東方シリーズ二次創作
『東方神魔譚』
シナリオ7 『神と、決着と、終着と・・・』
「夢符『封魔陣』!!!」
霊夢と声と共に、体の中に封魔の力が流れ込んでくる。屍神の力がどんどん押さえつけられていく。
薬で崩壊した思考が、一気に正気を取り戻した。
「あ・・・ああっ・・」
体の細胞を一つ一つ引き千切られている様な激痛。
目の奥が燃える様に熱くなる。
体中の血が逆流している様な気分。
心臓がおかしくなったかの様に脈打つ。
やばい、やばい、やばい。
このままじゃ、やばい。
理由は分からないけど、頭の中に何かが入ってくる。
奇妙な力が体に入り込んでくる。
あたまが・・・こわれ・・る・・・・・・
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
悲鳴を上げて落下する羅刹。
正直言うとこれほどの効果があるとは思わなかった。もしかしたらこれで終わるかもしれない。
だが、全く予想していない事態になってきた。
「あっ!・・ぐうっ・・っああぁぁ!!」
羅刹が地面に蹲って苦しんでいる。しかも苦しみ方が普通じゃない。体中を掻き毟り、皮膚を自分の手で引き裂いている。まるで、自分の中に入った何かを、追い出そうとしているかの様だ。
「らせ・・・っ!・・・・・・」
おかしい。
羅刹から感じる魔力はどんどん小さくなっているのに、奇妙な圧迫感を感じる。
それに幻想郷全体が震えている。ただの地震かと思ったが、そうではない。地面が揺れているのではなく、世界その物が揺れているような感覚だ。
「なんなのよ、これ」
ふと、妙な違和感を感じた。いつもより暗い。戦闘中は気にしていなかったが、神社を時は月明かりのおかげで明るかった筈だ。
「星が・・・無い」
夜空を彩っていた無数の星、そして月。それら全てが消えている。雲に覆われたわけではない。忽然と消えてしまった。
いや、消えたんじゃない。見えないんだ。
羅刹の周りだけが妙に明るい。おそらく光を自分に集めているのだろう。
「嫌な感じがするわね・・・」
ついに羅刹の体が動いた。
正体不明の圧力が強くなる。抑える事も知らないかのような正体不明の圧力。
立ち上がった羅刹と目が合う。寒気を感じるような眼光。それなのに焦点は合っておらず、酷く濁っている。死者の眼とでも言うのだろうか、生気など欠片も存在していない眼だ。
「・・・・・・」
無言で崖に左手を向ける羅刹。桁外れな量の力が集まっているのを感じる。いや、感じはしない。理解できるだけだ。
そして放たれる光の帯。鼓膜を刺激する爆音、眼を焼く強烈な光、体中を揺さぶる振動。それらと共に崖が跡形も無く消滅した。残っているのは砂埃と僅かな瓦礫。
再び羅刹と眼が合う。
・・・礼を言おう、巫女よ。
痛みと共に脳内に直接叩き込まれる声。正直言うと気分のいいものではない。頭の中に誰かが入って来た様な感じだ。
・・・汝が居なければ、この身が器になる事は無かった。脆弱な未完の器なれど、この地で力を振るうには十分なものだ。
「あんた、誰?」
・・・妾に名は無い。愚者達が神と呼んだ者。始まりと終わりを見届ける者。
「じゃあ、あんたが神の親玉ってわけ?」
・・・否。妾はこの地のみを見る者。我らの神にこの地を与えられた者。神の創造物。神が創り出した神の一人。真なる神は、人の身には降りぬ。
「羅刹はどうしたの?」
・・・器の者は覚醒と共に眠りについた。
「覚醒?」
・・・器の完成をさす。この器は相反する力で互いを封じ、覚醒を拒んでいた。そこに汝の封魔の力が注ぎ込まれた。封魔の力は魔の力を抑え、神の力の封印を解いた。そして神の力は、魔の力を封印する事を放棄し増長する。封魔の力から解き放たれた魔の力に封印は掛かっていない。ゆえに神の力の後を追って増長する。結果、この身が覚醒する事となった。いまだ不安定な状態なのが不服だが。
「つまり、私は大失敗をやらかしたわけね」
・・・なぜだ?汝らは妾の降臨を望んだのではないのか?
