疎かにしない。
美鈴を門番に、と進言したのは咲夜だ。私は二秒で決裁判を押した。なぜなら美鈴が戯れに受ける武術の挑戦は、窓から眺める余興としては悪くなかったし、何より──彼女が館を守る姿は様になっていたからだ。
「ガテン系は大変ね」
綽々と紅茶を嗜むパチェ。合いの手にしか聞こえない労いを口にしつつも、その目はやはり如何わしい書物に釘付けだ。それだけならば害はないが、時折舐めるようにこちらを眺め、背筋を震わせるのは止めていただきたい。パチェの恍惚はフランには刺激が強すぎる。有毒、有害、有罪と、既に三つの指定を受けているパチェは、もはや浄玻璃鏡すら嬉々として覗き込む、知識と日陰の益荒男だ。
「ガテン系ってなあに、パチェ?」
「カラダで稼ぐ者たちのことよ」
「ふーん」
パチェの偏った解説を素直に聞くフラン。やはりパチェは教育によろしくない。……しかし、フランも随分と急に丸くなったものだ。こちらがいつもどおりとはいえ、昨日ピアスを床に叩きつけた姿は最早想像もできない。まあ、気にすまい。悪心が囁くことは誰にでもある。過去を水に流し受け入れるのも、オトナの優しさだ。
「ダメよフラン、今パチェに話しかけちゃ。妊娠しちゃうわよ」
「にんしん?」
「ええ。だってあなたもう……その、き、きたのでしょう?」
素直なフランは還ってきた。だが既にフランがオトナの階段を上り始めているのは事実なのだ。
「……?」
だがフランは小さく首を傾げるばかり。もしや初潮の意味するところが分かっていないのか。それともまさか……いや、それこそまさかだ、が──。
「──ちょっと咲夜。フランに『きた』って、本当なんでしょうね」
「……きた、とは……何がですか、お嬢様」
当然の質問に咲夜までもが首を傾げた。──ああもう、何でこんな時だけ察しが悪いのか。
「だからっ、し、しょ……ょぅが……よ」
「署長? ……ああ、初潮ですか」
「ちょ、そんなはっきり……!」
「ええ、きましたよ。……お忘れですか? お嬢様もご覧になったでしょう」
「ええ!? み、見てないわよ! そ、そんな美味し、大事なことを見たら忘れるはずないでしょう!」
んー? と疑問符を浮かべあうフランと咲夜。何だその反応は。見たのか? 私は目にしていたのか?
「美鈴! 貴方はどうなの!?」
「わ、私は知らないですよ。咲夜さんに聞いてお祝いしただけですし……」
「パチェはっ!?」
『姉の未発達な蕾をそっと口に含むと、妹はその細い指を……』
「お気に入りの箇所の朗読を求めたんじゃないわよ!」
ええい、どうなっているのだ我が家の性教育は。
「咲夜っ、初潮の定義!」
「初めて月のものがくること……ですよね?」
「そうよ! きたの、フラン!?」
「きたよ?」
「ああ、フラン! 痛かったでしょう──!」
フランの下腹部を撫で、更に強く抱きしめた。
「──? 痛くなんてなかったわ、お姉さま」
「え? あ、そ、そうなの?」
そうなのか。痛みを伴うと聞いていたのだが……。痛みには個人差があるともいう。フランは軽い方なのか。それならそれで良い。痛みなどないに越したことはない。
「痛むとしたら相手ですわね」
「相手ッ!?」
相手とは何だ。誰かに誘発されるものなのか。だとしたら相手は誰だ。何処の駄馬の骨が私の可愛いフランに血を流させたのだ。
「あ、相手って、あ……」
「尤も、無機物に痛覚があればの話ですが」
「ムキブツッ!?」
モノッ!? ど、どういうプレイだそれは……。我が妹は知らぬ間に深い世界に入り込んでしまっているのか……?
