Coolier - 新生・東方創想話

三姉妹の一日~メルランの夕暮れ前~

2004/08/09 20:51:27
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天気は曇り。朝は快晴だったが、かの吸血鬼が散歩でもしたくなったのだろうか?
しかし、どんよりとした感じではなく、スカッとしたくもり空。くもり空とは少し違うのかもしれない


体の中が暖かい。そうなにか運動でもした後のような・・・・・・
三度寝する必要はないと思う。珍しく今日はリリカに起こされることはなかった
さぁ、起きようか


「え・・・・・・。」
起床第一声。同時にめまぐるしく頭の中で思考を回転させる。
倒れたタンス。壁にかかっている額縁は粉々になり、真っ二つとなった愛用のハリセン。
真ん中から半分に曲がったダンベル。その中心に位置するところで立っている私
左手には服の切れ端。右手には・・・・・・
「またやっちゃたのねーー」
極力努めておどけたように言う。こういう言い方は馴れた。要はいつも通りにすればいいだけ

「リリカごめんねー」
右手に襟首をつかまれ、ぐたーっといい感じに両手両足を投げ出した妹に謝る

「・・・・・・・・・」
「返事がない、ただの屍のようだ」
「・・・、わかったから・・・し、死んでるけど・・・生きてるからっ、その手離して・・・・・・ゲホッ」
「あ、ごめんごめーん」
つかんでいた手を離す。急に離されて驚いたのか、床に頭をぶつけた
ていうかダンベルにぶつけた
「いっっっったあぁ!!」
頭を抱えて転げまわるリリカ。なんだか可笑しくなってきた
「泣きっ面に蜂、ってやつねー」
「ねー。じゃないよぉ・・・。いつも思うんだけど姉さん悪いって言う自覚あるの?」
そう問うリリカの声からは、すでに怒りの声は消え、真剣に問うといった感じではなく
社交辞令的な要素を含んだものだ
真剣1割、ついで9割
「失礼な!自覚はあるわよ」
とりあえず返答。
そう、自覚はある。そりゃもう猫も殺せるぐらい・・・・・・それは心配か。とにかくあるのだ
いつからだろうかこういった暴走体質になったのは
なにか正確な理由でもあった気もする。ないような気もする
覚えていることは霊になったときから。ということ
私の推測から言えば、私たち三人を作るときに魔力が足りなくなったのだと思う
それが自己制御できない要因、と思っている
嫌なのは、自分の覚えていないところで自分がなにかをしてしまうということ

仮にそれを覚えているなら私はその行為に対してどのような態度を取り、どう対処すればよいのかわかる
だけど実際は覚えていなく、何をしたのか分からない。ひどいことをしたかもしれない
ただ相手は「別にいいよ」と言うことぐらいしか出来ないかもしれない
しかも私は謝ることしか出来ない。今もそうだ
私は食堂につくまでの間ずっと謝っていた
謝っても済むことじゃないのは分かっているのに・・・歯がゆい


朝食にて
リリカがなにか吹っ切れたようだ。私から言わせると
リリカは”ソロ”というのにこだわっていた。独りの場が欲しかったのかもしれない
一番下というものはそういうもの。
だけどリリカは分かってくれたようだった
皆のほうが絶対に楽しいということを。悩みを消したリリカはいい顔で笑っていた
私もつられて笑う。だけど、喜ぶと同時に少しうらやましくもあった。
リリカの悩みは姉さんのおかげで心で解決できた
だけど、先天的な私の悩みは・・・消えない。こういうときも表情に出さないでいられる
私の楽天的にはよく助けられる



リリカの提案によって、今日はアンサンブルの練習となった
所狭しと楽器や楽譜が詰め込まれた部屋でやるのが常。
音楽部屋のはずなのに、なんだか倉庫みたいなところだ
その部屋の扉を開けると、二人はもうすでに用意を終え、席についていた
「姉さん遅い」
「ごめんねー、リードを探すのに手間取っちゃって」
一旦部屋に戻ったのだが、楽譜や、音楽関係の物が入った棚が倒れていたので
全部ごちゃごちゃになってしまっていたのだった
その中にリードも入っていたわけであり・・・・・・後は言わずもがな
「じゃ、音合わせ始めようか」
切り替えるように姉さんが言う。私も席につくと場は静まり皆が一つの音を待つ、一瞬の緊張感
「リリカ」
姉さんが呼びかけると返事の変わりにキーボードをなでるように触れる
「ぽーーん」
透き通った”ラ”の音、続いて姉さんのヴァイオリン私もそれに続こうと自分のトランペットに息を吹き込む

