「せんせ~、できましたー」
と数人の子供たちが紙を持ってくる。
一枚一枚確認し
「うん、みんなよくできました。」
と褒めてあげる。
「えへへ~」
人間の集落の一角に子供たちを集めて勉強を教えている。
内容は主に歴史だ。
「慧音せんせー、次はどんな事教えてくれるの?」
「あぁ、次だな、次は・・・む!?」
「?」
「すまん、今日はここまでだ。」
「えー」
「ご免なみんな、ちょっと行って来る。」
そういうと部屋を出て行く。
「たまに、授業中断しちゃうよね」
「うん。何でだろ?」
授業をしていた建物を出て、すぐに老婆に出会う。
彼女は、この集落の長老衆と呼ばれる権力者の一人である。
「おや、慧音さん、また来たのですか?」
「えぇ、行ってきます。
子供達の相手をしてあげて下さい。」
「分かったわ、頑張ってね。」
「はい。」
そういって老婆と別れる。
この世界は、妖怪が跳梁跋扈する世界。
そう、あの日も、こんな感じだった。
その人間の住む集落の外れには、一軒の家が建っていた。
ボロボロの外見で、空き家のようにも見えたが、そこには住人がいた。
上白沢 慧音と言う名前の少女が一人で住んでいた。
いつから住んでいたのかは誰も知らない。
ただ、集落の人達と殆ど係わり合いを持たずに、一人で寂しく生きていた。
この日、珍しく彼女は集落に来ていた。
食料を調達しに来たのだ。
朝が過ぎ、昼にはまだ早い時間である。
「・・・その野菜と、果物を箱ごと貰おうか」
「はいよ、こんなにも持てるのかい?お嬢ちゃん」
気にかけた店の親父に
「いらん世話だ。」
と冷たく言い放つと、金を置いて箱を両手に下げて帰路に着こうとした。
集落の広場を抜ける頃に一人の少女が近づいてきた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
無視して歩く。
「お姉ちゃん、それ重くないの?」
無視。
「わたし、偶に見かけるんだよ。毎月4回必ずここを通るよね?」
無視。
「お姉ちゃんが、外れに住んでる人って本当?」
無視。
「お姉ちゃ・・・」
「うるさい!」
「うぅ・・・グスッ」
しまった、あまりにしつこいからつい声を荒げてしまった。
「うぇええ、ご、ごめ、グスッ、なさ・・ぃ・・・」
このままでは大泣きされてしまう。
そうなると色々と面倒だ。
「あぁ、す、すまん、言い過ぎた。」
「うぅぅ・・・」
「んー、私は外れに住んでいるし、この荷物も重いが持てないほどではない。
答えてやったぞ、だから泣くな。」
「グスッ、じゃ、じゃあ、お姉ちゃんは・・グシュ」
「なんだ?」
「寂しくないの?」
「ん・・・寂しくないと言えば嘘になるな。」
「じゃあ、わたしが友達になってあげる!」
いままで泣いていたのが嘘のような笑顔。
「いや、結構だ。」
顔を下げ、また先ほどの泣き顔に戻る。
「うわッ、な、泣くな、友達になってもいい。な、だから泣くな。」
荷物を置いて必死になだめる。
「えへへ~」
満面の笑みで顔を上げた。
「・・・はぁ(私がこんな子供に言いようにされてしまうとは・・・)」
少女の頭を撫ぜてやり
「それじゃあな。」
と荷物を持って帰ろうとする。
ザッザッザッ
てくてくてく
「・・・・・」
ザッザッザッ
てくてくてく
「おい」
「なぁに?」
「何でついて来るんだ」
「お名前聞いてないもん。わたしは、川名鈴。すずって呼んでね。」
「はぁ、私は上白沢 慧音だ。それじゃあな。」
これでやっと帰れる。
ザッザッザッ
てくてくてく
くるりと後ろを向く。
笑顔の少女。
「はぁ、もういい。すず、隣を歩け。」
「うん!」
普段、大人達ですら、めったに集落を離れない。
この世界は妖怪が住む世界。
一部の人間は、魔法が使えたりするが、普通の人間達は食料でしかない。
そんなにも危険な世界だというのに、彼女は一人で集落の外れに住んでいた。
木々が生い茂る中にぽつりと一軒の家が立っている。
