《リグル・ナイトバグ》
リグル・ナイトバグは妖怪蛍として生まれた。
蟲を操る程度の能力により、世間では『蟲の親玉』として知られていて、
「おっと、浮気の虫が騒いだぜ。こいつはリグルのせいか?」
「腹の虫が鳴っていけない。リグルのやつは性悪だ」
「あいつは虫が好かない。それもこれもリグルのせいだな」
などと、勝手に名前を使われ放題だった。
もっとも彼女はもっぱら虫としか付き合いがなかったので、さして問題もなかったのであるが。
ある日のこと、リグルがぶらついていると、くまばちの群れにでくわした。
「あんたたち、どこへ行くの?」
「これは姐御」とくまばちども、軍礼。
「ご覧のとおり、これから略奪にいこうという寸法でさ」
へえ、とリグル。「まあ、せいぜいほどほどにね」
彼女は蟲どもの『親分』ではあったが『王』ではなかったから、連中の行いに口をはさむことはなかった。
「今日はどこを襲おうっていうの? いつもみたいに、みつばちたちの巣? それとも、アリのサナギでもかっさらってきて奴隷にしようってわけ?」
いえいえ、とくまばちども。「今日の標的は、『人間』でしてね!」
「へぇぇ?」リグルは吃驚した。
人間は、むろん蟲ではない。
たしかに、くまばちどもがいっせいにかかれば、人ひとりは倒せるかもしれぬが、『狩り』の相手としては大柄すぎように。
「それはそうです。しかし、連中が貯め込んでる食料やお宝は、そりゃあ大層なものだとか。そいつを根こそぎ奪い取れれば、こいつは痛快じゃありませんか」
「なるほどね! 武運を祈るわ」
おう、と気勢をあげて、くまばちの軍団は、人里へと進撃していった。
それからまたリグルがぶらぶらしていると、みつばちどもの群れに出くわした。
「あんたたち、どこへ行くの?
「ああこれは姐さん」とうやうやしく礼をするみつばちたち。
「わたしどもは人間の里へ行こうと思っております」
「へぇぇ!」とリグル。「まさか、あんたたちも人里を荒らしに行こうっていうの?」
とんでもない、とみつばちども。
「聞けば、人間どもはわたしどもの作る蜜をたいそう珍重するとか。そこで彼らに飼ってもらい、共生していこうという腹なのです」
それを聞くと、リグルは触覚を逆立てて、
「誇り高き蟲の眷族のくせに、人間に尻尾を振って飼いならしてもらおうってわけ! 犬や猫じゃあるまいし、なんて恥知らずなやつら!!」
と激怒し、みつばちどもをしこたま痛めつけた。
ほうほうのていでみつばちどもが逃げ去ったあと、ふと夜空に目をやったリグルは、人里のほうから数知れぬ流星が天へ駆け上がっていくのを見た。
「ああ」蛍少女はつぶやいた。「星が、増える」
リグル・ナイトバグは地上を去る星ぼしを追いかけるかのように、宙へ舞った。
「ごらん」くまばちどもを退治し、一息ついた人間たちが、夜空を指差していった。
「蛍がゆくよ」
「蛍は星になるの?」人間の子供が母にたずねた。
「いいえ娘」その母がいった。「蛍は星にはなれないわ」
《ミスティア・ローレライ》
ミスティア・ローレライは夜雀に生まれた。
歌で人を狂わす程度の能力を持ち、それなりに狂わせてみたり狂ってみたりといった日々をつらつらと送っていた。
彼女は夜っぴて道に伏せ、妖や魔や人が通りがかると襲いかかり、むりやり知っている歌を唄わせ、おのれの持ち歌にするのをつねとしていた。
(ちなみに歌を唄わせたあとは、煮たり焼いたり揚げたりどうにもしなかったり、つまりは適当にすませるのだった)
ある月も朧な夜のこと、ミスティアはいつものごとくじっと野に伏せ、獲物を待ち受けていた。
やがて夜道を明かりもつけず、旅人が歩いてきた。