ブピッッ
「??!」
いっせいに二人がこちらを向く
あれ?しっかり調整はしたはずなんだけどなぁ・・・・ていうかこんなミスをしたのは初めてかもしれない
「姉さんどうしたの?」
「ちょっ・・・・ちょっとまって、もう一回」
自分でも焦っているというのがわかる。無理矢理呼吸を整えてもう一度・・・・・・吹く

ピッ
破裂音
「あれぇ?」
なんだか焦りというより不思議になってきた
「メルラン、ちょっと見せて」
楽器を渡す。こういう時姉さんは頼りになる。いつも要所要所で的確な判断をしてくれる
ほら、今だってちゃんと結論を出してくれる
「リードが割れてる」
と私に見せる
本当だ、見事に割れている。棚の下敷きにされたときだろう
・・・・・・なんで気付かなかったんだろう
普通二つに割れている時点で気付くはず。おかしいなぁ・・・
「予備はあるの?」
「んー・・・なかったと思う」
「私のも最近は使う機会もなかったし、ないよー」
どうやらこの家にリードは一つもないようだ。音楽屋敷としてあるまじきっ!
「じゃあ、買いに行かないと無いみたいね」
「何処で買うの?香霖堂?」
「それはちょっとー・・・・」
あの暗い雰囲気はあまり好きではない。できれば他の所にしたいものだ
好きでないのは雰囲気というより日陰のような気もするけど
他に何処があるだろう・・・考えたときに分かるのだが、幻想郷には店と呼べるところが数えるほどしかない
そんなどうでもいいことに思考が走り始めたとき、
「西行寺に行こう」


ということで、姉さんの提案で私たちは今西行寺家の階段を登っている。訂正、飛んでいる
「ねぇ、ルナサ姉さん、何で西行寺なの?」
私の変わりに疑問に思っていたことを口に出す
「あの、剣術の巧い庭師がいたでしょ、彼女に作ってもらおうと思って」
ますます理由が分からない、剣とリードがどう結びつくのだろうか
気にせずルナサ姉さんは続ける
「木彫りの人形が作れるのだからリードも剣で作れる・・・・・と思う」
少し納得、でもそれなら普通に買ったほうが・・・・・
逆にリリカは大いに納得しているようで
「そっかー、”はくろうけん”で作ってもらうってことね」
姉さんもうなずく。私も納得
聞いた話によると、その剣で切られたものは迷いを断つ、らしい
「メルランにはもうちょっと落ち着きが必要だから」
「それは、言えるねー」
二人は少し囃すが私は苦笑、表向きは笑う
私の迷いは、根端であり、始めからなかったパーツ
パズルのピースが始めから足りないパズルは完成させることは出来ないことと同じ
出来る以前に入れ忘れたパーツを再生成することは出来ない
迷いは絶対に消えない


階段を飛びきると、庭師は待っていたかのようにそこで掃除をしていた
やはりいつものように2本の剣を携えて。彼女は気付いたようで向き直る。そして会釈
「こんにちは、ようこそいらっしゃいました。幽々子様なら・・・」
言いかけて姉さんがそれをさえぎる
「いや、今日用があるのは庭師さんのほうにだから」
「???」
心底分からないといった様子。まぁ、いつもここに来るのは宴会だったり、打ち合わせだったり・・・
幽々子さん関連だからだろう。それに打ち合わせには姉さんしか行かない
ふと、私と目が合うと彼女は何故か目を逸らす、まるでなにかを堪えている様にもみえる
理由が分かるのだろうか、リリカはそれに気付いて、しきりに
「気にしないで」と小声でいっている
「と・・・とりあえずっ、こちらで話を聞きましょう」
と、引きつった顔で案内をされた


縁側でボケーっと曇り空を仰いでいる仰いでいる、幽々子さんの前で用を話した
彼女曰く「主人の許可が必要」らしい、なんとも律儀なことで、どこかの犬みたいだ
「大体分かったわー」
間の抜けた声
「よーむ、作ってあげなさい、形さえ分かれば出来るでしょう。いつもお世話になっているのだし」
「まぁ、そうですけど・・・材料もありそうですし」
何故かどもる。・・・・・・形が分からないのかな?
そう思って、二つに割れたリードを渡す
「これと同じ物を作って欲しいのだけど」
途端、彼女は険しい表情から。明るい表情へ、そして、厳しい顔つきへと変わり、しげしげと眺め始めた
さっきまでの少女のような顔つきではなく、それはもはや職人の顔となっていた