外見はボロボロだ。
「へぇ・・・ここがお家なんだ・・・」
「汚いだろ?さぁ、帰った帰った。」
「や!中見てないもん」
「はぁ・・・」
中に入れてやる。
外とは違い、中はいたって普通だ。
「そこに座ってろ」
と座布団を渡し、部屋の奥に買ってきた荷物を置いて、茶の用意をする。
「本がいっぱいだ・・・なになに、200年、官渡の戦い起こる。????」
「茶だ。」
茶菓子の羊羹付きである。
しかし、少女の興味は本に注がれていた。
「けーね、この本なぁに?」
「(呼び捨て・・・)ん?、あぁ、歴史書だ。それは2巻だな。」
「いただきまーす、もぐもぐ、歴史に詳しいの?」
「あぁ、歴史の事なら何でも解るぞ。」
その日、日が暮れる前に少女・川名すずを集落の広場まで送ってやった。
別れる前に
「明日も行っていい?」
と鈴が聞いてきた。
「来るのは良くない。危険だ。」
「そんなぁ・・・」
「ただし・・・そうだな、その建物の前で辰の刻四つに待ち合わせならいいぞ。」
「♪~それじゃあ、約束だよ!」
その日から、慧音は変わった。
「あ、この本は歴史の本じゃないね。変な絵も載ってる・・・」
「それか、公孫軒轅が邪鬼悪神を聞いてきたから、一万一千五百二十種について教えてやったら、
それを写した物をくれたんだ。」
「へぇ・・・この「魅」ってのだけ絵が無いね。」
「魅は、未だに形を成さない魔だからな。それゆえに魅の力は最強だ。」
「けーね、これ!」
差し出されたのは小さな包み。
カサカサと中を見てみる。
「ん?、ほぉクッキーか。どうしたんだ?」
「お母さんに教えてもらったの。」
「すごいな、すずは。」
「えへへ~」
集落の中でも慧音は変わった。
畑を耕す老婆に
「精が出ますね、お婆ちゃん。」
と自分から声をかけたのだ。
「ん、あぁ、まだまだ、若いもんには負けんて」
とその老婆は笑い飛ばしていた。
その後、待ち合わせ場所に行くと、他にも子供たちが来ていたりした。
そして、
変わったの慧音だけではなかった。
店先では
「お、嬢ちゃん、今日は良い魚があるよ。」
「ほう、ならば、それを貰おうか。」
「よし、1尾おまけしてやる。」
「い、いいのか?」
「いいっていいって、可愛い娘にはサービスだ。」
カァッと赤面するのが自分でも解る
「そ、そうか、すまんな。」
魚を受け取り、代金を払うとそそくさと店を離れる。
「はははッ、また宜しくな。」
慧音は少女との出会いにより、集落の人達に馴染み始めていた。
集落の人々も、そんな慧音を快く迎え入れた。
しかし、
「おい、妖怪がきたぞ!」
とある日の夜である。
その日は妖怪が集落を襲った。
幸いにも、人的被害は無かった。
家が少々壊された、家畜が数匹持っていかれた程度だった。
しかし、一人の男が、この夜に集落の外から帰ってきた慧音を見たのだった。
集落に変な噂が広まっている。
色々妖怪について詳しいのは仲間だから。
外れに住んでいるのは妖怪を呼び込む為。
働いてもいないのにお金を持っているのは妖怪に盗ませているため。
など、慧音と妖怪を結びつけるような噂だった。
噂のせいか、遊んでいた子供たちは一人、また一人と待ち合わせ場所に来なくなった。
集落での買い物も、サービスが無くなったり、会話も一言二言で終わってしまうようになった。
「ごめんね、けーねお姉ちゃん・・・」
遂に鈴も
「そうか、今日で最後か・・・」
慧音は、何か心に穴が開いたように思えた。
「でも、明日も来るよ。」
「すず、親の言うことは聞くんだ。」
「でも、けーね、また一人ぼっちになっちゃうよ?」
「私の事はいい。いいか、きちゃ駄目だぞ。」
次の日、鈴は親に隠れて、待ち合わせ場所に来ていた。
「けーねお姉ちゃん、来ないかな・・・」
空を見上げる。
何か、黒いものがたくさん見える。
「なんだろ?」
朝、人々が働いている時間、
奴らは現れた。
