【御注意】
本品、「いわゆるオリキャラで正面から弾幕勝負」という、大物地雷を踏んでおります。その他原作の文脈の読み替え等、マニアックな地雷もいくばくか。
二次創作たる物、原作の魅力をこそ第一に引き出せなければ存在意義などございません。この実験作、果たしてどこまでいけまするやら。
大変恐縮ながら、安心な娯楽をお好みの方にはいささかお奨めいたしかねる旨、自覚を以ってここに一筆つかまつる次第。
エェ、この度はお引き立てに預かりまして、おありがとうございます。
なにぶん素人芸にてご不安かも判りませんが、これこうして座に登りましたる上は、きっちりお楽しみいただけますよう相勤めますゆえ、ちょいとばっかしとちりましても、花の笑み零れるが如く、笑って許していただければとか、エェ、まぁ、そのね。あっはっは。これはごまかし笑い。生あったかいのとか生ぬるいのとかは、なにとぞご勘弁願えると。
ですが、風や水があったかくなる、ぬるくなる、ってな、なんとも楽しみなものでございますな。どじょっこだのふなっこだの、めだかの学校ももうすぐです。そんなのもう見らンないだろうって? いえいえ、そこは幻想郷。今までもこれからも、決してそんなことはございますまい。
これからお話しいたしますのは、そんな幻想郷のそんな頃合のこと。ところはお馴染み、そのお役目よりもむしろ貧乏で音に聞こゆる博麗神社。
や、貧乏てのもこれで案外悪いもんじゃァござんせんよ。無くすもんが無きゃその分怖いもの無し。余計な娯楽の余裕も無けりゃァ、悪さなんかできゃしません。せいぜい庭ぼーっと眺めてるくらい。さすればアレですよ。春はあけぼの夏は夜、秋は夕暮れ冬はつとめて、って調子でね。雅心も板に付き、風流風狂の境地にも至ろうというもの。
最も、それが幸せかどうかァ別ですがね。あたしゃひもじいのァ勘弁だなァ。件のお社は食うにゃァ困んない程度のようで、全く以って羨ましい限り。できるもんなら変わって欲しいや。
ところがどっこい、お社にご奉仕なすってる霊夢さんは、いたくご不満のご様子。たらたらこぼしておいでになるのは、どんな愚痴かと申しますと……
いざいざ、ご傾聴ご傾聴──
* *
「私はね? 独り静かにお茶を楽しみたいワケなのよ」
と、仰せなのでありました。
流れる黒髪を朱のおリボンでまとめておいでなのはいつもどおり。ちょいと寝とぼけたようなお顔が妙にお似合いで愛らしいお人なのですが、憂い顔もまた麗しく、月明かりに佇む苧環(おだまき)のごとく。
もっとも、今ァ憂い顔ってよりゃむくれ顔ですがね。例えるなら……そうですなァ、豆大福とか。
啓蟄上巳ももう近く。まだ風が吹けば肌寒くはございますが、今日はぽかぽかといい陽気。一つ縁側でお茶でも、という気分にもなりましょう。
「それもいいよね。でもさ。春風の中で注しつ注されつ、ってのも乙だよ? ままま一杯」
小町娘を袖引く優男のごとく、すすすと近寄る一升瓶。狙われた湯呑はと言やァ、アレお前様いけませぬェとばかりにそそそと逃げる。縁側に仲良く並んで腰掛けた膝の上にて、にわか小芝居上演中。
「止めろっつの」
「結構美味しいんだってば。緑茶割り」
湯呑の黒子はもちろん霊夢さん。一升瓶の黒子はこれまたご存知、ちっちゃな底無し大酒樽、伊吹萃香さん。立派な角で摺り寄るも、その角をば掴まれて敢え無く押し戻されてしまうのでありました。
「やーめーてーってば! 角!」
「なら大人しくしてなさいよ。大体ねぇ。瓢箪持って来てるくせにうちのお神酒抱え込んでるってどうなのよ」
「え。だってこれも美味しいし。美味しいから。ほら。緑茶割り」
「あーっ!?」
湯呑にばっかり気が向いてて、急須がお留守。親御さんから篭絡にかかって見事に仕留めた恰好ですな。こりゃ。
「あんたっ! なんてことすンのっ!」
「いーじゃん、どうせもう出涸らしでしょー? 次で六回目」
「五分くらい置いとけばまだ出たのに……」
ま、貧乏してますからな。しみったれとか言っちゃァいけません。
豆大福が焼き過ぎたお餅みたいになりました。霊夢さん、ふくれっつらで急須と、油断無く湯呑を持ってお勝手へ向わんとしますが、今度の舞台は貫一お宮。萃香さん、スカートの裾にすがりつきます。
「やーん、もったいないよぅ。お米さんとお百姓さんと杜氏屋さんに祟られるよっ!?」
「なによ、杜氏屋さんて……もう!」
ぶすっとしながらも湯飲みを据えて、急須から注いでやります。出涸らしだもんで、ちょいとばっかし萎れた茶っ葉が混じったくらいですか。ま、ここが霊夢さんの貫一とは少々違うところですな。