「痛くないわ。きゅっとして、どかーんだもの」
「……は? どかーん?」
「粉々ですものねえ」
「……コナゴナ?」
フランと咲夜の会話は私の理解からの乖離を続ける。最早二人が何を言っているのか分からなかった。
「……しっかりしてくださいお嬢様。お嬢様もご覧になったではないですか。あの夜、フランドール様が隕石を破壊するところを」
「……隕石」
「はい。永遠亭を目指す突入角度やイルメナイトの含有量から見て、間違いなく月のものかと」
「……月の……あー……月のもの、ね……」
そういや二週間ほど前に、フランが隕石を一つ砕いた。ちょっと前に獅子座流星群の一つを破壊してから、フランは隕石の破壊がお気に召したらしい。落ちてくる時期が分かったら教えて、とせがまれて、何度か教えてやったうちの一つが二週間前のアレだが……そうか、月のものだったか……。
「いや、違うでしょ。月のものっていうのは、ああいうんじゃなくて……もっとこう……」
「くすぐったいわ、お姉さま」
気がつけばフランの下腹部に置いた手に力が篭っていた。
「あ、ああ……ごめんなさいフラン」
……あれ? じゃあもしかしてフランに初経はきていない? この姉と同じナチュラルボディ?
「……フラン、一つだけ答えて頂戴。……最近血を流したことはある?」
「血?」
「意味は分からなくてもいいわ。あるかどうか、それだけでいいの」
「ないわ、お姉さま。怪我なんてしてないもの」
そうだ。やっぱりそうだったのだ。可愛いフランが姉を置き去りにして、オトナの階段に足をかけるなんてある筈がなかったのだ。
「ああ、フラン。愛しているわ!」
膝に乗せたまま後ろからぎゅっと抱きしめる。
「わ、私も……お、お姉さまのこと、す、す……」
「フラン──」
憂いは消えた。私とフランの間にあった薄い壁は、これで完全に消え去った。後は……後は、そう──。
「後はあなたよ咲夜」
「私ですか?」
「そうよ! あなた月のものって本気で言ってるの!? 何で隕石を壊して赤飯が飛び出すのよ!」
「そういうものではないのですか? 確か初潮を迎えた女の子は、赤飯で祝ってやるものだと聞いたことが」
「その説明の何処に隕石が出てくるのよ!」
「別名月のものと……違いましたか?」
「違わないけど! 違うのよ!」
どうしてこのメイドは肝心なところだけ抜けているのだ──!
「大体隕石相手じゃ性別は関係ないでしょ!」
「まあそうですが……。上巳の節句のようなものかと」
そんなマッタリとしたスペースハザードがあるか。
「そもそも──」
『そもそも、そんな天文学的確率の幸運がなければ子孫を残せない生命体が、ここまで繁栄するものか』そう言ってやろうとして、ふと思った。もしかして知識ゼロはフランだけではなく、咲夜もまたそうなのだろうか。知識の欠如は即ち体験の欠如だ。彼女の瀟洒は、初潮という少女がオトメを自覚するイベントなしに、形成されたものなのだろうか。
「そ、そもそも、貴方はまだ……き、きていないのかしら?」
「きたとして、私に隕石の破壊は無理ですよ」
ぱたぱたと手を振る咲夜。
「ああ……咲夜……!」
やっぱり分かってない……ということはまだきてない!
