千年を生きる都がある。
近代的高層ビルは条例により規制され、未だこの国を風化させることなく伝える古い都。
京都だ。
数多くの観光資源が存在するが、その中でも銀閣寺――東山慈照寺に行く客は少なくない。
京都駅からそこに向かう途中に、巨大な敷地がある。
敷地の主は大学だ。自治機能を持ち、総面積で京都御苑に匹敵するそれは一つの町と言える。
町には飲食店が多くあり、そのうちの一つにカフェがあった。
今、そのカフェの中には従業員とそこそこの客がいる。
しかし外気に包まれるオープンテラスには客一人しかいない。
白のブラウスに黒のスカート。宇佐見蓮子だ。
彼女はテーブルの上、先ほどまで向かいに座り意気揚々と話していた友人の土産物を見ていた。
文句と共に出る土産物の主の名は、
「……ったく、メリーも持ち帰ればいいのに」
マエリベリー・ハーン。――メリーと蓮子は呼んでいた。
蓮子は両肘をつき顎を支えた姿勢で、退屈そうに見ている。
洒落た丸テーブルの上、あるものは全部で四つ。
一つはアイスコーヒーの入ったグラス。上部に溶けた氷の層が出来ている。
それと、メリーの置き土産が三つ。
紅い屋敷でもらったクッキー。
竹林で拾った天然の筍。
同じく竹林で拾った、大鼠か燃える女の子の落とし物らしき紙切れ。
以上四つの品の内、一つ目は自身が購入したものだ。これ以外はすべて彼女のものではない。そして、この世界のものでもない。
「……夢の世界、か……」
メリーはそう言った。これらは夢の世界からの土産品だと。
それに対する今の思いを二文字に集約すると、
「……違う」
違う。これは質量があり現実に存在する現実の物体だ。有り得ない、と否定する。
そうする理由は簡単なものだ。
――質量保存の法則に反している。
この世界の質量は一定だ。増加も減少もすることなく、どんなものに変化しようとも総量は変わらない。故に、夢の世界から持ち込んだとなればこの世界の質量は増加したことになる。
「不可能だよ、それは」
否定の上塗りにと、前言を修飾して呟く。
仮に質量が増加した、ということは別世界の存在を確定させるものだ。
別世界の存在は提唱されてきたが、証拠のないそれらは実証されることはない。
……だが、今ここにあるのは求められてきた証拠物品だ。
蓮子はそれを否定する。違を唱えることで。
この世界の質量は一定でなければならないと、自身の理性が訴える。
理性の納得のためには、唱え続けなければならない。
だから、否定を積み重ねた。
「そう、そもそもこの筍だって、珍しいけど存在しないわけではないし。紙なんてまだ買えるし、クッキーも買うなり作るなりすればいいし」
そう言って一口、クッキーをほおばってみる。
「……甘い」
感じるのはそれだけではない。
メリーの作った味とは違う、しかし市販品には無いおいしさを感じる。例えば、
「本物の卵や小麦粉を使ったみたい……」
合成には存在しない、本物という言葉が生み出す味がする。
だが本物を食べたことがない蓮子には、気のせいとも受け取れるものだ。にも関わらず、蓮子はそれを否定しない。
否定する気が起きない。
すべてを納得してしまった。真実だけが持つ、本物の味に。
なんだか完璧な理論でも見せつけられた気分だ、と蓮子は思う。
しかしそれでも、理性は納得しても納得できない部分がある。
それは感情だ。
しかし原因がわからない。
何故、自分はこうも感じなければならないんだろうか?
そこからさらに自分を探ろうと考えた時、背後に気配を感じた。
「あの、すみません」
声のする方を向くと、カフェの制服を着た女性がいた。
「はい?」
なにか用だろうか、と思い空を見る。
……まだ三時半じゃない。
それを言う前に、店員がまだ言わぬ問いに対して答えた
「土日は三時半で店じまいなんですよ」
申し訳なさそうに言う店員の言葉に、慌ててテーブルの上のものを片付け立ち上がった。
外に出て立ち止まり、改めて頭上を仰ぎ見る。だが空を見るのではない。
「十五時三十一分、か」
太陽を細目で見て、時を口にした。
思っていた以上に考え込んでいたらしい。
カフェには戻れない。かといって他の店に立ち寄れるほど懐に余裕もない。
だが思考の続きを行える場所はある。そこに向け歩みを再開した。
●
大学からそう遠くないアパート。時刻もカフェの一時から遠くない。そして二十世紀から大して変わらない間取りの六畳に蓮子はいた。
蓮子は荷物を適当に置き、ブラウスのボタンを外し始める。
荷物は朝この部屋を出るときに自分が持っていった鞄だけではない。
再生ビニール袋が二つ。一つは筍が顔を出している。そしてもう一つは、
「『天然素材を一切使っていない幕の内』、か……。これ、キャッチコピー考えたライターは頭良くないわね」
スカートを適当に放ったあたりで弁当を手に言ってみる。
しかしその文句で面白半分に自分は買っていることに苦笑してしまう。案外有効なのだろうか?
