Coolier - 新生・東方創想話

Story of Yukari and glowfly

2004/07/26 07:12:51
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時は夏。
月の異変を解決するために8人の人と妖が共に永い夜へ挑んだ夏から、一年が経過していた。
そんなある夏の夜の博麗神社の縁側。



「まったく、いきなり来たから何事かと思ったら、お茶を飲み来ただけなんてね」
「あら、いいじゃない。夜の縁側でお茶を飲むのも、風情があるわよ?」
「昼間寝てるから、その良さが分かってないだけでしょ」
「そうとも言うわね」

博麗神社の縁側に座り、お茶を飲んでいた紫は微笑む。
八雲紫。ありとあらゆる境界と結界を操るすきま妖怪の女性。
誰が見ても美女と表現するであろう顔立ちに、ゴスロリ風の服装がよく似合っていた。それに湯呑みという組み合わせが多少の違和感を感じさせたが、本人はまったく気にしていない。
だが、湯飲みの底に手をそえて、ずずっ、とお茶を飲み、ほうっ、とため息を漏らす様子は、誰がどう見ても老人のそれだったが、命が惜しければ指摘しないほうがいい。年齢のことだけは絶対に。
そんな様子を呆れたように眺め、自身もお茶を飲んでいるのは、ここ博麗神社の巫女をしている少女、博麗霊夢。
紫に比べれば幼さの残る容姿だったが、幻想郷最大の力を持ち、今まで数々の騒動を解決してきた本人でもある。
そして、今でこそ一緒に縁側でお茶を飲んでいる八雲紫とも、一時期敵対し、壮絶な弾幕勝負の末に倒したのだ。
だが、霊夢は何故か、紫が苦手だった。

そんな二人だが、去年の月の騒動の際、共に組んで異変の解決に乗り出している。最も、声をかけたのは紫の方だったが、それに付き合うあたり、苦手、とはいっても嫌いではないらしい。複雑である。

「けど、夜は静かでいいじゃない」

紫は言う。確かに、耳を澄ませてみても、かすかな虫の鳴き声しか聞こえない。
だが、霊夢は憮然となった。

「悪かったわね。どうせうちは年中閑古鳥よ」
「あら、あの魔法使いが来た時は騒がしいんじゃないのかしら?」
「魔理沙は参拝客じゃないわよ。勝手に騒動起こして帰っていくだけ」
「それはそれは、ご愁傷様」
「言葉の使い方間違ってない?」
「気にしちゃ駄目よ」

霊夢はため息を漏らし、お茶を飲もうと薬缶に手をかけ、中身がなくなっているのに気づいた。

「お茶がなくなってるわ」
「おかわり~」
「なんで私が沸かさないといけないのよ」
「貴女はここの巫女でしょう?」
「あの藍とかいうあなたの式にやらせなさいよ。どうせ雑用得意なんでしょ?」

藍、というのは、正式には八雲藍という、紫が式にした九尾の狐の化身である。本来なら並の妖怪では足元にも及ばない程の実力を持つ筈なのだが、普段はマヨヒガの八雲宅の炊事洗濯を任されて――もとい、押し付けられている、一家のお母さん的存在になっている。
確かに、藍が淹れたなら美味しいお茶が期待できそうだが、紫は首を振った。

「残念だけど、藍は橙と寝ているわよ。あの子、朝の決まった時間に起きる分にはいいんだけど、それ以外の時間に起きると、性質が悪いのよ。目も当てられないんだから」
「へえ、それは初耳ね。具体的には何をやったの?」
「秘密よ」

どこからか取り出した扇で口元を隠し、微笑む紫。心なしか、頬が赤く染まっているのに霊夢は気づいたが、見なかったことにした。
深いため息を漏らし、薬缶を手に立ち上がって、奥の台所に向かう。
その様子を楽しそうに眺めていた紫だったが、ふと視線を戻して、

