Coolier - 新生・東方創想話

紅色の狂月下 終章

2004/08/04 07:11:44
最終更新
サイズ
7.14KB
ページ数
1
閲覧数
692
評価数
2/25
POINT
1140
Rate
8.96
『新たな事実を照らす、もう一つの紅い月』




「・・・・・・そして、幻想郷に着いた僕は、ある家で店を経営するための修行をして、今に至る、というわけです。・・・・・・腰を落ち着けた方が、探しやすい、と思ってね」

霖之助がすべてを語り終えた後、店の中は静寂に包まれていた。
レミリアは感情のない紅い瞳でじっ、と見つめ、霖之助は、その瞳を臆することなく見返していた。
そのまま、実に三分近く続いた沈黙を破ったのは、レミリアだった。

「成る程ね。『世界』を創って自分の周りを周囲の『世界』と隔絶したのなら、あなたの『運命』が見えなくて当たり前だわ」
「その影響か、歳はとっても、外見も変わらなくなりましたけどね」

霖之助は苦笑いを浮かべる。
実は、霖之助はレミリアに「自分の因果の具現化した存在」である少女のことは、一切話していなかった。
理由は簡単。話してはいけないような気がしたから、である。霖之助にも、そう思った理由までは分からなかったが。
そんなことなどおくびも見せず、言葉を続ける。

「とにかく、これが僕が体験したすべて、です。――で?」
「なにかしら?」
「交換する物、ですよ。交換条件だと最初に言ったのはあなたですから」
「そうだったわね」

思い出したように言って、レミリアは腰から――どう見ても何もなかった筈の場所から、あるモノを取り出し、それを机の上に置いた。
そこにあるのは、あまり凝った装飾もない、ただの銀のナイフ。
だが、それを見た瞬間、霖之助の表情が強張った。何故なら――

「――あの時、僕の右肩に刺さり、そして彼女に向けた物・・・・・・気絶した後に、なくなっていた筈なのに・・・・・・何故、あなたがこれを?」
「それは、私が気まぐれで拾った人間が持っていた物」

レミリアは目を細め、懐かしむように言った。

「幻想郷に迷い込み、住む場所を探していた人間の女性。気まぐれで拾い、そしてそのまま、私の住む館でメイドとして生活を始めた、人ならざる力を持った人。――それは、彼女が私に仕える際に渡してきた物よ。「私が持つには、重すぎるような気がします」そう言って、ね」
「・・・・・・それを、僕に?」
「あなたなら、管理と手入れはしっかりしてくれるでしょう?」
「勿論です」

そう言って、霖之助はナイフを手に取り、丁寧に布に包んだ。
これは非売品だな、と霖之助は小さく呟き、そこでふと、何かを思い出したように顔を上げた。

「そうだ、彼女は――あなたが知っている範囲でも構いません。笑っていましたか?」
「ええ。「あなたに仕えることができて、幸せです」そう言って、とても幸せそうに微笑んでいたわ」
「そうですか・・・・・・」

その言葉に、霖之助は微かに笑う。
それは、長年の責務から解放されたような、安堵の笑みだった。

――コンコンッ

律儀にも、半壊した扉をノックする音が、店内に響いた。
こんな深夜に客だろうか、霖之助がそう思った時、

「お嬢様、探しましたよ」

そう言って入ってきたのは、青と白の奉仕服を着た、銀髪の女性だった。
入ってきた女性の姿を見て、霖之助は一瞬だけ、目を細める。
その様子に気づかず、女性はやや呆れたような表情を浮かべながら、レミリアに対して言った。

「お願いですから、何の伝言もなしに出歩かないでください。心配したじゃないですか」
「いいじゃない。こんなに紅い月夜の晩は、面白いことが起こりそうなんだから。前もそうだったでしょう?」
「掃除をする身にはまったく面白くない騒動でしたが」
「私が楽しかったからいいのよ」

