Coolier - 新生・東方創想話

さくやにっき4

2008/03/03 14:13:18
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△月○日

どうにも朝起きた時に寒いと思ったら外は雪景色だった。
幻想郷にも冬が来たということを実感できる光景だ。
これから幻想郷は寒くなりそうだ。

そして、お嬢様を起こしに行ったのだが・・・

「お嬢様、おはようございま・・・やっぱりですか」

やはりお嬢様は寒さが堪えているのか、ベッド布団の中で丸くなっていた。

「お、おはよう、さ、さくや・・・」

「おはようございますお嬢様。
 ではお着替えを致しますので、起きてください」

「寒くて無理」

速攻で拒否された。

「お嬢様、あなた様は誇り高き吸血鬼ではありませんか・・・
 このような寒さに屈するというのですか?」

「なんとでもいいなさいよぉ・・・吸血鬼だって寒いものは寒いんだからぁ」

出てくる気配が見えない。
はぁっ、と溜め息をつき、私は実力行使に出る事にした。

「ではお嬢様、これから行う事のご無礼をお許し下さい。」

「え?無礼ってなにが・・・・・・ひゃあ!?」

時を止める能力で一気に接近し、お嬢様の布団に手をかけた。
そして時を動かすのと同時に布団を剥ぐ。
これぞ十六夜咲夜が編み出した必殺の布団剥ぎだ。
相手が対応する事すら難しい荒技、如何なお嬢様とてこの技からは逃れられない!

まぁ相手が布団に包まってる状況だから逃れるも何も無いんだけど。

「おはようございます、お嬢様」

「さ・・・さくや・・・?さむっ!寒いわ咲夜!!!
 ふ、ふふふふふ布団を返してぇ!!!って持ってない!?」

お嬢様が大慌てしだしたが既に私の手元には布団は無い。
布団は廊下に置いておいた。
この後洗濯するのだから都合もいい。

「ではお嬢様、起きたところでお着替えを」

「さ・・・咲夜の鬼ぃぃぃぃぃぃ!」

「私は人間ですよ、お嬢様」



続いて妹様の部屋へ。

困った事に妹様の寒がりはお嬢様以上なのだ。

となれば・・・



「嫌!寒いから起きない!」



お嬢様以上に駄々をこねられるわけだ。

「起きていただかないと困ります・・・」

お嬢様の時に使った必殺技は使えない。
迂闊な強行策は死を招く・・・

私はその時思い出していた、昔を。
そうあれは2年くらい前だったろうか・・・
今思い出してもよく生きてたなぁと私は思う。

その時の日記はこうだ。






△月◎日

今日は久々に遂に死ぬかと思った。
妹様が寒い寒いと中々起き出していただけなかったので布団を剥ぐ強行にでた。
すると妹様は寒さのあまりに発狂してしまい、手当たり次第に弾幕をはり出したのだ。
おそらく弾幕出してりゃあったまるとかいう思考回路になったのだろう。
私はその初撃をモロに喰らい、気がついた時には自分の部屋のベッドに寝かされていた。
全身包帯だらけで、まともに動かせるのは右腕くらいときたもんだ。
この日記を書いているのも信頼できるメイドが手伝ってくれてやっとだ。
ちなみに2日寝ていたらしい。

起きた時、パチュリー様は「奇跡よ、あれほどのダメージで生きてるなんて」と驚いたかのように言い、
美鈴と小悪魔は「「よかったですぅぅぅぅ・・・」」と号泣しながら言い、
お嬢様と事の発端の妹様に関しては「「死んだかと思ったんだからぁぁぁぁ!!!」」と怒鳴りながら泣いておられた。

この時になって私はようやく、あぁ、死にかけていたのだと気づいた。




というまさに危険過ぎるミッションなのだ、実は。
人に見せない日記だから書くがこの任務を任せて散ったメイドは数知れず・・・嘘だけど。
・・・日記なのに嘘書いてどうするんだろうか私は。

無論そのような危険が孕んだ事を妖精メイドに頼まない。


話を戻そう。

つまりこの時の私の脳内にはその過去の光景がフラッシュバックしていたわけだ。
しかし、この十六夜咲夜、ここで退くわけにはいかない。

「妹様・・・」

布団に近寄ると明らかに不機嫌な声で

「咲夜来ないで!咲夜なんか大っ嫌い!」

と布団の中から威嚇された。
その時の妹様はまるで威嚇する可愛らしい猫のようだった、とここに記しておく。

はぁっ、と溜め息を一息ついて私は今日の朝食のメニューを思い出していた。

「では妹様は本日の朝食をお召し上がりにならないという事ですね?
 残念です、今日はかぼちゃのクリームスープもありましたのに」

実は妹様はスープ系のものが大好きなのだ。
特にかぼちゃのクリームスープがお好みらしい。
ちなみにかぼちゃ自体はいまだ嫌いな物リストに入っている。
普通かぼちゃが嫌いならばかぼちゃのスープも駄目だと思うんですが。

「え・・・?ちょっと・・・咲夜?・・・今かぼちゃのスープって?」

「困りましたが仕方ありません。
 妹様の分は美鈴にでもあげま「駄目!!!」・・・おはようございます、妹様」

一度出て行くと見せかけてお嬢様の駄目という声に振り向く。
お嬢様はベッドの上でちょっとだけ涙目で立っておられた。

「うぅぅぅ、私のかぼちゃのスープは誰にも渡さないんだからぁ・・・うぅ、寒い」

「えぇ、わかっております、おりますとも。
 ではお着替えをいたしましょう、妹様」

「むぅぅぅ・・・何か咲夜にいいように扱われてる気がする」

上目遣いでちょっと睨まれた。
私はいえいえそのような事は、と白を切った。
さすが妹様だ、勘の良いお方である。

などと思っていたのがいけなかったのかもしれない、と今更ながらに思う。

妹様の着替えを終え、では食堂の方へ、と妹様に言った。
妹様はそれこそ全速力というくらいの速さで食堂に向かわれた。
「そんなに走らないでもスープは逃げませんよー」という私の声は聞こえていなかっただろう。

私はそんな光景を見て少し笑みを浮かべてしまいながら厨房に向かおうとした瞬間、

ガッシャーンと窓ガラスの割れる音がしたかと思ったら何かが側頭部に当たり、そこで意識を失った・・・
意識を失う直前、その何かに触れた気がした、それはとっても冷たかった。



頭が痛くなってきたので本日はここまでにしておく。







△月□日

紅魔館修理中90%、らしい。

今私はベッドの上で日記を書いている。
頭には昨日からぐるぐると包帯が巻かれている。
昨日の朝に出来た傷だ、痛みは大分よくなった、明日になれば大丈夫だろう。
さすがは八意永琳の薬といったところか。
それにしても今回もまた書くことが多そうで全部まとめて書くのは大変そうだ。