そもそもこんなものを買った理由は単純だ。
「さすがに昼抜きだとおにぎりなんかじゃ済まないからね」
今日を振り返ってみる。そもそも学生カードを忘れてしまったのが運の尽きだ。
大学ではあれでなんでも買えるが、手元に無ければ仕方がない。かといって家にわざわざ戻るのは億劫だ。僅かな現金で飲み物程度は出せたが腹は満たない。メリーには「カード破産しちゃうから貸しは無しね」と笑いながら言われてしまったし。あの腹黒金髪女め。
その時のメリーの顔を思い出しつつ、幕の内をレンジに入れた。スイッチを入れると鈍い音とともに回転台が動き始める。終わるまで、畳に座って待つことにした。
いったん座ると、
……ようやく落ち着ける……。
落ち着いた頭で、大学の時の記憶を引き出す。
「なんなんだろうなー、これ」
実体があり最も近くにありながら、しかし指し示すことの出来ないこれはなんだろうか?
手を組んで枕にし、上半身を倒して寝転ぶ。背肌に直接畳の感触があり、それが少しくすぐったい。
太陽を見たとき頭上にあった空は、天井の向こうで今は見えない。
時間の分からない中で、引き出された記憶と考えを順に整理してみた。
第一に、理性は納得させられた。証拠が目の前に存在するからだ。
第二に、しかし感情面では納得しがたいものがある。
第三に、ならばその原因はなんだろうか?
それらを踏まえて、思い、浮かぶ言葉がある。
「そもそも夢の世界っていうのがねー」
夢の世界。すなわち異世界だ。
今、自分と同じく部屋にある土産物を理性通り本物であると仮定しよう。
すると、メリーが“夢の世界に行ったという事実が肯定される”。
「――ッ!」
背筋に寒気が走った。上半身を起こす。
見えた。感情の元凶が。
まず、メリーの能力は異世界に渡る能力ではない。
――結界が見える程度の能力――。
特異な能力とはいえ、見えるのと渡るのとでは大違いだ。
己が持つそれは、
……星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力……。
星には恒星や矮小惑星も見える限り含まれるし、月は水に映ったものや新月にも応用できる。
しかし“見える”という単語を“渡れる”とする解釈はどうあっても応用範囲外だ。
ではなぜ渡れるのか?
解釈の問題ではない。能力の強化でもない。だとすれば、
「前提条件が間違っている?」
それは、能力が違うということを意味する。
しかし彼女があえて自分に嘘を言う必要はない。そうだとすれば、残る答えは一つ。
「能力が、変質している!?」
言って驚く。それこそ、有り得ない話だと蓮子は思う。
そう簡単に人の能力は変質するものではない。
しかし、現実はそれらすべてを肯定している。そして、
「何……よ、これ」
手が震えている。否。手だけではなく全身が、だ。
それと共に、感情が真意を語り始めた。
語るすべては、――恐怖だ。
恐れ、怖いと思う負の感情が身体に聞けよと話しかけてくる。
一度答えを言われたら、後に来るのは連鎖的な解答の羅列だ。
今まで疑問に思っていたことが、ただ一つを以てすべてを知るきっかけとなり、気づく。本当に、何を自分が思っていたかを。
――私が恐れているのは、メリーだ。
もし、と仮定する。
もし、彼女の能力が変質していたならば。
もし、その能力が”結界を操る程度の能力”になっていたならば。
もし、彼女がそれを気づいていなかったならば。
もし、彼女がその能力に気づいてしまったならば、どうなるだろうか?
もし、“夢の世界でしか使えない能力”だったならば。
――ならば、気づいてしまえば使えない――!