はぁ、とため息を漏らす女性に、霖之助は微かな親近感を覚えた。理由は――店の惨状とその原因を知れば、自ずと分かるだろう。

「あら?お嬢様、そちらの方は?」
「この店の店長さんよ。森近霖之助、と言うらしいわ」
「ここはお店だったのですか?」
「アバンギャルドだけど、そうみたいよ」

好き勝手に言い始める二人に、霖之助は深いため息を漏らした。既に、先ほど感じた親近感は消え去っている。
こめかみを押さえながら、それでも努めて何でもないように言う。

「申し訳ありませんが、店内の改装途中ですので、今日はもう店じまいさせていただきますが、よろしいですか?」
「改装途中、というより、破壊された後、のような気がするけれど・・・・・・」

レミリアの言葉に、霖之助はぐっ、と言葉を詰まらせる。
だが、そんな様子を気にせず、レミリアは「そうね」と言った。

「それじゃあ、そろそろ失礼しましょうか。いくわよ、咲夜」
「はい、お嬢様」

そして、咲夜と呼ばれた女性が先に出て、最後にレミリアが、半壊した扉から出ようとしたところで、霖之助はもう一つ感じていた疑問をぶつけた。

「ところで、何故僕がスペードのジャック、だと?」

その言葉に、レミリアは振り返り、妖艶な笑みを浮かべた。

「スペードのキングから手紙が来て、その中にあなたのことがスペードのジャック、と書かれていたからよ」

そう言って立ち去ったレミリアの姿が完全に見えなくなってから、霖之助は脱力したように壁にもたれかかり、深いため息を漏らす。
そして、ポツリと呟いた。

「まったく、あの人はどこまで・・・・・・」

言葉の続きはため息に変わり、霖之助は立ち上がりかけて、ふと、先ほどの咲夜、と呼ばれていた女性を思い出す。

「そう言えば、似ていたな、彼女に。――まあ、もう100年以上経っているんだから、とっくに死んでいるんだろうけど。他人の空似、か」

それは、独白のような呟きだった。
もう一度、ため息をついて、霖之助は今度こそ立ち上がり、店の奥へと消えていった。



「何故、そんな懐かしそうな表情をしているのかしら?咲夜」

紅い満月が照らす森の道を、迷うことなく前を歩く咲夜に、レミリアは聞いた。
その言葉に、咲夜は振り返り、目を細めて答える。

「いえ、もう見ることもないと思っていた人と、よく似た人を見たので、昔のことを思い出していただけです」
「見ることもない?」
「はい、能力を暴走させて歯止めが利かなくなった私を――私でない私を、『世界』を使って止めてくれた人に」

レミリアは目線だけで先を促し、咲夜は懐かしそうに笑って、言葉を続けた。

「もう、あれから100年近く・・・・・・恐らく彼も、生きてはいないでしょうね」
「好きだった、のかしら?」
「いえ。ですが、感謝はしていますよ。お嬢様と出会うことができて、今こうして、心から笑うことも出来るのですから」

そう言って微笑む咲夜に、レミリアも微笑み返した。
そして向き直り、再び進みだす咲夜の後をついていきながら、レミリアは小さく呟く。

「スペードのキングから手紙をもらって、初めてあなたの存在を知るなんてね・・・・・・『世界』を創り変える能力・・・・・・それ程の力を持つあなたは、本当に、スペードのジャックなのかしら?」



灯りが消え、紅い月の月明かりのみが照らす店内。
店主である霖之助も寝ており、本来なら誰もいない筈の場所――先ほどまでレミリアが座っていた椅子に、今度は日傘を差した少女が座っていた。
本人曰く「霖之助の運命が具現化した存在」である少女は、口元だけでクスリ、と笑う。

「流石に、本物の私でも見抜けなかったみたいね。彼が何なのか、を」

誰もいない筈の店内で、しかし誰かに語りかけるような口調で、少女は言葉を続ける。


「創りだされた『世界』の中の『運命』しか分かりえないこと。彼の『運命』である私なら、スペードのジャック、というモノでは終わらないことを、誰よりも知っている」


「どんな物事にも積極的に関わらない『静寂の傍観者』。その為に、『世界』を創り出せないという『世界』を創った、矛盾の行使。けれど、彼の前では、矛盾も、常識も、非常識も、すべてが意味を成さない。本来あるべき理そのものを支配し、創り変えるのだから、当然と言えば当然かしら?」


