季節は初夏
春なんてあっという間で、いつもより少し長くたってあっという間であることには変わりない
天気は晴れ。小さな雲がポツポツと、まるで行き場をなくした魂のようにゆらゆらと泳いでいるぐらいだ
ここは白玉楼に近いところに位置する少し古めの洋館
紅魔館と比べると小さく庭も狭い。しかし、しっかりと手入れは行き届いているように見える
そんなこの洋館にも遅い朝が訪れようとしていた
「んーーーーーっ・・・・・ふぅ」
軽く伸びをしてベッドから起き上がる。
自分でも分かっていることなのだが、寝付きも寝覚めも良いのだがどうも寝相だけは悪いようだ。
その証拠にといっては何だが、また掛け布団がベッドから4mほどのところに移動している
適当に部屋を見回す
楽譜や楽器が散らかっていてあまり整理されていない部屋
そろそろ汚くなってきたから今度姉さんに掃除をさせようか
うん、そうだ。それがいい。
そんなことを考えていると、ふと気づく
そういえばまだ姉さんたちは寝ているんだろうな、
私が起こしに行く前に起きた例なんてないしね
とりあえず顔を洗って楽譜立てにかけてある服を取る。
寝巻きで行ってもいいのだけど、寝るには寝るための服が、生活するには生活するための服がある
これから、活動するのだから生活用の服を着るのは当然だ
・・・・・・夏場はちょっと暑いけどね・・・
この赤い服はそれ以前に気に入っているし、なんだか気が引き締まる気がする
とりあえず下着だけになる。下から着ていくのが私の流儀
スカートをはいて、Yシャツを着て・・・(やっぱり寝る前にアイロンをかけておいて正解かな)
首がきついので第一ボタンははずしておこう、小物を付けて最後に上着を羽織る
帽子をかぶるのも忘れちゃいけない
帽子は服の色と同じくらいの私個人のトレードマークだ
”少しずつ違う”だけだけれども、それがなんだか戦隊もののようでかっこいい
後は今日の楽器を選ぶだけ
今日の楽器というのは、姉さんの部屋に行くまでの間、吹くために使う楽器だ
ただ歩くのもつまらない、演奏しながら歩けば楽しくなるというわけ
我ながらいい考えだと思っている
一昨日は小太鼓、昨日はアコーディオン、今日は・・・・・・ハーモニカにしようか
一度にいくつもの楽器を使おうと思えば使えるのだが、やっぱり自分の指、息を使い演奏したい
部屋を出て、ハーモニカに良く合う水路の入り組んだ水の都で聞きそうなノリのいい曲を演奏する
ゆっくり歩いても、せいぜい2分。だけどそれは大事な時間
ソロの少ないパーカッション担当の私の少ないソロの時間
一人で演奏するほうが好きだ、だけどそれを悟られるのも嫌いだ
引き立て役というのに疲れただけなのかもしれない
だけど、今日は無理を言って各人各々が一人で練習をするということにしてもらったのだ
そんなことを考えているうちに着いてしまった。演奏を止め、ハーモニカを懐にしまう
メルラン姉さんは寝つきが悪い、寝覚めも、寝相も悪い
ハーモニカの音なんかで起きるわけはない
「姉さん、入るよー」
ドアを静かに開く
いつ来てもなれない別種の汚さを持つ空間
床に転がっているのはダンベル、分度器(業務用)、服、etc...... わけがわからない物ばかりだ
一方音楽関係のものは、棚にびしっと整理整頓されている。
愛用のトランペットは傷だらけではあるものの、汚れは一切ない
姉さんは本当に音楽を愛しているというのがすぐにわかる部屋だ
決して音楽関係のものが床に落ちているということはない
一ヶ所異様にきれいだから汚れが余計に際立って見える。
その部屋の片隅でもぞもぞと動く物体Mを発見。というか姉さんだ。またベッドから落ちている
布団に包まっていてなんだか虫のようだ、多分あれは・・・寝てる
メルラン姉さんは寝ているときにも絶えず動く。すでに寝相とかの問題では無い気もする
まいっか、とりあえず起こしてあげよう
布団を持って引っぺがす
「姉さーん!朝だよー!起きよー」
「だめ・・・まだ寝る・・・」
「ホラ起きて起きてー」
ほほを叩いてみる。
「ダメなの・・・今日は・・・大安だから・・・」
確かに日付は大安ではある。そうだけど意味が分からない
「ほら・・・大いに・・・安め・・・でしょ・・・・・・z」絶対漢字違うし
「あ、また寝た」
寝息が聞こえる
このままじゃ、埒が明かないと思い、部屋を見回す
あ、巨大なハリセンを発見。手に持ってグリップを確かめる
素振りをする
ブゥンブン
うん、いい感じだ
でわ
「一番!リリカ・プリズムリバー行きまーす!!天誅っ!!!!」
一気に振り下ろせ、ためらいは持つな、情は捨てろ!
自分に言い聞かせる。
加速加速加速加速加速、加速!
一撃必殺!!
バッチーーーーーーーーーーーーーン!!!
