――あの時私は、泣いていたんだと、思う。
「妖怪を退治しない巫女なんていないのよ。・・・・・・覚悟しなさい!!」
真昼間、よく分からない理由で売られた喧嘩。
勿論、私だって素直にやられはしない。
「あははは、一面のボスだからって、なめちゃいけないよ!」
そう言って、私は戦闘体勢に入る。
全身に巡る『力』を掌に集めて――
「あなた位、ぴゅっぴゅっぴゅ~のぴゅ~よ!」
言い終えると同時に――放つ!
同時に、巫女も攻撃を仕掛けてきた。
私の『力』と巫女の『力』が空中でぶつかりあって――――
私は、負けてしまった。
こっちはズタボロで、まともに動けない。なのに、巫女のほうは、ほとんど無傷だった。
――ある程度の実力の差は、戦っている最中に気づいた。だけど、ここまでなんて――
「は~い、封印ね」
巫女が懐から数枚の札を取り出す。
途端に、五体満足の状態だったとしても、無事では済まないであろう霊力が、巫女に集まる。
それが放たれれば、自分に対してどういう効果を発揮するのか。これからどんな目にあうかを、嫌というほど理解した。
だから―――
「まだ・・・・・・」
私は呟く。―――期待なんてしても無駄なのに。
「死にたく、ない・・・・・・」
それは、私が今まで生きてきた中で、一番素直に口から出てきた言葉。
その言葉に、だけど、巫女はあっさりと、
「ま、あきらめなさい。こういう運命だったのよ」
言い終わるのとほとんど同時に、巫女は数枚の札を放ち、
「霊符」
その言葉が、声が、死を告げる死神のように聞こえて、
「夢想、封印」
私の目の前が光に包まれて――弾けた。
辛うじて、生きている。それを知ったのは、真夜中のことだった。
薄く目を開けてみる。意識はある。けれど、体を動かそうとしても、思うようにいかない。
それどころか、体中から、私の『力』が、血が、体温が、抜け落ちているような感覚。
――多分、すべてが完全に抜け落ちたら、私は死ぬんだろう。
危険な状態のはずなのに、私は冷静にそう思って、弱弱しく笑った。
多分、私は死を受け入れ始めているんだろう。だから、こんなに素直に、納得できているんだ。
――もう、いいや。疲れちゃった。
――おやすみなさい。
私は目を閉じかけて、
「・・・・・・?」
気配がして、ふと、上を見上げた。
いつの間にか、私のすぐそばに立って、見下ろしていたのは、幼い少女だった。
最初は、あの巫女かと思ったけど、違う――あの巫女より幼いし、白い服を着ているし――何より、背中に羽なんて生えてなかったはず。
――誰だろう?少なくても、この付近で、こんな子供は見かけなかったはずだし・・・・・・
考えていると、視線に気がついたのか、少女が微笑んで語りかけてきた。
「こんばんは、妖怪のお嬢さん。ずいぶん、派手にやられたわね」
静かに、けれど響くような声だった。かすかに残る意識の中でも、少女の声は、私の耳に届いた。
多分、これが支配者の声なんだろう、と、不思議と納得できるような声が――
「ねえ」
――なぜか、私は答えないといけないような気がして――声は出なかったけれど、精一杯口を動かして「なに?」と聞き返した。
少女は微笑んだまま、私に語りかける。
「生きたい?」
唐突に聞こえてきた言葉に、私の思考は一瞬、停止した。
けれど、答えなんて、初めから決まっている。
――生きたい?そんなの、決まってるじゃない――まだ、死にたく、ないん、だから・・・・・・
精一杯、口を動かして伝えている私に、少女は妖艶な笑みを浮かべて、
「なら、私と契約を結びなさい。そうすれば、制約はかかるけれど、生きることが出来るわ」
――悪魔との契約みたいね。
そう思ったけれど、生への願望のほうが強かった。
私は、
――分かった。
そう口を動かすのが限界で、今度こそ、意識が遠のいて――
最後に感じたのは、少女の冷たい指が、私の頬をなぞる感触と、暖かい液体のようなものが、私の口に注がれる感覚だけだった。
「・・・・・・・・さん、・・・・・・鈴さん。美鈴さん!」
唐突にかけられた、叫び声に似た言葉に、思い出に浸っていた私の意識は、現実に戻された。
「ああ、ごめんなさい。どうしたの?」
「この館に向かっている人がいるそうです。それも、二人」
その言葉に、私は呆れと驚きの混じった表情をした。
「ここに?ずいぶんと命知らずというか・・・・・・先発隊は?」
「・・・・・・それが・・・・・・」