まぁ暇だからいいか。

さて、昨日、私が気絶してからの事だが・・・



気がついたら私は自分の部屋のベッドに寝かされていた。
窓を見ればもう雪は降っていなかった、どうやら夕方まで寝てしまっていたようだ。
起きなければ、と思ってベッドから出ようとすると酷い頭痛に襲われた。

「っ・・・!」

頭を抱えると包帯が巻かれているのがわかった。
誰が巻いたのかは知らないがしっかりと巻かれているようだった。
いったい私の身に何が・・・

「おや、ようやく起きたようだね」

声のしたほうを向くと丁度ルナサ・プリズムリバーが入ってきた。
近くにあった椅子に座り、大丈夫かい?と聞いてきた。

「えぇ、あなたが私をここに?」

「いや、運んだのはあなたのところの門番だ。
 私は倒れてるあなたを発見して永遠亭の医者を連れてきただけだ」

「そうなの・・・ごめんなさいね、客人にそんな事させちゃって」

でも今日何か予定あったかしら?と私は聞くと、

「いや、もう年末も近いしパーティでの演奏が必要か幻想郷中を聞いて回ろうとしてたんだが
 一番がここでよかったよ、メイドに案内されている時に大きな音がしたから行ってみれば
 窓が割れていてあなたが頭から血を流して倒れている、息はあるのはわかったけど一瞬紅魔館に賊でも侵入したのかと思ったよ」

想像してみた・・・・・・うん、間違いなくただ事には見えないだろう。
って、そんな悠長な事を考えている場合じゃないでしょ!

「そ、それでその後どうなったの・・・!?
 何者かが侵入し・・・いっつぅ・・・!」

興奮したせいか再び頭痛が起き、私は頭を抱えた。

「お、落ち着け十六夜咲夜。
 安心しろ、今は何にも起きてない、今はもう大丈夫だ」

「今は・・・?」

今はということはやはり何かあったということだ。
なんということだ、メイド長ともあろうものが賊の侵入を簡単に許し、あまつさえ自分は頭に一撃もらって気絶していたなんて・・・
これは由々しき問題だ、私は自分の不甲斐なさに下唇を噛んでいた。

「何を考えていることが想像がつくが誰も侵入者はいなかったよ。
 あなたが頭から血を流して倒れていた事のほうが大騒ぎになったよ」

「え・・・?それはどういうこと?えーと・・・ルナサ・プリズムリバー」

「ルナサでいい、あまり言っていい話ではないとは思うがあなたには大丈夫だろう」

ルナサが笑った。
とりあえず大きな問題は無かったという事だろうか?

「説明してちょうだい、それと私も咲夜、と呼び捨てでも構わないわ」

こちらだけでは何か気が引ける。

ルナサはわかった、と頷き、そしてゆっくりと何があったのかを語りだした。
語りだした内容はこうだ。

ルナサ達が私を見つけた少し後、窓が割れた音を聞いてお嬢様と妹様が何事かと駆けつけてきたそうだ。
そして頭から血を流して倒れていた私を見て、大慌てで私の生死を確かめたそうだ。
それこそ襟元を掴んで咲夜、咲夜と泣きそうになりながら私を揺らしまくるくらいに。

そういえば話を聞いている間首も何だか痛かった、今はもうなんとも無いが
おそらくお嬢様達に凄い勢いで揺らされたからだろう、よく首の骨が折れなかったものだ。

今度は小悪魔と美鈴が来て、その状況を見てさらにパニック状態の面子が増える事に。
美鈴はいっその事頭を挿げ替えませんかとか言い出す始末だったそうだ。

あいつは私を何だと思っているのだろうか・・・

そのままにしておいたら確実に死ぬと思ったメイドとルナサは私は大丈夫だとまず落ち着かせ、
とりあえず自分が医者を呼んでくる、あなた達は十六夜咲夜を自室に運んで手当てをして、侵入した者がいないか確かめるのが先決だろう、と
紅魔館の面々に言って永遠亭に八意永琳を呼びに行ったそうだ。

そして永遠亭で八意永琳に事情を話し、月兎も連れて紅魔館に戻ってみれば紅魔館内は大騒ぎ。
美鈴は誰も絶対通すな出すなと言われて涙目で門に立ち、
メイドたちはそれこそ小さな石の裏すら見出すくらいの大慌てっぷりで
お嬢様はグングニル片手に、妹様はレーヴァティンを持って館内を血眼になって賊を探し回っていたそうだ。
それこそ怪しければ小さな蟻だろうがその手のものを撃ち込む勢いで。
結局誰かが侵入した形跡も何かが盗まれた形跡も無かったそうだが。

たぶん今紅魔館は穴だらけなんだろうなぁとこの時思った。

私の部屋では小悪魔が簡易的な手当てをして待っていて
直ぐに八意永琳が診察したが大したことは無く、傷はちょっとの間残るけど大丈夫だと言ったそうだ。
当たり所がよかったとかなんとか言っていたそうだがそもそも当たった事自体運が悪いと私は思う。

「それで今は事態は収まってるみたいだよ、といってもスカーレット姉妹のおかげでメイドたちは忙しいみたいだけど」

つまり館の修理中ということね。

「いやはや、それにしても凄い騒ぎだったよ。
 もし侵入した奴がいたら殺されてるくらいじゃ済まなかっただろうね、たぶん」

今までの話を聞いてると否定できない自分がいた。
お嬢様達はどうしてるのかと聞いてみた。

「今は食堂で門番が淹れた紅茶飲みながらあなたが起きるのを待っているみたいだな。
 全く3人とも落ち着かない様子だけど」

頭に浮かんだのは貧乏ゆすりをしながら飲んでいるお嬢様、
その辺を歩き回りながらイライラしてる妹様、そしてどうすればいいのかわからない美鈴の構図だった。

ちなみにさっき小悪魔に聞いたが間違いでは無かったようだ。

「そういえば私の頭にぶつかった物って何だったの?」

あの痛さはかなりのものだった。
それ相応の強度を持った何かがぶつかってきたのだろう。
私がわかったのはそれが冷たかっただけなのだ。

「私が来たときには誰もいなかったし何も無かったな」

「そう・・・」

残念、何が私に当たったかの手がかりになるかと思ったのだけれど。

「しかし・・・羨ましいな」

ぽつりとルナサが呟いた。

「羨ましい?」

何が羨ましいのだろうか?
頭に何か当たるのが羨ましいというのなら喜んで変わって欲しいんだけど。

「い、いや、何でもないんだ。
 それじゃあ私はお暇するよ、さっきから心配してる人達に悪いしね?」

その言葉に私はドアを見るとどんっという音と共に
「いったいわよ美鈴!人の足踏まないでよ!」とか「も、申し訳ございません妹様!」とか聞こえた。
なんともまぁ・・・

「それじゃあまた」

ルナサが腰を上げる。

「世話になったわ、お礼はいずれ」

ルナサは気にしないでくれ、と言って退出していった。



そして直ぐに雪崩れ込むようにして紅魔館の面々が入ってきた。



皆口々に大丈夫かどうか聞いてきたが私は何度も大丈夫だと答え、皆一通り安心したようだ。
というか八意永琳、大した事無いと伝えなかったのかとこの時思った。
さらに昨日今日と何度も皆がお見舞いを称して大丈夫か聞きに来た。
大したことはないとわかってるはずなのに心配しすぎではないかと思う。