「・・・・・・あら、蛍」

いつの間にか、紫が持っている湯飲みの縁に、蛍がとまっていた。
その光を眺めながら、紫はふと、思い出す。
去年の夏の出来事を。

「そういえば、あの蛍の子は今も元気かしら・・・・・・?」





――あなたの光、綺麗ね。
――本当?
――ええ、とっても綺麗。桜も綺麗だけど、あなたの光も。自然の美って、こういうことを言うのかしら。
――私、妖怪なんだよ?それでも、綺麗だって言ってくれるの?
――妖怪も、人間も関係ないわ。綺麗なものは綺麗なんだもの。
――・・・・・・決めた。
――え?
――私、あなたに決めた。



月の異変を解決し、霊夢と共に帰路についた紫は、眼下に広がる森に、ある影を見つけた。
普段ならそのまま立ち去るところだったが、何故か気になった紫は、前を飛ぶ霊夢を呼び止めた。

「ごめんなさい、先に帰っててもらえるかしら?ちょっと用事があって」
「まあ、異変も解決したし。先に帰って寝てるわ」

そう言って飛び去る霊夢が完全に見えなくなるのを確認してから、紫は地上に降り立った。

紫が降り立ったのは、その人物の後ろだった。
気づかずに、足を引きずるようにして歩くその人影に、紫は声をかけた。

「リグル」

その言葉に、人影――何故かズタボロで体中に生傷を作っているリグルはびくっ、と体を反応させ、固まった。
そして、ゆっくりと首を紫のほうに向けて、

「・・・・・・何?」

あからさまに嫌悪と敵対心を混ぜた表情と視線を向けた。
だが、紫はそれを受け流す。

「あなた、これからどうするの?」
「・・・・・・なんでそんなこと聞くの?」

警戒心を露に聞き返してくるリグルに、紫は指を顎にあて、首をかしげた。

「さあ?」
「なによそれ・・・・・・」
「本当に分からないのよ。強いて言うなら・・・・・・気まぐれ、かしら?」

紫の言葉に、リグルは肩を落とした。少なくとも、紫に敵意がないことは分かったらしい。だが、表情には複雑な感情が混ざり合っている。
無理もない。つい数時間前、リグルは紫、霊夢の二人に、ズタボロにされたのだ。最も、最初にちょっかいを出してきたのはリグルのほうだったから、自業自得だが。

しばらくの間悩んでいたが、リグルは真摯な表情で答えた。

「・・・・・・待つわ」
「待つ?」

紫の疑問の声に、リグルは真摯な表情のまま続ける。

「産まれて、生きている者は皆、与えられた役割があるって聞いた。だから、私は私の役割を果たすために、待つしかないの」
「誰を?」

その言葉に、リグルは答えない。ただ、真摯な目を紫に向けている。
紫も、リグルの目をまっすぐ見た。
数秒間が長く感じられるような、重苦しい空気――

「あら、紫じゃない。どうしたの?」

その空気を破り、空から降りてきたのは、西行寺幽々子。
冥界は白玉楼の主であり、自身も幽霊である少女。紫とは旧知の仲であり、よく遊びにいく間柄である。
余談だが、紫が、幽々子もこの異変解決に乗り出していると知ったのは、ミスティアと名乗る妖怪と戦っているのを見たからである。
紫は幽々子の方を見て、ふと、首をかしげた。
本来なら一緒に行動している筈の剣士――庭師である少女、魂魄妖夢の姿が見えなかったからだ。
妖夢の方から幽々子の側を離れることなんて滅多にないはずだった。

「あら、幽々子。妖夢はどうしたの?」
「紫が下に見えたから、先に帰らせたわ。雑用たくさん押し付けたし、慌てて帰って、今頃大急ぎで片付けているんじゃないかしら?」

紫の疑問の声に、幽々子は何でもないように言う。
紫は呆れて言いかけ――ふと、リグルの様子がおかしいことに気づいた。
リグルは驚いた表情のまま固まり、じっ、と、突然現れた幽々子の方を向いていた。

