「ふう、今日も割と暇だぜ。」
魔理沙はいつもどおりの暇を満喫していた。彼女には特に決まった日課等無く、その日
その日を自由気ままに生きている節がある。そして今日も割といつもどおりに博霊神社へ
向かう。
「おーい、霊夢。魔理沙様がお茶を飲みに来たぜ。」
……応答がない。
「あれ、寝てるのか?まぁ勝手知ったる他人の家だ、勝手に邪魔するぜ。」
だが境内はおろか、社務所のどこを探しても、霊夢は居なかった。
「……大方紅魔館にでも行っているのだろう、まぁ私も図書館に行くか。」
状況に流されるまま方針転換。
青い湖に映える紅色の館、紅魔館。
魔理沙はお決まりの通り、その門を飛び越えようとする。
「コラ、そこの白黒。止まりなさーい。」
紅魔館の門番・紅美鈴がお決まりの通りそれを静止しようとする。そしてこれまたお決
まりの通り、体を張って静止させようとする門番を跳ね飛ばして中に……いや、いつもと
違ってその門番は本気で剄を発してきた。その発剄の直撃を受け、ものすごい勢いで後方
に吹き飛ばされる。
「あいたた……何するんだ。」
「それはこっちの台詞です、静止しろって言ってるんだから静止してください。」
「いつも通り跳ね飛ばされていればいいのに。」
「今日は特に上から『あの白黒は通すな』って言われているんで。」
「あのメイドか、それともお嬢様か。まぁでも、そう言われて『はいそうですか』って言
う私じゃないぜ。」
「私も、そう言われたから『はいどうぞ』って言う門番でもないですが。」
「じゃあ実力行使で通るぜ。」
「じゃあ実力行使で阻止します。」
「割と面白い退屈しのぎになりそうだ。」
「……こっちは仕事なんですけど。」
先制攻撃(さっきの発剄)が効いているのか、魔理沙は自分から動こうとしない。魔法
の詠唱を終え、発動の機を窺い後の先を狙っているようである。一方、美鈴にとっては一
度不覚を取っている相手である。これまた不用意に動けるはずもなく、門の前から気を練
りつつ魔理沙の行動を窺う。お互い動くに動けない、にらみ合いの状態が続く。
***
「美鈴。今日もし白黒が来たら、何があっても阻止してね。」
「あれ、いつもは割と寛容にしていいって話なのに、何でまた今日だけ。」
「『かくかくじかじか』、よ。その時になったら私が知らせるから、それまでは体を張っ
てでも止めて。時間稼ぎでもいいわ。」
「分かりました。」
数刻後、霊夢が屋敷にやってくる。いつも通りであれば、あの白黒は後を追うようにし
てやってくるだろう。そう思っていた矢先の登場であった。
***
時間の経過は美鈴の願うところであり、体力回復の意味では魔理沙にとっても好都合な
ところであった。だがそれも束の間、ここは詰めるが機と察した美鈴が一瞬で間合いを寄
せた。マジックミサイルを発動するわずかばかりの時間も許されなかった魔理沙は、軸を
ずらし避けるのが精一杯であった。引きながらも魔法を詠唱、そしてわずかばかりのマジ
ックナパームを打ちながら美鈴の動きと軸をずらし、間合いを常に一定に保とうとする。
一方美鈴は常に自分が門に近い状態を維持しつつ移動しているため、間合いを詰めその練
った気を叩き込むチャンスはどうしても乏しい。お互い小手先だけの攻撃が続く。
美鈴はここでひとつの結論に達した。即ち、魔理沙の魔法は遠距離から飛んでくるもの
の、それは所詮直線軌道である。いや、遠距離攻撃のほとんどは直線軌道だ。たとえそれ
が圧倒的な破壊力を持っていても、飛ばす瞬間さえ確認すれば回避は容易だ。そして何よ
り、相手の予測を上回るランダムで小刻みな横方向移動を交えれば、その直線攻撃にあた
る確率は皆無だ。
咲夜さんのナイフは数少ない例外……即ち、遠距離攻撃ながらも直線軌道で無い。そん
