Coolier - 新生・東方創想話

冷たい粉雪降ったなら

2008/03/03 06:55:57
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寒さもふたりで半分こ



「カエルのエサにしてあげるわ、雪見大福!」
「死んで賢くなりなさい、スイバカー!」

そういう訳で椛が境内を駆け回り、橙が藍の尻尾で丸くなった、そんなある日。
秋姉妹の家に朝が訪れた。



「見て見て穣ちゃん、一面の銀世界よ」
「わかってるってば。それより朝ごはんの片付け手伝ってよ、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん、昨日遅くて疲れてるもん」
「はいはい」
「それにしても、あのお嬢様ったら可愛いこと考えるよね」

そう言って静葉は昨日のことを思い出した。


~~~~~

『ごめんください』
『はいはーい。あら、どちらさま?』
『私は紅魔館のメイド長を勤めております十六夜咲夜と申します。本日は静葉さんにお願いがあって参りました』
『私に?何のお願い?』
『私はただ静葉さんをお連れするように命じられただけですので』

少しの間考え込み、夕食の支度をする穣子を振り返る。

『うーん、穣ちゃん、どうしよう?』
『行って来たら?どうせ暇なら持て余してるじゃない』
『でもでも、血吸われちゃうかも知れないのよ?』
『お姉ちゃんは心配しすぎなのよ。あんな乳歯も生え変わってない奴が血い吸えるわけないわ』
『もう、人事だと思って~』

ケタケタと穣子が笑うと、背後から殺気が湧き上がった。
振り返った先には、腕を組み、ナイフをちらつかせる咲夜の姿が。
あまりの迫力に、思わず目に涙が浮かぶ。

『み、穣ちゃん、なんかメイドさんが怖い顔して睨んでるよ?』
『うわ、聞こえてたの?』
『静葉さん、ご招待に応じていただけますね?』
『……しくしく、穣ちゃんの馬鹿~』

咲夜ににっこりと微笑まれ、がっくりと肩を落とすと、涙がるーと流れた。



『ようこそ紅魔館へ。私がレミリア・スカーレットよ』
『初めまして、秋静葉です』

リビングに案内され、レミリアの向かいの席に着く。

『霊夢から聞いたんだけど、貴方、紅葉を司るそうじゃない?』
『うん』
『でも、今は冬だから暇で退屈じゃない?』
『そんなことないよ、雪のおかげで毎日景色が変わるし、冬は空気が澄んでるから遠くまで見渡せて楽しいの』
『そ、そう』

レミリアは目をそらして紅茶をすすった。

『とにかく、貴方に力を振るう機会を用意してあげるから、感謝しなさい』
『?』

意味がわからず首をかしげると、レミリアは椅子から降りてとてとてと窓の前まで歩いた。
そして庭を見渡すと、こちらを向いて話し出した。

『うちの庭木は強いから冬でも葉が落ちることはないわ』
『うん、全部常緑樹みたいね』
『でもね、年中緑じゃ面白味がないのよ。だから色付かせてちょうだい』
『わかったわ、私に任せて』



数刻後、紅魔館の庭は紅と黄色の色鮮やかな姿に変わっていた。

『どう、綺麗でしょ?』
『うわー、素敵ですねー』
『すごいわね……』

美鈴と咲夜が感嘆の声を上げる。

『いかがですか、お嬢様?』
『だめよ、やり直しなさい』
『え?』

不満の声を上げるレミリアに視線が集まる。
レミリアは羽をぱたぱたと動かして浮かび上がると、目の高さをあわせて言ってきた。

『何考えてんの、ここは紅魔館なのよ。黄色なんていらないから全部紅にして頂戴』
『ご、ごめんなさい……』

理不尽さを感じながらも謝ると、後ろでため息をつく従者達の姿が目に入った。

『もう、美鈴もしっかり監督しなさいよね』

そう言うと彼女は咲夜を連れて再び館に戻って行った。
レミリアの姿が見えなくなると美鈴が頭を下げた。

『申し訳ありません。お嬢様の我侭に付き合わせてしまって……』
『そんな、別に私は気にしてないよ』



『素晴らしいわ。やはり紅魔館ならこうあるべきよね』

バルコニーから紅く色付いた木々の姿を眺め、レミリアがうんうんと頷く。

『喜んでくれてうれしいわ』
『さて、何かお礼をしないとね。咲夜』
『はい、こちらに』

いつの間にか、横に咲夜が大きな包みを持って立っていた。

『今日はありがとうございました。お菓子とドレスです』
『いいの?こんなにもらっちゃって?』
『ええ。お嬢様も満足しておられますから』
『わあ、ありがとう』

包みを受け取る時、咲夜が耳元で話しかけてきた。

『ところで、来年の秋、また来ていただけませんか?』
『どうして?』
『紅葉の季節には黄色い葉もほしいじゃないですか』
『うん、わかったわ』