さて、お勝手でよぅく洗って匂いを取って、葉っぱを入れ替えて。たっぷり入る鉄瓶の中は、幸いまだ冷めておりませんでした。とっとっと、と注いだ後は、水を足して自在鉤に戻しておきます。さすがに湯呑の予備くらいはございますので、適当に一つ。渋く出過ぎないか気にしながら縁側に戻ってみまするとそこにはなんと。
「えー。やっぱこの場合、間接ちゅーはわたしとでしょ」
「だってずっと霊夢が飲んでたんでしょ? 玉の緒(たまのお)と分霊(わけみたま)の濃さが違うわよ。濃さが」
「それじゃわたしのこの愛らしい唇はどうなるのさー」
「それはほら。オマケ? おにぎりのおしんこ、カレーの福神漬」
「納得いかなーい! あ。霊夢。霊夢はどう思う? 一つの湯呑を三人で回した時の間接ちゅーのあり方について」
とうに一升瓶は済ませてしまい、自前の瓢箪を呷りながらご機嫌の萃香さん。それと並んで、さっきまで霊夢さんが座っていたお座布団に、お邪魔虫がもう一人。厄神の鍵山雛さんがお出でになっておりました。
相変わらず、こってり風味のお洋服がお似合いです。霊夢さんが紅白なら雛さんは黒赤。おリボンもフリルも二割り増しくらい、ってトコですかね。紅魔館のお歴々同様、いかにも落っことしたらはらりと割れちゃいそうな、華奢なお紅茶のカップなんぞがしっくり馴染むのでございましょうが、今は無骨な湯呑を両の白いお手々で抱えておいでです。
「酔っ払いにツッコんでも無駄だろうけどさー。どーゆー話してンのよ。昼間っから」
場所取り返す気力も失せて、思わず隣でどっかりあぐらを掻いてしまった霊夢さん。格好だけならむしろこっちが酔っ払いな風情。
「間接ちゅーの深遠なる真理について!」
やけに嬉しそうに萃香さんが声を張り上げましたが、雛さんの方は至ってあっさり。その様、流しそうめんの如く。
「ところで霊夢。白酒はないの? そっちの方が好みなんだけど。わたし」
* *
さて。突然で恐縮ですが、ところは変わりまして空の上。どのくらい上かってェと、およそ三千三百三十三尺。ほんとは三万三千三百三十三尺辺りでなきゃいけませんから、掛け値なしの危機一髪、絶体絶命大ピンチ。
無体な風にまとわりつかれてボロボロです。尾翼は水平垂直もろともにもげてしかも片肺飛行。燃料なんてだだ漏れで、残った肺もそろそろ止まるでしょう。満足に舵の取れぬ機体を、風は容赦なく小突き回します。
しかも風は二つ。叩き落そうとするのと、付き飛ばそうとするのと。互いの力が伯仲しているがゆえに、なんとか持ち堪えてるってとこでしょうか。
機内は上へ下への大騒ぎ。その有様をお話しするだけで一席丸々ぶてそうですが、まぁ、そりゃ置いときましょう。後で航空パニック映画でも見といていただければよろしい。
外せないのはただお一人。宛がわれた個室でシートベルトをしっかり結わえ、じっと耐えておいでの老婦人でございます。
ぱっと見、気難しい方と察せられます。般若の面のように凝り固まったお顔は、こんな時でも揺るぎはしません。大騒ぎなのは、とうに中身をばら撒いちまった使い捨てのコーヒーカップ、それから機内放送で響く怒号だけ。
ご婦人、そんな騒ぎなど馬耳東風の面持ちで、座席の横の窓から暴れまわる外の景色を見ております。うっかりすると、緑の地表が彼方の正面に見えたりも。
そして機内放送は一向、個室でVIP扱いのご婦人に、気遣いの声をかけることはないのでありました。
やがてほんの一瞬だけ、叩き落そうとする風の力が勝りました。こいつは言うなれば背負い投げ。相手の勢いを引っ捉えて叩き付けます。
それは、博麗大結界を突き抜けるのに、充分な威力を持っていたのでありました。
* *
さてまた幕は変わりまして、つい先ほどまで麗らかだった幻想郷の空。春のそよ風に片ひじ突いて立膝という、地味な至芸を披露しながらこっくりこっくり居眠りをしておりましたのは、幻想郷津々浦々、真贋清濁ごった混ぜの太っ腹でお馴染み、我らが文々。新聞筆頭、天狗の射命丸文さん。
耳慣れぬ轟音と急な風の乱れに眼を覚ましました。見やればなにやら、辛うじて鳥のような形をした、大きなものが頭の遥か上を。
幻想郷には珍しく、実際的、実践的なる実務家肌。看板二枚もしょってるせいもありましょうな。早速、頭の中で駒をもてあそび始めます。
この距離でも肌にぴりりと来るような大物の風二つ。結界破りでもしなきゃァあるはずなさそうな物が一つ。これで、こちらの大駒がいくつか動くのは必定。何かあっても綺麗に片付くでしょう。さすれば、どう噛めば美味しいかだけ考えればよし。
ちょいと思案の末、今回は新聞記者の名詞を出す事にしたようです。愛用の帳面をしっかりしまいなおすと、濡羽玉(ぬばたま)の闇麗しき翼に合わせ、天狗の葉団扇をばひと打ち。風を巻いて翔けてゆきます。