遅れて八意永琳と月兎が入ってきた、世話になったわね、と言うと別に気にしてないわ、と相変わらずだった。
うどんげ、と八意永琳が言うと月兎ははいはい皆出て行ってー咲夜さんを寝かせますからーと皆を退出させた。

「起きれるかしら?」

「えぇ、ちょっと頭は痛むけどね」

上体を起こす。

「それじゃあこれを飲んで頂戴、うどんげ、水を」

「はい、どうぞ」

錠剤と水を渡された。
錠剤を口に含み、水と一緒に飲む。

「いい機会だし、少し休みなさいな。
 いつもの錠剤、摂取量最近多いみたいだし」

いつものとは毎日噛み砕いてるやつだろう。
確かに最近ペースが速かったかもしれない。

「まぁ・・・そうせざるをえなそうね。
 たぶん動こうとしたらお嬢様達が止めそうだわ」

「あれだけ心配してましたもんね」

たぶん下手に何かしようものならロープでぐるぐる巻きにでもされるんじゃないかしらね?と今は思う。
やってみる勇気は無かったから大人しくしていたが。

「それじゃあお大事にね」

「えぇ、ありがと」

そして私は薬が効いたのか直ぐに眠りについた。



ここまでが昨日までのだ、あった事聞いた事を全部書いたからか長くなってしまったのはちょっと誤算だった。

そしてここからは今日の事だ。

朝のうちはまだ少し頭が痛んだが昨日よりは和らいでいた。
そしてどこから聞きつけたのか来客が午前午後関係なくやってきた。
魔理沙や霊夢は運が無いだのなんだので笑いにくるし、
パパラッチは根掘り葉掘り聞いてくるし(答えなかったが)
八雲紫はスキマでいきなり現れてお見舞いのみかん持ってくし・・・
危うく飲むなと言われたいつもの錠剤を噛み砕きたくなるところだった。

まぁ妖夢とか八雲藍とか上白沢慧音は普通にお見舞いに来てくれたけど。

ちょっと問題があったとすれば風見幽香だ。
わかってて持ってきたのだろうがお見舞いの品としてシクラメンを持ってきた、嫌がらせもいいところだ。
さらには「人間の流儀なんて妖怪の私には関係ないもの」と言ってくる始末。
やっぱりわかってて持ってきやがったのだこの野郎は。

だが帰り際に

「早くよくなりなさいよ、庭の花達が心配していたから」

と言ってきた、何か言おうかと思ったときにはもう既にいなくなっていた。
なんともくえない妖怪である。

そして最後の来客は湖近くに住んでるチルノの友人、大妖精だった。
思いつめた顔をして入ってきたので何事かわからないがとりあえず部屋に招き入れた。

思いつめたような顔のままでドア前に立ち尽くすのでいったい何なんだろうかと思った。

「そんなところに立ってないで座りなさい」

「ご、ごごごごごごごめんなさい!」

いきなりその場で謝りだした。

「いきなりどうしたのよ・・・あ、もしかして・・・」

「・・・たぶん考えてる事は当たってると思います。」

これで冷たいものの正体がわかった。
しかし私、チルノに何か酷いことでもしたかしら?

「実は・・・」

つまりはこういう事だ。
あの日、朝も早くから雪に興奮したチルノは外に出て大妖精を連れてレティ・ホワイトロックに会いに行った。
そしてレティ・ホワイトロックを連れて戻ってくると雪合戦で遊びだした、紅魔館の近くで。
遊んでいたら何時の間にか紅魔館の近くにまで来てしまっていたそうだ、それほど楽しかったのだろう。
しかし、ここに来てチルノがレティ・ホワイトロックに当てることができていないことに気づいた。
なぜかはよくわからなかったらしいがおそらく何か力でも使っていたのだろう。
そして逆に一方的に雪玉を当てられる状況にイラついて雪のせいで当てられないんだ、と自身の能力で氷の玉を作り出し始めたのだ。
それは反則だよ、と大妖精が諌めるが時既に遅し、チルノはその玉を投げた、あらぬ方向へ。
そしてその玉が窓を破って紅魔館に、ひいては私の頭にぶつかった、というわけだった。

それに驚いた3人は大慌てで逃げたそうだ。
チルノにしては頭が回ったのはその時その氷の玉を消したことだ、慌ててるほうが賢くなるとは何という皮肉か。

しかし後に罪悪感から大妖精は私が大丈夫かどうか見に行ったら紅魔館は厳戒態勢。
お嬢様にも妹様にも話しかけたら殺されると思って退散。
んで今日になって私が無事に起きたとわかり、チルノには内緒で恐る恐る謝罪しに来た、というわけだ。

「なるほどね・・・
 まったく、本当におてんば妖精ね、あの氷精は」

「すすすす、すいません」

大妖精が土下座しだした、苦労してるんでしょうねぇ、チルノのせいで。
それでも友人の為にこうして来る辺り、チルノはいい友人を持っているようだ。

「ふぅっ、犯人見つけたら生きてるのが嫌になるくらいのお仕置きをしようかと思ったけど・・・」

大妖精を見ると顔面蒼白でブルブル震えだした。
真面目すぎる子ねぇ本当に。

「そうねぇ・・・チルノに伝えてくれる?
 明日、話があるから来なさいって、それとちょっと窓を開けてくれる?」

大妖精に窓を開けてもらう。
外は雪は降ってはいなかったがそれでも風は強く、かなり寒かった。

「そこの冬の妖怪、とっとと入ってきなさい」

と言うと少し間を置いてレティ・ホワイトロックが入ってきた。
驚いているところ悪いが大妖精に窓を閉めてもらう。

「な、なんでわかったのよ・・・」

「気配を感じたから、かしらね。
 どうせ大妖精の後をつけてきたんでしょ?私がどんな様子か見る為に」

ぐっ・・・と顔を歪めた、どうやら当たっているらしい。
本当は視線を感じたから誰かいるんじゃないかと思って時を止めて窓を開けて確認したからだけど。

「えっと・・・その・・・」

「何か言う事は無いのかしら?」

「うっ・・・ご、ごめんなさい」

素直に頭を下げた、案外素直な奴だ。

「ふぅ・・・まぁ過ぎた事だし謝ってくれたから許してあげるわ。
 後はチルノだけね、ちゃんと連れてくるのよ?」

「は、はい!」




とりあえず後はチルノが今回の事を謝ればそれで終わりだ。
ちょっとヒヤリとする事件だったが大妖精の友情に免じて許してやろう。
それよりもこの件に関係して、というわけではないが引っかかっていることがある、ルナサのことだ。
あの羨ましい、というのはどれに対してだったのか。
もしも紅魔館の面々に心配されたことならば彼女には妹達がいるではないか。
私と同じような事になれば当然心配されるだろう。
いったい何故そのような事を言ったのか・・・ちょっと気になる。