「少なくとも、私はそんな事望んでないわよ」
・・・そうか。まあ、どうでも良い事だ。妾はこの身を好きに使うだけ。
「人の物でしょ?」
・・・それを言えば、汝の体も神の物だ。妾が差し出せと言えば、差し出すのか?
「とんでもないわ」
・・・そうであろう。だったら返す必要は無い。
「これからどうする気?」
・・・妾はこの世界で動く肉の衣を手に入れた。長時間は居られぬが、この地を灰塵に返すには十分な時間だ。それに、一度覚醒した器は壊れぬ限り何度でも使用できる。幾度も降りてくれば、この世を無に返す事も出来よう。
「壊す必要がどこにあるのかしら?」
・・・無い。あえて言うなら妾の気分だ。この世を神界から見るのも飽きた。一度全てを無に返し、新たに創るのも一興であろう?
「こっちから言わせれば、凄い迷惑なんだけど?」
・・・反抗的だな、巫女よ。しかし、妾に恐れを抱かぬとは面白い。どうだ、妾とゲームをしないか?
「ゲーム?」
・・・そうだ。ただ一撃でいい、妾に一撃加えてみろ。そうすればこの身を返してやろう。この世にも手は出さぬ。少なくとも、汝が生きている間は。
「こっちに勝ち目はあるの?」
・・・神が大地に降りる時、力に制限が掛かる。降りた地に不要な影響を与えぬ為にな。本来はそれを解除するのだが、特別に制限付きで戦ってやろう。さらに、汝に『眼』をくれてやる。
「眼?」
・・・そうだ。数瞬先の受動的な未来を見る『眼』。これを駆使すれば、多少なりとも勝負と呼べる物になるであろう。
「返さないわよ」
・・・くれてやる。どうせ汝は死ぬのだからな。今『眼』をやろう。動くでないぞ。
羅刹が・・・神が腕を上げ、自分に向けて光を放つ。
目の奥が微かに痛んだ為、思わず眼を閉じた。恐る恐る眼を開けると、風景が一気に変わった。取り入れる情報量の差だろうか。夜なのにも関わらず、昼間の様にハッキリと見える。さらには小さな砂の動き、空気の流れまでもが分かる様な気がする。
世界はこんなに鮮やかだったんだ。
「凄いわね。これは・・・・・」
「そうであろう。だが、汝が見ているのは入り口でしかない。我ら神々の見る世界はその比ではないぞ」
急に羅刹の声で聞こえてきた。濁っていた眼は焦点を取り戻し、黄金色に染まっている。そして、先程まで得体の知れなかった力を確かに感じる。
神々しくも禍々しい、漆黒の力。
「それが正体不明の圧力ね。計れない筈だわ、こんなに質が違うんだもの」
「そうであろうな。定規で重さを計る様なもの。『眼』を得る前の汝では、神力を計る事は出来ぬ」
自らを神と呼んだ者が空へと舞い上がる。その強大な神力は、留まらずに大気に溶けている。どうやら不安定なのは本当のようだ。
だからと言って勝てる確率は低いだろう。問題は、貰ったばかりの『眼』をどこまで使いこなせるか。これが勝負を決する鍵になる。
「さあ、戯れようぞ、博麗の巫女よ」
その声と共に自分に向かって走る紫電が見えた。慌てて身をかわした直後に神の手から紫電が放たれ、先程まで自分の居た空間を貫く。
これが数瞬先の未来と言うやつなのだろうか。いずれにせよ、この『眼』は使える。
「なかなかいい贈り物ね、この『眼』は」
「そうであろう。一つ伝えておく。その『眼』は常に新たな未来を映す」
「意味わかんないわよ」
「それくらいは自分で考えるがよい。ゆくぞ・・・」
神の右手に黒い焔が宿ると同時に、周囲の気温が急激に上昇し始める。
「偽りの炎ではない、本物の焔を汝に見せてやろう」
『眼』に映る無差別に放たれた焔。どうやって避ければいいかは分かる。
だが、一撃でも貰えば灰さえ残らないだろう。一つ一つを正確に避けるしかない。幸い、焔は特別速いわけではないから何とかなる。
だが、この焔はそんなに甘くはなかった。
「!・・げほっ、げほっ!!」
回避したのは良いが、吸い込んだ高温の空気が喉と肺を痛めつける。呼吸だけで多大なダメージを受けた気分だ。
だが、それだけではない。
出血と暑さで意識に霞が掛かる。無駄に体力の消耗は出来ない。
「人の身というのは、本当に脆弱なようだな。この程度の熱で咳き込んでいては、地獄に落ちた時に苦労するぞ」
「残念だけど、死後は極楽に行くって決めてるの」
「自分の所業を自覚しての言葉なら面白いと思うが、知らぬなら愚か以外の何者でもない。ところで汝は何もせぬのか?次はそちらの番だぞ」
「そうね。それじゃあ・・・」
まずは小手調べ。
「いくわよ!」
陰陽玉から大量の札をばら撒く。
だが、神はまったく動こうとしない。その場で悠然と構えたままだ。
「その程度で妾がどうこうなると思ったか?」
ギィン!!