ところがこの風ども、思ったよりは喰えない様子。すぐには追いつけません。俄然興味が募ったところに、魔法使いが箒を横付けしてまいりました。泣く子も黙る押し込み強盗、お勝手御免が箒で風切って飛び回る、これぞ霧雨魔理沙さん。相変わらず、はためくスカートからちらちら覗くペチコートが魅惑的です。
「よ。ガセブン屋」
「いきなりそれ?」
「なんだいありゃ? デカいな」
「いやー。役に立つ話なんて持ち合わせが。なにしろガセブン屋ですから」
「謝るよ」
気持ちなんかさっぱりこもってないのが丸わかりの軽口。いっそすがすがしいくらい。 文さんの方も心得たもので、肩一つすくめて済ませました。
「『外』の『飛行機』ってやつですかね。その箒とは別系で生まれた後継。ソースは八雲一家」
「へ~。そりゃ面白そうだ」
「……って慧音さんが言ってた」
「あいつも勉強熱心だね」
「っててゐちゃんが言ってた」
「なんだそりゃぁ」
「ま、ガセブン屋の言う事ですから?」
根に持つんですよねぇ。烏って。負けを悟って顔に出た魔理沙さんに、文さん、賭けを持ちかけました。
「どうせちょっかい出しに行くんでしょう。どうです。競争しませんか」
「へぇ?」
「先に回り込めた方が取材できる、負けたら邪魔しないってことで」
「おっ。いいねぇ」
餌選びを間違わなければ簡単至極。皆さんも今度、試してみるとよろしいでしょう。後でマスタースパークでこんがり焼かれても知りませんが。
「カウントはわたしでいいですか?」
「構わないさ」
そうこうするうちにも、距離は引き離されております。
「位置について。よ~い、どん!」
八卦炉出力全開、出だしから魔理沙さんぶっちぎり。それもそのはず、文さんがやったのは、隣の箒がすっ飛び出す寸前に穂先を握るだけでしたから。
「っひょー! 最高!」
やけに箒の調子がよくて、ここしばらくで最高の飛び具合、喜び具合。実態は、ぶら下がってる文さんが気付かれない程度に団扇を扇いでちょっぴり上乗せしてるからなんですが。
そろそろ、闖入者の鼻先です。上下左右にがっくんがっくん、およそ優雅とは言えない飛び様。
「なんだ、図体ばっかでみっともないぜ」
これでも、結界を抜ける前よりゃだいぶ落ち着いてきたんですがね。風が喧嘩するの止めたからなんですが。
さぁ、いよいよ鼻先回りこんで相手の頭を押さえる位置。文さん、大きくひと扇ぎ。
「うぉっと」
魔理沙さんが崩れた姿勢を慌てて立て直そうとする隙を狙い、大車輪でその肩に着地。踏み台にして華麗にひらり。
「ごめんなさいね。はい、一等」
「んなっ!? なんだそれ!」
「自力で飛べってレギュレーションしませんでしたから」
「納得いかねー!! 十二支決めてんじゃねーんだぜ!?」
「はいはい、なんとでも。じゃ、約束どおり黙っててくださいね」
「もが」
文さん、箒を乗っ取って魔理沙さんを腰掛にしてしまいました。
「速度と舵はそのままで」
「るせーよ! このなに気にデカいケツどけやg」
嘴ならぬ矢立で頭を連続突き。魔理沙さん、さすがに涙目で黙ります。ようやく、ご対面となりました。
「どうも! 幻想郷へようこそ! 結構盛大に検問破りしてるみたいですが、そこらへんいかがですか!」
見えてる相手がデカいんで、つい声も大きくなりがち。風はしばらく黙っていましたが、ふいに、姿を現しました。間近で見る雲のように白く透き通った、巨大な天馬。どのくらいかってェと、機体と同じくらい。それが二頭。並んで翼を差し伸べ、雷鳴のごとく蹄を響かせ、空を疾駆しております。
「おや、いきなり威嚇? 案外アタマ悪そうですね」
本音駄々漏れのつまらなそうな挑発に、二頭の馬は相和していななき返します。
「お前ははみを持っているな」「お前はあぶみを持っているな」
「それを咬まそうというのか?」「それを結わえようというのか?」
「そうですねぇ……失礼ながら初対面ゆえ、そもそも鞍を置く価値があるかどうかわかりませんね。とっとと馬刺しにした方がよっぽど有益なこともあります。それに、」
こう、懐から取り出しましたる写真機をば、自慢げに見せびらかしまして。
「裸馬ってのも中々魅力的な被写体です。モノによりますが」
天馬は姿を消しました。一際強く、風が轟と吹きすさびます。
そうして眼前に現れましたのは、双子とおぼしき姉妹でありました。それがまた、なんともみすぼらしい有様で。つやの無い髪は灰色でばさばさ、顔も手足も黄色くむくみ気味。まとっているのもどうにも、煤けた襤褸としか言い様が。そんな中で瞳だけが、炯々と輝いております。こりゃぁ子供の鬼婆か。すえた臭いがこちらまで漂ってきそうな有様で。
「被写体は無理ね」「ご覧の通り」
「馬刺し覚悟ね」「仕方ないね」