~~~~~


「そういえば、もらってきたお菓子はほとんど穣ちゃんが食べちゃったよね?」

台所でお茶を汲みながら静葉が話しかける。

「お姉ちゃんは綺麗なドレス貰って来たからいいでしょ」
「あら、穣ちゃんも着ていいのよ?」
「お姉ちゃんのサイズだと胸がきついのよ」
「ひ、ひどいわ、稔ちゃん」

胸を押え、涙を浮かべる静葉。
そしてのろのろと茶の間に戻ると炬燵に入った。

「ちわー、クロネコヤクモでーす」
「お姉ちゃん、私手が放せないから出てちょうだい」
「はいはーい」

静葉が勝手口を開けると、藍がダンボールを抱えて立っていた。

「ボインかサインお願いします」
「ここね」
「どうもー。今後とも、よろしく」

一礼して藍はスキマに消えていった。

「誰から?」
「百合黒ちゃんからみたい。ちょっとリリー起こしてくるね」

静葉が一番奥の部屋の戸をあけると、リリーホワイトが毛玉に包まって寝ていた。

「リリーちゃん、起きて」
「うー、もう春ですかー?」

目をこすりながらリリーホワイトが起き上がる。

「まだ冬だけど、黒ちゃんからスキマ便が届いたの」
「ほんとですか?」

二人が土間に行くと、すでに穣子が荷物を開けていた。

「見て、蟹よ蟹!今夜は鍋に決定ね!」
「穣ちゃん、勝手に開けちゃだめじゃないの」
「だって、痛みやすい物入っていたらまずいじゃない。はい、手紙も入ってたわよ」
「ありがとうです」
「なんて書いてあるの?」
「えーと、
『ホワイトへ。この前は写真送ってくれてありがとう。
 三途の川で獲れた蟹を送るからみんなで食べなさい。
                        リリーブラック
 P.S. もうすぐ春ね。会えるのを楽しみにしてるわ』」

手紙を読み終えるとリリーホワイトはにへらと頬を緩めた。

「黒ちゃん喜んでくれたみたいで良かったです」
「春になったらまた写真撮ってもらって送ろうよ」
「そうするです」

そう言ってリリーホワイトはふわ~と大きなあくびをした。

「まだまだ眠そうね」
「だってまだ冬です~」
「春になったらしっかりしないとだめだよ?」
「大丈夫です。任せてくださいです~…」

そう言ってリリーホワイトは自分の部屋へと戻って行った。

「ところでお姉ちゃん、今日なんか予定ある?」
「別にないけど、どうしたの?」
「納屋のチェックを手伝ってもらいたいのよ」
「いつも穣ちゃん一人でやってるじゃないの」
「今年は豊作だったから目が行き届かないのも多いのよ」
「うーん、お姉ちゃんお昼寝したいの」
「お姉ちゃんはお芋が食べられなくなってもいいの?」
「お芋ばっかり食べるのは嫌よー」
「そんな事言うなら、欲しがってもあげないからね!」