甲高い音と共に全ての札が燃え尽きる。
眼と『眼』を使って何とか見る事が出来た。障壁が張られている。
「最初から無敵モードって訳ね」
「全ての物に限界は存在する。ゆえに妾の障壁にも限界はある。制限も掛かっておるのだ、自力で突き破るがいい」
神の腕が高々と上がる。
そして空に向かって放たれる紫電。自分の『眼』に映る未来。
避けないとやばい。
「降り注げ、神の鉄槌よ」
上空から無数に落ちてくる紫電の群。予め落ちてくる場所さえ分かれば、攻撃と回避を同時に出来る。これからが本番だ。
「霊符『夢想封印 集』!!」
羅刹へと飛来する七つの霊撃。
全ての霊撃を紫電が降り注がない場所へと走らせた。間違いなく直撃コース。
「妾の言葉の意味を理解していないようだな」
『眼』に見える未来が変わった。七つの霊撃は当たる筈のない紫電に当たり、全て相殺される。おかしい、なんで急に未来が変わる。
「常に新しい未来を映す、妾はそう言った筈だ。そして映し出されるのは受動的な未来。汝が行動しなかった時の未来。汝が行動を起こした時点で、未来は大きく変わる」
「・・・・そうだったわね。この『眼』は未来を見せるけど、それは不変の未来じゃない。常に変化する未来を映している。よって100%頼ることは出来ない」
「頭が良いのか、悪いのか。この器を追いつめた時の方が、頭の回転が速かったのではないか?」
「うるさいわね」
神の表情が呆れたものになる。
どうやらこの神は、結構表情豊かなようだ。
「巫女よ、1つ教えろ。なぜこの器と戦った?この者が求める血は、長く生きた者、多くの智を持っている者。黙っていれば汝には一切の危害を加えぬと思うが?」
何を聞かれるかと思えば、そんな簡単なことか。
「本人が止めて欲しがってたじゃない。それにあんまり馬鹿な事されるのも困るの。あれでも一応、友達だと思ってるからね」
「なるほど。だが、その所為でこの器は仮初の生を送る事になるかもしれぬ。不安と恐怖の怯え、自らの名も知らずに死ぬ事になるかもしれぬ。だったらいっその事好きにやらせるべきではないか?」
「そうね。でも、ここでは・・・・・・幻想郷では、羅刹の事は何一つ分からないわ。やるだけ無駄なのよ」
そう、羅刹が犯した最大の間違い。
羅刹は・・・・・。
「羅刹は・・・幻想郷に来た事はない。今回が初めての筈よ」
羅刹の中に存在する神が笑った。
「なぜそう思う?」
「羅刹は血を取り込む事で記憶の共有ができる。そして羅刹の中には、既に自分以外の血が流れていた。神と屍神、この2種類の血が・・・」
一日中一人で過ごして辿り着いた答え。
「おそらく幻想郷を知っていたのは神か屍神のどちらか片方、または両方。いずれにせよ羅刹の記憶じゃないわ」
「ふむ・・・一理ある。だが、確信ではあるまい?」
「いいえ、確信よ。あいにくと確証は無いけどね」
「まあ、妾にはどうでもいい事だ。続きを始めるぞ」
どうでも良さそうには見えない。
どうでもいいなら、なぜ嬉しそうに笑っているんだ。
「巫女よ、良い物を見せてやろう。汝らの言う所のスペルカードというやつだ」
神を中心に展開される印。だがそれは羅刹の使う二次元的なものではない。自身を中心として三次元に広がっている。
