Coolier - 新生・東方創想話

私と貴女

2008/03/06 08:23:46
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 貴女は、覚えていますか? 私とであった日のことを。
 貴女は、覚えていますか? 私と過ごした日々のことを。
 貴女は、知っていますか? 私に何を与えてくれたかを。
 貴女は、知っていますか? 私がここまで悲しむのは貴女しかいないということを。


 少女は享年七三歳。今では貴女が生きていたときの記憶が鮮明に蘇ります。
出来れば、貴女と一緒にまた何時ものただ流れていく時間を過ごしたい。
生きることをやめたいとさえ思います。今の私に残るのはただ、此処にいるというだけのちっぽけな自分。失ったものは、おっきくて大切な、カケガエの無いイノチ。
今まで、命なんて転がっているものだと思っていました。
そこら中にいるちっぽけな、人間。いくらでも集めれば集まってくるような、小さな生き物。
私はそう考えていました。けれど、貴女だけは違いました。
 あのときの言葉を覚えていますか? 
初めて出会ったときの言葉を。
「私には、此処に存在する理由がない」
貴女は私にそういいました。
生きることに執着しない貴女は、どうしてそこに居たのか、どうして私に逢う運命になったか解らないでしょう。
勿論、私も解りません。
それは私の運命にも書いてありませんでした。
全ては運命どおりに進んでいるはずでした。
けれども、貴女はそれを狂わせました。
勿論、此処でいうのは『良い意味』でということです。
存在価値のないものは、初めからこのような場所には訪れないのです。
貴女は知らなかったかもしれませんが、今になってみるとこれこそが本当の『運命』だったのだと思うのです。
私には運命を操る能力があります。
それは、生まれ持っての性質で、自分の思い通りに変える力。
けれども、貴女はその力を見事に破ってくれました。
私の運命はあの時、庭の隅の大木の木陰で、春の陽気を愉しむつもりでそこにきたのです。
その後は部屋に戻って、本を読むつもりでした。
でも、卑しい格好の貴女がそこに居たのです。
なんとも心地良さそうにしているのを私は見ていました。
そして、ふっと目を開けたのです。
それはまるで、サファイアのような煌びやかな瞳で、髪はしっとりと日陰に濡れ、木漏れ日に輝く銀髪はまるでお人形のようでした。
けれども、服装はまるでなっていなくて、布着れを一枚纏っているようでした。
隣にはトランクが横たわっていて、それが貴女の荷物であると気付くまでに時間は掛かりませんでした。
ただ、疑問に思ったのは、どうしてこんなところに人間が倒れているのか、ということでした。
門番からも連絡一つ入らず、無許可で通したのでしょうか。
それもまた気がかりでしたが、まずは貴女がどうしてこんなところに居るのかを知る必要があったのです。
私の問うた質問に、貴女はこう答えました。
「私には、此処に存在する理由がない。貴女は、誰。此処は、何処」
彼女は、此処が何処なのかさえも解っていませんでした。
私は、此処がどういうところなのか、ということを貴女に教えてあげました。
けれども、貴女は目の色一つ変えずにただ聞くだけでした。
次に名前は、と尋ねましたが、少し間を空けてただ首を横に振るだけでした。
名前を持たない少女、生きながら存在を否定する少女、きっと、貴女はこの時神の使いとして私のところに訪れたのかもしれません。
それとも、私がそれを望んでいたのかもしれません。
その時私は想いました。
操れない運命が、動き出した、と。
 私は、ただ捨て犬のような彼女に手を差し伸べて、弱りきった身体を優しく抱き上げました。
身長は私よりもあって、私の背丈では到底包み込むことは出来ませんでした。
少し彼女の存在を感じた後に、私は彼女の髪の毛をくしゃくしゃっと撫でていたのです。
到底考えられませんでした。
自分自身でさえもその行動が、奇怪で頭の中がおかしくなってしまったのか、とさえ考えました。
けれど、それはまったく違ったのです。
多分、無意識下で私が貴女を助けたい、そう思ったのだと想います。
今なら、そうかもしれないと思えるのですから。
きっと、そこから貴女の存在理由が私の中に完成したのだと想います。
「貴女は今日から、私に仕えなさい。そうすれば此処にいる理由が出来るでしょうから。名前も無いみたいだから私が付けてあげるわ。そうね、――――なんていいわね」
貴女はそこで、ゆっくりと木漏れ日のような笑顔を初めて私に向けてくれました。
本当ならば、こんな関係じゃなくて、友達として接することが出来ればよかったのかもしれません。
けれど、前の私にはこういった関係でしか思いつかなかったのです。
今になっていうのも悪いかもしれませんが、出来れば一緒に遊びたかった。
永遠なる親友として。
「後、私の名前は――――よ。貴女はこれから私のために働きなさい。いいわね」
「かしこまりました。――――様。この命、貴女様の為に使わせていただきます」
貴女はそういうと、私の手の甲に、ピンク色の綺麗な唇で口付けをしましたね。
あの時、本当に嬉しかったです。
何故なら、何時も傍にいてくれる人が出来たから。