なすごい技を持つ上司を持ち、それをいつも見ている自分にとって、この攻撃は生ぬるい
ものである。そう考えた。
そしてそれを行動に移す。射線の定まらない魔理沙に対し、長さのランダムなジグザグ
を描きながら徐々に間合いを詰める。そして密着距離まで間合いを詰め、練り上げた気を
一気に開放する。
「ぐあぁ……」
本日2発目の強烈な発剄を受け、ものすごい勢いで吹き飛ばされる魔理沙。辛うじて体
勢を整えるも、立っている……というか飛んでいるのが精一杯という感じの魔理沙。
「悪いけど決めさせてもらうわ。」
もう一度間合いを詰めようとジグザグ移動を開始する美鈴。魔理沙のナパームもただた
だ空を切る。再び間合いが詰まり、発剄を打ち込むまであと数刹那といったところであっ
た。
「それならば、すべてなぎ払うまで!」
魔理沙の代名詞ともいえるスペル…恋符『マスタースパーク』。
美鈴はその瞬間、かつての自分の不覚を失念していたことを後悔するも、時はすでに遅
かった。
魔理沙の前方を、美鈴を、七色の光が覆い尽くす。
直前でとっさに自分のスペルを発動しようとした甲斐もあってか、美鈴はすんでのとこ
ろでまだ立っていた。いや、それももう限界で、彼女の使命感が彼女を無意識に立たせて
いるだけで本人はすでにボロボロであった。一方の魔理沙も体力・魔力ともに限界、先ほ
どにも増して立っているのがやっとの状態。
「くっ、動け動け我が身体よ、この体躯は見せ掛けかっ!」
「くそ……あと一撃、あと一撃で……図書館で休めるぜ……」
どちらもそう言うが早いか、どちらからとも無くその場に倒れこむ。
…
……
………
どれくらい時間がたっただろうか。
ベッドしかない部屋で、魔理沙は目覚めた。身体を動かそうとするも、激痛が走るだけ。
「ぐわっ。」
ちょうどそのとき、その声に反応したのかのように部屋のドアが開いた。
「あら、目が覚めたようね。」
そこにいたのは紅魔館のメイド……咲夜だった。
「どうせ迎えに行こうとは思ってたんだけど、準備中に来られるのは遠慮願いたかったん
で。もう一人で歩ける?」
魔理沙はベッドから立ち上がろうとするも、すぐにバランスを崩して再びベッドに。
「パチュリー様に治癒魔法を掛けてもらったんだけどね、そう簡単に直るものでもないか。」
咲夜は魔理沙に肩を貸しながら、彼女を廊下へ、そして大食堂へ連れて行く。
大食堂には、紅魔館の面々はもちろんのこと、沢山の見知った顔が集まっていた。もち
ろん先ほど弾幕りあった門番の美鈴も、騒霊チンドン屋三姉妹も、式と式の式も、珍しい
ところでは冥界の半幽霊・妖夢と幽霊嬢・幽々子も。
その中から一人、魔理沙と彼女に肩を貸す咲夜に歩み寄る、紅白の巫女・霊夢。
しばしの沈黙。
そして霊夢が口を開き、それを破る。
「お誕生日おめでとう、魔理沙」
そして直後、堰を切ったように騒ぎ出す一同。
「「おめでとう~」」
魔理沙は茫然自失し、咲夜に向かって一同を指差し、口をパクパクしている。どうやら
この状況の説明を求めているらしい。瀟洒なメイドはそれを察し、
「こういう計画は主賓に内緒で進めるものよ、だから今日は準備が終わるまで紅魔館に入
って欲しくなかったのよ。」
まだよくわかっていないという顔をしている魔理沙を見て、咲夜は続ける。
「そこの巫女が、たまには盛大に誕生会でもやろうかって持ちかけてきて。私はちょっと
それを手伝っただけよ。それに、こういうことにかこつけてないと、みんな揃う事なんて
無いしね。」
たしかに幻想郷オールスターズと言っても過言ではない。見知った顔のほとんどがそこ
に居た。
「まぁ、そういうことだから、あなたを全力で打ち落としに行った美鈴を恨まないでね。」