「汝は知っているか?地獄の焔に比べれば、現世の炎など雪の様なものだと」
・・・第一熱『等活地獄 -Samjiva-』
頭に響くスペル宣言。その宣言が気遣いなのかどうかは知らないが、とんでもない光景が『眼』に映り現実の物になる。空一面を覆う焔の塊、更に上がる気温。霊力で簡単な障壁を作ってなければ、熱だけで死んでいただろう。
「今の気温がどれ程かは知らぬが、人間には辛かろう?もうじき終わりにしてやるぞ。受け取れ、巫女よ」
豪雨の様に降り注ぐ焔の塊。『眼』が無ければ避ける事など到底かなわない。
焔は岩肌に当たる度に小規模な爆発を引き起こす。その爆発の度に見当違いの方向に吹き飛ばされそうになる。もう既に攻撃どころの騒ぎではない。
「どうした、巫女。その『眼』の力はその程度ではないぞ。汝は今その力の3割も使っていない。よく考え、よく『見ろ』、そして『聞け』。弦が奏でる小さき旋律を」
「うっさいわね!眼を逸らさないで精一杯見てるわよ!!」
「その眼は見える物を見る為の『眼』ではない。見えぬモノを『聞く』為の『眼』だ。なぜ未来が見えるのかを考えてみるがいい。おのずと答えは出る。出せなければ死ぬだけだ」
本当に言いたい放題言ってくれる。この眼を使いこなしたいとは思っても、絶え間なく攻撃されている状況でそんな事できる筈も無い。今は出来る事だけで対処するしかないんだ。
「どうやら妾の見込み違いだったようだな。死ね、博麗の巫女よ」
視界全体を覆いつくす焔の壁。
壁の端までが遠すぎる。スペルもこの状況では使えない。避ける術は無い。
(そんな・・・・・・私、ここで・・・・しぬ・・・・)
思わず目を瞑る。
回避できない未来など見たくは無かった。
自分が焼け死ぬ様等見たくは無かった。
だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・割って入った黒い影に気付かなかった。
「魔符『ミルキーウェイ』!!!!!!」
聞きなれた声。聞きなれたスペル。
そして、眼を開けた先にある見慣れた後姿。
「甘いぜ。戦闘中に眼を閉じるなんて、ショートケーキの甘露煮練乳がけ蜂蜜風味より甘いぜ、霊夢」
「・・・まりさ・・・・・・」
「まったく、水臭いやつだぜ。一声かければ力くらい貸してやったのに」
魔理沙の服は所々焼け焦げている。おそらく、ここに辿り着くまでに焔でやられた物だろう。顔にも煤の後がある。
「しかし、とんでもない事になってるな。一人で来なくて正解だぜ」
「それについては同感だわ」
上空から響くもう1つの声。
「幻符『殺人ドール』!!」
神へと降り注ぎ、障壁に弾かれるナイフの雨。
まったく、なんだかんだでお人好しな2人だ。
「増援か・・・・・・巫女よ、三人でかまわぬ、続きを始めるぞ。それと『眼』を使え。その『眼』で『聞く』だけだ。簡単なことだろう?」
簡単に言ってくれる。
でも、咲夜の攻撃で障壁に罅が入った。少しは勝機が見えてきた。
「この世の事象は、全て連鎖している。起因無しに結果は得られぬ。そこのメイドのナイフも、そこも魔法使いの魔法も同様。ヒントはこれで十分だろう」
連鎖・・・起因・・・結果・・・弦・・・糸・・・聞く・・・旋律・・・音・・・。
起因と結果・・・連鎖・・・糸の音・・・。
連鎖の・・・糸!!
