Coolier - 新生・東方創想話

炊飯器

2008/03/07 09:21:08
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 山の神社の朝の食卓。
 家事は三人で分担しており、今日の朝食の用意は諏訪子だった。
 ご飯に味噌汁、煮物に目玉焼き。
 ごく普通の食卓だったが…

「あのさ……」
「なんだい、諏訪子。深刻な顔して…」
「正直、私が言うべきことじゃないことは分かってる。
 ある意味、幻想郷に来たことを否定することになるから」
「…おだやかじゃないね、それは」
「諏訪子様?一体何を…」
「…炊飯器が欲しい」

「「はい?」」

「だから!朝起きて冷たい水でお米研いで、つきっきりでかまどの様子を見て!
 炊き上がったらおひつに移さなきゃなんないし、昼にはご飯が冷たくなってるし!
 朝起きたらご飯が炊けてて、保温ができる炊飯器が欲しいの!」
「あー…確かに、私らがこっちに来たことを、ある意味否定してるねぇ…」
 元々この三人は、科学が発達し、神が信仰されなくなった外界から越してきたわけだ。
 なのに、その科学を欲していては、それこそ自己否定みたいなものである。
「お気持ちは分かりますけど、炊飯器なんてこちらには無いと思いますよ?
 今、神社に引いてある電気だって、無理を言って河童の方々に作ってもらったものですし…」
 河に水車を複数設置して電力を発生させている、非常にエコロジーなシステムである。
 電力安定化装置は、にとりの自信作だそうな。
 電圧百ボルト、最低電流十五アンペア、六十ヘルツの西側仕様である。
 もっとも、家電品自体が殆ど無いので、せいぜい明かりぐらいにしか使われていないのだが。
「あーうー…さすがに無理かぁ…」
「大体、電気引いてるだけでもアレなんだから、そのぐらい我慢しな」
「でも、あると便利なんですよね…保温でお燗も手軽ですし。
 暖かいものをすぐに出せるのは、やはりありがたいです。
 あれば少しは宴会での仕事も減りますし…」
「…それを言われると、ちょっと辛いねぇ」
 二柱は必然的に宴会の中心になる。
 そのため、どうしても雑用は早苗の仕事になってしまう。
 椛やにとりが手伝ってくれるが、やはり結構な重労働だ。
「まあ、炊飯器ぐらいはいいかねぇ。
 いっそ私らが使い方を広めれば、機械の神としても信仰を集められるかもしれないしね」
「そうと決まれば、炊飯器を買いにいこう!」
「諏訪子、当てがあるのかい?」
「香霖堂!あそこのどっかに埋もれてるに違いないよ!」




 そしてやってきました香霖堂。
 諏訪子がドアを勢い良く開けて飛び込む。
「たのもー!」
「いらっしゃい、今日はみんなで何を探しに?」
「炊飯器です、こちらに置いていますか?」
「炊飯器か、それなら左手奥の方にいくつかあるよ。
 もしかして、使えるのかい?」
「そいつは見てみないと分からないねぇ」
 霖之助の言った場所には炊飯器が4つほどあった。
 しかし…
「どれどれー……あーうー、なんでガス式しかないのさ…」
「本当、見事なまでにガス式だけですね…」
「どうやら使えないみたいだね、ちょっと期待していたんだけど」
「生憎と、使うエネルギーが別物なんでねぇ。
 あんた以外に、こういう品物を扱ってるところはあるのかい?」
「無いだろうね。
 使い方の分からない道具なんて、誰も買わないから、商売にはならないよ」
「……さらっと自分の商売否定してんじゃないよ、まったく」
「はは、ごもっとも。
 ああ、貴方達なら、あそこで探してきてもいいんじゃないかな」
「あそこって?」
「無縁塚だよ。あそこは、外の品物が流れ着くことがあるんだ。
 僕もたまに探索してるよ」
「無縁塚というと、よく小町さんがサボってるところですね」
 既に小町=サボリの図式が、山の神社でも出来上がっているようである。
「決まったね!早速無縁塚にゴー!」
「すまないね、今度は何か買っていくよ」
「それじゃ、ありがとうございました、霖之助さん」
「向こうで何か珍しいものがあったら教えてもらえるかい?
 君らが知らないような物とか」
「ああ、見つけたら持って来るよ」
「神奈子ー、いくよー!」
「はいはい、慌てるんじゃないよ、まったく」
 三人はふわり、と浮き上がった。
「気をつけて」
 ぶんぶんと諏訪子が手を振りながら、飛び去っていく。
「さてと…」
 霖之助は筆を取り出して、炊飯器の品札に文字を付け加えた。
「『ガス式炊飯器』と。これでよし」