静葉が炬燵の上で伸びをすると穣子はぷんぷんと怒りながら庭に下りた。

「穣ちゃん、寒いから閉めてってよー」

静葉の言葉を無視して穣子は納屋に入っていった。



「今年は豊作だったから、冬でもお腹一杯ね」

天井から吊るされた干し芋の列を見て、にんまりと笑う穣子。

「今年は冬の妖怪が大きな顔してるから、なかなかいい出来だわー」

一通り見て回り、今日の分を抱えて納屋から出ると、幽々子がいた。
穣子の胸元にある芋を見て幽々子は笑みを深めた。

「美味しそうね、それ」
「あ、あげないわよ」
「ちょっとぐらい、いいじゃな~い」
「あんたのちょっとはちょっとじゃないって分かってんのよ!」
「強情ね、実力行使に出るしかないかしら?」

にらみ合う二人。

「待ちなさいです!」

突然、リリーホワイトが襖を開けて現れた。

「穣子さん、今助けるですよきゃあー!」

そして庭に飛び出すと屋根から落ちてきた雪に埋まった。

「…………」
「…………」
「さあ、観念なさい!」
「絶対に渡さないわ!」

しばしの沈黙の後、再度二人はにらみ合う。

「こうなったら仕方ないわ、殺してでも奪いとへぐぅ!?」

突然、頭を抱える幽々子。
その後ろには雪玉を抱え、小躍りする静葉の姿があった。

「よくもやったわね、この勝負受けて立つわ!」
「亡霊なんかに負けないもん」

雪合戦を始めた二人を呆然と眺めていた穣子だが、芋を後ろに置くと雪玉を作り、幽々子に投げつけた。

「ちょっとちょっと、二人がかりは卑怯よ!」
「成仏しなさい、この芋泥棒!」
「う~、もう怒ったわ!」
「ぎゃあー!?」

幽々子が投げた雪玉はつららに当たり、落ちたつららが穣子に刺さった。
穣子がばたりと倒れ、静葉は目を丸くしておろおろとうろたえる。

「あわわ……み、穣ちゃん、しっかりして~」
「ふふん、ここの出来が違うのよ、ここの出来が」

幽々子は邪悪な笑みを浮かべ、自分の頭をとんとんとつついた。

「……うふふふふふふふ」

倒れたままの穣子が低い笑い声を発する。

「やってくれるじゃない。覚悟はできているでしょうね」

穣子がむくりと起き上がり、つららを引っこ抜くと、のしのしと歩き始めた。
二人はあっけにとられてその行方を見守る。
静葉の作った大きな雪だるまの前に立つと、穣子はそれを頭の上まで持ち上げた。

「うそぉ!?」
「穣ちゃん、やめてやめてー!」
「神の力を思い知りなさい!」
「力ってそういう意味じゃ――むぎゅ!」

穣子の腕が容赦なく振り下ろされ、幽々子は雪に埋もれた。
その上に『亡霊の墓゛』と書いた板切れを深々と突き刺し、満足そうな笑みを浮かべる。

「ありがとうお姉ちゃん、助かったわ」
「くすん、頑張って作ったのに……穣ちゃんの馬鹿ぁ……」

穣子が振り返ると静葉はめそめそ泣きながら雪兎を作っていた。

「ご、ごめんお姉ちゃん。そんなにショックだった?ほら、私も手伝うから、もう一度作ろ?」
「うん……」

そして二人は雪玉を転がし始めた。



「ごめんくださーい」
「あ、早苗ちゃん、こっちこっち」

声のする方に目を向けると、神様姉妹がかまくらの中で炬燵に入り、芋を食べていた。

「早苗ちゃん、今日はどうしたの?」
「突然ですが、今晩うちで宴会を開くので、ご招待に来たんです」
「どうしよっか、穣ちゃん」
「いいんじゃない?晩ごはん作る手間も省けるし」
「それじゃ、ご参加ということでよろしいですね」
「うん、楽しみにしてるわ」

