「運命。その概念。
どんな風にそれを捉えてもいいけれど、そう、
これだけは一つ。
・・・それを持つ者は、いずれ辿り着く終点をも持ち合わせている、ということ。
「意外に思うかしら?そうね、私は運命を操る力を持っている。
力というものはね、そのものがそのものとして在るのに必要なパーツ。
その力を無くせば、そのものはもうどのものでもなくなるの。
つまり、存在から消えてなくなる。
「私は運命を操ることができる。
他者の運命を、自分の運命を。
運命という基底概念を糸という形而上の質に喩えるなら、
運命を持つ、生きるものは皆自分と自分の終点をこの糸で繋いでいるということ。
「生きている今の自分と、死んでしまう際の自分を、
その紅い紅い紅い糸で、細くて頼りない概念でなんとか繋ぎとめている。
そして、生きている自分と死んでいる自分は惹かれ合う。
だから、いつかその二つは同じになる。どちらも自分なのだから。
「その一瞬を、その刹那を、共になる境界を、それのみを死と呼ぶわ。
そして、それゆえに運命を持つ者は皆いずれ終点に辿り着く。
必ず死という紅い旗を持つことになる。
「そう、だから、私だって例外じゃない。
私にも、五百年を続いた私にも、いずれ訪れる終わった自分と出会い、
本当に終わる時があるのよ。
「私は運命を操ることができる。
でもね、それは手元から伸びている紅い糸を、
揺すったり、くるくると回したり、少しばかり手繰り寄せたり、
いくつも幾重にもまとめて織り上げたり、
時には中途で断ち切ってしまったりしているだけ。
糸の在り様を千変させ万化するだけの力なのよ。
その糸の端をどうこうすることは、運命を持つ者にはできないの。
運命の女神には自分の運命を生み織り断つことは不可能で、
それは彼女達を作ったもの、最初に糸の両端を作ったものにしかできない。
「そうね。宿命は、その糸の中途にあって糸の道行きを定める待ち針かしら。
それが沢山あれば、そう簡単には運命は捻じ曲がることは無い。
でも、弱いわ。繋ぎとめた運命と比べて、
道を指図するだけの宿命は、それを破壊する意思で意味を失う。
道標に旅人を操る権利は無いの。
「宿命程度なら私の範疇内。でも、運命の存在そのものは、
概念自体は私一人の存在でどうにかできるものじゃない。
運命をもった者はいつまでも運命保有の運命を背負っているの。
だから、だから。
「いつかは知らない。どこかは知らない。
でも、確実に、はっきりと、一切の間違いはなく。
私は死ぬ。終わる。消えてなくなる。
「生と死を繋ぐ糸よりは、生死の接近を阻む壁、
あるいは長い長い紅いつっかえ棒かしらね。
それはみんな同じ長さで、耐久性だけが違うのね。
いつか時が来て、棒が折れてしまうと、惹かれあっていた生死が急接近して、
あっ、という間に終わるのよ。死ぬ時は呆気ないもの、だから。
「因果を論ずるつもりは無いけれど、無意味にも確信しているのは、
この力を持っている私は、レミリア・スカーレットでしかありえないのよ。
運命が紅いから、私が紅いから、だから私は操るの。
どちらが先かは知らないわ。
運命が紅いのも、私が紅いのも、互いに関係無い。
でも、互いを関係させる因果がどこにでも転がっているこの幻想の郷では、
私は確実に紅く、運命を操り、紅き館にて永年の紅を夢想する悪魔、
レミリア・スカーレットという真紅の吸血姫以外にはなりえなかった。
「そう、私は運命操作者にして奴隷運命者。この力は、完璧ではないのよ。
「だからね。あの子が生まれたのは、私を補完するため。
「あの子は私ができないことをするために、生まれた。
ええ、そのもの正しく、生まれたのよ。
誰が呼ぶでもなく誰が願うでもなく誰が欲するでもなく、
私から生まれ私のために生まれた私ではない私。
私とは違う私の形を持った、
不確かな紅で、運命を壊し、紅き館にて永年の蒼を幻想する悪魔、
フランドール・スカーレットという深蒼の破戒姫。
「私は紅。ただひたすらの紅。紅以外の赤を知らない。
あの子は私と同じなのに、紅ではないの。