「戻って来られなくなる」
震える唇で呟く。そして己の知識と夢が結ばれ、想像させる。
想像するのはこの世ならざるものだ。
炎を纏う少女が焦熱に墜ちた罪人を。大鼠が八万四千の怨霊に。
夢の世界が、彼岸に。
彼岸。死者の行く先だ。
生者は行くこと叶わず、行けたとして戻れぬ、還れぬ世界。
蓮子は頭を抱えた。もう思わないよう、押さえ込むように。
しかし思考は止まらない。
メリーは夢の世界だから戻って来られた。目覚めにより。
しかし死者となってしまえば、目覚めることそのものが不可能だ。
嫌だと声無く叫ぶ。
自分でもおかしいと思う。なぜまだ死んでいない友人の死を拒否しなければならないのだろうか。考えすぎだと言いたかった。しかし一度負に落ち込んでしまうと、爆発する感情が言葉の代替に、静かな嗚咽と零れる涙をよこした。
蓮子は泣いた。静かに、溢れる言葉をこらえながら。
頭を抱えうずくまる姿勢、そして精神の疲労は睡魔を呼び起こす。
やがて彼女は、嗚咽の代わりに寝息を立て始めた。
夢の世界で、すべてを忘れようとするかのように。
●
節々の痛みと空腹が蓮子を目覚めさせた。
縮こまった姿勢で筋肉が緊張したせいか。二度三度と伸ばし、強張った身体を徐々に慣らしていく。
「もう私も若くない、か」
笑いながら言う。
動ける程度になったところで立ち上がった。まだ節々は硬いが数分もしないうちに身体は普通に動けるようになるだろう。問題は、
「頭が回らない……なに、してたんだっけ?」
すっきりさせようと、顔を洗いに洗面台に向かった。
備え付けの鏡に映る顔は、
「……ひどい顔」
目尻には少しのヤニがあり、肌は乾いているようだ。
刺激を与えるためにも、少々強めに顔をこすり洗う。
タオルで水分を取った顔に、ヤニはない。
しかし目は充血して赤い。それに引きつったように顔は険しい。
気がつけば節々の硬さはない。顔は洗った。ついでに頭も冷えた。次に思うことは、
「お腹減った……。確か弁当が」
レンジの中には幕の内弁当がそのままあったはずだ。と、何かが引っかかる。
何だろうかと思う内に、足は台所へと進みレンジの扉に手をかけていた。
扉の中の弁当は、やはり冷たくなっていた。
少し考え、再度タイマーをかけ直した。眠気は無いが一度座ると立たなくなりそうなので温めが終了するまで回転する容器を眺めることにした。
回転する幕の内弁当に、昼間からの一連の行動が映る。さながら、夜の車窓に映る街明かりと重なった自分を見るかのように。
思い出される。
「どうしよっか……」
自分に対する問いではない。今はいない友人に向けてのものだ。
後ろを向けば開けられた襖の向こうに座卓が見える。
その上にある未だ袋から出されていない土産物も。
あれが原因なんだよな、と思う。すると心が軋む。
だから関連する考えをしたくない。けれども考えてしまう。
間違いないという確信がどこかにあるからだ。正解であるという確信が。
……つまり自分は、メリーを失う危険に直面している。
何故そこまで彼女を思うのかはさておき、しかし現実にそう思いついてしまっては仕方がない。
解決法は二つある。
介入か。
忘却か。
介入とは、必然的に彼女の能力に関わっていくということだ。
彼女と共に夢の世界へと行くこともあるかもしれない。危険な手法。
下手をすれば自分も戻って来られない方向に、彼女の能力を加速させるかもしれない。
だがその先に解決法があるかもしれない、積極的な方法と言える。
忘却ならばどうだろうか。
すべてを忘れ、夢を夢と思わせたままにする考えだ。
現状維持、という合成語が浮かぶ。
進むことを恐れ、あるいは進むことに意義を見いださないやり方だ。
少なくとも悪くはならない、という消極的方法。
悩む。
悩み。
悩んで――視点が動く。その先にあるのは、
紙切れ。
筍。
クッキー。
それらを入れている袋。
すべては衝動的なものだった。
袋を掴み。一つの場所に向かい、行動し、選択の結果を出す。
机。
閉じた引き出し。
開いた引き出し
袋が入った引き出し。
閉じた引き出し。
再び机。
袋は――テーブルに無い。
思いこませ、何事もなかったように蓮子はレンジ前に戻った。同時に代名詞ともなっている一音が響く。中には温まった弁当がある。
何も無い机の上、温まった漬物を食べた。
……不味い。
噛みしめる。妙に歯触りが良く、温かみのある沢庵が口いっぱいに染みていく。
だが、噛みしめているのはそれだけではないと思う。
罪悪を。
許されない。しかし正しいことをしたと思うその気持ちを喉の奥へと押し込んだ。
●
朝の交通量は多い。休日の風景を見るとよりそう思える。
多くの人は三者に分類される。
通勤者、通行者、通学者だ、その中でメリーは最後に当てはまる。
三様の人々に紛れて校門に入ろうとしたとき、
「おーい。蓮子ー」
メリーの声に歩みを止め振り返ったのは宇佐見蓮子だ。
少し距離はあったが、駆け寄ることなく蓮子に近づく。