「まさか・・・」
『眼』を凝らす。『見る』のは物質じゃない。モノとモノを繋ぐ連鎖の糸。
それを揺らして結果を導くのなら、この『眼』は未来を音として『聞く』事が出来る『眼』。そして、それを映像にする事が出来る『眼』。
だったら見える筈。神に繋がった連鎖の糸を。
そして、より早くより正確に『見る』事が出来る筈だ、次の攻撃を。
「そうだ、それでいい。やれば出来るではないか、巫女よ」
目の前に広がるより鮮やかでより確かな未来。
そして何より、神に繋がった連鎖の糸が見える。
「まずは小手調べだ。避けてみろ」
「魔理沙、咲夜!!上に飛んで!!」
攻撃が始まる前に上空に退避する。
一瞬遅れて大地を焼き払う業火。今までの『眼』なら自分一人で精一杯だったが、ここまでレベルアップすれば他の2人の援護も出来る。もっとも、その必要はないだろうが。
「霊夢、今の攻撃なんで読めた!?」
「今細かい事を話してる暇はないわ。何も聞かずにアレの障壁を破ることに専念して。あれさえ壊せれば、こっちの勝ちよ!!」
「させぬわ」
等活地獄はまだ続いている。
空にある壁の様な焔の塊。それが再び、勢いを取り戻して降り注いでくる。
この焔は当たる当たらないの次元ではない。掠めるだけでも相当危険だ。
だが、連鎖の糸が見える以上、そう簡単には被弾はしない。
それに・・・
「霊符『夢想封印 散』!!」
スペル発動と同時に複数の連鎖の糸を揺らす。糸が奏でる不協和音は、起因から始まる結果を導き出す。導かれる結果は、スペル強化。
普段の数倍以上の破壊力を得た霊撃が、降り注ぐ焔を打ち消す。
「咲夜、やって!!」
「了解!時符『パーフェクトスクウェア』!!」
降り続ける焔を止める事は出来ないが、その速度を遅らせる事は出来る。
後は・・・
「恋符『マスタースパーク』!!!!」
焔に阻害されることなく突き進む光の帯。たとえ障壁にぶつかろうとも、その勢いは衰えず、猛威を振るい続ける。
「ほう・・・崩れるか。それもまた一興」
そのセリフの後、音もなく消滅する神力の障壁。だが当然の様に中の神にはダメージを与えてはいない。
「これで丸裸ね。後は一撃加えるだけ」
「なんかよく分からないが、それで終わるんだな。だったらやってやるぜ」
「説明は後でちゃんとして貰うわよ、霊夢」
『眼』を持っているのは自分だけだが、その辺は個人で何とかしてもらおう。それが出来ない2人じゃないと信じる。
「分かったようだな、その『眼』が見ているモノが」
「ええ、しっかりとね。どんな動きをする時も、一度糸を揺らしてから行動に移る。これには誰も逆らえない。そして自分と繋がっていない糸は揺らせない。糸が揺らせないという事は、それが出来ないという事。後は、揺らせる範囲の糸の動きに注目していれば、大体の攻撃は先読みできる。」
あいつの言ったとおり、この『眼』は見る為のものではない。糸の振動を聞いて、それを映像に変換しているだけなんだ。
「それでいい。巫女よ、時間が迫っている。次で終わりにするぞ。最後の障壁、最後のスペル。この2つを越えてみろ」
新たに張り直される神力の障壁。三次元的に展開される印。そしてそこに集まっていく莫大な量の力。
だが、この『眼』が有れば、魔理沙達がいれば何とでもなる。
「魔理沙、咲夜。これが最後よ。フルパワーで頼むわ」
「任せとけ」
「とっておきを披露するわ」
「では行くぞ・・・神威『終焉を生む創世の海』」
放たれる黒色の球体。
光さえも届かぬその漆黒は八つに分裂し、神の周りを漂い続ける。
「巫女、この器は確かに未完成だが、妾が必要としている力を持っている。そう言った意味ではこの器に勝るものはない。受けるがいい。これが神の力、無から有を生み出し、有を無に還す力だ」
黒色の球体から無差別に放たれる力。
外見は羅刹の使っているガラス、鏡、刃、氷だが、あくまで形を模しているだけだ。
そしてそれは崖に接触しても破壊をもたらさない。それは物を破壊しているのではなく、無へと還しているのだ。地面に転がっている焼けた岩も、大気中の熱さえも・・・・