同じコランダムだというのに、あの子は原石の蒼なのよ。
ルビィとサファイアに分かたれてしまった鋼玉。
「それはもう他人じゃないかしら、とも思うの。
それは違うのよ。多分だけれどね。
でも、その代わりに私は長い間、こう思ってたわ。
あれこそが、あの子こそが、私の終わる姿、終点の私そのもので、
私はあいつに触れたときに私という幻想(ユメ)を終わるのかも、しれないと。
「あいつは全てを壊す。
無化し、焼捨し、蹂躙し、破壊し、破戒し、破道し、
滅法し、滅殺し、滅裂し、消費し、消去し、消化する。
神を、魔を、空を、式を、歌を、夢を、生を、死を、境を、時を、
―――運命を破壊する。
「この手狭にしてだだっ広い無為と有為のみがある無何有の世界に、
たった一人存在する概念破壊者。
あいつはとっくの昔に自分を縛る概念を全てぶっ壊して、
そのせいでずっとずっと自分で自分を縛って、
自分ひとりの世界に生きてきた。フランドールという世界に。
「自分を制限するものを無自覚に破壊して、
そうして自分の存在を定義する鎖も破壊した後でそれが自分を無くすことだと気付いて、
自分が消えることの意味を知って、自分だけの世界に495年もの間閉じ篭っていた。
「あの子ね。私のことを囚われ人だと思ってたのよ。
操り人形師のような操り人形なのだと思ってて、私を動かす糸を壊そうって。
ばかよね。その糸が、私とあいつを繋ぐたった一つの運命だとも知らずに。
でも、思い違いをしていたのはどっちもだった。
「それもあなたたちのおかげで変わったわ。
私たちは、やっぱり別の存在で、
それぞれが相手に引き寄せられる生と死の象徴なんかじゃなかった。
いいえ、あなたたちが変えた。あなたが私を端っこの生じゃなくして、
あなたがあの子を端っこの死じゃなくした。
「もしかすると、そのせいで。
あなたの最後が私になって、あなたの最後があの子になったのかもしれない。
もしそうなら、ごめんなさいね。
あなたは怒りながらも溜息ついて。
あなたは笑いながらも冷や汗流すのだと思うけれど。
「それでも私はいいと思うわ。だって、あなたたちでなければ。
私とあの子で、新しい物語の始まりを飾ることなんて出来なかっただろうから。
あなたたち。ただ在る者と、在ろうとする者。
「あなた。フロウティングメイデン。二色蓮花蝶(エンシェント)。
運命を許し、たなびくその旗を、揺らめくその波を、綻ぶその糸を、
ただそれがそうあるままにのらりくらりと在りつづけるあなた。
“運命を翻弄する(そらをとぶ)者”。不可視のシンプル。虚偽と真実を全肯定する二色の巫女。
あなた。
「あなた。ドリズル・ザ・マジシャン。星の器(マジックオブラブ)。
運命を睨み、澄みゆくその澱を、解かれるそのパズルを、辿り着くその迷路を、
決して認めず天井の天井を越えた天井すら羨むあなた。
“運命に愛された(おいもとめる)者”。無理解のシンプル。不可分の領域の存在を全否定する二色の魔女。
あなた。
「この物語を始めたのはあなたたち。
始まった物語が、寓話から伝説へ、神話へと至り、そして紡ぎ手は神になるの。
さぁ続けましょう、このお話を。
私たちはあなたたちが始まるための一里塚で、
ここまでのお話は私たちが始まるための布石。
紅魔の郷という第一章が終わって、エピソードの一つが消化される。
挿話の一つ一つは繋がっているけれど、どれもこれもぶつ切りの断章ばかり。
「蒼の星にて東と呼ばれる地、内外の運命を断絶する幻想の都で起こる、
単純なのに摩訶不思議で、気にはなるけどどうでもいい、
大きくて小さく長くて短く面白おかしく不快で下らない、
ホントでウソな、この怪談を。
生死(イミ)が終わるまで。時空(イマ)が終わるまで。世界(ココ)が終わるまで。幻想(ユメ)が終わるまで。
「 ――― 運命(コレ)が 終わるまで ――― 」
There’s the Phantasmagoria that had opened your heart very early in life.
It has been continued.