その美鈴も割と足元がふらふらしている、さっきのが相当効いているらしい。
妖夢と幽々子の漫才、プリズムリバー三姉妹の合奏、美鈴の演舞、藍のイリュージョン、
咲夜のタネ無しマジック……等々、色々な芸を経てその宴も終了を迎えようとしていた。
魔理沙は隅のほうでまったりしている霊夢を探し出し、話し掛けた。
「オイそこの赤いの、なんだって急にこんなことをしたんだよ。」
「割と私の気分なんだけどね。お気に召さなかったかしら。」
「いやいや、大満足すぎて涙が出るぜ。ついでに体中が痛くて涙が出そうだが。」
「まぁ、一番の功労者はそこの紅い人ね。文字通り身体を張って計画の露呈を防いでくれ
たわけだし。」
その先に居たのは門番、紅美鈴だった。
「しっかし魔理沙を退けるとは、さすがに紅魔館の門番よね。」
「わ、割と油断してただけだ。それに退けられてないぞ、ギリギリでドローだ。」
「ドローじゃなくてダブルノックアウト、だったけどね。」
「ま、まぁ、そうとも言うな。」
そのまま美鈴に話し掛ける。
「今日はその……、すまなかった。」
「こちらも主賓に対して少々やり過ぎまして、申し訳ありませんでした。」
「いや、謝ってるのにそう謝り返されれてもなぁ。しかし、あんたもなかなか強いな。」
「恐縮です。でもまぁ、上を見ればこの屋敷だけでも何人か居ますから。」
……そういえばこの紅魔館、化け物の宝庫だったっけ。生粋の魔女パチュリーは、喘息
さえ大人しければその五行に精通したスペル、時にはそれらを合成したスペルを駆使して
近づくことさえ容易にさせてもらえない。メイド長十六夜咲夜は時間を操ってはナイフの
雨を降らせる。認知した瞬間には自分を取り囲むナイフの群れになす術も無い、二度と相
手にしたくない『人間』だ。そして当主レミリアは吸血姫という食物連鎖の頂上に相応し
い強力すぎる魔力を持っている。その妹フランドールもレミリアほぼ同等、殺傷力だけな
らレミリアに勝るとも劣らないだろう。割と意識していなかったが、こんな化け物屋敷で
平然と門番をしている程度なのだから、そりゃそんじょそこいらの妖怪など足元にも及ば
なくて当然だ。割と忘れていた。
「まぁこれからはちゃんと門を通過するぜ。」
「そうは言っても、今までみたいに私を跳ね飛ばしていったら意味が無いですよ。」
「いや、まぁその。」
「といっても魔理沙さんは基本的に顔パスですから、ちゃんと言ってくれれば普通にお通
ししますけどね。今回みたいな例外の時じゃなければ。」
「ほう。顔パスねぇ。」
「咲夜さんに『ジェニー来訪』とさえ伝えておけばいいんで。」
「ジェニー?」
「いやまぁ、一種の暗号ですよ。まぁ、可能な限りもう二度と魔理沙さんと弾幕りたく無
いので。毎日やってたら割と命が足りない気がします。」
「こっちも毎回門番落としてたら命がいくつあっても少ないぐらいだぜ。まぁ久しぶりに
全力で弾幕ったから、それはそれで楽しかったぜ。ある意味一番の誕生日プレゼントだっ
たかもな。」
「わたしは仕事なんで運が悪いと毎日でも弾幕りあってますけどね……」
そして魔理沙は食堂の内側に向き直り、
「みんなありがとう、今日は忘れられない夜になりそうだぜ。」
ありったけの力を腹に込めて、そう言った。
魔理沙はいつもどおりの暇を満喫していた。彼女には特に決まった日課等無く、その日
その日を自由気ままに生きている節がある。そして今日も割といつもどおりに博霊神社へ
向かう。
「おーい、霊夢。魔理沙様がお茶を飲みに来たぜ。」
……応答がない。
「あれ、寝てるのか?まぁ勝手知ったる他人の家だ、勝手に邪魔するぜ。」
だが境内はおろか、社務所のどこを探しても、霊夢は居なかった。