「YEAAAAAAH!!」
走りこんできた美鈴とハイタッチを決めた。
「幼女! 幼女! YES、幼女!」
「瀟洒! クール! でも幼女!」
シュプレヒコールが響き渡る。
「な、何なんですか……?」
奇跡。だってあり得ない。咲夜が紅魔館に来て何年経つ? 最初は私やフランよりも幼かったはずだ。それが今やすっかり年頃。当然きているものだと思っていたのだが……。
「「「Bカップにも頷ける!」」」
いつの間にか本を閉じたパチェを交え、三人ガッチリ腕を組む。
「咲夜! 今夜図書館に来なさい! あなたに足りないものをゆっくり教えてあげるわ!」
「ず、ずるいですよパチュリー様! 私だって教えてあげられます!」
色めき立つ二人。理解できる絶叫だがそれは無粋というものだ。
「落ち着きなさい二人とも。それは芸術の破壊よ」
「「──!」」
はっと息を呑む二人。流石は紅魔館が誇る歴戦の変態、理解が早い。
「咲夜も、そしてフランも、この瞬間まで無垢を保ち続けてきた奇跡の存在。今はそっとしておきましょう。いずれその時がくれば嫌でも理解するわ……。せめてそれまでは……」
「レミィ……」
焦って詰め込むことはない。然るべき時が近づけば、知識とは自ずと身につくものだ。
──オトナへの道を急ぐことはない。それは自らに課すだけでなく、周囲に対しても発揮される優しさでなければならないのだ。
「咲夜、こっちへ来なさい」
「はい……」
未だ得心のいかない咲夜を呼び寄せる。いいのよ咲夜。貴方はそのままでいい。
「フランもいい? ……そう、そこでいいわ」
膝の上のフランを降ろし、咲夜の隣に立たせた。二人の手を握り、重ね合わせる。
「二人とも、今は分からなくていいのよ。ゆっくりオトナになりなさい」
「お姉さま……」
「お嬢様……」
二人とも、猫好きの狐につままれたような顔つきだ。当然だろう、この場で抱いて然るべき疑問に、私は何一つ答えずただ肯定したのだから。
「……かしこまりました。確かによく分かりませんが、お嬢様がいいと仰るならそうしますわ」
「咲夜……」
どうして今まで気づかなかったのか。咲夜の従順は子犬のそれだったのだ。
そして咲夜の言葉と同時に、フランがぎゅっと手を握り返してくる。
「フラン……」
信じあう姉妹と主従。世にこれほど美しいものがあるだろうか。喝采せよ。此は既に運命の揺籃である。
「厨房に伝えなさい美鈴、今夜は宴よ」
「メニューはどうしますか?」
「キャッサバでなければ何でもいいわ。ああ、いや、ちょっと待ちなさい」
早速部屋を出ようとしていた美鈴を呼び止め、フランと咲夜に声をかける。
「フラン、咲夜、何か食べたいものはある?」
「食べたいもの、ですか……」
「今日の主役はあなたたち二人よ。何でも好きなものを言いなさい」
「ううん……」
考え込んでしまう二人。そう、好みを述べることは難しいのだ。
「それでは……」
「ん、咲夜は決まった?」
「はい。お嬢様と同じものが食べたいですわ。もちろん血を抜いて、ですけれど」
「あら、私が今夜何を希望するか分かるのかしら」
「もちろんです。フランドール様と同じもの、でしょう」
身体はオトナでなくともやはり咲夜は咲夜だ。仕える主を良く分かっている。
「ふふ、責任重大ね、フラン。……どう、決まったかしら」
「え、えっと……あ──」
皆の顔を見渡して、羽をぴんと伸ばして、フランは何かを言いかけた。
「フラン」
「……ぁ」
一度だけ声をかけた。それで十分。フランには伝わったはずだ。
「……ん。うん、……ケーキ。ケーキがいい」
「そう、ケーキでいいのね」
「う、うん! こーんなに大きくて、甘くて、ちょっとすっぱいの!」
「分かったわ。……聞いてたでしょ美鈴。特大のクランベリーケーキよ。ソースは二種類、ヨーグルトとブラッドでね」
了解、と返事を後に引いて美鈴は部屋を出て行った。
「……甘ったるい晩餐になりそうね」
「不満げね」
「そんなことないわ。並んでケーキをつつくあなた達を見ながら本を読むのも、悪くはないわ」
「……そんなものを見るためにフランを焚きつけたのかしら」
「……ピアスはあの子から言い出したことよ」
「それ以前の話よ」
「……さあね。けれども夏を忘れる程度には役立ったでしょう」
「……ふん」
言われて窓を見れば、レースの向こうは既に赤く染まりかけていた。
「──フラン、ケーキが焼けるまで、パチェが弾幕ごっこで遊んでくれるらしいわ」
「わ、ホント?」
「ちょっ、言ってないでしょ、そんなこと! ま、待っ……この……レミィィィ!」
わーい、と着剣してパチェに飛び込んでいくフラン。吹き飛ばされ、呪詛を吐きつつ錐揉みするパチェを追いかけていく。
「あれでこそフランドール様ですわ」
「ええ。あれこそパチェよ」
最高の家族だ。
「覚えてなさいよ、レミィ!」
レーヴァテインに晒されかけた『独占愛』を身を挺して守り、尻に火のついたパチェが窓から飛び出していった。
「あーっ! 外に逃げちゃダメー!」
微かに見える斜陽。長く伸びるオレンジ色は、今までよりも少しだけ優しく見えた。
紅魔館の素晴らしい変態達と幼女に乾杯
いつからワタシは桃魔館に迷い込んでしまったのだ!?