「どうしたの蓮子? 泡を食ったような顔をして」
「そんな顔してないわ。そもそもどう慌てろっていうのよ」
「失礼ね。私に会ったぐらいでなんでそうなるのよ?」
「……メリーが先に言ったんじゃない?」
「私? ああ、なんだか苦しそうな顔をしているなーとは言ったと思うけど」
苦しそうな顔のジェスチャーを交えて話す。
「……それは泡を吹く、って言うと思う」
「あー、そうそうそれ」
「少しは梅干しとか食べたら?」
「なんでよ?」
「酸っぱいものとか食べて、経験を積みなさいってこと」
「私は甘いものが足りていないからケーキを食べることにするわ。脳の活動に必要だし」
「へいへい」
校門はすでにくぐった。講義の間なにをして暇を潰そうか、と蓮子は思案する。
「甘いものと言えば」
メリーが次の会話にと、手を打った。
「昨日のクッキーどうだった? 本物の卵とか使っていたと思わない?」
歩みが止まり、暇つぶしのアイディア探しも止まる。
「クッキー? なんの話?」
一瞬、会話が途絶えた。息をする程度の短さだが中断と受け取れる空気がある。
メリーの足も少し止まり、並んで歩いていた状態から少し遅れた。蓮子の背から、
「ちょっと? 昨日ケーキ食べたじゃないの」
いよいよもって呆けたのかと、メリーは聞こえるように言った。たわいない挑発と取れるが、蓮子は無感動を感じさせる声で、
「悪くないけど脳はメリーよりずっと冴えているわ。糖分も少しでいいし」
「……茶化さないで! さすがに少しムカツクわ」
「どっちが?」
相変わらず感情を感じない声だ。少し苛立った様子のメリーだったが、静かでしかし悲しみと怒りを内包させた声で応える。無感動の声に感動の声で、
「……ねぇ、本当に憶えていないの?」
「だから、何のことかそもそも分からない」
「クッキーも、筍も、紙切れも! みんな憶えていないの?」
「元から無いものに、憶えるもなにもないわ」
それに、と言葉が続く。
「例えそうだったとしても、そんなもの昨日のうちに捨てているわ」
「――ッ!?」
「な、なによその顔は?」
顔を赤くした彼女に戸惑い、次には泣きが来るのだろうかと予想したが違った。
「蓮子の……バカ――――ッ!!」
メリーは叫んだ後、敷地の奥の方へと走り去っていった。
……まるで昔の漫画みたいな捨て台詞だな。
しかし思い直す。
……私だって、昔の漫画みたいな悪役じゃないの……。
乾いた笑いの一つでもしたくなる。そこでふと周囲の視線に気づき辺りを見回した。
気まずそうに立ち止まり、あるいは歩きながらも視線をよこす人々がいる。
彼らの目は走り去ったメリーの跡と、蓮子を見ていた。見ていない者は近くにいる友人と手を口に合わせ何事かを喋っている。
「――ッ!?」
ようやく光景と状況が結びついた。
あ……と思い、顔が赤くなると同時、
宇佐見蓮子は脱兎の如く駆けだした。
●
ホールなどの文化施設を伴う時計台がある。
正門前に位置するそれは今、短い針を午後に傾かせていた。
ちょうど講義の合間の時間にあたり、外に出ている者も多い。
蓮子もその一人だった。
しかし授業から解放された雰囲気とは遠く、俯いて歩く姿に元気はない。
視線を上げ、傍らを見た。誰かに話しかけるように傾けた顔の先には、しかし道の上に大気があるだけなことに溜息をつき、
……普段ならメリーと学食にでも行くところなのに。
あれから一度も会わなかった友人を思う。
専攻する科目は違うとはいえ、幾つかは被るものもある。
にも関わらず、彼女を見つけることは出来なかった。
「授業、出てないのかな」
口はそう言うが、頭では違うと考える。
彼女は痴話喧嘩程度でボイコットなどする質ではない。
むしろこちらが怒っていてもすっかり忘れていることさえある。
だとすれば、
「相当怒っているか……」
今まで経験したことはないが、それ故に十分考えられる事だ。
参ったなーと頭を掻き周囲を見渡す。何か解決策でも都合良く転がっていないかと思っての行動だったが、動かした視界の先に映る物があった。
……メリー……?
解決策に近くそして遠い、根本的な原因だ。
声をかけようとは思わなかったが、しかし彼女を見て疑問を抱く。
……何しているんだろう?
動きは速くないがしかし、忙しなく落ち着き無く彼女は動いていた。時折止まっては足元の雑草を軽く払ったり、物陰を見たりする。
再びその行動に疑問を得る前に、一瞬で浮かぶものがあった。
まさか、という言葉に続けて浮かぶもの。
……私が捨てたと思って……。
驚き、そして純粋に馬鹿だと思った。
私が大学で捨てたなんて確証は無い。道端で捨てたのかもしれないし、すでに焼炎の中かもしれない。なのに何故、彼女は探すのだろうか。
頭が熱くなる。
あれを探しているという事に無性に怒りを覚えた。
何故、探すのだろうか。
授業中も恐らく探していたのではないのか? 一人には広すぎるこの構内を。
考え思うことは単純化され、自己中心的と自覚できる結論に至る。