見れば楽器をしょっており、あるいは楽師のたぐいとも見えた。
「しめた! 今夜は、あいつの歌で混声九部合唱よ!」
喜びのあまり小躍りしながら、ミスティアは旅人の前に飛び出すや
「ここを通りたかったら、お代を払うことね!」
と、見栄をきった。
「よかろう」と楽師。
「といっても、金銀財宝になんて興味はないわ。あなたの知ってるかぎりの歌を唄ってきかせなさい」
「いいだろう」と楽師。
彼は楽器を手に取るや、さっそく弦を爪弾きながら、唄いはじめた。
それはまさに絶唱というべきもので、木々もみな枝かたむけ、風もしばし足を止め、月もおもわず群雲から顔を出す、というほどのありさま。
ミスティアは、知らず、涙を流していた。
かつてこれほどの歌を、彼女は唄ったこともなく、聞いたこともなかった。
ようやく涙が枯れたころ、ふと見ると楽師は演奏姿勢のまま息絶えようとしていた。
驚くミスティアに、
「これがさだめだ」と楽師。
「今わたしが唄ったのは最期の歌。これを唄えばすなわち死が訪れる、という凶歌(まがうた)」
「――っ」
「かつてわたしはこれを師より授かったが、それゆえに師は命を失った。しかしその死に顔はいたく安らかであった。死の恐怖よりも、唄いきったという悦びが上回ったのだ」
楽師は末期の息でなおいう。「わたしはいつかこの歌を唄いたい、と思い続けてきたが、機会を果たせずにいた。もし、思いのままに唄ってしまえば、それきりこの歌は失われてしまうからだ。そんなとき」
ミスティアを指差す。「歌で戯れ、歌を嗜み、歌に溺れる夜雀がいると聞いた。お前はもはや、かの歌から逃れ得まい」
「図ったわね」夜雀は叫んだ。「私に呪いを押し付けたんだ!」
「呪いではないさ」楽師は微笑んだ。「ただの――歌だ」
なおも少女は文句をつけようとしたが、口をつぐんだ。
死人に何をいっても、詮無いからである。
以来、ミスティアは歌追いはぎを廃業した。
また先のようなことになってはかなわぬ、ということもあるが何より、
『あの歌を――唄いたくなる』
それが、最大の要因であった。
もし、かの歌を彼女が唄う時があるとすれば、それは
『生死の境を彷徨うときにちがいない』
ミスティア・ローレライは、あるいはどこかでそれを望んでいるのかもしれぬのだった。
《上白沢 慧音》
上白沢慧音は半人半獣の生まれである。
歴史を食べる――隠す程度の能力と、歴史を創る程度の能力を持ってい、その知識は森羅万象に通じ、およそ知らぬことはないとうたわれた。
それだけに、彼女に真の歴史を隠させたり、逆に偽りの歴史を創らせたり、といった悪謀をたくらむやからもすくなくなかった。
もっとも慧音は博識にしてさらに聡明であったから、ちょっとやそっと歴史をねじ曲げたところで、けっきょくは『あるべきかたち』に修正されるさだめ、要するに大勢に影響はない、と心得ていた。
ゆえに、その力を惜しむことなく、大いに歴史を食らい、産んでいったものである。
あるとき、ひとりの少女が慧音のもとを訪れ、こういった。
「わたしの存在を、『なかったこと』にしてください」
「と、いうと?」
少女がいうには。――彼女はとある青年をこよなく愛しているが、彼の一族と彼女の一族は激しく敵対しており、とうてい結ばれる可能性はない。
彼は、どこか遠くへ逃げよう――と言ってくれるけれど、自分は病弱であり、逃避行に耐えうるとは思えぬ。
「それならば」
いっそ、自分がいなかったことにすれば、彼は新たな幸福を探すことができよう――と、彼女はいうのだった。
「後悔、しないな」
ええ、と少女はいった。「もしわたしに、これまで生きてきた意味があるとすれば、それはこうすることでしょうから」