返答までの、一瞬の間。それが、先発隊の末路を、何よりも雄弁に語っているような気がした。
私はため息を漏らす。
「・・・・・・分かった。とにかく、残りの部隊を集めて、少しでも阻止するようにして。・・・・・・私は、ここを動くわけにはいかないから」
「は、はい!」
途端に、慌しくメイド達が動き出し、残った部隊を再編成して、空中へと飛び上がる。
けれど、私はここにいなければならない。それが門番である私の使命。
――あの時、お嬢様とかわした契約なのだから。
気づいた時には、私は独り、暗闇の中に立っていた。
周りを見渡しても、何も見えない。けれど、私の体だけが、その闇の中に浮かび上がるようになっていた。
「ここは・・・・・・?」
確か、私は、巫女に負けて、死にそうになっていて――
「そっか・・・・・・私、死んじゃったんだ・・・・・・」
導き出された答えを、自分自身でも驚くくらい、冷静に口にしていた。
だとすれば、ここは死後の世界なのだろうか?
「違うわ」
「・・・・・・え?」
唐突に聞こえてきた言葉に、私は慌てて周囲を見渡した。
ついさっきまで、誰もいなかったはずの場所に、死ぬ間際に見た少女が立っているのを見て、私は驚きのあまり声を上げそうになって、
「落ち着きなさい」
その声が、私の動揺を静めた。
「ここは、貴女の精神世界。死んだ訳じゃないわ。・・・・・・最も、貴女が望めば、本当にそうなるんでしょうけど」
「私は――」
「ええ、分かってるわ。死にたくないからこそ、私と契約したのだから」
契約。そう言われて、私は思い出した。
――そうだ。確か、生きたいから、私はこの子と契約を――
そこで、ふと疑問に思った。
「あんな怪我をしていたのに、何で?」
「ああ、簡単なことよ」
少女は楽しそうに笑って言った。
「私の血を飲ませたの」
――多分、私は今、引きつった笑みを浮かべているんだと思う。
そんな様子を気にせず、少女はなおも楽しそうに笑いながら、言葉を続けていた。
「知ってるかしら?血は本人の魔力を、何よりも色濃く受け継ぐモノ。ほんの数滴でも――量が多ければ多い程、血を与えた者の力が反映されやすくなる。だから、その血を飲ませて、それを媒介とすれば、大抵の傷なら治るわ・・・・・・まあ、この知識も、魔術方式も、人から教わったんだけどね」
「あれだけの怪我を「大抵の」で済まされても、死にかけていた私としては、反応に困るような・・・・・・」
「私なら、あれくらいの怪我でも、銀で刻まれない限りは、死なないけれど?」
「あなたを基準にされても困るわ」
「それもそうね」
あっさりと頷く少女に、私は脱力感を覚えた。
「話を戻すわね・・・・・・それ故に、血を与えられた者は、血を与えた者には逆らえない。そして、その側からあまり遠くへは行けない。それが、制約」
――つまり、
「私は、あなたの側から離れられなくなるってこと?」
「例外もあるけど、そうね。そう思ってくれて、間違いないわ。それと・・・・・・」
「?」
「血を与えただけでは、完全な契約にはならないの。私が貴女の名前を決めて、貴女がそれに返事をして、自分自身に刻む。その時点で、ようやく契約は成立」
私は納得して、頷いた。
元より、自分の名前はあんまり好きではなかったし、いい名前を期待しよう。
いつだったか、まだ名前がない時に、たまたま人間が育てていた蜜柑を食べていた時、緑色の髪をした幽霊が現れて、
――妖怪オレンジだね。
たったそれだけで決められた名前。あんまりだと怒っても軽くあしらわれ、不貞寝して。
けれど、まさか、その夜のうちに、皆に言いふらさなくてもいいのに・・・・・・
――駄目だ。思い出しただけで、やるせなくなる。
「紅美鈴」
「え?」
唐突に言われて、私は思わず返事をして・・・・・・あ。
「貴女の髪は紅。貴女の声は鈴の音色。その二つをあわせての美。だから、紅美鈴。これでどうかしら?」
「紅美鈴。それが、私の名前?」
「そうよ、美鈴」
少女は妖艶な笑みを浮かべて、手を差し伸べてきた。
「さあ、手をとりなさい、美鈴。共に、私が住む館――紅魔館へと行きましょう」
私は、躊躇いなくその手をとり、跪いた。
「よろしくね、美鈴」
「はい、お嬢様」
紅い霧が辺りに立ち込める中、メイド達の部隊を蹴散らして私の前に現れたのは、白黒で箒にまたがっている魔法使い風の少女と――見覚えのある、紅白の巫女!