――何故、何故私を見てくれないのか。
メリーは相変わらず探している。後ろにいる蓮子は視界に入る要素がない。
傲慢だ、と震える。
彼女にとって大切であると十分に知っていたのに、それを消したのは自分自身だ。自分で無くした大切な物を彼女が探す。その行為に自分がいなくて、すでに消えた物がある。
自業自得の結末だというのに。理性は理解しているというのに。
分からない怒りがある。
蓮子は拳を握り、歯を軋ませる。
――何故。
なにゆえ。
私は、苦しんでいるのだろうか。
メリーのように苦しみを言葉にせず、しかし彼女と同じく蓮子は走った。
彼女の視界に入らない方向へと。
●
空の色が変わる。
青から白、灰、そして鉛へと。
湿り気を帯びた風が流れ、やがて空から雨粒が落ちてきた。
雨量は多くない。傘を必要とするが、持たないものは足早に屋根や目的地に向かえる程度だ。
走り雨に打たれる人。歩き傘を差す人。
建物内で寝ていた蓮子は第三者に当たった。彼女は机に伏せた状態で寝ていた。
場所は図書館。微かに立つ雑多な音と、それを打ち消そうとする静かな雨音が響く。
雲に遮られ星は見えない。かけられた時計を見ると四時間が経過していた。
「寝過ぎたか……」
伸びをする身体に痛みはない。空調が効いた暖かい室内だったからだろう、と思う。
だが痛む記憶がある。今朝のことだ。記憶の通りならばと、目尻を触ってみる。
――案の定、目元は泣いた後特有の渇き方をしていた。
立ち上がり、廊下にある洗面所を目指した。
外気に触れていないが幾分か冷える廊下。歩数が数えられる程度の場所に洗面所はあった。幸い人の気配はない。
蛇口を捻り、やや叩きつけるように顔に水をかける。
冷水の心地よい刺激があり、目が覚めた。
鏡越しに見る目は……赤くない。
ふと気づく。顔を洗い終わった後に必要な、
「タオル……」
なんとも間抜けだと思った。だが人に見られても今は雨。不信には思われまい。
しかし水気を持ったまま図書館に入ることは出来ない。
もう授業も無く、タオルを持っていそうな友人もいない。
……帰るか。
外の雨は強くない。それを実際に肌で感じ、走る気にはなれずアパートに向かい歩く。
何かを忘れている気を感じながら。
●
思い出したのは自室の鍵を差し込んだときだ。
……メリーは何やっているんだろう……。
探している、というのは昼間の話だ。考え、しかし否定する。
さすがに雨の中、探すにしても構内だろう、と。
鍵を回す。微かな金属音とともに、開いた感触が伝わる。
だが本当にそうだろうか? という疑問を抱く。
抱き、鍵を抜いてポケットに戻す。
あの時の様子を思い浮かべる。あの時、自分はなんと感じただろうか?
ドアノブに手をかけた。
自分が見えていない、そう至った考えを。
室内のこもった空気を感じる。
――あれを大切そうに探していた。考える。
外から中へ蓮子は進み。
――大切な物を、失いたくない。考える。
荷物を玄関に置く。
――私が大切な物を失いたくなかったら、どうするか? 考えて。
脇に立てかけてある傘を手に取る。二本分。
どうするか? 走った。
大切な物を失いたくない。
未だ衝動でしかないその気持ちを理解しながら。
●
雨の降る町。
傘を持つもので、傘を差さないはずがない。
だが一人いた。
二本の傘を片手に駆けるのは蓮子だ。
……メリーを探さないと……!
足を動かす。もう一人の、傘を差していないであろう姿を目指して。
涙混じりの水たまりを蹴り、行く宛もなく駆ける。
すれ違う人は皆、怪訝な表情でしかし走る彼女の邪魔になるまいと道を空ける。
心の内で感謝し、その分を息を吸うことに費やす。
大学に入る。
だが速度は緩まない。目的とすべきは建物ではなく、
メリー……ッ!
思いを強く、さらに加速させた。走り、全方位に目を懲らす。
正門前。講堂。学食。生協。教室。裏口。運動場。集積場。
時々立ち止まり、息を整える。雨に打たれる体は冷たいが、出る息は熱い。
……まだまだ行ける!
走る。より早く、より広く、狭く。腕を振り上げ降ろす。
普段自分が居る場所、メリーが行くと思う場所に水が跳ねる。
だが見つからない。
探索場所は広がる。外へ。
探索場所は狭まる。彼女の居る場所へ。
町中に水が舞う。
通りを駆け抜ける音が響いた。
●
「……雨、強くなったかな?」
言って、座る段を一つ上げるのはメリーだ。
階段は外にあり屋根はある。しかし地面に跳ねた雨粒が下から降る。
冬と夏とを比べれば夏が近いが、彼女は身を抱きしめて放熱を抑えていた。
背中を丸め視線を膝にうずくまる。そして溜息とともに、
「なんで……」
出る言葉は問いかけだ。
何故、あの時彼女は嘘をついたのだろう、と。
私が何か悪いことをしただろうか?
「……五月蠅く、思っちゃったかな」
夢の世界に行ったときの話だ。延々カフェで三時間は長すぎただろうか。
よくよく考えればそうだったかもしれない。今度から二時間程度に抑えるよう努力する必要があるか?