自分でも驚くほどの爆音
そのハリセンは見事にメルラン姉さんの人中を捕らえた
「う っ わ・・・」
当てた箇所が赤くなっている
あれは絶対後で腫れる赤さだ
動きもいつの間にか止まっている
「姉さん大丈夫~?」
目の前で手をひらひらさせてみる。・・・・・・反応なし
「流石にやばかったなぁ・・・おーい姉さーん」
どうした物か・・・
息とか止まってませんよね(霊だけど
再度顔を覗き込んでみる・・・突如
ξ・∀・)メルポ 目が開かれた
場の空気が変わる。これは居たらいけない空気だ
扉のほうを向き一気に走る
「総員退っ」ガッ
私が自分自身に退避命令を出したのと同じ瞬間
一瞬で扉の前まで移動し、私の肩を捕まえる
目が・・・目が・・・目が、メガッ
カ ノ ジョ ハ ヒ カ リ ノ ハ ヤ サ ヲ コ エ マ シ タ
「ぎにゃーーーーーーー!」
雄叫びが屋敷に轟く・・・
・・・霊魂さえもなくなりそうでした
メルラン姉さんが我を取り戻して、謝られながら食堂に行く
姉さんには意思が無いのだし仕方ないことだと思うのだけれども、姉さんには納得がいかないらしい
私にも非はあるのに・・・
どうも姉さんは「暴走=自分の責任」という図式を作ってしまうようだ
食堂に入ると、すでにルナサ姉さんが朝食の準備を終え私たちを待っていた
「珍しいね、ルナサ姉さんがもう起きてるなんて」
「あれだけうるさければ起きるよ、それに昼だし」
確かにあの悲劇は3時間も続いた。そしてその結果時間は午の刻となっている
朝食と言うよりは昼食だ、目の前の食事が楽しみ
席に着こうとすると呼び止められた
「リリカ」
「何~?」
「はい、これに着替えて。服ぼろぼろでしょ」
そういって差し出されたのはきちんとたたまれた上に帽子の乗った私の服のセット
確かに、さっきのイベントにより服はぼろぼろだ
今着ている服も姉さんから借りたやつだ
だけどおかしいな・・・残りは洗濯に出しているはずなのに・・・
疑問に思いつつも、洗濯したんだろうという結論に達して素直に服を受け取る
その結論は間違いというのがすぐに分かった
渡された服の手触りは今来ている服とかと全然違う
明らかに良い布を使っている・・・
「姉さん・・・・・・これ、どうしたの・・・?」
「西行寺家から少しいい布をわけてもらったから作ったの」
「姉さんたちのは?」
「もらったのは赤の布地しかなかったから」
あらかじめ用意されていた答えであるかのように言う。
こう答えれば私が納得すると思って考えた理由なんだろう
どうしてこういうことをするのか分からない。
この前だって、ソロ練習をやりたいといったときに二人とも悲しそうな顔をした
二人とも同じことを考えていた、それと関係あるはずだ
考えることは私の仕事。二人の分までいつも考えるんだ、
分からないはずが・・・分からないはずが無い
・・・そうか・・・
ああ・・・なんだ簡単なことなんだ・・・違ったのは私一人だけだったんだ
それならもう言うべきことは決まっている
「似合ってる似合ってる」
新しい、デザインは変わらないけど中身の変わった服を着た私を見て
そう、自分のことのように嬉しそうに言う姉さんたち。なんだかこそばゆかった
少し笑った、姉さんたちも笑った
「じゃ、さめないうちに食べようか」
そう言われ、各々が席に着き昼食を取り始めた
昼食はサラダとホットケーキ
皆なにかを確かめるように黙って食べていた
そして私はこう切り出す
「ねえ、姉さん今日はアンサンブルの練習にしない?」
突然のことに驚いて顔を見合わせる二人
「リリカがソロ練習にしたかったんじゃないの?」
そういわれるのも分かっていた。もちろん答えは用意してある
「だって、私たち騒霊でしょ、楽しくにぎやかにいかなきゃね!」
私はそういって笑った、久しぶりに大きく笑った
心から・・・。今私はいい顔をしているんだろうなと思う
なぜなら、姉さんたちも一緒に笑っているのだから
引き立て役だと思っていた。三女だから。サポート役だと思っていた
だけど違った。そうなるかどうかは個人しだいで、楽しむことが出来れば
他人から見れば引き立て役かもしれないけれども、私たち三人からすれば皆が皆主役なんだ
服だって、あれはご機嫌取りじゃなくて心から、自分を抑えたのじゃなくて・・・
ルナサ姉さんはそれが一番みんなの幸せにつながると思ったからなんだ
考えることだって仕事じゃない、二人の分まで考えようとして考えるのじゃなくて
結果としてそうなるべきなんだ
それがきっと、私たち姉妹のあるべき姿なんだと、レイラだってそう思っているに違いない
姉妹には騙すも騙されるも無い
あるべきは愛情と絆だけで十分なんだ
ソロよりも、みんなで演奏したほうが楽しい決まっていたんだ
私たちは”騒霊”三人の最も楽しい道を探すことが一番の優先事項
リリカ・プリズムリバー
(フリーレスなのは「点数で評価する」という事に疑問があるからです)
ただ、リリカの「末っ子であるが故のコンプレックス」みたいな部分をもう少し書き込んだ方が、最後の会話のシーンが生きてくると思います。
アイロンを「かけさせて」の間違いだろうリリカ君。
……冗談は置いといて。
下の子って、どうしても兄や姉と自分を比べて見てしまうんですよね(私は次男)。
アンサンブルを楽しめるかどうかは自分次第。何より自分は自分で、姉は姉。皆が皆主役。
そう考える事が出来た、リリカのちょっと遅い朝。ごちそうさまです。
これが最高。
黒いのにそれを感じさせない末っ娘の魔性をひしひしと感じました。
私が思った事は既に前のお二人が書かれているので一つだけ。
>ξ・∀・)メルポ
は反則です。吹きました、マジで。