その姿を見た瞬間、私はあまりのことに、数秒、立ちすくんだ。
「まさか、こんなところで会うことになるとは、思わなかったわ・・・・・・」
呟く。これも、あの時巫女が言っていた『運命』だとしたら、皮肉なことかもしれない。
けれど、これはある意味チャンスだ。巫女に対する復讐も出来るし、お嬢様の役にも立てる。
多分・・・・・・巫女も強くなっている。感覚で分かる。前とは違う、と。
けれど、こっちだって、お嬢様との契約で得た『力』と、私自身がもつ『力』がある。
「あの時みたいに、簡単にやられは、しないんだから」
言い聞かせるように呟いて、私はスペルカードを握り締め、空へ飛び上がった。
白黒の魔法使いは視界に入れない。私の狙いは、あくまで紅白の巫女。
「踊らせてあげるわ。私の七色の『気』で・・・・・・舞踏会と洒落こみましょう、紅白の巫女!」
私が近づくと同時に、散開する二人。
それを確認して、私は一枚目のスペルカードを発動させる。
「彩符『彩虹の風鈴』!」
――さあ、踊りなさい。紅白の巫女。
――ここは、私が主役の、舞踏会の会場なのだから――
「妖怪を退治しない巫女なんていないのよ。・・・・・・覚悟しなさい!!」
真昼間、よく分からない理由で売られた喧嘩。
勿論、私だって素直にやられはしない。
「あははは、一面のボスだからって、なめちゃいけないよ!」
そう言って、私は戦闘体勢に入る。
全身に巡る『力』を掌に集めて――
「あなた位、ぴゅっぴゅっぴゅ~のぴゅ~よ!」
言い終えると同時に――放つ!
同時に、巫女も攻撃を仕掛けてきた。
私の『力』と巫女の『力』が空中でぶつかりあって――――
私は、負けてしまった。
こっちはズタボロで、まともに動けない。なのに、巫女のほうは、ほとんど無傷だった。
――ある程度の実力の差は、戦っている最中に気づいた。だけど、ここまでなんて――
「は~い、封印ね」
巫女が懐から数枚の札を取り出す。
途端に、五体満足の状態だったとしても、無事では済まないであろう霊力が、巫女に集まる。
それが放たれれば、自分に対してどういう効果を発揮するのか。これからどんな目にあうかを、嫌というほど理解した。
だから―――
「まだ・・・・・・」
私は呟く。―――期待なんてしても無駄なのに。
「死にたく、ない・・・・・・」
それは、私が今まで生きてきた中で、一番素直に口から出てきた言葉。
その言葉に、だけど、巫女はあっさりと、
「ま、あきらめなさい。こういう運命だったのよ」
言い終わるのとほとんど同時に、巫女は数枚の札を放ち、
「霊符」
その言葉が、声が、死を告げる死神のように聞こえて、
「夢想、封印」
私の目の前が光に包まれて――弾けた。
辛うじて、生きている。それを知ったのは、真夜中のことだった。
薄く目を開けてみる。意識はある。けれど、体を動かそうとしても、思うようにいかない。
それどころか、体中から、私の『力』が、血が、体温が、抜け落ちているような感覚。
――多分、すべてが完全に抜け落ちたら、私は死ぬんだろう。
危険な状態のはずなのに、私は冷静にそう思って、弱弱しく笑った。
多分、私は死を受け入れ始めているんだろう。だから、こんなに素直に、納得できているんだ。
――もう、いいや。疲れちゃった。