「む、群れだ、群れできたぞーーーーーーー!!」
慧音は、少し迷っていた。
集合場所に行っても、誰もいないはずだ。
でも、すずが来ているかもしれない。
待たせてしまっては悪い気がする。
でも、自分は集落の人々に嫌われてしまった。
それに、妖怪も・・・
気配を感じた。
しかも、複数の気配である。
「ん?、こんな昼間から現れたのか!?」
「あっはははッ」
黒い翼を羽ばたかせながら女は笑う。
「毎夜毎夜邪魔ばかりしやがってあいつは・・・・
それも今日で終わりだ。」
「ふふっ、奴もこんな昼間から、しかも、群れで来るなんて想像もしていないだろうねぇ」
彼女たちは化け烏の姉妹。
ここら辺に住む鳥妖怪達を束ねている存在だ。
その数、実に30羽
普段なら、部下に食料を狩らせているがこの集落だけは量が少ないのである。
部下の報告を受け、この襲撃を思いついたのである。
「まずは、あの子供を頂くか」
「いいねぇ」
「行くか!」
すずに目を付けた先行していた3羽の化け烏が急降下を始める。
「きゃああああああああああああああ」
急降下してきた化け烏達は真横から攻撃を受けて吹っ飛んだ。
「ぐへぇ」
「ギャ!」
「ぐごォ!?」
垣根に突っ込む化け烏。
ぴくりとも動かない。
どうやらそのまま気絶したようだ。
「すずーーー!!」
駆け寄る慧音。
「お、お姉ちゃん!」
「すず、来るなといったろう!」
「ごめんなさい・・・」
「早く逃げろ!」
「お、お姉ちゃんは?」
「大丈夫だ。私は強いからな・・・さぁ、早く!」
「う、うん、気をつけてね!」
そう言うとくるりと向きを変え走り出す。
「・・・貴様ら、許さんぞ!」
その怒声と共に力を増幅さる。
肉体が急成長し、髪が伸び、ゆるやかだった服はぴったりになってしまう。
腕や足はえ巨大化し、肘、膝から下に白毛が生えた。
爪が伸び、硬質化する。
頬、額にも白毛が生え、犬歯が伸び、目は火眼金睛になる。
そして、喉と左右の鎖骨近く、にそれぞれ「眼」が現れる。
「ふん、正体を現したな、ハクタク!」
「いくら満月の日だからって昼間なのに獣化して・・・お馬鹿ね、あなた」
「どうせ、長くは獣化していられまい!ゆけ!」
周囲を囲んだ化け烏達27羽が一斉に襲い掛かる。
が
「古来より、寡兵が多勢に克つ手段に、指揮官を狙うという事例がある」
その言葉は化け烏姉妹の背後から聞こえた。
ドシュッ
「なァァッ!」
「グハァ」
両手の爪で化け烏姉妹の腹部を貫く。
無造作に左右に腕を振り、肉塊と化したソレをほうり捨てる。
。
一瞬で自分たちの長が殺された事により
化け烏達は混乱した。
逃げようとする者、襲い掛かってくる者の2種類に行動が分かれたが
慧音は逃がす気など毛頭無かった。
「ここに歴史を創ってやろう・・・・化け烏姉妹とその部下達の最後という歴史をな!」
台詞と共に、弾幕を展開する。
その後は、虐殺とも狩りとも言える一方的な物だった。
襲撃をした30羽全てがこの広場に堕ちていた。
慧音には敵に着けられた傷は無かったが
全身は血みどろで、
無茶な獣化により、慧音の体はボロボロだった。
そこに、戻ってくる人間達。
すずが走り寄って、抱きつく。
「お姉ちゃん!」
「すず・・・怖くないのか?」
大きな腕ですずに触れる。
「お姉ちゃんは、すずの友達だもの」
遠巻きに集落の人たちが話しかける。
「あんた、妖怪の仲間なのか?」
「私は、大昔にハクタクという妖怪の血を浴びた人間だ。」
「今まで集落の外に住んでいたのは?」
「襲ってくる妖怪から守るためだ。」
「か、金は?」
「昔、元のハクタクが教えた者から頂いた財宝を金に変えて使った。」
沈黙する集落の人達。
妖怪だったのは本当だが、今まで襲撃から集落を守っていたらしい。
彼らは悩んでいた。
これからどうすればいいのかを。
「安心しろ、私はもう此処には戻らないから。」
獣化状態から人間に戻る。
体はしぼみ、毛が抜け落ち、