△月×日

紅魔館修理完了。
もう頭の痛みは無く、大丈夫だというのに皆に駄目だと言われて今日も休まされた。
美鈴が咲夜さんがいなくったって紅魔館はしっかりと直しておきますから!と胸を張って出て行ったのも束の間、
いきなり美鈴が外壁壊したという報告を受けた時は痛くはないはずの頭と胃が痛み出したが。
なんとか無事に今日紅魔館の修理が完了したという報告を受けて一安心である。
明日は修理箇所の点検に追われそうではあるが。


そして昨日の約束どおり、大妖精とレティ・ホワイトロックがチルノを連れてきた。
チルノは苦虫を潰したような顔で入ってきた。

「何で呼ばれたかわかってるわよね?」

「うっ・・・」

私の不機嫌そうな声にチルノは後ろに一歩下がった。
こういう事はしっかりと注意しないといけない。
一歩間違えば相手が死んでいたかもしれない事だからだ。

連れてきた二人には悪いが私は大層怒っていたと伝えてくれと頼んである。
そうでないと自分のした事がどういう事かあまり実感できないと思ったからだ。

「あなたから私に何か言う事があるわよねぇ?
 本当に大事な事、そう、大事な事を私に言わなきゃいけない」

私は睨むようにチルノを見た。
チルノは今にも泣きそうな顔になって私を見た。

まず悪い事をしたら謝る、そこが重要な第一歩だ。
当然ではある事だが一番大事なことなのだ。
それすらできなかったら・・・

「ご・・・」

「ご?」

「ごめんなさい・・・」

小声で言ったがそれでは私は許さなかった。

「声が小さい!!!」

私は怒鳴った、これは演技ではなく本気で怒鳴っていたのかもしれない。

「ご、ごめんなさい!!!」

それにびっくりしたチルノは耐えられないといった感じで涙を流しながら謝った。

ふぅっ・・・と私は溜め息をついて

「これからは気をつけて遊びなさい。
 そして自分の力についてもう少し考えてから使いなさい。
 そうじゃないとあなたの友達をいつか傷つける事になるかもしれないんだから」



私はベッドから出てチルノの頭を撫でた。
チルノは泣き止まずにごめんなさい、ごめんなさいとしばらく言い続けた。

まったく、本当に困った氷精だ。



チルノがようやく泣き止み、二人に連れられて帰っていった。
しばらくしてパチュリー様が入ってきた。

「優しいのね」

「見てたんですか?」

「たまたまよ、たまたま聞いただけ」

「そうですか・・・あぁ、お嬢様と妹様には」

あのお二人が犯人を知ったらおそらくチルノたちのところに行くだろう、私が何を言おうとだ。
その先は考えたくも無い。
そうであってほしくないが、一昨日の件を聞いた後だとどうも・・・ね。

「わかってるわよ、この事は秘密にしておくわ。
 本当に優しいのね、私だったら溶かしてるところよ?」

こう見えて怒ると怖いパチュリー様に言われると苦笑いしかできず、心の中では笑えなかった。
前に小悪魔がパチュリー様が大切にしていた本を紅茶で汚した時なんか凄かったものだ。
あれに比べたら私なんて及びもしないものだと思っている。

「ありがとうございます」

「貸し一つ、ね。今度実験失敗した時は大目に見てくれると嬉しいわ」

嫌な貸しだ、というか


「失敗するかもしれない前提で実験しないでください・・・」

私はその時ちょっとだけまた頭が痛くなった。
久々のような気がする錠剤を噛み砕きながら私はようやく一つの終わりを感じた。






△月#日

ようやく仕事してもいいと許可が下りた、メイド長復活である。
ちょっと体が鈍っていたせいか夕方に居眠りしている美鈴にやったメイド式ジャーマン・スープレックスはイマイチだった。
修行をし直す必要があるかもしれない。

久々に腕を振るったお嬢様と妹様の昼食のデザートにお二人が共通で大好きなものを出した。
お二人ともチョコレートケーキが大好きなのだ。
前はよく取り合いになって館が半壊するという争いの元だったが
私が耐えられなくなって次に喧嘩したらもう絶対出しませんと言ったら、それ以後は喧嘩をしなくなった。
可愛いというかなんというか、である。

それと今日の夕飯にはお嬢様の大好物のラビオリのトマトソースと、
妹様の大好物のかぼちゃのクリームスープをお出しした。
お二人とも喜んでもらえたようで何よりである。

今日は3日も休んでしまった為に色々と忙しかったが明日は外出する余裕がありそうだ。
プリズムリバー家に行ってみるとしよう。
どうにもわからない事があると気になって仕方が無い。






△月+日

昨日書いた通り、お礼を持ってプリズムリバー邸へ。
前に一度行っただけだが見た目はどう見てもゴーストハウスだ。
まぁ、騒霊が住んでいるのだからゴーストハウスに限りなく近いのかもしれないが。
あぁ、でも幽霊というわけではないから・・・・・・ややこしい、これ以上考えるのをよそう。

呼び鈴を鳴らすと「ちょっと待っててくれー」という声が中からした。
声の主はおそらくルナサだろう、と思い、私は大人しくドアの前で待つ。
待った、と言えるかどうかわからないぐらいでドアが開き、ルナサが出てきた。

「おや、もう出れるようになったのかい?」

「えぇ、おかげ様で昨日から。
 これは世話になった礼よ」

持ってきたものの中身はチョコレートシフォンケーキ。
お嬢様達に出すチョコレートケーキはかなり甘く作るのだが
これは少し甘味を抑えて、生地に入れたナッツを引き立たせた自信作だ。