「その前に蹴り殺すけど」「そして踏み殺すけど」
「おや。はみとあぶみは無しですか」
「それが示されたさだめだから」「そして選び取ったさだめだから」
「そりゃご無礼申し上げました。ですが、それじゃぁなんでこんな鳥篭の中に?」
「泥中に蓮が一輪」「咲いたのに埋もれたの」
「わたしは髪に飾ろうと思った」「わたしは素敵な花瓶に活けようと思った」
「今日、丁度良かったから決着をつけたの」「わたしの勝ち。だから来たの」
「せっかくだからついでに一風呂」「そうね。浴びたい。社に巫女がいるでしょう」
「止める?」「邪魔する?」
「取引ですね」
さらさらさらりと聞き取りに加え二、三の覚書を書きとめた文さん。ここから内緒話とばかり、指変わりの鉛筆を逆さに口元に立て、にやっと笑います。
「お名前を、伺えますか?」
双子の風は、しばし黙りこくりました。
「さぁさぁ、お名前を。どうしました」
「エルニーニョ」「ラニーニャ」
「嘘おっしゃい。あなた達、そんなに湿気ってないじゃないですか」
「駄目かにょ」「ドケチにゅ」
「……でじとかぷちとか言い出したら即刻馬刺しですんで」
双子、おもむろに引っ張っていた機体を少しづつ前に送り出し始めました。満身創痍、塗装ズタズタ、ある種の凄みがございます。
「はみを掴む奴には教えるわけにいかない」「あぶみを踏む奴には教えるわけにいかない」
「結構」
しかし文さん、余裕綽々。一段落したと見た魔理沙さん、勇んで口を挟みます。
「ようし、ダブルスだな? 景気良くカッ飛ばすぜ」
「あなた、庭球のルール知ってます? くすぐったいんだから黙っててくださいよ」
「ならどけろよ、このケぁいててててててててっ!」
地獄突き再び。気の済むように突っ突き倒してから、文さんようやく、自分の翼で風に乗りました。
「紅いぐうたらと青い風祝、さぁどっち」
「紅」「紅」
「おや、即答」
「はみもあぶみも嫌だから」「水入らずの所にスジを通すの面倒」
「じゃ、今日の日和なら、巫女は社でぐだぐだしてるでしょう。ただ、そのデカブツがあんまり迷惑にならないようにしないと、怒られると思いますよ。こっぴどくね」
双子の風はこっくりうなづき、進路をお社の方に向け、機体をガンガン小突き回しながら高度を下げ始めました。場所はとうにご存知の様子。
「なんだよ、素通しかぁ?」
魔理沙さん、とんがり帽子を直しながらブーイング。しかし文さんはどこ吹く風。自分と魔理沙さんを小さなつむじ風に乗っけて、道を開けます。
「素直に名乗ったら、あなたに手伝って貰って馬刺しにしようと思ったんですけどね」
「おいおい。そりゃ逆だろう」
「いいんです。だって、大人しくお手をする野生馬なんて、みっともなくて許せないじゃないですか」
* *
で、件のお社の方ですが。
結界を抜かれた瞬間、霊夢さんが盛大にお茶を吹いておりました。抜かれたために、毒毛虫が四、五匹脊髄の中を這い回ったような感触に襲われたからで。
げっはげっほ咳き込む霊夢さんに、萃香さん、陽気に声をかけます。
「え? それなんて芸?」
すっかりお花見気分。確かに梅も、これでなかなか見ごたえがございますからな。
「違うわよっ……何か、『外』から無理に抜けて来たわ」
少々、真面目なお顔に。
「上の方からって何事よ」
「やった、宴会だ!」
萃香さん早速、勝手知ったる他人の家に上がり込み、次の一升瓶の物色に掛かります。一方雛さんなんですが……これがまた、心底嬉しそ───に、不気味な笑みをにたぁりと。
「来たのね」
「……何? あんたの仕業?」
「違うわ。朝から感じていただけ。すごいのよ。とびっきりよ」
にまにまにまにま、笑いが止まりません。チェシャ猫って、こんな感じですかねぇ。対する霊夢さん、渋───いお顔に。
「あのねぇ。わかってたんなら教えなさいよ。ここに来るの?」
「ううん。裏の向こうの河原。少し撒いて来たから引き寄せられるはずよ」
雛さんが言うんですからもちろん、撒いて来たのは厄ですな。
「親戚でも来るの? それとも貧乏神かなにか?」
霊夢さん、お靴の紐を結んでお出かけ準備完了。
「知らない。でも相当溜め込んでるわよ。そ・う・と・う・ね☆」
「いいねいいね。楽しみだねぇ」
戻って参りました。萃香さん、奪ったお宝抱えて意気揚々。
「いこいこ! 早く行こう!」
「……せめて一本にしてくれない?」
「いいじゃん。どうせみんなで宴会するんだし。霊夢も呑めるよ?」
「しないっつの」
「大丈夫。霊夢がやんなくてもあたしが開くから」
エェ、まぁ、ね。この手の事で、のんべに何言ったって無駄でございます。かくして三羽烏、そろそろ見え始めた機影に向って、飛び立ったのでありました。
* *