巨大化した爪が剥がれ落ちる。
眼の開いた場所が裂傷となって元に戻る。
ずいぶんと苦しそうだ。
そして、鈴を引き離す。
「お姉ちゃん・・・」
「じゃあな、すず・・・」
唯一の友達に別れを告げ、ふらふらとした足取りでその場を去ろうとする。
「お嬢ちゃん、どこ行く気だ?」
ふと、後ろから声がかかる。
立ち止まる慧音。
「あんたの帰る場所は、此処じゃろう?」
いつぞやの老婆である。
立ち止まり、上を向く慧音
「い、いいのか?」
その声は、震えていた。
人々が無言でうなずく。
見えるはずが無いのに。
「お姉ちゃん!」
鈴が駆け寄り再度抱きついて、慧音を見上げる。
「うぅぅ・・・」
必死に涙を堪えていたようだったが、
「お帰り、お姉ちゃん。」
その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「はやかったわね、慧音さん」
「はい。今日は3匹でしたから。
子供たちはどうでした?」
「ふふ、みんな知りたがってましたよ、貴女の事を。」
「今となっては知っている人は少ないですからね、鈴」
いつかの少女は、既に老婆となっていた。
彼女の秘密を知っている人間は、現在では長老衆の面々とその後継者のみである。
「そうそう、いいお茶の葉が手に入ったんですよ、どうです?」
「いただきます。」
彼女は今日も、集落を守る。
共に歩んできたその歴史と共に。
と数人の子供たちが紙を持ってくる。
一枚一枚確認し
「うん、みんなよくできました。」
と褒めてあげる。
「えへへ~」
人間の集落の一角に子供たちを集めて勉強を教えている。
内容は主に歴史だ。
「慧音せんせー、次はどんな事教えてくれるの?」
「あぁ、次だな、次は・・・む!?」
「?」
「すまん、今日はここまでだ。」
「えー」
「ご免なみんな、ちょっと行って来る。」
そういうと部屋を出て行く。
「たまに、授業中断しちゃうよね」
「うん。何でだろ?」
授業をしていた建物を出て、すぐに老婆に出会う。
彼女は、この集落の長老衆と呼ばれる権力者の一人である。
「おや、慧音さん、また来たのですか?」
「えぇ、行ってきます。
子供達の相手をしてあげて下さい。」
「分かったわ、頑張ってね。」
「はい。」
そういって老婆と別れる。
この世界は、妖怪が跳梁跋扈する世界。
そう、あの日も、こんな感じだった。
その人間の住む集落の外れには、一軒の家が建っていた。
ボロボロの外見で、空き家のようにも見えたが、そこには住人がいた。
上白沢 慧音と言う名前の少女が一人で住んでいた。
いつから住んでいたのかは誰も知らない。
ただ、集落の人達と殆ど係わり合いを持たずに、一人で寂しく生きていた。
この日、珍しく彼女は集落に来ていた。
食料を調達しに来たのだ。
朝が過ぎ、昼にはまだ早い時間である。
「・・・その野菜と、果物を箱ごと貰おうか」
「はいよ、こんなにも持てるのかい?お嬢ちゃん」
気にかけた店の親父に
「いらん世話だ。」
と冷たく言い放つと、金を置いて箱を両手に下げて帰路に着こうとした。
集落の広場を抜ける頃に一人の少女が近づいてきた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
無視して歩く。
「お姉ちゃん、それ重くないの?」
無視。
「わたし、偶に見かけるんだよ。毎月4回必ずここを通るよね?」
無視。
「お姉ちゃんが、外れに住んでる人って本当?」
無視。
「お姉ちゃ・・・」
「うるさい!」
「うぅ・・・グスッ」
しまった、あまりにしつこいからつい声を荒げてしまった。
「うぇええ、ご、ごめ、グスッ、なさ・・ぃ・・・」
このままでは大泣きされてしまう。
そうなると色々と面倒だ。
「あぁ、す、すまん、言い過ぎた。」
「うぅぅ・・・」
「んー、私は外れに住んでいるし、この荷物も重いが持てないほどではない。
答えてやったぞ、だから泣くな。」