「……大方紅魔館にでも行っているのだろう、まぁ私も図書館に行くか。」
状況に流されるまま方針転換。
青い湖に映える紅色の館、紅魔館。
魔理沙はお決まりの通り、その門を飛び越えようとする。
「コラ、そこの白黒。止まりなさーい。」
紅魔館の門番・紅美鈴がお決まりの通りそれを静止しようとする。そしてこれまたお決
まりの通り、体を張って静止させようとする門番を跳ね飛ばして中に……いや、いつもと
違ってその門番は本気で剄を発してきた。その発剄の直撃を受け、ものすごい勢いで後方
に吹き飛ばされる。
「あいたた……何するんだ。」
「それはこっちの台詞です、静止しろって言ってるんだから静止してください。」
「いつも通り跳ね飛ばされていればいいのに。」
「今日は特に上から『あの白黒は通すな』って言われているんで。」
「あのメイドか、それともお嬢様か。まぁでも、そう言われて『はいそうですか』って言
う私じゃないぜ。」
「私も、そう言われたから『はいどうぞ』って言う門番でもないですが。」
「じゃあ実力行使で通るぜ。」
「じゃあ実力行使で阻止します。」
「割と面白い退屈しのぎになりそうだ。」
「……こっちは仕事なんですけど。」
先制攻撃(さっきの発剄)が効いているのか、魔理沙は自分から動こうとしない。魔法
の詠唱を終え、発動の機を窺い後の先を狙っているようである。一方、美鈴にとっては一
度不覚を取っている相手である。これまた不用意に動けるはずもなく、門の前から気を練
りつつ魔理沙の行動を窺う。お互い動くに動けない、にらみ合いの状態が続く。
***
「美鈴。今日もし白黒が来たら、何があっても阻止してね。」
「あれ、いつもは割と寛容にしていいって話なのに、何でまた今日だけ。」
「『かくかくじかじか』、よ。その時になったら私が知らせるから、それまでは体を張っ
てでも止めて。時間稼ぎでもいいわ。」
「分かりました。」
数刻後、霊夢が屋敷にやってくる。いつも通りであれば、あの白黒は後を追うようにし
てやってくるだろう。そう思っていた矢先の登場であった。
***
時間の経過は美鈴の願うところであり、体力回復の意味では魔理沙にとっても好都合な
ところであった。だがそれも束の間、ここは詰めるが機と察した美鈴が一瞬で間合いを寄
せた。マジックミサイルを発動するわずかばかりの時間も許されなかった魔理沙は、軸を
ずらし避けるのが精一杯であった。引きながらも魔法を詠唱、そしてわずかばかりのマジ
ックナパームを打ちながら美鈴の動きと軸をずらし、間合いを常に一定に保とうとする。
一方美鈴は常に自分が門に近い状態を維持しつつ移動しているため、間合いを詰めその練
った気を叩き込むチャンスはどうしても乏しい。お互い小手先だけの攻撃が続く。
美鈴はここでひとつの結論に達した。即ち、魔理沙の魔法は遠距離から飛んでくるもの
の、それは所詮直線軌道である。いや、遠距離攻撃のほとんどは直線軌道だ。たとえそれ
が圧倒的な破壊力を持っていても、飛ばす瞬間さえ確認すれば回避は容易だ。そして何よ
り、相手の予測を上回るランダムで小刻みな横方向移動を交えれば、その直線攻撃にあた
る確率は皆無だ。
咲夜さんのナイフは数少ない例外……即ち、遠距離攻撃ながらも直線軌道で無い。そん
なすごい技を持つ上司を持ち、それをいつも見ている自分にとって、この攻撃は生ぬるい
ものである。そう考えた。
そしてそれを行動に移す。射線の定まらない魔理沙に対し、長さのランダムなジグザグ
を描きながら徐々に間合いを詰める。そして密着距離まで間合いを詰め、練り上げた気を
一気に開放する。
「ぐあぁ……」
本日2発目の強烈な発剄を受け、ものすごい勢いで吹き飛ばされる魔理沙。辛うじて体