なのになぜこうも優しい笑みが浮かぶのでしょう
全てが計算されているかのように、絶妙のタイミングで差し込まれる言葉の罠。
まともに読めばとても綺麗な話になるはずなのに、それをはるか斜め上に第一宇宙速度突破な勢いで駆け抜け、しかも本筋は外さない。
大爆笑というわけではなく、じわじわとボディーブローのように効いてくるネタの宝庫に、私もうだだ漏れです。理性とか衝動とか汁とか。
それでいてレミリアとフランの絆に頬が緩むというのだから――
でもなんか最後の咲夜さんに全て食われた気がする。
いや、それはねぇよ。
……ないよね?
美しき刃文は折れず曲がらず→刃紋では?
竹槍とニューナンブで武装した→ニューナンブって戦後生まれなので明治には無い気がします(でも幻想郷で八王子市長や八戸の話が出ているぐらいなのであまり気になりませんでしたが)
最初の実践となるソビエト→実戦では?
既存のゲームをを知らない→をが一個多いです
「結構なお手前で!」「結構なお手前で……」→お点前の方が正しいっぽいです。
おそらく咲夜よって天文学的確立→確率では?
下の床間さんと似たような感想になってしまいますが、
これだけすっぽ抜けておきながら本筋を外さない辺りが流石すぎました。
そんなだから読んでいても不思議と安心感があるというか。
これも美鈴の尻のおかげでしょうか。
ここまで無茶苦茶な展開でありながらも、最初から最後まで軸をぶらさず、
一つの主題に沿って話を進めていく、その手法には感嘆を超えて尊敬の念すら芽生えてしまいそうです。
とにかく、すばらしいお話でした! どうもありがとうございます。
へたれているようでやっぱりカリスマだだ漏れのお嬢様に乾杯!
卓越したギャクセンスや筋を通す文章力もすごいのですが、端々に見られる明瞭で説得力のある理屈が面白さの骨格になっているように感じます。参考にしたい・・・。面白かった!!
