Coolier - 新生・東方創想話

司書の仕事

2004/08/06 16:33:29
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 ここはヴワル図書館、紅魔館内にある大きな図書室。
 広い広い、そして薄暗い図書館。窓が締め切ってあり、四六時中暗いままである。
どう考えても館には納まり切れない程の広大なこの図書館で、二つの人影が本棚の間を歩いている。

 一人は髪が長い、丸い体の線から見て少女と言った所か。
「ねえ……もう少しゆっくり歩いてよ」
その少女が立ち止まり、前を歩く少年に声をかけた。
「そんな調子じゃここから抜け出せないよ、さあ歩いて」
少年の手が少女の手を取る。
薄暗い部屋の中、本棚の間を再び歩き出す2人。

 手を繋ぎながら少女が問い掛ける。
「ねえ、本当に大丈夫なのかな? 司書さんに内緒で……」
「構わないさ! 勝手に捕まえられてから何年も耐えてきたんだ。もう、離れ離れになるつもりなんか無い!」
はしっ、と少年の口を塞ぐ様に手が当てられる。
「声が大きいよぅ」
「あ、ごめん」
再び沈黙が訪れる。


 小一時間程後。
「もう……歩けない」
ついに少女がへたり込んでしまった。
「少し、休もうか」
少年も息が荒い、額に汗が浮んでいる。
「慣れない事は難しいな、歩くのがこんなに難しかったなんて」
「足が痛いよぅ」
2人ともその場に座り込んでしまった、足を擦っている。
「こんな事なら飛行術の本を読んでおけば良かった、すぐ近くに有ったはずなんだけどな……」
「仕方ないよ、あの時は司書さんから逃げるのに精一杯だったんだもん」

 足を擦りながら少年が呟く。
「……とにかく、これからどうするかだな。」
「どうやって逃げるの? この大きい図書館から……外どころか壁すら見えないんだけど」
「……」
「……ひょっとして、考えてないとか?」
「とにかく歩こう! 何かの変化があるはずだから」
少年のちょっと強引さ少女はくすくすと笑う。
「何がおかしいんだよ」
「何も考えてなかったんだぁ♪」
少年がむくれる、ぷいと少女から視線を逸らしてしまった。
少女も真似して視線を逸らす。

「……ねえ」
「なんだよ」
お互いがそっぽ向いたまま少女が問い掛ける。
「外って、どんな所かな」
「今から確かめに行くんだろ」
まだ怒ってる様子に少女がちょっと不機嫌になる。
「そんな言い方無いじゃない、笑った私も悪いかもしれないけど……」
「……ごめん」
その言葉を聞くと少女はにっこり笑い、言葉を続ける。
「星空って綺麗なのかな、暗い中に光が散らばっているのってどんな感じなのかな」
「この図書館の蝋燭みたいな感じかな?ほら、ちらちら光ってる」
不意にうつむく少女。
「……変だよね」
「ん?」
「私って『月』だったのに、そんな事も解らないんだもん」
「……ん」
少年の答えは少し素っ気無い、何だか体力が無いかの様に。

「何でだろうね、やっぱり文字だけじゃ解らないのかな?」
「……」
「でも、『太陽』にそんな事聞いても駄目かな。昼間だと明るくて見えないんでしょ? 星って」
「……」
「何とか言ってよ」
「……」
「いいわ、私勝手に話すから」
「……」
「土はじゃりじゃりするって話ね、裸足で歩いてみたいなあ」
「……」
「人がいる所で市場が出来るんだよね。みんなで集まってワイワイ騒ぐんだっけ?」
「……」

 まるで、自分のの不安を打ち消したいのか、一人で喋りつづける少女。
対照的に、少年の反応は寡黙。

「そこで綺麗な髪飾り見つけて、貴方に買ってもらいたいなぁ」
「……」
「太陽があると虹が出来るんでしょ? 七色の綺麗な半円だっけ。」
「……」
「あ、でも雨が降ったら出来るんだよね、ちょっと怖いかな。私たちには」
「……」
「どんな所なんだろうね、外って」
「そんなに良い所じゃないわ、特に貴方達にとってはね」