 三人は無縁塚に降りると、早速彼女を見つけた。
「なんていうかまぁ、閻魔様も可哀想に…」
「あーあ、よだれまで垂らしちゃって…」
「起こしましょうか?」
「放っておきな。そのうち上司が叩き起こすさ、文字通りにね」
「はぁ…」
 小町を放置して、三人はあたりを探してみることにした。

「あっ!」
「ありましたか?」
「ニュー○ァミコン!」
「ソフトもテレビも無いんだから捨てときな」
「ソフトもあった!」
「えっ、何何、何ですか?」
「た○しの挑戦状!」
「諏訪子、それはそっと戻しといてやれ…」

「あっ、炊飯器です!電気式の!」
「さすが早苗、どれどれ…」
 神奈子が取っ手を掴み、持ち上げると…
 
 ちゃぷん

「……」
「……」
「ねぇ、今、水の音したよね?」
「え、ええ…」
「…開けるかい?」
「やめとこ…」
 どうやら、中身入りで流れ着いた品らしい。
 さすがに中を見る勇気は、三人には無かった。

「お、こっちにもあったぞ」
「今度は大丈夫?」
「どら…」
 神奈子が持ち上げる。
 が、すぐに戻した。
「…明らかに、炊飯器だけの重さじゃない」
「やっぱり、そう良い状態の品物はありませんね…」
「見た目だけは美品なんだけどねー」
「まあ、気長にいこうかねぇ」


 しばらく探索するも、なかなか無事な物は見当たらない。
 きゃん
「ん…ああ、もう随分と時間が経ってたんだねぇ」
「閻魔様がしびれを切らすぐらいの時間は、ね」
「あはは…」
 閻魔様こと四季映姫は小町を叱っているようだった。
 小町がこちらをちらりと見る。
 その視線で、四季映姫も三人に気付いたようだ。
 小町の頭を勺でぺちんと叩くと、三人の方へ歩いてくる。
「こんにちは、今日はどうしてまたこんなところへ?」
「炊飯器を探しにねー」
「すいはんき、ですか?」
「はい、電気でご飯を自動的に炊いておいてくれる道具なんです」
「それは便利ですね。
 私も帰ってからご飯を炊くのが億劫で、つい外で…
 それで、その道具は見つかったんですか?」
「あーうー…見つかったといえば見つかってはいるんだけど…」
 諏訪子が見つめる先には、中身不明の炊飯器が五台。
「あれですか、どれどれ…」
「あっ…」
 ぱかっ
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 ぱたん
「…閻魔様、そう、あなたは少し迂闊すぎる…」
「反省します…」
 よりにもよって、水音のする炊飯器を開けてしまったようだ。
 四季映姫、涙目である。
「中身そのままで、こっちに流れ着いてるみたいなんです、どれも」
「それであのような惨状が…」
「ど、どんなだったの?」
「……すいません、気分が優れないので、これで……」
「あ、ああ、悪いね、止めるのが間に合わなくて…」
「いえ、自業自得です、それでは…」
 四季映姫は、ふらふらと飛びながら帰っていった。
「ものすごい破壊力みたいだね…」
「開けなくて良かったですね…」
「閻魔を撃退する程度の能力とはねぇ…」
 

 それからしばらく探索するも、まともな物は見つからなかった。
「もうそろそろ帰りましょうか?」
「そうだねぇ、さすがにくたびれたよ」
「結局使えそうな物は無しかぁ…。
 あ、あっちの背の高い草のとこはまだだっけ」
「そう焦らなくても、またしばらくしたら探しに来ればいいさ。
 そのうち使える物が流れ着くだろうしね」
 諏訪子はふわっと飛び上がり、上からざっと見回す。
 諏訪子とほぼ同じ身長の草が生い茂っており、何かが落ちていても見えそうにない。
「空からじゃ何にも見えないなぁ。
 ……!神奈子!早苗!」
「なんだい?見つかったのかい?」
「炊飯器じゃないけど、すごいのがあるよ!」
「一体何が…って、えええええええ!
 テレビでは見たことありますけど、何でこれが…」
「はぁー、こんなもんまで流れ着くのかい、ここは…」
「これを使えば、宴会は楽になるんじゃない?」
「確かにそうだねぇ…それに、インパクトは十分だ。
 よし、こいつを持って帰るとしようか」
「神奈子様、本気ですか!?」
「ああ、諏訪子、こいつと御柱を鉄の輪でくくりつけてくれるかい?」
「おっけー!」
「確かにご飯は炊けるし、煮物や汁物も作れるけど、これって…」