「さあ超えてみろ、この壁を。見せてみろ、汝らの限界を」
ついに無の力がこちら側になだれ込んで来た。
生半可なスペルでは掻き消されるだけ。
だったら・・・・
「夢符『二重結界』・・・」
全神経を集中させて範囲を狭め、密度を上げる。その状態で霊力の上乗せ。
これなら数秒は持つ筈だ。
「2人とも、打ち合わせ無しの一発勝負よ!!なんとか合わせて!!!」
神に向かって一気に飛び出す。
相手は『眼』を持っている自分を集中的に狙ってくる。それは『眼』で確認済みだ。
後は、2人が障壁を破ってくれる事に期待する。
「人使いが荒いやつだぜ。それじゃあ、一発いくか」
「ええ・・・ミスするんじゃないわよ」
「そっちこそ」
軽口を叩き合う魔理沙と咲夜。
その口調とは裏腹に、障壁を破る為の力は十分に溜まっている。後はたった1つのスペルに全てを乗せて、外へ開放するだけ。
「先に行くぜ!魔砲『ファイナルスパーク』!!!!!」
恋符よりも更に高出力かつ収束されたレーザーが放たれる。それは無の力を蹴散らしながら霊夢を追い抜き、神の展開する障壁に辿り着く。
だが障壁に辿り着くまでにぶつかった無の力の所為で、小さな罅を入れる事しか出来ない。でもそれでいい、霊夢の道と咲夜の道が出来たのだから。
「とどめね・・・幻葬・・・・・」
咲夜が無数のナイフをばら撒く。
「『夜霧の幻想殺人鬼』!!!!」
その声と同時に投擲されるナイフ。
しかも普通に投げたわけではない。時間操作を行って投げた為、投擲と同時に障壁に着弾している。そしてその全てが、魔理沙のつけた小さな罅に直撃している。まさに針の穴を通すような正確な投擲。障壁に入った罅がどんどん広がっている。
咲夜がついに最後のナイフを掴む。
「これで・・・ラスト!!!」
咲夜のナイフが障壁に深々と食い込む。
その場所を中心に一気に罅が入り、障壁が音も無く砕け散る。
目の前には、羅刹に取り付いた神しかいない。
焔も無の力も存在しない。
「・・・・・」
神は表情を一切変えない。
だがそれに構わず、右の拳をきつく握り締める。
『眼』に見える未来、そして全ての糸の動きに注意を払う。
たとえ何が起こっても速度は落とさない、絶対に・・・。
「これで最後よ!!」
霊力を込めた拳を振りかぶる。
まだ、相手の動きは変わらない。未来にも変更は無い。
だったら構わず振り下ろすだけ。
「当たれええぇぇぇ!!!」
神の左頬に吸い込まれ様に進む拳。
そして、それが当たる一瞬前に、神は・・・彼女は・・・・・・・・・・笑った。
「!!」
大地に叩きつけられる神。舞い上がる砂埃の所為で姿を確認することは出来ない。
だが、これで終わりの筈だ。向こうが約束を守るならば・・・。
「ふふっ・・・あっはははっ・・・はっーははははははははははははっ!!!!!」
砂埃の向こうから聞こえてくる笑い声。
神か、羅刹か・・・
「やるではないか、巫女よ。まさか本当に当てるとは思ってもいなかったぞ」
砂埃から歩み出てくる。
どうやら中身は神のようだ。
「紛らわしい事しないでよ。羅刹かと思ったじゃない。しかも壊れたほう」
「すまぬ、すまぬ。しかし、頬を殴られるなど何万年ぶりかのう。ともかく、このゲームは妾の負けだな」
「こっちは勝った気しないわよ」
回避もしない。防御もしない。一切動かない。
これだけのハンデを付けられて何とか形になっただけ。
それに一人では確実に殺されていた。
「そんなこと妾が知るか。約束だ、この身は返そう」
急速に薄れていく神力。
やるだけやって出て行くつもりなのだろう。本当に迷惑なやつだ。
「博麗の巫女よ」
「なによ」
「羅刹の事を頼む・・・・・・」
全く予想していなかった言葉だ。羅刹の体を自分の物として扱っていた奴のセリフではない。
「この者は何も知らぬのだ。だから汝が諭してやってくれ。それで全てがうまく行く」
「・・・・・・わかったわ。でも1つだけ答えて。なんで今更羅刹を気にかけるの?」
「たいした事ではない。この者は・・・・・」
声が遠くなる。
神が消えかかっている証拠だ。
「妾が、初めて・・・・・した・・・だからだ」