そこで慧音は望みどおり、少女の存在を『なかったこと』にしてやった。
それからしばしのち。
彼女のもとを、青年が訪れた。
青年がいうには。――彼はとある人をこよなく愛していた。だが、ある日こつぜんと彼女は姿を消してしまった。そればかりか、彼女のことを周囲の者は誰一人憶えていなかった――そう、まるで『いなかった』かのように。
「そのとき推察したのです。これはあなたの御業であろうと」
「それで」と慧音。「どうしようという。彼女の歴史を戻せ、とでも?」(多少いらだたしげであったのは、己が隠したはずの歴史を、この青年がなお記憶していたからにほかならぬ)
いいえ、と青年はかぶりをふった。「どうせ、あのままでは彼女とぼくは結ばれえなかったでしょうから」
それならば、と彼はいう。「むしろ、ぼくの存在も『なかったこと』にしてほしいのです」
「なんだと」
そうすれば、と青年はいうのだった。「彼女とぼくは、誰からも邪魔されることなく、ひとつところに留まれるでしょうから――とこしえに」……
「――それで」
古道具屋の声で、慧音はわれに返った。
「どうするんです? その本、売るんですか?」
「……やめておこう」
慧音は、持参してきた古文書を閉じた。
そこに記してあるのは、これまで彼女が食らってきた歴史たちのかけら。
彼女が忘れ、失ってしまえば、永劫に消えゆくさだめの物語たち。
たとえば、先刻まで読み返していた、男女の小話。
どこにでもある――しかし、これひとつしかない、歴史の残り香。
(手放すにはいまだ、惜しいようだ)
古文書を鞄におさめ、担いだ。
ずしり、と肩に食い込む結構な重みに、慧音はすこし顔をしかめた。
「ずいぶんと」古物商が感心したようにいう。「重そうですね」
「歴史とは」上白沢慧音はいった。「重い――重いものだ」
リグル・ナイトバグは妖怪蛍として生まれた。
蟲を操る程度の能力により、世間では『蟲の親玉』として知られていて、
「おっと、浮気の虫が騒いだぜ。こいつはリグルのせいか?」
「腹の虫が鳴っていけない。リグルのやつは性悪だ」
「あいつは虫が好かない。それもこれもリグルのせいだな」
などと、勝手に名前を使われ放題だった。
もっとも彼女はもっぱら虫としか付き合いがなかったので、さして問題もなかったのであるが。
ある日のこと、リグルがぶらついていると、くまばちの群れにでくわした。
「あんたたち、どこへ行くの?」
「これは姐御」とくまばちども、軍礼。
「ご覧のとおり、これから略奪にいこうという寸法でさ」
へえ、とリグル。「まあ、せいぜいほどほどにね」
彼女は蟲どもの『親分』ではあったが『王』ではなかったから、連中の行いに口をはさむことはなかった。
「今日はどこを襲おうっていうの? いつもみたいに、みつばちたちの巣? それとも、アリのサナギでもかっさらってきて奴隷にしようってわけ?」
いえいえ、とくまばちども。「今日の標的は、『人間』でしてね!」
「へぇぇ?」リグルは吃驚した。
人間は、むろん蟲ではない。
たしかに、くまばちどもがいっせいにかかれば、人ひとりは倒せるかもしれぬが、『狩り』の相手としては大柄すぎように。
「それはそうです。しかし、連中が貯め込んでる食料やお宝は、そりゃあ大層なものだとか。そいつを根こそぎ奪い取れれば、こいつは痛快じゃありませんか」
「なるほどね! 武運を祈るわ」
おう、と気勢をあげて、くまばちの軍団は、人里へと進撃していった。
それからまたリグルがぶらぶらしていると、みつばちどもの群れに出くわした。
「あんたたち、どこへ行くの?