【続く】
本品、「いわゆるオリキャラで正面から弾幕勝負」という、大物地雷を踏んでおります。その他原作の文脈の読み替え等、マニアックな地雷もいくばくか。
二次創作たる物、原作の魅力をこそ第一に引き出せなければ存在意義などございません。この実験作、果たしてどこまでいけまするやら。
大変恐縮ながら、安心な娯楽をお好みの方にはいささかお奨めいたしかねる旨、自覚を以ってここに一筆つかまつる次第。
エェ、この度はお引き立てに預かりまして、おありがとうございます。
なにぶん素人芸にてご不安かも判りませんが、これこうして座に登りましたる上は、きっちりお楽しみいただけますよう相勤めますゆえ、ちょいとばっかしとちりましても、花の笑み零れるが如く、笑って許していただければとか、エェ、まぁ、そのね。あっはっは。これはごまかし笑い。生あったかいのとか生ぬるいのとかは、なにとぞご勘弁願えると。
ですが、風や水があったかくなる、ぬるくなる、ってな、なんとも楽しみなものでございますな。どじょっこだのふなっこだの、めだかの学校ももうすぐです。そんなのもう見らンないだろうって? いえいえ、そこは幻想郷。今までもこれからも、決してそんなことはございますまい。
これからお話しいたしますのは、そんな幻想郷のそんな頃合のこと。ところはお馴染み、そのお役目よりもむしろ貧乏で音に聞こゆる博麗神社。
や、貧乏てのもこれで案外悪いもんじゃァござんせんよ。無くすもんが無きゃその分怖いもの無し。余計な娯楽の余裕も無けりゃァ、悪さなんかできゃしません。せいぜい庭ぼーっと眺めてるくらい。さすればアレですよ。春はあけぼの夏は夜、秋は夕暮れ冬はつとめて、って調子でね。雅心も板に付き、風流風狂の境地にも至ろうというもの。
最も、それが幸せかどうかァ別ですがね。あたしゃひもじいのァ勘弁だなァ。件のお社は食うにゃァ困んない程度のようで、全く以って羨ましい限り。できるもんなら変わって欲しいや。
ところがどっこい、お社にご奉仕なすってる霊夢さんは、いたくご不満のご様子。たらたらこぼしておいでになるのは、どんな愚痴かと申しますと……
いざいざ、ご傾聴ご傾聴──
* *
「私はね? 独り静かにお茶を楽しみたいワケなのよ」
と、仰せなのでありました。
流れる黒髪を朱のおリボンでまとめておいでなのはいつもどおり。ちょいと寝とぼけたようなお顔が妙にお似合いで愛らしいお人なのですが、憂い顔もまた麗しく、月明かりに佇む苧環(おだまき)のごとく。
もっとも、今ァ憂い顔ってよりゃむくれ顔ですがね。例えるなら……そうですなァ、豆大福とか。
啓蟄上巳ももう近く。まだ風が吹けば肌寒くはございますが、今日はぽかぽかといい陽気。一つ縁側でお茶でも、という気分にもなりましょう。
「それもいいよね。でもさ。春風の中で注しつ注されつ、ってのも乙だよ? ままま一杯」
小町娘を袖引く優男のごとく、すすすと近寄る一升瓶。狙われた湯呑はと言やァ、アレお前様いけませぬェとばかりにそそそと逃げる。縁側に仲良く並んで腰掛けた膝の上にて、にわか小芝居上演中。
「止めろっつの」
「結構美味しいんだってば。緑茶割り」
湯呑の黒子はもちろん霊夢さん。一升瓶の黒子はこれまたご存知、ちっちゃな底無し大酒樽、伊吹萃香さん。立派な角で摺り寄るも、その角をば掴まれて敢え無く押し戻されてしまうのでありました。
「やーめーてーってば! 角!」
「なら大人しくしてなさいよ。大体ねぇ。瓢箪持って来てるくせにうちのお神酒抱え込んでるってどうなのよ」
「え。だってこれも美味しいし。美味しいから。ほら。緑茶割り」
「あーっ!?」
湯呑にばっかり気が向いてて、急須がお留守。親御さんから篭絡にかかって見事に仕留めた恰好ですな。こりゃ。
「あんたっ! なんてことすンのっ!」
「いーじゃん、どうせもう出涸らしでしょー? 次で六回目」
「五分くらい置いとけばまだ出たのに……」
ま、貧乏してますからな。しみったれとか言っちゃァいけません。
豆大福が焼き過ぎたお餅みたいになりました。霊夢さん、ふくれっつらで急須と、油断無く湯呑を持ってお勝手へ向わんとしますが、今度の舞台は貫一お宮。萃香さん、スカートの裾にすがりつきます。
「やーん、もったいないよぅ。お米さんとお百姓さんと杜氏屋さんに祟られるよっ!?」
「なによ、杜氏屋さんて……もう!」
ぶすっとしながらも湯飲みを据えて、急須から注いでやります。出涸らしだもんで、ちょいとばっかし萎れた茶っ葉が混じったくらいですか。ま、ここが霊夢さんの貫一とは少々違うところですな。