……無理ね、たぶん。
その結論はここに座ってから何度も繰り返されたものだ。
暇つぶし代わりのように思い返すが、どうにも腑に落ちない。もっとなにか前提条件からして違っていると。そんな気がする。
だから、暇つぶし方法を変えてみた。
本当に自分が感じていることを言葉にするために。
様子がおかしくなったのは今日からだ。正確には昨日別れた後から朝に至るまでの間。
おかしいと感じたのは何故か? 自分にあって相手になかったからだ。
何が? という問いに答える。
クッキー、筍、紙切れ。名前だけ並べれば変哲のない物ばかりだ。
これらに対し何と彼女は言ったか? 知らないと言った。
己を疑うまでもない。彼女に渡した物は彼女の分の土産物だ。誰もあれだけなどとは言っていない。自分の家にも当然存在し、それを確認したのは今日帰って直ぐのことだ。
彼女が嘘をつく理由が分からない。
だからその理由を探した。もしかしたらどこかに置き忘れてしまったのを誤魔化すためだったかもしれないと学内を探してみた。だがおよそ自分が思いつく場所には無かった。
降参だ。そう思い彼女の元へとりあえず謝りに来てみたのだが、
「まさか留守だとは思わなかったわ」
雨は夜まで降るらしい。彼女の家は近い。講義はとっくに終わっている時間で、買い物をしていたとしても随分待った気がする。以上を踏まえれば帰っていないのは不自然だ。
ひょっとしてわざとかしら?
努めて明るい感じに思ってみたが、伏せる表情は暗い。自覚できるほどに。
心では明るくても表情は暗い。この場合どっちが本心なのだろうか?
出来れば、心が本心であれば良かった。
なぜ自分がこんな顔をしなくてはならないのだろう。その原因は、何も語らずただ自分を拒絶するように“知らない”と言った。
拒絶。
するように?
違うと思いたいが、同時にある可能性を思いついてしまった。
……嫌……ッ!?
しかしそう願えば願うほど、逆に強調され押し寄せてくる。
ああ、そうかと諦めが募る。
……私、嫌われちゃったんだ。
いったん受け入れてしまえば、後は理解するしかない。気づく前には戻れない。
過去の映像が、音も無く再生される。
入学式。
笑顔の同級生。
馴染めない少女が一人。
いつも一人の少女。
明るくもなく暗くもない表情で、ただ狭間を見つめている自分だ。
寂しいという思いが。存在はしていても空気のように当たり前のものとしてあり、意識されることのない感情が押し寄せる。
少女は流されるままに身を任せていた。
翻弄され沈む身体を引き上げる手がある。
岸辺から差し伸べられたそれは、力強さを感じさせない女性らしい細い腕だ。
腕の先、岸辺に上げる力と共に言葉があった。それはやけに鈍った日本語で、
「HEY彼女、暇?」
顔を上げる。
そこにはずぶ濡れになった蓮子がいた。
●
蓮子はメリーにその一語を伝えると、大きく息を吸い込み吐いた。肩は上下に動き、雨とは違う温かい水気を感じた。
しばらく肩を上下させ、ようやく息が整ったところで何かを言おうとして、
……こういう時、なんて話しかければいいんだろう?
思えば始めの言葉は失敗だっただろうか? 冷静になって考えれば何を女友達にナンパかけてるんだ私は。
なにか会話をしなければ、と思うが浮かばない。いっそナンパ口調のままで続けた方がいいのではないだろうか。このままお姉ちゃんイイネーとか褒めるべきか!?
「よかった……」
褒めてもいないのに言葉が来た。だがそれは謝辞の意味ではなく、安堵した息を伴うものだ。
メリーから話しかけてきたのは幸いだ。まっとうな口調で会話を続けよう。うん。
「……なにが?」
聞くと、こちらを見ていた顔が下がってしまった。失敗だったろうか?
だが問いかけに反応があった。それは肩を震わせ、俯く顔から出る小さな声だ。彼女がなにを今思っているのか聞きたくて、蓮子はなに? と聞き返した。小さな声は二度三度と大きくなろうとしそして、
「嫌われなくて」
という言葉が、大きくはないが聞き取れた。
だが疑問が起こる。なぜ、嫌われなくてなどと言ったのだろう? むしろそれは、
「私こそ、嫌われなくてよかったよ」
自分の台詞だと思った。そして謝ろうと思った。だから言葉に出すことでそうした。
「――ごめんなさいッ!」
「――ごめんなさいっ!!」
声が重なった。ハッとなり謝りとともに下げた頭を上げると互いの眼が見えた。
しばらく沈黙し、やがてどちらでもなく声が生まれた。笑いの声が。
軽く腹を抱え、あるいは口に手を添えて、抑えきれぬ感情を表現する。
そして息が苦しくなりかけたところで、二人はそれを止めた。
生まれる沈黙は、だが先ほどまでの暗く重いものではない。
すでに場の空気は解決した。蓮子が次のステップに進むため、疑問から話を進めた。
「ところでさ、なんで私に嫌われる、なんて思ったの?」
友達口調で。普段通りの会話を広げる。メリーもそれに応えた。