 その日の夜、さっそく宴会が行われた。
 目的は、無縁塚から持ち帰った物のお披露目だ。
「なんだかごっついのを持ってきたわねぇ」
「でも、なかなか格好いいじゃないか、私は嫌いじゃないぜ」
「霊夢、魔理沙、いらっしゃい」
「早苗、あれ、あんたの趣味?」
「いえ、神奈子様と諏訪子様がいたく気に入られて…」
「いつもながら、面白い神様だな」
「ええ、退屈はしませんよ。
 今回のは、ちょっとはしゃぎすぎな気はしますけど…」

「いやぁ、やっぱり便利なもんだねぇ、一気に二百人分作れるってのは」
「見た目にも何か強そうだしねー。
 それにしても、よく使い方知ってたね、神奈子」
「これでも軍神の端くれだよ、この程度は朝飯前さ」

 その見た目と相反して調理に使われるというそれは、なかなかに好評だった。
 それを使いこなす姿も、どうやら信仰の対象になりうるらしく、二柱は上機嫌だった。

「しかし、これは元々どこのどいつが使ってたんだ?
 幻想郷には、どう考えても似合わないぜ?」
「まあ、元々民間人が使うような物ではないですね…」
「ふーん、まあいいわ。
 炊き込み御飯も鍋物も美味しく出来てるみたいだし、早速食べましょうよ」
「そうだな、このごっつい奴で作った料理の味を見てみようぜ」
「ええ、一杯あるから、どんどん食べてください」









「…それにしても、これが無くなったら、外は大騒ぎな気がしますが…」
 早苗は、その機械に付いているプレートを見つめる。
 そこには、この機械の名前が書かれていた。




 【野外炊具1号】



*野外炊具1号に関しては、Wikipediaや陸上自衛隊のHPをご覧下さい*

二作目となります。前回評価いただいた方々、ありがとうございます。
そして、またこの一家です。大好きです、この三人。
何やってても楽しそうで。
感想、批評、ツッコミ等色々お待ちしております。
茶飲み人
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コメント



0.1420簡易評価
3.60☆月柳☆削除
炊きたてのご飯もいいけど、冷えても炒めたら美味しいからなぁ。
小ネタつきのほのぼの作品、なかなか楽しめました。
4.70名前が無い程度の能力削除
テラ自衛隊www
最後に笑わせてもらったwww
9.90名前が無い程度の能力削除
挑戦状はついに幻想郷に流れ着いたか。
11.70名前が無い程度の能力削除
野外炊具1号(改)になっちゃったせいで旧型が流れたのかな?
基地祭りではお世話になりました。
16.80名前が無い程度の能力削除
あの釜炊きが幻想入りするのは早すぎるwww
まぁ、実際だと2号の開発が盛んらしいので、本当に幻想入りするのは
間違いないかと。

あと地獄の釜を開けた映姫様、ご愁傷様です。つД`)
18.70三文字削除
やべ、冷蔵庫に放置してある弁当を思い出した……見るのが怖いよう、ママン。
というか、軍神だからってあれを使えるものなのかww
20.80#15削除
そうきましたか…。完全に予想外でしたよww
>炊飯器
たとえ腐っていても、本来入っているものならまだマシかと…。洒落にならないものが、入っていたなんて話もありますからね。ヤバイので深くは語りませんが…。
23.90名前が無い程度の能力削除
やっべ、知らなかった。こんなものがあったのかwww
つうか軍神だからって使えれ物でもないだろうこれはwww
閻魔様大変だったな・・・。迂闊にああいったものを開けてはいけません
28.60名前が無い程度の能力削除
オチには笑わせてもらいました、あれは祭り以外では使えないですね。三人分とかは無理か(某亡霊、宵闇等については責任を負いません)

しかし、以前山で捨てられていた炊飯器の中を見てしまった時を思い出してしまいましたよ。あの時の中身は(ピチューン
39.80リバースイム削除
炊飯器の中身はいったいどうなっていたのだ……w
さすが軍神だと感心して神奈子様への信仰が上がった。
42.100名前が無い程度の能力削除
まさに今東北で活躍中ですなw