勢を整えるも、立っている……というか飛んでいるのが精一杯という感じの魔理沙。
「悪いけど決めさせてもらうわ。」
もう一度間合いを詰めようとジグザグ移動を開始する美鈴。魔理沙のナパームもただた
だ空を切る。再び間合いが詰まり、発剄を打ち込むまであと数刹那といったところであっ
た。
「それならば、すべてなぎ払うまで!」
魔理沙の代名詞ともいえるスペル…恋符『マスタースパーク』。
美鈴はその瞬間、かつての自分の不覚を失念していたことを後悔するも、時はすでに遅
かった。
魔理沙の前方を、美鈴を、七色の光が覆い尽くす。
直前でとっさに自分のスペルを発動しようとした甲斐もあってか、美鈴はすんでのとこ
ろでまだ立っていた。いや、それももう限界で、彼女の使命感が彼女を無意識に立たせて
いるだけで本人はすでにボロボロであった。一方の魔理沙も体力・魔力ともに限界、先ほ
どにも増して立っているのがやっとの状態。
「くっ、動け動け我が身体よ、この体躯は見せ掛けかっ!」
「くそ……あと一撃、あと一撃で……図書館で休めるぜ……」
どちらもそう言うが早いか、どちらからとも無くその場に倒れこむ。
…
……
………
どれくらい時間がたっただろうか。
ベッドしかない部屋で、魔理沙は目覚めた。身体を動かそうとするも、激痛が走るだけ。
「ぐわっ。」
ちょうどそのとき、その声に反応したのかのように部屋のドアが開いた。
「あら、目が覚めたようね。」
そこにいたのは紅魔館のメイド……咲夜だった。
「どうせ迎えに行こうとは思ってたんだけど、準備中に来られるのは遠慮願いたかったん
で。もう一人で歩ける?」
魔理沙はベッドから立ち上がろうとするも、すぐにバランスを崩して再びベッドに。
「パチュリー様に治癒魔法を掛けてもらったんだけどね、そう簡単に直るものでもないか。」
咲夜は魔理沙に肩を貸しながら、彼女を廊下へ、そして大食堂へ連れて行く。
大食堂には、紅魔館の面々はもちろんのこと、沢山の見知った顔が集まっていた。もち
ろん先ほど弾幕りあった門番の美鈴も、騒霊チンドン屋三姉妹も、式と式の式も、珍しい
ところでは冥界の半幽霊・妖夢と幽霊嬢・幽々子も。
その中から一人、魔理沙と彼女に肩を貸す咲夜に歩み寄る、紅白の巫女・霊夢。
しばしの沈黙。
そして霊夢が口を開き、それを破る。
「お誕生日おめでとう、魔理沙」
そして直後、堰を切ったように騒ぎ出す一同。
「「おめでとう~」」
魔理沙は茫然自失し、咲夜に向かって一同を指差し、口をパクパクしている。どうやら
この状況の説明を求めているらしい。瀟洒なメイドはそれを察し、
「こういう計画は主賓に内緒で進めるものよ、だから今日は準備が終わるまで紅魔館に入
って欲しくなかったのよ。」
まだよくわかっていないという顔をしている魔理沙を見て、咲夜は続ける。
「そこの巫女が、たまには盛大に誕生会でもやろうかって持ちかけてきて。私はちょっと
それを手伝っただけよ。それに、こういうことにかこつけてないと、みんな揃う事なんて
無いしね。」
たしかに幻想郷オールスターズと言っても過言ではない。見知った顔のほとんどがそこ
に居た。
「まぁ、そういうことだから、あなたを全力で打ち落としに行った美鈴を恨まないでね。」
その美鈴も割と足元がふらふらしている、さっきのが相当効いているらしい。
妖夢と幽々子の漫才、プリズムリバー三姉妹の合奏、美鈴の演舞、藍のイリュージョン、
咲夜のタネ無しマジック……等々、色々な芸を経てその宴も終了を迎えようとしていた。
魔理沙は隅のほうでまったりしている霊夢を探し出し、話し掛けた。
「オイそこの赤いの、なんだって急にこんなことをしたんだよ。」
「割と私の気分なんだけどね。お気に召さなかったかしら。」