「気にしないでくれと言ったのに・・・すまないな」

ルナサは快く受け取ってくれた。

「ここじゃなんだ、上がってくれ。
 紅魔館で出しててくれているようないい紅茶はないが・・・」

「それこそ気にしないわ、重要なのは味じゃなくて持て成す心よ、そういうのは。
 それじゃあ上がらせてもらうわね、二人の妹はいないの?」

いるとちょっと困る、話しづらい内容になるかもしれないからだ。

「あぁ、今日は二人ともソロで出かけているよ。
 しばらくは戻ってこないだろう」

そう、と言って私はルナサの案内されながらプリズムリバー邸へと入っていった。



「綺麗にしてるのね、外観からじゃこんな風になってるとは誰も思わないでしょうね」

リビングに案内され、しっかりと掃除がなされている状態を見て私はちょっと感心していた。
真面目な性格なのがよくわかる、という感じかしら。

「はは・・・でも2日もすれば見る影も無くなってると思うよ。
 妹達は片付けを知らないみたいなところがあるからね」

何となくだがあーと納得してしまった。
あの二人、その辺だらしなさそうに見えるわ、確かに。
私は椅子を借りてそこに腰を落ち着けた。
目の前のテーブルの対面にルナサが座った。

「大変ねぇ・・・そういえば前に言ってたわね。
 全く家事とか手伝わないって」

「あぁ・・・困ったもんだよ」

はぁっと溜め息をつかれた。
そろそろ前の件の話を切り出す頃合だろう、と私は思い、一度咳払いをしてから訪ねた。

「ねぇ、あなたがこの前言った羨ましいって事なんだけど・・・何かあったの?」

「え?」

ルナサが驚いた顔で私を見た。

「いえね、もし私が倒れてお嬢様達が凄い心配したのが羨ましいっていう意味だったら
 あなたなんて本物の姉妹がいるじゃない、あなたが同じような目にあったら妹達は同じほどとは言わないけれど
 心配すると思ったのだけれど・・・」

「・・・・・・」

ルナサは次に俯いた、おそらく私の考えは当たっているということだろうか。

「どうしたのよ?仲睦まじいっていう評判の姉妹なのに喧嘩でもしたの?」

それだけではないと思うが。

「いや、喧嘩をしたわけじゃない・・・そうじゃないんだが・・・
 最近ちょっと悩んでいてね・・・私は単なる便利役なだけの形だけの姉、なのではないかと」

「?どういう意味よ?」

「私は今までずっと妹達の世話してきた、もちろん自主的に、だ。
 それが悪かったのかもしれないがそのせいで妹達は当たり前のように
 私にこうして欲しい、あぁして欲しいと何でも言うようになってしまったんだ」

なるほど、妹達にとってルナサは何でもしてくれる便利な姉、となってしまったというわけね。

「でもあなたに頼りきりなんでしょ?だったら尚更そういう事が起きたら心配すると思うのだけれど」

「そうかもしれない、でも私はこう思ってしまった。
 ・・・もしかして私は姉とすらもう既に思われておらず、単なる便利屋としか見られて無いんじゃないかと」

「それは・・・」

「もちろん直ぐに思い直したさ、何を馬鹿なことを、と。
 しかし、もしも、と考えた時、私はとても怖くなった・・・可能性が0ではないことが」

姉であるはずなのに姉と思われていない。
形だけの姉さんと呼ぶ声、そんな事はあるはずはない、でも可能性は0ではない。
それがどれほど恐ろしい事か・・・

「そんな時にこの前の事件が起きた。
 あなたがあんな事になってスカーレット姉妹も門番もいや、紅魔館内の者達皆が我が事以上のように大慌てになっていた。
 私はその時気づいたよ、あぁ十六夜咲夜はこれ程までに皆から慕われているのかということを。
 そして自分と照らし合わせた時、私は本当にわからなくなってしまった。
 もしも私が同じような状況になったら妹達は本気で心配してくれるだろうか、
 本当に私は妹達から姉として信頼されているのか、私を姉として見てくれているのか、
 考えれば考えるほど考えたくない思考の深みに嵌ってしまっていた」

「それで・・・羨ましいと?」

「目の前であんな風に家族、いや、それ以上かもしれない繋がりを見て、つい、ね。
 こんな事を考えてしまっている私は、長女失格だな」

ルナサが苦笑した。
しかしまた、すぐに俯いた。

「今じゃ妹達の顔を見るのが怖い。
 あの笑顔の裏に何を私に思っているのか、と考えるだけでいてもたってもいられなくなるくらいに。
 わ、私は、私はどうすればいいのだろうか・・・?教えてくれ、咲夜!」

ルナサが何時の間にか目じりに涙を聞いてきた。
もはや自分でも何が何だかわからなくなっているのだろう。
考えれば考えるほど抜け出せない深みに今この子はいる。

「はぁっ・・・まったく、真面目な子っていうのは本当に厄介な悩みを抱えやすいのね」

しかも思いつめるまで思いつめてきっかけが無いと解決策が見出せない。
自分の中だけで解決しようとするからだ、悪いとは言わないが、手遅れになる場合もある。
この子はその前に私に打ち明けてくれたからまだいいけどね。

「う・・・すまない」

「ふむ・・・あ、いい事思いついたわ」

ちょっと荒っぽいやり方だが。

「いい事?」



「えぇ、ルナサ、ちょっとあなたをしばらく紅魔館に拉致させてもらうわ」

「は・・・?」





と、いうような流れで現在、紅魔館の客室にルナサを客として強制的に泊めている。
無論、私がいた形跡は消してある。
チョコレートシフォンケーキは仕方ないのでメイドや美鈴にあげた。
お嬢様やパチュリー様には事情を話した。
お二人とも咲夜は本当におせっかいねぇ、と笑いながらおっしゃった。
かもしれません、と私は苦笑いするしか無かった。
ついでに何が何だかわからないで連れてこられたルナサは可哀想なくらいオロオロしていたのは面白かった。

さて、これからどれだけ計画通りに事が進むか。
ちょっと楽しみである。






△月&日

ルナサ拉致1日目。
やはりルナサは落ち着かない様子。
少しは落ち着きなさいよ、と言ってもやはり妹達が心配のようだ。
まったく、いい姉というか心配性というか・・・
姉っていうのはそういうものなのかしら?
お嬢様も妹様を最近かなり溺愛しているご様子だし。
ここだけにしか書けないがかなり不器用ではあるが。

それと美鈴に話し忘れたので話しておいた。
他言無用と言っておいたが心配である。
その時また居眠りこいてたのでリベンジも兼ねてメイド式ジャーマン・スープレックスを再び決めた。
うむ、今日のはよかった、調子は戻ってきているようだ。






△月$日

ルナサ拉致2日目。
そろそろだろう、動きがあるのは、と思っていたら珍しく上白沢慧音がやってきた。
パチュリー様の図書館で調べたい事があるそうだ。
パチュリー様は珍しく外出していたが上白沢慧音や八雲藍のような良識のある者は入れていいと言われている。
該当者が本当に少ないのはきっと気のせいだろう。