神社へ戻っていく早苗に手を振ると、二人はかまくらから出た。

「お姉ちゃん、さっそく新しいドレス着て行こうかな?」
「遅くなっても知らないわよ」
「時間ならまだまだあるよ、穣ちゃんもたまにはおめかしして行こ?」
「でもねえ……」
「いいじゃない。穣ちゃんの可愛いところ見せてあげようよ」
「もう、お姉ちゃんたら……わかったわよ」

腕に抱きついて顔を覗き込む静葉に、穣子はため息をついて折れた。

「ところで、お土産は何がいいかしら?」
「お芋はどう?」
「いやよ」
「それじゃあどうするの?」
「もみじ饅頭なんかどう?この前いろいろと好評だったじゃない」
「うん、そうしよっか」

仲良く家の中へ入っていく二人を、大きな雪だるまが見送っていた。





~蛇足~




夜も更けた秋姉妹の家では妖夢とリリーホワイトが炬燵に入って話していた。

「その写真ならこの前、閻魔様の所に行った時見せてもらったわ。おめかししてて可愛かったよ」
「きゃー、恥ずかしいですー」

妖夢が笑うと、リリーホワイトは頬に手を当て、もう片手をぶんぶんと振った。

「ちょっとよーむー、なにのんびり話してるのよー」
「なにって、幽々子様が起きるのを待っていたんですよ」
「待ってないで助けなさいよ、おかげで凍えちゃったじゃない!」
「たかが雪に埋もれたくらいでお助けしたら幽々子様のカリスマが傷つくと思いまして」

復活してぷんぷんと怒る幽々子を平然と見返して妖夢は言う。

「……ね、ねえよーむ、なんでそんなに機嫌悪いの?」
「きっと幽々子様が珍しくお使いに出てくれたと思ったらそのまま帰ってこなくて、結局私がやるはめになったからでしょうね」
「そ、そうなの、悪かったわね」
「しかも他所様の家に間で迷惑をかけるなんて、なに考えてるんですか。大体幽々子様は少し、気が緩みすぎです。もっと白玉楼の主らしく……」
「ちょ、ちょっとよーむ」
「なんですか?」

幽々子に話を遮られ、妖夢は渋い顔をする。

「あなた最近閻魔様に似てきたわ」
「きっと幽々子様の代わりに閻魔様のところへ行く機会が増えたからでしょうね。丁度いいですから今日はこの件についてもじっくり話し合いましょうか」

妖夢はにっこりと微笑み、幽々子はだらだらと冷や汗を流す

「で、でも他所様の家に居座っちゃ失礼よ?」
「私、もう寝るので、留守番してくれると助かるです」
「だそうです。さ、そこに座ってください」

奥へ去って行くリリーホワイトを恨めしげに見送り、幽々子は妖夢の前に正座した。
妖夢の説教は秋姉妹が帰ってくるまで続いた。
その時の様子をスキマ妖怪はこう語る。

「べそをかきながら必死に謝る幽々子ったらもう可愛くて可愛くて、助けるどころじゃなかったわ」



もうすぐ冬が終わる……という訳で春が来る前に急いで仕上げました。

今回のコンセプトは冬の秋姉妹&リリー、ゆゆ様に襲われる穣子です。
私の中では、気弱な静葉とたくましい穣子というイメージがあるのですが、どうでしょう?

蛇足は推敲の最中に生まれた妄想です。
SAM
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コメント



0.330簡易評価
3.無評価名前が無い程度の能力削除
冬が来ても暗くならない秋姉妹とは新鮮ですね。
6.60三文字削除
う~ん、そこはかとなく⑨臭がする・・・うん、たぶん気のせいだ
それとゆゆ様・・・