さて、お勝手でよぅく洗って匂いを取って、葉っぱを入れ替えて。たっぷり入る鉄瓶の中は、幸いまだ冷めておりませんでした。とっとっと、と注いだ後は、水を足して自在鉤に戻しておきます。さすがに湯呑の予備くらいはございますので、適当に一つ。渋く出過ぎないか気にしながら縁側に戻ってみまするとそこにはなんと。
「えー。やっぱこの場合、間接ちゅーはわたしとでしょ」
「だってずっと霊夢が飲んでたんでしょ? 玉の緒(たまのお)と分霊(わけみたま)の濃さが違うわよ。濃さが」
「それじゃわたしのこの愛らしい唇はどうなるのさー」
「それはほら。オマケ? おにぎりのおしんこ、カレーの福神漬」
「納得いかなーい! あ。霊夢。霊夢はどう思う? 一つの湯呑を三人で回した時の間接ちゅーのあり方について」
とうに一升瓶は済ませてしまい、自前の瓢箪を呷りながらご機嫌の萃香さん。それと並んで、さっきまで霊夢さんが座っていたお座布団に、お邪魔虫がもう一人。厄神の鍵山雛さんがお出でになっておりました。
相変わらず、こってり風味のお洋服がお似合いです。霊夢さんが紅白なら雛さんは黒赤。おリボンもフリルも二割り増しくらい、ってトコですかね。紅魔館のお歴々同様、いかにも落っことしたらはらりと割れちゃいそうな、華奢なお紅茶のカップなんぞがしっくり馴染むのでございましょうが、今は無骨な湯呑を両の白いお手々で抱えておいでです。
「酔っ払いにツッコんでも無駄だろうけどさー。どーゆー話してンのよ。昼間っから」
場所取り返す気力も失せて、思わず隣でどっかりあぐらを掻いてしまった霊夢さん。格好だけならむしろこっちが酔っ払いな風情。
「間接ちゅーの深遠なる真理について!」
やけに嬉しそうに萃香さんが声を張り上げましたが、雛さんの方は至ってあっさり。その様、流しそうめんの如く。
「ところで霊夢。白酒はないの? そっちの方が好みなんだけど。わたし」
* *
さて。突然で恐縮ですが、ところは変わりまして空の上。どのくらい上かってェと、およそ三千三百三十三尺。ほんとは三万三千三百三十三尺辺りでなきゃいけませんから、掛け値なしの危機一髪、絶体絶命大ピンチ。
無体な風にまとわりつかれてボロボロです。尾翼は水平垂直もろともにもげてしかも片肺飛行。燃料なんてだだ漏れで、残った肺もそろそろ止まるでしょう。満足に舵の取れぬ機体を、風は容赦なく小突き回します。
しかも風は二つ。叩き落そうとするのと、付き飛ばそうとするのと。互いの力が伯仲しているがゆえに、なんとか持ち堪えてるってとこでしょうか。
機内は上へ下への大騒ぎ。その有様をお話しするだけで一席丸々ぶてそうですが、まぁ、そりゃ置いときましょう。後で航空パニック映画でも見といていただければよろしい。
外せないのはただお一人。宛がわれた個室でシートベルトをしっかり結わえ、じっと耐えておいでの老婦人でございます。
ぱっと見、気難しい方と察せられます。般若の面のように凝り固まったお顔は、こんな時でも揺るぎはしません。大騒ぎなのは、とうに中身をばら撒いちまった使い捨てのコーヒーカップ、それから機内放送で響く怒号だけ。
ご婦人、そんな騒ぎなど馬耳東風の面持ちで、座席の横の窓から暴れまわる外の景色を見ております。うっかりすると、緑の地表が彼方の正面に見えたりも。
そして機内放送は一向、個室でVIP扱いのご婦人に、気遣いの声をかけることはないのでありました。
やがてほんの一瞬だけ、叩き落そうとする風の力が勝りました。こいつは言うなれば背負い投げ。相手の勢いを引っ捉えて叩き付けます。
それは、博麗大結界を突き抜けるのに、充分な威力を持っていたのでありました。
* *
さてまた幕は変わりまして、つい先ほどまで麗らかだった幻想郷の空。春のそよ風に片ひじ突いて立膝という、地味な至芸を披露しながらこっくりこっくり居眠りをしておりましたのは、幻想郷津々浦々、真贋清濁ごった混ぜの太っ腹でお馴染み、我らが文々。新聞筆頭、天狗の射命丸文さん。
耳慣れぬ轟音と急な風の乱れに眼を覚ましました。見やればなにやら、辛うじて鳥のような形をした、大きなものが頭の遥か上を。
幻想郷には珍しく、実際的、実践的なる実務家肌。看板二枚もしょってるせいもありましょうな。早速、頭の中で駒をもてあそび始めます。
この距離でも肌にぴりりと来るような大物の風二つ。結界破りでもしなきゃァあるはずなさそうな物が一つ。これで、こちらの大駒がいくつか動くのは必定。何かあっても綺麗に片付くでしょう。さすれば、どう噛めば美味しいかだけ考えればよし。
ちょいと思案の末、今回は新聞記者の名詞を出す事にしたようです。愛用の帳面をしっかりしまいなおすと、濡羽玉(ぬばたま)の闇麗しき翼に合わせ、天狗の葉団扇をばひと打ち。風を巻いて翔けてゆきます。