「そういえば今朝プリズムリバーの末の子がきてな。
 何でも長女が行方不明だそうだ」

やはり動き出したか。
私は初耳のように何かあったのか?と聞いてみた。

「私にはわからないし、向こうも何が何だがわからないようだったが・・・
 何か妙な事にでも巻き込まれてないといいのだがな」


ごめんなさい、妙な事に巻き込んでます。とはさすがに言えないわよねぇ・・・






△月☆日

ルナサ拉致3日目。
昨日の上白沢慧音の話からこちらにも伺いがくると思ったが案の定、
夕方に次女、メルラン・プリズムリバーがやってきた。

「お久しぶり~先月のコンサート以来かしら?」

そうね、と私は返した。
それで何用か、と私は訪ねた。

「この前、姉さん来たわよねぇ?
 その時何か変わったことなかった?」

「んー私は気づかなかったわねぇ、怪我人だったし。
 何?何かあったの?」

昨日と同じように何も知らないかのように訪ねた。
美鈴が見たら咲夜さんは腹黒です、とか言い出してるかもね、と今は思う。

「うん、聞いたかもしれないけど姉さんいなくなっちゃってね。
 それで色んな場所探し回ったり見た人いないか聞き回ってるのよ」

どうやら妹達は姉の身を心配はしている様子。
何だ、ちゃんと姉妹じゃない、と思った、が・・・
心配?と聞くと、

「そりゃ心配よ、コンサートができなくなるじゃない。
 それに家事だって私とリリカじゃできないし、困ってるわ」

という返答が返ってきた。
これはちょっときつく教えてあげないといけないようだ。
状況を見てどうしようか決めようと思ったが、手段は決まった。

最終的には・・・ルナサ次第ね。



その日、メイド達の食事を作っているとルナサが厨房に入ってきた。
どうかした?と聞くと、

「何時までも何もせずにしているのも居心地が悪すぎる。
 手伝っても構わないだろうか?」

家で家事を一通りやっているのは知っているのでお願いするわ、と頼んだ。
事実ルナサの料理の腕は確かなものだった。
メイドとしてこのまま雇いたいところだ。

「・・・楽しいな」

シチューを作りながらルナサが呟いた。

「楽しい?」

「あぁ、こうして誰かと料理を作ったことなんか無かったからな。
 誰かと一緒に作ることがこれ程楽しいとはな・・・
 妹達に家事を教えて、そして一緒にやればよかったのかもな・・・」

ルナサが過去を見るような遠い目をしていた。
もしもそうしていたならばルナサはこれ程悩むことは無かったかもしれなかったわね。

「手が止まってるわよ、動かしながら聞きなさい。
 今日、メルランが来たわ、あなたを探しに」

「え!?」

ルナサが驚きのあまりにこちらを見た。
そして手が止まってる、という私の言葉に慌てて野菜を切る作業を再開した。

「もちろん連れてきた本人がここにいる、なんて言ってないけどね。
 でも、理由は自分の為って感じだったけど」

ルナサはそうか・・・と言って俯いた。
野菜を切るスピードも落ちている。

「それでね、ルナサ。
 私は明日、ここにあなたの妹二人を呼ぶわ。
 理由はそうねぇ・・・メイドになれと強引に拉致った、とでもしておくわ。
 そこであの子達の本心を聞く、あなたをどう思ってるかを」

「それじゃああなたは悪役じゃないか・・・そんなことを私のせいで・・・」

「いいのよ、別に憎まれ役は慣れているし。
 あなたも考えておきなさい、これからどうしたいのかを。
 場合によっては本気で私はあなたをメイドにするかもしれないから、あなたの意思に関係無くね」

最後だけは嘘だ、たぶん。
明日で全ては終わる、さて、精々嫌なメイド長にでもなりますか。






△月★日

朝に美鈴に言ってプリズムリバー邸まで行ってもらった。
昨日咲夜さんとあなたたちの姉さんが一緒にいるところを見た、というようなことを伝えさせる為だ。
今日は美鈴には非番を出してある、まぁ余計なことをしないようにという意味も含めてだが。

「お嬢様、少々騒がしいことになるかもしれませんがその時はお許し下さい」

先に妹様、パチュリー様に言った事をお嬢様にもお伝えしておく。
もしかすると弾幕勝負、さらにはそれ以上の事が起きるかもしれない。
館内でする気は無いが強制的に行われる場合も考えられる。
その時はお嬢様にご迷惑をかける可能性が高い。

「なんならその時、私がその場に立ってもいいんだけど?
 最近暇だったからねぇ・・・体が鈍っていそうだし」

「いえ、それには及びません。
 自分で撒いた種は、自分でなんとかします」

お嬢様は笑みを浮かべながら咲夜は本当におせっかいねぇ、とおっしゃった。
本当に自分でもそう思います。


「ルナサ、あなたの妹達が来ても決して私が呼ぶまで出てきては駄目よ?
 あなたにも言いたい事があるだろうけど、私が呼ぶまで我慢なさい」

客室のルナサにも事前に釘は刺しておく。
真面目すぎるこの子の事だ、いの一番で行って私が悪かったんだーとか言い出しそうだし。
それでは問題の解決にはならないのだ。
ルナサはあぁ・・・と落ち着かない様子で言った。
さて、妖精メイドにも近くには寄るなと言っておいたし、これで準備は万全か。

と思ったとき、門番にいる妖精メイド達から2人が来たという情報が入った。
事前に言っておいた部屋に通しなさい、と返した。

さて、あまり勝負事にはしたくないけど・・・どうなるかしらね。
私はそんな事を思いながら二人を連れてくる部屋に向かった。



私は二人を案内したメイドを下がらせ、二人を椅子に座ったら?と言った。
彼女達は何も言わずに座った、対面に私は座る。
テーブルを挟んで見据えあってる今の空気はあんまりよろしくない。

「で、何の用かしら?あぁ、ルナサが見つかったのかしら?」

「とぼけた事を言わないで、門番使って私達のところにわざわざ自分の場所を教えるなんて
 本当にわざとらしい、人様舐めてるでしょ?私達騒霊だけど」

リリカ・・・いや、長いから三女にしておこう、が睨みながら言う。
さすがに美鈴じゃ怪しすぎたか、とは今更だが思った。

「それで、なんで姉さんがここに何日もいるの?
 そんな事は聞いてないし、第一あんたは私に知らないと言った。
 いったい何を企んでるのよ?」

「企む?そうねぇ・・・ただ単に最近メイドの質が落ちてきて大変なのよ。
 それで優秀な人材をスカウトしようかと思ってたんだけど中々いなくてねぇ・・・
 そんな時にあなた達の長女と会ったからスカウトしたくなったのよ。
 プリズムリバー邸で家事を一人で全部やってたっていうし、これはいいと思ってね」