「どうし・・・・・・」
「・・・・・・見つけた」
「「え?」」
「やっと、見つけた」

微かに、消え去るように小さな声を出したリグルに、二人は同時に声をあげた。
だが、リグルはいきなり幽々子に近づき、その手をとって、

「やっと、やっと見つけた・・・・・・!」

見つけた、としきりに繰り返すリグル。
何故か、紫は言いようのない焦燥感に駆られた。

「幽々・・・・・・」

紫が言い終わる前に、






「・・・・・・ごめんなさい、あなたは誰?」






「え・・・・・・?」

その言葉に、リグルは固まった。
そんなリグルの様子を見て、紫は何故か慌てた。

「幽々子、悪いけれど、話は私が聞くから、先に帰ってもらえないかしら」
「?いいわよ」

頷いて、幽々子は飛び上がり、そのまま去った。
その様子を、リグルは呆然とした表情で見送っている。
紫は、そんなリグルの様子を見ている。

「どういう、こと・・・・・・?」
「実はね・・・・・・」

呆然とするリグルに、紫は説明を始めた。
幽々子の家にある西行妖を封じるために、自ら命を断ったこと。死後も、西行妖に囚われた肉体が魂を掴んでいること。そして、自決した際のショックで、生前の記憶がなくなっている、ということを。
全てを聞いたリグルは、俯いたまま黙っている。
紫は、それ以上何も言わない。ただ、リグルの言葉を待っていた。

――長い時間が経過したような感覚がした。

「・・・・・・私達蛍は・・・・・・幻想郷の蛍は、その光で、死んだ幽霊を導いて、一定期間が過ぎた後、自分も死んで、自らの魂と光で、幽霊を輪廻の輪に送るの。自分と一緒に」

リグルは独り言のように呟きはじめる。
紫は、それを黙って聞いている――否、聞くことしかできない。

「普通の蛍は、全員が全員の幽霊を連れていく。だけど、私のような妖怪にまでなった蛍は、自分で連れていく幽霊を、産まれて数年の間に決めないといけないの。そして、決めた人が死んで、魂が肉体から完全に離れた時、私も死んで、輪廻の輪に導く。理由なんて私にも分からない、だけど、それが私の役割だって、産まれた時には理解してた・・・・・・!」

紫の方を向くリグルの瞳には、涙が浮かんでいた。
そのまま、悲鳴に近い声を上げる。

「私は、そんな自分が嫌だった!誰かと一緒に死ぬなんて絶対に嫌だった!自分で決めて、誰のためでもなく死にたかった。だけど・・・・・・迷い込んだ私が妖怪だって知っても、それでも綺麗だって言ってくれて・・・・・・嬉しかった。だから、この子なら・・・・・・この子のためなら、輪廻の輪まで導いてもいいって・・・・・・初めてそう思えたのに、なのに!!」
「・・・・・・どうにも・・・・・・」
「出来るわけないじゃない!!」

叫び声のような声に、紫は思わず気圧される。
リグルはとうとう涙を流しながら、それでも言葉を続けた。

「一度決めたら、絶対に覆せない、契約みたいなもの・・・・・・摂理、なの、に・・・・・・」

嗚咽をもらして泣き始めたリグルを、紫はじっと見つめた。
紫の能力である『境界を操る力』を使えば、リグルをその摂理から外し、死なせることもできただろう。
だが、紫はできなかった。
だから、紫には、泣いているリグルを見続けることしか――



「・・・・・・ねえ」

泣き止み、目を真っ赤に腫らしたリグルは紫に聞いた。

「私は、いつまで、待てばいいの?」

リグルの言葉に、紫は答えない――否、答えられない。
数秒の沈黙の後、リグルは踵を返し、そのまま森の奥に消えていった。
そして紫は、その後姿が完全に見えなくなるまで、その場に立ち竦んでいた。



――お迎え?
――うん、あなたが死んだら、私が道案内してあげる。輪廻の輪の中に。
――死んでも、独りじゃないの?
――独りじゃない。私がさせないから。
――・・・・・・ありがとう。
――お礼なんていいよ。私が決めたことだもん。
――ねえ、あなたのお名前は?
――私はリグル・ナイトバグ。あなたは?
――・・・・・・西行寺幽々子。よろしくね、リグル。
――うん。





