博麗霊夢。
博麗の巫女で、何者に対しても平等に見ている。
表面上は普通だが、誰に対しても仲間や友人などとゆう目では見ていない。
そう言う意味では、幻想郷で一番冷酷な性格なのだろう。
少なくとも、博麗霊夢自身もそういう認識だった。
それでも。
最近になって博麗霊夢はその認識は揺らいでいると自覚してしまっている。
周りに集まる妖怪達があまりにも個性的すぎるからか、いつのまにか博麗霊夢は『平等』を捨てていた。
そう、捨ててしまっていた。博麗の巫女ともあろうものが。
それもこれも、きっと全ての原因は今からここに来る彼女にあるのだろう。
博麗霊夢にとっての同業者であり好敵手であり、『友人』である彼女に。
いつからあの白黒を『友人』だなんて思い始めたのか。
思い出せない。もしかしたら、出会ったその時からなのかもしれない。
博麗霊夢の、博麗霊夢らしさを奪っていくあの友人。
「待たせたな」
そうこう考えているうちに、白黒の友人、霧雨魔理沙は目の前に降り立った。
いつものホウキを片手に、いつもの笑顔だった。
「……じゃあとりあえず、お茶でも飲む?」
―――博麗霊夢は、私はそう切り出すと自分も持っていた竹ぼうきを近くの木に立てかけた。
毎週恒例になりつつある、魔理沙との手合せと言う名の弾幕ごっこ。その準備のために。
『友』愛
「相変わらず霊夢のお茶はおいしいな」
「その辺に売ってるただのパックだけどね」
「いや、うまいようまい。霊夢が淹れると違うなー」
毎回そういう魔理沙だが、別に嫌な気はしない。
友人が自分の淹れたお茶をおいしいと言ってくれるのは悪くはないし。
「それはそうと、今日はどんな魔法の実験台にしてくるのかしら?」
「実験台だなんて人聞きが悪いな。これはただの手合せだぜ?」
どうだか。と呟いて、私はお茶をひとすすり。
最近になって魔理沙が毎週うちに来る理由。それは手合せと言う名の弾幕ごっこと言う名の実験である。
魔理沙がいろいろと研究実験して作りだした魔法や、突然ひらめいた戦術を私で試すのだ。
どう考えてもそれは私を実験台にしている状態なんだけど、魔理沙は違うと言い張る。
それにしても、よくもまぁ飽きもせずに毎週毎週なにか思いつくことだ。とため息を漏らした。
「ため息をすると幸せが逃げるって言うぜ?」
「逃げるほど幸せなんてないわよ」
「暗いやつだな。まぁいいや。じゃ、そろそろやるか?」
お茶を最後にグイッと飲み干すと、魔理沙は自分のホウキを手にとって庭に出た。
既に神社周辺には大々的な結界を張ってある。入る事はできても出ることはできない。
これで少なくとも流れ弾の心配は無い。もちろん神社にも張ってあるので本気で暴れても問題は無い。
毎週繰り返しているこの行動も、最近はぱっぱとできるようになってきた。良い事なのか、悪い事なのか。
私も最後のお茶を飲み干すと、そのまま庭に出て行く。
「言うの忘れたが、さっきの私のお茶に茶柱が立ってたぜ。幸先いいな」
「そう。私も言うの忘れてたけど、茶柱たってたのよ」
魔理沙なりのけん制なのかもしれないけど、幼稚にもほどがある。
まぁ魔理沙らしいと言えば魔理沙らしいのかもしれないけど。
ニヤリと笑い飛び立つ魔理沙を見ながら、私はもう1度ため息をもらしてから飛びあがった。
鼻先をマスタースパークがかすめる。
これで2発目。
魔理沙が宣言したスペルカードは4枚だから残り2発。
そのうちの何発が『実験の成果』なのかは分からないので気にしない。
外れたというのに、魔理沙は楽しそうに笑っている。
レーザーが服をかすめる。
グレイズ。
グレイズ。
こちらもホーミングアミュレットで反撃。
避けられた。だけどそれはおとり。
すぐさまスペルカードを宣言する。
夢想封印。
ッ。避けられた。今日の魔理沙は早い。
レーザーがきた。グレイズ。グレイズ。
服の端が焦げて焼き切れた。今日の魔理沙は正確だ。
封魔針。封魔針。封魔針。
また、避けられた。
おかしい。いつもより魔理沙の動きがいい。
……いや、私の動きが悪い?
「ボーっとすんなよ! 愛符『H・マスタースパーク』!!」
魔理沙が笑っているような明るい顔で言っている。
愛符? 聞いたことが無いスペルカードだ。
H・マスタースパーク。魔理沙のことだ、ハイパーとかその辺だろう。
こっちに向かってくる極太のレーザー。
いつも通りのマスタースパーク。
だけど用心に越したことは無い。
最低限の動きで避け、極太レーザーから距離をとって私もスペルカードを取り出す。
これで3発目。残りは1枚。
「神霊『夢想封……」
「かかったな!」
え?