「なんでって、私がお喋りだからじゃない? っていうか嫌ってるんじゃないの?」
「そんな馬鹿な話、あるわけないでしょ。だいたいお喋りなのはいつもの事じゃない」
「……さりげなく私の非を全面肯定しているわね」
「事実を言ったまでよ」
「じゃあ、なんでそっちは謝ったの? 私が悪いんでしょ!」
「喧嘩腰にならないならない。私が謝ったのは……」
会話が途切れる。? と思っていると、蓮子はこちらから目をそらした。
「なによ。やっぱり悪いのは私って言いたいの?」
口調は責めるものではなく、挑発的なものだ。彼女に先の言葉を促すための。
その挑発が効いたのか、蓮子は目をそらせたままだが、口を開いた。
「……」
「なに? 聞こえないわー」
白々しくメリーは言うが、実際に声は聞き取れないぐらい小さい。楽しげにこちらを問うメリーに、蓮子も吹っ切れた様子で、
「だから! 嘘ついたこと!!」
「なににー?」
「……皆まで言わせるつもり!?」
「だってー、私なにに嘘つかれたのかわからないしー」
「あーもう! 筍とかなんだとか捨てたとか言って悪かったわよ! ちゃんと家にあるから、講義サボってまで探させてごめんなさい!」
「……なんだか私が悪いみたいね。怒った口調だと」
怒った、という部分で蓮子はしまったという顔をした。しかしメリーは意に介する様子もなく、変わらない口調で続けた。
「だいたい講義サボって探しはしたけど、なんとなく蓮子の家にあるんじゃないかって思ってたわ。ただそこら辺に隠された可能性は捨てきれないから、ちょっとだけ探してみたの」
「ちょっとだけって……どれくらい?」
「ん……三十分くらい? 後は不貞寝とか午前寝とか午後寝とかしていたし」
「はあ――ッ!?」
あの時に忙しなく動いていた彼女。だが逆を言えばその場面しか見ていない。思わず地面にへたり込みそうになるが足元は水浸しであることを思い出し止めた。
代わりとでも言うように頭を抱え、
「……思いこみすぎた私が馬鹿だった」
「自分で自分を卑下するものじゃないわ。その通りだけど」
「こいつは……」
楽しげに微笑むメリーと、悔しそうに、だがやはり楽しげな蓮子。前者の方がすました顔になり、蓮子に問う。
「ねえ、蓮子」
なによ、とぶっきらぼうに蓮子は答えた。
「なんで嘘ついたりしたの? それって私に夢を夢だと思わせたかったってことでしょ?」
「それは……」
言えない。まさかメリーがいなくなりそうだったのが嫌だからとはとても言えない。
「聞いてるの? もしかして言えないぐらい恥ずかしいこと?」
図星をつかれて思わず視線をそらした。そっぽを向いたままメリーに、
「そ、そんなことない! だけど……教えないっ!」
「え――ケチぃ――」
「ケチでもなんでも!」
そう反論した所でメリーは二、三度ほど息を吸う音がして、、
「――へっくちゅんっ!?」
唐突な音はくしゃみだ。視線を向けると彼女は鼻をすすっていた。
「寒い」
「……そりゃあ、雨だしねぇ」
言って、自身の身体も冷えていることに気づいた。だから、
「……入る?」
「えーやらしー」
なっ……と息を詰まらせたが、悪戯っぽく舌を出すメリーを見てからかわれたと気づいた。
怒ってもいいんじゃないのか? そう思うが、しかし気分が乗らないので止めた。軽く受け流すことにする。
「なに馬鹿言ってんの。風邪引きかけなんだからさっさと入った」
「冗談だってばー」
「はいはい」
アパートの一室に明かりが灯る。暖かな人の気配を感じさせながら。
●
暖かく、そして抜けるような青空が広がる下には都がある。
盆地に存在するそれは、南側に大きく、そして古くさい地方駅を持つ。
片側にタワー状の立体駐車場のような観光デパートの一部が見えるそれは、
旧東海道線を有する京都駅だ。
駅舎は最近の新古典主義からか、昭和中期風建築だ。
付随する駅前広場のほとんどはロータリーと観光用市電乗り場に占有され、人間用スペースは広くないが、平坦で見晴らしは良く待ち合わせにはわかりやすい。
その駅前、南口に当たる部分で一人の少女が立っていた。
白いリボンを付けた黒いパナマ帽を被っている。宇佐見蓮子だ。
彼女はよく見ればただ立っているのではない。
しきりに太陽の方をチラリと見ては、片足を揺らしている。
そろそろチラ見二桁目に差し掛かるところで、少女が歩いてきた。
彼女は手を振りながら、蓮子の名前を呼ぶ。含む語に謝りの言葉はなく、
「蓮子、こんな所にいたんだー」
「その言い方だとまるで私が悪いみたいじゃない!」
蓮子は少女に向き、両手を腰に当て仁王立ちし、
「ったく遅い! 三分十六秒の遅刻よ!!」
普段から遅刻魔呼ばわりされている腹いせにと、顔だけ怒らせて言う。
メリーは不満げな顔を見せるが、声色がそうでないことを知ると顔だけ申し訳なさそうに、
「ごめんなさい。この京都駅、『京都駅』って書いてなくて迷っちゃったわ」
「物の所為にしない。で、なにと迷うっていうの?」
「……酉京都と」