「だからこそ、この地では能力を封じる『世界』を創るしか選択肢はなかった。あのまま能力を成長させれば、必ず、その場にいるだけで、『世界』を創らずとも理に干渉し、変化させる存在になっていたでしょうね。それは誰にとっても困ったことになる。だからこそ、カードという名の制約が必要だったし、傍観者で居続けなければいけない。これからもずっと」


「限られた『世界(ゲームの場)』を創り、その中の理(ルール)を支配し、変化させる存在。ジャックも、クイーンも、キングも、エースも・・・・・・エキストラ・ジョーカーでさえも、彼には決してなりえないし、敵わない。彼の『世界』は、その者達を、変化させた理と言う名の絶対脱出不可能の牢獄に閉じ込め、同じ名の鎖で縛り、支配するためのモノ・・・・・・そうでしょう?」







「『ワールド・クリエイティブマスター(ディーラー)』森近霖之助」
途中こそ、当初考えていたことからずれた部分が出てきたものの、最後は予定通りに終わりました。
色々と問題点も浮き彫りになったようですがorz
というか、当初目標としてた「地味にトリビア」になりきれてないような気が(ノД`)

ディーラー、という職業に関して、実際にどういうことをしているのかがはっきりと分からなかったため、かなり個人的な解釈が入ってしまいましたが^^;
というより、最初書いたトランプ話よりむしろポーカーに近いものがorz


エキストラジョーカーに関してですが、ジョーカー誕生自体に諸説あり、そのうちの一つ『1887 年、イギリスのユニオン・カード・アンド・ペーパー社がカードを売るときに、真ん中に「EXTRA-JOKER」とだけ書いてあるカードを入れておいた』というのを参考にしました。
EXTRAって和訳で「余分」になるんですね。この小説を書くにあたって試しに調べてみて、初めて知りました(笑

そして、考察を参考にさせていただいたHPはPARADOX(KEIYAさん)です。あの十六夜咲夜に関する考察を見て、ネタが出来上がったようなもの。ありがとうございましたヽ(´ー`)ノ



ここからは見ても見なくても、という感じの事。
この物語を書くにあたってのBGM集(ほぼ統一はしたものの多少数あり)です。
中でも深海は、僕がイメージした咲夜の過去話(一部歌詞をもじらなければなりませんが)に結構ピッタリでした。歌自体は好き嫌い分かれそうですが。

東方幻想郷「禁じざるをえない遊戯」
東方紅魔郷「月時計~ルナ・ダイアル~」
ROUAGE「理想郷」「endless loop」
Laputa「深海」「Brand-new color」「迷子の迷子」

興味がある方は是非ヽ(´ー`)ノ
但し苦情は一切受け付けませんが(笑
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1060簡易評価
3.50Barragejunky削除
オリジナリティ溢れる森近霖之助と十六夜咲夜のビフォーストーリー、楽しませていただきました。
最後に彼をその位置に立たせましたか。東方世界に於いて様々な面で異彩を放つ彼なら、確かにその役どころも納得です。

シリアスが書けるってすごいです。自分にはどうしても出来ません。
皆どうしてそんな難しい表現でかっこよく書けるんだようヽ(`Д´)ノ
挑戦してみましたが手が勝手に笑いをとろうと暴走し始めて挫折したのは内緒です。_| ̄|......○
自分の場合、考察なんて高尚なもの0どころかマイナス気味で書き始めるからでしょう。
予定していた流れはアドリブの前にあっけなく崩壊します。お前ノリだけで書いてるだろうと問われればはいその通りですとしか……あの場面とかあの場面とか、本当は無かったのに。
そんな自分のテンション話とは対極にある、深い考察と緻密な描写はこっそり目標にさせてもらいたいと思っていますが多分無理。頭悪いから。

ともあれ完結お疲れ様でした。次の作品はいつになるのでしょうか(気が早い?)。
でろでろと首を長くしてお待ちしています。
20.30自転車で流鏑馬削除
ディーラー!!
なるほど!!納得!!