相変わらず変態ぞろいの紅魔館だなぁ。
こんな時間なのに思わず爆笑しましたw
ありがとうございました
この紅魔館が大好きだ。
というか後書きでさえもう死にまくりですよw なんて文才w
あなたのその才能に嫉妬する。
すげぇ。
そして語彙の豊富さには、最早脱帽するしかありません。
素敵なBカップをありがとうございます。
おいしうございました。
あと、あなたの言語操作能力も変態の域に達してると思います。
完成されて淀みのない独自のキャラクター像と、それを活かしきる潔さ。
突っ込む以上に、その見事さと完成度の高さに惹きこまれてしまっていました。
限りなくパーフェクトに近いSSを読ませていただきました。脱帽の一言です。
貴方の書かれる紅魔館は清々しい変態ばかりですな
一つ貰おうか
しかし無垢な少女達の、何と美しきことか。まさに至高の芸術。
妖忌が石焼き芋の屋台を光速で引っ張りながら第一カーブで撃沈する様を想像して声を出して笑いましたよw
咲夜さん希少価値過ぎる。
元の功罪よりもSSの印象が強くなって困るw
しかしなんでそんな素敵ワードが生まれてくるのか不思議でたまりませんw
ギャグの完成度に関しては最早言葉にする必要もありません。思いっきり笑わせていただきました。
そして表面に感じるギャグの面白さとは裏腹に位置する、高い文章力や知識や言語能力にはただただ感服します。読んでいる最中に、笑いやら嫉妬やら感動やらが混ぜ合わされた、えらい間抜けな表情になってしまいました。
次回の作品も、楽しみにしています。
お嬢様がゲームの解説をしたあと屯田兵と言ったときには
思わず笑ってしまいました。
横で変態どもが暴れまわるお話でも大事なことってちゃんと学べることを知りました、すばらしいお話をありがとう。
ご指摘のあった誤字を修正いたしました。お知らせいただきありがとうございました。
ただ、〝刃文〟についてはそのままにしております。
刃紋と刃文はどちらもアリのようですが、手持ちの広辞苑には刃文のみ掲載されておりましたので、刃文を採用いたしました。
上にも書きましたが、これだけの量の文章を、誤字を指摘できるほど読み込んでいただけるとは、感謝の極みです。
そんな気持ちで挑んだことがそもそもの間違いだったのだろうか……。
なんか、皆とは違う角度でこの作品を見てしまった気がする。
前口上はこのくらいにして、感想。
序盤で、これは面白そうだなぁと惹き込まれるも、2戦目のシミュレーションの所でだれ、それを引きずっていたのか、3戦目あたりがあまり楽しめなかった。
一言でいっちゃうと、くどい。ぶっちゃけこの次点では50、60点くらいだろうと思ってた。
しかし4戦目で再び油が注がれ、そこからは最後まで楽しむことができました。
でも、さすがに100点をつけるほどかといわれると、なかなか……。
なんの考えもなしに楽しんだら、100点つけてたのかなぁ?
パチュコンもどき→屯田への流れは近所迷惑になるほど笑わせていただきましたwやっぱりいい意味でお馬鹿すぎますですねー。いいぞもっとやれw
そして何よりもとんでもない程の博識と食材の無駄使い。キャッサバがががw
本当に紅魔館じゃなくて桃魔館でもいいと思います、良作乙です。
とりあえず、性教育はきちんとしとかないと。手遅れになったらやばいしw
止めるな、俺もハイタッチ決めてシュプレヒコールするぞ!
端々に埋め込まれたパワーを存分に堪能させて頂きました。満腹です。
期待通りの読み応えでした。非常に面白かったです。
6way老婆と迫り来る仁丹の波が幻視できる…!
「最初の実戦となるソビエトの襲撃」って……最初からそれってどんなマゾゲームだ。
素晴らしい作品をありがとうございます。
あんたは俺を殺す気か!(呼吸困難で
私は感動したのではない!! 貴方に無理やり屈服させられたのだ!!!
正面切って、素っ首叩き落されたのだ!! 捥ぎ取られた!! 首を捥ぎ取られたぞ!!
ええい、持っていけ!! 100点でも、200点でもくれてやる!! チクショウ!! 何なんだ?! 嬉しいけど悔しいぞ!! バカヤロー!!
優しさと激しさを併せ持つ環境大臣にヤラれました!!
ここまで変態的な(もちろん褒め言葉です)文章と紅魔館の面々が書けるとはw
待ってましたよ。
そして、文句なしの100点。
まさかぱちゅコンでここまで引っ張れるとは…。
やはり冬扇さんの紅魔館は最高だな。
酸欠とか嫉妬とか…
いや、ホント凄い。ここまでエキセントリックにキメながら、最後の着地が本当にキレイなこと…。感服にございます。
相変わらずの文章遊びセンスに僕はもうお腹一杯です!!
咲夜はまだアレがきてないのか!!YAHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
小ネタにも脱帽ですw
咲夜さん、咲夜さん、言葉はもうちょっとオブラートに包んで!
100点以上の評価があればと思わせる作品は本当に久しぶりでした。
「パチュ婚!」はどこで買えますか?