 彼女の問いかけに答えたのは……
「えっ?」
少年の声ではない。


 身を起こして振り返ると、違う人影か立っていた。
頭と背中から生えた蝙蝠のような羽根、赤くさらりと流れる髪、明らかに人ではない者の瞳。
例えるなら、悪魔の使いとでも言うべきか。
黒い司書の服装をした女性が、一冊の本を手に取り浮んでいる。
「司書さん! そ……そんな。……もう追いつかれて」
明らかに怯えた表情を浮かべる少女、司書と呼ばれた女性はむしろ持った本に注意を向けている。

「ああ、もう。あんまり無茶をするから」
ぱんぱん、と本についた埃を払い落としながら
「あちこち傷だらけじゃない。駄目よ、仕事を増やしてくれちゃ」
本の頁を捲りながら、呟くように語り掛ける。
「さ、戻りなさいな。貴方達がいる場所はこのと……」
と言いながら顔を上げた女性の顔に。

シュパン!

 と、光の弾が迫り。
「うわひゃあっ!」
妙な声をあげてのけぞり、手から本が滑り落ちる。
「とっ、とっとっ……」
捲くれ上がったスカートを直しながら体勢を立て直し。
「あれ?」
見れば少女と落とした本がいなくなっていた。
「ありゃりゃ、見失っちゃった」
ふぁさっ と羽根を広げて本棚より更に高く舞い上がる。
「あんな状態で走ったら壊れちゃうよ……もう」


 薄暗い本棚の間を少女が駆ける。
一冊の本を抱えたままぱたぱたと走る。
ふと足をもつれさせてしまい

どてっ

 っと転んだ。
いくら床がカーペットで覆われていても、衝撃を全て受け止めてくれる訳は無い。
「痛ぁっ! ……っっう。」
膝を強く打ったのだろう、少女は立ち上がるのも忘れてうずくまる。
本が一冊投げ出されていた、タイトルに『太陽の書』と書かれている。
その本を拾い上げる手がある、さっきの司書だ。

「もう、さっさと諦めなさい。『太陽』はもう戻ったわ」
「嫌! 私達はここから出るの!」
「そんな事を言える立場でもないで……」
少女の手が伸ばされた。

ヒュワン!
バキィン!

少女から放たれた光の弾は、突如現れた光り輝く魔方陣に弾かれる。

「貴方の指示は……受けない!」
次の弾を放つ為身を起こし、足に力を込め。
ばらり、と足が多数の紙となってほどけた。
「!!!!!」
その場に崩れ落ちる少女、悲鳴すらあげるのを忘れたのか、口をパクパクと動かしている。

 少女の状態を見ていた司書は呆れ顔で
「まったく、当たり前でしょ? 魔力で体を維持してるのに、ほいほいと魔法を使っちゃうんだもん」
「そんな……そんなぁ!」
涙目になりながらも、手で身を起こそうとして。
今度はその手も多数の頁となった。
ばらばらと床に落ちる頁たち、そこに倒れる少女。
「戻りなさい、元の『本』に……」
「い……や……」
なおも体を動かし、司書に。司書の持つ本に手を伸ばし。
その少女の手が、足が、体が、髪が、頭が次々と紙となってほどけていく。
「そん……な……」
ばさりと音を立てて少女だった物が崩れた。
そこにあったのは、ばらばらになった頁と『月の書』と書かれた表紙だけである。