「グスッ、じゃ、じゃあ、お姉ちゃんは・・グシュ」
「なんだ?」
「寂しくないの?」
「ん・・・寂しくないと言えば嘘になるな。」
「じゃあ、わたしが友達になってあげる!」
いままで泣いていたのが嘘のような笑顔。
「いや、結構だ。」
顔を下げ、また先ほどの泣き顔に戻る。
「うわッ、な、泣くな、友達になってもいい。な、だから泣くな。」
荷物を置いて必死になだめる。
「えへへ~」
満面の笑みで顔を上げた。
「・・・はぁ(私がこんな子供に言いようにされてしまうとは・・・)」
少女の頭を撫ぜてやり
「それじゃあな。」
と荷物を持って帰ろうとする。
ザッザッザッ
てくてくてく
「・・・・・」
ザッザッザッ
てくてくてく
「おい」
「なぁに?」
「何でついて来るんだ」
「お名前聞いてないもん。わたしは、川名鈴。すずって呼んでね。」
「はぁ、私は上白沢 慧音だ。それじゃあな。」
これでやっと帰れる。
ザッザッザッ
てくてくてく
くるりと後ろを向く。
笑顔の少女。
「はぁ、もういい。すず、隣を歩け。」
「うん!」
普段、大人達ですら、めったに集落を離れない。
この世界は妖怪が住む世界。
一部の人間は、魔法が使えたりするが、普通の人間達は食料でしかない。
そんなにも危険な世界だというのに、彼女は一人で集落の外れに住んでいた。
木々が生い茂る中にぽつりと一軒の家が立っている。
外見はボロボロだ。
「へぇ・・・ここがお家なんだ・・・」
「汚いだろ?さぁ、帰った帰った。」
「や!中見てないもん」
「はぁ・・・」
中に入れてやる。
外とは違い、中はいたって普通だ。
「そこに座ってろ」
と座布団を渡し、部屋の奥に買ってきた荷物を置いて、茶の用意をする。
「本がいっぱいだ・・・なになに、200年、官渡の戦い起こる。????」
「茶だ。」
茶菓子の羊羹付きである。
しかし、少女の興味は本に注がれていた。
「けーね、この本なぁに?」
「(呼び捨て・・・)ん?、あぁ、歴史書だ。それは2巻だな。」
「いただきまーす、もぐもぐ、歴史に詳しいの?」
「あぁ、歴史の事なら何でも解るぞ。」
その日、日が暮れる前に少女・川名すずを集落の広場まで送ってやった。
別れる前に
「明日も行っていい?」
と鈴が聞いてきた。
「来るのは良くない。危険だ。」
「そんなぁ・・・」
「ただし・・・そうだな、その建物の前で辰の刻四つに待ち合わせならいいぞ。」
「♪~それじゃあ、約束だよ!」
その日から、慧音は変わった。
「あ、この本は歴史の本じゃないね。変な絵も載ってる・・・」
「それか、公孫軒轅が邪鬼悪神を聞いてきたから、一万一千五百二十種について教えてやったら、
それを写した物をくれたんだ。」
「へぇ・・・この「魅」ってのだけ絵が無いね。」
「魅は、未だに形を成さない魔だからな。それゆえに魅の力は最強だ。」
「けーね、これ!」
差し出されたのは小さな包み。
カサカサと中を見てみる。
「ん?、ほぉクッキーか。どうしたんだ?」
「お母さんに教えてもらったの。」
「すごいな、すずは。」
「えへへ~」
集落の中でも慧音は変わった。
畑を耕す老婆に
「精が出ますね、お婆ちゃん。」
と自分から声をかけたのだ。
「ん、あぁ、まだまだ、若いもんには負けんて」
とその老婆は笑い飛ばしていた。
その後、待ち合わせ場所に行くと、他にも子供たちが来ていたりした。
そして、
変わったの慧音だけではなかった。
店先では
「お、嬢ちゃん、今日は良い魚があるよ。」
「ほう、ならば、それを貰おうか。」
「よし、1尾おまけしてやる。」
「い、いいのか?」
「いいっていいって、可愛い娘にはサービスだ。」
カァッと赤面するのが自分でも解る
「そ、そうか、すまんな。」
魚を受け取り、代金を払うとそそくさと店を離れる。
「はははッ、また宜しくな。」
慧音は少女との出会いにより、集落の人達に馴染み始めていた。