という間もなく、私は後ろから迫る圧倒的な『何か』の気配を感じる。
振り向かなくても分かる。あれは、マスタースパークだ。
今から避ける? 間に合わない。
ならばせめて真正面から受け止める。
クルリと振り返る。宣言しかけたスペルカードである程度の衝撃を緩和させる。
そこには、空中で突然曲がり、私に向かってくるマスタースパークが見えた。
あの極太レーザーを曲げるなんて。いや、曲げれるなんて。
次の瞬間、私の視界は真っ白になり、そして体は地面に向かって落ちて行くのが分かった。
あぁ、ため息をつくと幸せが逃げるってのは、本当なのかな。
そしてうっすらと見える空には。
赤くなりかけた夕方の空と、慌てた、まるで今にも泣きそうな顔で私に向かって飛んでくる魔理沙が見えた。
……自分でやっておいて、そんな顔しないでよ。
「……ん」
「あ!! れ、霊夢大丈夫か!? なにか異変ないか!? 記憶無くなってないか!? 血とか出てないか!?」
「……いきなりそんなに言われても、頭がおいつかないわよ」
気がつくと、私は自分の部屋で布団に寝ていて、その横で心配そうな顔で魔理沙が座っていた。
だから、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。これはお前がやったことだよと言ってあげたい。
「そ、それもそうだな。とりあえず、大丈夫か?」
「大丈夫……みたいね」
とりあえず上半身を起こして肩や腕を回してみる。違和感は無い。
服も特に異常は見られない。どうやら夢想封印は無事相殺の役割を果たしたようだ。
ふと開けられた襖から外を見ると空は真っ暗になっていた。どうも、けっこうな時間を寝ていたみたいだ。
「それにしても、あれが今回の見せたかったもの?」
「え?」
「愛符……H・マスタースパークだっけ?」
「あ、あぁ」
やっぱりか。むしろあれじゃなかったら今日見せたかったものを見てやれなくて申し訳ない気持ちになるところだったけど。
それにしても、恋符の上位が愛符……ね。恋符やら愛符やら魔理沙も女の子みたいな事を考えてるのね。
「よくあんなもの曲げれるわね。しかも私の方に向けて」
「いや、曲がった方向に霊夢がいたのは偶然だ。ただ私は空中に新しい魔法を仕掛けただけさ」
「新しい魔法?」
「そう。簡単に言うと魔法を反射する鏡を設置したようなもんだ」
その後なにか詳しい事を説明してくれたけど、正直私にはほとんど理解できなかった。
とりあえず理解できたのは、その反射できる魔法は自分に近いものだけで、
用はその魔法は自分の魔法にしか反応しない鏡らしい。
「始めは失敗作だと思ったんだけどな。よく考えたらなにかに利用できると思って使ってみたんだ」
「で、見事成功したと。すごいじゃない」
「いや、それほどでもないって。この魔法使うまでけっこう集中しなきゃいけないし、どこに設置したか見にくいからなー」
それでも、魔理沙はすごいと私は思う。
魔理沙は努力型の人間で、私は天才型の人間だと、前に咲夜が言っていた。
本人はそんな努力している姿を他人に知られるのを嫌っているみたいだけど、みんな分かっている。
分かっているからこそ、魔理沙が楽しそうに弾幕ごっこをしているのを見ていると、私は胸がチクリと痛む。
咲夜は、魔理沙を努力型で、私を天才型と言っていた。
だけど、私はそれは違うと思っている。
魔理沙は努力の天才で、私は、天才でも無いし努力もしないただの人間だ。
「はぁ……なんだか差をつけられたわね」
「はぁ? なに言ってんだ急に」
「私はまだ1枚スペルカード残っていたのに、意識を失って負けたのよ? しかもその前の1枚もあなたの新しいスペルカードの相殺に使った。ぼろ負けもいいとこじゃない」
これが、私と魔理沙の差なのだろう。
私は努力が報われるなんて思った事が無い。こんなに近くで魔理沙の姿を見ているのに。
いや違う。魔理沙を見ているからこそ、私には無理なんだと思っているんだ。
「……いや、あれは不意打ちみたいなもんだったしな。実戦向きじゃないし、もう使わない」
「…………」
こういう魔理沙の中途半端な慰めが逆にイラつく。
魔理沙は勝ったんだから素直に喜べばいいのに。けなせばいいのに。
……失望すればいいのに。相手にならないって、思えばいいのに。
そうすれば、私はこんななんだか分からない気持ちをすることもないのに。
なんて、人のせいにしている自分がもう嫌いになってきた。
「……どっちにしろ、もう十分でしょ? 私じゃもうあなたの相手は無理よ。アリスあたりにでも」
「なっ!! も、もしかして怒ってるのか!? なにに怒って……ってあぁ直撃させちゃたしなぁ。でもあれは霊夢にどうしても見せたくて……あぁ!」
なぜか急に、魔理沙が情緒不安定になった。
オロオロと私と天井と外と私の後ろのタンスに目を回している。
一体どうしたんだろうか。
「ちょ、ちょっと。なによ急に」
「だ、だって霊夢が……もう、私の相手するのは嫌なの?」
なぜか魔理沙は涙目で私を見ている。
確かに私が言った言葉はそういう意味なのだろうけど、普通逆だろう。
普通は魔理沙が私の相手をするのが嫌になるはずでしょ?