 たまには喧嘩した日もありましたね。
けれど、それも貴女が私のことを思っていってくれたことだと思っています。
この隣に貴女が居てくれたら、いつまで起きているんですか。
就寝の時間ですよ、とか言って起こってくれたかもしれませんね。
でも、今は私だけです。    
どのくらい前だったか忘れてしまいましたが、私が一人で散歩に行く、と我侭を言ったときは喧嘩しましたね。
多分、私が少し我侭過ぎたのかも知れません。
けれど、私は一人で外を散歩したかったのです。
貴女には解らないと想いますが、外の世界は私にとって未知の世界。
だからちょっとした冒険感覚だったんです。
だから、それを見たいばかりに貴女と喧嘩をしてしまいました。
どう考えても私が悪かったんです。
それで、私は。
「――――、私は外で散歩がしたいのよ! 少しくらいいいでしょ。たまには身体を動かさないとなまってしょうがないのよ。こんなにいい天気なんだから外に行きたいのよ」
「いけません、――――様。今日はあまり良い日ではありません。雨でも降ったらどうするんですか。それこそ、命に関わるんですよ? 解っているんですか? 」
貴女はそうやって私に注意してくれました。
けれども、私は一人部屋から飛び出して、宵闇の世界に飛び出したのです。
とても空気が澄んでいて、満月はとっても綺麗な紅に染まっていました。
これが、自由なのかもしれない、そんな解釈もしていましたが、途端に雲が出てきて、月も隠れてしまいました。
紅い光は拒まれて、暗闇でもしっかりと見えるほど、黒の上に黒がのっかってきたのです。
そして、一つ、又一つと何かが落ちてきたのです。
それは、私の身体に当たると、何かが一気に蒸発するような音がして、ひりひりするのです。
私は、水が苦手なのです。
途端に雨が降り始めたのです。
私は近場の大きな巨木で雨宿りをして、止むのを待ちましたが、一向に止む気配はなく、激しさを増していったのです。
本当の閉ざされた空間に居るような恐怖でした。
「――――、助けて。私が悪かったから。許して、お願いだから。これがバツなの? 」
もしかしたら、私は此処で死ぬのかもしれないとさえ想いました。
所々がひりひりして、煙は上がって、まるで生きながら死んでいくような、虚無感にさえ頭に圧し掛かりました。
「お迎えに参りました。さ、帰りましょう。帰りましたら、暖かい牛乳でも入れて差し上げますからね。冷えた身体もとっても温まりますよ」
貴女はそういって、私の髪の毛を柔らかくなでてくれました。
それがとっても嬉しくて、でも本当は、此処に貴女が来てくれた事が何よりも、大切なことだったのですから。