――おやすみなさい。
私は目を閉じかけて、
「・・・・・・?」
気配がして、ふと、上を見上げた。
いつの間にか、私のすぐそばに立って、見下ろしていたのは、幼い少女だった。
最初は、あの巫女かと思ったけど、違う――あの巫女より幼いし、白い服を着ているし――何より、背中に羽なんて生えてなかったはず。
――誰だろう?少なくても、この付近で、こんな子供は見かけなかったはずだし・・・・・・
考えていると、視線に気がついたのか、少女が微笑んで語りかけてきた。
「こんばんは、妖怪のお嬢さん。ずいぶん、派手にやられたわね」
静かに、けれど響くような声だった。かすかに残る意識の中でも、少女の声は、私の耳に届いた。
多分、これが支配者の声なんだろう、と、不思議と納得できるような声が――
「ねえ」
――なぜか、私は答えないといけないような気がして――声は出なかったけれど、精一杯口を動かして「なに?」と聞き返した。
少女は微笑んだまま、私に語りかける。
「生きたい?」
唐突に聞こえてきた言葉に、私の思考は一瞬、停止した。
けれど、答えなんて、初めから決まっている。
――生きたい?そんなの、決まってるじゃない――まだ、死にたく、ないん、だから・・・・・・
精一杯、口を動かして伝えている私に、少女は妖艶な笑みを浮かべて、
「なら、私と契約を結びなさい。そうすれば、制約はかかるけれど、生きることが出来るわ」
――悪魔との契約みたいね。
そう思ったけれど、生への願望のほうが強かった。
私は、
――分かった。
そう口を動かすのが限界で、今度こそ、意識が遠のいて――
最後に感じたのは、少女の冷たい指が、私の頬をなぞる感触と、暖かい液体のようなものが、私の口に注がれる感覚だけだった。
「・・・・・・・・さん、・・・・・・鈴さん。美鈴さん!」
唐突にかけられた、叫び声に似た言葉に、思い出に浸っていた私の意識は、現実に戻された。
「ああ、ごめんなさい。どうしたの?」
「この館に向かっている人がいるそうです。それも、二人」
その言葉に、私は呆れと驚きの混じった表情をした。
「ここに?ずいぶんと命知らずというか・・・・・・先発隊は?」
「・・・・・・それが・・・・・・」
返答までの、一瞬の間。それが、先発隊の末路を、何よりも雄弁に語っているような気がした。
私はため息を漏らす。
「・・・・・・分かった。とにかく、残りの部隊を集めて、少しでも阻止するようにして。・・・・・・私は、ここを動くわけにはいかないから」
「は、はい!」
途端に、慌しくメイド達が動き出し、残った部隊を再編成して、空中へと飛び上がる。
けれど、私はここにいなければならない。それが門番である私の使命。
――あの時、お嬢様とかわした契約なのだから。
気づいた時には、私は独り、暗闇の中に立っていた。
周りを見渡しても、何も見えない。けれど、私の体だけが、その闇の中に浮かび上がるようになっていた。
「ここは・・・・・・?」
確か、私は、巫女に負けて、死にそうになっていて――
「そっか・・・・・・私、死んじゃったんだ・・・・・・」
導き出された答えを、自分自身でも驚くくらい、冷静に口にしていた。
だとすれば、ここは死後の世界なのだろうか?