トンデンアーミー、素で面白そうなんでやってみたいなぁ。
耐え切れずに吹き出した回数を覚えていられませんでした。
小悪魔とゴーレムたちと咲夜さんがおりなす素晴らしい世界を垣間見たよ
妖忌、無茶しやがって
素晴らしい
そしてそこの変態二人組!自重なさいww
常に愉快に、ときおりレミリアの深慮を魅せつつ、やっぱりかわいいよフランちゃんうふふ。
脇3人の輝きっぷりも半端ではなかった。
最初から最後までクライマックスハイテンション。
そのなかでも特に来たのは、ぱちゅ婚と『となりの』でした。
怖いなあ『となりの』
特にパチェと美鈴のテンションの高さに腹筋がw
この桃魔館を探さざるを得ない
もう、楽をするためには手段を選ばないのか小町はw
解らない語句もぐぐって調べてしまうぐらい面白かったです。
いやあ、変態って、ほんとうに素晴らしいですね!
出番の少なかった子悪魔も壊れてそうだ
壊れた腹筋は、どこで直せばいいのでしょうか?
まさにその通りでした……申し訳ないです。紋じゃないと駄目だと思っていて知ったかぶって指摘してしまいました。ごめんなさい。
あと、ついでにもう一つ見つけてしまいました。
おそらく咲夜よってピアス自体は→咲夜によって、ですよね?
私は普段アホという言葉は「とてもすごい、すばらしい」という意味でしか使いません
もう一度言います、作者は史上最高のアホです
個人的にトンデンアーミーことぱちゅ墾はマジで売れるゲームじゃないのかと思えました。
ていうか、ぱちゅ墾!やりてえ!!
そして、瀟洒! クール! でも幼女!流石はメイド長だぜええ!!
後で幾度も読み返させて頂きます!
脱字を修正させていただきました。なくならない誤字脱字に、チェックの甘さと細部まで読んでいただけるありがたさを痛感しております。ご指摘ありがとうございました。
刃紋と刃文については、私もどちらにするか迷った記憶があります。紋の字は模様を表す漢字ですし、こちらの方がイメージしやすかったかもしれません。違和感なく読み進められることも、また重要だったかと考える機会となりました。こちらについても、ありがとうございました。
四季はなんと言うタイトルの本を出版してるんですか!
これだけの長さで最後までテンションを崩さなかったというのが何より素晴らしかったです。
幼女! 幼女! YES、幼女!
治りそうにないけどw
ぱちゅ墾!ほしいよぱちゅ墾!
最後綺麗に締めようとしてることに逆に吹いたw
こんなにキャラがきわだった紅魔館はみたことがないw
お嬢様ー!愛してるよー!
10点は次回への期待ということで…。
なんでしょうかねぇ、この腹筋と顔面と笑顔のトレーニング会場は…
ああ、素晴らしい。その言葉だけでいいや。
とても贅沢な作品でした。ここまでのことが思いつくなんて・・・「すごい」という言葉しか浮かんできません。
奇想天外な話の運び。マシンガンのような小ネタの嵐。存分に笑い、夢中で読ませていただきました。
文章も時に硬く、またある時は必要以上に柔らかく、最良と思える緩急の付け方には脱帽です。
唯一気になったのが、頻繁に地の文に挿入されるレミリアの一人称。ここは普通に三人称でも十分に通じるし、少し違和感が残ったので気になった。
しかし、誤差レベルで点数には影響なし。
また面白いのを書いてください。
超ごめんなさい。
あえて何か言うなら難しい漢字を排するか、逆に読み仮名を一切ふらない方がテンポよくなるような気がしました
ともかくあんた最高だ!
この絶妙な均衡がまた何とも。
そして最後は綺麗に締めてしまう。
言葉の魔術師とか言いようがありません。
貴方は最高だ!
盛大に笑わせていただきました
当然ながら満点をつけさせていただきますが誤字と思われる物を発見しました
>「素直は吸血鬼の美徳よ。余計な気をはまわさなくて良いからさっさとフランに言伝なさい」
→余計な気は
では無いでしょうか。
もうひとつあったのですが忘れてしまいました
ところでパチュ墾!はいつ発売ですか?