ところがこの風ども、思ったよりは喰えない様子。すぐには追いつけません。俄然興味が募ったところに、魔法使いが箒を横付けしてまいりました。泣く子も黙る押し込み強盗、お勝手御免が箒で風切って飛び回る、これぞ霧雨魔理沙さん。相変わらず、はためくスカートからちらちら覗くペチコートが魅惑的です。
「よ。ガセブン屋」
「いきなりそれ?」
「なんだいありゃ? デカいな」
「いやー。役に立つ話なんて持ち合わせが。なにしろガセブン屋ですから」
「謝るよ」
気持ちなんかさっぱりこもってないのが丸わかりの軽口。いっそすがすがしいくらい。 文さんの方も心得たもので、肩一つすくめて済ませました。
「『外』の『飛行機』ってやつですかね。その箒とは別系で生まれた後継。ソースは八雲一家」
「へ~。そりゃ面白そうだ」
「……って慧音さんが言ってた」
「あいつも勉強熱心だね」
「っててゐちゃんが言ってた」
「なんだそりゃぁ」
「ま、ガセブン屋の言う事ですから?」
根に持つんですよねぇ。烏って。負けを悟って顔に出た魔理沙さんに、文さん、賭けを持ちかけました。
「どうせちょっかい出しに行くんでしょう。どうです。競争しませんか」
「へぇ?」
「先に回り込めた方が取材できる、負けたら邪魔しないってことで」
「おっ。いいねぇ」
餌選びを間違わなければ簡単至極。皆さんも今度、試してみるとよろしいでしょう。後でマスタースパークでこんがり焼かれても知りませんが。
「カウントはわたしでいいですか?」
「構わないさ」
そうこうするうちにも、距離は引き離されております。
「位置について。よ~い、どん!」
八卦炉出力全開、出だしから魔理沙さんぶっちぎり。それもそのはず、文さんがやったのは、隣の箒がすっ飛び出す寸前に穂先を握るだけでしたから。
「っひょー! 最高!」
やけに箒の調子がよくて、ここしばらくで最高の飛び具合、喜び具合。実態は、ぶら下がってる文さんが気付かれない程度に団扇を扇いでちょっぴり上乗せしてるからなんですが。
そろそろ、闖入者の鼻先です。上下左右にがっくんがっくん、およそ優雅とは言えない飛び様。
「なんだ、図体ばっかでみっともないぜ」
これでも、結界を抜ける前よりゃだいぶ落ち着いてきたんですがね。風が喧嘩するの止めたからなんですが。
さぁ、いよいよ鼻先回りこんで相手の頭を押さえる位置。文さん、大きくひと扇ぎ。
「うぉっと」
魔理沙さんが崩れた姿勢を慌てて立て直そうとする隙を狙い、大車輪でその肩に着地。踏み台にして華麗にひらり。
「ごめんなさいね。はい、一等」
「んなっ!? なんだそれ!」
「自力で飛べってレギュレーションしませんでしたから」
「納得いかねー!! 十二支決めてんじゃねーんだぜ!?」
「はいはい、なんとでも。じゃ、約束どおり黙っててくださいね」
「もが」
文さん、箒を乗っ取って魔理沙さんを腰掛にしてしまいました。
「速度と舵はそのままで」
「るせーよ! このなに気にデカいケツどけやg」
嘴ならぬ矢立で頭を連続突き。魔理沙さん、さすがに涙目で黙ります。ようやく、ご対面となりました。
「どうも! 幻想郷へようこそ! 結構盛大に検問破りしてるみたいですが、そこらへんいかがですか!」
見えてる相手がデカいんで、つい声も大きくなりがち。風はしばらく黙っていましたが、ふいに、姿を現しました。間近で見る雲のように白く透き通った、巨大な天馬。どのくらいかってェと、機体と同じくらい。それが二頭。並んで翼を差し伸べ、雷鳴のごとく蹄を響かせ、空を疾駆しております。
「おや、いきなり威嚇? 案外アタマ悪そうですね」
本音駄々漏れのつまらなそうな挑発に、二頭の馬は相和していななき返します。
「お前ははみを持っているな」「お前はあぶみを持っているな」
「それを咬まそうというのか?」「それを結わえようというのか?」
「そうですねぇ……失礼ながら初対面ゆえ、そもそも鞍を置く価値があるかどうかわかりませんね。とっとと馬刺しにした方がよっぽど有益なこともあります。それに、」
こう、懐から取り出しましたる写真機をば、自慢げに見せびらかしまして。
「裸馬ってのも中々魅力的な被写体です。モノによりますが」
天馬は姿を消しました。一際強く、風が轟と吹きすさびます。
そうして眼前に現れましたのは、双子とおぼしき姉妹でありました。それがまた、なんともみすぼらしい有様で。つやの無い髪は灰色でばさばさ、顔も手足も黄色くむくみ気味。まとっているのもどうにも、煤けた襤褸としか言い様が。そんな中で瞳だけが、炯々と輝いております。こりゃぁ子供の鬼婆か。すえた臭いがこちらまで漂ってきそうな有様で。
「被写体は無理ね」「ご覧の通り」
「馬刺し覚悟ね」「仕方ないね」