集落の人々も、そんな慧音を快く迎え入れた。
しかし、
「おい、妖怪がきたぞ!」
とある日の夜である。
その日は妖怪が集落を襲った。
幸いにも、人的被害は無かった。
家が少々壊された、家畜が数匹持っていかれた程度だった。
しかし、一人の男が、この夜に集落の外から帰ってきた慧音を見たのだった。
集落に変な噂が広まっている。
色々妖怪について詳しいのは仲間だから。
外れに住んでいるのは妖怪を呼び込む為。
働いてもいないのにお金を持っているのは妖怪に盗ませているため。
など、慧音と妖怪を結びつけるような噂だった。
噂のせいか、遊んでいた子供たちは一人、また一人と待ち合わせ場所に来なくなった。
集落での買い物も、サービスが無くなったり、会話も一言二言で終わってしまうようになった。
「ごめんね、けーねお姉ちゃん・・・」
遂に鈴も
「そうか、今日で最後か・・・」
慧音は、何か心に穴が開いたように思えた。
「でも、明日も来るよ。」
「すず、親の言うことは聞くんだ。」
「でも、けーね、また一人ぼっちになっちゃうよ?」
「私の事はいい。いいか、きちゃ駄目だぞ。」
次の日、鈴は親に隠れて、待ち合わせ場所に来ていた。
「けーねお姉ちゃん、来ないかな・・・」
空を見上げる。
何か、黒いものがたくさん見える。
「なんだろ?」
朝、人々が働いている時間、
奴らは現れた。
「む、群れだ、群れできたぞーーーーーーー!!」
慧音は、少し迷っていた。
集合場所に行っても、誰もいないはずだ。
でも、すずが来ているかもしれない。
待たせてしまっては悪い気がする。
でも、自分は集落の人々に嫌われてしまった。
それに、妖怪も・・・
気配を感じた。
しかも、複数の気配である。
「ん?、こんな昼間から現れたのか!?」
「あっはははッ」
黒い翼を羽ばたかせながら女は笑う。
「毎夜毎夜邪魔ばかりしやがってあいつは・・・・
それも今日で終わりだ。」
「ふふっ、奴もこんな昼間から、しかも、群れで来るなんて想像もしていないだろうねぇ」
彼女たちは化け烏の姉妹。
ここら辺に住む鳥妖怪達を束ねている存在だ。
その数、実に30羽
普段なら、部下に食料を狩らせているがこの集落だけは量が少ないのである。
部下の報告を受け、この襲撃を思いついたのである。
「まずは、あの子供を頂くか」
「いいねぇ」
「行くか!」
すずに目を付けた先行していた3羽の化け烏が急降下を始める。
「きゃああああああああああああああ」
急降下してきた化け烏達は真横から攻撃を受けて吹っ飛んだ。
「ぐへぇ」
「ギャ!」
「ぐごォ!?」
垣根に突っ込む化け烏。
ぴくりとも動かない。
どうやらそのまま気絶したようだ。
「すずーーー!!」
駆け寄る慧音。
「お、お姉ちゃん!」
「すず、来るなといったろう!」
「ごめんなさい・・・」
「早く逃げろ!」
「お、お姉ちゃんは?」
「大丈夫だ。私は強いからな・・・さぁ、早く!」
「う、うん、気をつけてね!」
そう言うとくるりと向きを変え走り出す。
「・・・貴様ら、許さんぞ!」
その怒声と共に力を増幅さる。
肉体が急成長し、髪が伸び、ゆるやかだった服はぴったりになってしまう。
腕や足はえ巨大化し、肘、膝から下に白毛が生えた。
爪が伸び、硬質化する。
頬、額にも白毛が生え、犬歯が伸び、目は火眼金睛になる。
そして、喉と左右の鎖骨近く、にそれぞれ「眼」が現れる。
「ふん、正体を現したな、ハクタク!」
「いくら満月の日だからって昼間なのに獣化して・・・お馬鹿ね、あなた」
「どうせ、長くは獣化していられまい!ゆけ!」
周囲を囲んだ化け烏達27羽が一斉に襲い掛かる。
が
「古来より、寡兵が多勢に克つ手段に、指揮官を狙うという事例がある」
その言葉は化け烏姉妹の背後から聞こえた。
ドシュッ
「なァァッ!」
「グハァ」
両手の爪で化け烏姉妹の腹部を貫く。
無造作に左右に腕を振り、肉塊と化したソレをほうり捨てる。