羅刹の体が前のめりに倒れる。
内容はぎりぎり聞き取れた。
だから神は羅刹に降りてきたんだ。2つの血を受け入れたのも偶然ではない。全ては必然だったんだ。
「一体何がなんだか・・・霊夢、説明を頼むぜ」
「そうね。このままじゃ寝覚めが悪いわ」
「後で話すから待ってなさいよ。今は・・・・・・」
そう、まずは決着をつけなければならない。
「目は覚めた?」
眠りから覚めたばかりの耳に、霊夢の声が聞こえてくる。
「ええ、しっかりと・・・」
目は覚めた。体を使われていた間の記憶はハッキリとしている。
本当に不甲斐ない。こんな簡単に体を奪われて、何が自分を知りたいだ。ただの戯言でしかない。
「まだ、やる?」
なんで彼女は、神と戦ってなお自分と戦えるのだろう。
神との戦いで体はもう限界のはずだ。なのに彼女は、力強く自分の足で立っている。何でこんなに強いのだろう。なんでこんなに強い意志を持っているのだろう。
理由はどうあれ、自分とは大違いだ。自分は間違いを認める事も、意思を貫く事も出来なかった。
「やりましょう、最後まで」
だから・・・下心無しで彼女に勝ちたいと思った。
彼女に勝てば、本当に強くなれる様な気がした。
「そうね。決着がつかないと約束が無効になるもの」
「はい」
「始めるわよ。一対一で」
「望むところです」
夜空へと舞い上がる紅白の巫女と紫紺の神子。
「最後の一合よ、紫紺の神子」
「最後の一閃です、紅白の巫女」
あの2人の邪魔をする気は、初めから無かった。
羅刹の目を見た時に、もう大丈夫だと確信したからだ。
だから、目の前で始まった勝負も安心して見ることが出来る。
「魔理沙、これって」
「ああ、言われるまでもないぜ」
「そうね・・・・・・・・・綺麗・・・・・」
霊夢の舞で弾幕の流れが変わる。
羅刹の指先が弾幕を操作する。
大空を舞う、紅白と紫紺。
大空と言うキャンバスに展開される弾幕の軌跡。
「やればできるじゃないか・・・お前が本当にしたかったのは、こんな戦いだろ?」
羅刹の弾に込められていた負の感情。その全てが跡形も無く消滅している。
残された感情は何だろう?
少なくとも不快感を感じる事は無い。
見ていて気分がいい。
「ほんと、綺麗な『弾幕ごっこ』だぜ」
大空を彩る光は、まるで気の早い天の川の様だった。
「そろそろ幕を閉じましょうか、霊夢さん」
「そうね。互いにスペルを一発のみ。これでどう?」
「乗りました」
二人の動きが止まると同時に、残留していた弾幕も消えた。
懐から札を取り出す霊夢。両手で印を切る羅刹。
霊夢からあふれ出る純白の霊力。羅刹からあふれ出る漆黒の魔力。
それらが各々の手に集い、力へと変換される。
「準備はいい?」
「いつでもどうぞ」
笑顔で向かい合う2人。
ただ純粋に互いを競い合う。
それだけの為の戦い
「神霊・・・・・」
「神閻・・・・・」
大気が震えるほどの力の放出。
「『夢想封印 瞬』!!」
「『神々の狂言』!!」
視界が光で染まった。
そしてそれが、紅白と紫紺が見た決着の光だった。
「負け・・・たんですね・・・・・・」
仰向けに倒れ、夜空を見上げる。体中が重い、手足の感覚は薄れてる。どうやら動けそうもない。よしんば動けたとしても、戦う事など出来ない。
なんとも情けないことだ。
「もう終わり?死ぬまで止まらないんじゃなかったの?」
「無理みたいです。体が動かなければ話にもなりませんから」
彼女はその足で立っている。僕は立ち上がることも出来ない。
これが力の差。立っていられるか、立つ事ができないか。
たったそれだけの、大きな差。
「私の勝ちでいいのね?」
「はい。僕の負けです」
ついに自分で認めた。自分の敗北を、自分が間違いを。
なぜか非常にすっきりした。ここに来る前とさほど変わらないのに、肩の荷が下りたようだ。
「そうだ・・・言いずらいけど、あんたは・・・・」
「知ってますよ。僕はここに来た事なんてない。ここを知っているのは僕じゃない」
一番認めたくなかった事実。昨日までの自分なら、絶対に拒絶していただろう。
「だから、ここに僕の望む答えは・・・」