「その前に蹴り殺すけど」「そして踏み殺すけど」
「おや。はみとあぶみは無しですか」
「それが示されたさだめだから」「そして選び取ったさだめだから」
「そりゃご無礼申し上げました。ですが、それじゃぁなんでこんな鳥篭の中に?」
「泥中に蓮が一輪」「咲いたのに埋もれたの」
「わたしは髪に飾ろうと思った」「わたしは素敵な花瓶に活けようと思った」
「今日、丁度良かったから決着をつけたの」「わたしの勝ち。だから来たの」
「せっかくだからついでに一風呂」「そうね。浴びたい。社に巫女がいるでしょう」
「止める?」「邪魔する?」
「取引ですね」
さらさらさらりと聞き取りに加え二、三の覚書を書きとめた文さん。ここから内緒話とばかり、指変わりの鉛筆を逆さに口元に立て、にやっと笑います。
「お名前を、伺えますか?」
双子の風は、しばし黙りこくりました。
「さぁさぁ、お名前を。どうしました」
「エルニーニョ」「ラニーニャ」
「嘘おっしゃい。あなた達、そんなに湿気ってないじゃないですか」
「駄目かにょ」「ドケチにゅ」
「……でじとかぷちとか言い出したら即刻馬刺しですんで」
双子、おもむろに引っ張っていた機体を少しづつ前に送り出し始めました。満身創痍、塗装ズタズタ、ある種の凄みがございます。
「はみを掴む奴には教えるわけにいかない」「あぶみを踏む奴には教えるわけにいかない」
「結構」
しかし文さん、余裕綽々。一段落したと見た魔理沙さん、勇んで口を挟みます。
「ようし、ダブルスだな? 景気良くカッ飛ばすぜ」
「あなた、庭球のルール知ってます? くすぐったいんだから黙っててくださいよ」
「ならどけろよ、このケぁいててててててててっ!」
地獄突き再び。気の済むように突っ突き倒してから、文さんようやく、自分の翼で風に乗りました。
「紅いぐうたらと青い風祝、さぁどっち」
「紅」「紅」
「おや、即答」
「はみもあぶみも嫌だから」「水入らずの所にスジを通すの面倒」
「じゃ、今日の日和なら、巫女は社でぐだぐだしてるでしょう。ただ、そのデカブツがあんまり迷惑にならないようにしないと、怒られると思いますよ。こっぴどくね」
双子の風はこっくりうなづき、進路をお社の方に向け、機体をガンガン小突き回しながら高度を下げ始めました。場所はとうにご存知の様子。
「なんだよ、素通しかぁ?」
魔理沙さん、とんがり帽子を直しながらブーイング。しかし文さんはどこ吹く風。自分と魔理沙さんを小さなつむじ風に乗っけて、道を開けます。
「素直に名乗ったら、あなたに手伝って貰って馬刺しにしようと思ったんですけどね」
「おいおい。そりゃ逆だろう」
「いいんです。だって、大人しくお手をする野生馬なんて、みっともなくて許せないじゃないですか」
* *
で、件のお社の方ですが。
結界を抜かれた瞬間、霊夢さんが盛大にお茶を吹いておりました。抜かれたために、毒毛虫が四、五匹脊髄の中を這い回ったような感触に襲われたからで。
げっはげっほ咳き込む霊夢さんに、萃香さん、陽気に声をかけます。
「え? それなんて芸?」
すっかりお花見気分。確かに梅も、これでなかなか見ごたえがございますからな。
「違うわよっ……何か、『外』から無理に抜けて来たわ」
少々、真面目なお顔に。
「上の方からって何事よ」
「やった、宴会だ!」
萃香さん早速、勝手知ったる他人の家に上がり込み、次の一升瓶の物色に掛かります。一方雛さんなんですが……これがまた、心底嬉しそ───に、不気味な笑みをにたぁりと。
「来たのね」
「……何? あんたの仕業?」
「違うわ。朝から感じていただけ。すごいのよ。とびっきりよ」
にまにまにまにま、笑いが止まりません。チェシャ猫って、こんな感じですかねぇ。対する霊夢さん、渋───いお顔に。
「あのねぇ。わかってたんなら教えなさいよ。ここに来るの?」
「ううん。裏の向こうの河原。少し撒いて来たから引き寄せられるはずよ」
雛さんが言うんですからもちろん、撒いて来たのは厄ですな。
「親戚でも来るの? それとも貧乏神かなにか?」
霊夢さん、お靴の紐を結んでお出かけ準備完了。
「知らない。でも相当溜め込んでるわよ。そ・う・と・う・ね☆」
「いいねいいね。楽しみだねぇ」
戻って参りました。萃香さん、奪ったお宝抱えて意気揚々。
「いこいこ! 早く行こう!」
「……せめて一本にしてくれない?」
「いいじゃん。どうせみんなで宴会するんだし。霊夢も呑めるよ?」
「しないっつの」
「大丈夫。霊夢がやんなくてもあたしが開くから」
エェ、まぁ、ね。この手の事で、のんべに何言ったって無駄でございます。かくして三羽烏、そろそろ見え始めた機影に向って、飛び立ったのでありました。
* *
【続く】