「それで姉さんをスカウトする為にここに呼んだってこと?」

「逆ね、私があなた達の家に行ったの。
 でも困った事にあなた達の姉さんは了承してくれなかったわ」

「それはそうよ、だって私達の姉さんだもの」

三女が胸を張って言った。
しかし次女はまだ睨みつけながらそれで?と聞いてきた。
ふだんのイメージからは想像できない目つきだった。

「だから・・・ちょっと紅魔館にまで連れてきて了承するまでいてもらおうかと思ってね。
 最初はかなり抵抗してくれたけど今じゃかなりおとな「あんた!!!」・・・人の話を遮るのは失礼よ?」

私が口からでまかせを言っていると次女に遮られた。
二人ともいい表情だ、見たことが無いからね、怒った顔なんて。

「つまりあんたは姉さんを無理矢理ここに連れてきて監禁してるってことでいいのかしら?」

「あら、人聞きの悪い事を言うわね、この末っ子は。
 私は酷い待遇なんてしてないわよ?えぇ、たぶん」

ふふっと私は笑った。
それは目の前の二人の怒りをさらに倍増させるのには十分過ぎるほどだった。

「返して、私達の姉さんを」

次女が立ち上がった。

「嫌と言ったら?」

「あんたをここで殴り倒してでも連れて帰る。
 この前あんた頭やられて気絶したって言うじゃない、今度は気絶だけじゃ済まないかもよ?」

三女も立ち上がった。
いい感じに彼女達はヒートアップしている。
さて、それじゃあそろそろクールダウンさせる頃合か。

「ふぅ・・・別に連れ帰るのは構わないけど
 あなた達の姉さんが素直に帰るかしら?」

「・・・・・・どういう事?」

次女が怪訝な顔になった。
とりあえず座りなさい、と二人を座らせる。

「ここにいても帰っても同じなら待遇がいいほうがいいでしょ?」

「同じって・・・どういう意味よ!?」

「言葉通りよ、末っ子。
 あなた達の家で家の事を全部やってるのは誰?
 あなた達が普段色々と頼み事をしているのは誰?
 あなた達はその人に心から感謝しているのかしら?」

うっ・・・と二人は一転して動揺して目を合わせなくなった。

「家の事を自主的にとはいえ全部やっている、なのにあなた達はそれを当たり前と思い手伝わない。
 あなた達が頼んだ事はみんなやってくれる、でもあなた達はそれに対して感謝の心も無い。
 その人はこう思ってるんじゃないかしら、妹たちにとっては自分は単なる便利屋なだけじゃないかって。
 私のような使用人と同じような感じなんじゃないかって」

「そんなちがっ・・・」

「違うって?少なくとも私はそうは思わない。
 内情を知って私はあなた達が自分達の姉さんとしてルナサを信頼しているとは思えない。
 こんなの姉妹じゃないわ、あなた達がルナサを姉と言える資格があるの?」

三女の言葉を遮って私は続ける。
私も失礼ではあったがそんなのは忘れることにした。

「あなたに何がわかるっていうのよ・・・そんな知った風なことを!」

「あんた昨日自分の都合しか考えてなかったでしょ?
 自分が困ってるからルナサを探してただけでルナサを心配して探してたんじゃないんでしょ?」

「そんなことは・・・そんなことはない!」

聞きたくないという感じに耳に手を当て、顔を伏せ、床に蹲る次女。
三女は何て事を、と言った目で私を見て、自分の姉に寄り添った。
私はそれを見下ろすような感じに立ちあがった。

「そんなあなた達に使われるよりも紅魔館で働いていたほうがよっぽど幸せじゃない?
 ここならそんな苦痛を味わう事も無い、そんな思いもしなくていい」

忌々しげに三女が睨むが私は続けた。
目じりに涙を浮かべたその顔をしっかりと見て私は目をそらして溜め息をついた。
どうやらここまでのようだ。
どうにも廊下からこちらを伺っているルナサがそろそろ痺れを切らしそうだった。
私も駄目ね・・・非情になりきれなくなってる。

「ふぅ・・・あなた達ねぇ・・・赤の他人の私にここまで言われてしっかりと言い返せないなんて
 本当にルナサに謝って反省するべきよ?
 あなた達の姉は本当にあなた達の事を思って今までやってきたんだから」

二人が恐る恐る私を見出した。

「いい事?姉だからって甘えすぎるのは駄目よ。
 あなた達は3人だけの家族で姉妹なんだから、助け合わなきゃでしょ?
 少しはルナサの負担も減らしてあげなさい、あなた達が本当に彼女を思うなら、ね」

二人はゆっくりと頷いた。
何だか自分がちょっと年寄り染みてるなぁと今更ながら思う。
内心ちょっと自己嫌悪。

「さて、と・・・それじゃ入ってきなさい。
 もう待ちきれないでしょうし」

その言葉を聞いてかルナサが入ってきた。
涙を零しながら。

「「姉さん・・・!」」

「ごめん、弱い姉さんでごめん・・・
 私が悪いんだ、私が妙な事を思ったりしたからこんな・・・」

「違う、私達が悪かったの!
 私達が・・・何でもしてくれる姉さんに甘えてたから・・・」

「姉さんの言うとおりだよルナサ姉さん・・・
 私達が間違っていたんだよ・・・私達が・・・」

ルナサが見ていられないという感じで二人を抱いた。
それに抱かれた二人もまた泣き出した。
私は時間を止めて部屋から出た、泣き終わるまでは、話し合いが終わるまでは、私はいないほうがいいだろう。



「どう?問題は解決した?」

部屋から出た私を待っていたのはお嬢様だった。

「これからですよ。
 これからあの姉妹は本当の姉妹としてスタートするんですよ」

「そうかもしれないわねぇ・・・
 残念じゃない?優秀な人材が手に入らなくて」

意地悪そうにお嬢様は微笑んだ。

「そうですねぇ・・・確かに残念かもしれません。
 でも私はメイドよりも今まで通りの幽霊楽団のままがいいですかね。
 あの子達の演奏、私は好きですから」

お嬢様はそう・・・とおっしゃって私から視線を外し、一度彼女達の部屋のドアを見て、
咲夜、お茶をお願い、喉が渇いたわ、とおっしゃってバルコニーに向かった。
私ははい、と答え、厨房に向かった。



その後はまぁお互い納得いくまで語り合ったであろうプリズムリバー姉妹は
私とお嬢様のところへ本当に迷惑をかけた、と謝りに来た。
全部話したのだろう、今までの事を。
お嬢様は気にするな、と答え、私は無言で箱を渡した。
中身は前に作って持っていたのと同じチョコレートシフォンケーキだ。
次女と三女は悪い事をしたと謝り、ルナサは本当に世話になった、と言って帰っていった。

これにて一件落着だが今日記を読み返したりしたが私が事を荒立てたようにしか見えないというか
勝手に首突っ込んでったようにしか見えない。
ちょっと自分の他者への関わり方を考え直さないと行けない気がした。