口にした名は、東の都とを繋ぐ新幹線の駅だ。
「あのねぇ……酉京都は地下! こっちは地上でしょうがっ!」
「まあまあ、怒ると神経細胞に影響が出るわよ、物理的に」
「怒りはため込まない方が精神的にいいのよ!」
つかみ所の無いメリーに、蓮子は疲れた、と言い額に手をついた。
そして歩き出した。メリーもそれについていく。
「ところで、今日はどうするの?」
歩き始めの段階で、前を進む蓮子に本題を振った。
「今日の目的地? そりゃあ、決まってないよ」
「……人のことをいい加減みたいに言うけど、そう言うあなたが一番いい加減じゃない?」
「あら、私はメリーと違うわ」
蓮子は軽やかに半回転し、手を後ろに組みながら問いに答える。
「だって、私がいればどこにいても帰ってこれるでしょ?」
「理由になってない!」
言って、笑い合う。
空を見上げ、
今は見えぬ月を、二人で仰いだ。
後半に行くにしたがって二人のノロケにやられた人がここにいますよw
ただそのノロケにあてられ過ぎて、導入部の蓮子の不安や物語の全体像が、
一読目ではいまいち読み取りにくかったです。
(秘封をよく知らない読み手のせいといえば読み手のせいですが)
あと雨を利用した描写・情景描写に魅せられた気がします。
最後の方の、濡れ鼠になりながら手を取り合う二人とか。
この二人の服の色合いは、雨が映える(ちょっと濡れてた方が引き立つ)と思いますw
最後の会話が素敵だなぁ。
二人のノロケでニヤニヤw
まず初めに減点理由。
机。閉じた引き出し……袋は――テーブルに無い。
この部分は、普通に書いてよかったような気がします。
私的には好きな描写方法なんですけど、ちょっと浮いてた。
後は、要らないと思った描写が1箇所。
通勤者、通行者、通学者のあたり。
次に、全体的な感想いきましょう。
どうしても、物語りの初めというのは説明くさくなる。
冗長的になればなるほど、その物語に対する興味は薄れていくもの。
しかし、物語に説明は不可欠である。ならばどうするか。
それは、テイスト。物語に味を出し興味を引く。
そしてさらに面白みをだすように、テイストを追加する。
この物語は、甘い匂いにつられて店に入り、コーヒー付きのケーキセットを食べる、そんな感覚を覚えました。
甘くないけど、惹きこみ楽しませる内容。
特に中盤の疾走感はよかった。
でも、メリー視点はなくして、蓮子視点のみでいったほうが止まることなく走り切れたような
そう思いつつも、メリー視点があるからこその深みがあるんだよな、とも思ったり……。
多分コンペ基準じゃなかったら10点付けてました。
雨の描写って登場人物の心境を暗示するものですが、これがなかなか難しいですよね。そこで評価していただけたのはとても嬉しいです。
蓮子の不安げな様子などは、確かに私としても不安な場所ではありましたが……もっと上手く書けるよう精進していきたいと思います。
今回のコンセプトの一つに、秘封をあまり知らない人でも分かるように、というのがありました。しかし結果的に一回で分からなかったというのは、失敗だと思います。こちらも合わせて今後の課題とさせていただきたいと思います。
>三文字様
正直、甘々にしすぎたかとも思いますw ですがご好評頂けたようでなによりです。
>SAM様
私の中では蓮子はボーイッシュな感じなのですが、そういう娘には不器用さが似合うと思う今日この頃。
>月柳様
>>閉じた引き出し
このあたりは冷淡な感じと視点の移りゆく様を無機質に表現したかったという意図がありました。しかし作品全体の文体からは外れてしまったのは確かです。今後は作品全体を通してもっと見直していきたいと思います。
>>通勤者
ここは周辺の人々を他人として見る意図があり、舞台で言う脇役ではなく背景として人を配置し、その中で固有名称のある二人を引き立たせる目的がありました。その意味では、あえて書く必要は無かったかもしれません。
>>説明臭さ
コンセプトとして秘封をあまりよく知らない人でも理解できる、というのがありましたので、あのように舞台背景を描写しました。
しかし物語の冒頭というものは重要で、そこで読者を惹きつけられなければいけません。冒頭で説明臭い文章を入れてしまったのは失敗でないにせよ、その描写方法について再考の余地があるものだと考えます。
ケーキセットに合う器を考えていきたいと思います。
>メリー視点
疾走感を失わせることなく、彼女の心理描写を出来るのか。またはそのシーンを蓮子視点で表現できなかったのか。書けるよう努めて参りたいと思います。
もし次の機会があれば、コンペ基準で10点をつけていただけるような作品を書けるよう、頑張ります。
>匿名評価の皆様
この度は本作をお読みくださりありがとうございました。
また次の機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。
点数はコンペだったら4点にします。