どんな風にそれを捉えてもいいけれど、そう、
これだけは一つ。
・・・それを持つ者は、いずれ辿り着く終点をも持ち合わせている、ということ。
「意外に思うかしら?そうね、私は運命を操る力を持っている。
力というものはね、そのものがそのものとして在るのに必要なパーツ。
その力を無くせば、そのものはもうどのものでもなくなるの。
つまり、存在から消えてなくなる。
「私は運命を操ることができる。
他者の運命を、自分の運命を。
運命という基底概念を糸という形而上の質に喩えるなら、
運命を持つ、生きるものは皆自分と自分の終点をこの糸で繋いでいるということ。
「生きている今の自分と、死んでしまう際の自分を、
その紅い紅い紅い糸で、細くて頼りない概念でなんとか繋ぎとめている。
そして、生きている自分と死んでいる自分は惹かれ合う。
だから、いつかその二つは同じになる。どちらも自分なのだから。
「その一瞬を、その刹那を、共になる境界を、それのみを死と呼ぶわ。
そして、それゆえに運命を持つ者は皆いずれ終点に辿り着く。
必ず死という紅い旗を持つことになる。
「そう、だから、私だって例外じゃない。
私にも、五百年を続いた私にも、いずれ訪れる終わった自分と出会い、
本当に終わる時があるのよ。
「私は運命を操ることができる。
でもね、それは手元から伸びている紅い糸を、
揺すったり、くるくると回したり、少しばかり手繰り寄せたり、
いくつも幾重にもまとめて織り上げたり、
時には中途で断ち切ってしまったりしているだけ。
糸の在り様を千変させ万化するだけの力なのよ。
その糸の端をどうこうすることは、運命を持つ者にはできないの。
運命の女神には自分の運命を生み織り断つことは不可能で、
それは彼女達を作ったもの、最初に糸の両端を作ったものにしかできない。
「そうね。宿命は、その糸の中途にあって糸の道行きを定める待ち針かしら。
それが沢山あれば、そう簡単には運命は捻じ曲がることは無い。
でも、弱いわ。繋ぎとめた運命と比べて、
道を指図するだけの宿命は、それを破壊する意思で意味を失う。
道標に旅人を操る権利は無いの。
「宿命程度なら私の範疇内。でも、運命の存在そのものは、
概念自体は私一人の存在でどうにかできるものじゃない。
運命をもった者はいつまでも運命保有の運命を背負っているの。
だから、だから。
「いつかは知らない。どこかは知らない。
でも、確実に、はっきりと、一切の間違いはなく。
私は死ぬ。終わる。消えてなくなる。
「生と死を繋ぐ糸よりは、生死の接近を阻む壁、
あるいは長い長い紅いつっかえ棒かしらね。
それはみんな同じ長さで、耐久性だけが違うのね。
いつか時が来て、棒が折れてしまうと、惹かれあっていた生死が急接近して、
あっ、という間に終わるのよ。死ぬ時は呆気ないもの、だから。
「因果を論ずるつもりは無いけれど、無意味にも確信しているのは、
この力を持っている私は、レミリア・スカーレットでしかありえないのよ。
運命が紅いから、私が紅いから、だから私は操るの。
どちらが先かは知らないわ。
運命が紅いのも、私が紅いのも、互いに関係無い。
でも、互いを関係させる因果がどこにでも転がっているこの幻想の郷では、
私は確実に紅く、運命を操り、紅き館にて永年の紅を夢想する悪魔、
レミリア・スカーレットという真紅の吸血姫以外にはなりえなかった。
「そう、私は運命操作者にして奴隷運命者。この力は、完璧ではないのよ。
「だからね。あの子が生まれたのは、私を補完するため。
「あの子は私ができないことをするために、生まれた。
ええ、そのもの正しく、生まれたのよ。
誰が呼ぶでもなく誰が願うでもなく誰が欲するでもなく、
私から生まれ私のために生まれた私ではない私。
私とは違う私の形を持った、
不確かな紅で、運命を壊し、紅き館にて永年の蒼を幻想する悪魔、
フランドール・スカーレットという深蒼の破戒姫。
「私は紅。ただひたすらの紅。紅以外の赤を知らない。
あの子は私と同じなのに、紅ではないの。
同じコランダムだというのに、あの子は原石の蒼なのよ。
ルビィとサファイアに分かたれてしまった鋼玉。
「それはもう他人じゃないかしら、とも思うの。
それは違うのよ。多分だけれどね。
でも、その代わりに私は長い間、こう思ってたわ。
あれこそが、あの子こそが、私の終わる姿、終点の私そのもので、
私はあいつに触れたときに私という幻想(ユメ)を終わるのかも、しれないと。
「あいつは全てを壊す。
無化し、焼捨し、蹂躙し、破壊し、破戒し、破道し、
滅法し、滅殺し、滅裂し、消費し、消去し、消化する。
神を、魔を、空を、式を、歌を、夢を、生を、死を、境を、時を、
―――運命を破壊する。
「この手狭にしてだだっ広い無為と有為のみがある無何有の世界に、
たった一人存在する概念破壊者。
あいつはとっくの昔に自分を縛る概念を全てぶっ壊して、