「あら、もうこんな時間。
 早めにお風呂行こうと思ってたけど随分掛かっちゃったわね・・・」

時刻はいい感じに深夜に入った頃を指している。
ちょっと遅くなったがお風呂に入ろうと思い、書き終えた日記をいつもの隠し場所に仕舞う。
この時間帯ならたぶん誰もいないだろう。

大浴場に着くと、どうやら先客がいる様子、服からすればパチュリー様のようだ。

「あら、咲夜。
 こんな遅くにとは珍しいじゃない」

やはり中にいたのはパチュリー様だった。

「ちょっと仕事をしてたらこんな時間になってしまいまして。
 ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「別に構わないわ」

時を止めて先に体と頭を洗い、そして時を動かしてパチュリー様と同じお風呂に入る。
ふぅ、極楽極楽。

「今日もまた誰かさんのおせっかいで騒がしかったわね」

ぐっ・・・何も言えない。
自分のせいなのでさらに言葉が刺さったような感じがした。

「最近ちょっとおせっかい過ぎなんじゃなくて?
 ただでさえここは問題児ばかりだっていうのに」

その中にあなたも入ってますよ、とは言えない。

「そう思います・・・」

「まぁ・・・そういう性分かもしれないわねあなたは。
 そうじゃなければここまで紅魔館内を変える事はできなかったかもしれないし」

「そんなに変わりましたか?」

パチュリー様に訊ねるとえぇ、と頷いた。

「こんなに人が来て、こんなに騒がしい紅魔館は前は想像できなかったもの。
 それにレミィやフランだっていい方へ変わって・・・いえ、成長してるわ。
 全部あなたのおかげよ咲夜、紅魔館がここまで変われたのは」

そう言われると私は照れる他無かった。

「でも、あまり無理はしない事ね。
 この前の一件でのあなたが気絶している間の事はプリズムリバーの長女辺りから聞いてるんでしょ?
 あなたに何かあると紅魔館は大変な事になるんだから」

よくご存知で、と私は思った。
さすがパチュリー様といったところか。
私はわかっております、と答える。
パチュリー様はそれじゃあね、と言って湯船から出て、シャワーを浴びて風呂場を出て行かれた。

私は肩まで浸かりながらこの紅魔館に来れた事、働けている事を本当によかった、と私は思った。
願わくば、こうして長くいられるようにと思いながら私はく~っと上に腕を伸ばした。

明日も頑張ろう。
今回は錠剤薄め?
毎度毎度錠剤噛み砕くと思うなぁ!と咲夜さんがおっしゃっておりました。

というかどおりでラムネ買いに行こうと思わなかったわけだ、と思ったのは内緒。


追記:誤字を修正。
それと内容について日記から逸脱しすぎているとのことですが、
4にきて書きたい事を暴走したような形で書いてしまっていました、申し訳ありません。
今後の課題として回想部分と日記部分をわかりやすく両立できるよう頑張っていきたいと思います。
ご指摘、ご意見、真に感謝しております、ありがとうございました。

さらに追記
誤字修正完了。
さて3と4は何時書き直せるやら・・・
黒子
[email protected]
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コメント



0.2710簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
1から読みましたが
これはなんとも良いメイド長><
7.70名前が無い程度の能力削除
面白かったけど、日記とつくならもっと日記らしく書いたほうがいいと思います。
9.60名前が無い程度の能力削除
回想と日記が交互になってるのかしら?
もうすこし分かり易く分けたほうがよろしいかも。

12.80名前が無い程度の能力削除
咲夜さん…大変だな。
もうPAD長なんて言わない…!
15.50名前が無い程度の能力削除
日記ではなく回想ですな

小悪魔、よく生きてたなあ
17.100煉獄削除
咲夜さん素敵すぎます!この日記は素晴らしいです。
今回は三姉妹にたいしてのお話がメインでしたね。
これからそれぞれ役割分担していくと良いですね。
次回のは・・・・蓬莱二人の話でも出てくるかな?
それとも神様家族かな?
なんにしても次回作も楽しみです。
20.100名前が無い程度の能力削除
なんだか咲夜さんがとても人間らしく感じました。(人間ですが)
素直に感動しました。
21.60削除
日記と回想の区別をつけた方が良いかもしれませんね。
ここからここまでは日記,ここからは回想、みたいに。

後半のお話は自分も省みることが必要かもしれないと思わせられました。
ルナサ=母親,メルラン&リリカ=自分のようでね。
25.70名前が無い程度の能力削除
他の方が既に書いていますが、日記と回想が混ざってしまっているので考えた方がいいかもしれません。

他にも、せざるおえない→せざるをえない、や、どうり→どおり、など少し気になる部分も。
お話の内容は良いと思ったので次も期待しています。
26.90名前が無い程度の能力削除
あぁ、咲夜さんって本当に大変なんだなぁ。
プリズムリバー三姉妹の話、恥ずかしながら人事とは思えぬ。
下のコメと被るけど、ルナサ=母親、メルラン&リリカ=自分 ですわ…。
28.60三文字削除
むう、1の頃にあった咲夜さんの胃にいつ穴が開くかという焦燥感が・・・・・・
あの、いつストレス性胃炎になりそうな咲夜さんがまた見たいですw
31.50☆月柳☆削除
ちょ、もう日記じゃないw
追記で、頑張るっぽいことを書いてるので期待して待ってますね。
内容は面白いと思いますので。
36.90天福削除
序盤のお嬢様と妹様が可愛いなぁ、畜生っ。
それにしても、この咲夜さんは良い咲夜さんだ。
今回はラムネ味を噛み締めなくて良かったですねw
50.80やまびこ削除
朝に弱いお嬢様と妹様に萌え、
プリズムリバー姉妹の姉妹愛復活に感動し、
世話焼きな咲夜さんに喝采を送りました。
51.無評価煉獄削除
はい、どうも煉獄です。
一字余計な部分を見つけたのでその報告でもと・・・。
氏が見ていることを願って報告いたします。

>出てくるる気配が見えない。
この文章で「る」が一つ多いですね。
こんなに日数が経ってから見つけるのもどうかしてるとは思うんですけどね・・・。(苦笑
以上、報告でした。(礼
54.無評価煉獄削除
ういっす、どうも。
また読みたくなって読み返していたんですけど、
どうにもこうにも誤字を発見してしまいました。
どうしてこうもいっぺんに発見できないかなぁ……。(汗)

とりあえず報告します。
>今思い出してもよく生きてたなぁと私と思う。
こうなっていますが、正しくは「私は思う。」になりますよね。
確認しに来るかどうかは解りませんが報告は以上です。(礼)
59.無評価黒子削除
今さっき気づいて修正余裕でした、すんません・・・!