「あるわよ」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「あんたの望む答えはここにある。ここだけじゃない、どこにでもあるのよ。要はどれを見つけて、どれを自分の答えとするか。それだけなのよ」
「そんなことで納得しろと?」
ある意味正論かもしれないが、納得できる筈がない。
それに、それが出来ればこんな事はしなかった。
「出来なくてもしなさい。あんたは負けたの。私には命令する権利があって、あんたには言う事を聞く義務があるの。だから、それで納得しなさい」
「・・・・・・・・・」
本当に強引な人だ。凄く自分勝手な事を言われている気がする。
でも、まあ仕方が無いことだ。全くもってその通り、自分は敗者なのだから。
「強引な人ですね・・・・・分かりましたよ、それで納得しておきます。負けた以上、約束も守らなければなりませんからね」
問題はこれからどうするかだ。とりあえず確認したい事はあるが、急ぐ必要はない。となると暫くの間はやる事が何一つない。
「なんか、急に暇になってしまいましたね」
「何言ってるの。あんたは今日から博麗神社に住みなさい」
「・・・は?」
急な展開に体を起こす。
と言っても、立ち上がる事は出来そうにないから座ったままだ。
「これだけの怪我した私が家事出来るわけないでしょ。私が完治するまでタダ働きよ。どうせ2、3日すれば治るんでしょ、その傷」
話の雲行きがだんだんと怪しくなってきた。
たしかに2、3日で傷は完治すると思う。体の回復力は人間の比ではない。頭と心臓が無事なら大抵の傷は何とかなる。
でも、だからと言って・・・
「ちょっと待ってください!何で僕が・・・」
「これだけ私に迷惑かけたのよ、自業自得でしょ。当然、魔理沙とアリスの家もね。咲夜の所はやらなくてもいいわ」
「何で家だけ何もしなくていいのよ」
「ストレスの溜まった羅刹を紅魔館に連れて行く気?またアレをやるわよ、こいつ。もう一度食べたいなら話は別だけど」
「・・・・・・・・・・・・」
咲夜の顔が一気に青ざめる。
どうやらあの仕返しは想像以上の効果を発揮したようだ。
「はあ・・・これで暫くは療養に専念できるわ」
「食事を作るのが面倒だったから助かるぜ」
「やるなんて言ってませんよ!」
ここで一歩でも引いたら、間違いなく散々いい様に使われる。
何とか阻止しなくてはならない。
「やりなさい」
「でも・・・」
「下らない事考える暇が無いくらい扱き使ってあげるから、大人しく来なさい」
「・・・・・」
こう見えて、案外気を使ってくれてるのかもしれない。
結局自分の望んだ物は何一つ手に入らなかった。今の自分は抜け殻とそう変わらないのかもしれない。
そして彼女は、空っぽの自分を必要としてくれている。
「返事は?」
「・・・仕方ないですね。僕の家事能力を見せてあげますよ」
「上等。・・・・・・帰るわよ、羅刹」
差し出される霊夢の手。
羅刹は一瞬だけ躊躇い、その手を強く握る。
「はい、霊夢さん」
で、ラスボス強すぎ ̄▽ ̄
でもマジメのあと、結局「ゲーム」に戻ったんですね。何せ、東方は「ゲーム」ですから。内も外も。そして最後は弾幕ごっこで締まり、非常に気持ちいいです。
霊夢のあの眼をどうするかも気になる…ハッ!なるほど、天帝ギル様の霊夢はその眼を装備済m(等活地獄
強いて言うなら、魔理沙と咲夜が援護してきたところがこう、締まってないような感じで…うまく言えませんが、テンポがちょっと乱れています。静戦闘のせいかな…?
それはさておき。
「妾が、初めて・・・・・した・・・だからだ」
妾が初めてした!!!???(ハァハァ(創世の海
そこらへんどうでしょうか?w
==
あと神様の名前を教えて下さい。萌えるからw
エピローグガデナケレバマジコロシマスヨ?(ぉぉぉ
羅刹は最近沢山いるオリキャラの中でもぶっちぎって最強っぽいのに、
ほとんど違和感なく世界に溶け込んでいるのは、設定がしっかりしている事と、
話の構成のよさのなせる業でしょう。面白かったです。