「いや、逆じゃない? 魔理沙と私なんかじゃ力に差がありすぎるから、魔理沙が迷惑じゃないかって私は」
「迷惑じゃない!! 全ッ然迷惑じゃない!!!」
私の言葉に、魔理沙は興奮しながら立ち上がった。
顔を真っ赤にさせながら、涙目で私を見ている。
「今までだって、今日のだって全部霊夢と手合せしてて思いついたり、どうやったら霊夢に勝てるかを考えて、考え抜いてできたものなんだ!
それに今日のあ、愛符だって、霊夢のホーミングする弾幕見て思いついたスペルカードだし! あ、後はえっと……」
「…………」
私は、唖然とした。
あの魔理沙が、声を荒げて顔を真っ赤にして身振り手振りで何か言っている。
何かというのは失礼かもしれないけれど、しょうがない。私にはほとんど内容が頭に入ってこなかったのだから。
魔理沙は、そこまで私の事を考えていてくれていた。
私はこれまでの私から、友人を作るなんて不自然で、他人と近づくなんて不自然で。だなんて思っていて、今さっきだって小さな嫌悪を向けていたのに。
「それに、霊夢の力と私の力に差があるなんてあるわけない! 霊夢はちゃんとした異変の時はすごいのに、こういう遊びの弾幕ごっこの時は本気だしてないからで!!
あ、今のは非難してるわけじゃないくてね!? とにかく、私にとって霊夢は目標なんだ! 霊夢を見てるから私はがんばれるんだよ!!」
まだ魔理沙が何か言っている。
私は、魔理沙が私に失望すればいいのにと、相手にならない格下だと思えばいいのにと。そう考えていた。
それを口に出していたら、魔理沙はもしかしたら怒っていたんじゃないかとか、そう思えた。
「『H・マスタースパーク』だって、えっと、その、これは霊夢のスペカを参考にしたから名前を借りたスペルカードだし……」
「私、の?」
「そ、そう。その……ハ、『ハクレイ・マスタースパーク』って……」
顔を真っ赤にした魔理沙が、しおしおと、ぺたりと座りこんだ。
……ハイパーじゃなかったのか。どっちにしろ、魔理沙らしいと言えば、魔理沙らしい。
「……いいの?」
「え?」
思わず、私は口から零れていた。
いいの? 私は、平等じゃなくていいの?
昔みたいな博麗霊夢じゃなくても、いいの?
向上心もない、冷たい私が、あなたを『友達』だなって、呼んでいいの?
「……バカ言うなよ」
魔理沙は、呆れたような顔で私にすっと右手を差し出した。
私の視線は、おそるおそる魔理沙に向けられた。
「私達は、その…………うん。『親友』じゃなかったのか?」
「『親友』……」
なんだか、むずかゆかった。
でも、その言葉で私の中に渦巻いていた何かは吹き飛んだ。そんな気がした。
「……また、これからも邪魔していいか? その、『手合せ』、したいから」
「……『手合せ』じゃなくて、『実験』じゃないの?」
きっと私は笑っている。
「……実験なんて人聞きが悪いな。これは、ただの弾幕ごっこだぜ?」
だって、魔理沙も笑っているから。
「……どうだか」
そう言って私は、魔理沙の差し出している右手を、自分の右手で固く固く握りしめた。
「でもちょっと物足りないのは物足りないから、異変の時みたいな気合を少しは出してくれよ?」
「そうね……魔理沙がなにか悪さをすれば、出せるかもしれないわ。ちょっと人里襲ってきてよ」
「で、できるわけないだろ!! 無茶言わないでくれよ」
「そうかしら? だったらまぁ、今後もぼちぼちでやらしてもらうわ」
「う~……まぁ、その場合は私が圧倒的な力で霊夢に勝つだけだけどな」
「あら、言うわね。だったら次は本気でいかせてもらうわよ? 『本気』で」
「あー……ぜ、前言撤回、とか」
こんな霊夢も大好きです。
あ、あと僕も霊夢は鈍感だと思います。
こんなマリレイが大好きです。
難を言えば読み手を選びそうな内容だけど、自分は好きですよ。
やっぱり魔理沙は乙女で単純で良い子だ
B面も見てきます。