湯呑みの縁に止まった蛍の光を見て、ふと、紫は思う。
人も、妖も。考えることを知る生き物すべて、生きることそのものが、ある種の業を背負い、背負わされる行為なのではないのか、と。特に、強力な力を持つ者程、それが如実なのではないだろうか。

霊夢は、その持って生まれた強大すぎる能力故に、この地から離れることができずにいるように。
レミリアは、その運命を操る力故に、永遠に幼いまま、成長しないことを決められているように。
フランドールは、その破壊する力故に、心を守るため、無邪気な心を保たざるをえないように。
幽々子は、その死を誘う能力故に、悲観して自決し、そのショックですべてを忘れているように。

――紫も、己の力故に、生き物をすきまに落とし、その反応を見て愉しむように――すべてを愉快だと思わなければ、今まで何度、心が壊れていたか分からないように。

それでも、と紫は考え直す。
例え、産まれながらに決められていた事だとしても、それを否定はしなかった。
どれだけ辛くても、どれだけ悲しくても、その積み重ねの上に、今の幸福だと言える自分がいるのだから。
だから――

「おまたせ・・・・・・て、蛍じゃない」
「ええ、綺麗でしょ?」
「そうね、儚いが故に美しい・・・・・・てことかしら?」
「そうかもしれないわね」

紫は微笑んだまま答える。

――あの時、境界を操らなかったのも、リグルの今まで歩んできた道を否定したくなかったからかもしれない。

「そんなことより、おかわり~」
「花より団子ね・・・・・・て、蛍がいるまま注いでいいわけ?」

二人の言葉が理解できたのか――湯飲みの縁から、蛍が飛んだ。
暗闇に浮かぶ、幻想的な光の軌跡を、紫も、霊夢も、言葉もなく見守っていた。




「リグル、あの時「いつまで待てばいい?」と聞かれて、私は答えなかった。今でも答えられないけれど、これだけは言えるわ。永遠なんてないから、いつか必ず、あなたはあの子と一緒に旅立てる。だから、どんなに辛くても、生き続けなさい・・・・・・それが、あなたが今まで歩み、これから進んでいく道だから」

蛍の光が消えてすぐ、隣にいる霊夢にも聞こえないような、小さな声で、紫は呟いた。
こんばんわ、楓です。
色々と脳内設定が目立ちますが、どうでしょうか^^;

蛍、という生き物に関して、僕は作中でリグルが語ったようなことを思い浮かべていました。
ただ、最初はお盆で霊を呼び寄せて、終わる頃に一緒にあの世に帰るというものでしたが、現実に照らし合わせると、一部の地域にしか当てはまらないことに気づいて・・・・・・^^;(実家は6~7月)

だからこそ『幻視の夜』なのかなー、と思った次第。
ちなみにタイトルの「glowfly」は英語で蛍だそうで。・・・・・・翻訳ソフトにつっこんだだけですが(笑
あと紫のキャラが違うような気がしましたが、僕の中ではこういうイメージがありますので、そのまま・・・・・・


続き物の途中にはさむのはどうかと思いましたが、ほら、そこは何が起こるかわからない人生。些細なキッカケがあったわけです。

リグルと紫と霊夢が浴衣姿で蛍見してる夢を見たから(ぉ
僕はお茶酌みなどの雑用係でしたが(笑


そしてupした後で些細な誤字に気づく自分。
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コメント



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14.40いち読者削除
 辛い宿命を背負いつつも、1人の少女との出会いによって、それを受け入れることが出来たリグル。けれど当の少女は全てを忘れてしまい、リグルはいつまでも、待つことしか出来ない。……切ないですね。私も、最後の紫の言葉に同意です。

 ……実はここ最近、リグルは蛍だということを忘れかけてました(ヒデェ)。