「違うわ」
「・・・・・・え?」
唐突に聞こえてきた言葉に、私は慌てて周囲を見渡した。
ついさっきまで、誰もいなかったはずの場所に、死ぬ間際に見た少女が立っているのを見て、私は驚きのあまり声を上げそうになって、
「落ち着きなさい」
その声が、私の動揺を静めた。
「ここは、貴女の精神世界。死んだ訳じゃないわ。・・・・・・最も、貴女が望めば、本当にそうなるんでしょうけど」
「私は――」
「ええ、分かってるわ。死にたくないからこそ、私と契約したのだから」
契約。そう言われて、私は思い出した。
――そうだ。確か、生きたいから、私はこの子と契約を――
そこで、ふと疑問に思った。
「あんな怪我をしていたのに、何で?」
「ああ、簡単なことよ」
少女は楽しそうに笑って言った。
「私の血を飲ませたの」
――多分、私は今、引きつった笑みを浮かべているんだと思う。
そんな様子を気にせず、少女はなおも楽しそうに笑いながら、言葉を続けていた。
「知ってるかしら?血は本人の魔力を、何よりも色濃く受け継ぐモノ。ほんの数滴でも――量が多ければ多い程、血を与えた者の力が反映されやすくなる。だから、その血を飲ませて、それを媒介とすれば、大抵の傷なら治るわ・・・・・・まあ、この知識も、魔術方式も、人から教わったんだけどね」
「あれだけの怪我を「大抵の」で済まされても、死にかけていた私としては、反応に困るような・・・・・・」
「私なら、あれくらいの怪我でも、銀で刻まれない限りは、死なないけれど?」
「あなたを基準にされても困るわ」
「それもそうね」
あっさりと頷く少女に、私は脱力感を覚えた。
「話を戻すわね・・・・・・それ故に、血を与えられた者は、血を与えた者には逆らえない。そして、その側からあまり遠くへは行けない。それが、制約」
――つまり、
「私は、あなたの側から離れられなくなるってこと?」
「例外もあるけど、そうね。そう思ってくれて、間違いないわ。それと・・・・・・」
「?」
「血を与えただけでは、完全な契約にはならないの。私が貴女の名前を決めて、貴女がそれに返事をして、自分自身に刻む。その時点で、ようやく契約は成立」
私は納得して、頷いた。
元より、自分の名前はあんまり好きではなかったし、いい名前を期待しよう。
いつだったか、まだ名前がない時に、たまたま人間が育てていた蜜柑を食べていた時、緑色の髪をした幽霊が現れて、
――妖怪オレンジだね。
たったそれだけで決められた名前。あんまりだと怒っても軽くあしらわれ、不貞寝して。
けれど、まさか、その夜のうちに、皆に言いふらさなくてもいいのに・・・・・・
――駄目だ。思い出しただけで、やるせなくなる。
「紅美鈴」
「え?」
唐突に言われて、私は思わず返事をして・・・・・・あ。
「貴女の髪は紅。貴女の声は鈴の音色。その二つをあわせての美。だから、紅美鈴。これでどうかしら?」
「紅美鈴。それが、私の名前?」
「そうよ、美鈴」
少女は妖艶な笑みを浮かべて、手を差し伸べてきた。
「さあ、手をとりなさい、美鈴。共に、私が住む館――紅魔館へと行きましょう」
私は、躊躇いなくその手をとり、跪いた。
「よろしくね、美鈴」
「はい、お嬢様」
紅い霧が辺りに立ち込める中、メイド達の部隊を蹴散らして私の前に現れたのは、白黒で箒にまたがっている魔法使い風の少女と――見覚えのある、紅白の巫女!
その姿を見た瞬間、私はあまりのことに、数秒、立ちすくんだ。
「まさか、こんなところで会うことになるとは、思わなかったわ・・・・・・」
呟く。これも、あの時巫女が言っていた『運命』だとしたら、皮肉なことかもしれない。
けれど、これはある意味チャンスだ。巫女に対する復讐も出来るし、お嬢様の役にも立てる。
多分・・・・・・巫女も強くなっている。感覚で分かる。前とは違う、と。
けれど、こっちだって、お嬢様との契約で得た『力』と、私自身がもつ『力』がある。
「あの時みたいに、簡単にやられは、しないんだから」
言い聞かせるように呟いて、私はスペルカードを握り締め、空へ飛び上がった。
白黒の魔法使いは視界に入れない。私の狙いは、あくまで紅白の巫女。
「踊らせてあげるわ。私の七色の『気』で・・・・・・舞踏会と洒落こみましょう、紅白の巫女!」
私が近づくと同時に、散開する二人。
それを確認して、私は一枚目のスペルカードを発動させる。
「彩符『彩虹の風鈴』!」
――さあ、踊りなさい。紅白の巫女。
――ここは、私が主役の、舞踏会の会場なのだから――
しかしせっかく復活したのに、今度は死なない程度にやられそうな美鈴。不憫な…