そのせいでずっとずっと自分で自分を縛って、
自分ひとりの世界に生きてきた。フランドールという世界に。
「自分を制限するものを無自覚に破壊して、
そうして自分の存在を定義する鎖も破壊した後でそれが自分を無くすことだと気付いて、
自分が消えることの意味を知って、自分だけの世界に495年もの間閉じ篭っていた。
「あの子ね。私のことを囚われ人だと思ってたのよ。
操り人形師のような操り人形なのだと思ってて、私を動かす糸を壊そうって。
ばかよね。その糸が、私とあいつを繋ぐたった一つの運命だとも知らずに。
でも、思い違いをしていたのはどっちもだった。
「それもあなたたちのおかげで変わったわ。
私たちは、やっぱり別の存在で、
それぞれが相手に引き寄せられる生と死の象徴なんかじゃなかった。
いいえ、あなたたちが変えた。あなたが私を端っこの生じゃなくして、
あなたがあの子を端っこの死じゃなくした。
「もしかすると、そのせいで。
あなたの最後が私になって、あなたの最後があの子になったのかもしれない。
もしそうなら、ごめんなさいね。
あなたは怒りながらも溜息ついて。
あなたは笑いながらも冷や汗流すのだと思うけれど。
「それでも私はいいと思うわ。だって、あなたたちでなければ。
私とあの子で、新しい物語の始まりを飾ることなんて出来なかっただろうから。
あなたたち。ただ在る者と、在ろうとする者。
「あなた。フロウティングメイデン。二色蓮花蝶(エンシェント)。
運命を許し、たなびくその旗を、揺らめくその波を、綻ぶその糸を、
ただそれがそうあるままにのらりくらりと在りつづけるあなた。
“運命を翻弄する(そらをとぶ)者”。不可視のシンプル。虚偽と真実を全肯定する二色の巫女。
あなた。
「あなた。ドリズル・ザ・マジシャン。星の器(マジックオブラブ)。
運命を睨み、澄みゆくその澱を、解かれるそのパズルを、辿り着くその迷路を、
決して認めず天井の天井を越えた天井すら羨むあなた。
“運命に愛された(おいもとめる)者”。無理解のシンプル。不可分の領域の存在を全否定する二色の魔女。
あなた。
「この物語を始めたのはあなたたち。
始まった物語が、寓話から伝説へ、神話へと至り、そして紡ぎ手は神になるの。
さぁ続けましょう、このお話を。
私たちはあなたたちが始まるための一里塚で、
ここまでのお話は私たちが始まるための布石。
紅魔の郷という第一章が終わって、エピソードの一つが消化される。
挿話の一つ一つは繋がっているけれど、どれもこれもぶつ切りの断章ばかり。
「蒼の星にて東と呼ばれる地、内外の運命を断絶する幻想の都で起こる、
単純なのに摩訶不思議で、気にはなるけどどうでもいい、
大きくて小さく長くて短く面白おかしく不快で下らない、
ホントでウソな、この怪談を。
生死(イミ)が終わるまで。時空(イマ)が終わるまで。世界(ココ)が終わるまで。幻想(ユメ)が終わるまで。
「 ――― 運命(コレ)が 終わるまで ――― 」
There’s the Phantasmagoria that had opened your heart very early in life.
It has been continued.
良いセンスをお持ちだと思います。
考えるな、感じるんだなんてドラゴンの教えが頭に過ぎるくらいフィーリングで読破。けど馬鹿な私に果たしてどの程度理解できているのやら。
すみませんぶっちゃけ三割も理解していないかと……(つД`)
フリーレスなのはそういう訳で自分に評価する資格無しとの判断からです。
しかしお嬢様かっこいいなあ。これこそ運命の織者だよなあ。
私が書いたやつを見ると……ぅわぁ……_| ̄|○
格の違いにへこみそう、いやへこみますです。頑張れ負けるな自分。
あれこれって感想じゃなかったっけ。作者様にコメントしろよ阿呆。
面白かったです。所々の霊夢と魔理沙の対比が美しいと思いました。
在る事を操作できても、無くすことはできない。
そこで妹の力「万物破壊」で運命を破壊して「リセット」をする
それで初めて姉の「運命操作」は完全な物になる。
的外れな解釈かもしれないですが、勉強になりました。
論述文じゃないだけに、「意味」と「雰囲気」で人を魅了するのはとても難しいですが、お見事です。
読み込み(ゲームだと「やり込み」に当たるのかな?)度の高い物で、個人的には好みです。
実際2周読んで理解してみると、難しい言葉をぞろぞろ繋げつつも大分意味が通ってて感嘆に価しますね。内容自体も、これまた大きく異なる観点から幻想郷にさりげなく繋いでて新鮮味がありましたし。
ご馳走様~。
完全に「気分的になんとなく」ですが80点で。あくまで私の好みという。
けれど、数回読み返してみても、私がまともに理解(というか把握)出来たのは多分、前半部分だけです。すいません。