。
一瞬で自分たちの長が殺された事により
化け烏達は混乱した。
逃げようとする者、襲い掛かってくる者の2種類に行動が分かれたが
慧音は逃がす気など毛頭無かった。
「ここに歴史を創ってやろう・・・・化け烏姉妹とその部下達の最後という歴史をな!」
台詞と共に、弾幕を展開する。
その後は、虐殺とも狩りとも言える一方的な物だった。
襲撃をした30羽全てがこの広場に堕ちていた。
慧音には敵に着けられた傷は無かったが
全身は血みどろで、
無茶な獣化により、慧音の体はボロボロだった。
そこに、戻ってくる人間達。
すずが走り寄って、抱きつく。
「お姉ちゃん!」
「すず・・・怖くないのか?」
大きな腕ですずに触れる。
「お姉ちゃんは、すずの友達だもの」
遠巻きに集落の人たちが話しかける。
「あんた、妖怪の仲間なのか?」
「私は、大昔にハクタクという妖怪の血を浴びた人間だ。」
「今まで集落の外に住んでいたのは?」
「襲ってくる妖怪から守るためだ。」
「か、金は?」
「昔、元のハクタクが教えた者から頂いた財宝を金に変えて使った。」
沈黙する集落の人達。
妖怪だったのは本当だが、今まで襲撃から集落を守っていたらしい。
彼らは悩んでいた。
これからどうすればいいのかを。
「安心しろ、私はもう此処には戻らないから。」
獣化状態から人間に戻る。
体はしぼみ、毛が抜け落ち、
巨大化した爪が剥がれ落ちる。
眼の開いた場所が裂傷となって元に戻る。
ずいぶんと苦しそうだ。
そして、鈴を引き離す。
「お姉ちゃん・・・」
「じゃあな、すず・・・」
唯一の友達に別れを告げ、ふらふらとした足取りでその場を去ろうとする。
「お嬢ちゃん、どこ行く気だ?」
ふと、後ろから声がかかる。
立ち止まる慧音。
「あんたの帰る場所は、此処じゃろう?」
いつぞやの老婆である。
立ち止まり、上を向く慧音
「い、いいのか?」
その声は、震えていた。
人々が無言でうなずく。
見えるはずが無いのに。
「お姉ちゃん!」
鈴が駆け寄り再度抱きついて、慧音を見上げる。
「うぅぅ・・・」
必死に涙を堪えていたようだったが、
「お帰り、お姉ちゃん。」
その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「はやかったわね、慧音さん」
「はい。今日は3匹でしたから。
子供たちはどうでした?」
「ふふ、みんな知りたがってましたよ、貴女の事を。」
「今となっては知っている人は少ないですからね、鈴」
いつかの少女は、既に老婆となっていた。
彼女の秘密を知っている人間は、現在では長老衆の面々とその後継者のみである。
「そうそう、いいお茶の葉が手に入ったんですよ、どうです?」
「いただきます。」
彼女は今日も、集落を守る。
共に歩んできたその歴史と共に。
東方紅魔郷、妖々夢と来て初の『人を護る妖怪』という一風代わった立ち位置。
彼女には色々とエピソードが膨らみますね。
最後が良かったです。大人になった鈴と変わらない慧音。
鈴の使い方が上手で勉強になりました。最後まで来てもう一度最初の老婆との会話を見直してしまいましたよ。
面白かったです、良作をありがとうございました。
イメージを壊さなくて良かったです。
確かに「護る妖怪」は面白い設定なのですが、この場合、集落から移動できないって短所も出てきますね。
なので、今回は(今回も?)過去の話にしてみました。
慧音像といえば、
>答えてやったぞ、だから泣くな
>カァッと赤面するのが自分でも解る
このあたりが非常に慧音慧音してていいですね(我ながらチョイスが微妙だ…)。
誤字かもと思った箇所を。
長老『集』ではなく『衆』かも。「人の集団」だから「集」でも良さそうなんですが、gooの辞書で確認してみたら「衆」っぽいので。
関係ないですが、何やら今宵は満月のようです。
確かに集よりも衆っぽいですねさっそく訂正しておきます。