「全く……どーして此処の本たちはこうなのかしら…」
つかつかと歩み寄る司書、本の表紙を取り上げブツブツと呟く。
「ただでさえ魔力が集まりやすいのに、魔力は持っちゃうし、人格も持っちゃうし……」
手に取った『太陽の書』と『月の書』を交互に見比べて。
「オマケに交わるはずの無い2冊が『離れ離れになりたくない』なんて……」
2冊の本がゆっくりと宙に浮かび上がる。
「私なんか彼氏すらいないのに」

 光る魔方陣が本を取り囲む、ざらざらと音を立てて散らばった頁が本に戻って行く。
表紙の傷が溶ける様に消えて新品同様になる。
最後に魔方陣が明るく光り輝き、ストンと司書のてに本が落ちる。
「修理完了、今日はもう疲れたわ……」
司書は『1冊』の本を抱えて、薄暗い図書館の闇に消えて行った。


 ここはヴワル図書館、紅魔館内にある大きな図書室。
 広い広い、そして薄暗い図書館。窓が締め切ってあり、四六時中暗いままである。
どう考えても館には納まり切れない程の広大なこの図書館で、一人本を整理している人影がある。

「さて、この本は此処。で……この本はこっち。と」
手際良く本が並べられて行く、その中に一冊の新しい本があった。
タイトルは……『太陽と月の書』
本の中で2つの意識が喜びの感情を振りまいている。
「なんだかんだで一緒になれたんだな」
「司書さんには感謝しないとね、結構いい人だったのかな?」
互いの意識がゆっくりと近づいて、お互いが手を伸ばし合い。
「やっと……」
「これで……」

ガンッ!
ゴン!

お互いが触れ合う直前で何かに弾かれる。

「「あれ?」」
「何かあるぞ、これは?」
「平べったくって、すべすべしていて、上に長くて…」
何かが邪魔をしていて、お互いに交じり合えない。
「これは……ひょっとして」
「ああっ! 栞が挟まってる!」
新しくなった本の丁度真ん中に、大きな栞が挟まっていた。

「うええぇぇぇぇぇん! これじゃ、前とあんまり変わらないよぅ」
「酷い! 酷すぎる! あんまりだ!!」
しかし側で本を整理する司書は、特に気にした様子ではない。
「取って! この邪魔な栞を取って!」
「酷すぎるぞ! 鬼! 悪魔!」
本の整理を終えた司書が彼らの前までやって来た、可笑しそうに本を見つめながら。
「あれ? 言わなかったっけ?」
「「……???」」

「私は小悪魔だよ♪」
始めまして。
今までROMってたTUKIと申します。
此処に投稿される素晴らしい作品を見て、ついつい投稿したくなりました。
紅魔郷をプレイしてから今まで、ずーっと疑問に思っていたことの一つとして「あの小悪魔は、この館で何をしているんだろう?」と思ってまして、司書として働いているのでは?と勝手に考えてました。本を管理する程度の能力……

しかし、初投稿なのにいきなり東方的な部分が薄すぎる気がします。
こんなの投稿して大丈夫なんでしょうか。(汗
TUKI
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コメント



0.1770簡易評価
6.無評価Barragejunky削除
小悪魔の誰も知らない日常、拝読させていただきました。
中ボスは喋らない場合が多いので色々と想像できますね。
最後の最後でアレは……まあアリなのでしょう。何といっても小悪魔ですし。
それにしても『太陽の書』と『月の書』って……ひょっとしてエキストラの魔女が使ってくるアレですか?
月&日符「サイレントフレア」……だめだ避けられる気がしねえ。
可哀想だけど栞は抜くこと禁止です。
7.30Barragejunky削除
点を忘れたー
バカバカワタシノバカ_| ̄|○
14.無評価いち読者削除
司書というか、本たちのお守り役みたいですね、この作品の小悪魔さんは。
まあ、2人が可哀想なので、時には栞を取ってやって下さいな。
んで、いい感じになったところで再度栞を挟んで邪魔をする、と(笑)。
45.60名前が無い程度の能力削除
>私は小悪魔だよ♪                      可愛えぇぇぇ