しばらくして
「大体分かりました。ちょっとお借りしますね
と、軽く会釈をして移動しようとする庭師さんにリリカが冗談半分に声をかけた
「割れたのは再現しなくていいからねーー」

「・・・!!・・・イヤダナア、トウゼンジャナイデスカ」
・・・ちょっと不安だ

待っている間に誰かと話していた気がする。姉さんだか、リリカだか分からない
なにかをしていた気もする、幽々子さんと将棋だったような・・・
だけど考えていたのはレイラのこと。
柄にもなく思い出してしまった。何故だろう・・・

私とリリカをボケとするなら、落ち着いた姉さんとレイラはツッコミだった
さらに言うなら、私につっこむのは決まってレイラだった
私を・・・欠陥にしたレイラを恨んではいない。恨めるわけもない
唯一恨むならば、レイラも一緒に幽霊にならなかったことだ
もっと一緒にいたかったのに・・・もっと演奏したかったのに・・・
なんだか、負の感情ばかり
ここが霊界だからかな・・・思い出してしまうのだろうか・・・


「・・・・・姉さん、姉さんってば!」
リリカの声で我に返る私、周りにはリリカ、姉さん、幽々子さん、作業が終わったのか庭師さんもいた
皆見ている。その輪の中で・・・・・・・私は泣いていた
動揺
「あれ・・・・?どうして泣いてるんだろう」
お決まりのような台詞を言う、だけどそれしか言えない
「大丈夫?姉さんずっとレイラの事を呼んでいたんだよ。覚えてる?」
覚えていない
「やっぱり三人じゃ足りない?」
と、姉さん言ってる意味が分からない
イッテルイミガ・・・
理解しようとしないだけかもしれない
私は極端に皆と話すときはその話題を嫌う、避けてるだけ。負の感情しか出てこないから
顔に出そうになって非常に嫌だ
「あーーーっ!!もう、うじうじうじうじしてーー!!」
「幽々子様、言い方が下品です」
「五月蝿い!妖夢は黙って」
「・・・みょん」
突然怒り出す幽々子嬢、放心状態で見る私たち三人。涙も止まっている
「次女!」
「はひっ!」
思わず立ち上がり返事をしてしまう。これがカリスマパワーだろうか
「今すぐ一人で演奏なさい。品は出来ているから」
というなり、トランペットを押し付け、リードを庭師から奪い取り手のひらに置く
「あの・・・」
「そのリードは白楼剣で作った物。ひとたび吹けば迷いなんて消し飛ぶわよ」
「でも、私のは・・・」
「消えるわ。あなたの迷いの正体はもう分かっているから。それを吹くだけであなたはそれに気付く」
「でも、・・・」
「つべこべ言わずに吹くっ!」
「はいっ」
どういうことだろう、私のは先天性じゃない。ずっと先天性だと思っていた
ならこの迷いは何だろう
リードをセットし口をつけ、手の動くままに吹いてみる

依存

頭に浮かぶ。それで分かった、これはやはり後天的だ
むぅ、恐るべき白楼剣製。ちょっと違う気もする
依存。そうかわたしはレイラに依存しすぎていた。いまなら分かる
よりどころがなくなった私は、不安定になりスイッチが出来た
自己制御が出来なくなり、知らず知らずのうちにそれをまたレイラの魔力が足りないだの理由をつけて
レイラのせいにしてしまい、そしてまたレイラに依存する結果となったようだ

依存。それが正体

その結果姉さんやリリカにも迷惑をかけたようだ。そういえば、リリカも私のつっこみに回るようにもなった気がする
妹に気を使わせるなんて・・・姉失格だ
これからはそんなことはないだろう、暴走したりすることも

もう吹くのを止めてもいいのだけど私は演奏する
これはもう悩みをなくすための演奏ではない
これは鎮魂歌。レイラと私の一部に対しての鎮魂歌
それは天に届くことだろうか?届かなくても絶対に聞こえるはずだ

演奏を止めると。皆は無言で手を叩いた。私は一礼する
「皆さん迷惑かけてごめんなさい」
とりあえず謝る。なれないことはすばらしく恥ずかしいものだ
リリカが後ろ手に近づいてくる。
「これからは三人でも大丈夫だから。もう暴走なんてしないから」
と声をかける。あくまでも陽気に。それが私だから
「本当?」
「本当よ」
「本当に本当?」
「本当に本当だってば」
「じゃあ・・・」