「いやいや、大満足すぎて涙が出るぜ。ついでに体中が痛くて涙が出そうだが。」
「まぁ、一番の功労者はそこの紅い人ね。文字通り身体を張って計画の露呈を防いでくれ
たわけだし。」
その先に居たのは門番、紅美鈴だった。
「しっかし魔理沙を退けるとは、さすがに紅魔館の門番よね。」
「わ、割と油断してただけだ。それに退けられてないぞ、ギリギリでドローだ。」
「ドローじゃなくてダブルノックアウト、だったけどね。」
「ま、まぁ、そうとも言うな。」
そのまま美鈴に話し掛ける。
「今日はその……、すまなかった。」
「こちらも主賓に対して少々やり過ぎまして、申し訳ありませんでした。」
「いや、謝ってるのにそう謝り返されれてもなぁ。しかし、あんたもなかなか強いな。」
「恐縮です。でもまぁ、上を見ればこの屋敷だけでも何人か居ますから。」
……そういえばこの紅魔館、化け物の宝庫だったっけ。生粋の魔女パチュリーは、喘息
さえ大人しければその五行に精通したスペル、時にはそれらを合成したスペルを駆使して
近づくことさえ容易にさせてもらえない。メイド長十六夜咲夜は時間を操ってはナイフの
雨を降らせる。認知した瞬間には自分を取り囲むナイフの群れになす術も無い、二度と相
手にしたくない『人間』だ。そして当主レミリアは吸血姫という食物連鎖の頂上に相応し
い強力すぎる魔力を持っている。その妹フランドールもレミリアほぼ同等、殺傷力だけな
らレミリアに勝るとも劣らないだろう。割と意識していなかったが、こんな化け物屋敷で
平然と門番をしている程度なのだから、そりゃそんじょそこいらの妖怪など足元にも及ば
なくて当然だ。割と忘れていた。
「まぁこれからはちゃんと門を通過するぜ。」
「そうは言っても、今までみたいに私を跳ね飛ばしていったら意味が無いですよ。」
「いや、まぁその。」
「といっても魔理沙さんは基本的に顔パスですから、ちゃんと言ってくれれば普通にお通
ししますけどね。今回みたいな例外の時じゃなければ。」
「ほう。顔パスねぇ。」
「咲夜さんに『ジェニー来訪』とさえ伝えておけばいいんで。」
「ジェニー?」
「いやまぁ、一種の暗号ですよ。まぁ、可能な限りもう二度と魔理沙さんと弾幕りたく無
いので。毎日やってたら割と命が足りない気がします。」
「こっちも毎回門番落としてたら命がいくつあっても少ないぐらいだぜ。まぁ久しぶりに
全力で弾幕ったから、それはそれで楽しかったぜ。ある意味一番の誕生日プレゼントだっ
たかもな。」
「わたしは仕事なんで運が悪いと毎日でも弾幕りあってますけどね……」
そして魔理沙は食堂の内側に向き直り、
「みんなありがとう、今日は忘れられない夜になりそうだぜ。」
ありったけの力を腹に込めて、そう言った。
かなりシリアスな弾幕シーンがいいです。強いぞ美鈴、私の書くちょっとアレな彼女と同一人物とは思えねえ。書いてる人が違うんだから当然だけど。
でも確かに美鈴はこんな感じだと思うのですよ。実はこっそりと実力者。
丁寧に纏められた良い作品でした。作者様の次作品も期待しています。
礼儀や謙虚さを兼ね備えてる人(妖怪)は、やっぱりカッコイイですわ。
にしても素手が似合いますな、この方は!
今回の作品は文中のメリハリがはっきりしていて良かったと思います。
次回作はどんなジャンルになるのか楽しみです。
美鈴、強いですね。魔理沙と対等に渡り合うとは。
こういう姿が前面に押し出されてりゃ、ネタキャラにされずに済んだかも知れないのに(笑)。
で、集まった面々にアリスがいないのは狙ってます?
あと、誤字の指摘を
『博霊神社』→『博麗神社』
『簡単に直る』→『簡単に治る』(厳密には間違いではないですが、けがなので『治る』の方をおすすめします)