展開もハァハァで良かったですw
紅魔館の奇跡の無垢に栄光あれ。
誤字の指摘をありがとうございました。修正させていただきました。
もっとシッカリチェックしないといけませんね……。
変わらぬセンスに嫉妬するばかり。面白かったです。
俺たちの変態はこれからだ!
作者変態だろw
面白かった。
……素晴らしくてコメントが思いつかないので、点数で語らせていただきます。
なんという変態!
軽々しく言って良い言葉ではないが、天才を感じた
筆者さんはいい変態ですね
それだけで私はここに飛んでくる価値が生じるのです
例え試験当日で全く勉強していない今日という日であろうとも
事象ひとつひとつに対する描写の巧さにもう抱腹絶倒でした。
腹筋に対する言葉の暴力ですよ。ホントにww
点数も100点じゃ足りないくらいですよ。
>人は僅か40年でバニラシェイクを捨て、バリウムを愛飲するようになる。
この一節に出会うために、私は今日この作品を開いたに違いありません。
なんというか物書きとしてのスペックの差を思い知らされました。
筆を折って野に駆け出してもあなたがいればそれだけで満足です。
最初から最後まで、言い回しがハイセンス。
しかも途切れること無く腹筋を強襲してきやがりました。
もう感嘆するしかありません。貴方は天才か。
突っ込みきれない文章というものを初めて体感しました。
勢いの持続がすばらしかったです
色褪せることの無い傑作に惜しみない満点を。
これはいい桃魔館ですねw
なんてこったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
パチュ墾やりたいよパチュ墾
しっかしあなたの作品はどれも素晴らしいですね。
大好きですw
次回作も楽しみにしています。
次回作まってます!何年でも待てる!
どうしようもなく笑いっぱなしでしたよ
読むの止められないし、苦しかった~
だから私は変態になりたい…
なにこの変態っぷりなのにしっかりしたストーリー
2問目は黄昏に謝罪しろwwww
尻に
つつ
まれ
たい
アンタ俺の腹筋をどうするつもりだよぅ!!
才能の無駄遣い、だがそれが良いw
ナンバー12は瀟洒とばちぇ懇に捧げます
素晴らしかったです
申し訳ない
豊富な語彙と、それを軽妙に紡ぐあなたの頭脳と文才に脱帽です。
ところでパチュ墾はどこで売っていますか?1万ぐらいなら余裕で買えます。
僕もトンデンアーミーになりたい!
あんたらが軽く放った小石が、このカオスを引き起こしたんだぜ…
つまり、超グッジョブ。
笑いを超えて感動に至る文才だ。いつか私も…
次回作を心待ちにしています。
>「幼女! 幼女! YES、幼女!」
>「瀟洒! クール! でも幼女!」
ふいたwww
誰か一般人の立場からツッコんでやってくれw
変態ハートフル紅魔館はいいものですね。
どうやったらこんな文章が書けるんだ。
紅魔館の総力を挙げてパチュ墾の開発に取り掛かるべき
フイタwww
あと辞典で調べてみたんですが、ひょうきんって漢字逆なのでは?
>>あと辞典で調べてみたんですが、ひょうきんって漢字逆なのでは?
〝けいひょう〟と書いたつもりだったんですが、どちらにしろ間違ってました。正しくは軽剽ですね。ご指摘ありがとうございました。
修正の上、三越でキャッサバを買い求めてきます。
こんな昔の作品を評価いただき、かつ誤字まで潰していただけるとはありがたいことです。
剥き出しのキャッサバを小脇に抱えて中央通りをひた走る青果ランナーを見かけたら、沿道でバナナの葉でも振ってやってください。
やはり名作はいつまでも色褪せない、随分前に読んだのに、何回も読んだのに、何故こんなにも面白いんだ!
最高でしたww
これほんとすき
面白くて楽しめて、本当に素晴らしい。
ありがとうございます。