「ああこれは姐さん」とうやうやしく礼をするみつばちたち。
「わたしどもは人間の里へ行こうと思っております」
「へぇぇ!」とリグル。「まさか、あんたたちも人里を荒らしに行こうっていうの?」
とんでもない、とみつばちども。
「聞けば、人間どもはわたしどもの作る蜜をたいそう珍重するとか。そこで彼らに飼ってもらい、共生していこうという腹なのです」
それを聞くと、リグルは触覚を逆立てて、
「誇り高き蟲の眷族のくせに、人間に尻尾を振って飼いならしてもらおうってわけ! 犬や猫じゃあるまいし、なんて恥知らずなやつら!!」
と激怒し、みつばちどもをしこたま痛めつけた。
ほうほうのていでみつばちどもが逃げ去ったあと、ふと夜空に目をやったリグルは、人里のほうから数知れぬ流星が天へ駆け上がっていくのを見た。
「ああ」蛍少女はつぶやいた。「星が、増える」
リグル・ナイトバグは地上を去る星ぼしを追いかけるかのように、宙へ舞った。
「ごらん」くまばちどもを退治し、一息ついた人間たちが、夜空を指差していった。
「蛍がゆくよ」
「蛍は星になるの?」人間の子供が母にたずねた。
「いいえ娘」その母がいった。「蛍は星にはなれないわ」
《ミスティア・ローレライ》
ミスティア・ローレライは夜雀に生まれた。
歌で人を狂わす程度の能力を持ち、それなりに狂わせてみたり狂ってみたりといった日々をつらつらと送っていた。
彼女は夜っぴて道に伏せ、妖や魔や人が通りがかると襲いかかり、むりやり知っている歌を唄わせ、おのれの持ち歌にするのをつねとしていた。
(ちなみに歌を唄わせたあとは、煮たり焼いたり揚げたりどうにもしなかったり、つまりは適当にすませるのだった)
ある月も朧な夜のこと、ミスティアはいつものごとくじっと野に伏せ、獲物を待ち受けていた。
やがて夜道を明かりもつけず、旅人が歩いてきた。
見れば楽器をしょっており、あるいは楽師のたぐいとも見えた。
「しめた! 今夜は、あいつの歌で混声九部合唱よ!」
喜びのあまり小躍りしながら、ミスティアは旅人の前に飛び出すや
「ここを通りたかったら、お代を払うことね!」
と、見栄をきった。
「よかろう」と楽師。
「といっても、金銀財宝になんて興味はないわ。あなたの知ってるかぎりの歌を唄ってきかせなさい」
「いいだろう」と楽師。
彼は楽器を手に取るや、さっそく弦を爪弾きながら、唄いはじめた。
それはまさに絶唱というべきもので、木々もみな枝かたむけ、風もしばし足を止め、月もおもわず群雲から顔を出す、というほどのありさま。
ミスティアは、知らず、涙を流していた。
かつてこれほどの歌を、彼女は唄ったこともなく、聞いたこともなかった。
ようやく涙が枯れたころ、ふと見ると楽師は演奏姿勢のまま息絶えようとしていた。
驚くミスティアに、
「これがさだめだ」と楽師。
「今わたしが唄ったのは最期の歌。これを唄えばすなわち死が訪れる、という凶歌(まがうた)」
「――っ」
「かつてわたしはこれを師より授かったが、それゆえに師は命を失った。しかしその死に顔はいたく安らかであった。死の恐怖よりも、唄いきったという悦びが上回ったのだ」
楽師は末期の息でなおいう。「わたしはいつかこの歌を唄いたい、と思い続けてきたが、機会を果たせずにいた。もし、思いのままに唄ってしまえば、それきりこの歌は失われてしまうからだ。そんなとき」
ミスティアを指差す。「歌で戯れ、歌を嗜み、歌に溺れる夜雀がいると聞いた。お前はもはや、かの歌から逃れ得まい」
「図ったわね」夜雀は叫んだ。「私に呪いを押し付けたんだ!」
「呪いではないさ」楽師は微笑んだ。「ただの――歌だ」
なおも少女は文句をつけようとしたが、口をつぐんだ。
死人に何をいっても、詮無いからである。
以来、ミスティアは歌追いはぎを廃業した。
また先のようなことになってはかなわぬ、ということもあるが何より、
『あの歌を――唄いたくなる』
それが、最大の要因であった。
もし、かの歌を彼女が唄う時があるとすれば、それは
『生死の境を彷徨うときにちがいない』
ミスティア・ローレライは、あるいはどこかでそれを望んでいるのかもしれぬのだった。
《上白沢 慧音》
上白沢慧音は半人半獣の生まれである。
歴史を食べる――隠す程度の能力と、歴史を創る程度の能力を持ってい、その知識は森羅万象に通じ、およそ知らぬことはないとうたわれた。