 貴女は知らないかもしれませんが、私は貴女からとっても素晴らしいものを貰いました。
それはいつまでも輝き続けると想います。
それは目に見えるものではないですが、華達あるものが全てではありません。
私が貴女から貰ったもの、それは……此処で描いてしまうのは勿体無いような気がします。
だから、私の心の中に何時までもしまっておきます。
きっと、貴女以上の人に出会うことが無いと思うからです。
でも、それは貴女が与えてくれたものであって、他の人が同じものを私にもたらしてくれるとも限りません。
貴女は、貴女だけの大切な物を、私に譲ってくれました。
それはいつ、いかなるときも離すつもりはありません。
永遠に私の中で、残り続けます。例え、私がいなくなっても。
 この日記を書いているのは、貴女が私の隣から居なくなって然程経ちません。
きっと、私の中に永遠にいき続けるでしょう貴女の記録をあえて残すのは、貴女と私、という存在が此処にあったということを記す為です。
そうすれば、他の人によって遙かな思い出として思い出されるかもしれません。
ただ、私は貴女と過ごした日々を他の人にも知って欲しかったのです。
綺麗な、鮮やかな思い出を、知ってほしいのです。
生きるということがどんなに大切で、どんなに儚いかを。
 最後になってしまいましたが、今こうやって言葉を綴っているときでも、紙が零れる雫で濡れてしまっています。
ずっと、涙が止りません。
私は、妖怪。
けれど、今は亡き貴女が恋しくてたまりません。
ずっと一緒にいてくれるといってくれたのは、貴女だけでした。
私を思ってくれた貴女は、私にとってカケガエの無い、人間だったのです。
思ってみれば妖怪だ、人間だ、なんて区別は存在しないのです。
愛するべき人を愛し、永遠を誓い、この世界をたった二人のものにしたのです。
私は、今此処には存在できない妖怪になってしまったのです。
それは、二人で一つの存在になっていたから。
今まで気付きませんでした。
貴女が私の隣から居なくなって解ったのですから。
 私は、貴女とずっと一緒に居たい。
 これからも、ずっと。
「――――、いままでありがとう。それでね、また一緒に居られるように。ずっと私の傍に居なさい。貴女は私と前世、現代、来世も一緒に居るべき存在なのだから」
「解りました、――――。私はこの先も貴女にお使いします。だって――――は私を受け入れてくれたただ一人の方ですから」
 

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま、咲夜」
彼女が使っていたテーブルの上には、咲夜の遺品として残されていた懐中時計。
そして、日記を真っ赤に彩った、そして、彼女の懐には、咲夜が愛用していたナイフの銀が満月の光を受けて輝いていた。

 初めまして、十三夜と申します。
 初投稿になります。

 筆に任せて書いてしまいました。レミリアの一人語り形式になっていますが、きっとレミリアは咲夜なしではいきていけないのかも、という考えから書いてみました。
 よろしければ、最後まで読んでもらえるととても嬉しいです。

 煉獄様、誤字のご指摘ありがとうございました。 

   又次の機会がありましたら。
十三夜結唯
[email protected]
http://tomiya-yamiyo.hp.infoseek.co.jp/TOP22.html
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コメント



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2.70煉獄削除
レミリアの咲夜を想う心が伝わってくるような作品でした。
レミリアにとって咲夜はかけがえの無い存在であり逆に咲夜にとってもレミリアは
大切な存在であると・・・。

誤字をいくつか見つけたのでその指摘をば。
>門番からも連絡一つ入らず、無許可で投資他のでしょうか。
 無許可で通したのでしょうか。ですよね。
>外の世界は私にとって道の世界
 正しくは未知の世界。
>私は貴方と過ごした日々を死って欲しかった。
 これは知って欲しかったですよね?

長々と失礼。
3.無評価十三夜結唯削除
ご感想、ご指摘ありがとうございました。
 直ちに直させていただきます。次は、このようなことにならないようにいたしますので、よろしければ次の機会がありましたらよろしくお願いいたします。
5.無評価名前が無い程度の能力削除
それは目に見えるものではないですが、華達あるものが全てではありません。

これは形でしょうか?

なかなかいい作品でした 次の機会を楽しみに待っています
6.80名前が無い程度の能力削除
ごめんなさい点数付け忘れました
8.80名前が無い程度の能力削除
好いです。