バッチーーーン

いつかの炸裂音
「いったぁ!!」
さっとリリカに鏡を向けられる
そこには、今何処から取り出したのか分からないハリセンで付けられた跡と
身に覚えのない少し薄くなった赤い跡が交差していた
庭師さんがさっき目を逸らしたのはそれだったのか・・・
「これで、バランスが良くなったねー、やったね!!」
何故かウインクをされる。何も良くない。鼻が痛い。泣ける
「リーリーカーサン?」
「何でしょう・・・って、あれ?暴走しないんじゃないの?・・・その顔コワイヨっ!!」
「薄いほうは?」
「朝起こすときに作ったの」
「へぇ・・・」
前言撤回
暴走することはない→スイッチの入り切りが自由に出来る

姉さんは傍観者を決め込む
庭師は堪えられなくなり笑い転げ、幽々子は喧嘩をするよう囃す
多種多様。なんだかそれが楽しくて
スイッチを入れてしまいました


ξ・∀・)メルポ


夕暮れ前は悲鳴の色
どうも、光丸です
見て分かりますが続き物です
メルランパートということで落ちはお決まりのものを使うことに
間が開きましたがじっくり読んでいただけると嬉しいです
やはりメルランの文章では落としたくなるようです

まだ続きますルナサパートに続きます・・・たぶん
面白かったら次のも読んでやってください

ここで、少しこの文章を思い付いたきっかけをば
この話の全てに言えることだったりするのですが
ゼオライマーから思いついたことだったりするのです
分かった人は納得してやってください。分からなかったらスルーしてあげてください(自分勝手

では感想などよろしくおねがいしますー
光丸
[email protected]
http://www.geocities.co.jp/Playtown/7143/index.html
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コメント



0.930簡易評価
2.10名前が無い程度の能力削除
いっつも見てるだけですが初めて感想書きます。

リリカパートも面白かったですよ、タダ一つ気になったので指摘させてください。

「リード」を使うのは主に木管楽器(クラリネットやサックス等)でしてトランペットは金管楽器で使うのは「マウスピース」ですよ。

・・・・コレデモシワタシガマチガエテイタラメルランニヌッコロサr(ヒノファンタズム
7.10kani削除
少々便乗させていただきます。
名前が無いほどの能力さんの仰るとおり、トランペットはマウスピース楽器です。マウスピースはワイングラスのような形のもので、金属製。トランペットのものだと6~7cmくらいでしょうか。以下のページを参考にされると良いかもです。
http://www.yamaha.co.jp/product/wind/index.html

ついでに言いますと、リードの原材料となるきは日本には無い「ケーン」という木で出来ているようです。一見竹のようにも見えるので、無理をすれば竹でも代用できるかもしれません。
リードはとても気難しいもので、素人が削ってもすぐにすぐ音の出るものは出来ないそうですが、そのあたりは妖夢の気合で何とか・・・

もし修正されるのであればトランペットをクラリネットやサックスなどに直されてはどうでしょうか。木管楽器と金管楽器の持ち替えは難しいですが三姉妹なら難なくやってのけそうですし。長文失礼いたしました・・・
8.無評価光丸削除
ああーマチガエターーー_| ̄|●
一番重要なところを・・・
すみませんすみません
勉強不足もいいところ・・・次こそはっ・・・

指摘ありがとうございました(陳謝
12.40Barragejunky削除
前回のお話からさらに良くなっていますね。
メルランの心の移り変わりが順を追って描写されていてすんなりと読み進められました。
ちょっとだけ重箱の隅をつつかせて貰いますと

>こういうときも表情に出さないでいられる私の楽天的にはよく助けられる

という表現に少し違和感を感じました。
この場合なら「楽天的な性分」とか「お気楽さ」とか「楽天加減」などの方がよろしいかと。
自分も言葉の使い方は驚くほど下手なくせに偉そうな事言っていますね。申し訳ありません。

次は長女ですね。さて彼女はどんな悩みを持っているのでしょう。そして悩みの解き方はどうなるのか。楽しみです。

ξ・∀・)メルポ
はやはり反則、またしても吹いた。もう条件反射らしい。
14.90名前が無い程度の能力削除
やっぱり長女の悩みは心労で、霊夢や妖夢と同じで・・・ブツブツ・・・
25.無評価自転車で流鏑馬削除
ちょっと自分もリードに関して一言。
豆知識と思って流して下さっていいです。
kaniさんがおっしゃったリードの素材であるケーンは葦の一種です。
雅楽に使う笙(しょう)や篳篥(ひちりき)等のリードも(葦舌といいます)日本の葦を良く乾燥させた物を削って作ります。
ってググれば直ぐに判りますね、蛇足でした。