それだけに、彼女に真の歴史を隠させたり、逆に偽りの歴史を創らせたり、といった悪謀をたくらむやからもすくなくなかった。
もっとも慧音は博識にしてさらに聡明であったから、ちょっとやそっと歴史をねじ曲げたところで、けっきょくは『あるべきかたち』に修正されるさだめ、要するに大勢に影響はない、と心得ていた。
ゆえに、その力を惜しむことなく、大いに歴史を食らい、産んでいったものである。
あるとき、ひとりの少女が慧音のもとを訪れ、こういった。
「わたしの存在を、『なかったこと』にしてください」
「と、いうと?」
少女がいうには。――彼女はとある青年をこよなく愛しているが、彼の一族と彼女の一族は激しく敵対しており、とうてい結ばれる可能性はない。
彼は、どこか遠くへ逃げよう――と言ってくれるけれど、自分は病弱であり、逃避行に耐えうるとは思えぬ。
「それならば」
いっそ、自分がいなかったことにすれば、彼は新たな幸福を探すことができよう――と、彼女はいうのだった。
「後悔、しないな」
ええ、と少女はいった。「もしわたしに、これまで生きてきた意味があるとすれば、それはこうすることでしょうから」
そこで慧音は望みどおり、少女の存在を『なかったこと』にしてやった。
それからしばしのち。
彼女のもとを、青年が訪れた。
青年がいうには。――彼はとある人をこよなく愛していた。だが、ある日こつぜんと彼女は姿を消してしまった。そればかりか、彼女のことを周囲の者は誰一人憶えていなかった――そう、まるで『いなかった』かのように。
「そのとき推察したのです。これはあなたの御業であろうと」
「それで」と慧音。「どうしようという。彼女の歴史を戻せ、とでも?」(多少いらだたしげであったのは、己が隠したはずの歴史を、この青年がなお記憶していたからにほかならぬ)
いいえ、と青年はかぶりをふった。「どうせ、あのままでは彼女とぼくは結ばれえなかったでしょうから」
それならば、と彼はいう。「むしろ、ぼくの存在も『なかったこと』にしてほしいのです」
「なんだと」
そうすれば、と青年はいうのだった。「彼女とぼくは、誰からも邪魔されることなく、ひとつところに留まれるでしょうから――とこしえに」……
「――それで」
古道具屋の声で、慧音はわれに返った。
「どうするんです? その本、売るんですか?」
「……やめておこう」
慧音は、持参してきた古文書を閉じた。
そこに記してあるのは、これまで彼女が食らってきた歴史たちのかけら。
彼女が忘れ、失ってしまえば、永劫に消えゆくさだめの物語たち。
たとえば、先刻まで読み返していた、男女の小話。
どこにでもある――しかし、これひとつしかない、歴史の残り香。
(手放すにはいまだ、惜しいようだ)
古文書を鞄におさめ、担いだ。
ずしり、と肩に食い込む結構な重みに、慧音はすこし顔をしかめた。
「ずいぶんと」古物商が感心したようにいう。「重そうですね」
「歴史とは」上白沢慧音はいった。「重い――重いものだ」
表現も過剰なところ無く簡潔にまとめられていますし。
次はどんな話が見られるのか楽しみです。
軽妙ながら、重さがある。この妙味。
東方キャラの表現に妖怪草紙の語り口が素敵にマッチしていて、
何とも言えず良いです。個人的な好みだと夜雀の小噺が興味深いですね。
全編を通し感じる不可思議でちょっと儚い雰囲気が、妖怪達をとても妖怪らしく表わしていてそれが過不足無くすっぽりとあるべき形に収まっている感じでしょうか。何言ってんのかよく分からねえぞ私。
要するに『スッキリしているのにキャラが非常に立っている』と言いたいらしいですこの知欠生物。
それを、この何とも言えない語りの良さに絆されてつい喋りたくなってしまいました。
何にしろお見事。その一言さえあれば他にはいらなかったかもしれません。
この物語を読ませて頂けた事にただただ感謝を。
人間とは一寸違った倫理観をもちながら、それでもどこか哀しみを持つ妖達の描写が見事でした。
それぞれの最初の一行の、偶然に妖に生まれついた、と言うような書き方も面白いです。
キャラクター性もストーリー豊かな割りに非常に短い辺り
ナンカモー。ナイス短編集?
とくにミスティアが好い
小川未明の作品を思い出しました